JP2004292234A - 酸化ニオブおよびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】フッ化ニオブ溶液と沈澱剤とを混合することにより生成される沈澱物を焼成して酸化ニオブを製造する方法において、沈澱剤として、アンモニア、炭酸アンモニウムまたは炭酸水素アンモニウムから選択される少なくとも1種を用い、フッ化ニオブ溶液と沈澱剤とを混合する工程で、フッ化ニオブ溶液と沈澱剤との混合物の温度を0℃〜60℃に維持しつつ前記沈澱物を生成する。
【選択図】 なし
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、酸化ニオブおよびその製造方法に関し、特に、蒸着用ペレットもしくはスパッタリングターゲット等の薄膜形成用部材やニオブ酸リチウム等の単結晶の原料などとして好適な酸化ニオブおよびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
酸化ニオブは、ニオブ酸リチウム等のニオブ含有物の単結晶、蒸着用ペレット、スパッタリングターゲット、光学製品あるいはファインセラミックなどの原料等として広く用いられている。従来、このような用途では、平均粒径が2.0μm以下で、比表面積(BET値)が5.0m2/g以上といった、ある程度粒径が小さく比表面積が大きな酸化ニオブが用いられている(特許文献1参照)。このような酸化ニオブは、焼結温度や他の酸化物と共に複合酸化物相(ペロブスカイト相等)を生成する温度が低いという点で有利である。ところが、この酸化ニオブは、非常に嵩高(低嵩密度)である(例えばタップ法見掛け密度(TD)は0.5g/mL(ミリリットル)以下である)ため、取扱い難く、他の粉体との混合性が悪い。さらに、この酸化ニオブを単独あるいは他の物質と一緒に用いて光学製品やファインセラミック製品を成型し焼結すると、成型品が大幅に収縮してしまうという問題がある。成型品の中には精密部品として用いられるものもあることから、酸化ニオブの収縮率はできるだけ小さい方が好ましい。
【0003】
また、嵩の低い(高嵩密度)の酸化ニオブの製造方法がある(特許文献2参照)。この製造方法は、ニオブ溶液とアンモニア溶液(水溶液)を混合して比較的高温の懸濁液を得た後、この懸濁液とアンモニア溶液とを別の反応器で混合して二次懸濁液を得て、この二次懸濁液をさらに別の反応器に流し込んでさらに混合するという連続沈澱法を用いたものである。そして、得られた沈澱物を650℃以上の温度で焼成すると酸化ニオブが製造される。この製造方法によれば、圧縮嵩密度が1.8g/cc以上という比較的高嵩密度の酸化ニオブを製造できる。ところが、このようにして得られた酸化ニオブは、高嵩密度ではあるものの収縮率は30%以上と比較的大きいという問題がある。なお、この製造方法で用いられている連続沈澱法は、複数の反応器を用いるものであり生産性が低く、しかも処理中に温度、pH値、滞溜時間を精密に制御する必要があるなど多大な手間がかかるという問題がある。
【0004】
【特許文献1】
特開平6−103814号公報
【特許文献2】
特表平11−513652号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、嵩密度が高く、しかも成形して焼結したときの収縮率が小さい酸化ニオブおよびその製造方法を提供することを課題とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
このような課題を解決する本発明は、フッ化ニオブ溶液と沈澱剤とを混合することにより生成される沈澱物を焼成して酸化ニオブを製造する方法において、沈澱剤として、アンモニア、炭酸アンモニウムまたは炭酸水素アンモニウムから選択される少なくとも1種を用い、フッ化ニオブ溶液と沈澱剤とを混合する工程では、フッ化ニオブ溶液と沈澱剤との混合物の温度を0℃〜60℃に維持しつつ前記沈澱物を生成することを特徴とする。
【0007】
酸化ニオブの製造方法は、例えば、概略的には、ニオブを含有する鉱石などの原料をフッ化水素酸で溶解してニオブを含有する溶解液を得る工程と、得られた溶解液または当該溶解液の酸濃度等を調整した調整液を溶媒抽出法によって分離精製してフッ化ニオブ溶液を得る工程と、得られたフッ化ニオブ溶液とアンモニア水などの沈澱剤とを混合して沈澱物を得る工程と、液体部分から分離された沈澱物を焼成する工程と、焼成物を粉砕する工程とを有するものである。
【0008】
本発明に係る酸化ニオブの製造方法のように、沈澱剤として、アンモニア、炭酸アンモニウムまたは炭酸水素アンモニウムから選択される少なくとも1種のものを用い、沈澱物を生成する際に混合物を0℃〜60℃にすると、嵩が低く(見掛け嵩密度が高く)、粉末を所定形状に成型して焼結したときの収縮率が小さく、そして低比表面積である酸化ニオブ粉末を製造できる。
【0009】
