以下、添付図面を参照しながら本発明の一実施形態に係る成膜装置について説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
まず、図1及び図2を参照して、本発明の実施形態に係る成膜・負イオン生成装置の構成について説明する。図1及び図2は、本実施形態に係る成膜・負イオン生成装置の構成を示す概略断面図である。図1は、成膜処理モードにおける動作状態を示し、図2は、負イオン生成モードにおける動作状態を示している。なお、成膜処理モード及び負イオン生成モードの詳細については後述する。
図1及び図2に示すように、本実施形態の成膜・負イオン生成装置1は、いわゆるイオンプレーティング法に用いられるイオンプレーティング装置である。なお、説明の便宜上、図1及び図2には、XYZ座標系を示す。Y軸方向は、後述する成膜対象物が搬送される方向である。X軸方向は、成膜対象物と後述するハース機構とが対向する位置である。Z軸方向は、Y軸方向とX軸方向とに直交する方向である。
成膜・負イオン生成装置1は、成膜対象物11の板厚方向が略鉛直方向となるように成膜対象物11が真空チャンバー10内に配置されて搬送されるいわゆる横型の成膜・負イオン生成装置であってもよい。この場合には、Z軸及びY軸方向は水平方向であり、X軸方向は鉛直方向且つ板厚方向となる。なお、成膜・負イオン生成装置1は、成膜対象物11の板厚方向が水平方向(図1及び図2ではX軸方向)となるように、成膜対象物11を直立又は直立させた状態から傾斜した状態で、成膜対象物11が真空チャンバー10内に配置されて搬送される、いわゆる縦型の成膜・負イオン生成装置であってもよい。この場合には、X軸方向は水平方向且つ成膜対象物11の板厚方向であり、Y軸方向は水平方向であり、Z軸方向は鉛直方向となる。本発明の一実施形態に係る成膜・負イオン生成装置は、以下、横型の成膜・負イオン生成装置を例として説明する。
成膜・負イオン生成装置1は、真空チャンバー10、搬送機構3、成膜部14、負イオン生成部24、電圧印加部90、電位測定部110、及び制御部50を備えている。
真空チャンバー10は、成膜対象物11を収納し成膜処理を行うための部材である。真空チャンバー10は、成膜材料Maの膜が形成される成膜対象物11を搬送するための搬送室10aと、成膜材料Maを拡散させる成膜室10bと、プラズマガン7からビーム状に照射されるプラズマPを真空チャンバー10に受け入れるプラズマ口10cとを有している。搬送室10a、成膜室10b、及びプラズマ口10cは互いに連通している。搬送室10aは、所定の搬送方向(図中の矢印A)に(Y軸に)沿って設定されている。また、真空チャンバー10は、導電性の材料からなり接地電位に接続されている。
成膜室10bは、壁部10Wとして、搬送方向(矢印A)に沿った一対の側壁と、搬送方向(矢印A)と交差する方向(Z軸方向)に沿った一対の側壁10h,10iと、X軸方向と交差して配置された底面壁10jと、を有する。
搬送機構3は、成膜材料Maと対向した状態で成膜対象物11を保持する成膜対象物保持部材16を搬送方向(矢印A)に搬送する。例えば成膜対象物保持部材16は、成膜対象物11の外周縁を保持する枠体である。搬送機構3は、搬送室10a内に設置された複数の搬送ローラ15によって構成されている。搬送ローラ15は、搬送方向(矢印A)に沿って等間隔に配置され、成膜対象物保持部材16を支持しつつ搬送方向(矢印A)に搬送する。なお、成膜対象物11は、例えばガラス基板やプラスチック基板などの板状部材が用いられる。
続いて、成膜部14の構成について詳細に説明する。成膜部14は、イオンプレーティング法により成膜材料Maの粒子を成膜対象物11に付着させる。成膜部14は、プラズマガン7と、ステアリングコイル5と、ハース機構2と、輪ハース6とを有している。
プラズマガン7は、例えば圧力勾配型のプラズマガンであり、その本体部分が成膜室10bの側壁に設けられたプラズマ口10cを介して成膜室10bに接続されている。プラズマガン7は、真空チャンバー10内でプラズマPを生成する。プラズマガン7において生成されたプラズマPは、プラズマ口10cから成膜室10b内へビーム状に出射される。これにより、成膜室10b内にプラズマPが生成される。
