JP7219347B2 - 光輝性アルミニウム合金及び光輝性アルミニウム合金ダイカスト材 - Google Patents

光輝性アルミニウム合金及び光輝性アルミニウム合金ダイカスト材 Download PDF

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Description

本発明は光輝性アルミニウム合金及び当該光輝性アルミニウム合金を用いた光輝性アルミニウム合金ダイカスト材に関する。
軽量であることに加えて優れた質感を有していることから、携帯可能な電子機器や電子端末の筐体にアルミニウム合金材が使用されている。また、製品外観の意匠性の向上を目的として、部分的にアルミニウム合金材が使用される場合もあする。
アルミニウム合金材の質感に関しては、例えば陽極酸化処理により、アルミニウム合金材の表面に酸化物層を形成させることで、光輝性及び耐食性の向上に加え、必要に応じて着色も可能となる。また、多くの場合において、陽極酸化皮膜はアルミニウム合金材表面よりも高硬度となるため、引っ掻き等に対する耐性を付与できる点においても、外装材として好適に用いることができる。
製品外観に対する使用者の関心の増加に伴って、外装材に対する要求も高くなっている。具体的には、アルミニウム合金材に従来求められていた軽量性及び質感に加えて、所有者の動作に応じて携帯している電子機器や電子端末に印加される応力に対する耐久性や、不意の落下に耐え得る堅牢性、美観に優れた形状とするための加工性も要求され、これらに応えるために機械的性質に優れたアルミニウム合金の開発が進められている。
また、最終製品における質感及び色調について、従前採用していたアルミニウム合金との一貫性を保ちつつ、軽量化及び耐久性の向上を図ることについての需要が存在するため、強度を向上させるだけではなく、陽極酸化処理後において既存合金と同様の質感及び色調を呈することも重要である。
以上のように、本技術分野においては、高い機械的性質を有し、陽極酸化処理後に美麗な発色をしさえすれば絶対的に優れた材料であると単純に言えるわけではなく、質感及び色調の一貫性を担保した上で、強度を始めとした機械的性質を可能な限り引き上げる必要があることに技術的特徴が存在する。
既存の光輝性アルミニウム合金としては、例えば、特許文献1(特公昭56-31854号公報)では、重量でマンガン1.2~4.0%、鉄0.2~1.5%、タングステン0.05~1.0%およびチタン0.02~0.3%を含み、残部アルミニウムおよび不純物からなるダイカスト用アルミニウム合金が開示されている。当該アルミニウム合金は、ダイカストに際して焼き付きが少なく離型性のよい、かつ耐食性、表面処理性、機械的特性の良好なダイカスト用アルミニウム合金であるとされている。
また、特許文献2(特公昭56-31855号公報)では、重量でマンガン1.2~2.8%、鉄0.2~1.5%、クロム0.1~1.35%、タングステン0.05~1.0%およびチタン0.02~0.3%を含み、残部アルミニウムおよび不純物からなるダイカスト用アルミニウム合金が開示されている。当該アルミニウム合金は、ダイカストに際して焼き付きが少なく離型性のよい、かつ耐食性、表面処理性、機械的特性の良好なダイカスト用アルミニウム合金であるとされている。
特公昭56-31854号公報 特公昭56-31855号公報
上記特許文献1及び上記特許文献2に開示されているダイカスト用アルミニウム合金には何れもタングステンが含まれている。タングステンは、硫酸浴による陽極酸化処理においては帯紅色、シュウ酸浴による陽極酸化処理においては黄金色の色調を、陽極酸化皮膜に加える傾向があることに加え、タングステンを含むアルミニウム合金は、染色処理をした場合には鮮やかで均一な発色をもたらすことが知られており、機械的性質の向上が切望されている。
