JP7271261B2 - 高純度フェライト系ステンレス鋼及び高純度フェライト系ステンレス鋼鋳片 - Google Patents

高純度フェライト系ステンレス鋼及び高純度フェライト系ステンレス鋼鋳片 Download PDF

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Description

本発明は、耐発銹性に優れる高純度フェライト系ステンレス鋼及び高純度フェライト系ステンレス鋼鋳片に関するものである。
ステンレス鋼は一般に塗装等を行わず、無垢のまま実用に供されるものであるため、鋼材の表面に露出したCaSを起点とする発銹が問題になる。CaSの生成機構としては、溶鋼の凝固完了前に晶出するタイプと鋳片加熱時などの凝固完了後にCaOを含む介在物と母材のSが反応して生成するタイプが知られており、これらを抑制する取り組みとしては溶製条件の制御によるものが知られている。
例えば特許文献1では溶鋼中に存在する介在物の平衡S濃度を低位に制御することで、溶鋼の温度低下時や凝固中にCaS生成を抑制することを特徴とする。
特許文献2は[Ca]、[S]、[Al]、T.[O]濃度の組み合わせからなる式や鋼中の酸化物系介在物の成分(CaO)、(MgO)、(Al23)、(SiO2)、(TiO2)の濃度の組み合わせからなる式を満たすように精錬を行うことでCaS生成を抑制して耐発銹性を高めることを特徴とする。
特開2001-107178号公報 特開2014-162948号公報
特許文献1では溶鋼中に存在する介在物の平衡S濃度を低位に制御することで、温度低下時や凝固時のCaS生成を抑制しているが、熱間圧延前の鋳片加熱時に生成するCaSについては考慮していないため、耐食性が劣化する場合がある。
特許文献2ではCaやSの濃度を比較的低めに制御しなければならないため、精錬負荷の増大によるコストアップが問題となる。
本発明は上記現状の問題点に鑑み、CaS生成の少ない耐発銹性に優れる高純度フェライト系ステンレス鋼及び高純度フェライト系ステンレス鋼鋳片を提供することにある。
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その要旨は以下のとおりである。
[1]化学成分が質量%で、C:0.01%以下、Si:1.0%以下、Mn:0.3%以下、P:0.04%以下、S:0.006%以下、Cr:10~24%、Al:0.01~0.2%、Ti:0.15~0.35%、Mo:0~2.0%以下、O:0.0005~0.01%、N:0.005~0.02%、Ca:0.0030%以下、Mg:0.0006~0.0030%を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなり、下記式(1)~(3)を満足するとともに、CaOを含有する最大径2μm以上の酸化物系介在物のうち、内部にMgOおよび/またはMgO・Al23の相が存在する前記酸化物系介在物の割合が個数比で70%以上であることを特徴とする高純度フェライト系ステンレス鋼。
2.44×[%Ti]×[%N]×{[%Si]+0.05×([%Al]-[%Mo])-0.01×[%Cr]+0.35}≧0.0012 ・・・ 式(1)
[%Ti]/([%O]+1.5[%C])≧15 ・・・ 式(2)
[%N]/[%O]≧2.08 ・・・ 式(3)
ここで、[%元素名]は当該元素の含有量(質量%)を意味する。
[2]更に、質量%で、B:0.0001~0.002%、Nb:0.01~0.6%、Ni:0.05~2.0%、Cu:0.05~2.0%、Sn:0.002~0.5%、V:0.001~2.0%、Co:0.05~2.5%、Ta:0.01~0.2%、W:0.01~2.5%、Ga:0.0004~0.05%の1種もしくは2種以上を含有することを特徴とする[1]に記載の高純度フェライト系ステンレス鋼。
[3][1]又は[2]に記載の化学成分を有し、[1]に記載の式(1)~(3)を満足するとともに、CaOを含有する最大径5μm以上の酸化物系介在物の内、前記酸化物系介在物の表面にTiNが存在する割合が85%以上であることを特徴とする高純度フェライト系ステンレス鋼鋳片。