プラズマガン7は、陰極60により一端が閉塞されている。陰極60とプラズマ口10cとの間には、第1の中間電極(グリッド)61と、第2の中間電極(グリッド)62とが同心的に配置されている。第1の中間電極61内にはプラズマPを収束するための環状永久磁石61aが内蔵されている。第2の中間電極62内にもプラズマPを収束するため電磁石コイル62aが内蔵されている。なお、プラズマガン7は、後述する負イオン生成部24としての機能も有する。この詳細については、負イオン生成部24の説明において後述する。
ステアリングコイル5は、プラズマガンが装着されたプラズマ口10cの周囲に設けられている。ステアリングコイル5は、プラズマPを成膜室10b内に導く。ステアリングコイル5は、ステアリングコイル用の電源(不図示)により励磁される。
ハース機構2は、成膜材料Maを保持する。ハース機構2は、真空チャンバー10の成膜室10b内に設けられ、搬送機構3から見てX軸方向の負方向に配置されている。ハース機構2は、プラズマガン7から出射されたプラズマPを成膜材料Maに導く主陽極又はプラズマガン7から出射されたプラズマPが導かれる主陽極である主ハース17を有している。
主ハース17は、成膜材料Maが充填されたX軸方向の正方向に延びた筒状の充填部17aと、充填部17aから突出したフランジ部17bとを有している。主ハース17は、真空チャンバー10が有する接地電位に対して正電位に保たれているため、負電位のプラズマPを吸引する。このプラズマPが入射する主ハース17の充填部17aには、成膜材料Maを充填するための貫通孔17cが形成されている。そして、成膜材料Maの先端部分が、この貫通孔17cの一端において成膜室10bに露出している。
成膜材料Maには、ITOやZnOなどの透明導電材料や、SiONなどの絶縁封止材料が例示される。成膜材料Maが絶縁性物質からなる場合、主ハース17にプラズマPが照射されると、プラズマPからの電流によって主ハース17が加熱され、成膜材料Maの先端部分が蒸発又は昇華し、プラズマPによりイオン化された成膜材料粒子(蒸発粒子)Mbが成膜室10b内に拡散する。また、成膜材料Maが導電性物質からなる場合、主ハース17にプラズマPが照射されると、プラズマPが成膜材料Maに直接入射し、成膜材料Maの先端部分が加熱されて蒸発又は昇華し、プラズマPによりイオン化された成膜材料粒子Mbが成膜室10b内に拡散する。成膜室10b内に拡散した成膜材料粒子Mbは、成膜室10bのX軸正方向へ移動し、搬送室10a内において成膜対象物11の表面に付着する。なお、成膜材料Maは、所定長さの円柱形状に成形された固体物であり、一度に複数の成膜材料Maがハース機構2に充填される。そして、最先端側の成膜材料Maの先端部分が主ハース17の上端との所定の位置関係を保つように、成膜材料Maの消費に応じて、成膜材料Maがハース機構2のX負方向側から順次押し出される。
輪ハース6は、プラズマPを誘導するための電磁石を有する補助陽極である。輪ハース6は、成膜材料Maを保持する主ハース17の充填部17aの周囲に配置されている。輪ハース6は、環状のコイル9と環状の永久磁石部20と環状の容器12とを有し、コイル9及び永久磁石部20は容器12に収容されている。本実施形態では、搬送機構3から見てX負方向にコイル9、永久磁石部20の順に設置されているが、X負方向に永久磁石部20、コイル9の順に設置されていてもよい。輪ハース6は、コイル9に流れる電流の大きさに応じて、成膜材料Maに入射するプラズマPの向き、または、主ハース17に入射するプラズマPの向きを制御する。
続いて、負イオン生成部24の構成について詳細に説明する。負イオン生成部24は、プラズマガン7と、原料ガス供給部40と、回路部34とを有している。また、制御部50の一部の構成要素も負イオン生成部24として機能する。なお、制御部50及び回路部34に含まれる一部の機能は、前述の成膜部14にも属する。
プラズマガン7は、前述の成膜部14が有するプラズマガン7と同様のものが用いられる。すなわち、本実施形態において、成膜部14のプラズマガン7は、負イオン生成部24のプラズマガン7と兼用されている。プラズマガン7は、成膜部14として機能すると共に、負イオン生成部24としても機能する。なお、成膜部14と負イオン生成部24とで、互いに異なる別箇のプラズマガンを有していてもよい。
