JP7218454B2 - アルミニウム合金箔 - Google Patents

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Description

本発明は、包材などに用いることができるアルミニウム合金箔に関する。
本願は、2019年12月25日に、日本に出願された特願2019-234194号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
電池外装を始めとしてアルミニウム箔を用いる包材は、両面ないしは片面に樹脂フィルムをラミネートした形態とするのが一般的である。アルミニウム箔はバリア性を担い、樹脂フィルムは主に製品の剛性を担っている。従来から包材に使用されるアルミニウム箔には純アルミニウムやJIS A8079、8021等のAl-Fe合金が用いられている。純アルミニウムやAl-Fe合金の軟質箔は一般的に強度が低い為、例えば箔を薄肉化した場合にはシワや折れ曲がりなどによるハンドリング性の低下や、衝撃でアルミニウム箔にクラックやピンホールを生じる恐れがある。アルミニウム箔として、これらの懸念を改善するには、一般に高強度化が有効である。
例えば、特許文献1では、Mnを積極的に含有したAl-Fe-Mn合金の高強度箔が提案されている。
特開2016-079487号公報
しかしAl-Fe合金へのMnの添加は金属間化合物の粗大化やAl-Fe-Mn系の巨大晶出物が生成し、成形性を低下させるリスクが大きい。
本発明は、上記事情を背景としてなされたものであり、成形性と強度に優れたアルミニウム合金箔を提供することを目的とする。
すなわち、本発明のアルミニウム合金箔のうち、第1の形態のアルミニウム合金箔は、Si:0.5質量%以下、Fe:0.2質量%以上2.0質量%以下、Mg:1.5質量%超5.0質量%以下を含有し、残部がAlと不可避不純物からなる組成を有し、 前記不可避不純物中でMn:0.1質量%以下、Cu:0.1質量%以下に規制したことを特徴とする。
2の形態のアルミニウム合金箔は、前記第1又は第2の形態の発明において、引張強度180MPa以上、伸び15%以上である事を特徴とする。
3の形態のアルミニウム合金箔は、前記第1~第3の形態の何れか1つの発明において、平均結晶粒径が25μm以下であることを特徴とする。
本発明によれば、成形性を確保しつつ伸び特性を有するアルミニウム合金箔を提供することができる。
本発明の実施例における限界成形高さ試験で用いる角型ポンチの平面形状を示す図である。 本発明の実施例における腐食性の評価に用いたアルミニウム合金箔の表面を観察した顕微鏡写真である。
本実施形態のアルミニウム合金箔は、Si:0.5質量%以下、Fe:0.2質量%以上2.0質量%以下、Mg:1.5質量%超5.0質量%以下を含有し、残部がAlと不可避不純物からなる組成を有する。
以下に、本実施形態で規定する内容について説明する。
・Fe:0.2質量%以上2.0質量%以下
Feは、鋳造時にAl-Fe系金属間化合物として晶出し、前記化合物のサイズが大きい場合は焼鈍時に再結晶のサイトとなるため、再結晶粒を微細化する効果がある。Feの含有量が下限を下回ると、粗大な金属間化合物の分布密度が低くなり、結晶粒微細化の効果が低く、最終的な結晶粒径分布も不均一となる。Feの含有量が上限を超えると、結晶粒微細化の効果が飽和もしくは却って低下し、さらに鋳造時に生成されるAl-Fe系金属間化合物のサイズが非常に大きくなり、箔の伸びと圧延性が低下する。このため、Feの含有量を上記範囲に定める。同様の理由でFeの含有量は下限0.5質量%とするのが好ましく、さらに同様の理由でFeの含有量は下限1.0質量%、上限1.8質量%とすることが一層好ましい。
・Mg:1.5質量%超5.0質量%以下
Mgはアルミニウムに固溶し、固溶強化によって軟質箔の強度を高める事が出来る。またMgはアルミニウムに固溶し易い為、Feと共に含有しても金属間化合物が粗大化し成形性や圧延性が低下する危険性は低い。Mgの含有量が1.5質量%を超えると箔は硬くなり成形性や圧延性は低下するが、非常に高い強度を有するアルミニウム軟質箔を得る事が出来る。Mgの含有量が下限を下回ると強度の向上が不十分となり、上限を超えるとアルミニウム合金箔が極めて硬くなり圧延性や成形性の著しい低下を招く。
