JP7469714B2 - 鋼材 - Google Patents

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Description

本発明は、鋼材に関する。
鋼中に固溶したリン(P)(以下、「固溶P」ともいう)は、鋼中の特定の箇所、例えば、デンドライト樹間、結晶粒界に濃化して、鋼材の靭性、延性、耐食性及び溶接性などの特性を低下させる場合があることが知られている。鋼材のこれらの特性を向上させるためには、鋼中の固溶P量を低減することが重要であるが、P含有量を極端に低減させるには製造コストの上昇が避けられない。そのため、従来技術において鋼中のPを無害化する方法が提案されている(例えば、特許文献1~特許文献4参照)。
特許文献1では、Zr、Nb、Ti、Moを含有する高強度パーライト系レールが記載されている。また、特許文献1では、靭性を低下させる元素であるPを、Zr、Nb、Ti、Moのリン化物として固定し、固溶P濃度を0.018%以下とすることにより、靭性が向上することが教示されている。
特許文献2では、希土類元素(REM)を含有する大入熱溶接用調質高張力鋼が記載されている。また、特許文献2では、B含有量を0.0010重量%までにして、REM含有量を0.002重量%以上とすることにより、Pを極端に低下させなくても応力除去焼なましによる母材靭性の劣化を実用上問題のない程度にすることが可能であり、かつ大入熱溶接特性も優れることが教示されている。
特許文献3では、P含有量に応じてNdを含有することによって、Pのミクロ偏析が分散された鋼が記載されている。特許文献3では、デンドライト樹間において濃化するPと添加したNdとを化合させ、Pを鋼中に微細に分散させて無害化することが記載されている。
特許文献4では、P含有量に応じてCeを含有する高強度ボルトが記載されている。また、特許文献4では、PとCeを結合させてリン化物を生成させて粒界脆化を抑制し、固溶P量を低減させて、ボルトの耐水素脆化特性を向上させることが教示されている。
特開2001-40453号公報 特開昭59-159966号公報 特開2010-100923号公報 特開2017-160525号公報
特許文献1では、Zr、Nb、Ti及びMoの含有量を所定範囲内に規定してそれらのリン化物を生成することで固溶P量を低減することが教示されているが、リン化物の生成に影響を及ぼし得る他の因子については必ずしも十分な検討はなされていない。特許文献2では、REMとして使用し得る具体的な元素については何ら教示も示唆もされておらず、また鋼中の固溶P量を低減するという観点からも十分な検討はなされていない。特許文献3では、REMのうち実用鋼に添加可能なものはLa、Ce及びNdに限られ、Pを無害化するために最も有効なREMとしてNdを選択した旨が記載されている。したがって、特許文献3では、La、Ce及びNd以外の元素については必ずしも十分な検討はなされておらず、それゆえ特許文献3に記載の発明においては、鋼中における固溶P量の低減に関して依然として改善の余地があった。この点はCe以外の元素について十分な検討がされていない特許文献4に記載の発明も同様である。
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、新規な構成により、鋼中の固溶P量を低減可能な又は鋼中の固溶P量が低減された鋼材を提供することにある。
本発明者らは、上記目的を達成するために、鋼中の固溶P量を低減させることのできる元素について検討を行った。その結果、本発明者らは、特定元素の量を一定量以上確保するとともに、当該特定元素の量と鋼中のP含有量との関係を所定の範囲内とすることにより、鋼中の固溶P量を低減させることができることを見出し、本発明を完成させた。
上記目的を達成し得た鋼材は、以下のとおりである。
(1)質量%で、
C:0.001~1.000%、
Si:0.01~3.00%、
Mn:0.10~4.50%、
P:0.300%以下、
S:0.0300%以下、
Al:0.001~5.000%、
N:0.2000%以下、
O:0.0100%以下、
Pr:0~0.8000%、Sm:0~0.8000%、Eu:0~0.8000%、Gd:0~0.8000%、Tb:0~0.8000%、Dy:0~0.8000%、Ho:0~0.8000%、Er:0~0.8000%、Tm:0~0.8000%、Yb:0~0.8000%、Lu:0~0.8000%、及びSc:0~0.8000%からなる群より選択される少なくとも1種のX元素、
Nb:0~3.000%、
Ti:0~0.500%、
Ta:0~0.500%、
V:0~1.00%、
Cu:0~3.00%、
Ni:0~60.00%、
Cr:0~30.00%、
Mo:0~5.00%、
W:0~2.00%、
B:0~0.0200%、
Co:0~3.00%、
Be:0~0.050%、
Ag:0~0.500%、
Zr:0~0.5000%、
Hf:0~0.5000%、
Ca:0~0.0500%、
Mg:0~0.0500%、
La、Ce、Nd、Pm及びYの少なくとも1種:合計で0~0.5000%、
Sn:0~0.300%、
Sb:0~0.300%、
Te:0~0.100%、
Se:0~0.100%、
As:0~0.050%、
Bi:0~0.500%、
Pb:0~0.500%、並びに
残部:Fe及び不純物からなり、
下記式1及び式2を満たす化学組成を有する、鋼材。
0.40[Pr]+0.37[Sm]+0.37[Eu]+0.36[Gd]+0.35[Tb]+0.34[Dy]+0.34[Ho]+0.33[Er]+0.33[Tm]+0.32[Yb]+0.32[Lu]+1.24[Sc]-2.33[O]-3.99[N]-1.74[S] ≧ 0.0003 ・・・式1
1.80×[P]-(0.40[Pr]+0.37[Sm]+0.37[Eu]+0.36[Gd]+0.35[Tb]+0.34[Dy]+0.34[Ho]+0.33[Er]+0.33[Tm]+0.32[Yb]+0.32[Lu]+1.24[Sc]-2.33[O]-3.99[N]-1.74[S]) < 0.010 ・・・式2
ここで、[Pr]、[Sm]、[Eu]、[Gd]、[Tb]、[Dy]、[Ho]、[Er]、[Tm]、[Yb]、[Lu]、[Sc]、[O]、[N]、[S]、及び[P]は、各元素の含有量[質量%]であり、元素を含有しない場合は0である。
(2)前記化学組成が、質量%で、
Nb:0.003~3.000%、
Ti:0.005~0.500%、
Ta:0.001~0.500%、
V:0.001~1.00%、
Cu:0.001~3.00%、
Ni:0.001~60.00%、
Cr:0.001~30.00%、
Mo:0.001~5.00%、
W:0.001~2.00%、
B:0.0001~0.0200%、
Co:0.001~3.00%、
Be:0.0003~0.050%、
Ag:0.001~0.500%、
Zr:0.0001~0.5000%、
Hf:0.0001~0.5000%、
Ca:0.0001~0.0500%、
Mg:0.0001~0.0500%、
La、Ce、Nd、Pm及びYの少なくとも1種:合計で0.0001~0.5000%、
Sn:0.001~0.300%、
Sb:0.001~0.300%、
Te:0.001~0.100%、
Se:0.001~0.100%、
As:0.001~0.050%、
Bi:0.001~0.500%、並びに
Pb:0.001~0.500%
のうち1種又は2種以上を含む、上記(1)に記載の鋼材。
本発明によれば、鋼中の固溶P量を低減可能な又は鋼中の固溶P量が低減された鋼材を提供することができる。
<鋼材>
本発明の実施形態に係る鋼材は、質量%で、
C:0.001~1.000%、
Si:0.01~3.00%、
Mn:0.10~4.50%、
P:0.300%以下、
S:0.0300%以下、
Al:0.001~5.000%、
N:0.2000%以下、
O:0.0100%以下、
Pr:0~0.8000%、Sm:0~0.8000%、Eu:0~0.8000%、Gd:0~0.8000%、Tb:0~0.8000%、Dy:0~0.8000%、Ho:0~0.8000%、Er:0~0.8000%、Tm:0~0.8000%、Yb:0~0.8000%、Lu:0~0.8000%、及びSc:0~0.8000%からなる群より選択される少なくとも1種のX元素、
