以下、本発明の実施形態について、添付図面を参照して詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、適宜変更して実施可能である。
図1は、本発明の第1の実施形態に係る複合材料の解析方法の概略を示すフローチャートである。図1に示すように、本実施形態に係る複合材料の解析方法は、コンピュータを用いた分子動力学法により作成した複合材料の解析用モデルを用いた複合材料の解析方法である。この複合材料の解析方法は、コンピュータを用いて分子動力学法により作成した複合材料の解析用モデルを用いた複合材料の解析方法であって、複数のポリマー粒子によってポリマーをモデル化した複数のポリマーモデル及びフィラーをモデル化した複数のフィラーモデルを含む複合材料の解析用モデルを作成する第1ステップST11と、ポリマーモデルを架橋解析により架橋させる第2ステップST12と、架橋解析後の解析用モデルに相互作用を設定して数値解析を実施する第3ステップST13と、評価対象とするフィラー対を選定する第4ステップST14と、フィラー近傍領域を設定し、粒子群を抽出する第5ステップST15と、経路探索開始粒子と、複数の終了粒子を設定する第6ステップST16と、異なるフィラー間のポリマー経路を抽出する第7ステップST17と、抽出した粒子の経路探索完了かを判定する第8ステップST18と、を含む。第8ステップS18は、完了していないと判定した場合、第6ステップST16に戻り、完了したと判定した場合、経路探索絵結果に基づいて、複合材料を評価する第9ステップST19を実行し、処理を終了する。以下、本発明の第1の実施形態について詳細に説明する。
図2は、本実施形態に係る複合材料の解析方法で作成される解析用モデル1の一例を示す概念図である。図2に示すように、本実施形態に係る複合材料の解析用モデル1は、例えば、一辺の長さが距離Lの略立方体形状の仮想空間であるモデル作成領域A内に配置されたモデルである。具体的には、解析用モデル1は、複数のフィラー粒子11a,12aがモデル化されてなる一対の第1フィラーモデル11及び第2フィラーモデル12と、複数のポリマー粒子21a及び結合鎖21bがモデル化されてなる複数のポリマーモデル21とを有する。本実施形態では、解析対象となる複合材料がフィラー及び高分子材料であるポリマーを含有する例について説明するが、本発明は、2種類の以上の物質を含有する複合材料にも適用可能である。また、図2に示す例では、解析用モデル1が、2つの第1フィラーモデル11及び第2フィラーモデル12と、複数のポリマーモデル21とを有する例について説明したが、3以上のフィラーモデルを配置してもよい。また、モデル作成領域Aは、必ずしも略立方体形状の仮想空間である必要はなく、球状、楕円状、直方体形状、多面体形状など任意の形状としてもよい。
第1フィラーモデル11及び第2フィラーモデル12は、複数のフィラー粒子11a,12aがそれぞれ略球状体に集合した状態でモデル化される。また、第1フィラーモデル11及び第2フィラーモデル12は、互いに所定間隔をとって離れた状態で配置されている。なお、第1フィラーモデル11と第2フィラーモデル12とは、相互に凝集した状態で外縁部が共有結合によって相互に連結されていてもよい。
複数のポリマーモデル21は、解析対象となる空間内で架橋される。複数のポリマーモデル21のうち一部のポリマーモデル21は、第1フィラーモデル11と第2フィラーモデル12との間に配置される。複数のポリマーモデル21のうち一部のポリマーモデル21は、少なくとも一端が第1フィラーモデル11と第2フィラーモデル12との間以外の領域に配置される。第1フィラーモデル11と第2フィラーモデル12との間に配置される複数のポリマーモデル21は、一端が第1フィラーモデル11からの相互作用を受ける範囲である第1解析対象領域A11内に配置され、他端が第2フィラーモデル12からの相互作用を受ける範囲である第2解析対象領域A12内に配置される。複数のポリマーモデル21は、一端を第1フィラーモデル11の表面のフィラー粒子11aと結合させてもよく、他端を第2フィラーモデル12の表面のフィラー粒子12aと結合させてもよい。
フィラーとしては、例えば、カーボンブラック、シリカ、及びアルミナなどが含まれる。フィラー粒子11a,12aは、複数のフィラーの原子が集合されてモデル化される。複数のフィラー粒子11a,12aは、集合してフィラー粒子群を構成する。複数のフィラー粒子11a,12aは、隣接する互いの間の結合鎖(不図示)によって相対位置が特定されている。この結合鎖は、フィラー粒子11a,12a間の結合距離である平衡長と、ばね定数とが定義されたバネとしての機能を有し、各フィラー粒子11a,12aを拘束している。結合鎖は、フィラー粒子11a,12aの相対位置、捻り、及び曲げなどによって力が発生するポテンシャルが定義されているボンドである。第1フィラーモデル11と、第2フィラーモデル12とは、フィラーを分子動力学で取り扱うための数値データ(フィラー粒子11a,12aの質量、体積、直径及び初期座標などを含む)である。第1フィラーモデル11と、第2フィラーモデル12の数値データは、コンピュータに入力される。
ポリマーとしては、例えば、ゴム、樹脂、及びエラストマーなどが含まれる。ポリマー粒子21aは、複数のポリマーの原子が集合されてモデル化される。複数のポリマー粒子21aは、集合してポリマー粒子群を構成する。ポリマーには、フィラーとの親和性を高める変性剤が必要に応じて配合される。変性剤としては、例えば、水酸基、カルボニル基、及び原子団の官能基などが含まれる。ポリマーモデル21は、複数のポリマー原子及びポリマー粒子21aがモデル作成領域A内に所定密度で充填されたモデルである。ポリマー粒子21aは、隣接する互いの間の結合鎖21bによって相対位置が特定されている。結合鎖21bは、ポリマー粒子21a間の結合距離である平衡長と、ばね定数とが定義されたバネとしての機能を有し、各ポリマー粒子21aを拘束している。結合鎖21bは、ポリマー粒子21aの相対位置、捻り、及び曲げなどによって力が発生するポテンシャルが定義されているボンドである。このポリマーモデル21は、ポリマーを分子動力学で取り扱うための数値データ(ポリマー粒子21aの質量、体積、直径及び初期座標などを含む)である。ポリマーモデル21の数値データは、コンピュータに入力される。
