JP7246840B2 - 三次元歯形を備えた波動歯車装置 - Google Patents

三次元歯形を備えた波動歯車装置 Download PDF

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Description

本発明は、カップ型あるいはシルクハット型の波動歯車装置に関する。さらに詳しくは、内歯歯車と外歯歯車とが歯筋方向の各位置においてかみ合う3次元かみ合い状態を形成可能な三次元歯形を有する波動歯車装置に関する。
カップ型あるいはシルクハット型の波動歯車装置は、剛性の内歯歯車と、この内側に同軸状に配置されたカップ形状あるいはシルクハット形状の可撓性の外歯歯車と、この内側に嵌めた波動発生器とを有している。外歯歯車は、可撓性の円筒状胴部と、この円筒状胴部の後端から半径方向に延びているダイヤフラムと、円筒状胴部の開口端の側の外周面部分に形成した外歯とを備えている。外歯歯車は波動発生器によって楕円状に撓められ、楕円の長軸方向の両端部において内歯歯車に噛み合っている。
波動歯車装置の基本歯形として、歯切り加工が容易な基準ラック歯形(インボリュート曲線歯形)が広く採用されている。インボリュート曲線歯形の利用は、特許文献1(特公昭45-41171号公報)において提案されている。
一般的に用いられている波動歯車装置は、剛性の内歯歯車と、可撓性の外歯歯車と、外歯歯車を楕円形状に撓めて内歯歯車にかみ合わせる波動発生器とを備えている。外歯歯車の各歯は、波動発生器によって繰り返し半径方向に一定の振幅で撓められて、内歯歯車に対するかみ合い状態、かみ合い離脱状態が繰り返される。内歯歯車に対する外歯歯車のかみ合いの運動軌跡は、ラック近似で示すことができる。例えば、特許文献2(国際公開第2016/006102号)の図7には、外歯歯車が内歯歯車に対して、かみ合い離脱状態から最深かみ合い状態に至るまでの移動状態(最深かみ合い状態からかみ合い離脱状態に至るまでの移動状態)が示されている。
楕円状に撓められた外歯歯車の外歯は、歯筋方向の各位置において撓み状態が異なるので、内歯歯車の内歯に対するかみ合い状態も異なる。外歯における歯筋方向の一か所の軸直角断面上において、内歯に対して連続したかみ合い状態を形成可能な外歯歯形を設定しても、歯筋方向の他の位置では適切なかみ合い状態が形成されない。
特許文献3(特開2017-44287号公報)では、内歯歯車の歯形を、歯筋方向の各位置において同一の歯形とし、外歯歯形を直線歯形とすると共に、その両側の歯面を、歯筋方向に沿って、ダイヤフラム側の端から外歯歯車の開口端の側の端に向かって歯厚が漸増するように傾斜させた傾斜面にしている。これにより、外歯と内歯のかみ合い動作において、外歯のダイヤフラム側の歯先が、内歯の歯先に干渉することを防止している。
特許文献4(国際公開第2013/046274号)では、カップ型あるいはシルクハット型の波動歯車装置において、剛性の内歯歯車の歯に対する可撓性の外歯歯車の歯の移動軌跡に基づき、内歯および外歯の基本歯形を設定している。内歯歯車の歯形を歯筋方向の各位置において同一の内歯基本歯形を採用している。また、外歯の歯形として、外歯基本歯形の歯筋方向の両側の部分に転位を施すことにより、歯筋方向において、開口端側からダイヤフラム側に向けて、歯先円直径が漸減しているテーパー型の歯形を採用している。歯筋に沿って歯形が変化している三次元歯形を採用することで、歯筋方向における一つの軸直角断面上でかみ合いが形成される二次元かみ合いの状態だけでなく、歯筋方向に沿った広い範囲において、内歯に外歯がかみ合う三次元かみ合いの状態を実現している。
