本発明における好適な実施の形態について、添付図面を参照して説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を限定するものではない。また、以下に説明される構成の全てが、本発明の必須要件であるとは限らない。
図1~図15は本発明の実施例1を示す。図1及び図2に示すように、防護構造1は、複数の防護柵2,2Aを有し、傾斜地である山間地の道路や線路等の山側の斜面Sに設けられるものであって、土砂崩れ,落石,雪崩等を防止するために危険箇所に沿って設置される。
前記防護構造1は、山側の設置面(設置場所)たる斜面Sに前後方向に間隔を置いて前記防護柵2,2Aが設けられている。また、防護柵2,2Aは、例えば5本の支柱3,3,3,3,3と、各支柱3,3,3,3,3間に連続して設けられた防護面4を備える。それら5本の支柱3,3,3,3,3は、左右方向に均等な間隔を置いて立設されている。尚、一段目と二段目の防護柵2,2Aの支柱3の左右位置は同じである。そして、山側(前側)の防護柵が一段目の防護柵2であり、反山側(後側)の防護柵が二段目の防護柵2Aである。尚、支柱3は鋼製であって円筒状の中空な鋼管などからなる。
前記防護柵2,2Aの両端に設けた前記支柱3が、端末の支柱であり、これら端末の支柱3,3の間に設けた支柱3が、中間の支柱であり、端末の支柱3と中間の支柱3は同一構成をなす。
前記防護面4は、複数の網目を有する合成樹脂製網体5を備え、この網体5は可撓性を有し、図4に示すように、網体5の周囲に合成樹脂製の上縁,下縁ロープ材6U,6S及び左縁,右縁ロープ材6L,6Rが設けられている。前記網体5は、例えば合成樹脂からなる貫通型無結筋網であり、合成樹脂製の繊維糸を複数撚り合わせて線材を形成し、これら線材は交差方向をなし、交差部により無結筋により相互に固定されている。また、縁ロープ材6U,6S,6L,6Rも合成樹脂製のものが用いられる。尚、網体5に用いるもの以外のロープ材は、鋼製のワイヤーロープなどを用いることができる。
前記防護面4の上部には、左右方向の上横ロープ材7が配置され、前記防護面4の下部には、左右方向の下横ロープ材8が配置される。
前記支柱3は、斜面Sに設けた鋼製の支柱取付部材11に前後方向傾動可能に取り付けられている。図7などに示すように、前記支柱取付部材11は、斜面Sに固定する板状のベース部12を備え、このベース部12は略方形で前後方向に長く形成されている。尚、支柱取付部材11は支柱構造の一部を構成し、この例の支柱構造は、支柱3と支柱取付部材11を備える。
また、図1などに示すように、前記支柱3の前方である山側の斜面Sには、支柱3,3間の位置に前側アンカー13を設置すると共に、両端の支柱3,3の左右外側で、支柱3,3間の距離の約2分の1の位置に両端の前側アンカー13A,13Aを設置する。前記アンカー13A,13,13,13,13,13A及び一段目の防護柵2の支柱3,3,3,3,3の支柱取付部材11,11,11,11,11間には、連続した前側の吊ロープ材14を上下交互にジグザクに架け渡している。尚、前側アンカー13,13A及び以下に説明するアンカーは、アンカーロッドを斜面Sにグラウト材などの凝固材により固定したものが例示される。
また、前記アンカー13A,13,13,13,13,13A及び二段目の防護柵2Aの支柱3,3,3,3,3の支柱取付部材11,11,11,11,11間には、連続した後側の吊ロープ材14Aを上下交互にジグザクに架け渡し、それら吊ロープ材14,14Aの端部を斜面Sに固定している。
このため前記ベース部12には、図6,図7及び図9などに示すように、その前側で左右方向中央にロープ材連結部16を設けている。このロープ材連結部16は、縦板状をなし、その前側に左右方向の透孔16Tを設け、この透孔16Tに、回転連結具たるシャックル17のシャックル軸19が挿通され、前記ロープ材連結部16に連結した前記シャックル17に、前記吊ロープ材14,14Aの途中が挿通状態で連結される。
