JP7232475B2 - ロイコ型色原体の安定化方法 - Google Patents

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Description

本発明は、ロイコ型色原体の安定化方法に関する。
臨床検査分野において、酵素法による種々の測定法が確立されている。この方法は、例えば、測定する目的成分から酸化物質を生成させ、この酸化物質と、酸化により発色化合物を生成する発色剤とを、酸化酵素によって反応させ、生じた発色の吸光度を測定する方法である。
発色剤の例としては、4-アミノアンチピリンに代表されるカップラーと各種トリンダー試薬との組み合わせが多用されている。一方、より少量の過酸化水素を高感度に検出する方法として、10-(カルボキシメチルアミノカルボニル)-3,7-ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジンナトリウム(DA-67)などのロイコ型色原体を用いた方法も知られている。
一般に、ロイコ型色原体は高感度色原体であることが知られており、試料中に微量しか存在しない成分の定量に好適に用いられている。
しかし、ロイコ型色原体は高感度型色原体である一方で、その保存安定性が悪く、特に、溶液中では室内照明などの光照射により自然発色してしまうという欠点を有している。このロイコ型色原体の安定性不良という課題に対して、これまで種々のロイコ型色原体の溶液中での安定化方法が報告されている。その一部を以下に記載する。保存用液のpHを1~5に調整する方法(特許文献1)、酸性糖またはその塩を共存させる方法(特許文献2)、プロピレンングリコールモノメチルエーテルやその類縁体を共存させる方法(特許文献3)、還元型βニコチンアミドアデニンジヌクレオチドあるいは還元型βニコチンアミドアデニンジヌクレオチド-リン酸を共存させる方法(特許文献4)、界面活性剤及び色素物質を共存させる方法(特許文献5)、界面活性剤及びキレート剤を共存させる方法(特許文献6)、還元性チオアルコール類及び還元性硫酸塩類からなる群より選ばれた1種以上の還元剤を共存させる方法(特許文献7)、過酸化水素とは反応しないロイコ型色原体とは別の色素及びシクロデキストリン類を共存させる方法(特許文献8)、ロイコ型色原体とは別の色素、パーオキシダーゼ、シクロデキストリン類、還元剤を共存させる方法(特許文献9)、アスコルビン酸を添加する方法(特許文献10)。
国際公開第2005/088305号 特開平6-289015号公報 特開平7-234221号公報 特開平9-19296号公報 国際公開第2009/116575号 特開2011-26359号公報 特開2008-201968号公報 特開2008-201968号公報 特開2011-120599号公報 国際公開第2014/088056号
上記に記載した通り、ロイコ型色原体の安定化方法は数多く検討されているものの、その安定化効果、特に常温やそれ以上の高温条件下、15日以上の長期間における安定化効果は不十分であり、更なる安定化方法が求められていた。
すなわち、本発明の目的は、水溶液中でのロイコ型色原体の安定化方法、及び、ロイコ型色原体を安定に保持する液状試薬を提供することにある。
本発明者らは、本課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、ロイコ型色原体含有水溶液に、βシクロデキストリン類、キレート剤の組み合わせを添加することにより、ロイコ型色原体が水溶液中で安定に保持されることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下のものである。
[1]一液中にロイコ型色原体、βシクロデキストリン類及びキレート剤を含む溶液を、キットの構成要素として含むことを特徴とする、酸化発色系を用いた測定キット。
