以下、本発明を具体化した最良の形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。はじめに、本実施形態のひとつである第1実施形態について説明し、その後、第2実施形態、第3実施形態、変形例について順に説明する。
[第1実施形態]
本形態に係る金型について、図1から図3により説明する。図1は、本形態に係る金型である第1金型1の概略断面図である。なお、本形態の第1金型1は、プレス動作により被加工材の抜き加工を行うプレス型である。図2は、第1金型1のパンチ100とダイ150とを拡大して示す断面図である。なお、図1および図2は、第1金型1のスライド移動の下死点における断面図である。図3は、第1金型1の図2におけるA-A断面における平面図である。各図には、互いに直交するX軸、Y軸、Z軸をそれぞれ示している。Z軸方向はプレス方向であり、Y軸方向は被加工材の幅方向である。また、X軸方向は、被加工材の長手方向であり、送り方向(搬送方向)である。本形態の第1金型1は、上下方向をプレス方向とするものである。
図1に示すように、本形態の第1金型1は、プレス加工時にZ軸方向にスライド移動する上型20と、その下方に固定して設けられた下型30とを有し、プレス加工によりシート状の被加工材10に対して切断加工を行うものである。本形態における被加工材10は、例えば、板厚が0.2mmの鋼板である。上型20は、シャンクに取り付けられるパンチホルダ21と、パンチホルダ21の下方に設けられたパンチ100、ガイドポスト40、パッド60を備えている。下型30は、ダイホルダ31と、ダイホルダ31に設けられたダイ150、ガイドブッシュ50、搬送ガイド70を備えている。
パンチ100は、下方に位置する先端部101に上刃111が形成されている。また、パンチ100は、上刃111とは反対側の固定部130にて、パンチリテーナ140によりパンチホルダ21に固定されている。パンチ100の固定部130は、パンチリテーナ140のパンチ保持孔141に挿入されており、その側面131がパンチ保持孔141に接触していることで、水平方向についての位置が保持されている。さらに、パンチ100の固定部130は、水平方向に突出したフランジ132を有している。フランジ132は、パンチリテーナ140の上側に形成された凹部142の底面143とパンチホルダ21との間に挟み込まれていることで、パンチホルダ21に固定されている。これにより、パンチ100は上型20に固定されている。また、本形態では、パンチリテーナ140の材質として、パンチ100と同じ材質を用いている。具体的には、例えば、パンチ100およびパンチリテーナ140の材質としていずれも、超硬合金を用いることができる。
ガイドポスト40は、下方側に被ガイド部41を有し、被ガイド部41とは反対側の固定部42にて、ガイドリテーナ45によりパンチホルダ21に固定されている。ガイドポスト40の被ガイド部41は、下型30に設けられたガイドブッシュ50に挿入されている。ガイドポスト40は、位置決めピン等により、パンチ100に対する位置精度がある程度、定められている。
パッド60は、下型30に向かう付勢力を付勢部材により受けた状態で、パンチホルダ21に設けられている。パッド60は、上型20がそのスライド移動の上死点にあるときには被加工材10から離間した位置をとり、上型20が上死点から下死点へ向けてスライド移動すると、被加工材10を上側より押圧することができるものである。これにより、プレス加工時には被加工材10を固定することができる。また、パッド60は、上型20が下死点から上死点へ向けてスライド移動する際には、被加工材10を下型30に向けて押し出すことで、被加工材10がパンチ100にくっついて移動してしまうことを抑制することができる。
ダイ150は、ダイホルダ31に形成された凹部であるダイ収容穴32に収容された状態で固定されている。ダイ150には、パンチ100の先端部101が進入する進入穴151が形成されている。進入穴151は、ダイ150を貫通する貫通孔であり、その上側の開口152に、パンチ100の上刃111と噛み合う下刃161が形成されている。なお、ダイホルダ31には、ダイ150の進入穴151の下方に対応する位置に、被加工材10から切断により切り離された部分が排出される貫通孔33が設けられている。本形態においては、ダイ150の材質としても、パンチ100と同じ材質を用いている。
ガイドブッシュ50は、ダイホルダ31に形成された凹部であるブッシュ固定穴35に収容された状態で固定されている。ガイドブッシュ50は、その内側にガイドポスト40の被ガイド部41が挿入されている。これにより、ガイドブッシュ50は、ガイドポスト40をガイドすることができる。ガイドブッシュ50についても、ダイ150に対する位置精度がある程度、定められている。また、本形態では、ガイドポスト40およびガイドブッシュ50は、パンチ100およびダイ150を挟んで2対、設けられている。そして、ガイドポスト40がガイドブッシュ50にガイドされていることで、上型20は、下型30に対する位置精度をある程度維持しつつ、スライド移動することができる。
搬送ガイド70は、被加工材10の幅方向(Y軸方向)をガイドする部材である。本形態の搬送ガイド70は、ダイホルダ31に固定されている。なお、図1には、搬送ガイド70として、被加工材10の幅方向の一方のみをガイドするものを示しているが、被加工材10の幅方向の他方をガイドするものも設けられている。この搬送ガイド70により、搬送中の被加工材10が幅方向に蛇行してしまうこと等が抑制されている。
図2の拡大図に示すように、パンチ100は、先端部101に、下側のエッジに上刃111が形成されている上刃部110と、被ガイド部120とを有している。本形態のパンチ100では、上刃111と被ガイド部120とがともに同じ部材に一体に形成されている。また、ダイ150は、進入穴151の内壁面として、上側のエッジに下刃161が形成されている下刃部160と、ガイド面171とを有している。本形態のダイ150では、下刃161とガイド面171とがともに同じ部材に一体に形成されている。つまり、進入穴151の開口は、その一部が下刃161であり、下刃161以外の部分は、ガイド面171の上端である。
図2には、切断加工がなされる抜きクリアランスC1と、パンチ100をダイ150に対してガイドする摺接クリアランスC2とを示している。抜きクリアランスC1は、被加工材10の切断加工の際にすれ違う上刃111と下刃161との隙間である。また、摺接クリアランスC2は、被ガイド部120の側面である被ガイド面121と、進入穴151へと進入した被ガイド部120の被ガイド面121と対向する内壁面であるガイド面171との隙間である。また、パンチ100において、被ガイド部120は、上刃111よりも下方側、すなわちダイ150の側に突出している部分がある。そして図2には、パンチ100の下死点における、上刃111のダイ150の進入穴151への進入深さK1と、被ガイド部120の進入穴151への進入深さK2とを示している。