尚、図11などに示すように、シャックル17は、略U字形のシャックル本体18の端部に前記シャックル軸19が着脱可能に連結される。
また、図6及び図7などに示すように、前記ロープ材連結部16の後側には、前記下横ロープ材8を挿通する透孔20が左右方向に設けられている。この場合、下横ロープ材8を斜面Sに近い位置に配置するため、前記透孔20はロープ材連結部16の下縁が開口した切欠き孔状に形成されている。
また、図9などに示すように、前記ベース部12の前側左右には、上下方向に開口した平面略U字形の挿通部21,21が設けられ、この挿通部21に固定手段たるアンカーピン22が挿通される。このアンカーピン22は、下端が先鋭に形成され、上端にフック状の係止部22Kが設けられ、係止部22Kを部材に係止して固定する打込み固定手段である。尚、アンカーピン22の長さは支柱3の高さより短いから、斜面Sの上方にスペースのない現場でもアンカーピン22の施工を容易に行うことができる。そして、後述するように、アンカーピン22は、支柱取付部材11を斜面Sに固定する固定手段であり、また、ロープ材8,6Sを同時に斜面Sに固定する固定手段である。
さらに、図7などに示すように、前記ベース部12の後側(反山側)で左右方向中央には、支柱連結部23を設け、この支柱連結部23は、縦板状をなす一対の連結受け部24,24を、左右に間隔を置いて配置すると共に、一対の連結受け部24,24に左右方向の連結孔24T,24Tを穿設し、これら連結孔24T,24Tに、支柱3の下部を連結する連結軸25が取り付けられる。また、前記連結受け部24の上側縁24Fは前記連結軸25を中心とした円弧状に形成されている。尚、前記ロープ材連結部16の上縁16Fは前記ベース部12の下面と平行であり、それら連結受け部24と連結受け部24の高さは同一である。また、前記連結軸25として、ボルトなどが例示される。
図6及び図7などに示すように、前記支柱3の上下には平面方形の上板31,下板32を固定し、その上板31の下面と支柱3の外面との間で前後左右にリブ33を設けると共に、その下板32の上面と支柱3の外面との間で前後左右にリブ33を設けている。また、上板31の前側のリブ33には、前記上横ロープ材7を挿通する左右方向の挿通部34が形成されている。
図7(A)などに示すように、前記下板32の下面で左右方向中央には、縦板状の支柱脚部36を設け、この支柱脚部36の下縁36Sは支柱3と直交し、後側に前記連結孔24Tに対応する支柱3側の連結孔36Tを設け、また、支柱脚部36の後下側縁36Uは前記連結軸25を中心とした円弧状に形成され、支柱3の傾動を可能としている。尚、前記支柱3側の連結孔36Tは、支柱3の鋼管部分に対して、後側に位置する。
従って、前記ベース部12の一対の連結受け部24,24の間に、支柱脚部36を挿入し、ベース部側連結孔24T,支柱側連結孔36T及びベース部側連結孔24Tにボルトなどの連結軸25を挿通し、その連結軸25の先端にナット25Aを螺合することにより、ベース部12に支柱3を前後方向傾動可能に取り付けることができる。
また、支柱脚部36の下縁36Sがベース部12の上面に当接することにより、ベース部12の下面に対して支柱3が垂直に立設され、前側への傾動が防止される。このように前記ベース部12と前記支柱脚部36により、前記支柱3の前側への傾動を規制する前側傾動規制部を構成している。
前記上板31の上面で左右方向中央には、縦板状の上方吊ロープ材連結部38を設け、この上方吊ロープ材連結部38には、上方吊ロープ材39を連結する透孔38Tが穿設されている。
尚、防護面4の高さは、支柱3を立設した状態で斜面Sと上横ロープ材7の間隔である。また、防護面4の高さが支柱3の有効高さhである(図5)。
