JP7239437B2 - 鉄粉低水素系被覆アーク溶接棒 - Google Patents

鉄粉低水素系被覆アーク溶接棒 Download PDF

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Description

本発明は、鉄粉低水素系被覆アーク溶接棒に関し、特に直流電源を用いた多層盛溶接において、アーク安定性が良好であり、溶接のまま(以下、AWという。)及び溶接後熱処理(溶接熱影響部の軟化、溶接部の靱性改善及び溶接残留応力の除去を目的に行われる熱処理:以下、PWHTという。)後の溶接金属の強度が590MPa以上の強度が得られ、かつ、低温での靱性が優れる鉄粉低水素系被覆アーク溶接棒に関するものである。
低水素系被覆アーク溶接棒は、アーク安定性が良好で、耐割れ性や溶接金属の低温靱性が優れていることから、拘束が強い箇所や高張力鋼の溶接に広く使用されている。
一方、最近の溶接構造物の大型化にともない、使用鋼材の高強度化が要望されている。また、天然資源の開発を目的とした大型海洋構造物や球形タンク等では、安全性の確保のため、溶接金属の低温での靱性の更なる向上や、PWHT後の機械的性能確保が重要となる。しかし、一般に溶接金属の強度増加と低温靱性確保は相反する傾向を示すため、高強度化とともに低温靱性を向上させるためには新たな手法が必要となる。
また、低水素系被覆アーク溶接棒は、一般的に交流電源を用いて溶接するように設計されるが、球形タンクや海洋構造物の現場溶接では直流電源を使用することが多い。低水素系被覆アーク溶接棒を直流電源を用いて溶接すると、磁気吹きや被覆剤の片溶けが生じてアークが不安定となり、健全なビードが得られないという課題がある。このため、直流電源を使用した場合においても、アークの安定性に優れ、溶接金属の機械性能が良好な鉄粉低水素系被覆アーク溶接棒の開発要望が高い。
このような状況に対し、溶接金属の機械的性能の向上手段として、種々の方法が提案されている。例えば、特許文献1には、Ni含有量が1質量%以下でも低温靱性が優れた溶接金属を得ることを目的とした被覆アーク溶接棒に関する技術の開示がある。しかし、特許文献1に記載の技術は、直流電源を用いて溶接を行った場合、磁気吹きや被覆の片溶けが発生しやすいなど十分な溶接作業性が得られないという問題点がある。
一方、特許文献2には、直流電源を用いた溶接でアーク安定性が良好で低温靱性が優れた溶接金属を得る被覆アーク溶接棒の技術の開示がある。しかし、特許文献2に記載の技術は、AWでは溶接金属の低温靭性の向上は得られるものの、PWHT後の溶接金属では十分な低温靭性が得られないという問題点がある。
また、特許文献3には、直流電源を用いた溶接でCTOD値が優れた溶接金属を得る被覆アーク溶接棒の技術の開示がある。しかし、特許文献3に記載の技術もAWでの溶接金属の機械性能は得られるが、PWHT後では溶接金属の十分な強度及び低温靭性は得られないという問題点がある。
特開2014-151338号公報 特開2015-196183号公報 特開2010-227968号公報
そこで本発明は、かかる問題点に鑑みて案出されたものであって、590MPa級高張力鋼での直流電源を用いた多層盛溶接において、アーク安定性等の溶接作業性が良好であり、かつ、AW及びPWHT後の溶接金属の適正な強度が得られ、低温での優れた靱性が得られる590MPa級高張力鋼用の鉄粉低水素系被覆アーク溶接棒を提供することを目的とする。
