本発明は、現有技術の欠陥に鑑みて、スパッタリングターゲットの曲げ強さを向上させると共に、その後のスパッタ工程においての異常放電の発生頻度を低減させ、微粒子降下の問題を緩和させ、更に、スパッタで形成された磁気記録層の品質及び歩留まりを向上させることを目的とするものである。
前記目的を達成するために、本発明は、鉄、白金及び窒化ホウ素を含む鉄-白金系スパッタリングターゲットであって、前記鉄-白金系スパッタリングターゲット全体の原子の合計量に基づき、前記窒化ホウ素の含有量を0at%超え50at%以下とし、前記鉄-白金系スパッタリングターゲットの金相には複数の黒色相を含み、それらの黒色相の平均サイズが3μm未満であり、且つ金相における、それらの黒色相の分散均一度が5×10-4未満であり、前記分散均一度は、下記計算式により算出されたものである鉄-白金系スパッタリングターゲットを提供する。
(金相における黒色相の総面積/金相の全体面積)/金相における黒色相の総個数
本発明によると、鉄-白金系スパッタリングターゲット中の窒化ホウ素の含有量、黒色相の平均サイズの範囲及び黒色相の分散均一度の範囲を制御することにより、鉄-白金系スパッタリングターゲットの相組成の分散において良好な均一性を持たせることができ、更に、鉄-白金系スパッタリングターゲットの曲げ強さを効果的に向上させると共に、その後のスパッタ工程においての異常放電の発生頻度を低減でき、微粒子降下の問題も緩和できる。
本発明によると、各黒色相のサイズとは、金相における各黒色相が、それぞれの中心点を通過する最大の長さを指し、また、それらの平均値は、黒色相の平均サイズである。
本発明によると、前記黒色相の分散均一度は、金相において、スパッタリングターゲット総面積に対して平均的に単一の黒色相が占める割合を表す。例えば、金相における黒色相の総面積及び金相の全体面積が一定である場合、黒色相の総個数が多いほど、金相において、黒色相毎に占める面積の割合が小さいことを表すことから、黒色相毎が金相に均一的に分散されることを表し、言い換えると、黒色相の分散均一度の数値が小さいほど、金相において、黒色相が均一的に分散していることを表す。
本発明によると、前記窒化ホウ素は、六方晶窒化ホウ素(h-BN)、立方晶窒化ホウ素(c-BN)、最密充填六方晶窒化ホウ素(w-BN)又はその組み合わせであってもよいが、それらに限定されるものではない。
窒化ホウ素の含有量は、前記鉄-白金系スパッタリングターゲット全体の原子の合計量に基づき、3at%以上30at%以下とすることが好ましく、前記鉄-白金系スパッタリングターゲット全体の原子の合計量に基づき、5at%以上25at%以下とすることがより好ましい。尚、窒化ホウ素の含有量を更に所定の範囲に制御することにより、前記鉄-白金系スパッタリングターゲットでスパッタして形成された膜層に好ましい磁気特性を持たせることができる。
白金の含有量は、前記鉄-白金系スパッタリングターゲット全体の原子の合計量に基づき、10at%以上45at%以下とすることが好ましい。
鉄の含有量は、前記鉄-白金系スパッタリングターゲット全体の原子の合計量に基づき、5at%以上84at%以下とすることが好ましい。
一部の実施形態において、前記鉄-白金系スパッタリングターゲットは、第一の成分を更に含み、前記第一の成分は、酸化物、カーバイド、窒化物及びその組み合わせからなる群から選択されるものであり、前記第一の成分の含有量は、前記鉄-白金系スパッタリングターゲット全体の原子の合計量に基づき、0at%超え50at%以下とし、且つ窒化ホウ素及び前記第一の成分の含有量の合計は6at%以上50at%以下とする。前記第一の成分の含有量は、前記鉄-白金系スパッタリングターゲット全体の原子の合計量に基づき、5at%以上35at%以下とし、且つ窒化ホウ素及び前記第一の成分の含有量の合計は、6at%以上50at%以下とすることが好ましい。
一部の実施形態において、前記鉄-白金系スパッタリングターゲットは、炭素(C)を更に含み、炭素の含有量は、前記鉄-白金系スパッタリングターゲット全体の原子の合計量に基づき、2at%以上40at%以下とする。
一部の実施形態において、鉄-白金系スパッタリングターゲットの金相における黒色相成分は、窒化ホウ素を含み、他の実施形態では、前記鉄-白金系スパッタリングターゲットの金相における黒色相成分は、窒化ホウ素及び第一の成分を含み、更に他の実施形態では、前記鉄-白金系スパッタリングターゲットの金相における黒色相成分は、窒化ホウ素及び炭素を含み、更に他の実施形態では、前記鉄-白金系スパッタリングターゲットの金相における黒色相成分は、窒化ホウ素、第一の成分及び炭素を含む。
前記酸化物は、二酸化ケイ素(SiO2)、二酸化チタン(TiO2)、酸化クロム(III)(Cr2O3)、五酸化タンタル(Ta2O5)、酸化コバルト(CoO)、酸化マンガン(III)(Mn2O3)、三酸化ホウ素(B2O3)、酸化ハフニウム(HfO2)、酸化マグネシウム(MgO)、アルミナ(Al2O3)、二酸化ジルコニウム(ZrO2)、五酸化ニオブ(Nb2O5)、五酸化バナジウム(V2O5)、三酸化タングステン(WO3)、酸化第二鉄(Fe2O3)、酸化亜鉛(ZnO)又はその組み合わせであることが好ましいが、それらに限定されるものではない。