図5及び図12に示すように、前記前側アンカー13はアンカーロッドの下部が斜面Sに埋設固定され、その上部にロープ連結部たる筒部41を外装し、この筒部41の上に、透孔42Tを有する支圧板42を配置し、前記前側アンカー13の上部に螺合した定着具たるナット43により、筒部41を前側アンカー13の上部に回動可能に取り付け、その筒部41の外周に取付片44を一体に設け、この取付片44の透孔44Tに、連結具たるシャックル17のシャックル軸19を連結する。
これによりシャックル17は、シャックル軸19を中心に上下揺動可能で、回動可能な筒部41により水平回動可能に前側アンカー13に接続される。尚、筒部41を回動してシャックル本体18の向きを調整した後、ナット43を締め付けて固定する。また、ナット43の下部には、曲面状の圧接凸部43Aが設けられ、この圧接凸部43Aが前記透孔44Tに圧接する。
そして、図1などに示すように、前記吊ロープ材14,14Aを、前側アンカー13A,13,13,13,13,13Aと各段の防護柵2,2Aの支柱3,3,3,3,3とに連結して上下交互にジグザクに架け渡し、その吊ロープ材14,14Aの両端部114,114Aを前記両端の前側アンカー13A,13Aに連結して固定している。
具体的には、吊ロープ材14,14Aの途中を、左右方向一方側から前側アンカー13,13,13,13のシャックル17に挿通すると共に、ベース部12,12,12,12,12のシャックル17に挿通する。
この場合、取付前のシャックル本体18に吊ロープ材14,14Aの途中を掛装した後、そのシャックル本体18をシャックル軸19により前側アンカー13,13A側及び支柱3側に連結してもよい。尚、シャックル17は、前側アンカー13,13Aと吊ロープ材14,14Aを連結する連結手段である。また、シャックル17は、支柱取付部材11と吊ロープ材14,14Aを連結する連結手段である。
また、吊ロープ材14,14Aの端部114,114Aと端部の前側アンカー13A,13Aのシャックル17,17とを前記巻付グリップ46により連結する。
前記巻付グリップ46は、図13に示すように、複数素線よりなるワイヤーの中間部分にループ部46Aを形成し、このループ部46Aに連なる両方の脚部46B,46Bに所定のピッチで撚りを与えたものであり、使用にあたっては、ループ部46Aをターンバックル45の他端の輪部に挿通し、脚部46B,46Bを吊ロープ材14,14Aの端部114,114Aの撚りに沿って順次巻き付けることにより連結される。
このようにして吊ロープ材14,14Aを張設した後、各支柱3の上部に前記上方吊ロープ材39を連結する。具体的には、上方吊ロープ材39の途中をシャックル17Aにより前記透孔38Tに連結し、図3に示すように、その上方吊ロープ材39の左右端部39T,39T側を、連結した支柱3の前方左右の前側アンカー13,13に向けて平面V字状に配置し、前記吊ロープ材14,14Aに重ね合わせると共に、該吊ロープ材14,14Aと端部39T,39Tとの重ね合わせ部分を緩衝具たる複数のワイヤクリップ47により連結する。尚、前記シャックル17Aが支柱3に上方吊ロープ材39の途中を連結する上方吊ロープ材連結手段である。
尚、図14に示すように、前記ワイヤクリップ47は、Uボルト48と、このUボルト48を挿通する本体49とからなり、Uボルト48と本体49との間に前記吊ロープ材14,14Aと上方吊ロープ材39とを挟着するものである。
この場合、崩壊土砂Dなどにより防護面4を介して支柱3に所定以上の力が加わると、前記吊ロープ材14,14Aに対して前記上方吊ロープ材39が反山側に摺動して支柱3が傾動可能なように前記ワイヤクリップ47の締付力が設定されている。尚、この締付力はUボルト48の締付力や使用するワイヤクリップ47の数などにより設定することができる。このように複数のワイヤクリップ47により、所定以上の引張力を受けると、吊ロープ材14,14Aに対して上方吊ロープ材39が摩擦摺動して衝撃力を吸収する緩衝具を構成している。
