JP3541968B2 - 硫化水素系ガスのセンサ - Google Patents
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Description
【0001】
【発明の利用分野】
この発明は、H2SやCH3SH,(CH3)2S等の硫化水素系のガスの検出に関し、特に1ppmオーダーの低濃度での検出に関する。
【0002】
【従来技術】
H2SやCH3SH等の硫化水素系ガスは毒性が高く強い悪臭を有し、トイレの換気や脱臭の制御あるいは食品の鮮度検出のため、1ppm程度での検出が要求されている。H2Sの検出用には主として金属酸化物半導体ガスセンサが研究され、例えばSnO2を用いたH2Sセンサが提案されている(山添他,センサーアンドアクチュエータB,9巻197頁,1992年,同第2回ケミカルセンサーシンポジウム予講集287頁,ハワイ,ホノルル,1993年)。しかながら金属酸化物半導体ガスセンサでは1ppm以下のH2S検出には感度が不足し、かつ応答性能も不十分である。
【0003】
【発明の課題】
この発明の課題は、固体電解質を用いた新たな硫化水素系ガスのセンサを提供し、1ppm以下の硫化水素系ガスを速やかに検出できるようにすることにある。
【0004】
【発明の構成と作用】
この発明の硫化水素系ガスのセンサは、ZrO2やCeO2等の酸素イオン導電性固体電解質の表面に各々貴金属系の参照極と検出極とを設け、検出極表面を、硫化水素系ガスの酸化反応を行う金属酸化物半導体層で被覆したものである。この発明の硫化水素系ガスのセンサはまた、酸素イオン導電性固体電解質の表面に、貴金属系の参照極と、貴金属と硫化水素系ガスの酸化反応を行う金属酸化物半導体の混合物を用いた検出極とを設けたものである。ここで酸素イオン導電性固体電解質にはY2O3やCaOで安定化したZrO2、あるいはCeO2等を用い、形状はチューブ状でも平板状でも良い。検出極や参照極は貴金属電極とし、検出極は酸素をイオン化できる程度の電極活性を必要とするので、PtやRh,Pd,Ir,Ru,Osやその合金を用いる。参照極は低活性電極で良く、酸素のイオン化活性は特に必要としないので、前記の貴金属以外にAuやAg電極でも良い。検出極はWO3やSnO2,In2O3等の金属酸化物半導体層で被覆し、特にWO3が好ましい。
【0005】
金属酸化物半導体層の役割は硫化水素系ガスの酸化にある。例えば検出極と参照極間のポテンシャルを検出信号とするポテンシャル法では、貴金属電極による酸素のイオン化反応による電位と、金属酸化物半導体による硫化水素系ガスの酸化反応による電位との混成電位で、硫化水素系ガスの濃度に依存したポテンシャルが生じる。また例えば検出極と参照極を短絡し両者間の電流を検出信号とする電流法では、参照極側から酸素イオンを輸送し、金属酸化物半導体層と固体電解質界面で輸送された酸素イオンにより硫化水素系ガスを酸化する。そして酸素イオンの移動に伴う電流を検出し、検出信号とする。実施例ではPt等の貴金属を金属酸化物半導体層で被覆して検出極としたセンサを示すが、これらを混合して検出極としても良い。例えばポテンシャル法では、金属酸化物半導体と貴金属の混合物で、貴金属により酸素をイオン化し、金属酸化物半導体により酸素イオンを消費して硫化水素等を酸化すれば、両者の混成電位が得られる。また電流法では、参照極から輸送された酸素イオンを貴金属表面のスピルオーバー等を通じて金属酸化物半導体へ輸送し、硫化水素等の酸化反応に消費すれば良い。
【0006】
ポテンシャル法と電流法を比較するとポテンシャル法が好ましく、発明者は、電流法では検出信号にオーバーシュートが生じ不安定であることや、信号のガス濃度依存性が低いことを見い出した。このため安定でオーバーシュートがないポテンシャル法が好ましい。この発明では1ppm以下のH2S等の硫化水素系ガスを検出でき、応答時間は例えば90%応答で2〜3分程度と短く、速やかに低濃度の硫化水素系ガスを検出できる。
【0007】
【実施例】
