JP7255760B2 - 放射性物質吸着剤 - Google Patents

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Description

本発明は、放射性物質吸着剤に関する。
本出願は、2021年3月24日に、日本に出願された特願2021-050487に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
原子力設備では、例えば燃料デブリの冷却水と原子炉建屋、タービン建屋等に流入した地下水とが混ざり合うことで生じた汚染水を他核種除去装置(ALPS)で処理し、処理水としてタンクに貯蔵されている。上記汚染水や処理水のような放射性廃液において、特に主要七核種(Cs-134、Cs-137、Sr-90、I-129、Ru-106、Co-60、Sb-125)の放射性元素の存在が問題とされており、これを浄化する際に、無機ないし有機イオン交換体を用いて浄化する方法が知られている。イオン交換体を放射性物質の吸着材として用いて放射性廃液を浄化する場合は、イオン交換という原理上、その吸着能力には限界がある。また、その吸着効率を向上するために、短時間で低濃度まで放射性物質を吸着する性能が求められる。
従来、例えば有機イオン交換体として、N-ビニルカルボン酸アミドと架橋性単量体を塩水中で分散剤存在下、懸濁重合しポリビニルカルボン酸アミド架橋重合体粒子を得た後に、該架橋重合体を加水分解することにより得られたポリビニルアミン架橋重合体粒子をキレート樹脂として用いる方法が開示されている(特許文献1)。
また、無機イオン交換体として、酸化マンガンを主成分とし、さらに遷移金属元素として銅又は無機バインダーとして酸化アルミニウムを含むルテニウム吸着剤が開示されている。本方法では、マンガン化合物の構造欠陥を利用してルテニウム除去率を向上させていると考えられる(特許文献2)。
また近年、無機、有機イオン交換体以外の吸着剤として、シアニディウム目の紅藻の細胞の乾燥物、シアニディウム目の紅藻の細胞表層由来物の乾燥物、又は前記細胞の乾燥物もしくは前記細胞表層由来物の乾燥物を模した人工物を含む金属回収剤が提案されている(特許文献3)。
特開2017-70909号公報 特許第6671343号公報 特許第6688432号公報
しかしながら、特許文献1では、初期濃度約4.5ppmのルテニウム溶解液500mLに10mgのキレート樹脂を投入して撹拌した場合、24時間経過後のルテニウム溶解液の濃度が100ppb未満となっているが、ルテニウムをはじめとする放射性物質の初期濃度が1ppm以下などの低濃度であっても、100ppb以下のより低い濃度となるまで放射性物質を吸着できる吸着剤が求められている。また、有機イオン交換体であるキレート樹脂は、種々の材料を用いて重合、ろ過、加水分解など様々な工程経て製造されるため煩雑な作業を要し、高コストとなることが懸念される。
特許文献2では、実施例において吸着後のルテニウムの具体的な濃度が示されておらず、また、250mlのポリ容器に50mLの試験液を入れ、180回/分で振とうして吸着させているが、激しい試験条件であり、実施される際の条件、例えば通水条件での吸着能力に懸念がある。
また、特許文献3では、初期濃度10ppmのルテニウム溶解液からルテニウムを吸着したときの吸着率は50%程度にとどまり、未だ改善の余地がある。
本発明は、放射性物質の初期濃度が低い場合であっても高い吸着率で優れた吸着性能を発揮することができ、且つ放射性物質を容易に吸着することができる放射性物質吸着剤を提供することを目的とする。
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、金属硫化物を放射性物質吸着剤、特に二硫化モリブデン粒子を放射性物質吸着剤として用いると、金属硫化物の放射性物質に対する選択性により、高い吸着性能を実現できることを見出した。なかでも、二硫化モリブデン粒子をルテニウムの吸着剤として用いると、二硫化モリブデン粒子のルテニウムに対する選択性が高く、初期濃度が低いルテニウム含有溶液からルテニウムを吸着する際の吸着率が従来のルテニウム吸着剤よりも高く、吸着性能を向上できることを見出した。
また、本出願人が保有する技術「nmサイズの三酸化モリブデン微粒子」を原料として二硫化モリブデン粒子を製造すると、粒子含有樹脂組成物の鉱山品の粉砕や汎用三酸化モリブデン(μmスケール)からの合成では達成困難な、板状構造をもち且つ単位重量当たりの表面積が大きいnmサイズの二硫化モリブデン粒子が得られる。よってこの二硫化モリブデン粒子を放射性物質吸着剤、特にルテニウム吸着剤として用いると、二硫化モリブデン粒子の大きい比表面積及びルテニウムと硫黄との親和性により、放射性物質を良好に吸着できることを見出した。
すなわち、本発明は以下の構成を提供する。
[1]金属硫化物を含有する、放射性物質吸着剤。
[2]前記金属硫化物が二硫化モリブデン粒子で構成される、上記[1]に記載の放射性物質吸着剤。
[3]動的光散乱法により求められる前記二硫化モリブデン粒子のメディアン径D50が10nm以上1000nm以下である、上記[2]に記載の放射性物質吸着剤。
[4]前記二硫化モリブデン粒子の一次粒子の形状が、円盤状、リボン状またはシート状であり、厚さが、3~100nmの範囲である、上記[2]又は[3]に記載の放射性物質吸着剤。
[5]BET法で測定される、前記二硫化モリブデン粒子の比表面積が10m/g以上である、上記[2]~[4]のいずれかに記載の放射性物質吸着剤。
[6]前記二硫化モリブデン粒子の、モリブデンのK吸収端の広域X線吸収微細構造(EXAFS)プロファイルから得られる動径分布関数において、Mo-Sに起因するピークの強度IとMo-Moに起因するピーク強度IIとの比(I/II)が、1.0より大きい、上記[2]~[5]のいずれかに記載の放射性物質吸着剤。
[7]前記二硫化モリブデン粒子が、二硫化モリブデンの2H結晶構造及び3R結晶構造を有し、
前記二硫化モリブデン粒子の、X線源としてCu-Kα線を用いた粉末X線回折(XRD)から得られるプロファイルにおいて、39.5°付近のピーク及び49.5°付近のピークが前記2H結晶構造に由来し、32.5°付近のピーク、39.5°付近のピーク及び49.5°付近のピークが前記3R結晶構造に由来し、
39.5°付近のピーク及び49.5°付近のピークの半値幅が1°以上である、上記[2]~[6]のいずれかに記載の放射性物質吸着剤。
[8]前記二硫化モリブデン粒子に吸着される放射性物質が、ルテニウムである、上記[2]~[7]のいずれかに記載の放射性物質吸着剤。
