JP7286183B2 - ユーグレナの培養方法 - Google Patents

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Description

本発明は、ユーグレナの培養方法に関する。
微細藻類の一種であるユーグレナ(Euglena gracilis)は長さが約50μm、幅が約10μm、植物にも動物にも属する生き物である。ユーグレナはミドリムシとしても知られており、光合成によって水と二酸化炭素から有機化合物を合成し、酸素を放出する。
ユーグレナは、それ自身の栄養価が高いことから、乾燥粉末が食品添加物や栄養補助食品(サプリメント)として利用されている。また、ユーグレナの産生物質のひとつであるパラミロンは、ナノファイバーの原料物質として利用され、ワックスエステル(炭素数が十数個のアルコールとカルボン酸からなるエステル化合物)は燃料としての活用が期待されている。
米国特許出願公開第2003/0180898号明細書 特開昭63-71192号公報
Ogbonna, JC., Tomiyama, S., Tanaka, H., Heterotrophic cultivation of Euglena gracilis Z for efficient production of alpha-tocopherol. Journal of Applied Phycology 10, 67. Doucha, J., Livansky, K.,(2011), Production of high-density Chlorella culture grown in fermenters. J Appl Phycol, 24, 35-43. Swaaf, ME., Sijtsma, L.,Pronk, JT., (2003), High-cell-density fed-batch cultivation of the docosahexaenoic acid producing marine alga Crypthecodinium cohnii. Biotechnol Bioeng, 81, 666-672. Schmidt, RA., Wiebe, MG., Eriksen, NT., (2005), Heterotrophic high cell-density fed-batch cultures of the phycocyanin-producing red alga Galdieria sulphuraria. Biotechnol Bioeng, 90, 77-84. 29-36. Ganuza, E., et al., (2008), High-cell-density cultivation of Schizochytrium sp. In an ammonium/pH-auxostat fed-batch system. Biotechnology Letters. 30, 1559-1564.
ユーグレナが産生する物質の工業的、商業的利用を実現するためには、目的とする物質を産生する能力に優れたユーグレナを安定的に且つ大量に培養する技術が求められる。
一般的に、微生物を大量に培養する場合、培養槽内に微生物を高密度に充填して培養する高密度培養法が用いられる。高密度培養における培養能力は、例えば、一度に培養可能な単位容量当たりの微生物の量(これを最大バイオマス収量という)で表すことができる。これまでに報告されている高密度培養における微細藻類の最大バイオマス収量は、クロレラ属(chlorella vulgaris)が117.2g/L、クリプテコディヌウム属(Cryptecodiniumu cohnii)が109.0g/L、ガルディエリア属(Galdieria sulphurariaha )が116.0g/L、スラウストキトリアルス(Thraustochytriales)が221.0g/Lであるのに対して、ユーグレナ(Euglena gracilis)では48.2g/Lであり、他の微細藻類に比べるとユーグレナは最大バイオマス収量が低く(特許文献1、非特許文献1~4)、ユーグレナの最大バイオマス収量を高めることができる培養条件が模索されていた。なお、ここでは、単位容量当たりの微細藻類の乾燥重量でバイオマス収量が表されている。
本発明が解決しようとする課題は、ユーグレナを大量培養する技術の提供である。
上記課題を解決するために成された本発明に係るユーグレナの培養方法は、
グルコース濃度が0%から2%までの間の所定の濃度である低濃度培養液と、グルコース濃度が2%よりも高く且つ8%以下の所定の濃度である高濃度培養液とから成る、グルコース濃度が異なる複数種類の馴化用培養液を用意し、グルコース濃度が低い馴化用培養液から順に該馴化用培養液を使ってユーグレナを培養する馴化工程と、
前記馴化工程で得られたユーグレナを、グルコース濃度が前記高濃度培養液と同じか、前記高濃度培養液よりも高く且つ8%以下である増殖用培養液を使って培養する増殖工程とを有することを特徴とする。
上記課題を解決するために成された本発明に係るユーグレナの培養方法は、
グルコース濃度が0%から2%までの間の所定の濃度である低濃度培養液と、グルコース濃度が2%よりも高く且つ8%以下の所定の濃度である高濃度培養液と、グルコース濃度が前記低濃度培養液よりも高く、前記高濃度培養液よりも低い濃度である中間濃度培養液とから成る、グルコース濃度が異なる複数種類の馴化用培養液を用意し、グルコース濃度が低い馴化用培養液から順に該馴化用培養液を使ってユーグレナを培養する馴化工程と、
