JP7188665B1 - モリブデン化合物及びその製造方法 - Google Patents

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Abstract

一般式MoXa(式中、Xは第14族元素、第15族元素又は第16族元素であり、aは0.5、1または2である。)で表されるモリブデン化合物であって、前記一般式MoXa中、Xが第14族元素である場合、単位面積当たりの官能基数が10個/nm2以下であり、前記一般式MoXa中、Xが第15族元素又は第16族元素である場合、単位面積当たりの官能基数が100個/nm2以下であり、粒子径が10nm以上1000nm未満であるモリブデン化合物。

Description

本発明は、モリブデン化合物及びその製造方法に関する。
本願は、2021年3月24日に日本に出願された、特願2021-050482号に基づき優先権主張し、その内容をここに援用する。
無機ナノ粒子は様々な分野での応用が期待されている材料である。特に無機ナノ粒子は、比表面積が大きいことから、触媒などの用途で高い活性を示すことがある。しかし、比表面積が大きいことは、材料設計の観点から逆に問題となる場合がある。例えば、無機ナノ粒子と有機材料との相溶性において、無機ナノ粒子の比表面積が大きいほど、有機材料との相溶性が低下する。一方で、有機材料と比べて耐熱性や耐光性に優れた無機材料は、有機材料と混合して利用することで、有機材料や無機材料単独では発現しえない特性を示すことが期待されることから、無機ナノ粒子と有機材料との相溶性に関する問題は、材料開発において重要な課題となっている。
一般的に、無機ナノ粒子は有機材料との相溶性は低い。相溶性を高めるために通常行われる方法としては、無機ナノ粒子の表面修飾が挙げられる。無機ナノ粒子の表面を有機材料で修飾することで、有機材料との相溶性を高める手法である。例えば、特許文献1には、ゾルゲル法により表面修飾された無機ナノ粒子が記載されている。
特開2008-44835号公報
しかしながら、本発明者らが検討した結果、無機ナノ粒子が有機材料と相溶性が低くなる理由として考えられることは、無機ナノ粒子表面にある官能基の影響が挙げられることが分かった。特に酸化物ナノ粒子においては、その表面は水酸基等の官能基に覆われているため、無機ナノ粒子は親水性が高い表面状態となっている。このため疎水性の高い有機材料との相溶性が低くなるという問題があった。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、有機材料との相溶性が良好な無機ナノ粒子を提供することを課題とする。
本発明は、以下の態様を包含する。
(1)一般式MoX(式中、Xは第14族元素、第15族元素又は第16族元素であり、aは0.5、1または2である。)で表されるモリブデン化合物であって、前記一般式MoX中、Xが第14族元素である場合、前記モリブデン化合物の表面における単位面積当たりの官能基数が10個/nm以下であり、前記一般式MoX中、Xが第15族元素又は第16族元素である場合、前記モリブデン化合物の表面における単位面積当たりの官能基数が100個/nm以下であり、粒子径が10nm以上1000nm未満であるモリブデン化合物。
(2)前記一般式MoX中、Xが第14族元素である場合、XはCであり,かつ、aは0.5若しくは1であり、又は、XはSiであり、かつ、aは2であり、前記一般式MoX中、Xが第15族元素である場合、XはN又はPであり、かつ、aは1又は2であり、前記一般式MoX中、Xが第16族元素である場合、XはS、Se又はTeであり、かつ、aは2である、前記(1)に記載のモリブデン化合物。
(3)前記官能基は、水酸基である、前記(1)又は(2)に記載のモリブデン化合物。(4)一次粒子の平均粒子径が5nm以上1000nm未満である三酸化モリブデン粒子を、第14族元素、第15族元素又は第16族元素の存在下、400~1500℃で加熱することを含む、前記(1)~(3)のいずれか一項に記載のモリブデン化合物の製造方法。
本発明によれば、有機材料との相溶性が良好な無機ナノ粒子を提供することができる。
図1は、硫化モリブデン粒子の原料である三酸化モリブデン粒子の製造に用いられる装置の一例を示す概略図である。 図2は、実施例に係るモリブデン化合物のXRDスペクトルである。
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態を詳細に説明する。
<モリブデン化合物>
本実施形態に係るモリブデン化合物は、一般式MoXで表される。一般式MoX中、Xは第14族元素、第15族元素又は第16族元素であり、aは0.5、1または2である。
前記一般式MoX中、Xにおける第14族元素としては、C、Si、Ge、Sn又はPb等が挙げられる。なかでも、各種材料への適用性、安全性及び原料コストの観点から、Xにおける第14族元素としては、C又はSiが好ましい。MoC化合物は、触媒や超硬合金添加剤などに適用できる。また、MoSi化合物は、超耐熱材料、熱電変換材料などに適用できる。
前記一般式MoX中、XがCである場合、モリブデン化合物の安定性等の観点から、aは0.5又は1であることが好ましい。
