上記工法では、型枠を設置してからコンクリートを打設するまでの間に養生シートを貼り付けた型枠の表面温度が日射などにより上昇すると、型枠と養生シートとの間の熱膨張率の差異に起因して、養生シートにシワを発生させてしまうことがある。このような養生シートにシワが発生した状態のままコンクリートを打設してしまうと、そのシワがコンクリートに転写されてしまい、コンクリート表面の美感を損なう虞がある。または、そのようなシワを修正してからコンクリートを打設する場合には、その分、作業負荷が掛かってしまう虞もある。
本発明は、上述した課題を解決するために為されたものであり、コンクリートの打設前から使用する養生シートのシワ発生を抑えることができる、コンクリート構造物の構築方法及びコンクリート養生シートユニットを提供することを目的とする。
本発明に係るコンクリート構造物の構築方法は、紙又は合成紙からなるベース材を介して養生シートが取り付けられた板状型枠を所定の位置に設置する工程と、板状型枠の養生シートが取り付けられた側にコンクリートを打設する工程と、コンクリートの打設後に板状型枠を脱型する工程と、を備えている。所定の位置に設置された板状型枠では、ベース材の第1面が板状型枠の打設側表面に貼り付けられ、且つ、養生シートが当該ベース材の第1面とは逆の第2面に対して仮留めされており、板状型枠を脱型した際、養生シートがコンクリートの表面に残置される。
このコンクリート構造物の構築方法では、板状型枠と養生シートとの間に紙又は合成紙からなるベース材を設け、このベース材により、板状型枠と養生シートとの間の熱膨張率の差異に起因するシワの発生を抑制している。即ち、ベース材がある程度の伸縮性を有している紙又は合成紙から構成されているため、板状型枠と養生シートとの間の熱膨張率の差異を軽減し、これにより、養生シートでのシワ発生を抑えることができる。その結果、シワの発生を抑制した養生シートにより、構築されたコンクリート構造物の表面を美しくすることが可能となる。また、コンクリートの養生を確実に行うことにより、コンクリートの表面を緻密にし、外部からの劣化因子を遮断することで、コンクリート構造物の耐久性を高めることができる。また、このベース材は、紙又は合成紙から構成されているため、施工後の廃棄が容易であり、施工性を阻害しない。なお、紙又は合成紙が白色からなる場合には、板状型枠への日射の吸収を低減することも可能となり、日射による型枠の温度上昇自体を低減して、養生シートへのシワ発生を更に抑えることも可能である。但し、ベース材となる紙または合成紙の色は白色に限定されるものではなく、青色や他の色の紙であってもよい。
上記のコンクリート構造物の構築方法では、ベース材は、少なくとも一方向に延伸されている熱可塑性樹脂シートからなる合成紙であり、当該合成紙の層内にはミクロボイドが設けられていることが好ましい。この場合、例えば型枠設置後に雨等が降った場合であっても、ベース材に外部からの水が染みこんでしまい波打った形状等になるといったことがないため、養生シートの平滑性をより確実に維持してコンクリートを打設することができる。なお、ベース材が紙の場合であっても表裏面に非吸水性の処理を施すことにより略同様の効果を奏することができる。但し、このような非吸水性の紙でも端面まで非吸水性の処理をすることは困難又は手間がかかる場合もあるため、その場合、若干、水が内部に染みこんでしまい波打ってしまうことがあるが、合成紙であれば端面からも水が入ってこないため、養生シートの平滑性をより確実に維持することが可能となる。
上記のコンクリート構造物の構築方法では、ベース材は非吸水性を有し、当該ベース材の第2面の水に対する接触角が100°以下であってもよい。この場合、ベース材と養生シートとの貼り付き度合いを弱めにすることができ、板状型枠を脱型した際、養生シートをスムーズにコンクリート表面に残置させやすくなる。
上記のコンクリート構造物の構築方法は、ベース材よりも表面積の小さい養生シートがベース材の第2面において当該ベース材の平面方向の内側に位置し且つ養生シートの縁部が粘着テープによってベース材に取り付けられた構成を有するコンクリート養生シートユニットを、ベース材の第1面を介して板状型枠に貼り付ける工程を更に備えてもよい。この場合、コンクリート養生シートユニットを予め工場等で作製しておくことができるため、ベース材と養生シートとの間の張り付き度合いをより精度よく調整でき、脱型した際に養生シートをより確実にコンクリート表面に残置させやすくなる。また、施工現場ではユニット化されたコンクリート養生シートユニットを板状型枠に貼り付ける作業だけとなるため、作業負担が軽減され、作業効率を向上させることができる。更に、工場等で予めコンクリート養生シートユニットを作製しておくため、コンクリート養生シートユニットを大量生産して、コスト低減を図ることも可能となる。なお、コンクリート養生シートユニットを板状型枠に貼り付ける工程であるため、板状型枠の再利用も容易となる。