本発明に係る酸化ニオブの製造方法では、酸化ニオブの原料として、例えば、ニオブを含有する鉱石やスクラップなどを用いることができる。このような原料を用いて酸化ニオブを製造する場合は、まず、原料に対して、必要に応じて粉砕処理、アルカリ水溶液処理(アルカリ疎解)、鉱酸洗浄処理等の前処理を行い、その後、原料または前処理済の原料を少なくともフッ化水素酸を用いて溶解し、ニオブを含有する溶解液を得る。次に、得られた溶解液に対して、必要に応じてフッ化水素酸の濃度調整、フッ化水素酸以外の酸の濃度調整、希釈などの調整を行う。そして、ニオブを含有する溶解液または調整液を4−メチル−2−ペンタノン、トリブチルホスフェート等の溶媒を用いた溶媒抽出法にて分離精製することにより、フッ化ニオブ溶液を得る。なお、生産コストの面を考慮すると現状では必ずしも得策でないが、例えば、高純度のニオブメタル、水酸化ニオブ、酸化ニオブをフッ化水素酸を用いて溶解することによってフッ化ニオブ溶液を得てもよい。
【0010】
本発明で用いるフッ化ニオブ溶液としては、溶液中のニオブ濃度が酸化ニオブ(Nb2O5)に換算して、10g/L(グラム/リットル)〜200g/Lが好ましい。下限値未満では、排水量など扱い液量が多く、コスト高になり、処理に手間がかかるからである。また、上限値を超えると、その後の工程でフッ化ニオブ溶液と沈澱剤とを混合したときに発熱が大きく沈澱時の温度を60℃以下に保持できないおそれがあるからである。したがって、このような観点では、フッ化ニオブ溶液中のニオブ濃度は30g/L〜150g/Lがより好ましい。なお、フッ化ニオブ溶液中のニオブは、H2NbOF5またはH2NbOF7であると考えられる。特に、溶媒抽出法により得られたフッ化ニオブ溶液の場合は、過剰のフッ化水素酸が少ないため、フッ化ニオブ溶液中のニオブの大部分はH2NbOF5であると考えられる。
【0011】
次に、フッ化ニオブ溶液と沈澱剤とを混合して混合物中に生成される沈澱物を得る。ここで用いられる沈澱剤は、アンモニア、炭酸アンモニウムまたは炭酸水素アンモニウムから選択される少なくとも1種である。これらのうちアンモニアは、気体、液体または水溶液の形態で用いることができる。また、炭酸アンモニウムおよび炭酸水素アンモニウムは、固形物(水和物、無水物)、水溶液、またはスラリー(飽和溶解量を超える量の沈澱剤を含有する水溶液)の形態で用いることができる。
【0012】
フッ化ニオブ溶液と沈澱剤を混合する方法としては、フッ化ニオブ溶液に沈澱剤を添加する方法、沈澱剤にフッ化ニオブ溶液を添加する方法、フッ化ニオブ用液と沈澱剤とを同時に一つの容器に加えて混合する方法、水にフッ化ニオブ溶液と沈澱剤とを交互に添加する方法などがある。そして、沈澱剤がアンモニアである場合は、フッ化ニオブ溶液に沈澱剤を添加する方法よりも、沈澱剤にフッ化ニオブ溶液を添加する方法を用いた方が大きな粒径(ブレーン径)の酸化ニオブが得られやすい。他方、沈澱剤が炭酸アンモニウムまたは炭酸水素アンモニウムである場合は、フッ化ニオブ溶液に沈澱剤を添加する方法、沈澱剤にフッ化ニオブ溶液を添加する方法のいずれの方法であっても、十分に大きな粒径の酸化ニオブが得られる。
【0013】
フッ化ニオブ溶液と沈澱剤とを混合して、その混合物から沈澱物を生成する工程では、混合物の温度を60℃以下に保持する。温度が上限値を超えると、得られる酸化ニオブのタップ見掛け密度(TD)、静置見掛け密度(AD)、ブレーン法による平均粒径が小さくなり過ぎるなど嵩高(低嵩密度)になり過ぎるおそれが高いからである。そして、見掛け密度や平均粒径が小さくなり過ぎるのを防止する観点では、混合物の温度は50℃以下がより好ましい。なお、このように混合物の温度を所定温度以下に維持しつつ沈澱物を生成させる場合、沈澱剤の形態としては水溶液が好ましい。水溶液の沈澱剤は、冷却して供給することが容易であり、不均一な沈澱が生成しにくいなどの利点がある。そして、形態が水溶液である沈澱剤におけるアンモニア成分(NH3成分)の含有量は、NH3換算で0.2mol/L以上が好ましく、0.5mol/L以上がより好ましい。また、沈澱物生成時の温度の下限値は、コストの点から0℃以上が好ましく、5℃以上がより好ましく、10℃以上がさらに好ましい。
【0014】
フッ化ニオブ溶液と沈澱剤との混合物の温度を60℃以下の所定温度以下に保持する方法は、混合物の発熱による昇温を抑制する方法(発熱抑制方法)と、混合物を冷却する方法(冷却方法)とに大別できる。なお、この区分けは、便宜的なものであり、どちらに区分できるような方法もある。また、後述されるように、発熱抑制方法および冷却方法には種々の方法があるが、これらのうちの一つだけを用いてもよいし、2つ以上の方法を組み合わせて用いてもよい。また、発熱抑制方法と冷却方法とを組み合わせて用いてもよい。特に、50℃以下さらには40℃以下に抑制しようとする場合などは、いくつかの方法を組み合わせるのが好ましい。
【0015】