本発明の要旨は、鋼心線に被覆剤が塗装されている鉄粉低水素系被覆アーク溶接棒において、被覆剤全質量に対する質量%で、金属炭酸塩の1種又は2種以上の合計:25~45%、金属弗化物の1種又は2種以上の合計:5~15%、Ti酸化物のTiO2換算値の合計:3~8%、Si酸化物のSiO2換算値の合計:4~10%、Zr酸化物のZrO2換算値の合計:0.5~2.0%、Al酸化物のAl23換算値の合計:0.5~3.0%、Si:2~5%、Mn:2~6%、Ni:3~8%、Ti:0.5~2.5%、B合金及びB酸化物のB換算値の1種又は2種以上の合計:0.15~0.40%、MgO:0.2~0.8%、CaO:0.1~0.3%、鉄粉:15~25%、Na酸化物、Na弗化物、K酸化物及びK弗化物:Na2O換算値及びK2O換算値の合計:1.5~4.5%を含有し、残部は塗装剤、鉄合金粉からのFe分及び不可避不純物からなる被覆剤を前記鋼心線に鉄粉低水素系被覆アーク溶接棒全質量に対する質量%で35~45%の被覆率で塗装したことを特徴とする。
また、被覆剤全質量に対する質量%で、Mo:0.05~0.30%を更に含有することも特徴とする鉄粉低水素系被覆アーク溶接棒にある。
本発明の鉄粉低水素系被覆アーク溶接棒によれば、590MPa級高張力鋼での直流電源を用いた多層盛溶接において、アーク安定性等の溶接作業性が良好であり、AW及びPWHT後においても高強度の溶接金属が得られ、かつ、溶接金属の低温での安定した靱性が得られる。したがって、各種鋼構造物に対する溶接継手の信頼性を大幅に向上することができる。
本発明者らは、上述した課題を解決するために、590MPa級高張力鋼での直流電源を用いた溶接において、アーク安定性等の溶接作業性が良好で、AW及びPWHT後の適正な強度及び低温靱性が優れる溶接金属が得られ、かつ、PWHT後の溶接金属の強度の低下を抑えることが可能な鉄粉低水素系被覆アーク溶接棒の被覆剤の組成成分について詳細に検討した。
その結果、Mn及びNiの含有量を適正とすることでAW及びPWHT後でも溶接金属の強度を確保することができ、さらに、金属炭酸塩、Si、Ti及びBの含有量を適正にし、鋼心線への被覆率を適正にすることで、低温での溶接金属の靭性を向上することができることを本発明者らは見出した。
また、溶接作業性に関して、アークの安定化及びスパッタ発生量の低減には、金属炭酸塩、金属弗化物、Ti酸化物のTiO2換算値の合計、Al酸化物のAl23換算値の合計、Si、Ti、CaO、鉄粉の含有量及びNa酸化物、Na弗化物、K酸化物及びK弗化物のNa2O換算値及びK2O換算値の合計量を適正にすることで可能となり、ビード形状及びビード外観は金属炭酸塩、金属弗化物、Ti酸化物のTiO2換算値の合計、Si酸化物のSiO2換算値の合計、Zr酸化物のZrO2換算値の合計、Al酸化物のAl23換算値の合計及びMgOの含有量を適正にすることで改善できることを本発明者らは見出した。
さらに、スラグ剥離性は金属炭酸塩、Si酸化物のSiO2換算値の合計及びAl酸化物のAl23換算値の合計量を適正にすることで改善できることを本発明者らは見出した。
また、溶接棒自体が赤熱する棒焼けを防止するには、鉄粉の含有量を適正にすることで、溶接棒の保護筒の片溶けを防止するには金属弗化物、Zr酸化物のZrO2換算値の合計、MgO及び鉄粉の含有量を適正にすることで、被覆剤の塗装性等の溶接棒の生産性はNa酸化物、Na弗化物、K酸化物及びK化合物のNa2O換算値のK2O換算値の合計量を適正にすることで改善できることを本発明者らは見出した。
以下、本発明における鉄粉低水素系被覆アーク溶接棒について、被覆剤中の各組成の限定理由について詳細に説明する。なお、鉄粉低水素系被覆アーク溶接棒の各成分組成における含有率は、被覆剤全質量に対する質量%で表すこととし、単に%と記載する。
[金属炭酸塩の1種又は2種以上の合計:25~45%]
