JP7337580B2 - 多元系シリサイドおよびケイ素を含むリチウムイオン電池用負極材料 - Google Patents

多元系シリサイドおよびケイ素を含むリチウムイオン電池用負極材料 Download PDF

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Description

この発明は多元系シリサイドおよびケイ素を含むリチウムイオン電池用負極材料に関する。
リチウムイオン電池は高容量、高電圧で小型化が可能である利点を有し、携帯電話やノートパソコン等の電源として広く用いられている。また近年、電気自動車やハイブリッド自動車等のパワー用途の電源として大きな期待を集め、その開発が活発に進められている。
このリチウムイオン電池では、正極と負極との間でリチウムイオン(以下Liイオンとする)が移動して充電と放電とが行われ、負極側では充電時に負極活物質中にLiイオンが吸蔵され、放電時には負極活物質からLiイオンが放出される。
従来、一般には正極側の活物質としてコバルト酸リチウム(LiCoO2)が用いられ、また負極活物質として黒鉛が広く使用されていた。しかしながら、負極活物質の黒鉛は、その理論容量が372mAh/gに過ぎず、より一層の高容量化が望まれている。そこで最近では炭素系負極活物質の代替材料として、高容量化が期待できるSi等の金属材料(Siの理論容量は4198mAh/gである)が盛んに研究されている。
ところが、SiはLiとの合金化反応によりLiイオンの吸蔵を行うため、Liイオンの吸蔵・放出に伴って大きな体積膨張・収縮を生じる。従ってSi単独で負極活物質を構成した場合、その膨張・収縮応力によってSiの粒子が割れたり集電体から剥離したりし、充放電を繰り返したときの容量維持特性であるサイクル特性が悪化する問題があった。
このようなことから、下記特許文献1で示されているように、Siを用いた負極活物質において、Siを合金化することが各種提案されている。Siの合金化では、Si相の周りに形成されたSi化合物相が、Si相の膨張時にその膨張応力を吸収するように働くことでSi相の割れや崩壊が抑制されるため、サイクル特性の向上が可能とされている。
特開平10-312804号公報
しかしながら従来提案されているSiの合金化は、サイクル特性の向上に一定の効果は認められるもののその効果は十分でなく、未だ改善の余地があるものであった。
本発明は以上のような事情を背景とし、初期放電容量を高くする他に、特にサイクル特性を高めることが可能なリチウムイオン電池用負極材料を提供することを目的としてなされたものである。
而して本発明はリチウムイオン電池用負極材料に関するもので、Si相と少なくとも1種のSi化合物相とを有し、前記Si化合物相はSi,A,Bの3元素のみから成り且つSi-A合金およびSi-B合金が形成されていないものであって、前記元素AはCrであり、前記元素BはV,Nb,Mo,W,Taよりなる群の中から選択された1種の元素であることを特徴とする。

本発明者は、(1)Siと,Siと化合物を形成する元素Aおよび元素Bを含む合金溶湯を急冷した場合、通常、Si相,Si-A化合物相,Si-B化合物相の3相に分相するところ、適切な合金系を選択した場合には、Si相と、元素Aの一部が元素Bで置換されたSi-A-B化合物相の2相に分相すること、(2)更に特定の元素Aと元素Bを選択して得たSi-A-B化合物相を用いることで、充放電を繰り返した際の容量低下が抑制され、リチウムイオン電池のサイクル特性を高められること、を知得した。
本発明はこのような知見に基づいてなされたものであり、Si相とともに形成されるSi化合物相を、Siと上記の群から選択された元素Aおよび元素Bの3元素で構成したものである。本発明のリチウムイオン電池用負極材料では、Si化合物相を2元系のSi-A合金やSi-B合金で構成した場合よりもサイクル特性を高めることができる。
ここで元素AはCr、元素BはV若しくはNbを選択することができる。
この場合、サイクル特性は元素Aと元素Bの比率によって変化するため、[A]/([A]+[B])で表される元素Aと元素Bの原子%比を0.1~0.9とすることが好ましい。より好ましい範囲は0.3~0.7である。
また本発明では、全Si量からシリサイド化合物化したSi量を差し引いて得たSi相量を20~65質量%とすることができる。