前記一般式MoX中、XがSiである場合、モリブデン化合物の安定性等の観点から、aは2であることが好ましい。
前記一般式MoX中、Xにおける第15族元素としては、N、P、As、Sb又はBi等が挙げられる。なかでも、Xにおける第15族元素としては、毒性が低いため、N、Pが好ましく、ハンドリングが容易であるため特にPが好ましい。
前記一般式MoX中、XがPである場合、aは1又は2であることが好ましい。
前記一般式MoX中、Xにおける第16族元素としては、O、S、Se又はTe等が挙げられる。なかでも、Xにおける第16族元素としては、S、Se又はTeが好ましい。XがS、Se又はTeである場合、モリブデン化合物として遷移金属ジカルコゲナイド(TMD)が得られる。TMDは、電気、環境、エネルギーなど様々な分野で今後応用が期待されている材料である。
前記一般式MoX中、XがS、Se又はTeである場合、モリブデン化合物の安定性等の観点から、aは2であることが好ましい。
本実施形態に係るモリブデン化合物は、前記一般式MoX中、Xが第14族元素である場合、単位面積当たりの官能基数が10個/nm以下であり、好ましくは8個/nm以下であり、更に好ましくは7個/nm以下である。
前記一般式MoX中、Xが第14族元素である場合、単位面積当たりの官能基数が10個/nm以下であると、モリブデン化合物の粒子の表面エネルギーを低減できるため、モリブデン化合物の有機材料との相溶性を高めることができる。
本実施形態に係るモリブデン化合物は、前記一般式MoX中、Xが第15族元素又は第16族元素である場合、単位面積当たりの官能基数が100個/nm以下であり、好ましくは80個/nm以下であり、より好ましくは70個/nm以下である。
前記一般式MoX中、Xが第15族元素又は第16族元素である場合、単位面積当たりの官能基数が100個/nm以下であると、モリブデン化合物の粒子の表面エネルギーを低減できるため、モリブデン化合物の有機材料との相溶性を高めることができる。
本実施形態において、前記モリブデン化合物の表面における単位面積当たりの官能基数は、例えば以下の方法により測定する。
(単位面積当たりの官能基数の測定方法)
ブランクの測定:純水20mlに、安定剤として塩化ナトリウム0.5gを加え、塩酸で液のpHを約4とする。これに0.01Nの水酸化ナトリウム水溶液を徐々に加えていき、pHを約9とし、これを終点とする。この時要した水酸化ナトリウム水溶液の量をVblankとする。
試料の測定:モリブデン化合物の試料を約0.05g精秤し、ここに純水20mlを加えた。0.5gの塩化ナトリウムを加えて溶解する。塩酸を用いてブランクと同じpHにする。これを0.01Nの水酸化ナトリウムで滴定し、ブランクの終点と同じpHにする。この時要した水酸化ナトリウム水溶液の量をVとする。
単位面積当たりの官能基数:以下の式に当てはめて、単位面積当たりの官能基数を算出する。なお、比表面積の数値は予めBET比表面積計で測定しておいたものを用いる。 単位面積当たりの官能基数(個/nm)=6.023f(V-Vblank)/WA ここで、fは水酸化ナトリウム水溶液のファクター、Wは試料重量、Aは比表面積を表す。
なお、水酸化ナトリウム水溶液のファクターfは下記式によって求められる。
f=[(標定で求めた)標準液の真の濃度]/(調製した標準液の表示濃度)
一般的に表面官能基は空気中の湿気によって水酸基になる傾向がある。そのため、本実施形態においては、モリブデン化合物の表面における単位面積当たりの官能基数は、モリブデン化合物の有機材料との相溶性の目安とする観点から、水酸基の数を基準とすることが好ましい。
本実施形態に係るモリブデン化合物は、粒子径が10nm以上1000nm未満であり、好ましくは15nm以上800nm以下、より好ましくは20nm以上500nm以下である。
モリブデン化合物の粒子径が10nm以上であると、結晶性を高くしやすく、その性能を発揮させやすい。粒子径が10nm未満の場合は高結晶性の粒子を得るのが困難となり、高い性能を得られ難くなる。一方、モリブデン化合物の粒子径が1000nm未満であると、モリブデン化合物の粒子の表面エネルギーを低減できるため、モリブデン化合物の有機材料との相溶性を高めることができる。粒子径が1000nm以上の場合、相溶性は高くなるが、粒子の比表面積が非常に小さくなるので高い性能が得られ難くなる。
なお、本実施形態において、モリブデン化合物の粒子径は、透過型電子顕微鏡(TEM)などの電子顕微鏡による測長をランダムに50個行い、その平均を粒子径とする。例えば、後述する三酸化モリブデン粒子の一次粒子の平均粒子径と同様に方法により測定できる。
本実施形態のモリブデン化合物は、粒子表面に存在する官能基数が低減されているため、粒子の表面エネルギーが低減されている。そのため、本実施形態に係るモリブデン化合物は、粒子表面の疎水性が高められており、有機材料との相溶性が向上している。そのため、本発明のモリブデン化合物は、水素発生触媒、光触媒、燃料電池触媒、CO還元触媒、半導体、熱電材料等の有機無機ハイブリッド材料において、優れた特性を発現する。
<モリブデン化合物の製造方法>