特許文献5(国際公開第2019/077719号)においては、カップ型あるいはシルクハット型の波動歯車装置において、剛性の内歯歯車の内歯の歯形を、その歯筋方向の各位置において同一としている。また、可撓性の外歯歯車の外歯の歯形を次のように設定している。外歯の歯先歯厚は、歯筋方向に沿って、外歯歯車の開口端の側の外歯外端から、外歯歯車のダイヤフラムの側の外歯内端に向けて漸減している。さらに、外歯のピッチ点における圧力角は、歯筋方向に沿って、外歯外端から外歯内端に向けて漸増している。外歯の歯形を、歯筋方向に沿って変化している三次元歯形とすることで、歯筋方向における一つの軸直角断面上でかみ合いが形成される二次元かみ合いの状態だけでなく、歯筋方向に沿った広い範囲において、内歯に対して外歯がかみ合う三次元かみ合いの状態を形成している。
特公昭45-41171号公報 国際公開第2016/006102号 特開2017-44287号公報 国際公開第2013/046274号 国際公開第2019/077719号
一般に、カップ型あるいはシルクハット型の波動歯車装置においては、三次元かみ合い状態を形成するために、内歯歯車の歯形をその歯筋に沿って同一の歯形とし、外歯歯車の外歯を歯筋に沿って歯形形状を変化させた三次元歯形としている。
外歯歯車を三次元かみ合い歯形として設計する場合には次のような課題がある。歯切り盤による歯切り加工上の制約により、歯厚、圧力角、歯丈等が歯筋方向に沿って設計通りに変化する歯形を切削することが困難な場合がある。
本発明の目的は、この点に鑑みて、干渉を起こすことなく歯筋方向の全体に亘る三次元かみ合いを容易に実現でき、かつ、歯切り加工が容易な三次元歯形を、外歯および内歯の歯形形状に採用した波動歯車装置を提供することにある。
上記の課題を解決するために、本発明は、剛性の内歯歯車、カップ形状あるいはシルクハット形状をした可撓性の外歯歯車および波動発生器を備えたカップ型あるいはシルクハット型の波動歯車装置において、外歯歯車の外歯の歯筋方向の所定の位置において歯筋方向に直交する直交面で切断した場合の断面を基準断面とし、内歯歯車の内歯の歯筋方向における外歯外端に対応する側の端を内歯外端、他方の端を内歯内端とすると、外歯および内歯は、次のように、三次元歯形に設定されている。基準断面上における外歯の歯形輪郭形状は基本外歯歯形としてあり、基準断面に対応する内歯の断面位置における内歯の歯形輪郭形状は、基本外歯歯形にかみ合い可能に設定された基本内歯歯形としてある。また、内歯の歯筋方向の各位置における内歯歯形輪郭は、前記各位置における前記外歯の撓み量に応じた倍率で、基本内歯歯形を歯厚方向にのみ比例縮小して得られる比例縮小歯形である。外歯は、歯筋方向に沿ってみた場合に、外歯外端から外歯内端に向かって歯底円が漸増している歯丈が一定のテーパー歯形であり、外歯の歯筋方向の各位置における歯形輪郭は、前記各位置における前記外歯の撓み量に応じた倍率で、基本外歯歯形を歯厚方向にのみ比例拡大して得られる比例拡大歯形である。これに加えて、本発明の波動歯車装置においては、内歯における内歯外端から内歯内端に向けて歯筋方向の過半部分は、基本内歯歯形の歯先円と同一の第1歯先円を備えた第1内歯部分である。これに対して、内歯における内歯内端を含む残りの部分は、基本内歯歯形の歯先円よりも大きくなるように、比例縮小歯形の歯先部分に歯形修正が施されている。
このように、本発明の波動歯車装置の内歯の三次元歯形は、内歯外端では基本内歯歯形であり、歯筋方向の他の位置では、基本内歯歯形を横方向のみに比例縮小した縮小歯形である。外歯の三次元歯形は、外歯外端では基本外歯歯形であり、歯筋方向の他の位置では、基本外歯歯形を横方向のみに比例拡大した拡大歯形である。内歯の内歯内端の側の部分の歯先円を他の部分に比べて大きく、外歯と干渉しない。外歯と内歯が三次元かみ合いを行い、内歯内端の側において両歯が干渉せず、かつ歯切り加工が容易な外歯、内歯の三次元歯形を実現できる。