Si相量が20質量%未満の場合、Liイオンを吸蔵するSiの量が少な過ぎて初期放電容量が不足してしまう。一方、Si相量が65質量%を超えると相対的にSi化合物相の量が低下してサイクル特性が悪化してしまう。このためSi相量は、20~65質量%の範囲とすることが好ましい。より好ましい範囲は25~45質量%である。
また本発明では、更にSn,Al,In,Biよりなる群の中から選択された1種以上の元素を含有し、その合計含有量を20質量%以下とすることができる。より好ましくは3~7質量%である。
本発明のSi,A,Bの3成分からなるSi化合物相は、Li吸蔵性、即ちLiパス特性が高くない。このため、LiイオンがSi化合物相中を拡散移動してSi相まで到達し難い場合が考えられる。このような場合、Siと化合物を形成しない上記の元素を適量含有させることでLiパス特性を高めることができ、その結果、Siの利用率を高めることができる。
また本発明では、Si相の平均サイズを500nm以下とすることで更にサイクル特性を高めることができる。
(a)はSiとCr及び/又はVから成る負極材料についてのXRD分析結果を示した図である。(b)は(a)の一部を拡大して示した図である。 SiとCr及び/又はVから成る負極材料を用いた電池のサイクル試験の結果を示した図である。 (a)はSiとCr及び/又はNbから成る負極材料についてのXRD分析結果を示した図である。(b)は(a)の一部を拡大して示した図である。 SiとCr及び/又はNbから成る負極材料を用いた電池のサイクル試験の結果を示した図である。 サイクル特性に及ぼす元素置換量の影響を示した図である。 実施例2に係る負極材料の走査型電子顕微鏡による微細組織写真である。
次に本発明の一実施形態のリチウムイオン電池用負極材料(以下単に負極材料とする場合がある)、本負極材料を負極に用いたリチウムイオン電池(以下単に電池とする場合がある)について具体的に説明する。
1.本負極材料
本負極材料は、Si相とSi化合物相からなる。
Si相は、Siを主に含有する相である。Li吸蔵量が大きくなるなどの観点から、好ましくはSiの単相よりなると良い。もっとも、Si相中には不可避的な不純物が含まれていても良い。
Si化合物相は、Si合金の溶湯を急冷した際にSi相の周りに形成される。本例のSi化合物相はSi,元素A,元素Bの3元素からなる。通常、Siと元素Aと元素Bを含む合金は、Si相とSi-A化合物相とSi-B化合物相とに分相するが、元素AおよびBをCr,V,Nb,Fe,Co,Ni,Zr,Mo,W,Taよりなる群の中からそれぞれ選択した場合、Si-A化合物相およびSi-B化合物相は形成されず、Si化合物相をSi-A-B合金、具体的にはSi2(Ax(1-x))で構成することができる。もっとも、Si化合物相中には不可避的な不純物が含まれていても良い。
Si相およびSi化合物相からなる負極材料の形態は、特に限定されるものではない。具体的には、薄片状、粉末状などの形態を例示することができる。好ましくは、負極の製造に適用しやすいなどの観点から、粉末状であると良い。また、本発明の負極材料は、適当な溶媒中に分散されていても構わない。
図1は、元素AとしてCr、元素BとしてVを選択して得た負極材料についてのXRD分析結果を示した図である。ここではCrおよびVの含有比率が異なる4種類の負極材料についての分析結果を示している。同図によれば、これら4種類の負極材料は、CrとVの含有比率に応じてシリサイド相(Si化合物相)のピークの位置がシフトしており、各Si化合物相ごとにそれぞれ固有のピークが確認できる。この分析結果によれば、負極材料がSi,Cr,Vの3元素から成る場合、Si化合物相はSi-Cr-V合金であるSi2(Cr0.50.5)やSi2(Cr0.90.1)で形成され、Si2CrやSi2Vといった2元系の合金は形成されていないことが分かる。
図2は、上記4種類の負極材料をそれぞれ用いた電池のサイクル試験の結果を示した図である。サイクル試験に用いる電池は、後述する実施例の記載に準じて作製されたものである。ここでのサイクル試験は、2サイクル目以降SOC(State of Charge)の上限を800mAh/gに規制して実施している。同図に示すように、Si化合物相をSi2(Cr0.50.5)もしくはSi2(Cr0.90.1)とした場合には、Si2CrやSi2Vの場合よりも容量低下を抑制することが可能である。