プラズマガン7は、成膜室10b内において間欠的にプラズマPを生成する。具体的には、プラズマガン7は、後述の制御部50によって成膜室10b内において間欠的にプラズマPを生成するように制御されている。この制御については、後述の制御部50の説明において詳述する。
原料ガス供給部40は、真空チャンバー10の外部に配置されている。原料ガス供給部40は、成膜室10bの側壁(例えば、側壁10h)に設けられたガス供給口41を通し、真空チャンバー10内へ原料ガスを供給する。原料ガスとして、例えば、酸素負イオンの原料ガスである酸素ガスなどを採用してよい。原料ガス供給部40は、例えば成膜処理モードから負イオン生成モードに切り替わると、酸素ガスの供給を開始する。また、原料ガス供給部40は、成膜処理モード及び負イオン生成モードの両方において酸素ガスの供給を行い続けてもよい。
ガス供給口41の位置は、成膜室10bと搬送室10aとの境界付近の位置が好ましい。この場合、原料ガス供給部40からの酸素ガスを、成膜室10bと搬送室10aとの境界付近に供給することができるので、当該境界付近において後述する負イオンの生成が行われる。よって、生成した負イオンを、搬送室10aにおける成膜対象物11に好適に付着させることができる。なお、ガス供給口41の位置は、成膜室10bと搬送室10aとの境界付近に限られない。
回路部34は、可変電源80と、第1の配線71と、第2の配線72と、抵抗器R1~R4と、短絡スイッチSW1,SW2と、を有している。
可変電源80は、接地電位にある真空チャンバー10を挟んで、負電圧をプラズマガン7の陰極60に、正電圧をハース機構2の主ハース17に印加する。これにより、可変電源80は、プラズマガン7の陰極60とハース機構2の主ハース17との間に電位差を発生させる。
第1の配線71は、プラズマガン7の陰極60を、可変電源80の負電位側と電気的に接続している。第2の配線72は、ハース機構2の主ハース17(陽極)を、可変電源80の正電位側と電気的に接続している。
抵抗器R1は、一端がプラズマガン7の第1の中間電極61と電気的に接続されていると共に、他端が第2の配線72を介して可変電源80と電気的に接続されている。すなわち、抵抗器R1は、第1の中間電極61と可変電源80との間において直列接続されている。
抵抗器R2は、一端がプラズマガン7の第2の中間電極62と電気的に接続されていると共に、他端が第2の配線72を介して可変電源80と電気的に接続されている。すなわち、抵抗器R2は、第2の中間電極62と可変電源80との間において直列接続されている。
抵抗器R3は、一端が成膜室10bの壁部10Wと電気的に接続されていると共に、他端が第2の配線72を介して可変電源80と電気的に接続されている。すなわち、抵抗器R3は、成膜室10bの壁部10Wと可変電源80との間において直列接続されている。
抵抗器R4は、一端が輪ハース6と電気的に接続されていると共に、他端が第2の配線72を介して可変電源80と電気的に接続されている。すなわち、抵抗器R4は、輪ハース6と可変電源80との間において直列接続されている。
短絡スイッチSW1,SW2は、それぞれ前述の制御部50からの指令信号を受信することにより、ON/OFF状態に切り替えられる切替部である。
短絡スイッチSW1は、抵抗器R2に並列接続されている。短絡スイッチSW1は、成膜処理モードであるか負イオンモードであるかに応じて、制御部50によってON/OFF状態が切り替えられる。ここで、成膜処理モードとは、真空チャンバー10内で成膜対象物11に対して成膜処理を行うモードである。負イオン生成モードは、真空チャンバー10内で成膜対象物11に形成された膜の表面に付着させるための負イオンの生成を行うモードである。短絡スイッチSW1は、成膜処理モードにおいてはOFF状態とされる。これにより、成膜処理モードにおいては、第2の中間電極62と可変電源80とが抵抗器R2を介して互いに電気的に接続されるので、第2の中間電極62と可変電源80との間には電流が流れにくい。その結果、プラズマガン7からのプラズマPが真空チャンバー10内に出射され、成膜材料Maに入射する(図1参照)。なお、プラズマガン7からのプラズマPを真空チャンバー10内に出射する場合、第2の中間電極62への電流を流れにくくする事に代えて、第1の中間電極61への電流を流れにくくしてもよい。この場合、短絡スイッチSW1は、第2の中間電極62側に代えて、第1の中間電極61側に接続される。