次に、本実施形態に係る複合材料の解析方法について詳細に説明する。以下では、2つのフィラー間で架橋するポリマーの例を説明するが、ポリマーは、フィラー間以外の領域でも架橋する。図3及び図4は、それぞれ本発明の実施形態に係る複合材料の解析方法の一例を示す説明図である。図3から図5は、図2に示した第1フィラーモデル11と第2フィラーモデル12との間の空間を拡大して示している。
図3は、第1フィラーモデル11のフィラー粒子11aと、第2フィラーモデル12のフィラー粒子12aと、フィラー粒子11a、フィラー粒子11bのそれぞれの周囲にある複数のポリマー粒子21aと、を示している。図3に示すように、解析用モデル1に含まれる一対のフィラー粒子11aの周囲には、複数のポリマー粒子21aがある。フィラー粒子11aの周囲にある複数のポリマー粒子21aが、第1ポリマー粒子群30となる。また、フィラー粒子12aの周囲には、複数のポリマー粒子21aがある。フィラー粒子12aの周囲にある複数のポリマー粒子21aが、第2ポリマー粒子群32となる。
複合材料の解析方法は、第1ポリマー粒子群30に属する1つのポリマー粒子21aを経路探索開始粒子に選定し、第2ポリマー粒子群32に属する複数のポリマー粒子21aを終了粒子に設定する。そして、複合材料の解析方法は、経路探索開始粒子と終了粒子との間の経路探索、つまり異なるフィラー間のポリマー(ポリマー粒子)の経路を抽出する。複合材料の解析方法は、経路探索開始粒子と終了粒子との間の経路探索を全経路探索で行う。
ここで、終了粒子は、経路探索開始粒子(開始粒子)に選定したポリマー粒子21aと経路を確立していない第2ポリマー粒子群32に属する全てのポリマー粒子21aが対象となる。具体的には、第1ポリマー粒子群30に属する1つのポリマー粒子21aと、第2ポリマー粒子群32に属するポリマー粒子21aのいずれかと繋がる経路があるかを網羅的に探索する。本実施形態では、幅優先探索を行い、第1ポリマー粒子群30に属する1つのポリマー粒子21aから1つのポリマー粒子21aから繋がるポリマー粒子21aがあるかを探索し、2つ以上のポリマー粒子21aと繋がる場合は、以降それぞれのポリマー粒子21aと繋がる経路があるかを探索する。
図4に示す例は、複合材料の解析方法により経路探索を行うことで、第1ポリマー粒子群30に属する1つのポリマー粒子21aから、第2ポリマー粒子群32に属する3つのポリマー粒子21aのそれぞれに繋がる経路34、36、38、40を検出する。なお、図4では、経路を3つのみ示しているが、経路の数は限定されない。経路34は、分岐42で経路40が分岐し、経路44で経路36と、経路38に分岐する。経路は、経路34と経路40が第1ポリマー粒子群30に属する1つのポリマー粒子21aと第2ポリマー粒子群32に属する1つのポリマー粒子21aとを接続する経路であり、経路34と経路36が第1ポリマー粒子群30に属する1つのポリマー粒子21aと第2ポリマー粒子群32に属する1つのポリマー粒子21aとを接続する経路であり、経路34と経路38が第1ポリマー粒子群30に属する1つのポリマー粒子21aと第2ポリマー粒子群32に属する1つのポリマー粒子21aとを接続する経路である。図4に示す例は、分岐42、44で2つのポリマー粒子21aと繋がることを検出している。また、図4に示す例では、第2ポリマー粒子群32に属する3つのポリマー粒子21aのそれぞれに繋がる経路34、36、38、40のみを示しているが、第2ポリマー粒子群32に属するポリマー粒子21aと繋がらない経路も探索する。解析方法は、一定距離接続しても(所定数のポリマー粒子21aと接続しても)、第2ポリマー粒子群32に属するポリマー粒子21aに到達しない場合、経路探索を終了すればよい。
複合材料の解析方法は、複合材料の解析方法は、一方のフィラー粒子側の1つのポリマー粒子21aから他方のフィラー粒子側のポリマー粒子への経路探索が完了したら、別のポリマー粒子21aを開始粒子とする。
図5を用いて処理を説明する。図5は、本発明の実施形態に係る複合材料の解析方法の概略を示すフローチャートである。前回終了粒子を設定した側のフィラーから、開始粒子を設定する(ステップST21)。つまり、本実施例では、偶数回は、第2ポリマー粒子群32に属するポリマー粒子から探索開始する開始粒子を選定する。また、奇数回は、第1ポリマー粒子群30に属するポリマー粒子から探索開始する開始粒子を選定する。
設定した開始粒子と経路を確立していない粒子を他方のフィラーから抽出する(ステップST22)。他方のフィラーの抽出した粒子を終了粒子に設定する(ステップS23)。つまり、本実施例では、偶数回は、第1ポリマー粒子群30に属するポリマー粒子から探索開始する開始粒子を選定する。また、奇数回は、第2ポリマー粒子群32に属するポリマー粒子から探索開始する開始粒子を選定する。このように、開始粒子を交互に選定することで、経路を確立していないポリマー粒子を開始粒子に選定することができ、効率よく解析を行うことができる。
