次に、本発明の好適実施形態を挙げ、図面に基づき詳細に説明する。
最初に、同好適実施形態に係る回転減速伝達装置1の理解を容易にするため、原理説明用の原理形態に係る回転減速伝達装置100の構成及び動作について、図1~図10を参照して説明する。
この種の回転減速伝達装置100,1は、図9に示すような産業用ロボットRの関節機構Mjに用いることができる。例示の産業用ロボットRは、垂直多関節ロボットRvであり、機台21の上面に設置したロボット本体部22と、この機台21の下方スペースに収容することによりロボット本体部22を駆動制御するロボットコントローラ23を備える。ロボット本体部22は、第1アーム部(任意のアーム部)15と第2アーム部(他のアーム部)16を備えており、この第1アーム部15と第2アーム部16が関節機構Mjを介して連結される。即ち、第1アーム部15の先端部15sに、回転減速伝達装置100,1を内蔵し、この回転減速伝達装置100,1により第2アーム部16の後端部16rを回転駆動する。これにより、第2アーム部16の位置決め制御,角度制御及び速度制御等を行うことができる。
図1及び図2に、回転減速伝達装置100の全体構造を示す。なお、図2において、図9に示した産業用ロボットRにおける第1アーム部15の先端部15s及び第2アーム部16の後端部16rを、それぞれ仮想線で示している。図1及び図2に示すように、回転減速伝達装置100は、大別して、回転の伝達方向上流側から、回転入力部2,オーバルシャフト部3,フレックスギア部4,インターナルギア部5及び出力プレート部7(回転出力機構9)を備える。これにより、回転入力部2に入力する回転運動は、予め設定した1/100~1/200レベルで減速され、減速された回転運動は回転出力機構9から出力する。
以下、各部の構成について具体的に説明する。回転入力部2は、全体を筒形に形成した入力回転体11により構成する。この入力回転体11はベアリング(ボールベアリング等)31により回動自在に支持される。この場合、ベアリング31は、外輪を第1アーム部15の内面に取付けた支持筒32に固定するとともに、内輪を入力回転体11の外周面に固定する。入力回転体11は、図2に示すように、内周面11iの内方がケーブル類Ka,Kb…の配線空間Sとなる。このため、確保する配線空間Sの広さを考慮して内径等を選定することができる。また、入力回転体11の外周面11oにおける軸方向Fsの中間部位には、オーバルシャフト部3を構成するカム本体部3cを一体形成する。
したがって、このような筒形の入力回転体11を用いれば、ケーブル類Ka,Kb…の配線空間Sを確保できるため、ケーブル類Ka,Kb…の本数が多くなった場合であっても、他の周辺構造と併せて全体の煩雑化を回避できる利点がある。なお、符号33は、入力回転体11の端面に固定した入力ギアリングである。
オーバルシャフト部3は、図6に示すように、入力回転体11に一体形成したカム本体部3cと、このカム本体部3cの外周面に沿って設けた内輪3biと、フレキシブルな外輪3boと、この内輪3biと外輪3bo間に介在させた複数の転動体3bm…を備える。例示の転動体3bm…はボールである。このような構造により、外輪3boは内輪3biに対して相対的に回動変位可能になる。なお、内輪3biは、カム本体部3cの外周面に兼用させることも可能である。これにより、カム本体部3cにおける内周面11iの軸直角方向の断面形状は円形状になるとともに、カム本体部3cにおける外周面11oの軸直角方向の断面形状は楕円形状(オーバル形状)になる(図6参照)。
一方、第1アーム部15の内面には、サーボモータ等の駆動モータ34を固定し、この駆動モータ34の回転シャフトに取付けた駆動ギア34gを入力ギアリング33に噛合させる。これにより、回動自在に支持される入力回転体11に、駆動モータ34からの回転運動が入力する。このように、回転入力部2(入力回転体11)に、駆動モータ34の回転運動を入力させるようにすれば、回転減速伝達装置100は、駆動モータ34を含めた駆動部として構成できるため、例えば、産業用ロボットのアーム部に内蔵する駆動部の小型化、更には耐久性向上及び信頼性向上に寄与できる利点がある。なお、駆動モータ34から回転入力部2に対する回転伝達方式として、ギア伝達機構を例示したが、タイミングベルトとプーリを利用したベルト伝達機構等の他の回転伝達方式を用いてもよい。
フレックスギア部4は、全体を金属素材(特殊鋼等)によりフレキシブル性を有する無端ベルト状に構成し、図6に示すように、オーバルシャフト部3の外輪3boの外周面に沿って付設する。図4に、フレックスギア部4の全体形状を示すとともに、図5に、フレックスギア部4の一部の拡大形状を示す。フレックスギア部4は、外周面に、周方向Ffに沿ったアウタギア4gを形成する。