CaSを含有する介在物を起点とした発銹の少ない高純度フェライト系ステンレス鋼を提供することができる。
式(1)左辺と、酸化物系介在物中にTiNを伴うものの割合との関係を示す図である。 式(2)左辺および式(3)左辺と、TiNで被覆された酸化物系介在物の割合との関係を示す図である。 酸化物系介在物の形状を模式的に示した図である。
以下、本発明の内容を詳細に説明する。
まず、本発明を着想するに至った実験について述べる。CaSは鋳片の段階、つまり製鋼段階では存在していなくても、前述のように熱間圧延前の鋳片加熱時に母材中のSと介在物中のCaOが反応して生成するとされている。そこで、CaSの生成に及ぼす鋳片加熱条件の影響を調査した。種々のフェライト系ステンレス鋼鋳片から試料を切り出し、大気雰囲気下、1000~1300℃の条件で5分~3時間加熱した後に空冷を行い、適当な断面を切り出して鏡面仕上げで研磨を行った。
無作為に選んだ最大径が5μm以上の介在物20個についてEPMAを用いた元素濃淡マッピングを行い、CaSの生成状況を確認した。その結果、加熱条件が高温で長時間であるほどCaSの生成が顕著であり、また5分程度の短時間ではCaSは生成しないことが分かった。このことから、CaSの生成が起こり得る加熱を含む工程として、焼鈍等の短時間加熱は除外されることが分かった。
また長時間加熱の条件では[S]≦5ppmのような極低Sの試料ではCaSの生成が少なかったが、そうではない場合では、CaSが顕著に生成している介在物とCaSが全く生成していない介在物が同一の試料中に存在している場合があることが分かった。
更に詳細に調査すると、CaSが全く生成していない介在物は、CaOを含有する酸化物系介在物の周囲をTiNが覆っていることが分かった。母材に含有されるSが酸化物系介在物へ拡散するのをTiNが物理的に遮断するため、CaSが生成しないものと考えられる。
そこで、CaOを含む酸化物系介在物の周囲をTiNが覆いやすい条件の検討を行った。上記CaSの解析と同様、成分の異なる鋳片から切り出した各試料について、観察断面において最大径≧5μmの介在物100個を無作為に選択し、介在物の評価を行った。EDSもしくはWDS等により介在物を分析し、Oの存在を確認できれば酸化物であるとした。同様にCaとOが同一相に共存していればCaOを含有すると判定した。また、TiNの存否については、EPMAによる元素濃淡マッピングにより評価し、観察断面において、酸化物系介在物の表面にTiNの相が少しでも付着しているものは、「TiNを伴う」と判定し、介在物の周囲をTiNが隙間なく完全に覆っている場合は「TiNで完全に被覆している」と判定した。
鋼中成分や介在物の酸化物部組成の関係を調査したところ、成分濃度の組み合わせによる式(1)を満たし、かつ式(2)および式(3)を満たす場合にTiNによる被覆が起こりやすいことが分かった。
2.44×[%Ti]×[%N]×{[%Si]+0.05×([%Al]-[%Mo])-0.01×[%Cr]+0.35}≧0.0012 ・・・ 式(1)
[%Ti]/([%O]+1.5[%C])≧15 ・・・ 式(2)
[%N]/[%O]≧2.08 ・・・ 式(3)
[%元素名]は当該元素の含有量(質量%)を意味する。
ここで、式(1)左辺はTiNの生成しやすさに及ぼす成分の条件式である。TiとNの濃度が高いほどTiNが生成しやすく、その他の成分はTiやNの活量を増減させるものであり、係数が増減させる度合いを表している。係数がプラスの場合は活量を増大させ、係数がマイナスの場合は活量を減少させる。また、式(2)左辺はTiC生成によるTi消費と高酸素による酸化物系介在物の量(表面積)アップによる必要Ti量アップに関する式であり、式(3)左辺は高酸素による酸化物系介在物の量(表面積)アップによる必要N量アップに関する式である。