以下、図6及び図7を用いて、経路探索についてより詳細に説明する。図6は、本実施形態に係る複合材料の解析方法の一例を示す説明図である。図7は、本実施形態に係る複合材料の解析方法の他の例を示す説明図である。図6に示すように、複合材料の解析方法では、解析用モデル1に含まれる一対の第1フィラーモデル11及び第2フィラーモデル12のうち、第1フィラーモデル11の周囲の領域に第1解析対象領域A11を設定し、第2フィラーモデル12の周囲の領域に第2解析対象領域A12を設定する。第1解析対象領域A11に存在するポリマー粒子21aが第1ポリマー粒子群30に属するポリマー粒子となり、第2解析対象領域A12に存在するポリマー粒子21aが第2ポリマー粒子群32に属するポリマー粒子となる。ここで、第1解析対象領域A11が設定される第1フィラーモデル11の周囲の領域とは、複数のフィラー粒子11aによって構成される第1フィラーモデル11からの分子間力及び水素結合などの相互作用の影響をポリマーモデル21が受ける範囲内の近傍の領域である。これは、第2解析対象領域A12についても同様である。そして、第1解析対象領域A11と、第2解析対象領域A12との間に亘って存在し、第1解析対象領域A11内に一部が存在すると共に、第2解析対象領域A12内に一部が存在する複数のポリマーモデル21に含まれる特定のポリマーモデル21の経路R1-R3を解析する。経路R2と、経路R3は、2つのフィラー粒子群の間を繋げる経路ではないとして、経路の抽出が途中で終了する。
2つのフィラー粒子間で経路を確立したポリマーモデル21は、一端部が第1解析対象領域A11内に存在し、他端部が第2解析対象領域A12内に存在する。ポリマーモデル21は、複数のポリマーモデル21(図3において不図示、図2参照)によって架橋結合(不図示)を介して複雑な三次元ネットワークを形成している。本実施形態では、ポリマーモデル21のうち、第1解析対象領域A11内に配置された一端側の複数のポリマー粒子21a(代表点P1及び代表点P3)を第1ポリマー粒子群として抽出すると共に、第2解析対象領域A12内に配置された他端側の複数のポリマー粒子21a(代表点P2及び代表点P4)を第2ポリマー粒子群として抽出する。なお、抽出するポリマー粒子群の数は限定されない。
図6に示す例では、第1ポリマー粒子群に属するポリマー粒子21a(代表点P1)と、第2ポリマー粒子群に属するポリマー粒子21a(代表点P2)との間において、第1解析対象領域A11及び第2解析対象領域A12の範囲外のポリマー粒子21aによって形成されるフィラー間経路R1がある。本実施形態において、フィラー間経路が、ポリマー経路となる。
図7に示す例では、複数のポリマー経路を示している。第1フィラーモデル11と第2フィラーモデル12との間に亘って第1ポリマーモデル21-1及び第2ポリマーモデル21-2が配置されている。第1ポリマーモデル21-1は、ポリマー粒子21-1a及び結合鎖21-1bによって構成されている。第2ポリマーモデル21-2は、ポリマー粒子21-2a及び結合鎖21-2bによって構成されている。
図7に示す例では、図6と同様に第1ポリマーモデル21-1の代表点P1、P2及び点P3、P4と示している。さらに、図7に示す例では、代表点P5と代表点P6との間のフィラー間経路R21を示している。なお、本実施形態では、上記の経路に加え、2つのフィラー粒子間の複数の経路を抽出している。
このように、1つの開始粒子と複数の終了粒子と選定しポリマー経路を抽出することで、効率よく、かつ、2つのフィラー粒子間の複数の経路を網羅的に検出することができる。
また、本実施形態のように、開始粒子からの距離を1ポリマー粒子分または所定距離ずつ伸ばし、分岐した経路も並行して検出する幅優先探索を行うことで、効率よく経路を探索することができるが、1つずつの経路を順番に探索する深さ優先探索を行ってもよい。
次に、複合材料の解析方法は、ポリマー経路の探索が完了したら、評価を行う。評価として、は、伸びきり鎖を検出する伸長解析としてもよいし、除荷解析を行ってもよい。また、伸長解析の場合、フィラー間距離が増加したフィラー対(望ましくは、系の20%以上)を解析対象のフィラー対とすることが好ましい。除荷解析(伸長からの戻しの解析)の場合は、伸長解析で設定したフィラー対を解析対象のフィラー対とすることが好ましい。例えば、抽出したポリマー経路の相対位置と距離を検出し、ポリマー経路において、隣接する2つのポリマー粒子との距離に基づいて、単位結合当たりに発生している力を算出し、単位結合当たりに発生している力に基づいて、ポリマー経路に発生している力を算出する。
まず、それぞれのポリマー経路の経路長を算出する。代表点P1、代表点P2、点P3及び点P4の間の結合長は、代表点P1、代表点P2、点P3及び点P4間の直線距離を用いずに、代表点P1、代表点P2、点P3及び点P4との間に介在するポリマー粒子21aの粒子数又は結合数を用いて解析してもよく、変温解析によりポリマー粒子21aの熱振動による結合長の長さの変動を低減してから解析してもよい。この場合の変温解析の条件としては、例えば、作成したポリマーモデル21のガラス転移点(Tg)以下の温度が挙げられる。また、最短経路の解析にポリマーモデル21の結合長を用いる際には、ポリマー粒子21aの熱揺らぎの平均値及び結合鎖21bの伸縮時の平衡長を用いてもよい。このように代表点P1、代表点P2、点P3及び点P4間の結合長を解析することにより、ポリマーモデル21の熱揺らぎの影響を排除できるので、代表点P1、代表点P2、点P3及び点P4間の経路を高精度で解析することが可能となる。
また、フィラー粒子の近傍領域は、フィラー中心からの距離を指定して、その領域内のポリマー粒子を評価対象としてもよいし、フィラー表面からの距離、つまり、フィラーを構成する粒子群との最短距離を設定しても良い。また、フィラー近傍領域は、フィラーとの相互作用が作用する範囲以下とすることが好ましい。フィラー間距離は中心間距離でもよいし表面間距離でもよい。