上記のコンクリート構造物の構築方法では、ベース材よりも表面積の小さい養生シートがベース材の第2面において当該ベース材の平面方向の内側に位置し且つ養生シートの縁部が粘着テープによってベース材に取り付けられた構成を有するコンクリート養生シートユニットを、ベース材の第1面を介して板状型枠に貼り付けられた型枠ユニットをそのまま用いて板状型枠を所定の位置に設置してもよい。この場合、コンクリート養生シートユニットや型枠ユニットを予め工場等で作製しておくことができるため、ベース材と養生シートとの間の張り付き度合いやベース材と板状型枠との張り付き度合いをより精度よく調整しておくことができ、脱型した際に養生シートをより確実にコンクリート表面に残置させやすくなる。また、施工現場ではユニット化された型枠ユニットを配置する作業だけとなるため、作業負担が更に軽減され、作業効率を上げることができる。
上記のコンクリート構造物の構築方法は、板状型枠の打設側表面にベース材の第1面を貼り付けると共に、ベース材よりも表面積の小さい養生シートをベース材の第2面において当該ベース材の平面方向の内側に位置させて養生シートの縁部を粘着テープによりベース材に取り付ける工程を更に備えてもよい。この場合、施工現場において、必要に応じて、養生シートを板状型枠に貼り付けることができる。
上記のコンクリート構造物の構築方法では、板状型枠を脱型した際、ベース材は板状型枠と共に養生シートから離れ、養生シートのみがコンクリートの表面に残置されることが好ましい。この場合、ベース材が張り付いた板状型枠を容易に再利用に供することが可能となり、一方、養生シートによりコンクリートの養生は確実に行うことが可能となる。
また、本発明に係るコンクリート養生シートユニットは、合成紙又は紙からなるベース材と、ベース材の第1面に設けられる第1粘着剤層と、第1粘着剤層を覆う剥離シートと、ベース材の第1面とは逆の第2面に載置される養生シートと、養生シートに貼り付けられる粘着テープと、を備えている。このコンクリート養生シートユニットを用いて上述したコンクリート構造物の構築方法を実施することにより、養生シートへのシワ発生を抑制しつつ、脱型した際には養生シートをより確実にコンクリート表面に残置させやすくなる。また、このような部材のユニット化を行うことにより、施工現場での作業負荷を軽減して作業効率を向上させたり、大量生産による低コスト化を図ったりすることが可能となる。
上記のコンクリート養生シートユニットでは、ベース材は、少なくとも一方向に延伸されている熱可塑性樹脂シートからなる合成紙であり、当該合成紙の層内にはミクロボイドが設けられていることが好ましい。この場合、このコンクリート養生シートユニットを用いて上述したコンクリート構造物の構築方法を実施した場合、例え型枠設置後に雨等が降っても、ベース材に外部からの水が染みこんでしまい波打った形状等になるといったことがないため、養生シートの平滑性をより確実に維持してコンクリートを打設することができる。
上記のコンクリート養生シートユニットでは、養生シートは、ベース材よりも表面積が小さく、ベース材の第2面において当該ベース材の平面方向の内側に位置し、養生シートの縁部が粘着テープによってベース材に取り付けられていることが好ましい。また、養生シートは、ベース材と同じ大きさの表面積を有し、養生シートの各縁部とベース材の対応する各縁部とが一致するようにベース材の第2面上に位置していてもよい。さらに、上記何れかのコンクリート養生シートユニットが、養生シートとベース材の第2面との間に設けられる第2粘着剤層を更に備え、第2粘着剤層により、養生シートがベース材に貼り付けられていてもよい。この場合、第1粘着剤層の粘着力と第2粘着剤層の粘着力とを調整して、養生シートとベース材との貼り付け度合いが、ベース材と板状型枠との貼り付け度合いよりも弱くなるように容易に調整することができ、これにより、上述した構築方法において、養生シートをより確実にコンクリート表面に残置させることが可能となる。
本発明によれば、コンクリートの打設前から使用している養生シートのシワ発生を抑えて、構築されたコンクリート構造物の表面を美しくすることが可能となる。また、コンクリートの養生を確実に行うことにより、コンクリートの表面を緻密にし、外部からの劣化因子を遮断することで、コンクリート構造物の耐久性を高めることができる。
以下、図面を参照しつつ、本発明に係るコンクリート構造物の構築方法、及び、当該構築方法に用いられるコンクリート養生シートユニットについて説明する。説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には、同一符号を用いる場合があり、重複する説明は省略する。