図1に、横軸を式(1)の左辺とし、縦軸を最大径5μm以上の酸化物系介在物の内、酸化物系介在物の周囲にTiNを伴っているものの割合として、プロットした図を示す。CaOを含有する最大径5μm以上の前記酸化物系介在物について、EPMAによる元素濃淡マッピングにより評価し、少しでもTiNが付着しているものの割合を縦軸としている。この試料を大気雰囲気下1200℃で1hr加熱した試料について、観察断面において最大径≧5μmを10個観察し、CaS生成が認められなかったものを「○」とし、CaS生成が認められたものを「×」とした。式(1)左辺が0.0012以上の場合、即ち式(1)を満たすとき、酸化物系介在物の周囲にTiNを伴っているものの割合が90%以上であり、かついずれも「○」であった。
さらに、TiNによる酸化物系介在物の被覆について検討を進めたところ、式(1)を満足し、かつ、酸化物系介在物の表面にTiNが生成しているにも関わらず、TiNに覆われていない部分が広いためにCaSが生成している場合がある。これは、TiCの生成でTiがTiN生成以外に多く消費された場合、あるいは、酸化物系介在物の量が生成しうるTiN量に対して過多の場合と考えられる。成分が式(1)を満たす鋳片から切り出した試料について、図2に、横軸を式(2)左辺、縦軸を式(3)左辺として、CaOを含有する最大径が5μm以上の酸化物系介在物の内、観察断面の周囲をTiNで完全に被覆している個数の割合が80%以上であれば「○」、80%未満であれば「×」としてプロットした結果を示す。この図から、前記式(2)および式(3)を両立する場合には酸化物系介在物の周囲をTiNで被覆している割合が高いことを表している。
以上の通り、(A)鋳片段階で、CaOを含有する酸化物系介在物の表面にTiNが存在することにより、鋳片加熱時のCaS生成を抑制できること、および(B)溶鋼中成分や酸化物系介在物の組成を制御することによりTiNで被覆しやすいことが分かった。
なお、鋳片加熱工程の後工程となる熱間圧延等において、酸化物系介在物を被覆しているTiNは破壊されて酸化物系介在物とメタル母地が接触するが、鋳片加熱工程と比較して、低温かつ短時間であるためCaSは生成せず、耐発銹性に優れるフェライト系ステンレス鋼を得ることができる。
以上の結果に基づき、本発明の高純度フェライト系ステンレス鋼及び高純度フェライト系ステンレス鋼鋳片においては、上記式(1)~(3)を満足するものとした。
式(1)~式(3)は設備や操業要因を考慮した上で、脱酸材・フラックスの添加量や処理時間によって制御できるが、式中の元素はいずれも比較的高濃度であるため、容易に制御可能である。
さらに、鋳片から採取した試料について、熱延前に行う鋳片加熱と同様に熱処理を行った上で介在物評価を行った。EDSにより点分析を行い、MgとOが主体である相が存在すればMgO結晶であると判定し、MgとAlとOが主体である相が存在すればMgO・Al23結晶であると判定した。その結果、TiNに覆われている酸化物系介在物は、その酸化物中にMgOおよび/またはMgO・Al23の結晶が観察された。Mg系の介在物とTiNの結晶格子整合性が良いため、MgOおよび/またはMgO・Al23を起点としてTiNが析出し、優先的に酸化物系介在物の周囲で成長したため、TiNが酸化物系介在物を覆うに至ったと考えられる。
<ステンレス鋼において、CaOを含有する最大径2μm以上の酸化物系介在物の内、内部にMgOまたはMgO・Al23の相が存在する酸化物系介在物の割合が70%以上>
ここまでは、鋳片及び熱間圧延前の加熱を行った鋳片における評価結果について説明を行った。ここからは、さらに圧延を行った鋼板(ステンレス鋼)を対象として説明を行う。
(CaOを含有する最大径2μm以上の酸化物系介在物)
鋼中の介在物は、圧延によって破砕される。前述の鋳片では破砕される前の状態であるため、評価する介在物を5μm以上とした。一方、圧延後の鋼板においては介在物が破砕されており、最大径2μm未満の酸化物系介在物では発銹の起点になりにくいため、最大径2μm以上の酸化物系介在物に限定する。また、CaOを含有していない酸化物系介在物の場合、鋳片加熱時にCaSになり得ず、考慮する必要がないため、CaOを含有する酸化物系介在物に限定する。
(酸化物系介在物の内、内部にMgOまたはMgO・Al23の相が存在する酸化物系介在物の割合が個数比で70%以上)
