JP7211390B2 - 燃料遮断弁 - Google Patents

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Description

本開示は、燃料遮断弁に関する。
従来から、燃料タンクとキャニスタとを接続する燃料蒸気流路に配置され、かかる燃料蒸気流路を連通状態にしたり遮断状態にしたりする燃料遮断弁が用いられている。このような燃料遮断弁の一例である、下記特許文献1に記載の燃料遮断弁では、フロートが収容される弁室を形成するケース本体に燃料蒸気が通る開口(接続通路)が形成され、かかる開口がフロートの上端に形成された弁により塞がれることにより、燃料蒸気流路が遮断状態となり、また、フロートがかかる開口から離れて開口が解放されると、燃料蒸気流路が連通状態となる。
特開2004-293324号公報
特許文献1の燃料遮断弁によれば、開口における燃料蒸気の通気抵抗を低減させるためには、開口を大きくする必要がある。この場合、フロートによりシールすべき領域の直径(以下、「シール径」と呼ぶ)が拡大し、シール性が低下するという問題がある。加えて、開口が大きくなると、フロートにおいて開口と面して圧力を受ける受圧面積が大きくなるため、フロートが受ける浮力の変化に対する弁の開閉応答性が低下するという問題もある。そこで、燃料遮断弁において、シール径を過度に大きくすることなく通気抵抗を低減可能な技術が望まれる。
本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
本開示の一形態によれば、燃料タンクとキャニスタとを接続する燃料蒸気流路に配置されて用いられる燃料遮断弁が提供される。この燃料遮断弁は、前記燃料タンク内の燃料液位に応じて、前記燃料蒸気流路における通気と遮断とを選択的に制御する弁体と、前記弁体を収容する収容室を形成する収容室形成部であって、前記収容室内と前記収容室外とを連通させ、燃料蒸気が通る筒状の開口を形成する開口形成部と、前記収容室に面する内表面に形成され、前記開口を囲んで前記収容室に向かって突出する前記弁体の筒状の弁座と、前記収容室に面しない外表面に形成され、前記開口を囲んで前記収容室から離れる方向に突出する円筒壁部と、を有する収容室形成部と、を備え、前記円筒壁部の内径端部は、前記開口の外縁から径方向外側に離れて位置し、前記円筒壁部の内径は、前記開口の内径の1倍よりも大きく且つ1.4倍以下である。
上記形態の燃料遮断弁によれば、円筒壁部の内径端部は、開口の外縁から径方向外側に離れて位置し、円筒壁部の内径は、開口の内径の1倍よりも大きく且つ1.4倍以下であるので、収容室内から収容室外へ開口を通って排出される燃料蒸気の流れのうち、開口の外縁と円筒壁部の内径端部との間の領域を排出方向に沿って流れる燃料蒸気(以下、「外周流」と呼ぶ)の流速を、排出方向に見て開口と重なる領域を流れる燃料蒸気(以下、「本流」と呼ぶ)の流速よりも遅くできる。このため、開口から排出された本流のうちの、円筒壁部を越えた領域において径方向に拡散された流れ(以下、「拡散流」と呼ぶ)から、渦のように巻き込まれるようにして本流に戻る流れ(以下、「巻込流」と呼ぶ)が発生することを抑制できる。これは、外周流の流速が遅いため、拡散流を本流に向かって巻き込む力が小さいためと推測される。また、外周流があたかも本流を取り囲む壁として機能するために、拡散流が本流に戻る(ぶつかる)ことを阻害するためと推測される。このように巻込流の発生を抑制でき、また、発生した巻込流が本流に戻る(ぶつかる)ことを抑制できるので、開口からの燃料蒸気の排出、すなわち本流が巻込流により阻害されることを抑制できる。したがって、本形態の燃料遮断弁によれば、シール径を過度に大きくすることなく燃料蒸気の排出時の通気抵抗を低減できる。