図1〜図6に、実施例の硫化水素系ガスのセンサを示す。図1に実験に用いたガスセンサの構造を示し、図において、2はY2O3(8mol%)で安定化したZrO2チューブで、CaOで安定化したZrO2やCeO2等でも良い。ZrO2チューブ2の先端の内外両面には多孔質のPtペースト4,4を塗布し、Pt金網6,6をペースト4,4に部分的に埋設してPt線8,8を接続し、出力を取り出せるようにする。Ptペースト4,4に替えてIrやRh,Pd,Ru等の貴金属ペーストを用いてもよく、特にZrO2チューブ2の内面の参照極側ではAuペースト等の活性の低いペーストを用いても良い。同様にPt金網6,6に替えて、IrやRh,Pd等の金網を用いても良い。10は厚さ約0.5mmの多孔質WO3層で、WO3に替えてSnO2やIn2O3等の他の金属酸化物半導体を用いても良い。金属酸化物半導体層10の役割はH2S等のガスの酸化にあり、しかも酸化に必要な酸素イオンをZrO22やPtペースト4等から受け取り、かつ酸化の結果生じる電子をPtペースト4等へ輸送できることが必要である。このため、金属酸化物半導体層10には硫化水素への酸化活性が高く、しかも導電性を備えたものが好ましい。なおWO3等の金属酸化物半導体を、検出極側のPtペースト4と混合し、貴金属/金属酸化物半導体の混合電極としても良い。12は、ZrO2チューブ2を400℃程度の動作温度に加熱するためのヒータである。
【0008】
実施例のガスセンサは次のようにして製造した。ZrO2チューブ2の先端の内外両面にPtペースト4,4を塗布し、Pt線8を予め取り付けたPt金網6,6をペースト4,4に一部埋設し、空気中1200℃で30分間焼結した。次いでパラタングステン酸アンモニウムを空気中600℃で5時間焼成して得たWO3を粉砕し、水を加えてペースト状にして、検出極側のPt金網6上に塗布し、空気中で600℃4時間焼成してWO3層10とした。
【0009】
実施例のガスセンサは、参照極と検出極間のポテンシャル、あるいは参照極と検出極とを短絡した際の短絡電流の何れでもH2S等のガスを検出することができる。またこのセンサは、例えば参照極側を清浄空気等の基準雰囲気に接触させ、検出極側を被検雰囲気に接触させて使用する。検出極での反応はポテンシャル法の場合、酸素を酸素イオンへイオン化し、H2S等のガスをこの酸素イオンで酸化することである。そしてこれらの反応に伴う混成電位を、Pt線8,8間のポテンシャルとして検出する。この場合参照極は反応に寄与せず、単に参照電位を発生させるだけである。また電流法の場合、検出極側でH2S等のガスを酸化し、これに必要な酸素イオンを参照極側からZrO2チューブ2を介して輸送する。この場合の参照極の役割は、酸素を酸素イオンへイオン化することである。
【0010】
電極材料について検討すると、ポテンシャル法の場合、参照極側の電極材料にはAuやAgを含む全ての貴金属材料を用いることができ、検出極側には雰囲気中の酸素を酸素イオンにイオン化できる程度の活性を備えた貴金属材料を用い、AuとAgを除く全ての貴金属材料を用いることができる。また電流法の場合、参照極,検出極の何れもAuとAgを除く全ての貴金属材料を用いることができる。
【0011】
H2S等のガスの検出反応の大部分は検出極側で生じ、参照極側は電流法の場合でも酸素をイオン化する程度の反応しか必要としない。この結果、センサの構造を例えば図2のように単純化することができる。図2のセンサでは、平板上のY2O3で安定化したZrO2基板3の両面を多孔質のPtペースト4,4で被覆し、検出極側ではPtペースト4上にWO3層10を被覆する。参照極側ではPtペースト4の他にヒータ13を設け、電圧計14で両極間のポテンシャルを検出し、ヒータ電源16でヒータ13を駆動する。この場合、参照極の電極電流はごく僅かで、参照極,検出極の双方を被検雰囲気に接触させることができる。被検雰囲気中の酸素は検出極側で酸素イオンに還元され、生じた酸素イオンによってH2S等のガスが酸化されて水蒸気やSO2等として放出される。参照極では酸素のイオン化に伴う解離平衡が生じ、H2S等への酸化活性は低く、被検雰囲気に参照極をさらしても、検出の妨げとはならない。
【0012】
