本開示の一実施形態による表示制御装置の機能は、図1~図3に示すHCU(Human Machine Interface Control Unit)100によって実現されている。HCU100は、車両Asにおいて用いられる虚像表示システム10を、ヘッドアップディスプレイ(以下、「HUD」)20等と共に構成している。虚像表示システム10は、車両Asの乗員(例えばドライバ等)へ向けて情報を提示する出力インターフェースの機能を備えている。
虚像表示システム10は、車両Asに搭載された車載ネットワーク1の通信バス99に、通信可能に接続されている。通信バス99は、例えばCAN(Controller Area Network,登録商標)を提供するバスである。虚像表示システム10は、車載ネットワーク1に設けられた複数のノードのうちの一つである。車載ネットワーク1の通信バス99には、複数の車載ECU(Electronic Control Unit)がそれぞれ一つのノードとして接続されている。通信バス99に接続されたこれらのノードは、相互に通信可能である。例えば、駆動制御ECU51、ブレーキ制御ECU52、ステア制御ECU53、ボディ系統合ECU54、ロケータ装置60及びフロントカメラユニット66等が通信バス99に接続されている。
駆動制御ECU51は、車両Asに動力源として搭載されたドライブユニットを制御する車載ECUである。車両Asの動力源は、内燃機関、モータジェネレータ、及びこれらを組み合わせたハイブリッドシステム等であってよい。即ち、車両Asは、純内燃機関車及びxEVのいずれであってもよい。ドライブユニットには、内燃機関又はモータジェネレータの出力軸の回転を減速又は増速させるトランスミッションが含まれていてもよい。駆動制御ECU51は、アクセル開度センサ31及び車軸トルクセンサ41等と直接的又は間接的に電気接続されている。駆動制御ECU51は、各センサ31,41等の計測信号に基づき、ドライブユニットに発生させる駆動トルクを制御する。
アクセル開度センサ31は、車両Asのドライバによるアクセル操作量を計測するセンサである。アクセル開度センサ31は、アクセル操作量に応じた信号を出力する。車軸トルクセンサ41は、車両Asの駆動源が発生させる駆動トルクの値を測定するセンサである。車軸トルクセンサ41は、例えば車両Asのドライブシャフトに設けられている。車軸トルクセンサ41は、ドライブシャフトのねじれ量を検出することにより、駆動トルクの値を間接的に測定する。車軸トルクセンサ41は、駆動トルクの値に応じた信号を出力する。車軸トルクセンサ41は、車両Asを加速させるプラス側の値だけでなく、車両Asを減速させるマイナス側の値も出力する。尚、駆動制御ECU51には、回転数センサによって計測された内燃機関又はモータジェネレータの出力軸の回転数を示す信号が提供されてもよい。
ブレーキ制御ECU52は、車両Asに搭載されたブレーキシステムを制御する車載ECUである。ブレーキ制御ECU52は、駆動制御ECU51と連携した制動力制御が可能であり、具体的には、ドライブユニットにて発生するエンジンブレーキ又は回生ブレーキに応じた制動力をブレーキシステムに発生させる。ブレーキ制御ECU52は、ブレーキペダルセンサ32、ブレーキ油圧センサ42、車輪速センサ43及び慣性センサ44等と直接的又は間接的に電気接続されている。ブレーキ制御ECU52は、各センサ32,42,43の計測信号及び他の車載ECUから取得する信号等に基づき、ブレーキ油圧回路の油圧を調整し、各輪に発生させる制動トルクを制御する。
ブレーキペダルセンサ32は、車両Asのドライバによるブレーキ操作量を計測するセンサである。ブレーキペダルセンサ32は、ブレーキ操作量に応じた信号を出力する。ブレーキ油圧センサ42は、ブレーキシステムが発生させる制動トルクの値を測定するセンサである。ブレーキ油圧センサ42は、マスタシリンダの油圧を計測することにより、制動トルクの値を間接的に測定する。ブレーキ油圧センサ42は、制動トルクの値に応じた信号を出力する。
車輪速センサ43は、各輪のハブ部分に設けられており、各輪の回転速度を計測するセンサである。車輪速センサ43は、車両Asの走行速度に応じた車速信号を出力する。慣性センサ44は、例えば3軸ジャイロセンサ及び3軸加速度センサ等によって構成されたIMU(Inertial Measurement Unit)であり、車両Asに作用する慣性力を計測する。慣性センサ44は、車両Asのピッチ軸、ヨー軸及びロール軸に関連づく加速度及び角速度を計測によって取得する。慣性センサ44は、前後方向加速度及び横方向加速度を示す加速度信号、並びにヨーレートを示す角速度信号等を少なくとも出力する。
ステア制御ECU53は、車両Asに搭載されたステアリングシステムを制御する車載ECUである。ステア制御ECU53は、操舵角センサ33と電気接続されており、操舵角センサ33の検出信号に基づき、EPS(Electric Power Steering)アクチュエータを制御する。ステア制御ECU53は、操舵角センサ33の検出信号に基づき、ステアリングシャフトの回転方向及び回転角度を演算する。回転角度は、直進時の角度位相(0°)が基準とされる。ステア制御ECU53は、基準位置からの回転方向及び回転角度(ステアリング角)を示す操舵情報を、通信バス99を通じて他の車載ECUに提供する。
ボディ系統合ECU54は、灯火装置及びドアロックシステム等を制御する車載ECUである。ボディ系統合ECU54は、車高センサ45及び着座センサ46等と直接的又は間接的に電気接続されている。車高センサ45は、車両Asに生じる上下方向の変位を計測するセンサである。車高センサ45は、ボディに懸架されたサスペンションアームの動作によって上下方向に変位する特定の車輪について、ボディに対する沈み込み量を計測する。車高センサ45は、例えば右後輪又は左後輪に設置されており、ボディとサスペンションアームとの間の相対距離を、車高を示す信号として出力する。着座センサ46は、車室内に設置された各シートの座面等に設置されている。着座センサ46は、ユーザの着座を検知し、ユーザの有無を示す信号を出力する。
ここで、上述した入力系の各センサ31~33の接続先は、上記とは異なる車載ECUであってよい。同様に、状態検出系の各センサ41~46の接続先も、上記とは異なる車載ECUであってよい。各センサと接続された車載ECUは、各センサから入力される信号に基づき、検出結果を示す情報を通信バス99に逐次出力する。さらに、入力系の各センサ31~33及び状態検出系の各センサ41~46は、車載ECUを介さずに、通信バス99に直接的に電気接続されていてもよい。また入力系の各センサ31~33からの各出力信号に替えて、又は各出力信号と共に、運転支援ECU又は自動運転ECUにて生成された運転制御のための制御信号が、駆動制御ECU51、ブレーキ制御ECU52及びステア制御ECU53に入力されてよい。