本開示は、燃料遮断弁以外の種々の形態で実現することも可能である。例えば、燃料遮断弁を備えたキャニスタや、燃料遮断弁を備えた燃料タンクや、燃料遮断弁の製造方法等の形態で実現することができる。
本開示の一実施形態としての燃料遮断弁を示す断面図である。 燃料遮断弁の分解断面図である。 天井壁部の詳細構成を示す外観斜視図である。 図3に示す4-4断面を示す断面図である。 図4に示す開口の近傍の領域を拡大して示す断面図である。 段差幅と天井壁部における圧力損失との関係を示す説明図である。 壁部高さと圧力損失との関係を示す説明図である。
A.実施形態:
A1.全体構成:
図1は、本開示の一実施形態としての燃料遮断弁20を示す断面図である。図2は、燃料遮断弁20の分解断面図である。図1および図2では、燃料遮断弁20の中心軸を通る断面を示している。図1および図2では、互いに直交するX軸、Y軸およびZ軸が表わされている。燃料遮断弁20の使用状態において、+Z方向は鉛直上方に相当し、X軸およびY軸は、水平方向と平行である。他の図面におけるX軸、Y軸およびZ軸は、図1および図2のX軸、Y軸およびZ軸にそれぞれ対応する。本実施形態において、+X方向および-X方向を「X軸方向」と総称することもある。同様に、+Y方向および-Y方向を「Y軸方向」と、+Z方向および-Z方向を「Z軸方向」と、それぞれ総称することもある。
燃料遮断弁20は、車両等に搭載された燃料タンクFTに取り付けられて用いられる。燃料タンクFTは、ポリエチレンを含む複合樹脂材料により形成されている。燃料タンクFTの上壁FTaには、取付穴FTcが形成されている。燃料遮断弁20は、かかる取付穴FTcから自身の下方(-Z方向)の一部が燃料タンクFT内部に挿入された状態で燃料タンクFTに取り付けられる。燃料遮断弁20は、燃料タンクFTと図示しないキャニスタとを接続する燃料蒸気流路VCに配置されて用いられる。燃料遮断弁20は、燃料タンクFT内の燃料の液位に応じて、燃料蒸気流路VCにおける通気と遮断とを選択的に制御する。具体的には、燃料遮断弁20は、燃料タンクFT内の燃料が液位FL1まで上昇したときに、燃料蒸気および燃料が、キャニスタ等の燃料タンクFTの外部に排出されることを規制する。
燃料遮断弁20は、ケース本体30と、外ケース35と、フロート40と、スプリング46と、蓋体50とを備える。ケース本体30およびフロート40は、耐燃料性に優れたポリアセタール(POM)により形成されている。外ケース35は、ポリアミドにより形成されている。ポリアミドとして、ガラス繊維強化ナイロン6(PA6G)、ナイロン66、ナイロン12などを用いてもよい。
図2に示すように、ケース本体30は、下方が開口したカップ状の外観形状を有し、内部に弁体であるフロート40を収容する収容室30Sを形成する。ケース本体30は、円筒状の側壁部33と、天井壁部32とを備える。側壁部33と天井壁部32とは、互いに溶着されている。ケース本体30は、本開示の「収容室形成部」に相当する。
側壁部33は、円筒状の外観形状を有し、上方端部において天井壁部32と接合し、上方の開口が天井壁部32により塞がれている。側壁部33におけるZ方向の中央からやや下方側には、周方向に所定の間隔で配列する複数の係合穴33bが形成されている。係合穴33bは、外ケース35を取り付けるために用いられる。
図3は、天井壁部32の詳細構成を示す外観斜視図である。図4は、図3に示す4-4断面を示す断面図である。図3および図4に示すように、天井壁部32は、ドーム部320と、第1円筒壁部321と、第2円筒壁部322と、内側突出部324と、弁座325と、を備える。