発熱抑制方法としては、フッ化ニオブ溶液の濃度を低くする方法、沈澱剤が水溶液である場合に当該沈澱剤の濃度を低くする方法、フッ化ニオブ溶液の添加速度を低く抑える方法、沈澱剤の添加速度を低く抑える方法、フッ化ニオブ溶液と沈澱剤との混合中に混合物の温度が添加中断温度(例えば55℃)まで上昇すると混合を一旦中断し、添加再開温度(例えば50℃)まで下がると混合を再開するという方法がある。
【0016】
冷却方法としては、まず、「予備中和後冷却法」と称することができる冷却方法がある。沈澱物が生成しない範囲でフッ化ニオブ溶液に沈澱剤を添加(予備中和)した後、昇温した溶液を冷却したものをフッ化ニオブ溶液として用いる方法である。このように予備中和を行って中和熱の一部を発生させた後、冷却したフッ化ニオブ溶液を用いると、混合物の所定温度以上の昇温をより確実に防止できる。この他、冷却方法としては、混合前のフッ化ニオブ溶液および/または沈澱剤(水溶液など液体である場合)をあらかじめ熱交換器等によって冷却しておく方法(「液冷却法」)を挙げることができる。また、「槽内冷却法」とも称される冷却方法がある。すなわち、沈殿槽の内部に冷却水を流通させる冷却管を設置したり、沈殿槽の外側に冷却水を流通させるジャケットを設け、混合・沈澱物生成時に冷却管やジャケットに冷却水を流通させて混合物を冷却する方法や、混合時や沈澱物生成時に氷やドライアイスなど、沈澱物の生成に悪影響を及ぼさない冷媒を沈殿槽内に投入して混合物を冷却する方法である。このように本発明で用いられる冷却方法は、強制的な冷却方法でよいことは勿論、所望の冷却が可能であれば自然放冷であってもよい。
【0017】
また、フッ化ニオブ溶液と沈澱剤とを混合することにより沈澱物を生成する工程では、混合物の溶液の最終のpH値を8〜11にするのが好ましい。溶液のpH値が下限値未満では、溶液中に残留するニオブの量が多くなり沈澱物の収率が低下し、ひいては酸化ニオブの収率が低下するからである。また、溶液のpH値が上限値を越えると、濾過および実施する場合には洗浄が困難になりやすいからである。これらの点を考慮すれば、混合物の溶液のpH値は9〜10であるのがより好ましい。
【0018】
また、沈澱剤が炭酸アンモニウムまたは炭酸水素アンモニウムである場合(特に炭酸水素アンモニウムの場合)には、当該沈殿剤を当量以上添加してもpHが好適範囲より低くなりやすく、溶液中に残留するニオブの量が多くなりやすいことが解った。したがって、これらの沈澱剤を使用する場合にはアンモニアを併用することが望ましい。併用方法としては、例えば、これらの沈澱剤とアンモニアを混合した沈澱剤を使用する方法、予備中和をアンモニアを用いて行い、沈澱剤としては炭酸アンモニウムまたは炭酸水素アンモニウムを用いる方法、これらの沈澱剤を用いて沈澱を生成した後アンモニアを添加する方法等がある。このようにして炭酸アンモニウムまたは炭酸水素アンモニウムなどの沈澱剤とアンモニアとを併用し、適正量使用することによってpHを好適範囲に調整することができる。なお、上記「当量」とは、フッ化ニオブ溶液が含有する過剰のフッ化水素酸(一塩基酸)およびニオブ(五塩基酸換算)を中和するのに必要な沈澱剤の量のことである。
【0019】
沈澱物は液体部分から分離された後、焼成される。沈澱物の分離法(固液分離法)としては、濾過による方法、そして沈澱沈降後に上澄み液を抜出す方法を挙げることができる。
【0020】
濾過などによって分離された沈澱物は、必要に応じて焼成前に洗浄される。沈澱物を洗浄すると残存するフッ素の量が低減される。例えば、濾過機を用いて濾過したような場合であれば、沈澱物が入った濾過機内に洗浄液を通液させることにより、あるいは濾過ケーキと洗浄液を、撹拌手段を備えた槽に入れて撹拌し、再度濾過することによって洗浄することが可能である。また、濾過機を用いず、沈澱沈降後に上澄み液を抜出す場合であれば、上澄み液を抜出した後に洗浄液を入れて十分撹拌した後、撹拌を止めて沈澱物を沈降させ、上澄み液を抜出す方法等によって洗浄を行うことができる。このような洗浄操作を1回以上(好ましくは5回以下)実施する。
【0021】
洗浄液としてはアンモニア性水溶液および/または水が好ましい。アンモニア性水溶液は、アンモニアまたはアンモニウムイオンを含有する水溶液であり、沈澱剤と同種の水溶液である。具体的には、5.0重量%以下のアンモニア(NH3)水が好ましい。5.0重量%を超えると、アンモニア、アンモニウムイオンがフッ素に対して大過剰となり高コストとなるからである。また、洗浄用の水としては、不純物が少ない純水または超純水が好ましい。
【0022】