ロケータ装置60は、車両Asの現在位置を測定する車載装置である。ロケータ装置60は、例えばナビゲーション装置であってもよい。ロケータ装置60は、高精度地図データベース61を有している。高精度地図データベース61は、多数の3次元地図データ及び2次元地図データを格納した大容量の記憶媒体を主体とする構成である。3次元地図データは、自動運転を可能にする高精度な地図データである。3次元地図データでは、地形及び構造物が3次元の座標情報を持った点群によって表現されている。ロケータ装置60は、他の車載ECUからの要求に応じて、現在位置周辺の地図データを要求元に提供する。ロケータ装置60は、3次元地図データが未整備のエリアにおいて、2次元地図データを要求元に提供する。
フロントカメラユニット66は、撮像素子及びレンズ部と、撮像素子の制御及び撮像画像の画像解析を行う制御ユニットとを有している。フロントカメラユニット66は、車両Asの進行方向に撮像方向を向けた姿勢にて、車室内のバックミラー近傍に設置されている。フロントカメラユニット66は、撮像素子にて撮像された撮像画像の解析により、車両Asの数m~数十m前方の範囲から、予め規定された静止物体及び移動物体を検出する。フロントカメラユニット66は、例えば歩行者、自転車及び他車両等の移動物体、並びに交通信号、ガードレール、縁石、道路標識、道路標示及び区画線等の静止物体を検出可能である。フロントカメラユニット66は、画像解析によって取得した物体の相対位置及び形状等を示すセンシング情報を、通信バス99に逐次出力する。
虚像表示システム10は、操作デバイス26及びドライバステータスモニタ(以下、「DSM」)27等と直接的又は間接的に電気接続されている。虚像表示システム10は、操作デバイス26及びDSM27との接続により、ドライバによる操作を受け付ける入力インターフェースの機能をさらに備える。以下、操作デバイス26、DSM27、HUD20及びHCU100の詳細を、順に説明する。
操作デバイス26は、ドライバ等によるユーザ操作を受け付ける入力部である。操作デバイス26には、例えば虚像表示システム10の設定を変更するようなユーザ操作等が入力される。操作デバイス26には、ステアリングホイールのスポーク部に設けられたステアスイッチ、ステアリングコラム部8に設けられた操作レバー、及びドライバの発話を検出する音声入力装置等が含まれる。
DSM27は、近赤外光源及び近赤外カメラと、これらを制御する制御ユニットとを含む構成である。DSM27は、運転席のヘッドレスト部分に近赤外カメラを向けた姿勢にて、例えばステアリングコラム部8の上面又はインスツルメントパネル9の上面等に設置されている。DSM27は、近赤外光源によって近赤外光を照射されたドライバの頭部を、近赤外カメラによって撮影する。近赤外カメラによる撮像画像は、制御ユニットによって画像解析される。制御ユニットは、ドライバのアイポイントEPの位置及び視線方向等の情報を撮像画像から抽出し、抽出した状態情報をHCU100へ向けて逐次出力する。
HUD20は、マルチインフォメーションディスプレイ及びセンターインフォメーションディスプレイ等と共に、複数の車載表示デバイスの一つとして、車両Asに搭載されている。HUD20は、例えば経路情報等、車両Asに関連する種々の情報を、虚像Viを用いてドライバに提示する。
HUD20は、HCU100と電気的に接続されており、HCU100によって生成された映像データを逐次取得する。HUD20は、ウィンドシールドWSの下方にて、インスツルメントパネル9内の収容空間に収容されている。HUD20は、虚像Viとして結像される光を、ウィンドシールドWSの投影範囲PAへ向けて投影する。ウィンドシールドWSに投影された光は、投影範囲PAにおいて運転席側へ反射され、ドライバによって知覚される。ドライバは、投影範囲PAを通して見える前景に、虚像Viが重畳された表示を視認する。
HUD20は、プロジェクタ21及び拡大光学系22を含んでいる。プロジェクタ21は、LCD(Liquid Crystal Display)パネル及びバックライトを有している。プロジェクタ21は、LCDパネルの表示面を拡大光学系22へ向けた姿勢にて、HUD20の筐体に固定されている。プロジェクタ21は、映像データの各フレーム画像をLCDパネルの表示面に表示し、当該表示面をバックライトによって透過照明することで、虚像Viとして結像される光を拡大光学系22へ向けて射出する。拡大光学系22は、合成樹脂又はガラス等からなる基材の表面にアルミニウム等の金属を蒸着させた凹面鏡を、少なくとも一つ含む構成である。拡大光学系22は、プロジェクタ21から射出された光を反射によって広げつつ、上方の投影範囲PAに投影する。
HUD20には、画角VAが設定される。HUD20にて虚像Viを結像可能な空間中の仮想範囲を結像面IS(図2及び図4参照)とすると、画角VAは、ドライバのアイポイントEPと結像面ISの外縁とを結ぶ仮想線に基づき規定される視野角である。画角VAは、アイポイントEPから見て、ドライバが虚像Viを視認できる角度範囲となる。HUD20では、垂直方向における垂直画角(例えば4~5°程度)よりも、水平方向における水平画角(例えば10~12°程度)の方が大きくされている。アイポイントEPから見たとき、結像面ISと重なる前方範囲が画角VA内の範囲となる。一例として、結像面ISは、アイポイントEPから見て、概ね十数m~数十m程度の前方路面に重なるよう設定される。
HUD20は、重畳コンテンツCTs(図5参照)及び非重畳コンテンツCTn(図5参照)を、虚像Viとして表示する。重畳コンテンツCTsは、拡張現実(Augmented Reality,以下「AR」)表示に用いられるAR表示物である。重畳コンテンツCTsの表示位置は、例えば路面、前方車両、歩行者及び道路標識等、前景に存在する特定の重畳対象Tr(図4及び図5参照)に関連付けられている。重畳コンテンツCTsは、特定の重畳対象Trに重畳表示され、当該重畳対象Trに相対固定されているように、重畳対象Trを追って、ドライバの見た目上で移動可能である。即ち、ドライバのアイポイントEPと、前景中の重畳対象Trと、重畳コンテンツCTsとの位置関係とは、継続的に維持される。
非重畳コンテンツCTnは、前景に重畳表示される表示物のうちで、重畳コンテンツCTsを除いた非AR表示物である。非重畳コンテンツCTnは、重畳コンテンツCTsとは異なり、特定の重畳対象Trに非重畳の状態で、前景に重畳表示される。非重畳コンテンツCTnの表示位置は、特定の重畳対象Trには関連付けられていない。非重畳コンテンツCTnは、特定の重畳対象Trを追従することなく、ウィンドシールドWS等の車両構成に相対固定されているように表示される。尚、車両Asと重畳対象Trとの位置関係のために、非重畳コンテンツCTnであっても、一時的に重畳対象Trと重畳されることがある。