前記上横ロープ材7の左右端部7T,7Tは、左右端末の支柱3,3の上部から斜め下向きに配置され、ターンバックル45により、斜面Sの控えアンカー51に連結されている。また、前記下横ロープ材8の左右端部8T,8Tは、ターンバックル45により、斜面Sの控えアンカー52に連結されている。また、図1に示すように、上横ロープ材7及び下横ロープ材8は左右方向に一直線上に配置されている。尚、上述したように下横ロープ材8は上横ロープ材7より前側に位置し、図2に示すように、控えアンカー52も控えアンカー51より前側に位置する。
前記網体5の上下寸法Hは、前記上,下横ロープ材7,8の間隔Kより広く、前記上下寸法Hは前記間隔Kの2倍以上、好ましくは3倍以上、5倍以下である。尚、この例では網体5の上下寸法Hは2.3mで、防護面4の高さは0.5~0.8m程度である。また、前記間隔Kは、挿通部34に挿通した上横ロープ材7と斜面Sに沿わせて固定した下横ロープ材8の間隔である。
前記網体5の前記上,下横ロープ材7,8への取付には、網体取付部材が用いられる。この網体取付手段としては、シャックル17Bや結合コイル(図示せず)が例示され、この例ではシャックル17Bを用いている。そして、複数の網体5,5の隣り合う左,右縁ロープ材6L,6R同士に、接続用ロープ(図示せず)を巻き付けて連結し、防護面4の長さに対応して複数の網体5,5を一体化する。このように各防護柵2,2Aの長さに対応して、一体化して連続した網体5,5を用いる。
複数の網体5,5を一体化した後、中間の支柱3の後側から網体5,5を上,下横ロープ材7,8に取り付ける。具体的には、図8に示すように、支柱3の後側から上横ロープ材7に上縁ロープ材6Uを複数のシャックル17Bにより連結している。尚、上縁ロープ材6Uは左右及び後側のリブ33,33,33の真下で支柱3の外周面に接するように配置されており、支柱3の位置では、上横ロープ材7より上縁ロープ材6Uは僅かに低い位置に配置される。また、図9に示すように、支柱3の後側から下横ロープ材8に下縁ロープ材6Sを複数のシャックル17Bにより連結する。さらに、支柱3,3間に複数のアンカーピン22を略等間隔で配置し、図10に示すように、それら下縁ロープ材6Sと下横ロープ材8とを同時にアンカーピン22により斜面Sに固定する。この場合、支柱3箇所において、網体5の下部側を斜面Sとベース部12の間に挟み込む。そして、この例では、網体5は、上縁,下縁ロープ材6U,6S以外は、上,下横ロープ材7,8や支柱3などの他の部材に連結していない。
このように中間の支柱3の後側から上,下横ロープ材7,8に上,下縁ロープ材6U,6Sを連結し、前記網体5の上下寸法Hは、前記上,下横ロープ材7,8の間隔Kより大きいため、図6などに示すように、防護柵2,2Aには中間の支柱3の後方に、網体5の上下方向の余長部5Yが形成される。尚、余長部5Yは、端末の支柱3,3間の全長に設けられる。また、図1及び図2では、他の部材の理解を容易にするため、余長部5Yは記載していない。
尚、図1に示すように、端末の支柱3,3の左右外側で近接した位置において、防護面4の端末の網体5の上,下縁ロープ材6U,6Sが、上の挿通部34,下の透孔20を挿通した上,下横ロープ材7,8の端部7T,8Tにシャックル17Bにより連結されており、一方、防護面4の端末の網体5の上下方向の左,右縁ロープ材6L,6Rは、端末の支柱3,3や他の部材に連結されておらず、防護面4の端末の網体5の左,右縁ロープ材6L,6Rと端末の支柱3との間には、網体のない左右方向の開口部5K,5Kが形成されている。
従って、防護面4により捕捉した崩壊土砂Dの衝撃力を緩和した後、該崩壊土砂Dの一部を、左右の開口部5K,5Kから左右外側に排出することを可能とし、防護柵2,2Aに過大な荷重が加わることを防止できる。
支柱3,3間に複数のシャックル17Bを略等間隔で配置し、また、支柱3の左右に近接してシャックル17B,17Bを配置する。尚、図1に示すように、端末の支柱3は、支柱3の左右方向外側に近接してシャックル17Bが配置される。