カップ型の波動歯車装置の縦断面図および端面図である。 カップ形状およびシルクハット形状の外歯歯車の撓み状態を示す説明図であり、(a)は変形前の状態を示し、(b)は楕円状に変形した外歯歯車の長軸を含む断面の状態を示し、(c)は楕円状に変形した外歯歯車の短軸を含む断面の状態を示す。 歯形の歯筋方向の任意の軸直角断面における内歯に対する外歯の移動軌跡の三例を示す説明図である。 (a)は内歯および外歯の歯筋方向の歯形形状を示す説明図であり、(b)は内歯の歯筋方向の各断面における歯形形状を示す説明図であり、(c)は外歯の歯筋方向の各断面における歯形形状を示す説明図であり、(d)は内歯の歯形修正部分を示す説明図である。 外歯に干渉しないように、内歯における内歯内端の側の部分の歯先側歯面部分に歯形修正を施した場合の歯形形状を示す説明図である。 (a)は歯切り加工前の内歯歯車のブランク材を示す説明図であり、(b)は歯切り加工後のブランク材を示す説明図である。 (a)~(f)は、歯筋方向の各断面位置における内歯に対する外歯のかみ合い状態を示す説明図である。
以下に、図面を参照して、本発明を適用した波動歯車装置を説明する。図1(a)は本発明を適用したカップ型の波動歯車装置の一例を示す縦断面図であり、図1(b)はその端面図である。
波動歯車装置1は、円環状の剛性の内歯歯車2と、その内側に同軸状に配置されたカップ形状をした可撓性の外歯歯車3と、この内側にはめ込まれた楕円状輪郭の波動発生器4とを有している。内歯歯車2と外歯歯車3は同一モジュール(m)の平歯車である。また、両歯車の歯数差は2n(nは正の整数)であり、内歯歯車2の内歯20の方が多い。外歯歯車3の外歯30は、楕円状輪郭の波動発生器4によって楕円状に撓められ、楕円状の長軸L1の方向の両端部分において内歯歯車2の内歯20にかみ合っている。波動発生器4を回転すると、両歯20、30のかみ合い位置が周方向に移動し、両歯20、30の歯数差に応じた相対回転が両歯車2、3の間に発生する。
外歯歯車3は、可撓性の円筒状胴部31と、その一端である後端31bに連続して半径方向に広がるダイヤフラム32と、ダイヤフラム32に連続している剛性の円環状のボス33とを備えている。外歯30は、円筒状胴部31の他端(前端)である開口端31aの側の外周面部分に形成されている。波動発生器4は、外歯歯車3の円筒状胴部31の外歯形成部分の内周面部分に嵌め込まれている。楕円状輪郭の波動発生器4によって、外歯歯車3の円筒状胴部31は、そのダイヤフラム側の後端31bから開口端31aに向けて、半径方向の外側あるいは内側への撓み量が漸増している。
図2はカップ形状の外歯歯車3を楕円状に撓ませた状態を示し、図2(a)は変形前の状態を示す断面図であり、図2(b)は変形後における楕円状曲線の長軸位置の断面図であり、図2(c)は変形後における楕円状曲線の短軸位置の断面図である。なお、図2(a)~(c)における破線は、シルクハット形状の外歯歯車3Aを示す。シルクハット形状の外歯歯車3Aは、円筒状胴部31の後端31bから半径方向の外方にダイヤフラム32Aが延び、その外周端に円環状のボス33Aが形成されている。外歯歯車3Aの外歯形成部分の撓み状態は、カップ形状の外歯歯車3と同様である。
図2(b)に示すように、楕円状曲線の長軸L1を含む断面では外側への撓み量が後端31bから開口端31aへの距離に比例して漸増し、図2(c)に示すように、楕円状曲線の短軸L2を含む断面では内側への撓み量が後端31bから開口端31aへの距離に比例して漸増している。開口端31a側の外周面部分に形成されている外歯30は、その歯筋方向における各軸直角断面において撓み量が変化している。すなわち、外歯30の歯筋方向におけるダイヤフラム側の外歯内端30bから開口端31a側の外歯外端30aに向けて、後端31bからの距離に比例して、半径方向への撓み量が漸増している。