HCU100は、虚像表示システム10において、HUD20を含む複数の車載表示デバイスによる表示を統合的に制御する電子制御装置である。HCU100は、処理部11、RAM12、記憶部13、入出力インターフェース14、及びこれらを接続するバス等を備えたコンピュータを主体として含んでいる。処理部11は、RAM12と結合された演算処理のためのハードウェアである。処理部11は、CPU(Central Processing Unit)及びGPU(Graphics Processing Unit)等の演算コアを少なくとも一つ含む構成である。処理部11は、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、NPU(Neural network Processing Unit)及び他の専用機能を備えたIPコア等をさらに含む構成であってよい。処理部11は、RAM12へのアクセスにより、後述する各機能部の機能を実現するための種々の処理を実行する。記憶部13は、不揮発性の記憶媒体を含む構成である。記憶部13には、処理部11によって実行される種々のプログラム(表示制御プログラム等)が格納されている。
HCU100は、記憶部13に記憶された表示制御プログラムを処理部11によって実行することにより、複数の機能部を備える。具体的に、HCU100には、トルク情報取得部71、勾配情報取得部72、走行情報取得部73、状態情報取得部74、コンテンツ選定部76、姿勢演算部77及び表示生成部78等の機能部が構築される。
トルク情報取得部71は、主に前後方向の加速度を車両Asに与えるトルクの値又はトルクに関連する値を、トルク情報として取得する。トルク情報取得部71には、車軸トルクセンサ41にて計測される駆動トルクの値を示す情報と、ブレーキ油圧センサ42にて計測される制動トルクの値を示す情報とが、通信バス99を通じて提供される。本実施形態のトルク情報取得部71は、車軸トルク値及びブレーキ油圧値を、トルク情報として取得する。尚、トルク情報取得部71は、アクセル開度センサ31の出力に基づくアクセル開度、及びブレーキ油圧センサ42の出力に基づくブレーキ操作量等の情報を、さらに取得してもよい。
勾配情報取得部72は、車両Asの現在位置と3次元地図データ又は2次元地図データとを、ロケータ装置60から取得する。勾配情報取得部72は、ロケータ装置60から取得するロケータ情報に基づき、車両Asが現在走行する道路の勾配を算出する。勾配情報取得部72は、路面の縦断勾配に加えて、路面の横断勾配(カント)を、勾配情報として取得する。尚、勾配情報取得部72は、カメラユニットから路面の勾配情報を取得してもよい。
走行情報取得部73は、車両Asの走行状態を示す走行情報を、通信バス99を通じて取得する。具体的に、走行情報取得部73は、操舵角センサ33の検出信号に基づく舵角情報を、走行情報として取得する。加えて走行情報取得部73は、車輪速センサ43及び慣性センサ44の計測に基づく車速、加速度及び角速度(ヨーレート)等の各情報を、走行情報として取得する。走行情報取得部73は、エンジン回転数等の情報を、走行情報としてさらに取得してもよい。
状態情報取得部74は、車両Asの状態に関連する状態情報を取得する。状態情報取得部74は、乗員及び積載物によって変化する車両Asの総重量を示す重量情報を、状態情報の一つとして取得する。一例として、状態情報取得部74は、車高センサ45の計測に基づく車高情報と、着座センサ46の検知に基づく着座情報とを取得する。状態情報取得部74は、乗員の搭乗及び荷物等の積載がなく且つ車両Asが停止している無負荷状態を特定し、車高情報の基準値を設定する。状態情報取得部74は、車高情報の基準値からの変化量を、予め設定されたテーブル等に適用し、車両Asの総重量を算出する。また別の一例として、状態情報取得部74は、走行情報取得部73にて取得される駆動トルクと車両Asの前後方向の加速度との比較に基づき、車両Asの総重量を算出してもよい。
加えて状態情報取得部74は、車両Asに異常が生じたことを示す異常信号を通信バス99から取得する。車載ECU及びセンサの少なくとも一部は、自己診断機能により、自己又は接続された構成の異常を検知可能である。自己診断機能を有する車載ECU等は、異常を検知した場合、予め規定された内容の信号を、異常信号として通信バス99に出力する。状態情報取得部74は、こうした異常信号を取得し、車載ECU及びセンサの異常を把握する。
また状態情報取得部74は、スリップ情報を状態情報として取得する。スリップ情報は、例えば低μ路等において、車両Asの各輪のタイヤにスリップが発生しているか否かを判定した判定結果である。スリップ判定は、各輪について個別に実施される。一例として、各輪の車輪速センサ43の検出値と、通信バス99に出力されている実車速の値との比較により、各輪のスリップの有無が判定される。スリップ情報は、ブレーキ制御ECU52にて生成され、状態情報取得部74に提供されてもよい。又は、走行情報取得部73にて取得される走行情報の比較に基づき、状態情報取得部74又は走行情報取得部73がスリップ情報を生成してもよい。
さらに、状態情報取得部74は、通信バス99から情報を取得する上記の機能に加えて、記憶部13に記憶された情報を読み出す機能を有している。具体的に、状態情報取得部74は、車両Asの経年変化に関連する経年変化情報と、車両Asのユーザによって設定されるユーザ設定値とを、記憶部13からの読み出しによって取得する。経年変化情報は、車両Asの劣化度合いを定量的に示す状態情報である。状態情報取得部74は、例えば車両Asのイグニッションのオン回数及び車両Asの総走行距離等を、経年変化情報として読み出す。ユーザ設定値は、操作デバイス26へのユーザ操作の入力に基づき設定された値である。ユーザ設定値は、重畳コンテンツCTsの重畳位置の補正の強さを調整する値であり、姿勢演算部77にて用いられる補正式(後述する)のゲインa,b等の調整に用いられる。
コンテンツ選定部76は、各情報取得部71~74等によって通信バス99から取得される各種の取得情報に基づき、虚像表示させる重畳コンテンツCTsの選択及び調停を行う。コンテンツ選定部76は、表示要求のある重畳コンテンツCTsの優先度を総合的に判定し、表示対象とすべき重畳コンテンツCTsを選定する。コンテンツ選定部76によるコンテンツの選定結果は、姿勢演算部77及び表示生成部78に提供される。
姿勢演算部77及び表示生成部78は、重畳コンテンツCTsを重畳対象Trに追従させる虚像表示を可能にする機能部である。詳しく説明すると、水平路面を車両Asが一定速で走行している場合、車両姿勢も実質的に一定となる。故に、例えば車高情報等を用いた重畳位置の補正だけで、アイポイントEPから見た重畳対象Trに重畳コンテンツCTsを重畳させることが可能である(図4上段 <一定速走行中>参照)。
しかし、実環境における車両Asには、姿勢変化が連続的に生じる。例えば車両Asが加速している場合には、車体後方が沈み込む姿勢変化(スクワット)が発生する。このように、過渡的な姿勢変化が車両Asに発生するシーンでは、位置補正が姿勢変化に対して遅れることとなり、アイポイントEPと重畳対象Trとを結ぶ仮想線上から、重畳コンテンツCTsが外れてしまう(図4中段 <加速中/ずれ補正なし>参照)。その結果、重畳コンテンツCTsの表示ずれDMが生じ、例えば重畳コンテンツCTsは、重畳対象Trである前方路面から浮き上がったような表示となる(図5上段 <ずれ補正なし>参照)。
