JP7233658B2 - 熱間鍛造用のチタンアルミナイド合金材及びチタンアルミナイド合金材の鍛造方法 - Google Patents

熱間鍛造用のチタンアルミナイド合金材及びチタンアルミナイド合金材の鍛造方法 Download PDF

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Description

本開示は、熱間鍛造用のチタンアルミナイド合金材及びチタンアルミナイド合金材の鍛造方法に関する。
TiAl(チタンアルミナイド)合金は、Ti(チタン)とAl(アルミニウム)との金属間化合物によって構成される合金である。TiAl合金は、耐熱性に優れており、Ni基合金よりも軽量で比強度が大きいことから、タービン翼等の航空機用エンジン部品等に適用されている。但し、TiAl合金は、延性が乏しく難加工材であることから、熱間鍛造する場合には、恒温鍛造が行われる。特開2002-356729号公報(下記特許文献1)では、38~45原子%のAlと、3~10原子%のMnを含有するTiAl基合金が提案されている。この文献には、TiAl基合金素材を加熱して一定温度に保持した後、冷却しながら鍛造することが記載されている。また、特開2008-184665号公報(下記特許文献2)には、Nb,Mo,W及びTaのうちの1種又は2種以上と、Cr,Mn及びVのうちの1種又は2種以上と、Siとを含有するTiAl合金が提案されている。このTiAl合金については、高温クリープ特性を改善するための成分添加によって低下する靱性等を補うために、成分の配合バランスを調節することが記載されている。
特開2002-356729号公報 特開2008-184665号公報
金属材料の恒温鍛造による加工は、金型及び金属材料を加熱して温度を保持しながら実施される。従来のTiAl合金材は加工性が低いので、鍛造加工は低歪速度でおこなわれるため、鍛造速度が低く、製品の製造効率及び経済性の点で不利になる。製品の製造効率を高めて経済性を改善するには、TiAl合金材の高温鍛造性を改善して高速での鍛造加工を可能にする必要がある。しかし、鍛造性を高めるためにTiAl合金材に対して行われる変更は、概して、TiAl合金材の強度を低下させる。TiAl合金材を用いた鍛造製品を満足な品質で効率的に提供するには、TiAl合金材の強度を低下させずに鍛造性の向上を実現することが重要である。
そこで、本開示の課題は、良好なクリープ強度を保持しつつ高温鍛造性が改善された熱間鍛造用のチタンアルミナイド合金材、及び、チタンアルミナイド合金材の鍛造方法を提供し、TiAl合金製品の普及に貢献することである。
本開示の一形態によれば、熱間鍛造用のチタンアルミナイド合金材は、原子数比で、38.0%以上且つ39.9%以下のアルミニウムと、3.0%以上且つ5.0%以下のニオブと、3.0%以上且つ4.0%以下のバナジウムと、0.05%以上且つ0.15%以下の炭素と、残部のチタン及び不可避不純物とからなる化学組成を有することを要旨とする。
また、本開示の他の形態によれば、熱間鍛造用のチタンアルミナイド合金材は、原子数比で、38.0%以上且つ39.9%以下のアルミニウムと、3.0%以上且つ5.0%以下のニオブと、3.0%以上且つ4.0%以下のバナジウムと、0.05%以上且つ0.15%以下の炭素と、0.1%以上且つ0.2%以下のホウ素と、残部のチタン及び不可避不純物とからなる化学組成を有することを要旨とする。
更に、本開示の一形態によれば、チタンアルミナイド合金材の熱間鍛造方法は、上記の熱間鍛造用のチタンアルミナイド合金材を用意する工程と、前記チタンアルミナイド合金材の状態図におけるβ相及び(β+α)相の何れかの相平衡温度領域内の温度に鍛造温度を設定して、非酸化性雰囲気中で前記チタンアルミナイド合金材を前記鍛造温度に保持しながら鍛造する熱間鍛造工程とを有することを要旨とする。
