以下、本発明の実施の形態について添付図面を参照して説明する。図1(A)に示すように、本実施の形態の船外機は、船外機本体1と取付装置10からなる。以下の説明及び各図面では、後述するドライブシャフト6(図1(A))が延びる方向を船外機の上下方向、プロペラシャフト7(図1(A))が延びる方向を船外機の前後方向と定義する。前後方向のうち前方が船体側で、後方が船外機側となる。また、上下方向及び前後方向に対して垂直な方向を、船外機の横幅方向と定義する。横幅方向のうち船体側に向かって右手側が右方で、左手側が左方である。船外機本体1は取付装置10によって船体の船尾部に取り付けられ、取付装置10を介して船体に対する船外機本体1の向きを変えることが可能である。従って、船外機における上下、前後、左右(横幅)の各方向が、船体の上下、前後、左右(横幅)の各方向とは一致しない場合もある。
図1(A)に示すように、船外機本体1は、外装部材として、最上部にエンジンカバー2を有し、エンジンカバー2の下方にドライブハウジング3を有し、ドライブハウジング3の下方にロアハウジング4を有している。エンジンカバー2は、上部のアッパカバー2aと下部のロアカバー2bからなる。
エンジンカバー2内部のエンジンルームにエンジン5が収容されている。エンジン5の出力軸であるクランク軸(図示略)が上下方向に延び、クランク軸に接続するドライブシャフト6が、ドライブハウジング3の内部を通ってロアハウジング4の内部まで延びている。ロアハウジング4の内部には、前後方向に向けて延びるプロペラシャフト7が回転可能に支持されている。ドライブシャフト6とプロペラシャフト7が交差する部分には、ドライブシャフト6の回転動作をプロペラシャフト7の回転動作に変換させるベベルギヤ機構8が設けられている。プロペラシャフト7の後端にプロペラ9が設けられている。エンジン5を駆動してクランク軸が回転すると、ドライブシャフト6がクランク軸と一体的に回転し、ドライブシャフト6の回転がベベルギヤ機構8を介してプロペラシャフト7に伝えられる。そして、プロペラ9が回転して船外機による推進力が発生する。
船外機本体1は、取付装置10を介して船体の船尾部に取り付けられる。取付装置10によって船体に取り付けた状態では、横幅方向に延びるチルト軸11を中心として船外機本体1を前後に揺動させるチルト動作と、上下方向に延びる操舵軸12を中心として船外機本体1を左右に揺動させるステアリング動作(操舵)を行わせることができる。
図1(B)、図2及び図3に示すように、取付装置10は、クランプブラケット20とスイベルブラケット30とステアリングブラケット40を備えている。以下、取付装置10について詳細に説明する。なお、取付装置10の説明における上下方向は、各図面に示す初期状態での上下方向を意味するものとする。すなわち、後述するチルト動作に伴って、取付装置10のうちクランプブラケット20以外の部分の角度が船体に対して変化するが、このような角度変化を行わずにドライブシャフト6が鉛直方向に向いている状態を基準として、取付装置10の各部を説明する。
船体の船尾に設けたトランサム(図示略)に対して、クランプブラケット20が固定される。図2及び図3に示すように、クランプブラケット20は、横幅方向に離間して設けられる左右一対の支持部21を有し、各支持部21の上端には、前方に向けて突出する上部突出部22が設けられている。
図2及び図3に示すように、クランプブラケット20の各支持部21には、複数のボルト穴23が上下方向に位置を異ならせて形成されている。クランプブラケット20をトランサムに固定する際には、ボルト穴23に挿通させたボルト(図示略)を、トランサム側のネジ穴(図示略)に螺合させる。ボルト留めの対象とするボルト穴23を変更することにより、トランサムに対するクランプブラケット20の高さ位置を調整することができる。