第1フィラーモデル11とポリマーモデル21との間の相互作用は、フィラー粒子間、ポリマー粒子間及びフィラー粒子とポリマー粒子との間に設定されるものであり、必ずしも全てのフィラー粒子及びポリマー粒子に設定する必要はない。第1フィラーモデル11とポリマーモデル21との間の相互作用としては、例えば、分子間力及び水素結合などの引力及び斥力などの化学的な相互作用、及び共有結合などの物理的な相互作用が挙げられる。また、ポリマーモデル21が複数の種類のポリマー粒子21aで構成されている場合には、複数の種類のポリマー粒子21aにそれぞれ相互作用を設定してもよい。また、複数の種類の各ポリマー粒子21aと第1フィラーモデル11との相互作用は同一であってもよく、異なっていてもよい。
例えば、評価としては、第1フィラーモデル11と、第2フィラーモデル12との間の経路が伸びきり鎖であるか否かを判定し、フィラーモデル間で働く力を評価する。第1ポリマーモデル21-1が伸びきり鎖であるか否かを判定するために、まず、第1ポリマー粒子21a-1と、第1ポリマー粒子21a―1と接続している経路の端部のポリマー粒子との間の距離L(以後、末端間距離と呼ぶこともある)を算出する。次に、本実施形態は、第1ポリマー粒子21a-1と、第1ポリマー粒子21a―1と接続している経路の端部のポリマー粒子との間を繋ぐポリマー経路の経路長を算出する。経路長は、例えば、結合している結合鎖のそれぞれの長さを足し合わせることで算出される。また、ポリマー経路の経路長は、各結合鎖の平均の長さを算出し、算出した平均の長さと、ポリマー経路を構成するポリマー粒子の数とに基づいて算出してもよい。また、本実施形態は、ポリマー経路の経路長を、ポリマー経路を構成するポリマー粒子に基づいて作成したスプライン曲線、ベジェ曲線に基づいて算出してもよい。本実施形態は、算出された末端間距離と、ポリマー経路の経路長とを比較することによって、第1ポリマーモデル21-1が伸びきり鎖であるか否かを判定する。本実施形態は、例えば、末端間距離と、ポリマー経路の経路長とが所定の関係にある場合に第1ポリマーモデル21-1が伸びきり鎖であると判定する。本実施形態は、例えば、末端間距離が、ポリマー経路の経路長の90%以上である場合に、ポリマー経路が伸びきり鎖であると判定するが、これに限定されない。
本実施形態は、第2ポリマーモデルと、第3ポリマーモデルとについても、第1ポリマーモデルと同様に、伸びきり鎖であるか否かを判定する。これにより、本実施形態は、解析用モデル1に含まれる伸びきり鎖の数を算出することができる。この結果、本実施形態は、第1フィラーモデル11と、第2フィラーモデル12との間に存在する力学応答への寄与が大きい伸びきり鎖を抽出することができる。
次に、第1ポリマーモデル21-1の状態を評価する方法について説明する。
まず、本実施形態では、第1ポリマーモデル21-1の状態を評価するために、第1ポリマーモデル21-1に発生している力を算出する。第1ポリマーモデル21-1に発生している力は、例えば、「第1ポリマーモデル21-1の長さ×単位長さ当たりの力」で評価することができる。また、第1ポリマーモデル21-1に発生している力を、例えば、「第1ポリマーモデル21-1に存在する結合数×単位結合当たりの力」で評価してもよい。
単位長さ当たりの力又は単位結合当たりの力は、例えば、それぞれの結合鎖とに基づいて算出することができる。具体的には、それぞれの結合鎖は、結合距離である平衡長として、それぞれ、距離を有している。また、それぞれの結合鎖には、ばね定数として、それぞれ、ばね定数が定義されている。そのため、距離からのずれ(伸び)と、ばね定数とに基づいて、各結合鎖に発生している力を算出することができる。より詳細には、それぞれの結合鎖が伸びて、平衡長からのずれが大きくなるほど、発生する力は大きくなる。これにより、本実施形態は、第1ポリマーモデル21-1において、単位長さ当たりの力や、単位結合当たりの力を算出することができる。そして、本実施形態は、上述のとおり、例えば、単位結合当たりの力に第1ポリマーモデル21-1に存在する結合数を乗ずることによって、第1ポリマーモデル21-1に発生している力を算出し、第1ポリマーモデル21-1の状態を評価することができる。また、本実施形態は、単位長さ当たりの力に第1ポリマーモデル21-1の長さを乗ずることによって、第1ポリマーモデル21-1に発生している力を算出してもよい。なお、距離は、それぞれ、同じであってもよいし、異なっていてもよい。また、ばね定数は、それぞれ、同じであってもよいし、異なっていてもよい。
第1フィラーモデル11と、第2フィラーモデル12の間にN個(Nは2以上の整数)のポリマーモデルが存在する場合には、N個のポリマーモデルのそれぞれに発生している力を算出してもよい。この場合、本実施形態は、N個のポリマーモデルのそれぞれに発生している力の和を算出し、系全体に発生している力を算出してもよい。
本実施形態は、例えば、第1フィラーモデル11と、第2フィラーモデル12の間に存在するポリマーモデルのうち、伸びきり鎖であるポリマーモデルのみを評価対象としてもよい。具体的には、本実施形態は、図7に示す例の場合、第1ポリマーモデル21-1と、第2ポリマーモデル21-2とのうち、伸びきり鎖のみを対象として発生している力を算出してもよい。この場合、本実施形態は、第1フィラーモデル11と、第2フィラーモデル12の間で抽出された伸びきり鎖に発生している力を算出し、系全体に存在する伸びきり鎖に発生している力の和を算出することができる。その結果、本実施形態は、フィラー間に発生した伸びきり鎖に起因する系の剛性(応力)増加のメカニズムを明らかにすることができる。また、本実施形態は、フィラーのモルフォロジーや、フィラー径などのナノ構造の因子とポリマーの運動を明らかにし、ひいてはナノ構造の因子と系の力学特性の関係を明らかにすることができる。さらに、本実施形態は、切断されやすい伸びきり鎖の伸びの状態を数値化することができるので、伸びきり鎖の破断の可能性を予測することができる。