図1は、本発明の一実施形態に係るコンクリート構造物の構築方法の概要を示すフローチャートである。図1に示すように、本実施形態に係るコンクリート構造物の構築方法は、コンクリート打設用の型枠に養生シートを取り付ける工程(ステップS1)と、養生シートが取り付けられた型枠を所定の位置に設置する工程(ステップS2)と、型枠の養生シートが取り付けられた側にコンクリートを打設する工程(ステップS3)と、コンクリートの打設後に型枠を脱型する工程(ステップS4)と、型枠を脱型した際、養生シートをコンクリートの表面に残置し、コンクリート構造物を養生する工程(ステップS5)とを、を含む工法である。
次に、図2の(a)を参照して、上述したコンクリート構造物の養生シートの取付け工程S1に用いられるコンクリート養生シートユニット1(以下「養生シートユニット1」と略す)について説明する。図2の(a)は、養生シートユニット1の断面図である。この養生シートユニット1は、例えば、施工現場ではなく、工場等において予め作製されており、ユニット化されたものが施工現場に持ち込まれて使用される。但し、施工現場で同様のものを作製してもよい。
図2の(a)に示すように、養生シートユニット1は、養生シート2、ベース材3、両面粘着テープ4a,4b、粘着剤層5(第1粘着剤層)、及び、剥離シート6を備えて構成されている。養生シート2、ベース材3、粘着剤層5、及び、剥離シート6は、平面視した際にそれぞれ矩形形状を呈する。養生シート2は、平面方向の表面積がベース材3よりも若干小さい矩形形状に形成されており、ベース材3の平面方向の内側に配置されて、その縁部2a,2bが両面粘着テープ4a,4bによりベース材3に取り付けられている。図では、両面粘着テープ4a,4bは、養生シート2の上下に対向する2辺のみ(縁部2a,2bに沿った辺)に設けられているが、養生シート2の別の2辺も両面粘着テープによってベース材3に取り付けられている。これにより、養生シート2は、ベース材3の面3bに仮留めされる。なお、養生シート2とベース材3との間に粘着剤層(第2粘着剤層)が設けられ、これにより仮留めが補強されてもよい。この粘着剤層や上述した粘着剤層5は、例えば、アクリル系粘着剤から構成される層である。また、ベース材3と粘着剤層5は、タック紙として一体形成されているものを使用してもよい。
養生シートユニット1に用いられる養生シート2は、コンクリート構造物を養生する際にそのまま用いられる非透水性の樹脂シートであり、平面視した際に矩形形状を呈し、0.02mm~2.0mm程度の厚みを有する。図2の(a)では、養生シート2は、その厚み方向の形状が示されている。養生シート2としては、熱可塑性樹脂シートを用いることが好ましく、ここで用いられる熱可塑性樹脂としては、例えば、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンープロピレン共重合体、オレフィン系熱可塑性エラストマー等のオレフィン系樹脂;ポリアミド;ポリエチレンテレフタレート;ポリカーボネート;ポリ塩化ビニル、塩素化ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等の塩化ビニル系樹脂;フッ素系樹脂等が挙げられる。なお、養生シート2としては、オレフィン系熱可塑性エラストマーを用いることが好ましい。オレフィン系熱可塑性エラストマーとは、エチレンープロピレン共重合体又はポリプロピレンとエチレンープロピレンゴムの溶融混合物又は重合反応物であり、例えば、株式会社プライムポリマー製「プライムTPO(登録商標)」、日本ポリプロ株式会社製「ニューコン(登録商標)」、サンアロマー株式会社製「キャタロイ」、三菱化学社製「ゼラス(登録商標)」等を挙げることができる。
養生シート2と型枠7との間に配置されるベース材3は、紙又は合成紙から構成されており、平面視した際に矩形形状を呈し、0.05mm~1.0mm程度の厚みを有する。また、ベース材3の坪量は、例えば40g/m2~200g/m2程度であり、通常の樹脂シートなどよりも軽い。ベース材3は、通常の紙であってもよいが、雨等の水が浸入すると波打った形状になってしまうため、非吸水性の表面処理が施されている紙であることが好ましい。また、ベース材3が合成紙である場合には、表面だけでなく端面からの水の浸入も防止できるため、より好ましくは、ベース材3は合成紙である。合成紙としては、例えば、株式会社ユポ・コーポレーションの合成紙ユポ(登録商標、以下同様)などを用いることが可能である。このような合成紙は、少なくとも一方向に延伸されている(好ましくは縦方向MD及び横方向CDの2軸延伸されている)熱可塑性樹脂シートから構成されており、合成紙の層内にミクロボイドが形成されており、ある程度の伸縮性やしなやかさを提供することができる。これにより、養生シート2と型枠7との間での熱膨張率の差異に起因するシワの発生を緩和する。なお、ベース材3を構成する紙又は合成紙は主に白色であることが好ましいが、これに限定されず、青色や他の色の紙又は合成紙であってもよい。ベース材が青色等の紙又は合成紙の場合には、そこに目盛り線を印刷し、コンクリート打設時の高さ管理の目安にすることも可能である。
