JP7338023B2 - 減衰ダンパー - Google Patents

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Description

本発明は、減衰ダンパーに関する。
建物の上部構造体(例えば上部架構)と下部構造体(例えば基礎)の間に免震構造を設け、地震時の振動を免震構造にて減衰もしくは吸収し、上部構造体に可及的に伝達させない免震構造建物が建設されている。免震構造は、上部構造体の例えば柱の直下に配設される免震支承で構成されるのが一般的である。この免震支承には、積層ゴム一体型の免震支承や滑り免震支承、転がり免震支承などがある。
上記する免震支承は、地震による建物振動の振動態様を水平方向に長周期化させ、建物に作用する地震力を低減することを目的としている。さらに、免震支承を有する免震層では、免震支承の他に減衰ダンパーが併用されることも多く、減衰ダンパーによっても地震エネルギーを吸収することができる。
ところで、建物には、地震時の振動の他にも、鉄道や自動車などの交通振動をはじめとする様々な微振動が伝播され、快適な生活が阻害されることが往々にしてある。建物の上部構造体と下部構造体を、上記する免震支承と減衰ダンパーで繋いだ場合に、免震支承は一般に積層ゴムにて形成されていることから、上部構造体と下部構造体との間で積層ゴムを介して微振動を減衰する効果を有する。一方、減衰ダンパーは、上部構造体と下部構造体とを鋼材が接合することから、鋼材などの個体振動によって振動が伝わり易くなり、減衰効果が少ないといった傾向がある。
常時作用し得る微振動が減衰ダンパーに入力されると、減衰ダンパーが上部構造体と下部構造体に直接接していることに起因して、減衰ダンパーが個体振動として微振動を上部構造体に伝達され、このようにして伝達された微振動が無視できないものになり得る。
そこで、振動レベルに応じて、ある水平変位を超えたところから減衰力が発揮される免震構造が提案されている。具体的には、鉛直方向に並んだ一方の構造体(例えば下部構造体)と他方の構造体(例えば上部構造体)の間に、免震支承装置と減衰装置とが水平方向に並んで設けられた免震構造である。減衰装置は、一方の構造体に設けられた減衰部と、他方の構造体に設けられたストッパー部とを備えている。減衰部は摩擦ダンパーからなり、この摩擦ダンパーは、一方の構造体と他方の構造体が水平方向に所定距離相対変位した際に、ストッパー部の鉛直面に当接して減衰を開始するものである(例えば、特許文献1参照)。
特開2016-205413号公報
特許文献1に記載の免震構造は、X方向とY方向のそれぞれの方向(共に一方向)の地震による揺れを減衰させるべく、各方向に対応する摩擦ダンパーを配置した免震構造である。例えば、X方向の揺れを減衰させる摩擦ダンパーには、摩擦ダンパーをX方向に挟む位置に2つのストッパーが配設されている。また、Y方向の揺れを減衰させる摩擦ダンパーには、摩擦ダンパーをY方向に挟む位置に2つのストッパーが配設されている。このように、特許文献1に記載の免震構造では、各摩擦ダンパーが一方向の揺れのみを減衰するように構成されていることから、2以上の方向の揺れを減衰させようとした際に摩擦ダンパーの数が多くなるといった課題を有する。
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、2以上の方向の揺れを減衰することができ、さらに、微振動に対する外部の構造体の振動を抑制することが可能な減衰ダンパーを提供することを目的としている。
前記目的を達成すべく、本発明による減衰ダンパーの一態様は、第1外部構造体に固定可能な下部プレートと、側面に少なくとも4つの角部と辺部とを含む凸部を有する上部プレートと、下部プレートと上部プレートを繋ぐ減衰部材と、を有し、上部プレートの上方に配置される第2外部構造体には、角部に当接しない複数のストッパーが設けられており、凸部の辺部のそれぞれは、複数のストッパーにそれぞれ対応し、凸部が第2外部構造体との間に水平隙間及び鉛直隙間を有するように配置され、凸部が前記ストッパーに対して相対変位する際に、凸部の辺部とストッパーの側面とが当接する。