ここで、陽極酸化皮膜によって、あるいは陽極酸化皮膜に対して付加的に着色処理を施すことによって、アルミニウム合金材に付与可能な質感及び発色は多岐に及ぶものの、あらゆる質感及び発色を実現することは困難である。質感及び発色に影響を及ぼす因子としては、アルミニウム合金の組成や陽極酸化処理条件及び着色処理条件等があり、これらを適切に組み合わせることによって、初めて多様な色調等を実現できる。例えば、所定の強度等の特性を満たすアルミニウム合金組成を選択し、所望の質感及び発色を得るためには、仮にそれが実現可能な機械的性質及び色調であったとしても、上述の因子の調整について膨大な試行錯誤を繰り返す必要があり、多大な困難が伴う。
また、一般論として、強度を高めるために合金組成を調整すると、必然的に形成される金属間化合物も変化する。陽極酸化皮膜の色調は、素地となるアルミニウム合金材における金属間化合物の種類と量、組織形態、固溶元素の種類と量等に応じて複雑に変化することが通常であるから、陽極酸化処理後で比較して同等の色調を保持しつつ、アルミニウム合金材の機械的性質を変化させることもまた容易ではない。
上記特許文献1及び上記特許文献2において開示されているアルミニウム合金は、多くの実施例において概ね100MPa以上の0.2%耐力を有している。十分に高い耐力を有し、かつ美麗な陽極酸化皮膜を備えることができるアルミニウム合金部材が実現されているかのようにも思える。しかしながら、実施例でダイカストに使用されている金型形状は100mm(L)×100mm(W)×2mm(t)という単純な板状であり、このようなダイカスト条件では部材各位置における冷却速度のばらつきが比較的小さくなることから、実際の製品形状において陽極酸化処理を行った際の色むらの発生状況を十分に模擬できているとは言えない。
実際に本発明者らが、上記特許文献1及び上記特許文献2の実施例に記載されているアルミニウム合金組成に関して、小型化及び複雑形状化が進んでいる電子機器や電子端末等を始めとした実際の製品形状水準の複雑さを有する金型によるダイカストを行い、得られた部材に対して陽極酸化処理を施した。その結果、位置に依存する異なる冷却速度に起因した含有元素の濃度のばらつきや、合金組織形態のばらつき等による色むらが発生し、製品として使用することはできなかった。そのため、実際の製品を製造する際には、Mn及びFeなどのアルミニウム合金の強度に寄与する成分を、上記特許文献1及び上記特許文献2で示されている成分範囲の下限値近傍に調整し、部材の位置に依存する含有元素濃度や金属間化合物の組織形態のばらつきを軽減し、色むらの発生を抑制せざるを得なかった。
しかしながら、色むらが発生しない合金組成を採用した場合には、0.2%耐力を始めとする機械的性質は実施例に記載の値よりも低い水準となり、近年益々高まる機械的性質についての要求を満足することができない。
以上のような従来技術における問題点に鑑み、本発明の目的は、タングステンを含むアルミニウム合金ダイカスト材に陽極酸化処理を施した場合に色むらの発生が高度に抑制されることに加え、高い機械的性質を有する光輝性アルミニウム合金を提供することにある。また、当該光輝性アルミニウム合金を用いて製造された光輝性アルミニウム合金ダイカスト材を提供することも目的としている。
本発明者らは、上記目的を達成すべく、ダイカスト用アルミニウム合金の組成範囲及びアルミニウム合金ダイカスト材の組織等について鋭意研究を重ねた結果、適量のタングステンを含むアルミニウム合金において、アルミニウム合金ダイカスト材の機械的性質を向上させる元素であるMn、Mg及びZnの添加量を厳密に制御すること等が極めて有効であることを見出し、本発明に到達した。
即ち、本発明は、
Mn:0.5~3.0質量%、
Mg:0.3~2.0質量%、
W:0.01~1.0質量%、
Zn:1.0~3.0質量%、を含み、
残部がアルミニウム及び不可避不純物よりなるアルミニウム合金、を提供する。
本発明のアルミニウム合金は、
前記Mnの含有量が1.0~2.0質量%、
前記Mgの含有量が0.5~1.5質量%、
前記Znの含有量が1.5~2.5質量%、であること、が好ましい。
