以下、実施形態によるサスペンション制御装置を、4輪自動車に適用した場合を例に挙げ、添付図面に従って詳細に説明する。なお、図3および図6に示す流れ図の各ステップは、それぞれ「S」という表記を用いる(例えば、ステップ1=「S1」とする)。
図1ないし図4は、第1の実施形態を示している。図1において、車両1のボディを構成する車体2の下側には、例えば左,右の前輪3(左側の前輪3のみ図示)と左,右の後輪4(左側の後輪4のみ図示)とが設けられている。前輪3および後輪4(以下、総称して車輪3,4ともいう)は、タイヤ5を含んで構成されている。車両1は、車体2と、車輪3,4と、サスペンション装置6と、コントローラ9とを備えている。
サスペンション装置6は、車体2と車輪3,4との間に設けられている。サスペンション装置6は、懸架ばね7(以下、スプリング7という)と、スプリング7と並列関係をなして車体2と車輪3,4との間に介装される減衰力調整式緩衝器8(以下、可変ダンパ8という)とにより構成される。サスペンション装置6は、例えば4つの車輪3,4と車体2との間に個別に独立して合計4組設けられている。
ここで、サスペンション装置6の可変ダンパ8は、車体2と車輪3,4との間に介装して設けられた減衰力調整式の油圧緩衝器(油圧シリンダ)を用いて構成されている。可変ダンパ8には、発生減衰力の特性(即ち、減衰力特性)をハードな特性(硬特性)からソフトな特性(軟特性)に連続的に調整するため、減衰力調整バルブ等からなる減衰力可変アクチュエータ(図示せず)が付設されている。なお、減衰力可変アクチュエータは、減衰力特性を必ずしも連続的に調整する構成でなくてもよく、例えば2段階以上の複数段階で減衰力を調整可能なものであってもよい。また、可変ダンパ8は、圧力制御タイプでもよく、流量制御タイプであってもよい。
コントローラ9は、可変ダンパ8の減衰特性を制御するサスペンション制御装置に相当する。コントローラ9は、例えばマイクロコンピュータ、駆動回路を含んで構成されている。コントローラ9は、ROM、RAM、不揮発性メモリ等からなる記憶部(図示せず)を有している。コントローラ9の記憶部内には、例えば、車両1の乗り心地を向上すべく車体2の状態量(例えば、上下加速度、車高等)の変化に応じて可変ダンパ8の減衰特性を調整する制御処理用のプログラムが格納されている。また、コントローラ9の記憶部内には、例えば、後述の図3に示す制御処理用のプログラムが格納されている。
コントローラ9の入力側は、例えば、車体2(ばね上)の上下加速度を検出するばね上加速度センサ(図示せず)に接続されている。コントローラ9の出力側は、可変ダンパ6の減衰力可変アクチュエータ等に接続されている。また、図2に示すように、コントローラ9は、CAN(Controller Area Network)等の車載通信線となる車両データバス11に接続されている。即ち、コントローラ9は、車両データバス11を介して車両1に搭載された多数の電子機器(各種のECU)と接続されている。後述するように、コントローラ9は、車両データバス11を介して衝突可能性判定部12および制動信号出力部13に接続されている。
コントローラ9は、ばね上加速度センサ等からの検出信号(車体2の上下加速度等)を読み込みつつ、スカイフック理論(スカイフック制御則)、LQG制御則、H∞制御則等の制御則に従って、可変ダンパ8の減衰力可変アクチュエータに出力すべき指令電流(減衰力指令信号)を演算し、その指令電流を出力する。これにより、コントローラ9は、可変ダンパ8の減衰力特性を可変に制御する。この場合、図2に示すように、コントローラ9は、制御手段としての減衰力特性制御部10を備えている。コントローラ9は、可変ダンパ8の減衰力特性を減衰力特性制御部10によりソフト特性からハード特性に切換え可能に制御する。