次に、防護構造1の施工手順について、支柱3と網体5を主に説明する。ベース部12を斜面Sの所定位置に固定用補助アンカーたるアンカーピン22で仮固定する。この仮固定の際は、アンカーピン22の上部側を地上に残して部分的に斜面Sに打ち込むから、位置調整などをする場合は、アンカーピン22を抜いて再度位置合わせなどを行うことができる。
仮固定の後、ベース部12の透孔20に下横ロープ材8を挿通し、網体5の下部をベース部12と斜面Sの間に挟み込み、下横ロープ材8と下縁ロープ材6Sをシャックル17B等で連結固定した後、ベース部12のアンカーピン22を完全に斜面Sに固定する。この例では、1枚の網体5の左右幅は、隣り合う支柱3,3の間隔の2倍であり、前記接続用ロープにより接続された網体5,5の隣り合う左,右縁ロープ材6L,6Rの下側を、前記ベース部12と斜面Sとの間に挟む。
そして、この例では、図1などに示すように、支柱3を奇数本立設し、網体5の幅が隣接する支柱3,3の間隔の2倍であるから、中央の支柱3において、隣り合う左,右縁ロープ材6L,6Rの下側が、前記ベース部12と斜面Sとの間に挟まれ,両端の支柱3,3を含む全ての支柱3において、下縁ロープ材6Uを含む網体5の下部が、前記ベース部12と斜面Sとの間に挟まれる。
下横ロープ材8の両端を控えアンカー52,52に連結した後、下横ロープ材8と下縁ロープ材6Sをシャックル17B等で固定する。また、支柱3を連結軸25でベース部12に連結し、上横ロープ材7を透孔38Tに挿通し、上横ロープ材7の両端を控えアンカー51,51に連結した後、上横ロープ材7に上縁ロープ材6Uをシャックル17B等で固定する。
ベース部12をアンカーピン22により斜面Sに本固定した後、吊ロープ材14,14Aを前側アンカー13と支柱3との間に配置し、図5に示すように、シャックル17Aにより上方吊ロープ材39の途中を支柱3の上端に連結すると共に、ワイヤクリップ47により上方吊ロープ材39の左右端部39T,39T側を吊ロープ材14,14Aに連結する。
二段目の防護柵2Aに連結する吊ロープ材14Aは、斜面Sに沿って一段目の防護柵2の網体5の下を通すから、一段目の防護柵2の網体5及び下横ロープ材8を張設する前に、二段目の防護柵2Aと前側アンカー13とを連結することが好ましい。
また、斜面Sにおいて発生が予想される崩壊土砂Dの移動高さに対して、一段目の防護柵2の防護面4の高さと二段目の防護柵2Aの防護面4の高さは等しく、前記防護面4の高さは前記移動高さより低く、該移動高さの0.5~0.8倍程度である。
上記のような防護構造1においては、斜面Sに土砂崩壊が発生すると、一段目の防護柵2において、支柱3の高さより上下寸法Hが大きな網体5により崩壊土砂Dの衝撃力を減衰すると共に、支柱3の高さに対して、多量の崩壊土砂Dを捕捉することができる。この場合、支柱3の後側から網体5の上側及び下側を上横ロープ材7及び下横ロープ材8に連結し、支柱3の後方においても網体5を上下方向において撓ませた構造であるから、全体として衝撃力の減衰効果に優れたものとなる。
また、一段目の防護柵2を越えた崩壊土砂Dは、同様に、二段目の防護柵2Aに捕捉されると共に、衝撃力が減衰され、このように多段に設けた防護柵2,2Aによる土砂減衰効果により、網体5に加わる崩壊土砂Dの衝撃力を緩和することができる。
そして、従来は、崩壊土砂Dを全て捕捉させるため、崩壊土砂Dの移動高さより柵高(防護面4の高さ)を大きくしていたが、本実施例ではあくまで崩壊土砂Dの衝撃力を減衰させることが目的のため、支柱3の高さは土砂移動高さの一般値(1m)より低くして、崩壊土砂Dがある程度は防護柵2,2Aから漏れ出すことを許容している。このため支柱3の前記有効高さhは最大でも0.8m程度(最大で7~8割程度の減衰効果を目標)とすることが好ましい。
また、支柱3の下部をヒンジ軸たる連結軸25によるヒンジ構造としたから、網体5内へ崩壊土砂Dが侵入し、上,下横ロープ材7,8に反力が作用した際に、上,下横ロープ材7,8を支柱3に設置すると支柱3の傾動が抑制されるため、下横ロープ材8は支柱3より山側のベース部12の前側の透孔20に挿通することで、連結軸25を中心とした支柱3の回転機能を有効に作動することができる。