また、アウタギア4gを構成する各歯部(山部)4gs…の一つ置きに伝達ピン本体4pm…を埋設(穴に圧入)する。この場合、各歯部(山部)4gs…は、各伝達ピン本体4pm…を支持する機能を有するため、支持強度を確保できる厚さ及び形状を選定する。なお、伝達ピン本体4pm…は、各歯部(山部)4gs…の一つ置きに配した例を示したが、各伝達ピン本体4pm…の間隔は任意に設定できる。各伝達ピン本体4pm…は、剛性の高い耐摩耗性を有する金属素材を使用し、図3~図5に示すように、断面が円形となる丸棒状に形成し、図8に示すように、一端側を、各歯部(山部)4gs…に埋設するとともに、他端側を、フレックスギア部4の側面から横側方(図8では上方)に突出させる。これにより、各伝達ピン本体4pm…は、フレックスギア部4の周方向Ffに沿って一定間隔置きに配される。
さらに、フレックスギア部4の横側方から突出する各伝達ピン本体4pm…の他端側には伝達ローラ4pr…の偏心位置を回動自在に取付ける。これにより、各伝達ローラ4pr…の偏心位置が各伝達ピン本体4pm…により回動自在に支持される。このように、フレックスギア部4から突出した伝達ピン本体4pm…と、この伝達ピン本体4pm…を軸にして偏心位置が回動自在に支持される伝達ローラ4pr…により伝達ピン部4p…が構成される。なお、伝達ピン部4p…はこのような伝達ピン本体4pm…と伝達ローラ4pr…により構成することが望ましいが、伝達ローラ4pr…を使用することなく伝達ピン本体4pm…の形状を選定した一体化した伝達ピン部4p…であってもよい。
他方、フレックスギア部4の内周面であって、各歯部(山部)4gs…間の谷部4gd…に対応するそれぞれの位置には、図5に示すように、U形形状となる切込部4c…を放射方向Fdに形成する。これにより、各谷部4gd…と各切込部4c…間の厚さは、オーバルシャフト部3の回転に対して円滑かつ安定に追従可能なフレキシブル性(弾性)が確保される。図5における実線部分が、図4に示すフレックスギア部4がインターナルギア部5から最離間したときの形状を示すとともに、図5における仮想線部分が、図4に示すフレックスギア部4がインターナルギア部5に最接近したときの形状を示している。
インターナルギア部5は、全体を金属素材により剛性を有するリング状に形成し、図3に示すように、内周面には、周方向Ffに沿ったインナギア5gを形成する。そして、図2に示すように、インターナルギア部5の外周面を第1アーム部15の内面に取付けて固定するとともに、インナギア5gに、上述したフレックスギア部4のアウタギア4gを噛合させる。この際、インターナルギア部5に形成するインナギア5gの一周の歯数は、フレックスギア部4に形成するアウタギア4gの一周の歯数に対して、多くなるように設定する。例示の場合、アウタギア4gの歯数を「N」に設定し、インナギア5gの歯数は「N+2」に設定した。
この場合、フレックスギア部4の全体の外周形状は楕円形となるため、フレックスギア部4は、インナギア5gに対して180〔°〕の位置関係となる二個所の噛合位置T,Tで噛合する。このように、フレックスギア部4を、インナギア5gに対して180〔°〕の位置関係となる二個所の噛合位置T,Tで噛合させるようにすれば、フレックスギア部4を、最も、単純な形状となる楕円形状を選定できるため、例えば、三個所以上の噛合位置T…で噛合させる場合に要求される精度に対してより低く抑えることが可能となり、製造容易性及び加工容易性を高めることができるとともに、耐久性,静音性及び信頼性の向上にも寄与できる利点がある。
回転出力機構9は、リング状に形成した出力プレート保持体12を備え、この出力プレート保持体12は、この内周面と入力回転体11の外周面間に配したベアリング(ローラベアリング)36により内周面側が支持されるとともに、この出力プレート保持体12の外周面と第1アーム部15の内面間に配したクロスローラベアリング37により外周面側が支持される。出力プレート保持体12におけるフレックスギア部4に対向する端面12sには、出力プレート部7を嵌合させるリング凹部12hを形成し、このリング凹部12hに、図2に示す出力プレート部7を嵌合させる。一方、出力プレート保持体12におけるリング凹部12hを有する端面12sに対して反対側の端面12tには、出力接続プレート38を固定する。