Nb:0~3.000%、
Ti:0~0.500%、
Ta:0~0.500%、
V:0~1.00%、
Cu:0~3.00%、
Ni:0~60.00%、
Cr:0~30.00%、
Mo:0~5.00%、
W:0~2.00%、
B:0~0.0200%、
Co:0~3.00%、
Be:0~0.050%、
Ag:0~0.500%、
Zr:0~0.5000%、
Hf:0~0.5000%、
Ca:0~0.0500%、
Mg:0~0.0500%、
La、Ce、Nd、Pm及びYの少なくとも1種:合計で0~0.5000%、
Sn:0~0.300%、
Sb:0~0.300%、
Te:0~0.100%、
Se:0~0.100%、
As:0~0.050%、
Bi:0~0.500%、
Pb:0~0.500%、並びに
残部:Fe及び不純物からなり、
下記式1及び式2を満たす化学組成を有することを特徴としている。
0.40[Pr]+0.37[Sm]+0.37[Eu]+0.36[Gd]+0.35[Tb]+0.34[Dy]+0.34[Ho]+0.33[Er]+0.33[Tm]+0.32[Yb]+0.32[Lu]+1.24[Sc]-2.33[O]-3.99[N]-1.74[S] ≧ 0.0003 ・・・式1
1.80×[P]-(0.40[Pr]+0.37[Sm]+0.37[Eu]+0.36[Gd]+0.35[Tb]+0.34[Dy]+0.34[Ho]+0.33[Er]+0.33[Tm]+0.32[Yb]+0.32[Lu]+1.24[Sc]-2.33[O]-3.99[N]-1.74[S]) < 0.010 ・・・式2
ここで、[Pr]、[Sm]、[Eu]、[Gd]、[Tb]、[Dy]、[Ho]、[Er]、[Tm]、[Yb]、[Lu]、[Sc]、[O]、[N]、[S]、及び[P]は、各元素の含有量[質量%]であり、元素を含有しない場合は0である。
鋼材の靭性、延性、耐食性及び溶接性などの特性を向上させるためには、先に述べたとおり、鋼中の固溶P量を低減することが一般に重要である。例えば、高強度化のためにマルテンサイト及びベイナイトなどの組織を利用した鋼材においては、低温靭性を確保するため、焼入れ後に所定の温度で焼き戻し処理が典型的に行われる。鋼中の固溶Pが比較的多いと、このような焼き戻し処理の際に当該固溶Pが旧オーステナイト粒界に偏析して、いわゆる焼き戻し脆化を引き起こし、その結果として鋼材の靭性を低下させることがある。これに関連して、鋼中のP自体の含有量を低減すれば、それに応じて固溶P量を低減することができるため、当該固溶Pに起因する焼き戻し脆化等の発生を抑制することが可能である。しかしながら、P含有量を過度に低減することは、精錬に時間を要し、生産性の低下や製造コストの大幅な上昇を招くという問題がある。
そこで、本発明者らは、鋼中の固溶Pと反応してその量を低減させることのできる元素について検討を行った。その結果、本発明者らは、Pr、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、及びScの元素(以下、「X元素」ともいう)の量をそれらの元素が鋼中で形成する介在物、より具体的にはこれらの元素の酸化物、窒化物及び硫化物との関係を考慮しつつ一定量以上確保し(すなわち、式1の左辺に対応する当該X元素の有効量を0.0003%以上とし)、さらに当該特定元素の有効量と鋼中のP含有量との関係を所定の範囲内とすることにより(すなわち、式2の左辺に対応する量を0.010%未満とすることにより)、Pの少なくとも一部をリン化物として固定することができ、このようなリン化物の生成に起因して鋼中の固溶P量を低減することができることを見出した。
上記のX元素は、鋼中に存在するO(酸素)、N(窒素)及びS(硫黄)と結びついて、酸化物、窒化物及び硫化物からなる介在物を形成しやすいという性質を有する。X元素が鋼中でこのような介在物を形成してしまうと、固溶Pとの反応に寄与することができるX元素の量が少なくなり、固溶P量を十分に低減することができなくなる。本発明においては、このような介在物を考慮したX元素の量を、後で詳しく説明する上記式1によって当該X元素の有効量として算出し、そして当該有効量を一定量以上、すなわち0.0003%以上確保することで、当該X元素を固溶Pと反応させてリン化物を形成することができる。リン化物を形成することで、固溶Pの少なくとも一部を固定することができ、固溶Pの粒界などへの偏析を顕著に抑制することが可能となる。本発明者らの検討の結果、X元素の有効量と鋼中のP含有量を同様に後で詳しく説明する上記式2の関係を満たすようにすることで、より高い固溶Pの低減効果を達成できることが見出された。したがって、本発明によれば、P含有量を過度に低減することなしに鋼中の固溶P量を十分に低減可能な又は鋼中の固溶P量が十分に低減された鋼材を得ることができるため、当該固溶Pに関連する鋼材の特性、例えば、靭性、延性、耐食性、溶接性などの特性を顕著に改善することが可能となる。より具体的には、鋼中の固溶P量を低減することで、例えば焼き戻し処理等の際に固溶Pが旧オーステナイト粒界などの特定の箇所に偏析することを抑制することができる。その結果として、本発明によれば、焼き戻し脆化等の発生を抑制することができ、それゆえ鋼材の靭性等の特性を顕著に向上させることが可能となる。
本発明におけるX元素は、上記のとおりO、N及びSと結びついて介在物を形成しやすく、それゆえ鋼中で所定の有効量を確保することは一般に困難である。このような事情から、上記X元素による固溶Pの低減効果は従来知られていなかった。しかしながら、近年の精錬技術の進歩により、一般に不純物として鋼中に存在するO、N及びSなどの元素の含有量を非常に低いレベルにまで低減することが可能となったこともあり、今回、上記X元素の所定範囲内における有効量を実現することができた。したがって、上記X元素に関する固溶Pの低減効果は、今回、本発明者らによって初めて明らかにされたことであり、極めて意外であり、また驚くべきことである。
以下、本発明の実施形態に係る鋼材についてより詳しく説明する。以下の説明において、各元素の含有量の単位である「%」は、特に断りがない限り「質量%」を意味するものである。また、本明細書において、数値範囲を示す「~」とは、特に断りがない場合、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
[C:0.001~1.000%]
炭素(C)は、硬さの安定化及び/又は強度の確保に必要な元素である。これらの効果を十分に得るために、C含有量は0.001%以上である。C含有量は0.005%以上、0.010%以上又は0.020%以上であってもよい。一方で、Cを過度に含有すると、靭性、曲げ性及び/又は溶接性が低下する場合がある。したがって、C含有量は1.000%以下である。C含有量は0.800%以下、0.600%以下又は0.500%以下であってもよい。
[Si:0.01~3.00%]
ケイ素(Si)は脱酸元素であり、強度の向上にも寄与する元素である。これらの効果を十分に得るために、Si含有量は0.01%以上である。Si含有量は0.05%以上、0.10%以上又は0.30%以上であってもよい。一方で、Siを過度に含有すると、靭性が低下したり、スケール疵と呼ばれる表面品質不良を発生したりする場合がある。したがって、Si含有量は3.00%以下である。Si含有量は2.00%以下、1.00%以下又は0.60%以下であってもよい。
[Mn:0.10~4.50%]
マンガン(Mn)は、焼入れ性及び/又は強度の向上に有効な元素であり、有効なオーステナイト安定化元素でもある。これらの効果を十分に得るために、Mn含有量は0.10%以上である。Mn含有量は0.50%以上、0.70%以上又は1.00%以上であってもよい。一方で、Mnを過度に含有すると、靭性に有害なMnSが生成したり、耐酸化性を低下させたりする場合がある。したがって、Mn含有量は4.50%以下である。Mn含有量は4.00%以下、3.50%以下又は3.00%以下であってもよい。
[P:0.300%以下]