こうした表示ずれDMの発生を回避するため、姿勢演算部77及び表示生成部78は、トルク情報を用いたフィードフォワード制御によって車両Asの姿勢変化を予測し、重畳コンテンツCTsのずれ補正を実施する。こうした制御の実施により、加速中の姿勢変化に対しても、重畳コンテンツCTsは、アイポイントEPと重畳対象Trとを結ぶ仮想線上に位置し続けることができる(図4下段 <加速中/ずれ補正あり>参照)。その結果、重畳コンテンツCTsは、重畳対象Trである前方路面に貼り付いたような表示を維持できる(図5下段 <ずれ補正あり>参照)。
以上の表示制御の実現のため、姿勢演算部77は、各情報取得部71~74による取得情報に基づき、車両姿勢を演算する。具体的に、姿勢演算部77は、車両Asのロール角を演算する機能と、車両Asのピッチ角を予測する機能とを備えている。
尚、ロール角は、車両Asに規定されたロール軸まわりの回転角度である。ロール角は、車両Asの車体部分の水平路面に対する左右の傾き度合いを示す。ロール軸は、車両Asの前後方向に沿った仮想軸であり、車両Asのサスペンション形態に基づき、幾何学的に規定される。ピッチ角は、車両Asに規定されたピッチ軸まわりの回転角度である。ピッチ角は、車両Asの車体部分の水平路面に対する前後の傾き度合いを示す。ピッチ軸は、車両Asの左右方向に沿った仮想軸であり、ピッチ軸と同様に車両Asのサスペンション形態に基づき、幾何学的に規定される。
姿勢演算部77は、勾配情報取得部72にて取得される3次元地図データ等に基づき、走行中のカーブの曲率半径を取得する。姿勢演算部77は、カーブの曲率半径と、走行情報取得部73にて取得される舵角情報及び車速情報とを用いて、現在の車両Asのロール角を算出する。さらに、姿勢演算部77は、勾配情報取得部72にて把握される路面の横断勾配を加える演算により、算出したロール角を補正する。
姿勢演算部77は、トルク情報取得部71にて取得されるトルク情報に基づき、車両Asのピッチ角を予測する。姿勢演算部77は、下記の(式1)に示す補正式にトルク情報を適用する処理により、トルク情報の計測時刻から所定時間(後述する)が経過した時刻での車両Asの予測ピッチ角Pを算出する。尚、記憶部13には、複数の補正式が予め記憶されている。
P=a・Td+b・Tb+c+d+e ・・・ (式1)
上記の補正式において、a及びbは、トルク情報に適用されるゲインである。Tdには、車軸トルクセンサ41の検出に基づく車軸トルク値(単位はN・m等)が代入される。故に、a・Tdは、駆動トルクによるピッチ角変化を予測する駆動補正項となる。一方、Tbには、ブレーキ油圧センサ42の検出に基づくブレーキ油圧値(単位はMPa等)が代入される。故に、b・Tbは、制動トルクによるピッチ角変化を予測する制動補正項となる。
また上記のc~eは、a・Td及びb・Tbとは異なる補正項である。具体的に、cは、車種によって決定される補正項(車種別補正項)である。cは、車両Asの駆動源の種類、駆動方式、駆動源位置、サスペンションの形態及び特性、並びに車両重量等によって決定される。
dは、舵角情報に応じたピッチ角の補正項(旋回補正項)である。詳記すると、旋回中の車両Asでは、車両Asの進行方向に対してタイヤが僅かに異なる方向を向くことにより、向心力が生み出されている。そのため、駆動輪に生じる駆動力(図6 Ffl参照)も、車両Asの前後方向に対して、僅かに異なる方向に作用する。その結果、駆動輪に同一の駆動トルクが発生していても、旋回時に車両Asの前後方向に作用する駆動力(図6 Fflt参照)は、直進時の駆動力よりも少なくなる。即ち、旋回時では直進時と比較して、駆動トルクに対応するピッチ角が減少する。旋回補正項dは、こうした旋回時の影響を補正する補正項である。旋回補正項dは、駆動輪のタイヤのスリップ角が大きくなるほど、言い替えれば、操舵角又は横方向加速度が大きくなるほど、駆動補正項を減少させるような変数項とされる。
以上説明した旋回時の影響は、低速且つ大舵角で旋回する例えば交差点での右左折等のシーンでは、考慮しない方がよい。故に、例えば操舵角が操舵閾値を超えるような場合、旋回補正項dは、無視されるのが望ましい。
eは、トランスミッションの変速ショックを補正する補正項(変速補正項)である。eは、変速ショックの大きさ、言い替えれば、変速の前後の変速段に応じて変化する変数項であってもよく、又は定数項であってもよい。尚、ドライブユニットにトランスミッションが無い車両Asでは、変速補正項eは、補正式から省略されてよい。また、モータジェネレータの駆動力のオン及びオフ時、内燃機関の始動及び停止時、並びに気筒休止のオン及びオフ時等において、駆動力の不連続な変化が生じる場合、これらに起因するピッチ角の変化が変速補正項eによって補正されてもよい。
以上の補正式は、車両適合によって予め構築される。即ち、補正式におけるゲインa,b及び補正項c~eは、それぞれ車両適合のための適合試験パターンを用いて予め導出された値とされる。さらに、補正式は、虚像Viの表示に関連するシステムの遅延時間と、駆動トルク及び制動トルクの発生に関連する車両Asの制御特性とを加味した内容とされる。
詳記すると、遅延時間は、トルク情報の計測時刻から虚像Viが表示されるまでに必要とされる時間である。遅延時間は、センサ、車載ECU及び通信バス99間にてそれぞれ生じる通信遅延、各車載ECUの処理部による演算処理に伴う処理遅延、映像データの生成に要する描画遅延、LCDパネル及びバックライトの駆動に要する表示遅延等を足し合わせた時間となる。遅延時間は、車載ネットワーク1の構成、HCU100等の車載ECUの処理性能、及びプロジェクタ21の応答速度等により、車両Asの種別毎に異なってくる。補正式は、こうした遅延時間の違いを車両適合させる内容であり、トルク情報が計測された時刻からシステム固有の遅延時間が経過した将来時刻におけるピッチ角を推定する推定式となる。
一方、制御特性は、駆動制御ECU51及びブレーキ制御ECU52の制御により、ドライブユニット及びブレーキシステムが発生させるトルクの特性である。制御特性は、ドライブユニットに設けられた動力源の種類、並びに前輪駆動、後輪駆動及び全輪駆動等の駆動方式により、車両Asの種別毎に異なってくる。
一例として、車両Asに所定の減速度を作用させる場合、純内燃機関車では、ブレーキシステムが全ての制動トルクを発生させる。対して、xEVでは、モータジェネレータを用いた回生ブレーキによって少なくとも一部の制動トルクが供給される。また、回生ブレーキによる制動トルクと、通常のフットブレーキによる制動トルクとの配分も、車種固有の値となる。さらに、xEVでは、制動開始時の減衰力が、純内燃機関車よりも高い傾向にある。
また別の一例として、車両Asに所定の正の加速度を作用させる場合、前輪駆動車及び後輪駆動車では、駆動輪に全ての駆動トルクが発生する。一方で、全輪駆動車では、前輪及び後輪の両方に駆動トルクが発生する。さらに、前後輪のトルク配分も、車種固有の値となる。例えば、前後輪の一方が内燃機関で駆動され、他方がモータジェネレータで駆動される車両Asでも、各動力源の制御特性により、前後輪のトルク配分が決定される。