クランプブラケット20の左右一対の上部突出部22の先端近くには、横幅方向へ貫通する左右一対の軸支持穴24が形成されている(図2参照)。一対の軸支持穴24は同軸上に形成されている。
スイベルブラケット30は、上下方向に延びる縦柱部31と、縦柱部31の上端から前方に向けて突出する左右一対の上部突出部32を有している。一対の上部突出部32の先端近くには、横幅方向へ貫通する左右一対のチルト軸穴33が形成されている(図2参照)。一対のチルト軸穴33は同軸上に形成されている。
図2及び図3に示すように、スイベルブラケット30の一対の上部突出部32は、クランプブラケット20の一対の上部突出部22の間に位置する。一対のチルト軸穴33と一対の軸支持穴24が連通するように位置合わせした上で、各軸支持穴24と各チルト軸穴33に対してチルト軸11が挿通される。チルト軸11は軸支持穴24に対して固定され、チルト軸穴33はチルト軸11に対して固定されずに相対回転が可能である。これにより、スイベルブラケット30はチルト軸11を中心として揺動可能に支持される。
スイベルブラケット30の縦柱部31には、一対のチルト軸穴33よりも後方且つ下方に位置する左右一対のピン受け穴(図示略)が形成されている。この一対のピン受け穴に対して、チルトシリンダピン25(図1(B)、図4)が相対回転可能に挿入される。チルトシリンダピン25は、ピストンロッド26の上端に設けられて横幅方向に延びる円柱状のピンである。
図1(B)に示すように、ピストンロッド26は、チルト動作用のチルトシリンダ27を構成するものである。チルトシリンダ27はピストンロッド26が直進移動可能に挿入されるシリンダボディ28を有する。シリンダボディ28内の空間に供給される油圧によって、ピストンロッド26の突出量が変化する。シリンダボディ28の下端はクランプブラケット20に対して軸支されており、この軸支部分を介してチルトシリンダ27が前後に揺動可能である。
油圧によってシリンダボディ28からのピストンロッド26の突出量が大きくなると、チルトシリンダピン25の位置が高くなる。チルトシリンダピン25がスイベルブラケット30のピン受け穴に嵌っている位置は、チルト軸11によりチルト軸穴33が軸支される位置よりも後方且つ下方である。そのため、チルトシリンダピン25の位置が高くなってスイベルブラケット30がチルト軸11を中心として回動(図1(B)中の反時計方向の回動)すると、ステアリングブラケット40及び操舵軸12を介してスイベルブラケット30に接続している船外機本体1は、エンジン5側を低くしプロペラ9側を上方へ引き上げる前傾動作(チルトアップ)を行う。
逆に、シリンダボディ28からのピストンロッド26の突出量が小さくなるようにチルトシリンダ27を動作させると、チルトシリンダピン25の位置が低くなる。すると、チルト軸11を中心とするスイベルブラケット30の回動(図1(B)中の時計方向の回動)によって、船外機本体1は、エンジン5側を高くしプロペラ9側を下げる後傾動作(チルトダウン)を行う。
スイベルブラケット30には、チルトロックシャフト穴35(図4参照)が形成されている。チルトロックシャフト穴35は横幅方向に延びる穴であり、チルトシリンダピン25が嵌るピン受け穴(図示略)の上方且つやや前方に配置されている。チルトロックシャフト穴35にはチルトロックシャフト(図示略)が挿入される。チルトロックシャフトは、船外機本体1のチルトアップ状態(エンジン5側を低くしプロペラ9側を上方へ引き上げた前傾状態)を保持させるチルトロック機構を構成するものである。チルトロックレバー(図示略)の操作によってチルトロックシャフトが回転して、チルトロック機構がロック状態とロック解除状態に切り替わる。