本発明によれば、放射性物質の初期濃度が低い場合であっても高い吸着率で優れた吸着性能を発揮することができる。
図1は、二硫化モリブデン粒子の原料である三酸化モリブデン粒子の製造に用いられる装置の一例を示す概略図である。 図2は、市販の二硫化モリブデン粒子のX線回折(XRD)パターンの結果を、二硫化モリブデン(MoS)の2H結晶構造の回折パターンと共に示す図である。 図3は、合成例1で得られた二硫化モリブデン粒子のX線回折(XRD)パターンの結果を、二硫化モリブデン(MoS)の3R結晶構造の回折パターン、二硫化モリブデン(MoS)の2H結晶構造の回折パターン及び二酸化モリブデン(MoO)の回折パターンと共に示す図である。 図4は、合成された二硫化モリブデン粒子のAFM像である。 図5は、図4に示す二硫化モリブデン粒子の断面を示すグラフである。 図6は、合成例1で得られた二硫化モリブデン粒子を用いて測定された、モリブデンのK吸収端の広域X線吸収微細構造(EXAFS)プロファイルである。
以下、本発明の実施形態を図面を参照しながら詳細に説明する。
<放射性物質吸着剤>
本実施形態に係る放射性物質吸着剤は、金属硫化物を含有しており、好ましくは金属硫化物で構成される。本実施形態の放射性物質吸着剤は、放射性物質に対する選択性を有し、放射性物質の高い吸着性能を発揮する。金属硫化物は、二硫化モリブデン粒子を主成分とするのが好ましく、二硫化モリブデン粒子で構成されるのがより好ましい。放射性物質の吸着性能が高い点は、例えば前記二硫化モリブデン粒子の前記メディアン径D50が1000nm以下と小さいことに起因すると考えられる。放射性物質の上記選択的な吸着性能は、例えば金属硫化物中の硫黄元素が放射性物質と吸着しやすい性質を有することに起因すると考えられる。放射性物質吸着剤の形態としては、例えば金属硫化物粒子が挙げられ、二硫化モリブデン粒子が好ましい。金属硫化粒子は、二硫化モリブデン粒子を含有するのが好ましく、二硫化モリブデン粒子で構成されるのがより好ましい。
本実施形態の放射性物質吸着剤が吸着できる放射性物質としては、例えばルテニウム(Ru)、コバルト(Co)、アンチモン(Sb)等の放射性物質が挙げられる。本実施形態の放射性物質は、放射性同位体を含むものであればよく、例えば安定同位体と放射性同位体を含むものであってもよいし、放射性同位体のみからなるものであってもよい。本実施形態の放射性物質吸着剤は、特にルテニウムの吸着性能に優れる。ルテニウムの吸着性能に優れる点は、前記二硫化モリブデン粒子の前記メディアン径D50が1000nm以下と小さいこと、二硫化モリブデンの3R結晶構造、及び/又は、ルテニウムと硫黄の親和性が非常に高いことに起因すると考えられる。
放射性物質吸着剤として二硫化モリブデン粒子を用いる場合には、二硫化モリブデン粒子に吸着される放射性物質としては、ルテニウム及びコバルトから選択される1種又は複数種が好ましく、ルテニウムがより好ましい。
本実施形態の放射性物質吸着剤における二硫化モリブデン粒子の、動的光散乱法により求められるメディアン径D50は例えば10nm以上1000nm以下であり、前記の効果の点から、600nm以下が好ましく、500nm以下がより好ましく、400nm以下が特に好ましい。前記二硫化モリブデン粒子のメディアン径D50は10nm以上であってもよく、20nm以上であってもよく、40nm以上であってもよい。二硫化モリブデン粒子のメディアン径D50は、例えば動的光散乱式粒子径分布測定装置(マイクロトラックベル社製、Nanotrac WaveII)やレーザ回折式粒度分布測定装置(島津製作所社製 SALD-7000)等を用いて測定される。
本実施形態の放射性物質吸着剤における二硫化モリブデン粒子は、二硫化モリブデンの3R結晶構造を含むことが好ましい。3R結晶構造を含むことにより、二硫化モリブデン粒子の結晶のエッジ部分が増加し、イオン吸着サイトが増加することが、放射性物質の吸着性能の更なる向上に寄与すると考えられる。また、3R結晶構造を含むことにより、放射性物質のうち、特にルテニウムの吸着性能が格段に向上する。二硫化モリブデン粒子のナノ構造に由来する比表面積が起因していると推測される。
前記二硫化モリブデン粒子が、準安定構造の3R結晶構造を含む点は、X線源としてCu-Kα線を用いた粉末X線回折(XRD)から得られるプロファイルにおいて、39.5°付近のピーク、及び、49.5°付近のピークが共に2H結晶構造及び3R結晶構造の合成ピーク(ブロードピーク)からなることで区別することができる。
さらに、本実施形態の放射性物質吸着剤における二硫化モリブデン粒子は、二硫化モリブデンの2H結晶構造及び3R結晶構造を含むことが好ましい。一般に市販されている二硫化モリブデン粒子は、粒径が1μmを超える大きさのものを多く含み、また、六方晶固体であり、図2に示されるように、結晶構造としてほぼ2H結晶構造を有する。これに対して、後述する「三酸化モリブデン粒子の製造方法」及び「二硫化モリブデン粒子の製造方法」を経て製造する二硫化モリブデン粒子は、2H結晶構造及び3R結晶構造を含み、メディアン径D50を10nm以上1000nm以下に、容易に調整可能である。
二硫化モリブデン粒子が2H結晶構造及び3R結晶構造を有していることは、例えば結晶子サイズを考慮できるリートベルト解析ソフト(パナリティカル社製、ハイスコアプラス)を使用して確認することができる。このリートベルト解析ソフトでは、結晶子サイズを含めた結晶構造モデルを用いてXRDの回折プロファイル全体をシミュレートして、実験で得られるXRDの回折プロファイルと比較し、実験で得られた回折プロファイルと計算で得られた回折プロファイルの残差が最小になるように結晶構造モデルの結晶格子定数、原子座標などの結晶構造因子、重量分率(存在比)等を最小二乗法で最適化し、2H結晶構造及び3R結晶構造の各相を高精度に同定、定量することにより、通常のリートベルト解析によって算出される結晶構造タイプ及びその比率に加えて、結晶子サイズを算出することができる。以下、本特許では、上記のハイスコアプラスを用いた解析手法を「拡張型リートベルト解析」と呼ぶ。
さらに、前記二硫化モリブデン粒子の、X線源としてCu-Kα線を用いた粉末X線回折(XRD)から得られるプロファイルにおいて、39.5°付近のピーク及び49.5°付近のピークが前記2H結晶構造に由来し、32.5°付近のピーク、39.5°付近のピーク及び49.5°付近のピークが前記3R結晶構造に由来し、39.5°付近のピーク及び49.5°付近のピークの半値幅が1°以上であることが好ましい。さらに、前記二硫化モリブデン粒子は、1H結晶構造など、二硫化モリブデンの2H結晶構造、3R結晶構造以外の結晶構造を含んでいても良い。
