JP7293073B2 - ホイロ発酵済みパン用冷凍生地の製造方法及びパン類の製造方法 - Google Patents
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Description
パン業界においても、製造工程の合理化や人手不足に対する対応等の観点から、冷凍生地や冷凍パンの需要が増大している。しかしながら、冷凍生地及び冷凍パンについては、製パン業界各社による技術開発が行われているものの、手軽さと美味しさとを両立させる観点では未だ改善の余地が大きい。例えば、製パンに冷凍生地を用いる場合であっても、質の高いパンを製造するには、生地の見極めや成形などの技術や経験が必要であり、相応の製パン技術と手間を必要とする。
またホイロ発酵後に冷凍した冷凍生地も提案されている。ホイロ発酵済みの冷凍生地であれば、焼きあがったパンを得るための手間が少なくて済み、また熟練したパン技術者が不要となる等の利点がある。そのため、本出願人も、ホイロ済み冷凍生地を使用する製パン方法及び該ホイロ済み冷凍生地の製造方法を提案している(特許文献1)。
本発明のパン類の製造方法によれば、上記のホイロ発酵済パン用冷凍生地を用いることにより、製パンに必要な手間や熟練度を抑制して、ボリューム及び食感に優れたパン類を容易に製造することができる。
本明細書においてボリュームとは、焼きあがったパン類の体積の大きさであり、ボリュームに優れるとは、焼きあがったパン類が大きな体積を有することを意味する。
本発明のホイロ発酵済みパン用冷凍生地の製造方法(以下「本発明の冷凍生地の製法」ともいう)においては、製パン原料の主原料として、パン用小麦粉を主体とする穀粉類を用いる。
上記パン用小麦粉としては、一般的に強力粉が用いられる。強力粉は、小麦蛋白の含有量が11.5~16.0質量%であり、好ましくは11.5~15.0質量%である。パン用小麦粉としては、強力粉を単独で用いてもよいし、強力粉と、デュラム小麦粉、中力粉、薄力粉等の他の小麦粉とを併用してもよい。パン用小麦粉として、強力粉と他の小麦粉とを併用する場合、それらの総量中の小麦蛋白の含有量が、6.0~16.0質量%であることが好ましく、8.0~14.0質量%であることがより好ましい。
パン用小麦粉と併用する他の穀粉類としては、例えば、米粉、大麦粉、モチ大麦粉、そば粉、大豆粉、コーンフラワー、オーツ麦粉、ライ麦粉等が挙げられ、これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。パン用小麦粉と併用する澱粉としては、例えば、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、小麦澱粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、米澱粉などの未加工澱粉、及び前記の各未加工澱粉に、エーテル化、エステル化、アセチル化、架橋処理、酸化処理等の処理を施したもの等の各種加工澱粉等が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
パン用小麦粉を主体とする穀粉類に対して、活性グルテン、グリアジン、増粘剤をそれぞれ所定量配合するとともに、少なくともα―アミラーゼを含む酵素及び水を配合した生地からホイロ発酵済みの生地を得て、それを冷凍することにより、焼成により、ボリューム及び食感に優れるパンを容易に得ることのできるホイロ発酵済みパン用冷凍生地が得られる。
すなわち、活性グルテン及びグリアジンを併用し、活性グルテンを単独で配合した場合に比してグリアジンリッチな状態で水と混捏することにより、グルテンが形成する網目構造が伸びやすい性質のものとなり、一次発酵、ホイロ発酵の際に、生地が、イーストによる発酵により生じるガスを微細でかつ均一な気泡として生地中に効率よく取り込みながら膨張し、その気泡構造を形成する。しかも、特定量の増粘剤の配合によって、その生地中の気泡構造が、ホイロ発酵後とその後の冷凍・解凍工程においても比較的良好に維持され、焼成時に生地中の気泡が膨張し、ボリュームに優れるパン類が得られる。また、増粘剤の効果によって、冷凍保存期間中、氷結晶生成による生地の損傷も抑制することができる。更に、α―アミラーゼを含む酵素の配合により、生地の伸展性が向上し、製造されるパン類の外観も向上する。このような作用の相乗的な作用により、ボリューム及び食感に優れるパン類を焼成可能な冷凍生地が得られる。
