JP4238111B2 - フッ素イオン回収材の製造方法及びフッ素イオンの回収方法 - Google Patents
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Description
フッ素の人体へ及ぼす主な影響は、神経障害、肝臓障害、骨格障害などが報告され、これらの障害を 「 フッ素中毒症 」 と総称する。
現在、アメリカを中心としてイギリス、カナダ、オーストラリアなどの諸国で、フッ素が引き起こす中毒症の問題について激しい論争が起き、それが社会問題化している。
このようなフッ素の問題が世界的に叫ばれる中、我が国では、1999年2月 「 水質汚濁に係る環境基準及び地下水の水質汚濁に係る環境基準 」が改正され、環境基準として新しくフッ素が追加設定された。これを受けて工業排水基準の見直しが検討され、2001年7月には水質汚濁防止法の規定に基づき、環境省令が一部改正となった。それに伴い、フッ素の排水基準が強化され、フッ素の排水基準値はこれまでの15 ppmから8 ppmに引き下げられた。
さらに、この方法は排水の処理後に大量のフッ化カルシウムの沈殿を生成させ、その廃棄物の処理に多大なコストが掛かるという問題を内包している。このため、カルシウム凝集沈殿法に代わる新規回収プロセスの必要性が高まっている。
しかし、これらは効率が悪くまた十分なフッ素イオンの除去ができていないと考えられる。
1)TiOSO4・xH2Oから製造した水酸化チタンゲルからなることを特徴とするフッ素イオン回収材、2)TiOSO4・xH2Oにおけるxが2であることを特徴とする1記載のフッ素イオン回収材、3)フッ素イオン、硝酸イオン、硫酸イオンを含有する溶液中において、フッ素イオンの選択的吸着能を備えていることを特徴とする1又は2記載のフッ素イオン回収材、を提供する。
4)TiOSO4・xH2Oを水に分散させた後、アンモニア水等のアルカリ溶液を添加し、その結果得られた生成物を沈降させて、水酸化チタンゲルを得ることを特徴とするフッ素イオン回収材の製造方法。
5)浮遊する羽衣状の生成物を沈降させ、室温にて熟成させることを特徴とする4記載のフッ素イオン回収材の製造方法。
6)TiOSO4・xH2Oから製造した水酸化チタンゲルのpHを調整することによりフッ素イオンの吸着及び脱着を行うことを特徴とするフッ素イオンの回収方法、7)pH2〜4の低pHにおいてフッ素イオンの吸着を行い、pH8〜10の高pHにおいてフッ素イオンの脱着を行うことを特徴とする6記載のフッ素イオンの回収方法、8)フッ素イオン、硝酸イオン、硫酸イオンを含有する溶液中において、選択的にフッ素イオンを吸着することを特徴とする6又は7記載のフッ素イオンの回収方法、を提供する。
(吸着材の合成)
(1)水酸化チタンゲルの製造(調製)
TiOSO4・xH2O を2.0 g 秤量し純水10 mlに分散させ溶液が完全に透明になるまで攪拌した後に、アルカリ溶液であるアンモニア水10 ml をゆるやかに添加し、浮遊した羽衣状の生成物を得た。その後、羽衣状の生成物を静かに重力により沈降させ、室温にて所定時間熟成させることにより水酸化チタンゲル(特別な場合を除き、以下「THG」を使用する)を得た。
なお、水酸化チタンゲルの製造に際し、水に溶解させるTiOSO4・xH2Oの量、アンモニア水の添加量、あるいは沈降・熟成の温度・時間は任意に設定できるものであり、上記に述べた数値条件に限定されるものではない。
参考までに、水酸化チタン粉末の製造(調製)を説明する。
TiOSO4・xH2Oを8.0 g 秤量し純水50 mlに分散させた懸濁液を5分間静置する。その後アンモニア水10 mlをゆっくりと添加し、室温にて12時間熟成させた。そして生成した沈殿物のろ過、洗浄、乾燥 ( 70 ℃で10時間、その後110 ℃で4時間 ) を行い、粉末状水酸化チタン(特別な場合を除き、以下「THP」を使用する)を得た。
調製した吸着材の特性評価を行うために種々の解析を行った。その詳細を以下に述べる。
(XRD解析)
TiOSO4・xH2Oおよび乾燥状態のTHGの粉末を、粉末X線回折装置を用いて分析した(理学電機(株)製、RAD-PCを使用)。