前記熱間鍛造工程における鍛造温度は、1150℃以上且つ1300℃以下であるとよい。また、前記熱間鍛造工程における歪速度は、0.1/秒以上に設定してよく、歪速度を1/秒以上に設定して高速鍛造を実施することができる。
本開示によれば、良好なクリープ強度を保持しつつ熱間鍛造時の加工性が改善された熱間鍛造用のチタンアルミナイド合金材が提供されるので、チタンアルミナイド合金製品の製造効率を高め、経済性の改善によってTiAl合金材の普及に貢献することができる。
TiAl合金材におけるクリープ曲線を示すグラフである。 TiAl合金材における温度とピーク応力(歪速度:1/秒)との関係を示すグラフである。 Ti-39原子%Alを基本組成とし、β相安定化元素の含有率による相平衡状態を示す状態図である。 熱間鍛造用のTiAl合金材における温度とピーク応力(歪速度:1/秒)との関係を示すグラフである。 TiAl合金材に熱間鍛造を行った鍛造体を撮影した写真である。
TiAl(チタンアルミナイド)合金は、Ti(チタン)とAl(アルミニウム)との金属間化合物であるTiAl(γ相)、TiAl(α相)等で構成される合金材である。TiAl合金は、歪速度が小さければ恒温鍛造による熱間加工が可能であることが知られているが、加工性の更なる改善が求められている。また、タービン翼等のTiAl合金が使用される部品の材料において、耐熱性及び高温強度は非常に重要な材料特性であるので、TiAl合金材の改良においてはクリープ強度の低下を回避することが肝要である。また、TiAl合金材の鍛造性の向上は、恒温鍛造における加熱温度を低下させて鍛造装置等の熱的負担を軽減させる上でも有用であり、汎用的な鍛造設備の適用を可能にする。
本開示では、TiAl合金材のクリープ強度の低下を抑制しつつ加工性を改善して、クリープ強度を保持し熱間加工性が改善された熱間鍛造用のチタンアルミナイド合金材を提示する。また、熱間鍛造用のTiAl合金材(以下、鍛造用のTiAl合金材と称することがある)の製造方法、及び、熱間鍛造用のTiAl合金材の鍛造方法について記載する。TiAl合金の熱間加工性が改善されることで、より高速での恒温鍛造が可能になるので、強度に優れたTiAl合金製品を効率的に製造可能になる。従って、製品供給における経済性が向上し、TiAl合金材の利用拡大にも貢献し得る。また、熱間加工性が改善されることによって、恒温鍛造における温度を低下することが可能になるので、鍛造装置等の熱負荷が低下し、汎用の鍛造設備の利用が可能になる。これにより、TiAl合金製品の製造効率の向上が可能である。
以下に、本開示の実施形態について、図面を用いて詳細に説明する。
金属素材に添加する様々な成分の中で、炭素(C)は、金属素材を硬化し強度を向上させるのに有効な成分である。TiAl合金材についても、炭素はクリープ強度を高める効果を有する。この点は、TiAl合金材のクリープ曲線を示すグラフである図1から理解される。図1には、Ti-43%Al-5%V-4%Nb(原子数比)を基本組成とするTiAl合金材における炭素の有無によるクリープ曲線の相違が示されており、炭素の添加によってTiAl合金材のクリープ強度が向上することが明らかである。
一方、TiAl合金材の鍛造性は、炭素を添加することによって低下する。この点は、TiAl合金材における温度とピーク応力との関係を示す図2のグラフから理解される。図2は、図1で示した2種のTiAl合金材と、その中間の炭素含有量に調製されたTiAl合金とについて、1/秒の歪速度でピーク応力を測定した結果を示す。図2によれば、炭素の含有量の増加によってピーク応力が増加するので、熱間加工性の改善の点では、炭素の配合は少ないことが望ましいと見なされる。
本開示においては、TiAl合金の熱間加工性を改善するために、状態図におけるβ相の領域が低温側に拡大するようにTiAl合金の化学組成を設計する。これにより、炭素の配合による熱間加工性の低下を抑制して、クリープ強度と熱間加工性とを兼ね備えた熱間鍛造用のTiAl合金材を提供する。以下に、熱間鍛造用のTiAl合金材の化学組成、及び、TiAl合金材を構成する各成分について説明する。