実施例のガスセンサの特性を説明する。図3は、図1のガスセンサを用いて、ヒータ12により参照極と検出極とを約400℃に加熱し、12ppmまでのH2Sに接触させた際の検出極/参照極間の起電力の変化を示す。12ppmのH2Sに対して80mV以上の出力が得られ、0.6ppmのH2Sに対しても30mV程度の出力が得られる。またH2Sに接触させた際の応答時間は90%応答で2〜3分程度と短く、空気中に戻すと約20分間で起電力は元の値に戻る。
【0013】
H2S濃度と起電力の定常値との関係を図4に示す。参照極に対する検出極の電位はH2S濃度が10倍変化する毎に約40mV減少し、H2S0.6ppmと空気中との間には30mV程度の起電力があり、0.6ppm未満のH2Sも検出できる。妨害ガスとして20ppmのSO2と1000ppmのCO2とを検討したが、同じ400℃でこれらのガスに対する起電力変化は、SO220ppmの場合で−15mV、CO21000ppmの場合で−20mVであり、H2Sに比べると極めて低感度である。従ってこのセンサはH2Sへの選択性が高く、またCH3SHや(CH3)2S等のH2S誘導体に対してもH2Sと同様の感度や応答特性が得られた。
【0014】
H2Sの検出ではWO3層10が決定的な役割を果たし、WO3層10を取り除くとセンサの特性は一変し、図5の特性となる。WO3層10のないセンサでは、H2S感度は小さく、応答時間は遅く、H2Sとの接触後90分経過しても起電力が定常値に達しない。注目すべきことに、実施例ではH2Sとの接触により検出極の電位が低下するのに対して、WO3層10を取り除いた比較例では逆に検出極の電位が増加する。これはWO3層10が無い場合、検出極での反応が全く異なることを示している。
【0015】
発明者は、H2Sの検出機構を以下のように考察した。実施例のセンサは式(1)の電池とし表すことができる。
air,Pt |YSZ| Pt,WO3,H2S in air (1)
(参照極) (O2−導電体) (検出極)
この電池は、式(2)の電池と式(3)の電池とが混在したものと表現できる。
air,Pt|YSZ|Pt,H2S in air (2)
air,Pt|YSZ|WO3(Pt),H2S in air (3)
ここで参照極側のポテンシャルは、式(4)の酸素と酸素イオン間の平衡反応で定まる。
O2+4e− = 2O2− (4)
一方検出極では、Ptペースト4やPt金網6で式(5)の酸素のイオン化反応が進み、生じた酸素はWO3層10でのH2Sの酸化反応(式(6))で消費される。検出極でのPtペースト4やPt金網6の役割は、WO3層10側に酸素イオンを供給し、酸化で生じた電子を受け取ることにある。検出極のポテンシャルは式(5)の酸素のイオン化反応と式(6)のH2Sの酸化反応との混成電位で定まり、両者の反応電流は等しく、混成電位Mは図6の機構で定まる。
O2+4e− → 2O2− (5)
H2S+3O2− → H2O+SO2+6e− (6)
【0016】
図6の縦軸は検出極のポテンシャルを、横軸は式(5)及び式(6)の反応電流を表す。式(5)の酸素のイオン化と式(6)のH2Sの酸化は反応電流が等しいので、H2Sの分極曲線と酸素の還元曲線との交点で混成電位が定まる。ここでC1やC2をH2Sや酸素の濃度とし、 C2>C1 と仮定する。ppmオーダーのH2Sを検出するため酸素濃度の変化はごく僅かで、酸素のイオン化反応に付いてターフェルの式が成立し、混成電位は酸素の還元電流の対数に対して直線的に変化する。一方H2S濃度が極く低いため限界電流が生じ、電流値を増加させるとポテンシャルは急激に変化する。そこで例えば酸素濃度C1とし、H2S濃度をC1からC2に増加させると、混成電位はH2S濃度の対数に比例して変化する。このことは、H2S濃度が10倍増加する毎に、ポテンシャルが40mV減少するとの結果に一致する。また酸素濃度を人為的に増加させると、ポテンシャルはこれに応じて増加し、図6の検出機構と合致した。
【0017】