[2]βシクロデキストリン類がβシクロデキストリン、マルトシルβシクロデキストリン、グルコシルβシクロデキストリン、カルボキシメチルβシクロデキストリン、ジメチルβシクロデキストリン、モノアミノβシクロデキストリン、2-ヒドロキシプロピルβシクロデキストリン、メチルβシクロデキストリン、グルクロニルグルコシルβシクロデキストリン、ヘプタキス(2,6-ジ-O-メチル)βシクロデキストリン、トリ-O-メチルβシクロデキストリン、サクシニルβシクロデキストリン、スルホプロピルβシクロデキストリン、サクシニルヒドロキシプロピルβシクロデキストリン、及びトリアセチルβシクロデキストリンから選ばれる1種であることを特徴とする、[1]に記載の測定キット。
[3]キレート剤がジアミノシクロヘキサン-N,N,N’,N’-テトラ酢酸(CyDTA)、ジエチレントリアミンペンタ酢酸(DTPA)、ビス(2-アミノエチル)エチレングリコール-N,N,N’,N’-テトラ酢酸(GEDTA)であることを特徴とする、[1]又は[2]に記載の測定キット。
[4]さらに還元剤を含むことを特徴とする、[1]から[3]のいずれか一項に記載の測定キット。
[5]還元剤として還元性硫酸塩類を含むことを特徴とする、[1]から[4]のいずれか一項に記載の測定キット。
[6]酸化発色系として、過酸化水素とペルオキシダーゼを含むことを特徴とする、[1]から[5]のいずれか一項に記載の測定キット。
[7]さらにL-グルタミン酸オキシダーゼを含み、試料中のL-グルタミン酸濃度を測定することを特徴とする、[1]から[6]のいずれか一項に記載の測定キット。
[8]ロイコ型色原体水溶液中にβシクロデキストリン類及びキレート剤を共存させることを特徴とする、ロイコ型色原体の安定化方法。
[9]さらに還元剤を含むことを特徴とする、[8]に記載のロイコ型色原体の安定化方法。
本発明により、水溶液中でのロイコ型色原体の安定化方法、及び、ロイコ型色原体を安定に保持する液状試薬が提供される。本発明を利用することで、酸化発色系を用いた測定キットに含まれるロイコ型色原体水溶液を、常温やそれ以上の高温条件下で、15日以上の長期間にわたり安定に保管することができる。
さらに、本発明の一態様によれば、長期間にわたりキャリブレーションを実施しない場合であっても、正確な測定値を得られる測定キットが提供される。
図1は、各安定化剤を使用した場合の各試料のバックグラウンドの吸光度の経時変化を示している。図1において、横軸は各R2試薬試料の37℃での保管日数を示している。縦軸は、各試料の主波長660nm副波長800nmにおけるバックグラウンドの吸光度(Abs)を示している。図中、1~15で示されているのは測定に用いたR2試薬試料の番号であり、試料の番号と添加された安定化剤の種類及び組み合わせについては、表1に記載されている。 図2は、R2試薬のDA-67濃度を変更した場合の、各DA-67濃度におけるブランク吸光度の測定結果を示している。横軸には、各R2試薬におけるDA-67濃度が記載されている。図中、15μMと記載されている試料が本願明細書実施例中の試薬No.21に、30μMと記載されている試料が試薬No.20に、60μMと記載されている試料が試薬No.22に、30μM着色抑制剤無しと記載されている試料が試薬No.16に対応している。縦軸は、各試料の主波長660nm副波長800nmにおけるバックグラウンドの吸光度(Abs)を示している。冷蔵保管前の試料の測定結果をDay0、6週間冷蔵保管後の試料の測定結果をDay42として示している。
本発明は、ロイコ型色原体の安定化方法に関する。
本明細書において、「ロイコ型色原体」とは、過酸化水素及び過酸化活性物質の存在下、単独で色素へ変換される物質をいう。過酸化活性物質としては、例えばペルオキシダーゼ等が挙げられる。
本明細書において、ロイコ型色原体が水溶液中で安定に保存されるとは、水溶液中で、ロイコ型色原体が熱に対して安定であることをいう。
本明細書において、ロイコ型色原体の安定性は、以下の方法によって測定されるものと定義する。
[測定方法]
下記方法によって調製されるロイコ型色原体水溶液の吸光度を測定することにより、試料溶液中のロイコ型色原体の分解を検出する。ロイコ型色原体の分解に伴い特定波長における吸光度が増大するため、以下の測定方法によって測定される吸光度が高いことは、ロイコ型色原体の分解が促進されていることを示す。
[ロイコ型色原体試料溶液の調製方法]