また、本発明による減衰ダンパーの一態様は、第1外部構造体に固定可能な下部プレートと、複数のストッパーを有する上部プレートと、下部プレートと上部プレートとを繋ぐ減衰部材と、を有し、上部プレートの上方に配置される第2外部構造体には、側面に少なくとも4つの角部と辺部とを含む凸部が設けられており、複数のストッパーは、辺部にそれぞれ対応し、且つ、角部に当接せず、複数のストッパーが第2外部構造体との間に水平隙間及び鉛直隙間を有するように配置され、凸部がストッパーに対して相対変位する際に、凸部の前記辺部と前記ストッパーの側面とが当接する。
本態様によれば、凸部の側面とストッパーの側面との間に少なくとも2方向の水平隙間が存在することにより、1つの減衰ダンパーが2以上の方向(水平方向)の地震時の揺れを減衰させることができ、可及的に少ない数の減衰ダンパーにて2以上の方向の地震時の揺れを減衰することが可能になる。また、上部構造体と下部構造体が設定されている水平隙間以上の相対変位量で相対変位した際に、凸部の側面がストッパーの側面に当接して水平力を伝達することにより、減衰ダンパーによる減衰機能が発揮される。
ここで、「少なくとも2方向」とは、直線状にある2方向(例えば、X軸線上には+X方向と-X方向の2方向がある)を1方向として、交差する2本以上の直線に沿う方向を意味する。従って、相互に交わる3本の直線に沿う方向や4本の直線に沿う方向などがあり、最大は360度方向(無限大本数の直線が交差する)となる。
より具体的な例として、X軸方向とY軸方向の2方向(±X方向と±Y方向を含む)、X軸方向とY軸方向と45度方向と135度の4方向(±X方向と±Y方向、45度と225度、135度と315度を含む)などが挙げられる。また、円筒状のストッパーの内側に円柱状の凸部が配設される形態の場合に、360度方向に水平隙間が存在することになる。
また、「前記上部プレートと前記上部構造体の下面のうち、いずれか一方は凸部を有し、いずれか他方は該凸部を包囲するストッパーを有しており、」とは、上部プレートが凸部を有し、上部構造体の下面が凸部を包囲するストッパーを有する形態と、その逆の形態を含んでいる。例えば、上部構造体の下面が下方に突出する凸部を予め備えている場合は、減衰ダンパーの有する上部プレートの上面に、凸部を包囲するストッパーが設けられる。
凸部を包囲するストッパーは、無端状のストッパーであってもよいし、間欠的なストッパー(隙間を備えたストッパー)であってもよい。例えば、凸部が直方体形状の場合、ストッパーは、この直方体形状の凸部の四側面から所定距離離れた平面視長方形(例えば、凸部の平面形状と相似形状)で枠状の形態が、例えば無端状のストッパーとなる。また、この平面視長方形の枠状の隅角部が削除され、従って、相互に直交する4つの柱状体(ブロック体)からなる形態が、例えば間欠的なストッパーとなる。
ここで、金属減衰部材としては、湾曲した鉛ロッドや鋼製のせん断パネル、鋼製のU型ダンパーロッドなど、多様な部材が適用でき、この金属減衰部材と上部プレート及び下部プレートから形成される減衰ダンパーは、所謂鋼製ダンパーであり、特許文献1に記載の摩擦ダンパーとは異なる形態のダンパーである。
また、凸部とストッパーとの間の水平隙間は、通常の交通振動等の微振動が建物に入力され、上部構造体と下部構造体が相対変位した際の相対変位量以上の大きさに設定されている。すなわち、減衰ダンパーと上部構造体の間に水平隙間があることにより、微振動が減衰ダンパーを介して上部構造体に入力されることはない。
微振動は場所によって異なることから(自動車交通量の多い道路沿線、鉄道沿線等)、対象建物に交通振動が入力した際の相対変位量が仮に1mm程度である場合は、隙間の大きさは、この1mmよりも大きく、1mmに施工誤差等を加味して5mm乃至10mm程度に設定することができる。尚、隙間の測定に関しては、維持管理者による目視管理も容易に行うことが可能になる。
本発明の免震構造は、上部構造体を直接支持する免震支承と、上部構造体と完全に縁切りされている減衰ダンパーとが組み合わされた構造であるため、地震時の振動のみならず、交通振動等の微振動も下部構造体から例えば免震支承を介して上部構造体に伝達される。従って、通常の交通振動が入力された際にも、上部構造体と下部構造体の間で僅かな相対変位が生じ得るが、一般には、免震支承には例えば積層ゴムが使用され、積層ゴムに使用されるゴムにより微振動は効果的に吸収される結果、この相対変位量は問題になり難い。いずれにせよ、本発明の免震構造は、この免震支承から入力される微振動は許容しながら、減衰ダンパーを介して上部構造体へ微振動が伝播されることを抑止するものである。尚、本明細書における「微振動」とは、自動車をはじめとする車両全般による振動や、新幹線を含む鉄道による振動の他、各種の機械設備の駆動時の振動や建設工事による振動なども含んでおり、地震時の振動以外の、建物が常時受け得る振動の全般を包含している。
