JP7272858B2 - 制振機構 - Google Patents

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本発明は、制振機構に関するものである。
近年、橋梁技術のめざましい進歩に伴い、振動・騒音の減少や走行性の向上に有効な多径間連続桁橋が多く設計されるようになってきている。多径間連続桁橋では、各橋脚頂部と上部構造(橋桁)との間に支承を設け、地震時の慣性力や温度による伸縮に対応できるようにしている。
支承には鋼製支承やゴム支承が用いられ、近年は積層ゴム支承が増えているが、既存の橋梁では鋼製支承が多用されていた。
一般に、図9に示すように、橋梁101の下部構造(RC橋脚)102と上部構造103との間に設置される橋梁の鋼製支承は、1箇所を固定支承106とし、他の箇所を可動支承(すべり支承)107とすることで、温度変化による橋梁101の橋軸方向Z1の伸縮に対処している。
図10に示すように、鋼製の可動支承107は、橋桁103に接合される上沓111と橋脚102に接合される下沓112との間に、図11に示すすべり板113を挟んだ構成となっている。例えば、下沓112の上面には円柱状の凹部112aが形成され、凹部112aにはゴムプレート114、中間プレート115及びシールリング116が設けられたすべり板113が配置されている。可動支承107の橋軸直角方向Z2の両側をサイドブロック118で挟み込み、可動支承107の橋軸直角方向Z2の変位を拘束して、可動支承107を橋軸方向Z1にのみ変位できるようにしている。
上記のような構成のため、地震時には、固定支承106のみが大きな水平力を負担することになり、固定支承106が設置された橋脚102だけに大きな応力を生じる。可動支承107は、従来のピン支承よりはるかに水平剛性が小さく変形能力が大きい。しかし、可動支承107は、LRB(鉛プラグ入り積層ゴム)や高減衰ゴム支承のような免震装置と比較すると、減衰性能は数分の1程度しかなく、変形能力も小さい。そのため、設計時に想定された地震時慣性力を上回る過大な地震力が作用すると、支承部や下部構造が損傷するおそれがある。特に、近年は阪神大震災や東日本大震災を受け、設計用地震動が見直されて(地震力が増大して)おり、長周期地震動への対応など既存インフラの耐震性向上技術が求められている。
耐震性能向上に有効な技術として、免震構造や制振構造が採用されている。橋梁用免震構造では、変形抑制のため、せん断剛性Gが大きな積層ゴム支承を使用している。そのため、あまり長周期化せず、地盤条件が悪い場合や長周期地震動には効果を発揮しにくい。また、既存橋梁を免震化するにはコストがかかり、施工時にコスト面から積層ゴム支承を使用できないなどの問題があった。
一方、制振構造は、下部構造と上部構造との間に制振ダンパーを追加し減衰性能を付与することで応答低減するものである。制振構造では、下部構造が変形するためダンパーの効きが悪く、支承部の変形を抑制するためにダンパー性能を増大すると下部構造のせん断力や上部構造の加速度が増加してしまう問題があった。例えば、下記の特許文献1では、制振構造が提案されているものの、ダンパーの適正量に関する内容は記載されていない。
そこで、制振構造によって確実且つ効果的に耐震性を向上させるために、慣性質量ダンパーやオイルダンパー等を用いた制振機構が提案されている(下記の特許文献2~5参照)。
特開2004-332478号公報 特開2016-023443号公報 特開2016-023444号公報 特開2016-023445号公報 特開2016-148147号公報
しかしながら、上記の特許文献2~5の制振機構は、いずれもゴム支承を対象としたものである。そのため、鋼製支承を用いた既存の高架橋に対する合理的な耐震性の向上が望まれている。
そこで、本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、鋼製支承を用いて、高架橋の耐震性を向上させた制振機構を提案するものである。
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を採用している。
すなわち、本発明に係る制振機構は、高架橋の橋脚と橋桁との間に設置される鋼製支承を用いた制振機構であって、少なくとも粘性減衰を含む第一要素と、該第一要素と直列に配置されたばね部材と、を備えることを特徴とする。