Mn、Mg及びZnの添加量をこれらの範囲内に制御することで、タングステンを含むアルミニウム合金の陽極酸化処理によって形成される陽極酸化皮膜の発色を損なうことなく、アルミニウム合金ダイカスト材に高い耐力及び硬度を付与することができる。
本発明のアルミニウム合金においては、
更に、
Ti:0.01~0.5質量%、
B:0.001~0.2質量%、
Zr:0.01~0.5質量%、のうちの一種以上を含むこと、が好ましい。
これらの添加元素を添加することで、アルミニウム合金ダイカスト材の金属組織を微細均一化することができ、鋳造割れ及び陽極酸化処理後における色むらの発生を抑制することができる。
また、本発明は、本発明のアルミニウム合金からなり、0.2%耐力が100MPa以上であること、を特徴とするアルミニウム合金ダイカスト材、も提供する。本発明のアルミニウム合金ダイカスト材は、0.2%耐力の向上に寄与するMn、Mg及びZnを含有していることから、100MPa以上の0.2%耐力を実現することができる。ここで、0.2%耐力は105MPa以上であることが好ましく、110MPa以上であることがより好ましい。
本発明のアルミニウム合金ダイカスト材は、ビッカース硬さが60以上であること、が好ましい。アルミニウム合金ダイカスト材のビッカース硬さが60以上であることで、製品形状による都合から薄肉とならざるを得ない部位についても、離型時の変形を抑えることができることに加え、ねじ穴の形成等、精密な加工に必要な加工性を付与することができるため、各種筐体として好適に使用することができる。
また、本発明のアルミニウム合金ダイカスト材は、最大フェレ径が10μm以上の初晶α粒子によって形成される粒状晶領域が、部材表面の表面積率にして90%以上を占めていることが好ましい。また、染色時、さらに均一な発色を実現するためには、最大フェレ径が10μm以上の初晶α粒子によって形成される粒状晶領域が、部材表面の表面積率にして95%以上を占めていることがより好ましい。
更に、本発明のアルミニウム合金ダイカスト材は、硫酸浴を用いた染色を伴わない陽極酸化処理で形成される略5μmの陽極酸化皮膜を備え、前記陽極酸化皮膜の表面における測色で、光源をCIE標準イルミナントD65とした場合のL*値が70以上、a*値が0~2、b*値が1~4であること、が好ましい。略5μmの陽極酸化皮膜を備えた表面の測色において、アルミニウム合金ダイカスト材がこれらの値を有することで、美麗な色調の外観とすることができる。
本発明によれば、タングステンを含むアルミニウム合金ダイカスト材に陽極酸化処理を施した場合において色むらの発生が高度に抑制されることに加え、高い機械的性質を有する光輝性アルミニウム合金を提供することができる。また、当該光輝性アルミニウム合金を用いて製造された光輝性アルミニウム合金ダイカスト材を提供することもできる。
以下、本発明の光輝性アルミニウム合金及び光輝性アルミニウム合金ダイカスト材についての代表的な実施形態について詳細に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
1.アルミニウム合金
本発明のアルミニウム合金は、Mn:0.5~3.0質量%、Mg:0.3~2.0質量%、W:0.01~1.0質量%、Zn:1.0~3.0質量%、を含み、残部がアルミニウム及び不可避不純物よりなるアルミニウム合金である。以下、各成分について詳細に説明する。
(1)添加元素
Mn:0.5~3.0質量%
Mnは、陽極酸化処理時の発色に影響を与え得る他、Al-Mn系金属間化合物を形成し、耐力に寄与することに加え、鋳造時における溶湯の金型への焼き付きを防止する目的で加えられる。Mnが0.5質量%未満となると、鋳造時に溶湯が金型へと焼付くことを防止しきれなくなるため、Mnの下限値は0.5質量%である。一方で、3.0質量%を超えて添加すると、Al-Mn系金属間化合物が粗大に成長し、鋳造割れが発生するようになるため、Mnの上限は3.0質量%である。より品質の良い鋳造を行うためには、上限は2.2質量%とすることが好ましく、2.0質量%とすることがより好ましい。下限は1.2質量%とすることが好ましく、1.5質量%とすることがより好ましい。