ところで、運転者がブレーキペダルとアクセルペダルとを踏み間違えた場合には、運転者の減速の意図に反して車両が加速する。また、運転者がシフトレバー(ギア)の操作位置(例えば、ドライブとリバース)を間違えた場合には、運転者の意図しない方向に車両が発進する。これに対して、このような意図に反する加速、発進を抑制するための技術が考えられている。例えば、「踏み間違い加速抑制システム」は、進行方向に障害物がある場合にアクセルが踏込まれると、アクセルをカットする技術である。また、「低速衝突軽減ブレーキ」は、低速走行中に進行方向に障害物を検知すると共に、衝突の恐れがあると判定した場合に、ブレーキを作動させる技術である。このような技術によれば、例えば、駐車場等の低速で走行する場合に、進行方向に存在する障害物との衝突を抑止することができると考えられる。しかし、例えば、アクセルペダルの踏み間違いにより急制動したときに、障害物との衝突を抑止できた場合でも、制動によるノーズダイブに伴って、障害物の手前の路面の突起(例えば、縁石、車止め等)に車両の進行方向の前側(例えば、車体下面)が接触するおそれがある。
そこで、実施形態では、例えば、壁等の障害物51に衝突しない場合において、急制動に伴うノーズダイブ動作により路面52の縁石53に車体2の下面が擦る可能性があるような場合に、可変ダンパ8の減衰力をハードにすることにより、ノーズダイブを抑制する。この場合、自動ブレーキシステムが持つ外界情報認識センサを用いて、縁石53の高さ、タイヤ5との距離を測定し、縁石53との衝突の可能性とノーズダイブによる縁石53との接触を推定する。
即ち、実施形態では、コントローラ9の減衰力特性制御部10は、車両1(車体2)の前方部15と車両1の進行方向(前方)の路面52の縁石53との衝突可能性情報が入力されたとき、前方部15の可変ダンパ8の減衰力特性をハードにする衝突回避・軽減制御を行う。この場合、コントローラ9は、車両システムから衝突可能性情報と制動信号を受け取り、これらに基づいて、減衰力特性をハードにするかソフトにするかを決定する。即ち、減衰力特性制御部10は、車両1(車体2)の前方部15と縁石53との衝突可能性情報と車両1を減速させる制動情報とが入力されたとき、衝突回避・軽減制御を行う。
このために、コントローラ9の減衰力特性制御部10は、車両データバス11を介して衝突可能性判定結果と制動信号とが入力される。即ち、車両1は、衝突可能性判定部12と、制動信号出力部13とを備えている。衝突可能性判定部12および制動信号出力部13は、例えば、自動ブレーキECU(自動ブレーキ制御装置)に相当する。
自動ブレーキECUは、例えば、外界認識センサ(図示せず)に接続されている。外界認識センサは、車両周囲の物体の位置を計測する物体位置計測装置を構成するもので、例えば、ステレオカメラ、シングルカメラ等のカメラ(例えば、デジタルカメラ)、および/または、レーザレーダ、赤外線レーダ、ミリ波レーダ等のレーダ(例えば、半導体レーザ等の発光素子およびそれを受光する受光素子)を用いることができる。なお、外界認識センサは、カメラ、レーダに限らず、車両1の周囲となる外界の状態を認識(検出)できる各種のセンサ(検出装置、計測装置、電波探知機)を用いることができる。
自動ブレーキECUは、外界認識センサの検出結果(情報)に基づいて、例えば、前方の物体(例えば、他車両、障害物)との距離等を算出すると共に、この距離と現在の車両1の走行速度等とに基づいて、付与すべき制動力(制動液圧)に対応する自動ブレーキ制動指令値を算出する。算出された自動ブレーキ制動指令値は、自動ブレーキECUから自動ブレーキ指令として車両データバス11に出力される。自動ブレーキ指令は、例えば、液圧式のディスクブレーキ(制動装置)にブレーキ液圧を供給する液圧供給装置(ESC)を制御するESC制御装置(いずれも図示せず)に入力される。この場合、液圧供給装置(ESC)は、自動ブレーキ指令に基づくブレーキ液圧をディスクブレーキに供給することにより、制動力が付与される。