ドーム部320は、ドーム状の外観形状を有する。ドーム部320における+Z方向端部には、X-Y平面と略平行な上方壁部327が形成されている。上方壁部327の中央には、厚さ方向、すなわち、中心軸AXと平行な方向に上方壁部327を貫く開口32bが形成されている。かかる開口32bは、収容室30Sの内部と、収容室30Sの外部(後述のバッファ室50S)とを連通させる。上方壁部327は、本開示の「開口形成部」に相当する。なお、図3では、天井壁部32が射出成形された際のゲート跡Gtが3つ表わされている。
第1円筒壁部321は、開口32bを囲む円筒状の外観形状を有し、上方壁部327の外表面から+Z方向、すなわち、収容室30Sの内部から離れる方向に突出している。第1円筒壁部321は、開口32bから排出される燃料蒸気を+Z方向に向けるガイドとして機能する。図4に示すように、第1円筒壁部321の内径端部は、開口32bの外縁から径方向外側に離れて位置する。これにより、第1円筒壁部321の内径端部と開口32bの外縁との間には、上方壁部327の外表面に沿った環状の段差部STが形成されている。なお、本実施形態において「開口32bの外縁」とは、開口32bにおける+Z方向の端部、且つ、径方向の外側端部を意味する。段差部STの詳細については後述する。図3に示すように、第1円筒壁部321には、合計2箇所のスリット328が形成されている。各スリット328は、いずれも第1円筒壁部321の高さ方向に沿って延設されている。本実施形態において、2つのスリット328は、中心軸AXを中心として互いに対向する位置に形成されている。2つのスリット328は、上方壁部327のうちの第1円筒壁部321と第2円筒壁部322との間の領域に溜まった燃料、具体的には、開口32bから排出された燃料の飛沫等が溜まったものを、スリット328を介して開口32bへと導くために用いられる。
第2円筒壁部322は、第1円筒壁部321と同様に、開口32bを囲む円筒状の外観形状を有し、上方壁部327の外表面から+Z方向に突出している。第2円筒壁部322は、第1円筒壁部321よりも径方向外側に配置されている。第2円筒壁部322は、上方壁部327の外縁を構成する。第2円筒壁部322は、開口32bから燃料蒸気と共に排出される燃料飛沫が、キャニスタ側に流出することを抑制する壁として機能する。
図2および図4に示すように、内側突出部324は、開口32bを囲む円筒状の外観形状を有し、上方壁部327の内表面から-Z方向、すなわち収容室30Sに向かって突出している。図4に示すように、上方壁部327の内表面(収容室30Sに面する表面)には、開口32bを全周に亘って囲むように、環状溝326が形成されている。これにより、上方壁部327における環状溝326よりも内径側の部分が内側突出部324として形成される。環状溝326の役割について簡単に説明する。天井壁部32の射出成形時に、図3に示すゲート跡Gtに対応する位置の3箇所のゲートから金型内に樹脂が充填されると、環状溝326に相当する部分で樹脂が全周に亘って供給されることとなる。この状態でさらに樹脂の充填圧力が加えられると、内側突出部324に相当する部分に向かって全周から樹脂が供給される。これにより、内側突出部324、特に後述の弁座325における端面の平面度や粗さを全周に亘って所望の値に制御し易くできる。これを目的として、本実施形態では、環状溝326が形成されている。弁座325における端面の平面度や粗さを全周に亘って所望の値に制御できることにより、フロート40と接触するシール面のシール性を向上でき、また、弁座325に接触したフロート40を損傷させることを抑制できる。なお、フロート40は、上方に弾性のシール部材を搭載していてもよく、その場合は、かかるシール部材が弁座325に接触する。
内側突出部324の内径端部には、開口32bを囲む円筒状の弁座325が形成されている。弁座325は、燃料の液位上昇に伴って上昇するフロート40の上端と接する。