ベース材3は、更に、養生シート2が載置される側の面3b(第2面)の水に対する表面張力を示す接触角が100°以下であることが好ましい。このような接触角を有する合成紙を使用することにより、後述するように、養生シート2とベース材3との間の張り付き度合い(粘着力)をそれほど強くないものとすることができ、型枠7を脱型する際、養生シート2がベース材3からスムーズに離れ、養生シート2をより確実にコンクリート構造物に残置させることができる。なお、両面粘着テープ4a,4bのベース材3に貼り付けられた面とは逆の面は、コンクリート構造物に養生シート2を残置させる際に使用される。
次に、図2の(b)及び(c)と図3の(a)~(e)を参照し、上述した養生シートユニット1を用いて、養生シートユニット1の板状型枠への取付け工程を含むコンクリート構造物の構築方法について、より具体的に説明する。図2の(b)は、養生シートユニット1から剥離シート6を剥離した状態を示す断面図であり、図2の(c)は、養生シートユニット1aを型枠7に取り付けた状態を示す断面図である。図3の(a)~(e)は、上述したコンクリート構造物の構築方法の概要を示す断面図であり、コンクリート構造物の構築工程を横から見た断面図を示している。なお、一般的なコンクリート構造物を構築する際、通常は複数の型枠を用いるが、本実施形態では説明を容易にするため、そのうちの1の型枠を例にとって説明する。他の型枠への養生シートの貼り付けも同様である。
本実施形態に係る工法では、まず、図3の(a)に示されるように、型枠7を準備する。一方で、養生シートユニット1が施工現場に搬入されると、図2の(b)に示すように、まずは運搬中に粘着剤層5を覆って保護していた剥離シート6を養生シートユニット1から取り外して、貼り付け可能な養生シートユニット1aとする。そして、図2の(c)及び図3の(b)に示すように、養生シートユニット1aのベース材3を粘着剤層5を介して型枠7に貼り付ける。図3の(b)では、説明を容易にするため、両面粘着テープ4a,4b等の記載は省略している。これにより、上述した養生シート2等の型枠7への取り付けが完了する。型枠7は、平面視した際(例えば図2の左側から右側に視た際、以下同様)に矩形形状を呈する板状部材であり、例えば木製型枠又は鋼製型枠から構成される。図2の(c)では、型枠7は、その厚み方向の形状が示されている。
続いて、シート貼付け工程S1が終了すると、型枠設置工程S2に進み、養生シートユニット1aが取り付けられた型枠7を所定の位置に設置する。本実施形態では、上述したように、養生シート2と型枠7との間に合成紙等からなるベース材3を介しているため、型枠7の設置後に日射等により温度上昇が発生しても、養生シート2へのシワの発生が抑制されている。そして、打設工程S3では、シワの発生が抑えられた養生シート2が表面に配置されている型枠7の打設側表面7a側にコンクリートCを打設する。図3の(c)は、このようにして打設されたコンクリートCと型枠7等を示している。その後、コンクリートCの締固めが終了すると、型枠7をはめたまま、コンクリートの養生を例えば3日~10日程度行い、コンクリートを硬化させる。
続いて、打設されたコンクリートCが硬化すると、その後、図3の(d)に示すように、型枠7を脱型し、当該硬化したコンクリートCを養生シート2でそのまま養生する。この際、ベース材3は型枠7に張り付いており、養生シート2から離れ、養生シート2のみがコンクリートCの表面に残置される。養生シート2による養生は、型枠7の脱型後28日以上養生を続けてもよいし、型枠7の脱型後91日以上養生を続けてもよい。更に、コンクリート構造物Caの引き渡しに至るまで(例えば脱型後1年以上)養生を続けてももちろんよい。このように、コンクリートを一度も外気に曝すことなく長期の養生を続けることにより、コンクリート構造物Caの強度や耐久性を飛躍的に高めて、その品質を向上することができる。所定期間の養生が終了すると、図3の(e)に示すように、養生シート2をコンクリート構造物Caから取り外して廃棄し、これにより、コンクリート構造物Caが完成する。一方、使用が終了した型枠7は、ベース材3を剥離することなく打設側表面を綺麗に清掃し、再度、別の養生シート2を両面粘着テープ4a,4b等によりこのベース材3に貼り付けて養生シートユニット1aと同様の構成とし、別のコンクリート打設に用いることができる。この場合、施工性が向上する。なお、ベース材3を型枠7から剥がして、別の養生シートユニット1aを貼り付けてもよい。