このように構成された制振機構では、高架橋の橋脚と橋桁との間に、少なくとも粘性減衰を含む第一要素とばね部材とを直列に配置することで、地震時応答を低減させて、耐震性を向上させることができる。
また、本発明に係る制振機構では、前記第一要素は、前記粘性減衰と慣性質量ダンパーとが並列配置されて構成されていることが好ましい。
このように構成された制振機構では、第一要素として、粘性減衰と慣性質量ダンパーとを並列配置することで、耐震性をより一層向上させることができる。
また、本発明に係る制振機構では、前記高架橋の1次固有振動数近傍における周波数伝達関数の応答倍率のピーク値が最小となるように設定していてもよい。
このように構成された制振機構では、高架橋の1次固有振動数近傍における周波数伝達関数の応答倍率のピーク値が最小となるように設定することで、地震時応答を大幅に低減させることができる。
本発明に係る制振機構によれば、鋼製支承を用いて、高架橋の耐震性を向上させることができる。
本発明の一実施形態に係る制振機構の設置例を示す図である。 本発明の一実施形態に係る制振機構の振動解析モデルの一例を示す図である。 本発明の一実施形態に係る制振機構にて使用する振動解析モデルを示す図である。 本発明の一実施形態に係る制振機構において、ψ/Mとk/kとの関係を示すグラフである。 本発明の一実施形態に係る制振機構において、制振機構の減衰定数hとk/kとの関係を示すグラフである。 本発明の一実施形態に係る制振機構において、最大応答倍率αとk/kとの関係を示すグラフである。 本発明の一実施形態の変形例に係る制振機構の振動解析モデルの一例を示す図である。 本発明の一実施形態、変形例及び制振機構無しの3つについての周波数伝達関数を示すグラフである。 従来の鋼製支承が設置された橋梁を示す図である。 従来の鋼製支承の可動支承を示す図であり、(a)橋軸直角方向(Z2方向)に沿う図であり、(b)橋軸方向(Z1方向)に沿う図である。 従来の鋼製支承を示す図である。
以下、本発明の一実施形態に係る制振機構について、図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る一実施形態に係る制振機構の設置例を示す図である。
図1に示すように、本実施形態に係る制振機構1は、高架橋10の橋脚11の頂部11a(以下、橋脚頂部11aと称することがある)と橋桁(上部構造)12との間に設置されるものである。制振機構1、鋼製支承で構成されている。
本実施形態では、複数の橋脚11のうち橋脚11Aと橋桁12との間には制振機構1が設置され、橋脚11Bと橋桁12との間には固定支承6が設置されている。
複数の橋脚11に跨がる橋桁12の自重は、各橋脚11に設置された制振機構1及び固定支承6を介して支持される。一方、橋桁12の水平地震力は固定支承6のある橋脚11Bに作用するとともに、制振機構1の負担力はその設置された橋脚11Aに作用する。なお、制振機構1の設置される橋脚11Aは、複数あってもよい。
図2は、制振機構1の振動解析モデルの一例を示す図である。
制振機構1、鋼製支承で構成されている。図2に示すように、制振機構1は、第一要素2とばね部材3とが直列に配置されて構成されている。第一要素2は、粘性減衰21と慣性質量ダンパー22とが並列配置されて構成されている。
本実施形態では、粘性減衰21として、オイルダンパー(以下、粘性減衰21をオイルダンパー21と称することがある)を採用することができる。
慣性質量ダンパー22は、ボールねじ機構等によってダンパー両端に作用する相対変位で錘を回転させることにより、錘質量の数千倍もの大きな慣性質量効果が得られるものである。慣性質量ダンパー22は、ダンパーに作用する相対加速度に比例した反力が得られる特徴がある。したがって、制振機構1は、橋桁12や桁梁の温度による伸縮(低速)にはほとんど反力を生じず追従することとなる。
慣性質量ダンパー22の慣性質量をψ、オイルダンパー21の粘性減衰や慣性質量ダンパー22の内部減衰を合計して減衰係数をc、ばね部材3のばね剛性をkとしてモデル化する。
そして、制振機構1は、高架橋10の1次固有振動数近傍における周波数伝達関数の応答倍率のピーク値が最小となるように設定したものである。高架橋10の水平剛性k(k1,等)を与条件として、周波数伝達関数で応答倍率のピーク値を最小化させる振動諸元(慣性質量ψ、減衰係数c)を最適諸元として設定する。