図1(B)に示すように、スイベルブラケット30の縦柱部31には、上下方向へ延びる操舵軸穴36が形成されている。操舵軸穴36は縦柱部31を上下方向に貫通している。操舵軸穴36の内部には、上端側に軸支持スリーブ37が設けられ、下端側に軸支持スリーブ38が設けられる。軸支持スリーブ37と軸支持スリーブ38はそれぞれ円筒状の部材であり、操舵軸穴36の内径よりも各軸支持スリーブ37、38の内径の方が小さい。
スイベルブラケット30の操舵軸穴36に操舵軸12が挿入される。操舵軸12は、上下方向に延びる円筒状の部材である。操舵軸穴36内の軸支持スリーブ37、38の内側に操舵軸12が嵌って、上下方向に向く軸線(後述する操舵中心軸X1)を中心として操舵軸12が回転可能に支持される。図1(B)に示すように、操舵軸12の下端は操舵軸穴36の下端開口から下方に突出し、マウント部14を介して船外機本体1に固定される。
図2に示すように、スイベルブラケット30は、二股状に分かれている上部突出部32の後部を、縦柱部31で接続した構成である。図4に示すように、縦柱部31の上面が上部突出部32の上面に対して下方に位置しており、この縦柱部31の上面に操舵軸穴36の上端が開口している。
図4に示すように、スイベルブラケット30は、操舵軸穴36の上端が開口する部分の前側に、傾斜壁30aを有している。傾斜壁30aは、操舵軸穴36から離れて前方へ進むにつれて上方への突出量を大きくする壁部であり、スイベルブラケット30の横幅方向の略中央に位置している。傾斜壁30aの上端に続けて、前方へ進むにつれて低くなる形状のセンサ支持面30bが形成されている。スイベルブラケット30は、左右の上部突出部32の間に、上向きに開放された形状の凹部を有し、この凹部の底面部分にセンサ支持面30bが形成されている。
図4に示すように、操舵軸12の上端は操舵軸穴36の上端開口から上方に突出し、この操舵軸12の突出部分にステアリングブラケット40が取り付けられる。ステアリングブラケット40は、操舵軸12を挿入させる取付穴41を有する。取付穴41に対して操舵軸12が固定されて、ステアリングブラケット40は操舵軸12と一体的に揺動する関係になる。
ステアリングブラケット40は、取付穴41を囲む基端部42と、基端部42から前方に向けて延設されるアーム部43を備える。アーム部43は、スイベルブラケット30の上面の上方を通る細長の形状を有している。基端部42は、スイベルブラケット30の縦柱部31の上部に支持されている。基端部42に続くアーム部43の根元部分は、スイベルブラケット30の傾斜壁30aに沿う形状の傾斜壁43aになっている。
図1(B)及び図4に示すように、スイベルブラケット30の上面側における左右の上部突出部32の間の凹部(センサ支持面30bが形成されている部分)と、この凹部の上方に位置するステアリングブラケット40のアーム部43との間に、センサ収容空間Sが形成される。
スイベルブラケット30には、センサ収容空間Sを覆うセンサガード部材44(図2から図4参照)が取り付けられる。センサガード部材44は、スイベルブラケット30にボルト留めで固定される。図4に示すように、センサガード部材44は、傾斜壁30aに連続して斜め上方に延びる後壁44aと、後壁44aから前方に屈曲してセンサ支持面30bの上方を覆う上壁44bを有している。傾斜壁30aには、後壁44aが嵌合する凹部30cが形成されている(図4参照)。センサガード部材44はさらに、上壁44bの左右両縁から下方に向けて延びる側壁44cを有する(図2及び図3参照)。センサガード部材44の前部は開口している。
ステアリングブラケット40のアーム部43は、ケーブル等(図示略)を介して、船体側の操舵ハンドル等(図示略)に接続される。ステアリングブラケット40はまた、取付穴41から後方に向けて延設される接続部45を備える。接続部45は、マウント部15を介して船外機本体1に固定される(図1(B)参照)。