本実施形態に係るモリブデン化合物の製造方法は、一次粒子の平均粒子径が5nm以上1000nm未満である三酸化モリブデン粒子を、第14族元素、第15族元素又は第16族元素の存在下、400~1500℃、好ましくは500~1000℃、より好ましくは700~900℃で加熱することを含む。
加熱温度を上記の範囲内とすることにより、粒子表面に存在する官能基数が低減されたモリブデン化合物を得ることが出来る。
本実施形態に係るモリブデン化合物の製造方法において、加熱時間は特に限定されないが、反応が充分に進行する時間であればよく、1~48時間であってもよく、2~24時間であってもよく、4~12時間であってもよい。
本実施形態に係るモリブデン化合物の製造方法において、三酸化モリブデン粒子の一次粒子の平均粒子径は、5nm以上1000nm未満であり、好ましくは5nm以上500nm以下であり、より好ましくは5nm以上200nm以下である。
三酸化モリブデン粒子の一次粒子の平均粒子径が上記の範囲内であると、第14族元素、第15族元素又は第16族元素との反応性が良好となりやすく、また、粒子表面に存在する官能基数が低減されたモリブデン化合物を得やすい。本実施形態に係るモリブデン化合物の表面における単位面積当たりの官能基数が100個/nm以下となり、本実施形態に係るモリブデン化合物と有機材料との相溶性を高めるためには、原料として使用する三酸化モリブデン粒子の一次粒子の平均粒子径は、5nm以上200nm以下であることが特に好ましい。
三酸化モリブデン粒子の一次粒子の平均粒子径とは、三酸化モリブデン粒子を、透過型電子顕微鏡(TEM)で撮影し、二次元画像上の凝集体を構成する最小単位の粒子(すなわち、一次粒子)について、その長径(観察される最も長い部分のフェレ径)と短径(その最も長い部分のフェレ径に対して、垂直な向きの短いフェレ径)を計測し、その平均値を一次粒子径としたとき、ランダムに選ばれた50個の一次粒子の一次粒子径の平均値を云う。同様の方法で、本実施形態に係るモリブデン化合物の一次粒子の平均粒子径を測定することができる。
本実施形態に係るモリブデン化合物の製造方法において用いられる三酸化モリブデン粒子は、三酸化モリブデンのβ結晶構造を含む一次粒子の集合体からなることが好ましい。三酸化モリブデンのβ結晶構造を含む一次粒子の集合体からなる三酸化モリブデン粒子は、結晶構造としてα結晶のみからなる従来の三酸化モリブデン粉体に比べて、第14族元素、第15族元素及び第16族元素との反応性が良好であり、三酸化モリブデンのβ結晶構造を含むので、第14族元素、第15族元素及び第16族元素との反応において、前記一般式MoXで表されるモリブデン化合物への転化率Rを大きくすることができる。また、該三酸化モリブデン粒子自表面に存在する水酸基等の官能基が残存しにくいため、粒子表面に存在する官能基数が低減されたモリブデン化合物を得やすい。
三酸化モリブデンのβ結晶構造は、X線源としてCu-Kα線を用いた粉末X線回折(XRD)から得られるスペクトルにおいて、MoOのβ結晶の(011)面に帰属する、(2θ:23.01°付近、No.86426(無機結晶構造データベース、ICSD))のピークの存在によって、確認することができる。三酸化モリブデンのα結晶構造は、MoOのα結晶の(021)面(2θ:27.32°付近、No.166363(無機結晶構造データベース、ICSD))のピークの存在によって、確認することができる。
本実施形態に係るモリブデン化合物の製造方法において、第14族元素としては、C、Si、Ge、Sn又はPb等が挙げられる。なかでも、各種材料への適用性、安全性及び原料コストの観点から、第14族元素としては、C又はSiが好ましい。MoC化合物は、触媒や超硬合金添加剤などに適用できる。また、MoSi化合物は、超耐熱材料、熱電変換材料などに適用できる。
第15族元素としては、N、P、As、Sb又はBi等が挙げられる。なかでも、第15族元素としては、毒性が低いため、N、Pが好ましく、ハンドリングが容易であるため特にPが好ましい。
第16族元素としては、O、S、Se又はTe等が挙げられる。なかでも第16族元素としては、S、Se又はTeが好ましい。XがS、Se又はTeである場合、モリブデン化合物として遷移金属ジカルコゲナイド(TMD)が得られる。TMDは、電気、環境、エネルギーなど様々な分野で今後応用が期待されている材料である。
本実施形態に係るモリブデン化合物の製造方法において、前記三酸化モリブデン粉体のMoO量に対する、第14族元素、第15族元素又は第16族元素の量の仕込み比は、反応が充分に進行する条件であればよい。前記三酸化モリブデン粉体のMoO量100モル%に対して、第14族元素、第15族元素又は第16族元素の量が120モル%以上であることが好ましく、150モル%以上であることが好ましく、200モル%以上であることが好ましい。前記三酸化モリブデン粉体のMoO量100モル%に対して、第14族元素、第15族元素又は第16族元素の量が1000モル%以下であってもよく、500モル%以下であってもよく、300モル%以下であってもよい。
本実施形態に係るモリブデン化合物の製造方法において、前記三酸化モリブデン粉体は、蛍光X線(XRF)で測定されるMoOの含有割合が99.6%以上であることが好ましく、これにより、前記一般式MoXで表されるモリブデン化合物への転化率Rを大きくすることができ、高純度なモリブデン化合物を得ることができる。