前記窒化物は、窒化アルミニウム(AlN)、窒化チタン(TiN)、窒化クロム(CrN)、窒化ジルコニウム(ZrN)、窒化タンタル(TaN)、窒化ハフニウム(HfN)、窒化ケイ素(Si3N4)、炭窒化チタン(TiCN)、窒化タングステン(WN)又はその組み合わせであることが好ましいが、それらに限定されるものではない。本明細書での窒化物は、鉄-白金系スパッタリングターゲット中の必要成分である「窒化ホウ素」を除く、即ち、前記「窒化ホウ素及び前記第一の成分の含有量の合計は6at%以上50at%以下とする」とは、第一の成分(例えば、前記挙げられた窒化アルミニウム)及び窒化ホウ素の含有量の合計が6at%以上50at%以下であることを指すと理解できる。
前記カーバイドは、炭化ケイ素(SiC)、炭化ホウ素(B4C)、炭化チタン(TiC)、炭化タングステン(WC)、炭化タンタル(TaC)、炭化ハフニウム(HfC)、炭化ジルコニウム(ZrC)、炭化バナジウム(VC)、炭化ニオビウム(NbC)、炭化クロム(Cr3C2)又はその組み合わせであることが好ましいが、それらに限定されるものではない。
他の実施形態において、前記鉄-白金系スパッタリングターゲットは、第二の成分を更に含み、前記第二の成分は、銀(Ag)、金(Au)、ゲルマニウム(Ge)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)、マンガン(Mn)、ケイ素(Si)、ストロンチウム(Sr)及びその組み合わせからなる群から選択されるものであり、前記第二の成分の含有量は、前記鉄-白金系スパッタリングターゲット全体の原子の合計量に基づき、2at%以上40at%以下とし、前記第二の成分の含有量は、2at%以上20at%以下とすることが好ましく、前記第二の成分の含有量は、2at%以上10at%以下とすることがより好ましい。尚、鉄-白金系スパッタリングターゲットに前記第二の成分を添加することにより、鉄-白金系スパッタリングターゲットの緻密程度を更に向上させることができる。
更に他の実施形態において、前記鉄-白金系スパッタリングターゲットは、前記第二の成分及び炭素を更に含み、前記第二の成分の含有量は、前記鉄-白金系スパッタリングターゲット全体の原子の合計量に基づき、2at%以上40at%以下とし、炭素の含有量は2at%以上10at%以下とする。
更に他の実施形態において、前記鉄-白金系スパッタリングターゲットは、前記第一の成分及び前記第二の成分を更に含み、前記第一の成分の含有量は、前記鉄-白金系スパッタリングターゲット全体の原子の合計量に基づき、0at%超え50at%以下とし、且つ前記第一の成分及び窒化ホウ素の含有量の合計は6at%以上50at%以下とし、前記第二の成分の含有量は2at%以上40at%以下とする。
更に他の実施形態では、前記鉄-白金系スパッタリングターゲットは、前記第一の成分、前記第二の成分及び炭素を更に含み、前記第一の成分の含有量は、前記鉄-白金系スパッタリングターゲット全体の原子の合計量に基づき、0at%超え50at%以下であり、且つ前記第一の成分及び窒化ホウ素の含有量の合計は6at%以上50at%以下であり、前記第二の成分の含有量は2at%以上40at%以下であり、炭素の含有量は2at%以上10at%以下である。
本発明の第一の実施態様では、前記鉄-白金系スパッタリングターゲットは、鉄、白金及び窒化ホウ素を含み、この実施態様では、窒化ホウ素の含有量を0.1at%以上50at%以下とする。本発明の第二の実施態様では、前記鉄-白金系スパッタリングターゲットは、鉄、白金、窒化ホウ素及び炭素を含み、この実施態様では、窒化ホウ素の含有量を1at%以上30at%以下とし、炭素の含有量を1at%以上40at%以下とし、より具体的に述べると、前記炭素の含有量を2at%以上40at%以下とする。本発明の第三の実施態様では、前記鉄-白金系スパッタリングターゲットは、鉄、白金、窒化ホウ素及び前記第一の成分を含み、この実施態様では、窒化ホウ素の含有量を1at%以上50at%以下とし、前記第一の成分の含有量を4at%以上30at%以下とする。本発明の第四の実施態様では、前記鉄-白金系スパッタリングターゲットは、鉄、白金、窒化ホウ素及び前記第二の成分を含み、この実施態様では、窒化ホウ素の含有量を10at%以上50at%以下とし、前記第二の成分の含有量を1at%以上20at%以下とし、より具体的に述べると、前記第二の成分の含有量を2at%以上20at%以下とする。本発明の第五の実施態様では、前記鉄-白金系スパッタリングターゲットは、鉄、白金、窒化ホウ素、前記第一の成分及び前記第二の成分を含み、この実施態様では、窒化ホウ素の含有量を2at%以上30at%以下とし、前記第一の成分の含有量を5at%以上30at%以下とし、前記第二の成分の含有量を5at%以上50at%以下とし、より具体的に述べると、前記第二の成分の含有量を5at%以上40at%以下とする。本発明の第六の実施態様では、前記鉄-白金系スパッタリングターゲットは、鉄、白金、窒化ホウ素、前記第一の成分及び炭素を含み、この実施態様では、窒化ホウ素の含有量を1at%以上20at%以下とし、前記第一の成分の含有量を10at%以上50at%以下とし、炭素の含有量を2at%以上20at%以下とする。