JP7245466B2 - Wo3系ガスセンサの改質方法 - Google Patents

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Description

この発明は、WO系金属酸化物半導体ガスセンサをシロキサン化合物により改質し、メルカプタン化合物等への感度を高めることに関する。
歯周病の検査のために、ガスセンサにより呼気中のメルカプタン化合物(例えばメチルメルカプタン)を検出することが検討されている。このためには1ppm以下の濃度のメルカプタン化合物を検出することが必要であるが、ガスセンサの感度が不足している。
関連する先行技術を示す。特許文献1(特許4806232)は、ガスセンサ材料のWOの平均粒径を10μm-20μmとすることを提案している。また特許文献1は、シリカゾルをガスセンサの表面に塗布すると、シロキサンへの耐久性が増すことを開示している。
特許文献2(特許6175577)は、WOにホウ素を添加したアセトンセンサを開示している。特許文献3(特開2018-31658)は、WOにNiOとPtとを添加することにより、湿潤雰囲気でのアセトン感度を増すことを提案している。ガスセンサ材料のWOへの添加物は、これらの他にも種々のものが知られている。
特許文献4(特開2000-275201)は、SnO2,In23,ZnO等の金属酸化物半導体ガスセンサを、微量のシロキサン化合物により改質することを提案している。このガスセンサは周期的に短時間加熱され、次の加熱までにセンサ温度は室温付近まで下降する。そして室温付近でのガスセンサの出力を用いる。微量のシロキサンとの接触により、ガスセンサはアンモニア感度と硫化水素感度が増加し、エタノール感度が低下する。
特許4806232 特許6175577 特開2018-31658 特開2000-275201
この発明は、WO系金属酸化物半導体ガスセンサの、メルカプタン化合物への感度を高めることを課題とする。
この発明のWO系ガスセンサの改質方法では、WOをシロキサン化合物蒸気と接触させることにより、メルカプタン化合物への感度を高める。
好ましくは、槽内にWOガスセンサを収容し、前記シロキサン化合物蒸気を前記槽内に供給する。これによってガスセンサのWOはシロキサン化合物蒸気に接触する。好ましくは、シロキサン化合物との接触時にガスセンサを加熱し、WOに接触したシロキサン化合物をその場で熱分解し、生成物をWOに担持させる。ただし、シロキサン化合物との接触時にガスセンサを加熱せず、吸着したシロキサン化合物を後で熱分解しても良い。
この発明では、WOをシロキサン化合物蒸気と接触させ、シロキサン化合物を熱分解し、例えばシリカの超微粒子としてWOに担持させる。これによって、
・ メルカプタン化合物へのWOの酸化活性が低下し(図3参照)、
・ メルカプタン化合物の酸化での中間生成物がより高い温度で生成し(図4参照)、
・ これらに対応して、350℃以下での最終生成物である二酸化硫黄の生成量も減少する(図5参照)。そしてWOのメルカプタン化合物への酸化活性の低下に対応し、低濃度での感度が激増する(図6)。
この発明ではメルカプタン化合物を高感度に検出できる。これ以外に、トルエン感度を高めることもできる(表2)。従ってトルエンと類似のキシレンへの感度も増すはずである。また中間生成物までの不完全酸化が生じやすいアセトンへの感度も増すはずである。発明者はこれらの機構を以下のように推定した。メルカプタンなどのガスは、ガスセンサ中で部分酸化による中間体が生じやすい。そしてシロキサンによりガスセンサの酸化活性が低下すると、中間生成物の吸着等により、ガスセンサ中の部分酸化生成物濃度が増し、ガス感度も増す。
これに対して、エタノール、デカン、水素への感度は特には増加しなかった(表1,表2)。これらのガスは完全酸化しやすいため、感度が増さなかったものと考えられる。