また、本実施形態は、第1ポリマーモデル21-1から第2ポリマーモデル21-2が伸びきり鎖であるか否かの判定を、所定の時間間隔ごとに実行してもよい。この場合、本実施形態は、所定の時間間隔ごとに、伸びきり鎖の状態を判定してもよい。これにより、本実施形態は、解析用モデル1の解析結果と、伸びきり鎖の数とを対応付けた時刻歴を算出することができる。また、本実施形態は、解析用モデル1の解析結果と、伸びきり鎖の状態とを対応付けた時刻歴を算出することができる。所定の時間間隔には特に制限はなく、ユーザが所望する間隔に設定すればよい。また、本実施形態は、1つの解析結果の時刻歴を評価してもよいし、異なる解析の時刻歴を評価してもよい。1つの解析結果の時刻歴を評価する場合、例えば、伸張試験における伸張過程での伸びきり鎖の変化を評価することができる。異なる解析の時刻歴を評価する場合、解析に応じて伸びきり鎖に与える影響の違いを評価することができる。
また、本実施形態は、解析用モデル1に含まれる伸びきり鎖の数の時刻歴を可視化して表示させてもよい。この場合、本実施形態は、例えば、横軸を時間、縦軸を伸びきり鎖の数としたグラフを表示する。横軸は、例えば、負荷試験などのステップ数や、変形解析を行った場合のひずみの大きさであってもよい。また、本実施形態は、解析用モデル1に含まれる伸びきり鎖の状態の時刻歴を可視化して表示させてもよい。この場合、本実施形態は、例えば、横軸を時間、縦軸を伸びきり鎖の伸び量としてグラフを表示する。横軸は、例えば、負荷試験のステップ数や、変形解析を行った場合のひずみの大きさであってもよい。本実施形態は、例えば、判定した時刻ごとに伸びきり鎖の数や、伸びきり鎖の状態を整理した表を表示してもよい。なお、本実施形態において、時刻歴を可視化する方法は、これらに限定されるものではない。
また、本実施形態は、算出した伸びきり鎖の数の時刻歴に基づいて、第1解析時間に解析された第1解析結果と、第1解析時間とは異なる第2解析時間に解析された第2解析結果との差分を算出してもよい。これにより、本実施形態は、解析した複合材料のヒステリシス、ヒステリシス比、および応力軟化などの材料特性を算出することができる。この際、第1解析時間の伸びきり鎖と、第2解析時間の伸びきり鎖との数を算出してもよい。これにより、本実施形態は、第1解析時間の伸びきり鎖の数と、第2解析時間の伸びきり鎖の数との差分を算出することで、伸びきり鎖の数の変化と、材料特性の変化とを対応付けることができる。本実施形態は、第1解析条件と、第1解析条件とは異なる第2解析条件で実施した変形解析において、同一のひずみであった場合の伸びきり鎖の数の差分を算出し、算出した差分を全時間で積分することが好ましい。また、本実施形態は、第1解析時間の伸びきり鎖の状態と、第2解析時間の伸びきり鎖の状態とを比較してもよい。これにより、本実施形態は、伸びきり鎖の状態の変化と、材料特性の変化とを対応付けることができる。
また、本実施形態は、解析用モデル1とは異なるパラメータが設定されたポリマーモデルの比較用解析モデルに含まれる伸びきり鎖の数を算出し、算出された結果と解析用モデル1に含まれる伸びきり鎖の数とを比較してもよい。また、本実施形態は、解析用モデル1に含まれる伸びきり鎖の状態と、比較用解析モデルに含まれる伸びきり鎖の状態を比較してもよい。これにより、本実施形態は、ポリマーモデルの各種のパラメータが解析用モデル1に含まれる伸びきり鎖の数や、伸びきり鎖の状態に与える影響を評価することができる。パラメータとしては、例えば、フィラーの体積分率、フィラー径、フィラー間距離、バウンドラバーの量、バウンドラバーの厚さ、フィラーのモルフォロジー、ポリマーの架橋構造、温度、伸張試験における伸張速度である。
また、評価方法としては、ポリマーモデル21が第1解析対象領域A11内で折り返された構造を有しているか否かを解析することもできる。
また、本実施形態では、複合材料の解析用モデル1の第1解析時間におけるポリマー粒子21aの代表点P1と代表点P2との間の第1距離と、第1解析時間とは異なる第2解析時間における代表点P1と代表点P2との間の第2距離との間の経路を解析してもよい。このように解析することにより、一定期間におけるポリマー粒子21aの運動に伴う代表点P1と代表点P2との間の経路の変化を解析することもできる。この場合、本実施形態は、第1距離との間の経路と、第2距離との間の経路が、伸びきり鎖であるか否かを判定してもよい。これにより、本実施形態は、一定期間におけるポリマー粒子21aの運動に伴う経路の変化を、より精度よく解析することができる。具体的には、本実施形態は、解析用モデル1に含まれる全てのフィラー間の経路の変化を判定することによって、解析用モデル1に含まれる伸びきり鎖の数の変化を算出することができる。また、本実施形態は、第1距離との間の経路の状態と、第2距離との間の経路の状態を評価してもよい。これにより、本実施形態は、一定期間におけるポリマー粒子21aの運動に伴う経路の状態の変化を解析することができる。