R1試薬(100mM MES pH7.1、40U/mL アスコルビン酸オキシダーゼ、10U/mL ペルオキシダーゼ、0.1% プロクリン950)、
R2試薬(100mM MES pH7.1、0.4U/mL L-グルタミン酸オキシダーゼ、0.1(w/v)% プロクリン950、30μM DA-67)を調製する。上記操作によって調製される水溶液を、ロイコ型色原体モデル水溶液とする。安定化剤を添加したロイコ型色原体試料溶液を調製する場合には、上記R2試薬に安定化剤を所定量溶解させ、上記モデル溶液と同様に水溶液を調製する。
[保管条件]
ロイコ型色原体モデル水溶液もしくは安定化剤を添加したロイコ型色原体試料水溶液を、設定温度を37℃、暗条件としたヤマト科学株式会社製インキュベータ内で保管する。
[測定条件]
MilliQ水 5μLをIWAKI社製96穴アッセイプレートに分注する。そこにR1試薬を90μL加え、室温で10分間静置する。その後、R2試薬を90μL加え、室温で10分間静置する。その後TECAN社製プレートリーダーで主波長660nm、副波長800nmの吸光度を測定する。
[検量線設定条件]
本発明においては、上記方法に加え、MilliQ水に代えて標準溶液として濃度既知のL-グルタミン酸溶液(例えば、300μMのL-グルタミン酸溶液)を用いて同様の方法をさらに行ってもよい。得られた測定値から回帰直線を導くことで、検量線を設定することができる。サンプルのL-グルタミン酸量を測定する場合には、サンプルの吸光度を測定し、下記式1を用いることにより、サンプル中のL-グルタミン酸量を算出することができる。
L-グルタミン酸濃度(μM)=サンプルの吸光度÷標準液の吸光度×標準液濃度(μM)
なお、本明細書におけるロイコ型色原体の安定性の試験法は、上記方法と同等性が担保される範囲内で、適宜改変することもできる。
本発明において、「βシクロデキストリン類」とは、βシクロデキストリン及びその誘導体を包含する。
本発明の一態様は、一液中にロイコ型色原体、βシクロデキストリン類及びキレート剤を含む溶液をキットの構成要素として含むことを特徴とする、酸化発色系を用いた測定キットである。
本発明に用いられるロイコ型色原体は、前述の通り過酸化水素及び過酸化活性物質の存在下、単独で色素へ変換される物質であればよい。DA-67等のフェノチアジン系色原体、N,N,N’,N’,N’’,N’’-ヘキサ(3-スルホプロピル)-4,4’,4’’ -トリアミノトリフェニルメタン(TPM-PS)等のトリフェニルメタン系色原体、N-(カルボキシメチルアミノカルボニル)-4,4’ -ビス(ジメチルアミノ)ジフェニルアミン ナトリウム塩(DA-64)等のジフェニルアミン系色原体、o-フェニレンジアミン、ヒドロキシプロピオン酸、ジアミノベンジジン、テトラメチルベンジジン等が挙げられ、中でも、DA-67、10-(メチルアミノカルボニル)-3,7-ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジン(MCDP)、10-(N-メチルカルバモイル)-3-ジメチルアミノ-7-ヒドロキシ-10H-フェノチアジン、TPM-PSが好ましく、中でもDA-67がより好ましい。
本発明に用いられるロイコ型色原体水溶液は、通常発色試薬として用いる濃度であれば、ロイコ型色原体の濃度に制限はないが、通常0.005~10mMである。中でも、高値域での検量線の直線性が改善するという観点から、好ましくは0.02~3mM、さらに好ましくは0.05~1mMである。
本発明に用いられるβシクロデキストリン類は、βシクロデキストリン、マルトシルβシクロデキストリン、グルコシルβシクロデキストリン、カルボキシメチルβシクロデキストリン、ジメチルβシクロデキストリン、モノアミノβシクロデキストリン、2-ヒドロキシプロピルβシクロデキストリン、メチルβシクロデキストリン、グルクロニルグルコシルβシクロデキストリン、ヘプタキス(2,6-ジ-O-メチル)βシクロデキストリン、トリ-O-メチルβシクロデキストリン、サクシニルβシクロデキストリン、スルホプロピルβシクロデキストリン、サクシニルヒドロキシプロピルβシクロデキストリン、及びトリアセチルβシクロデキストリンが例示されるが、中でもメチルβシクロデキストリンがより好ましい。本発明において、上記βシクロデキストリン類は1種類でもよく、2種類以上を混合して用いてもよい。
