JP7210410B2 - 鉄粉低水素系被覆アーク溶接棒 - Google Patents

鉄粉低水素系被覆アーク溶接棒 Download PDF

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Description

本発明は、鉄粉低水素系被覆アーク溶接棒に関し、生産性が良好で、特に直流電源を用いた多層盛溶接において、スラグ剥離性が良好で、スラグの焼き付きや棒焼けが発生しないなど溶接作業性が良好で、溶接欠陥が無く、溶接金属の強度が490MPa以上の強度が得られ、低温での靱性が優れる鉄粉低水素系被覆アーク溶接棒に関する。
低水素系被覆アーク溶接棒は、金属炭酸塩や金属弗化物を主成分としており、溶接時に金属炭酸塩がアーク熱で分解されてCO2ガスを発生して溶接金属を大気から遮断するため、溶接金属の機械性能が優れており、天然資源の開発を目的とした大型海洋構造物や溶接金属の低温での靭性が重要視される球形タンクの溶接等にも広く使用されている。
一般的に、低水素系被覆アーク溶接棒は交流電源を用いて溶接するように被覆剤成分を設計することが多いが、屋外での海洋構造物や球形タンクの現場溶接では直流電源を用いる頻度が高い。直流電源でこの低水素系被覆アーク溶接棒で溶接した場合、磁気吹きや被覆剤の片溶けが生じてアークが不安定となり、健全なビードが得られないという問題がある。
一方、直流電源での溶接に良く用いられる被覆アーク溶接棒に鉄粉低水素系被覆アーク溶接棒がある。鉄粉低水素系被覆アーク溶接棒は、金属炭酸塩及び金属弗化物を主成分としつつ鉄粉を多く含有している。このため、溶着量が多く溶接作業効率が良好であるとともに、アーク状態がソフトであり、直流電源を用いた場合においても磁気吹きや片溶け等が発生しにくいなどアークの安定性に優れており、かつ、優れた溶接金属の機械性能が得られるという特性がある。従って、鉄粉低水素系被覆アーク溶接棒は、直流電源を用いる際や屋外での複雑な溶接構造物の溶接等で多く使用されている。
しかし、鉄粉低水素系被覆アーク溶接棒は、イルミナイト系やライムチタニア系被覆アーク溶接棒に比べて溶接作業性がやや劣り、特にスラグ剥離性が悪くスラグ焼き付きが問題となっている。これは、スラグ自体が緻密で溶接ビード表面に強固に付着するため、生成したスラグをタガネやチッピングハンマーで強打しても完全にスラグを除去するのは容易ではなく、溶接作業能率が低下することによるものである。
このような状況に対し、被覆アーク溶接棒での溶接で優れた溶接金属の機械的性能を確保しつつ、アーク安定性及びスラグ剥離性が優れるなど溶接作業性が良好な被覆アーク溶接棒に関する技術が種々提案されている。
例えば、特許文献1には、高張力鋼の溶接で、強度及び靭性が優れた溶接金属が得られ、耐割れ性及び被覆剤の耐吸湿性に優れ、アーク安定性、ビード形状及びスラグ剥離性など溶接作業性が良好な低水素系被覆アーク溶接棒の技術が開示されている。特許文献1に記載の低水素系被覆アーク溶接棒を使用すれば、通常の交流電源を用いた溶接であれば良好なアーク安定性及びスラグ剥離性など溶接作業性が得られ、かつ、機械性能が優れた溶接金属が得られる。しかし、直流電源を用いて溶接を行った場合では、磁気吹きや被覆の片溶けが発生しやすくなるなど良好な溶接作業性が得られないという問題点がある。
また、特許文献2には、酸化鉄の含有量を極力少なくすることで、スラグ生成・凝固時の熱膨張と収縮の差を大きくしてスラグ剥離性を改善する低水素系被覆アーク溶接棒の技術が開示されている。しかし、特許文献2に記載の低水素系被覆アーク溶接棒による溶接は、スラグ剥離性は向上するものの、スラグの焼き付きが多く、スラグ除去に時間を要するなど溶接作業能率が悪い。また、直流電源を用いた溶接の場合では、磁気吹きや被覆の片溶けが発生しやすくアーク安定性が悪いなど良好な溶接作業性が得られない。また、特許文献2に記載の低水素系被覆アーク溶接棒には、Si及びMn以外の合金成分が規定されておらず、溶接金属の優れた機械性能を得ることは難しいという問題点がある。