図3は波動歯車装置1における内歯歯車2の内歯20に対する外歯歯車3の外歯30の移動軌跡の三例を示す図である。外歯歯車3の外歯30の歯筋方向における任意の位置の軸直角断面において、外歯30の楕円状リム中立線における長軸L1の位置では、外歯30が楕円状に撓む前のリム中立円に対する撓み量は、κを撓み係数として2κmnである。
図3のy軸の原点は移動軌跡の振幅の平均位置としてある。移動軌跡のうち無偏位移動軌跡Mは、撓み係数κ=1である偏位無しの標準の撓み状態の場合に得られるものであり、正偏位移動軌跡Mは、撓み係数κ>1である正偏位の撓み状態の場合に得られるものであり、負偏位移動軌跡Mは、撓み係数κ<1である負偏位の撓み状態の場合に得られるものである。歯筋方向の任意の位置、例えば、ウエーブベアリングのボール4aの中心を通る直径線Cの位置または開口端31aの側の外歯外端30aの位置(図2参照)における軸直角断面が、基準断面として設定される。基準断面において、撓み係数κ=1の無偏位移動軌跡が得られるように、撓み量が設定される。
(三次元歯形の例)
本例では、外歯30の歯筋方向の各位置における外歯30の半径方向への撓み量に基づき、外歯30の歯形および内歯20の歯形の双方を、それらの歯筋方向に沿って、歯形形状が徐々に変化する三次元歯形としてある。以下に、内歯20および外歯30の歯形形状の例を説明する。
図4(a)は、内歯歯車2の内歯20および外歯歯車3の外歯30のそれぞれの歯筋方向の輪郭形状を示す説明図である。図4(b)は、内歯20の歯筋方向の各断面(歯筋方向に直交する直交断面で切断した場合の断面)の位置での歯形輪郭形状を示す説明図である。図4(c)は、外歯30の歯筋方向の各断面(歯筋方向に直交する直交断面で切断した場合の断面)の位置での歯形輪郭形状を示す説明図である。図4(d)は内歯20の内歯内端の側の部分を拡大して示す説明図である。これらの図において、歯厚方向をX、歯丈方向をY、歯筋方向をZとし、内歯外端20aをZ=0の断面位置、内歯内端20bをZ=10の断面位置とする。
内歯20の歯形輪郭形状は、歯筋に沿って歯形が徐々に変化している三次元歯形である。例えば、その歯筋方向Zにおける内歯外端20aの断面位置(Z=0)において、内歯20の歯形輪郭形状は、基本内歯歯形20(0)に設定されている。内歯20の歯筋方向における他の断面の位置の歯形は、対応する外歯30の位置における撓み量に応じて設定した縮小倍率で、基本内歯歯形20(0)を横方向のみ比例縮小した比例縮小歯形となっている。
図4(b)には、Zの値が「0」の断面位置(内歯外端20a)の基本内歯歯形20(0)と、Zの値が「2.6」、「4.6」、「7」、「8.5」および「10」(内歯内端20b)の5つの断面位置における比例縮小歯形20(2.6)、20(4.6)、20(7)、20(8.5)、20(10)を、Z=0の断面上に重ねた状態で示してある。例えば、Z=0の位置が撓み係数κ=1の位置である。
内歯20の歯筋方向Zの各断面位置における比例縮小歯形の横方向、すなわち歯厚方向Xの縮小倍率は、内歯外端20aから各断面位置までの歯筋方向Zの距離にほぼ比例して減少している。内歯20は歯筋方向において歯丈が一定である。また、内歯外端20aからの歯筋方向の距離に応じて、歯厚が減少し、ピッチ点における圧力角が漸増している。例えば、内歯内端20bの断面位置(Z=10)における比例縮小歯形20(10)は、内歯外端20aの断面位置の基本内歯歯形20(0)の倍率を「1」とすると、横方向に倍率1.3で比例縮小した形状である。