酸化物系介在物の内、内部にMgOおよび/またはMgO・Al23の相が存在する酸化物系介在物の割合を個数比で70%以上に限定している理由を述べる。本発明では、鋳片加熱段階で酸化物系介在物の周囲のTiN存在率を高めるため、酸化物系介在物の内部にMgOおよび/またはMgO・Al23の相を存在させることが重要である。しかしながら、板であれば、介在物が破砕して酸化物系介在物とTiNが分断されている場合があること、および図3には、酸化物系介在物の形状を模式的に示している。酸化物系介在物1は3次元的な形状であり、同一の酸化物系介在物中にMgOおよび/またはMgO・Al23の相3が局所的に存在している場合であっても、観察面A(2A)では観察される一方、別の観察面B(2B)では観察断面にMgOおよび/またはMgO・Al23の相3が観察されない。即ち、酸化物系介在物中にMgOおよび/またはMgO・Al23の相3が内在する比率に比較し、酸化物系介在物中にMgOおよび/またはMgO・Al23の相3が観察される比率は低いことが想定される。そして、MgOまたはMgO・Al23の相が観察される酸化物系介在物の割合が個数比で70%以上であれば、耐発銹性に優れることが確認できた。このことから内部にMgOまたはMgO・Al23の相が存在する酸化物系介在物の割合を個数比で70%以上とした。
酸化物系介在物中にMgOやMgO・Al23を析出させるためには、酸化物系介在物中のMgO濃度を高くすることが必要であり、直接・間接的にMgを添加する必要がある。直接添加は金属MgやNi-Mgなどの合金による溶鋼中への添加であり、間接添加は精錬スラグ中MgOの還元である。いずれの場合も精錬スラグ中のMgO活量を制御することが酸化物系介在物中のMgO濃度を安定的に高めるためには重要である。鋼中のMg、Al、Oの含有量について、本発明で規定する各成分の含有量範囲内において、Oを低減すること、あるいはMg、Al含有量を高めることにより、酸化物系介在物中にMgOやMgO・Al23を析出させることができる。MgOやMgO・Al23の生成しやすさは他成分の影響もあるため、MgO活量の閾値は一意には決められないが、概ね純MgO固体基準で0.7程度あれば良い。
<鋼成分について>
上述したように本発明は介在物組成制御とTiを主体とする溶鋼中成分制御に関するもので、一般的に製造されているTi安定化系のフェライト系ステンレス鋼に適用可能なものである。以下に好適に用いることができる成分範囲を示すが、これに限定されるものではない。
C:0.001~0.01%
CはCrの炭化物を生成することで耐食性を低下させ、また顕著に加工性を低下させる。またTiと反応して炭化物を形成するため酸化物系介在物を被覆するTiN生成量を減少させる場合があるため、0.01%以下とする。ただし、過剰な低下は精錬時の脱炭負荷を高めるため0.001%以上とする。好ましくは、下限は0.002%、上限は0.008%とするとよい。
Si:1.0%以下
SiはTiおよびNの溶解度を下げ、TiNの晶出を促進させる元素である。その他に、脱酸促進による脱硫にも有効な元素であり、TiNによる被覆前のCaS生成を間接的に抑制可能であるため、CaS生成抑制に有効な元素である。ただし、必須元素ではなく、過剰な添加は加工性の低下を招く等、耐食性以外の品質を悪化させるため、上限を1.0%とする。
Mn:0.3%以下
Mnは脱酸に寄与する元素であるが、加工性を低下させる。Mnよりも強力な元素であるAlで十分に脱酸が可能なため、添加する必要はないが、Al添加前に予備脱酸として用いる分には添加しても構わない。添加する場合、その効果を発現させるためには0.01%以上にするとよく、好ましくは0.05%以上にするとよい。一方、加工性の低下を防ぐため、0.3%以下とし、好ましくは0.25%以下にするとよい。
P:0.04%以下
Pは靱性や熱間加工性、耐食性を低下させる等、ステンレス鋼にとって有害であるため、少ないほど良く、0.04%以下とするとよい。但し、過剰な低下は精錬時の負荷が高いか、または高価格の原料を用いる必要があるため、実操業としては0.005%以上含有してもよい。
S:0.006%以下
前述の要件によって鋳片加熱時のCaS生成は抑制できるが、Sが0.006%を超えて含まれていると、TiNが酸化物系介在物を被覆する前にCaSが生成してしまい、発銹を抑制できないため、上限を0.006%以下とする。