一方、短絡スイッチSW1は、負イオン生成モードにおいては、プラズマガン7からのプラズマPを真空チャンバー10内で間欠的に生成するため、制御部50によってON/OFF状態が所定間隔で切り替えられる。短絡スイッチSW1がON状態に切り替えられると、第2の中間電極62と可変電源80との間の電気的な接続が短絡するので、第2の中間電極62と可変電源80との間に電流が流れる。すなわち、プラズマガン7に短絡電流が流れる。その結果、プラズマガン7からのプラズマPが真空チャンバー10内に出射されなくなる。
短絡スイッチSW1がOFF状態に切り替えられると、第2の中間電極62と可変電源80とが抵抗器R2を介して互いに電気的に接続されるので、第2の中間電極62と可変電源80との間には電流が流れにくい。その結果、プラズマガン7からのプラズマPが真空チャンバー10内に出射される。このように、短絡スイッチSW1のON/OFF状態が制御部50によって所定間隔で切り替えられることにより、プラズマガン7からのプラズマPが真空チャンバー10内において間欠的に生成される。すなわち、短絡スイッチSW1は、真空チャンバー10内へのプラズマPの供給と遮断とを切り替える切替部である。
短絡スイッチSW2は、抵抗器R4に並列接続されている。短絡スイッチSW2は、例えば成膜処理モードになる前の成膜対象物11の搬送前の状態であるスタンバイモードであるか成膜処理モードであるかに応じて、制御部50によってON/OFF状態が切り替えられる。短絡スイッチSW2は、スタンバイモードではON状態とされる。これにより、輪ハース6と可変電源80との間の電気的な接続が短絡するので、主ハース17よりも輪ハース6に電流を流しやすくなり、成膜材料Maの無駄な消費を防ぐことができる。
一方、短絡スイッチSW2は、成膜処理モードではOFF状態とされる。これにより、輪ハース6と可変電源80が抵抗器R4を介して電気的に接続されるので、輪ハース6よりも主ハース17に電流を流しやすくなり、プラズマPの出射方向を好適に成膜材料Maに向けることができる。なお、短絡スイッチSW2は、負イオン生成モードではON状態又はOFF状態のいずれの状態とされてもよい。
電圧印加部90は、成膜後の成膜対象物(対象物)11に正の電圧を印加可能である。電圧印加部90は、バイアス回路35と、トロリ線18と、を備える。
バイアス回路35は、成膜後の成膜対象物11に正のバイアス電圧を印加するための回路である。バイアス回路35は、成膜対象物11に正のバイアス電圧(以下、単に「バイアス電圧」ともいう)を印加するバイアス電源27と、バイアス電源27とトロリ線18とを電気的に接続する第3の配線73と、第3の配線73に設けられた短絡スイッチSW3とを有している。バイアス電源27は、バイアス電圧として、周期的に増減する矩形波である電圧信号(周期的電気信号)を印加する。バイアス電源27は、印加するバイアス電圧の周波数を制御部50の制御によって変更可能に構成されている。第3の配線73は、一端がバイアス電源27の正電位側に接続されていると共に、他端がトロリ線18に接続されている。これにより、第3の配線73は、トロリ線18とバイアス電源27とを電気的に接続する。
短絡スイッチSW3は、第3の配線73によって、トロリ線18とバイアス電源27の正電位側との間において直列に接続されている。短絡スイッチSW3は、トロリ線18へのバイアス電圧の印加の有無を切り替える切替部である。短絡スイッチSW3は、制御部50によってそのON/OFF状態が切り替えられる。短絡スイッチSW3は、負イオン生成モードにおける所定のタイミングでON状態とされる。短絡スイッチSW3がON状態とされると、トロリ線18とバイアス電源27の正電位側とが互いに電気的に接続され、トロリ線18にバイアス電圧が印加される。
一方、短絡スイッチSW3は、成膜処理モードのとき、及び、負イオン生成モードにおける所定のタイミングにおいてOFF状態とされる。短絡スイッチSW3がOFF状態とされると、トロリ線18とバイアス電源27とが互いに電気的に切断され、トロリ線18にはバイアス電圧が印加されない。なお、バイアス電圧を印加するタイミングの詳細は、後述する。
トロリ線18は、成膜対象物保持部材16への給電を行う架線である。トロリ線18は、搬送室10a内に搬送方向(矢印B)に延伸して設けられている。トロリ線18は、成膜対象物保持部材16に設けられた給電ブラシ42と接触することで、給電ブラシ42を通して成膜対象物保持部材16への給電を行う。トロリ線18は、例えばステンレス製の針金等により構成されている。