以上のように構成した取付装置10の動作を説明する。チルト軸11を中心とする船外機本体1の前後への揺動(チルト動作)は、チルトシリンダ27の駆動によって行われる。チルトシリンダ27への油圧供給によって、シリンダボディ28からのピストンロッド26の突出量が変化する。シリンダボディ28からのピストンロッド26の突出量が大きくなると、チルトシリンダピン25の位置が高くなる。すると、スイベルブラケット30がチルト軸11を中心とする回動(図1(B)中の反時計方向の回動)を行う。これにより、ステアリングブラケット40及び操舵軸12を介してスイベルブラケット30に接続している船外機本体1は、エンジン5側を低くしプロペラ9を上方へ引き上げる前傾動作(チルトアップ)を行う。逆に、シリンダボディ28からのピストンロッド26の突出量が小さくなるようにチルトシリンダ27を動作させると、チルトシリンダピン25の位置が低くなる。すると、チルト軸11を中心とするスイベルブラケット30の回動(図1(B)中の時計方向の回動)によって、船外機本体1は、エンジン5側を高くしプロペラ9を下げる後傾動作(チルトダウン)を行う。
操舵軸12を中心として左右に揺動させる船外機本体1のステアリング動作は、ステアリングブラケット40への入力によって行われる。船体側の操舵ハンドル等の操舵手段を操作すると、アーム部43を左右に旋回させる力が伝えられる。この旋回力によって、ステアリングブラケット40と操舵軸12が一体的に揺動して、ステアリングブラケット40及び操舵軸12と固定関係にある船外機本体1が左右に揺動する。その結果、船体の進行方向が変化する。
本実施の形態の船外機は、ステアリング動作による操舵角を検知するための検知システムを備えている。検知システムの構成と、検知システムによる操舵角の検知について、以下に説明する。検知システムの構成は図4及び図5に表れている。なお、図1(B)では。検知システムの図示を省略している。
操舵軸穴36内に配置される上端側の軸支持スリーブ37の外側には外筒50が嵌っており、外筒50が操舵軸穴36の内面に支持されている。つまり、操舵軸穴36内の上端側では、軸支持スリーブ37と外筒50による軸受け構造で操舵軸12が支持されている。
スイベルブラケット30内には、センサ軸穴51が形成されている。センサ軸穴51は、操舵軸穴36の前方に位置し、操舵軸穴36に対して斜めに延びる穴である。より詳しくは、センサ軸穴51の下端部が、軸支持スリーブ37及び外筒50の直下の位置で操舵軸穴36に連通している。センサ軸穴51は、この下端部分から上方へ進むにつれて、操舵軸穴36から前方への距離を大きくするように傾斜している。センサ軸穴51の上端は、スイベルブラケット30のセンサ支持面30bに開口している。
センサ軸穴51の内部に、センサ軸52が挿入される。センサ軸52の下端の外面には、傘歯車53が取り付けられる。傘歯車53はセンサ軸52と一体的に回転する。傘歯車53の下端に設けた突出部53aがセンサ軸穴51の底面51aに当て付いて、センサ軸穴51へのセンサ軸52の挿入量(センサ軸52の軸方向位置)が決まる。この状態で、傘歯車53の歯の一部は、操舵軸穴36に僅かに入り込んで、軸支持スリーブ37及び外筒50の下方に位置する。
傘歯車53の直上のセンサ軸52の外面には、円筒状の軸受け部54が設けられる。軸受け部54から上方に離れたセンサ軸52の外面には、円筒状の軸受け部56が設けられる。軸受け部54と軸受け部56の外面が、センサ軸穴51の内面に当接して、センサ軸穴51内でのセンサ軸52の径方向位置が定まる。そして、軸受け部54と軸受け部56の外面がセンサ軸穴51の内面に対して摺接することによって、センサ軸52はセンサ軸穴51内で軸回りに回転を行うことができる。軸受け部54と軸受け部56の外径は、傘歯車53の外径よりも大きい。そのため、傘歯車53は、センサ軸穴51の内面に接触せずに回転することができる。