また、沈澱物の洗浄を行うと否とに拘わらず、沈澱物(洗浄した場合は洗浄済沈澱物)は、必要に応じて焼成前に乾燥される。沈澱物を乾燥する場合、乾燥後の沈澱物(乾燥品)の強熱減量が10〜30重量%になるように乾燥するのが好ましい。乾燥品の強熱減量が10重量%未満の場合、当該乾燥品は、高温での長時間乾燥により得られる粒径(ブレーン径)の小さいものであるおそれが高く、そのようなものを焙焼しても必要十分な粒径(ブレーン径)を有する酸化ニオブを得ることは難しいからである。また、乾燥品の強熱減量が30重量%を超えている場合、当該乾燥品の粒径が小さ過ぎることはないが、これを焼成して必要十分な粒径(ブレーン径)を有する酸化ニオブを得ることは必ずしも容易でないからである。このように、酸化ニオブの粒径(ブレーン径)が小さくなる理由は、必ずしも明確でないが、焼成時あるいは高温での長時間乾燥時のように、少なくとも水酸化物の一部が酸化物に分解する工程において当該分解によって生成する量を大幅に超える量の水蒸気が存在していると、得られる酸化ニオブの粒径(ブレーン径)が小さくなると考えられる。また、乾燥は100℃〜400℃の温度で行うのが好ましい。100℃未満の温度で乾燥を行うと、乾燥に長時間を要するからである。また、乾燥対象物である沈澱物は水分を多く含むものであるところ、このようなものを400℃を超える温度で乾燥した場合、この後の焼成によって得られる酸化ニオブ粒子が小さくなり過ぎるおそれがあるからである。なお、乾燥品を焼成前に篩にかけるなどして分級し、分級により得られた篩下(微粒側)の乾燥品を焙焼するようにしてもよい。なお、篩上(粗粒側)のものは粉砕・再分級して用いることができる。また、ナイロンあるいはフッ素樹脂でコーティングした鉄球等が粉砕メディアとして投入された振動篩は粉砕と分級とを兼ねるものであり、これを使用して粉砕と分級をすることも可能である。分級および/または粉砕すると、大きなかたまりがそのまま焼結して極端に大きな酸化ニオブ粒子になるようなことが防止される。篩を用いる場合は、目開きが250μm〜1400μmのものを用いるのが好ましい。目開きが下限値未満であると粉砕しても篩上の割合が多くなり再粉砕を繰り返す必要があるなどコスト高となり、上限値を超えると上記効果が急激に少なくなるからである。
【0023】
分離されて得られた沈澱物、好ましくは洗浄および/または乾燥された沈澱物は焼成される。焼成温度は700℃以上が好ましい。下限値未満では粒子の成長が不十分になりやすいからである。この点に関して言えば、焼成温度は800℃以上がより好ましい。そして、焼成コストおよび焼成後の粉砕コストを考慮すると、焼成温度は1100℃以下が好ましい。当該温度を超えると焼成コストが高くなり、また焼成により得られる焼成品が固い塊状になりやすく、粉砕の手間およびコストがかかるからである。また、焼成時間は0.5時間〜72時間が好ましい。下限値未満では、粒子の成長が不十分になりやすいからであり、また上限値を超える時間焼成しても粒子はあまり成長せず、コスト高になるだけだからである。これらの点を考慮すると、焼成時間は2時間〜48時間がより好ましい。
【0024】
焼成品である酸化ニオブは、そのまま酸化ニオブ粉末として用いられる。そして、焼成品を粉砕したものが酸化ニオブ粉末として用いられることもある。また、粉砕されると否とに拘わらず、焼成品を篩などによって分級して得た篩下(微粒側)を酸化ニオブ粉末として用いてもよい。篩上(粗粒側)は粉砕・再分級して用いることができる。なお、ナイロンあるいはフッ素樹脂でコーティングした鉄球等が粉砕メディアとして投入された振動篩を使用して粉砕と分級とを兼ねることも可能である。分級および/または粉砕すると、焙焼後大き過ぎる酸化ニオブ粒子が存在していても除去が可能である。例えば篩を用いて分級する場合は、目開きが150μm〜1000μmのものを用いるのが好ましい。目開きが下限値未満であると粉砕しても篩上の割合が多くなり再粉砕を繰り返す必要があるなどコスト高となり、上限値を超えると上記効果が急激に少なくなるからである。
【0025】
ここまで説明したように、上記本発明に係る酸化ニオブの製造方法を用いれば、見掛け嵩密度が高く、粉末を所定形状に成型して焼結したときの収縮率が小さい酸化ニオブ粉末を製造できるが、検討の結果、酸化ニオブとしては、次のようなものが好ましいことが解った。つまり、タップ法見掛け密度が0.8g/mL〜2.5g/mLであり、ブレーン法平均粒径が2μm〜20μmである酸化ニオブや、静置法見掛け密度が0.65g/mL〜2.0g/mLである酸化ニオブが好ましいことが解った。このような酸化ニオブ粉末を用いれば、粉末を所定形状に成型して焼結したときの収縮率が小さくなり好ましい。
【0026】
【発明の実施の形態】
以下、本発明に係る酸化ニオブの製造方法の実施形態について説明する。
【0027】
フッ化ニオブ溶液の調製:ニオブを含有する鉱石(原料)を粉砕し、得られた粉砕品に対してアルカリ水溶液処理および鉱酸洗浄を行った後、フッ化水素酸を用いてニオブを溶解してニオブを含有する溶解液を得た。そして、得られた溶解液中のフッ化水素酸の濃度およびフッ化水素酸以外の酸の濃度が調整された調整液を得た。この液調整液を4−メチル−2−ペンタノンの溶媒を用いた溶媒抽出法にて分離精製してフッ化ニオブ溶液を得た。得られたフッ化ニオブ溶液中のニオブ濃度は、酸化ニオブ(Nb2O5)に換算すると、320g/L(グラム/リットル)であった。以後、フッ化ニオブ溶液に関するニオブ濃度は、すべて酸化ニオブに換算した濃度である。
【0028】