図3には、パンチ100およびダイ150の平面図を、図2に示すA-A位置における断面により示している。図3には、パンチ100の断面にはハッチングを施して示し、ダイ150に形成された進入穴151を実線によりしめし、被加工材10を二点鎖線により示している。
図3に示すように、本形態のパンチ100は、上刃部110が被加工材10の幅方向における一方の端部に食い込むような凸形状をしており、上刃111は、上刃部110の外縁に形成されている。また、ダイ150の下刃161は、上刃111を囲うように、上刃111と抜きクリアランスC1を設けつつ形成されている。被加工材10のパンチ100よりも搬送方向の下流側の位置には、上刃111と下刃161とにより幅方向の端部の一部が切断加工により除去されてなる抜き部11が形成されている。
また、図3に示すように、本形態のパンチ100は、被加工材10の幅方向について、上刃部110よりも外側に被ガイド部120を有している。これにより、被ガイド部120は、被加工材10の幅方向の外縁より外方に位置している。被ガイド部120には、被ガイド面121(ガイド構成面)が5つ、設けられている。その5つの被ガイド面121のうち、X軸方向について上刃部110を挟んで設けられている右側の2つの被ガイド面121は、同一面内に加工されている。すなわち、本形態のパンチ100は、水平方向で互いに異なる方向へ向いて形成された被ガイド面121を4面分、備えている。そのうちの2面は、X軸方向ついて互いに対向して設けられており、他の2面はY軸方向について互いに対向して設けられている。なお、隣り合う被ガイド面121同士の間の角度は直角にされている。
また、図3に示すように、ダイ150には、ガイド面171が、パンチ100の被ガイド面121を囲うように設けられている。すなわち、ダイ150には、パンチ100のすべての被ガイド面121に対して対向する配置で、ガイド面171が設けられている。そして、これらダイ150におけるガイド面171により、被ガイド部120をガイドするガイド部170が構成されている。これにより、本形態のダイ150のガイド部170は、プレス方向であるZ軸方向と直交する水平方向のすべてについて、パンチ100の被ガイド部120の移動を規制することができる。
ここで、図2において前述したように、被ガイド部120は、プレス方向について、上刃111よりも下方に突出している。つまり、下死点における被ガイド部120の進入深さK2は、上刃111の進入深さK1よりも長いものとされている。さらに、被ガイド部120の進入深さK2は、上刃111の進入深さK1と、被加工材10の厚みtとを合わせた長さよりも長いものとされている。よって、上型20が上死点から下死点へ向けてスライド移動するプレス動作が行われる際には、上刃111が被加工材10へと接触する前に、被ガイド部120を進入穴151内へと進入させることができる。すなわち、被加工材10の切断加工より先行して、被ガイド部120の被ガイド面121を、ガイド部170のガイド面171と摺接させることができる。これにより、被ガイド部120がすでにガイド部170によってガイドされた状態で、被加工材10の切断加工を開始することができる。また、摺接クリアランスC2は、抜きクリアランスC1よりも小さく形成されている。
このような構成であることで、上刃111と一体に形成された被ガイド部120の水平方向への移動を、下刃161と一体に形成されたガイド部170によって直接、規制することができる。よって、上刃111と下刃161との適切な抜きクリアランスC1を確実に維持することができる。例えば、上型20におけるパンチ100、下型30におけるダイ150の組み付け精度誤差がある場合等には、組み上げられた状態の第1金型1において、パンチ100の上刃111とダイ150の下刃161とに位置ずれが生じてしまうことがある。しかし、組み上げ状態で上刃111と下刃161とに位置ずれがあっても、プレス動作により切断加工が開始される前に、被ガイド部120を、抜きクリアランスC1よりも精度の高い摺接クリアランスC2で、ガイド部170によってガイドすることができる。すなわち、高い精度でパンチ100をガイドし、適切な抜きクリアランスC1が確保された状態で、切断加工を行うことができる。すなわち、例えば、ガイドポスト40とガイドブッシュ50との位置精度やガイド精度が抜きクリアランスC1を維持できない程度であっても、抜きクリアランスC1を維持することができる。さらに、本形態では、上刃111および被ガイド部120を有するパンチ100と、下刃161およびガイド部170を有するダイ150とを高い精度で加工することで、適切な抜きクリアランスC1を確保することができる。すなわち、高い精度での加工を要する部品を少なくすることで、安価に適切な抜きクリアランスC1を確保することができる。
また、パンチ100の被ガイド部120には、プレス方向と直交する水平方向で、互いに異なる方向へ向いた被ガイド面121が4面分、備えられている。このように、水平方向で互いに異なる方向へ向いて形成された被ガイド面121を3つ以上、備えたことによって、水平断面における360度の全方向に対する被ガイド部120の規制を、簡素な構成で安価に行うことができている。
また、本形態では、パンチ100の材質とパンチリテーナ140の材質と同じとしている。これにより、パンチ100とパンチリテーナ140とは、熱膨張係数が同一となっている。パンチ100は、被加工材10の切断加工を連続して行うほど、温度が上昇する傾向にある。このため、パンチ100には、被加工材10の切断加工を連続して行うにつれ、温度上昇に伴う熱膨張が生じる。また、被加工材10の切断加工に伴い熱膨張することについては、パンチ100を固定する部材であるパンチリテーナ140についても同様である。そして、例えば、パンチリテーナ140の熱膨張係数がパンチ100の熱膨張係数に対して大きすぎる場合には、温度上昇に伴い、パンチ100とパンチリテーナ140との間に大きな隙間が形成されてしまうおそれがある。このような場合、パンチ100が上型20に適切に固定されず、ガタつきや傾きが生じてしまうこと等により、適切な抜きクリアランスC1が確保できないおそれがある。これに対し、本形態では、パンチ100とパンチリテーナ140との熱膨張係数が同一であることで、そのような問題を抑制することができる。すなわち、切断加工を連続して行った場合にも、適切な抜きクリアランスC1を維持することができる。
また、パンチ100の被ガイド部120は、Y軸方向について、被加工材10の幅方向の外縁より外方で、ダイ150のガイド部170と摺接する。よって、ガイド部170による被ガイド部120のガイドが被加工材10によって邪魔されることがないようにされている。また、本形態の被加工材10は、その厚みtが0.2mm以下のものである。このように、板厚が0.2mm以下の薄鋼板であると、適正な抜きクリアランスC1は、一般的に、板厚の10%程度であるので、0.02mm以下となる。そして、上型20にパンチ100とは別に設けられたガイドポスト40と、下型30にダイ150とは別に設けられたガイドブッシュ50とで構成されるような一般的なガイド構造は、ガイド対象とガイド構成との間に複数の部材が介在している。つまり、一般的なガイド構造は、パンチ100をダイ150に対して間接的にガイドするものである。このような間接的なガイド構造では、0.02mm以下の小さな抜きクリアランスC1を適切に確保することは困難である。これに対し、本形態では、上刃111が形成されたパンチ100を、下刃161が形成されたダイ150により直接的にガイドすることができる。よって、適正な抜きクリアランスC1が小さい場合であっても、その抜きクリアランスC1を安定して確保することができる。
