JP7191347B2 - 高品質黒目漆の製造方法 - Google Patents
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Description
〔1〕原料生漆液を減圧蒸留する工程を含む、高品質黒目漆の製造方法。
〔2〕減圧蒸留は、処理後の黒目漆の水分量が3重量%以下となるまで行う、〔1〕に記載の製造方法。
〔3〕減圧蒸留は、原料生漆液の蒸気圧より25~60hPa減圧して行う、〔1〕記載の製造方法。
〔4〕減圧蒸留は、30分以上行う、〔1〕~〔3〕のいずれか1項に記載の製造方法。
〔5〕減圧蒸留は、20~35℃で行う、〔1〕~〔4〕のいずれか1項に記載の製造方法。
〔6〕原料生漆液を減圧蒸留する工程を含む、漆の精製方法。
〔7〕原料生漆液を収容する反応容器と、容器内で生漆を減圧するための減圧手段を少なくとも有する、漆の精製装置。
〔8〕反応容器は、減圧手段と接続可能な第1の開口部、処理後のサンプル取出用の第2の開口部、処理途中のサンプル分析用の第3の開口部を有する、〔7〕に記載の装置。
-原料生漆液-
本明細書において、原料生漆液は、ウルシの樹液に由来する成分を少なくとも含む液体であり、ウルシの樹木から採取される天然樹液、合成品、及びそれらの混合物のいずれを含むものでもよい。原料生漆液は、天然樹液を含む液体が好ましく、生漆がより好ましい。本明細書において、生漆とは、漆の樹木から採取される樹液から不純物(例えば、樹皮、木屑、異物)を除去して得られるものである。除去は、通常、綿、ガーゼ等の布、紙を用いるろ過により行われる。原料生漆液は、生漆以外の他の成分を含んでもよい。他の成分としては、例えば、Fe(OH)3、HgS、クロシン、クロセチン及び弁柄等の色素が挙げられる。無添加の原料生漆液より調製される黒目漆を、他の成分を添加して得られる黒目漆から区別して、透黒目漆と称することがある。色素を含む原料生漆液から得られる黒目漆としては、例えば、蝋色黒目漆、朱色黒目漆、梨子地黒目漆及び弁柄黒目漆が挙げられる。
本発明の製造方法では、原料生漆液を減圧蒸留する。これにより、従来の方法よりも短時間で、かつかぶれの発症を抑制しながら安全に高品質の黒目漆を得ることができる。
減圧蒸留の条件は、特に限定されないが、一例を挙げると以下のとおりである。圧力は、蒸気圧より25hPa以上減圧することが好ましく、30hPa以上がより好ましい。減圧条件は、蒸気圧より25~60hPa低下させることが好ましく、30~50hPa低下させることがより好ましい。これにより、原料生漆液に含まれる低沸点の揮発性テルペン類、ガス成分、水分を十分に除去できる。
(1)C15-3ウルシオールの含有量が、好ましくは25%以上、より好ましくは30%以上、さらに好ましくは36%以上である。
(2)全タンパク質量が、生漆の場合、好ましくは0.7%以上、黒目漆の場合、好ましくは1.0%以上、さらに好ましくは1.1%以上である。
原料生漆液を減圧蒸留することにより、原料生漆液の品質を高めることができる。減圧蒸留の条件は、上記製造方法において説明したのと同様である。
漆の精製装置は、原料生漆液を収容する反応容器と、容器内で生漆を減圧するための減圧手段を少なくとも有する装置である。本装置を、生漆からの高品質漆の製造、漆の精製の際の減圧蒸留の際に用いることにより、各処理をより効率よく行うことができる。
生漆(浄法寺漆、岩手県産、産地より直接入手)約50mLを漆紙で濾過し、フラスコ、アスピレーター及びウォーターバスを備えたロータリーエバポーター(東京理化器械社製)のフラスコ中に投入し、系内をアルゴン置換して蒸気圧から40hPa前後まで減圧し、気泡が発生しなくなるまで35℃で蒸留を行った。(蒸留時間:1時間。減圧蒸留後のサンプル(黒目漆)収量は、約40mLであり、透明に近く、生漆中の粒子が破壞されて均等な粘液ができ漆中のラッカーゼによるメラニン化反応が起きて、ガラス板に薄く塗った時、黒~茶色の透明な液になった。