同様の理由でMgの含有量を1.5質量%超4.5質量%以下の範囲とする事が望ましい。
またMgを添加する事でリチウムイオン二次電池の電解液に対する耐食性が向上する事も確認された。メカニズムの詳細は明らかではないが、Mg添加量が多いほどアルミニウム合金箔と電解液中のリチウムが反応しにくくなり、アルミニウム合金箔の微粉化や貫通孔の発生を抑制する事が出来る。
・Si:0.5質量%以下
Siは微量であれば箔の強度を高める目的で添加されることもあるが、本実施形態においては0.5質量%を超えると、鋳造時に生成されるAl-Fe-Si系金属間化合物のサイズが大きくなり、箔の伸びや成形性が低下し、箔厚みが薄い場合、金属間化合物を起点とした破断が生じ圧延性も低下する。また本実施形態のアルミニウム合金箔の様にMg含有量の多い合金にSiを多量に添加するとMg-Si系析出物の生成量が多くなり、圧延性の低下やMgの固溶量が低下する事による強度低下を招く恐れがある。同様の理由でSiの含有量を0.2質量%以下に抑える事が望ましい。なお、Siの含有量が低い程成形性、圧延性、結晶粒の微細化度合い、そして延性が良好という傾向を有する。
なお、Si含有量の下限値は望ましくは0.001質量%であり、より望ましくは0.005質量%である。
・不可避不純物
その他に、本実施形態のアルミニウム合金箔は、CuやMnなどの不可避不純物を含むことができる。これらの不純物は、例えば、それぞれ0.1質量%以下の含有量とするのが望ましい。なお、本実施形態としては、前記不可避不純物の含有量の上限が上記数値に限定されるものではない。
ただし、Mnはアルミニウムに固溶し難いため、Mgと異なり固溶強化によって軟質箔の強度を大きく高めることは期待できない。またFe含有量の多い合金にMnを多量に添加すると、金属間化合物の粗大化やAl-Fe-Mn系の巨大金属間化合物生成の危険性が高くなり、圧延性や成形性の低下を招く恐れがある。このため、Mn含有量は0.1質量%以下とするのが望ましい。
Mn含有量はより望ましくは0.08質量%以下であり、Mn含有量の下限値は望ましくは0.001質量%であり、より望ましくは0.005質量%である。
・引張強度:180MPa以上
既存のJIS A8079や8021等の箔に対し、劇的に耐衝撃性や突刺し強度を向上させるためには180MPa以上の引張強度が必要である。同様の理由で引張強度は200MPa以上であることが望ましい。ただし成形性は引張強度が高い程低下する為、成形性を重視する場合は引張強度を押さえた方が良い。
引張強度は、組成の選定と結晶粒サイズの最適化により達成することができる。
引張強度の上限値は350MPaであることが望ましい。また、引張強度は200MPa以上310MPa以下であることがより望ましい。
・伸び:15%以上
成形性に対する伸びの影響はその成形方法によって大きく異なり、また伸びだけで成形性が決定されるわけではない。アルミニウム包装材で良く用いられる張出し加工においては、アルミニウム合金箔の伸びが高い程成形性は有利であり、15%以上の伸びを有する事が望ましい。
伸びの特性は、組成の選定と結晶粒サイズの微細化により達成することができる。
伸びの上限値は40%であることが望ましい。また、伸びは15%以上30%以下であることがより望ましい。
・平均結晶粒径:25μm以下
軟質アルミニウム合金箔は結晶粒が微細になることで、変形した際の箔表面の肌荒れを抑制することができ、高い伸びとそれに伴う高い成形性が期待できる。なお、この結晶粒径の影響は箔の厚みが薄い程大きくなる。高い伸び特性やそれに伴う高成形性を実現するにはアルミニウム合金の再結晶粒の平均結晶粒径が25μm以下であることが望ましい。
また、平均結晶粒径の下限値は3μmであることが望ましく、平均結晶粒径はより望ましくは9μm以上20μm以下である。

平均結晶粒径は、組成の選定と均質化処理や冷間圧延率の最適化を図った製造条件により達成することができる。
なお、ここで言う平均結晶粒径は、アルミニウム合金箔の表面を光学顕微鏡で観察し、直線試験線又は円形試験線による切断法により円相当径の平均結晶粒径を算出して得るものである。
以下に、本実施形態のアルミニウム合金箔の製造方法の一例を説明する。