図1および図2に示すように、外ケース35は、上方が開口したカップ状の外観形状を有し、ケース本体30の一部とフロート40とを収容する。図1に示す組み付けられた状態において、ケース本体30の下方開口30aは塞がれ、ケース本体30うちの側壁部33は外ケース35に収容され、天井壁部32は外ケース35には収容されていない。外ケース35は、側壁部36と、底壁部37とを備える。
側壁部36の内周面には、複数の係合爪36aが形成されている。各係合爪36aは、ケース本体30の係合穴33bと係合する。これにより、外ケース35がケース本体30に装着される。側壁部36の上部には、シール保持部38が形成されている。シール保持部38は、ケース本体30の上外周に嵌合されるとともに、蓋体50の一端に熱溶着されることでケース本体30と蓋体50とを連結する。
底壁部37には、厚さ方向に貫通する連通穴37bが形成されている。連通穴37bは、収容室30Sと燃料タンクFT内とを連通させる。底壁部37の中央上部には、環状のスプリング支持部37cが形成されている。スプリング支持部37cの外周部は、フロート40の内側凹所の下面との間でスプリング46を支持する。
図2に示すように、フロート40は、側壁部41と弁部42とが一体形成された構成を有する。側壁部41は、下方が開口する略筒状の外観形状を有する。側壁部41の内部には、浮力室40Sが形成されている。弁部42は、側壁部41の上方端面の中央において、+Z方向に突出して形成されている。弁部42は、筒状の外観形状を有する。弁部42の内部は、浮力室40Sと連通する。弁部42の+Z方向の端面は、燃料タンクFT内の燃料の液位が液位FL1以上となりフロート40が浮上した際にケース本体30の弁座325と接し、開口32bを閉塞する。
図1および図2に示すように、蓋体50は、互いに異なる種類の樹脂層で形成された蓋内層51と、蓋外層52との2層構造を有する。蓋内層51は、機械的強度の大きいポリアミドにより形成され、蓋外層52は、耐衝撃性に優れたポリエチレンに溶着する変性ポリエチレンにより形成されている。蓋体50は、蓋本体53と、管体部54とを備える。
蓋本体53は、外周側に形成されたフランジ53aと、フランジ53aの内周側に配置された蓋支持部53cとが一体形成された構成を有する。また、フランジ53aの下端部には、燃料タンクFTの上壁FTaに溶着される蓋溶着端53bが形成されている。
管体部54は、クイックコネクタである図1に示す外部管体QCを、シール部材QCaでシールするとともにクリップQCbで外装するための管体装着部54aを備えている。管体装着部54aの根元部には、外部管体QCの端部を係止するための係止突起54bが環状に突設されている。管体部54内には、管側通路54cが形成されており、この管側通路54cの一端が、蓋体50の内表面とケース本体30の天井壁部32の外表面とに挟まれたバッファ室50Sに連通し、他端が図示しないキャニスタの側に接続される。
上記構成を有する燃料遮断弁20の動作の概略は以下の通りである。給油により燃料タンクFT内に燃料が供給されると、燃料タンクFT内の燃料液位の上昇につれて燃料タンクFT内の上部に溜まっていた燃料蒸気は、外部管体QCを通じてキャニスタ側へ逃がされる。そして、燃料タンクFT内の燃料液位が所定の液位FL1に達すると、燃料は、外ケース35の連通穴37bを通じて収容室30Sに流入する。これにより、フロート40に浮力が生じて上昇し、弁部42で開口32bを閉塞して燃料がキャニスタ側へ流出しない。したがって、燃料タンクFTへの給油の際等に、燃料タンクFTから燃料蒸気をキャニスタへと逃がすとともに、燃料が燃料タンクFT外へ流出するのを防止することができる。
A2.開口32bの近傍の詳細構成:
図5は、図4に示す開口32bの近傍の領域Pを拡大して示す断面図である。図5では、開口32bから流出する燃料蒸気の流れが太い実線矢印により表わされている。図5に示すように、開口32bは、+Z方向に向かって拡径する台形柱状の形状を有する。上述のように、開口32bの外縁に対して径方向外側に連続して段差部STが形成されている。この段差部STの径方向(X軸方向)の幅(以下、「段差幅」と呼ぶ)d1は、所定の範囲内に設定されている。かかる段差幅d1の詳細については後述する。また、第1円筒壁部321の高さ、すなわち、Z軸方向の寸法(以下、「壁部高さ」と呼ぶ)h1は、所定範囲内に設定されている。この壁部高さh1の詳細についても後述する。
第1円筒壁部321の外径端部321aは、環状溝326の外径端部326aに比べて、径方向内側(図5では、-X方向)に位置している。すなわち、第1円筒壁部321は、開口32bに近い位置に配置され、また、X軸方向の厚さが比較的小さく構成されている。このため、第1円筒壁部321をコンパクトに形成でき、天井壁部32および燃料遮断弁20の軽量化および小型化を図ることができる。
開口32bから排出される燃料蒸気の流れ(以下、「排出流」と呼ぶ)VF1のうち、ごく一部は段差部STの上方の領域Ar1、すなわち、開口32bの外縁と第1円筒壁部321の内径端部との間の排出方向に延びる領域Ar1に向かって流れ、第1円筒壁部321の内周面にぶつかって+Z方向の流れ(以下、「外周流」と呼ぶ)VF3となる。また、排出流VF1のうち、領域Ar1に向かわない燃料蒸気は、排出方向(+Z方向)に見て開口32bと重なる領域を流れる燃料蒸気の流れ(以下、「本流」と呼ぶ)VF2となる。
外周流VF3の燃料蒸気の量は少ない。また、領域Ar1の-Z方向には段差部STが存在し、直接的に領域Ar1に+Z方向に燃料蒸気が供給されないこと、および外周流VF3は第1円筒壁部321に衝突して+Z方向に向かうことから、外周流VF3の流速は、本流VF2の流速よりも遅い。
本流VF2のうち外周に近い一部の流れは、第1円筒壁部321を+Z方向に越えた位置で、径方向に拡散する流れ(以下、「拡散流」と呼ぶ)VF4となる。拡散流VF4のうちの一部は、領域Ar1を+Z方向に流れる外周流VF3によって渦のように巻きこまれるようにして本流VF2に戻ろうとする流れ(以下、「巻込流」と呼ぶ)VF5となる。しかし、上述のように、外周流VF3の流速は遅いため、拡散流VF4を本流VF2へと巻き込む力、すなわち、巻込流VF5を生じさせる力は弱い。このため、巻込流VF5の発生を抑制できると推測される。加えて、本流VF2の径方向外側を流れる外周流VF3があたかも本流VF2を囲む壁のように機能するために、巻込流VF5が本流VF2に戻る(ぶつかる)ことが阻害されるものと推測される。巻込流VF5の方向は、本流VF2の方向と交差する方向であるため、本流VF2を阻害し、開口32bを含む天井壁部32における圧力損失(通気抵抗)を増大させる要因となる。しかし、上述のように、巻込流VF5の発生を抑制し、また、巻込流VF5が本流VF2に戻ることを抑制できるため、段差部STが無い構成に比べて上記圧力損失(通気抵抗)を低減できるものと推測される。
A3.段差幅d1と圧力損失との関係:
図6は、段差幅d1と天井壁部32における圧力損失との関係を示す説明図である。図6において、横軸は段差幅d1(ミリメートル)を表し、縦軸は天井壁部32における圧力損失(パスカル)を表す。段差部STは、中心軸AXを通る断面においては、中心軸AXを挟んで2つ存在する。図6の段差幅d1とは、これら2つの段差部STのそれぞれの径方向の長さを意味する。
図6の線L2は、段差幅d1が互いに異なる9つの天井壁部32のモデルに対して燃料蒸気を流すシミュレーションを行い、開口32bを通過する燃料蒸気の圧力損失を解析した結果を結んだ線を表す。なお、各段差幅d1と圧力損失の値とを示す9つの点を黒丸で示し、かかる黒丸の近傍に段差幅d1の値を示している。また、図6の線L1は、段差幅d1が0(ゼロ)である比較例の天井壁部に対して燃料蒸気を流すシミュレーションを行い、開口を通過する燃料蒸気の圧力損失を解析した結果を表す。なお、いずれのモデルにおいても、開口32bの直径は、5.3mm(ミリメートル)であった。開口32bの直径とは、開口32bのうちの最もバッファ室50Sに近い位置(+Z方向の端部)における直径を意味する。