本発明において活性グルテンは、パン用小麦粉を主体とする穀粉類100質量部に対し、0.2~3質量部配合し、好ましくは0.3~2.5質量部配合する。0.2質量部未満であると、焼成されるパン類のボリューム及び食感の向上効果が得られにくくなり、3質量部以上であると、生地の伸展性が劣り、焼成されるパンのボリューム及び食感の向上効果が得られにくくなる。
本発明においてグリアジンは、パン用小麦粉を主体とする穀粉類100質量部に対し、0.2~3質量部配合し、好ましくは0.3~2.5質量部配合する。0.2質量部未満であると、焼成されるパン類のボリューム及び食感の向上効果が得られにくくなり、3質量部以上であると、生地の緩みが大きくなり、焼成されるパンのボリューム及び食感の向上効果が得られにくくなる。
使用される増粘剤のうち、ペクチンを50質量%以上含むことが好ましく、より好ましく70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上、なお好ましくは95質量%以上である。
本発明において増粘剤は、パン用小麦粉を主体とする穀粉類100質量部に対し、0.2~3質量部配合し、好ましくは0.3~2.5質量部配合する。0.2質量部以上とすることにより、ボリューム及び食感に優れたパン類が得られやすくなり、3質量部以下とすることにより、生地の締まりを抑制し、製パン工程における生地の損傷を抑制することができる。
少なくともα―アミラーゼを含む酵素とは、酵素として、少なくともα―アミラーゼを配合することを意味する。
例えば、α―アミラーゼとともにキシラナーゼを酵素として添加してもよい。キシラナーゼとしては、市販の酵素製剤を使用することができる。キシラナーゼの使用量は、パン類用小麦粉を主体とする上記穀粉類100質量部に対し、1×10-5~2.0×10-4質量部配合することが好ましく、5.0×10-5~2.0×10-4質量部配合することがより好ましい。α―アミラーゼとして市販の酵素製剤を用いる場合、α―アミラーゼの使用量は、酵素製剤の使用量(質量)に、酵素製剤中のα―アミラーゼの含有割合を乗じて算出する。キシラナーゼ等の他の酵素も同様である。
本発明の方法(冷凍生地の製法及びパン類の製造方法)においては、従来の製パン方法に準じて、ホイロ発酵終了までの工程を行なうことができる。例えば、ストレート法の場合、製パン原料を混捏してパン生地を形成し、一次発酵を行った後、分割し、必要に応じて丸めを行い、さらに必要に応じてベンチタイムをとり、次いで、成形した後、ホイロ発酵(二次発酵)を行う。ストレート法の場合、例えば、上述したパン用小麦粉を主体とする穀粉類に、活性グルテン、グリアジン、増粘剤、α―アミラーゼを含む酵素の全てを添加混合し、さらに水及び所望により配合される他の副原料等を添加し混捏して、一次発酵を行うパン生地を得る。
中種法の場合、通常の手順に従って、原料粉の一部、イースト、水分、及び必要に応じて他の材料を混捏、発酵させて中種を調製する。この中種に残りの原料粉及び必要に応じて他の材料や水分を加え、通常の手順に従って混捏、一次発酵を行った後、分割・丸めを行い、さらに必要に応じてベンチタイムをとり、次いで、成形した後、ホイロ発酵(二次発酵)を行う。中種法の場合、グルテン、グリアジン、増粘剤は、中種に配合しても、本捏時に配合しても、分けて配合しても構わないが、本捏時に配合することが好ましい。
上記のホイロ発酵まで済んだパン類用生地を冷凍して冷凍生地とする。冷凍する際は各種の冷凍設備が用いられるが、好ましくは急速凍結を行う。
上記の各種製パンの手順(特にストレート法及び中種法)において、一次発酵前の生地の温度、一次発酵及びホイロ発酵それぞれの温度及び時間は、製造するパン類の種類等に応じて適宜調整され特に制限されないが、一次発酵前の生地の温度(捏上温度)は18~25℃が好ましく、その後の一次発酵は、23~28℃で10~40分間行うことが好ましく、ホイロ発酵は、27~35℃で30~90分間行うことが好ましい。また、ホイロ発酵は、相対湿度70~90%で行うことが好ましい。
強力粉:商品名「ミリオン」、日清製粉株式会社
ペクチン(シトラス):増粘剤、商品名「BIG-J」、三晶株式会社
ペクチン(シュガービート):増粘剤、商品名「BETA BI―J」、三晶株式会社
キサンタンガム:増粘剤、商品名「キサンタンガム」、日本コロイド株式会社
グリアジン:商品名「グリアA」、アサマ化成株式会社