Cr:10~24%
Crはステンレス鋼に耐食性をもたらす重要な元素で、10%以上の添加が必要であり、好ましくは15%以上にするとよい。その一方で多量の添加は加工性の低下を招くため、上限を24%とし、好ましくは19%以下にするとよい。
Al:0.01~0.2%
Alは鋼を脱酸するために必要な元素であり、Sを0.01%以下にするためにも必要な元素である。そのため下限を0.01%とする。過剰な添加は加工性を低下させるため、その上限を0.2%とする。
Ti:0.15~0.35%
Tiを添加することでCaOとメタル母地を隔離するTiNを生成させることができる。十分な量のTiNを生成させるためには0.15%以上の添加が必要である。但し過剰に添加するとCaOを含む酸化物系介在物とは無関係にTiNが生成して鋳造時のノズル閉塞や製品の表面欠陥を招くため、その上限を0.35%とする。
Mo:0~2.0%
Moは添加することでステンレス鋼の高い耐食性を更に高める作用がある。しかし、非常に高価であるため2.0%を超えて添加しても合金コストの増大に見合う効果が得られないばかりか、高Crで脆いシグマ相を形成して脆化と耐食性の低下を招く。また、TiNを形成しにくくする。そのため、上限を2.0%とする。Moは含有しなくても良い。好ましい範囲は0.5~1.5%である。
O:0.0005~0.010%
Oが0.010%を超えて存在すると、酸化物系介在物が多量に生成し、TiN被覆に必要なTi量も多量になり合金コストの増加を招くため、上限を0.010%以下とする。但し、過剰な脱酸もまた精錬負荷が増加してコストアップを招くため、下限も0.0005%とする。OはT.Oを意味する。
N:0.005~0.02%
NはTiNを形成する元素であり、TiNを十分に生成させるためには0.005%以上必要である。但し、過剰に存在しているとTiと反応せず余ったNで加工性が低下し、またCr窒化物を形成することで鋭敏化といったCaSによる発銹以外の耐食性低下も問題になる。そのため上限を0.02%以下とする。
Ca:0.0030%以下
Caは本発明においては不要な元素である。0.0030%を超えて存在すると、精錬中または鋳造中に直接Sと反応してCaSを生成してしまうため、その上限を0.0030%以下とする。
Mg:0.0003~0.0030%
Mgは脱酸・脱硫に有効な元素であるとともに、MgOやMgO・Al23系を酸化物系介在物中に晶出させることで、TiN生成を促進させることができる。その効果は0.0003%以上で得られる。ただし、過剰な添加によりMgとSが溶鋼中で直接反応してMgSを生成する。MgSも水溶性介在物であり、耐食性を劣化させるため、その上限を0.0030%とする。
上記鋼成分の残部はFe及び不可避的不純物である。ここで不可避的不純物とは、鋼を工業的に製造する際に、鉱石やスクラップ等のような原料をはじめとして、製造工程の種々の要因によって混入する成分であって、本発明に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
また、本実施形態の高純度フェライト系ステンレス鋼は、Feの一部に代えて、更に質量%で、B:0.0001~0.002%、Nb:0.01~0.6%のうちの1種または2種を含んでも良い。
更にFeの一部に代えて、Ni:0.05~2.0%、Cu:0.05~2.0%、Sn:0.002~0.5%のうちの1種または2種以上を含んでも良く、更に、V:0.001~2.0%、Co:0.05~2.5%、Ta:0.01~0.2%、W:0.05~2.5%、Ga:0.0004~0.05%のうちの1種または2種以上を含んでも良い。
B:0.0001~0.002%
Bは粒界の強度を高める元素であり、加工性の向上に寄与する。含有する場合、この効果を発現させるためには0.0001%以上含有するとよく、好ましくは0.0005%以上にするとよい。一方、過剰な添加は却って延びの低下による加工性低下を招くため、上限を0.002%とし、好ましくは0.0010%以下にするとよい。
Nb:0.01~0.6%