以上、本実施形態に係るコンクリート構造物の構築方法では、型枠7と養生シート2との間に紙又は合成紙からなるベース材3を設け、このベース材3により、型枠7と養生シート2との間の熱膨張率の差異に起因するシワの発生を抑制している。即ち、ベース材3がある程度の伸縮性を有している紙又は合成紙から構成されているため、型枠7と養生シート2との間の熱膨張率の差異を軽減し、これにより、養生シート2でのシワ発生を抑えることができる。その結果、シワの発生を抑制した養生シート2により、構築されたコンクリート構造物の表面を美しくすることが可能となる。また、コンクリートの養生を確実に行うことにより、コンクリートの表面を緻密にし、外部からの劣化因子を遮断することで、コンクリート構造物の耐久性を高めることができる。また、ベース材3は、紙又は合成紙から構成されているため、施工後の廃棄が容易であり、施工性を阻害することもない。なお、紙又は合成紙が白色からなる場合には、型枠7への日射の吸収を低減することも可能となり、日射による型枠7の温度上昇自体を低減して、養生シート2でのシワ発生を更に抑えることも可能である。
本実施形態に係るコンクリート構造物の構築方法では、ベース材3は、少なくとも一方向に延伸されている(より好ましくは2軸方向に延伸されている)熱可塑性樹脂シートからなる合成紙であってもよい。そして、この合成紙の層内にはミクロボイドが設けられていることが好ましい。このような合成紙を用いている場合、例えば型枠7を設置後に雨等が降ったとしても、ベース材3に外部からの水が染みこんでしまい波打った形状等になるといったことがないため、養生シート2の平滑性をより確実に維持してコンクリートCを打設することができる。なお、ベース材3が紙の場合であっても表裏面に非吸水性の処理を施すことにより略同様の効果を奏することができる。但し、このような非吸水性の紙でも端面まで非吸水性の処理をすることは困難又は手間がかかる場合もあるため、その場合、若干、水が内部に染みこんでしまい波打ってしまうことがあるが、合成紙であれば端面からも水が入ってこないため、養生シート2の平滑性をより確実に維持することが可能となる。
本実施形態に係るコンクリート構造物の構築方法は、ベース材3よりも表面積の小さい養生シート2がベース材3の面3bにおいてベース材3の平面方向の内側に位置し且つ養生シート2の縁部2a,2bが両面粘着テープ4a,4bによってベース材3に取り付けられた構成を有する養生シートユニット1aを、ベース材3の面3a(第1面)を介して型枠7に貼り付ける工程を更に備えている。このため、養生シートユニット1を予め工場等で作製しておくことができるため、ベース材3と養生シート2との間の張り付き度合い(粘着力)をより精度よく調整でき、脱型した際に養生シート2をより確実にコンクリート表面に残置させやすくなる。また、施工現場ではユニット化された養生シートユニット1を型枠7に貼り付ける作業だけとなるため、作業負担が軽減され、作業効率を向上させることができる。更に、工場等で予め養生シートユニット1を作製しておくため、養生シートユニット1を大量生産して、コスト低減を図ることも可能となる。なお、養生シートユニット1を型枠7に貼り付ける工程であるため、型枠7の再利用も容易となる。
本実施形態に係るコンクリート構造物の構築方法では、型枠7を脱型した際、ベース材3は型枠7と共に養生シート2から離れ、養生シート2のみがコンクリートCの表面に残置されることが好ましい。これにより、ベース材3が張り付いた型枠7を容易に再利用に供することが可能となる一方、養生シート2による養生を適切に行うことができ、長期養生をより確実に行うことができる。
また、本実施形態に係る養生シートユニット1は、合成紙又は紙からなるベース材3と、ベース材3の面3aに設けられる粘着剤層5と、粘着剤層5を覆う剥離シート6と、ベース材3の面3aとは逆の面3bに載置される養生シート2と、養生シート2に貼り付けられる両面粘着テープ4a,4bと、を備えている。この養生シートユニット1を用いて上述したコンクリート構造物の構築方法を実施することにより、養生シート2へのシワ発生を抑制しつつ、脱型した際には養生シート2をより確実にコンクリート表面に残置させやすくなる。また、このような部材のユニット化を行うことにより、施工現場での作業負荷を軽減して作業効率を向上させ、また大量生産による低コスト化を図ることが可能となる。