補正式は、こうしたトルク発生に関する制御特性の違いを車両適合させる内容であり、駆動トルク及び制動トルクの各値に対応するピッチ角を推定する推定式となる。姿勢演算部77は、車両適合によって構築された補正式を用いて、予想ピッチ角を演算する。
姿勢演算部77は、状態情報の示す車両状態に応じて補正式を切り替える機能を有している。記憶部13には、複数の補正式、言い替えれば、ゲインa,b及び補正項c~eを一纏まりとする複数の数値セットが記憶されている。複数の補正式(数値セット)は、それぞれ車両Asの状態に紐づけて設定された内容であり、互いに異なっている。姿勢演算部77は、車両Asの状態情報に基づき、記憶部13から読み出す一つの補正式(数値セット)を選択する。
具体的に、姿勢演算部77は、状態情報取得部74にて取得される重量情報の示す総重量に応じて、補正式を切り替える。故に、乗員数及び積載物が変化し、車両総重量の増減によって加減速時の挙動が変化しても、姿勢演算部77は、予測ピッチ角の推定精度を確保できる。
また姿勢演算部77は、経年変化情報として状態情報取得部74に取得されるイグニッションのオン回数又は車両Asの総走行距離に応じて、補正式を切り替える。以上により、経年劣化によって加減速時の挙動が変化しても、姿勢演算部77は、予測ピッチ角の推定精度を確保できる。
姿勢演算部77は、車両Asのいずれかのタイヤにスリップが生じたことを示すスリップ情報が状態情報取得部74によって取得された場合、このスリップ情報に基づき、スリップの発生期間にて、予測ピッチ角の算出を中止する。その結果、表示生成部78による重畳位置のずれ補正も中止される。スリップ情報に基づく予測演算の一時中断は、トルク情報と実際の車両挙動との間にスリップに起因する差が生じ、ひいては車両姿勢の予測精度が確保され難くなることを想定した処理である。予測演算の一時中断は、加速時のスリップに限定されてもよく、又は制動時のスリップに限定されてもよい。
また姿勢演算部77は、状態情報取得部74にて異常信号が取得された場合に、この異常信号に基づき、予測ピッチ角の算出を中止する。その結果、表示生成部78による重畳位置のずれ補正も中止される。予測演算の中止対象となる異常信号は、通信バス99に出力される全ての異常信号であってもよく、又は虚像表示に関連する車両構成の異常信号に限定されてもよい。
姿勢演算部77は、車両Asが勾配のある路面を走行する場合、勾配情報に基づき、予測ピッチ角を補正する。姿勢演算部77は、勾配情報取得部72にて把握される縦断勾配を用いて、道路勾配によって生じるピッチ角(以下、「傾斜ピッチ角」)を算出する。姿勢演算部77は、傾斜ピッチ角を補正量として予測ピッチ角に加える演算により、道路勾配を補正した予測ピッチ角を取得する。
ここまで説明した姿勢演算部77は、各情報取得部71~74及びコンテンツ選定部76と連携し、補正式設定処理及び姿勢値算出処理を実施する。以下、補正式設定処理及び姿勢値算出処理の詳細を、図7及び図8に基づき、図1及び図3を参照しつつ、以下説明する。
図7に示す補正式設定処理は、例えば車両Asが停車状態である場合に開始される。姿勢演算部77は、例えば車両Asの使用開始時にて、イグニッションがオン状態とされた後、車両Asの走行開始前に、補正式設定処理を開始する。また姿勢演算部77は、車両Asのドアの開閉があった場合に、補正式設定処理を開始してもよい。
補正式設定処理のS11では、状態情報取得部74にて取得される状態情報に基づき、総重量及び劣化度合い等の現在の車両状態を把握し、S12に進む。S12では、S11にて把握した車両状態に応じて、現在の車両状態に対応する補正式を、記憶部13に記憶された複数の補正式の中から選択し、S13に進む。
S13では、ドライバ等によって設定されたユーザ設定値を記憶部13から読み出す。そして、S12にて選択した補正式のゲインa,b等を、読み出したユーザ設定値に基づき調整し、S14に進む。S13では、ユーザ設定値に基づく他の補正項c~eの調整も実施されてもよい。一例として、S13では、各ゲインa,b又は補正式の全体に、ユーザ設定値に基づく調整係数が乗算される。調整係数は、0~1の間の任意の値とされる。調整係数がゼロの場合、ずれ補正は、実質的にキャンセルされた状態となる。一方で、係数が1の場合、最大限のずれ補正が実施される。
S14では、S13にてゲイン等の調整を行った補正式を、姿勢値算出処理にて参照可能に準備し、補正式設定処理を終了する。S14では、例えば補正式のゲインa,b及び補正項c~eの各値が、予め規定されたRAM12の特定アドレスに書き込まれる。
図8に示す姿勢値算出処理は、コンテンツ選定部76にて重畳コンテンツCTsの表示実施が決定された場合に、所定の周期で繰り返し実施される。姿勢値設定処理のS101では、状態情報取得部74にて取得される状態情報に基づき、スリップの発生及び異常信号の有無等、現在の車両状態を把握し、S102に進む。
S102では、S101にて把握した車両状態に基づき、予測ピッチ角の算出を中止するか否かを判定する。S102にて、中止条件が成立していると判定した場合、姿勢値算出処理を終了する。この場合、予測ピッチ角は、ゼロ又は直前の算出値に維持される。一方、S102にて、補正の中止条件が成立していないと判定した場合、S103に進む。
S103及び104では、トルク情報を取得する。具体的に、S103では、車軸トルクセンサ41の計測に基づく車軸トルク値を取得し、S104に進む。S104では、ブレーキ油圧センサ42の計測に基づくブレーキ油圧値を取得し、S105に進む。
S105及びS106では、走行情報を取得する。具体的に、S105では、操舵角センサ33の計測に基づく操舵角を取得し、S106に進む。S106では、慣性センサ44の計測に基づく横加速度を取得し、S107に進む。
S107では、S105にて取得した操舵角が操舵閾値を超えているか否かを判定する。S107にて、操舵角が操舵閾値以下であると判定した場合、S109に進む。一方で、S107にて、操舵角が操舵閾値を超えていると判定した場合、S108に進む。S108では、補正式から旋回補正項dを除く設定とし、S109に進む。
S109では、車速情報をさらに取得し、S110に進む。S110では、S109にて取得した車速情報に基づき、車両Asが停止しているか否かを判定する。S110にて、車速がゼロでないと判定した場合、S112に進む。一方で、S109にて、車速が実質的にゼロであると判定した場合、S111に進む。S111では、補正式から制動補正項「b・Tb」を除く設定とし、S112に進む。
S112では、エンジン回転数及びアクセル開度等の情報をさらに取得し、S113に進む。S113では、S112にて取得した走行情報に基づき、変速の有無を判定する。S113にて、変速が有ると判定した場合、S115に進む。一方で、S113にて、変速が無いと判定した場合、S114に進む。S114では、補正式から変速補正項eを除く設定とし、S115に進む。