透過型電子顕微鏡(TEM)で撮影したときの二次元画像における前記二硫化モリブデン粒子の一次粒子の形状は、粒子状、球状、板状、針状、紐形状、リボン状またはシート状であっても良く、これらの形状が組み合わさって含まれていても良い。前記二硫化モリブデン粒子の一次粒子の形状は、円盤状、リボン状またはシート状であることが好ましい。また、モリブデン硫化物50個の一次粒子の形状が、平均で、長さ(縦)×幅(横)=50~1000nm×50~1000nmの範囲の大きさを有することが好ましく、100~500nm×100~500nmの範囲の大きさを有することがより好ましく、50~200nm×50~200nmの範囲の大きさを有することが特に好ましい。また、前記二硫化モリブデン粒子の一次粒子の形状は、原子間力顕微鏡(AFM)で測定される厚さが、3nm以上の範囲の大きさを有することが好ましく、5nm以上の範囲の大きさを有することがより好ましい。また、前記二硫化モリブデン粒子の一次粒子の形状は、原子間力顕微鏡(AFM)で測定される厚さが、100nm以下の範囲の大きさを有することが好ましく、50nm以下の範囲の大きさを有することがより好ましく、20nm以下の範囲の大きさを有することが特に好ましい。また、前記二硫化モリブデン粒子の一次粒子の形状は、原子間力顕微鏡(AFM)で測定される厚さが、40mn以下の範囲の大きさを有していてもよく、30mn以下の範囲の大きさを有していてもよい。前記二硫化モリブデン粒子の一次粒子の形状が、円盤状、リボン状またはシート状であることで、二硫化モリブデン粒子の比表面積を大きくすることができる。また、前記二硫化モリブデン粒子の一次粒子の形状が、円盤状、リボン状またはシート状であり、且つ、厚さが3~100nmの範囲であるのが好ましい。ここで、円盤状、リボン状またはシート状であるとは、薄層形状であることをいう。円盤状、リボン状、シート状の明確な区別は無いが、例えば厚みが10nm以下の場合はシート状、厚みが10nm以上で、長さ÷幅≧2の場合はリボン状、厚みが10nm以上で、長さ÷幅<2の場合は円盤状とすることができる。モリブデン硫化物の一次粒子のアスペクト比、すなわち、(長さ(縦横の大きさ))/厚み(高さ))の値は、50個の平均で、1.2~1200であることが好ましく、2~800であることがより好ましく、5~400であることが更に好ましく、10~200であることが特に好ましい。二硫化モリブデン粒子50個の一次粒子の形状は、原子間力顕微鏡(AFM)による観察でも形状、長さ、幅、厚みを測定することが可能であり、測定結果からアスペクト比を算出することも可能である。
前記二硫化モリブデン粒子の一次粒子の形状が、単純な球状ではなく、アスペクト比の大きな円盤状、リボン状もしくはシート状であることにより、二硫化モリブデン粒子と放射性物質との接触面積が増大することが期待でき、放射性物質の吸着量の増大に寄与すると考えられる。
本実施形態の放射性物質吸着剤における二硫化モリブデン粒子の、BET法で測定される比表面積は10m/g以上であることが好ましく、30m/g以上であることがより好ましく、40m/g以上であることが特に好ましい。前記二硫化モリブデン粒子の、BET法で測定される比表面積は300m/g以下であってもよく、200m/g以下であってもよい。
本実施形態の放射性物質吸着剤における二硫化モリブデン粒子の、BET法で測定される比表面積が10m/g以上に大きい放射性物質吸着剤は、放射性物質との接触面積を大きくできるので、放射性物質の吸着性能が向上すると考えられる。
本実施形態の放射性物質吸着剤における二硫化モリブデン粒子の、モリブデンのK吸収端の広域X線吸収微細構造(EXAFS)プロファイルから得られる動径分布関数において、Mo-Sに起因するピークの強度IとMo-Moに起因するピーク強度IIとの比(I/II)は、1.0より大きいことが好ましく、1.1以上であることがより好ましく、1.2以上であることが特に好ましい。
二硫化モリブデンの結晶構造が、2H結晶構造であれ3R結晶構造であれ、Mo-S間の距離は共有結合のためほぼ同じなので、モリブデンのK吸収端の広域X線吸収微細構造(EXAFS)プロファイルにおいて、Mo-Sに起因するピークの強度は同じである。
一方、二硫化モリブデンの2H結晶構造は六方晶(hexagonal)のため、Mo原子の六角形の90°真下に同じ六角形が位置するため、Mo-Mo間の距離が近くなり、Mo-Moに起因するピーク強度IIは強くなる。
逆に、二硫化モリブデンの3R結晶構造は菱面体晶(rhombohedral)のため、六角形の90°真下ではなく、半分ずれて六角形が存在するため、Mo-Mo間の距離が遠くなり、Mo-Moに起因するピーク強度IIは弱くなる。
二硫化モリブデンの純粋な2H結晶構造では前記比(I/II)が小さくなるが、3R結晶構造を含むにつれ前記比(I/II)が大きくなる。
3R結晶構造では、3層のそれぞれのMo原子の六角形が互いに六角形の半分だけずれているため、2層のMo原子の六角形が垂直に規則正しく並んでいる2H結晶構造に比べて、各層の間の相互作用が小さく、放射性物質を吸着しやすくなることが期待できる。
本実施形態の放射性物質吸着剤における二硫化モリブデン粒子のMoSへの転化率Rは、三酸化モリブデンの存在が放射性物質吸着性能に悪影響を及ぼすと考えられるため70%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましく、90%以上であることが特に好ましい。
本実施形態の放射性物質吸着剤における二硫化モリブデン粒子は、MoSへの転化率Rが100%近い数字を示せることにより、三酸化モリブデンを副生もしくは含有しうる他の二硫化モリブデン素材やその前駆体より放射性物質吸着性能が優れるものとすることができる。
本実施形態の放射性物質吸着剤における二硫化モリブデン粒子のMoSへの転化率Rは、二硫化モリブデン粒子をX線回折(XRD)測定することにより得られるプロファイルデータから、後述するRIR(参照強度比)法により求めることができる。
尚、本実施形態の放射性物質吸着剤は、二硫化モリブデン粒子(MoS)で構成されるのが好ましいが、これに限らず、MoS(X=1~3)で表される硫化モリブデン粒子で構成されてもよいし、MoS(X=1~3)で表される硫化モリブデン粒子の1種又は複数種で構成されてもよい。