本発明の第七の実施態様では、前記鉄-白金系スパッタリングターゲットは、鉄、白金、窒化ホウ素、前記第二の成分及び炭素を含み、この実施態様では、窒化ホウ素の含有量を1at%以上30at%以下とし、前記第二の成分の含有量を1at%以上20at%以下とし、より具体的に述べると、前記第二の成分の含有量を2at%以上20at%以下とし、炭素の含有量を5at%以上40at%以下とする。本発明の第八の実施態様では、前記鉄-白金系スパッタリングターゲットは、鉄、白金、窒化ホウ素、前記第一の成分、前記第二の成分及び炭素を含み、この実施態様では、窒化ホウ素の含有量を1at%以上30at%以下とし、前記第一の成分の含有量を5at%以上50at%以下とし、より具体的に述べると、前記第一の成分の含有量を5at%以上40at%以下とし、前記第二の成分の含有量を2at%以上20at%以下とし、炭素の含有量を2at%以上15at%以下とする。尚、前記第一、第三、第四、第五の実施態様において、前記鉄-白金系スパッタリングターゲットは、炭素を含まなくてもよい。
前記鉄-白金系スパッタリングターゲットが持つ曲げ強さは、700MPa以上であることが好ましく、前記鉄-白金系スパッタリングターゲットが持つ曲げ強さは、700MPa以上1600MPa以下であることがより好ましい。
また、本発明は更に、鉄-白金系スパッタリングターゲットの製造方法を提供しており、当該鉄-白金系スパッタリングターゲットの製造方法は、鉄原料、白金原料、及び平均粒子径が5μm未満の窒化ホウ素原料を混合して、原料混合物を得る工程(a)と、前記原料混合物を4時間~12時間研磨してから、800メッシュ~1200メッシュの篩で篩分し、更に、篩上物に対して前記研磨及び篩分工程を繰り返し、鉄-白金系混合原料を得る工程(b)と、前記鉄-白金系混合原料を焼結して、鉄-白金系スパッタリングターゲットを得る工程(c)とを含み、前記鉄-白金系混合原料全体の原子の合計量に基づき、前記窒化ホウ素原料の添加量を0at%超え50at%以下とし、前記鉄-白金系スパッタリングターゲットの金相は複数の黒色相を含み、それらの黒色相の平均サイズは3μm未満であり、且つ下記計算式により算出された、それらの黒色相の分散均一度は5×10-4未満である。
(金相における黒色相の総面積/金相の全体面積)/金相における黒色相の総個数
鉄-白金系混合原料における窒化ホウ素原料の平均粒子径の大きさ及び含有量の範囲を制御すると同時に、篩分に係る技術手段により、その後の鉄-白金系スパッタリングターゲットの形成時に、所定の平均サイズの範囲及び所定の分散均一度の範囲を有する黒色相が得られ、また、この方法によれば、得られた鉄-白金系スパッタリングターゲットは好ましい曲げ強さを有し、且つその後のスパッタ工程で異常放電の発生頻度を低減でき、微粒子降下の問題も緩和できる。
本発明によると、工程(a)における混合工程では、原料を均一に混合するあらゆる方式を用いることができ、例えば、前記混合工程では、原料をミキサーに投入して原料を均一に混合することができるが、これに限定されない。
本発明によると、工程(a)における混合工程が完成した後に、還元工程を更に行うことができる。尚、前記還元工程は、酸化された原料を還元できるものであれば、如何なる手段であってもよい。例えば、前記還元工程は、水素還元法、真空還元法、炭素還元法又は亜鉛還元法であってもよいが、それらに限定されない。また、前記還元工程は、水素還元法であることが好ましい。
本発明によると、工程(b)で前記鉄-白金系混合原料を得た後、予圧工程を更に行うことができる。尚、前記予圧工程は、前記鉄-白金系混合原料を所定の形状にプレスできるものであれば、如何なる手段であってもよい。例えば、前記予圧工程は、前記鉄-白金系混合原料を油圧プレスに投入し、且つ約250psi~350psiの圧力で予圧を行うものであってもよいが、これに限定されない。
白金原料の添加量は、前記鉄-白金系混合原料全体の原子の合計量に基づき、10at%以上45at%以下とすることが好ましい。
窒化ホウ素原料の添加量は、前記鉄-白金系混合原料全体の原子の合計量に基づき、3at%以上30at%以下とすることが好ましく、窒化ホウ素原料の添加量は、前記鉄-白金系混合原料全体の原子の合計量に基づき、5at%以上25at%以下とすることがより好ましい。
鉄原料の添加量は、前記鉄-白金系混合原料全体の原子の合計量に基づき、5at%以上84at%以下とすることが好ましい。
工程(b)においては、前記研磨及び篩分の工程を、少なくとも三回以上繰り返して、前記鉄-白金系混合原料を得ることが好ましい。具体的には、前記繰り返す工程とは、前記原料混合物を研磨、篩分の工程を経ってから、篩上物に対して再び同じ条件で研磨及び篩分を行うことを指す。
一部の実施形態では、前記鉄-白金系混合原料が第一の成分を更に含み、前記第一の成分は、酸化物原料、カーバイド原料、窒化物原料及びその組み合わせからなる群から選択されるものであり、前記鉄-白金系混合原料全体の原子の合計量に基づき、前記第一の成分の添加量を0at%超え50at%以下とし、且つ前記第一の成分及び窒化ホウ素原料の添加量の合計を6at%以上50at%以下とする。更に、前記鉄-白金系混合原料全体の原子の合計量に基づき、前記第一の成分の添加量を5at%以上35at%以下とし、前記第一の成分及び窒化ホウ素原料の添加量の合計を6at%以上50at%以下とすることが好ましい。