前記馴化工程で得られたユーグレナを、グルコース濃度が前記高濃度培養液と同じか、前記高濃度培養液よりも高く且つ8%以下である増殖用培養液を使って培養する増殖工程と
を有することを特徴とする。
上記のユーグレナの培養方法において、前記中間濃度培養液が、濃度が異なる複数種類の培養液から成るものとしても良い。
一般的に培養液に含まれるグルコース等の炭素源の濃度が高いほど微細藻類の高密度培養が可能となり、バイオマスス収量が増加する。ところが、ユーグレナを培養する場合、培養液に含めることができるグルコール濃度はせいぜい2%程度で、それ以上にグルコースの濃度を高めるとかえって増殖率が低下したり、増殖阻害が起きたりすることが知られていた。これに対して、本発明者は、ユーグレナの培養液に含まれるグルコース濃度を徐々に高めていくことにより、グルコース濃度が高い培養液に対して、つまり高濃度グルコースに対して耐性を有するユーグレナが現れることを見いだした。本発明はこのような知見に基づきなされたものである。本発明では、ユーグレナに高濃度グルコースに対する耐性を獲得させることを「馴化」と呼ぶこととする。
つまり、本発明では、馴化用培養液として、グルコース濃度が0%から2%までの間の所定の濃度である低濃度培養液と、グルコース濃度が2%よりも高く且つ8%以下の所定の濃度である高濃度培養液とを用意する。あるいは、馴化用培養液として、低濃度培養液及び高濃度培養液と、グルコース濃度が前記低濃度培養液よりも高く、前記高濃度培養液よりも低い濃度である1又は複数種類の中間濃度培養液とを用意する。そして、グルコース濃度が低い馴化用培養液から順に該馴化用培養液を使ってユーグレナを培養することで、従来のユーグレナが耐え得る培養液中のグルコース濃度である2%よりも高濃度のグルコースにユーグレナを馴化させる。馴化工程で得られたユーグレナは、増殖工程において、グルコース濃度が前記高濃度培養液と同じか、前記高濃度培養液よりも高く且つ8%以下である増殖用培養液を使って培養することで増殖する。なお、厳密な意味では「8%以下の所定の濃度」には8%を超える濃度は含まれないが、実質的に同一とみなされる範囲であれば8%を多少上回る濃度も含まれることとする。
例えば、低濃度培養液のグルコース濃度を1.0%、高濃度培養液のグルコース濃度を2.5%とすることで、ユーグレナは少なくとも2.5%のグルコース濃度に対する耐性を獲得する。また例えば、低濃度培養液のグルコース濃度を1.0%、中間濃度培養液のグルコース濃度を2.0%、高濃度培養液のグルコース濃度を3.0%としたとき、ユーグレナは少なくとも3.0%のグルコース濃度に対する耐性を獲得する。また例えば、低濃度培養液のグルコース濃度を2.0%、中間濃度培養液のグルコース濃度を2.2%~4.8%の1又は複数種類の濃度、高濃度培養液のグルコース濃度を5.0%としたとき、ユーグレナは少なくとも5.0%のグルコース濃度に対する耐性を獲得する。馴化工程によりグルコース濃度が高い培養液に対する耐性を獲得したユーグレナ(糖耐性ユーグレナ)を本出願人は「ハイパー株」と呼んでいる。ハイパー株を作出したことで、増殖工程においてグルコース濃度が2%よりも高く且つ8%以下の高濃度の培養液を使ってユーグレナを培養しても、増殖率が低下したり増殖が阻害されたりすることがなく、ユーグレナを安定的に且つ効率よく増殖させることができる。
馴化工程で使用される馴化用培養液は、グルコース濃度が2%の低濃度培養液及び5%の高濃度培養液と、グルコース濃度が2%から5%までの間の複数種類の中間濃度培養液から成ると良い。このとき、グルコース濃度が2%~5%までの間の中間濃度培養液の当該グルコース濃度は、2%から5%までの範囲を等分した値に設定すると、馴化工程で用いられる馴化用培養液のグルコース濃度を直線的に高めることができる点で好ましいが、これに限らない。
また、高濃度培養液のグルコース濃度が5%であるとき、前記増殖用培養液のグルコース濃度は5%~8%の間の所定の濃度にすると、ユーグレナを効率よく増殖させることができる。
また、本発明においては、前記馴化工程と前記増殖工程の間に、該馴化工程において得られたユーグレナの中から増殖率の高いユーグレナを選抜する選抜工程を有すると良い。これにより、増殖工程におけるユーグレナの増殖率を高めることができる。
ところで、グルコース濃度が2%よりも高い培養液に対する耐性を既に有しているユーグレナの場合には、馴化工程を経なくても、培養当初からグルコース濃度が2%よりも増殖用培養液を使って培養することができる。そこで、本発明に係るユーグレナの培養方法は、グルコース濃度が2%よりも高く、且つ8%以下である所定の濃度の増殖用培養液を使ってユーグレナを培養するものとすることができる。また、本発明はユーグレナの製造方法にも適用できる。つまり、本発明に係るユーグレナの製造方法は、グルコース濃度が2%よりも高く、且つ8%以下である所定の濃度の増殖用培養液を使ってユーグレナを培養し、増殖させることを特徴とする。
グルコース濃度が2%よりも高い培養液に対する耐性を有しているユーグレナ(糖耐性ユーグレナ)は、本発明の糖耐性ユーグレナの製造方法で製造することができる。本発明の糖耐性ユーグレナの製造方法は、グルコース濃度が0%から2%までの間の所定の濃度である低濃度培養液と、グルコース濃度が2%よりも高く且つ8%以下の所定の濃度である高濃度培養液とから成る、グルコース濃度が異なる複数種類の馴化用培養液を用意し、グルコース濃度が低い馴化用培養液から順に該馴化用培養液を使ってユーグレナを培養する工程を有するもの、あるいは、グルコース濃度が0%から2%までの間の所定の濃度である低濃度培養液と、グルコース濃度が2%よりも高く且つ8%以下の所定の濃度である高濃度培養液と、グルコース濃度が前記低濃度培養液よりも高く、前記高濃度培養液よりも低い濃度である中間濃度培養液とから成る、グルコース濃度が異なる複数種類の馴化用培養液を用意し、グルコース濃度が低い馴化用培養液から順に該馴化用培養液を使ってユーグレナを培養する工程を有するものである。
