JP7177460B2 - 微小繊維 - Google Patents

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Description

本開示は、微小繊維に関する。
歯や骨の主成分であるハイドロキシアパタイトは人体に無害であり、かつ有害物質を吸着できる機能を有するため、近年注目を集めている。
このようなハイドロキシアパタイトを基材に付着させることができれば、基材に吸着機能を付与することができる。しかしながら、ハイドロキシアパタイトの吸着機能を維持しつつ、より多くの量のハイドロキシアパタイトを基材に付着させることは困難である。
前記課題を解決するための本開示の手段は以下の通りである:
可撓性材料からなる繊維部分と、前記繊維部分の表面においてハイドロキシアパタイトの粒子及び/又は皮膜とを含む微小繊維。
本開示の微小繊維を用いることにより、より多くの量のハイドロキシアパタイトを基材に付与できる。
非結晶型ハイドロキシアパタイトのX線解析の結果 結晶型ハイドロキシアパタイトのX線解析の結果 低結晶型ハイドロキシアパタイトのX線解析の結果 実施例1で使用したセルロース繊維の電子顕微鏡写真 実施例1で作成した微小繊維の電子顕微鏡写真
1.本開示の微小繊維
本開示の微小繊維は、可撓性材料からなる繊維部分と、前記繊維部分の表面においてハイドロキシアパタイトの粒子及び/又は皮膜とを含む。本開示において、「微小繊維」とは、ナノオーダーサイズの繊維、ミクロンオーダーサイズの繊維又はこれらの混合物を意味する。なお、「ハイドロキシアパタイトの粒子及び/又は皮膜」という表現は、前記繊維部分の表面に、ハイドロキシアパタイトの粒子単体が含まれている場合、ハイドロキシアパタイトの皮膜単体が含まれている場合、及びハイドロキシアパタイトの粒子と皮膜とが混在している場合、のいずれの場合も含む表現である。
前記繊維部分が可撓性材料からなることにより、本開示の微小繊維を、基材、例えば、繊維からなる布に対して付着させる際、当該布を構成する繊維による凹凸と本開示の微小繊維とが物理的により複雑に絡まり合い、さらに本開示の微小繊維同士が物理的に絡まり合うことにより、より多くの量の微小繊維を基材に付与できる。また、本開示の微小繊維は基材とより複雑に絡まり合うため、微小繊維が基材表面から脱落しにくくなる。より多くの量の微小繊維を基材に付与できれば、より多くの量のハイドロキシアパタイトを基材に付与できる。また、ハイドロキシアパタイトを含む微小繊維を基材に付与することにより、基材表面において、ハイドロキシアパタイトの表面積を著しく増加させることができる。
前記繊維部分を構成する材料は、可撓性であることを条件として、特に限定されない。このような可撓性材料の例として、例えば、キチン、キトサン、コラーゲン、リグノセルロース、セルロースナノクリスタル(CNC)及びセルロース等があげられる。なお、本開示における「繊維」とは、細く長くて糸のような線状のものだけでなく、これら細くて糸のような線状のものが2本以上より合わさった又は絡み合ったものも意味する。
本開示の微小繊維は、繊維部分の表面にハイドロキシアパタイトの粒子及び/又は皮膜を有する。本開示における「ハイドロキシアパタイト」は、構造式Ca10(PO(OH)で表される化合物だけでなく、前記構造式の一部元素(例えば1又は2個以上のカルシウム元素)が欠損したいわゆる欠損型アパタイトや、前記構造式の一部元素が別の元素に置き換えられたいわゆる置換型アパタイトも含まれる。このような欠損型アパタイト又は置換型アパタイトの例として、例えば、Ca(PO(OH)、Ca10(POF、及びCaMg(PO(OH)等があげられる。