また、出力プレート部7はリング形(リング板状)に形成するとともに、伝達ローラ4pr…が係合可能な複数の係合孔7sh…を形成する。係合孔7sh…は、出力プレート部7の周方向Ffに沿って所定間隔置きに形成するとともに、出力プレート部7が回転したときの伝達ローラ4pr…の変位を許容できるように、放射方向Fdに沿ったスリット状の長孔として形成する。なお、出力プレート部7をリング形に形成すれば、ケーブル類Ka,Kb…の配線空間を確保可能になるとともに、特に、筒形に形成する入力回転体11と組合わせることにより、全体構造のシンプル化及び高剛性化に寄与できる利点がある。その他、図1及び図2において、符号40…は、シールリングを示す。
このように、回転出力機構9を構成するに際し、伝達ピン本体4pm…を軸にして偏心位置が支持される伝達ローラ4pr…,及びこの伝達ローラ4pr…が係合し、かつ周方向Ffに沿って所定間隔置きに形成するとともに、回転伝達時に伝達ローラ4pr…の変位を許容する複数の係合孔7sh…を放射方向Fdに設けたリング形の出力プレート部7を用いて構成すれば、周方向Ffの異なる位置で生じる係合孔7sh…に対する伝達ピン部4p…の変位を有効に吸収することができる。したがって、係合孔7sh…と伝達ピン本体4pm…を直接係合させた際に生じる無用な応力を排除し、伝達ピン部4p…から回転出力機構9への回転伝達を安定かつ円滑に行うことができるとともに、無用なロス分を排除して回転伝達効率をより向上させることができる。
よって、このような原理形態に係る回転減速伝達装置100によれば、回転運動が入力する回転入力部2と、この回転入力部2と一体に回転するカム本体部3c,及びこのカム本体部3cの外周に沿って設けた内輪3biとフレキシブルな外輪3bo間に複数の転動体3bm…を介在させたオーバルシャフト部3と、インナギア5gを内周に形成し、かつ位置を固定したインターナルギア部5と、外周の周方向Ffに沿って形成し、かつインナギア5gに対して歯数を少なくして、オーバルシャフト部3の外周に付設した際に、周方向Ffにおける二個所(一般的には複数個所)の噛合位置T…でインナギア5gに噛合するアウタギア4gを有するとともに、側面から突出し、かつ周方向Ffに沿って所定間隔置きに設けた複数の伝達ピン本体4pm…及びこの伝達ピン本体4pm…を軸にして偏心位置が回動自在に支持される伝達ローラ4pr…により構成した伝達ピン部4p…を有するフレックスギア部4と、この伝達ピン部4p…が係合し、かつ周方向Ffに沿って所定間隔置きに設けるとともに、回転伝達時に伝達ピン部4p…の変位を許容する複数の係合孔7sh…を放射方向Fdに設けた出力プレート部7を有する回転出力機構9とを備えるため、薄肉の金属弾性プレート材を用いて全体形状をカップ状に形成する従来のフレクスプラインは不要になる。
この結果、容易に製造可能となり、製造コストの大幅な削減を図れるとともに、金属疲労や動作不良等も大幅に低減できるため、耐久性及び信頼性の向上を図ることができるなど、イニシャルコスト及びランニングコストの双方における大幅なコストダウンを実現できる。しかも、従来のフレクスプラインが不要になることから、軸方向Fsにおける配設スペースのサイズダウンを図ることができ、全体構造における薄型化が可能になる。したがって、小型化に限界のあった、特に産業用ロボット等の更なる小型化を容易に実現することができる。
また、回転減速伝達装置100を、ロボットRを構成する任意のアーム部15と他のアーム部16を連結する関節機構Mjに用いれば、関節機構Mjの薄型化(小型化)、耐久性及び信頼性の向上に寄与できるため、特に、生産ラインに設置するための最適な産業用ロボット(垂直多関節ロボットRv,水平多関節ロボット,デルタ型ロボット等)を構築できる利点がある。
次に、このような原理形態を有する回転減速伝達装置100の動作について、図1~図9を参照し、主に図10(a)~(d)に従って説明する。なお、図10(a)~(d)は原理図のため、カム本体部3cの楕円形状は誇張した細長形状で描いている。
まず、ロボットコントローラ23により駆動モータ34をON制御すれば、駆動モータ34が作動し、駆動ギア34gが回転する。この回転運動は入力ギアリング33に伝達されるとともに、さらに、カム本体部3cを含む入力回転体11に伝達される。これにより、カム本体部3cは比較的高速で回転する。
図10(a)は、カム本体部3cの回転が開始する前の状態を示している。この状態では、カム本体部3cが位置Psで停止し、カム本体部3cの長手方向(楕円直径の最大方向)は上下方向となる。したがって、フレックスギア部4における始点は符号Xsの位置にありインターナルギア部5の基準点Xoに一致する。図10(a)の状態では、フレックスギア部4のアウタギア4gがインターナルギア部5のインナギア5gに対して上下二個所の噛合位置T,Tで噛合する。