Mg:0.1~2.0質量%
Mgは、人工時効後、後述のZnと共にη’相、あるいはη’相及びT’相、を形成することで強度に寄与するため添加される。Mgの含有量が下限値未満である場合、強度向上の効果が十分でなく、上限値を超えて添加した場合には、鋳造割れを引き起こすようになる。従って、Mgの上限値は2.0質量%、下限値は0.3質量%で制限される。同様の観点から、上限値は1.5質量%とすることが好ましく、下限値は0.5質量%とすることが好ましい。
Zn:1.0~3.0質量%
Znは、人工時効後、前述のMgと共にη’相、あるいはη’相及びT’相、を形成することで強度に寄与するため添加される。Znの含有量が下限値未満である場合、強度向上の効果が十分でなく、上限値を超えて添加した場合には、陽極酸化皮膜に黄色みが加わる上、Znの濃度偏析による陽極酸化処理後の色むら発生の要因となるため、Znの上限値は3.0質量%、下限値は1.0質量%で制限される。同様の観点から、上限値は2.5質量%とすることが好ましく、下限値は1.5質量%とすることが好ましい。
W:0.01~1.0質量%
Wは、陽極酸化処理後の発色において、硫酸浴による陽極酸化処理においては帯紅色、シュウ酸浴による陽極酸化処理においては黄金色の色調を与えることに加え、本発明が狙う均一で美麗な発色を得るため添加される。Wの含有量が下限値未満となると上記効果が十分でなく、1.0質量%を超えて添加すると合金コストの上昇を招くため、上限値は1.0質量%、下限値は0.01質量%である。
その他、Ti:0.01~0.5質量%、B:0.001~0.2質量%、Zr:0.01~0.5質量%のうち、一種以上を更に添加してもよい。これらの添加元素は、金属組織を微細均一化することにより、鋳造割れと陽極酸化処理後の色むらを防止する目的で添加される。いずれの元素も過度に添加した場合には、これら添加元素を構成要素とする粗大な金属間化合物を形成するようになり、上記目的を達成できなくなるため、それぞれ、Ti:0.5質量%、B:0.2質量%、Zr:0.5質量%を上限値として制限される。添加量が下限値未満の場合には、十分に組織微細化の効果を得ることができないため、下限値はTi:0.01質量%、B:0.001質量%、Zr:0.01質量%である。
Feは、金属間化合物を形成することで色むら並びに明度に影響を与えるため、本発明においては不純物元素であるが、含有量が0.5質量%以下であればその影響は小さく、含有が許容される。
なお、本発明の効果を損なわない限りにおいて、本発明のアルミニウム合金の製造方法は特に限定されず、従来公知の種々の製造方法を用いればよい。
3.アルミニウム合金ダイカスト材
本発明のアルミニウム合金ダイカスト材は、本発明のアルミニウム合金からなり、0.2%耐力が100MPa以上であること、を特徴としている。0.2%耐力は105MPa以上であることが好ましく、110MPa以上であることがより好ましい。優れた機械的性質は基本的に組成を厳密に最適化したことによって実現されており、ダイカスト材の形状及びサイズに依らず、またダイカスト材の部位及び方位に依らず、当該機械的性質を有している。
本発明のアルミニウム合金ダイカスト材は、ビッカース硬さが60以上であること、が好ましい。アルミニウム合金ダイカスト材のビッカース硬さが60以上であることで、ダイカスト材で薄肉とならざるを得ない部位についても、離型時の変形を抑えることができ、また、ねじ穴の形成等、精密な加工に必要な加工性を付与することができる。