Tiの金属組織は、常温ではα相を示し、同素変態温度以上に加熱した状態ではβ相を示す。合金化元素としてAlをTiに添加すると、Alは、α相(α-Ti)を安定化するように作用して合金の変態温度を上昇させる。他方、Mo(モリブデン)、V(バナジウム)、Nb(ニオブ)、Fe(鉄)、Cr(クロム)、Ni(ニッケル)等の元素を添加すると、これらの元素は、β相(β-Ti)を安定化するように作用し、合金の変態温度を低下させる。
本開示において、熱間鍛造用のチタンアルミナイド合金材(TiAl合金材)は、Ti及びAlを主要成分とするTiAl合金をベースとして構成され、β相安定化元素及び炭素を含有する。β相安定化元素として、Nb(ニオブ)及びV(バナジウム)が使用される。具体的には、TiAl合金材は、原子数比で、38.0%以上且つ39.9%以下のアルミニウムと、3.0%以上且つ5.0%以下のニオブと、3.0%以上且つ4.0%以下のバナジウムと、0.05%以上且つ0.15%以下の炭素と、残部のチタン及び不可避不純物とからなる化学組成を有するとよい。
熱間鍛造用のTiAl合金材は、更に、必要に応じてB(ホウ素)を含有してもよい。ホウ素を含有する場合、TiAl合金材は、原子数比で、38.0%以上且つ39.9%以下のアルミニウムと、3.0%以上且つ5.0%以下のニオブと、3.0%以上且つ4.0%以下のバナジウムと、0.05%以上且つ0.15%以下の炭素と、0.1%以上且つ0.2%以下のホウ素と、残部のチタン及び不可避不純物とからなる化学組成を有する。
状態図においてβ相の領域を低温側に拡大させるには、β相を安定化させる元素の添加が有効であり、β相は、相対的に柔らかく熱間加工性に優れる性質を有する。本開示における熱間鍛造用のTiAl合金材は、β相を安定化させる元素を含有するTiAl合金で構成された溶製材であり、目標とする鍛造温度において金属組織がβ相を含む状態になるように設計された化学組成を有する。また、Alは、α相安定化元素であるので、β相安定化元素が有効に機能するように、TiAl合金の化学組成の設計においてAlの含有率は低く設定される。熱間鍛造用のTiAl合金材は、B(ホウ素)を含有してもよく、ホウ素の添加は任意である。ホウ素の添加によって、金属組織の結晶粒が微細化し、合金材の高温での延性が高まる。従って、必要に応じて、好適な含有率の範囲でホウ素を熱間鍛造用のTiAl合金材に配合することができる。
上述の化学組成を有する鍛造用のTiAl合金材は、熱間鍛造のために恒温状態に加熱されると、その金属組織にβ相が含まれる状態になる。β相は、高温強度は低いが、柔らかい相であるので、金属組織中にβ相を含むTiAl合金材は、鍛造加工が容易である。従って、0.1/秒以上の歪速度での恒温鍛造によってTiAl合金材を鍛造加工することができ、1/秒以上の歪速度となる鍛造速度であってよい。
本開示において、熱間鍛造用のTiAl合金材を構成するTiAl合金におけるAl(アルミニウム)の含有率は、38.0原子%以上且つ39.9原子%以下である。Alの含有率が低いほど、合金の鍛造性及び引っ張り強さは向上するが、Tiの含有率が相対的に大きくなるので、合金の比重が大きくなり、比強度が低下する。これらを考慮して、Alの含有率は、38.0~39.9原子%に設定される。Alの含有率が38.0原子%において好適な比強度が得られる。高温強度及び靱性に優れるラメラ組織が形成される合金組成のAl含有率は、47~48原子%であるのに対し、本開示の鍛造用のTiAl合金材におけるAlの含有率の上限は、この範囲より低い39.9原子%である。これは、Alがα相安定化元素である点を考慮してβ相の安定化に有利な組成を意図した設計に基づいている。このような組成により、TiAl合金材の金属組織は、ラメラ組織粒子と共に、TiAl粒子(γ相)及びTi粒子(β相)を含有し得る。Alの含有率が39.9原子%より高いと、TiAl合金材の高温鍛造性が低下して、高速での鍛造が難しくなる。