Si:0.5質量%以下、Fe:0.5質量%以上2.0質量%以下、Mg:1.5質量%超5.0質量%以下を含有し、残部がAlと不可避不純物からなり、所望によりMn:0.1質量%以下とした組成を有するアルミニウム合金の鋳塊を、半連続鋳造法等の常法によって鋳造する。得られた鋳塊に対しては、480~540℃で6~12時間の均質化処理を行う。
一般にアルミニウム材料の均質化処理は400~600℃で長時間(例えば12時間)行われるが、本実施形態のようにFe添加による結晶粒微細化を考慮すると480~540℃で6時間以上の熱処理をすることが望ましい。480℃未満では、結晶粒微細化が不十分であり、540℃を超えると、結晶粒の粗大化を招く。処理時間が6時間未満であると、均質処理が不十分となる。
均質化処理後、熱間圧延を行い、所望の厚さのアルミニウム合金板を得る。熱間圧延は常法によって行うことができるが、熱間圧延の巻取り温度は、再結晶温度以上、具体的には300℃以上とすることが望ましい。300℃未満では0.3μm以下の微細なAl-Fe系金属間化合物が析出する他、熱間圧延後に再結晶粒とファイバー粒が混在し、中間焼鈍や最終焼鈍後の結晶粒サイズが不均一化し伸び特性が低下する懸念があり、望ましくない。
熱間圧延の後には、冷間圧延、中間焼鈍、最終冷間圧延を行い、厚さを5~100μmとすることで、本実施形態のアルミニウム合金箔を得る。最終冷間圧延率は90%以上とすることが望ましい。
なお、冷間圧延途中での中間焼鈍は行わなくてもよいが、場合によっては実施しても良い。中間焼鈍にはコイルを炉に投入し一定時間保持するバッチ焼鈍(Batch Annealing)と、連続焼鈍ライン(Continuous Annealing Line、以下CAL焼鈍という)により材料を急加熱・急冷する2種類の方式がある。中間焼鈍を実施する場合、いずれの方法でも良いが、結晶粒の微細化を図り高強度化をする場合はCAL焼鈍が望ましく、成形性を優先するならばバッチ焼鈍が好ましい。
例えば、バッチ焼鈍では、300~400℃で3時間以上、CAL焼鈍では、昇温速度:10~250℃/秒、加熱温度:400℃~550℃、保持時間なしまたは保持時間:5秒以下、冷却速度:20~200℃/秒の条件を採用することができる。ただし、本実施形態としては、中間焼鈍の有無、中間焼鈍を行う場合の条件等は特定のものに限定されるものではない。
箔圧延後には、最終焼鈍を行って軟質箔とする。箔圧延後の最終焼鈍は一般に250℃~400℃で実施すればよい。しかしMgによる耐食性の効果をより高める場合には350℃以上の高温で5時間以上保持する事が望ましい。
最終焼鈍の温度が低いと軟質化が不十分であり、またMgの箔表面への濃化も不十分となり耐食性も低下する懸念がある。400℃を超えると、箔表面へMgが過度に濃化し箔の変色や、酸化皮膜の性質が変化し微小なクラックを生じる事で耐食性が低下する懸念がある。最終焼鈍の時間は、5時間未満では、最終焼鈍の効果が不十分である。
得られたアルミニウム合金箔は、室温(15~25℃)において、引張強度が180MPa以上、伸びが15%以上である。また、平均結晶粒径は、25μm以下である。
得られたアルミニウム合金箔は、高強度と高成形性を両立し、各種の成形材料として包装材などに用いることができる。特にリチウムイオン電池用の外装材や集電体として用いる際には、電解液に対する良好な耐食性を発揮する。
以下に、本発明の実施例を説明する。
表1に示す各組成(残部はAlおよびその他の不可避不純物)からなるアルミニウム合金の鋳塊を用意し、同表に示す条件で均質化処理を施した後、仕上がり温度330℃での熱間圧延にて厚さ3mmの板材とした。その後、冷間圧延、中間焼鈍、最終冷間圧延を経て、厚み40μm、幅1200mmのアルミニウム合金箔の試料を作製した。なお、中間焼鈍の方法については表1に示した。実施例11のCAl焼鈍は、昇温速度:40℃/秒、加熱温度:460℃、保持時間:1秒、冷却速度:40℃/秒の条件で行った。表1の冷間圧延の項目では、中間焼鈍直前の板厚および前記板厚までの冷間圧延率を示している。
作製した実施例1~13及び比較例14~18のアルミニウム合金箔に対して以下の試験または測定を行い、その結果を表2に示した。
・引張強度、伸び