軸受け部54の内面とセンサ軸52の外面の間には弾性部材55が配されている。弾性部材55の弾性変形によって、センサ軸穴51内でのセンサ軸52のガタつきを抑制する。弾性部材55は、センサ軸52と一体化されている傘歯車53のガタつきも抑制する。
操舵軸12には、傘歯車53と噛み合う傘歯車57が取り付けられている。より詳しくは、軸支持スリーブ37の直下に、環状部材57aが固定される。環状部材57aは操舵軸12の外面を囲んでおり、環状部材57aの周方向の一部に歯が形成されて傘歯車57になっている。環状部材57aで傘歯車57を形成する周方向の範囲は、船が直進する状態から左右両方に想定される最大の操舵角までステアリングブラケット40を旋回させた場合に、傘歯車53と傘歯車57の噛み合いが維持されるように設定する。言い換えれば、ステアリング動作による操舵軸12の揺動範囲内では、傘歯車53と傘歯車57の噛み合いが外れないように設定する。
環状部材57aの内面と操舵軸12の外面の間には弾性部材58が配されている。弾性部材58の弾性変形によって、傘歯車57のガタつきを抑制する。
ステアリングブラケット40に対するステアリング動作によって操舵軸12が回転すると、操舵軸12と一体的に回転する傘歯車57から傘歯車53に力が伝達され、傘歯車53が組み付けられているセンサ軸52が回転する。
傘歯車57は操舵軸12の回転中心である操舵中心軸X1を中心として回転し、傘歯車53はセンサ軸52の回転中心軸X2を中心として回転する。操舵中心軸X1と回転中心軸X2は同一平面上に位置し、操舵中心軸X1と回転中心軸X2の交差角は鋭角である。本実施の形態では、操舵中心軸X1と回転中心軸X2の交差角を30°程度に設定している。この角度は、ステアリングブラケット40における基端部42からのアーム部43の傾斜壁43aの立ち上がり角度(スイベルブラケット30側の傾斜壁30aの立ち上がり角度)に近いものであり、センサ軸穴51及びセンサ軸52を、傾斜壁43aに沿ってスペース効率良く配置させることができる。また、センサ軸52の上端が操舵軸12から前方に離れすぎず、前後方向にコンパクトな構造にできる。
センサ軸穴51の下端付近にグリス溜まり59が形成される。グリス溜まり59は、軸受け部54と傘歯車53の歯部との間の凹状の空間や、傘歯車53の歯部とセンサ軸穴51の内面との間の空間によって構成される。グリス溜まり59に貯留したグリスによって、軸受け部54とセンサ軸穴51の間や、傘歯車53と傘歯車57の噛み合い部分が潤滑される。傘歯車53と傘歯車57の噛み合い部分の上方で、軸支持スリーブ37及び外筒50が操舵軸12を軸支している。外筒50の下端がグリス溜まり59に入り込んでおり、操舵軸12の軸支部分も、グリス溜まり59のグリスにより潤滑される。すなわち、グリス溜まり59とその周囲に注入されたグリスは、操舵軸12の軸支部分の潤滑と、センサ軸52の軸支部分の潤滑と、傘歯車53と傘歯車57の噛み合い部分の潤滑に用いられ、効率の良い潤滑を実現できる。
軸受け部54は含油性樹脂等で形成され、センサ軸穴51内でセンサ軸52を円滑に回転させることができる。傘歯車53や傘歯車57(環状部材57a)は、高強度のエンジニアリングプラスチックやステンレス製焼結体等で形成され、耐腐食性に優れている。
センサ軸52は、傘歯車53と傘歯車57が噛合するセンサ軸穴51の下端部分から、スイベルブラケット30のセンサ支持面30bに臨むセンサ軸穴51の上端部分まで延びている。センサ軸穴51の上端側の一部は、軸受け部54と軸受け部56が嵌る部分よりも内径が大きくなっており、このセンサ軸穴51の上端側の大径部内に、環状のワッシャ65が挿入されている。ワッシャ65は、センサ軸穴51内の段差に当て付いて、下方への移動が規制される。ワッシャ65に対して軸受け部56の上端が接する。