また、上述した以外に糖耐性ユーグレナは、天然の淡水中又は海水中から採取した、天然のユーグレナの中から所定の条件を満たすものを選抜し分離することで取得しても良く、天然のユーグレナ若しくは微生物保存機関から取得したユーグレナの継代培養を続けるなかで現れた自然変異種であっても良い。また、糖耐性ユーグレナは、公知の方法で突然変異を誘導させたり、遺伝子組み換えやゲノム編集等の技術を利用したりして人為的に作出することもできる。
本発明によれば、ユーグレナを安定的に且つ効率よく大量培養することができる。
本発明の実施例1における馴化工程の模式図。 6種類のユーグレナの耐性株と非馴化株のバイオマス収量の時間的変化を示すグラフ。 6種類のユーグレナの耐性株のバイオマス収量と細胞内組成を表すグラフ。 6種類のユーグレナの非馴化株のバイオマス収量と細胞内組成を表すグラフ。 実施例2における、培養液量とバイオマス収量との関係を示すグラフ。 培養液量の増殖に及ぼす影響を示すグラフ。 培養液のpHとバイオマス収量との関係を示すグラフ。 培養液のpHの増殖に及ぼす影響を示すグラフ。 培養液のC/Nとバイオマス収量との関係を示すグラフ。 培養液のC/Nの増殖に及ぼす影響を示すグラフ。 実施例3における、培養液中のグルコース濃度と乾燥藻体重量との関係を示すグラフ。 培養液のグルコース濃度が増殖に及ぼす影響を示すグラフ。 実施例4における、培養液の濁度および糖濃度と培養時間との関係を示すグラフ。 暗条件及び明条件での培養を行った後の耐性株の写真。
本発明は、グルコース濃度が2%よりも高く、且つ8%以下である所定の濃度の増殖用培養液を使ってユーグレナを培養することを特徴とする。具体的には、本発明に係るユーグレナの培養方法は、グルコース濃度が0%から2%までの間の所定の濃度である低濃度培養液と、グルコース濃度が2%よりも高く且つ8%以下の所定の濃度である高濃度培養液とから成る、グルコース濃度が異なる複数種類の馴化用培養液を用意し、グルコース濃度が低い馴化用培養液から順に該馴化用培養液を使ってユーグレナを培養する馴化工程と、前記馴化工程で得られたユーグレナを、グルコース濃度が前記高濃度培養液と同じか、前記高濃度培養液よりも高く且つ8%以下である増殖用培養液を使って培養する増殖工程とを有するものである。
また、本発明に係るユーグレナの培養方法は、グルコース濃度が0%から2%までの間の所定の濃度である低濃度培養液と、グルコース濃度が2%よりも高く且つ8%以下の所定の濃度である高濃度培養液と、グルコース濃度が前記低濃度培養液よりも高く、前記高濃度培養液よりも低い濃度である中間濃度培養液とから成る、グルコース濃度が異なる複数種類の馴化用培養液を用意し、グルコース濃度が低い馴化用培養液から順に該馴化用培養液を使ってユーグレナを培養する馴化工程と、前記馴化工程で得られたユーグレナを、グルコース濃度が前記高濃度培養液と同じか、前記高濃度培養液よりも高く且つ8%以下である増殖用培養液を使って培養する増殖工程とを有するものである。
本発明の培養方法で用いられるユーグレナは、典型的にはユーグレナ属のユーグレナ グラシリス(Euglena gracilis)であるが、ユーグレナ属であればそれ以外の種類(species)であっても良い。また、ユーグレナは、湖沼や池、水田等の天然の淡水中あるいは海水中から採取したもの、微生物保存機関から入手したもののいずれを用いても良い。さらに、天然の淡水中又は海水中から採取したユーグレナ、あるいは微生物保存機関から入手したユーグレナを継代培養したものでも良く、公知の方法で突然変異を誘導させたり、遺伝子組み換えやゲノム編集等の技術を利用したりして人為的に作出した変異種を用いても良い。
馴化用培養液は、ユーグレナ等の微細藻類の培養に一般的に使用される培養液に適宜の量のグルコースを添加してグルコース濃度を調整したものを用いることができる。
以下、本発明の実施例について説明する。
[実施例1]
1.馴化工程
図1は本実施例の馴化工程の手順を示す模式図である。本実施例では以下の表1に示す、ユーグレナ グラシリス(以下、ユーグレナという)の6種類の株を使用した。
Figure 0007286183000001
また、馴化工程では、A培地に2N(規定度)の水酸化ナトリウム又は2Nの塩酸を添加してpH4.5に調整した後、20g/L~50g/Lの範囲の適宜の量のグルコースを添加してグルコース濃度を2.0%~5.0%に調整した培養液を用いた。A培地の組成、及びA培地に含まれるD溶液及びE溶液の組成をそれぞれ表2、表3、表4に示す。D溶液は、透明になるまで5Nの塩酸を添加したものを用いた。なお、本明細書では、グルコース濃度(%)はいずれも溶質重量/容量%(W/V%)を意味する。
Figure 0007286183000002
Figure 0007286183000003
Figure 0007286183000004