金属炭酸塩は、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム等を指し、アークの熱で分解してCO2ガスを発生し、溶接金属を大気から保護する効果がある。金属炭酸塩の1種又は2種以上の合計が25%未満では、シールド効果が不足し、ブローホールが発生しやすくなる。また、溶接金属中に大気中の窒素が混入し、AW及びPWHT後の低温靱性が低下する。一方、金属炭酸塩の1種又は2種以上の合計が45%を超えると、アークが不安定となってビード形状が凸状になり、スラグ剥離性も悪くなる。従って、金属炭酸塩の1種又は2種以上の合計は25~45%とする。
[金属弗化物の1種又は2種以上の合計:5~15%]
金属弗化物は、蛍石、弗化マグネシウム、弗化アルミニウム、弗化リチウム、弗化ソーダ、珪弗化カリウム等を指し、溶融スラグの流動性を調整してビード外観を良好にする効果がある。金属弗化物の1種又は2種以上の合計が5%未満では、溶融スラグの流動性が悪くなりスラグ被包性が悪くなってビード外観が不良になる。一方、金属弗化物の1種又は2種以上の合計が15%を超えると、被覆筒の形状が不完全となって片溶け状態となり、アークが不安定となる。従って、金属弗化物の1種又は2種以上の合計は5~15%とする。
[Ti酸化物のTiO2換算値の合計:3~8%]
Ti酸化物は、ルチール、酸化チタン、チタンスラグ等から添加され、アークを安定にし、溶融スラグの粘性を調整してビード形状を良好にする効果がある。Ti酸化物のTiO2換算値の合計が3%未満であると、アークが不安定となり、ビード形状が不良になる。一方、Ti酸化物のTiO2換算値の合計が8%を超えると、溶融スラグの粘性が高くなってスラグの流動性が悪くなるので、ビード形状が凸状となる。従って、Ti酸化物のTiO2換算値の合計は3~8%とする。
[Si酸化物のSiO2換算値の合計:4~10%]
Si酸化物は、珪砂、カリ長石、珪酸ソーダや珪酸カリウム等の水ガラスの固質分、珪灰石等から添加され、溶融スラグの粘性を高め、適切な粘性のスラグを確保してビード形状を良好にする効果がある。Si酸化物のSiO2換算値の合計が4%未満では、溶融スラグの粘性が低くなり、ビード形状が不良となる。一方、Si酸化物のSiO2換算値の合計が10%を超えると、スラグがガラス状になり、スラグ剥離性が不良になる。従って、Si酸化物のSiO2換算値の合計は4~10%とする。
[Zr酸化物のZrO2換算値の合計:0.5~2.0%]
Zr酸化物は、ジルコンサンド、ジルコニア等から添加され、融点が2700℃と高く、被覆剤及び鋼心線が過熱した際も安定した耐火性を有し、被覆剤の片溶けを抑制する上で有効である。Zr酸化物のZrO2換算値の合計が0.5%未満では、被覆剤の片溶けが発生しやすくなる。一方、Zr酸化物のZrO2換算値の合計が2.0%を超えると、溶融スラグの粘性が高くなってスラグの流動性が悪くなり、ビード形状が凸状となる。従って、Zr酸化物のZrO2換算値の合計は0.5~2.0%とする。
[Al酸化物のAl23換算値の合計:0.5~3.0%]
Al酸化物は、アルミナ、カリ長石等から添加され、アークを安定させるとともにビード形状を良好にする効果がある。Al酸化物のAl23の合計が0.5%未満であると、アークが不安定となりビード形状が不良となる。一方、Al酸化物のAl23の合計が3.0%を超えると、スラグがガラス状となってスラグ剥離が不良になる。従って、Al酸化物のAl23の合計は0.5~3.0%とする。
[Si:2~5%]
Siは、金属Si、Fe-Si、Fe-Si-Mn等から添加され、溶接金属の脱酸を目的として使用されるとともに、溶接作業性の面からも必要である。Siが2%未満では、脱酸不足となって溶接金属中にブローホールが発生しやすく、アークも不安定となる。一方、Siが5%を超えると、溶接金属の粒界に低融点酸化物を析出させ、AW及びPWHT後の溶接金属の低温靱性が低下する。従って、Siは2~5%とする。