本発明に用いられるβシクロデキストリン類の濃度は、ロイコ型色原体の安定化効果が奏される限りにおいて適宜設定することができるが、0.1~10Vol%であることが好ましく、0.3~1Vol%であることがより好ましい。
本発明に使用されるキレート剤の具体例としては、ジアミノシクロヘキサン-N,N,N’,N’-テトラ酢酸(CyDTA)、ジエチレントリアミンペンタ酢酸(DTPA)、ビス(2-アミノエチル)エチレングリコール-N,N,N’,N’ -テトラ酢酸(GEDTA)及びそれらの塩から選ばれる1種以上が挙げられる。このうち、CyDTA、DTPA、及びそれらの塩から選ばれる1種以上が、ロイコ型色原体の安定効果の点で特に好ましい。
本発明に用いられるキレート剤の濃度は、ロイコ型色原体の安定化効果が奏される限りにおいて適宜設定することができる。例えばCyDTAを用いる場合には、0.001~1mMであることが好ましく、0.003~0.02mMであることがより好ましい。
本発明は、ロイコ型色原体水溶液に、シクロデキストリン類、キレート剤を添加することにより、ロイコ型色原体を安定に保管することができる。具体的には、前述のロイコ型色原体の安定性試験方法において、添加物を加えていない対照試料の吸光度(自然発色)に比べ、吸光度(自然発色)を50%以下に抑えることができる。
本発明は、さらに還元剤を含むことが好ましい。本発明に用いることのできる還元剤は、チオグリセロールなどの還元性チオアルコール類、及びチオ硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、二亜硫酸ナトリウムなどの還元性硫酸塩類を例示することができる。中でも、還元性チオアルコール類及び還元性硫酸塩類が好ましく、システイン、システアミン、N-アセチルシステイン、チオグリセロール、チオ硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、二亜硫酸ナトリウムが好ましく、チオ硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、二亜硫酸ナトリウムがより好ましい。
本発明に用いられる還元剤の濃度は、ロイコ型色原体の安定化効果が奏される限りにおいて適宜設定することができるが、例えば還元性硫酸塩類を用いた場合には、0.005~10mMであることが好ましく、0.02~3mMであることがより好ましい。
本発明は、βシクロデキストリン類、キレート剤を添加したロイコ型色原体水溶液に、さらに還元剤を添加することにより、ロイコ型色原体をより安定に保管することができる。具体的には、前述のロイコ型色原体の安定性試験方法において、添加物を加えていない対照試料の吸光度(分解度)に比べ、吸光度(分解度)を25%以下に抑えることができる。
本発明は、pHを調整するため緩衝剤を配合していてもよい。このような緩衝剤としては、pHを5~8に維持することができるリン酸、グリシン、トリス、グッド等の緩衝剤を挙げることができる。より好ましくは、ACES、BES、Bis-Tris、MES、MOPS、MOPSO、PIPES、HEPESが挙げられる。これらの緩衝剤の濃度は10~500mM、さらに50~200mMが好ましい。
本発明には、さらに目的に応じて、酵素、酵素活性化剤、抗体、防腐剤等を配合することができる。
本発明には、ロイコ型色原体が安定であるため、あらゆる種類の酸化発色系の比色定量試薬として使用できる。好ましくは、酵素反応を利用して、標的成分から直接又は2次的に過酸化水素を生成させ、ペルオキシダーゼによりロイコ型色原体を発色させる反応系に広く利用することができる。
本発明に用いる酸化発色系としては、過酸化水素及びペルオキシダーゼを用いる反応系が好ましい。
本発明の測定対象は、ロイコ型色原体を利用する測定系により測定可能であれば特に制限はない。好適に測定できる一例としては、L-グルタミン酸濃度が例示される。