馴化工程では、100mL容量のバッフル付きフラスコを6個用意し、それぞれに上述した培養液を20mLずつ入れ、滅菌した後、上述したユーグレナ グラシリスの6種類の株をそれぞれ所定量ずつ植藻(植菌ともいう)した。これを、温度28℃、撹拌速度110rpm、暗黒下の条件で72時間、回転振とう培養した後、そこから増殖したユーグレナを含む培養液を1mL採取し、別のフラスコに収容された培養液に植え継ぎ、同じ条件、同じ時間で培養を行った。
馴化工程では、初発グルコース濃度を2.0%とし、植え継ぎを行う毎に培養液中のグルコース濃度を0.2%高くした。そして、培養液中のグルコース濃度が5.0%に達した時点で、培養を終了した(つまり、同じフラスコ内での培養を1サイクルとすると、第15サイクルで終了)。以上の馴化工程で得られた株を以下では「耐性株」と呼ぶこととする。
一方、比較工程として、グルコース濃度が2.0%の培養液を用いた以外は上記馴化工程と同じ条件、同じ時間で、ユーグレナの6種類の株の培養を行った。この比較工程で得られた株を以下では「非馴化株」と呼ぶこととする。
2.増殖能力の高い株の選抜
(1) 馴化工程終了後の培養液(つまり耐性株を含む培養液)、及び比較工程収量後の培養液(つまり非馴化株を含む培養液)をそれぞれ1mLずつ、1.5mL容量のチューブ(エッペンドルフ ジャパン製)に移し、生理食塩水で10万倍に希釈した。
(2) 希釈液100μLを、培養皿に入った寒天培地(A培地、グルコース濃度5.0%)に接種し、コンラージ棒で均等に塗り広げた。
(3) 1週間後、寒天培地に出現したコロニーを観察し、増殖速度が最も速かったコロニーを採取し、これらをそれぞれ6種類のユーグレナの耐性株及び非馴化株の選抜株とした。
3.増殖工程
6種類のユーグレナの耐性株の選抜株をグルコース濃度を5.0%に調整した培養液で、及び6種類のユーグレナの非馴化株の選抜株をグルコース濃度を2.0%に調整した培養液で、それぞれ、上述した馴化工程と同じ条件で72時間培養を継続し、そこから採取した1.0mLの培養液を、グルコース濃度が同じ新たな培養液に植え継ぐ作業を繰り返した。植え継ぐ際にバッフル付きフラスコから所定量の培養液をサンプルとして採取し、後述するバイオマス収量(1Lあたりの乾燥藻体重量)、残糖量、細胞内成分含量の測定に供した。
4.バイオマス収量の測定
(1) 恒量になった1.5mL容量のエッペンドルフチューブに、増殖工程で採取した1.0mLの培養液を入れ、遠心分離(5000rpm、5分間)を行った。
(2) 遠心分離の後、上清を除去し、そこに、0.8%生理食塩水を1.0mL加え、ボルテックスミキサーを用いて撹拌した。
(3) 再び、遠心分離(5000rpm、5分間)を行い、上清を除去した。
(4) (2)及び(3)の工程を再度繰り返した。
(5) エッペンドルフチューブを加熱し、該チューブ内の細胞(ユーグレナの細胞)を乾燥した(105℃、12時間)。
(6) エッペンドルフチューブをデシケーターに入れて放冷した後、エッペンドルフチューブの重量を測定し、そこから該エッペンドルフチューブの初期重量を差し引いて細胞の乾燥細胞重量を算出した。
5.残糖量の測定
植え継ぎ時に採取した1.5mLの培養液に含まれるグルコースの濃度を、グルコースC-IIテストワコーキット(ムタローゼ・GOD法、和光純薬株式会社製)を用いて測定した。測定波長は550nmに設定した。
6.バイオマス収量及び残糖量の測定結果
図2は、6種類のユーグレナの耐性株及び6種類のユーグレナの非馴化株のバイオマス収量の時間的変化を示すグラフである。これらのグラフの横軸は培養時間を、縦軸は細胞の乾燥重量を表している。
図2から分かるように、6種類すべてのユーグレナにおいて非馴化株より耐性株の方が長時間、増殖することが確認できたが、株の種類により増殖速度が大きく異なっていた。具体的には、耐性株のうち、NIES48、PO、SM-ZK、IGの4株は培養96時間で定常期に達し、それ以降はバイオマス収量はほとんど変化しなかったのに対し、NIES47は培養120時間、NIES49は培養144時間でそれぞれ定常期に達した。また、耐性株のうち、NIES48、PO、SM-ZKの3株の耐性株は、培養48時間の時点で未馴化株と同様の増殖速度を示したが、NIES47、NIES49、IGの3株の耐性株は、培養48時間の時点では未馴化株に比べて増殖速度が低下していた。
表5は、6種類のユーグレナの耐性株及び非馴化株のバイオマス収量の対糖収率を示している。バイオマス収量の対糖収率は、培養開始時の培養液中のグルコース量に対する培養後のバイオマス収量の割合を意味する。培養開始時の培養液1L中のグルコース量が1gであり培養後のバイオマス収量が1gであるとき、対糖収率は100%となる。
表5から分かるように、耐性株及び非馴化株のいずれにおいても、株間で顕著な差は確認できなかったが、耐性株と非馴化株の間で大きな差が見られた。すなわち、未馴化株では、すべての株においても対糖収率が50%以上の値を示したのに対し、耐性株では、いずれの株も対糖収率は32%~42%の範囲内にあり、未馴化株よりも対糖収率が低下していた。
Figure 0007286183000005
7.細胞内成分の測定
増殖が定常期初期もしくは対数増殖期後期に達した時点で、50mL容量の遠沈管に培養液を回収した。回収した培養液を遠心分離し(3000rpm,5min)、上清を除去して細胞を得、これを凍結乾燥して以下の細胞内成分の分析に供した。未馴化株については、培養72時間の培養液を回収し、耐性株については、株により増殖速度が異なるため培養液の回収時間を次のように設定した。すなわち、NIES49の耐性株は培養144時間、NIES47、NIES48、NIES49、PO、SM-ZK及びIGの耐性株は培養96時間で、それぞれ培養液を回収した。