本発明のアルミニウム合金ダイカスト材は、最大フェレ径が10μm以上の初晶α粒子によって形成される粒状晶領域が、部材表面において、表面積率にして90%以上を占めていることが好ましい。鋳造後のダイカスト材の表面において、初晶αの粒径が比較的大きな粒状晶領域と、初晶αの粒径が比較的小さい柱状晶領域が混在することがある。本発明者らは、(1)粒状晶領域においては初晶α粒子に起因し入射光が鏡面反射をする傾向がある一方で、柱状晶領域では、個々の結晶粒の占める表面積が小さくなり、入射光が拡散反射する傾向があること、また、(2)この反射傾向の違いは陽極酸化処理後に顕著に観察されることから、この反射傾向の違いが陽極酸化皮膜の発色段階における色むら発生の主要因となっていること、を見出した。この反射傾向の違いによる色むらは、初晶αの粒径を均一にすることで解消可能であり、部材表面において、表面積率で90%以上が粒状晶領域、あるいは柱状晶領域のいずれか一方で占められている場合には陽極酸化処理の後の色むらが抑制される。しかしながら、柱状晶領域における初晶α粒子の粒径(最大フェレ径)は平均数μm程度と微細であり、初晶α粒子の粒界に現れる第二相粒子の存在量が相対的に高くなる。部材表面に存在する第二相粒子は陽極酸化処理においては明度低下の主要因となる他、染色処理における着色を阻害する。従って、陽極酸化処理後、良好な明度を維持しつつ発色むらを避けるためには、最大フェレ径が10μm以上の初晶α粒子によって形成される粒状晶領域が、部材表面の表面積率にして90%以上を占めるようすることが効果的である。なお、この粒状晶領域については、陽極酸化処理後であれば目視にて判別可能である。この観点から、ダイカスト材内部にある均質な初晶α粒子を表面へと露出させるため、ダイカスト材に1mm程度の面削を施し、陽極酸化処理を行うことは有効な解決策の一つである。
しかしながら、ダイカスト材が、展伸材を始めとする他の工法で得られる部材に対して優位な点として、鋳造完了時点で製品に近い形となることが挙げられ、得られた複雑形状のダイカスト材に面削を施すことは、他の工法に対するコスト的優位性を、少なくとも部分的に失うものである。よって、面削なしで陽極酸化処理を行った場合においても発色むらが存在しない光輝性アルミニウム合金ダイカストに対する需要も大きい。
これに対し、本発明のアルミニウム合金ダイカスト材は、面削を施さずとも高明度かつ均一な発色を有する陽極酸化皮膜を備え得ることも確認しており、これは、本発明アルミニウム合金組成を用いることで、均一かつ十分な大きさの粒径(最大フェレ径)を有する初晶α粒子をダイカスト材表面に形成し、各種金属間化合物の析出量等を規定する効果があることが大きい。
ここで、初晶α粒子の最大フェレ径を求める方法は特に限定されず、従来公知の種々の方法で測定すればよい。なお、フェレ径とは粒子に外接する長方形の辺の長さのことであるが、ある結晶粒の最大フェレ径とは、外接する長方形の角度を変化させ、長辺の長さが最も大きくなった際の長さのこととする。アルミニウム合金ダイカスト材の表面を光学顕微鏡又は走査型電子顕微鏡で観察することで、それぞれの初晶αの最大フェレ径が測定される。なお、観察手法に応じて、断面試料には機械研磨、バフ研磨、電解研磨及びエッチング等を施せばよい。
なお、本発明の効果を損なわない限りにおいて、アルミニウム合金ダイカスト材の形状及びサイズは特に限定されず、従来公知の種々の部材として使用することができる。当該部材としては、例えば、電子端末筐体を挙げることができる。
4.アルミニウム合金ダイカスト材の製造方法
本発明の効果を損なわない限りにおいて、本発明のアルミニウム合金ダイカスト材の製造方法は特に限定されず、本発明のアルミニウム合金に対して従来公知の種々の方法でダイカストを施せばよい。
ダイカスト条件としては、例えば、鋳造圧力を80~150MPa、溶湯温度を680~780℃、金型温度を130~200℃ とすればよい。なお、本発明のアルミニウム合金ダイカスト材を製造するにあたっては、熱処理を施すことが好ましく、T5処理を施すことがより好ましい。但し、熱処理の際、ダイカスト材内に巻き込み巣・引け巣によるポロシティが一定以上存在すると熱処理中のガス膨張に伴い、ブリスター等の表面欠陥となることがある。従って、真空ダイカスト法、PFダイカスト法等を用い、ポロシティの低減されたダイカスト材とすることが望ましい。