本実施形態の放射性物質吸着剤は、放射性物質含有溶液、例えば放射性物質含有水溶液に含まれる放射性物質イオン、放射性物質又は放射性物質化合物を吸着し、除去することができる。また、本実施形態の放射性物質吸着剤は、放射性物質含有ガスに含まれる放射性物質又は放射性物質化合物を吸着し、除去することができる。
<放射性物質吸着剤の製造方法>
本実施形態に係る放射性物質吸着剤の製造方法は、特に制限されないが、例えば金属酸化物を、硫黄源の存在下で加熱することにより製造することができる。また、本実施形態の放射性物質吸着剤は、上記製造方法によって得られたものに限らず、本発明の吸着性能を発現できれば、市販の金属硫化物、例えば市販の二硫化モリブデン粒子であってもよい。
(放射性物質吸着剤における二硫化モリブデン粒子の製造方法)
本実施形態の放射性物質吸着剤における二硫化モリブデン粒子は、例えば、三酸化モリブデン粒子を、硫黄源の存在下、温度200~1000℃で加熱することにより製造することができる。
三酸化モリブデン粒子の一次粒子の平均粒径は、2nm以上1000nm以下であるのが好ましい。三酸化モリブデン粒子の一次粒子の平均粒径とは、三酸化モリブデン粒子を、走査型電子顕微鏡(SEM)もしくは透過型電子顕微鏡(TEM)で撮影し、二次元画像上の凝集体を構成する最小単位の粒子(すなわち、一次粒子)について、その長径(観察される最も長い部分のフェレ径)と短径(その最も長い部分のフェレ径に対して、垂直な向きの短いフェレ径)を計測し、その平均値を一次粒子径としたとき、ランダムに選ばれた50個の一次粒子の一次粒子径の平均値を云う。
本実施形態の二硫化モリブデン粒子の製造方法において、前記三酸化モリブデン粒子の一次粒子の平均粒径は1μm以下であることが好ましい。硫黄との反応性の点から、600nm以下がより好ましく、400nm以下がさらに好ましく、200nm以下が特に好ましい。前記三酸化モリブデン粒子の一次粒子の平均粒径は2nm以上であってもよく、5nm以上であってもよく、10nm以上であってもよい。
本実施形態の放射性物質吸着剤における二硫化モリブデン粒子の製造に用いる三酸化モリブデン粒子は、三酸化モリブデンのβ結晶構造を含む一次粒子の集合体からなることが好ましい。前記三酸化モリブデン粒子は、結晶構造としてα結晶のみからなる従来の三酸化モリブデン粒子に比べて、硫黄との反応性が良好であり、三酸化モリブデンのβ結晶構造を含むので、硫黄源との反応において、MoSへの転化率Rを大きくすることができる。
三酸化モリブデンのβ結晶構造は、X線源としてCu-Kα線を用いた粉末X線回折(XRD)から得られるプロファイルにおいて、MoOのβ結晶の(011)面に帰属する、(2θ:23.01°付近、No.86426(無機結晶構造データベース、ICSD))のピークの存在によって、確認することができる。三酸化モリブデンのα結晶構造は、MoOのα結晶の(021)面(2θ:27.32°付近、No.166363(無機結晶構造データベース、ICSD))のピークの存在によって、確認することができる。
前記三酸化モリブデン粒子は、X線源としてCu-Kα線を用いた粉末X線回折(XRD)から得られるプロファイルにおいて、MoOのβ結晶の(011)面に帰属する(2θ:23.01°付近、No.86426(無機結晶構造データベース(ICSD)))ピーク強度の、MoOのα結晶の(021)面に帰属する(2θ:27.32°付近、No.166363(無機結晶構造データベース(ICSD)))ピーク強度に対する比(β(011)/α(021))が0.1以上であることが好ましい。
MoOのβ結晶の(011)面に帰属するピーク強度、及び、MoOのα結晶の(021)面に帰属するピーク強度は、それぞれ、ピークの最大強度を読み取り、前記比(β(011)/α(021))を求める。
前記三酸化モリブデン粒子において、前記比(β(011)/α(021))は、0.1~10.0であることが好ましく、0.2~10.0であることがより好ましく、0.4~10.0であることが特に好ましい。
三酸化モリブデンのβ結晶構造は、ラマン分光測定から得られるラマンスペクトルにおいて、波数773、848cm-1及び905cm-1でのピークの存在によっても、確認することができる。三酸化モリブデンのα結晶構造は、波数663、816cm-1及び991cm-1でのピークの存在によって、確認することができる。
前記三酸化モリブデン粒子の一次粒子の平均粒径は、5nm以上2000nm以下であってもよい。
硫黄源としては、例えば、硫黄、硫化水素等が挙げられ、これらは単独でも二種を併用しても良い。
前記二硫化モリブデン粒子の製造方法は、三酸化モリブデンのβ結晶構造を含む一次粒子の集合体からなる三酸化モリブデン粒子を、硫黄源の不存在下、温度100~800℃で加熱し、次いで、硫黄源の存在下、温度200~1000℃で加熱することを含むものであってもよい。
硫黄源の存在下の加熱時間は、硫化反応が充分に進行する時間であればよく、1h~20hであってもよく、2h~15hであってもよく、3h~10hであってもよい。
本実施形態の二硫化モリブデン粒子の製造方法において、前記三酸化モリブデン粒子のMoO量に対する、前記硫黄源のS量の仕込み比は、硫化反応が充分に進行する条件であることが好ましい。前記三酸化モリブデン粒子のMoO量100モル%に対して、前記硫黄源のS量が450モル%以上であることが好ましく、600モル%以上であることが好ましく、700モル%以上であることが好ましい。前記三酸化モリブデン粒子のMoO量100モル%に対して、前記硫黄源のS量が3000モル%以下であってもよく、2000モル%以下であってもよく、1500モル%以下であってもよい。
本実施形態の製造方法において、前記硫黄源の存在下の加熱温度は、硫化反応が充分に進行する温度であればよく、320℃以上であることが好ましく、340℃以上であることがより好ましく、360℃以上であることが特に好ましい。320~1000℃であってもよく、340~800℃であってもよく、360~600℃であってもよい。
本実施形態の二硫化モリブデン粒子の製造方法において、前記三酸化モリブデン粒子は、蛍光X線(XRF)で測定されるMoOの含有割合が99.5%以上であることが好ましく、これにより、MoSへの転化率Rを大きくすることができ、高純度な、不純物由来の硫化物が生成するおそれがない、保存安定性の良好な二硫化モリブデンを得ることができる。
前記三酸化モリブデン粒子は、BET法で測定される比表面積が10m/g以上100m/g以下であることが好ましい。