実施例のガスセンサの断面図 実施例のガスセンサの駆動回路を示す図 シロキサンによる改質に伴う、WOのCH3SH酸化活性の変化を示す図 シロキサンによる改質に伴う、CH3SHの酸化反応での中間生成物であるCH3S-SCH3濃度の変化を示す図 シロキサンによる改質に伴う、CH3SHの酸化反応の最終生成物であるSO2濃度の変化を示す図 シロキサンによる改質に伴う、0.5ppmCH3SHへの感度変化を示す図
以下に本発明を実施するための最適実施例を示す。
ガスセンサ
図1に、実施例のガスセンサ2を示す。4はシリコンなどの基板で、空洞6が設けられており、空洞6上に絶縁膜8が設けられている。空洞6は絶縁膜8側からエッチングしたものでも、あるいは貫通孔でもよい。
絶縁膜8には例えばPt膜から成るヒータ10が設けられ、絶縁膜8の表面に例えば一対のPt膜等の電極11,12が設けられている。WOをシロキサン化合物由来のシリカ等の化合物により化学修飾したガス感応膜14が、電極11,12を被覆するように、絶縁膜8上に設けられている。なお、電極11,12を設けず、ヒータ10を絶縁膜8の上部に露出させ、ヒータ10とガス感応膜14との合成抵抗を測定してもよい。またガス感応膜14は厚膜でも薄膜でも良い。さらにガスセンサ2は、MEMSタイプに限らず、絶縁基板にヒータ膜とガス感応膜とを設けたガスセンサ、あるいはビード状のガス感応膜にヒータコイルと中心電極とを埋設したガスセンサでも良い。
シロキサン化合物由来のシリカ等の化合物は、ガス感応膜14の表面側で高濃度、内部で低濃度となるように濃度勾配を持ち、ガス感応膜14の表面をEPMA,XPS等により元素分析することにより検出できる。またシロキサン化合物由来のシリカ等の化合物は、シリカゾル由来のシリカに比べ、粒子サイズが小さい。なおWOガスセンサに関して、種々の添加物が公知で、またPt等の貴金属の添加が感度の向上に有効であることが知られている。ガス感応膜14はWO3とシロキサン由来の化合物以外の成分を含んでいても良く、WOがガス感応膜14での金属酸化物半導体成分の主成分(例えば金属酸化物半導体中の80mass%以上がWO)であれば良い。
ガスセンサ2の製造方法を示す。硝酸水溶液中にタングステン酸ナトリウムの水溶液を滴下し、生じた沈殿を遠心分離と水洗とを繰り返し、70℃で乾燥させた。次いで空気中500℃で加熱し、WOを得た。WOを粉砕し、篩い分けして、WO粉体を得た。WO粉体をペースト化し、絶縁膜8上に滴下し、空気中500℃で焼成し厚膜状のガス感応膜14とした。
両端をシリコン栓で塞いだ電気炉内に、ガスセンサ2をセットし、WO膜をガスセンサのヒータにより430℃に加熱した。液体のオクタメチルテトラシロキサン(D4)を100℃の炉内に1時間保持し、シロキサンを蒸発させ、炉内の拡散と対流によりWOに接触させた。使用したD4量は1,10,20,40μLの4種類であった。WOに吸着したD4は熱分解され、シリカ等としてWO表面に蓄積される。この後、ガスセンサ2をハウジングに取り付け、金網カバーを被せた。以上のようにして、ガスセンサ2を製造した。なおD4の代わりにD3,D5等の他の環状シロキサン化合物、あるいは鎖状のシロキサン化合物を用いても良い。
ガス検出装置
図2は、ガスセンサ2を用いたガス検出装置20を示す。ガス感応膜14に負荷抵抗R1を接続し、検出電圧Vccを加える。マイクロコンピュータ21のヒータドライブ22はヒータ10の電力を制御し、A/Dコンバータ23は負荷抵抗R1への出力電圧をA/D変換し、ガス検出部24でガスを検出する。実施例ではガス感応膜14の加熱温度は例えば250℃であるが、Pt等のWOへの添加物、WOの調製条件の違いなどにより最適加熱温度は変化し、動作温度は任意である。またガス感応膜14の加熱温度を固定せずに、温度変化の過程でのガス感応膜14の抵抗値から、ガスを検出しても良い。
WO のCH 3 SH酸化活性