5.陽極酸化皮膜を備えたアルミニウム合金ダイカスト材
本発明の陽極酸化皮膜を備えたアルミニウム合金ダイカスト材は、本発明のアルミニウム合金ダイカスト材に対して陽極酸化処理を施すことで得られるものであって、均一で美麗な色調の外観を有していることを特徴としている。以下、陽極酸化皮膜を備えたアルミニウム合金ダイカスト材について詳細に説明する。
本発明の陽極酸化皮膜を備えたアルミニウム合金ダイカスト材は、硫酸浴による染色なしの5μmの陽極酸化皮膜を備えた状態での表面の測色において、光源をCIE標準イルミナントD65とした際のL*値が70以上、a*値が0以上2以下、b*値が1以上4以下であることを特徴としている。ここで、表面の測色方法はJISZ8781に定められる方法を用いればよい。
また、本発明の陽極酸化皮膜を備えたアルミニウム合金ダイカスト材は、色むらの発生が高度に抑制されることを特徴としている。ここで、色むらの検出方法については、例えば、反射率測定において、部位によって反射率が有意に異なれば、当然人の目にも色むらとして認識されるのであるが、その一方で、仮にあらゆる部位にて同等の反射率を得られたとしても、初晶α粒子の平均粒径が小さく金属間化合物が密に存在している部分に入射した光は拡散反射し、初晶α粒子の平均粒径が大きく、金属間化合物が疎に存在する部分に入射した光は鏡面反射をする傾向があるため、人の目による観察においてはこの違いが色むらとして認識される。また、a*値、b*値の測色において、部位によってa*値、b*値が有意に異なれば人の目によってもその違いが判別可能となり、色むらとして認識される。このように人が色むらを識別する理由は多岐にわたっており、適切な指標が存在しない。その為、色むらの有無については、目視にて確認することが適している。
6.アルミニウム合金ダイカスト材への陽極酸化処理
以下、アルミニウム合金ダイカスト材への陽極酸化処理の方法について詳細に説明する。なお、発明の形態にこれらすべての工程が含まれる必要はなく、例えば下記の面削処理は製造コストとの兼ね合いで省略可能である等、必要に応じた工程を選択し実施することが可能である。
(1)面削処理
アルミニウム合金ダイカスト材の表層部分では、初晶α粒子の晶出形態として粒状と柱状のものが混在する場合があり、マクロに見た場合の初晶α粒子の晶出形態の不均一性は、後の陽極酸化処理・染色処理に悪影響をもたらし得る。この初晶α粒子の晶出形態の不均一性は、アルミニウム合金ダイカスト材の表面から深さ1mm程度の面削により解消可能である。
(2)ブラスト処理
硬質な微粒子をアルミニウム合金ダイカスト材に衝突させ、表面を粗面化する処理である。ブラスト処理を施すことによって、陽極酸化処理後の金属組織を目立たなくすることができる。ブラスト処理条件は公知のものを用いればよいが、例えば、ZrO、SiOなどからなる、粒形80~400μmの微粒子を用い、噴射圧力を0.2~0.6MPaとすればよい。
(3)脱脂処理
アルミニウム合金ダイカスト材の表面の油分及び埃等を除去する処理である。脱脂処理条件は公知のものを用いればよいが、例えば、ハロゲン化炭化水素を溶剤として用い、72℃以上の温度による10秒程度のシャワーの後、1分程度の蒸気噴射を行えばよい。
(4)酸化皮膜除去処理
アルミニウム合金ダイカスト材の表面に形成されている酸化皮膜を除去する処理である。酸化皮膜除去処理条件は公知のものを用いればよいが、例えば、浴液として濃度200g/lのHNOを用い、室温にて1分程度浸漬すればよい。
(5)エッチング処理
アルミニウム合金ダイカスト材の表面を溶解させることで、微細な傷や、脱脂処理で除去できない汚れを除去する処理である。エッチング処理条件は公知のものを用いればよいが、例えば、50g/lのNaOH水溶液を用い、室温にて1分程度浸漬すればよい。
(6)デスマット処理
アルミニウム合金ダイカスト材の表面に存在する酸化物等を除去する処理である。デスマット処理条件は公知のものを用いればよいが、例えば、浴液として濃度200g/lのHNOを用い、室温にて1分程度浸漬して超音波照射すればよい。