本実施形態に係るモリブデン化合物の製造方法において、前記三酸化モリブデン粉体は、X線源としてCu-Kα線を用いた粉末X線回折(XRD)から得られるスペクトルにおいて、MoOのβ結晶の(011)面に帰属するピーク強度の、MoOのα結晶の(021)面に帰属するピーク強度に対する比(β(011)/α(021))が0.1以上であることが好ましい。
MoOのβ結晶の(011)面に帰属するピーク強度、及び、MoOのα結晶の(021)面に帰属するピーク強度は、それぞれ、ピークの最大強度を読み取り、前記比(β(011)/α(021))を求める。
前記三酸化モリブデン粉体において、前記比(β(011)/α(021))は、0.1~10.0であることが好ましく、0.2~10.0であることがより好ましく、0.4~10.0であることが特に好ましい。
前記三酸化モリブデン粉体は、BET法で測定される比表面積が10m/g以上100m/g以下であることが好ましい。
前記三酸化モリブデン粉体において、前記比表面積は、第14族元素、第15族元素又は第16族元素との反応性が良好になることから、10m/g以上であることが好ましく、20m/g以上であることが好ましく、30m/g以上であることが好ましい。前記三酸化モリブデン粉体において、製造が容易になることから、100m/g以下であることが好ましく、90m/g以下であってもよく、80m/g以下であってもよい。
前記三酸化モリブデン粉体は、モリブデンのK吸収端の広域X線吸収微細構造(EXAFS)スペクトルから得られる動径分布関数において、Mo-Oに起因するピークの強度IとMo-Moに起因するピーク強度IIとの比(I/II)が、1.1より大きいことが好ましい。
Mo-Oに起因するピークの強度I、及び、Mo-Moに起因するピーク強度IIは、それぞれ、ピークの最大強度を読み取り、前記比(I/II)を求める。前記比(I/II)は、三酸化モリブデン粉体において、MoOのβ結晶構造が得られていることの目安になると考えられ、前記比(I/II)が大きいほど、第14族元素、第15族元素又は第16族元素との反応性に優れる。
前記三酸化モリブデン粉体において、前記比(I/II)は、1.1~5.0であることが好ましく、1.2~4.0であってもよく、1.2~3.0であってもよい。
(三酸化モリブデン粉体の製造方法)
前記三酸化モリブデン粉体は、酸化モリブデン前駆体化合物を気化させて、三酸化モリブデン蒸気を形成し、前記三酸化モリブデン蒸気を冷却することにより製造することができる。
前記三酸化モリブデン粉体の製造方法は、酸化モリブデン前駆体化合物、及び、前記酸化モリブデン前駆体化合物以外の金属化合物を含む原料混合物を焼成し、前記酸化モリブデン前駆体化合物を気化させて、三酸化モリブデン蒸気を形成することを含み、前記原料混合物100質量%に対する、前記金属化合物の割合が、酸化物換算で70質量%以下であることが好ましい。
前記三酸化モリブデン粉体の製造方法は、図1に示す製造装置1を用いて好適に実施することができる。
図1は、前記三酸化モリブデン粉体の製造に用いられる装置の一例の概略図である。製造装置1は、酸化モリブデン前駆体化合物、又は、前記原料混合物を焼成し、前記酸化モリブデン前駆体化合物を気化させる焼成炉2と、前記焼成炉2に接続され、前記焼成により気化した三酸化モリブデン蒸気を粉体化する十字(クロス)型の冷却配管3と、前記冷却配管3で粉体化した三酸化モリブデン粉体を回収する回収手段である回収機4と、を有する。この際、前記焼成炉2および冷却配管3は、排気口5を介して接続されている。また、前記冷却配管3は、左端部には外気吸気口(図示せず)に開度調整ダンパー6が、上端部には観察窓7がそれぞれ配置されている。回収機4には、第1の送風手段である排風装置8が接続されている。当該排風装置8が排風することにより、回収機4および冷却配管3が吸引され、冷却配管3が有する開度調整ダンパー6から外気が冷却配管3に送風される。すなわち、排風装置8が吸引機能を奏することによって、受動的に冷却配管3に送風が生じる。なお、製造装置1は、外部冷却装置9を有していてもよく、これによって焼成炉2から生じる三酸化モリブデン蒸気の冷却条件を任意に制御することが可能となる。
開度調整ダンパー6により、外気吸気口からは空気を取り入れ、焼成炉2で気化した三酸化モリブデン蒸気を空気雰囲気下で冷却し、三酸化モリブデン粉体とすることで、前記比(I/II)を1.1より大きくすることができ、三酸化モリブデン粉体において、MoOのβ結晶構造が得られ易い。三酸化モリブデン蒸気を、液体窒素を用いて冷却した場合など、窒素雰囲気下の酸素濃度が低い状態での三酸化モリブデン蒸気の冷却は、酸素欠陥密度を増加させ、前記比(I/II)を低下させ易い。
酸化モリブデン前駆体化合物としては、三酸化モリブデンのβ結晶構造を含む一次粒子の集合体からなる三酸化モリブデン粉体を形成するための前駆体化合物であれば特に制限されない。