橋桁質量(多径間の場合は一体化された橋桁12の総重量)をM、固定支承6のある橋脚11Bの水平剛性をk、制振機構1の取り付く橋脚11Aの水平剛性をkとする。直列関係となるkとkとの合成剛性kは、図2中の式で表される。なお、この制振機構1を複数の橋脚11Aに設置する場合は、振動解析モデルにおいて慣性質量ψ、減衰係数c、合成剛性kからなる制振機構1を複数並列すればよい。
これは、1質点系振動モデルに制振機構を加えたものであり、最適諸元が定式化されている(磯田和彦,半澤徹也,田村和夫:慣性質量ダンパーを組み込んだ低層集中制震に関する基礎的研究、日本建築学会構造系論文集 第78巻 第686号、2013年4月)。
これは、上記論文に記載されている振動モデルと同じ形式となり、図3に示す振動解析モデルにある慣性質量ψ、減衰係数c、合成剛性kを制振機構1が設置される全ての橋脚11Aに対する合計とすれば、最適配置される慣性質量ψと減衰係数cは、下記の式(1),(2)で得られる。また、そのときの最大応答倍率αも、下記の式(3)で併せて示す。
Figure 0007272858000001
Figure 0007272858000002
Figure 0007272858000003
上式は合成剛性kを設定すれば、橋桁質量Mと固定支承6のある橋脚11Bの水平剛性kから一義的に求まるものであり、任意の合成剛性kに対して最適な慣性質量ψと減衰係数cが得られる。なお、合成剛性kは減衰を並列した慣性質量ψに直列するばね剛性kと制振機構1が設置される橋脚11Aの水平剛性kとの合成ばね剛性であり、直列ばねがない場合(ばね剛性k→∞となり、k=kとなる場合)も含まれる。
上式から明らかなように、合成剛性kが大きくなるにつれ慣性質量ψや減衰係数cも大きくなるため、制振機構1の反力も大きくなること、及び最大応答倍率が小さくなり共振特性が改善される(共振し難くなる)ことがわかる。ダンパー諸元は小さすぎると応答低減効果がなく、大きすぎると制振機構1が設置される橋脚11Aや接合部に過大な応力が生じてしまう問題がある。これらを考慮して適切な合成剛性kを設定する。
本実施形態の制振機構1の減衰定数hを、下記の式(4)に示すものとして、上式の最適諸元を図4~図6に実線で示す。
Figure 0007272858000004
なお、本実施形態の作用効果については、下記に示す変形例の作用効果とともに、実施形態及び変形例の性能の評価について記載した後に記載することとする。
(変形例)
次に、上記に示す実施形態の変形例に係る制振機構について説明する。
なお、以下の変形例において、前述した実施形態で用いた部材と同一の部材には同一の符号を付して、その説明を省略する。
図7は、本発明の一実施形態の変形例に係る制振機構の振動解析モデルの一例を示す図である。
図7に示すように、本変形例の制振機構1Xでは、橋桁12と橋脚頂部11a(図1参照。以下同じ。)との間に、慣性質量ダンパー22を設置せずに、粘性減衰21(第一要素2X)とばね部材3とが直列に配置されて構成されている。
粘性減衰21としては、オイルダンパーやビンガムダンパーほかの粘性系ダンパーがある。ただし、設置するダンパーが過大だと支承部の変位は低減できるが下部工(橋脚部)の応答が増大するため、付加するダンパーの減衰係数c´は上記論文から求まる最適値c´を上限とする。最適配置される減衰係数c´は、下記の式(5)で得られる。また、そのときの最大応答倍率αも、下記の式(6)で併せて示す。
Figure 0007272858000005
Figure 0007272858000006
本変形例の制振機構1Xの減衰定数hを、下記の式(7)に示すものとして、上式の最適諸元を図4~図6に破線で示す。
Figure 0007272858000007
次に、図4~図6のグラフで、慣性質量ダンパー22の有無を含め、制振機構1,1Xを可動支承に設置した際の性能を評価する。
(1)共振振動数における最大応答倍率α(地表加速度に対する橋桁加速度の比)は、制振機構1,1Xのない構造物では構造減衰をh(一般的にはh=0.02~0.04)のとき、α=1/(2h)となることからα>10となるが、慣性質量ダンパー22の有無によらず粘性減衰21を用いて制振すれば、α<10の性能が容易に得られ、耐震性を大幅に向上できる。