さらに、特許文献3には、被覆剤中のSiを低減してAl及びMgを適量添加することで、溶接金属中の酸素量を極力低くして溶接金属の機械性能を向上させるとともに、Mn酸化物を適量添加することでスラグ生成・凝固時の熱膨張と収縮の差を大きくしてスラグ剥離性を改善する低水素系被覆アーク溶接棒が開示されている。しかし、特許文献3に記載の低水素系被覆アーク溶接棒による溶接では、直流電源を用いた溶接では、磁気吹きや被覆の片溶けが発生するなどアーク安定性が悪く、良好な溶接作業性が得られないという問題点があった。
特開2017-001053号公報 特開平05-111791号公報 特開昭63-207496号公報
そこで本発明は、かかる問題点に鑑みて案出されたものであって、生産性が良好で、490MPa級高張力鋼での直流電源を用いた多層盛溶接において、スラグ剥離性が良好で、スラグ焼き付きや棒焼けが発生しないなど溶接作業性が良好で、溶接欠陥が無く、かつ、溶接金属の適正な強度が得られ、低温での優れた靱性が得られる490MPa級高張力鋼用の鉄粉低水素系被覆アーク溶接棒を提供することを目的とする。
本発明の要旨は、鋼心線に被覆剤が塗装されている鉄粉低水素系被覆アーク溶接棒において、前記被覆剤は、被覆剤全質量に対する質量%で、金属炭酸塩の1種又は2種以上の合計:30~50%、金属弗化物の1種又は2種以上の合計:7~15%、Si酸化物のSiO2換算値の合計:4~10%、Al酸化物のAl23換算値の合計:0.5~2.5%、Si:2~5%、Mn:2~5%、Ti:1.5~3.5%、B合金及びB酸化物のB換算値の合計:0.25~0.45%、MgO:0.1~0.7%、CaO:0.1~0.4%、鉄粉:20~30%、Na酸化物、Na弗化物、K酸化物及びK弗化物:Na2O換算値及びK2O換算値の合計で1.5~4.5%を含有し、残部は塗装剤、鉄合金粉からのFe分及び不可避不純物からなる被覆剤を前記鋼心線に鉄粉低水素系被覆アーク溶接棒全質量に対する質量%で35~45%の被覆率で塗装することを特徴とする鉄粉低水素系被覆アーク溶接棒にある。
本発明の鉄粉低水素系被覆アーク溶接棒によれば、生産性が良好で、490MPa級高張力鋼での直流電源を用いた多層盛溶接において、スラグ剥離性が良好で、スラグ焼き付きや棒焼けが発生しないなど溶接作業性が良好で、溶接欠陥が無く、かつ、溶接金属の適正な強度及び低温での安定した靱性が得られる。したがって、溶接作業能率の向上及び溶接部の品質向上に大いに貢献することができ、各種鋼構造物に対する溶接継手の信頼性を大幅に向上することができる。
本発明者らは、上述した課題を解決するために、490MPa級高張力鋼での直流電源を用いた溶接においては鉄粉低水素系被覆アーク溶接棒が適していることから、スラグ剥離性が良好で、スラグ焼き付きや棒焼けが発生しないなど溶接作業性が良好で、溶接欠陥が無く、生産性が良好で、適正な強度及び低温靱性の溶接金属が得られる鉄粉低水素系被覆アーク溶接棒の被覆剤の組成成分について詳細に検討した。
上述した通り、鉄粉低水素系被覆アーク溶接棒は溶接作業性、特にスラグ剥離性が悪くスラグ焼き付きが発生しやすいが、スラグ剥離性に影響する要因として、溶融スラグが凝固する過程でのスラグの熱膨張に対する収縮率や溶接ビード表面積に対するスラグの接触面積があげられる。鉄粉低水素系被覆アーク溶接棒は、鉄粉を多く含有しており、溶融池内でFeO等の酸化鉄を生成するが、この酸化鉄はスラグ生成・凝固時の熱膨張と収縮の差が少ない。また、イルミナイト系やライムチタニア系被覆アーク溶接棒に比べてスラグの流動性が悪いので、溶接ビード表面の凹凸が大きくなり、溶接ビード表面とスラグの接触面積が大きくなるため、スラグ剥離性が顕著に不良になる。