(吸着材のチタン含有量の算出)
TiOSO4・xH2OおよびTHPを加熱し、その重量減少からチタン含有量を求めた(理学電機(株)製TG-DTA、Rigaku TG8120 を使用)。測定条件は標準試料としてAl2O3を用いて、空気中で昇温速度 10 ℃/min、保持時間10minで最高温度 600 Kまたは700 Kまで加熱した。
TiOSO4・xH2O、乾燥状態のTHGの形状をSEM( 日立製作所(株)製、走査型電子顕微鏡S-2400 )を用いて観察した。
(粒度分布測定)
THGの粒度分布および平均粒径をレーザー回折散乱式粒度分布測定計( 日機装(株)製、MICROTRAC9320-X100 )を用いて測定した。
合成した吸着材を用いて、フッ化ナトリウム水溶液からフッ素イオンの吸着実験を行った。その詳細を以下に述べる。
TiOSO4・xH2O 2.0 gから調製したTHGの全量を、[ F‐]0 =50 及び5 ppmの濃度に調整したフッ化ナトリウム水溶液に投入し、硝酸を用いて溶液をpH 4 に調整した。pHが安定した後に、所定の時間ごとに10 mlの溶液を採取し、採取した溶液を10倍に希釈した後に、溶液中のフッ素イオン濃度をイオンクロマトグラフィー( 日本ダイオネクス(株)製、イオンクロマトグラフィー DX-120 )を用い定量した。
TiOSO4・xH2O 2.0 gから調製したTHGの全量を [ F-]0 =50 ppmのフッ化ナトリウム水溶液に投入し、硝酸またはアンモニア水を用いて溶液をpH 2〜10に調整した。
溶液のpHが安定した後、所定の時間で10 mlの溶液の採取を行い、採取した溶液を10倍に希釈し溶液中のフッ素イオン濃度を、イオンクロマトグラフィーを用い定量した。また、溶液のpH変化をガラス電極式水素イオン濃度計( TOA社製、pH METER HM-20E )を用い常時観測した。
TiOSO4・xH2O 2.0 gから調製したTHGの全量をフッ化ナトリウム水溶液( [F-]0 =50 ppm )に投入した後に、フッ素イオンを吸着するため、硝酸を用いて溶液をpH 3に調整した。
溶液のpHが安定してから1時間後に10 mlの溶液を採取した後に、フッ素イオンを脱着させるため、アンモニア水を用いて溶液をpH 9に調整し、pHが安定してから1時間後に10 mlの溶液の採取を行った。
pH 3およびpH 9 における溶液採取を1サイクルとして、3サイクル繰り返し行い、採取した溶液を10倍に希釈し溶液中のフッ素イオン濃度を、イオンクロマトグラフィーを用い定量した。
硝酸イオンおよび硫酸イオンが共存した溶液からのフッ素イオンの選択的吸着挙動を調べた。その方法を以下に示す。TiOSO4・xH2O 2.0 gから調製したTHGの全量を硝酸イオンおよび硫酸イオンが共存した[ F-]0 =50 ppmの水溶液に投入し、硝酸を用いて溶液をpH 4に調整した。
溶液のpHが安定してから、所定の時間ごとに10 mlの溶液を採取し、採取した溶液を10倍に希釈した後に、採取した溶液中のフッ素イオン、硝酸イオンおよび硫酸イオン濃度を、イオンクロマトグラフィーを用い定量した。
(吸着材のキャラクタリゼーション)
TiOSO4・xH2OとTHPのXRD結果を図1に示す。TiOSO4・xH2OのXRDパターンにおいて、低角度側でTiOSO4・2H2Oに帰属されるピークが観測されたことから、TiOSO4・xH2O はTiOSO4・2H2Oであると考えられる。一方、THPのXRD結果から、この物質は非晶質であることが分かった。図2にTHPのTG-DTA曲線を示す。
1つ目の吸熱ピークは370 Kまでの低温域で現れたことから、表面吸着水の蒸発による吸熱反応を示していると考えられる。
これに対し2つ目および3つ目の吸熱ピークは、2つの結晶水の蒸発による吸熱反応であると考えられる。また、1つ目、2つ目、および3つ目の各吸熱ピークに対応する重量減少率は、TG曲線からそれぞれ6.1、6.9、および10.4 %であり、全体の重量減少率は23.4 %であった。
全重量減少率(23.4%)−表面吸着水に帰属される重量減少(6.9%)=結晶水に帰属される重量減少率(17.3%)