リン(P)は製造工程で混入する元素である。鋼中の固溶P量を低減するという観点からはPは少ないほど好ましく、よってP含有量は0%であってもよい。しかしながら、P含有量を0.0001%未満に低減するためには精錬に時間を要し、生産性の低下を招く。したがって、P含有量は0.0001%以上、0.0005%以上、0.001%以上、0.003%以上、又は、0.005%以上であってもよい。P含有量は、製造コストの観点から、0.007%以上であってもよい。一方で、Pを過度に含有すると、鋼中の固溶P量が増加し、鋼材の種々の特性、例えば靭性、延性、耐食性及び/又は溶接性などの特性が低下する場合がある。したがって、P含有量は0.300%以下である。P含有量は0.100%以下、0.030%以下又は0.010%以下であってもよい。
[S:0.0300%以下]
硫黄(S)は製造工程で混入する元素であり、本発明の実施形態に係るX元素との間で形成される介在物を低減する観点からは少ないほど好ましく、よってS含有量は0%であってもよい。しかしながら、S含有量を0.0001%未満に低減するためには精錬に時間を要し、生産性の低下を招く。したがって、S含有量は0.0001%以上、0.0005%以上又は0.0010%以上であってもよい。一方で、Sを過度に含有すると、X元素の有効量が低下するとともに、靭性が低下する場合がある。したがって、S含有量は0.0300%以下である。S含有量は好ましくは0.0100%以下、より好ましくは0.0050%以下、最も好ましくは0.0030%以下である。
[Al:0.001~5.000%]
アルミニウム(Al)は、脱酸元素であり、耐食性及び/又は耐熱性を向上させるのに有効な元素でもある。これらの効果を得るために、Al含有量は0.001%以上である。Al含有量は0.010%以上、0.100%以上又は0.200%以上であってもよい。とりわけ、耐熱性を十分に向上させる観点からは、Al含有量は1.000%以上、2.000%以上又は3.000%以上であってもよい。一方で、Alを過度に含有すると、粗大な介在物が生成して靭性を低下させたり、製造過程で割れなどのトラブルが発生したり、及び/又は耐疲労特性を低下させたりする場合がある。したがって、Al含有量は5.000%以下である。Al含有量は4.500%以下、4.000%以下又は3.500%以下であってもよい。とりわけ、靭性の低下を抑制するという観点からは、Al含有量は1.500%以下、1.000%以下又は0.300%以下であってもよい。
[N:0.2000%以下]
窒素(N)は製造工程で混入する元素であり、本発明の実施形態に係るX元素との間で形成される介在物を低減する観点からは少ないほど好ましく、よってN含有量は0%であってもよい。しかしながら、N含有量を0.0001%未満に低減するためには精錬に時間を要し、生産性の低下を招く。したがって、N含有量は0.0001%以上、0.0005%以上又は0.0010%以上であってもよい。一方で、Nはオーステナイトの安定化に有効な元素でもあり、必要に応じて意図的に含有させてもよい。この場合には、N含有量は0.0100%以上であることが好ましく、0.0200%以上、0.0500%以上であってもよい。しかしながら、Nを過度に含有すると、X元素の有効量が低下するとともに、靭性が低下する場合がある。したがって、N含有量は0.2000%以下である。N含有量は0.1500%以下、0.1000%以下又は0.0800%以下であってもよい。
[O:0.0100%以下]
酸素(O)は製造工程で混入する元素であり、本発明の実施形態に係るX元素との間で形成される介在物を低減する観点からは少ないほど好ましく、よってO含有量は0%であってもよい。しかしながら、O含有量を0.0001%未満に低減するためには精錬に時間を要し、生産性の低下を招く。したがって、O含有量は0.0001%以上、0.0005%以上又は0.0010%以上であってもよい。一方で、Oを過度に含有すると、粗大な介在物が形成され、X元素の有効量が低下するとともに、鋼材の成形性及び/又は靭性が低下する場合がある。したがって、O含有量は0.0100%以下である。O含有量は0.0080%以下、0.0060%以下又は0.0040%以下であってもよい。
[Pr:0~0.8000%、Sm:0~0.8000%、Eu:0~0.8000%、Gd:0~0.8000%、Tb:0~0.8000%、Dy:0~0.8000%、Ho:0~0.8000%、Er:0~0.8000%、Tm:0~0.8000%、Yb:0~0.8000%、Lu:0~0.8000%、及びSc:0~0.8000%からなる群より選択される少なくとも1種のX元素]
本発明の実施形態に係るX元素は、Pr:0~0.8000%、Sm:0~0.8000%、Eu:0~0.8000%、Gd:0~0.8000%、Tb:0~0.8000%、Dy:0~0.8000%、Ho:0~0.8000%、Er:0~0.8000%、Tm:0~0.8000%、Yb:0~0.8000%、Lu:0~0.8000%、及びSc:0~0.8000%であり、プラセオジム(Pr)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)、及びスカンジウム(Sc)はリン化物の形成に基づく固溶Pの低減効果を発現することができる。当該固溶Pの低減効果を発現することで、当該固溶Pに関連する鋼材の特性、例えば、靭性、延性、耐食性、溶接性などの特性を顕著に改善することが可能となる。
上記X元素は、いずれか1つの元素を単独で使用してもよいし、又は上記元素のうち2種以上のあらゆる特定の組み合わせにおいて使用してもよい。また、当該X元素は、後で詳しく説明する式1及び2を満たす量において存在すればよく、その下限値は特に限定されない。しかしながら、例えば、各X元素の含有量又は合計の含有量は0.0010%以上であってもよく、好ましくは0.0050%以上であり、より好ましくは0.0150%以上であり、さらにより好ましくは0.0300%以上であり、最も好ましくは0.0500%以上である。一方で、X元素を過度に含有しても効果が飽和し、それゆえ当該X元素を必要以上に鋼材中に含有させることは製造コストの上昇を招く虞がある。したがって、各X元素の含有量は0.8000%以下であり、例えば0.7000%以下、0.6000%以下、0.5000%以下、0.4000%以下又は0.3000%以下であってもよい。また、X元素の含有量の合計は9.6000%以下であり、例えば6.0000%以下、5.0000%以下、4.0000%以下、2.0000%以下、1.0000%以下又は0.5000%以下であってもよい。
本発明の実施形態に係る鋼材の基本化学組成は上記のとおりである。さらに、当該鋼材は、必要に応じて以下の任意選択元素のうち1種又は2種以上を含有してもよい。例えば、鋼材は、Nb:0~3.000%、Ti:0~0.500%、Ta:0~0.500%、V:0~1.00%、Cu:0~3.00%、Ni:0~60.00%、Cr:0~30.00%、Mo:0~5.00%、W:0~2.00%、B:0~0.0200%、Co:0~3.00%、Be:0~0.050%、及びAg:0~0.500%のうち1種又は2種以上を含有してもよい。また、鋼材は、Zr:0~0.5000%、Hf:0~0.5000%、Ca:0~0.0500%、Mg:0~0.0500%、並びにLa、Ce、Nd、Pm及びYの少なくとも1種:合計で0~0.5000%のうち1種又は2種以上を含有してもよい。また、鋼材は、Sn:0~0.300%、及びSb:0~0.300%のうち1種又は2種を含有してもよい。また、鋼材は、Te:0~0.100%、Se:0~0.100%、As:0~0.050%、Bi:0~0.500%、及びPb:0~0.500%のうち1種又は2種以上を含有してもよい。以下、これらの任意選択元素について詳しく説明する。
[Nb:0~3.000%]
ニオブ(Nb)は、析出強化及び再結晶の抑制等に寄与する元素である。Nb含有量は0%であってもよいが、これらの効果を得るためには、Nb含有量は0.003%以上であることが好ましい。例えば、Nb含有量は0.005%以上又は0.010%以上であってもよい。とりわけ、析出強化を十分に図る観点からは、Nb含有量は1.000%以上又は1.500%以上であってもよい。一方で、Nbを過度に含有すると、効果が飽和し、加工性及び/又は靭性を低下させる場合がある。したがって、Nb含有量は3.000%以下である。Nb含有量は2.800%以下、2.500%以下又は2.000%以下であってもよい。とりわけ、溶接熱影響部(HAZ)の靭性低下を抑制するという観点からは、Nb含有量は0.100%以下であることが好ましく、0.080%以下、0.050%以下又は0.030%以下であってもよい。