また、鉄粉低水素系被覆アーク溶接棒は、生成されたスラグが粗になりやすく、スラグが溶接ビード表面を被包していても溶接ビード表面の細部までスラグが行き届かないため、スラグ焼き付きが発生しやすくなる。
本発明者らは、上述した問題を解決するべく鉄粉低水素系被覆アーク溶接棒中の各成分について種々検討した結果、スラグ剥離性を改善させるためには、Al酸化物及びMgOを適量添加することで、スラグ生成・凝固時の熱膨張と収縮の差を大きくすることができ、スラグ剥離性が改善できることを見出した。また、Si酸化物及びSiを適量添加することにより、スラグをガラス質化できるので、スラグ剥離性を更に改善できることを見出した。さらに、Siより脱酸能の低いMnを適量添加することにより、Siを優先的に酸化させることができ、スラグ剥離性により有効であることを見出した。
また、スラグ焼き付きを防止するには、Tiを適量添加することで、スラグの緻密度を適量にし、ビード表面細部までスラグを被包させることで、スラグ焼き付きを防止できることを見出した。
直流電源を用いた溶接において、アークの安定化及びスパッタ発生量の低減には、金属炭酸塩、金属弗化物、Al酸化物、Si、Ti、MgO、CaO、鉄粉の含有量及びNa酸化物、Na弗化物、K酸化物及びK弗化物のNa2O換算値とK2O換算値の合計量と被覆率を適正にすることで、ビード形状及びビード外観は、金属炭酸塩、金属弗化物、Si酸化物、Al酸化物及びMgOの含有量を適正にすることで改善できることを見出した。
また、溶接棒自体が赤熱化する棒焼け(以下、棒焼けという。)を防止するには、鉄粉の含有量を適正にすることで、溶接棒の保護筒の片溶けを防止するには金属弗化物、MgO及び鉄粉の含有量を適正にすることで、スラグの被包性を改善するには金属弗化物の含有量を適正にすることで、被覆剤の塗装性等の生産性はNa酸化物、Na弗化物、K酸化物及びK弗化物のNa2O換算値とK2O換算値の合計量を適正にすることで改善できることを見出した。
また、溶接金属の機械性能に関しては、Mnの含有量を適正とすることで溶接金属の強度を確保することができ、金属炭酸塩、Si、Ti及びBの含有量を適正にし、鋼心線への被覆率を適正にすることで、低温での溶接金属の靭性を向上することを見出した。
以下、本発明における鉄粉低水素系被覆アーク溶接棒について、被覆剤中の各組成の限定理由について詳細に説明する。なお、鉄粉低水素系被覆アーク溶接棒の各成分組成における含有率は、被覆剤全質量に対する質量%で表すこととし、単に%と記載する。
[金属炭酸塩の1種又は2種以上の合計:30~50%]
金属炭酸塩は、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、炭酸マンガン等を指し、アークの熱で分解してCO2ガスを発生し、溶接金属を大気から保護する効果がある。金属炭酸塩の1種又は2種以上の合計が30%未満では、シールド効果が不足し、ブローホール(BH)が発生しやすくなる。また、溶接金属中に大気中の窒素が混入するので、溶接金属の靱性が低下する。一方、金属炭酸塩の1種又は2種以上の合計が50%を超えると、アークが不安定となってビード形状が凸状になり、スラグ剥離性が悪くなる。従って、金属炭酸塩の1種又は2種以上の合計は30~50%とする。
[金属弗化物の1種又は2種以上の合計:7~15%]
金属弗化物は、蛍石、弗化マグネシウム、弗化アルミニウム、弗化リチウム、弗化ソーダ、珪弗化カリウム等を指し、溶融スラグの流動性を調整してビード外観を良好にする効果がある。金属弗化物の1種又は2種以上の合計が7%未満では、溶融スラグの流動性が悪くなり、スラグ被包性が悪くなってビード外観が不良になる。一方、金属弗化物の1種又は2種以上の合計が15%を超えると、被覆筒の形状が不完全となって片溶け状態となり、アークが不安定となる。従って、金属弗化物の1種又は2種以上の合計は7~15%とする。