また図4に示すように、パンチ100には、撓み誘起部185を設けておくこととしてもよい。図4の例に示す撓み誘起部185は、上刃111と固定部130との間の中間部180に、貫通孔186を形成することで設けられている。このような撓み誘起部185は、その他の部分よりも曲げ剛性が小さく、水平方向への撓みが生じやすくされている。そして、例えば、上死点における上刃111に下刃161に対して水平方向についての位置ずれがある場合、その位置ずれは、被ガイド部120がガイド部170によりガイドされることで解消される。このときの上刃111の水平方向への移動を、本形態においては、撓み誘起部185を撓ませることで適切に吸収させることができる。これにより、上刃111の付近に過度な曲げ応力が生じてしまうことを抑制し、適切な抜きクリアランスC1を確保することができる。
また、図4の例に示す撓み誘起部185は、パンチ100の中間部180の側壁のうち、Y軸方向の両端にそれぞれ位置する側壁181から側壁182まで貫通する貫通孔186により形成されている。このように、パンチ100の側壁181に対して面直方向へ形成された貫通孔186により撓み誘起部185を設ける場合、貫通孔186の大きさにより、パンチ100の撓み誘起部185における断面二次モーメントや座屈応力を、簡単に調整することができる。また、貫通孔186により撓み誘起部185を設ける構成においては、被加工材10のせん断力によるパンチ100の撓み量を、貫通孔186の位置、大きさ、貫通方向等によって調整することができる。また、本形態のパンチ100は、X軸方向の厚みがY軸方向の厚みよりも厚いものである。つまり、パンチ100は、貫通孔186が設けられていない場合、X軸方向における曲げ剛性が、Y軸方向における曲げ剛性よりも高いものである。そこで、撓み誘起部185に係る貫通孔186は、X軸方向の曲げ剛性を低下させるため、Y軸方向を深さ方向として設けられている。すなわち、厚みの薄い方向に延びる貫通孔186を設けることで、厚みの厚いX軸方向の曲げ剛性を適切に調整できる。
[第2実施形態]
次に、上記の実施形態とは異なるプレス型について説明する。本形態のプレス型は、切断加工の形状が上記の実施形態と異なる。このため、上記の実施形態とは異なるパンチおよびダイを有する。上型および下側のパンチおよびダイ以外の構成については、おおむね上記の実施形態のものと同様のものを用いることができる。よって、本形態のプレス型については、そのパンチおよびダイについて、図5および図6により説明する。
図5は、本形態に係る第2金型2のパンチ200およびダイ250の分解斜視図である。図5は、パンチ200、ダイ250を実際よりもZ軸方向に離して示している。また図5には、被加工材80についても示している。なお、被加工材80は、実際には、図5の状態よりもダイ250の上面に近い位置を搬送されるものである。図6は、パンチ200、ダイ250のX軸方向と直交する面における断面を示す図である。図6は、第2金型2のスライド移動の下死点における断面図である。
パンチ200は、図5に示すように、先端部201に、下側のエッジに上刃211が形成されている上刃部210と、被ガイド部220とを有している。本形態の、被ガイド部220は、Y軸方向について、上刃部110を挟んだ両外側の部分に設けられている。パンチ200においても、上刃211と被ガイド部220とがともに同じ部材に一体に形成されている。図5に示すパンチ200には、下死点にてダイ250の進入穴151の内部へと進入する範囲の上端を二点鎖線により示している。つまり、切断加工時には、パンチ200の上刃部210と被ガイド部220とはともに、進入穴251の内部へと進入する。
上刃211は、上刃部210のX軸方向における両端に位置する下側のエッジにそれぞれ設けられている。このため、パンチ200は、X軸方向について離れた2つの上刃211を有している。
被ガイド部220は、外側に位置する側面が被ガイド面221となっている。具体的には、被ガイド部220は、X軸方向における両端にそれぞれ位置する被ガイド面221、Y軸方向における両端にそれぞれ位置する被ガイド面221を有している。これにより、パンチ200の被ガイド部220にも、プレス方向と直交する水平方向で、互いに異なる方向へ向いた被ガイド面221が4面分、備えられている。
ダイ250には、パンチ200の先端部201が進入する進入穴251が1つ、形成されており、その進入穴251の上側の開口252に、パンチ200の上刃211と噛み合う下刃261が形成されている。図5には、進入穴251の開口252のうち、下刃261が形成されている範囲を、太い一点鎖線により示している。また、進入穴251について図5に太い二点鎖線により示している範囲は、被ガイド部220をガイドするガイド部270となっている。ガイド部270は、被ガイド部220の被ガイド面221とそれぞれ摺接するガイド面271を備えている。
そして、このようなパンチ200とダイ250とのプレス動作が行われた際には、上刃211と下刃261とにより切断加工がなされることで、被加工材80にスリット81が形成される。本形態では、1度のプレス動作により、図5に示すように、被加工材80にX軸方向について離れたスリット81を2つ、形成することができる。なお、上刃211および下刃261は、Y軸方向について被加工材80の幅よりも狭く、幅方向の両端部については切断しない。また、プレス動作時には、上刃部210の下面215が、被加工材80に形成される2つのスリット81の間の部分を押圧する。これにより、被加工材80には、上刃部210の下面215の形状に沿って曲げ加工がなされ、プレス方向に変形した凹部82が形成される。すなわち、本形態では、パンチ200およびダイ250により、切断加工とともに曲げ加工を行うことができ、被加工材80に、1対のスリット81およびその間の凹部82を形成することができる。
図6に示すように、パンチ200においても、上記の実施形態と同様に、被ガイド部220は、上刃211よりも下方側、すなわちダイ250の側に突出している。そして図6には、パンチ200の下死点における、上刃211のダイ250の進入穴251への進入深さK1と、被ガイド部220の進入穴251への進入深さK2とを示している。本形態においても、下死点における被ガイド部220の進入深さK2は、上刃211の進入深さK1と、被加工材80の厚みtとを合わせた長さよりも長いものとされている。よって、プレス動作が行われる際には、上刃211が被加工材80へと接触する前に、被ガイド部220を進入穴251内へと進入させることができる。すなわち、被加工材80の切断加工より先行して、被ガイド部220の被ガイド面221を、ガイド部270のガイド面271と摺接させることができる。これにより、被ガイド部220がすでにガイド部270によってガイドされた状態で、被加工材80の切断加工を開始することができる。また、本形態においても、被ガイド部220の被ガイド面221と、ガイド部270のガイド面271との摺接クリアランスC2は、上刃211と下刃261との抜きクリアランスC1よりも小さく形成されている。