TiAl合金材において、Nb(ニオブ)及びV(バナジウム)は、β相安定化元素であり、金属組織中でβ相を安定化させる作用を有する。β相安定化元素は、各々、単独で使用して変態温度の低下に有効であり、状態図におけるβ相の存在領域を低温側へ拡大することが可能である。それにより、鍛造時の高温変形性が向上して加工性が改善される。本開示では、Nb及びVが使用される。これらによって、β相が安定化され、合金の鍛造性が良好に改善される。Nb及びVを併用することによって、TiAl合金におけるピーク応力が効果的に低下するので、炭素の添加による加工性の低下を抑制して、高温変形性を高めることができる。故に、より高速でのTiAl合金の熱間鍛造が可能である。Nb及びVは、合計で6.0原子%以上且つ9.0原子%以下となるように各々の添加量を設定するとよい。合計の含有率が6.0原子%未満であると、変態温度の低下が不十分なために鍛造温度の低下が難しくなり、9.0原子%を超えると、合金の機械強度が低下する。
Nbは、耐酸化性及び強度の向上に有効な元素である。熱間鍛造用のTiAl合金材のNbの含有率は、3.0原子%以上且つ5.0原子%以下であるとよい。Nbの含有率がこの範囲であると、鍛造時の加熱状態においてβ相を良好に形成することができ、酸化防止にも有効である。Nbの含有率が3.0原子%未満であると、β相の安定化が十分でなく、TiAl合金の鍛造性の改善が難しくなる。Nbの含有率が5.0原子%を超えると、偏析を生じる虞があり、また、合金の比重が増加する。
Vは、Nbと同様にβ相安定化効果を奏し、TiAl合金の鍛造性を向上させると共に、室温延性を高める。Vの含有率は、Nbの含有率と同程度に設定すると、鍛造性の向上に最も効果的である。Vの含有率が3.0原子%未満であると、TiAl合金の鍛造性が十分に改善されず、4.0原子%を超えると、TiAl合金の強度が低下する。
C(炭素)は、クリープ強度を高め、高温強度を改善する効果を有する。鍛造性の低下を抑制するために、炭素の含有率は、0.05原子%以上且つ0.15原子%以下に設定するとよい。炭素の含有率が0.05原子%未満であると、TiAl合金の強度が十分に改善されず、0.15原子%を超えると、TiAl合金の鍛造性が低下する。炭素による効果は、上述のAl、Nb及びVとのバランスにおいて好適に発揮される。
B(ホウ素)は、金属組織に生じる結晶粒を微細化して、TiAl合金の延性を高める機能を有する。Bの添加によって、1100℃以上の温度範囲におけるTiAl合金の延性が大きくなり、1200℃以上では特に延性の増加が顕著である。このように、Bは、高温における延性を増加させる効果を有するので、熱間鍛造性を向上させるのに有効である。また、Bは、β相安定化元素であるNb及びVと組み合わせて添加することによって、鍛造時のピーク応力を低下させて、歪速度が大きい場合でも変形抵抗を低下させる効果を有し、この点においても鍛造性の向上に有効である。従って、Bと、Nb及びVとの組み合わせは、高速鍛造に有利な処方である。
Bの添加は任意であり、添加する場合、合金のBの含有率は、0.1原子%以上且つ0.2原子%以下であるとよい。Bの添加効果は、0.1原子%において顕かになり、含有率が増加するにつれて組織中に生じる結晶粒の粒径が200μm以下に微細化する。粒径を100μm以下に抑えることも可能である。結晶粒の微細化によって、TiAl合金の延性が向上する。但し、Bの含有率が0.2原子%を超える範囲では、結晶粒の更なる微細化の効果は殆ど得られず、却って靱性が低下するので、Bの含有率は0.2原子%以下に設定するとよい。尚、Bの含有率が1.0原子%を超えると、鋳造によるTiAl合金材の調製時に100μmを超える大きさのホウ化物が生じ易くなるので、却って延性が低下して鍛造性が低下する。このようなホウ化物は、TiB,TiB等で構成され、針状等の形状に析出する。