7-1.パラミロンの測定
植え継ぎ時に採取した2.0mLの培養液に含まれるパラミロンの含量を以下の手順で測定した。
A.パラミロンの精製
(1) 2mL容量のエッペンチューブに培養液2mLを入れ、遠心分離(5000rpm, 5min)を行い、上清を除去した。
(2) イオン交換水300μLを加え、ボルテックスミキサーで撹拌して細胞を完全に分散させて、軽くスピンダウンした。
(3) エッペンチューブにフロートを取り付け、超音波洗浄機に浮かべて細胞を破砕した(5min)。
(4) アセトン1200μLを加え、ボルテックスミキサーで十分攪拌し、遠心分離(5000rpm, 5min)した。
(5) ピペットマン(登録商標)で上清を丁寧に除去し、アセトン1500μLを加え、ボルテックスミキサーで十分攪拌し、遠心分離(5000rpm, 5min)した。
(6) アセトン処理及び遠心分離を再度繰り返した。
(7) ピペットマンで上清を除去し、10% SDS水溶液1500μLを加え、ボルテックスミキサーで十分攪拌して細胞を十分分散させ、軽くスピンダウンさせた。
(8) エッペンチューブのキャップを開けた状態で、100℃のアルミブロックヒーター上で30分間加熱した。
(9) 放冷後、遠心分離(5000rpm, 5min)して、ピペットマンで上清を除去し、0.1%SDS水溶液1500μLを加え、ボルテックスミキサーで十分攪拌して細胞を十分分散させた。
(10) 遠心分離(5000rpm, 5min)して、ピペットマンで上清を丁寧に除去し、イオン交換水1500μLを加え、ボルテックスミキサーで十分撹拌して細胞を十分分散させた。以上により、パラミロンを精製した。
(11) 精製したパラミロンに1Nの水酸化ナトリウム溶液1mLを加えて完全に溶解させたものを、次のパラミロンの定量用サンプルとした。
B.パラミロンの定量(フェノール硫酸法)
(1) 上述した定量用サンプルに100μLに、イオン交換水900μLを加えて希釈した。
(2) 200μg/mLのグルコース溶液 250μLにイオン交換水750μLを加え、グルコース濃度が50μg/mLの標準試料を調製した。
(3) 希釈した定量用サンプル、標準試料に80%フェノール溶液を25μL加え、ボルテックスミキサーで十分撹拌した。
(4) ドラフト内で濃硫酸2.5mLを加え、ボルテックスミキサーで十分撹拌した。
(5) 放冷後、吸光波長490nmで吸光度を測定した。
C.パラミロン含量の算出方法
以下の式(1)から、パラミロン含量(μg)を算出した。式(1)中、Eは試料の吸光度を、E0は標準試料の吸光度をそれぞれ表している。なお、式(1)中、「180.16」は標準試料に含まれるグルコースの分子量であり、「162.14」はグルコースが脱水縮合しβ-1,3結合した多糖類であるパラミロンの分子量である。
パラミロン含量(μg)=E/E0×50(μg/mL)×1(mL)/(180.16/162.14)×希釈倍率
…(1)
7-2.その他の成分の定量
タンパク質の定量は、Kjeldahl法を用いた(特許文献2)。また、脂質は、改訂されたFolch法(非特許文献5)を用いた。
8.細胞内成分の測定結果
8-1.パラミロン含量の対糖収率
表6は、6種類のユーグレナの耐性株及び非馴化株のパラミロン含量の対糖収率を示している。パラミロン含量の対糖収率は、培養開始時の培養液中のグルコース量に対する培養後のパラミロン含量の割合を意味する。培養開始時の培養液中のグルコース量が1gであり培養後のパラミロン含量が1gであるとき、対糖収率は100%となる。
表6から分かるように、パラミロン含量における対糖収率は、PO及びSM-ZKの2株は未馴化株よりも耐性株の方が高い値を示したが、NIES47、NIES48、NIES49の3株は耐性株と未馴化株とで同等の値を示した。また、耐性株においてバイオマス収量の対糖収率が最も低かったIGのパラミロン含量の対糖収率については、耐性株の方が未馴化株よりも低い値を示した。
Figure 0007286183000006
8-2.バイオマス収量に占める各成分の割合
図3及び図4は、6種類のユーグレナの耐性株及び非馴化株の最大バイオマス収量と細胞内組成を示している。図3及び図4の横軸はユーグレナの種類の名称を、縦軸は細胞内組成物及び最大バイオマス収量の値(g/L)を示している。つまり、各棒グラフの高さが各種類の最大バイオマス収量を表している。
図3と図4の比較から分かるように、6種類のユーグレナの全てにおいて、耐性株の最大バイオマス収量は、未馴化株の最大バイオマス収量の約1.5倍から2.0倍であった。また、NIES48の耐性株においては20g/L以上の最大バイオマス収量を示し、Tukeyの多重比較検定の結果、IGに比べ有意に高い値を示した(p<0.05)が、その他の株との間では有意な差は認められなかった。
また、パラミロン含量及びパラミロン含有率については、6種類のユーグレナの全てにおいて、未馴化株よりも耐性株の方が高い値を示した。特に、6種類のユーグレナのうちPO及びSM-ZKの耐性株は、パラミロン含有率が50%以上であり、他の4種類の耐性株に比べて有意に高い値を示した(p<0.05)。
以上の結果から、本実施例の培養方法は、パラミロンを得る目的でユーグレナを培養する方法として有用であるといえる。
6種類のユーグレナの全てにおいてタンパク質含量は耐性株の方が未馴化株よりも多かったが、タンパク質含有率については耐性株の方が未馴化株よりも低かった。一方、脂質含量については、耐性株の方が未馴化株よりも多かったが、脂質含有率については、耐性株と未馴化株との間に顕著な差は確認できなかった。