センサ軸穴51の上端側の大径部内にはさらに、円筒状のブッシュ60が挿入されている。ブッシュ60の先端はワッシャ65に当接している。ブッシュ60はセンサ軸穴51の内径よりも大きい径のフランジ60aを上端に有し、フランジ60aがスイベルブラケット30のセンサ支持面30bに接している。ブッシュ60はセンサ軸穴51に対して回転しないように固定される。
センサ軸52の上端に固定したホルダ61が、ブッシュ60の内側に回転可能に挿入される。ホルダ61の上端には、永久磁石62が取り付けられている。
センサ軸穴51のうちブッシュ60が挿入されている部分は、チルトロックシャフト穴35に連通している。図4に示すように、円形状の断面形状を有して横幅方向に延びるチルトロックシャフト穴35の一部がセンサ軸穴51と重なっている。ブッシュ60とホルダ61にはそれぞれ、チルトロックシャフト穴35と重なる位置に凹部60bと凹部61aが形成されている。凹部60bと凹部61aによって、チルトロックシャフト穴35へのチルトロックシャフト(図示略)の挿入を妨げないようにしている。また、チルトロックシャフトが凹部60bと凹部61aに嵌合することで、ブッシュ60とホルダ61がセンサ軸穴51の長手方向に移動することを抑制する。なお、凹部61aはホルダ61の周方向の全体に亘って形成されており、センサ軸52と一体的に回転するホルダ61が、常にチルトロックシャフトと干渉しないようにしている。
チルトロックシャフト穴35内には、チルトロックシャフトを潤滑するグリスが供給される。センサ軸穴51とチルトロックシャフト穴35が連通することにより、チルトロックシャフトの潤滑用のグリスを、センサ軸穴51(ブッシュ60)内でのセンサ軸52(ホルダ61や軸受け部56)の回転部分の潤滑に用いることができる。これにより、センサ軸52とチルトロックシャフトの効率の良い潤滑を実現できる。
図4に示すように、センサ収容空間Sの内部に操舵角センサ63が取り付けられている。操舵角センサ63は、フランジ60aが設けられているブッシュ60の上端面に接するように支持されており、スイベルブラケット30に対して固定された関係にある。スイベルブラケット30に対する操舵角センサ63の固定は、図示を省略するボルト等で行われる。操舵角センサ63は、センサ軸52の端部に設けた永久磁石62が形成する磁界の変化を検出可能なホールセンサであり、センサ軸52の回転中心軸X2に沿う方向で永久磁石62と操舵角センサ63が対向している。
センサ収容空間S内に配置した操舵角センサ63の後方と上方が、センサガード部材44の後壁44aと上壁44bによって覆われる(図4参照)。また、操舵角センサ63の左右は、センサガード部材44の側壁44cによって覆われる(図2参照)。
図4に示すように、センサガード部材44の前部は開口しており、操舵角センサ63に接続する配線64が、センサガード部材44の前部開口を通してセンサ収容空間Sの前方に延設される。配線64は、スイベルブラケット30の左右の上部突出部32の間を通って、ステアリングブラケット40のアーム部43に沿って船体側に導かれ、図示を省略するプロセッサユニットに接続する。
以上の構成の検知システムでは、ステアリング動作を行うと、操舵軸12と一体的に回転する傘歯車57から傘歯車53に回転が伝達され、傘歯車53と一体化されたセンサ軸52が回転する。センサ軸52が回転すると、センサ軸52の端部に設けた永久磁石62が発する磁界の変化を、操舵角センサ63によって検出する。そして、操舵角センサ63の検出信号が配線64を通じてプロセッサユニットに送信され、送信された検出信号に基づいてプロセッサユニットが操舵角を算出する。このようにして操舵角を検知することができる。