図3は、元素AとしてCr、元素BとしてNbを選択して得た負極材料についてのXRD分析結果を示した図である。ここではCrおよびNbの含有比率が異なる4種類の負極材料についての分析結果を示している。同図によれば、これら4種類の負極材料は、CrとNbの含有比率に応じてシリサイド相(Si化合物相)のピークの位置がシフトしており、各Si化合物相ごとにそれぞれ固有のピークが確認できる。この分析結果によれば、負極材料がSi,Cr,Nbの3元素から成る場合、Si化合物相はSi-Cr-Nb合金であるSi2(Cr0.5Nb0.5)やSi2(Cr0.9Nb0.1)で形成され、Si2CrやSi2Nbといった2元系の合金は形成されていないことが分かる。
図4は、上記4種類の負極材料をそれぞれ用いた電池のサイクル試験の結果の一例である。なお、ここでのサイクル試験は、図2の例と同様に2サイクル目以降SOC(State of Charge)の上限を800mAh/gに規制して実施している。同図に示すように、Si化合物相をSi2(Cr0.5Nb0.5)もしくはSi2(Cr0.9Nb0.1)とした場合には、Si2CrやSi2Nbの場合よりも容量低下を抑制することが可能である。
また図5は、サイクル特性に及ぼす元素置換量yの影響を示した図で、縦軸は上記サイクル試験において放電容量700mAh/g以下となるサイクル数、横軸はCrに対する置換元素V(若しくはNb)の置換量yを示している。同図によれば、得られる合金系によってサイクル特性を改善する効果に差異はあるものの、何れの場合も元素置換によるサイクル特性改善効果が認められる。Si2Cr合金に対する置換元素としてのVとNbを比較した場合には、Vがより有効であり、元素置換量yが0.3~0.7の範囲(特に0.5近傍)において高い効果が得られている。
なお、本実施形態の負極材料は、1種のSi化合物相に限定されるものではなく、例えばSi化合物相を、Si-Cr-V合金の相とSi-Cr-Nb合金の相の2種で構成することも可能である。
また、Siと化合物を形成しないSn,Al,In,Biよりなる群の中から選択された1種以上の元素を更に含有させることも可能である。この場合には前記群から選択された元素の合計含有量を10質量%以下とすることが望ましい。
本発明の負極材料は、所定の化学組成を有する合金溶湯を急冷して急冷合金を形成する工程を経る方法にて製造することができる。得られた急冷合金が粉末状でない場合又は小径化したい場合には、急冷合金を適当な粉砕手段により粉砕して粉末状にする工程を追加しても良い。また、必要に応じて、得られた急冷合金を分級処理して適当な粒度に調整する工程などを追加しても良い。
尚、負極材料の粒径(平均粒子径(d50))は、1~20μmの範囲内としておくことが望ましい。本発明における平均粒子径(d50)は、体積基準を意味し、レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置(マイクロトラックMT3000)を用いて測定することができる。
Si合金を負極材料に用いた場合であっても、充放電反応に伴う負極材料自体の体積膨張・収縮を生じ、これにより負極材料をバインダにて結着して成る合剤層、つまり導電膜中に応力が発生する。この場合、バインダがその応力に耐えられないとバインダの崩壊が生じ、その結果、導電膜の集電体からの剥離を生じ、結果として電極内の導電性が低下し、充放電サイクル特性が低下する。しかるに負極材料の平均粒径を1~20μmの微細な粒子としておいた場合、負極材料が微細化であることによってバインダとの接触面積が増加し、これによりバインダの崩壊が良好に抑制され、結果としてサイクル特性を向上させることができる。
上記製造方法において、合金溶湯は、具体的には、例えば、所定の化学組成となるように各原料を量り取り、量り取った各原料を、アーク炉、高周波誘導炉、加熱炉などの溶解手段を用いて溶解させるなどして得ることができる。
合金溶湯を急冷する方法としては、具体的には、例えば、ロール急冷法(単ロール急冷法、双ロール急冷法等)、アトマイズ法(ガスアトマイズ法、水アトマイズ法、遠心アトマイズ法等)などの液体急冷法等を例示することができるが、特に冷却速度が高いロール急冷法を用いることが望ましい。