本開示の微小繊維は、その表面にハイドロキシアパタイトの粒子及び/又は皮膜を含んでいる。本開示の微小繊維表面における前記ハイドロキシアパタイトの粒子及び/又は皮膜の量は特に制限されない。
本開示の微小繊維におけるハイドロキシアパタイトの粒子及び/又は皮膜は、繊維部分の表面全体を覆っても良いし、繊維部分の表面の一部のみを覆っても良い。ハイドロキシアパタイトの粒子及び/又は皮膜が繊維部分の一部のみを覆っている場合、その面積の割合については特に制限はない。繊維部分の一部のみを覆っている場合におけるハイドロキシアパタイトの粒子及び/又は皮膜の面積の割合は、例えば、繊維部分の全表面積に対して、好ましくは1~100%、より好ましくは5~60%、さらに好ましくは10~40%である。
本開示の微小繊維表面におけるハイドロキシアパタイトの粒子及び/又は皮膜は、例えば、樹脂等により繊維部分に対して接着されていても良い。また、後述するように、特定の方法により製造されたハイドロキシアパタイト分散液を用いることにより、樹脂等を使用せずにハイドロキシアパタイトの粒子及び/又は皮膜を繊維部分表面に付与しても良い。
2.本開示の微小繊維の製造
本開示の微小繊維の製造方法は、前記本開示の微小繊維を製造できる方法であれば、特に制限されない。例えば、可撓性材料からなる繊維に樹脂を塗布し、ハイドロキシアパタイトの粒子を繊維の表面に接着させて製造しても良い。
しかしながら、例えば、以下のような方法により、本開示の微小繊維をより効率よく製造できる。具体的には、例えば、
可撓性材料からなる短い繊維片と、ハイドロキシアパタイト粒子とを含む分散液を得る工程(以下、「第一工程」という)、次いで
前記分散液を攪拌する工程(以下、「第二工程」という)、
を含む方法により、本開示の微小繊維をより効率よく製造できる。以下に、各工程をより詳細に説明する。
(1)第一工程
第一工程は、可撓性材料からなる短い繊維片と、ハイドロキシアパタイト粒子とを含む分散液を得る工程である。
第一工程で使用する可撓性材料からなる短い繊維片は、本開示の微小繊維の繊維部分に相当する。前記繊維の素材は、可撓性材料であることを条件として特に制限されない。このような素材の例として、例えば、キチン、キトサン、コラーゲン、リグノセルロース、セルロースナノクリスタル(CNC)及びセルロース等があげられる。短い繊維片の大きさは、本開示の微小繊維を製造できる範囲のものであれば特に制限は無い。例えば、短い繊維片の平均長さは、好ましくは5nm~500μm、より好ましくは10nm~100μm、さらに好ましくは30nm~20μmである。短い繊維片の平均長さが前記範囲内であることにより、前記短い繊維片を用いて製造した本開示の微小繊維が、基材表面に対してより絡まり合いやすくなる。短い繊維片の平均長さは、例えば、株式会社日立製作所社製走査型電子顕微鏡(型番:S-3000N)を用いて測定できる。
短い繊維片の平均直径は、例えば、好ましくは1nm~100nm、より好ましくは2nm~50nm、さらに好ましくは5nm~30nmである。短い繊維片の平均直径が前記範囲内であることにより、前記短い繊維片を用いて製造した本開示の微小繊維が、基材表面に対してより絡まり合いやすくなる。微小繊維の平均直径は、例えば、株式会社日立製作所社製走査型電子顕微鏡(型番:S-3000N)を用いて測定できる。
短い繊維片のアスペクト比は、例えば、好ましくは1:5~1:1000、より好ましくは1:5~1:500、さらに好ましくは1:5~1:200の範囲である。短い繊維片のアスペクト比が前記範囲内であることにより、前記短い繊維片を用いて製造した本開示の微小繊維が、基材表面に対してより絡まり合いやすくなる。なお、本開示において、「アスペクト比」とは、「短い繊維片の平均直径」:「短い繊維片の平均長さ」を意味する。