[Ti:0~0.500%]
チタン(Ti)は、析出強化等により鋼材の強度向上に寄与する元素である。Ti含有量は0%であってもよいが、このような効果を得るためには、Ti含有量は0.005%以上であることが好ましい。Ti含有量は0.010%以上、0.050%以上又は0.080%以上であってもよい。一方で、Tiを過度に含有すると、多量の析出物が生成して靭性を低下させる場合がある。したがって、Ti含有量は0.500%以下である。Ti含有量は0.300%以下、0.200%以下又は0.100%以下であってもよい。
[Ta:0~0.500%]
タンタル(Ta)は、炭化物の形態制御と強度の増加に有効な元素である。Ta含有量は0%であってもよいが、これらの効果を得るためには、Ta含有量は0.001%以上であることが好ましい。Ta含有量は0.005%以上、0.010%以上又は0.050%以上であってもよい。一方で、Taを過度に含有すると、微細なTa炭化物が多数析出し、鋼材の過度な強度上昇を招き、結果として延性の低下及び冷間加工性を低下させる場合がある。したがって、Ta含有量は0.500%以下である。Ta含有量は、0.300%以下、0.100%以下又は0.080%以下であってもよい。
[V:0~1.00%]
バナジウム(V)は、析出強化等により鋼材の強度向上に寄与する元素である。V含有量は0%であってもよいが、このような効果を得るためには、V含有量は0.001%以上であることが好ましい。V含有量は0.01%以上、0.02%以上、0.05%以上又は0.10%以上であってもよい。一方で、Vを過度に含有すると、多量の析出物が生成して靭性を低下させる場合がある。したがって、V含有量は1.00%以下である。V含有量は0.80%以下、0.60%以下又は0.50%以下であってもよい。
[Cu:0~3.00%]
銅(Cu)は強度及び/又は耐食性の向上に寄与する元素である。Cu含有量は0%であってもよいが、これらの効果を得るためには、Cu含有量は0.001%以上であることが好ましい。Cu含有量は0.01%以上、0.10%以上、0.15%以上、0.20%以上又は0.30%以上であってもよい。一方で、Cuを過度に含有すると、靭性や溶接性の劣化を招く場合がある。したがって、Cu含有量は3.00%以下である。Cu含有量は2.00%以下、1.50%以下、1.00%以下又は0.50%以下であってもよい。
[Ni:0~60.00%]
ニッケル(Ni)は強度及び/又は耐熱性の向上に寄与する元素であり、有効なオーステナイト安定化元素でもある。Ni含有量は0%であってもよいが、これらの効果を得るためには、Ni含有量は0.001%以上であることが好ましい。Ni含有量は0.01%以上、0.10%以上、0.50%以上、0.70%以上、1.00%以上又は3.00%以上であってもよい。とりわけ、耐熱性を十分に向上させる観点からは、Ni含有量は30.00%以上、35.00%以上又は40.00%以上であってもよい。一方で、Niを過度に含有すると、合金コストの増加に加えて熱間加工時の変形抵抗が増大し、設備負荷が大きくなる場合がある。したがって、Ni含有量は60.00%以下である。Ni含有量は55.00%以下又は50.00%以下であってもよい。とりわけ、経済性の観点及び/又は溶接性の低下を抑制するという観点からは、Ni含有量は15.00%以下、10.00%以下、6.00%以下又は4.00%以下であってもよい。
[Cr:0~30.00%]
クロム(Cr)は強度及び/又は耐食性の向上に寄与する元素である。Cr含有量は0%であってもよいが、これらの効果を得るためには、Cr含有量は0.001%以上であることが好ましい。Cr含有量は0.01%以上、0.05%以上、0.10%以上又は0.50%以上であってもよい。とりわけ、耐食性を十分に向上させる観点からは、Cr含有量は10.00%以上、12.00%以上又は15.00%以上であってもよい。一方で、Crを過度に含有すると、合金コストの増加に加えて靭性が低下する場合がある。したがって、Cr含有量は30.00%以下である。Cr含有量は28.00%以下、25.00%以下又は20.00%以下であってもよい。とりわけ、溶接性及び/又は加工性の低下を抑制するという観点からは、Cr含有量は10.00%以下、9.00%以下又は7.50%以下であってもよい。
[Mo:0~5.00%]
モリブデン(Mo)は鋼の焼入れ性を高め、強度の向上に寄与する元素であり、耐食性の向上にも寄与する元素である。Mo含有量は0%であってもよいが、これらの効果を得るためには、Mo含有量は0.001%以上であることが好ましい。Mo含有量は0.01%以上、0.02%以上、0.50%以上又は1.00%以上であってもよい。一方で、Moを過度に含有すると、熱間加工時の変形抵抗が増大し、設備負荷が大きくなる場合がある。したがって、Mo含有量は5.00%以下である。Mo含有量は4.50%以下、4.00%以下、3.00以下又は1.50%以下であってもよい。
[W:0~2.00%]
タングステン(W)は鋼の焼入れ性を高め、強度の向上に寄与する元素である。W含有量は0%であってもよいが、このような効果を得るためには、W含有量は0.001%以上であることが好ましい。W含有量は0.01%以上、0.02%以上、0.05%以上、0.10%以上又は0.50%以上であってもよい。一方で、Wを過度に含有すると、延性や溶接性が低下する場合がある。したがって、W含有量は2.00%以下である。W含有量は1.80%以下、1.50%以下又は1.00%以下であってもよい。
[B:0~0.0200%]
ホウ素(B)は強度の向上に寄与する元素である。B含有量は0%であってもよいが、このような効果を得るためには、B含有量は0.0001%以上であることが好ましい。B含有量は0.0003%以上、0.0005%以上又は0.0007%以上であってもよい。一方で、Bを過度に含有すると、靭性及び/又は溶接性が低下する場合がある。したがって、B含有量は0.0200%以下である。B含有量は0.0100%以下、0.0050%以下、0.0030%以下又は0.0020%以下であってもよい。
[Co:0~3.00%]
コバルト(Co)は焼入れ性及び/又は耐熱性の向上に寄与する元素である。Co含有量は0%であってもよいが、これらの効果を得るためには、Co含有量は0.001%以上であることが好ましい。Co含有量は0.01%以上、0.02%以上、0.05%以上、0.10%以上又は0.50%以上であってもよい。一方で、Coを過度に含有すると、熱間加工性が低下する場合があり、原料コストの増加にも繋がる。したがって、Co含有量は3.00%以下である。Co含有量は2.50%以下、2.00%以下、1.50%以下又は0.80%以下であってもよい。
[Be:0~0.050%]
ベリリウム(Be)は、母材の強度の上昇及び組織の微細化に有効な元素である。Be含有量は0%であってもよいが、このような効果を得るためには、Be含有量は0.0003%以上であることが好ましい。Be含有量は0.0005%以上、0.001%以上又は0.010%以上であってもよい。一方で、Beを過度に含有すると、成形性が低下する場合がある。したがって、Be含有量は0.050%以下である。Be含有量は0.040%以下、0.030%以下又は0.020%以下であってもよい。
[Ag:0~0.500%]
銀(Ag)は、母材の強度の上昇及び組織の微細化に有効な元素である。Ag含有量は0%であってもよいが、このような効果を得るためには、Ag含有量は0.001%以上であることが好ましい。Ag含有量は0.010%以上、0.020%以上、0.030%以上又は0.050%以上であってもよい。一方で、Agを過度に含有すると、成形性が低下する場合がある。したがって、Ag含有量は0.500%以下である。Ag含有量は0.400%以下、0.300%以下又は0.200%以下であってもよい。
[Zr:0~0.5000%]