電位測定部110は、真空チャンバー10内の電位を測定する。電位測定部110は、成膜対象物11の周辺の空間の電位を測定する。電位測定部110は、電位検出部111と、電極部112と、を備えている。電位検出部111は、電極部112と電気的に接続されている。電位検出部111は、電極部112の電位に基づいて、電極部112が設置されている位置における浮遊電位の値を検出する。電位検出部111は、検出した値を測定値として制御部50へ送信する。
電極部112は、真空チャンバー10の外部から内部空間へ入り込む部材である。電極部112は、移動する成膜対象物保持部材16と干渉しない位置に配置されている。電極部112の先端部112aは、成膜対象物11の周辺の空間に配置される。電極部112の先端部112aは、真空チャンバー10の搬送室10aに配置される。また、先端部11aは、搬送室10aと成膜室10bとの連通部付近であって、Z軸方向において成膜対象物11と略同位置に配置されている。
なお、電極部112のうち、先端部112a以外の部分は絶縁部材で覆われていてよい。例えば、図6に示すように、電極部112のうち、真空チャンバー10の壁部よりも内側の領域が絶縁部材140で覆われていてよい。また、先端部112aのみが絶縁部材140から真空チャンバー10の空間内へ露出してよい。この場合、先端部112a以外では浮遊電位の検出が行われないため、所望の箇所の電位を集中的に測定することができる。
制御部50は、成膜・負イオン生成装置1全体を制御する装置であり、CPU、RAM、ROM及び入出力インターフェース等から構成されている。制御部50は、真空チャンバー10の外部に配置されている。また、制御部50は、成膜処理モードと負イオン生成モードとを切り替えるモード切替部51と、プラズマガン7によるプラズマPの生成を制御するプラズマ制御部52と、電圧印加部90による電圧の印加を制御する電圧制御部53と、を備えている。
制御部50のモード切替部51が負イオン生成モードに設定しているとき、制御部50は、原料ガス供給部40を制御して、成膜室10b内に酸素ガスを供給する。続いて、制御部50のプラズマ制御部52は、プラズマガン7からのプラズマPを成膜室10b内で間欠的に生成するようにプラズマガン7を制御する。例えば、制御部50によって、短絡スイッチSW1のON/OFF状態が所定間隔で切り替えられることにより、プラズマガン7からのプラズマPが成膜室10b内で間欠的に生成される。
短絡スイッチSW1がON状態とされているときは、プラズマガン7からのプラズマPが成膜室10b内に出射されないので成膜室10b内におけるプラズマPの電子温度が急激に低下する。このため、前述の原料ガス供給工程S21において成膜室10b内に供給された酸素ガスの粒子に、プラズマPの電子が付着し易くなる。これにより、成膜室10b内には、負イオンが効率的に生成される。
制御部50は、プラズマガン7のプラズマPの生成を停止した後、電位測定部110の測定結果に基づいて、電圧印加部90による電圧の印加を制御する。制御部50は、電位測定部110の測定結果に基づいて、所定のタイミングにて、電圧印加部90による電圧の印加を開始する。なお、電圧印加部90による電圧の印加を開始するタイミングは、制御部50にて予め設定される。
ここで、図4及び図5を参照してプラズマPの生成と負イオンの生成の関係について説明する。図4(a)の実線は負イオン生成時における真空チャンバー10の空間内の所定箇所における浮遊電位を示すグラフである。真空チャンバー10内の電子又は負イオンが増加すると浮遊電位は上昇し、減少すると下降する。図4(b)は、真空チャンバー10の空間内の所定箇所における負イオンの単位平方面積あたりの数を示す。図5は、プラズマの生成が停止された直後の浮遊電位の様子を示すグラフである。図4では、時間が「0」のときにプラズマPの生成が開始され、時間が「t1」のときにプラズマの生成が停止されたものとする。なお、図4(a)に示すように、プラズマPを停止した瞬間は、浮遊電位が急激に立ち上がっている。図4(b)に示すように、プラズマPを停止した後、負イオン量が速やかに減少し、その後、時間t3にて大きく増加し、時間t2にて上昇のピークを迎えている。図4(a)の時間t3に対応する時間では、浮遊電位が上昇のピークを迎えており、その後下降している。