次いで、カム本体部3cが、図10(a)の位置Psから矢印Dr方向に90°回転した状態を想定する。この状態を図10(b)に示す。この場合、カム本体部3cは、位置Psから時計方向へ90°回転した位置P1まで変位する。これにより、カム本体部3cの長手方向は、図10(b)に示すように左右方向となる。したがって、カム本体部3cの回転時には、アウタギア4gがインナギア5gに噛合する上側の噛合位置T(下側の噛合位置Tも同じ)が時計方向に噛み合いつつ90°移動することになる。この際、アウタギア4gの歯数はN、インナギア5gの歯数はN+2のため、フレックスギア部4の始点は、基準点Xoに対して、角度Q1=(360°/N)×2)/4だけ、反時計方向となる位置X1へ変位する。
さらに、カム本体部3cが図10(b)の位置P1から矢印Dr方向に90°回転した状態を想定する。この状態を図10(c)に示す。この場合、カム本体部3cは位置P1から時計方向へ90°回転した位置P2まで変位する。これにより、カム本体部3cの長手方向は、図10(c)に示すように上下方向となる。したがって、フレックスギア部4の始点は、基準点Xoに対して、角度Q2=(360°/N)×2)/2だけ反時計方向となる位置X2へ変位する。
次いで、カム本体部3cが図10(c)の状態から矢印Dr方向に180°回転した状態を想定する。この状態を図10(d)に示す。この場合、カム本体部3cは位置P2から180°回転した位置P3まで変位する。これにより、カム本体部3cの長手方向は、上下方向となり、図10(c)の位置に対して上下反転する。したがって、フレックスギア部4の始点は、基準点Xoに対して、角度Q3=(360°/N)×2)だけ反時計方向となる位置X3へ変位する。以上により、カム本体部3cは、時計方向へ1回転するとともに、フレックスギア部4は、歯数「2」だけ反時計方向へ移動する減速処理が行われる。
さらに、減速されたフレックスギア部4の回転運動は、回転出力機構9に伝達される。即ち、フレックスギア部4から突出する伝達ピン部4p…は、出力プレート部7の係合孔7sh…に係合する偏心位置が支持される伝達ローラ4pr…を備えるため、出力プレート部7はフレックスギア部4の回転運動に完全に同調して回転する。この場合、伝達ピン部4p…は、カム本体部3cの外周面の軌跡に従って放射方向Ddに反復変位するが、この変位は、長孔により形成した係合孔7sh…により吸収される。
そして、図2に示すように、出力プレート部7の回転運動は、入力した回転運動に対して大きく減速されるとともに、出力プレート保持体12,出力接続プレート38を含む出力プレート部7以外の回転出力機構9を介して第2アーム部16に伝達され、第2アーム部16が回転変位する。即ち、第1アーム部15を支点に高精度で回転制御される。
次に、このような原理形態を踏まえ、本発明の好適実施形態に係る回転減速伝達装置1について、図11~図19を参照して詳細に説明する。
まず、本実施形態に係る回転減速伝達装置1の構成について、図11~図18を参照して説明する。本実施形態は、前述した図1~図10に示した原理形態に対して、特に、フレックスギア部4と出力プレート部7間における回転伝達機構を改善したものである。したがって、本実施形態では、原理形態におけるフレックスギア部4の一部、即ち、外周の周方向Ffに沿って形成し、かつインナギア5gに対して歯数を少なくして、オーバルシャフト部3の外周に付設した際に、周方向Ffにおける複数の噛合位置T…でインナギア5gに噛合するアウタギア4gを有する原理形態におけるフレックスギア部4の一部を含むとともに、特に、側面から突出した伝達ピン本体4pm…及びこの伝達ピン本体4pm…を軸にして中心位置が回動自在に支持される伝達ローラ4pr…を有し、かつ周方向Ffに沿って所定間隔置きに配した複数の伝達ピン部4p…を設けてなるフレックスギア部4を備える。また、出力プレート部7として、伝達ローラ4pr…の外径よりも大径に形成することにより当該伝達ローラ4pr…が係合し、かつ周方向Ffに沿って所定間隔置きに形成した円形の係合孔7sh…を設けた出力プレート部7を備えるとともに、更に、伝達ピン部4p…と係合孔7sh…間に介在させることにより、伝達ピン部4p…と係合孔7sh…を常時係合可能にする弾性体部6…を備えている。
即ち、本実施形態の場合、図11及び図12に示すように、一つの伝達ピン部4pは、丸棒状のピン部材により形成した伝達ピン本体4pmと、この伝達ピン本体4pmを軸にして中心位置が回動自在に支持される円形(円筒形)の伝達ローラ4prにより構成する。したがって、前述した図1~図10に示した原理形態の伝達ピン部4pは、伝達ローラ4prの偏心位置が伝達ピン本体4pmにより支持されるが、本実施形態における伝達ピン部4pは、円形の伝達ローラ4prの中心位置が伝達ピン本体4pmにより支持される点が異なる。