また、本実施形態に係る複合材料の解析方法においては、ポリマー粒子21aの代表点P1と代表点P2との間の経路に含まれるポリマー粒子21a及び結合鎖21bの少なくとも1つを可視化することが好ましい。これにより、フィラー粒子11aとフィラー粒子12aとの間のポリマー粒子21aのフィラー間経路R1を容易に確認することが可能となる。ポリマー粒子21a及び結合鎖21bの可視化は、例えば、全てのポリマー粒子21a及び結合鎖21bを着色して可視化してもよく、一部のポリマー粒子21a及び結合鎖21bを着色して可視化して他の領域を透明化してもよい。また、ポリマー粒子21a及び結合鎖21bの可視化は、相互に異なる複数の解析時間毎に同一のポリマー粒子21a及び結合鎖21bを指定して可視化してもよく、相互に異なる複数の解析時間毎にポリマー粒子21a及び結合鎖21bを可視化してもよい。また、必ずしもポリマー粒子21a及び結合鎖21bのみを可視化する必要はなく、フィラー粒子11aを可視化してもよく、解析用モデル1の一部の領域を可視化してもよい。また、本実施形態では、伸びきり鎖が検出された場合には、伸びきり鎖と、伸びきり鎖でない結合鎖との区別を容易にするために、伸びきり鎖を着色することが好ましい。これにより、ポリマーモデル21が伸びきり鎖であるか否かを容易に確認することができるようになる。また、本実施形態は、複数の伸びきり鎖が検出された場合には、伸びきり鎖の状態に応じて異なる色を着色させることが好ましい。これにより、本実施形態は、解析用モデル1に含まれる伸びきり鎖の状態を容易に確認することができるようになる。
また、本実施形態では、ポリマーモデル21として複数の第1ポリマーモデル21-1及び第1ポリマーモデル21-1とは異なるパラメータを有する複数の第2ポリマーモデル21-2を作成し、第1ポリマーモデル21-1及び第2ポリマーモデル21-2の代表点の経路を解析して評価してもよい。このように解析することにより、ポリマーモデル21のパラメータの変化に伴う第1ポリマーモデル21-1及び第2ポリマーモデル21-2と第1フィラーモデル11及び第2フィラーモデル12との間の距離の変化を解析することもできる。また、本実施形態では、異なるパラメータを有する複数のポリマーモデルの構造が伸び切り鎖であるか判定してもよい。これにより、ポリマーモデル21のパラメータに応じて伸びきり鎖であるか否かの判定が可能となる。また、パラメータの変化に伴うポリマーモデル21の構造の変化を解析することができるようになる。また、本実施形態では、異なるパラメータを有する複数のポリマーモデルの構造の状態を評価してもよい。これにより、ポリマーモデル21のパラメータに応じてポリマーモデル21の状態の評価が可能となる。また、本実施形態は、ポリマーモデルの構造が伸びきり鎖であると判定された場合にのみ、伸びきり鎖の状態を評価してもよい。これにより、ポリマーモデル21の状態に応じた伸びきり鎖の状態の評価が可能となる。
以上説明したように、上記実施形態によれば、探索したフィラー間経路の構造の状態を評価することができ、かつ探索したフィラー間経路の構造が伸びきり鎖であるか否かを判定することができるので、高分子のネットワークをより精度良く解析可能となる。これらにより、複合材料の材料特性を高い精度で解析することができるので、複合材料の変形に伴うエネルギーロスなどの材料特性(ヒステリシス)と複合材料のナノ構造のメカニズムとの関係をより一層明らかにすることが可能となる。
本実施形態に係る複合材料の解析方法において、実行する数値解析としては、例えば、緩和解析、伸張解析、変温解析及び変圧解析などが挙げられる。なお、伸張解析を実行する場合には、少なくとも無変形状態を評価時間に含めることが好ましい。これにより、無変形状態の評価時間における解析結果と伸張解析後の解析結果とを比較することにより、伸張過程で剥がれた粒子数を評価することができる。また、これにより、本実施形態は、伸張過程で切れた伸びきり鎖の数を評価することができる。また、これにより、本実施形態は、伸張過程で変化した伸びきり鎖の状態を評価することができる。
次に、本実施形態に係る複合材料の解析方法及び複合材料の解析用コンピュータプログラムについてより詳細に説明する。図8は、本実施形態に係る複合材料の解析方法を実行する解析装置の機能ブロック図である。
図8に示すように、本実施形態に係る複合材料の解析方法は、処理部52と記憶部54とを含むコンピュータである解析装置50が実現する。この解析装置50は、入力手段53を備えた入出力装置51と電気的に接続されている。入力手段53は、複合材料の解析用モデルの作成対象であるポリマー及びフィラーの各種物性値、ポリマー及びフィラーを含有する複合材料を用いた伸張試験結果の実測結果、及び解析における境界条件などを処理部52又は記憶部54へ入力する。入力手段53としては、例えば、キーボード、マウスなどの入力デバイスが用いられる。
処理部52は、例えば、中央演算装置(CPU:Central Processing Unit)及びメモリを含む。処理部52は、各種処理を実行する際にコンピュータプログラムを記憶部54から読み込んでメモリに展開する。メモリに展開されたコンピュータプログラムは、各種処理を実行する。例えば、処理部52は、記憶部54から予め記憶された各種処理に係るデータを必要に応じて適宜メモリ上の自身に割り当てられた領域に展開し、展開したデータに基づいて複合材料の解析用モデルの作成及び複合材料の解析用モデルを用いた複合材料の解析に関する各種処理を実行する。
処理部52は、モデル作成部52aと、条件設定部52bと、解析部52cとを含む。モデル作成部52aは、予め記憶部54に記憶されたデータに基づき、分子動力学法により複合材料の解析用モデル1を作成する際のフィラー及びポリマーなどの複合材料の粒子数、分子数、分子量、分子鎖長、分子鎖数、分岐、形状、大きさ、反応時間、反応条件及び作成する解析用モデルに含まれる分子数である目標分子数などの構成要素の配置、設定及び計算ステップ数などの粗視化モデルの設定、分子鎖間などの相互作用などの各種計算パラメータの初期条件の設定を行う。
フィラー粒子11a間の相互作用及びポリマー粒子21a間の相互作用を調整する計算パラメータとしては、下記式(1)で表されるレナード・ジョーンズポテンシャルのσ、εを用い、これらが調整される。ポテンシャルを計算する上限距離(カットオフ距離)を大きくすることで、遠距離まで働いた引力、斥力を調整できる。なお、フィラー粒子11a間の相互作用及びポリマー粒子21a間の相互作用が一定値になるまで順次、フィラー粒子11a間の相互作用及びポリマー粒子21a間の相互作用のパラメータを小さくすることが好ましい。レナード・ジョーンズポテンシャルのσ、εを大きな値から徐々に本来の値に近づけることにより、分子を不自然な状態に導かない穏やかな速度で粒子の接近を行うことができる。また、カットオフ距離も徐々に小さくすることにより、適正な範囲で引力、斥力を調整できる。