これを純水にて希釈し、ニオブ濃度が100g/Lのフッ化ニオブ溶液1200Lを得た。そして、得られたフッ化ニオブ溶液を約20℃(室温)まで放冷したものを、以下に示される実施例1〜3および比較例1に約200Lずつ、また比較例2に200L使用した。
【0029】
実施例1:上述のようにして得たフッ化ニオブ溶液に混合する沈澱剤として、25重量%(13.2mol/L)のアンモニア水を室温(約20℃)になじませたものを58L用意した。また、フッ化ニオブ溶液と沈澱剤とを混合するために沈殿槽を用意した。沈殿槽は、ポリエチレン製であり、内部に撹拌器を備えるものであった。この沈殿槽を用いて、フッ化ニオブ溶液と沈澱剤とを混合して沈澱物を得た(以下、混合・沈澱工程と称する)。
【0030】
混合・沈澱工程では、まず、沈澱剤の全量を沈殿槽内に入れてこれを撹拌しながら、この中にフッ化ニオブ溶液を5L/min(リットル/分)の速度で添加することにより、フッ化ニオブ溶液と沈澱剤とを混合した。そして、沈殿槽内の溶液のpHが9.5まで下がったところでフッ化ニオブ溶液の添加を終了した。添加したフッ化ニオブ溶液量は約200Lであった。ところで、本実施例では、約20℃であったフッ化ニオブ溶液を熱交換器を通して約5℃に冷却して槽内に添加した(液冷却法)。また、槽内に設置されたフッ素樹脂製の冷却管に、管入口温度が約5℃の冷却水を流通させて冷却を行った(槽内冷却法)。このようにして冷却した結果、沈澱終了までの間、混合物の最高温度は29℃であった。フッ化ニオブの添加が終了するとその後、30分間撹拌を継続した。撹拌終了時の溶液のpHは9.3であった。撹拌終了後、3時間静置して沈澱物を沈降させ、その後上澄み液を抜取って沈殿物を得た。
【0031】
上澄み液の抜取り後、沈殿槽内の沈澱物を洗浄した。洗浄工程は、沈澱槽内に洗浄液を投入して30分間撹拌し、3時間静置して洗浄液を抜取るという一連の作業を複数回繰り返すというものであった。洗浄液は、25重量%のアンモニア水3Lと純水400Lを混合したもの(0.17重量%(0.098mol/L)のアンモニア水)であった。そして、本実施例では、3回目の30分間の撹拌作業後、洗浄液を抜取らずに撹拌を継続しながら沈殿槽内のスラリー(沈澱物と洗浄液との混合物)を真空濾過した。そして、得られた沈澱物をフッ素樹脂製(PTFE製)のバットに入れ、このバットを乾燥機に入れて沈澱物を乾燥した。乾燥条件は、加熱温度が120℃、乾燥時間が24時間というものであった。
【0032】
乾燥後、得られた乾燥品をロールクラッシャーを用いて粉砕し、得られた粉砕品を静置炉を用いて焼成(焙焼)した。焼成条件は、焼成温度が1000℃、焙焼時間が12時間あった。
【0033】
焙焼後、得られた焙焼品を、粉砕メディア(ボール)が入っている振動篩を用いて、粉砕・分級して酸化ニオブ粉末を得た。なお、粉砕メディアは、直径が10mm程度のナイロンコーティング鋼球であり、篩の目開きは500μmであった。
【0034】
実施例2:この実施例では、混合・沈澱工程において、約20℃のフッ化ニオブ溶液を冷却することなくそのまま沈澱剤が入った沈殿槽内に添加した。これ以外の条件は、実施例1と同じであったので、説明を省略する。このようにして冷却した結果、沈澱終了までの間、混合物の最高温度は41℃であった。また、撹拌終了時のpHは9.4であった。
【0035】
実施例3:この実施例では、混合・沈澱工程では、沈殿槽内に設置した冷却管に冷却水を流通させずに混合・沈澱を行った。これ以外の条件は、実施例1と同じであった。このようにして冷却した結果、沈澱を終了するまでの間、混合物の最高温度は58℃であった。また、撹拌終了時のpHは9.2であった。
【0036】
比較例1:この比較例では、混合・沈澱工程において、約20℃のフッ化ニオブ溶液を冷却することなくそのまま沈澱剤に添加し、沈殿槽内に設置した冷却管に冷却水を流通させなかった。これ以外の条件は、実施例1と同じであった。この結果、沈澱終了までの間、混合物の最高温度は68℃であった。また、撹拌終了時のpHは9.3であった。
【0037】
比較例2:この比較例では、混合・沈澱工程において、実施例1とは逆に、約20℃のフッ化ニオブ溶液200Lを沈殿槽内に入れた。そして、沈殿槽内のフッ化ニオブ溶液を撹拌しながら、この中に沈澱剤(25重量%アンモニア水)を5L/minの速度で添加し、沈殿槽内の溶液のpHが9.0まで上がったところで沈澱剤の添加を終了した。添加した沈澱剤量は約58Lであった。この比較例では、約20℃の沈澱剤を冷却することなくそのままフッ化ニオブ溶液に添加し、また沈殿槽内に設置した冷却管に冷却水は流通させなかった。この結果、沈澱終了までの間、混合物の最高温度は78℃であった。その後、30分間撹拌を継続した。撹拌終了時のpHは9.2であった。撹拌終了後、3時間静置して沈澱物を沈降させ、その後上澄み液を抜取って沈殿物を得た。これ以外の条件は、実施例1と同じであった。
【0038】