また、減衰ダンパーと上部構造体の間の水平隙間は、通常の微振動による上記相対変位量以上の大きさであることに加えて、地震時における上部構造体と下部構造体の間の相対変位量未満の大きさに設定されている。地震時における相対変位量に関しては、微振動の変位振幅量、施工時の隙間の精度、竣工後のクリープ変形や温度変化等を加味して設定され、その設定は一般に設計者に委ねられるが、隙間が大きくなるほど地震時のエネルギー吸収効果が少なくなるので、一般的には5mm乃至50mm程度が望ましい。地震時の相対変位は、減衰ダンパーと上部構造体の間の水平隙間を超えるまで(衝突が生じるまで)は減衰ダンパーは変形しないため、抵抗力はゼロである。一方、一般的な免震建物において、レベル1地震時の上部構造体と下部構造体の相対変位量は±250mm程度であり、レベル2地震時の上部構造体と下部構造体の相対変位量は±400mm程度であるため、5mm乃至50mm程度の隙間によるダンパー効果の低下は極めて僅かである。
このように、少なくとも水平隙間の大きさを決定する、上記「所定の相対変位量」とは、微振動が建物に入力され、上部構造体と下部構造体が相対変位した際の相対変位量以上の大きさのことである。より詳細には、微振動の変位振幅量、施工時の隙間の精度、竣工後のクリープ変形や温度変化等を加味した隙間に相当し、一般には5mm乃至50mm程度を意味する。また、鉛直隙間にも、水平隙間と同程度の隙間が設定できる。
また、本発明による免震構造の他の態様において、前記ストッパーは、上方もしくは下方に延出して前記凸部を包囲する無端状の第1鉛直部、もしくは、前記凸部を包囲するように間欠的に配設された複数の第1鉛直部と、該第1鉛直部から屈曲して水平方向に延出する鍵部とを有しており、
前記凸部は、上方もしくは下方に延出する第2鉛直部と、該第2鉛直部の先端において側方に張り出して前記鍵部に対して鉛直隙間及び水平隙間をもって遊嵌するフランジとを有していることを特徴とする。
微振動は、水平方向の振動に加えて縦方向の振動をも有することから、本態様のようにストッパーの第1鉛直部及び鍵部に対して凸部のフランジを遊嵌させる形態では、相互に鉛直隙間及び水平隙間をもって遊嵌させることが望ましい。一般に、免震支承の縦方向の剛性は非常に高いため、地震時の縦方向振動の際には、上部構造体と下部構造体の上下方向の相対変位は±5mm乃至±20mm程度以下となる。そのため、鉛直隙間と水平隙間を共に上記するように5mm乃至50mm程度に設定しておくことにより、本実施形態においても、鍵部とフランジが微振動の際にも地震の際にも上下方向に衝突することは回避される。
また、本発明による免震構造の他の態様は、少なくとも前記水平隙間に臨む前記凸部の側面もしくは前記ストッパーの側面において、緩衝部材が配設されていることを特徴とする。
本態様によれば、少なくとも水平隙間に臨む凸部の側面もしくはストッパーの側面に緩衝部材が配設されていることにより、微振動によって上部構造体と下部構造体が相対変位した際の双方の干渉を解消しながら、地震時に双方が接触する際の過度の接触音を緩衝部材にて抑制することができる。
また、本発明による免震構造の他の態様において、前記金属減衰部材はU型のダンパーロッドであり、
n個の前記U型のダンパーロッドが、相互に360/n度ずれた方向に延出していることを特徴とする。
このU型ダンパーロッドは鋼製であり、U型ダンパーロッドの塑性化によって地震エネルギーを吸収する。U型ダンパーロッドは、地震時の正負交番の変位振幅をロッドの高さで除すことにより算定されるせん断変形角にて基準化でき、多様な繰り返し性能で多様なサイズの減衰ダンパーを提供することができる。U型ダンパーは、U型に湾曲した湾曲部がロッドの延出方向に変位するようにして変形する。この変形の際には、塑性変形時に歪みが最大となる点を水平変位量の変化に応じてロッド内で移動させることにより、ロッドの歪みを局部的に集中させることなく、ロッド全体を有効に利用して地震エネルギーを吸収もしくは減衰する優れた鋼製ダンパーである。
