JP7280676B2 - コラーゲン線維の結束度を指標とする、低酸素条件及び/又は加齢による、コラーゲン構造の悪化を抑制する成分のスクリーニング方法 - Google Patents
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Description
特許文献2には、細胞の核膜異常状態を指標として、シワの予防又は改善効果を有する成分をスクリーニングする方法が開示されている。
このような知見により、低酸素状態と老化現象の関連が示唆されているが、低酸素状況下でどのような生理学的変化が起こることで老化が起こるのか、そのメカニズムの全容は明らかとなっていない。
しかし、加齢に伴うコラーゲン線維の結束がどのようなメカニズムで生じるのかについては明らかとなっていない。
しかし、組織片は生体より採取されたものであるが故、その品質の均一性が担保されておらず、再現性に悖るという問題点がある。
この結果は、加齢に伴い人体の各組織が低酸素条件にさらされること(非特許文献1)、並びに、加齢に伴い結合組織におけるコラーゲン線維の結束が昂進すること(非特許文献2)、という2つの知見と合致するものである。
つまり、本発明者が構築した上記試験系は、人体の結合組織におけるコラーゲン線維の加齢に伴う結束度の向上を再現できる良好なモデルとして活用できることが明らかとなった。
すなわち、上記課題を解決する本発明は、細胞を分散させたコラーゲン含有組成物に、被検成分を添加して、低酸素条件でインキュベーションしたときの、コラーゲン線維の結束度の上昇低減効果を指標とすることを特徴とする、低酸素条件及び/又は加齢による、コラーゲン構造の悪化を抑制する成分のスクリーニング方法である。
本発明によれば、低酸素条件や加齢に伴うコラーゲン構造の悪化を抑制する成分を簡便にスクリーニングすることができる。
被検成分の存在下でインキュベーションした後のコラーゲン線維の結束度が、被検成分の非存在下でインキュベーションした後のコラーゲン線維の結束度よりも低い場合に、
前記被検成分が、低酸素条件及び/又は加齢による、コラーゲン構造の悪化を抑制する成分であると判定することを特徴とする。
このように対照試験を実施する形態とすることにより、より正確なスクリーニングが可能となる。
顕微鏡撮影画像に基づく形態とすることで、コラーゲン線維の結束度の評価を容易に行うことができる。
このように定量的に評価する形態とすることにより、より精度の高いスクリーニングが実現できる。
該フーリエ変換画像の少なくとも原点を通過する直線を設定し、該直線の長さ方向について、該直線上における該フーリエ変換画像のパワーをプロットして得られる波形、又は、
該フーリエ変換画像から、少なくともその原点を含む略矩形領域画像を切り出し、切り出された略矩形領域画像の短径方向のパワーの平均値を、該略矩形領域画像の長径方向についてプロットして得られる波形、
を得ることを特徴とする。
フーリエ変換を用いることにより、複雑な顕微鏡撮影画像の定量的な評価が容易となる。
データのばらつきの程度という一次元的な尺度に基づきコラーゲン構造の結束度を評価することで、より簡便なスクリーニングが可能である。
標準偏差により評価することにより、統計学的観点から精度の高い評価が可能となる。
このような条件下でインキュベーションを行うことにより、より効果的にスクリーニングを行うことができる。
本発明は低酸素条件において進行するコラーゲン線維の架橋化による、コラーゲン構造の悪化を抑制する成分をスクリーニングする方法である。また、加齢に伴い組織が低酸素条件に置かれることから(非特許文献1)、本発明は、加齢によるコラーゲン構造の悪化を抑制する成分をもスクリーニングの対象とすることができる。
したがって、本発明は、抗老化成分、より具体的には、加齢に伴うシワ、たるみ又はハリの低下の改善又は予防成分のスクリーニング方法に応用することが好ましい。