[Mn:2~6%]
Mnは、金属Mn、Fe-Mn、Fe-Si-Mn等から添加され、Siと同様に脱酸剤として重要であり、溶接金属組織を微細化して溶接金属の低温靱性及び強度を高める効果がある。また、焼入れ性が強いことから、PWHT後の強度確保にも有効である。Mnが2%未満では、AW及びPWHT後の溶接金属の強度及び低温靭性が低下する。また、脱酸不足となって溶接金属中にブローホールが発生しやすくなる。一方、Mnが6%を超えると、溶接金属の強度が過剰に高くなり、靭性が低下する。また、焼入れ性が強く作用し、PWHT後の溶接金属の強度が高くなって靱性が低下する。従って、Mnは2~6%とする。
[Ni:3~8%]
Niは、金属Niから添加され、溶接金属の強度及び低温靭性を向上させる元素である。Niが3%未満では、AW及びPWHT後の必要な溶接金属の強度及び低温靭性を確保することができない。一方、Niが8%を超えると、溶接金属の強度が過剰に高くなり、低温靭性が低下する。また、PWHT後の溶接金属の低温靭性も低下する。従って、Niは3~8%とする。
[Ti:0.5~2.5%]
Tiは、金属Ti、Fe-Ti等から添加され、脱酸剤として有効であると同時に、アークの電位傾度を低下させてアークを安定化させる効果がある。また、溶接金属のミクロ組織を微細化して低温靭性を向上させる効果がある。Tiが0.5%未満では、アークが不安定となり、アーク長が伸びて大気中の酸素を取り込みやすくなるので、溶接金属中に酸素量が多くなるとともに、溶接金属のミクロ組織が微細化されず、AW及びPWHT後の溶接金属の低温靭性が低下する。一方、Tiが2.5%を超えると、溶接金属中のTi酸化物の析出が増加し、AW及びPWHT後の溶接金属の低温靱性が低下する。従って、Tiは0.5~2.5%とする。
[B合金及びB酸化物のB換算値の1種又は2種以上の合計:0.15~0.40%]
Bは、金属B、Fe-B、Fe-Mn-B、硼砂、コレマナイト等から添加され、微量で焼入れ性を向上させて粒界フェライトの生成抑制に有効な元素で、溶接金属の低温靭性の向上に効果がある。B合金及びB酸化物のB換算値の1種又は2種以上の合計が0.15%未満では、Bによる粒界フェライトの抑制効果が得られず、フェライト粒が粗大になりやすく、溶接金属の金属組織が粗くなってAW及びPWHT後の溶接金属の低温靱性が低下する。一方、B合金及びB酸化物のB換算値の1種又は2種以上の合計が0.40%を超えると、溶接金属が粗大なラス状組織になり、AW及びPWHT後の溶接金属の低温靭性が低下する。従って、B合金及びB酸化物のB換算値の1種又は2種以上の合計は0.15~0.40%とする。
[MgO:0.2~0.8%]
MgOは、酸化マグネシウム、マグネシアクリンカー等から添加され、耐熱性に優れており、被覆剤の片溶けを抑制する効果がある。MgOが0.2%未満では、被覆剤の片溶けが発生しやすくなる。一方、MgOが0.8%を超えると、溶融スラグの粘性が高くなるので、ビード形状が凸状となる。従って、MgOは0.2~0.8%とする。
[CaO:0.1~0.3%]
CaOは、チタン酸カルシウム、珪灰石等から添加され、アークを安定化させてスパッタ発生の低減に効果がある。CaOが0.1%未満では、その効果が得られず、アークが不安定となり、スパッタ発生量が多くなる。一方、CaOが0.3%を超えると、アークが弱くなって不安定になり、融合不良等の溶接欠陥が発生しやすくなる。従って、CaOは0.1~0.3%とする。
[鉄粉:15~25%]
鉄粉は、アークの電位傾度を低下させてアーク長を短くして被覆剤の片溶けを防止させる効果があり、特に直流電源を用いた溶接において最も重要な原材料である。鉄粉が15%未満では、アーク長が長くなって被覆剤の片溶けが発生しやすくなる。一方、鉄粉が25%を超えると、被覆アーク溶接棒による溶接では溶接後半になると被覆アーク溶接棒自体が赤熱(以下、棒焼けという。)してしまい、溶接が困難となる。従って、鉄粉は15~25%とする。