本実施形態において、例えばn=4の場合、4つのダンパーロッドが相互に90度ずれた方向に延出し、例えばn=6の場合、6つのダンパーロッドが相互に60度ずれた方向に延出する。
以上の説明から理解できるように、本発明によれば、1つの減衰ダンパーが2以上の方向(水平方向)の地震時の揺れを減衰させることができ、可及的に少ない数の減衰ダンパーにて2以上の方向の地震時の揺れを減衰することが可能になる。さらに、交通振動をはじめとする微振動に対する上部構造体の振動を可及的に抑制することができる。
実施形態に係る免震構造を備えた免震構造建物の一例の架構の側面図である。 図1のII-II矢視図であって、免震構造建物の床梁の伏図である。 実施形態に係る免震構造を形成する免震支承の一例の斜視図である。 実施形態に係る免震構造を形成する減衰ダンパーの第1の実施形態の斜視図である。 第1の実施形態に係る減衰ダンパーが台座と床梁の間に配設されている状態を示す斜視図である。 図5のVI-VI矢視図である。 図5のVII-VII矢視図である。 第1の実施形態に係る減衰ダンパーの第1の変形例の斜視図である。 参考形態に係る減衰ダンパの斜視図である。 実施形態に係る免震構造を形成する減衰ダンパーの第3の実施形態の斜視図である。 第3の実施形態に係る減衰ダンパーが台座と床梁の間に配設されている状態を示す斜視図である。 図11のXII-XII矢視図である。 図11のXIII矢視図である。
以下、実施形態に係る免震構造について添付の図面を参照しながら説明する。尚、本明細書及び図面において、実質的に同一の構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省く場合がある。
<実施形態に係る免震構造を備える免震構造建物の全体構成>
はじめに、図1及び図2を用いて、実施形態に係る免震構造を備える免震構造建物の一例の全体構成を説明する。図1は、実施形態に係る免震構造を備えた免震構造建物の一例の架構の側面図であり、図2は、図1のII-II矢視図であって、免震構造建物の床梁の伏図である。図1に示すように、免震構造建物100を構成する架構は、下部構造体20である基礎と、上部構造体10と、から形成され、上部構造体10は、床梁11と、複数の柱13と、途中階の梁14と、屋根の梁15とから形成されている。架構の構成要素としては、図示例の部材以外に、縦方向および水平方向の斜材等がある。図示例の免震構造建物100は、図2に示すように柱13を建物の周縁にのみ備え、空間内に柱を具備しない、体育館や工場、物流倉庫などの大空間建物である。図示する架構に対して、耐震壁を含む壁、窓や開閉扉等の開口などが取り付けられることにより、免震構造建物100が構成される。
尚、図示例の免震構造50を形成する各減衰ダンパーは、上部プレートがストッパーを有し、上部構造体の下面がストッパーにて包囲される凸部を有する形態を示すが、その逆の形態、すなわち、上部プレートが凸部を有し、上部構造体の下面が凸部を包囲するストッパーを有する形態であってもよいがその図示は省略する。
上部構造体10と下部構造体20の間には、免震支承30と、減衰ダンパー40とから形成される免震構造50が介在している。柱13に対応する位置にある台座21上に免震支承30が固定され、柱13に対応しない途中位置にある台座22上に減衰ダンパー40が固定されている。
図2に示すように、床梁11は、矩形状の外枠梁と、その内部において長手方向および短手方向に延出する中梁とを有する。外枠梁における柱13に対応する位置に免震支承30が配設され、外枠梁において免震支承30の間に減衰ダンパー40が配設されている。尚、図示例では、床梁11の交点においても、免震支承30を配置することとする。
図示する免震構造50を備える免震構造建物100は、物流倉庫等の大空間建物であるが、免震構造50を備える免震構造建物は図示例以外にも、橋脚や橋台を下部構造体とし、主桁及び床板を上部構造体とする道路橋など、免震構造50を上部構造体と下部構造体の間に介在させることのできる多様な構造物が対象となる。また、例えば、建物の立ち上がり架構を下部構造体とし、屋根架構を上部構造体とし、これらの間に免震構造50が介在する、所謂屋根免震建物も免震構造建物の対象となる。