また、本実施形態における伝達ローラ4prは、所定の弾性を有する合成樹脂素材Rmにより一体に形成する。特に、合成樹脂素材Rmとしては、適度な弾性を確保しつつ、耐摩耗性及び摩擦特性(潤滑性)、更には高い機械的強度及び寸法安定性を有する素材を選定することが望ましい。このような合成樹脂素材Rmを用いることにより、射出成形機による一体成形が可能になるため、更なる低コスト性及び量産性に寄与できる。この場合、合成樹脂素材Rmとして、合成樹脂素材をそのまま利用することも可能であるが、より好ましくは、後述する変更例のように、充填剤を配合した合成樹脂素材Rmを用いることが望ましい。
合成樹脂素材Rmとしては、例えば、ふっ素系樹脂素材又はポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂素材Rmpが好適である。これらの素材は、適度な弾性を確保しつつ、耐摩耗性及び摩擦特性(潤滑性)、更には高い機械的強度及び寸法安定性を有する自身の特性を有効に活かせるため、最適な弾性体部6として構成できる。一例として、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂素材Rmpを利用したオイレス工業株式会社製のすべり軸受(グライトロンSE(商品名)等)やふっ素系樹脂素材を利用したNTN株式会社製のスリーブベアリング(AREシリーズ等)を用いることができる。なお、これらの製品は、本来はすべり軸受であるが、本実施形態の伝達ローラ4prにそのまま転用又はサイズ(形状)等の設計変更により容易に転用することができ、実施の容易性及び低コスト性に寄与できる。
このような本実施形態における伝達ローラ4prは、伝達ローラ4prに弾性体部6を兼用する形態として構成される。即ち、弾性体部6は、伝達ピン部4pと係合孔7sh間に介在させることにより、伝達ピン部4pと係合孔7shを常時係合可能にする機能を備えるため、後述する変更例のように、伝達ローラ4prを金属素材により形成し、この伝達ローラ4prの外周側又は内周側に合成樹脂素材Rmにより形成した筒形状の弾性体部6を組合わせて構成することもできるし、本実施形態のように、伝達ローラ4pr自体を合成樹脂素材Rmにより形成することもできる。これにより、弾性体部6が一体の伝達ローラ4prを構成できるため、別部品としての弾性体部6が不要とり、部品点数及び組付工数の低減に伴う構造のシンプル化及びコスト低減を図れるとともに、故障等の低減にも寄与できるなど、信頼性を高めることができる利点がある。
一方、伝達ピン本体4pmは、図12に示すように、フレックスギア部4の側面から突出させるとともに、円筒形の伝達ローラ4prは伝達ピン本体4pmの外周面に対して回動自在に組付ける。これにより、伝達ローラ4prの中心位置が伝達ピン本体4pmにより回動自在に支持される伝達ピン部4pが構成される。また、複数の伝達ピン部4p…を用意し、図11に示すように、フレックスギア部4の周方向Ffに沿って所定間隔置きに配設する。
この場合、伝達ピン部4p…を除くフレックスギア部4は、図4に示した原理形態のフレックスギア部4を用いることができる。なお、図14は、フレックスギア部4の変更例を示している。図4(図5)に示した原理形態のフレックスギア部4に対して、図14に示すフレックスギア部4は、各切込部4c…を、より広く形成するとともに、各切込部4c…間に、各伝達ピン本体4pm…を配した点を異ならせたものである。基本的な機能は同じとなるが、よりフレックス性を高めることができる。
また、伝達ピン部4pの取付けに際しては、図12に示すように、伝達ピン本体4pmをフレックスギア部4に対して直接固定する方法、又は図15~図18に示すように、別途の固定機構4uを介して取付ける方法を用いることができる。伝達ピン部4pを直接固定する方法は、図12に示すように、フレックスギア部4の側面から面直角方向に取付孔部4sを形成し、この取付孔部4sに伝達ピン本体4pmを圧入するなどにより直接固定することができる。この方法は、最もシンプルな取付構造により実施できるため、部品点数の削減及び取付構造の小型化に寄与できる。さらに、伝達ピン本体4pmに、伝達ローラ4prを組付けるには、図12に示すように、伝達ローラ4prの内孔部に対して、伝達ピン本体4pmを単に挿入するのみで組付けることができる。この場合、伝達ローラ4prの一端面は、フレックスギア部4の側面に規制されるとともに、伝達ローラ4prの他端面は、図2に示すインターナルギア部5の端面により規制されるため、伝達ローラ4prの、伝達ピン本体4pmからの抜脱が阻止され、伝達ローラ4prに対して伝達ピン本体4pmを単に挿入するのみで組付可能となる。