[Na酸化物、Na弗化物、K酸化物及びK弗化物:Na2O換算値及びK2O換算値の合計で1.5~4.5%]
Na酸化物及びNa弗化物は、珪酸ソーダ等の水ガラスの固質分や弗化ソーダ等から添加され、溶接棒製造時の塗装性及び溶接時のアークの安定性を向上する効果がある。また、K酸化物及びK弗化物は、珪酸カリウム等の水ガラスの固質分、珪弗化カリ及びカリ長石等から添加され、溶接作業性確保の上から必要である。Na酸化物、Na弗化物、K酸化物及びK弗化物のNa2O換算値及びK2O換算値の合計が1.5%未満では、アークが不安定になる。また、生産時の塗装性が悪くなるとともに、溶接棒製造時に被覆剤表面に割れが生じやすくなるなど被覆アーク溶接棒の生産性が低下する。一方、Na酸化物、Na弗化物、K酸化物及びK弗化物のNa2O換算値及びK2O換算値の合計が4.5%を超えると、アークの吹き付けが強くなり、スパッタ発生量が多くなる。従って、Na酸化物、Na弗化物、K酸化物及びK弗化物のNa2O換算値及びK2O換算値の合計は1.5~4.5%とする。
[被覆率:鉄粉低水素系被覆アーク溶接棒全質量に対する被覆剤の質量%で35~45%]
被覆剤の鋼心線の外周への被覆率は、溶接時の耐シールド性に大きく影響する。被覆率が鉄粉低水素系被覆アーク溶接棒全質量に対する被覆剤の質量%(以下、単に%という。)が35%未満では、被覆剤自体が少なくなってシールド不足となり、溶接金属中のN含有量が増加してAW及びPWHT後の溶接金属の靱性が低下する。一方、被覆剤の被覆率が45%を超えると、スラグ量が過多となってアークが不安定になる。従って、被覆率は35~45%とする。
[Mo:0.05~0.30%]
Moは、金属Mo、Fe-Mo等から添加され、溶接金属の強度をより向上させる効果がある。また、焼入れ性が強いことから、PWHT後の強度確保にも有効である。Moが0.05%未満では、AW及びPWHT後の溶接金属の強度を向上する効果が得られない。一方、Moが0.30%を超えると、AW及びPWHT後の溶接金属の強度が過剰に高くなり、靭性が低下する。従って、Moは0.05~0.30%とする。
なお、本発明の鉄粉低水素系被覆アーク溶接棒の被覆剤の残部は、塗装剤、Fe-Si、Fe-Mn、Fe-Si-Mn、Fe-Ti、Fe-B、Fe-Mn-B、Fe-Mo等の鉄合金粉からのFe分及び不可避不純物である。塗装剤は、ヘクトライト、マイカ等が用いられ、1種以上を合計で5%以下が好ましい。不可避不純物は特に限定しないが、耐割れ性の観点から、Pは0.010%以下、Sは0.010%以下が好ましい。
また、使用する鋼心線は、JIS G3523 SWY11を用いることが好ましいが、Cは0.05~0.08%が良く、強度を調整するために被覆剤からもCを適正に調整できる。鋼心線のPは靭性を低下させるので0.010%以下、Sはスラグの流動性を悪くするので0.010%以下、NはBとの結合力が強く焼き入れ性を低下させるので0.005%以下であることが好ましい。
以下、実施例により本発明の効果を具体的に説明する。
直径4.0mm、長さ400mmのJIS G3523 SWY11の鋼心線(C:0.06質量%、Si:0.01質量%、Mn:0.48質量%、P:0.009質量%、S:0.005質量%、N:0.0023質量%)に、表1に示す組成成分の被覆剤を表1に示す被覆率で塗装した後、乾燥させて各種鉄粉低水素系被覆アーク溶接棒を試作した。
Figure 0007239437000001