ハイドロキシアパタイト粒子は、構造式Ca10(PO(OH)で表される化合物だけでなく、前記のような、一部元素(例えば1又は2個以上のカルシウム元素)が欠損したいわゆる欠損型アパタイトや、前記構造式の一部元素が別の元素に置き換えられたいわゆる置換型アパタイトの粒子も含まれる。ハイドロキシアパタイト粒子の大きさは特に制限されない。ハイドロキシアパタイト粒子の大きさは、例えば、好ましくは1nm~1μm、より好ましくは1~100nm、さらに好ましくは5~50nmである。ハイドロキシアパタイト粒子の大きさを前記範囲内とすることにより、本開示における微小繊維の繊維部分表面に、ハイドロキシアパタイトの粒子及び/又は皮膜の層をより形成しやすくなる。
第一工程における分散液は、前記のような短い繊維片とハイドロキシアパタイト粒子とを含む分散液である。分散液の溶媒は特に制限はなく、必要以上に短い繊維片及びハイドロキシアパタイトを溶解することがない溶媒であれば、特に制限されない。このような溶媒の例として、例えば、エタノール及びメタノール等のアルコール溶媒並びに水等があげられる。
第一工程における分散液は、ハイドロキシアパタイト粒子を繊維に接着させるための樹脂等を含んでも良い。このような樹脂の例として、例えば、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂及びアクリル樹脂等があげられる。また、第一工程における分散液は、さらに他の成分を含んでも良い。このような成分の例として、例えば、分散剤、消泡剤及び平滑剤等があげられる。
なお、第一工程における分散液として以下のような方法で調製されたハイドロキシアパタイト分散液と短い繊維片との分散液を用いることにより、前記のようなハイドロキシアパタイト粒子を繊維に接着させるための樹脂が必要ない分散液を得ることができる:

酸化カルシウム懸濁液(被添加液)にリン酸溶液(添加液)を添加し又はリン酸溶液(被添加液)に酸化カルシウム懸濁液(添加液)を添加することによりハイドロキシアパタイト分散液を得る方法。

以下に、前記ハイドロキシアパタイト分散液を得る方法を説明する。
酸化カルシウム懸濁液
前記ハイドロキシアパタイト分散液を調製する際の出発物質として、酸化カルシウムを用いる。前記方法においては、酸化カルシウムを溶媒に添加して得られる懸濁液の状態で使用する。
酸化カルシウム懸濁液を調製する際に使用する酸化カルシウムは、市販されている酸化カルシウムを用いることが出来る。酸化カルシウム懸濁液は、酸化カルシウムを溶媒に添加して得られる。酸化カルシウムの添加量は、例えば、溶媒1リットルに対して0.2~9.0モル添加することが好ましく、1.0~5.0モル添加することがより好ましく、1.5~4.0モル添加することがさらに好ましい。添加量を前記範囲とすることにより、ハイドロキシアパタイト分散液のより良好な生産効率を達成できる。溶媒は、メタノール又はエタノール等のアルコール溶媒及び水から選択される溶媒を使用できる。生産効率及び作業上の安全性の観点から、溶媒として水を使用することがより好ましい。
リン酸溶液
前記方法で使用するリン酸溶液は、市販のリン酸をエタノール又はメタノール等のアルコール溶媒及び水から選択される溶媒に溶解させて調製できる。生産効率及び作業上の安全性の観点から、溶媒として水を使用することが好ましい。リン酸溶液の濃度は、ハイドロキシアパタイト分散液のより良好な生産効率を達成する観点から、例えば、0.5~10.0Mにすることが好ましく、1.0~7.0Mにすることがより好ましく、2.0~5.0Mにすることがさらに好ましい。
ハイドロキシアパタイト分散液の製造方法