外歯30の歯形も、歯筋に沿って歯形が徐々に変化している三次元歯形である。本例では、その歯筋方向Zにおける外歯外端30aの断面位置(Z=0)において、外歯30の歯形輪郭形状は、内歯20の内歯外端20aの基本内歯歯形20(0)にかみ合い可能な基本外歯歯形30(0)に設定されている。例えば、外歯30は歯丈が一定のテーパー歯形であり、外歯外端30aから外歯内端30bに向けて、歯先円が漸増している。歯先円は、歯筋方向の各位置における撓み量に応じて増加している(外歯外端30aからの距離に応じて増加している)。
外歯外端30aはZ=0の断面位置、外歯内端30bはZ=10よりも僅かに内側の断面位置である。外歯30の歯筋方向Zにおける他の断面の位置の歯形は、基本外歯歯形30(0)を横方向のみ比例拡大した比例拡大歯形となっている。図4(c)には、Zの値が「0」の断面位置(外歯外端30a)の基本外歯歯形30(0)と、Zの値が「2.6」、「4.6」、「7」、「8.5」および「10」の5つの断面位置における比例拡大歯形30(2.6)、30(4.6)、30(7)、30(8.5)、30(10)を示してある。なお、外歯30におけるZ=10の断面位置は、外歯内端30bから外れた位置(有効歯幅から外れた位置)であり、歯丈が低くなっている。想像線で示す比例拡大歯形30(10)は、実線30(10a)で示す形状になる。
外歯30の歯筋方向Zの各断面位置における比例拡大歯形の横方向、すなわち歯厚方向Xの拡大倍率は、外歯外端30aから各断面位置までの歯筋方向Zの距離にほぼ比例して増加している。したがって、外歯外端30aからの歯筋方向の距離に応じて、歯厚が増加し、ピッチ点における圧力角が増加している。例えば、外歯内端30bの断面位置における比例拡大歯形30(10)は、外歯外端30aの断面位置の基本外歯歯形30(0)を、横方向に倍率「1.3」で比例拡大した形状である。
ここで、内歯外端20aの断面位置(基準断面の位置)における基本内歯歯形20(0)、および外歯外端30aの断面位置(基準断面の位置)における基本外歯歯形30(0)は、公知の歯形設定方法によって設置できる。
内歯20の基本内歯歯形20(0)の歯形輪郭(歯面形状)は、相手側の外歯歯車3の外歯30にかみ合うかみ合い歯面部分201を備えている。かみ合い部分201の歯末側の端には、凸曲線および直線によって規定される歯先側歯面部分202の一端が滑らかに繋がっている。歯先側歯面部分202は、かみ合い歯面部分201の歯先側の端から内歯20の歯先頂部203まで延びている。一方、かみ合い歯面部分201の歯元側の端には、凹曲線によって規定される歯底側歯面部分204の一端が滑らかに繋がっている。歯底側歯面部分204は、かみ合い歯面部分201の歯元側の端から内歯20の歯底最深部205(歯溝中心位置)まで延びている。
同様に、外歯30の基本外歯歯形30(0)は、相手側の内歯20にかみ合うかみ合い歯面部分301を備えている。かみ合い歯面部分301の歯末側の端には、凸曲線によって規定される歯先側歯面部分302の一端が滑らかに繋がっている。歯先側歯面部分302は、歯先側の端から外歯30の歯先頂部303まで延びている。一方、かみ合い歯面部分301の歯元側の端には、凹曲線および直線によって規定される歯底側歯面部分304の一端が滑らかに繋がっている。歯底側歯面部分304は、かみ合い歯面部分301の歯元側の端から外歯30の歯底最深部305(歯溝中心位置)まで延びている。
内歯20、外歯30のかみ合い歯面部分201、301を規定する歯形形状は、従来において採用されているインボリュート曲線歯形などの歯形曲線によって規定される。また、外歯30の内歯20に対する移動軌跡を求め、この移動軌跡を表す曲線の一部を利用して、内歯および外歯のかみ合い歯面部分の歯形を設定してもよい。例えば、特開昭63-115943号公報、特開昭64-79448号公報に記載されているように、歯形曲線を規定できる。これらの公報においては、内歯20に対する外歯30のかみ合いをラックかみ合いであると近似した場合に得られる外歯30の移動軌跡上のかみ合いの限界点から、所定の範囲の曲線部分を取り出し、この曲線部分の相似曲線に基づき、内歯および外歯のかみ合い歯面部分の歯形曲線を設定している。