このとき、自動ブレーキECUは、制動信号出力部13として、自動ブレーキの制動信号を減衰力特性制御部10に出力する。即ち、減衰力特性制御部10には、制動信号出力部13から自動ブレーキの制動信号が入力される。なお、制動信号出力部13は、例えば、ブレーキペダルの操作を検出するブレーキペダル操作センサにも相当する。即ち、制動信号出力部13は、自動ブレーキの指令に基づく制動信号、および/または、運転者の操作に基づく制動信号を出力する。逆に言えば、減衰力特性制御部10には、制動信号出力部13から車両データバス11を介して自動ブレーキの制動信号、および/または、運転者の操作による制動信号が入力される。
また、自動ブレーキECUは、衝突可能性判定部12を備えている。衝突可能性判定部12は、車両1の前方部15と車両1の前方の縁石53とが衝突する可能性があるか否かを判定する。衝突可能性判定部12は、例えば、外界認識センサの信号から得られる縁石53との距離と車両速度とから、制動に伴うノーズダイブによって縁石53と衝突する可能性があるか否かを判定する。この判定は、例えば、車両挙動(ピッチ挙動)に関する要素(状態量)、例えば、加速度、スプリング7のばね定数、車体2の質量(重量)、車両挙動以外の要素、例えば、車体2の底面の高さ、縁石53の高さ等を考慮して行う。衝突可能性判定部12は、例えば、車両1の前方部15の下面と縁石53とが接触する可能性があると判定した場合は、「衝突可能性あり」との衝突可能性判定結果を減衰力特性制御部10に出力する。即ち、減衰力特性制御部10には、衝突可能性判定部12から車両データバス11を介して衝突可能性判定結果が入力される。
減衰力特性制御部10は、衝突可能性情報と制動信号を受け取り、ブレーキが作動したときに、減衰力特性をハードにする。図3は、減衰力特性制御部10で行われる制御処理を示す流れ図(フローチャート)である。図3の制御処理は、例えば、コントローラ9が起動した後、所定の制御周期毎(例えば、10ms毎)に繰り返し実行される。
システムの電源がONする(コントローラ9への電力の供給が開始される)ことにより、または、車両1の速度が低速(予め設定した所定の速度以下)になると、図3の制御処理が開始される。図3の制御処理が開始されると、S1では、衝突可能性があるか否かを判定する。この判定は、衝突可能性判定部12から減衰力特性制御部10に「衝突可能性あり」との衝突可能性判定結果が入力された場合に、衝突可能性ありと判定する。S1で「YES」、即ち、衝突可能性ありと判定され場合は、S2に進む。S1で「NO」、即ち、衝突可能性なしと判定され場合は、S4に進む。
S2では、ブレーキが作動しているか否か(即ち、制動力が付与されているか否か)を判定する。この判定は、制動信号出力部13から減衰力特性制御部10に制動信号が入力された場合に、ブレーキが作動していると判定する。S2で「YES」、即ち、ブレーキが作動していると判定され場合は、S3に進む。S2で「NO」、即ち、ブレーキが作動していないと判定され場合は、S4に進む。S3では、減衰力をハードにする。即ち、減衰力特性制御部10は、減衰力特性がハードとなる指令電流を可変ダンパ8の減衰力可変アクチュエータに出力する。S3で減衰力をハードにしたら、リターンする。即ち、リターンを介してスタートに戻り、S1以降の処理を繰り返す。一方、S4では、減衰力をソフトにする。即ち、減衰力特性制御部10は、減衰力特性がソフトとなる指令電流を可変ダンパ8の減衰力可変アクチュエータに出力する。S4で減衰力をソフトにしたら、リターンする。なお、S4では、車体2の上下加速度、車高等の変化に応じて可変ダンパ8の減衰特性を調整してもよい。
図4は、本実施形態と比較例との「車速」と「ピッチ角」と「フロント車高変化量」と「ブレーキの作動入力」の時間変化を示す特性線図(タイムチャート)である。図4では、駐車場での低速走行中にブレーキが作動したときに、図3に示す本実施形態の制御処理が行われた場合の車両挙動を実線で示し、本実施形態の制御が行われない比較例の場合の車両挙動を破線で示している。比較例(破線)の場合は、減衰力特性がソフトのままであるため、車体2はノーズダイブ挙動が大きく、オーバーハングの車高変動が大きい。このため、ノーズダイブ挙動に伴って、車体2の前方部15の下面が縁石53と擦る可能性がある。これに対して、本実施形態(実線)の場合は、衝突可能性情報(衝突可能性判定結果)と制動信号とを受け取り、ブレーキが作動すると同時に減衰力特性をハードにする。このため、車両1のノーズダイブ挙動が抑えられ、オーバーハング(車両1の前方部15)の車高変動を低減できる。これにより、実施形態では、縁石53との衝突を防止・軽減できる。
