JP7183818B2 - 堤体の補強構造 - Google Patents
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Description
特許文献1に記載の堤体の耐震性能補強構造では、アースフィルダム又は溜池等の盛土された堤体のほぼ中央部分の長手方向に2列縦列に鋼矢板で形成された補強用板状体を埋設し、該両補強用板状体の上端部を所定間隔毎に連結部材により連結する二重締切り構造としている。
127~137 (2002. 4)の「豪雨による農業用ため池の破壊原因と被災の特徴」」に記載されているように、農業用ため池は全国に約20万~25万箇所存在するといわれており、農業のみならず地域の貴重な水資源となっている。しかし、築造年代が古く老朽化が進んでいるため池が多く、豪雨時におけるため池の被害が懸念されている。ため池の被害としては、すべり、浸食などによる堤体の損傷、堤体・基盤の漏水、付帯構造物の損傷が認められるが、被害のほとんどは豪雨によるものであり、その割合は95%以上となっている。
近年の豪雨/地震災害により、ため池の堤体の決壊に伴う被害が全国的に発生しており、全国に約20万~25万箇所所以上散在するため池の堤体補強が喫緊の課題となっている。
鋼矢板を用いた堤防補強工法としては、鋼矢板二重式仮締切工法が既に確立されており、本設構造としても海岸堤防へ採用されている。一方で、ため池堤防(堤体)においては、農業用として常時一定量貯水していることから、常時作用する堤体への偏水圧を考慮した対策が必要である。
しかし、堤体内部のみに構造体を設置し、災害時などに発生する水圧等に抵抗しようとすると、補強構造体が大型となり、工費・工期が嵩んでしまうという問題がある。
また、上述した従来の堤体の補強構造では、屈曲部などを有したり、箇所によって支持地盤構成が異なったりするなど、複雑形状のため池に対しては、堤体崩壊の危険度に応じた補強対策が困難であった。
少なくとも一部が前記堤体の内部に設置された鋼製壁と、
前記ため池に設置された控え工と、
前記鋼製壁と前記控え工とを連結する連結部材と、
を備えることを特徴とする。
また、前記控え工としては、ため池の底部に上端部を突出させた設置された杭(鋼管杭やコンクリート杭)や鋼矢板が挙げられるがこれに限るものでない。
また、控え工は、一つの鋼製壁に対して少なくとも一つ設置するのが好ましい。
また前記連結部材としては、タイロッドが挙げられるがこれに限るものでない。例えばPC鋼棒やPC鋼線等の所定の引張強度を有するものであればよい。
また、ため池に控え工を設置するので、当該控え工および連結部材が堤体のため池反対側へ飛び出すとことがない。このため、堤体の外側に民家が近接してある場合などの土地利用上の制約を受けずに済む。
また、鋼製壁が鋼管矢板壁、鋼矢板と鋼管矢板を複数連結してなる鋼製壁等の場合、鋼管板厚や鋼管間隔を変化させることで、鋼製壁の剛性を変化させることができる。
前記堤体の延在方向において隣り合う前記鋼製壁の前記延在方向における端部どうしが前記堤体の幅方向において重なっていてもよい。
また、共有控え工に連結されている複数の連結部材によって、共有控え工に作用する引張力が打ち消しあうように、鋼製壁および連結部材の位置と方向を調整することによって、鋼製壁から連結部材を介して作用する共有控え工に必要な曲げ耐力を低減できる。このため、共有控え工の本数を削減でき、施工コストを縮減できる。
前記鋼製壁の上端部と前記控え工または前記共有控え工とが前記連結部材によって連結されていてもよい。
また、鋼製壁が鋼矢板壁によって構成されている場合、当該鋼矢板壁を構成する複数の鋼矢板のうち、前記構造物の上方に位置する鋼矢板の下端部が前記構造物まで達していなくてもよい。
(第1の実施の形態)
図1は第1の実施の形態に係る堤体の補強構造を模式的に示す概略図、図2は堤体と地盤の横断面図である。
本実施の形態では、図1に示すように、平面視において、堤体10によってため池11の外周が囲まれているが、堤体10はため池の外周の少なくとも一部に設けられていればよい。
この場合、堤体が設けられていない部分は地山等の既設の地盤でかつ堤体またはそれ以上の高さを有する突部によって形成される。したがって、ため池の外周は、堤体および突部によって形成された土構造物によって囲まれることになる。なお、土構造物は、基本的に土を主体として形成された構造物であって、その内部や表面にコンクリート等で形成された各種施設や物品が設けられたものを含む。
また、堤体10の直線部分10Lにおいては、鋼矢板壁15は直線部分10Lの長さとほぼ等しいか、若干短くなっており、1つ設置されている。さらに、2つの直線部分10L,10Lが交わる部分においては、鋼矢板壁15は2つの直線部分10L,10Lの端部と交差するように配置されるとともに、直線部分10Lに設置されている鋼矢板壁15より短くなっている。