なお、本実施例では、馴化工程で用いられた、グルコース濃度が2.0%の培養液が本発明の低濃度培養液に、グルコース濃度が2.2%~4.8%の培養液が中間濃度培養液に、グルコース濃度が5.0%の培養液が高濃度培養液に相当するが、視点を変えると、グルコース濃度が2.0%の培養液を低濃度培養液、2.2%の培養液を高濃度培養液とみなすことができる。この場合は、グルコース濃度が2.2%又は2.4%の培養液が増殖用培養液に相当する。また、グルコース濃度が2.0%の培養液を低濃度培養液、4.0%の培養液を高濃度培養液、2.2%~3.8%の培養液を中間濃度培養液とすると、グルコース濃度が3.8%又は4.0%の培養液は増殖用培養液に相当する。つまり、本実施例の結果から、グルコース濃度が2%よりも高く、且つ5%以下の培養液に対する耐性を有するユーグレナを作出できることが分かる。
[実施例2]
本発明の増殖工程における培養条件を検討するため、培養液の液量、培地のpH、培地に含まれる炭素源(C)と窒素源(N)との比率(C/N)を異ならせた複数種類の培養液を用いて、耐性株の培養を行った。耐性株としては、実施例1の馴化工程で得られたNIES48の耐性株(選抜株)を用いた。
1.液量の影響
実施例1の増殖工程において、耐性株に用いた培養液と同じ組成の培養液を、それぞれ5mL、10mL、15mL、20mL、25mL、30mLずつ、それぞれ別のバッフル付きフラスコに入れ、実施例1の増殖工程と同じ条件でNIES48の耐性株を培養した。24時間培養を継続した後、そこから採取した1.0mLの培養液を、同じ液量の新たな培養液に植え継ぐ(継代)という作業を繰り返した。植え継ぐ際に各培養液をサンプルとして採取し、バイオマス収量(1Lあたりの乾燥藻体重量)、濁度(OD660)の測定に供した。濁度は、増殖率を表す指標であり、濁度が大きいほど耐性株が増殖したこと(増殖率が大きいこと)を示す。
図5は培養液量とバイオマス収量との関係を示している。同図から分かるように、バイオマス収量が最も高い値を示したのは培養液量が5mLの試験区であり、Tukeyの多重比較法の結果、その他の試験区に比べて有意に高かった(p<0.05)。一方、バイオマス収量が最も低い値を示したのは培養液量が30mLの試験区であり、培養液量が25mLの試験区との間には有意差が認められなかったが、その他の試験区と比べると有意に低い値を示した(p<0.05)。つまり、培養液量が少ないほどバイオマス収量が高くなる傾向を示した。培養液量が少ないほど培養液中への空気供給量が多くなり、その結果、バイオマス収量が増加したものと思われる。
また、図6は24時間毎に測定したOD660の結果を示している。同図から分かるように、培養48時間までは、全ての試験区でOD660がほぼ同様に増加し、同様に増殖していることが確認された。培養72時間以降では、培養液量が25mL及び30mLの試験区で、OD660の数値が横ばいになり増殖が停滞する傾向を示したが、その他の試験区では、培養72時間以降もOD660が増加する傾向を示した。以上より、培養液量が少ないほど培養後期において良好な増殖を示すことが示唆された。
2.pHの影響
実施例1の増殖工程において、耐性株に用いた培養液と同じ組成の培養液のpHを、それぞれ2.5、3.5、4.5、5.5、6.5、7.5に調整し、各培養液をバッフル付きフラスコに入れ、実施例1の増殖工程と同じ条件でNIES48の耐性株を培養した。24時間培養を継続した後、そこから採取した1.0mLの培養液を、同じ液量の新たな培養液に植え継ぐ作業を繰り返し、植え継ぐ際に5mLの培養液をサンプルとして採取し、バイオマス収量、濁度(OD660)の測定に供した。また、72時間、96時間、120時間培養した後の培養液5mLを回収し、それぞれ遠心分離(6000rpm、5min)した後、上清を回収し、pHを測定した。
図7は培養液のpHとバイオマス収量との関係を示している。同図から分かるように、バイオマス収量が最も高い値を示したのはpHが7.5の試験区であった。Tukeyの多重比較法の結果、pHが7.5の試験区とpHが6.5の試験区との間には有意差がみられなかったが、その他の試験区との間には有意差がみられた(p<0.05)。また、pHが3.5及び4.5の試験区の間では有意差は認められず、pHが2.5の試験区はその他の試験区に比べ有意に低い値を示した。以上より、pHが高い試験区ほどバイオマス収量が高くなる傾向を示すことが示唆された。
また、図8は24時間毎に測定したOD660の結果を示している。同図から分かるように、pHが3.5、4.5、5.5、6.5、7.5の試験区では、培養96時間で定常期に達し増殖が停滞した。pHが2.5の試験区は、その他の試験区に比べて増殖速度が遅く、培養120時間に達しても増殖する傾向が見られた。
また、初発培養液のpHと培養後の培養液のpHを表7に示す。この表から分かるように、初発培養液のpHが2.5~6.5の試験区ではいずれも培養後のpHが3.0以下に低下していた。また、初発培養液のpHが7.5の試験区では培養後のpHが3.59に低下し、pHが2.5の試験区では培養後のpHが1.77に低下していた。以上より、全ての試験区において培養後のpHは酸性に偏る傾向が示された。
Figure 0007286183000007
3.C/Nの影響