[Si酸化物のSiO2換算値の合計:4~10%]
Si酸化物は、珪砂、カリ長石、珪灰石、珪酸ソーダや珪酸カリウム等の水ガラスの固質分等から添加され、スラグをガラス質化してスラグ剥離性を向上させる。また、溶融スラグの粘性を高めるので、ビード形状を良好にする効果がある。Si酸化物のSiO2換算値の合計が4%未満では、スラグの非晶質の割合が高くなり、スラグ剥離性が不良になる。また、溶融スラグの粘性が低くなるので、ビード形状が不良となる。一方、Si酸化物のSiO2換算値の合計が10%を超えると、スラグの粘性が過剰に高くなり、ビード形状が不良になる。従って、Si酸化物のSiO2換算値の合計は4~10%とする。
[Al酸化物のAl23換算値の合計:0.5~2.5%]
Al酸化物は、アルミナ、カリ長石等から添加され、スラグ生成・凝固時の熱膨張と収縮の差を大きくし、スラグ剥離性を良好にする効果がある。また、アークを安定させるとともに、溶融スラグの粘性を高めてビード形状を良好にする効果がある。Al酸化物のAl23の合計が0.5%未満であると、スラグ剥離性が不良となる。また、アークが不安定となり、ビード形状が不良となる。一方、Al酸化物のAl23の合計が2.5%を超えると、スラグ剥離性が不良になる。従って、Al酸化物のAl23の合計は0.5~2.5%とする。
[Si:2~5%]
Siは、金属Si、Fe-Si、Fe-Si-Mn等から添加され、溶接金属の脱酸を目的として使用されるとともに、スラグをガラス質化してスラグ剥離性を改善する効果がある。また、アークを安定化させ、溶接欠陥を防止するなど溶接作業性の面からも必要である。Siが2%未満では、スラグが十分にガラス質化せず、スラグ剥離性が不良となる。また、脱酸不足となって溶接金属中にブローホールが発生しやすくなり、アークが不安定となる。一方、Siが5%を超えると、溶接金属の粒界に低融点酸化物を析出させ、溶接金属の低温靱性が低下する。従って、Siは2~5%とする。
[Mn:2~5%]
Mnは、金属Mn、Fe-Mn、Fe-Si-Mn等から添加され、Siと同様に脱酸剤として添加され、溶接金属組織を微細化して溶接金属の低温靱性及び強度を向上させる。また、Mnより脱酸能の低いSiを優先的に酸化させてSi酸化物の生成を促進させるので、スラグ剥離性を改善する効果がある。Mnが2%未満では、その効果が得られず、溶接金属の強度及び低温靭性が低下するとともに、スラグ剥離性が不良になる。また、脱酸不足となるため、溶接金属中にブローホールが発生しやすくなる。一方、Mnが5%を超えると、溶接金属の強度が過剰に高くなり、靭性が低下する。また、スラグ剥離性が不良となる。従って、Mnは2~5%とする。
[Ti:1.5~3.5%]
Tiは、金属Ti、Fe-Ti等から添加され、脱酸剤として有効であると同時に、アークの電位傾度を低下させてアークを安定化させる効果がある。また、スラグを微細にし、溶接ビード表面の細部までスラグを被包させてスラグの焼き付きを防止する効果がある。さらに、溶接金属組織を微細化して溶接金属の低温靭性を向上させる効果がある。Tiが1.5%未満では、その効果が得られず、アークが不安定となり、スラグ焼き付きが発生しやすくなる。また、溶接金属中に酸素量が多くなり、溶接金属のミクロ組織が微細化されないので、溶接金属の低温靭性が低下する。一方、Tiが3.5%を超えると、溶接金属中のTi酸化物の析出が増加し、溶接金属の低温靱性が低下する。また、スラグが過剰に緻密になり、スラグ焼き付きが発生しやすくなる。従って、Tiは1.5~3.5%とする。
[B合金及びB酸化物のB換算値の合計:0.25~0.45%]