このような構成であることで、本形態においても、上刃211と一体に形成された被ガイド部220の水平方向への移動を、下刃261と一体に形成されたガイド部270によって直接、規制することができる。よって、上刃211と下刃261との適切な抜きクリアランスC1を、安価に確保することができる。また、パンチ200の被ガイド部220には、プレス方向と直交する水平方向で、互いに異なる方向へ向いた被ガイド面221が4面分、備えられている。すなわち、水平方向で互いに異なる方向へ向いて形成された被ガイド面221を3つ以上、備えたことによって、水平断面における360度の全方向に対する被ガイド部220の規制を、簡素な構成で安価に行うことができている。
また、パンチ200の被ガイド部220は、Y軸方向について、被加工材80の幅方向の外縁より外方で、ダイ250のガイド部270と摺接する。よって、ガイド部270による被ガイド部220のガイドが被加工材80によって邪魔されることがないようにされている。また、本形態の構成についても、被加工材80として、その厚みtが0.2mm以下のものに適用することが好ましい。パンチとダイとを間接的にガイドする一般的な構成においては、その精度を確保することが困難なほど小さな抜きクリアランスC1を、適切に安定して確保することができるからである。また、本形態においても、パンチ200の材質と、パンチ200を上型に固定するパンチリテーナの材質とは同じであることが好ましい。パンチ200とパンチリテーナとの熱膨張係数を同一にすることができ、連続してプレス加工を行った場合にも、適切な抜きクリアランスC1を維持することができるからである。
さらに、本形態のパンチ200についても、上刃211の付近に過度な曲げ応力を作用させることなく適切な抜きクリアランスC1を確保するため、上刃211と固定部との間に撓み誘起部を設けておくこととしてもよい。また、撓み誘起部は、パンチ200の側壁に対して面直方向へ形成された貫通孔により設けることができる。また、パンチ200は、X軸方向の厚みよりもY軸軸方向の厚みのほうが厚く、Y軸方向における曲げ剛性が高くなりがちである。このため、パンチ200においては、X軸方向に延びる貫通孔を少なくとも形成することにより、撓み誘起部を設けることが考えられる。Y軸方向における曲げ剛性を低下させて適度に調整することができるからである。
[第3実施形態]
次に、上記の実施形態とは異なるプレス型について説明する。本形態のプレス型は、切断加工の形状が上記の実施形態と異なる。このため、上記の実施形態とは異なるパンチおよびダイを有する。本形態のプレス型は、被加工材を搬送方向に所定のピッチで搬送しながらプレス加工する順送型である。そして、搬送方向について所定のピッチで設けられた異なるステージにおいてそれぞれ異なる抜き形状の切断加工を行うことで、被加工材に目標とする抜き形状を形成する。本形態のプレス型においても、パンチおよびダイ以外の構成については、おおむね上記の実施形態のものと同様のものを用いることができる。よって、本形態のプレス型についても、主に、そのパンチおよびダイについて、図7~図9により説明する。
図7は、本形態に係る第3金型3のパンチ300、400およびダイ350の平面図である。図7において、上型側の構成については、その下死点におけるダイ350の上面における断面により示している。このため、図7では、上型側の構成については、斜線のハッチングを施して示している。また、第3金型3は、被加工材90への抜き加工を行うステージとして、第1ステージS1(前ステージ)と、第2ステージS2(後ステージ)とを有する。第2ステージS2は、被加工材90の搬送方向について、第1ステージS1の下流側に位置している。図8は、第1ステージS1にて抜き加工される前孔93を示す図である。図9は、図7に示すB-B位置でのパンチ300およびダイ350の下死点における断面図である。つまり、図9は、第1ステージS1における断面図である。図10は、図7に示すC-C位置でのパンチ400およびダイ350の下死点における断面図である。つまり、図10は、第2ステージS2における断面図である。
本形態では、被加工材90は、図7に示すように、幅方向についてガイドする搬送ガイド75によって蛇行等が抑制された状態で所定のピッチずつ搬送され、第1ステージS1での抜き加工、第2ステージS2での抜き加工がこの順で行われる。これにより、正規抜き形状91で形成された、最終目標とする完成孔94が形成される。本形態の完成孔94は、正方形である。また、第3金型3は、第1ステージS1ではパンチ300による抜き加工を行い、第2ステージS2ではパンチ400による抜き加工を行う。本形態では、パンチ300およびパンチ400はともに、同じ上型に設けられている。すなわち、パンチ300とパンチ400とは、同時にプレス動作を行うことができる。
まず第1ステージS1周辺の構成について詳細に説明し、その後、第2ステージS2周辺の構成について詳細に説明する。第1ステージS1に係るパンチ300は、図9に示すように、その先端に上刃311が形成された上刃部材310と、上刃部材310に固定された被ガイド部材330とを有している。図7に示すように、パンチ300は、上刃部材310の下方のエッジがすべて上刃311となっている。また、上刃311には、正規抜き形状91に対応した位置に設けられた第1上刃311Aと、正規抜き形状91よりも内側の位置に設けられた第2上刃311Bとがある。第2上刃311Bは、平面図において、第1上刃311Aよりも内側に引っ込んでいる。すなわち、第2上刃311Bは、正規抜き形状91よりもパンチ300における内方に位置している。水平断面にてほぼ正方形のパンチ300において、第1上刃311Aは、互いに対角の位置関係にあるコーナー対にそれぞれ設けられている。第2上刃311Bは、第1上刃311Aが設けられているコーナー対とは異なる対角の位置関係にある他方のコーナー対にそれぞれ設けられている。
また、パンチ300では、図9に示すように、被加工材90を幅方向に跨いで設けられた被ガイド部320を有する被ガイド部材330が、上刃部材310に固定されている。被ガイド部材330には、Y軸方向について、上刃部材310の一方(図9の右側)に設けられた被ガイド部材330Aと、他方(図9の左側)に設けられた被ガイド部材330Bとがある。被ガイド部材330A、330Bは、被ガイド部320とは反対の根本側にて、上刃部材310の側面に固定されている。被ガイド部材330A、330Bの根元にはそれぞれ、上刃部材310側へと突出する嵌合凸部331が設けられており、嵌合凸部331は、上刃部材310の側面に形成された嵌合凹部340にはめ込まれている。これにより、被ガイド部材330A、330Bは、上刃部材310に対する位置が定められている。つまり、本形態では、上刃611が設けられた上刃部材310と被ガイド部320が設けられた被ガイド部材330とが直接、連結されることでパンチ300が構成されている。すなわち、本形態のパンチ300は、上刃311と連結された被ガイド部320を備えている。被ガイド部320は、図7に示すように、外側に位置する側面が被ガイド面321となっている。具体的には、被ガイド部320は、X軸方向における両外側にそれぞれ位置する被ガイド面321、Y軸方向における両外側にそれぞれ位置する被ガイド面321を有している。これにより、パンチ300の被ガイド部320にも、プレス方向と直交する水平方向で、互いに異なる方向へ向いた被ガイド面221が4面分、備えられている。