前記ハイドロキシアパタイト分散液の製造方法は、前述の通り、酸化カルシウム懸濁液(被添加液)にリン酸溶液(添加液)を添加し又はリン酸溶液(被添加液)に酸化カルシウム懸濁液(添加液)を添加して、前記ハイドロキシアパタイト分散液を得る工程である。
添加液を被添加液に添加する際には、通常のいかなる添加方法も使用可能である。具体的な方法は、例えば、容器に被添加液を入れて、前記容器に滴下ロート等の器具を用いて添加液を滴下する方法が挙げられる。なお、酸化カルシウム懸濁液を添加液として使用する場合には、滴下ロート等に入れた酸化カルシウム懸濁液を攪拌しながら滴下することが好ましい。
添加液の添加速度は、例えば、被添加液中に含まれる酸化カルシウム又はリン酸1モルに対して、添加液中に含まれる酸化カルシウム又はリン酸換算で0.01~8.0モル/hであることが好ましく、0.05~5.0モル/hであることがより好ましく、0.1~2.0モル/hであることがさらに好ましい。添加速度を前記数値範囲とすることで、ハイドロキシアパタイト以外のリン酸カルシウム化合物の生成をより抑制できる。
酸化カルシウム懸濁液中の酸化カルシウムの総量と、リン酸溶液中のリン酸の総量の比率は、例えば、モル比でカルシウムイオン:リン酸イオンが10:6となるようにすることが好ましい。勿論、反応条件、目的とするアパタイトの構造(例えば、前記のような欠損型ハイドロキシアパタイト等)等によって、前記比率を変更することも可能である。前記モル比率の調整は、添加液及び被添加液の濃度及び量を調整することにより調整できる。
また、前記のような欠損型ハイドロキシアパタイト又は置換型ハイドロキシアパタイト等を得ることを目的として、被添加液及び/又は添加液に対して添加剤等を加えても良い。
添加する際の温度条件は、例えば、添加液及び被添加液の温度を5~90℃の範囲とすることが好ましく、15~60℃の範囲とすることがより好ましく、20~40℃の範囲とすることがさらに好ましい。添加液及び被添加液の温度を前記範囲とすることにより、ハイドロキシアパタイトの結晶化を可能な限り抑制し、かつハイドロキシアパタイトを得るための反応をよりスムーズに進行させるという効果が得られる。
被添加液を攪拌しながら添加液を添加することも可能である。
前記得られたハイドロキシアパタイト分散液は、X線構造解析において、2θが31.500~32.500°に現れるピークの結晶子サイズが10~200Å、好ましくは30~150Å、より好ましくは50~120Åのハイドロキシアパタイトを含んでいる。結晶子サイズが前記範囲内にあるハイドロキシアパタイトを含むことにより、前記短い繊維片と当該ハイドロキシアパタイトとの分散液を攪拌した場合、ハイドロキシアパタイト分散液に含まれたハイドロキシアパタイトがより強固に繊維表面に付着する。なお、結晶子サイズとは、結晶粒の大きさを表し、結晶性を表す目安となる数値である。結晶子サイズの数値が大きいほど、測定対象である物質の結晶性が高いことを意味する。結晶子サイズが前記範囲にあるハイドロキシアパタイトは、結晶化していない(非結晶型)ハイドロキシアパタイトのみ又は非結晶型ハイドロキシアパタイトと結晶化の程度が低い(低結晶型)ハイドロキシアパタイトとが混合されたものを意味する。ここで、「非結晶型ハイドロキシアパタイト」とは、X線解析によって、図1のようなチャートが得られる物質を意味する。また、また、本開示における「低結晶型ハイドロキシアパタイト」とは、X線解析によって得られるチャートが、結晶型ハイドロキシアパタイトのX線解析によって得られるチャート(例えば、図2のチャート参照)と比較してピークの分離の程度が比較的低い(図3のようなチャートが得られる)物質である。