加えて、網体5の下部をベース部12で斜面S間に挟み込み、下横ロープ材8に網体5の下縁ロープ材6Sを連結し、ベース部12を前方に延設して前後方向の幅を大きくしたから、ベース部12による網体5の挟み込み量が多くなり、網体5の下端からの崩壊土砂Dの漏れ出し防止効果が向上することができる。さらに、下縁ロープ材6Sと下横ロープ材8とをアンカーピン22により斜面Sに固定したから、網体5の下端からの崩壊土砂Dの漏れを防止できる。
このように本実施例では、請求項1に対応して、左右方向に間隔を置いて設置面たる斜面Sに複数の支柱3,3を立設し、これら支柱3,3の間に防護面4を設けた防護柵2,2Aを前後方向に間隔を置いて配置し、前側の防護柵2の前方の斜面Sに複数個の前側アンカー13,13Aを配置し、前側アンカー13,13Aと前側の防護柵2の支柱3側たる支柱取付部材11との間に連続した前側の吊ロープ材14を前後交互に架け渡し、前側アンカー13,13Aと後側の防護柵2Aの支柱3側たる支柱取付部材11との間に連続した後側の吊ロープ材14Aを前後交互に架け渡したから、前側と後側の防護柵2,2Aを共通する前側アンカー13,13Aに連結したため、アンカー工事の制約のある現場でも使用することができ、前側と後側で多段に設けた防護柵2,2Aにより崩壊土砂Dなどの衝撃力を減衰することができる。
また、このように本実施例では、請求項2に対応して、設置面たる斜面Sに支柱取付部材11を設け、この支柱取付部材11に支柱3を取り付け、支柱取付部材11に吊ロープ材14,14Aを架け渡し、上方吊ロープ材39を支柱3に連結すると共に、上方吊ロープ材39の端部39T側を吊ロープ材14,14Aに連結したから、斜面Sに設けた支柱取付部材11に、吊ロープ材14,14Aと架け渡すため、前側アンカー13,13Aと後側の防護柵2Aの支柱取付部材11とに掛け渡す吊ロープ材14Aを、前側の防護柵2の網体5の下部と斜面Sとの間を通して配置することができる。また、支柱3に上方吊ロープ材39を連結し、上方吊ロープ材39を吊ロープ材14,14Aに連結することにより、支柱3を後側に倒そうとする力に対抗できる。
また、このように本実施例では、請求項3に対応して、支柱取付部材11に支柱3を前後傾動可能に取り付け、支柱取付部材11には支柱3の位置より前方に吊ロープ材14,14Aを架け渡し、上方吊ロープ材39の途中を支柱3の上部に連結し、上方吊ロープ材39の左右端部39T,39Tを前方左右の前側アンカー13,13Aに向けて配置し、上方吊ロープ材39の左右端部39T,39Tと吊ロープ材14,14Aとを、所定以上の張力が作用したとき該上方吊ロープ材39の摩擦摺動を許容する緩衝具たるワイヤクリップ47により把持したから、崩壊土砂Dなどの衝撃力を受けると、支柱3が後方に傾動すると共に、吊ロープ材14,14Aに対して上方吊ロープ材39が摩擦摺動して衝撃力を吸収する。また、吊ロープ材14,14Aを、傾動可能な支柱3の下部ではなく、支柱取付部材11に連結したから、支柱3の傾動を吊ロープ材14,14Aが妨げることがない。
また、このように本実施例では、請求項4に対応して、防護面4は網体5を有し、網体5の下部を設置面たる斜面Sと支柱取付部材11とにより面で挟んだから、防護面4の下部と斜面Sの間からの土砂の漏れ出を防止することができる。
また、このように本実施例では、請求項5に対応して、支柱3,3の上部間に上横ロープ材7を設けると共に、支柱取付部材11,11間に下横ロープ材8を設け、防護面4は網体5を有し、上横ロープ材7に網体5の上縁側たる上縁ロープ材6Uを連結すると共に、下横ロープ材8に網体5の下縁側たる下縁ロープ材6Sを連結し、網体5の上下寸法Hが前記上,下横ロープ材7,8の間隔Kより大きいと共に、網体5は中間の支柱3の後方に該網体上下方向の余長部5Yを有するから、中間の支柱3に網体5を連結する必要がなく、中間の支柱3の後方に網体5の余長部5Yを有することにより、網体5による衝撃力の減衰効果が向上すると共に、支柱3の高さに対して捕捉する崩壊土砂Dの量を多く確保することができる。