ダイ350には、第1ステージS1の箇所に、パンチ300の上刃311が進入する進入穴360が形成されている。また、図9に示すように、進入穴360の上側の開口には、パンチ300の上刃311と噛み合う下刃361が形成されている。また、下刃361には、図7に示すように、正規抜き形状91に対応した位置に設けられ、第1上刃311Aと噛み合う第1下刃361Aと、正規抜き形状91よりも内側の位置に設けられ、第2上刃311Bと噛み合う第2下刃361Bとがある。本形態では、第1上刃311Aと第1下刃361Aとの抜きクリアランス、第2上刃311Bと第2下刃361Bとの抜きクリアランスはともに、同じ抜きクリアランスC1とされている。
また、ダイ350の第1ステージS1には、被加工材90の幅方向の両外側に、ガイドブロック380が固定されている。ガイドブロック380には、被加工材90の幅方向における一方(図7の上側)の外側に設けられたガイドブロック380Aと、他方(図7の下側)の外側に設けられたガイドブロック380Bとがある。ガイドブロック380A、380Bはそれぞれ2つの側面が、ダイ350の側面に接触することで、ダイ350に対する位置が定められている。また、ガイドブロック380A、380Bはともに、被ガイド部320の被ガイド面321と摺接するガイド面371が形成されている。ガイドブロック380A、380Bは、内壁面のうち、被ガイド部320の被ガイド面321と対向する内壁面がガイド面371となっている。このため、被ガイド部320は、ガイドブロック380A、380Bの内側へと進入することで、被ガイド面321とガイド面371とが摺接することでガイドされる。よって、本形態では、ガイドブロック380A、380Bにより、被ガイド部320をガイドするガイド部370が構成されている。そして、本形態では、下刃361が設けられたダイ350とガイド部370とが直接、連結されている。よって、本形態のダイ350は、下刃361と連結され、被ガイド部320のプレス方向と直交する水平方向のすべての方向への移動を規制するガイド部370を備えている。なお、被ガイド面321と対向していない内壁面372については、被ガイド部320と接触しないよう、被ガイド部320との隙間が摺接クリアランスC2よりも大きなものとされている。また、本形態の第1ステージS1についても、被ガイド面321とガイド面371との摺接クリアランスC2は、上刃311と下刃361との抜きクリアランスC1よりも小さく形成されている。
図8には、第1ステージS1にて、上刃311と下刃361とによる抜き加工により形成された前孔93を示している。前孔93は、第1上刃311Aと第1下刃361Aとによる抜き加工がなされた正規抜き形状91と、第2上刃311Bと第2下刃361Bとによる抜き加工がなされ、正規抜き形状91よりも内側に位置する非正規抜き形状92とを有している。また図8には、正規抜き形状91を二点鎖線で示している。図8に示すように、非正規抜き形状92の外側には、まだ未加工の正規抜き形状91との間に、ドットハッチングにより示す取り代92Aが存在している。
また、図9には、パンチ300の下死点における、上刃311のダイ350の進入穴360への進入深さK1と、被ガイド部320のガイド部370への進入深さK2とを示している。本形態の第1ステージS1においても、下死点における被ガイド部320の進入深さK2は、上刃311の進入深さK1と、被加工材90の厚みtとを合わせた長さよりも長いものとされている。よって、プレス動作が行われる際には、上刃311が被加工材90へと接触する前に、被ガイド部320を進入穴360内へと進入させることができる。すなわち、被加工材90の切断加工より先行して、被ガイド部320の被ガイド面321を、ガイド部370のガイド面371と摺接させることができる。これにより、被ガイド部320がすでにガイド部370によってガイドされた状態で、被加工材90の切断加工を開始することができる。
そして本形態の第1ステージS1においても、上刃311と連結して備えられた被ガイド部320の水平方向への移動を、下刃361と連結して備えられたガイド部370によって直接、規制することができる。よって、上刃311と下刃361との適切な抜きクリアランスC1を、安価に確保することができる。また、パンチ300の被ガイド部320には、プレス方向と直交する水平方向で、互いに異なる方向へ向いた被ガイド面321が4面分、備えられている。すなわち、水平方向で互いに異なる方向へ向いて形成された被ガイド面321を3つ以上、備えたことによって、水平断面における360度の全方向に対する被ガイド部320の規制を、簡素な構成で安価に行うことができている。また、パンチ300が備える被ガイド部320は、Y軸方向について、被加工材90の幅方向の外縁より外方で、ダイ350が備えるガイド部370と摺接する。よって、ガイド部370による被ガイド部320のガイドが被加工材90によって邪魔されることがないようにされている。
続いて、第2ステージS2について説明する。第2ステージS2に係るパンチ400は、図10に示すように、その先端部に上刃部410と、被ガイド部420とを有している。上刃部410は、下側のエッジに上刃411が形成されている。パンチ400においては、上刃411はすべて、正規抜き形状91に対応した位置に設けられている。被ガイド部420は、側面に被ガイド面421を有している。これにより、パンチ400は、上刃411と一体に形成された被ガイド部420を備えている。被ガイド面421は、図7に示すように、上刃411よりもパンチ400における内方に位置している。水平断面にてほぼ正方形のパンチ400において、上刃411は、互いに対角の位置関係にあるコーナー対にそれぞれ設けられている。被ガイド面421は、上刃411が設けられているコーナー対とは異なる対角の位置関係にある他方のコーナー対にそれぞれ設けられている。これにより、パンチ400の被ガイド部420には、プレス方向と直交する水平方向で、互いに異なる方向へ向いた被ガイド面421が4面分、備えられている。