引張強度、伸びのいずれも引張試験にて測定した。引張試験は、JIS Z2241(ISO 6892-1を基とする)に準拠し、圧延方向に対して0°方向の伸びを測定できるように、JIS5号試験片を試料から採取し、万能引張試験機(島津製作所社製 AGS-X 10kN)で引張り速度2mm/minにて試験を行った。
伸びの算出について以下の通りである。まず試験前に試験片長手中央に試験片垂直方向に2本の線を標点距離である50mm間隔でマークする。試験後にアルミニウム合金箔の破断面をつき合わせてマーク間距離を測定し、そこから標点距離(50mm)を引いた伸び量(mm)を、標点間距離(50mm)で除して伸び(%)を求めた。
・平均結晶粒径
アルミニウム合金箔の表面を20容量%過塩素酸+80容量%エタノール混合溶液を用い、電圧20Vで電解研磨を行った後、バーカー氏液中にて電圧30Vの条件で陽極酸化処理した。処理後の供試材について、光学顕微鏡にてアルミニウム合金の再結晶粒の結晶粒を観察した。撮影した写真から直線試験線による切断法により円相当径の平均結晶粒径を算出した。
・突き刺し強度
厚さ40μmのアルミニウム合金箔に対し、直径1.0mm、先端形状半径0.5mmの針を50mm/minの速度で突き刺し、針が箔を貫通するまでの最大荷重(N)を測定した。ここでは突き刺し強度11.0N以上を耐突き刺し性良好と見なしA、11.0N未満をBと判定した。
・限界成型高さ
成型高さは角筒成形試験にて評価した。試験は万能薄板成形試験器(ERICHSEN社製 モデル142/20)にて行い、厚さ40μmのアルミニウム合金箔を図1に示す形状を有する角型ポンチ(一辺の長さD=37mm、角部の面取り径R=4.5mm)を用いて行った。試験条件として、シワ抑え力は10kN、ポンチの上昇速度(成形速度)の目盛は1とし、そして箔の片面(ポンチが当たる面)に鉱物油を潤滑剤として塗布した。箔に対し装置の下部から上昇するポンチが当たり、箔が成形されるが、3回連続成形した際に割れやピンホールがなく成形できた最大のポンチの上昇高さをその材料の限界成型高さ(mm)と規定した。ポンチの高さは0.5mm間隔で変化させた。ここでは張出高さ5.0mm以上を成形性良好と見なしA、5.0mm未満をBと判定した。
・腐食性の評価
ヘキサフルオロリン酸リチウム152gをプロピレンカーボネート/ジエチレンカーボネート=1/1(体積比)1Lに溶解し、1モル/Lの電解液を作製した。次に200mLの二極ビーカーセルの正極に実施例1~13及び比較例14~18で使用した各アルミニウム合金箔をセットし、負極に金属リチウムをセットし、前述の電解液を投入した。この状態で、0.1Vの電位差を1時間印加した後、アルミニウム合金箔の表面を顕微鏡による目視により観察した。図2の顕微鏡写真(観察倍率200倍)に示すように、表面が腐食したものをB、変化しなかったものをAと判定した。腐食したアルミニウム合金箔表面(判定:B)はリチウムとの化合物が生成し、体積膨張により表面が盛り上がっている様子が観察される。各供試材の結果を表2に示す。
Figure 0007218454000001
Figure 0007218454000002
以上、本発明について、上記実施形態と実施例に基づいて説明を行ったが、本発明は、上記実施形態の内容に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない限りは前記実施形態に対する適宜の変更が可能である。

Claims (3)

  1. Si:0.5質量%以下、Fe:0.2質量%以上2.0質量%以下、Mg:1.5質量%超5.0質量%以下を含有し、残部がAlと不可避不純物からなる組成を有し、
    前記不可避不純物中でMn:0.1質量%以下、Cu:0.1質量%以下に規制したアルミニウム合金箔。
  2. 引張強度180MPa以上、伸び15%以上である事を特徴とする請求項1に記載のアルミニウム合金箔。
  3. 平均結晶粒径が25μm以下であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のアルミニウム合金箔。
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JISハンドブック 3 非鉄,財団法人日本規格協会,2007年01月19日,第759-761頁

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