実施例1の増殖工程において、耐性株に用いた培養液と同じ組成の培養液に、グルコース量は変えずに窒素源としてポリペプトンを添加し、C/Nをそれぞれ10、20、30、40、50に調整して培養試験を行った。なお、実施例1の増殖工程において、耐性株に用いた培養液のC/Nは22.9である。
図9は培養液のC/Nとバイオマス収量との関係を示している。Tukeyの多重比較の結果、バイオマス収量が最も高い値を示したC/N40の試験区は、C/N50の試験区との間では有意差は見られなかったが、それ以外の試験区(C/N10、20、30)に比べ有意差が認められた。また、C/Nが高い試験区ほどバイオマス収量が高くなる傾向を示した(p<0.05)。
また、各試験区のパラミロン含量及び含有率に関しては、Tukeyの多重比較の結果、全ての試験区の間で有意差が認められ、C/Nが高い試験区ほどパラミロン含量が高くなる傾向を示した(p<0.05)。
また、図10に24時間毎に測定したOD660の結果を示している。同図から分かるように、培養48時間の時点では、C/N10の試験区では、その他の試験区に比べてOD660の値が低かったが、培養96時間の時点では、C/N10の試験区でOD660の値が最も高くなり、C/N50の試験区でOD660の値が最も低い値を示した。よって、培養後半ではC/Nが低いほどOD660の値が高くなる傾向が示された。
表8は、培養後の上清に含まれる残糖量とC/Nとの関係を示している。この表から分かるように、培養106時間の時点では全ての試験区で培養液中にグルコースが残っていた。また、培養120時間の時点では、C/Nが10、20、30の試験区ではグルコース濃度は1%ほどしか確認できなかったが、C/N40の試験区ではグルコース濃度が3%、C/Nが50の試験区ではグルコース濃度が7%残っていることが確認された。さらに、培養144時間の時点では、C/N50以外の試験区では培養液中のグルコースは枯渇していた。以上より、C/Nが低い試験区ほど糖の消費が速く、C/Nが高いほど糖の消費が遅くなる傾向が示された。
Figure 0007286183000008
表9は、バイオマス収量が最も高い値を示したC/N40の試験区の上清に含まれる窒素及びリンの定量結果を示している。この表から、培養106時間の時点で上清には窒素が0.13mg/ml、リンが0.15mg/ml含まれていたことが分かった。これは、初発培養液に含まれる窒素及びリンの含量の26.0%、55.6%に相当する。
Figure 0007286183000009
[実施例3]
培養液に含まれるグルコース濃度を6%、7%、8%、9%、10%に調整した以外は、実施例1と同じ条件で増殖工程における耐性株の培養を行った。耐性株としては、実施例1の馴化工程で得られたNIES48の耐性株(選抜株)を用いた。
実施例1、2と同様、24時間培養を継続した後、そこから採取した1.0mLの培養液を、同じ液量の新たな培養液に植え継ぐ作業を繰り返し、植え継ぐ際に培養液を採取して、乾燥藻体重量を測定した。培養液中のグルコースが枯渇した時点で培養を終了した。
図11はグルコース濃度と1Lあたりの乾燥藻体重量(バイオマス収量(g/L))との関係を示すグラフを、図12はOD660の時間的変化をそれぞれ示している。図11から分かるように、乾燥藻体重量が最も高い値を示したのはグルコース濃度が7%の試験区で、その他の試験区との間に有意差がみられた。乾燥藻体重量が最も低い値を示したのはグルコース濃度が9%の試験区で、グルコース濃度が8%、10%の試験区との間には有意差が認められなかったが、他の試験区との間で有意差がみられた。
図12は、OD660の値で表した増殖曲線である。図12には、増殖速度の比較のため、グルコース濃度が2%での増殖曲線も示した。図12より、グルコース濃度が6%では、グルコース濃度が2%の培養液とほぼ同じ増殖速度を示し、グルコース濃度が7%ではグルコース濃度が2%の培養液よりも若干遅い増殖速度を示した。また、グルコース濃度が8~10%の試験区ではほとんど増殖しなかった。
[実施例4]
実施例1の馴化工程で得られたNIES48の耐性株(選抜株)を、グルコース濃度を8%に調整した培養液を使って培養する増殖工程を行った。グルコース濃度を8%に調整した培養液の組成を以下の表10に示す。
Figure 0007286183000010
本実施例では、上記の培養液50mLを100mL容量のバッフル付きフラスコに入れ、そこに実施例1の馴化工程で得られたNIES48の耐性株を含む培養液を約1mL(前記グルコース濃度8%の培養液の2%相当量L)加え、温度28℃、撹拌速度100rpm、暗黒下の条件で458時間、回転振とう培養を行った。培養を開始してから適宜のタイミングで培養液を採取して、その濁度(OD660)、残糖量(糖濃度)、バイオマス収量(g/L)(1Lあたりの乾燥藻体重量)を測定した。残糖量、バイオマス収量の測定方法は、実施例1で説明した通りである。
表11に、培養液の濁度(OD660)、糖濃度、バイオマス収量(g/L)、対糖収率(%)を培養時間とともに示す。また、図13は、培養液の濁度(OD660)および糖濃度の時間的変化を示すグラフである。
Figure 0007286183000011