以上のように、第1の実施形態によれば、減衰力特性制御部10は、車両1の前方部15と路面52の縁石53との衝突の可能性があるときに、可変ダンパ8の減衰力特性をハードにする衝突回避・軽減制御を行う。このため、制動に伴うノーズダイブ(フロント側のブレーキダイブ)の程度を抑えることができ、衝突を回避または衝突時の被害を軽減することができる。即ち、車両1の前方部15と路面52の縁石53との接触を抑制することができる。しかも、第1の実施形態では、衝突可能ありの判定結果だけでなく、「衝突可能性あり」と「制動力が付与されている」との2つの条件を満たしたときに、可変ダンパ8の減衰力特性をハードにする。即ち、縁石53との衝突の可能性があり、かつ、制動が行われているときにのみ、衝突回避・減衰制御を行うため、通常の制動時に乗り心地が低下すること、違和感を与えることを抑制できる。
次に、図5および図6は、第2の実施形態を示している。第2の実施形態の特徴は、踏み間違い情報も用いて衝突回避・軽減制御を行うことにある。なお、第2の実施形態では、上述した第1の実施形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
第2の実施形態では、踏み間違い防止機能等の自動ブレーキシステム(運転者アシストシステム)が持つ外界情報認識センサを用いて、縁石53の高さ、タイヤ5との距離を測定し、縁石53との衝突の可能性とノーズダイブによる縁石53との接触を推定する。この場合、第2の実施形態では、踏み間違い防止機能による情報(踏み間違い情報)も用いて衝突回避・軽減制御を行う。このために、車両1は、衝突可能性判定部12と、制動信号出力部13とに加えて、踏み間違い情報出力部21を備えている。
踏み間違い情報出力部21は、例えば、運転者がブレーキペダルとアクセルペダルとを踏み間違えた場合に、その旨の情報を踏み間違い情報として出力する。踏み間違い情報出力部21は、例えば、踏み間違い加速抑制用ECU(運転者アシストECU)に相当する。踏み間違い加速抑制用ECUは、例えば、進行方向に障害物があるにも拘わらず、アクセルが踏込まれた場合に、アクセルをカットし、必要に応じて制動力を付与する。このとき、踏み間違い加速抑制用ECUは、踏み間違い情報出力部21として、「踏み間違いあり」との踏み間違い情報を減衰力特性制御部10に出力する。逆に言えば、減衰力特性制御部10には、踏み間違い情報出力部21から車両データバス11を介して踏み間違い情報が入力される。
コントローラ9の減衰力特性制御部10は、アクセルペダルの踏み間違い情報が入力された場合、前方部15の可変ダンパ8の減衰力特性をハードにする衝突回避・軽減制御を実行する。即ち、減衰力特性制御部10は、「車両1の前方部15と車両1の前方の路面52の縁石53との衝突可能性情報」と「アクセルペダルの踏み間違い情報」が入力された場合、前方部15の可変ダンパ8の減衰力特性をハードにする衝突回避・軽減制御を行う。この場合、コントローラ9(減衰力特性制御部10)は、車両システムから衝突可能性情報と制動信号と踏み間違い情報を受け取り、これらに基づいて、減衰力特性をハードにするかソフトにするかを決定する。第2の実施形態では、減衰力特性制御部10は、車両1(車体2)の前方部15と縁石53との衝突可能性情報とアクセルペダルの踏み間違い情報とが入力されたとき、車両1を減速させる制動情報が入力されなくても、衝突回避・軽減制御を行う。
図6は、減衰力特性制御部10で行われる制御処理を示す流れ図である。なお、図6のS1ないしS4は、前述の第1の実施形態の図3のS1ないしS4と同様の処理であるため、詳しい説明は省略する。