前記酸化モリブデン前駆体化合物としては、焼成することで三酸化モリブデン蒸気を形成するものであれば特に制限されないが、金属モリブデン、三酸化モリブデン、二酸化モリブデン、硫化モリブデン、モリブデン酸アンモニウム、リンモリブデン酸(HPMo1240)、ケイモリブデン酸(HSiMo1240)、モリブデン酸アルミニウム、モリブデン酸ケイ素、モリブデン酸マグネシウム(MgMo3n+1(n=1~3))、モリブデン酸ナトリウム(NaMo3n+1(n=1~3))、モリブデン酸チタニウム、モリブデン酸鉄、モリブデン酸カリウム(KMo3n+1(n=1~3))、モリブデン酸亜鉛、モリブデン酸ホウ素、モリブデン酸リチウム(LiMo3n+1(n=1~3))、モリブデン酸コバルト、モリブデン酸ニッケル、モリブデン酸マンガン、モリブデン酸クロム、モリブデン酸セシウム、モリブデン酸バリウム、モリブデン酸ストロンチウム、モリブデン酸イットリウム、モリブデン酸ジルコニウム、モリブデン酸銅等が挙げられる。これらの酸化モリブデン前駆体化合物は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。酸化モリブデン前駆体化合物の形態は、特に限定されず、例えば、三酸化モリブデンなどの粉体状であっても良く、モリブデン酸アンモニウム水溶液のような液体であっても良い。好ましくは、ハンドリング性かつエネルギー効率の良い粉体状である。
酸化モリブデン前駆体化合物として、市販のα結晶の三酸化モリブデンを用いることが好ましい。また、酸化モリブデン前駆体化合物として、モリブデン酸アンモニウムを用いる場合には、焼成により熱力学的に安定な三酸化モリブデンに変換されることから、気化する酸化モリブデン前駆体化合物は前記三酸化モリブデンとなる。
これらの酸化モリブデン前駆体化合物のうち、得られる三酸化モリブデン粉体の純度、一次粒子の平均粒子径、結晶構造を制御しやすい観点から、三酸化モリブデンを含むことが好ましい。
酸化モリブデン前駆体化合物、及び、前記酸化モリブデン前駆体化合物以外の金属化合物を含む原料混合物混合物を焼成することでも、三酸化モリブデン蒸気を形成することができる。
前記酸化モリブデン前駆体化合物以外の金属化合物としては、特に制限されないが、アルミニウム化合物、ケイ素化合物、チタン化合物、マグネシウム化合物、ナトリウム化合物、カリウム化合物、ジルコニウム化合物、イットリウム化合物、亜鉛化合物、銅化合物、鉄化合物等が挙げられる。これらのうち、アルミニウム化合物、ケイ素化合物、チタン化合物、マグネシウム化合物を用いることが好ましい。
酸化モリブデン前駆体化合物と前記酸化モリブデン前駆体化合物以外の金属化合物とが中間体を生成する場合があるが、この場合でも焼成により中間体が分解して、三酸化モリブデンを熱力学的に安定な形態で気化させることができる。
前記酸化モリブデン前駆体化合物以外の金属化合物としては、これらのうち、アルミニウム化合物を用いることが、焼成炉の傷つき防止のために好ましく、三酸化モリブデン粉体の純度を向上させるために前記酸化モリブデン前駆体化合物以外の金属化合物を用いないことでもよい。
アルミニウム化合物としては、塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、塩基性酢酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、ベーマイト、擬ベーマイト、遷移酸化物アルミニウム(γ-酸化物アルミニウム、δ-酸化物アルミニウム、θ-酸化物アルミニウムなど)、α-酸化物アルミニウム、2種以上の結晶相を有する混合酸化物アルミニウム等が挙げられる。
酸化モリブデン前駆体化合物、及び、前記酸化モリブデン前駆体化合物以外の金属化合物を含む原料混合物を焼成するに際して、前記原料混合物100質量%に対する、前記酸化モリブデン前駆体化合物の含有割合は、40~100質量%であることが好ましく、45~100質量%であってもよく、50~100質量%であってもよい。
焼成温度としては、使用する酸化モリブデン前駆体化合物、金属化合物、および所望とする三酸化モリブデン粉体等によっても異なるが、通常、中間体が分解できる温度とすることが好ましい。例えば、酸化モリブデン前駆体化合物としてモリブデン化合物を、金属化合物としてアルミニウム化合物を用いる場合には、中間体として、モリブデン酸アルミニウムが形成されうることから、焼成温度は500~1500℃であることが好ましく、600~1550℃であることがより好ましく、700~1600℃であることがさらに好ましい。
焼成時間についても特に制限はなく、例えば、1分~30時間とすることができ、10分~25時間とすることができ、100分~20時間とすることができる。
昇温速度は、使用する酸化モリブデン前駆体化合物、前記金属化合物、および所望とする三酸化モリブデン粉体の特性等によっても異なるが、製造効率の観点から、0.1℃/min以上100℃/min以下であることが好ましく、1℃/min以上50℃/min以下であることがより好ましく、2℃/min以上10℃/min以下であることがさらに好ましい。