<免震支承>
次に、図3を用いて、免震構造を形成する免震支承の一例を説明する。図示する免震支承30は、鋼製の上部プレート31及び下部プレート32と、ゴムと鋼板を交互に積層し、加硫接着した積層ゴム体33とから形成される。積層ゴム体33は、上部プレート31及び下部プレート32と溶接接合されている。
下部プレート32の下面には、複数の頭付きスタッドボルト(図示略)が取り付けられており、これら複数の頭付きスタッドボルトが台座21内に埋設されて免震支承30が下部構造体20に固定される。また、上部プレート31の上面にも同様に複数の頭付きスタッドボルト(図示略)が取り付けられており、これら複数の頭付きスタッドボルトが床梁11に埋設されて上部構造体10に固定される。
免震支承30により、建物100の免震性能が保障される。尚、免震支承30は、図示例以外にも、ゴムと鋼板を交互に積層し、加硫接着した積層ゴム体に鉛プラグを埋め込んで一体化した、鉛プラグ入り積層ゴム型免震支承であってもよい。また、ゴムと鋼板を交互に積層し、加硫接着した積層ゴム体の下端の鋼板にフッ素系樹脂滑り板が設けられた滑り材と、この滑り材がスライドするフッ素系樹脂コートを有する滑り相手材とからなる、弾性滑り支承であってもよい。また、下部構造体に設けられた十字型や井型のレール内に多数のボールベアリングが収容され、これら多数のボールベアリングで上部構造体を支持する転がり支承であってもよい。さらに、曲率を有する摺動面を備えた上沓及び下沓(上下のコンケイブ)と、上沓と下沓の間で摺動するスライダーとからなる球面滑り支承であってもよい。尚、地震時における上部構造体10と下部構造体20の水平方向の相対変位により、免震支承30が鉛直方向に上下する場合は、鉛直方向の上下の相対変位を考慮して、以下で説明する鉛直隙間の寸法が設定できる。
<第1の実施形態の減衰ダンパー>
次に、図4乃至図7を参照して、第1の実施形態に係る減衰ダンパーについて説明する。図4は、実施形態に係る免震構造を形成する減衰ダンパーの第1の実施形態の斜視図である。図5は、第1の実施形態に係る減衰ダンパーが台座と床梁の間に配設されている状態を示す斜視図である。図6は、図5のVI-VI矢視図であり、図7は、図5のVII-VII矢視図である。
図示する減衰ダンパー40は、平面視正方形で鋼製の上部プレート41と、同様に平面視正方形で鋼製の下部プレート42と、4本の金属減衰部材である鋼製のU型ダンパーロッド44と、を有している。U型ダンパーロッド44は、上部プレート41及び下部プレート42と高力ボルト45を介して接続されており、4本のU型ダンパーロッド44は相互に90度ずれた状態で配設されている。尚、上部プレート41とダンパーロッド44は、スキンプレート48を介して接続されている。下部プレート42の下面には、複数の頭付きスタッドボルト43を備えている。
減衰ダンパー40において、U型ダンパーロッド44はその延出方向に変位するようにして塑性変位し、この塑性変位時に歪みが最大になる点を、水平変位量の変化によってロッド内で移動させることにより、ロッド内の歪みを局部的に集中させることなく、U型ダンパーロッド44の全体を有効利用して振動エネルギーを吸収する。
減衰ダンパー40は、上部プレート41の上面における4つの端辺に沿う中央位置に、それぞれブロック状のストッパー46を備えている。各ストッパー46は、高力ボルト47を介して上部プレート41に固定されている。上部プレート41に開設されている、各ストッパー46をボルト固定するための不図示のボルト挿通孔をルーズホールとしておくことにより、凸部12と各ストッパー46との間に、後述する長さt1の水平隙間G1を形成した状態でのボルト固定を容易にできる。さらに、ボルト挿通孔をルーズホールとしておくことにより、地震時の振動を受けて凸部12とストッパー46が接触し、水平隙間G1の長さt1が変化した場合には、水平隙間G1の長さを元の長さt1に容易にメンテナンスすることができる。
図5に示すように、減衰ダンパー40は、鉄筋コンクリート製の台座22内に頭付きスタッドボルト43を埋設するようにして固定される。さらに、減衰ダンパー40が台座22上に固定された状態において、床梁11から下方に突出する突出部材12は、4つの凸部46内に配設される。