実施例4:最初に説明したフッ化ニオブ溶液の調製法と同じ調製法によって、ニオブ濃度が酸化ニオブ換算で320g/Lであるフッ化ニオブ溶液を調製し、さらに純水にて希釈して、ニオブ濃度が50g/Lのフッ化ニオブ溶液(水溶液)を500L得た。また、沈澱剤として、実施例1で用いた25重量%(13.2mol/L)のアンモニア水に2倍容量の純水を加えて3倍希釈した後、約20℃まで放冷して得られるアンモニア水(7.9重量%、4.4mol/L)を用意した。
【0039】
混合・沈澱工程では、約20℃の沈澱剤174Lを沈殿槽内に入れ、これを撹拌しながら、この中に約20℃のフッ化ニオブ溶液を冷却することなくそのまま添加し、溶液のpHが9.5まで下がったところでフッ化ニオブ溶液の添加を終了した。添加したフッ化ニオブ溶液量は約400Lであった。また、沈殿槽内に設置した冷却管に冷却水を流通させなかった。このように、本実施例では、実施例1で用いた冷却手段を用いなかった。これら以外の条件は、実施例1と同じであった。この結果、沈澱終了までの間、混合物の最高温度は56℃であった。また、撹拌終了時のpHは9.4であった。
【0040】
予備中和されたフッ化ニオブ溶液の調製:最初に説明したフッ化ニオブ溶液の調製法と同じ方法によって、フッ化ニオブ溶液(酸化ニオブ換算のニオブ濃度が320g/L)を438L用意し、これに25重量%アンモニア水119Lを添加し(予備中和し)、さらに純水にて希釈して、酸化ニオブ換算のニオブ濃度が50g/Lのフッ化ニオブ溶液を3300L用意した。そして、得られたフッ化ニオブ溶液を約20℃(室温)に放冷した(予備中和後冷却法)。このようにして得られた約20℃のフッ化ニオブ溶液を、実施例5に約400L、実施例6から実施例9および比較例3において400Lずつ使用した。
【0041】
実施例5:沈澱剤(25重量%アンモニア水を3倍希釈後放冷したもの)の使用量が123Lであることおよびニオブ濃度50g/Lのフッ化ニオブ溶液が予備中和後冷却されたものであること以外の条件は、実施例4と同じであった。沈澱剤の量が実施例4(174L)に比べて少ないが、これは混合・沈澱工程で用いるアンモニア(沈澱剤)の量を一定にするためである。つまり、本実施例では、フッ化ニオブ溶液の予備中和の際にアンモニア水を使用しており、このとき使用したアンモニア相当量を沈澱剤から減じた結果、沈澱剤量が実施例4より少なくなった。この結果、沈澱終了までの間、混合物の最高温度は46℃であった。また、撹拌終了時のpHは9.3であった。
【0042】
実施例6:実施例5の混合・沈澱工程では、沈澱剤の全量を沈殿槽内に入れてこれを撹拌しながらフッ化ニオブ溶液を添加したのに対して、この実施例の沈澱工程では、フッ化ニオブ溶液の全量を沈殿槽内に入れてこれを撹拌しながら沈澱剤を添加した。具体的には、ニオブ濃度が50g/Lである予備中和後冷却されたフッ化ニオブ溶液400Lを、沈殿槽内に入れ、この中に約20℃の沈澱剤(25重量%アンモニア水を純水で3倍希釈後放冷したもの)を冷却することなく、1.5L/minの添加速度で添加した。そして、沈殿槽内の溶液のpHが9.0まで上がったところで沈澱剤の添加を終了した。添加した沈澱剤量は約123Lであった。これ以外の条件は、実施例5と同じであった。この結果、沈澱終了までの間、混合物の最高温度は52℃であった。また、撹拌終了時のpHは9.1であった。
【0043】
実施例7:この実施例では、実施例6と同様、ニオブ濃度が50g/Lである予備中和されたフッ化ニオブ溶液400Lを用意した。ただし、沈澱剤は、実施例6とは異なり、100g/L(1.26mol/L)炭酸水素アンモニウム水溶液600Lを用意した。
【0044】
混合・沈澱工程では、まず、約20℃のフッ化ニオブ溶液の全量を沈澱槽内に入れ、これを撹拌しながら、この中に10L/minの添加速度で沈澱剤を全量添加した(ターゲットpH値に達したことで添加終了したのではない)。このとき、約20℃であった沈澱剤を熱交換器を通して約8℃に冷却して槽内に添加した(添加液冷却法)。また、槽内に設置されたフッ素樹脂製の冷却管に冷却水(入口温度は約5℃)を流通させることによっても冷却を行った(槽内冷却法)。このように、本実施例では、実施例1で用いた2種類の冷却方法(添加液冷却法および槽内冷却法)を用いた。これら以外の条件は、実施例6と同じであった。このようにして冷却した結果、沈澱終了までの間、混合物の最高温度は22℃であった。また、撹拌終了時のpHは8.6であった。
【0045】
実施例8:この実施例は、焙焼温度が750℃であること以外の条件は、実施例7と同じであった。なお、混合・沈澱工程において、沈澱終了までの混合物の最高温度は23℃であった。また撹拌終了時のpHは8.6であった。
【0046】
比較例3:この比較例は、焙焼温度が600℃であること以外の条件は、実施例7と同じであった。なお、混合・沈澱工程において、沈澱終了までの混合物の最高温度は22℃であった。また撹拌終了時のpHは8.5であった。
【0047】