このように、0.2原子%以下の含有率でBを配合することによって、TiAl合金材の金属組織に生じる結晶粒の粒径が200μm以下となるような微細な構造に形成することができる。ホウ化物は、そのような結晶粒に含まれ、粒径100μm以下の粒子として生じる。このような析出粒子の微細化により、TiAl合金の延性が増加し、鍛造性を向上させることができる。更に、ホウ化物は、鍛造及び熱処理を施したTiAl合金において、金属組織の結晶粒内に粒径100μm以下の粒子として微細に析出し、これによりTiAl合金の機械強度が向上する。尚、本開示で示す結晶粒の粒径は、金属組織断面の画像解析によって結晶粒の面積から換算される面積平均粒径を意味する。
Tiは、高温において空気や雰囲気中のガス成分と反応し、表面酸化や不純物の内部拡散に伴って、酸素、窒素等の不純物を含み得る。Alも、表面酸化によって酸素を含み得る。本開示において、鍛造用のTiAl合金材は、このような不可避不純物を含んでもよい。但し、汚染による合金材の性質劣化は好ましくないので、鍛造用のTiAl合金材の製造において、高温で原料を取り扱う溶融や鋳造等の作業環境には酸化防止を配慮することが望ましい。
上述のような鍛造用のTiAl合金材を製造する製造方法について説明する。
鍛造用のTiAl合金材の製造方法は、全体組成が上述のTiAl合金材の化学組成となる原料を加熱溶融してTiAl合金材を鋳造する鋳造工程を有する。原料は、粉末、金属片又は金属塊の何れの形態であってもよく、また、これらの2以上を混合した形態であってもよい。粉末、金属片及び金属塊は、何れも、TiAl合金材を構成する成分の単味金属、又は、複数の構成成分の合金の何れの状態であってもよい。単味金属の混合物、単味金属と合金の混合物、合金単体、及び、合金と合金の混合物等の形態から原料を適宜選択することができる。全体として上述のTiAl合金材の化学組成となるような各成分の配合によって原料を調製することができる。或いは、予め上記化学組成に調製された原料を入手して使用してもよい。炭素は、黒鉛等の炭素粉末を利用して配合するとよい。尚、炭素粉末やホウ素単味素材を用いて原料を調製する場合、調製中の損失、計量誤差等を考慮して配合するとよい。
鋳造工程では、上述のように調製した原料を、加熱溶融する溶融処理と、溶融した原料を冷却して所望の形状のインゴット(鋳塊)等に鋳造する成形処理とが行われる。これにより、上述の化学組成を有するTiAl合金の溶製材が得られ、これを鍛造用のTiAl合金材として使用することができる。鋳造は、一般的に金属材料の鋳造で用いられる溶解技術及び鋳造技術を適宜利用して行うとよい。例えば、真空アーク溶解-遠心鋳造法、溶解-鋳造法(LEVICAST法)、フェイスコートした坩堝と遠心鋳造を組み合わせた精密鋳造技術等が挙げられる。鋳造工程で使用する装置は、不純物の混入及び酸化等の反応を防止可能な装置であればよく、真空誘導炉等の鋳造装置を用いることができる。
鋳造によって得られる溶製材に対して、HIP(熱間静水圧プレス)処理を行ってもよい。鋳造欠陥等の内部欠陥などを、HIP処理によって抑制することができる。HIP処理には、一般的な金属材料のHIP処理で用いられているHIP装置を使用することができる。
また、鍛造用のTiAl合金材の製造方法は、更に、鋳造工程によって得られるTiAl合金の溶製材の表面の鋳肌(表面層)を除去する表面加工を有してよい。これにより、表面の酸化被膜等による加工性の低下が防止できるので、表面性状が良好なTiAl合金材を鍛造用のTiAl合金材として提供することができる。表面加工は、切削、研削等によって実施可能である。外部で製造された鍛造用のTiAl合金材を入手して鍛造する場合、表面加工は、熱間鍛造方法における準備段階として鍛造工程の直前に実施すると好適である。
鍛造用のTiAl合金材は、以下のような熱間鍛造方法に従って、所望の形状のTiAl合金鍛造体に加工することができる。即ち、TiAl合金材の熱間鍛造方法は、上述の化学組成を有する熱間鍛造用のTiAl合金材を用意する工程と、非酸化性雰囲気中で熱間鍛造用のTiAl合金材を鍛造温度に加熱し、鍛造温度を維持しながら鍛造する熱間鍛造工程とを有する。前述の表面加工は、熱間鍛造用のTiAl合金材を用意する工程に含むことができる。