一方、伝達ピン本体4pmを、固定機構4uを介して取付ける方法では、図15及び図16に示すような横長の取付プレート4bを用意し、この取付プレート4bの中央位置に伝達ピン本体4pmの一端をネジ止め方式等により固定するとともに、この取付プレート4bの両側位置(一般的には複数位置)を、それぞれ固定部材4x,4xにより、フレックスギア部4の側面に固定することができる。例示の固定部材4x,4xは、丸棒状に形成し、一端側をフレックスギア部4の側面から面直角方向に形成した取付孔51,51に圧入するとともに、他端側を取付プレート4bに形成した取付孔52,52に圧入して固定できる。なお、53,53は、取付プレート4bとフレックスギア部4の側面間に介在させたワッシャ部材を示す。このような取付方法を採用すれば、特に、回転伝達方向の応力に強い取付構造を実現できるため、伝達機構における安定性及び信頼性を高めることができる。
図17は、フレックスギア部4の側面に、複数の固定機構4u…を介して各伝達ピン部4p…を取付ける際の配置状態を示している。なお、図18は、取付プレート4bの変更例を示す。図18に示す取付プレート4bは、図15に示した取付プレート4bに対して、長手方向の長さを、更に長く形成するとともに、中間部位をフレックスギア部4の円弧形状に沿わせてへの字形にやや折曲形成したものである。このような形状的な相違点を除き、基本的には、図15に示した取付プレート4bと同様に用いることができる。したがって、取付プレート4bは各種形状や形態により実施可能である。
他方、出力プレート部7には、各伝達ローラ4pr…が係合する係合孔7sh…を形成する。この係合孔7shは、図11に示すように、伝達ローラ4prの外径よりも大径となる円形に形成する。この場合、係合孔7shは、伝達ローラ4prを挿入(収容)した際に、伝達ローラ4prの外周面の一点(一ライン)位置と係合孔7shにおける内周面の一点(一ライン)位置が常時圧接して係合するように、当該係合孔7shの直径(又は伝達ローラ4prの外径)の大きさを選定する。
その他、図11~図18において、図1~図10と同一部分には同一符号を付してその構成を明確にするとともに、その詳細な説明は省略する。
次に、本実施形態に係る回転減速伝達装置1の動作(機能)について、図11~図13を参照して説明する。
本実施形態に係る回転減速伝達装置1では、図11に示すように、各係合孔7sh…は、出力プレート部7の周方向Ffに沿って、所定間隔毎に形成するため、例示の場合、約1/4周の範囲において、八つの係合孔7sh…が形成される。したがって、今、図11に示すように、最上部に位置する係合孔7shにおいて、伝達ローラ4prの上端位置が当該係合孔7shの内面上端となる位置X1で圧接するとともに、出力プレート部7の回転方向が、図中時計回りであるとすれば、カム本体部3c(図6,図10)がQs〔°〕だけ回転することにより、伝達ローラ4prと係合孔7shが圧接する位置X2は、伝達ローラ4prから見て反時計方向へQs〔°〕だけ角度変位する。同様に、カム本体部3cが、Qs〔°〕×2だけ回転することにより、伝達ローラ4prと係合孔7shが当接する位置X3は、伝達ローラ4prから見て反時計方向へQs〔°〕×2だけ変位する。以下、同様の動作が行われる。この結果、係合孔7sh…の中心位置は、図11中、真円となる鎖線円Tc上を変位(移動)するとともに、伝達ピン部4p…の中心位置は、楕円となる鎖線円Te上を変位する。この楕円となる鎖線円Teは、上下端位置において、鎖線円Tcに対して最大となる外側に位置し、左右端位置において、鎖線円Tcに対して最大となる外側に位置する。
したがって、カム本体部3cが回転する360〔°〕のいずれの角度位置においても、伝達ローラ4prの外周面の一点(一ライン)は係合孔7shの内周面に圧接することになる。この際、伝達ローラ4prが、例えば、金属素材等の硬質素材により形成されている場合には、伝達ローラ4prと係合孔7shに対する高度の精度が要求され、精度が低い場合には、角度位置に応じて、非接触状態又は過大応力による接触状態が発生する虞れがあるが、本実施形態では、伝達ローラ4prを、所定の弾性を有する合成樹脂素材Rmにより形成するため、係合孔7shの内周面に対する圧接時には、図11に示すように、無加圧時の厚さLdに対して、厚さLp分が加圧により減縮されることにより厚さLsまで厚さが圧縮される。図13(a)に、無加圧時における伝達ローラ4prの断面形状を示すとともに、図13(b)に、圧接時における伝達ローラ4prの断面形状を示す。4prfは、無加圧時における伝達ローラ4prの表面形状を示すとともに、4prsは、圧接時における伝達ローラ4prの表面形状を示す。