焼成炉内の内部圧力は、特に制限されず、陽圧であっても減圧であってもよいが、酸化モリブデン前駆体化合物を好適に焼成炉から冷却配管に排出する観点から、焼成は減圧下で行われることが好ましい。具体的な減圧度としては、-5000Pa~-10Paであることが好ましく、-2000Pa~-20Paであることがより好ましく、-1000Pa~-50Paであることがさらに好ましい。減圧度が-5000Pa以上であると、焼成炉の高気密性や機械的強度が過度に要求されず、製造コストが低減できることから好ましい。一方、減圧度が-10Pa以下であると、焼成炉の排出口での酸化モリブデン前駆体化合物の詰まりを防止できることから好ましい。
なお、焼成中に焼成炉に気体を送風する場合、送風する気体の温度は、5~500℃であることが好ましく、10~100℃であることがより好ましい。
また、気体の送風速度は、焼成炉の有効容積が100Lに対して、1L/min以上500L/min以下であることが好ましく、10L/min以上200L/min以下であることがより好ましい。
気化した三酸化モリブデン蒸気の温度は、使用する酸化モリブデン前駆体化合物の種類によっても異なるが、200~2000℃であることが好ましく、400~1500℃であることがより好ましい。なお、気化した三酸化モリブデン蒸気の温度が2000℃以下であると、通常、冷却配管において、外気(0~100℃)の送風により容易に粉体化することができる傾向がある。
焼成炉から排出される三酸化モリブデン蒸気の排出速度は、使用する前記酸化モリブデン前駆体化合物量、前記金属化合物量、焼成炉の温度、焼成炉内への気体の送風、焼成炉排気口の口径により制御することができる。冷却配管の冷却能力によっても異なるが、焼成炉から冷却配管への三酸化モリブデン蒸気の排出速度は、0.001g/min以上100g/min以下であることが好ましく、0.1g/min以上50g/min以下であることがより好ましい。
また、焼成炉から排出される気体中に含まれる三酸化モリブデン蒸気の含有量は、0.01g/min以上1000mg/L以下であることが好ましく、1g/min以上500mg/Lg/minであることがより好ましい。
次に、前記三酸化モリブデン蒸気を冷却して粉体化する。
三酸化モリブデン蒸気の冷却は、冷却配管を低温にすることにより行われる。この際、冷却手段としては、上述のように冷却配管中への気体の送風による冷却、冷却配管が有する冷却機構による冷却、外部冷却装置による冷却等が挙げられる。
三酸化モリブデン蒸気の冷却は、空気雰囲気下で行うことが好ましい。三酸化モリブデン蒸気を空気雰囲気下で冷却し、三酸化モリブデン粉体とすることで、前記比(I/II)を1.1より大きくすることができ、三酸化モリブデン粉体において、MoOのβ結晶構造が得られ易い。
冷却温度(冷却配管の温度)は、特に制限されないが、-100~600℃であることが好ましく、-50~400℃であることがより好ましい。
三酸化モリブデン蒸気の冷却速度は、特に制限されないが、100℃/s以上100000℃/s以下であることが好ましく、1000℃/s以上50000℃/s以下であることがより好ましい。なお、三酸化モリブデン蒸気の冷却速度が早くなるほど、粒子径の小さく、比表面積の大きい三酸化モリブデン粉体が得られる傾向がある。
冷却手段が、冷却配管中への気体の送風による冷却である場合、送風する気体の温度は-100~300℃であることが好ましく、-50~100℃であることがより好ましい。
また、気体の送風速度は、0.1m/min以上20m/min以下であることが好ましく、1m/min以上10m/min以下であることがより好ましい。気体の送風速度が0.1m/min以上であると、高い冷却速度を実現することができ、冷却配管の詰まりを防止できることから好ましい。一方、気体の送風速度が20m/min以下であると、高価な第1の送風手段(排風機等)が不要となり、製造コストを低くすることができることから好ましい。
三酸化モリブデン蒸気を冷却して得られた粉体は、回収機に輸送されて回収される。
前記三酸化モリブデン粉体の製造方法は、前記三酸化モリブデン蒸気を冷却して得られた粉体を、再度、100~320℃の温度で焼成してもよい。
すなわち、前記三酸化モリブデン粉体の製造方法で得られた三酸化モリブデン粉体を、再度、100~320℃の温度で焼成してもよい。再度の焼成の焼成温度は、120~280℃であってもよく、140~240℃であってもよい。再度の焼成の焼成時間は、例えば、1min~4hとすることができ、10min~5hとすることができ、100min~6hとすることができる。ただし、再度、焼成することにより、三酸化モリブデンのβ結晶構造の一部は、消失してしまい、350℃以上の温度で4時間焼成すると、三酸化モリブデン粉体中のβ結晶構造は消失して、前記比(β(011)/α(021))が0になって、第14族元素、第15族元素又は第16族元素との反応性が損なわれる。
本実施形態に係るモリブデン化合物の製造方法によれば、粒子表面に存在する官能基数が低減されたモリブデン化合物が得られる。また、本実施形態に係るモリブデン化合物の製造方法によれば、大量生産が可能であり、高圧になるような危険が伴う設備が不要であり、洗浄、乾燥などの工程が不要という利点がある。
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
[三酸化モリブデン粉体及びモリブデン化合物の一次粒子の平均粒子径の測定方法]