以下、本発明の構成について詳述する。
本発明においては、細胞を分散させたコラーゲン含有組成物を用いる。コラーゲン含有組成物は、コラーゲンを含有する組成物であり、細胞培養を阻害するような組成のものでなければ、その具体的構成は限定されない。
コラーゲン含有組成物に分散させる細胞の種類により、上記任意成分の種類及びその濃度を適宜選択することができる。
コラーゲン含有組成物に分散させる細胞の種類は特に限定されず、生体から採取した初代培養細胞や、株化された培養細胞を用いることができる。
なお、コラーゲンは結合組織の主要成分である。よって、生体における結合組織を再現したモデルとしての精度を向上させる観点からは、線維芽細胞、細網細胞、組織球、形質細胞、リンパ球、脂肪細胞、肥満細胞、顆粒白血球、色素細胞などの結合組織細胞を用いることが好ましく、中でも線維芽細胞を用いることが特に好ましい。
これら細胞については、初代培養細胞や株化細胞が市販されており、これを本発明のために制限無く使用することができる。
まず、コラーゲン含有組成物を構成するコラーゲン溶液を調製し、これに別途用意した細胞の懸濁液を加えて混合することでコラーゲン含有組成物を調製することが好ましい。
被検成分をコラーゲン含有組成物に添加する際の態様は限定されない。好ましくは被検成分を含む溶液をコラーゲン含有組成物に添加する形態とする。被検成分を含む溶液は、コラーゲン含有組成物の調製に使用したものと同じ基本培地や血清などの培地成分を含むことが好ましい。
また、被検成分の添加前に、ゲル化したコラーゲン含有組成物を培養容器の内壁から剥離させてから被検成分を添加することが好ましい。
被検成分の添加の後、コラーゲン含有組成物を低酸素条件下でインキュベーションする。
通常の細胞培養におけるCO2インキュベーターにおいて酸素濃度は18~19%程度であるので、これよりも低い酸素濃度でインキュベーションする。具体的には、好ましくは15%以下、より好ましくは10%以下、より好ましくは7%以下、さらに好ましくは5%以下、さらに好ましくは3%以下の酸素濃度でインキュベーションする。
酸素濃度の下限は、コラーゲン含有組成物に分散された細胞が死滅しなければ特に制限されないが、好ましくは0.1%以上、より好ましくは0.5%以上の酸素濃度である。
このインキュベーションの期間中、被検成分を含む培地を用いて培地交換をしてもよい。
生体内では加齢に伴い結合組織のコラーゲンの架橋が進み、コラーゲン線維の結束度が向上する。細胞が分散されたコラーゲン含有組成物を低酸素条件下でインキュベーションしたときにも、この生体内での事象と同じく、コラーゲン含有組成物中のコラーゲン線維の結束度が上昇する。
本発明においては、被検成分を添加したときのコラーゲン含有組成物におけるコラーゲン線維の結束度の上昇低減効果を指標とする。
電子顕微鏡としては走査型電子顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)、及び走査型透過電子顕微鏡(STEM)の何れを用いても構わない。
顕微鏡で観察したとき、コラーゲン線維が束になって凝集しているように見える箇所が、コラーゲン線維の結束部分である。この結束部分の数や大きさなどを観察し、その程度が大きい場合に、結束度が高いと評価することができる。
例えば、予め用意しておいた基準写真を基に官能的に結束度を評価する形態としてもよい。
また、顕微鏡撮影画像に対して画像解析処理を施し、コラーゲン線維の結束度を定量化した画像解析処理結果に基づいて、結束度を評価する形態としてもよい。
フーリエ変換は周期性の評価手法である。2次元の画像に対してフーリエ変換を行った場合、パワーが濃淡で表された2次元空間周波数パワースペクトルを表すフーリエ変換画像が得られる。このフーリエ変換画像の中心は波数0の原点であり、原点より離れた位置ほど高波数を表す。