実施例9:この実施例では、混合・沈澱工程において、約20℃の沈澱剤を冷却することなくそのままフッ化ニオブ溶液に添加し、沈殿槽内に設置した冷却管に冷却水を流通させることなく、混合・沈澱を行った。これ以外の条件は、実施例7と同じであった。この結果、沈澱終了までの間、混合物の最高温度は41℃であった。また、撹拌終了時のpHは8.6であった。
【0048】
上記実施例および比較例の酸化ニオブ粉末の製造条件を次の表1に示す。
【0049】
【表1】
【0050】
また、各実施例および比較例において得られた酸化ニオブ粉末について次のような物性を測定した。さらに、乾燥、粉砕後の水酸化ニオブについて、フッ素含有量および強熱減量を測定した。以下、測定した物性値および測定方法を示すと共に、測定結果を表2に示す。
【0051】
タップ見掛け密度(TD):JIS K 5101−1991(顔料測定方法)の「20.見掛け密度又は見掛け比容積」の「20.2 タップ法」に準拠してタップ見掛け密度を測定した。
【0052】
静置見掛け密度(AD):JIS K 5101−1991(顔料測定方法)の「20.見掛け密度又は見掛け比容積」の「20.1 静置法」に準拠して静置見掛け密度を測定した。
【0053】
ブレーン法平均粒径(ブレーン径D):まず、酸化ニオブ粉末の比表面積S(m2/g)を、JIS K 5201−1997(セメントの物理試験方法)の「7.1 比表面積試験」に準拠して測定し、酸化ニオブ粉末の密度ρ(g/cm3)を、JIS R 1620−1995に掲載される方法に準拠して測定する。そして、ブレーン径Dを次式(1)より算出する。
【0054】
【式1】
【0055】
平均粒径(D 50 ):レーザ回折・散乱法粒度分布測定装置((株)島津製作所製:SALD−2000A)を用いて測定した。
【0056】
BET法比表面積(BET):JIS R 1626−1996(ファインセラミックス粉体の気体吸着BET法による比表面積の測定方法)の「6.2 流動法 の(3.5)一点法」に準拠して測定を行った。その際、キャリアガスであるヘリウムと、吸着質ガスである窒素の混合ガスを使用した。
【0057】
フッ素含有量:フッ素含有率が500ppm(0.05%)以上の可能性がある試料についてはフッ素イオン電極法を用いて測定した。なお、フッ素イオン電極法による測定では酸化ニオブ粉末を、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ試薬によりアルカリ溶融し、さらに温湯抽出したものを測定試料として用いた。また、フッ素含有率が500ppm(0.05%)以下が確実な試料およびフッ素イオン電極法で測定した結果500ppm未満であった試料については、熱加水分解ランタン・アリザリンコンプレクソン吸光光度法(JIS H 1698−1976(タンタル中のフッ素定量方法))に準拠して測定した。
【0058】
強熱減量:JIS K 0067−1992(化学製品の減量及び残分試験方法)の「4.2 強熱減量試験」に準拠して測定を行った。なお、本測定では強熱温度をJISに記載の650℃とは異なる1000℃とした。これは、650℃では、水酸化ニオブが酸化ニオブに完全に変化するのに長時間を要し、安定した測定がほとんど不可能なためである。
【0059】
収縮率:まず、酸化ニオブ粉末を一定量だけ量りとり(15g〜20g)、これを円柱形の型に入れて29.4±1MPa(300±10kgf/cm2)の圧力を2分間加えて円柱形の成型体(試料)を作製した。そして、作製した成型体の寸法をマイクロメータやノギスを用いて測定し、体積(成型体の体積)を算出した。その後、成型体を電気炉に入れて焼結した。焼結工程は、100(±10)℃/hの昇温速度で約1370℃まで昇温させ、1370℃±20℃の温度に2時間保持し、その後自然放冷するというものであった。その後、焼結した成型体(焼結体)を500℃以下の温度で電気炉から取り出して、焼結体の寸法を測定して体積(焼結体の体積)を算出した。そして、次式(2)より、収縮率を算出した。
【0060】
【式2】
【0061】
【表2】
【0062】
実施例1から実施例3、比較例1および比較例2から解るように、混合・沈澱工程における最高温度が高いほど最終的に得られる酸化ニオブ粉末の収縮率が大きかった。そして、比較例1では収縮率が約48%と著しく大きかった。
【0063】
ところで、酸化ニオブ粉末を成型して焼結する場合、酸化ニオブ粉末の収縮率はできるだけ小さい方が好ましいことが解っている。収縮率が小さければ、収縮による寸法変化の予測がより容易であり、焼結体の製造がより容易になると共に、得られる焼結体の密度が低くなり難いからである。具体的には収縮率は30パーセント以下が好ましく、20%以下がより好ましく、10%以下がさらに好ましい。特に、酸化ニオブ粉末だけを成型して焼結する場合、収縮率が10%以下の酸化ニオブ粉末が好ましい。
【0064】