前記三酸化モリブデン粒子において、前記比表面積は、硫黄との反応性が良好になることから、10m/gであることが好ましく、20m/gであることが好ましく、30m/gであることが好ましい。前記三酸化モリブデン粒子において、製造が容易になることから、100m/gであることが好ましく、90m/gであってもよく、80m/gであってもよい。
前記三酸化モリブデン粒子は、モリブデンのK吸収端の広域X線吸収微細構造(EXAFS)プロファイルから得られる動径分布関数において、Mo-Oに起因するピークの強度IとMo-Moに起因するピーク強度IIとの比(I/II)が、1.1より大きいことが好ましい。
Mo-Oに起因するピークの強度I、及び、Mo-Moに起因するピーク強度IIは、それぞれ、ピークの最大強度を読み取り、前記比(I/II)を求める。前記比(I/II)は、三酸化モリブデン粒子において、MoOのβ結晶構造が得られていることの目安になると考えられ、前記比(I/II)が大きいほど、硫黄との反応性に優れる。
前記三酸化モリブデン粒子において、前記比(I/II)は、1.1~5.0であることが好ましく、1.2~4.0であってもよく、1.2~3.0であってもよい。
(三酸化モリブデン粒子の製造方法)
前記三酸化モリブデン粒子は、酸化モリブデン前駆体化合物を気化させて、三酸化モリブデン蒸気を形成し、前記三酸化モリブデン蒸気を冷却することにより製造することができる。
前記三酸化モリブデン粒子の製造方法は、酸化モリブデン前駆体化合物、及び、前記酸化モリブデン前駆体化合物以外の金属化合物を含む原料混合物を焼成し、前記酸化モリブデン前駆体化合物を気化させて、三酸化モリブデン蒸気を形成することを含み、前記原料混合物100質量%に対する、前記金属化合物の割合が、酸化物換算で70質量%以下であることが好ましい。
前記三酸化モリブデン粒子の製造方法は、図1に示す製造装置1を用いて好適に実施することができる。
図1は、本実施形態における二硫化モリブデン粒子の原料である前記三酸化モリブデン粒子の製造に用いられる装置の一例の概略図である。製造装置1は、三酸化モリブデン前駆体化合物、又は、前記原料混合物を焼成し、前記三酸化モリブデン前駆体化合物を気化させる焼成炉2と、前記焼成炉2に接続され、前記焼成により気化した三酸化モリブデン蒸気を粉体化する十字(クロス)型の冷却配管3と、前記冷却配管3で粉体化した三酸化モリブデン粒子を回収する回収手段である回収機4と、を有する。この際、前記焼成炉2および冷却配管3は、排気口5を介して接続されている。また、前記冷却配管3は、左端部には外気吸気口(図示せず)に開度調整ダンパー6が、上端部には観察窓7がそれぞれ配置されている。回収機4には、第1の送風手段である排風装置8が接続されている。当該排風装置8が排風することにより、回収機4および冷却配管3が吸引され、冷却配管3が有する開度調整ダンパー6から外気が冷却配管3に送風される。すなわち、排風装置8が吸引機能を奏することによって、受動的に冷却配管3に送風が生じる。なお、製造装置1は、外部冷却装置9を有していてもよく、これによって焼成炉2から生じる三酸化モリブデン蒸気の冷却条件を任意に制御することが可能となる。
開度調整ダンパー6により、外気吸気口からは空気を取り入れ、焼成炉2で気化した三酸化モリブデン蒸気を空気雰囲気下で冷却し、三酸化モリブデン粒子とすることで、前記比(I/II)を1.1より大きくすることができ、三酸化モリブデン粒子において、MoOのβ結晶構造が得られ易い。三酸化モリブデン蒸気を、液体窒素を用いて冷却した場合など、窒素雰囲気下の酸素濃度が低い状態での三酸化モリブデン蒸気の冷却は、酸素欠陥密度を増加させ、前記比(I/II)を低下させ易い。
前記三酸化モリブデン前駆体化合物としては、焼成することで三酸化モリブデン蒸気を形成するものであれば特に制限されないが、金属モリブデン、三酸化モリブデン、二酸化モリブデン、硫化モリブデン、モリブデン酸アンモニウム、リンモリブデン酸(HPMo1240)、ケイモリブデン酸(HSiMo1240)、モリブデン酸アルミニウム、モリブデン酸ケイ素、モリブデン酸マグネシウム(MgMo3n+1(n=1~3))、モリブデン酸ナトリウム(NaMo3n+1(n=1~3))、モリブデン酸チタニウム、モリブデン酸鉄、モリブデン酸カリウム(KMo3n+1(n=1~3))、モリブデン酸亜鉛、モリブデン酸ホウ素、モリブデン酸リチウム(LiMo3n+1(n=1~3))、モリブデン酸コバルト、モリブデン酸ニッケル、モリブデン酸マンガン、モリブデン酸クロム、モリブデン酸セシウム、モリブデン酸バリウム、モリブデン酸ストロンチウム、モリブデン酸イットリウム、モリブデン酸ジルコニウム、モリブデン酸銅等が挙げられる。これらの三酸化モリブデン前駆体化合物は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。三酸化モリブデン前駆体化合物の形態は、特に限定されず、例えば、三酸化モリブデンなどの粉体状であっても良く、モリブデン酸アンモニウム水溶液のような液体であっても良い。好ましくは、ハンドリング性かつエネルギー効率の良い粉体状である。
三酸化モリブデン前駆体化合物として、市販のα結晶の三酸化モリブデンを用いることが好ましい。また、酸化モリブデン前駆体化合物として、モリブデン酸アンモニウムを用いる場合には、焼成により熱力学的に安定な三酸化モリブデンに変換されることから、気化する酸化モリブデン前駆体化合物は前記三酸化モリブデンとなる。
酸化モリブデン前駆体化合物、及び、前記酸化モリブデン前駆体化合物以外の金属化合物を含む原料混合物を焼成することでも、三酸化モリブデン蒸気を形成することができる。
これらのうち、得られる三酸化モリブデン粒子の純度、一次粒子の平均粒径、結晶構造を制御しやすい点では、酸化モリブデン前駆体化合物は、三酸化モリブデンを含むことが好ましい。
酸化モリブデン前駆体化合物と前記酸化モリブデン前駆体化合物以外の金属化合物とが中間体を生成する場合があるが、この場合でも焼成により中間体が分解して、三酸化モリブデンを熱力学的に安定な形態で気化させることができる。
酸化モリブデン前駆体化合物、及び、前記酸化モリブデン前駆体化合物以外の金属化合物を含む原料混合物を焼成するに際して、前記原料混合物100質量%に対する、前記酸化モリブデン前駆体化合物の含有割合は、40~100質量%であることが好ましく、45~100質量%であってもよく、50~100質量%であってもよい。
焼成温度としては、使用する酸化モリブデン前駆体化合物、金属化合物、および所望とする三酸化モリブデン粒子等によっても異なるが、通常、中間体が分解できる温度とすることが好ましい。例えば、酸化モリブデン前駆体化合物としてモリブデン化合物を、金属化合物としてアルミニウム化合物を用いる場合には、中間体として、モリブデン酸アルミニウムが形成されうることから、焼成温度は500~1500℃であることが好ましく、600~1550℃であることがより好ましく、700~1600℃であることがさらに好ましい。