ロール急冷法を適用する場合、急冷および回収チャンバ等のチャンバ内に出湯されて連続的(棒状)に下方に流れ落ちる合金溶湯を、周速10m/s~100m/s程度で回転する回転ロール(材質は、Cu、Feなど、ロール表面はメッキが施されていても良い)上で冷却する。合金溶湯は、ロール表面で冷却されることにより箔化または箔片化された合金材料となる。この場合、ボールミル、ディスクミル、コーヒーミル、乳鉢粉砕等の適当な粉砕手段により合金材料を粉砕、必要に応じて分級等すれば、粉末状の負極材料が得られる。
一方、アトマイズ法を適用する場合、噴霧チャンバ内に出湯されて連続的(棒状)に下方に流れ落ちる合金溶湯に対し、N2、Ar、He等によるガスを高圧(例えば、1~10MPa)で噴き付け、溶湯を粉砕しつつ冷却する。冷却された溶湯は、半溶融のまま噴霧チャンバ内を自由落下しながら球形に近づき、粉末状の負極材料が得られる。また、冷却効果を向上させる観点からガスに代えて高圧水を噴き付けても良い。
2.本電池
本電池は、本負極材料を含む負極を用いて構成されている。
負極は、導電性基材と、導電性基材の表面に積層された導電膜とを有している。導電膜は、バインダ中に少なくとも上述した本負極材料を含有している。導電膜は、他にも、必要に応じて、導電助材を含有していても良い。導電助材を含有する場合には、電子の導電経路を確保しやすくなる。
また、導電膜は、必要に応じて、骨材を含有していても良い。骨材を含有する場合には、充放電時の負極の膨張・収縮を抑制しやすくなり、負極の崩壊を抑制できるため、サイクル特性を一層向上させることができる。
上記導電性基材は、集電体として機能する。その材質としては、例えば、Cu、Cu合金、Ni、Ni合金、Fe、Fe基合金などを例示することができる。好ましくは、Cu、Cu合金であると良い。また、具体的な導電性基材の形態としては、箔状、板状等を例示することができる。好ましくは、電池としての体積を小さくできる、形状自由度が向上するなどの観点から、箔状であると良い。
上記バインダの材質としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)樹脂、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリル酸などを好適に用いることができる。これらは1種または2種以上併用することができる。これらのうち、機械的強度が強く、負極材料の体積膨張に対しても良く耐え得、バインダの破壊によって導電膜の集電体からの剥離を良好に防ぐ意味で、ポリイミド樹脂が特に好ましい。
上記導電助材としては、例えば、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、ファーネスブラック等のカーボンブラック、黒鉛、カーボンナノチューブ、フラーレンなどを例示することができる。これらは1または2以上併用しても良い。これらのうち、好ましくは、電子伝導性を確保しやすいなどの観点から、ケッチェンブラック、アセチレンブラックなどを好適に用いることができる。
上記導電助材の含有量は、導電性向上度、電極容量などの観点から、本負極材料100質量部に対して、好ましくは、0~30質量部、より好ましくは、4~13質量部の範囲内であると良い。また、上記導電助材の平均粒子径(d50)は、分散性、扱い易さなどの観点から、好ましくは、10nm~1μm、より好ましくは、20~50nmであると良い。
上記骨材としては、充放電時に膨張・収縮しない、または、膨張・収縮が非常に小さい材質のものを好適に用いることができる。例えば、黒鉛、アルミナ、カルシア、ジルコニア、活性炭などを例示することができる。これらは1または2以上併用しても良い。これらのうち、好ましくは、導電性、Li活性度などの観点から、黒鉛などを好適に用いることができる。
上記骨材の含有量は、サイクル特性向上などの観点から、本負極材料100質量部に対して、好ましくは、10~400質量部、より好ましくは、43~100質量部の範囲内であると良い。また、上記骨材の平均粒子径は、骨材としての機能性、電極膜厚の制御などの観点から、好ましくは、10~50μm、より好ましくは、20~30μmであると良い。なお、上記骨材の平均粒子径は、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置を用いて測定した値である。
本負極は、例えば、適当な溶剤に溶解したバインダ中に、本負極材料、必要に応じて、導電助材、骨材を必要量添加してペースト化し、これを導電性基材の表面に塗工、乾燥させ、必要に応じて、圧密化や熱処理等を施すことにより製造することができる。