既に示したように、WO3層10の役割はH2Sの酸化であり、H2Sに対して選択的な酸化活性を持つ金属酸化物半導体であれば、任意のものを用いることができる。そこでH2Sの検出材料として有効な金属酸化物半導体ガスセンサの材料をWO3層10に替えて用いることができ、例えばWO3に替えてSnO2でも良い。また図5に示したように、WO3層10が無い場合、H2Sに対するポテンシャルの変化はきわめて小さいので、図2のガスセンサのように、ZrO2基板3の両面を被検雰囲気に接触させても良い。さらに図2では、ZrO2基板3の両面に参照極と検出極とを設けたが、これらをZrO2基板3の同じ面上に集約しても良い。
【0018】
発明者はこれ以外に、図1のガスセンサの参照極と検出極とを短絡し、その間の短絡電流からH2Sを検出することを試みた。しかしながらこの場合、H2S感度は低く、例えばH2S10ppmに対して40〜50μA程度で、H2Sに接触させるとオーバーシュートがしばしば生じ、しかも得られる電流値は不安定であった。このため電流法よりも、検出極と参照極間のポテンシャルからH2S等のガスを検出する方が好ましい。
【0019】
【発明の効果】
この発明では、1ppm以下の低濃度の硫化水素系ガスを、例えば2〜3分程度の90%応答時間で速やかに検出できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例のH2Sセンサの断面図
【図2】変形例のH2Sセンサの断面図
【図3】実施例の400℃での0.6〜12ppmのH2Sへの応答特性を示す特性図
【図4】実施例の400℃での起電力のH2S濃度依存性を示す特性図
【図5】WO3被覆を施さなかった従来例での、4000℃での起電力とH2S濃度との関係を示す特性図
【図6】実施例でのH2S検出機構を示す特性図
【符号の説明】
2,3 Y2O3安定化ZrO2
4 Ptペースト
6 Pt金網
8 Pt線
10 WO3層
12,13 ヒータ
14 電圧計
16 ヒータ電源
【発明の利用分野】
この発明は、H2SやCH3SH,(CH3)2S等の硫化水素系のガスの検出に関し、特に1ppmオーダーの低濃度での検出に関する。
【0002】
【従来技術】
H2SやCH3SH等の硫化水素系ガスは毒性が高く強い悪臭を有し、トイレの換気や脱臭の制御あるいは食品の鮮度検出のため、1ppm程度での検出が要求されている。H2Sの検出用には主として金属酸化物半導体ガスセンサが研究され、例えばSnO2を用いたH2Sセンサが提案されている(山添他,センサーアンドアクチュエータB,9巻197頁,1992年,同第2回ケミカルセンサーシンポジウム予講集287頁,ハワイ,ホノルル,1993年)。しかながら金属酸化物半導体ガスセンサでは1ppm以下のH2S検出には感度が不足し、かつ応答性能も不十分である。
【0003】
【発明の課題】
この発明の課題は、固体電解質を用いた新たな硫化水素系ガスのセンサを提供し、1ppm以下の硫化水素系ガスを速やかに検出できるようにすることにある。
【0004】
【発明の構成と作用】
この発明の硫化水素系ガスのセンサは、ZrO2やCeO2等の酸素イオン導電性固体電解質の表面に各々貴金属系の参照極と検出極とを設け、検出極表面を、硫化水素系ガスの酸化反応を行う金属酸化物半導体層で被覆したものである。この発明の硫化水素系ガスのセンサはまた、酸素イオン導電性固体電解質の表面に、貴金属系の参照極と、貴金属と硫化水素系ガスの酸化反応を行う金属酸化物半導体の混合物を用いた検出極とを設けたものである。ここで酸素イオン導電性固体電解質にはY2O3やCaOで安定化したZrO2、あるいはCeO2等を用い、形状はチューブ状でも平板状でも良い。検出極や参照極は貴金属電極とし、検出極は酸素をイオン化できる程度の電極活性を必要とするので、PtやRh,Pd,Ir,Ru,Osやその合金を用いる。参照極は低活性電極で良く、酸素のイオン化活性は特に必要としないので、前記の貴金属以外にAuやAg電極でも良い。検出極はWO3やSnO2,In2O3等の金属酸化物半導体層で被覆し、特にWO3が好ましい。
【0005】