三酸化モリブデン粉体を構成する三酸化モリブデン粒子又はモリブデン化合物粉体を構成するモリブデン化合物粒子を、エタノールに分散させ、透過型電子顕微鏡(TEM)で撮影した。二次元画像上の単独粒子、または凝集体を構成する最小単位の粒子(すなわち、一次粒子)について、その長径(観察される最も長い部分のフェレ径)及び短径(その最も長い部分のフェレ径に対して、垂直な向きの短いフェレ径)を計測し、その平均値を一次粒子径とした。同様の操作をランダムに選ばれた50個の一次粒子に対して行い、その一次粒子の一次粒子径の平均値から、一次粒子の平均粒子径を算出した。
[結晶構造解析:XRD法]
各実施例で得られたモリブデン化合物の試料を0.5mm深さの測定試料用ホルダーに充填し、それを広角X線回折(XRD)装置(リガク社製 UltimaIV)にセットし、Cu/Kα線、40kV/40mA、スキャンスピード2°/min、走査範囲10°以上70°以下の条件で測定を行った。
[比表面積測定:BET法]
三酸化モリブデン粉体又は硫化モリブデン粉体の試料について、比表面積計(マイクロトラックベル製、BELSORP-mini)にて測定し、BET法による窒素ガスの吸着量から測定された試料1g当たりの表面積を、比表面積(m/g)として算出した。
[モリブデン化合物の表面における単位面積当たりの水酸基数]
ブランクの測定:純水20mlに、安定剤として塩化ナトリウム0.5gを加え、塩酸で液のpHを約4とした。これに0.01Nの水酸化ナトリウム水溶液を徐々に加えていき、pHを約9とし、これを終点とした。この時要した水酸化ナトリウム水溶液の量をVblankとした。
試料の測定:各実施例及び比較例で得られたモリブデン化合物の試料を約0.05g精秤し、ここに純水20mlを加えた。0.5gの塩化ナトリウムを加えて溶解させた。塩酸を用いてブランクと同じpHにした。これを0.01Nの水酸化ナトリウムで滴定し、ブランクの終点と同じpHにした。この時要した水酸化ナトリウム水溶液の量をVとした。
単位面積当たりの水酸基数の計算:以下の式に当てはめて、単位面積当たりの水酸基数を算出した。なお、比表面積の数値は予めBET比表面積計で測定しておいたものを用いた。
表面水酸基密度(個/nm)=6.023f(V-Vblank)/WA
ここで、fは水酸化ナトリウム水溶液のファクター、Wは試料重量、Aは比表面積を表す。
なお、水酸化ナトリウム水溶液のファクターfは下記式によって求められる。
f=[(標定で求めた)標準液の真の濃度]/(調製した標準液の表示濃度)
(三酸化モリブデン粉体の製造)
耐熱容器に相当する焼成炉と、外気供給口を設けた冷却配管と、モリブデン酸化物を回収する集塵機を準備し、三酸化モリブデン(太陽鉱工株式会社製)1kgと水酸化アルミニウム(和光製薬株式会社)2Kgとの混合物をサヤに仕込んで、焼成炉と冷却配管と集塵機とを連結し、焼成炉にて1300℃まで昇温後10時間保持し、α-アルミナを得ると共に、三酸化モリブデンを焼成炉内で気化させた。次に、焼却炉の排気口から気化した三酸化モリブデンに対して、冷却配管の外気供給口を通じて三酸化モリブデンの量に比べて大過剰の空気を、冷却速度が2000℃/秒となる様に送風、200℃以下まで急速冷却することで粉体化し、集塵機にて900gの三酸化モリブデン1を得た。TEMでの測長によると平均一次粒子径は20nmであった。
[実施例1]炭化モリブデン(MoC)の合成
三酸化モリブデン1を0.5gと、ケッチェンブラック(ライオンスペシャリティケミカルズ株式会社製 EC300J)を0.25g、塩化ナトリウム0.38g、塩化カリウム0.38gとを乳鉢で1分間混合した後坩堝に仕込み、窒素雰囲気の下、850℃で4時間焼成した。自然冷却後、イオン交換水で焼成物を洗浄して余剰なケッチェンブラックや塩類を除去した。XRD測定によると、得られたものは炭化モリブデンであった。 酸塩基滴定により表面水酸基測定を行ったところ、単位面積当たりの水酸基数(表面官能基密度)は6.5個/nmであった。TEMでの測長によると平均一次粒子径は30nmであった。
[実施例2]ケイ化モリブデン(MoSi)の合成
三酸化モリブデン1を0.5gと、金属ケイ素粉末0.4g、金属マグネシウム0.5gを混合して坩堝に仕込み、窒素雰囲気の下、900℃で6時間焼成した。自然冷却後、0.1M塩酸で焼成物を洗浄した。XRD測定によると、得られたものはケイ化モリブデンであった。
酸塩基滴定により表面水酸基測定を行ったところ、単位面積当たりの水酸基数(表面官能基密度)は3.9個/nmであった。TEMでの測長によると平均一次粒子径は70nmであった。
[実施例3]リン化モリブデン(MoP/MoP)の合成
三酸化モリブデン1を0.5gと、赤リン粉末(関東化学製試薬)0.47g、塩化亜鉛1.0gを混合した後坩堝に仕込み、窒素雰囲気の下、700℃で4時間焼成した。自然冷却後、イオン交換水で焼成物を洗浄した。XRD測定によると、得られたものはリン化モリブデンであった。
酸塩基滴定により表面水酸基測定を行ったところ、単位面積当たりの水酸基数(表面官能基密度)は45.5個/nmであった。TEMでの測長によると平均一次粒子径は120nmであった。
[実施例4]セレン化モリブデン(MoSe)の合成