このように、弾性体部6を兼用する伝達ローラ4pr…は、所定の弾性を有する合成樹脂素材Rmにより形成するため、係合孔7sh…に圧接することにより、伝達ローラ4pr…の周方向Ffへの変位を係合孔7sh…に伝達、即ち、出力プレート部7に伝達する回転伝達機能を発揮するとともに、この伝達ローラ4pr…は、弾性圧縮するため、機械的な寸法誤差等に対する誤差吸収機能を発揮する。
次に、伝達ピン部4pと弾性体部6の変更例について、図19(a)~(c)を参照して説明する。
図19(a)は、充填剤Adを配合した合成樹脂素材Rmを用いて一体成形した場合の伝達ローラ4prを模式的(原理的)に示したものである。この場合、充填剤Adとしては、少なくとも二硫化モリブデン,グラファイト等の各種潤滑材を含ませることができる。これにより、弾性体部6(伝達ローラ4pr)の外周面又は内周面が接触する際の接触摩擦をより低減できるなど、更なる円滑性かつ効率の高い回転伝達を行うことができる。また、必要に応じて、伝達ローラ4prとしての特性(性能)を高めるための各種充填剤(添加剤)を配合することも可能である。なお、充填剤Adを配合するとは、混合する場合のみならず表面をコーティングする場合も含む概念である。
図19(b)は、弾性体部6を設けるに際して、伝達ローラ4prと弾性体部6を別体の部品とし、これらを組合わせて構成した形態となる。即ち、伝達ローラ4prを金属素材Mmにより形成し、かつ弾性体部6を、伝達ピン本体4pmと当該伝達ローラ4pr間に介在させる円筒形のカラー部材6aにより構成したものである。このように構成すれば、円筒形に形成した伝達ローラ4prの内径とカラー部材6aの厚みを所定の寸法に選定できるため、弾性体部6の弾性度合や変形度合等を任意に調整できるとともに、弾性体部6を介しての回転伝達特性の最適化を容易に図ることができる。なお、この形態は、比較的小サイズのカラー部材6aを、伝達ローラ4prの内周面に配するため、小型の係合機構を構築する際に適している。また、カラー部材6aを形成する弾性体部6は、図11~図13及び図19(a)に示したように、合成樹脂素材に対して他の充填剤を配合せずに、そのままの合成樹脂素材Rmを利用してもよいし、充填剤Adを配合した合成樹脂素材Rmを利用してもよい。
図19(c)は、弾性体部6を設けるに際して、伝達ローラ4prを金属素材により形成し、かつ弾性体部6を、当該伝達ローラ4prと係合孔7sh間に介在させる円筒形のカラー部材6bにより構成したものである。このように構成すれば、円筒形に形成した伝達ローラ4prの外径とカラー部材6bの厚みを所定の寸法に選定できるため、弾性体部6の弾性度合や変形度合等を任意に調整できるとともに、弾性体部6を介しての伝達特性の最適化を容易に図ることができる。なお、この形態は、比較的大サイズのカラー部材6bを伝達ローラ4prの外周側に配するため、安定した係合機構を構築する際に適している。例示の場合、カラー部材6bを、係合孔7shの内周面に設けた場合を示したが、伝達ローラ4prの外周面に設けてもよい。また、カラー部材6bを形成する弾性体部6も、図11~図13及び図19(a)に示したように、合成樹脂素材に対して他の充填剤を配合せずに、そのままの合成樹脂素材Rmを利用してもよいし、充填剤Adを配合した合成樹脂素材Rmを利用してもよい。
その他、図19(a)~(c)において、図1~図18と同一部分には同一符号を付してその構成を明確にするとともに、その詳細な説明は省略する。
このように、本実施形態に係る回転減速伝達装置1は、基本構成として、回転運動が入力する回転入力部2と、この回転入力部2と一体に回転するカム本体部3c,及びこのカム本体部3cの外周に沿って設けた内輪3biとフレキシブルな外輪3bo間に複数の転動体3bm…を介在させたオーバルシャフト部3と、インナギア5gを内周に形成し、かつ位置を固定したインターナルギア部5と、外周の周方向Ffに沿って形成し、かつインナギア5gに対して歯数を少なくして、オーバルシャフト部3の外周に付設した際に、周方向Ffにおける複数の噛合位置T…でインナギア5gに噛合するアウタギア4gを有するとともに、側面から突出した伝達ピン本体4pm…及びこの伝達ピン本体4pm…を軸にして中心位置が回動自在に支持される伝達ローラ4pr…を有し、かつ周方向Ffに沿って所定間隔置きに配した複数の伝達ピン部4p…を設けたフレックスギア部4と、伝達ローラ4pr…の外径よりも大径に形成することにより当該伝達ローラ4pr…が係合し、かつ周方向Ffに沿って所定間隔置きに形成した円形の係合孔7sh…を設けた出力プレート部7と、伝達ピン部4p…と係合孔7sh…間に介在することにより伝達ピン部4p…と係合孔7sh…を常時係合可能にする弾性体部6…とを備え、入力する回転運動を減速して出力する機能を備えるため、薄肉の金属弾性プレート材を用いて全体形状をカップ状に形成する従来のフレクスプラインは不要になり、容易に製造可能となる。これにより、製造コストの大幅な削減を図れるとともに、金属疲労や動作不良等も大幅に低減でき、耐久性及び信頼性の向上を図ることができるなど、イニシャルコスト及びランニングコストの双方における大幅なコストダウンを実現できる。