金属酸化物半導体層の役割は硫化水素系ガスの酸化にある。例えば検出極と参照極間のポテンシャルを検出信号とするポテンシャル法では、貴金属電極による酸素のイオン化反応による電位と、金属酸化物半導体による硫化水素系ガスの酸化反応による電位との混成電位で、硫化水素系ガスの濃度に依存したポテンシャルが生じる。また例えば検出極と参照極を短絡し両者間の電流を検出信号とする電流法では、参照極側から酸素イオンを輸送し、金属酸化物半導体層と固体電解質界面で輸送された酸素イオンにより硫化水素系ガスを酸化する。そして酸素イオンの移動に伴う電流を検出し、検出信号とする。実施例ではPt等の貴金属を金属酸化物半導体層で被覆して検出極としたセンサを示すが、これらを混合して検出極としても良い。例えばポテンシャル法では、金属酸化物半導体と貴金属の混合物で、貴金属により酸素をイオン化し、金属酸化物半導体により酸素イオンを消費して硫化水素等を酸化すれば、両者の混成電位が得られる。また電流法では、参照極から輸送された酸素イオンを貴金属表面のスピルオーバー等を通じて金属酸化物半導体へ輸送し、硫化水素等の酸化反応に消費すれば良い。
【0006】
ポテンシャル法と電流法を比較するとポテンシャル法が好ましく、発明者は、電流法では検出信号にオーバーシュートが生じ不安定であることや、信号のガス濃度依存性が低いことを見い出した。このため安定でオーバーシュートがないポテンシャル法が好ましい。この発明では1ppm以下のH2S等の硫化水素系ガスを検出でき、応答時間は例えば90%応答で2〜3分程度と短く、速やかに低濃度の硫化水素系ガスを検出できる。
【0007】
【実施例】
図1〜図6に、実施例の硫化水素系ガスのセンサを示す。図1に実験に用いたガスセンサの構造を示し、図において、2はY2O3(8mol%)で安定化したZrO2チューブで、CaOで安定化したZrO2やCeO2等でも良い。ZrO2チューブ2の先端の内外両面には多孔質のPtペースト4,4を塗布し、Pt金網6,6をペースト4,4に部分的に埋設してPt線8,8を接続し、出力を取り出せるようにする。Ptペースト4,4に替えてIrやRh,Pd,Ru等の貴金属ペーストを用いてもよく、特にZrO2チューブ2の内面の参照極側ではAuペースト等の活性の低いペーストを用いても良い。同様にPt金網6,6に替えて、IrやRh,Pd等の金網を用いても良い。10は厚さ約0.5mmの多孔質WO3層で、WO3に替えてSnO2やIn2O3等の他の金属酸化物半導体を用いても良い。金属酸化物半導体層10の役割はH2S等のガスの酸化にあり、しかも酸化に必要な酸素イオンをZrO22やPtペースト4等から受け取り、かつ酸化の結果生じる電子をPtペースト4等へ輸送できることが必要である。このため、金属酸化物半導体層10には硫化水素への酸化活性が高く、しかも導電性を備えたものが好ましい。なおWO3等の金属酸化物半導体を、検出極側のPtペースト4と混合し、貴金属/金属酸化物半導体の混合電極としても良い。12は、ZrO2チューブ2を400℃程度の動作温度に加熱するためのヒータである。
【0008】
実施例のガスセンサは次のようにして製造した。ZrO2チューブ2の先端の内外両面にPtペースト4,4を塗布し、Pt線8を予め取り付けたPt金網6,6をペースト4,4に一部埋設し、空気中1200℃で30分間焼結した。次いでパラタングステン酸アンモニウムを空気中600℃で5時間焼成して得たWO3を粉砕し、水を加えてペースト状にして、検出極側のPt金網6上に塗布し、空気中で600℃4時間焼成してWO3層10とした。
【0009】
実施例のガスセンサは、参照極と検出極間のポテンシャル、あるいは参照極と検出極とを短絡した際の短絡電流の何れでもH2S等のガスを検出することができる。またこのセンサは、例えば参照極側を清浄空気等の基準雰囲気に接触させ、検出極側を被検雰囲気に接触させて使用する。検出極での反応はポテンシャル法の場合、酸素を酸素イオンへイオン化し、H2S等のガスをこの酸素イオンで酸化することである。そしてこれらの反応に伴う混成電位を、Pt線8,8間のポテンシャルとして検出する。この場合参照極は反応に寄与せず、単に参照電位を発生させるだけである。また電流法の場合、検出極側でH2S等のガスを酸化し、これに必要な酸素イオンを参照極側からZrO2チューブ2を介して輸送する。この場合の参照極の役割は、酸素を酸素イオンへイオン化することである。