図5に示すように、プラズマPの停止後、浮遊電位は区間E1では急速に上昇し、区間E2では緩やかに上昇する。浮遊電位は時間t3付近で上昇のピークを迎えた後、区間E3にて下降する。下降した浮遊電位は、時間t2付近で下降のピークを迎え、その後、区間E4以降では緩やかに浮遊電位が上昇する。区間E3は負イオンの量が急激に増加する区間でもある(図4(b)参照)。また、区間E3は、負イオンの量が増加している一方で、浮遊電位は下降しているため、電子の量が減少している区間であると考えられる。
時間t1から時間t3にかけて、真空チャンバー10内にはArプラズマ(Ar+,e-)の残留がある。短絡スイッチSW1を短絡したにもかかわらず、主ハース17と第2の中間電極62との間の電圧が正であることからそのことが言える。例えば、Ar+ + e- →Arと消滅していくことで真空チャンバー10および電位測定部110に流れ込むe- の量が減っていく。それに対して、電子温度が下がった状況だと(O2
*はO2の活性状態)
O2* + e- → O- + O(乖離性電子付着)
O + e- → O- (電子付着)
などの反応が進み、電子に比べて速度の遅いO-が生成される。e-は速度がO-に比べて速いので真空チャンバー10に流れ込んでしまうが、O-は速度が遅いのでガス温度の速度で拡散していく。時間t3までは主ハース17と第2の中間電極62との間に電位差があるので、e-とO-は真空チャンバー10内でプラズマP側に引っ張られ、時間t3以降は引っ張る力が無くなるのでe-とO-は拡散する。e-とO-では速度が大きく異なるので,速度が遅いO-が残り、そのO-で負に帯電していく。O-の生成とAr+ +e- → Ar,O++ e- → O,O2
++ e- → O2 などのee- の消滅、が同時に進行することで、図4の様な浮遊電位の挙動を示す。プラズマの生成・消滅のバランスを考え、e-の衝突を考えると、O-とO2-のみが負電荷で生き残るものになる。O-の方が9割以上なので殆どがO-になる.よって、プラズマPのOFF、すなわち電子供給が無くなったのにも関わらず、負に帯電させるものは上記の事からもO-となる。
制御部50は、電位測定部110の測定結果に基づき、電位が上昇して下降したタイミングにて、電圧印加部90による電圧の印加を開始する。図5に示す例では、電位が上昇する区間は区間E1及びE2である。電位が下降する区間は区間E3である。制御部50の電圧制御部53は、区間E3(下降のピークとなる時間t3を含む)の何れかのタイミングで、電圧印加部90による電圧の印加を開始する。制御部50の電圧制御部53は、区間E3のうち、ある程度負イオンの生成が進行する後半側の領域にて、電圧印加部90による電圧の印加を開始してよい。また、制御部50の電圧制御部53は、電位が区間E3のうちの所定の閾値まで到達するタイミングにて、電圧の印加を開始してよい。
更に、制御部50は、電位測定部110の測定結果に基づき、電位が下降し、当該下降のピークを迎えたタイミングにて、電圧印加部90による電圧の印加を開始してよい。すなわち、制御部50の電圧制御部53は、浮遊電位の下降のピークP1に到達するタイミングにて、電圧印加部90による電圧の印加を開始する。制御部50は、電位測定部110からの測定結果に基づいて電位の変化量を監視することで、電位が下降のピークP1を迎えたことを把握する。なお、電圧の印加開始のタイミングは、電位測定部110で測定された電位がピークP1となるタイミングと完全に一致している必要はなく、ピークP1となるタイミングから前後にずれたタイミングであってもよい。
また、制御部50は、電位測定部110の測定結果に基づき、電位が上昇したタイミングにて、電圧印加部90による電圧の印加を開始してよい。制御部50の電圧制御部53は、区間E1又は区間E2のタイミングにて、電圧印加部90による電圧の印加を開始する。制御部50の電圧制御部53は、プラズマPの停止から一定時間経過後の区間E2のタイミングにて、電圧印加部90による電圧の印加を開始してよい。
次に、図3に示すフロー図を参照して、制御部50による負イオン生成時における制御内容の一部について説明する。なお、制御部50の処理は図3に限定されるものではない。