三酸化モリブデン1を0.5gと、セレン粉末(関東化学製試薬)1.1g、ホスフィン酸ナトリウム一水和物0.56g、塩化ナトリウム1.0g、塩化カリウム1.0gを混合した後坩堝に仕込み、窒素雰囲気の下、850℃で4時間焼成した。自然冷却後、イオン交換水で焼成物を洗浄した。XRD測定によると、得られたものはセレン化モリブデンであった。
酸塩基滴定により表面水酸基測定を行ったところ、単位面積当たりの水酸基数(表面官能基密度)は60.1個/nmであった。TEMでの測長によると平均一次粒子径は350nmであった。
[実施例5]テルル化モリブデン(MoTe)の合成
三酸化モリブデン1を0.5gと、テルル粉末(アルドリッチ製試薬)0.89g、ホスフィン酸ナトリウム一水和物0.56g、塩化ナトリウム1.0g、塩化カリウム1.0gを混合した後坩堝に仕込み、窒素雰囲気の下、900℃で4時間焼成した。自然冷却後、イオン交換水で焼成物を洗浄した。XRD測定によると、得られたものはテルル化モリブデンであった。
酸塩基滴定により表面水酸基測定を行ったところ、単位面積当たりの水酸基数(表面官能基密度)は26.3個/nmであった。TEMでの測長によると平均一次粒子径は110nmであった。
実施例1~5で得られた各モリブデン化合物について、XRD法による結晶構造解析を行った。実施例1~5で得られた各モリブデン化合物のXRDスペクトルを図1に示す。
[比較例1~5]
三酸化モリブデン1の代わりに、市販のミクロンサイズの三酸化モリブデンを使用する以外は、実施例1~5と同様にしてモリブデン化合物を作製した。単位面積当たりの水酸基数(表面官能基密度)の結果は表2に示した。また、各モリブデン化合物のTEMでの測長による平均一次粒子径を表2に示した。
Figure 0007188665000001
Figure 0007188665000002
[実施例6]
実施例1のモリブデン化合物(MoC,1g)に、UV硬化型アクリレートモノマーとしてライトアクリレートL-A(共栄社化学,10g)を加え、超音波処理を10分間行った後、遮光静置した。静置した3日後も沈殿はなく、良好な分散性を示した。
[実施例7~10]
実施例1のモリブデン化合物(MoC,1g)の代わりに、実施例2~5の無機粒子を各々1g用いる以外は、実施例6と同様にして、評価を行った。分散性の結果は表3に示した。
[比較例6~10]
実施例1のモリブデン化合物(MoC,1g)の代わりに、比較例1~5のモリブデン化合物を各々1g用いる以外は、実施例6と同様にして、評価を行った。分散性の結果は表4に示した。
Figure 0007188665000003
Figure 0007188665000004
本発明のモリブデン化合物は、粒子表面に存在する官能基数が低減されているため、モリブデン化合物表面の疎水性が高められており、有機材料との相溶性が向上している。そのため、本発明のモリブデン化合物は、水素発生触媒、光触媒、燃料電池触媒、CO還元触媒、半導体、熱電材料等の有機無機ハイブリッド材料において、優れた特性を発現する。
以上、本発明の好ましい実施例を説明したが、本発明はこれら実施例に限定されることはない。本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。本発明は前述した説明によって限定されることはなく、添付のクレームの範囲によってのみ限定される。
1 製造装置
2 焼成炉
3 冷却配管
4 回収機
5 排気口
6 開度調整ダンパー
7 観察窓
8 排風装置
9 外部冷却装置

Claims (4)

  1. 一般式MoX(式中、Xは第14族元素、第15族元素又は第16族元素であり、aは0.5、1または2である。)で表されるモリブデン化合物であって、
    前記一般式MoX中、Xが第14族元素である場合、前記モリブデン化合物の表面における単位面積当たりの官能基数が10個/nm以下であり、
    前記一般式MoX中、Xが第15族元素又は第16族元素である場合、前記モリブデン化合物の表面における単位面積当たりの官能基数が100個/nm以下であり、
    粒子径が10nm以上1000nm未満であるモリブデン化合物。
  2. 前記一般式MoX中、Xが第14族元素である場合、XはCであり,かつ、aは0.5若しくは1であり、又は、XはSiであり、かつ、aは2であり、
    前記一般式MoX中、Xが第15族元素である場合、XはN又はPであり、かつ、aは1又は2であり、
    前記一般式MoX中、Xが第16族元素である場合、XはS、Se又はTeであり、かつ、aは2である、請求項1に記載のモリブデン化合物。
  3. 前記官能基は、水酸基である、請求項1又は2に記載のモリブデン化合物。
  4. 一次粒子の平均粒子径が5nm以上1000nm未満である三酸化モリブデン粒子を、第14族元素、第15族元素又は第16族元素の存在下、400~1500℃で加熱することを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のモリブデン化合物の製造方法。
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