線L1に示すように、比較例の天井壁部のモデルにおける圧力損失は、2900Pa(パスカル)よりも高い値である。これに対して、線L2に示すように、本実施形態の燃料遮断弁20の天井壁部32のモデルでは、天井壁部32における圧力損失は、いずれも2900Paよりも低い値となった。特に、段差幅d1が1.25ミリメートル以下の場合には、圧力損失が2850Paよりも小さな値に収まっている。この場合、第1円筒壁部321の内径(内周表面の直径)は、下記式(1)の演算により、7.8mmと算出される。したがって、第1円筒壁部321の内径は、開口32bの内径のおよそ1.47倍となる。このため、第1円筒壁部321の内径が開口32bの1倍よりも大きく且つ1.4倍以下であれば、天井壁部32における圧力損失を、比較例の天井壁部における圧力損失の値はもちろんのこと、2850Paよりも十分に小さな値に抑えられる。第1円筒壁部321の内径が開口32bの1.4倍以上になると、段差部STが大きくなり、領域Ar1が大きくなる。このため、領域Ar1においても拡散流および巻込流が生じてしまうため、圧力損失が2850Paに近い値になるものと推測される。
5.3+(1.25×2)=7.8・・・(1)
さらに、段差幅d1が0.35mm以上0.9mm以下の場合には、天井壁部32における圧力損失を2700Paよりも小さな値に抑えることができる。このとき、第1円筒壁部321の内径は、開口32bの内径のおよそ1.13倍以上且つ1.34倍以下となっている。第1円筒壁部321の内径をおよそ1.34倍以下とすることにより、上述のように領域Ar1における拡散流および巻込流の発生をより抑制できるものと推測される。また、第1円筒壁部321の内径をおよそ1.13倍以上にすることにより、領域Ar1が過度に小さくなり外周流VF3の流速が遅くならないことを抑制できるものと推測される。以上のように段差幅d1の大きさを制御することにより、開口32bの圧力損失をより低減できる。
A4.壁部高さh1と圧力損失との関係:
図7は、壁部高さh1と圧力損失との関係を示す説明図である。図7において、横軸は壁部高さh1(ミリメートル)を表し、縦軸は本流VF2の圧力(キロパスカル)を表す。本流VF2の圧力が大きいほど、通気抵抗は大きい。
図7の線L3は、壁部高さh1が互いに異なる6つの天井壁部32のモデルに対して、36リットル/分の流量で燃料蒸気を流すシミュレーションを行い、本流VF2の圧力を解析した結果を結んだ線を表す。なお、各壁部高さh1(0、0.5、1.5、2.0、2.5、3.0ミリメートル)と圧力とを示す5つの点を黒丸で示している。図7に示すように、壁部高さh1が2.0mm近傍で、本流VF2の圧力が極小となっている。そこで、本実施形態の第1円筒壁部321の壁部高さh1は、2.0プラスマイナス0.2mm、すなわち、1.8mm以上且つ2.2mm以下の範囲の値に設定されている。かかる範囲とすることにより、本流VF2の圧力を低く抑えて、天井壁部32における通気抵抗を小さくできる。なお、壁部高さh1がかかる範囲よりも大きな値となると、第1円筒壁部321を越える際の本流VF2の流速が非常に速くなる。このため、巻込流VF5が本流VF2に戻る際に圧力損失が大きくなり、その結果、本流VF2の圧力が大きくなるものと推測される。