また、従来のフレクスプラインが不要になるため、軸方向Fsにおける配設スペースのサイズダウンを図ることができる。したがって、全体構造における薄型化が可能になり、小型化に限界のあった、特に産業用ロボット等の更なる小型化を容易に実現することができる。さらに、弾性体部6…の弾性機能により、伝達ローラ4pr…と係合孔7sh…間を安定に係合させることができるため、フレックスギア部4から出力プレート部7への回転伝達を効率的に行うことができるとともに、無用な発熱や減耗を排除して長期使用における信頼性を高めることができる。しかも、係合孔7sh…と伝達ローラ4pr…の組合わせによる単純形状の部品や加工部位により実現できるとともに、機械的な寸法誤差に対する吸収機能により加工上の厳格な精度が要求されないため、実施の容易性及び低コスト性に優れる。
以上、変更例を含む好適実施形態について詳細に説明したが、本発明は、このような実施形態に限定されるものではなく、細部の構成,形状,素材,数量,数値,方法等において、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更,追加,削除することができる。
例えば、出力プレート部7をリング形に形成するとともに、回転入力部2を筒形の入力回転体11により構成した場合を示したが、ケーブル類Ka,Kb…の配線空間Sを設けない場合には、リング形又は筒形に構成することを要しない。また、回転入力部2は、外周面11oに、少なくともオーバルシャフト部3のカム本体部3cを一体形成した場合を示したが、別体のカム本体部3cを所定の取付手段により取付けてもよい。一方、フレックスギア部4は、インターナルギア部5のインナギア5gに対して180〔°〕の位置関係となる二個所の噛合位置T,Tで噛合させる場合を例示したが、カム本体部3cの形状を三角状,四角状又は五角状に形成し、三個所の噛合位置T…,四個所の噛合位置T…又は五個所の噛合位置T…で噛合させることも可能である。さらに、回転出力機構9には、回動自在に支持され、かつ端面12sに、出力プレート部7を保持するリング凹部12hを形成したリング形の出力プレート保持体12を設けた形態を例示したが、同一の機能を発揮できる他の構成により置換する場合を排除するものではない。また、各伝達ピン4p…は、アウタギア4gにおける各歯部(山部)4gsの位置に対応して設けた場合を例示したが、必ずしも位置を対応させる必要はないとともに、各伝達ピン4p…の数量及び間隔は、各歯部(山部)4gs…の数量と間隔に一致させる必要はない。一方、入力する回転運動として駆動モータ34の回転運動を例示したが、他の各種の回転運動源を適用できる。さらに、各部の形成素材として金属素材を例示したが合成樹脂素材や繊維強化複合素材等であってもよいし、弾性が不要となる部品についてはセラミックス素材等であってもよく、素材の種類は特定の素材に限定されるものではない。なお、フレックスギア部4の内周面であって、各歯部(山部)4gs…間の谷部4gd…に対応するそれぞれの位置に、U形形状となる切込部4c…を放射方向Fdに形成した場合を例示したが、切込部4c…の形状や位置(間隔)は任意であり、また、必ずしも設けることを要しない。
一方、所定の弾性を有する合成樹脂素材Rmは、例示した一定の機能(特性)を有することを条件に各種の合成樹脂素材を利用できる。同様に、充填剤Adも、例示した一定の機能(特性)を有することを条件に各種充填剤を利用することができる。さらに、弾性体部6を設けるに際して、伝達ローラ4prを、合成樹脂素材Rmにより形成することにより、伝達ローラ4prに弾性体部6を兼用させた場合、伝達ローラ4pr…を金属素材Mmにより形成し、かつ弾性体部6を、伝達ピン本体4pmと当該伝達ローラ4pr間に介在させる円筒形のカラー部材6aにより構成した場合、伝達ローラ4prを金属素材により形成し、かつ弾性体部6を、伝達ローラ4prと係合孔7sh間に介在させる円筒形のカラー部材6bにより構成した場合を例示したが、これらは、それぞれ単独で構成してもよいし、或いは、二又は三つの構成を任意に組合わせて構成してもよい。