【0010】
電極材料について検討すると、ポテンシャル法の場合、参照極側の電極材料にはAuやAgを含む全ての貴金属材料を用いることができ、検出極側には雰囲気中の酸素を酸素イオンにイオン化できる程度の活性を備えた貴金属材料を用い、AuとAgを除く全ての貴金属材料を用いることができる。また電流法の場合、参照極,検出極の何れもAuとAgを除く全ての貴金属材料を用いることができる。
【0011】
H2S等のガスの検出反応の大部分は検出極側で生じ、参照極側は電流法の場合でも酸素をイオン化する程度の反応しか必要としない。この結果、センサの構造を例えば図2のように単純化することができる。図2のセンサでは、平板上のY2O3で安定化したZrO2基板3の両面を多孔質のPtペースト4,4で被覆し、検出極側ではPtペースト4上にWO3層10を被覆する。参照極側ではPtペースト4の他にヒータ13を設け、電圧計14で両極間のポテンシャルを検出し、ヒータ電源16でヒータ13を駆動する。この場合、参照極の電極電流はごく僅かで、参照極,検出極の双方を被検雰囲気に接触させることができる。被検雰囲気中の酸素は検出極側で酸素イオンに還元され、生じた酸素イオンによってH2S等のガスが酸化されて水蒸気やSO2等として放出される。参照極では酸素のイオン化に伴う解離平衡が生じ、H2S等への酸化活性は低く、被検雰囲気に参照極をさらしても、検出の妨げとはならない。
【0012】
実施例のガスセンサの特性を説明する。図3は、図1のガスセンサを用いて、ヒータ12により参照極と検出極とを約400℃に加熱し、12ppmまでのH2Sに接触させた際の検出極/参照極間の起電力の変化を示す。12ppmのH2Sに対して80mV以上の出力が得られ、0.6ppmのH2Sに対しても30mV程度の出力が得られる。またH2Sに接触させた際の応答時間は90%応答で2〜3分程度と短く、空気中に戻すと約20分間で起電力は元の値に戻る。
【0013】
H2S濃度と起電力の定常値との関係を図4に示す。参照極に対する検出極の電位はH2S濃度が10倍変化する毎に約40mV減少し、H2S0.6ppmと空気中との間には30mV程度の起電力があり、0.6ppm未満のH2Sも検出できる。妨害ガスとして20ppmのSO2と1000ppmのCO2とを検討したが、同じ400℃でこれらのガスに対する起電力変化は、SO220ppmの場合で−15mV、CO21000ppmの場合で−20mVであり、H2Sに比べると極めて低感度である。従ってこのセンサはH2Sへの選択性が高く、またCH3SHや(CH3)2S等のH2S誘導体に対してもH2Sと同様の感度や応答特性が得られた。
【0014】
H2Sの検出ではWO3層10が決定的な役割を果たし、WO3層10を取り除くとセンサの特性は一変し、図5の特性となる。WO3層10のないセンサでは、H2S感度は小さく、応答時間は遅く、H2Sとの接触後90分経過しても起電力が定常値に達しない。注目すべきことに、実施例ではH2Sとの接触により検出極の電位が低下するのに対して、WO3層10を取り除いた比較例では逆に検出極の電位が増加する。これはWO3層10が無い場合、検出極での反応が全く異なることを示している。
【0015】
発明者は、H2Sの検出機構を以下のように考察した。実施例のセンサは式(1)の電池とし表すことができる。
air,Pt |YSZ| Pt,WO3,H2S in air (1)
(参照極) (O2−導電体) (検出極)
この電池は、式(2)の電池と式(3)の電池とが混在したものと表現できる。
air,Pt|YSZ|Pt,H2S in air (2)
air,Pt|YSZ|WO3(Pt),H2S in air (3)
ここで参照極側のポテンシャルは、式(4)の酸素と酸素イオン間の平衡反応で定まる。
O2+4e− = 2O2− (4)
一方検出極では、Ptペースト4やPt金網6で式(5)の酸素のイオン化反応が進み、生じた酸素はWO3層10でのH2Sの酸化反応(式(6))で消費される。検出極でのPtペースト4やPt金網6の役割は、WO3層10側に酸素イオンを供給し、酸化で生じた電子を受け取ることにある。検出極のポテンシャルは式(5)の酸素のイオン化反応と式(6)のH2Sの酸化反応との混成電位で定まり、両者の反応電流は等しく、混成電位Mは図6の機構で定まる。