ガスセンサ2にD4を接触させたのと同様にして、WO粉体にD4を接触させ、次いで500℃に1時間加熱し、D4を熱分解した。シロキサンとの接触によるメチルメルカプタン酸化活性の変化を調べた。電気炉内に設置した反応菅に1.08cmのWOを充填し、メチルメルカプタン濃度が80ppmの乾燥空気を毎分30cm流し、GC-MSにより未反応のメチルメルカプタン濃度と中間生成物のジメチルチオエーテル(CH3S-SCH3)、及び最終生成物の二酸化硫黄(SO)濃度を測定した。WOの温度を変化させる場合、温度が安定してから1時間後にメルカプタン含有ガスを流し、30分ごとに測定して未反応物及び生成物の安定濃度を求めた。結果を図3(未反応のCH3SH濃度)、図4(中間生成物のCH3S-SCH3濃度)、図5(SO濃度)に示す。図中、Blankは反応菅内にWOを入れていない状態を示し、またWO(0)はシロキサンと接触させていないWOを示し、(10)等の記号は蒸発させたシロキサン(D4)量を示す。
シロキサンと未接触のWOでは、100℃以上で未反応のCHSHは検出されなくなり、CH3S-SCH3濃度のピークは100℃にあり、150℃からSOが検出された。これに対してシロキサンで処理すると、未反応のCHSHが検出されなくなる温度は200℃程度に上昇し、200℃付近で多量のCH3S-SCH3が検出された。その結果、SOの生成温度も、シロキサン未処理の場合に比べ、50℃程度高温側へシフトした。以上のように、シロキサンとの接触によりWOはCHSH酸化活性が低下した。
CH SH応答
図6に、200℃~400℃での、乾燥空気中0.5ppmのCHSHへの応答を示し、(0)~(30)の記号は改質時のシロキサン蒸発量を示す。応答1では、CHSH含有雰囲気中と空気中の抵抗値が等しく、応答は実質的に無い。これに対してシロキサン蒸気で処理すると、大きなCHSH応答が得られ、250℃~350℃付近に応答のピークがある。以上のように、実施例では高い応答で1ppm以下のメルカプタン化合物を検出できる。
WOガスセンサ2を別途に製造し、環状シロキサン化合物による改質を別の実験設備を用い、実施例と同様の条件で行った。シロキサンの蒸発量は10μL相当であった。ガスセンサ2を430℃で駆動し、メチルメルカプタン1ppm、水素300ppmに対する応答を測定した。結果を表1に示す。なお比較例はシロキサンによる処理を行わなかったセンサである。
表1 メチルメルカプタン応答と水素応答
メチルメルカプタン1ppmへの応答 水素300ppmへの応答
実施例 10 2.2
比較例 5 2.5
* 応答は空気中とガス中との抵抗値の比である。
表1の実験で用いたガスセンサでの、トルエン、エタノール、デカン各3ppmへの応答(ガスセンサ温度430℃)への応答を測定した。結果を表2に示す。実施例と比較例は、エタノール応答、デカン応答に有意差は見られない。しかしトルエン応答は実施例の方が高い。
表2 トルエン等への応答
トルエン応答 エタノール応答 デカン応答
実施例 10 4.0 4.2
比較例 6.5 3.8 4.0
* 応答は空気中とガス中との抵抗値の比、ガス濃度は3ppmである。
2 ガスセンサ
4 基板
6 空洞
8 絶縁膜
10 ヒータ
11,12 電極
14 ガス感応膜
20 ガス検出装置
21 マイクロコンピュータ
22 ヒータドライブ
23 A/Dコンバータ
24 ガス検出部

R1 負荷抵抗
Vcc 検出電圧

Claims (2)

  1. WOをシロキサン化合物蒸気と接触させると共に、WO に接触したシロキサン化合物を熱分解し、熱分解による生成物をWO に担持させることにより、メルカプタン化合物への感度を高める、WO系ガスセンサの改質方法。
  2. 槽内にWOガスセンサを収容し、前記シロキサン化合物蒸気を前記槽内に供給することを特徴とする、請求項1のWO系ガスセンサの改質方法。
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