図3に示すように、制御部50のプラズマ制御部52は、プラズマガン7によるプラズマPの生成を開始する(ステップS10)。一定時間経過後、制御部50のプラズマ制御部52は、プラズマガン7によるプラズマPの生成を停止する(ステップS20)。これにより、真空チャンバー10内では、図5に示す様な浮遊電位の変化が生じる。制御部50の電圧制御部53は、電位測定部110からの測定結果を取得する(ステップS30)。次に、制御部50の電圧制御部53は、S30で取得した電位に基づいて、電圧印加部90による電圧の印加を開始するタイミングであるか否かを判定する(ステップS40)。
S40にて、電圧印加のタイミングではないと判定された場合、S30から処理が再び繰り返される。一方、S40にて、電圧印加のタイミングであると判定された場合、制御部50の電圧制御部53は、電圧の印加を開始する。これにより、成膜対象物11に正のバイアス電圧が付与されることで、真空チャンバー10内の負イオンが成膜対象物11へ導かれる。
図3では、負イオン生成モードにおける一回分の負イオン生成、すなわち、プラズマガン7のプラズマPの生成、及び当該プラズマPの生成の停止の一回分の中での処理について説明した。成膜・負イオン生成装置1は、負イオン生成を複数回行う。すなわち、制御部50は、プラズマガン7のプラズマPの生成、及び当該プラズマPの生成の停止による負イオンの生成を繰り返し行う。従って、図7を参照して、繰り返しの負イオン生成の中での制御部50の制御内容について説明する。この場合、毎回の負イオンの生成において、電位測定部110は電位の測定を行い、且つ、制御部50は電位測定部110の測定結果に基づいて、電圧印加部90による電圧の印加を制御する。
図7に示すように、S10~S50までは、図3と同様の処理が行われる。S50の後、制御部50は、所定の時間が経過した後に、電圧印加部90による電圧の印加を停止する(ステップS60)。次に、制御部50は、負イオン照射が終了したか否かを判定する(ステップS70)。S70において、負イオン照射が終了したと判定された場合、図7に示す処理が終了する。S70において、負イオン照射が終了していないと判定された場合、S10から再び処理が繰り返される。すなわち、制御部50は、再びプラズマPを生成し(ステップS10)、プラズマPの生成を停止する(ステップS20)。このとき、電位測定部110の測定は継続されており、制御部50は、電位測定部110からの測定結果を取得する(ステップS30)。また、制御部50は、電位測定部110の測定結果に基づいて、電圧印加部90による電圧の印加を再び開始する(ステップS40)。このように、負イオンの生成が行われるときは、電位測定部110による測定及び電圧印加部90による電圧の印加が毎回、繰り返し行われる。
本実施形態に係る成膜・負イオン生成装置1の作用・効果について説明する。
成膜・負イオン生成装置1では、プラズマガン7が真空チャンバー10の内部でプラズマPを生成することにより、真空チャンバー10の内部で負イオンを生成することができる。また、電圧印加部90が成膜対象物11に正の電圧を印加し、真空チャンバー10内の負イオンが成膜対象物11側へ導かれることで、負イオンが成膜対象物11に照射される。ここで、プラズマガン7のプラズマPの生成が停止された後は、電子が負イオンの原料に付着し易くなることで、負イオンの生成が進行する。従って、真空チャンバー10内にて負イオン及び電子が増減するため、真空チャンバー10の内部の電位が変動する。このため、真空チャンバー10内の電位を測定する電位測定部110の測定結果により、負イオンを成膜対象物11に照射する適切なタイミングを把握することができる。従って、制御部50は、プラズマガン7のプラズマPの生成を停止した後、電位測定部110の測定結果に基づいて、電圧印加部90による電圧の印加を制御する。これにより、制御部50は、大量の電子が対象物に照射されることを回避できるタイミングにて、負イオンを成膜対象物11に照射することができる。以上により、適切なタイミングで負イオンを成膜対象物11に照射できる。
制御部50は、電位測定部110の測定結果に基づき、電位が上昇して下降したタイミングにて、電圧印加部90による電圧の印加を開始してよい。電位が上昇して下降したタイミングは、プラズマPの生成を停止した後、ある程度負イオンの生成が進行したタイミングである。よって、制御部50は、当該タイミングで電圧の印加を開始することで、負イオンの生成が進行したタイミングで負イオンを成膜対象物11に照射できる。