(2)合成剛性kは、減衰係数cや慣性質量ψに直列するばね剛性kと制振機構1が設置される可動支承を有する橋脚11Aの水平剛性kとの合成ばね剛性であり、通常は固定支承を有する橋脚の水平剛性kより小さく、下記の式(8)の関係にある。
Figure 0007272858000008
(3)k/k=0.3のとき、慣性質量ダンパー22を有する制振機構1の最適諸元はψ/M=0.20,h=0.07で、最大応答倍率α=2.77となり、慣性質量ダンパー22のない制振機構1Xの最適諸元はh=0.12でα=7.67となる。このことから、慣性質量ダンパー22を設ければ、付加減衰が小さくても大きな応答低減効果が得られることがわかる。なお、付加する減衰係数は減衰定数に比例し、最大応答倍率が小さいほど応答低減効果は大きい。
(4)慣性質量ダンパー22を設けた場合、k/k≧0.2であれば最大応答倍率α≦3.32となり、ほぼ共振しない優れた振動特性が得られる。
(5)橋梁の構造減衰h=0.03としたとき、慣性質量ダンパー22なしで粘性減衰21のみの減衰機構としたとき、及び慣性質量ダンパー22ありの減衰機構としたときの3つについて周波数伝達関数を求め、図8に示す。
図8に示すように、横軸1.0の共振域における最大応答倍率αは、制振機構1,1Xなしで16.7、慣性質量ダンパー22のない制振機構1Xで7.67、慣性質量ダンパー22のある制振機構1で2.77となり、本願の制振機構1,1Xによれば地震時応答を大幅に低減できることがわかる。慣性質量ダンパー22を用いない場合(慣性質量ダンパー22のない制振機構1X)でも、制振機構1,1Xなしの場合に比べれば地震時の応答を低減し、耐震性を向上させることができる。
以下に、上記に示す実施形態及び変形例の作用・効果について説明する。
上記に示す実施形態及び変形例に係る制振機構1,1Xによれば、高架橋10の橋脚11と橋桁12との間に、少なくとも粘性減衰21を含む第一要素2,2Xとばね部材3とを直列に配置することで、地震時応答を低減させて、耐震性を向上させることができる。
また、制振機構1では、第一要素2として、粘性減衰21と慣性質量ダンパー22とを並列配置することで、耐震性をより一層向上させることができる。
また、高架橋10の1次固有振動数近傍における周波数伝達関数の応答倍率のピーク値が最小となるように設定することで、地震時応答を大幅に低減させることができる。
なお、上述した実施の形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
1,1X…制振機構
2,2X…第一要素
3…ばね部材
6…固定支承
10…高架橋
11,11A,11B…橋脚
11a…頂部
12…橋桁
21…粘性減衰、オイルダンパー
22…慣性質量ダンパー

Claims (2)

  1. 高架橋の橋脚と橋桁との間に設置される鋼製支承を用いた制振機構であって、
    少なくとも粘性減衰を含む第一要素と、
    該第一要素と直列に配置されたばね部材と、を備え
    前記第一要素は、前記粘性減衰と慣性質量ダンパーとが並列配置されて構成されており、
    前記橋桁の質量をM、固定支承が設けられた橋脚の水平剛性をk 、前記ばね部材のばね剛性をk 、前記制振機構が取り付けられる橋脚の水平剛性をk 、ばね剛性k と水平剛性k との合成剛性をk 、とすると、
    前記慣性質量ダンパーの慣性質量ψ は、以下の式(1)で求められ、
    Figure 0007272858000009
    前記粘性減衰および前記慣性質量ダンパーの内部減衰を合計した減衰係数c は、以下の式(2)で求められ、
    Figure 0007272858000010
    前記高架橋の1次固有振動数近傍における周波数伝達関数の応答倍率αは、以下の式(3)で求められる
    Figure 0007272858000011
    ことを特徴とする制振機構。
  2. 前記高架橋の1次固有振動数近傍における周波数伝達関数の応答倍率のピーク値が最小となるように設定していることを特徴とする請求項1に記載の制振機構。
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