一部の実施形態では、前記鉄-白金系混合原料が炭素原料を更に含み、前記鉄-白金系混合原料全体の原子の合計量に基づき、炭素原料の添加量を2at%以上40at%以下とする。
他の実施形態では、前記鉄-白金系混合原料が第二の成分を更に含み、前記第二の成分は、銀原料、金原料、ゲルマニウム原料、銅原料、ニッケル原料、コバルト原料、アルミニウム原料、マグネシウム原料、マンガン原料、ケイ素原料、ストロンチウム原料及びその組み合わせからなる群から選択されるものであり、前記鉄-白金系混合原料全体の原子の合計量に基づき、前記第二の成分の添加量を2at%以上40at%以下とする。
工程(c)では、焼結温度が600℃~1200℃であり、焼結圧力は350bar~1800barであることが好ましい。また、一つの実施態様で、工程(c)においては、焼結時間が5分~4時間であってもよい。更に、工程(c)においては、焼結温度が700℃~1100℃であり、焼結圧力が380bar~1750barであることがより好ましい。尚、一つの実施態様で、工程(c)においては、、焼結時間が3時間であってもよい。
本発明によると、前記焼結工程は、ホットプレス成形法(hot pressing、HP)、熱間静水圧プレス成形法(hot isostatic pressing、HIP)、又は放電プラズマ焼結法(spark plasma sintering、SPS)であってもよい。例えば、焼結工程としてHPを採用した場合、その焼結温度は800℃~1100℃であってもよく、焼結圧力は350bar~400barであってもよく、焼結時間は2時間~4時間であってもよいが、これに限定されない。一方、焼結工程としてHIPを採用した場合、その焼結温度は800℃~1100℃であってもよく、焼結圧力は1700bar~1800barであってもよく、焼結時間は2時間~4時間であってもよいが、これに限定されない。更に、焼結工程としてSPSを採用した場合、その焼結温度は700℃~1100℃であってもよく、焼結圧力は450bar~550barであってもよく、焼結時間は5分間~1時間であってもよいが、これに限定されない。
鉄-白金系スパッタリングターゲットに対する、窒化ホウ素の含有量、金相における黒色相の平均サイズ及び金相における黒色相の分散均一度による影響を実証するために、以下では、例として複数種の鉄-白金系スパッタリングターゲットを挙げることにより、本発明の実施方式を詳しく説明する。それによると、当業者であれば、本明細書の内容から、本発明により達成できるメリット及び効果を容易に理解でき、且つ本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の修正や変更を行うことにより、本発明の内容を実施や適用できる。
実施例1~5:鉄-白金系スパッタリングターゲット
下記表1に記載の鉄-白金系スパッタリングターゲットの組成に従い、平均粒子径が100μm未満の鉄粉末、平均粒子径が20μm未満の白金粉末及び平均粒子径が5μm未満の窒化ホウ素粉末を適量秤量し、ミキサーに投入して混合してから、混合された粉末を水素還元法により還元し、続いて、還元された混合粉末をハイスピード研磨機に投入して4時間~12時間研磨し、更に、800メッシュ~1200メッシュの篩で篩分し、篩上物に対して前記研磨及び篩分工程を三回繰り返して、前記鉄-白金系混合粉末を得た。
続いて、前記鉄-白金系混合粉末を油圧プレスに投入して約300psiの圧力で予圧を行ってから、下記表1に記載の焼結工程及び焼結温度にて焼結を行うことにより、実施例1~5の鉄-白金系スパッタリングターゲットを得る。そのうち、焼結工程としてHPを採用した場合、その焼結圧力は約380barであり、焼結時間は3時間であり、一方、焼結工程としてSPSを採用した場合、その焼結圧力は約500barであり、焼結時間は10分である。
下記表1に示すように、実施例1~5の鉄-白金系スパッタリングターゲットの組成は、aFe-bPt-cBNとの一般式で表され、そのうち、aは、鉄-白金系スパッタリングターゲットの原子の合計量に対する鉄の含有量の割合を表し、bは、鉄-白金系スパッタリングターゲットの原子の合計量に対する白金の含有量の割合を表し、cは、鉄-白金系スパッタリングターゲットの原子の合計量に対する窒化ホウ素の含有量の割合を表す。
実施例6~7:鉄-白金系スパッタリングターゲット(炭素を含む)
実施例6~7と実施例1~5の製作工程は類似しており、即ち、異なる成分の粉末を適量秤量し、混合、還元、研磨篩分、予圧及び焼結等の工程を行って、実施例6~7の鉄-白金系スパッタリングターゲットを得た。また、下記表1には、実施例6~7で採用した焼結工程及び焼結温度が記載されており、そのうち、焼結工程としてHPを採用した場合、その焼結圧力は約380barであり、焼結時間は3時間であり、また、焼結工程としてSPSを採用した場合、その焼結圧力は約500barであり、焼結時間は10分間である。
実施例6~7における、実施例1~5との相違点は、下記表1に記載の鉄-白金系スパッタリングターゲットの組成に従い、平均粒子径が100μm未満の鉄粉末、平均粒子径が20μm未満の白金粉末、平均粒子径が5μm未満の窒化ホウ素粉末及び平均粒子径が10μm未満の炭素粉末を適量秤量し、ミキサーに投入して混合することである。