さらに、複数の鋼矢板壁15のうち、幾つかの鋼矢板壁15の一部(例えば、平面視における鋼矢板壁15の長手方向の端部や平面視における鋼矢板壁15の長手方向に沿う縁部)は、堤体10から突出している。このように本実施の形態では、鋼矢板壁15の少なくとも一部が堤体10の内部に設置されていればよい。
ハット形鋼矢板の型式には、例えば10型、25H型、45H型、50H型等があり、型式の数字が大きくなると断面二次モーメントが大きくなって剛性が高くなる。つまり、型式を適宜選択することによって、鋼矢板壁15の剛性を変化させることができる。
堤体10に作用する水圧、堤体10を支持する地盤の違いによって堤体10の補強箇所の必要強度が異なる場合に、当該必要強度に応じて鋼矢板壁15の剛性を変化させることで、必要補強強度に応じた合理的な補強構造が可能となる。
鋼矢板16はウェブ16aと、このウェブ16aの両端部にそれぞれ形成されたフランジ16bと、このフランジ16bのウェブ16aと逆側の端部に形成されたアーム16cとを備え、このアーム16cの先端部に継手16dが形成されている。
そして、隣り合う鋼矢板16,16どうしは継手16d,16dを互いに嵌合することによって連結され、これによって鋼矢板壁15が形成されている。
鋼矢板壁15を構成する鋼矢板はハット形の鋼矢板に限ることはなく、U形の鋼矢板、直線鋼矢板であってもよい。
なお、本実施の形態では、軟弱層30の上面に堤体10が設けられているが、軟弱層30がない場合、堤体10は支持層40の上面に直接設けられることになる。
常時満水位の場合、それより上方の上流法面10bには、ため池11側から水圧は作用しないが、常時満水位を超えるとその分だけ上流法面10bに水圧が増加して作用する。つまり、堤体10に作用する水圧は、水面が常時満水位を超えると次第に増加し、豪雨等によって水面が設計洪水位となった場合に、最大となる。
また、鋼矢板壁15の上端部は堤体10の天端10aと等しい高さ位置にあり、かつ支持層40の上部まで根入れされている。つまり、鋼矢板壁15は堤体10の下方に位置する軟弱層30を貫通して、当該軟弱層30の下方に位置する支持層40に根入れされている、すなわち、鋼矢板壁15の下端は支持層40の上面から所定深さだけ支持層40内に打設されている。
また、控え工20の上端は堤体10の天端10aとほぼ等しい高さとなっているが、これに限ることはない。例えば、控え工20の上端をため池11の常時満水位と等しい位置としてもよい。このようにすると、控え工20がため池11の水中に没するので、景観が良好となる。
2本設置されている控え工20,20は、鋼矢板壁15の長さ方向の両端部側に鋼矢板壁15と対向して配置され、1本設置されている控え工20は鋼矢板壁15の長さ方向の中央部側に鋼矢板壁15と対向して配置されている。
なお、長さが長い鋼矢板壁15であっても、その長手方向両側に位置する鋼矢板壁15,15の端部が、前記長い鋼矢板壁15の端部にため池11側から当接して、当該長い鋼矢板壁15のため池11側への移動が規制されている場合、控え工20は鋼矢板壁15の長さ方向の中央部側に鋼矢板壁15と対向して配置されている。
また、連結部材22は、控え工20と鋼矢板壁15の上端間に水平に配置され、当該連結部材22の一端部が鋼矢板壁15の上端部に連結され、他端部が控え工20の上端部に連結されている。なお、特に控え工20が1本のみ設置される鋼矢板壁15においては、腹起し材を鋼矢板壁15を形成する全ての鋼矢板16に亘って取り付けた上で、連結部材22の一端を、鋼矢板壁15、もしくは腹起し材に取り付けてもいい。腹起し材を用いることで、鋼矢板15壁への水圧が増した時に、鋼矢板壁15が延在方向に撓むのを抑制することができ、堤体10の補強効果を高めることができる。控え工20が2本以上設置される場合においても、腹起し材を鋼矢板壁15に取り付けて、堤体10の補強強度を高めてもよい。
なお、控え工20の上端がため池11の常時満水位と等しい位置である場合、ため池11の水中において、控え工20の上端と鋼矢板壁15の上端より下側の部位との間に連結部材22(二点鎖線で示す)が水平に配置されたうえで、当該連結部材22の一端部が控え工20の上端部に連結され、他端部が鋼矢板壁15の上端より下側の部位に連結される。この場合、ため池11の水を一時抜いたうえで、連結部材22を鋼矢板壁15と控え工20とに連結すればよい。
鋼矢板壁15は複数の鋼矢板16を連結することによって形成されているので、これら複数の鋼矢板16のうち、構造物25の上方に位置する鋼矢板16の下端部が構造物25まで達していない、つまり、当該鋼矢板16の下端と構造物25との間には所定の隙間が設けられている。
また、ため池11に控え工20を設置するので、当該控え工20および連結部材22が堤体のため池反対側へ飛び出すとことがない。このため、堤体10の外側に民家が近接してある場合などの土地利用上の制約を受けずに済む。