Bは、金属B、Fe-B、Fe-Mn-B、硼砂、コレマナイト等から添加され、微量で焼入れ性を向上させて粒界フェライトの生成抑制に有効な元素で、溶接金属の低温靭性の向上に効果がある。B合金及びB酸化物のB換算値の合計が0.25%未満では、Bによる粒界フェライトの抑制効果が得られず、フェライト粒が粗大になりやすく、溶接金属の金属組織が粗くなって溶接金属の低温靱性が低下する。一方、B合金及びB酸化物のB換算値の合計が0.45%を超えると、溶接金属が粗大なラス状組織になり、溶接金属の低温靭性が低下する。従って、B合金及びB酸化物のB換算値の合計は0.25~0.45%とする。
[MgO:0.1~0.7%]
MgOは、酸化マグネシウム、マグネシアクリンカー等から添加され、耐熱性に優れており、被覆剤の片溶けを抑制してアークを安定化させる効果がある。また、スラグ生成・凝固時の熱膨張と収縮の差が大きいので、スラグ剥離性を良好にする効果がある。MgOが0.1%未満では、被覆剤の片溶けが発生しやすくなり、アークが不安定になるとともに、スラグ剥離性が不良となる。一方、MgOが0.7%を超えると、溶融スラグの粘性が高くなり、ビード形状が凸状となる。従って、MgOは0.1~0.7%とする。
[CaO:0.1~0.4%]
CaOは、チタン酸カルシウム、珪灰石等から添加され、アークを安定化させてスパッタ発生量を低減する効果がある。CaOが0.1%未満では、その効果が得られず、アークが不安定となり、スパッタ発生量が多くなる。一方、CaOが0.4%を超えると、アークが弱くなって不安定になり、融合不良等の溶接欠陥が発生しやすくなる。従って、CaOは0.1~0.4%とする。
[鉄粉:20~30%]
鉄粉は、アークの電位傾度を低下させてアーク長を短くし、被覆剤の片溶けを防止させてアークを安定化させる効果があり、特に直流電源を用いた溶接において溶接作業性の面で重要な原材料である。鉄粉が20%未満では、アーク長が長くなって被覆剤の片溶けが発生しやすくなり、アークが不安定になる。一方、鉄粉が30%を超えると、溶融池内でFeOを生成してスラグ生成・凝固時の熱膨張及び収縮の差を少なくなるため、スラグ剥離性が不良となる。また、溶接後半になると被覆アーク溶接棒自体が赤熱して棒焼けが発生するため、溶接が困難となる。従って、鉄粉は20~30%とする。
[Na酸化物、Na弗化物、K酸化物及びK弗化物:Na2O換算値及びK2O換算値の合計で1.5~4.5%]
Na酸化物及びNa弗化物は、珪酸ソーダ等の水ガラスの固質分や弗化ソーダ等から添加され、溶接棒製造時の塗装性及び溶接時のアークの安定性を向上する効果がある。また、K酸化物及びK弗化物は、珪酸カリウム等の水ガラスの固質分、珪弗化カリウム及びカリ長石等から添加され、溶接作業性確保の上からも必要である。Na酸化物、Na弗化物、K酸化物及びK弗化物のNa2O換算値及びK2O換算値の合計が1.5%未満では、アークが不安定になる。また、生産時の塗装性が悪くなるとともに、溶接棒製造時に被覆剤表面に割れが生じやすくなるなど被覆アーク溶接棒の生産性が低下する。一方、Na酸化物、Na弗化物、K酸化物及びK弗化物のNa2O換算値及びK2O換算値の合計が4.5%を超えると、アークが過剰に強くなり、スパッタ発生量が多くなる。従って、Na酸化物、Na弗化物、K酸化物及びK弗化物のNa2O換算値及びK2O換算値の合計は1.5~4.5%とする。
[被覆率:鉄粉低水素系被覆アーク溶接棒全質量に対する被覆剤の質量%で35~45%]
被覆剤の鋼心線の外周への被覆率は、溶接時の耐シールド性に大きく影響する。被覆率が鉄粉低水素系被覆アーク溶接棒全質量に対する被覆剤の質量%(以下、単に%という。)が35%未満では、被覆剤自体が少なくなってシールド不足となり、溶接金属中のN含有量が増加して溶接金属の靱性が低下する。一方、被覆剤の被覆率が45%を超えると、スラグ量が過多となってアークが不安定になる。従って、被覆率は35~45%とする。