実施例1と同様に生漆(実施例1と同じ)を減圧蒸留した。減圧蒸留開始時、15分後、30分後、45分後のカールフィッシャー法に従って水分量を測定したところ、それぞれ17.51、5.20、2.19、1.54重量%であった。なお、水分量の測定条件は、開始時:サンプル100mg±5mg、温度180℃、抽出時間1400秒、流速80ml/分;15分後:サンプル90mg±3mg、温度180℃、抽出時間1400秒、流速80ml/分;30分後:サンプル80mg±5mg、温度180℃、抽出時間1400秒、流速80ml/分;45分後:サンプル79mg±5mg、温度180℃、抽出時間1400秒、流速80ml/分とした。減圧蒸留後のサンプルは透明に近く、ガラス板に薄く塗ると黒~茶色の透明な液となり、実施例1と同様であった。
実施例1の生漆の代わりに中国産生漆(城口生漆、中国原産、日本国内で製造)を用いたほかは実施例1と同様に行った。減圧蒸留開始時及び終了後のサンプル(黒目漆)のそれぞれの水分量を測定した。測定条件は、減圧蒸留開始時:サンプル約100mg、温度180℃、抽出時間1400秒、流速80ml/分;終了後:サンプル約74±3mgになった。その結果、減圧蒸留開始時及び終了後のサンプルの水分量は、28.55重量%、2.67重量%であった(それぞれn=2)。減圧蒸留後のサンプルは透明に近く、ガラス板に薄く塗ると黒~茶色の透明な液となり、実施例1と同様であった。
実施例1の生漆の代わりに中国産生漆(毛バ生漆、中国原産、日本国内で製造)を用いたほかは実施例1と同様に行った。減圧蒸留開始時及び終了後のサンプル(黒目漆)のそれぞれの水分量を測定した。測定条件は、減圧蒸留開始時:サンプル約100mg、温度180℃、抽出時間1400秒、流速80ml/分;終了後:サンプル約80±5mgになった。その結果、減圧蒸留開始時及び終了後のサンプルの水分量は、25.79重量%、2.52重量%であった(それぞれn=2)。減圧蒸留後のサンプルは透明に近く、ガラス板に薄く塗ると黒~茶色の透明な液となり、実施例1と同様であった。
実施例1、3、4のそれぞれの生漆及び蒸留終了後のサンプル(透黒目漆)、市販の生漆及び透黒目漆(京うるし 堤浅吉漆店製)中の全タンパク質量を以下の手順で測定した。
各サンプル4gにアセトン30mlを添加し、4℃で2時間撹拌してアセトン抽出した。高速遠心機(日立製)で4℃、14,400×gの条件で遠心分離して沈殿物1と上清1を得た。沈殿物1について、漆に含まれているウルシオールをより完全に抽出するため、アセトン抽出溶液の色(褐色)褐色が消失するまで、同様のアセトン抽出及び遠心分離を4回反復して行い、120mLの無色の上清2(アセトン可溶性画分)を沈殿物1(アセトン不溶性画分)から分離した。
カラム:JUPITER(登録商標)、5μm、C18、250×15.0mm、 0.5mlサンプルループ(フェノメネックス社製)
サンプル:ウルシオール画分(希釈サンプル)
溶出緩衝液:アセトニトリル:水:酢酸=90:10:2
流速:3ml/min、UV:254nm)
定組成溶離
注入サンプル量:希釈サンプル100μL(サンプル150μL及び緩衝液850μL)
サンプルのスケールアップ:上記サンプル150μLにアセトニトリル850μLを添加し1mLとした。この希釈サンプルの300μLを注入した。