そこで、上式に示したように、全重量減少率から表面吸着水に帰属される重量減少率を除いた17.3 %がTiOSO4・xH2O中に含まれる結晶水に帰属される重量減少率であるから、その値を用いてTiOSO4・xH2Oのxの値を算出した。その結果、x≒ 2であった。
これらの計算結果からTiOSO4・xH2Oは2つの結晶水を持つTiOSO4・2H2Oであると考えられ、この結果はXRDで同定された結晶構造と一致する。
これに対し乾燥させたTHGは薄く小さな層が幾つも重なり、10〜750μmのフレーク状粒子を形成していた。このフレーク状の粒子の大きさにばらつきが見られるのは、THGを乾燥させたときに粒子が凝集したためと考えられる。図6B、図6Cは、個々のフレーク状の粒子を拡大したものである。THGはゲル状でフレキシブルな柔らかい構造を呈している。
THGの粒度分布測定結果を図8に示す。また、参考までにTHPの粒度分布測定結果を図7に示す。
THGの粒度分布はシャープで左右対称な形をしていた。また、THPおよびTHGの粒度分布はそれぞれ0.6〜22 μmおよび1.8〜11 μmであり、平均粒径はそれぞれ3.6および3.7μmであった。通常、水酸化チタン粒の粒度分布は1〜20μmであり、平均粒径は1〜10μmである
水酸化チタンゲルを用いて種々の濃度の水溶液からフッ素イオンを回収し、その吸着量を調べることによって、水酸化チタンゲルの低濃度フッ素イオンの吸着能力およびフッ素イオン吸着容量の違いを調べた。
[ F‐]0 =50 ppm、pH 4 のフッ化ナトリウム水溶液からのフッ素イオンの吸着を行った結果を図9に示す。比較のためにTHPの同吸着量の変化を同図に示す。
THGによるフッ素イオンの吸着量実験では、実験開始から約5分で初期濃度の70%以上を回収し、さらに平衡に達するまでの時間は約30分であった。一方、THPによるフッ素イオンの吸着量が平衡に達するまでの時間は約4時間であった。また、THPおよびTHGによるフッ素イオン吸着量が平衡に達したときのチタン1 molあたりのフッ素イオン吸着量は、それぞれ4.95×10-2 および1.97×10-1 molであった。
THGがTHPよりもフッ素イオン吸着能力が高い理由として、形態の違いによる表面積の差が挙げられる。すなわち図6B、図6Cに示すように、THGはゲル状でフレキシブルな柔らかい構造をしているために外部表面だけでなく、内部表面もフッ素イオンの吸着に使うことが可能であるが、THPは棒状結晶で自由度の低い構造であるため、外部表面だけが有効に作用するからであると考えられる。
1.フッ素イオン吸着に及ぼすpHの影響
水酸化チタンゲルを用いて種々のpHのフッ化ナトリウム水溶液からフッ素イオンを吸着し、その吸着挙動を調べることによって、水酸化チタンゲルによるフッ素イオンの吸着挙動に及ぼすpHの影響を調べた。
pH 2、3、4の3種類のフッ素イオン水溶液( [ F-]0 =50 ppm )からフッ素イオン吸着を行った結果を図10に示す。
この結果からTHGのフッ素イオン吸着量および吸着量が平衡に達するまでの時間は、溶液のpHにより異なることが分かった。
初期pH 2、3、4の全ての溶液中においてTHGによるフッ素イオンの吸着に伴う溶液のpHの上昇が確認された。この結果はTHGの系においてフッ素イオンの吸着が、溶液中のフッ素イオンとTHGの持つOH間のイオン交換反応によるものであることを示唆している。
溶液がpH 2からpH 3の間では溶液のpHの上昇に伴いフッ素イオンの吸着量は増加し、pH 3においてフッ素イオンの吸着量は最も多くなり、チタン1 molあたり2.38×10‐1 molを吸着した。
しかし、pH 3からpH 8の間では、溶液のpHの上昇に伴って吸着量が直線的に減少し、pH 9以上では吸着した全てのフッ素イオンを脱着した。
したがってpH 2におけるフッ素イオンの吸着量が、pH 3におけるフッ素イオンの吸着量と比べて減少している理由は、pH 2の溶液中においてTHGが一部溶解し、それらがTi(OH)2 2+イオンとして溶液中に存在しているからである。
また、pH 3において吸着量が最も多くなるのは、pH 3付近において溶液中の水酸化チタンがTi(OH)3 +からTi(OH)4またはTi(OH)3 +からTi(OH)4への平衡状態にあり、存在状態が最も不安定で反応性に富むためであると考えられる。