上記の各種試作溶接棒を用い、表2に示す成分の板厚20mmの鋼板を開先角度:20°、ギャップ16mmの裏当金付開先とし、立向姿勢でアーク溶接を行った。電源は直流電源を使用し、溶接電流140A、溶接入熱25kJ/cm、予熱・パス間温度100~150℃で溶接継手を作製した。
Figure 0007239437000002
溶接作業性の評価は、各試作溶接棒を用い、上記溶接時にアーク安定性、スパッタ発生量、ビード形状・ビード外観、スラグ剥離性、片溶け、棒焼けの有無を目視にて調査した。溶接終了後、JIS Z 3104に準じてX線透過試験を行い、溶接欠陥の有無を調査した。また、溶接金属試験は、AWの溶接金属及びPWHT後の溶接金属を評価対象とした。PWHTは、温度580℃、保持時間4.5hrの条件で行った。溶接後の各試験板の表側2mm下の溶接金属よりJIS Z2242 Vノッチ衝撃試験片、板厚中央の溶接金属よりJIS Z2241 10号引張試験片を採取した。引張試験は、引張強さが610~730MPaを良好、靱性の評価は、試験温度-50℃でシャルピー衝撃試験を実施し、吸収エネルギーの3回の平均値が70J以上を良好とした。それらの試験結果を表3にまとめて示す。
Figure 0007239437000003
表1及び表3中溶接棒No.1~No.18が本発明例、溶接棒No.19~No.35は比較例である。本発明例であるNo.1~No.18は、被覆剤の金属炭酸塩の合計、金属弗化物の合計、Ti酸化物のTiO2換算値の合計、Si酸化物のSiO2換算値の合計、Zr酸化物のZrO2換算値の合計、Al酸化物のAl23換算値の合計、Si、Mn、Ni、Ti、B合金及びB酸化物のB換算値の合計、MgO、CaO、鉄粉、Na酸化物、Na弗化物、K酸化物及びK弗化物のNa2O換算値及びK2O換算値の合計、被覆率がいずれも適量であるので、アーク状態が良好でスパッタ発生量が少なく、保護筒の状態も良好で、棒焼けも発生せず、ビード外観、ビード形状、スラグ剥離性及びスラグ被包性が良好であるなど溶接作業性が良好で、生産性も良好で、溶接欠陥も無く、AW及びPWHT後の溶接金属の引張強さ及び吸収エネルギーが良好であり、極めて満足な結果であった。また、溶接棒No.1、3、5、8、10、14、18はMoが適量なので、溶接金属の引張強さが700MPa以上であった。
比較例中溶接棒No.19は、Zr酸化物のZrO2換算値の合計が多いので、ビード形状が凸状であった。また、Siが多いので、AW及びPWHT後の吸収エネルギーが低かった。
溶接棒No.20は、金属炭酸塩の合計が多いので、アークが不安定で、ビード形状が凸状となり、スラグ剥離性が不良であった。また、Mnが少ないので、AW及びPWHT後の溶接金属の引張強さ及び吸収エネルギーが低かった。さらに、ブローホールが発生した。
溶接棒No.21は、Si酸化物のSiO2換算値の合計が多いので、スラグ剥離性が不良であった。また、Niが少ないので、AW及びPWHT後の溶接金属の引張強さ及び吸収エネルギーが低かった。
溶接棒No.22は、金属弗化物の合計が多いので、アークが不安定で片溶けが発生した。また、鉄粉が多いので、棒焼けが発生した。さらに、Tiが多いので、AW及びPWHT後の溶接金属の吸収エネルギーが低かった。
溶接棒No.23は、Mnが多いので、AW及びPWHT後の溶接金属の引張強さが高く、吸収エネルギーが低かった。また、CaOが多いので、アークが不安定で融合不良が発生した。
溶接棒No.24は、B合金及びB酸化物のB換算値の合計が多いので、AW及びPWHT後の溶接金属の吸収エネルギーが低かった。また、被覆率が高いので、アークが不安定であった。
溶接棒No.25は、Niが多いので、AWの溶接金属の引張強さが高く、AW及びPWHT後の溶接金属の吸収エネルギーが低かった。また、MgOが多いので、ビード形状が凸状であった。