下記表1に示すように、実施例6~7の鉄-白金系スパッタリングターゲットの組成は、aFe-bPt-cBN-d1Cとの一般式で表され、そのうち、a、b及びcはそれぞれ、前記のように、鉄-白金系スパッタリングターゲットの原子の合計量に対する、鉄、白金及び窒化ホウ素の含有量の割合を表し、また、d1は、鉄-白金系スパッタリングターゲットの原子の合計量に対する炭素の含有量の割合を表す。
実施例8~13:鉄-白金系スパッタリングターゲット(第一の成分を含む)
実施例8~13と実施例1~5の製作工程は類似しており、即ち、異なる成分の粉末を適量秤量し、混合、還元、研磨篩分、予圧及び焼結等の工程を行って、実施例8~13の鉄-白金系スパッタリングターゲットを得た。また、下記表1には、実施例8~13で採用した焼結工程及び焼結温度が記載されており、そのうち、焼結工程としてHPを採用した場合、その焼結圧力は約380barであり、焼結時間は3時間であり、一方、焼結工程としてSPSを採用した場合、その焼結圧力は約500barであり、焼結時間は10分であり、更に、焼結工程としてHIPを採用した場合、その焼結圧力は約1750barであり、焼結時間は3時間である。
実施例8~13における、実施例1~5との相違点は、下記表1に記載の鉄-白金系スパッタリングターゲットの組成に従い、平均粒子径が100μm未満の鉄粉末、平均粒子径が20μm未満の白金粉末、平均粒子径が5μm未満の窒化ホウ素粉末及び平均粒子径が10μm未満の第一の成分を適量秤量し、ミキサーに投入して混合することである。尚、前記第一の成分は、炭化ホウ素粉末、二酸化ケイ素粉末、窒化アルミニウム粉末、二酸化チタン粉末、炭化タンタル粉末、五酸化タンタル粉末、窒化チタン粉末、炭化クロム粉末又はその組み合わせであってもよい。
下記表1に示すように、実施例8~13の鉄-白金系スパッタリングターゲットの組成は、aFe-bPt-cBN-d2B4C-d3SiO2-d4AlN-d5TiO2-d6TaC-d7Ta2O5-d8TiN-d9Cr3C2との一般式で表され、そのうち、a、b及びcはそれぞれ、前記のように、鉄-白金系スパッタリングターゲットの原子の合計量に対する、鉄、白金及び窒化ホウ素の含有量の割合を表し、また、d2、d3、d4、d5、d6、d7、d8、d9はそれぞれ、鉄-白金系スパッタリングターゲットの原子の合計量に対する、炭化ホウ素、二酸化ケイ素、窒化アルミニウム、二酸化チタン、炭化タンタル、五酸化タンタル、窒化チタン及び炭化クロムの含有量の割合を表す。
本明細書において、前記「窒化ホウ素及び前記第一の成分の含有量の合計」とは、c、d2、d3、d4、d5、d6、d7、d8、d9の合計を指す。
実施例14:鉄-白金系スパッタリングターゲット(第二の成分を含む)
実施例14と実施例1~5の製作工程は類似しており、即ち、異なる成分の粉末を適量秤量し、混合、還元、研磨篩分、予圧及び焼結等の工程を行って、実施例14の鉄-白金系スパッタリングターゲットを得た。また、下記表1には、実施例14で採用した焼結工程及び焼結温度が記載されており、そのうち、実施例14の焼結工程としてHPを採用し、その焼結圧力は約380barであり、焼結時間は3時間である。
実施例14における、実施例1~5との相違点は、下記表1に記載の鉄-白金系スパッタリングターゲットの組成に従い、平均粒子径が100μm未満の鉄粉末、平均粒子径が20μm未満の白金粉末、平均粒子径が5μm未満の窒化ホウ素粉末及び平均粒子径が20μm未満の第二の成分を適量秤量し、ミキサーに投入して混合することである。尚、ここでの第二の成分とは銀粉末である。
下記表1に示すように、実施例14の鉄-白金系スパッタリングターゲットの組成は、aFe-bPt-cBN-e1Agとの一般式で表され、そのうち、a、b及びcはそれぞれ、前記のように、鉄-白金系スパッタリングターゲットの原子の合計量に対する、鉄、白金及び窒化ホウ素の含有量の割合を表し、また、e1は、鉄-白金系スパッタリングターゲットの原子の合計量に対する銀の含有量の割合を表す。
実施例15~25:鉄-白金系スパッタリングターゲット(第一の成分及び第二の成分を含む)
実施例15~25と実施例1~5の製作工程は類似しており、即ち、異なる成分の粉末を適量秤量し、混合、還元、研磨篩分、予圧及び焼結等の工程を行って、実施例15~25の鉄-白金系スパッタリングターゲットを得た。また、下記表1には、実施例15~25で採用した焼結工程及び焼結温度が記載されており、そのうち、焼結工程としてHPを採用した場合、その焼結圧力は約380barであり、焼結時間は3時間であり、また、焼結工程としてSPSを採用した場合、その焼結圧力は約500barであり、焼結時間は10分間であり、一方、焼結工程としてHIPを採用した場合、その焼結圧力は約1750barであり、焼結時間は3時間である。
実施例15~25における、実施例1~5との相違点は、下記表1に記載の鉄-白金系スパッタリングターゲットの組成に従い、平均粒子径が100μm未満の鉄粉末、平均粒子径が20μm未満の白金粉末、平均粒子径が5μm未満の窒化ホウ素粉末、平均粒子径が20μm未満の第一の成分及び平均粒子径が20μm未満の第二の成分を適量秤量し、ミキサーに投入して混合することである。尚、ここでの第一の成分は、炭化ケイ素粉末、酸化クロム(III)粉末、酸化コバルト粉末、窒化アルミニウム粉末、酸化マグネシウム粉末、酸化マンガン(III)粉末、二酸化ケイ素粉末、二酸化チタン粉末、アルミナ粉末、窒化チタン粉末、三酸化ホウ素粉末、酸化ハフニウム粉末又はその組み合わせであってもよく、前記第二の成分は、銀粉末、銅粉末、マグネシウム粉末、マンガン粉末、コバルト粉末、ゲルマニウム粉末、アルミニウム粉末、ニッケル粉末、ケイ素粉末、ストロンチウム粉末、金粉末又はその組み合わせであってもよい。