焼成時間についても特に制限はなく、例えば、1min~30hとすることができ、10min~25hとすることができ、100min~20hとすることができる。
昇温速度は、使用する酸化モリブデン前駆体化合物、前記金属化合物、および所望とする三酸化モリブデン粒子の特性等によっても異なるが、製造効率の観点から、0.1℃/min以上100℃/min以下であることが好ましく、1℃/min以上50℃/min以下であることがより好ましく、2℃/min以上10℃/min以下であることがさらに好ましい。
次に、前記三酸化モリブデン蒸気を冷却して粒子化する。
三酸化モリブデン蒸気の冷却は、冷却配管を低温にすることにより行われる。この際、冷却手段としては、上述のように冷却配管中への気体の送風による冷却、冷却配管が有する冷却機構による冷却、外部冷却装置による冷却等が挙げられる。
三酸化モリブデン蒸気の冷却は、空気雰囲気下で行うことが好ましい。三酸化モリブデン蒸気を空気雰囲気下で冷却し、三酸化モリブデン粒子とすることで、前記比(I/II)を1.1より大きくすることができ、三酸化モリブデン粒子において、MoOのβ結晶構造が得られ易い。
冷却温度(冷却配管の温度)は、特に制限されないが、-100~600℃であることが好ましく、-50~400℃であることがより好ましい。
三酸化モリブデン蒸気の冷却速度は、特に制限されないが、100℃/s以上100000℃/s以下であることが好ましく、1000℃/s以上50000℃/s以下であることがより好ましい。なお、三酸化モリブデン蒸気の冷却速度が早くなるほど、粒径の小さく、比表面積の大きい三酸化モリブデン粒子が得られる傾向がある。
冷却手段が、冷却配管中への気体の送風による冷却である場合、送風する気体の温度は-100~300℃であることが好ましく、-50~100℃であることがより好ましい。
三酸化モリブデン蒸気を冷却して得られた粒子は、回収機に輸送されて回収される。
前記三酸化モリブデン粒子の製造方法は、前記三酸化モリブデン蒸気を冷却して得られた粒子を、再度、100~320℃の温度で焼成してもよい。
すなわち、前記三酸化モリブデン粒子の製造方法で得られた三酸化モリブデン粒子を、再度、100~320℃の温度で焼成してもよい。再度の焼成の焼成温度は、120~280℃であってもよく、140~240℃であってもよい。再度の焼成の焼成時間は、例えば、1min~4hとすることができ、10min~5hとすることができ、100min~6hとすることができる。ただし、再度、焼成することにより、三酸化モリブデンのβ結晶構造の一部は、消失してしまい、350℃以上の温度で4時間焼成すると、三酸化モリブデン粒子中のβ結晶構造は消失して、前記比(β(011)/α(021))が0になって、硫黄との反応性が損なわれる。
前記放射性物質吸着剤の製造方法により、本実施形態の放射性物質吸着剤における二硫化モリブデン粒子を製造することができる。
また、前記三酸化モリブデン粒子の製造方法により、本実施形態の放射性物質吸着剤における二硫化モリブデン粒子の製造に好適な、三酸化モリブデン粒子を製造することができる。
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
[三酸化モリブデン粉体の一次粒子の平均粒径の測定方法]
三酸化モリブデン粉体を構成する三酸化モリブデン粒子を、走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影した。二次元画像上の凝集体を構成する最小単位の粒子(すなわち、一次粒子)について、その長径(観察される最も長い部分のフェレ径)及び短径(その最も長い部分のフェレ径に対して、垂直な向きの短いフェレ径)を計測し、その平均値を一次粒子径とした。同様の操作をランダムに選ばれた50個の一次粒子に対して行い、その一次粒子の一次粒子径の平均値から、一次粒子の平均粒径を算出した。
[三酸化モリブデンの純度測定:XRF分析]
蛍光X線分析装置PrimusIV(リガク社製)を用い、回収した三酸化モリブデン粒子の試料約70mgをろ紙にとり、PPフィルムをかぶせて組成分析を行った。XRF分析結果により求められるモリブデン量を、三酸化モリブデン粒子100質量%に対する三酸化モリブデン換算(質量%)により求めた。
[結晶構造解析:XRD法]
回収した三酸化モリブデン粒子、又は、その硫化物の試料を0.5mm深さの測定試料用ホルダーに充填し、それを広角X線回折(XRD)装置(リガク社製、UltimaIV)にセットし、Cu/Kα線、40kV/40mA、スキャンスピード2°/min、走査範囲10°以上70°以下の条件で測定を行った。
[比表面積測定:BET法]
三酸化モリブデン粒子又は二硫化モリブデン粒子の試料について、比表面積計(マイクロトラックベル社製、BELSORP-mini)にて測定し、BET法による窒素ガスの吸着量から測定された試料1g当たりの表面積を、比表面積(m/g)として算出した。
[MoSへの転化率R
RIR(参照強度比)法により、二硫化モリブデン(MoS)のRIR値Kおよび二硫化モリブデン(MoS)の(002)面または(003)面に帰属される、2θ=14.4°±0.5°付近のピークの積分強度I、並びに、各酸化モリブデン(原料であるMoO、および反応中間体であるMo25、Mo11、MoOなど)のRIR値Kおよび各酸化モリブデン(原料であるMoO、および反応中間体であるMo25、Mo11、MoOなど)の最強線ピークの積分強度Iを用いて、次の式(1)からMoSへの転化率Rを求めた。
(%)=(I/K)/(Σ(I/K))×100 ・・・(1)
ここで、RIR値は、無機結晶構造データベース(ICSD)に記載されている値をそれぞれ用い、解析には、統合粉末X線解析ソフトウェア(PDXL)(リガク社製)を用いた。
[広域X線吸収微細構造(EXAFS)測定]
二硫化モリブデン粉末36.45mgと窒化ホウ素(キシダ化学社製)333.0mgとを乳鉢で混合した。この混合物123.15mgを量り取り、φ8mmの錠剤に圧縮成形し、測定サンプルを得た。この測定サンプルを用いて、あいちシンクロトロン光センターのBL5S1にて透過法で広域X線吸収微細構造(EXAFS)を測定した。解析にはAthena(インターネット<URL: https://bruceravel.github.io/demeter/>)を用いた。