本実施形態に係る養生シートユニット1では、ベース材3は、少なくとも一方向に延伸されている熱可塑性樹脂シートからなる合成紙であり、当該合成紙の層内にはミクロボイドが設けられていることが好ましい。このような養生シートユニット1を用いて上述したコンクリート構造物の構築方法を実施した場合、例え型枠設置後に雨等が降っても、ベース材に外部からの水が染みこんでしまい波打った形状等になるといったことがないため、養生シート2の平滑性をより確実に維持してコンクリートCを打設することができる。なお、ベース材3は、ミクロボイドを有しない合成紙であってもよい。
本実施形態に係る養生シートユニット1では、養生シート2は、ベース材3よりも表面積が小さく、ベース材3の面3bにおいてベース材3の平面方向の内側に位置し、養生シート2の縁部2a,2bが両面粘着テープ4a,4bによってベース材3に取り付けられている。また、養生シートユニット1が、養生シート2とベース材3の面3bとの間に設けられる粘着剤層を更に備え、この粘着剤層により、養生シート2がベース材3に貼り付けられていてもよい。この場合、粘着剤層5の粘着力とこの粘着剤層の粘着力とを調整して、養生シート2とベース材3との貼り付け度合いが、ベース材3と型枠7との貼り付け度合いよりも弱くなるように容易に調整することができ、これにより、上述した構築方法において、養生シート2をより確実にコンクリート表面に残置させることが可能となる。なお、養生シート2とベース材3との表面積が略同一であってもよい。
以上、本発明の実施形態について詳細に説明してきたが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく様々な実施形態に適用することができる。例えば、上記実施形態では養生シートユニット1を用いてコンクリート構造物の構築を行う方法について開示しているが、本発明はこれに限定されない。例えば、上記のコンクリート構造物の構築方法において、養生シートユニット1をベース材3の面3aを介して型枠7に貼り付けられた型枠ユニットを予め作製しておき、この型枠ユニットをそのまま用いて型枠7を所定の位置に設置するようにしてもよい。この場合、養生シートユニット1を含む型枠ユニットを予め工場等で作製しておくことができるため、ベース材3と養生シート2との間の張り付き度合いやベース材3と型枠7との張り付き度合いをより精度よく調整しておくことができ、脱型した際に養生シート2をより確実にコンクリート表面に残置させやすくなる。また、施工現場ではユニット化された型枠ユニットを配置する作業だけとなるため、作業負担が更に軽減され、作業効率を上げることができる。なお、このような型枠ユニットは、一度使用された後は上述した養生シートユニット1を現場で貼り付けるような方法で使用してもよい。
一方、このようなユニットを用いずに、施工現場で養生シート2やベース材3を型枠7上に組み上げるようにしてもよい。例えば図4に示すように、型枠7の打設側表面7aに粘着剤層5を介してベース材3の面3aを貼り付けると共に、ベース材3よりも表面積のやや小さい養生シート2をベース材3の面3bにおいてベース材3の平面方向の内側に位置させて養生シート2の縁部2a~2dを粘着テープによりベース材3に取り付ける工程を更に備えてもよい。この場合、施工現場において、必要に応じて、養生シート2を型枠7に貼り付けることができる。なお、この場合においても、養生シート2とベース材3との間には、粘着剤層5とは別の粘着剤層を更に設けてもよい。但し、型枠7を脱型した際、養生シート2がコンクリートに残置するように、粘着剤層5の粘着力よりも弱めにしておき、養生シート2がベース材3に仮留めされるようにしておくことが好ましい。
また、上述した実施形態では、養生シートユニット1の養生シート2は、ベース材3よりもやや小さい形状であったが、図5に示すように、養生シート12がベース材3と同じ大きさの表面積を有する養生シートユニット11を用いてもよい。なお、養生シート12の材料や厚み等は養生シート2と同様である。この変形例に係る養生シートユニット11では、養生シート12の各縁部(矩形形状の4辺に沿った縁)がベース材3の対応する各縁部(矩形形状の4辺に沿った縁)と一致する(揃う)ように、養生シート12がベース材3の面3b上に位置しており、また両面粘着テープ4a,4bが縁部12a,12b(4辺の縁部)上に配置されている。養生シートユニット11では、養生シート12はベース材3に粘着剤を介して仮留めされていてもよいし、粘着剤なしで仮留めされてもよい。このような養生シートユニット11を用いても、上述したコンクリート構造物の構築方法を実施することが可能である。