以上説明した実施形態の燃料遮断弁20によれば、第1円筒壁部321の内径端部は、開口32bの外縁から径方向外側に離れて位置し、第1円筒壁部321の内径は、開口32bの内径の1倍よりも大きく且つ1.4倍以下であるので、収容室30S内から収容室30S外、すなわち、バッファ室50Sへ開口を通って排出される燃料蒸気の流れのうち、開口の外縁と円筒壁部の内径端部との間の領域を排出方向に沿って流れる外周流VF3の流速を、排出方向に見て開口と重なる領域を流れる本流VF2の流速よりも遅くできる。このため、本流VF2のうちの、第1円筒壁部321を越えた領域において径方向に拡散された拡散流VF4から、渦のように巻き込まれるようにして本流に戻る巻込流VF5が発生することを抑制できる。また、外周流VF3があたかも本流VF2を取り囲む壁として機能するために、巻込流VF5が本流VF2に戻る(ぶつかる)ことを抑制できる。このように巻込流VF5の発生を抑制でき、また、発生した巻込流VF5が本流VF2に戻る(ぶつかる)ことを抑制できるので、開口32bからの燃料蒸気の排出、すなわち本流VF2が巻込流VF5により阻害されることを抑制できる。したがって、本形態の燃料遮断弁20によれば、シール径を過度に大きくすることなく燃料蒸気の排出時の通気抵抗を低減できる。
また、第1円筒壁部321の内径を、開口32bの内径の1.13倍以上且つ1.34倍以下とすることにより、開口32bからの燃料蒸気の排出時の通気抵抗(圧力損失)を、より低減できる。また、天井壁部32は、弁座325を囲む環状溝326を有するので、天井壁部32を樹脂の射出成形により形成する構成において、金型において弁座325に相当する部分によりも径方向外側にある複数のゲートから樹脂を流し込む際に、環状溝326の相当する部分を利用して全周に亘って樹脂を行き渡らせることができる。このため、その後、樹脂の充填圧力を加えた場合に、全周から弁座325に相当する部分に向かって樹脂を供給できるため、形成された弁座325の先端面において平面度や粗さを所望の値に制御し易くできる。したがって、フロート40の弁部42が弁座325に接触する際のシール性を向上でき、また、弁部42が弁座325の先端面(-Z方向の端面)により破損することを抑制できる。
また、第1円筒壁部321の外径端部321aは、環状溝326における外径端部326aに比べて、径方向内側に位置するので、第1円筒壁部321の厚さ(径方向の寸法)を小さくでき、燃料遮断弁20の軽量化および小型化を図ることができる。また、第1円筒壁部321には、第1円筒壁部321の径方向内側と、径方向外側とを連通させるスリット328が形成されているので、第1円筒壁部321と第2円筒壁部322との間に溜まった燃料、具体的には、開口32bから排出された燃料の飛沫が溜まったものを、スリット328を介して開口32bへと導くことができる。
B.他の実施形態:
(B1)上記実施形態において、段差部STは1つであったが、多段となるように複数の段差部STを備える構成であってもよい。かかる構成においては、径方向外側(外径方向)に向かうにつれて高さ(+Z方向の位置)が高くなるような段差部STを複数備える構成としてもよい。このようにすることにより、巻込流VF5の発生を抑制しつつ第1円筒壁部321の内径を大きくできる。
(B2)上記実施形態における燃料遮断弁20は、あくまでも一例であり、様々に変形できる。例えば、上記実施形態において、環状溝326を省略してもよい。また、例えば、第1円筒壁部321の外径端部321aは、環状溝326の外径端部326aと径方向において同じ位置、または、より径方向外側に位置してもよい。また、例えば、スリット328の数は2つに限らず他の任意の数であってもよい。また、スリット328を省略してもよい。また、例えば、開口32bは、+Z方向に向かって拡径する台形柱状の形状に限らず、Z軸方向に亘って直径が一定である形状、すなわち円柱形状であってもよい。また、例えば、-Z方向に向かって拡径する台形柱状の形状や、段階的に直径が変化する段付き円柱形状であってもよい。これらの形状においても、第1円筒壁部321の内径が、開口32bの+Z方向の端部における直径(開口32bの内径)の1倍よりも大きく且つ1.4倍以下であることにより、上記実施形態と同様な効果を奏する。また、例えば、壁部高さh1を、1.8mm以上且つ2.2mm以下の範囲から外れた値に設定してもよい。すなわち、壁部高さh1を、1.8mm未満または2.2mmよりも大きい範囲に設定してもよい。