また、下記表1に記載の実施例15、16、20及び23の鉄-白金系スパッタリングターゲットの組成によると、前記工程においては、平均粒子径が20μm未満の炭素粉末を適量秤量し、前記粉末と共にミキサーに投入して混合してもよい。
下記表1に示すように、実施例15~25の鉄-白金系スパッタリングターゲットの組成は、aFe-bPt-cBN-d1C-d3SiO2-d4AlN-d5TiO2-d8TiN-d10SiC-d11Cr2O3-d12CoO-d13MgO-d14Mn2O3-d15Al2O3-d16B2O3-d17HfO2-e1Ag-e2Cu-e3Mg-e4Mn-e5Co-e6Ge-e7Al-e8Ni-e9Si-e10Sr-e11Auとの一般式で表され、そのうち、a、b及びcはそれぞれ、前記のように、鉄-白金系スパッタリングターゲットの原子の合計量に対する、鉄、白金及び窒化ホウ素の含有量の割合を表し、また、d1、d3、d4、d5、d8、d10、d11、d12、d13、d14、d15、d16、d17はそれぞれ、鉄-白金系スパッタリングターゲットの原子の合計量に対する、炭素、二酸化ケイ素、窒化アルミニウム、二酸化チタン、窒化チタン、炭化ケイ素、酸化クロム(III)、酸化コバルト、酸化マグネシウム、酸化マンガン(III)、アルミナ、三酸化ホウ素及び酸化ハフニウムの含有量の割合を表し、一方、e1、e2、e3、e4、e5、e6、e7、e8、e9、e10、e11はそれぞれ、鉄-白金系スパッタリングターゲットの原子の合計量に対する、銀、銅、マグネシウム、マンガン、コバルト、ゲルマニウム、アルミニウム、ニッケル、ケイ素、ストロンチウム及び金の含有量の割合を表す。
本明細書において、前記「第二の成分の含有量」とは、e1、e2、e3、e4、e5、e6、e7、e8、e9、e10及びe11の合計を指す。
比較例1~20:鉄-白金系スパッタリングターゲット
比較例1~20の製造方法は、実施例とほぼ同一であり、それらの比較例における、実施例との主な相違点は、窒化ホウ素粉末の平均粒子径が5μm未満ではないこと、及び還元後の混合粉末をハイスピード研磨した後に篩分工程を行わないことであるが、それ以外は、実施例の製造工程に従い、比較例1~20の鉄-白金系スパッタリングターゲットを得た。また、比較例1~20の鉄-白金系スパッタリングターゲットの組成、及びat%で表される各成分の含有量は何れも下記表1に記載されており、比較例1~20の鉄-白金系スパッタリングターゲットも、前記各実施例に記載の一般式で表され、且つ各成分の含有量の表示方式も、前記各実施例の記載通りである。
比較例21~22:鉄-白金系スパッタリングターゲット
まず、ダイヤモンド粉末及び直径5mmの複数の粉砕ボールをボールミルに投入し、3時間にわたって高エネルギーボールミリングして、平均粒子径0.5μmの
粉砕されたダイヤモンド粉末を得て、続いて、400メッシュの篩で窒化ホウ素粉末を篩分してから、下記表1に記載の組成に従い、鉄粉末、白金粉末、前記
粉砕されたダイヤモンド粉末及び前記篩分された窒化ホウ素粉末を秤量して混合することにより、混合物を得た。更に、3時間にわたって前記混合物を高エネルギーボールミリングして鉄-白金系合金粉末を得て、下記表1に記載の焼結工程及び焼結温度に従い、3時間にわたって前記鉄-白金系合金粉末を焼結して、比較例21及び22の鉄-白金系スパッタリングターゲットを得た。尚、比較例21及22の鉄-白金系スパッタリングターゲットの組成、及びat%で表される各成分の含有量は何れも下記表1に記載されており、比較例21及び22の鉄-白金系スパッタリングターゲットも、前記各実施例に記載の一般式で表され、且つ各成分の含有量の表示方式も、前記各実施例の記載通りである。
表1:実施例1~25及び比較例1~22の鉄-白金系スパッタリングターゲットの組成、焼結工程及び焼結温度。
表1つづき
分析1:鉄-白金系スパッタリングターゲットの金相微構造
分析1-1:金相における黒色相に係る分散形態及び外見の觀察
まず、実施例1~25及び比較例1~22の鉄-白金系スパッタリングターゲットに対して、ワイヤーカット及び研削で加工を更に行うことにより、直径2インチ、厚さ3mmの円形スパッタリングターゲットとし、続いて、スパッタリングターゲットの円心から0.5半徑の部分をそれぞれサンプリングし、ワイヤーカットの方式で10mm×10mmの試料片を得た。
次に、走査型電子顕微鏡(日立製のSE-3400)で、2000倍の拡大倍率により、実施例1~25及び比較例1~22の鉄-白金系スパッタリングターゲットの試料片の金相微構造を撮影した。実施例5、比較例3、実施例22及び比較例17の鉄-白金系スパッタリングターゲットが挙げられて説明する。それらの撮影結果はそれぞれ、図1~図4に示す通りであり、図1、図2と図3、図4の結果を比較すると、実施例5及び実施例22の鉄-白金系スパッタリングターゲットにおける黒色相は、均一的に点状が分散された形態を表しているのに対し、比較例3及び比較例17の鉄-白金系スパッタリングターゲットにおける黒色相は、細長状で粗大な形態を表しており、且つ黒色相が均一的に分散されていない現象を有することが観察される。