[二硫化モリブデン粒子のメディアン径D50の測定]
アセトン20ccに二硫化モリブデン粉末0.1gを添加し、氷浴中で4時間超音波処理を施した後、さらにアセトンで、動的光散乱式粒子径分布測定装置(マイクロトラックベル社製、Nanotrac WaveII)の測定可能範囲の濃度に適宜調整し、測定サンプルを得た。この測定サンプルを用い、上記動的光散乱式粒子径分布測定装置により、粒径0.0001~10μmの範囲の粒子径分布を測定し、メディアン径D50を算出した。
ただし、メディアン径D50が10μmを超えるものについては、同様に溶液を調整し、レーザ回折式粒度分布測定装置(島津製作所製、SALD-7000)により、粒径0.015~500μmの範囲の粒子径分布を測定し、メディアン径D50を算出した。
[二硫化モリブデン粒子の粒子形状観察方法]
二硫化モリブデン粒子を、原子間力顕微鏡(AFM)(Oxfоrd Cypher-ES)で測定し、粒子形状を観察した。
(市販の三酸化モリブデン粒子)
実施例1で使用される二硫化モリブデン粒子として、市販の二硫化モリブデン試薬(関東化学社製)のX線回折パターンの結果を、2H結晶構造の二硫化モリブデンの回折パターンと共に、図2に示す。この実施例1の二硫化モリブデン試薬は、2H結晶構造が99%以上の二硫化モリブデンであることが分かった。39.5°付近のピーク、49.5°付近のピークの半値幅は、それぞれ0.23°、0.22°であった。
実施例1で使用される二硫化モリブデン粒子について、比表面積(SA)、モリブデンのK吸収端の広域X線吸収微細構造(EXAFS)の測定から得られる、Mo-Sに起因するピークの強度IとMo-Moに起因するピーク強度IIとの比(I/II)は、1.2であった。
実施例1で使用される二硫化モリブデン粒子の比表面積をBET法により測定したところ、5.6m/gであった。
また、実施例1で使用される二硫化モリブデン粒子の粒度分布を、動的光散乱式粒子径分布測定装置により計測し、メディアン径D50を求めたところ、13340nmであった。
<合成例1>
(三酸化モリブデン粒子の製造)
遷移酸化アルミニウム(和光純薬工業社製、活性アルミナ、平均粒径45μm)1kgと、三酸化モリブデン(太陽鉱工社製)1kgと、を混合し、次いでサヤに仕込み、図1に示す製造装置1のうち焼成炉2で、温度1100℃で10時間焼成した。焼成中、焼成炉2の側面および下面から外気(送風速度:50L/min、外気温度:25℃)を導入した。三酸化モリブデンは、焼成炉2内で蒸発した後、回収機4付近で冷却され、粒子として析出した。焼成炉2としてRHKシミュレーター(ノリタケカンパニーリミテド製)を用い、回収機4としてVF-5N集塵機(アマノ社製)を用いた。
焼成後、サヤから1.0kgの青色の粉体である酸化アルミニウムと、回収機4で回収した三酸化モリブデン粒子0.85kgを取り出した。回収した三酸化モリブデン粒子は、一次粒子の平均粒径が80nmであり、蛍光X線(XRF)測定にて、三酸化モリブデンの純度は99.7%であることが確認できた。この三酸化モリブデン粒子の、BET法で測定される比表面積(SA)は、44.0m/gであった。
(二硫化モリブデン粒子の製造)
磁性坩堝中で、三酸化モリブデン1.00gと、硫黄粉末(関東化学社製)1.57gとを、粉末が均一になるように攪拌棒にて混合し、窒素雰囲気下、500℃で4時間の焼成を行い、黒色粉末を得た。ここで、前記三酸化モリブデン粒子のMoO量100モル%に対して、前記硫黄のS量は705モル%である。この黒色粉末(合成例1の二硫化モリブデン粒子)のX線回折(XRD)パターンの結果を、無機結晶構造データベース(ICSD)に記されている二硫化モリブデン(MoS)の3R結晶構造の回折パターン、二硫化モリブデン(MoS)の2H結晶構造の回折パターン及び二酸化モリブデン(MoO)の回折パターンと共に、図3に示す。二酸化モリブデン(MoO)は、反応中間体である。
図3のX線回折(XRD)パターンでは、二硫化モリブデン(MoS)に帰属されるピークのみが検出され、二硫化モリブデン(MoS)に帰属されないピークが見られなかった。すなわち、副生成物である二酸化モリブデン(MoO)などの反応中間体ピークが観察されず、二硫化モリブデン(MoS)に帰属されるピークのみが観察されたことから、合成性1の二硫化モリブデン粒子は、MoSへの転化率が99%以上であり、硫黄との反応が速やかに進んだことが確認できた。
この合成例1の二硫化モリブデン粒子をX線回折(XRD)により結晶構造解析したところ、2H結晶構造及び3R結晶構造が含まれていることを確認した。39.5°付近のピーク、49.5°付近のピークの半値幅は、それぞれ2.36°、3.71°であり、市販の三酸化モリブデン粒子よりも広かった。
合成例1の二硫化モリブデン粒子の比表面積をBET法により測定したところ、67.8m/gであった。
合成例1の二硫化モリブデン粒子の粒度分布を、動的光散乱式粒子径分布測定装置により計測し、メディアン径D50を求めたところ、170nmであった。
合成例1の二硫化モリブデン粒子のAFM像を図4に示す。図4は測定して得られたAFM像であり二硫化モリブデン粒子の上面を示している。このAFM像より長さ(縦)×幅(横)を求めたところ、180nm×80nmであった。図5は図4に示す二硫化モリブデン粒子の断面を示すグラフである。この断面図より厚み(高さ)を求めたところ、16nmであった。したがって、二硫化モリブデン粒子の一次粒子のアスペクト比(長さ(縦)/厚み(高さ))の値は、11.25であった。
図4に示した二硫化モリブデン粒子を含む二硫化モリブデン粒子50個の平均値は、長さ(縦)×幅(横)×厚み(高さ)=198nm×158nm×19nmであった。
また、二硫化モリブデン粒子のAFM測定結果の代表例を表1に示す。表中、「二硫化モリブデン粒子(1)」は、図4に記載の二硫化モリブデン粒子である。「二硫化モリブデン粒子(2)」は、測定した二硫化モリブデン粒子の中で、最も長さが長い粒子であり、「二硫化モリブデン粒子(3)」は、最も長さが短い粒子である。「二硫化モリブデン粒子(4)は、比較的厚みが厚い粒子であり、「二硫化モリブデン粒子(5)」は、最も厚みが薄い粒子である。「二硫化モリブデン粒子(6)」は、最もアスペクト比が大きい粒子である。「二硫化モリブデン粒子(7)」は、最も厚みが厚い粒子であり、かつ、最もアスペクト比が小さい粒子である。
Figure 0007255760000001