一方、基本内歯歯形20(0)、基本外歯歯形30(0)の歯先側歯面部分202、302および歯底側歯面部分204、304は、かみ合いに関与しない部分である。基本的には、相手側の歯に干渉しない任意の凸曲線、凹曲線、直線によって規定することができる。
(内歯内端の側の部分の歯形修正)
ここで、図5(a)は、上記のように歯筋方向の各位置における歯形形状が設定された内歯20および外歯30における内歯内端20bの側のかみ合い状態を示す説明図である。この図はZ=8.5の断面位置でのかみ合い状態を示してある。この図から分かるように、内歯20の移動軌跡(κ<1)は、外歯30に対する進入角度が浅くなる。このため、内歯内端20bの側におけるかみ合いにおいて、内歯20の歯先側歯面部分202に、外歯30の歯先側歯面部分302が干渉するおそれがある。
外歯30の外歯内端30bの側における歯筋方向の各断面位置における移動曲線が内歯20に干渉しないように、外歯30の外歯内端30bの側の歯先側歯面部分の形状を規定する必要がある。図5(b)は、歯筋方向の各断面位置において、内歯20に対して外歯30が干渉を起こさないように設定された外歯30の各断面位置での歯形形状を示す説明図である。この図から分かるように、外歯内端30bの側の断面位置(Z=8.5、Z=10)においては、歯先側歯面部分を規定する曲線は、2段折れ曲線のような複雑な曲線になり、加工が容易ではない。
そこで、本例の波動歯車装置1においては、外歯30の歯先部分の干渉を回避するために、上記のように比例縮小歯形として設定する内歯20の歯形の歯先側歯面部分202を外歯30から逃がしてある(離してある)。すわわち、図4(d)を参照して説明すると、内歯20における歯筋方向のZ=0からZ=7までの各断面位置における歯先円を、基本内歯歯形20(0)と同一のままの第1歯先円としてある。これに対して、内歯内端20bであるZ=10からZ=8.5までの断面位置では、内歯20の歯形の歯先側歯面部分を修正して、一回り大きな歯先円(第2歯先円)となるようにしてある。また、歯筋方向において、Z=7からZ=8.5までの間の断面位置においては、歯先円が、第1歯先円か第2歯先円に徐々に増加している。
このように歯先円が変化する内歯歯車2の歯切り加工は、例えば、図6に示す形状の内歯歯車のブランク材を用いて行うことができる。図6(a)に示すように、ブランク材100は全体として円筒状の部材であり、その軸線方向(内歯の歯筋方向)に沿って、一方の端から他方の端に向かって、内径寸法が、第1歯先円の内径に対応する第1円筒部分101、内径寸法が第1歯先円の内径から第2歯先円の内径に漸増しているテーパー状内周面を備えた第2円筒部分102、および、内径寸法が第2歯先円の内径に対応する第3円筒部分103を備えている。このブランク材の円形内周面に歯切り加工を施すことで、図6(b)に示すように、内歯内端20bの側の部分において、外歯30の歯先との干渉を回避するための歯形修正が施された内歯歯形を簡単に制作できる。
図7(a)~(f)は、外歯30の歯筋方向の各断面位置における、内歯20に対する外歯30のかみ合い状態を示す説明図である。これらの図では、内歯20に対する外歯30のかみ合い状態を分かりやすく表示するために、内歯20を表す歯形曲線として、外歯30とのかみ合いバックラッシが零の内歯20の歯形を表す曲線と、この歯形を半径方向に外歯から離れる方向に僅かにシフトさせた曲線との2本の曲線を示してある。