分析1-2:金相における黒色相の平均サイズ
画像分析ソフトウェアImage Jにより、実施例1~25及び比較例1~22の鉄-白金系スパッタリングターゲットの試料片の金相に対してそれぞれ分析を行い、該金相は、分析1と同様に、走査型電子顕微鏡で2000倍の拡大倍率により撮影したものであり、それらの撮影方式は何れも、同じ試料片において、ランダムで異なる領域を五つ撮影して、五枚の金相図を得て、更に、前記画像分析ソフトウェアImage Jに内蔵する、平均粒子径を分析する機能である「Feret’s Diameter」により、前記五枚の金相図における黒色相のサイズの統計をとり、最後に、ソフトウェアにより前記五枚の金相図における黒色相の平均サイズを算出し、前記鉄-白金系スパッタリングターゲットの黒色相の平均サイズとする。その結果を下記表2に記載した。
分析1-3:金相における黒色相の分散均一度
画像分析ソフトウェアImage Jを同様に採用し、分析1-2で撮影して得た実施例1~25及び比較例1~22の鉄-白金系スパッタリングターゲットの試料片の金相図に対し、前記画像分析ソフトウェアに内蔵する「Area」との機能により、金相図の総面積、金相図における黒色相の総面積及び黒色相の個数を更に分析し、続いて、本明細書で定義した分散均一度の計算式により、黒色相の分散均一度を算出し、最後に、ソフトウェアにより、前記五枚の金相図における黒色相の分散均一度を算出し、前記鉄-白金系スパッタリングターゲットの黒色相の分散均一度とする。その結果を下記表2に記載した。
分析2:緻密程度の測定及び曲げ強さの分析
まず、実施例1~25及び比較例1~22の鉄-白金系スパッタリングターゲットに対して、ワイヤーカット及び研削で加工を更に行うことにより、厚さ3mm、幅4mm、長さ25mmのサイズを有する試料片とし、そして、アルキメデス法により、実施例1~25及び比較例1~22の鉄-白金系スパッタリングターゲットの緻密程度を得て、その結果を下記表2に記載した。
続いて、実施例1~25及び比較例1~22の鉄-白金系スパッタリングターゲットの試料片を、万能試験機に設置して3点曲げの測定を行った。、具体的に述べると、この工程では、試料片を3点曲げの治具に設置し、スパンが20mmであり、加圧速度が0.008mm/sの操作条件で、試料片を曲げて断裂までの最大荷重を測定し、更に、以下の計算式で計算を行うことにより、実施例1~25及び比較例1~22の鉄-白金系スパッタリングターゲットの曲げ強さを得て、その結果を下記表2に示した。
計算式:曲げ強さ=(3×最大荷重×スパン)/(2×試料片幅×試料片厚さ×試料片厚さ)
分析3:スパッタリングターゲットに係るスパッタ品質の分析
まず、実施例1~25及び比較例1~22の鉄-白金系スパッタリングターゲットに対して、ワイヤーカット及び研削で加工を更に行うことにより、直径2インチ、厚さ3mmの円形スパッタリングターゲットとし、前記スパッタリングターゲットを、流量50sccmのアルゴンガスが流通され、且つ真空度が0.01torr~0.001torrの範囲にあるマグネトロンスパッタリング装置(Kao Duen Technology Corporation製)に設置してから、200Wのパワーで前記スパッタリングターゲットを600秒プリスパッタし、スパッタリングターゲット表面の汚れを除去することにより、スパッタ品質を評価するための試験用スパッタリングターゲットを得た。
次に、前記試験用スパッタリングターゲットを、流量50sccmのアルゴンガスが流通され、且つ真空度が0.01torr~0.001torrの範囲にあるスパッタ環境に設置し、50W~150Wのパワーでスパッタ工程を300秒行うと共に、スパッタ工程において、各試験用スパッタリングターゲットが発生する異常放電の回数及び微粒子降下の数を観察し、KLA-Tencor Surfscan 6420で降下する微粒子におけるサイズが0.5μm以上の微粒子数を検出して、微粒子降下数としてその結果を下記表2に記載した。
表2:実施例1~25及び比較例1~22の鉄-白金系スパッタリングターゲットの組成、緻密程度、黒色相の平均サイズ、黒色相の分散均一度、曲げ強さ、異常放電回数及び微粒子降下数。
実験結果に対する検討
本発明は、各実施例の製造工程及び図2の結果からも分かるように、窒化ホウ素粉末の含有量及び平均粒子径を所定の範囲に制御すると共に、篩分の技術手段により得られた、鉄-白金系スパッタリングターゲットにおける窒化ホウ素の含有量は50at%未満であり、且つ前記鉄-白金系スパッタリングターゲットの金相における黒色相の平均サイズは3μm未満であり、黒色相の分散均一度は5×10-4未満であり、これにより、実施例1~25の鉄-白金系スパッタリングターゲットは何れも、曲げ強さが700MPa以上であり、異常放電回数が30回未満であり、微粒子降下数が50個以下である効果を同時に有する。それに対し、各比較例は、製造工程において窒化ホウ素粉末の含有量及び平均粒子径を同時に制御しておらず、研磨後に篩分の工程も行っていないことから、本発明で限定した、窒化ホウ素の含有量、黒色相の平均サイズ及び黒色相の分散均一度の所定範囲を同時に満たすことができないので、鉄-白金系スパッタリングターゲットの曲げ強さを安定的に向上させることができないだけでなく、異常放電回数(最低でも36回である)及び微粒子降下数(最低でも105個である)を効果的に低下させることもできない。