S1で「YES」、即ち、衝突可能性ありと判定され場合は、S11に進む。S11では、踏み間違い情報があるか否かを判定する。この判定は、踏み間違い情報出力部21から減衰力特性制御部10に「踏み間違いあり」との踏み間違い情報が入力された場合に、踏み間違い情報ありと判定する。S11で「YES」、即ち、踏み間違い情報ありと判定され場合は、S3に進む。S11で「NO」、即ち、衝突可能性なしと判定され場合は、S2に進む。
図7は、第2の実施形態と比較例との「車速」と「ピッチ角」と「フロント車高変化量」と「ブレーキの作動入力」の時間変化を示す特性線図(タイムチャート)である。図7では、前進して駐車した後に、後退して駐車場を出るシーンで、シフト操作を誤りR(リバース)に入れるところをD(ドライブ)に入れてしまったときに、図6に示す本実施形態の制御処理が行われた場合の車両挙動を実線で示し、本実施形態の制御が行われない比較例の場合の車両挙動を破線で示している。図7では、シフトレバーをDに入れ、アクセルペダルを踏むと、加速して車両1のリア側が沈み込む。シフト操作(ギア)の間違いに気付き、ブレーキペダルを踏む、または、踏み間違い防止機能等の運転者アシスト機能により、ブレーキが作動する。比較例(破線)の場合は、減衰力特性がソフトのままであるため、車体2はノーズダイブ挙動が大きく、オーバーハングの車高変動が大きい。これに対して、本実施形態(実線)の場合は、衝突可能性情報(衝突可能性判定結果)と踏み間違い情報または制動信号とを受け取り、減衰力特性をハードにする。このため、車両1のノーズダイブ挙動が抑えられ、オーバーハング(車両1の前方部15)の車高変動を低減できる。これにより、実施形態では、縁石53との衝突を防止・軽減できる。
図8も、第2の実施形態と比較例との「車速」と「ピッチ角」と「フロント車高変化量」と「ブレーキの作動入力」の時間変化を示す特性線図(タイムチャート)である。図8では、駐車場での低速走行中に踏み間違い防止機能が働いたときに、図6に示す本実施形態の制御処理が行われた場合の車両挙動を実線で示し、本実施形態の制御が行われない比較例の場合の車両挙動を破線で示している。図8では、ブレーキペダルを踏むところで誤ってアクセルペダルを踏んでしまった場合、踏み間違い防止機能の検知・判定などの遅れによって、車両1は多少なりとも加速し、その後、ブレーキが作動する。比較例(破線)の場合は、減衰力特性がソフトのままであるため、車体2はノーズダイブ挙動が大きく、オーバーハングの車高変動が大きい。これに対して、本実施形態(実線)の場合は、衝突可能性情報(衝突可能性判定結果)と踏み間違い情報または制動信号とを受け取り、減衰力特性をハードにする。このため、車両1のノーズダイブ挙動が抑えられ、オーバーハング(車両1の前方部15)の車高変動を低減できる。これにより、実施形態では、縁石53との衝突を防止・軽減できる。
第2の実施形態は、上述の如き衝突回避・軽減制御を行うもので、その基本的作用については、上述した第1の実施形態によるものと格別差異はない。特に、第2の実施形態では、減衰力特性制御部10は、アクセルペダルの踏み間違い情報が入力された場合、衝突回避・軽減制御を実行する。このため、アクセルペダルの踏み間違いに基づく制動が行われたときに、ノーズダイブの程度を抑えることができ、車両1の前方部15と路面52の縁石53との接触を抑制することができる。
次に、図9は、第3の実施形態を示している。第3の実施形態の特徴は、サスペンション制御装置が衝突可能性判定部を備える構成としたことにある。なお、第3の実施形態では、上述した第1の実施形態および第2の実施形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