S115では、補正式設定処理(図7参照)にて設定した補正式を読み出し、S108、S111及びS114にて行った設定を反映する。加えてS115では、表示対象とされる重畳コンテンツCTsの種別に応じた調整係数を、補正式のゲインa,b又は補正式全体に乗算し、補正の強度を調整してもよい。こうした補正式に、S103及びS104にて取得したトルク情報の各取得値を代入して、予測ピッチ角を算出し、一連の姿勢値算出処理を終了する。
表示生成部78は、HUD20に出力する映像データを生成する映像生成処理(図9参照)の実施により、HUD20による虚像表示を制御する。表示生成部78は、映像データの生成に関連する機能として、重畳コンテンツCTsの元画像を描画する機能、非重畳コンテンツCTnの元画像を描画する機能、及び各元画像を描画した複数のレイヤーを合成して映像データとする機能等を有している。
表示生成部78は、コンテンツ選定部76によるコンテンツの選定結果を取得し(図9 S21参照)、選定された重畳コンテンツCTsの元画像を、ARレイヤーに描画する。表示生成部78は、重畳コンテンツCTsの描画に必要なコンテンツ情報を逐次取得する。例えば経路案内コンテンツ(図5参照)を表示させる場合、表示生成部78は、経路案内コンテンツの内容を規定する経路情報を、コンテンツ情報としてナビゲーション装置から取得する(図9 S22参照)。
加えて表示生成部78は、重畳対象Tr及びアイポイントEPの位置関係を把握する(図9 S23参照)。具体的に、表示生成部78は、重畳コンテンツCTsの重畳対象Tr(図4参照)の相対位置及び形状等を示すセンシング情報を、フロントカメラユニット66等の外界センサから取得する。さらに表示生成部78は、ドライバのアイポイントEPの3次元の位置情報を、DSM27から取得する。
表示生成部78は、重畳対象Tr及びアイポイントEPの位置関係を継続的に把握し、これらの位置関係に基づくシミュレーション演算を繰り返し、結像面ISにおける虚像Viの結像位置及び結像形状を決定する。表示生成部78は、シミュレーション演算によって決定された結像位置及び結像形状の虚像Viが結像面ISに結像されるよう、ARレイヤーにおける元画像の描画位置及び描画形状をさらに決定する。
表示生成部78は、重畳コンテンツCTsを重畳対象Trに追従させるため、予測される車両姿勢に合わせて元画像の描画位置及び描画形状を補正する。具体的に、表示生成部78は、姿勢演算部77にて予測された姿勢変化の情報、即ち、予測ピッチ角を取得する。(図9 S24参照)。表示生成部78は、予測ピッチ角に基づき、結像面ISの位置及び姿勢を、予測されたピッチ角に応じた状態に逐次補正する。以上により、車両Asに対して相対固定された結像面ISは、予測される車両姿勢に合わせた位置及び姿勢に規定される。表示生成部78は、結像面ISの位置だけでなく、アイポイントEPの位置も、ピッチ角の予測情報に応じて補正してよい。表示生成部78は、予測される車両姿勢において、重畳対象Trに重なるような描画位置及び描画形状を決定する(図9 S27参照)。表示生成部78は、決定した描画位置及び描画形状にて、重畳コンテンツCTsの元画像をARレイヤーに描画する(図9 S28参照)。
表示生成部78は、ARレイヤーの生成と併行して、非ARレイヤーを生成する。表示生成部78は、画角VA内に常時表示される例えばスピード表示(図5参照)等の非重畳コンテンツCTnの元画像を、非ARレイヤーに描画する。表示生成部78は、ARレイヤー及び非ARレイヤーを合成し、一つの出力レイヤーを生成する(図9 S29参照)。さらに表示生成部78は、出力レイヤーに所定の歪み補正を適用し、投影範囲PAへの光の投影に伴う虚像Viの歪みが低減(相殺)されるように、出力レイヤーの全体形状を変形させる(図9 S30参照)。表示生成部78は、歪み補正を適用した出力レイヤーを一つのフレーム画像とし、予め規定された映像フォーマットに従った映像データを生成する。表示生成部78は、生成した映像データを、プロジェクタ21へ向けて連続的に出力する(図9 S31参照)。
加えて表示生成部78は、重畳コンテンツCTsの重畳位置のずれ補正を、一時的に中止する。表示生成部78は、ずれ補正を中断する場合、一例として、重畳コンテンツCTsを基準位置に表示させる。基準位置は、車両姿勢に変化が生じていないと仮定したとき、言い替えれば、ピッチ角、ロール角及びヨー角が全てゼロであると仮定したときの表示位置である。さらに別の一例として、表示生成部78は、ずれ補正を中断する場合に、中断直前の表示位置に重畳コンテンツCTsを固定してもよい。
表示生成部78は、重畳位置のずれ補正を適用した重畳コンテンツCTsの変形度合いが予め規定された上限を超える場合(図9 S25参照)に、重畳位置の補正を中止する。例えば、重畳コンテンツCTsの描画形状によっては、ずれ補正が逆効果となり、ドライバの煩わしさを感じさせる要因となり得る。一例として、制動時に車体前方が沈み込むと、画角VAは、ごく近傍の前方路面と重なる。この場合、画角VAの大部分を塗り潰すような重畳コンテンツCTsが表示されてしまうため、ドライバは、煩わしさを感じ易い。また別の一例として、加速時に車体後方が沈み込むと、画角VAは、遠方の路面と重なるようになる。この場合、重畳コンテンツCTsは、上下方向に細長く伸びた意味理解の難しい形状となり得る。
こうした虚像形状の極端な変形を回避するため、表示生成部78は、重畳コンテンツCTsのずれ補正の上限を設定する。上限は、重畳コンテンツCTsの種別毎に設定されている。上限は、姿勢演算部77にて算出される予測ピッチ角に対し設定される値であってもよく、元画像に対して設定される画像上の境界であってもよい。
予測ピッチ角に対して変形上限値が設定される場合、表示生成部78は、予測ピッチ角が変形上限値を超えると、予測ピッチ角に替えて、代替ピッチ角を設定する(図9 S26参照)。代替ピッチ角は、例えばゼロ又は変形上限の値とされる。表示生成部78は、重畳コンテンツCTsの元画像の描画形状及び描画位置を、代替ピッチ角を用いて決定することで、重畳コンテンツCTsのずれ補正を一時的に中断させる。故に、代替ピッチ角がゼロに設定された場合、重畳コンテンツCTsの表示位置は、基準位置に維持される。また、代替ピッチ角が変形上限とされた場合、重畳コンテンツCTsの表示位置は、特定位置に維持される。
さらに、表示生成部78は、車両Asの状態情報に基づき、重畳コンテンツCTsの重畳位置のずれ補正を一時的に中止できる。上述したように、姿勢値算出処理にて中止条件が成立する場合(図9 S102参照)、予測ピッチ角は、特定の値に維持される。故に、中止条件が成立している期間において、表示生成部78は、重畳コンテンツCTsの表示位置を、基準位置又は特定位置に維持させる。具体的に、表示生成部78は、状態情報取得部74にてスリップ情報が取得された場合、このスリップ情報に基づき、スリップの発生期間にて重畳位置のずれ補正を中止する。加えて表示生成部78は、状態情報取得部74にて異常信号が取得された場合、この異常信号に基づき、重畳位置のずれ補正を中止する。