制御部50は、電位測定部110の測定結果に基づき、電位が下降し、当該下降のピークを迎えたタイミングにて、電圧印加部90による電圧の印加を開始してよい。電位の下降のピークを迎えたタイミングは、プラズマPの生成を停止した後、生成された負イオンの量がピークとなるタイミングに近い。よって、制御部は、当該タイミングで電圧の印加を開始することで、多くの負イオンが存在するタイミングで負イオンを成膜対象物11に照射できる。
制御部50は、電位測定部110の測定結果に基づき、電位が上昇したタイミングにて、電圧印加部90による電圧の印加を開始してよい。この場合、電位が上昇して下降したタイミング、電位が下降して下降のピークを迎えたタイミングで印加を開始する場合に比して、より多くの負イオンを対象物に照射することが可能である。ただし、電位が上昇して下降したタイミング、電位が下降して下降のピークを迎えたタイミングで印加を開始する場合に比べると、多くの電子が混在した照射になる可能性があるため、電子照射を許容できる対象物であることが望ましい。
電位測定部110は、成膜対象物11の周辺の空間の電位を測定してよい。この場合、負イオンの照射対象である成膜対象物11付近の状況に基づいた制御を行うことが可能となる。
制御部50は、プラズマガン7のプラズマPの生成、及び当該プラズマPの生成の停止による負イオンの生成を繰り返し行い、毎回の負イオンの生成において、電位測定部110は電位の測定を行い、且つ、制御部50は電位測定部110の測定結果に基づいて、電圧印加部90による電圧の印加を制御する。電圧印加部90による電圧の印加を行うと、真空チャンバー10内のプラズマPの状態へ影響が及ぼされる。例えば、1回目の負イオンの生成と、2回目の負イオンの生成との運転条件が同じであったとしても、両者の間では、プラズマPの生成の停止後に負イオンが生成されるタイミングが変化する場合がある。例えば、1回目よりも2回目の方が電子が減る場合がある。1回目の負イオン生成時に電位測定部110での測定結果に基づく電圧印加のタイミングを決定した後、同じタイミングにて二回目以降の負イオン生成時に電圧印加を行う場合、適切なタイミングで負イオン照射が行われない可能性がある(ただし、このような制御方法は、請求項1の範囲から除外されるものではない)。従って、図7に示すように、毎回の負イオンの生成において、電位測定部110による測定、及び測定結果に基づく電圧の印加の制御が行われることで、適切なタイミングで負イオンを対象物に照射できる。
ここで、負イオン照射中に電圧印加の電圧値を変化させた場合、プラズマPの状態が変化し、電圧値が高い場合は電子が増加する。毎回の負イオンの生成において、電位測定部110が電位の測定を行う場合、このような電圧印加の電圧値を変化させたことによる影響を制御に反映させることができる。これにより、負イオン照射量及び入射エネルギーをプロセス中で変更することに対応することができる。
以上、本実施形態の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、各請求項に記載した要旨を変更しない範囲で変形し、又は他のものに適用したものであってもよい。
また、上記実施形態では、イオンプレーティング型の成膜装置と負イオン生成装置が組み合わせられた構成であったため、プラズマガンから出射したプラズマPは、主ハース側に導かれた。しかし、負イオン生成装置は、成膜装置と組み合わせられていなくともよい。従って、プラズマPは、例えばプラズマガンと対向する壁部の電極などに導かれてよい。
例えば、上記実施形態では、プラズマガン7を圧力勾配型のプラズマガンとしたが、プラズマガン7は、真空チャンバー10内にプラズマを生成できればよく、圧力勾配型のものには限られない。
また、上記実施形態では、プラズマガン7とハース機構2の組が真空チャンバー10内に一組だけ設けられていたが、複数組設けてもよい。また、一の材料に対して複数のプラズマガン7からプラズマPを供給してもよい。上記実施形態では、輪ハース6が設けられていたが、プラズマガン7の向きとハース機構2における材料の位置や向きを工夫することで、輪ハース6を省略してもよい。