以下、実施例上の効果として、アンカーピン22により支柱取付部材11を仮固定及び本固定するから、大型機械が不要で、施工が容易となる。また、アンカーピン22によりロープ材8,6Sを簡便に斜面Sに固定することができる。
また、網体5は上,下縁ロープ材6U,6Sを含めて合成樹脂製であるから、上,下横ロープ材7,8への連結作業が容易となる。
また、前記ベース部12と前記支柱脚部36により、前記支柱3の前側への傾動を規制する前側傾動規制部を構成したから、支柱3とその後方の斜面Sとの間に設ける控ロープ材が不要となる。
また、支柱3に対して筒部41を回動可能に構成したから、吊ロープ材14,14Aに張力が発生した場合、支柱3への荷重を軽減し、支柱3の変形を少なくできる。
さらに、吊ロープ材14,14A全体を所定の張力で張る必要はなく、吊ロープ材14,14Aに緩みが発生していてもよく、ベース部12と斜面Sのアンカーピン22での保持力と、上,下横ロープ材7,8と控えアンカー51,51との連結による斜面Sとの保持力で支柱3を安定させ、吊ロープ材14,14に上方吊ロープ材39を連結することもできる。
また、左右方向に間隔を置いて設置面たる斜面Sに複数の支柱3,3を立設し、これら支柱3,3の間に防護面4を設けた防護柵において、支柱3の上部間に上横ロープ材7を設けると共に、支柱3の下部間に下横ロープ材8を設け、防護面4は網体5を有し、上横ロープ材7に網体5の上縁側たる上縁ロープ材6Uを連結すると共に、下横ロープ材8に網体5の下縁側たる下縁ロープ材6Sを連結し、網体5の上下寸法Hが前記上,下横ロープ材7,8の間隔Kより大きいと共に、網体5は中間の支柱3の後方に該網体5の上下方向の余長部5Yを有するから、上横ロープ材7に網体5の上縁ロープ材6Uを連結すると共に、下横ロープ材8に網体5の下縁ロープ材6Sを連結することにより、中間の支柱3に網体5を連結する必要がなく、中間の支柱3の後方に網体5の余長部5Yを有することにより、網体5による衝撃力の減衰効果が向上すると共に、支柱3の高さに対して捕捉する崩壊土砂Dの量を多く確保することができる。
図17は本発明の実施例3を示し、上記各実施例と同一部分に同一符号を付し、その説明を省略して詳述する。この例の防護構造1は既設の落石防護網構造71を備え、既設の落石防護網構造71が設けられた斜面Sに、上記実施例の防護構造1を設ける例を示している。尚、新設の落石防護網構造71にも用いることができる。
前記落石防護網構造71は、設置面たる前記斜面Sに左右方向に間隔を置いて複数立設した落石防護網用支柱72と、斜面Sを覆うように設けられた落石防護網たる網体73とを備える。前記支柱72は左右方向に間隔をおいて立設され、前記網体73は網目状に配置した縦,横ロープ材と、これら縦,縦ロープ材の間を塞ぐように設けられた網たる金網74とからなる。尚、前記網体73の前記縦ロープ材は、支柱72に対応して配置されている。
前記斜面Sに岩盤用のアンカー81を固定し、このアンカー81により支柱ベース82を斜面Sに固定し、この支柱ベース82に枢軸83により支柱72の下部を回動可能に連結し、その支柱72は前後方向に傾動可能に構成されている。尚、前記支柱72は前記支柱3より高い。
前記複数の支柱72の上部に、前記網体73の上部を連結し、その支柱72位置から下方の斜面Sを覆うように前記網体73が配置されており、網体73と斜面Sの間隔は支柱72位置から後方に向かって狭まる。
前記支柱72の前方である山側の斜面Sには、隣り合う支柱72,72間の位置に前側アンカー86,86を上下に設置すると共に、両端の支柱72,72の左右外側で、支柱72,72間の距離の約2分の1の位置に両端の前側アンカー86A,86Aをロープ材75の長さ方向に設置する。