条件設定部52bは、架橋解析、並びに、緩和解析、伸張解析、変温解析及び変圧解析などの各種数値解析などの各種解析条件を設定する。解析部52cは、条件設定部52bによって設定された解析条件に基づいてポリマーモデル21の架橋解析及び解析用モデル1の各種数値解析を実行する。また、解析部52cは、第1フィラーモデル11の周囲に第1解析対象領域A11を設定すると共に、第2フィラーモデル12の周囲に第2解析対象領域A12を設定する。また、解析部52cは、一部が第1解析対象領域A11内及び第2解析対象領域A12内にそれぞれ存在する特定のポリマーモデル21を抽出する。さらに、解析部52cは、特定のポリマーモデル21の第1解析対象領域A11内の第1ポリマー粒子群のポリマー粒子21aに代表点P1などを設定すると共に、第2解析対象領域A12内の第2ポリマー粒子群のポリマー粒子21aに代表点P2などを設定する。そして、解析部52cは、第1ポリマー粒子群のポリマー粒子21aと第2解析対象領域A12内の第2ポリマー粒子群のポリマー粒子21aとの間のフィラー間経路を探索する。
また、解析部52cは、第1解析対象領域A11内のポリマー粒子と、第2解析対象領域A12内のポリマー粒子との間のフィラー間経路の構造が、伸びきり鎖であるか否かを判定する。解析部52cは、例えば、第1ポリマー粒子群のポリマー粒子21aと、第2ポリマー粒子群のポリマー粒子21aとの間のフィラー間経路の構造が、伸びきり鎖であるか否かを判定する。この場合、解析部52cは、第1ポリマー粒子群のポリマー粒子21aと、第2ポリマー粒子群のポリマー粒子21aとの間の末端間距離を算出する。また、解析部52cは、第1ポリマー粒子群のポリマー粒子21aと、第2ポリマー粒子群のポリマー粒子21aとを結ぶ経路の経路長を算出する。解析部52cは、末端間距離と、経路長とを比較し、末端間距離と、経路長とが所定の関係にある場合に、フィラー間経路の構造が伸びきり鎖であると判定する。解析部52cは、例えば、末端間距離が経路長の90%以上である場合に、フィラー間経路の構造が伸びきり鎖であると判定する。
また、解析部52cは、第1解析対象領域A11内のポリマー粒子と、第2解析対象領域A12内のポリマー粒子との間のフィラー間経路の構造の状態を評価する。具体的には、解析部52cは、フィラー間経路に生じている力を算出する。解析部52cは、例えば、フィラー間経路に存在する隣接するポリマー粒子間の距離に基づいて単位結合当たりに生じている力を算出する。この場合、解析部52cは、フィラー間経路において、ポリマー粒子間の結合数に単位結合当たりに生じしている力を乗ずることによって、フィラー間経路に生じている力を算出する。解析部52cは、フィラー間経路が伸びきり鎖であった場合にのみ、フィラー間経路に生じている力を算出するようにしてもよい。
記憶部54は、ハードディスク装置、光磁気ディスク装置、フラッシュメモリ及びCD-ROMなどの読み出しのみが可能な記録媒体である不揮発性のメモリ、並びに、RAM(Random Access Memory)のような読み出し及び書き込みが可能な記録媒体である揮発性のメモリが適宜組み合わせられる。
記憶部54には、入力手段53を介して解析対象となる複合材料の解析用モデルを作成するためのデータであるゴムカーボンブラック、シリカ、及びアルミナなどのフィラーのデータ、ゴム、樹脂、及びエラストマーなどのポリマーのデータ、予め設定した物理量履歴である応力ひずみ曲線及び本実施形態に係る複合材料の解析用モデルの作成方法、複合材料の解析方法を実現するためのコンピュータプログラムなどが格納されている。このコンピュータプログラムは、コンピュータ又はコンピュータシステムに既に記録されているコンピュータプログラムとの組み合わせによって、本実施形態に係る複合材料の解析方法を実現できるものであってもよい。ここでいう「コンピュータシステム」とは、OS(Operating System)及び周辺機器などのハードウェアを含むものとする。
表示手段55は、例えば、液晶表示装置等の表示用デバイスである。なお、記憶部54は、データベースサーバなどの他の装置内に設けられてもよい。例えば、解析装置50は、入出力装置51を備えた端末装置から通信により処理部52及び記憶部54にアクセスするものであってもよい。
次に、再び図1を参照して、本実施の形態に係る複合材料の解析方法についてより詳細に説明する。
図1に示すように、モデル作成部52aが、所定のモデル作成領域A内に未架橋のポリマーモデル21を作成すると共に第1フィラーモデル11を作成する(ステップST11)。未架橋のポリマーモデル21は、図2に示したように、複数のポリマー粒子21aが結合鎖21bによって連結されてなるものである。ここでは、モデル作成部52aは、必要に応じて複数の第1フィラーモデル11及び複数のポリマーモデル21を作成する。次に、モデル作成部52aは、作成した第1フィラーモデル11中に未架橋のポリマーモデル21を配置して複合材料の解析用モデル1を作成する。ここでは、モデル作成部52aは、初期条件の設定の後、平衡化計算を行う。平衡化計算では、所定の温度、密度及び圧力で、初期設定後の各種構成要素が平衡状態に到達する所定の時間、分子動力学計算を行う。そして、モデル作成部52aは、初期条件の設定及び平衡化の計算処理後に、計算領域内に設定した複合材料の解析用モデルを作成するモデル作成領域A内にポリマー粒子21a及び結合鎖21bを含むポリマーモデル21及びフィラー粒子11aを含む第1フィラーモデル11を作成する。また、モデル作成部52aは、必要に応じてポリマーにフィラーとの親和性を高める水酸基、カルボニル基、及び原子団の官能基などの変性剤を配合してもよい。