また、堤体10の延在方向において隣り合う鋼矢板壁15の延在方向における端部どうしが堤体10の幅方向において重なっているので、堤体10の延在方向全体に亘って堤体10を補強できるとともに、堤体10からの土砂流出を防止できる。
また、堤体10の内部に堤体10の幅方向に延在する底樋等の構造物25が設けられている場合、鋼矢板壁15を構成する複数の鋼矢板16のうち、構造物25の上方に位置する鋼矢板16の下端部が構造物25まで達していないので、鋼矢板壁15が構造物25に干渉して、当該構造物25が損傷するのを防止できる。
図5は第2の実施の形態に係る堤体の補強構造を模式的に示す概略図である。
第2の実施の形態が上述した第1の実施の形態と異なる点は、前記控え工20が共有控え工21となっており、この共有控え工21と、複数の鋼矢板壁15とが連結部材22によって連結されている点であるので、以下ではこの点について説明し、第1の実施の形態と共通部分には同一符号を付してその説明を省略する場合もある。
また、共有控え工21の上端は堤体10の天端10aとほぼ等しい高さとなっているが、これに限ることはない。例えば、共有控え工21の上端をため池11の常時満水位と等しい位置としてもよい。このようにすると、共有控え工21がため池11の水中に没するので、景観が良好となる。
一方の共有控え工21と、堤体10の略左半分に設置されている複数の鋼矢板壁15とは連結部材22によって連結され、他方の共有控え工21と、堤体10の略右半分に設置されている複数の鋼矢板壁15とは連結部材22によって連結されている。
また、堤体10の略左半分と略右半分との接合部に配置されている鋼矢板壁15には、2本の連結部材22,22の一端部が結合され、一方の連結部材22の他端部は一方の共有控え工21に結合され、他方の連結部材22の他端部は他方の共有控え工21に結合されている。
なお、共有控え工21の上端がため池11の常時満水位と等しい位置である場合、ため池11の水中において、共有控え工21の上端と鋼矢板壁15の上端より下側の部位との間に連結部材22が水平に配置されたうえで、当該連結部材22の一端部が共有控え工21の上端部に連結され、他端部が鋼矢板壁15の上端より下側の部位に連結される。この場合、ため池11の水を一時抜いたうえで、連結部材22を鋼矢板壁15と共有控え工21とに連結すればよい。
すなわち、複数の鋼矢板壁15が連結部材22によって共有控え工21に連結されるので、共有控え工21の個数を削減でき、施工コストを減縮できる。
また、共有控え工21に連結されている複数の連結部材22によって共有控え工21に作用する引張力が打ち消しあうように、鋼矢板壁15および連結部材22の位置と方向を調整することによって、鋼矢板壁15から連結部材22を介して作用する共有控え工21に必要な曲げ耐力を低減できる。このため、共有控え工21の本数を削減でき、施工コストを縮減できる。
10a 天端
11 ため池
15 鋼矢板壁(鋼製壁)
20 控え工
21 共有控え工
22 連結部材
25 構造物
30 軟弱層
40 支持層
Claims (6)
- ため池の外周の少なくとも一部に設けられた堤体を補強する堤体の補強構造であって、
平面視において、全体が前記堤体の内部に設置されるか、または一部を前記堤体から突出させて前記堤体の内部に設置された鋼製壁と、
前記ため池に前記堤体から離間して設置された控え工と、
前記鋼製壁と前記控え工とを連結する連結部材と、
を備えることを特徴とする堤体の補強構造。 - 前記堤体の延在方向に沿って前記鋼製壁が複数設けられ、
複数の前記鋼製壁は前記堤体の補強箇所の必要強度に応じて剛性を変化させていることを特徴とする請求項1に記載の堤体の補強構造。 - 前記堤体の延在方向に沿って前記鋼製壁が非連続的に複数設けられ、
前記堤体の延在方向において隣り合う前記鋼製壁の前記延在方向における端部どうしが前記堤体の幅方向において重なっていることを特徴とする請求項1または2に記載の堤体の補強構造。 - 前記堤体の延在方向に沿って前記鋼製壁が非連続的に複数設けられ、
前記控え工が共有控え工となっており、
前記共有控え工と、複数の前記鋼矢板壁とが前記連結部材によって連結されていることを特徴とする請求項1または2に記載の堤体の補強構造。 - 前記鋼製壁は前記堤体の下方に位置する支持層または岩盤に根入れされ、
前記鋼製壁の上端部と前記控え工または前記共有控え工とが前記連結部材によって連結されていることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の堤体の補強構造。 - 前記堤体の内部に前記堤体の幅方向に延在する構造物が設けられ、
前記鋼製壁の下端の一部は、前記構造物まで達していないことを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の堤体の補強構造。
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