本開示は、上記実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した形態中の技術的特徴に対応する上記実施形態中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
20…燃料遮断弁、30…ケース本体、30S…収容室、30a…下方開口、32…天井壁部、32b…開口、33…側壁部、33b…係合穴、35…外ケース、36…側壁部、36a…係合爪、37…底壁部、37b…連通穴、37c…スプリング支持部、38…シール保持部、40…フロート、40S…浮力室、41…側壁部、42…弁部、46…スプリング、50…蓋体、50S…バッファ室、51…蓋内層、52…蓋外層、53…蓋本体、53a…フランジ、53b…蓋溶着端、53c…蓋支持部、54…管体部、54a…管体装着部、54b…係止突起、54c…管側通路、320…ドーム部、321…第1円筒壁部、321a…外径端部、322…第2円筒壁部、324…内側突出部、325…弁座、326…環状溝、326a…外径端部、327…上方壁部、328…スリット、AX…中心軸、Ar1…領域、FL1…液位、FT…燃料タンク、FTa…上壁、FTc…取付穴、Gt…ゲート跡、P…領域、QC…外部管体、QCa…シール部材、QCb…クリップ、ST…段差部、VC…燃料蒸気流路、VF1…排出流、VF2…本流、VF3…外周流、VF4…拡散流、VF5…巻込流、d1…段差幅

Claims (5)

  1. 燃料タンクとキャニスタとを接続する燃料蒸気流路に配置されて用いられる燃料遮断弁であって、
    前記燃料タンク内の燃料液位に応じて、前記燃料蒸気流路における通気と遮断とを選択的に制御する弁体と、
    前記弁体を収容する収容室を形成する収容室形成部であって、
    前記収容室内と前記収容室外とを連通させ、燃料蒸気が通る筒状の開口を形成する開口形成部と、
    前記収容室に面する内表面に形成され、前記開口を囲んで前記収容室に向かって突出する前記弁体の筒状の弁座と、
    前記収容室に面しない外表面に形成され、前記開口を囲んで前記収容室から離れる方向に突出する円筒壁部と、
    を有する収容室形成部と、
    を備え、
    前記円筒壁部の内径端部は、前記開口の外縁から径方向外側に離れて位置し、
    前記円筒壁部の内径は、前記開口の内径の1倍よりも大きく且つ1.4倍以下である、
    燃料遮断弁。
  2. 請求項1に記載の燃料遮断弁において、
    前記円筒壁部の内径は、前記開口の内径の1.13倍以上且つ1.34倍以下である、燃料遮断弁。
  3. 請求項1または請求項2に記載の燃料遮断弁において、
    前記収容室形成部は、前記弁座を囲む前記内表面に形成された環状溝を、さらに有する、燃料遮断弁。
  4. 請求項3に記載の燃料遮断弁において、
    前記円筒壁部の外径端部は、前記環状溝における外径端部に比べて、径方向内側に位置する、燃料遮断弁。
  5. 請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載の燃料遮断弁において、
    前記円筒壁部には、前記円筒壁部の径方向内側と、前記円筒壁部の径方向外側とを連通させるスリットが形成されている、燃料遮断弁。
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