鍛造温度は、TiAl合金の状態図において、β相が存在し得る相平衡温度領域、つまり、β相及び(β+α)相の何れかの相平衡温度領域内の温度に設定される。具体的には、TiAl合金の状態図を参照して、以下のように鍛造温度を設定するとよい。
図3は、Ti-39原子%Al-0.1原子%Cを基本組成として、β相安定化元素の含有率(Nb及びVの含有率の合計[原子%])とTiAl合金の相平衡状態との関係を調べた状態図である。β相安定化元素の含有率が6.0~9.0原子%の範囲の合金について、加熱して温度を室温から上昇させると、合金の相状態は、(β+γ)相、(β+α)相、及び、(β+α)相を経てβ相へ変化する。図3の状態図から、1150℃(1423°K)以上、好ましくは1200℃(1473°K)以上の温度において、合金中にβ相が存在して鍛造性が向上することが解る。従って、鍛造温度は、1150℃以上、好ましくは1200℃以上に設定することができる。鍛造温度の上限は、β相の存在し得る範囲において設定可能であるが、上述の化学組成のTiAl合金材においては1300℃(1573°K)以下の温度において好適に鍛造することができる。故に、この温度を鍛造装置等の耐久性の観点による上限としてよい。このように、状態図に基づいて、鍛造温度を1150℃程度以上且つ1300℃程度以下の範囲に設定することができ、TiAl合金材の温度をこの範囲に保持して恒温鍛造を実施するとよい。
熱間鍛造工程は、酸化防止のために、非酸化性の雰囲気中で行うとよい。非酸化性の雰囲気として、例えば、アルゴンガスなどの不活性ガス雰囲気が挙げられる。鍛造方式は、自由鍛造、型鍛造、回転鍛造、押し出し鍛造などの一般的な金属材料の鍛造方式から適宜選択して適用することができ、適用する鍛造方式に従って適切な鍛造装置を適宜選択して利用すればよい。ホットプレスや熱間圧延においても、本開示における熱間鍛造用のTiAl合金材を使用可能である。型鍛造の場合、TiAl合金材の温度維持の点から、金型温度は700℃程度以上であるとよい。熱間鍛造による加工は、0.1/秒以上の歪速度において好適に実施できる。TiAl合金材におけるピーク応力が小さく、変形抵抗が低いので、1~10/秒程度の歪速度でも鍛造割れを生じずに良好に鍛造加工することが可能である。このため、鍛造速度が2spm(分当たりのストローク数)以上の高速鍛造を実施することができる。
鍛造温度に加熱した状態のTiAl合金材は、金属組織中にβ相が存在することで高温延性が向上し、鍛造による塑性変形が良好に進行する。鍛造によって、TiAl合金材中の鋳造欠陥が減少し、金属組織は、細かい結晶粒状に分断される。鍛造における加工度を大きくするほど、金属組織を微細化し得る。有効歪みが0.5~1程度となる鍛造加工が可能である。
熱間鍛造用のTiAl合金材の化学組成は、β相を安定化するように設計されているので、鍛造後の冷却において、α相の成長による結晶粒の粗大化は抑制される。冷却は、鍛造装置内での冷却でも外部での空冷であってもよい。熱間鍛造工程を経て得られるチタンアルミナイド合金鍛造体(TiAl合金鍛造体)の金属組織は、ラメラ組織(約20体積%程度のα相がγ相中に層状に析出した組織)、β相及びγ相の結晶粒を含み、β相安定化元素及び炭素は、Tiに固溶する。ホウ素を含有するTiAl合金材の場合は、微細なホウ化物が針状に結晶粒内に析出する。TiAl合金鍛造体は、炭素の配合によって高いクリープ強度を有する。但し、必要に応じて、TiAl合金鍛造体の高温強度を以下のような熱処理によって高めることも可能である。
TiAl合金鍛造体は、金属組織中にβ相を含み得るが、β相は、熱処理による性質改変が可能である。つまり、鍛造体に熱処理を施すことによって金属組織を再構成して合金の性質を改善可能である。具体的には、γ相を生成するような熱処理を施すことによって高温強度を高めることができる。熱処理を経た鍛造体の金属組織においては、γ相の割合が増加し、β相の割合が低下する。