(7)化学研磨処理
アルミニウム合金ダイカスト材の表面を溶解させることで、アルミニウム合金ダイカスト材の表面に光沢感を付与する処理である。化学研磨処理条件は公知のものを用いればよいが、例えば、95℃のリン酸・硝酸混合溶液に5分程度浸漬すればよい。
(8)陽極酸化処理
アルミニウム合金ダイカスト材の表面に陽極酸化皮膜を形成させる処理である。陽極酸化処理条件は公知のものを用いればよいが、例えば、濃度180g/lのHSOを溶液として用い、溶液温度18℃、電流密度150A/mとし、33分20秒間の通電処理を施せばよい。
(9)染色処理
陽極酸化皮膜が有する微細孔に、有機染料等を侵入させて着色する処理である。染色処理条件は公知のものを用いればよい。濃色を付与する場合は、有機染料等を高濃度に調整した水溶液に長時間浸漬し、淡色を付与する場合は、有機染料等を低濃度に調整した水溶液に短時間浸漬することが一般的である。なお、本処理を省略した場合は、主に陽極酸化皮膜自体が持つ色がダイカスト材の色調及び質感に反映される。
(10)封孔処理
陽極酸化皮膜に存在する微細孔を塞ぐ処理である。封孔処理条件は公知のものを用いればよいが、例えば、溶液として酢酸ニッケル系封孔剤を用い、95℃の溶液に30分程度浸漬すればよい。
以上、本発明の代表的な実施形態について説明したが、本発明はこれらのみに限定されるものではなく、種々の設計変更が可能であり、それら設計変更は全て本発明の技術的範囲に含まれる。
≪実施例1≫
表1において、実施例1として記載されている組成を有するアルミニウム合金を溶製し、鋳造圧力を120MPa、溶湯温度を730℃、金型温度を170℃ とし、ダイカストを行った。金型形状は55mm×110mm×3mmの板状である。なお、表1に記載の数値の単位は質量%濃度である。
Figure 0007219347000001
得られたアルミニウム合金ダイカスト材よりJIS-Z2241に定められる14B号試験片を採取し、室温にて引張試験を行ったところ、0.2%耐力、ビッカース硬さは表2に記載の値となった。
Figure 0007219347000002
得られたアルミニウム合金ダイカスト材に対し、ZrO、SiOからなる、粒形125~250μmの微粒子を用い、噴射圧力を0.4MPaとしたブラスト処理、ハロゲン化炭化水素を溶剤として用い、72℃の温度による10秒のシャワーの後、1分の蒸気噴射を行う脱脂処理、浴液として濃度200g/lのHNOを用い、室温にて1分程度浸漬して超音波照射するデスマット処理、95℃のリン酸・硝酸混合溶液に5分浸漬する化学研磨処理、濃度180g/lのHSOを溶液として用い、溶液温度18℃、電流密度150A/mとし、33分20秒間通電する陽極酸化処理、溶液として酢酸ニッケル系封孔剤を用い、95℃の溶液に30分浸漬する封孔処理、を順次施し、陽極酸化皮膜を備えたアルミニウム合金ダイカスト材を得た。
得られた陽極酸化皮膜を備えたアルミニウム合金ダイカスト材について、JISZ8781に定められる測色方法にて、L*値、a*値、b*値(CIELab色空間)を測定した。また、目視にて色むらの有無について判定し、色むらがない場合には〇、やや色むらが見られるものには△、色むらが見られるものには×を付与し評価した。また、目視にて色むらの有無を評価した領域に対して、粒状晶領域が部材表面積の90%を超えているか否かについて評価した。具体的には、対象領域の陽極酸化皮膜を研磨によって除去した後、エッチングを施して光学顕微鏡観察を行った。また、得られた光学顕微鏡写真から粒状晶領域を特定し、観察画像全体に対する面積率を算出した。粒状晶領域の面積率が90%を超えていれば〇、超えていなければ×として判定した。
Figure 0007219347000003
≪比較例1≫
表1に比較例1として記載の成分となるように溶解材を調整したこと以外は実施例1と同様にして試験片を採取し、0.2%耐力を測定したところ、表2に記載の値となった。