実施例5において、上清2を分離後の沈殿物11.5gを蒸留水15mLに4℃で溶解し撹拌して懸濁液を得た。この懸濁液を、高速遠心機(日立製)で4℃、14,400×gの条件で遠心分離し、上清3と沈殿物3を得た。上清3を真空超高速遠心機(日立製)で4℃、174,000×gの条件で遠心分離し、上清のUV吸光度を(280nm)測定し、全タンパク質量を得た(表2)。
以下の3つのサンプルについて、粘度と透明度の比較を行った。
サンプル1-1(実施例7):実施例1と同様に減圧蒸留により調製した透黒目漆を用いた。最終水分量は、カールフィッシャー法で測定したところ2.167%であった。
サンプル1-2(比較例1):最初に、中国産(城口)生漆について1時間なやし処理(減圧をせずに蒸留器を循環させた)した後、実施例1と同様に減圧蒸留を行い、透黒目漆を得た。
サンプル1-3(比較例2):最初に、中国産(城口)生漆について2時間なやし処理(真空処理をせずに蒸留器を循環させた)した後、実施例1と同様に減圧蒸留を行い、透黒目漆を得た。
以下の実施例10~12で用いる各サンプルを調製した。
サンプル2-1(比較例3):市販の透黒目漆(有限会社 辻田漆店)を用いた。この市販品は、従来のなやし処理(加熱撹拌蒸発法)により調製された漆であり、生漆は中国産であった。
サンプル2-2(実施例8):二戸産の生漆を実施例1と同様の方法で減圧蒸留して調製した透黒目漆を用いた。最終水分量は、カールフィッシャー法で測定したところ2.030であった。
サンプル2-3(実施例9):市販の生漆(中国(城口)産、辻田漆店)生漆を実施例1と同様の方法で調製した透黒目漆を用いた。最終水分量は、カールフィッシャー法で測定したところ3.081%であった。
実施例8~9及び比較例3の黒目漆の全タンパク質量を以下の手順で分析した。
サンプル2-1~2-3各2.0gを40mLのアセトンに懸濁し、4℃で30分間の抽出を3回行った。続いて4℃で20分間24,000×gの条件で遠心分離した。この抽出を3回繰り返した結果、全120mLのアセトン層が得られた。このアセトン層を残渣のアセトン臭がなくなるまで蒸留した。なお、ここで得られる油層を、実施例11のC15-3ウルシオールの定量に用いた。
また、上記真空超高速遠心後の水溶液についてSDS-PAGEを行った(12%ゲルを使用)。
ラッカーゼ活性の測定は、A.Leonowicz and K.Grzywnowicz(1981)“Quantitative estimation of laccase forms in some white-rot fungi using syringaldazine as a substrate”(1981)Enzyme and Microbial Technology Volume 3,Issue 1,January 1981,Pages 55-58を参照し、以下の試薬と反応液を用いて行った。
反応緩衝液:40mM MES-NaOH緩衝液(pH5.3)
50mMシリングアルダジン原液:180.2mgを5mlのDMFと5mLメタノールの混合液に溶解して調製した。
0.5mMシリングアルダジン溶液:50mM原液 100μL+メタノール9.9mLを混合して調製した。
750μLの40mM MES緩衝液(pH5.3又はpH4.5)
100μMの0.5mM シリングアルダジン
50μLの2mg/ml 精製ラッカーゼ(100μgラッカーゼ)又はサンプル2-1~2-3(実施例10におけるろ過後の水溶液)
HPLC分析により、サンプル2-1~2-3のC15-3ウルシオールを定量した(表5、図11)。
以下の実施例17~19で用いる各サンプルを調製した。
・サンプル3-1(比較例4):市販蝋色黒目漆(有限会社辻田漆店製、生漆及び鉄成分を含む原料より製造)
・サンプル3-2(比較例5):市販朱色黒目漆(有限会社辻田漆店製、生漆とHgS成分を含む原料より製造)