ここまで説明した本実施形態では、車両Asに加速度を与えるトルクの値から、車両Asの姿勢変化が予測される。故に、車両Asが過渡的に姿勢変化するシーンでも、虚像Viの重畳位置は、前景中の重畳対象Trに追従し得る。加えて、姿勢変化の予測には、システムの遅延時間と車両Asの制御特性とを加味した補正式が用いられる。このように、車両Asに適合させた補正式を用いれば、姿勢変化の予測精度、ひいては重畳位置の補正精度が向上し得る。したがって、虚像Viの重畳位置のずれの抑制が可能となる。
より詳しく説明すると、通信、演算処理及び描画処理に伴う遅延時間は、車両Asに搭載されたシステム毎に異なる。加えて、駆動源及び駆動方式が異なると、加減即時のトルク発生に関連する制御特性、例えば駆動制御や回生量制御等も異なってくる。本実施形態の補正式は、車両適合により、車種毎に異なる遅延時間及び制御特性を吸収できるよう構築されている。故に、補正式によって得られた予測ピッチ角を用いた補正を実施すれば、重畳コンテンツCTsの位置ずれが低減可能となる。
加えて本実施形態では、車両Asの状態に関連する状態情報が状態情報取得部74によって取得される。故に、表示生成部78は、重畳コンテンツCTsの重畳位置のずれ補正を、車両Asの状態に応じて、ドライバの違和感を惹起させないように、適切に実施し得る。
具体的に、本実施形態では、互いに異なる内容の補正式が、車両Asの状態に紐づけて複数設定されている。そして、姿勢演算部77は、状態情報の示す車両状態に応じて、予め設定された複数のうちで補正式を切り替える。故に、姿勢演算部77は、実環境において不可避的に生じる外乱に対応し、現在の車両状態に応じた適切な補正式を使用できる。その結果、姿勢変化の予測精度、ひいては重畳コンテンツCTsの重畳精度の外乱に対するロバスト性が確保され易くなる。
また本実施形態では、車両Asの総重量に応じて、トルク情報を適用する補正式が切り替えられる。乗員の乗降や積載物の積み下ろしにより、車両Asの総重量が増減すると、ピッチ軸まわりの慣性モーメントも変化する。慣性モーメントが変化すると、駆動トルク及び制動トルクに対する車両姿勢の態様も変化する。故に、総重量に応じた補正式を切り替えによれば、姿勢演算部77は、乗員及び積載物が変化しても、現在の車両Asの姿勢挙動に適合する補正式を使用できる。したがって、総重量が変化しても、重畳コンテンツCTsの重畳精度の維持が可能になる。
さらに本実施形態では、車両Asの経年変化情報に応じて、トルク情報を適用する補正式が切り替えられる。例えば車両Asには、ドライブユニットの駆動トルクの減少、ブレーキユニットの制動力の低下、サスペンションのへたり等が、経年劣化として不可避的に生じる。故に、経年変化情報に応じた補正式を切り替えによれば、姿勢演算部77は、車両Asに経年劣化が生じても、車両Asの劣化度合いに適合する補正式を使用し続けることができる。その結果、重畳コンテンツCTsの重畳精度は、車両Asの使用期間を通して、継続的に維持可能となる。
加えて本実施形態では、状態情報に基づき、重畳位置の補正が中止される。HUD20の画角VAは、ウィンドシールドWSのごく一部に限られている。故に、車両Asの状態によっては、重畳位置を補正しない方がよい場合、又は重畳位置を補正し切れない場合が生じ得る。そのため、状態情報に基づく補正の一時的な中断は、不適切な補正が実施されてしまい、重畳コンテンツCTsの違和感が顕著となることを防ぎ得る。
また本実施形態では、スリップ情報に基づき、スリップの発生期間にて、重畳位置の補正が中止される。タイヤにスリップが発生した場合、トルク情報から推定される車両姿勢は、実際の車両姿勢とは異なってくる。故に、スリップ情報に基づく補正の一時的な中断は、違和感のある重畳コンテンツCTsの表示回避に有効となる。
さらに本実施形態では、異常信号の取得に基づき、重畳位置の補正が中止される。例えば、虚像表示システム10、駆動制御ECU51及びブレーキ制御ECU52に異常が生じた場合、予測ピッチ角又は補正量等は、誤った値となる可能性がある。故に、異常信号に基づく補正の一時的な中断は、ずれ補正が逆効果となるリスクの低減に寄与できる。
加えて本実施形態では、重畳位置の補正を適用した重畳コンテンツCTsの変形度合いが予め規定された上限を超える場合、重畳位置の補正が中止される。変形度合が大きくなると、補正後の重畳コンテンツCTsの描画形状は、意味理解に適さない形状、或いは誤解を生じさせるような形状になる可能性がある。そのため、変形度合いの上限を設定し、上限到達によって補正を中断すれば、情報提示に対するドライバの誤認が効果的に抑制され得る。
また本実施形態では、ドライバ等による重畳位置の補正の強さの調整が可能である。具体的には、補正可能な範囲又は補正が許容される範囲で最大限のずれ補正を実施する状態から、ずれ補正をキャンセルした状態まで、ドライバは、任意に調整することができる。重畳位置のずれに対する印象は、重畳コンテンツCTsを視認するドライバによって異なってくる。故に、ずれ補正の強さに調整幅を持たせることによれば、表示生成部78は、ドライバが違和感を覚え難いずれ補正を、重畳コンテンツCTsに適用できる。
さらに本実施形態では、重畳コンテンツCTsの内容に応じて、重畳位置の補正の強さが変更される。重畳位置のずれに対するドライバの印象は、重畳コンテンツCTsの内容、例えば描画形状や表示色等に応じて異なってくる。故に、重畳コンテンツCTsの種別毎に補正の強さが調整されれば、表示生成部78は、多種の重畳コンテンツCTsを、それぞれ違和感の抑制された状態で表示させることができる。
尚、上記実施形態では、姿勢演算部77が「姿勢予測部」に相当し、表示生成部78が「位置補正部」に相当し、HCU100が「表示制御装置」に相当する。
(他の実施形態)
以上、本開示の一実施形態について説明したが、本開示は、上記実施形態に限定して解釈されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲内において種々の実施形態及び組み合わせに適用することができる。
上記実施形態の変形例1では、姿勢演算部77による予測ピッチ角の算出に、補正式に替えて、補正テーブルが用いられる。補正テーブルは、例えば車軸トルク値及びブレーキ油圧値に、予測ピッチ角を紐づけたデータである。姿勢演算部77は、車軸トルク値及びブレーキ油圧値を補正テーブルに適用する処理により、この補正テーブルから一つの予測ピッチ角を取得する。
加えて変形例1では、互いに異なる内容の補正テーブルが、車両Asの状態に紐づけて複数設定されている。姿勢演算部77は、補正テーブル設定処理により、状態情報の示す車両状態に応じた補正テーブルを記憶部13から読み出し、トルク情報を適用する。こうした変形例1のような補正テーブルの切り替えによっても、補正式の切り替える形態と同様の効果が獲得され、ドライバの違和感を抑制可能な重畳位置のずれ補正が実施され得る。