ジルコニウム(Zr)は、硫化物の形態を制御できる元素である。Zr含有量は0%であってもよいが、このような効果を得るためには、Zr含有量は0.0001%以上であることが好ましい。一方で、Zrを過度に含有しても効果が飽和し、それゆえZrを必要以上に鋼材中に含有させることは製造コストの上昇を招く虞がある。したがって、Zr含有量は0.5000%以下である。
[Hf:0~0.5000%]
ハフニウム(Hf)は、硫化物の形態を制御できる元素である。Hf含有量は0%であってもよいが、このような効果を得るためには、Hf含有量は0.0001%以上であることが好ましい。一方で、Hfを過度に含有しても効果が飽和し、それゆえHfを必要以上に鋼材中に含有させることは製造コストの上昇を招く虞がある。したがって、Hf含有量は0.5000%以下である。
[Ca:0~0.0500%]
カルシウム(Ca)は、硫化物の形態を制御できる元素である。Ca含有量は0%であってもよいが、このような効果を得るためには、Ca含有量は0.0001%以上であることが好ましい。一方で、Caを過度に含有しても効果が飽和し、それゆえCaを必要以上に鋼材中に含有させることは製造コストの上昇を招く虞がある。したがって、Ca含有量は0.0500%以下である。
[Mg:0~0.0500%]
マグネシウム(Mg)は、硫化物の形態を制御できる元素である。Mg含有量は0%であってもよいが、このような効果を得るためには、Mg含有量は0.0001%以上であることが好ましい。Mg含有量は0.0015%超、0.0016%以上、0.0018%以上又は0.0020%以上であってもよい。一方で、Mgを過度に含有しても効果が飽和し、粗大な介在物の形成に起因して冷間成形性及び/又は靭性が低下する場合がある。したがって、Mg含有量は0.0500%以下である。Mg含有量は0.0400%以下、0.0300%以下又は0.0200%以下であってもよい。
[La、Ce、Nd、Pm及びYの少なくとも1種:合計で0~0.5000%]
ランタン(La)、セリウム(Ce)、ネオジム(Nd)、プロメチウム(Pm)及びイットリウム(Y)は、Ca及びMgと同様に硫化物の形態を制御できる元素である。La、Ce、Nd、Pm及びYの少なくとも1種の含有量の合計は0%であってもよいが、このような効果を得るためには0.0001%以上であることが好ましい。La、Ce、Nd、Pm及びYの少なくとも1種の含有量の合計は0.0002%以上、0.0003%以上又は0.0004%以上であってもよい。一方で、これらの元素を過度に含有しても効果が飽和し、粗大な酸化物等が形成して冷間成形性が低下する場合がある。したがって、La、Ce、Nd、Pm及びYの少なくとも1種の含有量の合計は0.5000%以下であり、0.4000%以下、0.3000%以下又は0.2000%以下であってもよい。
[Sn:0~0.300%]
錫(Sn)は耐食性の向上に有効な元素である。Sn含有量は0%であってもよいが、このような効果を得るためには、Sn含有量は0.001%以上であることが好ましい。Sn含有量は0.010%以上、0.020%以上、0.030%以上又は0.050%以上であってもよい。一方で、Snを過度に含有すると、靭性、特には低温靭性の低下を招く場合がある。したがって、Sn含有量は0.300%以下である。Sn含有量は0.250%以下、0.200%以下又は0.150%以下であってもよい。
[Sb:0~0.300%]
アンチモン(Sb)は、Snと同様に耐食性の向上に有効な元素であり、特にSnと複合して含有させることにより効果を増大させることができる。Sb含有量は0%であってもよいが、耐食性向上の効果を得るためには、Sb含有量は0.001%以上であることが好ましい。Sb含有量は0.010%以上、0.020%以上、0.030%以上又は0.050%以上であってもよい。一方で、Sbを過度に含有すると、靭性、特には低温靭性の低下を招く場合がある。したがって、Sb含有量は0.300%以下である。Sb含有量は0.250%以下、0.200%以下又は0.150%以下であってもよい。
[Te:0~0.100%]
テルル(Te)は、MnやSなどと低融点化合物を形成して潤滑効果を高めるため、鋼の被削性を改善するのに有効な元素である。Te含有量は0%であってもよいが、このような効果を得るためには、Te含有量は0.001%以上であることが好ましい。Te含有量は0.010%以上、0.020%以上、0.030%以上又は0.040%以上であってもよい。一方で、Teを過度に含有しても効果が飽和し、合金コストの増加を招く。したがって、Te含有量は0.100%以下である。Te含有量は0.090%以下、0.080%以下又は0.070%以下であってもよい。
[Se:0~0.100%]
セレン(Se)は、鋼中に生成するセレン化物が被削材のせん断塑性変形に変化を与え、切りくずが破砕されやすくなるため、鋼の被削性を改善するのに有効な元素である。Se含有量は0%であってもよいが、このような効果を得るためには、Se含有量は0.001%以上であることが好ましい。Se含有量は0.010%以上、0.020%以上、0.030%以上又は0.040%以上であってもよい。一方で、Seを過度に含有しても効果が飽和し、合金コストの増加を招く。したがって、Se含有量は0.100%以下である。Se含有量は0.090%以下、0.080%以下又は0.070%以下であってもよい。
[As:0~0.050%]
ヒ素(As)は、鋼の被削性を改善するのに有効な元素である。As含有量は0%であってもよいが、このような効果を得るためには、As含有量は0.001%以上であることが好ましい。As含有量は0.005%以上又は0.010%以上であってもよい。一方で、Asを過度に含有すると、熱間加工性が低下する場合がある。したがって、As含有量は0.050%以下である。As含有量は0.040%以下、0.030%以下又は0.020%以下であってもよい。
[Bi:0~0.500%]
ビスマス(Bi)は、鋼の被削性を改善するのに有効な元素である。Bi含有量は0%であってもよいが、このような効果を得るためには、Bi含有量は0.001%以上であることが好ましい。Bi含有量は0.010%以上、0.020%以上、0.030%以上又は0.050%以上であってもよい。一方で、Biを過度に含有しても効果が飽和し、合金コストの増加を招く。したがって、Bi含有量は0.500%以下である。Bi含有量は0.400%以下、0.300%以下又は0.200%以下であってもよい。
[Pb:0~0.500%]
鉛(Pb)は、切削による温度上昇で溶融してクラックの進展を促進するため、鋼の被削性を改善するのに有効な元素である。Pb含有量は0%であってもよいが、このような効果を得るためには、Pb含有量は0.001%以上であることが好ましい。Pb含有量は0.010%以上、0.020%以上、0.030%以上又は0.050%以上であってもよい。一方で、Pbを過度に含有すると、熱間加工性が低下する場合がある。したがって、Pb含有量は0.500%以下である。Pb含有量は0.400%以下、0.300%以下又は0.200%以下であってもよい。
本発明の実施形態に係る鋼材において、上記の元素以外の残部は、Fe及び不純物からなる。不純物とは、鋼材を工業的に製造する際に、鉱石やスクラップ等のような原料を始めとして、製造工程の種々の要因によって混入する成分等である。
[X元素の有効量]
本発明の実施形態によれば、Pr、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、及びScからなるX元素の有効量は、下記式1の左辺によって求められ、そしてその値は下記式1を満たすようにする。
0.40[Pr]+0.37[Sm]+0.37[Eu]+0.36[Gd]+0.35[Tb]+0.34[Dy]+0.34[Ho]+0.33[Er]+0.33[Tm]+0.32[Yb]+0.32[Lu]+1.24[Sc]-2.33[O]-3.99[N]-1.74[S] ≧ 0.0003 ・・・式1
ここで、[Pr]、[Sm]、[Eu]、[Gd]、[Tb]、[Dy]、[Ho]、[Er]、[Tm]、[Yb]、[Lu]、[Sc]、[O]、[N]、及び[S]は、各元素の含有量[質量%]であり、元素を含有しない場合は0である。