また、ダイ350には、第2ステージS2の箇所に、パンチ400の先端部が進入する進入穴460が形成されている。進入穴460の上側の開口のうち、パンチ400の上刃411に対応する範囲には、上刃411と噛み合う下刃461が、上刃411との抜きクリアランスC1にて形成されている。一方、進入穴460のうち、パンチ400の被ガイド面421と対向する範囲については、被ガイド部420をガイドするガイド部470となっている。ガイド部470は、被ガイド部420の被ガイド面421のそれぞれと摺接クリアランスC2にて摺接するガイド面471を備えている。よって、ダイ350は、進入穴460に、下刃461と一体に形成され、被ガイド部420のプレス方向と直交する水平方向のすべての方向への移動を規制するガイド部470を備えている。また、本形態の第2ステージS2についても、被ガイド面421とガイド面471との摺接クリアランスC2は、上刃411と下刃461との抜きクリアランスC1よりも小さく形成されている。
そして、第2ステージS2に係るパンチ400の上刃411が設けられているコーナー対は、第1ステージS1に係るパンチ300においては第2上刃311Bが設けられているコーナー対に対応している。さらに、パンチ400の上刃411が設けられている範囲は、第2上刃311Bが設けられている範囲よりも長くされている。よって、第2ステージS2においては、上刃411と下刃461とにより、第1ステージS1にて残されていた図8に示す非正規抜き形状92の外側の取り代92Aを抜き直し、その部分に正規抜き形状91を形成することができる。
一方、第2ステージS2に係るパンチ400の被ガイド面421が設けられているコーナー対は、第1ステージS1に係るパンチ300においては第1上刃311Aが設けられているコーナー対に対応している。これにより、第2ステージS2においては、第1ステージS1にて正規抜き形状91で抜き加工がされた箇所の内方にて、パンチ400の被ガイド部420を、ダイ350のガイド部470によってガイドすることができる。すなわち、第2ステージS2では、第1ステージS1にて形成された前孔93の正規抜き形状91の位置で、被ガイド部420をガイド部470によってガイドしつつ、非正規抜き形状92の抜き直しを行うことができる。なお、パンチ400の被ガイド部420の形状を、正規抜き形状91にできるだけ近づけておくことで、被加工材90の第1ステージS1にて形成された正規抜き形状91の部分を、被ガイド部420によってガイドすることができる。これにより、第1ステージS1で抜き加工される正規抜き形状91と、第2ステージS2にて抜き加工される正規抜き形状91との位置合わせを高精度で行うことができる。
また、図10には、パンチ400の下死点における、上刃411のダイ350の進入穴460への進入深さK1と、被ガイド部420の進入穴460への進入深さK2とを示している。本形態の第2ステージS2においても、下死点における被ガイド部420の進入深さK2は、上刃411の進入深さK1と、被加工材90の厚みtとを合わせた長さよりも長いものとされている。よって、プレス動作が行われる際には、上刃411が被加工材90へと接触する前に、被ガイド部420を進入穴460内へと進入させることができる。すなわち、被加工材90の切断加工より先行して、被ガイド部420の被ガイド面421を、ガイド部470のガイド面471と摺接させることができる。これにより、被ガイド部420がすでにガイド部470によってガイドされた状態で、被加工材90の切断加工を開始することができる。
そして第2ステージS2においても、上刃411と一体に形成された被ガイド部420の水平方向への移動を、下刃461と一体に形成されたガイド部470によって直接、規制することができる。よって、上刃411と下刃461との適切な抜きクリアランスC1を、安価に確保することができる。また、パンチ400の被ガイド部420には、プレス方向と直交する水平方向で、互いに異なる方向へ向いた被ガイド面421が、4面、備えられている。すなわち、水平方向で互いに異なる方向へ向いて形成された被ガイド面421を3つ以上、備えたことによって、水平断面における360度の全方向に対する被ガイド部420の規制を、簡素な構成で安価に行うことができている。なお、第2ステージS2においては、パンチ400の被ガイド部420は、被加工材90の幅方向における内方にて、ダイ350のガイド部470と摺接する。しかし、その摺接箇所は、第1ステージS1にて抜き加工がなされた内側であるため、ガイド部470による被ガイド部420のガイドが被加工材90によって邪魔されることがないようにされている。
また、本形態に係る順送型の第3金型3では、第1ステージS1と第2ステージS2とで、それぞれ抜き加工を行う。このように、順送型では、その送り方向に所定ピッチで設けられた複数のステージにてそれぞれ抜き加工が行われ、各ステージ毎に、パンチ等の組付け誤差が生じ得る。しかし、本形態の第3金型3では、上記のように、第1ステージS1における上刃311と下刃361との適正な抜きクリアランスC1が確保される。第2ステージS2においても同様である。すなわち、複数のステージにてそれぞれプレス加工を行う順送型の第3金型3においては、いずれのステージにおいても、容易かつ安価に、適切な抜きクリアランスC1を確保することができる。
また、第3金型3では、第1ステージS1での抜き加工により被加工材90に前孔93を形成し、第2ステージS2での抜き加工により正規抜き形状91を完成させる。このような場合、第2ステージS2では、前孔93における非正規抜き形状92に係る抜き加工を行うパンチ400に、側方力が発生しやすい傾向にある。そして、側方力によりパンチ400が変形してしまうと、上刃411と下刃461との適切な抜きクリアランスC1が維持できなくなってしまう。しかし、本形態では、上刃411と一体に形成された被ガイド部420の水平方向への移動を、下刃461と一体に形成されたガイド部470によって直接、規制することができることにより、適正な抜きクリアランスC1を維持することができる。なお、本形態においては、抜き形状が正方形であり、切断箇所が対角に設けてあるため、側方力が打ち消しあう傾向にあり、そもそもパンチ400の変形は抑えられている。しかし、例えば長方形である場合など、パンチの中心軸に対して偏心荷重が発生するような抜き形状においては、特に効果が大きいと考えられる。偏心荷重によってパンチにねじりの変形が生じてしまうことを防止できるからである。
また、本形態の構成についても、被加工材90として、その厚みtが0.2mm以下のものに適用することが好ましい。パンチとダイとを間接的にガイドする一般的な構成においては、その精度を確保することが困難なほど小さな抜きクリアランスC1を、第1ステージS1および第2ステージS2において、適切に安定して確保することができるからである。また、本形態においても、パンチ300,400の材質はそれぞれ、これらを上型に固定するパンチリテーナの材質とは同じであることが好ましい。これらの熱膨張係数を同一にすることができ、連続してプレス加工を行った場合にも、適切な抜きクリアランスC1を維持することができるからである。さらに、本形態のパンチ300、400についても、上刃や、上型への固定部の付近に過度な曲げ応力を作用させることなく適切な抜きクリアランスC1を確保するため、上刃と固定部との間に撓み誘起部を設けておくこととしてもよい。
<作用効果>