本負極を用いてリチウムイオン電池を構成する場合、本負極以外の電池の基本構成要素である正極、電解質、セパレータなどについては、特に限定されるものではない。
上記正極としては、具体的には、例えば、アルミニウム箔などの集電体表面に、LiCoO2、LiNiO2、LiFePO4、LiMnO2などの正極材料を含む層を形成したものなどを例示することができる。
上記電解質としては、具体的には、例えば、非水溶媒にリチウム塩を溶解した電解液などを例示することができる。その他にも、ポリマー中にリチウム塩が溶解されたもの、ポリマーに上記電解液を含浸させたポリマー固体電解質などを用いることもできる。
上記非水溶媒としては、具体的には、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネートなどを例示することができる。これらは1種または2種以上含まれていても良い。
上記リチウム塩としては、具体的には、例えば、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiCF3SO3などを例示することができる。これらは1種または2種以上含まれていても良い。
また、その他の電池構成要素としては、セパレータ、缶(電池ケース)、ガスケット等が挙げられるが、これらについても、リチウムイオン電池で通常採用される物であれば、何れの物であっても適宜組み合わせて電池を構成することができる。
なお、電池形状は、特に限定されるものではなく、筒型、角型、コイン型など何れの形状であっても良く、その具体的用途に合わせて適宜選択することができる。
以下、本発明を実施例を用いてより具体的に説明する。なお、合金組成の%は、特に明示する場合を除き、質量%である。
1.負極材料の作製
下記表1に示す合金組成となるように各原料を秤量した。秤量した各原料を高周波誘導炉を用いて加熱、溶解し、合金溶湯とした。
得られた各合金溶湯を、単ロール急冷法を用いて急冷し、各急冷合金リボンを得た。なお、ロール周速は42m/s、ノズル距離は3mmとした。
得られた各急冷合金リボンを、乳鉢を用いて機械的に粉砕し、粉末状の各負極材料を作製した。尚、実施例13,14については、更に遊星型ボールミルを用いた微粉砕を行った。
Figure 0007337580000001
2.負極材料の組織観察等
各実施例,比較例に係る負極材料について、走査型電子顕微鏡(SEM)により組織観察を行った。またXRD(X線回折)による分析も併せて行ない、表中で示したSi、Si-Cr-V化合物、Si-Cr-Nb化合物等の相が生じていることを確認した。
尚、XRD分析はCo管球を用いて120°~20°の角度の範囲を測定した。
本実施例の代表例として、Si-Cr-V合金からなる実施例2に係る負極材料の走査型電子顕微鏡写真を図6に示した。図中濃い灰色のSi相からなるマトリクス相中に、図中白色または薄い灰色の扁平形状のSi化合物相が多数分散していることが分かる。かかるSi-Cr-V合金においては、合金溶湯を冷却・凝固させる過程で、先にSi化合物が晶出し、その後Si(Si相)が晶出するため、Si化合物相は島状に、Si相は海状に形成される。
3.Si相のサイズの評価
SEM(走査型電子顕微鏡)を用いて30000倍の倍率でSi相を撮影した。撮影した画像よりSi相のサイズを測定した。詳しくは1~5視野撮影し、各視野ごとに任意の15個のSi相の最大径を測定し、平均化したものをSi相のサイズとした。その結果を表1に示している。なお、SEMでの測定が困難な、1μm未満のSi相についてはTEMで観察することによりそのサイズを測定した。
4.Si相量の算出方法
表1で示すSi相量は、化学成分に基づいて算出したものである。以下、Si、Cr、V、Snを含有する実施例7の場合を例に算出方法を説明する。
実施例7の場合、Siと化合物を形成しないSnは算出に関与しない。先ずSiと化合物を形成する元素CrおよびVの含有量を原子%比で表す。ここでは、Cr:50原子%、V:50原子%であり、形成されるSi化合物相はSi2(Cr0.50.5)である。
Si2(Cr0.50.5)は、質量%比で表すと、52.1[Si]-24.2[Cr]-23.7[V]なので、Cr量が15.4質量%の場合、Siが化合物化する量=52.1×15.4/24.2=33.2(質量%)となる。Liイオンの吸蔵反応に寄与するSi相量は、全Si量から化合物化したSi量を差し引いた量であるから、Si相量=64.6-33.2=31.4(質量%)と算出することができる。このようにして算出した結果を表1に示している。