上記実施形態の変形例2において、トルク情報取得部71は、トルクに関連する値をトルク情報として取得する。具体的に、トルク情報取得部71は、車軸トルク値に替えて、アクセル開度をトルク情報として取得する。またトルク情報取得部71は、ブレーキ油圧値に替えて、ブレーキ操作量をトルク情報として取得する。姿勢演算部77は、補正式のTd及びTbに、それぞれアクセル開度及びブレーキ操作量が代入される。そのため、補正式のゲインa,bは、アクセル開度及びブレーキ操作量に合わせた値に設定される。例えば、車軸トルク値及びブレーキ油圧値を用いた場合にトルク精度差が顕著となるような車両Asでは、アクセル開度及びブレーキ操作量から、トルク値の推定及びピッチ角の予測が実施されてよい。
上記実施形態の変形例3では、補正式又は補正テーブルの切り替えが、重量情報及び経年変化情報のうちの一方のみに基づいて実施される。また、上記実施形態の変形例4では、状態情報に基づく補正式又は補正テーブルの切り替えが実施されない。さらに、上記実施形態の変形例5では、重畳位置の補正中止が、スリップ情報及び異常信号のうちの一方のみに基づいて実施される。また、上記実施形態の変形例6では、状態情報に基づく補正中止は、実施されない。さらに、上記実施形態の変形例7では、重畳位置の補正を中止する変形度合いの上限が設定されない。
上記実施形態の変形例8では、ユーザ設定値を重畳コンテンツCTsの種別毎に設定できる機能が省略されている。そのため変形例8では、重畳コンテンツCTsの種別に関わらず、同一のユーザ設定値に基づき、補正式のゲイン調整が実施される。また、上記実施形態の変形例9では、ユーザによるずれ補正強度の調整機能が設けられていない。
上記実施形態の補正式の内容は、適宜変更されてよい。例えば、上記実施形態の変形例10の補正式では、車両Asのダンパーの減衰特性がさらに加味されている。加えて変形例10では、ダンパーの減衰特性が切替可能とされており、姿勢演算部77は、切り替えられたダンパーの減衰特性に合わせて、補正式を切り替えることができる。また、上記実施形態の変形例11では、補正式から旋回補正項d及び変速補正項eの少なくとも一方が省略されている。こうした変形例11のように、補正式に含まれる補正項は、適宜変更されてよい。さらに、補正式は、1次項だけでなく、2次項等を含んでいてもよい。
上記実施形態の変形例12では、重畳コンテンツCTs(経路案内コンテンツ)として、2本線状の虚像Viが、それぞれ自車レーンの路面のうちで左右の区画線近傍に重畳される。また変形例13では、1本線状の虚像Viが、自車レーンの路面中央に重畳コンテンツCTsとして重畳表示される。以上の変形例12及び変形例13のように、重畳コンテンツCTsの描画形状は、適宜変更されてよい。
さらに、虚像表示される各コンテンツは、表示色、表示輝度、基準となる表示形状等の静的な要素、さらに、点滅の有無、点滅の周期、アニメーションの有無、及びアニメーションの動作等の動的な要素を適宜変更されてよい。また、各コンテンツの静的又は動的な要素は、ドライバの嗜好に応じて変更可能であってよい。加えて、補正ずれを適用される重畳コンテンツCTsは、経路案内コンテンツに限定されない。
上記実施形態では、DSM27にて検出されるアイポイントEPの位置情報に基づき、重畳コンテンツCTsの元画像の描画位置及び描画形状が逐次変更されていた。しかし、変形例14では、DSM27の検出情報を用いることなく、予め設定された基準アイポイント中心の設定情報を用いて、重畳コンテンツCTsの元画像の描画位置及び描画形状が決定される。
変形例15のHUDのプロジェクタには、LCDパネル及びバックライトに替えて、EL(Electro Luminescence)パネルが設けられている。さらに、ELパネルに替えて、プラズマディスプレイパネル、ブラウン管及びLED等の表示器を用いたプロジェクタがHUDには採用可能である。
変形例16のHUDには、LCD及びバックライトに替えて、レーザモジュール(以下「LSM」)及びスクリーンが設けられている。LSMは、例えばレーザ光源及びMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)スキャナ等を含む構成である。スクリーンは、例えばマイクロミラーアレイ又はマイクロレンズアレイである。こうしたHUDでは、LSMから照射されるレーザ光の走査により、スクリーンに表示像が描画される。HUDは、スクリーンに描画された表示像を、拡大光学素子によってウィンドシールドに投影し、虚像を空中表示させる。
変形例17のHUDには、DLP(Digital Light Processing,登録商標)プロジェクタが設けられている。DLPプロジェクタは、多数のマイクロミラーが設けられたデジタルミラーデバイス(以下、「DMD」)と、DMDに向けて光を投射する投射光源とを有している。DLPプロジェクタは、DMD及び投射光源を連携させた制御により、表示像をスクリーンに描画する。
さらに、変形例18のHUDでは、LCOS(Liquid Crystal On Silicon)を用いたプロジェクタが採用されている。また変形例19のHUDには、虚像Viを空中表示させる光学系の一つに、ホログラフィック光学素子が採用されている。以上の変形例15~19では、それぞれのHUDの表示遅延を考慮して、補正式が予め構築される。
上記実施形態の変形例20では、HCUとHUDとが一体的に構成されている。即ち、HUDの制御回路に、HCUの処理機能が実装されている。こうした変形例20では、HUDが「虚像表示システム」に相当する。また変形例21では、メータECU又はナビゲーションECUによって、HCUの機能が実現されている。
上記実施形態にて、HCUによって提供されていた各機能は、ソフトウェア及びそれを実行するハードウェア、ソフトウェアのみ、ハードウェアのみ、あるいはそれらの複合的な組合せによっても提供可能である。さらに、こうした機能がハードウェアとしての電子回路によって提供される場合、各機能は、多数の論理回路を含むデジタル回路、又はアナログ回路によっても提供可能である。
本開示の表示制御方法を実現可能な表示制御プログラム等を記憶する記憶媒体の形態は、適宜変更可能である。例えば記憶媒体は、回路基板上に設けられた構成に限定されず、メモリカード等の形態で提供され、スロット部に挿入されて、HCUの制御回路に電気的に接続される構成であってよい。さらに、記憶媒体は、HCUへのプログラムのコピー基となる光学ディスク及びのハードディスクドライブ等であってもよい。
本開示に記載の制御部及びその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサを構成する専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載の装置及びその手法は、専用ハードウェア論理回路により、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載の装置及びその手法は、コンピュータプログラムを実行するプロセッサと一つ以上のハードウェア論理回路との組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。