Nbは成形性や耐食性を高める作用がある。含有する場合、この効果を得るためには0.01%以上含有すると良く、好ましくは0.1%以上含有するとよく、更に好ましくは0.25%以上にするとしてもよい。一方、0.6%を超えて添加すると再結晶しにくくなって組織が粗くなるため、上限を0.6%とするよく、好ましくは0.5%以下にするとよい。
Ni:0.05~2.0%
Niは添加することでステンレス鋼の高い耐食性を更に高める作用がある。含有する場合、この効果を得るためには0.01%以上含有すると良く、好ましくは0.05%以上あるいは0.1%以上含有するとよく、更に好ましくは0.2%以上にするとよい。一方、高価な元素であるため2.0%を超えて添加しても合金コストの増大に見ある効果が得られないため、その上限を2.0%とし、好ましくは1.5%以下にするとよい。
Cu:0.05~2.0%
Cuは添加することでステンレス鋼の高い耐食性を更に高める作用がある。含有する場合、この効果を得るためには0.01%以上含有すると良く、好ましくは0.05%以上あるいは0.1%以上含有するとよく、更に好ましくは0.5%以上にするとよい。一方、過剰な添加は製造上のコストに見合う性能向上がなされないため、上限を2.0%とよく、好ましくは1.5%以下にするとよい。
Sn:0.002~0.5%
Snは添加することでステンレス鋼の高い耐食性をさらに高める効果がある。含有する場合、この効果を得るためには0.002%以上含有すると良く、好ましくは0.01%以上含有するとよく、更に好ましくは0.02%以上にするとよい。一方で過剰な添加は加工性の低下につながるため、上限を0.5%とし、好ましくは0.3%以下にするとよい。
V:0.001~2.0%
Vは、耐食性を向上させる効果を有するため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Vを過剰に含有させると、靭性が低下する。また、粗大炭窒化物によって靭性が低下する。このため、V含有量は2.0%以下とする。V含有量は1.0%以下とするのが好ましく、0.5%以下とするのがより好ましく、0.1%以下とするのがさらに好ましい。一方、上記効果を得るためには、V含有量は0.001%以上とする。好ましくは0.01%以上とする。
Co:0.05~2.5%、
Coは、鋼材の強度を向上させる効果を有するため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Coを過剰に含有させると、靭性が低下する。このため、Co含有量は2.5%以下とする。Co含有量は1.0%以下とするのが好ましく、0.8%以下とするのがより好ましい。一方、上記効果を得るためには、Co含有量は0.05%以上とするのが好ましく、0.10%以上とするのがより好ましい。
Ta:0.01~0.2%
Taは、耐食性を向上させる効果を有するため、必要に応じて0.01%以上含有させてもよい。好ましく、0.04%以上とするのが好ましく、0.08%以上とするのがさらに好ましい。しかしながら、Taを過剰に含有させると、靭性が低下する。このため、Ta含有量は0.2%以下とする。
W:0.01~2.5%、
Wは、耐食性を向上させる効果を有するため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Wを過剰に含有させると、靭性が低下する。また、粗大炭窒化物によって靭性が低下する。このため、W含有量は2.5%以下とする。W含有量は2.0%以下とするのが好ましく、1.5%以下とするのがより好ましい。一方、上記効果を得るためには、W含有量は0.01%以上とする。0.05%以上とするのが好ましく、0.10%以上とするのがより好ましい。
Ga:0.0004~0.05%、
Gaは、耐食性を向上させる効果を有するため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Gaを過剰に含有させると、熱間加工性が低下する。このため、Ga含有量は0.05%以下とする。一方、上記効果を得るためには、Ga含有量は0.0004%以上とするのが好ましい。