また、上述したコンクリート構造物の構築方法では、養生シート2,12として特に限定していないが、養生シート2,12のコンクリート側の接触面の水との接触角が50度以上であるものを採用することが好ましい。具体的には、養生シート2,12の接触面の水との接触角θが69度以上であることが好ましく、接触角θが80度以上であることが更に好ましく、接触角θが90度以上であることがより一層好ましい。ここで、「接触角θ」とは、図6の(a)に示されるように、液滴の接線と固体表面(養生シート20の表面)とのなす角度であり、以下の式(1)で示される。
γ
S:固体の表面張力
γ
L:液体の表面張力
γ
SL:固体と液体の界面張力
そして、「接触角θ」は、例えば、θ/2法で測定することができる。具体的には、図6の(b)に示されるように、液滴の半径rと高さhを求める。そして、以下の式(2)、式(3)から、接触角θを求めることができる。
通常、セメントの当初の硬化に必要な量以上の余剰な水がコンクリートに含まれていると、打設後にコンクリートが硬化する際、ブリージング水が発生することがある。上述のように、水との接触角が50度以上の養生シート2,12を打設時に用いることにより、ブリージング水が発生することを効果的に抑制することができる。このようにブリージング水の発生が抑制されるのは、コンクリートの表面を覆っている養生シート2,12のシート面(接触面)の接触角(濡れ角とも言う)が大きいと、コンクリート内に含まれていてその表面から外に出ようとする水や当該水中に存在する空気がシート接触面においてコンクリート内部に押し戻される作用が働き、その結果、水及びその内部の空気がコンクリート内に残存したまま硬化が進むためと考えられる。そして、この養生シート2,12によれば、このようにしてブリージング水の発生が抑制されるため、脱型後の水和反応に必要な水をコンクリートが含有していることになり、コンクリート養生の際に外部から養生水を供給することなく又は養生水をそれほど用いることなく、所定の圧縮強度や耐久性などの品質を発現できるコンクリート構造物を製造することができる。
また、養生シート2,12は、シートの水蒸気透過性の小さいものを用いることが好ましく、シートの水蒸気透過性が10g/m2・24h以下であることが好ましく、シートの水蒸気透過性が5g/m2・24h以下であることがより一層好ましい。また、養生シート2,12は、シートの二酸化炭素透過性の小さいものを用いることが好ましく、シートの二酸化炭素透過性が10万cc/m2・24h・atm以下であることが好ましく、シートの二酸化炭素透過性が5万cc/m2・24h・atm以下であることがより一層好ましい。素材の表面を各種表面加工技術によって加工することで、水蒸気透過性又は二酸化炭素透過性を小さくしたシートを作製することができる。
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
まず、実施例1として、図2の(a)に示す構成の養生シートユニット1を作製した。この養生シートユニット1の大きさは、評価1用として1800mm×900mmであり、評価2及び評価3用として、450mm×450mmであった。養生シート2は、ポリプロピレンからなる樹脂シートであった。また、ベース材3は、ユポ紙(登録商標)のTPRA90(株式会社ユポ・コーポレーションの商品名)を用いた。養生シート2は、ベース材3に対して両面粘着テープによってその縁部の全周が取り付けられていた。また、養生シート2は、略全面に広がるアクリル系粘着剤によってベース材3に貼り付けられていた。
実施例2として、ベース材3をホイル紙であるホイルSM(王子タック株式会社の商品名)に代えた点以外は実施例1と同様の構成の養生シートユニット1を作製した。
実施例3として、ベース材3を耐水紙であるLB400(日本製紙株式会社の商品名)に代えた点以外は実施例1と同様の構成の養生シートユニット1を作製した。
実施例4として、ベース材3を耐水紙である新TSUアイボリー(日本製紙株式会社の商品名)に代えた点以外は実施例1と同様の構成の養生シートユニット1を作製した。
一方、比較例1として、ベース材3を含まず、養生シート2のみからなる養生シートユニットを準備した。
また、比較例2として、ベース材3を発泡ポリ板(積水成型工業株式会社のエフトロンSK-200 1.0mm)に代えた以外は実施例1と同様の構成の養生シートユニットを作製した。
そして、評価1として、実施例1~4及び比較例1,2に係る養生シートユニットを図2の(c)に示すように、木製の型枠7に貼り付けて、屋外にて6日間、直射日光に暴露した。評価1では、養生シート2でのシワの発生の有無について評価した。「A」は、シワの発生がまったくなかった場合を示し、「B」は、シワの発生が少しはあったものの実用上、問題ないレベルであった場合を示し、「C」は、シワが発生し、問題となるレベルであった場合を示す。