・サンプル3-3(実施例13):蝋色黒目漆(減圧蒸留法により調製、二戸生漆と合成した Fe(OH)3を使用)
・サンプル3-4(実施例14):朱色黒目漆(減圧蒸留法により調製、二戸生漆と市販HgSを使用)
・サンプル3-5(実施例15):弁柄黒目漆(減圧蒸留法により調製、二戸生漆と市販弁柄色素を使用)
・サンプル3-6(実施例16):梨子地黒目漆(減圧蒸留法により調製、二戸生漆と合成したクロシン及びクロセチンを使用)
i)Fe(OH)3の調製:FeSO42.7gとNaOH2.7gを100gのDDW(再蒸留水)に溶解し混合した。この溶液を室温で1時間撹拌した。反応液を濾紙(No.2、東洋濾紙社製)でろ過した。残渣をDDWでpH7.0まで洗浄した(通常、DDW7回の洗浄でpH7.0に達する。)。
弁柄の粉末の代わりにHgS(Nikka)の粉末130g(Yamamoto Scinnabar社)を用いたほかは、実施例13と同様に行った。最終水分量は、カールフィッシャー法で測定したところ2.096%であった。
弁柄の粉末(Bura社)50gを100g二戸産生漆又は100gの中国産生漆に添加し、1~1.5時間、30℃で減圧蒸留した。最終水分量は、カールフィッシャー法で測定したところ2.031%であった。
梨子地黒目漆の製造のための色素材料は、クロシン、クロセチン等の黄色色素であることが知られている。これらの色素は、クチナシ(Gardenia jasminoides J.Ellis. Cape Jasmine)の木の主成分である。
得られたメタノール/水溶液を真空蒸留器で蒸発させた。その後、残渣を24時間凍結乾燥した。凍結乾燥した残渣(15g)を15mLのDDWに懸濁させ、二戸生漆70gに溶解した。混合物を1~1.5時間、30℃で減圧蒸留した。最終水分量は、カールフィッシャー法で測定したところ2.440%であった。
各サンプル3-1~3-6各2.0gより、全タンパク質量を実施例10と同様の条件で分析し、全タンパク質量を得た(表6)。
実施例10において、サンプル3-1~3-6を用いたほかは同様にして、SDS-PAGE分析を行い、20mL中のラッカーゼとステラシアニンを分析した(表7、図12)。
実施例12において、サンプル3-1~3-6を用いたほかは同様にして、HPLC分析によりC15-3ウルシオールを定量した(表8、図13~15)。
Claims (6)
- 原料生漆液を減圧蒸留する工程を含み、
減圧蒸留は、アスピレーターを備えるエバポレーター(但し、剪断力を付与する手段を備えるエバポレーターを除く)を用いて、原料生漆液の蒸気圧より30~50hPa減圧し、処理後の黒目漆の水分量が3重量%以下となるまで、20~35℃で30~80分行う、
高品質黒目漆の製造方法。 - 原料生漆液が、色素をさらに含む、請求項1に記載の製造方法。
- 色素が、Fe(OH) 3 、HgS、クロシン、クロセチン及び弁柄から選ばれる少なくとも1つである、請求項2に記載の製造方法。
- 原料生漆液を減圧蒸留する工程を含み、
減圧蒸留は、アスピレーターを備えるエバポレーター(但し、剪断力を付与する手段を備えるエバポレーターを除く)を用いて、原料生漆液の蒸気圧より25~60hPa減圧して、処理後の黒目漆の水分量が3重量%以下となるまで、20~35℃で30~80分行う、
漆の精製方法。 - 原料生漆液が、色素をさらに含む、請求項4に記載の精製方法。
- 色素が、Fe(OH) 3 、HgS、クロシン、クロセチン及び弁柄から選ばれる少なくとも1つである、請求項5に記載の精製方法。
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