<鋳片において、CaOを含有する最大径5μm以上の前記酸化物系介在物の内、前記酸化物系介在物の表面にTiNが存在する割合が85%以上>
再度、本発明の効果を発揮することのできる、鋳片での条件について説明する。
鋳片中の介在物の特徴と、鋼板における耐発銹性の効果発揮との関係を調査したところ、鋳片において、前記式(1)~式(3)を満足するとともに、CaOを含有する最大径5μm以上の酸化物系介在物の内、酸化物系介在物の表面にTiNが存在する割合が85%以上であれば、耐発銹性に優れることが確認できた。そこで、鋳片において、CaOを含有する最大径5μm以上の酸化物系介在物の内、酸化物系介在物の表面にTiNが存在する割合を85%以上と規定した。
種々の条件で製造した試料を塩水噴霧試験-JIS-Z-2371(以下、SST)に供したところ、成分組成、式(1)~式(3)、内部にMgOまたはMgO・Al23の相が存在する前記酸化物系介在物の割合について、上記本発明で規定する条件を満たす試料は発銹が少ないことが分かった。以上説明した要件を備えることによって、本発明の効果を得ることが可能になる。
<実施例1>
二次精錬において、Al等による脱酸やスラグ調整、金属MgやMg合金、Ti合金等の添加を行って成分および介在物量・組成を制御して溶製した、表1に示す成分を有する溶鋼を連続鋳造機により鋳造し、得られた鋳片を熱間圧延し、更に熱延板焼鈍・酸洗を行い、冷間圧延、焼鈍・酸洗を行うことで、1.0mm厚の冷延板を製造し、介在物測定とSST試験に供した。
Figure 0007271261000001
Figure 0007271261000002
介在物測定は鋼板の圧延方向と厚み方向に平行な断面を観察面とし、CaOを含有する最大径2μm以上の酸化物系介在物を無作為に100個選択し、介在物内部の相同定をSEM-EDSにて行い、内部にMgOまたはMgO・Al23の相が存在する酸化物系介在物の割合(以下「MgO等の存在する介在物個数比率」という。)を評価した。
SST試験はJIS Z 2371に基づいて、塩溶液として中性塩水噴霧試験を用い、2時間の連続噴霧試験を行い、100cm2あたりの発銹点の個数を計測した。発銹点の個数が5個以下であれば良好とした。
表2に示すように、符号B1~B17は鋼成分およびMgO等の存在する介在物個数比率が本発明の条件を満たしていたため、SST試験における耐発銹性が良好だった。
符号b1はC濃度が高く、式(2)を満たさなかった。TiがTiCとして多く生成し、TiNによる酸化物系介在物の被覆が十分でなかったため、CaSが生成して多数の発銹が生じた。
符号b2はTi濃度が低いこと、およびその他成分の影響でTiやNの活量がTiN生成を十分に生じさせるほど高くなく、式(1)を満たさないことから、TiNによる酸化物系介在物の被覆が十分でなかったため、CaSが生成して多数の発銹が生じた。
符号b3はN濃度が高かったため、Cr窒化物が析出していたこと、およびMo濃度が高く、シグマ相が生成していたことで耐食性が低く、多数の発銹が生じた。
符号b4はO濃度が高く、式(2)、式(3)を満たさなかった。粗大な酸化物系介在物が多数生成していた。また、MgO等の存在する介在物個数比率が低く、N濃度が低かった。このため、TiNにより十分に被覆できず、CaSが生成したと推定される。結果として多数の発銹が生じた。
符号b5はCr濃度が低く、ベースの耐食性が低かった。
符号b6はAl濃度が高く、加工性が悪かった。またCa濃度やMg濃度が高すぎたため、凝固前にCaやMgがSと直接反応してCaSやMgSを生成したため、耐食性が低かった。
符号b7はTi濃度が高すぎたため、鋳造中に多量のTiNが生成したためノズルが閉塞して鋳造を中止した。なお、途中まで得られた鋳片を加工したところ、加工性が非常に悪く、またTiN起因の表面疵が多量に生じた。
符号b8はAl濃度が低く、脱硫が十分にできなかったためS濃度が高く、溶鋼中でCaSが生成したため、耐食性が低かった。
<実施例2>