本発明の水酸化チタンゲルを用いて、フッ化ナトリウム水溶液からのフッ素イオンの吸着操作及び吸着材からのフッ素イオンの脱着操作を繰返し行い、その都度溶液中のフッ素イオン濃度を定量し、水酸化チタンゲルによるフッ素イオンの吸着量及び脱着量を調べることによって、水酸化チタンゲルによる吸脱着サイクル数に伴う吸着量の変化を調べた。
この結果、1回目のサイクルにおけるフッ素イオンの吸着量及び脱着量は、それぞれ2.1及び2.1×10−1molであり、フッ素イオンの脱着率は100%であった。また、2回目及び3回目のサイクルにおけるフッ素イオンの吸着量は、2.2及び2.2×10−1molであり、1回目のサイクルと殆ど変化はなかった。一方、フッ素イオンの脱着量はそれぞれ2.2及び2.2×10−1molであり、脱着率は共に100%であった。この結果は7回目まで実施したが、同様の結果であった。
以上から、本発明の水酸化チタンゲルは、フッ素イオンの吸脱着サイクルでは殆ど変化せず、安定した吸脱着を繰返すことが分かった。
一般に工業排水中にはフッ素イオンの他に硝酸イオン、硫酸イオン等の様々なアニオンが共存している。本研究でターゲットにした排水中においても硝酸イオン、硫酸イオン等のアニオンが共存していた。
このような工業排水中から吸着材を用いてフッ素イオンの吸着を行うとき、吸着材にフッ素イオンの選択的吸着能力があるならば、種々の排水中のフッ素イオンを選択的に吸着可能であり、共存アニオンの吸着によるフッ素イオンの吸着効率の低下を避けることができる。
つまり、選択的なフッ素イオンの吸着能力は効率のよいフッ素イオンの回収を目指す上で重要な条件と言える。
フッ素イオンの選択的回収実験の結果を表2に示す。
フッ素イオン、硝酸イオンおよび硫酸イオンのうちフッ素イオンの濃度だけが短時間で急速に減少したが、他のアニオンの濃度にほとんど変化はなかった。
また、THGによるフッ素イオンの吸着量は60 分間でチタン1 molあたり2.07×10‐1 molであった。これらの結果からTHGはフッ素イオンに対して選択的な吸着能力を持つことが分かった。
また、THGによるフッ素イオン吸着量および吸着量が平衡に達するまでの時間は溶液のpHによって異なることが分かる。そして、フッ素イオン吸着に伴う溶液のpHの上昇から、THGの系におけるフッ素イオンの吸脱着は、溶液中のフッ素イオンとTHGのOH間で起こるイオン交換反応によって行われることが推測される。
さらに、THGは大過剰の硝酸イオンおよび硫酸イオンの存在する溶液中においても、フッ素イオンを選択的に吸着可能であることが分かる。
すなわち、その合成プロセスも環境に配慮したものである。また、本発明における回収材の性能は、他の共存イオンが存在している溶液中においてもフッ素イオンのみを選択的にかつ迅速に回収可能であり、さらに一度回収したフッ素イオンを脱着させることも可能である。
本発明は、このように半導体製造、金属表面処理、ガラス加工・窯業、化学・医薬等、多くの業種の生産工場において利用可能であり、工業排水の水質汚染の問題解決に有効である。
Claims (5)
- TiOSO4・xH2Oを水に分散させた後、アンモニア水等のアルカリ溶液を添加し、その結果得られた生成物を沈降させて、水酸化チタンゲルを得ることを特徴とするフッ素イオン回収材の製造方法。
- 浮遊する羽衣状の生成物を沈降させ、室温にて熟成させることを特徴とする請求項1記載のフッ素イオン回収材の製造方法。
- TiOSO4・xH2Oから製造した水酸化チタンゲルのpHを調整することによりフッ素イオンの吸着及び脱着を行うことを特徴とするフッ素イオンの回収方法。
- pH2〜4の低pHにおいてフッ素イオンの吸着を行い、pH8〜10の高pHにおいてフッ素イオンの脱着を行うことを特徴とする請求項3記載のフッ素イオンの回収方法。
- フッ素イオン、硝酸イオン、硫酸イオンを含有する溶液中において、選択的にフッ素イオンを吸着することを特徴とする請求項3又は4記載のフッ素イオンの回収方法。
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