また、実施例1と同様の条件で陽極酸化処理及び測色した結果、L*値、a*値、b*値(CIELab色空間)、色むら、粒状晶領域についての評価は表3に記載の値となった。
≪比較例2≫
表1に比較例2として記載の成分となるように溶解材を調整したこと以外は実施例1と同様にして試験片を採取し、0.2%耐力を測定したところ、表2に記載の値となった。
また、実施例1と同様の条件で陽極酸化処理及び測色した結果、L*値、a*値、b*値(CIELab色空間)、色むら、粒状晶領域についての評価は表3に記載の値となった。
≪比較例3≫
表1に比較例3として記載の成分となるように溶解材を調整したこと以外は実施例1と同様にして陽極酸化処理及び測色した結果、L*値、a*値、b*値(CIELab色空間)色むら、粒状晶領域についての評価は表3に記載の値となった。なお、比較例3の組成はADC12に相当するものである。
表2より、本発明のアルミニウム合金ダイカスト材は100MPa以上の0.2%耐力と60HV以上の硬さを兼ね備えている。一方で、比較例3のアルミニウム合金ダイカスト材は高い0.2%耐力とビッカース硬さを有しているが、比較例1及び比較例2のアルミニウム合金ダイカスト材は100MPa未満の0.2%耐力及び60HV未満の硬さとなっている。
また、表3より、本発明の略5μmの陽極酸化皮膜を備えたアルミニウム合金ダイカスト材は、陽極酸化皮膜の表面における測色において、光源をCIE標準イルミナントD65とした場合のL*値が70以上、a*値が0~2、b*値が1~4の範囲内となっている。一方で、略5μmの陽極酸化皮膜を備えた比較例のアルミニウム合金ダイカスト材は、a*値及びb*値は範囲内となっているが、実施例3ではL*値が大幅に低い値となっている。
以上の結果より、良好な明度(L値)、色相(a値)及び彩度(b値)を有し、100MPa以上の0.2%耐力と60HV以上の硬さを兼ね備えるのは、適量のタングステンを含むアルミニウム合金において、アルミニウム合金ダイカスト材の機械的性質を向上させる元素であるMn、Mg及びZnの添加量を厳密に制御した、実施例1のアルミニウム合金ダイカスト材のみであることが分かる。

Claims (7)

  1. Mn:0.5~3.0質量%、
    Mg:0.3~2.0質量%、
    W:0.01~1.0質量%、
    Zn:1.0~3.0質量%、を含み、
    残部がアルミニウム及び不可避不純物よりなるアルミニウム合金。
  2. 前記Mnの含有量が1.0~2.0質量%、
    前記Mgの含有量が0.5~1.5質量%、
    前記Znの含有量が1.5~2.5質量%、であること、
    を特徴とする請求項1に記載のアルミニウム合金。
  3. 更に、
    Ti:0.01~0.5質量%、
    B:0.001~0.2質量%、
    Zr:0.01~0.5質量%、のうちの一種以上を含むこと、
    を特徴とする請求項1又は2に記載のアルミニウム合金。
  4. 請求項1~3のうちのいずれかに記載のアルミニウム合金からなり、
    0.2%耐力が100MPa以上であること、
    を特徴とするアルミニウム合金ダイカスト材。
  5. ビッカース硬さが60HV以上であること、
    を特徴とする請求項4に記載のアルミニウム合金ダイカスト材。
  6. 最大フェレ径が10μm以上の初晶α粒子によって形成される粒状晶領域が、部材表面の表面積率にして90%以上を占めていること、
    を特徴とする請求項4又は5に記載のアルミニウム合金ダイカスト材。
  7. 硫酸浴を用いた染色を伴わない陽極酸化処理で形成される5μmの陽極酸化皮膜を備え、前記陽極酸化皮膜の表面における測色において、光源をCIE標準イルミナントD65とした場合のL*値が70以上、a*値が0~2、b*値が1~4であること、
    を特徴とする請求項4~6のうちのいずれかに記載のアルミニウム合金ダイカスト材。
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