更に、実施例1、実施例5及び比較例1、比較例4のグループに示すように、比較例1(窒化ホウ素の含有量は60at%である)及び比較例4(窒化ホウ素の含有量は0at%である)と比べると、実施例1(窒化ホウ素の含有量は0.1at%である)及び実施例5(窒化ホウ素の含有量は50at%である)の窒化ホウ素の含有量は、本発明で限定された、「0at%超え50at%以下」との所定の範囲を満たすものであることから、実施例1及び実施例5に係る、曲げ強さ(それぞれ1476MPa及び871MPaである)、異常放電回数(それぞれ0回及び15回である)又は微粒子降下数(それぞれ1個及び36個である)の結果は何れも、比較例1及び比較例4の結果(曲げ強さはそれぞれ467MPa及び824MPaであり、異常放電回数はそれぞれ103回及び226回であり、微粒子降下数はそれぞれ1666個及び1394個である)よりも優れた結果となった。これによると、窒化ホウ素の含有量を所定の範囲に制御することは、スパッタリングターゲットの曲げ強さを向上させ、異常放電發生を低減させ、微粒子降下を低減させることに有用であることが分かった。
更に、実施例4及び比較例3のグループを見ると、比較例3と実施例4との組成は完全に一致しており、即ち、比較例3の窒化ホウ素の含有量は、本発明で限定された範囲を満たすものであるが、その黒色相の平均サイズ及び分散均一度は何れも、本発明で限定された範囲を満たすものではないことから、実施例4に係る、曲げ強さ(911MPa)、異常放電回数(11回)及び微粒子降下数(20個)の結果は何れも、比較例3(それぞれ812MPa、106回及び895個である)よりも遥かに優れたものとなった。これによると、窒化ホウ素の含有量を所定の範囲に制御する必要があるだけでなく、黒色相の平均サイズ及び分散均一度も、本発明に限定された所定の範囲に制御することにより、スパッタリングターゲットの曲げ強さを向上させ、異常放電発生を低減させ、微粒子降下を低減させることを、同時に且つ効果的に達成できることが分かった。
また、実施例8~13の結果からも分かるように、鉄-白金系スパッタリングターゲットに第一の成分を更に添加し、且つ窒化ホウ素の含有量範囲、窒化ホウ素及び第一の成分の含有量の合計、黒色相の平均サイズ及び黒色相の分散均一度が何れも、本発明で限定された所定の範囲を満たす場合、スパッタリングターゲットの曲げ強さを向上させ、異常放電発生を低減させ、微粒子降下を低減させる効果を同時に備えることが分かった。更に、実施例8、12及び比較例5、6のグループを見ると、実施例8及び比較例6の組成は同じであり、実施例12及び比較例5の組成は同じであるが、比較例5、6の黒色相の平均サイズ及び分散均一度は何れも、本発明に限定された所定の範囲を満たしていないことから、酷い異常放電及び微粒子降下等の問題が依然として存在している。
更に、実施例14~25のグループを見ると、それらのグループは、第二の成分を更に添加しており、且つ実施例1~13に記載の緻密程度の結果と比べると、実施例14~25に係る緻密程度が明らかに向上しており、つまり、それらは何れも98%を超えており、最高では99.97%に達していることから、鉄-白金系スパッタリングターゲットに第二の成分を更に添加することは、鉄-白金系スパッタリングターゲットの緻密程度を更に向上させるのに有用であることが分かった。また、比較例11~18はそれぞれ、実施例14、15、16、17、18、20、22及び25と同様の組成を有するが、比較例11~18の黒色相の平均サイズ及び分散均一度は何れも、本発明で限定された所定の範囲を満たしていないことから、酷い異常放電及び微粒子降下等の問題が依然として存在している。また、比較例19及び20のグループを見ると、それらのグループは、黒色相の平均サイズ及び分散均一度が本発明で限定された、所定の範囲を満たしていないだけでなく、それらに含まれる第二の成分の含有量も、本発明において更に限定された2at%~40at%との所定の範囲を満たしていないことから、高い異常放電回数(109回及び117回)及び微粒子降下数(1236個及び1344個)を有するだけでなく、鉄-白金系スパッタリングターゲットの緻密程度(96.13%及び95.20%)も明らかに劣っていた。
上述したように、本発明は、鉄-白金系スパッタリングターゲットにおける窒化ホウ素の含有量を適切に制御し、且つその金相における黒色相の平均サイズ及び分散均一度を制御することにより、鉄-白金系スパッタリングターゲットの曲げ強さを向上させると共に、スパッタ工程中で鉄-白金系スパッタリングターゲットの異常放電の発生確率を低減させ、且つ膜層にての微粒子降下を緩和させることを同時に達成できるので、スパッタで形成された磁気記録層の膜層の品質及び歩留まりを向上させることができる。
前記実施例は、本発明を説明するための例示に過ぎないことから、本発明の請求の範囲を限定するものではなく、本願発明が請求する範囲は、特許請求の範囲により限定されるものであり、前記具体的な実施例に限定されるものではない。