前記前側アンカー86,86同士は、長さ調整可能な連結部材87により連結されている。また、前記アンカー86A,86A同士も、前記連結部材87により連結されている。
前記前側アンカー86A,86,86・・・86A及び支柱72,72・・・72間には、連続した前記ロープ材75を上下交互にジグザクに架け渡しており、支柱72は少なくとも1か所の前側アンカー86,86Aに連結されている。
また、網体73の下部は、斜面Sに沿うように配置し、網体73と斜面Sとの隙間が小さくなるようにしている。
上記のような既設の落石防護網構造71が設置された斜面Sに、前記防護構造1を構築する際は、アンカー86と支柱72の間で、支柱72側に前記前側アンカー13,13Aを設ける。この場合、支柱72の前方の上方には網体73は無く、ロープ材75が設けられているのみであるから、アンカー81の工事の装置や作業に伴う制約が少なく済む。
また、支柱72の後方の斜面Sに防護柵2,2Aを構築し、吊ロープ材14,14Aは支柱72,72の間を通し、斜面Sに沿って配置する。そして、一段目の防護柵2の上方吊ロープ材39と吊ロープ材14,14Aとを連結するワイヤクリップ47も、支柱72の位置より後方に設けることが好ましい。
そして、支柱72の後方の斜面Sには上方に網体73が位置し、網体73を外さないと、大型機械を使用することができないが、ベース部12をアンカーピン22により固定するため、施工を容易に行うことができる。
また、両防護柵2,2Aの高さは支柱72の高さより低いと共に、この例では両防護柵2,2Aは前記網体73との間に隙間ができる高さである。尚、少なくとも、最前方である一段目の防護柵2と網体73との間には隙間が設けられ、最後方である二段目の防護柵2Aの上部は網体73と接していてもよい。
このように本実施例では、上記各実施例と同様な作用・効果を奏する。
また、このように本実施例では、請求項6に対応して、設置面たる斜面Sには、前側アンカー13,13Aと前側の防護柵2の間に、落石防護網用支柱72が立設され、落石防護網用支柱72に落石防護網たる網体73が吊設されており、この網体73と設置面たる斜面Sとの間に前側と後側の防護柵2,2Aが位置するから、前側と後側で多段に設けた防護柵2,2Aにより崩壊土砂Dなどの衝撃力を減衰し、落石防護網に加わる衝撃力を軽減することができる。
また、実施例上の効果として、好ましくは防護柵2,2Aの左右幅を、網体73の左右幅より広くすれば、崩壊土砂Dにより網体73に加わる衝撃を緩和することができ、また、控えアンカー51,52を、網体73の左右外側に設けたから、それら控えアンカー51,52の施工に網体73が邪魔にならない。さらに、落石防護網用支柱72の後方に複数段の防護柵2,2Aを設けたから、崩壊土砂Dを効果的に捕捉できる。
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明は、前記実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形実施が可能である。例えば、請求項5以外においては、網体を支柱の前側に配置してもよい。また、実施例では、吊ロープ材をシャックルにより部材に連結したが、吊ロープ材を部材に設けた透孔に挿通して部材に連結してもよい。さらに、吊ロープ材14,14Aの途中に該吊ロープ材14,14Aの端部の重ね合わせ部分を設け、この重ね合わせ部分を前記緩衝具により連結してもよい。また、両端の支柱において、上横ロープ材と左,右縁ロープ材の上端側とを連結したり、下横ロープ材と左,右縁ロープ材の下端側とを連結したりしてもよい。さらに、請求項3以外では、傾動しない固定した支柱を用いることができる。さらに、実施例では、落石防護網用支柱として傾動可能なものを示したが、固定された落石防護網用支柱を用いてもよく、また、落石防護網の材質や形状も適宜選定可能であり、落石防護網用支柱及び落石防護網は各種タイプのものを用いることができる。