図1(A)に示すように、取付装置10と船外機本体1との隙間は小さく、特に操舵軸12と同軸上にはスペースの余裕がほとんど無い。本実施の形態の検知システムは、センサ軸52や操舵角センサ63等が操舵軸12と同軸上に位置していないため、操舵軸12の延長上でのスペースの制約を受けることなく配置が可能である。
本実施の形態の検知システムは、傘歯車53と傘歯車57からなるベベルギヤ機構を用いて、操舵軸12に対して斜め方向から延びるセンサ軸52に回転を伝達し、操舵軸12から前方にオフセットして配置した操舵角センサ63によりセンサ軸52の動作を検出して操舵角を検知する。操舵軸12と一体回転する傘歯車57が、センサ軸52と一体回転する傘歯車53に噛み合うので、操舵軸12の回転を直接的にセンサ軸52の回転として取り出して、操舵角センサ63で読み取ることができる。従って、動力伝達の誤差が少なく、センサ軸52の軸端の延長上に配した操舵角センサ63によって、操舵角を高精度に検知することができる。
また、傘歯車53と傘歯車57の歯車比によって、操舵軸12の回転を増角してセンサ軸52に伝達する。これにより、操舵角センサ63での検知の分解能を高めることができる。
傘歯車53と傘歯車57からなるベベルギヤ機構は、平歯車を用いる伝達機構に比べて、噛み合い位置における操舵軸12とセンサ軸52の軸間距離を近くすることができ、センサ軸52周りをコンパクトに構成可能である。また、噛み合い部分を小さくできるため、傘歯車53と傘歯車57の間のバックラッシュ量を小さく抑えることができる。
操舵軸12を円滑に回転させるために、操舵軸12は操舵軸穴36内にクリアランスをもって軸支されており、船外機本体1から推進力が加わると、操舵軸12が前後方向へ僅かに揺動する。傘歯車53と傘歯車57は、操舵軸12の上端側を軸支する軸支持スリーブ37及び外筒50の直下に位置している。これにより、操舵軸12が前後に揺動したときに、傘歯車57の前後への動きを最小に抑え、傘歯車57と傘歯車53の間の噛み合い誤差を小さくできる。
また、操舵軸12側では弾性部材58を介して傘歯車57周りのガタを除去し、センサ軸52側では弾性部材55を介してセンサ軸52及び傘歯車53周りのガタを除去する。従って、傘歯車53と傘歯車57の噛み合い部分を衝撃や振動等から保護して歯飛びを防いで、操舵軸12の回転をセンサ軸52へ正確に伝達できる。その結果、操舵角センサ63による操舵角の検知精度を高めることができる。
検知システムを構成するセンサ軸52と傘歯車53、57は、スイベルブラケット30の内部に設置されている。検知システムの動作部分が外部に露出せずにスイベルブラケット30によって保護される構造であるため、外部からの干渉や衝撃に対して強靭であり、耐久性が高い。
図4に示すように、前後方向でチルトシリンダピン25と操舵軸穴36の間にセンサ軸穴51の下端を形成し、傾斜壁30aとチルトロックシャフト穴35の間を通ってセンサ軸穴51が斜め上方に伸びている。このように、スイベルブラケット30内のスペースを効率良く利用してセンサ軸穴51を形成しており、取付装置10を大型化させずにセンサ軸52を設置できる。
センサ軸穴51がチルトロックシャフト穴35と部分的に連通することで、チルトロックシャフトを利用したセンサ軸52(ブッシュ60やホルダ61)の位置ずれ防止、チルトロックシャフトとセンサ軸52の潤滑の共用化、といった効果が得られる。
操舵角センサ63は、スイベルブラケット30とステアリングブラケット40で囲まれるセンサ収容空間Sに配置されている。センサ収容空間Sは、スイベルブラケット30の左右一対の上部突出部32の間に形成された空間であり、センサ収容空間Sの上方と後方をステアリングブラケット40のアーム部43が覆っている。このようなセンサ収容空間Sを利用することで、取付装置10を大型化させずに操舵角センサ63の設置スペースを確保することができる。