なお、本発明の鉄粉低水素系被覆アーク溶接棒の被覆剤の残部は、塗装剤、Fe-Si、Fe-Mn、Fe-Si-Mn、Fe-Ti、Fe-B、Fe-Mn-B等の鉄合金粉からのFe分及び不可避不純物である。塗装剤は、ヘクトライト、マイカ等が用いられ、1種以上を合計で5%以下が好ましい。不可避不純物は特に限定しないが、耐割れ性の観点から、Pは0.010%以下、Sは0.010%以下が好ましい。
また、Ti酸化物は、ルチール、酸化チタン、チタンスラグ等から添加され、アークを安定化させてスラグ被包性を改善する効果があるが、スラグを緻密化させてスラグ焼き付きを発生しやくするために極力低減するものとし、好ましくはTi酸化物のTiO2換算値の合計で0.1%以下とする。
また、使用する鋼心線は、JIS G3523 SWY11を用いることが好ましいが、Cは0.05~0.08%が良く、強度を調整するために被覆剤からもCを適正に調整できる。鋼心線のPは靭性を低下させるので0.010%以下、Sはスラグの流動性を悪くするので0.010%以下、NはBとの結合力が強く焼き入れ性を低下させるので0.005%以下であることが好ましい。
以下、実施例により本発明の効果を具体的に説明する。
直径4.0mm、長さ400mmのJIS G3523 SWY11の鋼心線(C:0.06質量%、Si:0.01質量%、Mn:0.48質量%、P:0.009質量%、S:0.005質量%、N:0.0023質量%)に、表1に示す組成成分の被覆剤を表1に示す被覆率で塗装した後、乾燥させて各種鉄粉低水素系被覆アーク溶接棒を試作した。
Figure 0007210410000001
表1の各種試作溶接棒を用い、表2に示す成分の板厚20mmの鋼板を開先角度:20°、ギャップ16mmの裏当金付開先とし、立向姿勢でアーク溶接を行った。電源は直流電源を使用し、溶接電流140A、溶接入熱25kJ/cm、予熱・パス間温度100~150℃で溶接継手を作製した。
Figure 0007210410000002
溶接作業性の評価は、各試作溶接棒を用い、上記溶接時にアーク安定性、スパッタ発生量、ビード形状・ビード外観、スラグ剥離性、スラグ焼き付き、片溶け、棒焼けの有無を目視にて調査した。溶接終了後、JIS Z 3104に準じてX線透過試験を行い、溶接欠陥の有無を調査した。
溶接金属試験は、溶接後の各試験板の表側2mm下の溶接金属よりJIS Z2242 Vノッチ衝撃試験片、板厚中央の溶接金属よりJIS Z2241 10号引張試験片を採取した。引張試験は、引張強さが510~630MPaを良好、靱性の評価は、試験温度-50℃でシャルピー衝撃試験を実施し、吸収エネルギーの3回の平均値が70J以上を良好とした。それらの試験結果を表3にまとめて示す。
Figure 0007210410000003
表1及び表3中溶接棒No.1~No.15が本発明例、溶接棒No.16~No.28は比較例である。本発明例である溶接棒No.1~No.15は、被覆剤の金属炭酸塩の合計、金属弗化物の合計、Si酸化物のSiO2換算値の合計、Al酸化物のAl23換算値の合計、Si、Mn、Ti、B合金及びB酸化物のB換算値の合計、MgO、CaO、鉄粉、Na酸化物、Na弗化物、K酸化物及びK弗化物のNa2O換算値及びK2O換算値の合計、被覆率がいずれも適量であるので、生産性が良好で、溶接時のアーク状態が良好でスパッタ発生量が少なく、ビード外観・ビード形状、スラグ被包性及びスラグ剥離性性が良好で、スラグ焼き付きや棒焼け及び片溶けが無いなど溶接作業性が良好で、溶接欠陥も無く、溶接金属の引張強さ及び吸収エネルギーが良好であり、極めて満足な結果であった。
比較例中溶接棒No.16は、金属炭酸塩の合計が多いので、アークが不安定で、ビード形状が凸状であった。また、スラグ剥離性が不良であった。さらに、Siが多いので、溶接金属の吸収エネルギーが低かった。