これらの図に示すように、歯筋方向の各断面位置において、内歯20に対する外歯30のかみ合う三次元かみ合い状態が形成されていることが分かる。また、内歯20は、歯筋方向における内歯内端20bの側の部分(Z=8.5~10)において歯先円が大きくなるように歯形修正を施されており、外歯30との干渉が回避されていることが分かる。なお、先に述べたように、内歯内端20bの位置(Z=10)は、外歯30の有効歯幅から外れた位置(外歯内端30bよりもダイヤフラム側の位置)であり、外歯30の歯先が低くなるところであり、図7(f)に示すように歯にはならず、したがって外歯30との間で干渉が起きることはない。
以上説明したように、波動歯車装置1においては、内歯20および外歯30の歯形として、歯筋に沿って歯形(歯厚、圧力角)が徐々に変化している三次元歯形を採用している。両歯車の間に三次元かみ合いを実現するために外歯の歯形のみを三次元歯形とする場合に比べて、双方の歯形を三次元歯形とすることで、各三次元歯形における歯筋方向の変化量(歯厚、圧力角、歯丈、歯先円直径等の変化量)が少なくて済む。よって、外歯のみを三次元歯形とする場合に比べて、歯切り加工上の制約が緩和され、三次元かみ合いを実現可能な外歯および内歯の歯切り加工が容易になる。
また、内歯および外歯は、歯筋方向の所定の位置に設定した基準断面において相互にかみ合い可能な基本内歯歯形および基本外歯歯形を設定し、歯筋方向の他の位置では、これらの歯形を、歯筋方向の各位置における外歯の撓み量に応じた倍率で、横方向(歯厚方向)のみに比例縮小、比例拡大した歯形を採用している。
例えば、内歯の歯切り加工はスカイビング加工により行うことができる。この場合には、基本歯形を備えた工具歯形のワークに対する交差角を、歯筋方向の移動に伴って徐々に変化させるようにすればよい。また、外歯の歯切り加工はホブ加工により行うことができる。この場合には、歯筋方向に厚みが連続して変化する工具歯形を製作し、歯切り加工時には、歯筋方向への移動に合わせてホブをシフトさせる。同時に、歯筋方向の移動に伴って徐々にワークとホブの距離を変えることで、歯先円が歯筋方向に沿って漸増するテーパー歯形を実現できる。よって、従来において外歯に採用されていた三次元歯形に比べて、外歯および内歯の三次元歯形の加工が容易になる。
さらに、内歯における内歯外端から内歯内端に向けて歯筋方向の過半部分は、基本内歯歯形の歯先円と同一の第1歯先円を備えた第1内歯部分である。内歯における内歯内端を含む残りの部分は、基本内歯歯形の歯先円よりも大きくなるように、比例縮小歯形の歯先部分に歯形修正が施されている。円筒状の内歯歯車の内歯に対する、カップ形状あるいはシルクハット形成の外歯歯車の外歯のかみ合いにおいては、外歯内端の側の外歯の部分(ダイヤフラムに近い方の外歯の部分)の移動軌跡は、内歯に対する進入角度が浅くなり、外歯の歯先部分が内歯の歯先部分に干渉してしまう。本発明では、内歯内端の側における内歯の歯先円を歯筋方向の他の部分よりも大きくしてあるので、内歯の歯先が外歯の歯先に干渉しないように離すことができる。これにより、両歯の干渉を確実に回避できる。
また、内歯内端の部分における歯先円を大きくするだけでよいので、内歯歯先部分を規定する曲線に修正を施す場合に比べて、干渉回避ための歯形修正を簡単に施すことができる。例えば、内歯歯車用の円筒状のブランク材として、内歯の歯筋方向に沿って内径が変化している円筒体を用意し、このブランク材の内周面に歯切り加工を施すことで、簡単に、歯先円が歯筋方向に沿って変化する三次元歯形の内歯を備えた内歯歯車を加工できる。
(その他の実施の形態)
なお、以上の説明は、本発明をカップ型の波動歯車装置に適用した場合の例である。本発明は、シルクハット型の波動歯車装置に対しても同様に適用可能である。

Claims (4)