O2+4e− → 2O2− (5)
H2S+3O2− → H2O+SO2+6e− (6)
【0016】
図6の縦軸は検出極のポテンシャルを、横軸は式(5)及び式(6)の反応電流を表す。式(5)の酸素のイオン化と式(6)のH2Sの酸化は反応電流が等しいので、H2Sの分極曲線と酸素の還元曲線との交点で混成電位が定まる。ここでC1やC2をH2Sや酸素の濃度とし、 C2>C1 と仮定する。ppmオーダーのH2Sを検出するため酸素濃度の変化はごく僅かで、酸素のイオン化反応に付いてターフェルの式が成立し、混成電位は酸素の還元電流の対数に対して直線的に変化する。一方H2S濃度が極く低いため限界電流が生じ、電流値を増加させるとポテンシャルは急激に変化する。そこで例えば酸素濃度C1とし、H2S濃度をC1からC2に増加させると、混成電位はH2S濃度の対数に比例して変化する。このことは、H2S濃度が10倍増加する毎に、ポテンシャルが40mV減少するとの結果に一致する。また酸素濃度を人為的に増加させると、ポテンシャルはこれに応じて増加し、図6の検出機構と合致した。
【0017】
既に示したように、WO3層10の役割はH2Sの酸化であり、H2Sに対して選択的な酸化活性を持つ金属酸化物半導体であれば、任意のものを用いることができる。そこでH2Sの検出材料として有効な金属酸化物半導体ガスセンサの材料をWO3層10に替えて用いることができ、例えばWO3に替えてSnO2でも良い。また図5に示したように、WO3層10が無い場合、H2Sに対するポテンシャルの変化はきわめて小さいので、図2のガスセンサのように、ZrO2基板3の両面を被検雰囲気に接触させても良い。さらに図2では、ZrO2基板3の両面に参照極と検出極とを設けたが、これらをZrO2基板3の同じ面上に集約しても良い。
【0018】
発明者はこれ以外に、図1のガスセンサの参照極と検出極とを短絡し、その間の短絡電流からH2Sを検出することを試みた。しかしながらこの場合、H2S感度は低く、例えばH2S10ppmに対して40〜50μA程度で、H2Sに接触させるとオーバーシュートがしばしば生じ、しかも得られる電流値は不安定であった。このため電流法よりも、検出極と参照極間のポテンシャルからH2S等のガスを検出する方が好ましい。
【0019】
【発明の効果】
この発明では、1ppm以下の低濃度の硫化水素系ガスを、例えば2〜3分程度の90%応答時間で速やかに検出できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例のH2Sセンサの断面図
【図2】変形例のH2Sセンサの断面図
【図3】実施例の400℃での0.6〜12ppmのH2Sへの応答特性を示す特性図
【図4】実施例の400℃での起電力のH2S濃度依存性を示す特性図
【図5】WO3被覆を施さなかった従来例での、4000℃での起電力とH2S濃度との関係を示す特性図
【図6】実施例でのH2S検出機構を示す特性図
【符号の説明】
2,3 Y2O3安定化ZrO2
4 Ptペースト
6 Pt金網
8 Pt線
10 WO3層
12,13 ヒータ
14 電圧計
16 ヒータ電源
Claims (4)
- 酸素イオン導電性固体電解質の表面に各々貴金属系の検出極と参照極とを設け、検出極表面を、硫化水素系ガスの酸化反応を行う金属酸化物半導体層で被覆した硫化水素系ガスのセンサ。
- 酸素イオン導電性固体電解質の表面に、貴金属系の参照極と、貴金属と硫化水素系ガスの酸化反応を行う金属酸化物半導体の混合物を用いた検出極とを設けた硫化水素系ガスのセンサ。
- 前記金属酸化物半導体をWO 3 ,SnO 2 ,またはIn 2 O 3 としたことを特徴とする、請求項1または2の硫化水素系ガスのセンサ。
- 前記金属酸化物半導体をWO3としたことを特徴とする、請求項3の硫化水素系ガスのセンサ。
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