5.負極材料の評価
5.1 充放電試験用コイン型電池の作製
初めに、各負極材料100質量部と、導電助材としてのケッチェンブラック(ライオン(株)製)6質量部と、結着剤としてのポリイミド(熱可塑性樹脂)バインダ19質量部とを配合し、これを溶剤としてのN-メチル-2-ピロリドン(NMP)と混合し、各負極材料を含む各ペーストを作製した。
以下の通り、各コイン型半電池を作製した。ここでは、簡易的な評価とするため、負極材料を用いて作製した電極を試験極とし、Li箔を対極とした。先ず、負極集電体となるSUS316L箔(厚み20μm)表面に、ドクターブレード法を用いて、50μmになるように各ペーストを塗布し、乾燥させ、各負極材料層を形成した。形成後、ロールプレスにより負極材料層を圧密化した。これにより、実施例および比較例に係る試験極を作製した。
次いで、実施例および比較例に係る試験極を、直径11mmの円板状に打ち抜き、各試験極とした。
次いで、Li箔(厚み500μm)を上記試験極と略同形に打ち抜き、各対極を作製した。また、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)との等量混合溶媒に、LiPF6を1mol/lの濃度で溶解させ、非水電解液を調製した。
次いで、各試験極を各正極缶に収容するとともに(各試験極はリチウムイオン電池では負極となるべきものであるが、対極をLi箔としたときにはLi箔が負極となり、試験極が正極となる)、対極を各負極缶に収容し、各試験極と各対極との間に、ポリオレフィン系微多孔膜のセパレータを配置した。
次いで、各缶内に上記非水電解液を注入し、各負極缶と各正極缶とをそれぞれ加締め固定した。
5.2 充放電試験
各コイン型電池を用い、電流値0.2mAの定電流充放電を1サイクル分実施し、この放電容量を初期放電容量C0とした。2サイクル目以降は、1/5Cレートで充放電試験を実施した(Cレート:電極を(充)放電するのに要する電気量C0を1時間で(充)放電する電流値を1Cとする。5Cならば12分で、1/5Cならば5時間で(充)放電することとなる。)。この放電時に使用した容量(mAh)を負極材料量(g)で割った値を各放電容量(mAh/g)とした。測定した上記初期放電容量C0についての結果を表1に示している。
本実施例では、上記充放電サイクルを50回行うことにより、サイクル特性の評価を行った。そして、得られた各放電容量から容量維持率(50サイクル後の放電容量/初期放電容量(1サイクル目の放電容量)×100)を求めた。その結果を表1に示している。
以上のようにして得られた表1の結果から次のことが分かる。
実施例1~3は、Si相量が33%で、CrおよびVを含有する3元系のSi化合物相を備えた負極材料の例である。これら実施例1~3は、同じくSi相量が33%で、Crを含有する2元系のSi化合物相(比較例1)やVを含有する2元系のSi化合物相(比較例3)備えた負極材料と比較して、同等以上の初期放電容量を維持しつつ容量維持率が高くなっており、Si化合物相をSi-Cr-Vの3元系合金で構成したことによる効果が表れている。特に[A]/([A]+[B])が0.5である実施例2の容量維持率が高い。
実施例4~6は、Si相量が33%でCrおよびNbを含有する3元系のSi化合物相を備えた負極材料の例である。これら実施例4~6は、同じくSi相量が33%でCrを含有する2元系のSi化合物相(比較例1)と比較して、容量維持率は略同等で初期放電容量が高い。またNbを含有する2元系のSi化合物相(比較例2)と比較して同等以上の初期放電容量を維持しつつ容量維持率が高くなっており、Si化合物相をSi-Cr-Nbの3元系合金で構成したことによる効果が表れている。特に[A]/([A]+[B])が0.5である実施例5の容量維持率が高い。
実施例7,15は、Si-Cr-V化合物相を有する実施例2に対してSnを添加した例である。Snを5質量%添加した実施例7は、実施例2に対して容量維持率が若干低下するも初期放電容量が高くなっている。Snを15質量%添加した実施例15では、実施例7よりも更に初期放電容量が高くなっている。