また、評価2として、上述した構成と同様の450mm×450mmの養生シートユニット1を450×450×450mmの内容積を構成する各型枠の内側に貼り付け、内部にコンクリートを打設した。コンクリートの硬化後、型枠を取り外し、養生シート2の残置性を評価した。「A」は、養生シート2がコンクリートの表面に完全に残置された場合を示し、「B」は、養生シート2がコンクリートにほぼ残置され一部残置されない部分があったものの実用上、問題ないレベルであった場合を示し、「C」は、養生シートがコンクリートの表面に残置せず剥がれてしまった場合を示す。
また、評価3では、評価2での型枠の取り外しの際、ベース材3の破れ等が発生したか否かについて評価した。「A」は、ベース材3に破れ等が発生せず型枠7に綺麗に接着していた場合を示し、「B」は、ベース材3に破れ等が発生したものの型枠7に接着していた場合を示し、「C」は、ベース材3に破れ等が発生し、ベース材3の一部又は全部が養生シート2の表面に残ってしまった場合を示す。
以下に実施例1~4及び比較例1,2に係る養生シートユニットの評価1~評価3の結果を示す。
上述した表1に示すように、ベース材として紙又は合成紙を用いた場合、養生シートへのシワの発生(評価1)を効果的に抑えることができることが確認された。図7の(a)に実施例1の評価1でシワ発生が抑制された例の写真を示す。また、図7の(b)に比較例1の評価1でシワが発生してしまった例の写真を示す。また、養生シートの残置性(評価2)やベース材の破れ等(評価3)についても概ね良好な評価となることが確認できた。
次に、養生シート2とベース材3との粘着力と、養生シート2のコンクリートへの残置性について、以下の評価4を行った。具体的には、実施例11として、ユポ紙のKRK80(株式会社ユポ・コーポレーションの商品名)をベース材3とし、養生シート2との間に水を付与して、所定の熱履歴を与えた後、両者の粘着力を測定した。実施例11のベース材3の水に対する表面張力を示す接触角は63°であった。型枠7を脱型した際、養生シート2がコンクリートに残置されるための粘着力の基準として150gを設定した。この150gは、脱型時のコンクリートの圧縮強度が5N/mm2のときに残置可能と考えられる粘着力であり、通常行われる施工条件より厳しめの条件であり、これを超えた場合であっても、通常の施工であれば特に問題はないが、より好適な条件を出す為に設定した値である。
実施例12として、ベース材3をユポ紙のFPG80(株式会社ユポ・コーポレーションの商品名)に代えてそれ以外は実施例11と同様にして両者の粘着力を測定した。実施例12のベース材3の水に対する表面張力を示す接触角は88°であった。
実施例13として、ベース材3をユポ紙のTPRA90(株式会社ユポ・コーポレーションの商品名)に代えてそれ以外は実施例11と同様にして両者の粘着力を測定した。実施例13のベース材3の水に対する表面張力を示す接触角は90°であった。
実施例14として、ベース材3をユポ紙のNユポ80(王子タック株式会社の商品名)に代えてそれ以外は実施例11と同様にして両者の粘着力を測定した。実施例13のベース材3の水に対する表面張力を示す接触角は113°であった。
以下の表2に、実施例11~14に係る養生シートユニットの粘着力及び残置性の評価の結果を示す。
なお、上記の熱履歴では、1)20℃一定の環境に3日間保持したものと、2)40℃への昇温と20℃への降温を1サイクルとして、当該サイクルを3回繰り返したものと、3)40℃への昇温と20℃への降温を1サイクルとして、当該サイクルを6回繰り返したもののそれぞれにおいて、養生シート2とベース材3との粘着力を測定した。また、評価4(残置性)では、450mm角の試験体に対して材齢1日で残置可能と考えられる粘着力のものを「A」とし、材齢3日ないし4日で残置可能と考えられるものを「B」とし、このままでは残置困難と考えられるものを「C」とした。表2から明らかなように、実施例11~13では、養生シート2のベース材3への粘着力がそれほど高くならず、養生シート2のコンクリートへの残置性が高いものと考えられた。一方、実施例14は、養生シート2のベース材3への粘着力が基準値よりも高かったが、熱履歴等を抑えることにより粘着力を低くしたり、または型枠脱型の際に養生シートがコンクリートに残置されるように補助したりすること(例えば両面粘着テープの粘着力をあげること等)で、使用は十分に可能と考えられる。
このように、本発明に係るコンクリート構造物の構築方法の一例では、ベース材3は非吸水性を有し、当該ベース材3の面3bの水に対する接触角が100°以下であることが養生シートの残置性の観点では好ましい。この場合、ベース材3と養生シート2との貼り付き度合いを弱めにすることができ、型枠7を脱型した際、養生シート2をスムーズにコンクリート表面に残置させやすくなる。