活性グルテン:商品名「H-10」、小川製粉株式会社
酵素(α-アミラーゼ):商品名「スピターゼXP-404」、長瀬産業株式会社
セミドライイースト:商品名「サフ セミドライイースト ゴールド」、日仏商事株式会社
モルトシロップ:商品名「ユーロモルト」、日仏商事株式会社
乳化剤:商品名「MM-100」、理研ビタミン株式会社
表1の実施例1に示す選択原料と表2に示す共通原料とを表1及び表2に示す比率で配合したものをクロワッサン用生地配合とし、以下の製法により、クロワッサンを製造した。
強力粉に、水および折込油脂以外の配合原料を全て添加し、そこへ水を加えて低速で7分間、中高速で7分間混捏してクロワッサン用生地を形成した(捏上げ温度24℃)。
次に、得られたクロワッサン用生地を27℃で20分間一次発酵した後、大分割し、-10℃にて1時間冷蔵した。次いで、折込油脂50質量部を用いて3ッ折2回の折込を行った後、-10℃にて1時間冷蔵し、さらに3ッ折1回の折込を行った後、-10℃にて1時間冷蔵した。次いで、生地を60gずつにカッティングし、最終生地厚2.8mm、大きさ10cm×18cmとの生地とし、クロワッサン形に成形した。
次いで、ホイロ発酵(28℃、相対湿度80%)を80分間行った後、生地の表面に卵液を塗布し、-40℃にて30分間急速冷凍して、ホイロ発酵済みクロワッサン用冷凍生地を得た。
このホイロ発酵済みクロワッサン用冷凍生地を解凍せずにそのまま180~210℃の条件で焼成して、クロワッサンを得た。
実施例1に用いた選択原料に代えて、表1中の実施例2~7及び比較例1~6に示す選択材料を表1に示す比率で配合する以外は、実施例1と同様にしてクロワッサンを得た。
実施例1に用いた選択原料に代えて、表3中の実施例8~11及び比較例7,8に示す選択材料を表3に示す比率で配合する以外は、実施例1と同様にしてクロワッサンを得た。
〔ボリュームの評価基準〕
5点:対照例と比較してボリュームに非常に優れる。
4点:対照例と比較してボリュームにやや優れる。
3点:対照例と同程度である。
2点:対照例と比較してボリュームにやや劣る。
1点:対照例と比較してかなりボリュームに非常に劣る。
〔食感(クロワッサン)の評価基準〕
5点:非常にサクサクとして歯切れがよく、くちどけが良い
4点:サクサク感があり歯切れがよく、くちどけがやや良い
3点:ややサクサク感があり歯切れもややよく、くちどけが若干良い
2点:サクサク感がやや劣り、やや歯切れが悪く、くちどけがやや悪い
1点:サクサク感がなく、歯切れが悪く、くちどけが悪い
表4の実施例12に示す選択原料と表5に示す共通原料とを表4及び表5に示す比率で配合したものをハードロール用生地配合とし、以下の製法により、ハードロール(カイザーロール)を製造した。
強力粉に水以外の配合原料を添加混合し、そこへ水を加えて低速で4分間、次いで中速で4分間、中高速で5分間混捏してハードロール用生地を形成した(捏上げ温度24℃)。
次に、得られたハードロール用生地を27℃で30分間一次発酵した後、60gずつに分割し、27℃にて15分間のベンチタイムをとった。次いで成形した後、スタンプで切れ込みを入れ卵白液を塗布したのち、ホイロ発酵(32℃、相対湿度80%)を45分間行った。次いで、-40℃にて30分間急速冷凍して、ホイロ発酵済みハードロール用冷凍生地を得た。
このホイロ発酵済みハードロール用冷凍生地を解凍せずにそのまま180~210℃の条件で焼成してハードロール(カイザーロール)を得た。
実施例12に用いた選択原料に代えて、表4中の実施例13~16及び比較例9~11に示す選択材料を表4に示す比率で配合する以外は、実施例12と同様にしてハードロールを得た。
〔食感(ハードロール)の評価基準〕
5点:非常に歯切れがよく、くちどけが良い
4点:歯切れがよく、くちどけがやや良い
3点:やや歯切れが、くちどけが若干良い
2点:ややヒキがあり、くちどけがやや悪い
1点:ヒキが強く、くちどけが悪い
表6の実施例17に示す選択原料と表7に示す共通原料とを表6及び表7に示す比率で配合したものをベーグル用生地配合とし、以下の製法により、ベーグルを製造した。
強力粉に水以外の配合原料を全て添加し、そこへ水を加えて低速で7分間、中低速で10分間、中高速で3分間混捏してベーグル用生地を形成した(捏上げ温度24℃)。