本発明の測定試薬は、目的に応じて緩衝剤、酵素、酵素活性化剤、抗体、防腐剤等を配合することができる。
本発明の測定キットは、発色系試薬溶液を一液とすることもでき、二液以上とすることもできるが、ユーザーが利用する際の簡便性とロイコ型色原体の安定性とを両立させるため、二液であることが好ましい。
本発明の測定キットは、上述した発色系試薬溶液の他に、常用されている試薬等を適宜用いることができる。例えば、反応プレート、標準液、希釈液、などを含有していてもよい。本発明の測定キットの具体的な態様としては、ペルオキシダーゼ、アスコルビン酸オキシダーゼ、プロクリン950からなる第一反応溶液、L-グルタミン酸オキシダーゼ、プロクリン950、メチルβシクロデキストリン、CyDTA、チオ硫酸ナトリウムからなる第二反応溶液、反応プレート、標準液、希釈液からなる測定キットが例示される。
本発明の測定キットは、反応液の発色を吸光光度計等の手段により検出することで、検体に含まれる標的成分量等を定量することができる。本発明の測定キットは、ロイコ型色原体が安定であることに起因して、バックグラウンドの測定値が低減され、結果として精度よく測定することが可能となる。
本発明の一態様は、ロイコ型色原体水溶液中にβシクロデキストリン類及びキレート剤を共存させることを特徴とする、ロイコ型色原体の安定化方法である。
また、本発明の一態様は、ロイコ型色原体水溶液中にβシクロデキストリン類、キレート剤及び還元剤を共存させることを特徴とする、ロイコ型色原体の安定化方法である。
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
実施例1.ロイコ型色原体の安定化方法検討
ロイコ型色原体を安定化させる方法を検討すべく、ロイコ型色原体とは別の色素、シクロデキストリン類、還元剤、キレート剤の添加検討を実施した。
ロイコ型色原体の安定性の試験方法は以下の通りである。
[試料の調製方法]
下記[表1]に従い、R2試薬(100mM MES pH7.1、0.4U/mL L-グルタミン酸オキシダーゼ、0.1(w/v)% プロクリン950、30μM DA-67)に各種安定化剤の組み合わせを添加した。
Figure 0007232475000001
表中、各種安定化剤の列に○が付いている場合、その安定化剤を添加したことを意味する。各種安定化剤は、以下の原料を用い、以下の終濃度となるように添加した。
オレンジG…アクリジンオレンジ(ナカライテスク社製) 終濃度100μM
M-βシクロデキストリン…メチルβシクロデキストリン(富士フィルム和光純薬社製) 終濃度0.5(w/v)%
チオ硫酸ナトリウム…チオ硫酸ナトリウム五水和物(ナカライテスク社製) 終濃度3.3mM
CyDTA…CyDTA(同仁化学研究所社製) 終濃度10μM
R1試薬(100mM MES pH7.1、40U/mL アスコルビン酸オキシダーゼ、10U/mL ペルオキシダーゼ、0.1% プロクリン950)は表1のNo.1~15に対して共通の試薬を使用した。
[安定性の測定方法]
前述のロイコ型色原体の安定性試験方法に従い、安定性試験を実施した。すなわち、各R2試料水溶液を、設定温度を37℃、暗条件としたヤマト科学社製インキュベータ内で保管し、実験開始時(0日)、3日経過時、8日経過時、15日経過時に蒸留水5μLをIWAKI社製96穴アッセイプレートに分注した。そこにR1試薬を90μL加え、室温で10分間静置した。その後、上述のR2試薬を90μL加え、室温で10分間静置した。Tecan社製プレートリーダーで主波長660nm、副波長800nmの2波長の吸光度を測定した。
各試料の0日、3日、8日、15日時点の吸光度測定結果を図1に、対照試料(試料1)の15日間保管後の吸光度に対する各試料の15日間保管後の相対吸光度(%)を表2に示す。
Figure 0007232475000002
上記の結果から、βシクロデキストリン類及びキレート剤を添加した試料(No.10、13、14、15)は15日目の相対吸光度が50%以下、すなわちロイコ型色原体の分解が抑制されたことが読み取れる。さらに、シクロデキストリン類及びキレート剤に加えて還元剤も添加した試料(No.14、15)においては、よりロイコ型色原体の安定性が向上し、15日目の相対吸光度が25%以下となったことが読み取れる。