図6に示すように、4つのストッパー46と凸部12の平面的な位置関係は、いずれも長さt1の水平隙間G1を有して離間している。より具体的には、図中、左右の2つのストッパー46と凸部12の左右端との間に、-X方向の水平隙間G1と+X方向の水平隙間G1を有し、これらによりX軸方向の1方向の水平隙間を形成している。さらに、図中、上下の2つのストッパー46と凸部12の上下端との間に、+Y方向の水平隙間G1と-Y方向の水平隙間G1を有し、これらによりY軸方向の1方向の水平隙間を形成している。このように、4つのストッパー46と凸部12により、X軸方向とY軸方向の2方向の水平隙間を形成している。
また、図7に示すように、上部プレート41と凸部12の鉛直方向の位置関係は、長さt2の鉛直隙間G2を有して離間している。すなわち、上部構造体10に取り付けられている凸部12と減衰ダンパー40は、水平隙間G1及び鉛直隙間G2を介して完全に縁切りされている。尚、凸部12は、上部構造体10の構成部材として床梁11から下方に突設するように予め設けられている部材であってもよいし、床梁11に対して新規に設置される部材であってもよい。
水平隙間G1の長さt1(及び鉛直隙間G2の長さt2)は、鉄道や自動車、機械設備等による通常の微振動が免震構造建物100の下部構造体20に入力され、上部構造体10と下部構造体20が相対変位した際の相対変位量以上の大きさに設定されている。微振動の振動態様(振動の大きさや固有振動数等)は、免震構造建物100の設置場所によって異なる。対象となる免震構造建物100の下部構造体20に微振動が入力された際の上部構造体10と下部構造体20の間の相対変位量が仮に1mm程度である場合、水平隙間G1の長さ(大きさ)t1は、この1mmよりも大きく、1mmに施工誤差等が加味された5mm乃至50mm程度に設定されるのが好ましい。水平隙間G1の長さt1が5mm乃至50mm程度である場合は、管理者による目視管理も容易になる。
さらに、この水平隙間G1の長さt1は、通常の微振動による上記相対変位量以上の大きさであることに加えて、地震時における上部構造体10と下部構造体20の間の相対変位量未満の大きさに設定されている。レベル2地震時に凸部12とストッパー46を当接させて減衰ダンパー40の減衰性能を発揮させる設計思想の下では、このレベル2地震時の相対変位量が200乃至400mm程度であると特定されている場合は、水平隙間G1の長さt1を上記する5mm乃至50mm程度に設定していることにより、減衰ダンパー40の減衰性能を発揮させることができる。
このように、水平隙間G1の長さt1は、建物100に固有の通常の微振動を受けた際の相対変位量以上であって、かつ、設計対象の地震動を受けた際の相対変位量未満に設定される。
一方、上部プレート41と凸部12の間の鉛直隙間G2の長さt2は、長さt1と同じ大きさに設定されてもよいし、異なる大きさに設定されてもよいが、少なくとも上部プレート41と凸部12が水平隙間G1及び鉛直隙間G2を介して縁切りされていることにより、双方のスムーズな相対移動が保障できる。
図示する減衰ダンパー40を有する免震構造50によれば、通常の微振動は、減衰ダンパー40を介さず、免震支承30のみを介して下部構造体20から上部構造体10に入力されることから、微振動は免震支承30によって効果的に解消もしくは減衰される。すなわち、微振動の入力時に複数の減衰ダンパー40が作用して固定度を増し、免震支承30による免震性能を減殺することはない。一方、レベル2地震動をはじめとする地震動の入力時には、上部構造体10と下部構造体20の相対変位により、免震支承30に加えて減衰ダンパー40にも振動が入力される。そのため、免震支承30による免震性能に加えて、減衰ダンパー40による減衰性能により、上部構造体10を緩やかに水平振動させながら(長周期化)、下部構造体20に対する上部構造体10の過度の水平変位を効果的に抑制することができる。
ここで、図示を省略するが、水平隙間G1に臨むストッパー46の表面もしくは凸部12の表面において、ゴム等からなる緩衝部材が配設されていてもよい。この形態では、緩衝部材が一方の部材に配設された状態において、長さt1の水平隙間G1が形成されるようにする。水平隙間G1に臨むストッパー46の表面もしくは凸部12の表面に緩衝部材が配設されていることにより、交通振動等の微振動によって上部構造体10と下部構造体20が相対変位した際の双方の干渉を解消しながら、地震時に双方が接触する際の過度の接触音を緩衝部材にて抑制することができる。