従って、TiAl合金材の鍛造方法は、更に、熱間鍛造工程によって得られる鍛造体に施される熱処理を含むことができる。熱処理は、酸化防止のために、非酸化性雰囲気中で行うとよい。非酸化性雰囲気として、アルゴンガスなどの不活性ガス雰囲気、真空雰囲気、水素ガス等の還元性雰囲気等が挙げられる。
TiAl合金鍛造体の熱処理は、第1の熱処理工程及び第2の熱処理工程を含むとよい。第1の熱処理工程においては、鍛造工程によって得たTiAl合金鍛造体を1220℃以上且つ1240℃以下の温度に加熱する。この加熱温度は、状態図における(β+α)相又は(β+α+α)相の何れかの相平衡温度領域にあり、鍛造体を構成するTiAl合金は、α相が存在し得る状態になる。
第1の熱処理工程は、TiAl合金鍛造体の内部温度が上記温度範囲に達する程度に行えばよい。従って、第1の熱処理工程の処理時間は、概して15分程度以上に設定することができ、1~5時間程度の範囲に設定すると実用的である。
第1の熱処理を経た鍛造体は、第2の熱処理を施す前に冷却して、温度を一旦低下させるとよい。第2の熱処理工程では、第1の熱処理工程を経た常温のTiAl合金鍛造体を、900℃以上且つ1000℃以下の温度に1時間以上保持する。好ましくは、1時間以上且つ5時間以下の間保持するとよい。第2の熱処理を経たTiAl合金鍛造体は、この後、室温付近まで冷却される。
第1の熱処理工程においては、鍛造による結晶粒の応力歪みが緩和され、歪みにより変形した粒子に代わって、歪みのない新たな結晶粒が生じる。この際、TiAl合金中に生成したα相が、微細な結晶粒として分散して析出する。つまり、第1の熱処理は、再結晶化処理として作用する。他方、第2の熱処理工程は、結晶粒界における歪みを緩和する時効処理としての効果を有する。第2の熱処理工程において、α相及びγ相によって構成されるラメラ組織の結晶粒が、α相から生成する。第2の熱処理工程により、鍛造体を構成するTiAl合金は、ラメラ組織の結晶粒、γ相の結晶粒及びβ相の結晶粒を有する金属組織を呈する。
ホウ素を含有する化学組成のTiAl合金材である場合は、TiAl合金鍛造体を熱処理することによって、微細なホウ化物が針状に結晶粒内に析出する。従って、鍛造体を構成するTiAl合金は、ラメラ構造の結晶粒、γ相の結晶粒及びβ相の結晶粒に加えて、粒子サイズが0.1μm程度以下の微細なホウ化物粒子を含んだ金属組織を呈する。ホウ化物粒子は、TiB,TiB等によって構成される。
このように、β相を安定化する化学組成及び炭素の添加によって、TiAl合金の熱間加工性の低下を抑制しつつクリープ強度を向上させることができ、加工性と強度とを兼ね備えた熱間鍛造用のTiAl合金材が提供される。また、高温加工性の改善によって、鍛造割れを抑制しつつ、より大きい歪速度で熱間鍛造することができる。従来のTiAl合金の恒温鍛造では、5×10-5/秒から5×10-1/秒程度の低歪速度で熱間鍛造加工が行われるが、本開示の鍛造用のTiAl合金では、ピーク応力が低く抑えられる。従って、1/秒以上の大きい歪速度で鍛造することができ、10/秒以上の歪速度での高速鍛造が可能となるので、タービン翼等の部品の生産性を向上させることができる。従って、鍛造用のTiAl合金材は、タービン翼等の航空機用エンジン部品を熱間鍛造によって製造するための鍛造用素材として有用である。
(鍛造用のTiAl合金材の調製)
試料1及び2の各々について、以下に記載する化学組成(原子数比)を有するTiAl合金原料を用意し、これを高周波真空溶解炉にて溶解して鋳型に投入し、常温まで冷却して鋳造することによって、鍛造用のTiAl合金材の試料を調製した。尚、不可避不純物については、その含有量は少量であるので、以下においては記載を省略する。
試料1: Ti-39.0Al-4.0Nb-3.5V-0.1C
試料2: Ti-44.7Al-3.7Nb-3.5V
(ピーク応力の測定による鍛造性の評価)