上記X元素の有効量を上記式1を満たすようにすることで、鋼中に存在しているX元素と鋼中の固溶Pを反応させてリン化物を形成することができ、このようなリン化物の形成に伴い、鋼中の固溶P量を低減することが可能となる。より詳しく説明すると、これらのX元素(以下、単に「X」ともいう)は、鋼中に存在するO(酸素)、N(窒素)及びS(硫黄)と結びついて、酸化物(X23)、窒化物(XN)及び硫化物(XS)からなる介在物を形成する傾向がある。当該介在物を形成してしまうと、少なくともこれらの介在物中のX元素は固溶Pとの反応に寄与することはできない。したがって、固溶Pとの反応を促進して鋼中の固溶P量を低減するためには、介在物を形成せずに鋼中でリン化物を形成し得るX元素の量を増加させる必要がある。
ここで、リン化物を形成し得るX元素の量は、鋼中に含まれるX元素の量から介在物(酸化物、窒化物及び硫化物)を形成するのに消費され得る最大量を差し引くことによって概算することが可能である。そこで、本発明の実施形態においては、このようにして概算される鋼中の固溶P量を低減するのに有効なX元素の量(すなわち「X元素の有効量」)は、具体的には下記式Aによって定義される。
Xの有効量[原子%]=Σ(M[Fe]/M[X])×[X]-(M[Fe]/M[O])×[O]×2/3-(M[Fe]/M[N])×[N]-(M[Fe]/M[S])×[S] ・・・式A
ここで、XはPr、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、及びScの各X元素を表し、M[X]はX元素の原子量、M[Fe]はFeの原子量、M[O]はOの原子量、M[N]はNの原子量、M[S]はSの原子量を表し、[X]、[O]、[N]及び[S]は、それぞれ対応する元素の含有量[質量%]であり、元素を含有しない場合は0である。
上記式Aについて以下に詳しく説明すると、まず、本発明の実施形態に係る鋼材には種々の合金元素が含有されているものの、鋼材全体としてはほぼFeによって構成されているか、あるいは任意選択元素であるNi及び/又はCrを比較的多く含む場合(それぞれの最大含有量は60.00%及び30.00%)には、Feに加えてNi及び/又はCrによってほぼ構成されていることが明らかである。一方で、Ni及びCrの原子量はFeの原子量と同等であることが周知である。このため、たとえ鋼材がNi及び/又はCrを比較的多く含む場合であっても、Pr、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、及びScの各X元素の原子%は、近似的には各X元素の含有量[質量%]にFeの原子量と当該各X元素の原子量の比を掛け算すること、すなわち(M[Fe]/M[X])×[X]によって算出することができる。したがって、(M[Fe]/M[X])×[X]によって算出される各X元素の量を合計することで(すなわちΣ(M[Fe]/M[X])×[X]を計算することで)、X元素全体の原子%を算出することができる。
次に、X元素全体の原子%のうち、酸化物(X23)、窒化物(XN)及び硫化物(XS)を形成するのに消費され得る最大量(原子%)を差し引くことで、固溶P量を低減するのに有効に作用し得る鋼中のX元素の量を算出することができる。ここで、酸化物(X23)、窒化物(XN)及び硫化物(XS)を形成するのに消費され得るX元素の最大量(原子%)は、上で説明したのと同様の理由から近似的には鋼中のFe、O、N及びSの原子量並びにO、N及びSの含有量を用いて、それぞれ(M[Fe]/M[O])×[O]×2/3、(M[Fe]/M[N])×[N]、及び(M[Fe]/M[S])×[S]として算出することが可能である。したがって、固溶P量を低減するためのX元素の有効量は、下記式Aによって定義することができる。
Xの有効量[原子%]=Σ(M[Fe]/M[X])×[X]-(M[Fe]/M[O])×[O]×2/3-(M[Fe]/M[N])×[N]-(M[Fe]/M[S])×[S] ・・・式A
ここで、Fe、O、N及びS並びに各X元素の原子量は、それぞれFe:55.845、O:15.9994、N:14.0069、S:32.068、Pr:140.908、Sm:150.36、Eu:151.964、Gd:157.25、Tb:158.925、Dy:162.500、Ho:164.930、Er:167.259、Tm:168.934、Yb:173.045、Lu:174.967、Sc:44.9559である。したがって、上記式Aに各元素の原子量を代入して整理すると、X元素の原子%による有効量は近似的には下記式Bによって表すことが可能となる。
有効量=0.40[Pr]+0.37[Sm]+0.37[Eu]+0.36[Gd]+0.35[Tb]+0.34[Dy]+0.34[Ho]+0.33[Er]+0.33[Tm]+0.32[Yb]+0.32[Lu]+1.24[Sc]-2.33[O]-3.99[N]-1.74[S] ・・・式B
ここで、[Pr]、[Sm]、[Eu]、[Gd]、[Tb]、[Dy]、[Ho]、[Er]、[Tm]、[Yb]、[Lu]、[Sc]、[O]、[N]、及び[S]は、各元素の含有量[質量%]であり、元素を含有しない場合は0である。
本発明の実施形態においては、固溶P量を低減するためには、上記式Bによって求められるX元素の有効量は0.0003%以上、すなわち下記式1を満たすことが少なくとも必要である。
0.40[Pr]+0.37[Sm]+0.37[Eu]+0.36[Gd]+0.35[Tb]+0.34[Dy]+0.34[Ho]+0.33[Er]+0.33[Tm]+0.32[Yb]+0.32[Lu]+1.24[Sc]-2.33[O]-3.99[N]-1.74[S] ≧ 0.0003 ・・・式1
X元素の有効量は、例えば0.0005%以上又は0.0007%以上であってもよく、好ましくは0.0010%以上、より好ましくは0.0015%以上、さらにより好ましくは0.0030%以上、最も好ましくは0.0050%以上又は0.0100%以上である。また、上記式1からも明らかなように、当該有効量を安定的に確保するためには、鋼中のO、N及びSの含有量を極力低減することが好ましい。ここで、X元素の有効量の上限は特に限定されないが、当該X元素の有効量を過度に増加させても効果が飽和するとともに、製造コストの上昇(X元素の含有量増加に伴う合金コストの上昇及び/又はO、N及びSに関する精錬コストの上昇)を招くことになり必ずしも好ましくない。したがって、X元素の有効量は好ましくは2.0000%以下であり、例えば1.8000%以下、1.5000%以下、1.2000%以下、1.0000%以下又は0.8000%以下であってもよい。
[X元素の有効量と鋼中のP含有量との関係]
本発明の実施形態によれば、上記のX元素の有効量と鋼中のP含有量は、下記式2を満たす。
1.80×[P]-(0.40[Pr]+0.37[Sm]+0.37[Eu]+0.36[Gd]+0.35[Tb]+0.34[Dy]+0.34[Ho]+0.33[Er]+0.33[Tm]+0.32[Yb]+0.32[Lu]+1.24[Sc]-2.33[O]-3.99[N]-1.74[S]) < 0.010 ・・・式2
ここで、[Pr]、[Sm]、[Eu]、[Gd]、[Tb]、[Dy]、[Ho]、[Er]、[Tm]、[Yb]、[Lu]、[Sc]、[O]、[N]、[S]、及び[P]は、各元素の含有量[質量%]であり、元素を含有しない場合は0である。
X元素とPは1:1の割合で結合してリン化物(XP)を形成することから、鋼中のP含有量(原子%)からX元素の有効量(原子%)を差し引くことで、鋼材の化学組成から求められる理論上の固溶P量を算出することができる。ここで、原子%によるP含有量の値は、X元素の有効量に関連して上で説明したのと同様の理由から近似的には鋼中のFe及びPの原子量並びに質量%によるP含有量を用いて(M[Fe]/M[P])×[P]として算出することが可能である(ここで、M[Fe]はFeの原子量、M[P]はPの原子量を表し、[P]はP含有量[質量%]であり、Pを含有しない場合は0である)。したがって、理論上の固溶P量は近似的には下記式Cによって表すことが可能となる。
理論上の固溶P量[原子%]
=(M[Fe]/M[P])×[P]-Xの有効量[原子%] ・・・式C