溶接棒No.17は、金属弗化物の合計が少ないので、スラグ被包性及びビード外観が不良であった。また、Tiが多いので、スラグ焼き付きが発生した。また、溶接金属の吸収エネルギーが低かった。さらに、Na酸化物、Na弗化物、K酸化物及びK弗化物のNa2O換算値及びK2O換算値の合計が少ないので、生産性が不良で、アークが不安定であった。
溶接棒No.18は、Na酸化物、Na弗化物、K酸化物及びK弗化物のNa2O換算値及びK2O換算値の合計が多いので、アークが強く、スパッタ発生量が多かった。
比較例No.19は、Tiが少ないので、アークが不安定で、スラグ焼き付きが発生した。また、溶接金属の吸収エネルギーが低かった。さらに、鉄粉が多いので、スラグ剥離性が不良で、棒焼けが発生した。
溶接棒No.20は、金属炭酸塩の合計が少ないので、溶接部にブローホールが発生した。また、溶接金属の吸収エネルギーが低かった。さらに、Al酸化物のAl23換算値の合計が少ないので、アークが不安定で、ビード形状及びスラグ剥離性が不良であった。
溶接棒No.21は、B合金及びB酸化物のB換算値の合計が多いので、溶接金属の吸収エネルギーが低かった。また、CaOが少ないので、アークが不安定で、スパッタ発生量が多かった。
溶接棒No.22は、Si酸化物のSiO2換算値が多いので、ビード形状が不良であった。また、Mnが少ないので、スラグ剥離性が不良で、溶接部にブローホールが発生した。さらに、溶接金属の引張強さ及び吸収エネルギーが低かった。
溶接部No.23は、Si酸化物のSiO2換算値が少ないので、ビード形状及びスラグ剥離性が不良であった。また、CaOが多いので、アークが不安定で、溶接部に融合不良が発生した。
溶接棒No.24は、金属弗化物の合計が多いので、片溶けが発生し、アークが不安定であった。また、MgOが多いので、ビード形状が不良であった。
溶接棒No.25は、MgOが少ないので、スラグ剥離性が不良であった。また、片溶けが発生し、アークが不安定であった。
溶接棒No.26は、Al酸化物のAl23換算値が多いので、スラグ剥離性が不良であった。また、B合金及びB酸化物のB換算値の合計が少ないので、溶接金属の吸収エネルギーが低かった。さらに、鉄粉が少ないので、片溶けが発生し、アークが不安定であった。
溶接棒No.27は、Mnが多いので、スラグ剥離性が不良で、溶接金属の引張強さが過剰に高く、吸収エネルギーが低かった。また、被覆率が高いので、アークが不安定であった。
溶接棒No.28は、Siが少ないので、アークが不安定で、溶接部にブローホールが発生した。また、スラグ剥離性が不良であった。さらに、被覆率が低いので、溶接金属の吸収エネルギーが低かった。

Claims (1)

  1. 鋼心線に被覆剤が塗装されている鉄粉低水素系被覆アーク溶接棒において、
    前記被覆剤は、被覆剤全質量に対する質量%で、
    金属炭酸塩の1種又は2種以上の合計:30~50%、
    金属弗化物の1種又は2種以上の合計:7~15%、
    Si酸化物のSiO2換算値の合計:4~10%、
    Al酸化物のAl23換算値の合計:0.5~2.5%、
    Si:2~5%、
    Mn:2~5%、
    Ti:1.5~3.5%、
    B合金及びB酸化物のB換算値の合計:0.25~0.45%、
    MgO:0.1~0.7%、
    CaO:0.1~0.4%、
    鉄粉:20~30%、
    Na酸化物、Na弗化物、K酸化物及びK弗化物:Na2O換算値及びK2O換算値の合計で1.5~4.5%を含有し、
    残部は塗装剤、鉄合金粉からのFe分及び不可避不純物からなる被覆剤を前記鋼心線に鉄粉低水素系被覆アーク溶接棒全質量に対する質量%で35~45%の被覆率で塗装することを特徴とする鉄粉低水素系被覆アーク溶接棒。
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