以上詳細に説明したように、本実施形態に係る第1金型1、第2金型2、第3金型3は、上型に、上刃111、211、311、411が形成されたパンチ100、200、300、400を有する。また下型には、それぞれ上刃111、211、311、411と噛み合って被加工材10、80、90を切断する下刃161、261、361、461が形成されたダイ150、250、350を有する。パンチ100、200、300、400には、上刃111、211、311、411と連結または一体に形成された被ガイド部120、220、320、420(パンチ側ガイド構成部)を備えている。ダイ150、250、350には、下刃161、261、361、461と連結または一体に形成されたガイド部170、270、370、470(ダイ側ガイド構成部)を備えている。ガイド部170、270、370、470は、被加工材10、80、90の切断加工より先行して被ガイド部120、220、320、420と摺接し、そのプレス方向と直交するすべての方向への移動を規制する。そして、摺接クリアランスC2は、抜きクリアランスC1より小さく形成されている。これにより、被ガイド部120、220、320、420の水平方向の移動は、ガイド部170、270、370、470により規制される。被ガイド部120、220、320、420は上刃111、211、311、411と連結または一体に形成されている。ガイド部170、270、370、470は下刃161、261、361、461と連結または一体に形成されている。すなわち、上刃111、211、311、411が形成されたパンチ100、200、300、400を直接、規制できる。このため、パンチ100、200、300、400と上型、ダイ150、250、350と下型等の組付け誤差があっても、上刃111、211、311、411と下刃161、261、361、461との適正な抜きクリアランスC1を安価かつ確実に確保できる。よって、上刃と下刃との適正な抜きクリアランスが安価に確保された金型が実現されている。
また、第1金型1、第2金型2、第3金型3の被ガイド部120、220、320、420には、プレス方向と直交する方向で互いに異なる方向へ向いて形成された被ガイド面121、221、321、421(ガイド構成面)が、3つ以上、備えられている。これにより、360度の全方向に対する被ガイド部120、220、320、420の規制を、簡素な構成で行うことができる。このため、例えば複雑な形状の切断加工に対しても、抜きクリアランスC1を適切に確保することができる。
また、第1金型1のパンチ100には、上刃111と固定部130との間で、パンチ100の、プレス方向と直交する方向への撓みを誘起可能に形成された撓み誘起部185が備えられている。これにより、パンチ100が位置ずれしている場合、被ガイド部120がガイド部170によりガイドされる際には、その位置ずれ分、パンチ100は撓むこととなる。そして、撓み誘起部185にて位置ずれが吸収されることにより、上刃111等に影響することなく、位置ずれを容易に修正させることができる。第2金型2、第3金型3のパンチ200、300、400についても同様に、撓み誘起部を設けることができる。
また、撓み誘起部185は、パンチ100の側壁181に対して面直方向へ形成された貫通孔186により設けられている。これにより、貫通孔186の大きさによって、パンチ100の断面二次モーメントや座屈応力を容易に調整することができる。また、被加工材10のせん断力によるパンチ100の撓み量を、その貫通孔186の位置、大きさ、貫通方向等によって調整することができる。この点、第2金型2、第3金型3のパンチ200、300、400に撓み誘起部を設ける場合においても同様に適用できる。
また、第1金型1では、パンチ100とパンチリテーナ140(リテーナ)とが同じ材質であることで、これらの熱膨張係数が同一である。なお、パンチ100の材質とパンチリテーナ140の材質とを、熱膨張係数が近似する組み合わせとしてもよい。プレス加工時の摩擦熱により、パンチ100とパンチリテーナ140の温度上昇が生じたとしても、これらの熱膨張係数が同一か近似であることで、間に隙間が形成されてしまうことを抑制できる。よって、連続したプレス加工においてもパンチ100の位置ずれが生じにくく、適正な抜きクリアランスを維持できる。この点、第2金型2、第3金型3のパンチ200、300、400についても同様に適用できる。
また、第3金型3は、所定の幅に形成された被加工材90を所定のピッチで搬送しながらプレス加工する順送型である。このような順送型においては、複数の加工ステージが備えられており、その各ステージ毎に、パンチとダイとの組付け誤差が生じ得る。これに対し、第1ステージS1、第2ステージS2のそれぞれにおいて、上刃311、411を有するパンチ300、400を下刃361、461を有するダイ350に対して直接、ガイドできるため、適切な抜きクリアランスC1を確保できる。
また、第3金型3は、被加工材90の送り方向の上流側にある第1ステージS1(前ステージ)にて被加工材90に前孔93を抜き加工可能に形成された上刃311(第1の上刃)を備える。またその下流側にある第2ステージS2(後ステージ)にて前孔93の一部の取り代92Aを抜き加工可能に形成された上刃411(第2の上刃)を備える。第1ステージS1では、正規抜き形状91と非正規抜き形状92(ラフ抜き形状)とからなる前孔93を形成する。第2ステージS2に係る上刃411は、前孔93の非正規抜き形状92を正規抜き形状91に抜き直す。そして、上刃411が形成されたパンチ400(第2のパンチ)に一体に形成された被ガイド部420(第2のパンチ側ガイド構成部)は、前孔93の正規抜き形状91の位置で、下刃461(第2の下刃)が形成されたダイ350(第2のダイ)に一体に形成されたガイド部470(第2のダイ側ガイド構成部)と摺接可能に形成されている。これにより、側方力が発生しやすい抜き直しにおいても、適正な抜きクリアランスC1を確保することができる。なお、被ガイド部420の構成は上刃411を有するパンチに連結された部材に設けられていてもよい。また、ガイド部470の構成についても、下刃461を有するダイに連結された部材に設けられていてもよい。
また、第1金型1、第2金型2、第3金型3のパンチ100、200、300の上刃111、211、311は、被加工材10、80,90の外縁より内方で下刃161、261、361と噛み合い可能に形成されている。そして、被ガイド部120、220、320は、被加工材10、80、90の外縁より外方でガイド部170、270、370と摺接可能に形成されている。これにより、ガイド部170、270、370による被ガイド部120、220、320のガイドを、被加工材10、80、90に邪魔されることなく行うことができる。すなわち、適正な抜きクリアランスC1の確保を、被加工材10、80、90に邪魔されることなく行うことができる。
また、第1金型1、第2金型2、第3金型3は、板厚が0.2mm以下の薄鋼板を被加工材10、80、90としてその切断加工を行うものに適用するとよい。抜きクリアランスC1を高い精度で確保できるため、従来の一般的なガイド構成では適正な抜きクリアランスC1を安定して確保できないほど小さい被加工材10、80、90のプレス加工にも好ましく採用できるからである。
[変形例]