ここで、Fe及びPの原子量は、それぞれFe:55.845及びP:30.9738である。したがって、上記式CにFe及びPの原子量並びに式Bを代入して整理すると、原子%による理論上の固溶P量は近似的には下記式Dによって表すことが可能となる。
理論上の固溶P量[原子%]=1.80×[P]-(0.40[Pr]+0.37[Sm]+0.37[Eu]+0.36[Gd]+0.35[Tb]+0.34[Dy]+0.34[Ho]+0.33[Er]+0.33[Tm]+0.32[Yb]+0.32[Lu]+1.24[Sc]-2.33[O]-3.99[N]-1.74[S]) ・・・式D
ここで、[Pr]、[Sm]、[Eu]、[Gd]、[Tb]、[Dy]、[Ho]、[Er]、[Tm]、[Yb]、[Lu]、[Sc]、[O]、[N]、[S]、及び[P]は、各元素の含有量[質量%]であり、元素を含有しない場合は0である。
本発明の実施形態においては、実際に測定される固溶P量を低減し、それによって当該固溶Pに関連する鋼材の特性、例えば、靭性、延性、耐食性、溶接性などの特性を改善するためには、上記式1を満たすことに加えて、上記式Dによって求められる理論上の固溶P量が0.010%未満であること、すなわち下記式2を満たすことが必要である。
1.80×[P]-(0.40[Pr]+0.37[Sm]+0.37[Eu]+0.36[Gd]+0.35[Tb]+0.34[Dy]+0.34[Ho]+0.33[Er]+0.33[Tm]+0.32[Yb]+0.32[Lu]+1.24[Sc]-2.33[O]-3.99[N]-1.74[S]) < 0.010 ・・・式2
理論上の固溶P量(すなわち式2の左辺)は、好ましくは0.008%以下、より好ましくは0.005%以下、さらにより好ましくは0.003%以下、最も好ましくは0%以下である。また、理論上の固溶P量を低減して上記式2を確実に満足させるためには、当然ながら鋼中のP含有量を極力低減することが好ましい。ここで、理論上の固溶P量の下限は特に限定されないが、理論上の固溶P量を過度に低減しても効果が飽和するとともに、製造コストの上昇(Pに関する精錬コストの上昇及び/又はX元素の含有量増加に伴う合金コストの上昇)を招くことになり必ずしも好ましくない。したがって、理論上の固溶P量は好ましくは-2.000%以上であり、例えば-1.800%以上、-1.500%以上、-1.300%以上、-1.000%以上又は-0.800%以上であってもよい。
本発明の実施形態に係る鋼材は、任意の鋼材であってよく、特に限定されない。本発明の実施形態に係る鋼材は、例えば、熱間圧延前の鋼材であるスラブ、ビレット、ブルームや熱間圧延後の鋼材を包含するものである。熱間圧延後の鋼材としては、特に限定されないが、例えば、厚鋼板、薄鋼板、さらには棒鋼、線材、形鋼、及び鋼管等をも包含するものである。
本発明の実施形態に係る鋼材は、最終的な製品の形態等に応じて、当業者に公知の任意の適切な方法によって製造することが可能である。例えば、鋼材が厚鋼板の場合には、その製造方法は、一般に厚鋼板を製造する際に適用される工程を含み、例えば、上で説明した化学組成を有するスラブを鋳造する工程、鋳造されたスラブを熱間圧延する工程、及び得られた圧延材を冷却する工程を含み、必要に応じて焼入れ工程及び焼戻し工程等の熱処理をさらに含んでいてもよい。本発明の実施形態に係る鋼材の製造工程は、制御圧延と加速冷却を組み合わせた熱加工制御プロセス(TMCP)であってもよい。
また、鋼材が薄鋼板の場合には、その製造方法は、一般に薄鋼板を製造する際に適用される工程を含み、例えば、上で説明した化学組成を有するスラブを鋳造する工程、鋳造されたスラブを熱間圧延する工程、及び得られた圧延材を冷却して巻き取る工程、必要に応じて冷間圧延工程、焼鈍工程等をさらに含んでいてもよい。棒鋼や他の鋼材の製造方法においても同様に、一般に棒鋼や他の鋼材を製造する際に適用される工程を含み、例えば、上で説明した化学組成を有する溶鋼を形成する製鋼工程、形成された溶鋼からスラブ、ビレット、ブルーム等を鋳造する工程、鋳造されたスラブ、ビレット、ブルーム等を熱間圧延する工程、及び得られた圧延材を冷却する工程を含み、他の工程は、それらの鋼材を製造するのに当業者に公知の適切な工程を適宜選択し、実施することができる。
鋼中の固溶P量は、900~1100℃、好ましくは950~1100℃の範囲内の所定の温度で6000秒以上保持することによりリン化物を形成し(P固定処理)、低減することができる。P固定処理は、熱間圧延工程での熱履歴であってもよく、熱間圧延工程後の熱処理であってもよい。P固定処理の保持温度は、900~1100℃の範囲内の一定の温度であってもよく、当該範囲内で変動してもよい。P固定処理が熱間圧延工程での熱履歴である場合は、スラブ、ビレット、ブルームなどの鋼素材の加熱から熱間圧延の完了までの間に、900~1100℃の範囲内での保持時間が6000秒以上であればよい。「保持」とは、上記の温度範囲内で放冷又は空冷等により徐々に温度が低下する場合を包含するものである。保持時間の上限は、特に限定されないが、例えば15000秒以下又は12000秒以下であってよい。熱間圧延工程の熱履歴又は熱間圧延工程後の熱処理にP固定処理を含めることで、鋼中の固溶Pをリン化物として十分に固定することができるため、その後の焼き戻し処理によってもPが粒界等へ偏析することを抑制することができる。その結果として、焼き戻し脆化等の発生を抑制することができ、それゆえ鋼材の靭性等の特性を顕著に向上させることが可能となる。また、本発明の実施形態に係る鋼材の製造では、固溶Pを固定するためのX元素の有効量を確保することが重要であり、そのためにはX元素と鋼中で介在物を形成し得るO、N及びSの含有量を精錬工程において十分に低減しておくことが極めて重要である。
以下、実施例によって本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
[例A]
本例では、まず、種々の化学組成を有するスラブを鋳造し、次いで熱間圧延を圧下率50%以上で実施し、冷却した。次に、得られた圧延材を950~1100℃の範囲内の所定の温度に加熱し、6000~12000秒保持することによりリン化物を形成し(P固定処理)、すなわち鋼中のPの少なくとも一部がリン化物として固定された鋼材を得た。得られた各鋼材から採取した試料を分析した化学組成は、下表1に示すとおりである。また、得られた各鋼材中の固溶P量は以下の方法によって測定した。
[鋼材中の固溶P量の測定]
鋼材中の固溶P量は抽出残渣法によって測定した。より具体的には、まず、鋼材から採取した鋼材表面から0.5mm深さ位置を含む試料を10%アセチルアセトン-1%テトラメチルアンモニウムクロライド-メタノール溶液中500mmA及び2時間の条件下での定電流電解によって鋼材1g以上を電解し、次いで孔径0.2μmのメンブレンフィルタを用いて濾過し、析出物(リン化物)を分離した。次に、分離した析出物を硝酸(HNO3)と過塩素酸(HClO4)を2:1で混合した溶液にて分解し、次いで得られた残渣をICP-MS(誘導結合プラズマ質量分析計)で測定することにより鋼材中でリン化物として析出したP量(質量%)を決定した。この析出P量(質量%)を、表1に示される各鋼材中のP含有量(質量%)から差し引くことにより各鋼材中の固溶P量(質量%)を決定した。その結果を表1に示す。
Figure 0007469714000001
Figure 0007469714000002
Figure 0007469714000003
Figure 0007469714000004
Figure 0007469714000005
Figure 0007469714000006