  1. 剛性の内歯歯車、この内歯歯車の内側に同軸状に配置された可撓性の外歯歯車、および、この外歯歯車の内側に嵌めた波動発生器を有し、
    前記外歯歯車は、可撓性の円筒状胴部と、この円筒状胴部の後端から半径方向に延びているダイヤフラムと、前記円筒状胴部の前端である開口端の側の外周面部分に形成された外歯とを備えており、
    前記外歯歯車の前記円筒状胴部は前記波動発生器によって楕円形状に撓められ、前記楕円形状の長軸の方向の両端部において前記外歯が前記内歯歯車の内歯にかみ合っており、
    前記楕円形状に撓められた状態の前記外歯歯車の前記外歯は、中心軸線および前記楕円形状の長軸を含む平面で切断した場合に、前記ダイヤフラムの側の外歯内端から前記開口端の側の外歯外端に向けて、歯筋方向に沿って、前記ダイヤフラムからの距離に比例して前記半径方向の外方への撓み量が増加している波動歯車装置において、
    前記外歯の歯筋方向の所定の位置において歯筋方向に直交する直交面で切断した場合の断面を基準断面とし、前記内歯の歯筋方向における前記外歯外端に対応する側の端を内歯外端、他方の端を内歯内端とすると、
    前記基準断面上における前記外歯の歯形輪郭形状は基本外歯歯形であり、
    前記基準断面に対応する前記内歯の断面位置における前記内歯の歯形輪郭形状は、前記基本外歯歯形にかみ合い可能な基本内歯歯形であり、
    前記内歯の歯筋方向の各位置における内歯歯形輪郭は、前記各位置における前記外歯の前記撓み量に応じて設定した倍率で、前記基本内歯歯形を歯厚方向にのみ比例縮小して得られる比例縮小歯形であり、
    前記外歯は、歯筋方向に沿ってみた場合に、前記外歯外端から前記外歯内端に向かって歯底円が漸増している歯丈が一定のテーパー歯形であり、
    前記外歯の歯筋方向の各位置における歯形輪郭は、前記各位置における前記撓み量に応じて設定した倍率で、前記基本外歯歯形を歯厚方向にのみ比例拡大して得られる比例拡大歯形であり、
    前記内歯における前記内歯外端から前記内歯内端に向けて前記歯筋方向の過半部分は、前記基本内歯歯形の歯先円と同一の第1歯先円を備えた第1内歯部分であり、
    前記内歯における前記内歯内端を含む残りの部分は、前記基本内歯歯形の前記歯先円よりも大きくなるように、前記比例縮小歯形の歯先部分に歯形修正が施されていることを特徴とする波動歯車装置。
  2. 前記基本内歯歯形および前記基本外歯歯形は、それぞれ、
    相手側の歯車の歯面にかみ合うかみ合い歯面部分と、
    前記かみ合い歯面部分の歯末側の端から歯先頂部まで延びている歯先側凸歯面部分と、
    前記かみ合い歯面部分の歯元側の端から歯底最深部まで延びている歯底側凹歯面部分と
    を備えており、
    前記かみ合い歯面部分を規定する歯形曲線は、インボリュート曲線、または、前記基準断面の位置における前記内歯に対する前記外歯のかみ合いをラックかみ合いで近似した場合に得られる移動曲線の一部を相似変換して得られる相似曲線である請求項1に記載の波動歯車装置。
  3. 前記内歯における前記内歯内端を含む部分は、前記第1歯先円よりも大きな第2歯先円を備えた第2内歯部分であり、
    前記内歯における前記第1内歯部分から前記第2内歯部分の間の部分は、前記歯先円が、前記第1歯先円から前記第2歯先円に漸増しているテーパー状内歯部分である請求項1に記載の波動歯車装置。
  4. 前記内歯の第1内歯部分は、前記内歯の有効歯幅の7/10倍の長さの部分であり、
    前記第2内歯部分および前記テーパー状内歯部分は、それぞれ、前記有効歯幅の1.5/10倍の長さの部分である請求項3に記載の波動歯車装置。
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