なお、フーリエ変換で扱えるのは通常グレースケールの画像なので、顕微鏡撮影画像をグレースケールに変換してからフーリエ変換することが好ましい。
パワーの波形は、以下の何れかの方法により算出することができる。
(i)フーリエ変換画像の少なくとも原点を通過する直線を設定し、該直線の長さ方向について、該直線上における該フーリエ変換画像のパワーをプロットして得る(図1に概略図を示す)。
(ii)フーリエ変換画像から、少なくともその原点を含む略矩形領域画像を切り出し、切り出された略矩形領域画像の短径方向のパワーの平均値を、該略矩形領域画像の長径方向についてプロットして得る(図2に概略図を示す)。
したがって、波形で表されるパワーのばらつきの程度が高いほど、元データである顕微鏡撮影画像に表されたコラーゲン線維の結束度は高いと評価することができる。
例えば、近似直線と波形を構成するデータとのパワーの差分(Δパワー)を算出し、Δパワーのデータ集合についての標準偏差によって、波形を構成するデータのばらつきを客観的に評価することができる。
アオイ科ゼニアオイ属(Malvaceae Malva)に属する植物の抽出物には、低酸素条件や加齢による、コラーゲン構造の悪化を抑制する効果がある。
つまり、アオイ科ゼニアオイ属に属する植物の抽出物は、コラーゲンを主成分とする組織である、骨、歯、軟骨、脂肪、腱、靱帯、真皮、皮下組織などの結合組織の機能低下の改善又は予防に効果を奏する。
したがって、アオイ科ゼニアオイ属に属する植物の抽出物には、コラーゲン構造の悪化を抑制する効果に付随して、抗老化作用、より具体的には、加齢に伴う皮膚のシワ、たるみ又はハリの低下の改善又は予防効果があると言える。
特に好ましくはゼニアオイ(Malva sylvestris var. mauritiana (L.) Boiss.)を例示できる。
外用剤としては化粧料、医薬部外品、医薬品などが好適に例示でき、本発明の効果を損ねない限度において、通常使用される任意成分を含有することもできる。
また、固形分として前記植物の抽出物を1日あたり10~1000mgを1回又は数回に分けて飲用する形態とすることが好ましい。
表1上段に示した成分を同表に示した質量比で氷冷しながら混合し、コラーゲン溶液Aを調製した。コラーゲン溶液Aと水を表1中段に示す質量比で混合し、コラーゲン溶液Bを調製した。24wellプレートにコラーゲン溶液Bを250μL/well添加し、CO2インキュベーター内で15分静置した。
一方、予め培養していた細胞を回収し、1×105cells/mLに調製した細胞懸濁液と、コラーゲン溶液Aとを表1下段に記載の割合で混合し、細胞を含むコラーゲン溶液Cを得た。
コラーゲン溶液Cを上で説明した250μL/wellのコラーゲン溶液Bが入ったwellに1mL/well添加し、CO2インキュベーター内で4時間静置することで、細胞が分散されたゲル状のコラーゲン含有組成物を調製した。
脱酸素剤を備えた低酸素培養器具(BIONIX、スギヤマ技研製)に、この24wellプレートを封入し、酸素濃度1%に調整した状態で、CO2インキュベーター内でのインキュベーション(低酸素状態)を開始した。
インキュベーション開始から72時間後、well内の培地を再び被検成分を含有する溶液(10%FBS DMEM)750μL/wellで交換した。その後、再びプレートを低酸素培養器具に封入し、96時間インキュベーション(低酸素状態)した。
また、対照試験として、被検成分溶液に代えて培地(10%FBS DMEM)を添加したコラーゲン含有組成物を、低酸素培養器具へ封入(低酸素状態)又は未封入(通常酸素状態)の状態で同様にインキュベーションした。
インキュベーション後のゲル状のコラーゲン含有組成物を回収し、表2に示すフローで固定、脱水、真空凍結乾燥を行い、走査型電子顕微鏡(SEM)によりコラーゲン構造を観察した。電子顕微鏡撮影画像を図4に示す。