本例では、リン化物が析出しかつ固溶P量が0.010原子%に相当する0.006質量%よりも低減されている場合を固溶P量が低減された鋼材として評価した。表1を参照すると、比較例85~92では、Pr、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、及びScからなるX元素の有効量が低かったために、鋼材中の固溶Pをリン化物として析出させることができないか又は十分に析出させることができず、結果として鋼材中の固溶P量を低減することができなかった。一方、比較例93では、X元素の有効量は0.0003%よりも高く、それゆえ式1を満足するものであったが、鋼材中のP含有量が比較的高かったために式2を満足せず、結果として固溶P量を十分に低減することができなかった。これとは対照的に、本発明に係る全ての実施例において、X元素の有効量を0.0003%以上とし、さらには式2を満足する(すなわち式2の左辺を0.010%未満にする)ことで、実際に測定される鋼材中の固溶P量を十分に低減することができた。例えば、実施例9、25及び49では、鋼材中のP含有量が比較的低いにもかかわらず、本発明の構成を満足することで、その一部をリン化物として析出させて鋼材中の固溶P量を極めて低い値まで低減できていることがわかる。
[例B]
低温靭性を確保するため、焼入れ後に所定の温度で焼き戻し処理が行われることがある。鋼中の固溶Pが比較的多いと、このような焼き戻し処理の際に当該固溶Pが旧オーステナイト粒界等に偏析して、いわゆる焼き戻し脆化を引き起こす場合がある。このような場合には、粒界破壊が起こりやすくなるため、鋼材の靭性が低下する。そこで、本例では、例Aの幾つかの鋼材について、固溶Pの低減に起因する効果を検証した。具体的には、まず、例AのP固定処理(詳細は下表2に示す)後の実施例49、63、75及び84並びに比較例90及び93の鋼材を焼入れし、次いで550℃及び1200秒の条件下で焼き戻し処理を実施し、得られた鋼材の板厚1/4t部分からJIS4号試験片(Vノッチ試験片:10mm×10mm×55mm)を採取した。試験片の長手方向は板幅方向であり、ノッチは圧延方向に破壊が伝播するように設けられた。このJIS4号試験片に基づいてJIS Z2242:2005の規定に準拠して-100℃でシャルピー衝撃試験を行った。次いで、シャルピー衝撃試験後の試験片の破面をSEM(走査型電子顕微鏡)で観察した。より具体的にはSEMにより、破面のノッチ底の中央部付近の300μm×300μmの範囲を試験片の長軸方向(圧延材の板幅方向)から撮影し、得られた画像から全破面の面積に対する粒界破面の面積の割合(粒界破面率)を算出した。その結果を表2に示す。
Figure 0007469714000007
固溶P量が小さいほど、当該固溶Pの粒界への偏析が抑制されるため、焼き戻し脆化による粒界破壊が起こりにくくなり、結果として粒界破面率が小さくなる。表2を参照すると、固溶P量が比較的高い比較例90及び93では、粒界破面率が100%であり、固溶Pに起因する焼き戻し脆化が認められた。これとは対照的に、実施例49、63、75及び84では、X元素の有効量が高く、それゆえ固溶P量が十分に低減されているために、粒界破面率が10%以下であり、鋼材の靭性、特に低温靭性が顕著に向上していることを確認した。
本発明の実施形態に係る鋼材は、例えば、熱間圧延前の鋼材であるスラブ、ビレット、ブルームや熱間圧延後の鋼材である。熱間圧延後の鋼材としては、例えば、橋梁、建築、造船及び圧力容器等の用途に使用される厚鋼板、自動車及び家電等の用途に使用される薄鋼板、さらには棒鋼、線材、形鋼、及び鋼管等をも包含するものである。これらの材料において本発明の実施形態に係る鋼材を適用した場合には、鋼中の固溶P量が十分に低減されているため、当該固溶Pに関連する鋼材の特性、例えば、靭性、延性、耐食性、溶接性などの特性を顕著に改善することが可能である。

Claims (5)

  1. 質量%で、
    C:0.001~1.000%、
    Si:0.01~3.00%、
    Mn:0.10~4.50%、
    P:0.300%以下、
    S:0.0300%以下、
    Al:0.001~5.000%、
    N:0.2000%以下、
    O:0.0100%以下、
    Pr:0~0.8000%、Sm:0~0.8000%、Eu:0~0.8000%、Gd:0~0.8000%、Tb:0~0.8000%、Dy:0~0.8000%、Ho:0~0.8000%、Er:0~0.8000%、Tm:0~0.8000%、Yb:0~0.8000%、Lu:0~0.8000%、及びSc:0~0.8000%からなる群より選択される少なくとも1種のX元素、
    Nb:0~3.000%、
    Ti:0~0.500%、
    Ta:0~0.500%、
    V:0~1.00%、
    Cu:0~3.00%、
    Ni:0~60.00%、
    Cr:0~30.00%、
    Mo:0~5.00%、
    W:0~2.00%、
    B:0~0.0200%、
    Co:0~3.00%、
    Be:0~0.050%、
    Ag:0~0.500%、
    Zr:0~0.5000%、
    Hf:0~0.5000%、
    Ca:0~0.0500%、
    Mg:0~0.0500%、
    La、Ce、Nd、Pm及びYの少なくとも1種:合計で0~0.5000%、
    Sn:0~0.300%、
    Sb:0~0.300%、
    Te:0~0.100%、
    Se:0~0.100%、
    As:0~0.050%、
    Bi:0~0.500%、
    Pb:0~0.500%、並びに
    残部:Fe及び不純物からなり、
    下記式1及び式2を満たす化学組成を有する、鋼材。
    0.40[Pr]+0.37[Sm]+0.37[Eu]+0.36[Gd]+0.35[Tb]+0.34[Dy]+0.34[Ho]+0.33[Er]+0.33[Tm]+0.32[Yb]+0.32[Lu]+1.24[Sc]-2.33[O]-3.99[N]-1.74[S] ≧ 0.0003 ・・・式1
    1.80×[P]-(0.40[Pr]+0.37[Sm]+0.37[Eu]+0.36[Gd]+0.35[Tb]+0.34[Dy]+0.34[Ho]+0.33[Er]+0.33[Tm]+0.32[Yb]+0.32[Lu]+1.24[Sc]-2.33[O]-3.99[N]-1.74[S]) < 0.010 ・・・式2
    ここで、[Pr]、[Sm]、[Eu]、[Gd]、[Tb]、[Dy]、[Ho]、[Er]、[Tm]、[Yb]、[Lu]、[Sc]、[O]、[N]、[S]、及び[P]は、各元素の含有量[質量%]であり、元素を含有しない場合は0である。
  2. 前記化学組成が、質量%で、
    Nb:0.003~3.000%、
    Ti:0.005~0.500%、
    Ta:0.001~0.500%、
    V:0.001~1.00%、
    Cu:0.001~3.00%、
    Ni:0.001~60.00%、
    Cr:0.001~30.00%、
    Mo:0.001~5.00%、
    W:0.001~2.00%、
    B:0.0001~0.0200%、
    Co:0.001~3.00%、
    Be:0.0003~0.050%、及び
    Ag:0.001~0.500%
    のうち1種又は2種以上を含む、請求項1に記載の鋼材。
  3. 前記化学組成が、質量%で、
    Zr:0.0001~0.5000%、
    Hf:0.0001~0.5000%、
    Ca:0.0001~0.0500%、
    Mg:0.0001~0.0500%、並びに
    La、Ce、Nd、Pm及びYの少なくとも1種:合計で0.0001~0.5000%
    のうち1種又は2種以上を含む、請求項1又は2に記載の鋼材。
  4. 前記化学組成が、質量%で、
    Sn:0.001~0.300%、及び
    Sb:0.001~0.300%
    のうち1種又は2種を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の鋼材。
  5. 前記化学組成が、質量%で、
    Te:0.001~0.100%、
    Se:0.001~0.100%、
    As:0.001~0.050%、
    Bi:0.001~0.500%、及び
    Pb:0.001~0.500%
    のうち1種又は2種以上を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の鋼材。
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