なお、本実施の形態は単なる例示にすぎず、本発明を何ら限定するものではない。従って本発明は当然に、その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変形が可能である。例えば、上記の実施形態では、プレス加工を行うプレス型の例について詳細に説明したが、例えば、ロータリー成形など、その他の金型にも適用することができる。また、上記の実施形態では、パンチ側ガイド構成部とダイ側ガイド構成との一方により他方をガイドするガイド構成について、パンチ側ガイド構成部として被ガイド部を、ダイ側ガイド構成部としてガイド部を設けた例について説明した。しかし、これとは逆に、パンチ側ガイド構成部としてガイド部を、ダイ側ガイド構成部として被ガイド部を設けたガイド構成としてもよい。
また、例えば、パンチとそのパンチリテーナとの熱膨張係数とが異なる場合には、パンチリテーナの熱膨張係数の方が、パンチの熱膨張係数よりも小さいことが好ましい。パンチとパンチリテーナとの間に隙間が形成されてしまうことを抑制できる傾向にあるからである。また、パンチに撓み誘起部を設ける構成としては、必ずしも貫通孔によるものでなくてもよく、例えば、止まり穴や切り欠きを設けることとしてもよい。ただし、均一に安定した撓みを誘起させる観点から、貫通孔により撓み誘起部を設けることが好ましい。
また、上刃に一体に形成された被ガイド構成を備えることとして説明したパンチを、上刃と被ガイド部とをそれぞれ異なる部材に設け、これらを連結して構成してもよい。その逆も同様である。また、ダイ側についても同様に、下刃とガイド部とを同じ部材に設けてもよいし、異なる部材を連結することで構成してもよい。ただし、抜きクリアランス精度を高める観点からは、切断加工を行う刃とそのガイド構成とは、同じ部材に一体に形成することが好ましい。組付け誤差をなくすことができるからである。一方、刃とガイド構成との位置が遠い場合や、刃の形状が複雑である場合等には、これらをそれぞれ異なる部材に設け、連結して構成することで、安価な構造とすることができる。なお、刃とガイド構成とを別部材とする場合には、これらが設けられた部材間に介在する位置決めの数はできるだけ少なくすることが好ましい。間に介在する位置決めの数が増えるほど、組付け誤差が積み上がって大きな誤差になる傾向にあるからである。すなわち、パンチにおいては、上刃を有する部材と直接、連結された部材に被ガイド部を備える構成とすることが好ましい。また、ダイにおいても、下刃を有する部材と直接、連結された部材にガイド部を備える構成とすることが好ましい。
また、上記の実施形態で説明したパンチや上刃、その被ガイド部等の形状や構成は、単なる一例であり、他の形状や構造とすることもできる。その一例について、図11~図13により説明する。なお、図11~図13においては、プレス方向と直交する断面のみについて説明する。
図11には、第1変形例に係るパンチ500、ダイ550、被加工材95を示している。第1変形例は、被ガイド部が上刃とは異なる部材に設けられており、被ガイド部に3つだけ被ガイド面を備えた例である。パンチ500は、上刃511が形成された上刃部材510と、プレス方向と直交する方向で互いに異なる方向へ向いて形成された被ガイド面521を3つ備える被ガイド部材520とが連結されて構成されている。上刃部材510と被ガイド部材520とは、キー部材530によって位置決めがなされつつ連結されている。また、被ガイド部材520は、被ガイド面521を3つ、備えている。また、ダイ550は、進入穴551が形成されており、上刃511と抜きクリアランスC1にて下刃561を有し、被ガイド部材520の被ガイド面521と摺接クリアランスC2にて設けられた3つのガイド面571よりなるガイド部570を有する。この第1変形例においても、第1実施形態と同じような形状の抜き加工を被加工材95に対して行うことができる。そして、プレス方向と直交する方向で互いに異なる方向へ向いて形成された被ガイド面521が3つあることで、被ガイド部材520のプレス方向と直交するすべての方向への移動を規制でき、適正な抜きクリアランスC1を確保できる。
図12には、第2変形例に係るパンチ600、ダイ650、被加工材96を示している。第2変形例は、被ガイド面同士のなす角度が一定でない例である。パンチ600は、上刃611を有する上刃部610と、プレス方向と直交する方向で互いに異なる方向へ向いて形成された被ガイド面621を4つ備える被ガイド部620とを有する。上刃611と被ガイド部620とは、同じ部材に一体に形成されている。そして、被ガイド部620は、被ガイド面621を4つ、備えている。ただし、隣り合う被ガイド面621同士の間の角度は、直角ではなく、鈍角、または鋭角である。また、ダイ650は、進入穴651が形成されており、上刃611と抜きクリアランスC1にて下刃661を有し、被ガイド部620の被ガイド面621と摺接クリアランスC2にて設けられた4つのガイド面671よりなるガイド部670を有する。この第2変形例においても、第1実施形態と同じような形状の抜き加工を被加工材96に対して行うことができる。そして、被ガイド部620は、隣り合う被ガイド面621同士の間の角度が、鈍角、または、鋭角であるものの、プレス方向と直交する方向で互いに異なる方向へ向いて形成された被ガイド面521が3つ以上あることには変わりはない。よって、被ガイド部620のプレス方向と直交するすべての方向への移動を規制でき、適正な抜きクリアランスC1を確保できる。
図13には、第3変形例に係るパンチ700、ダイ750、被加工材97を示している。第3変形例は、被ガイド部として円柱形状のものを用いた例である。パンチ700は、上刃711が形成された上刃部材710が、側面に被ガイド面721を有する被ガイド部720に嵌め込みにより位置決めされつつ連結されてなるものである。被ガイド部720は、円柱状の円柱部材725と、円柱部材725における上刃部材710とは反対側の位置に嵌め込まれた回り止め部材726とにより構成されている。被ガイド部720においては、円柱部材725だけではその軸回りの回転位置が定まらないため、回り止め部材726は、その2つの側面727を回転方向の位置決めとして機能させるために設けられている。また、ダイ750は、進入穴751が形成されており、上刃711と抜きクリアランスC1にて下刃761を有する。さらに、ダイ750は、被ガイド面721と摺接クリアランスC2にて設けられたガイド面771、および、回り止め部材726の側面727と摺接クリアランスC2にて設けられた側面ガイド756を有する。これらガイド面771および側面ガイド756により、被ガイド部720のガイド部770が構成されている。なお、側面ガイド756を備える溝部755は、回り止め部材726の突出高さに対して摺接クリアランスC2よりも深めに形成されている。この第3変形例においても、第1実施形態と同じような形状の抜き加工を被加工材97に行うことができる。そして、このような円柱状の被ガイド部についても、プレス方向と直交するすべての方向への移動を規制することができる。すなわち、被ガイド部は、互いに異なる方向へ向いて形成された被ガイド面が3つ以上ある構成に限らず、実現することも可能である。