また実施例8,16は、Si-Cr-V化合物相を有する実施例2に対してAlを添加した例である。Alを5質量%添加した実施例8は、実施例2に対して容量維持率が若干低下するも初期放電容量が高くなっている。Alを15質量%添加した実施例16では、実施例8よりも更に初期放電容量が高くなっている。
実施例9は、Si-Cr-Nb化合物相を有する実施例5に対してSnを5質量%添加した例である。実施例5に対して容量維持率が若干低下するも初期放電容量が高くなっている。また実施例10は、Si-Cr-Nb化合物相を有する実施例5に対してAlを5質量%添加した例である。実施例9と同様、実施例5に対して容量維持率が若干低下するも初期放電容量が高くなっている。
このように、Siと化合物を形成しないSnやAlを添加することで初期放電容量を高くすることができる。
実施例13,14は、Si-Cr-V化合物相を有する実施例2,7に対し、Si相サイズを100nm以下にまで微細化した例である。それぞれ実施例2,7に対し容量維持率が高くなっている。
実施例17は、Si相量が33%で、CrおよびMoを含有する3元系のSi化合物相を備えた負極材料の例である。実施例17は、同じくSi相量が33%で、Crを含有する2元系のSi化合物相(比較例1)やMoを含有する2元系のSi化合物相(比較例4)備えた負極材料と比較して、同等以上の初期放電容量を維持しつつ容量維持率が高くなっている。
実施例18は、Si相量が33%で、CrおよびWを含有する3元系のSi化合物相を備えた負極材料の例である。実施例18は、同じくSi相量が33%で、Crを含有する2元系のSi化合物相(比較例1)やWを含有する2元系のSi化合物相(比較例5)備えた負極材料と比較して、同等以上の初期放電容量を維持しつつ容量維持率が高くなっている。
実施例19は、Si相量が33%で、NbおよびVを含有する3元系のSi化合物相を備えた負極材料の例である。実施例19は、同じくSi相量が33%で、Nbを含有する2元系のSi化合物相(比較例2)やVを含有する2元系のSi化合物相(比較例3)備えた負極材料と比較して、同等以上の初期放電容量を維持しつつ容量維持率が高くなっている。
実施例20は、Si相量が33%で、NbおよびTaを含有する3元系のSi化合物相を備えた負極材料の例である。実施例20は、同じくSi相量が33%で、Nbを含有する2元系のSi化合物相(比較例2)やTaを含有する2元系のSi化合物相(比較例6)備えた負極材料と比較して、同等以上の初期放電容量を維持しつつ容量維持率が高くなっている。
以上本発明のリチウムイオン電池用負極材料およびリチウムイオン電池について詳しく説明したが、本発明は上記実施形態,実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。

Claims (7)

  1. Si相と少なくとも1種のSi化合物相とを有し、
    前記Si化合物相はSi,A,Bの3元素のみから成り且つSi-A合金およびSi-B合金が形成されていないものであって、
    前記元素AはCrであり、
    前記元素BはV,Nb,Mo,W,Taよりなる群の中から選択された1種の元素であることを特徴とするリチウムイオン電池用負極材料。
  2. 記元素BがV若しくはNbであることを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン電池用負極材料。
  3. [A]/([A]+[B])で表される前記元素Aと元素Bの原子%比が0.3~0.7であることを特徴とする請求項2に記載のリチウムイオン電池用負極材料。
  4. 全Si量からシリサイド化合物化したSi量を差し引いて得たSi相量が20~65質量%であることを特徴とする請求項1~3の何れかに記載のリチウムイオン電池用負極材料。
  5. 更にSn,Al,In,Biよりなる群の中から選択された1種以上の元素を含有し、その合計含有量が20質量%以下であることを特徴とする請求項1~4の何れかに記載のリチウムイオン電池用負極材料。
  6. 更に前記合計含有量が10質量%以下であることを特徴とする請求項5に記載のリチウムイオン電池用負極材料。
  7. Si相の平均サイズが500nm以下であることを特徴とする請求項1~6の何れかに記載のリチウムイオン電池用負極材料。
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