第3の実施形態では、車両1は、外界認識センサ31と、車速センサ32と、制動信号出力部13と、踏み間違い情報出力部21とを備えている。外界認識センサ31は、例えば、外界認識ECUに対応する。外界認識センサ31は、車両周囲の物体の位置を計測する物体位置計測装置を構成するもので、例えば、ステレオカメラ、シングルカメラ等のカメラ(例えば、デジタルカメラ)、および/または、レーザレーダ、赤外線レーダ、ミリ波レーダ等のレーダ(例えば、半導体レーザ等の発光素子およびそれを受光する受光素子)を用いることができる。なお、外界認識センサ31は、カメラ、レーダに限らず、車両1の周囲となる外界の状態を認識(検出)できる各種のセンサ(検出装置、計測装置、電波探知機)を用いることができる。外界認識センサ31は、サスペンション制御装置としてのコントローラ33に車両データバス11を介して接続されている。外界認識センサ31は、例えば、車両1の進行方向の路面52の縁石53の情報に対応する信号を外界認識情報(縁石距離情報)としてコントローラ33(衝突可能性判定部34)に出力する。
車速センサ32は、車両1の速度を検出する。車速センサ32は、コントローラ33(衝突可能性判定部34)に車両データバス11を介して接続されている。車速センサ32は、例えば車輪3,4の回転数を検出し、これを車速(車両1の走行速度)情報としてコントローラ33(衝突可能性判定部34)に出力する。
コントローラ33は、減衰力特性制御部10と、衝突可能性判定部34とを備えている。衝突可能性判定部34は、外界認識センサ31と、車速センサ32に接続されている。衝突可能性判定部34は、外界認識センサ31により検知された車両1の進行方向の路面52の縁石53の情報(縁石距離情報)と車両1の車速の情報(車速情報)とに基づいて、車両1の前方部15と縁石53との衝突可能性を判定する。即ち、衝突可能性判定部34は、縁石距離情報と車速情報とを入力として、縁石53との衝突可能性を判定する。ここで、入力された縁石距離情報が車体2の先端から縁石53までの距離「X」であるとする。一方、コントローラ33の演算周期を「△t」とし、各周期での車速を「vk」とすると、各周期あたりの走行距離は、「vk△t」で求められる。縁石距離情報が入力されたタイミングでの周期をk=1とし、現在周期をk=nとすると、縁石距離情報が入力されてから走行した距離Lは、次の数1式で求めることができる。
従って、次の数2式を満たすとき、縁石が車体2の下にある(衝突可能性あり)と判定することができる。
この場合、誤差や演算・検出遅れを考慮し、次の数3式を満たすとき、衝突可能性ありと判定してもよい。数3式中の「E」は、例えば、誤差・検出遅れが大きい程、大きい値として設定することができる。衝突可能性の判定の閾値となる「E」は、車両1の種類、仕様等に対応して設定することができ、例えば、計算、実験、シミュレーション等により予め求めることができる。
また、縁石53と逆方向に走行した場合には、「vk」は負の値となり、走行距離は減少するものとする。衝突可能性判定部34は、例えば、車両1の前方部15の下面と縁石53とが接触する可能性があると判定した場合は、「衝突可能性あり」との衝突可能性判定結果を減衰力特性制御部10に出力する。このような衝突可能性の判定は、例えば、車両挙動(ピッチ挙動)に関する要素(状態量)、例えば、加速度、スプリング7のばね定数、車体2の質量(重量)、車両挙動以外の要素、例えば、車体2の底面の高さ、縁石53の高さ等を考慮して行う。減衰力特性制御部10は、衝突可能性判定部34からの衝突可能性情報が入力されたとき(必要に応じて踏み間違い情報が入力されたとき)、衝突回避・軽減制御を行う。
第3の実施形態は、上述の如きコントローラ33により衝突回避・軽減制御を行うもので、その基本的作用については、上述した第1の実施形態および第2の実施形態によるものと格別差異はない。特に、第3の実施形態では、コントローラ33は、衝突可能性判定部34を備えている。このため、コントローラ33の減衰力特性制御部10は、コントローラ33の衝突可能性判定部34で判定(演算)された衝突可能性情報を用いて衝突回避・軽減制御を行うことができる。