センサ収容空間Sは、取付装置10の最上部付近に位置しており、水面からの距離が遠い。また、センサ収容空間Sの側方にスイベルブラケット30の上部突出部32が位置し、センサ収容空間Sの上方及び後方にステアリングブラケット40のアーム部43が位置する。従って、センサ収容空間S内の操舵角センサ63に対して外部からの異物が到達しにくく、特に水上から流れ着く海藻やゴミ等が操舵角センサ63周りに引っ掛かるおそれが低い。
さらに、センサ収容空間S内でスイベルブラケット30に強固に固定したセンサガード部材44によって操舵角センサ63を覆うので、外部からの異物や水に対する操舵角センサ63の保護性を高めることができる。
操舵軸12からセンサ軸52に伝達された回転動作を、センサ軸52の端部に対向して設けた操舵角センサ63によって検出するので、構成がシンプルであり、汎用性が高く安価なホールセンサを操舵角センサ63として用いてコストを抑えることができる。また、センサ軸52と永久磁石62と操舵角センサ63が同軸上に設けられているため、省スペースな構造であり、振動等による互いの位置ずれが生じにくい。よって、小型且つ安価な構成によって、高い精度の操舵角検知を行うことができる。
操舵角センサ63から延びる配線64は、スイベルブラケット30の左右の上部突出部32の間(センサ収容空間S)を通って、ステアリングブラケット40のアーム部43に沿って船体側に導かれる。そのため、配線64が複雑な経路にならずに取り回しが良く、操舵角センサ63や配線64の組み付け作業を行いやすい。また、配線64は、左右の上部突出部32やアーム部43やセンサガード部材44で囲まれた空間を通されて外観への露出が抑えられるので、配線64の耐久性や見栄え等においても優れている。
以上のように、本実施の形態の船外機では、操舵角センサ63が操舵軸12と同軸上に配置されない構造でありながら、高い検知精度を得ることができ、操舵角を正確に把握できる。また、操舵角センサ63の周辺構造がコンパクトであり、且つ水上から流れ着く異物が操舵角センサ63の周辺に掛かりにくい構造を実現している。さらに操舵角センサ63から延びる配線64の取り回しがシンプルであり、配線64の組み付け作業性、耐久性、見栄え等において優れている。
なお、本発明は上記実施の形態に限定されず、種々変更して実施することが可能である。上記実施の形態において、添付図面に図示されている大きさや形状等については、これに限定されず、本発明の効果を発揮する範囲内で適宜変更することが可能である。その他、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施することが可能である。
上記実施の形態では、操舵軸12の操舵中心軸X1とセンサ軸52の回転中心軸X2が、船外機本体1の前後方向を向く同一平面内に位置しており、傘歯車53と傘歯車57は2軸が交差する関係のベベルギヤとなっている。これとは異なり、2軸がねじれの関係(食い違い軸)にあるハイポイドギヤ等を、本発明における傘歯車として用いることも可能である。
上記実施の形態では、操舵角センサ63としてホールセンサを用いている。ホールセンサは安価に導入が可能であるという利点があるが、ホールセンサ以外の検出手段を操舵角センサとして用いることも可能である。例えば、センサ軸52の回転を光学的に検知するタイプのセンサ等を用いてもよい。
上記実施の形態のように、操舵軸12側の弾性部材58とセンサ軸52側の弾性部材55を両方設けることにより、傘歯車53と傘歯車57の歯飛びを防ぐ効果を高め、回転伝達の精度を向上させることができる。しかし、操舵軸12側とセンサ軸52側のいずれか一方にのみ弾性部材を設ける構成にすることも可能である。