一方、ゼニアオイ花エキスを添加したコラーゲン含有組成物は、同エキス非添加のものに比べてコラーゲン線維の顕著な結束が見られなかった。
図4に示す顕微鏡撮影画像について画像解析ソフト(ImageJ)を用いて高速フーリエ変換(FFT)を施し、2次元空間周波数パワースペクトルを表す、フーリエ変換画像(FFT画像)を取得した(図5)。
FFT画像の中心(すなわち2次元空間周波数パワースペクトルの波数0の原点)を中心とした矩形領域を選択した(図5)。
選択した領域の縦方向の強度(つまり2次元空間周波数パワースペクトルのパワーに相当)を平均した数値を、同領域の横方向についてプロットした波形データを抽出した(図6)。
一方、ゼニアオイ花エキスを添加したコラーゲン含有組成物においては、同エキス非添加のものに比べて、顕著に標準偏差が小さかった。
Claims (11)
- 細胞を分散させたコラーゲン含有組成物に、被検成分を添加して、低酸素条件でインキュベーションしたときの、コラーゲン線維の結束度の上昇低減効果を指標とすることを特徴とし、
前記被検成分の存在下及び非存在下で、前記コラーゲン含有組成物を低酸素条件下でインキュベーションし、
被検成分の存在下でインキュベーションした後のコラーゲン線維の結束度が、被検成分の非存在下でインキュベーションした後のコラーゲン線維の結束度よりも低い場合に、
前記被検成分が、低酸素条件及び/又は加齢による、コラーゲン構造の悪化を抑制する成分であると判定する、低酸素条件及び/又は加齢による、コラーゲン構造の悪化を抑制する成分のスクリーニング方法。 - 前記コラーゲン構造が、結合組織のコラーゲン構造であることを特徴とする、請求項1に記載のスクリーニング方法。
- 前記細胞が結合組織細胞であることを特徴とする、請求項1又は2に記載のスクリーニング方法。
- 前記インキュベーション後のコラーゲン線維の顕微鏡撮影画像に基づき、前記コラーゲン線維の結束度を評価することを特徴とする、請求項1~3の何れか一項に記載のスクリーニング方法。
- 前記顕微鏡撮影画像に対して画像解析処理を施し、前記コラーゲン線維の結束度を定量化した画像解析処理結果に基づき、前記コラーゲン線維の結束度を評価することを特徴とする、請求項4に記載のスクリーニング方法。
- 前記画像解析処理において、前記顕微鏡撮影画像に対してフーリエ変換処理を施して2次元空間周波数パワースペクトルを表すフーリエ変換画像を取得し、
該フーリエ変換画像の少なくとも原点を通過する直線を設定し、該直線の長さ方向について、該直線上における該フーリエ変換画像のパワーをプロットして得られる波形、又は、
該フーリエ変換画像から、少なくともその原点を含む略矩形領域画像を切り出し、切り出された略矩形領域画像の短径方向のパワーの平均値を、該略矩形領域画像の長径方向についてプロットして得られる波形、
を得ることを特徴とする、請求項5に記載のスクリーニング方法。 - 前記波形の傾斜部分の少なくとも一部を切り出し、前記傾斜部分の近似直線を作成し、該近似直線に対する前記波形を構成するデータのばらつきの程度が小さいほど、前記コラーゲン構造の悪化を抑制する効果に優れるものと判断することを特徴とする、請求項6に記載のスクリーニング方法。
- 前記ばらつきの程度を標準偏差により評価することを特徴とする、請求項7に記載のスクリーニング方法。
- 前記低酸素条件が、細胞培養雰囲気中の酸素濃度が5%以下の条件であることを特徴とする、請求項1~8の何れか一項に記載のスクリーニング方法。
- 抗老化成分のスクリーニング方法であることを特徴とする、請求項1~9の何れか一項に記載のスクリーニング方法。
- 加齢に伴うシワ、たるみ又はハリの低下の改善又は予防成分のスクリーニング方法であることを特徴とする、請求項1~10の何れか一項に記載のスクリーニング方法。
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