圧縮試験の試験片として、上述の試料の調製において所定形状の鋳型を用いて、鋳型の形状に対応した鍛造用のTiAl合金材の試料(試料1~)を作成した。各試料について、試験片を用いて以下の圧縮試験を行った。
温度を1150~1300℃の範囲で一定に維持し、試験装置の2枚の平行板面で挟んだ試験片に荷重を加えて、0.01/秒、0.1/秒、1/秒及び10/秒の各歪速度で圧縮試験を行って、真歪み1.2までの真応力-真歪み曲線を求めた。この曲線における最大応力をピーク応力として得た。尚、歪速度については、真歪みの歪速度とした。温度を上記範囲内で変更して上述の圧縮試験を繰り返すことによって、温度とピーク応力との関係を得た。結果を図4に示す。
図4によれば、試料1のTiAl合金材におけるピーク応力は、顕著に低く抑えられており、試料2に比べて鍛造性が高いことが明らかである。図4の結果に基づくと、試料1のピーク応力は、試料2において50℃程度以上高い温度における値に相当する。従って、試料2より50℃程度以上低い温度で鍛造可能であり、鍛造温度を1150~1300℃程度に設定可能であると見なすことができる。このような鍛造性の向上は、Alの含有率が低く、β相安定化元素が添加された組成であることに起因すると考えられる。
(鍛造用のTiAl合金材試料の調製)
実施例1と同様の調製方法に従って、試料1の鍛造用のTiAl合金材を調製した。尚、試料の調製において、鋳型を用いて所定形状に鍛造用のTiAl合金を成形した。
(TiAl合金材の熱間鍛造)
上述で得られた鍛造用のTiAl合金材を、アルゴンガスによる不活性雰囲気中で加熱して温度を1150~1175℃に保持し、歪速度:1/秒でプレス型鍛造して、製品のネットシェイプに加工した。この熱間鍛造による加工を繰り返したところ、図5の写真に示すように、鍛造割れを生じずに良好に加工を行うことができた。
TiAl合金材のクリープ強度を損なわずに熱間加工性が向上した熱間鍛造用のTiAl合金材を提供可能であるので、航空機エンジン、発電用ガスタービンの動翼及びディスクなどの部品の製造に適用して、製造効率の改善により効率的な製品提供を実現し得る。また、経済性を高めてTiAl合金材の熱間鍛造の適用範囲の拡大に貢献し得る。

Claims (6)

  1. 原子数比で、38.0%以上且つ39.9%以下のアルミニウムと、3.0%以上且つ5.0%以下のニオブと、3.0%以上且つ4.0%以下のバナジウムと、0.05%以上且つ0.15%以下の炭素と、残部のチタン及び不可避不純物とからなる化学組成を有する熱間鍛造用のチタンアルミナイド合金材。
  2. 原子数比で、38.0%以上且つ39.9%以下のアルミニウムと、3.0%以上且つ5.0%以下のニオブと、3.0%以上且つ4.0%以下のバナジウムと、0.05%以上且つ0.15%以下の炭素と、0.1%以上且つ0.2%以下のホウ素と、残部のチタン及び不可避不純物とからなる化学組成を有する熱間鍛造用のチタンアルミナイド合金材。
  3. 請求項1又は2に記載の熱間鍛造用のチタンアルミナイド合金材を用意する工程と、
    前記チタンアルミナイド合金材の状態図におけるβ相(β+α)相及び(β+α 相)の何れかの相平衡温度領域内の温度に鍛造温度を設定して、非酸化性雰囲気中で前記チタンアルミナイド合金材を前記鍛造温度に保持しながら鍛造する熱間鍛造工程と
    を有し、
    前記熱間鍛造工程における歪速度は、10/秒以下であるチタンアルミナイド合金材の熱間鍛造方法。
  4. 前記熱間鍛造工程における鍛造温度は、1150℃以上且つ1300℃以下である請求項3に記載のチタンアルミナイド合金材の熱間鍛造方法。
  5. 前記熱間鍛造工程における歪速度は、0.1/秒以上である請求項3又は4に記載のチタンアルミナイド合金材の熱間鍛造方法。
  6. 前記熱間鍛造工程における歪速度は、1/秒以上である請求項3又は4に記載のチタンアルミナイド合金材の熱間鍛造方法。
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