また、減衰ダンパー40は、上部プレート41と下部プレート42に、金属減衰部材として4本のU型ダンパーロッド44を90度間隔で配設した構成を有するものであるが、免震構造50を構成する免震ダンパーは、図示例以外の免震ダンパーであってもよい。例えば、金属減衰部材として湾曲した鉛ダンパーロッドを有する鉛ダンパーであってもよいし、金属減衰部材として螺旋状に湾曲した複数の鋼製ロッドを有する鋼棒ダンパーであってもよいし、金属減衰部材として複数の鋼製のせん断パネルを有するせん断パネルダンパーであってもよい。また、6本のU型ダンパーロッド44を60度間隔で配設した構成を有する等、n個のU型のダンパーロッド44が相互に360/n度ずれた方向に延出している多様な形態の減衰ダンパーを適用できる。
<第1の実施形態の減衰ダンパーの第1の変形例>
次に、図8を用いて、第1の実施形態の減衰ダンパーの第1の変形例について説明する。図8は、第1の実施形態に係る減衰ダンパーの第1の変形例の斜視図である。
図示する減衰ダンパー40Aは、8角形の下部プレート42Aの各辺に対応する位置に、それぞれストッパー46を高力ボルト47にて固定している。そして、8つのストッパー46に対して、それぞれ長さt1の水平隙間G1を有するようにして、平面視8角形の凸部12Aが遊嵌される形態である。ここで、図中、左右の2つのストッパー46と凸部12Aの左右端との間に、-X方向の水平隙間G1と+X方向の水平隙間G1を有し、これらによりX軸方向の1方向の水平隙間を形成している。さらに、図中、上下の2つのストッパー46と凸部12Aの上下端との間に、+Y方向の水平隙間G1と-Y方向の水平隙間G1を有し、これらによりY軸方向の1方向の水平隙間を形成している。また、図中、45度方向に位置するストッパー46と凸部12Aの間、及び、225度方向に位置するストッパー46と凸部12Aの間にもそれぞれ水平隙間G1が形成され、これらにより45度-225度軸方向の1方向の水平隙間を形成している。さらに、135度方向に位置するストッパー46と凸部12Aの間、及び、315度方向に位置するストッパー46と凸部12Aの間にもそれぞれ水平隙間G1が形成され、これらにより135度-315度軸方向の1方向の水平隙間を形成している。このように、8つのストッパー46と凸部12Aにより、X軸方向、Y軸方向、45度-225度軸方向、及び135度-315度軸方向の4方向の水平隙間を形成している。
さらに、減衰ダンパー40Aでは、8つのストッパー46に対応する8つのU型のダンパーロッド44が相互に45度ずれた方向に延出している。
減衰ダンパー40Aによれば、減衰ダンパー40よりもより多方向の水平変位に対して、各ストッパー46と凸部12Aが同じ長さt1の水平隙間G1を介して配設されていることにより、より多方向の地震時の揺れを効果的に減衰することが可能になる。
参考形態の減衰ダンパ
次に、図9を用いて、参考形態の減衰ダンパーついて説明する。図9は、参考形態に係る減衰ダンパー斜視図である。
図示する減衰ダンパー40Bは、上部プレート41の4つの端辺に沿う正方形で枠状のストッパー46Aを有している。
枠状のストッパー46A内に、上部構造体10の凸部12の4面が長さt1の水平隙間G1を有した状態で配設される。ストッパー46Aが枠状を呈していることから、地震時に上部構造体10と下部構造体20が相対変位した際に、ストッパー46Aと凸部12とを確実に接触させることができ、地震時の振動エネルギーを吸収及び減衰することができる。
尚、図示を省略するが、ストッパー46Aが、6角形や8角形等、他の多角形の枠体や、円形の枠体であってもよく、それらの場合は、各枠体の形状に応じて水平隙間G1を有する形状の凸部12が適用される。
<第2の実施形態の減衰ダンパー>
次に、図10乃至図13を用いて、第2の実施形態に係る減衰ダンパーについて説明する。図10は、実施形態に係る免震構造を形成する減衰ダンパーの第2の実施形態の斜視図である。図11は、第2の実施形態に係る減衰ダンパーが台座と床梁の間に配設されている状態を示す斜視図である。図12は、図10のXII-XII矢視図であり、図13は、図10のXIII矢視図である。