次に、条件設定部52bが、モデル作成部52aで作成した複合材料の解析用モデル1を用いた分子動力学法による架橋解析、数値解析及び運動解析(シミュレーション)を実行するための各種条件を設定する。条件設定部52bは、入力手段53からの入力及び記憶部54に記憶されている情報に基づいて各種条件を設定する。各種条件としては、解析を実行する第1フィラーモデル11の位置及び数、フィラー原子、フィラー原子団、フィラー粒子11a及びフィラー粒子群の位置及び数、フィラー粒子11a番号、ポリマーの分子鎖の位置及び数、ポリマー原子、ポリマー原子団、ポリマー粒子21a及びポリマー粒子群の位置及び数、ポリマー粒子番号、結合鎖21b及び結合鎖21bの位置及び数、結合鎖21bの番号、予め設定した物理量履歴である応力ひずみ曲線及び条件を変更しない固定値などが含まれる。
次に、解析部52cは、複合材料の解析用モデル1中の未架橋のポリマーモデル中に架橋解析を実行して架橋点を作成する(ステップST12)。ここでは、モデル作成部52aは、未架橋のポリマーモデル21の中の所定のポリマー粒子21aを特定して架橋点を作成する。これにより、複合材料の解析用モデル1は、複数のポリマーモデル21によって架橋後の大きなポリマーモデル21が作成される。なお、ここでの架橋とは、3つ以上の結合鎖21bが接続してなるポリマー粒子21aを含むポリマーモデル21を形成することをいう。
次に、解析部52cは、架橋解析後の解析用モデル1に相互作用を設定して各種数値解析を実施する(ステップST13)。ここでの相互作用としては、例えば、フィラー粒子11a間、ポリマー粒子21a間、フィラー粒子11aとポリマー粒子21aとの間の相互作用及びフィラー粒子11aとポリマー粒子21aとが結合鎖で結合した状態の相互作用が挙げられるが、これらの全てに設定する必要はない。数値解析としては、モデル作成部52aによって作成された第1フィラーモデル11及びポリマーモデル21を含む複合材料の解析用モデル1を用いた分子動力学法による緩和解析、伸張解析、変温解析、変圧解析、及びせん断解析などの変形解析などの運動解析による数値解析などが挙げられる。また、解析部52cは、数値解析による運動解析の結果得られる運動変位及び公称応力又は運動変位を演算して得られる公称ひずみなどの各種物理量を取得する。
次に、解析部52cは、評価対象とするフィラー対を選定する(ステップST14)。ここでは、解析部52cは、解析領域内にあるフィラー粒子のうち、2つのフィラー粒子を選定する。解析部52cは、フィラー近傍領域を設定し、粒子群を抽出する(ステップST15)。解析部52cは、選定したフィラー粒子のフィラー近傍領域を設定し、それぞれのフィラー希望領域に含まれるポリマー粒子を粒子群として、抽出する。
解析部52cは、経路探索開始粒子と、複数の終了粒子を設定する(ステップST16)。解析部52cは、一方のフィラー粒子に対して抽出されたポリマー粒子の粒子群の1つのポリマー粒子を開始粒子として選定し、他方のフィラー粒子に対して抽出されたポリマー粒子の粒子群の少なくとも複数のポリマー粒子を終了粒子として選定する。解析部52cは、異なるフィラー間のポリマー経路を抽出し(ステップST17)抽出した粒子の経路探索完了かを判定する(ステップST18)。解析部52Cは、粒子群の粒子の経路探索が終了条件を満たすまで、開始粒子と終了粒子を順次選定して、ポリマー経路の探索を繰り返す。
次に、解析部52cは、第1フィラーモデル11の周囲に設定された第1解析対象領域A11内に一部が存在する特定のポリマーモデル21のポリマー粒子21aを第2粒子(例えば、代表点P1)として設定し、第1フィラーモデル11とは異なる第2フィラーモデル12の周囲に設定された第2解析対象領域A12内に一部が存在する特定のポリマーモデル21のポリマー粒子21aを第2粒子(例えば、代表点P2)として設定し、代表点P1と代表点P2との間の経路を解析する。ここでは、解析部52cは、代表点P1(第1粒子)を第1解析対象領域A11の外縁に存在する最外粒子であるポリマー粒子21aに設定し、代表点P2(第2粒子)を第2解析対象領域A12の外縁に存在する最外粒子であるポリマー粒子21a(第2粒子)に設定してもよい。
解析部52cは、完了していないと判定した場合、ステップST16に戻り、完了したと判定した場合、経路探索絵結果に基づいて、複合材料を評価する(ステップST19)。例えば、解析部52cは、第1粒子と、第2粒子との間の経路との間の末端間距離と、経路長とを算出し、末端間距離と、経路長とに基づいて、第1粒子と、第2粒子との間の経路の構造が、伸び切り鎖であるか否かを判定する。さらに解析部52cは、抽出された伸びきり鎖において、単位結合当たりに発生している力を算出し、抽出された伸びきり鎖において、単位結合当たりに発生している力に基づいて、伸びきり全体に発生している力を算出する。解析部52cは、抽出された経路において、単位結合当たりに発生している力を算出する。解析部52cは、抽出された経路において、単位結合当たりに発生している力に基づいて、抽出された経路全体に発生している力を算出する。解析部52cは、フィラー間の経路のうち、伸びきり鎖を抽出して、抽出された伸びきり鎖のみを対象として、発生している力を評価することによって、伸びきり鎖の状態を評価してもよい。これにより、本実施形態は、フィラー間の経路の状態に起因する系の剛性(応力)増加のメカニズムを明らかにすることができる。また、本実施形態は、評価の対象を伸びきり鎖に限定することで、解析部52cの演算量を少なくすることができる。