表11および図13から分かるように、培養95時間まではほとんど濁度の変化が見られなかったが、培養95時間を超えたあたりから濁度が徐々に上昇し始め、培養212時間以降、濁度が大きく上昇し、耐性株の増殖が観察された。つまり、実施例3では、培養216時間までの間、グルコース濃度が8%の培養液の試験区での耐性株の増殖は観察されなかったが、本実施例では、培養95時間を超えたあたりから耐性株の増殖が観察され、特に培養216時間以降では増殖速度が上昇した。また、培養361時間、406時間、458時間における糖濃度は、それぞれ7.32%、6.37%、6.07%であり、培養液中のグルコースが消費されていたことからも耐性株の増殖が裏付けられた。以上の結果から、グルコース濃度が8%以上の培養液を用いた場合でも耐性株が増殖することが確認された。また、グルコース濃度が8%以上の培養液を用いる場合は、グルコース濃度が8%未満の培養液を用いる場合よりも増殖工程を長くすることが耐性株を増殖させるうえで有効であることが推測された。
一方、培養406時間と培養458時間のバイオマス収量は、いずれも10.0g/Lであり、対糖収率は59.6%、50.6%であった。この結果から、培養406時間程度で耐性株の増殖はほぼ定常期に達したものと思われた。
また、上述した回転振とう培養に用いたものと同じNIES48の耐性株を、グルコース濃度を8%に調整した寒天培地に植藻し、暗黒条件、明条件下で培養したところ、いずれも生育が観察された。さらに、暗黒条件下、明条件下のいずれの培養においても、耐性株の緑化機能(光合成機能)は喪失しなかった。図14に、暗黒条件、及び明条件で培養した後の耐性株を示す。
以上の結果より、耐性株の培養液のグルコース濃度は5~8%が好ましいことが分かった。また、馴化工程で用いられた高濃度培養液のグルコース濃度(5%)と同じか若しくはそれよりも高いグルコース濃度である5%以上且つ8%以下の培養液に対する耐性を有するユーグレナを作出できることが分かる。さらに、詳しい理由は不明であるが、実施例3、4の結果から分かるように、同じグルコース濃度の培養液であっても、増殖工程の条件によって、耐性株の増殖開始時期や、増殖率に違いが出る。このことから、実際にユーグレナを大量培養するときは、温度、培地組成等の培養条件に応じた適切なグルコース濃度の内容液を使用することが望ましい。
以上、本発明の実施形態について具体的な実施例を挙げて詳細に説明したが、本発明は上述した実施例に限定されず、種々の変形が可能である。例えば、実施例1では、馴化工程によりユーグレナをグルコース濃度が2%から5%までの複数種類の馴化用培養液で培養することにより該ユーグレナをグルコース濃度が5%以上の培養液に馴化させてから増殖工程に移行したが、グルコース濃度が5%以上の培養液に対する耐性を有しているユーグレナ(糖耐性ユーグレナ)であれば、馴化工程は省略することができる。糖耐性ユーグレナは、グルコース濃度が2%の培養液及び5%の培養液を含む、2%から5%までの間の複数種類の馴化用培養液でユーグレナを順に培養する工程を有する製造方法によって製造することができる。また、糖耐性ユーグレナは、天然の淡水中又は海水中から採取した、天然のユーグレナの中から所定の条件を満たすものを選抜し分離することで取得しても良く、天然のユーグレナ若しくは微生物保存機関から取得したユーグレナの継代培養を続けるなかで現れた自然変異種であっても良い。また、糖耐性ユーグレナは、公知の方法で突然変異を誘導させたり、遺伝子組み換えやゲノム編集等の技術を利用したりして人為的に作出することもできる。

Claims (2)

  1. グルコース濃度が0%から2%までの間の所定の濃度である低濃度培養液と、グルコース濃度が2%よりも高く且つ8%以下の所定の濃度である高濃度培養液とから成る、グルコース濃度が異なる複数種類の馴化用培養液を用意し、グルコース濃度が低い馴化用培養液から順に該馴化用培養液を使ってユーグレナを培養する馴化工程と、
    前記馴化工程で得られたユーグレナを、グルコース濃度が前記高濃度培養液と同じか、前記高濃度培養液よりも高く且つ8%以下である増殖用培養液を使って培養する増殖工程と
    を有し、
    前記ユーグレナが、ユーグレナ・グラシリス(Euglena gracilis)Z株 NIES47、ユーグレナ・グラシリス(Euglena gracilis)Z株 NIES48、ユーグレナ・グラシリス・バシラリス(Euglena gracilis bacillaris)株 NIES49から選ばれる1種又は複数種であり、
    前記馴化工程では、最初はグルコース濃度が2%の馴化用培養液を用いてユーグレナを培養し、その後、植え継ぎを行う毎に馴化用培養液のグルコース濃度を0.2%ずつ高くし、馴化用培養液のグルコース濃度が5%に達した時点で培養を終了する、ユーグレナの培養方法。
  2. グルコース濃度が0%から2%までの間の所定の濃度である低濃度培養液と、グルコース濃度が2%よりも高く且つ8%以下の所定の濃度である高濃度培養液とから成る、グルコース濃度が異なる複数種類の馴化用培養液を用意し、グルコース濃度が低い馴化用培養液から順に該馴化用培養液を使ってユーグレナを培養する工程を有し、
    前記ユーグレナが、ユーグレナ・グラシリス(Euglena gracilis)Z株 NIES47、ユーグレナ・グラシリス(Euglena gracilis)Z株 NIES48、ユーグレナ・グラシリス・バシラリス(Euglena gracilis bacillaris)株 NIES49から選ばれる1種又は複数種であり、
    前記ユーグレナを培養する工程では、最初はグルコース濃度が2%の馴化用培養液を用いてユーグレナを培養し、その後、植え継ぎを行う毎に馴化用培養液のグルコース濃度を0.2%ずつ高くし、馴化用培養液のグルコース濃度が5%に達した時点で培養を終了する、糖耐性ユーグレナの製造方法。
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