実施例2.冷蔵安定性の検討
実施例1にて見出されたβシクロデキストリン類及びキレート剤の組み合わせが、冷蔵安定性にも寄与するか検証した。
下記[表3]に従い、R2試薬に各種安定化剤の組み合わせを添加した。調製したR2試薬は、PP製5mLチューブに分注し、アルミホイルで遮光して、4℃条件下で8週間保存した。
R2試薬は各条件共通の成分として、50mM HEPES pH7.1、0.4U/mL L-グルタミン酸オキシダーゼ、0.1(w/v)% アジ化ナトリウム、30μM DA-67)を含む。
なお、表中各種安定化剤の列に○が付いている場合、その安定化剤を添加したことを意味する。各種安定化剤は、以下の原料を用い、以下の終濃度となるように添加した。
M-βシクロデキストリン…メチルβシクロデキストリン(富士フィルム和光純薬社製) 終濃度0.5(w/v)%
チオ硫酸ナトリウム…チオ硫酸ナトリウム五水和物(ナカライテスク社製) 終濃度3.3mM
CyDTA…CyDTA(同仁化学研究所社製) 終濃度10μM
Figure 0007232475000003
R2試薬No.16~20を用いて、冷蔵保管前と冷蔵8週間後にブランクの吸光度を測定した。R1試薬(50mM HEPES pH7.1、40U/mL アスコルビン酸オキシダーゼ、10U/mL ペルオキシダーゼ、0.1% プロクリン950)はNo.16~20で共通の試薬液を使用した。
冷蔵保管前(Day0)のブランク吸光度、冷蔵8週間後(8W)のブランク吸光度、及び対照試料(試料16)の8週間保管後のブランク吸光度に対する各試料の8週間保管後の相対吸光度(%)を、表4に示す。
Figure 0007232475000004
上記の結果から、βシクロデキストリン類及びキレート剤を添加した試料(No.19、20)に冷蔵保管8週間後の相対吸光度が25%以下、すなわちロイコ型色原体の分解が抑制されたことが読み取れる。さらに、βシクロデキストリン類及びキレート剤に加えて還元剤も添加した試料(No.20)においては、よりロイコ型色原体の安定性が向上し、冷蔵保管8週間後の相対吸光度が10%以下となったことが読み取れる。
本実施例の結果より、βシクロデキストリン類及びキレート剤の組み合わせは、実施例1にて検証した高温条件下での安定性と同様に、冷蔵安定性にも寄与することが確認された。βシクロデキストリン類及びキレート剤に加えて還元剤も添加した場合には、実施例1と同様、より安定化効果が高まることが確認された。
実施例3.ノンキャリブレーション測定の検討
冷蔵保管前(Day0)測定時にL-グルタミン酸標準品を測定してキャリブレーション(検量線の取得)を行い、一定期間保管後にノンキャリブレーション測定、すなわちDay0で取得した検量線を用いて測定値を算出する測定の検討を行った。
実施例2の表3に従い、No.16~20のR2試薬を調製した。調製したR2試薬を用いて、300μMのL-グルタミン酸標準液および水(ブランク用)の吸光度を測定し、吸光度からの一次式の検量線を取得した。
調製したR2試薬は、PP製5mLチューブに分注し、アルミホイルで遮光して、4℃条件下で8週間保存した。冷蔵保管したR2試薬No.16~20を用いて、管理検体L(L-Glu水溶液 10.6μM)、管理検体M(L-Glu 水溶液265.0μM+1000mg/L アスコルビン酸)、ヒト血漿(Access Biological社製、EDTA 2Na Human Plasma B)を測定した。測定試料は全て-80℃保存、R1試薬はNo.16~20で共通の試薬液を使用した。
ノンキャリブレーション測定による測定値を表5に、各検体の表示値に対するノンキャリブレーション測定による測定値の比を表6に記載する。
Figure 0007232475000005
Figure 0007232475000006
βシクロデキストリン類及びキレート剤に加えて還元剤も添加したNo.20のみ、いずれの検体においても表示値±20%以内の測定値を示した。