したがって、実施例1〜6、比較例1,2から解るように、フッ化ニオブ溶液と沈澱剤とを混合して沈澱物を得る工程では、沈澱生成時の混合物の最高温度が60℃以下になるように温度制御を行うのが好ましく、50℃以下になるようにするのがより好ましく、40℃以下になるようにするのがさらに好ましいことが解った。そして、混合物の最高温度が所定の上限温度を越えないように制御できれば、温度制御手段は特に限定されないことが解った。
【0065】
実施例7,8および比較例3を比較すると解るように、焙焼工程における焙焼温度が低いほど、得られる酸化ニオブ粉末の収縮率が大きいことが解った。そして、焙焼温度が600℃と最も低い比較例3では収縮率が約59%と著しく大きかった。この結果、酸化ニオブ粉末製造時の焼成工程では、焼成温度は700℃以上が好ましく、800℃以上がより好ましいことが解った。ただし、焼成コストおよび焼成後の粉砕コスト等を考慮すると、焼成温度は1100℃以下が好ましいことが解った。そして、実施例9の結果から、十分希薄なフッ化ニオブ溶液および沈澱剤を使用するなどすれば、冷却手段を用いても用いなくても良いことが解った。
【0066】
表2に示される収縮率の結果とブレーン法平均粒径との関係を考察した。その結果、ブレーン法平均粒径が2μm〜20μmの酸化ニオブ粉末が収縮率が小さく好ましいことが解った。そして、ブレーン法平均粒径が3μm〜15μmの酸化ニオブ粉末がより好ましいことが解った。
【0067】
表2に示される収縮率とD50との関係を考察した。その結果、D50はブレーン径とは異なり、収縮率との間に相関関係はあまりないことが解った。
【0068】
そして、収縮率とタップ見掛け密度(TD)との関係について検討した。その結果、タップ見掛け密度(TD)が一定値以上である酸化ニオブ粉末は、収縮率が小さく好ましいことが解った。具体的には0.8g/mL以上の酸化ニオブ粉末は収縮率が小さく好ましいことが解った。また、実験を行った結果、TD値が一定値以上大きい酸化ニオブ粉末の製造は難しくコストが高くなること、具体的には2.5g/mLを超えると酸化ニオブ粉末の製造は困難で非常にコスト高になることが解った。したがって、タップ見掛け密度(TD)は、0.8g/mL〜2.5g/mLが好ましく、1.0g/mL〜2.0g/mLがより好ましいことが解った。
【0069】
さらに、収縮率と静値見掛け密度(AD)との関係について検討した。その結果、静値見掛け密度(AD)が一定値以上である酸化ニオブ粉末は、収縮率の小さく好ましいことが解った。具体的には0.65g/mL以上の酸化ニオブ粉末は収縮率が小さく好ましいことが解った。また、製造が容易であるという観点では静値見掛け密度(AD)が2.0g/mL以下のものが好ましいことが解った。これらの結果、酸化ニオブ粉末としては、静値見掛け密度(AD)が0.75g/mL〜1.5g/mLのものがより好ましいことが解った。
【0070】
また、収縮率とBET値(BET法比表面積)について検討した。その結果、酸化ニオブ粉末としては、BET値が0.5m2/g〜5.0m2/gのものが好ましく、1.0m2/g〜3.0m2/gのものがより好ましいことが解った。
【0071】
なお、フッ素含有量について検討した結果、酸化ニオブ粉末としては、フッ素含有量が少ない方がよいことが解った。フッ素含有量(含有率)が多いと、酸化ニオブを単独あるいは他の酸化物等と混合して用いて蒸着ペレットやスパッタリングターゲットを製造し、製造した蒸着ペレットやスパッタリングターゲットを用いて成膜したときに、均一な膜を得ることが難しい場合があるからである。具体的にはフッ素含有量(含有率)500ppm以下のものが好ましく、200ppm以下のものがより好ましく、100ppm以下のものがさらに好ましいことが解った。
【0072】
また、収縮率と強熱減量との関係について検討した結果、酸化ニオブ粉末としては、強熱減量値が、0.5%以下が好ましく、0.2以下がより好ましく、0.1%以下がさらに好ましいことが解った。
【0073】
【発明の効果】
以上のように、本発明の酸化ニオブ粉末の製造方法によれば、成形して焼結したときの収縮率が小さい酸化ニオブを製造することができる。そして、本発明に係る酸化ニオブ粉末を用いれば、寸法精度が高い焼結体を容易かつ高い歩留まりで製造できる。
Claims (4)
- フッ化ニオブ溶液と沈澱剤とを混合することにより生成される沈澱物を焼成して酸化ニオブを製造する方法において、
沈澱剤として、アンモニア、炭酸アンモニウムまたは炭酸水素アンモニウムから選択される少なくとも1種を用い、
フッ化ニオブ溶液と沈澱剤とを混合する工程では、フッ化ニオブ溶液と沈澱剤との混合物の温度を0℃〜60℃に維持しつつ前記沈澱物を生成することを特徴とする酸化ニオブの製造方法。 - 沈澱物を焼成する温度は、700℃〜1100℃である請求項1に記載の酸化ニオブの製造方法。
- タップ法見掛け密度が0.8g/mL〜2.5g/mLであり、ブレーン法平均粒径が2μm〜20μmである酸化ニオブ。
- 静置法見掛け密度が0.65g/mL〜2.0g/mLである請求項3に記載の酸化ニオブ。
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