図示する減衰ダンパー60は、上部プレート41上において、減衰ダンパー40と同様の配設態様で4つのストッパー46Bを備えている。ストッパー46Bは、ブロック状の第1鉛直部46aと、第1鉛直部46aの上方において水平方向に延出する鍵部46bとを有している。その他のダンパー構成は、減衰ダンパー40,40Aと同様であることより、詳細な説明は省略する。
図11に示すように、上部構造体10の有する凸部12Aは、第2鉛直部12aと、第2鉛直部12aの下方において側方に広がるフランジ12bとを有している。減衰ダンパー60が台座22上に固定された状態において、フランジ12bが第1鉛直部46a及び鍵部46bに遊嵌した状態で配設される。
図12に示すように、4つのストッパー46Bの鍵部46bの先端と凸部12Aの表面の間には、水平方向に長さt1の水平隙間G1がある。また、図13に示すように、ストッパー46Bの鍵部46bの下面と、凸部12Aのフランジ12bの上面との間には、鉛直方向に長さt2の鉛直隙間G2がある。また、ストッパー46Bの第1鉛直部46aの内側面とフランジ12bの端面の間には、水平方向に長さt1の水平隙間G1がある。さらに、上部プレート41と、凸部12Aの下面及びフランジ12bの下面との間には、鉛直方向に長さt2の鉛直隙間G2がある。このように、減衰ダンパー60においても、凸部12Aがフランジ12bを有し、ストッパー46Bが鍵部46bを有している形態において、上部構造体10に取付けられている凸部12Aと減衰ダンパー60は、水平隙間G1及び鉛直隙間G2を介して完全に縁切りされている。
尚、上記実施形態に挙げた構成等に対し、その他の構成要素が組み合わされるなどした他の実施形態であってもよく、ここで示した構成に本発明が何等限定されるものではない。この点に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更することが可能であり、その応用形態に応じて適切に定めることができる。
10 :上部構造体
11 :床梁
12、12A :凸部
12a :第2鉛直部
12b :フランジ
20 :下部構造体(基礎)
21、22 :台座
30 :免震支承
40、40A,40B :減衰ダンパー
41 :上部プレート
42,42A :下部プレート
44 :金属減衰部材(U型ダンパーロッド)
46,46A,46B :ストッパー
46a :第1鉛直部
46b :鍵部
50 :免震構造
60 :減衰ダンパー
100 :免震構造建物
G1 :水平隙間
G2 :鉛直隙間

Claims (3)

  1. 第1外部構造体に固定可能な下部プレートと、
    側面に少なくとも4つの角部と辺部とを含む凸部を有する上部プレートと、
    前記下部プレートと前記上部プレートを繋ぐ減衰部材と、を有し、
    前記上部プレートの上方に配置される第2外部構造体には、前記角部に当接しない複数のストッパーが設けられており、
    前記凸部の前記辺部のそれぞれは、前記複数のストッパーにそれぞれ対応し、
    前記凸部が前記複数のストッパーとの間に水平隙間を有し、且つ、前記第2外部構造体との間に鉛直隙間を有するように配置され、
    前記凸部が前記ストッパーに対して相対変位する際に、前記凸部の前記辺部と前記ストッパーの側面とが当接する、減衰ダンパー。
  2. 第1外部構造体に固定可能な下部プレートと、
    複数のストッパーを有する上部プレートと、
    前記下部プレートと前記上部プレートとを繋ぐ減衰部材と、を有し、
    前記上部プレートの上方に配置される第2外部構造体には、側面に少なくとも4つの角部と辺部とを含む凸部が設けられており、
    前記複数のストッパーは、前記辺部にそれぞれ対応し、且つ、前記角部に当接せず、
    前記複数のストッパーが前記凸部との間に水平隙間を有するように配置され、
    前記上部プレートが前記凸部との間に鉛直隙間を有するように配置され、
    前記凸部が前記ストッパーに対して相対変位する際に、前記凸部の前記辺部と前記ストッパーの側面とが当接する、減衰ダンパー。
  3. 前記減衰部材はU型のダンパーロッドである請求項1又は2に記載の減衰ダンパー。
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