溶接棒No.26は、金属炭酸塩の合計が少ないので、AW及びPWHT後の溶接金属の吸収エネルギーが低かった。また、ブローホールが発生した。さらに、CaOが少ないので、アークが不安定でスパッタ発生量が多かった。
溶接棒No.27は、Tiが少ないので、アークが不安定であった。また、AW及びPWHT後の溶接金属の吸収エネルギーが低かった。
溶接棒No.28は、Ti酸化物のTiO2換算値の合計が多いので、ビード形状が凸状であった。また、B合金及びB酸化物のB換算値の合計が少ないので、AW及びPWHT後の溶接金属の吸収エネルギーが低かった。
溶接棒No.29は、Siが少ないので、アークが不安定で、ブローホールが発生した。また、鉄粉が少ないので、片溶けが発生した。
溶接棒No.30は、Zr酸化物のZrO2換算値の合計が少ないので、片溶けが発生した。また、Na酸化物、Na弗化物、K酸化物及びK弗化物のNa2O換算値及びK2O換算値の合計が多いので、アークが過剰に強すぎ、スパッタ発生量が多かった。
溶接棒No.31は、金属弗化物の合計が少ないので、ビード外観が不良であった。また、Moが多いので、AW及びPWHT後の溶接金属の引張強さが高く、吸収エネルギーが低かった。
溶接棒No.32は、Si酸化物のSiO2換算値の合計が少ないので、ビード形状が不良であった。また、被覆率が低いので、AW及びPWHT後の溶接金属の吸収エネルギーが低かった。
溶接棒No.33は、Na酸化物、Na弗化物、K酸化物及びK弗化物のNa2O換算値及びK2O換算値の合計が少ないので、アークが不安定で、生産性が不良であった。また、Al酸化物のAl23換算値の合計が多いので、スラグ剥離性が不良であった。
溶接棒No.34は、Ti酸化物のTiO2換算値の合計が少ないので、アークが不安定で、ビード形状が凸状であった。また、Niが少ないので、AW及びPWHT後の溶接金属の引張強さ及び吸収エネルギーも低かった。さらに、Moが少ないので、AW及びPWHT後の溶接金属の強度向上効果が得られなかった。
溶接棒No.35は、Al酸化物のAl23換算値の合計が少ないので、アークが不安定で、ビード形状が不良であった。また、MgOが少ないので、片溶けが発生した。

Claims (2)

  1. 鋼心線に被覆剤が塗装されている鉄粉低水素系被覆アーク溶接棒において、
    前記被覆剤は、被覆剤全質量に対する質量%で、
    金属炭酸塩の1種又は2種以上の合計:25~45%、
    金属弗化物の1種又は2種以上の合計:5~15%、
    Ti酸化物のTiO2換算値の合計:3~8%、
    Si酸化物のSiO2換算値の合計:4~10%、
    Zr酸化物のZrO2換算値の合計:0.5~2.0%、
    Al酸化物のAl23換算値の合計:0.5~3.0%、
    Si:2~5%、
    Mn:2~6%、
    Ni:3~8%、
    Ti:0.5~2.5%、
    B合金及びB酸化物のB換算値の1種又は2種以上の合計:0.15~0.40%、
    MgO:0.2~0.8%、
    CaO:0.1~0.3%、
    鉄粉:15~25%、
    Na酸化物、Na弗化物、K酸化物及びK弗化物:Na2O換算値及びK2O換算値の合計で1.5~4.5%を含有し、
    残部は塗装剤、鉄合金粉からのFe分及び不可避不純物からなる被覆剤を前記鋼心線に鉄粉低水素系被覆アーク溶接棒全質量に対する質量%で35~45%の被覆率で塗装することを特徴とする鉄粉低水素系被覆アーク溶接棒。
  2. 被覆剤全質量に対する質量%で、
    Mo:0.05~0.30%を更に含有することを特徴とする請求項1に記載の鉄粉低水素系被覆アーク溶接棒。
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