本実施例の結果から、βシクロデキストリン類、キレート剤及び還元剤を含む試薬を用いることにより、8週間という長期間にわたりキャリブレーションを実施しない場合であっても、正確な測定値を得られることが示唆された。当該特性は、本発明の利用者の機器校正の手間を削減することにつながるため、産業上有用である。
実施例4.ロイコ型色原体溶液の濃度による影響の検討
本願発明のロイコ型色原体安定化効果が、ロイコ型色原体濃度の影響を受けるか、検討を行った。
実施例2のNo.20のR2試薬組成(30μM DA-67)を、DA-67濃度を15μMへと変更した試薬No.21、60μMへと変更した試薬No.22を調製した。No.20~22のR2試薬を6週間冷蔵保管した後、実施例2と同様の方法でブランクの吸光度を測定した。対照として、安定化剤を添加していない実施例2No.16のR2試薬でも、同様の保管条件及び測定方法にて、ブランクの吸光度を測定した。R1試薬(50mM HEPES pH7.1、40U/mL アスコルビン酸オキシダーゼ、10U/mL ペルオキシダーゼ、0.1% プロクリン950)はNo.20~22で共通の試薬液を使用した。
ブランク吸光度の測定結果を図2に示す。冷蔵保管後のブランク吸光度は、ロイコ型色原体(DA-67)濃度に比例して直線的に増加しており、本発明のロイコ型色原体安定化効果は、ロイコ型色原体の濃度に影響を受けず、ロイコ型色原体が低濃度の場合であっても、高濃度の場合であっても、同等の安定化効果が発揮されていることが確認された。

Claims (9)

  1. 一液中にロイコ型色原体、L-グルタミン酸オキシダーゼ、βシクロデキストリン類及びキレート剤を含む溶液を、キットの構成要素として含み、試料中のL-グルタミン酸濃度を測定することを特徴とする、酸化発色系を用いた測定キット。
  2. βシクロデキストリン類がβシクロデキストリン、マルトシルβシクロデキストリン、グルコシルβシクロデキストリン、カルボキシメチルβシクロデキストリン、ジメチルβシクロデキストリン、モノアミノβシクロデキストリン、2-ヒドロキシプロピルβシクロデキストリン、メチルβシクロデキストリン、グルクロニルグルコシルβシクロデキストリン、ヘプタキス(2,6-ジ-O-メチル)βシクロデキストリン、トリ-O-メチルβシクロデキストリン、サクシニルβシクロデキストリン、スルホプロピルβシクロデキストリン、サクシニルヒドロキシプロピルβシクロデキストリン、及びトリアセチルβシクロデキストリンであることを特徴とする、請求項1に記載の測定キット。
  3. キレート剤がジアミノシクロヘキサン-N,N,N’,N’-テトラ酢酸(CyDTA)、ジエチレントリアミンペンタ酢酸(DTPA)、ビス(2-アミノエチル)エチレングリコール-N,N,N’,N’-テトラ酢酸(GEDTA)であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の測定キット。
  4. さらに還元剤を含むことを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の測定キット。
  5. 還元剤として還元性硫酸塩類を含むことを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の測定キット。
  6. 酸化発色系として、過酸化水素とペルオキシダーゼを含むことを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の測定キット。
  7. さらにオレンジGを含有することを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の測定キット。
  8. ロイコ型色原体水溶液中にL-グルタミン酸オキシダーゼ、βシクロデキストリン類及びキレート剤を共存させることを特徴とする、L-グルタミン酸濃度測定キット中のロイコ型色原体の安定化方法。
  9. さらにロイコ型色原体水溶液中に還元剤を含むことを特徴とする、請求項8に記載のロイコ型色原体の安定化方法。
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