次に、得られたベーグル用生地を温度27℃、湿度75%の環境下で30分間一時発酵させた後、カッターを用いて質量100gの生地に分割し、ベンチタイムを15分間とった後、その分割された複数個の生地をそれぞれリング状に成形し布取りした。次いで、このリング状の成形生地を温度27℃、湿度75%の環境下で30~60分間ホイロ発酵させ、ホイロ発酵済みベーグル用生地を得た。次いで、-40℃にて30分間急速冷凍して、ホイロ発酵済みベーグル用冷凍生地を得た。
このホイロ発酵済みベーグル用冷凍生地を解凍せずにそのまま180~210℃の条件で焼成してベーグルを得た。
実施例17に用いた選択原料に代えて、表6中の実施例18,19及び比較例12に示す選択材料を表6に示す比率で配合する以外は、実施例17と同様にしてベーグルを得た。
実施例17と同じ製法でホイロ発酵済みベーグル用生地を得た。
実施例20は、ホイロ発酵済みベーグル用冷凍生地を解凍せずにそのまま、スチームコンベクションオーブンを用いて、設定温度50℃のスチームモードで解凍した後、コンビネーションモード(オーブン機能とスチーム機能を組み合わせたモード)にて170~180℃の条件で焼成し、ベーグルを得た。
実施例21は、ホイロ発酵済みベーグル用冷凍生地を4℃設定の冷蔵庫にて12時間保管して解凍した後、180~210℃の条件で焼成してベーグルを得た。
〔食感(ベーグル)の評価基準〕
5点:非常に歯切れがよくモチモチしており、くちどけが良い
4点:歯切れがよくややモチモチしており、くちどけがやや良い
3点:やや歯切れがよく若干モチモチしており、くちどけが若干良い
2点:ややヒキがあり若干クチャつき、くちどけがやや悪い
1点:ヒキが強くクチャつき、くちどけが悪い
表8記載の中種原料(水を除く)を添加混合し、そこへ水を加えて低速で4分間、次いで中低速で2分間、混捏して中種生地を得た(捏上げ温度25℃)。これを27℃湿度75%で2時間発酵させ、中種を得た。
表8記載の本捏用原料(水を除く)を添加混合し、そこへ前記の中種と水を加えて低速で4分間、次いで中速で4分間、中高速で4分間混捏してハードロール用生地を形成した(捏上げ温度24℃)。また表8中に示す選択材料を、表8に示す比率となるように、本捏する前の穀粉中に配合した。
次に、得られたハードロール用生地を27℃で20分間一次発酵した後、60gずつに分割し、27℃にて15分間のベンチタイムをとった。次いで成形した後、スタンプで切れ込みを入れ卵白液を塗布したのち、ホイロ発酵(32℃、相対湿度80%)を40分間行った。次いで、-40℃にて30分間急速冷凍して、ホイロ発酵済みハードロール用冷凍生地を得た。
このホイロ発酵済みハードロール用冷凍生地を解凍せずにそのまま180~210℃の条件で焼成してハードロールを得た。
これらの結果から、本願発明によれば、グリアジン、活性グルテン及び増粘剤をそれぞれ特定の配合割合で用いること等によって、ボリューム及び食感に優れたパン類を焼成することができることが判る。なお、比較例1において、アミラーゼも配合しない場合は、比較例1に比してボリューム及び食感が劣るものとなり、またクラックも生まれやすく、外観も劣るものとなった。
更に表3に示す結果から、活性グルテンとグリアジンの配合比(質量比)を1:0.2~5とすることが、ボリューム及び食感の一層の向上観点から好ましいことが判る。
更に表4,6及び8に示す結果から、パン類の種類やホイロ発酵済み生地の製造方法によらずに、本発明の効果が得られることが判る。
上記の各試験は、小麦粉として強力粉を用いて実施したが、中力粉、薄力粉などの他の小麦粉を用いた場合も同様の傾向が確認された。
Claims (4)
- パン用小麦粉を主体とする穀粉類100質量部に対し、活性グルテンを0.2~3質量部、グリアジンを0.2~3質量部、増粘剤を0.2~3質量部配合し、且つ少なくともα―アミラーゼを含む酵素を配合して得られるホイロ発酵後の生地を冷凍することを特徴とし、
前記活性グルテンと前記グリアジンの配合比が質量比で1:0.2~5であることを特徴とする、ホイロ発酵済みパン用冷凍生地の製造方法。 - 前記増粘剤として少なくともペクチンを用いることを特徴とする、請求項1に記載のホイロ発酵済みパン用冷凍生地の製造方法。
- 前記ペクチンが柑橘類由来のペクチンである、請求項2に記載のホイロ発酵済みパン用冷凍生地の製造方法。
- 請求項1~3の何れか1項に記載の方法で製造されたホイロ発酵済みパン用冷凍生地をそのまま焼成することを特徴とする、パン類の製造方法。
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