合成例1の二硫化モリブデン粒子の、広域X線吸収微細構造(EXAFS)を測定した。モリブデンのK吸収端の広域X線吸収微細構造(EXAFS)プロファイルを図6に示す。このプロファイルから得られる動径分布関数において、Mo-Sに起因するピークの強度IとMo-Moに起因するピーク強度IIとの比(I/II)は、1.2であった。
[放射性物質(ルテニウム)吸着評価]
<実施例1>
1000ppmルテニウム標準液(ACROS ORGANICS社製)をイオン交換水を用いて希釈し、更に水酸化ナトリウム水溶液を用いてpH3.5、初期ルテニウム濃度が約1000ppbとなるように吸着対象液を調製した。
得られた吸着対象液30gを容積50mLのポリ試験管に入れ、吸着剤として市販の二硫化モリブデン粉末(関東化学社製、二硫化モリブデン試薬)を30mg投入し、転倒回転型撹拌器(トーワラボ社製、ロータ・ミックスRKVSD)で15rpmの回転速度で、24時間撹拌した。
24時間の撹拌時間経過後、0.2μmのシリンジフィルターで濾過を行い、試料溶液中に残存するルテニウム濃度を、ICP発光分光分析装置(ICP-OES、パーキンエルマー社製、Optima8300)で定量した。また、24時間後の試料溶液中のルテニウム残存濃度と、二硫化モリブデン粉末の投入量を用い、以下の式から吸着剤1gあたりの24時間でのルテニウム吸着量(g/g)を算出した。
24時間ルテニウム吸着量=(初期ルテニウム濃度-24時間後ルテニウム濃度)×液量/二硫化モリブデン粉末投入量
また、24時間経過後のルテニウムの吸着率を以下の式から算出した。
吸着率=(初期ルテニウム濃度-24時間後ルテニウム濃度)/初期ルテニウム濃度×100
<実施例2>
市販の二硫化モリブデン粉末に代えて合成例1で得られた二硫化モリブデン粉末を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、24時間後の試料溶液中のルテニウム残存濃度と、吸着剤1gあたりの24時間でのルテニウム吸着量を算出した。
<比較例1>
市販の二硫化モリブデン粉末に代えてカーボン(クラレ社製、クラレコール(登録商標))を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、吸着剤1gあたりの24時間でのルテニウム吸着量、及び吸着率を算出した。
<比較例2>
市販の二硫化モリブデン粉末に代えてゼオライト(東ソー社製、ゼオラム(登録商標)A-4 球状14~20mesh)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、吸着剤1gあたりの24時間でのルテニウム吸着量、及び吸着率を算出した。
Figure 0007255760000002
表2結果から、実施例1では、吸着剤として市販の二硫化モリブデン粉末を30mg使用したときの24時間後の溶液中のルテニウム濃度は80ppb、ルテニウム吸着量は0.69g/g、ルテニウムの吸着率は89.6%であり、ルテニウムの吸着率が高く良好な吸着性能を示すことが分かった。
実施例2では、合成例1の二硫化モリブデン粉末を30mg使用したときの24時間後の溶液中のルテニウム濃度が67ppb、ルテニウム吸着量は0.70g/g、ルテニウムの吸着率は91.3%であり、実施例1と比較してルテニウムの吸着率が高く、より良好な吸着性能を示すことが分かった。
一方、比較例1では、吸着剤としてカーボンを30mg用いたときの24時間後の溶液中のルテニウム濃度は271ppb、ルテニウム吸着量は0.50g/g、ルテニウムの吸着率は64.7%であり、吸着剤として二硫化モリブデン粉末を用いた実施例3,4と比較して、ルテニウムの吸着率が低く吸着性能に劣った。
また比較例2では、吸着剤としてゼオライトを30mg用いたときの24時間後の溶液中のルテニウム濃度は167ppb、ルテニウム吸着量は0.60g/g、ルテニウムの吸着率は78.2%であり、吸着剤として二硫化モリブデン粉末を用いた実施例3,4と比較して、ルテニウムの吸着率が低く吸着性能に劣った。
本発明の放射性物質吸着剤は、放射性物質の吸着性能が大きいので、原子力設備等からの放射性廃液からの放射性物質の吸着などを行う際に、放射性物質吸着材料として好適に利用することができる。なかでも、ルテニウムの吸着性能が格段に優れることから、高濃度~低濃度でルテニウムを含有する放射性廃液からのルテニウムの吸着材料として特に好適に利用することができる。
また、本発明の放射性物質吸着方法は、放射性物質の吸着を容易に行うことができることから、原子力設備等から生じた汚染水等から放射性物質を吸着する方法として極めて有用である。
1 製造装置
2 焼成炉
3 冷却配管
4 回収機
5 排気口
6 開度調整ダンパー
7 観察窓
8 排風装置
9 外部冷却装置

Claims (6)

  1. 金属硫化物を含有し、
    前記金属硫化物が二硫化モリブデン粒子で構成され、
    前記二硫化モリブデン粒子に吸着される放射性物質が、ルテニウムである、放射性物質吸着剤。
  2. 動的光散乱法により求められる前記二硫化モリブデン粒子のメディアン径D50が10nm以上1000nm以下である、請求項1に記載の放射性物質吸着剤。
  3. 前記二硫化モリブデン粒子の一次粒子の形状が、円盤状、リボン状またはシート状であり、厚さが、3~100nmの範囲である、請求項1又は2に記載の放射性物質吸着剤。
  4. BET法で測定される、前記二硫化モリブデン粒子の比表面積が10m/g以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載の放射性物質吸着剤。
  5. 前記二硫化モリブデン粒子の、モリブデンのK吸収端の広域X線吸収微細構造(EXAFS)プロファイルから得られる動径分布関数において、Mo-Sに起因するピークの強度IとMo-Moに起因するピーク強度IIとの比(I/II)が、1.0より大きい、請求項1~4のいずれか1項に記載の放射性物質吸着剤。
  6. 前記二硫化モリブデン粒子が、二硫化モリブデンの2H結晶構造及び3R結晶構造を有し、
    前記二硫化モリブデン粒子の、X線源としてCu-Kα線を用いた粉末X線回折(XRD)から得られるプロファイルにおいて、39.5°付近のピーク及び49.5°付近のピークが前記2H結晶構造に由来し、32.5°付近のピーク、39.5°付近のピーク及び49.5°付近のピークが前記3R結晶構造に由来し、
    39.5°付近のピーク及び49.5°付近のピークの半値幅が1°以上である、請求項1~5のいずれか1項に記載の放射性物質吸着剤。
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