なお、第1の実施形態では、車両1の前方部15と車両1の前方の路面52の縁石53との衝突可能性情報を用いて衝突回避・軽減制御を行う場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、例えば、車両1の後方部16(図1参照)と車両1の進行方向(後方)の路面の突起(縁石)との衝突可能性情報が入力されたとき、後方部16の減衰力調整式緩衝器である可変ダンパ8の減衰力特性をハードにする衝突回避・軽減制御を行ってもよい。この場合は、制動に伴うリア側のダイブ(ブレーキダイブ)の程度を抑えることができ、車両の後方部と路面の突起(縁石)との接触を抑制することができる。このことは、第2の実施形態および第3の実施形態でも同様である。
第1の実施形態では、減衰力特性制御部10は、車両1と縁石53との衝突可能性情報と車両1を減速させる制動情報との両方が入力されたとき、衝突回避・軽減制御を行う場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、例えば、制御手段は、衝突可能性情報が入力されたとき衝突回避・軽減制御を行ってもよい。即ち、制動情報が入力されなくても、衝突可能性ありとの衝突可能性情報が入力されたとき、衝突回避・軽減制御を行ってもよい。
第1の実施形態では、減衰力調整式緩衝器として、減衰力調整バルブ等からなる減衰力可変アクチュエータを備えた油圧緩衝器を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、例えば、減衰力調整式緩衝器は、電気粘性流体に印加する電界を増減させることにより発生減衰力を可変に調整する電気粘性ダンパ等、他の形式の減衰力調整式緩衝器を用いてもよい。このことは、第2の実施形態および第3の実施形態でも同様である。
また、前記各実施の形態は例示であり、異なる実施の形態で示した構成の部分的な置換または組み合わせが可能であることは言うまでもない。
以上説明した実施形態に基づくサスペンション制御装置として、例えば下記に述べる態様のものが考えられる。
第1の態様としては、車両の車体と車輪との間に介装される減衰力調整式緩衝器の減衰力特性を制御手段によりソフト特性からハード特性に切換え可能に制御するサスペンション制御装置であって、前記制御手段は、前記車両の前方部または後方部と前記車両の進行方向の路面の突起との衝突可能性情報が入力されたとき、前記前方部または前記後方部の前記減衰力調整式緩衝器の減衰力特性をハードにする衝突回避・軽減制御を行う。
この第1の態様によれば、制御手段は、車両の前方部または後方部と路面の突起(例えば、縁石)との衝突の可能性があるときに、減衰力調整式緩衝器の減衰力特性をハードにする衝突回避・軽減制御を行う。このため、制動に伴うダイブ(ブレーキダイブ)の程度を抑えることができ、車両の前方部または後方部と路面の突起との接触を抑制することができる。しかも、例えば、突起との衝突の可能性があり、かつ、制動が行われているときにのみ、衝突回避・減衰制御を行うようにすることで、通常の制動時に乗り心地が低下すること、違和感を与えることを抑制できる。
第2の態様としては、第1の態様において、前記制御手段は、アクセルペダルの踏み間違い情報が入力された場合、前記衝突回避・軽減制御を実行する。この第2の態様によれば、アクセルペダルの踏み間違いに基づく制動が行われたときに、ブレーキダイブの程度を抑えることができ、車両の前方部または後方部と路面の突起との接触を抑制することができる。
第3の態様としては、第1の態様または第2の態様において、外界認識センサにより検知された前記車両の進行方向の路面の突起の情報と前記車両の車速の情報とに基づいて、前記車両の前方部または後方部と前記突起との衝突可能性を判定する衝突可能性判定部をさらに備え、前記制御手段は、前記衝突可能性判定部からの衝突可能性情報が入力されたとき、前記衝突回避・軽減制御を行う。この第3の態様によれば、制御手段は、衝突可能性を判定する衝突可能性判定部からの衝突可能性情報を用いて衝突回避・軽減制御を行うことができる。