二次精錬において、Al等による脱酸やスラグ調整、金属MgやMg合金、Ti合金等の添加を行って成分および介在物量・組成を制御して溶製した、表3に示す成分を有する溶鋼を連続鋳造機により鋳造し、鋳片の介在物評価を行った。また鋳造して得られた鋳片を熱間圧延し、更に熱延板焼鈍・酸洗を行い、冷間圧延、焼鈍・酸洗を行うことで、1.0mm厚の冷延板を製造し、鋼板の介在物測定とSST試験に供した。
Figure 0007271261000003
Figure 0007271261000004
介在物測定は鋳片の場合は鋳造方向と厚み方向、冷延板であれば圧延方向と厚み方向に平行な断面を観察面とし、鋳片は長径(最大径)が5.0μm以上、冷延板は長径(最大径)が2.0μm以上の、CaOを含有する酸化物系介在物を無作為に100個選択し、介在物内部の相同定をSEM-EDSにて行った。
SST試験は実施例1と同様にJIS Z 2371に基づいて2時間の連続噴霧試験を行い、発銹点の個数を計測した。
表4に示すように、符号D1~D5は、鋼成分およびMgO等の存在する介在物個数比率が本発明のステンレス鋼が具備すべき条件を満たしている。またこれら実施例は、鋳片において酸化物系介在物の表面にTiNが存在している割合が85%であり、本発明の鋳片の条件を満たしている。そのため、SST試験における耐発銹性が良好だった。
符号d1はTi濃度が低く、式(1)および式(2)を満たさなかったため、また鋳片における酸化物系介在物の表面にTiNが存在している割合が低かったため、SST試験において多数の発銹があった。
符号d2はMg濃度が低く、MgO等の存在する介在物個数比率が低かったこと、および式(2)、式(3)を満たさなかったため、鋳片における酸化物系介在物の表面にTiNが存在している割合が低く、SST試験において多数の発銹があった。
1 酸化物系介在物
2A 観察面A
2B 観察面B
3 MgOまたはMgO・Al23の相

Claims (3)

  1. 化学成分が質量%で、C:0.01%以下、
    Si:1.0%以下、
    Mn:0.3%以下、
    P:0.04%以下、
    S:0.006%以下、
    Cr:10~24%、
    Al:0.01~0.2%、
    Ti:0.15~0.35%、
    Mo:0~2.0%、
    O:0.0005~0.01%、
    N:0.005~0.02%、
    Ca:0.0030%以下、
    Mg:0.0006~0.0030%
    を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなり、下記式(1)~(3)を満足するとともに、CaOを含有する最大径2μm以上の酸化物系介在物のうち、内部にMgOまたはMgO・Al23の相が存在する前記酸化物系介在物の割合が個数比で70%以上であることを特徴とする高純度フェライト系ステンレス鋼。
    2.44×[%Ti]×[%N]×{[%Si]+0.05×([%Al]-[%Mo])-0.01
    ×[%Cr]+0.35}≧0.0012 ・・・ 式(1)
    [%Ti]/([%O]+1.5[%C])≧15 ・・・ 式(2)
    [%N]/[%O]≧2.08 ・・・ 式(3)
    ここで、[%元素名]は当該元素の含有量(質量%)を意味する。
  2. 更に、質量%で、
    B:0.0001~0.002%、
    Nb:0.01~0.6%、
    Ni:0.05~2.0%、
    Cu:0.05~2.0%、
    Sn:0.002~0.5%、
    V:0.001~2.0%、
    Co:0.05~2.5%、
    Ta:0.01~0.2%
    W:0.01~2.5%、
    Ga:0.0004~0.05%、
    の1種もしくは2種以上を含有することを特徴とする請求項1記載の高純度フェライト系ステンレス鋼。
  3. 請求項1又は請求項2に記載の化学成分を有し、請求項1に記載の式(1)~(3)を満足するとともに、CaOを含有する最大径5μm以上の酸化物系介在物の内、前記酸化物系介在物の表面にTiNが存在する割合が85%以上であることを特徴とする高純度フェライト系ステンレス鋼鋳片。
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