非結晶型ハイドロキシアパタイト及び低結晶型ハイドロキシアパタイトは、その結晶性の低さから、若干の粘着性を有している。非結晶型ハイドロキシアパタイトや低結晶型ハイドロキシアパタイトは、前記短い繊維片の表面に対して及びハイドロキシアパタイト同士で接着しやすい。従って、前記ハイドロキシアパタイト分散液を用いて後述する第二工程を行うことにより、樹脂等の接着剤を用いることなく、前記短い繊維片の表面に付着したハイドロキシアパタイトの粒子及び/又は皮膜を形成できる。このようなハイドロキシアパタイトの粒子及び/又は皮膜は、樹脂によってその表面が被覆されることがないため、ハイドロキシアパタイトの有する吸着性能が著しく損なわれない。
尚、非結晶型ハイドロキシアパタイトは、時間の経過と共に徐々に結晶化する傾向があるため、製造直後は非結晶型ハイドロキシアパタイトのみからなる分散液が、時間の経過と共に非結晶型ハイドロキシアパタイトと低結晶型ハイドロキシアパタイトとの混合物になる傾向がある。結晶子サイズは、例えば、株式会社リガク社製のX線解析装置 型番:RINT2200V/PCにより測定できる。
前記ハイドロキシアパタイト分散液の溶媒は、ハイドロキシアパタイトを溶解しない溶媒であることを条件として、いかなる溶媒でも良い。しかしながら、溶媒は、メタノール又はエタノール等のアルコール溶媒及び水から選択される溶媒、特に安全性の観点から、溶媒として水であることが好ましい。
前記ハイドロキシアパタイト分散液に含まれるハイドロキシアパタイトの量は、例えば、前記ハイドロキシアパタイト分散液1リットル当たり、0.01~0.8モルであることが好ましく、0.03~0.5モルであることがさらに好ましく、0.05~0.25モルであることがさらに好ましい。前記ハイドロキシアパタイト分散液に含まれるハイドロキシアパタイトの量を前記範囲とすることにより、より適切な量の非結晶型ハイドロキシアパタイト及び/又は低結晶型ハイドロキシアパタイトを前記短い繊維片の表面に接着でき、本開示の微小繊維における繊維部分表面からの非結晶型ハイドロキシアパタイト及び/又は低結晶型ハイドロキシアパタイトの脱落をより抑制できる。前記ハイドロキシアパタイト分散液中におけるハイドロキシアパタイトの量は、酸化カルシウム懸濁液中の酸化カルシウムの量、リン酸溶液中のリン酸濃度並びに酸化カルシウム懸濁液及びリン酸溶液の量を調整することにより、調整できる。また、前記方法により得られたハイドロキシアパタイト分散液を、水等の溶媒を用いて希釈し又は溶媒を蒸発させて濃縮することにより、上記範囲に調整することも可能である。
前記のように調製したハイドロキシアパタイト分散液から溶媒を蒸発させてハイドロキシアパタイト粒子を得て、前記得られたハイドロキシアパタイト粒子と前記可撓性材料からなる短い繊維片とを用いて、第一工程における分散液を調製しても良い。また、前記のように調製したハイドロキシアパタイト分散液に、前記可撓性材料からなる短い繊維片を加えて、第一工程における分散液を調製しても良い。
(2)第二工程
第二工程は、第一工程で得られた分散液を攪拌する工程である。分散液を攪拌することにより、分散液中のハイドロキシアパタイト粒子と可撓性材料からなる短い繊維片とがより均一に混ざり合い、短い繊維片の表面にハイドロキシアパタイトの粒子及び/又は皮膜が付与されやすくなる。攪拌の手段については特に制限無く、一般的に液体を攪拌するためのいかなる機器も使用できる。このような機器の具体的な例として、ディスパー、ホモジナイザー及びミルミキサー等があげられる。ただし、分散液中におけるハイドロキシアパタイト粒子と前記短い繊維片とを、より均一に且つ効率よく混合させ、前記短い繊維片の表面にハイドロキシアパタイトの粒子及び/又は皮膜を付与しやするさせるため、ホモジナイザーを攪拌手段として用いることがより好ましい。攪拌に要する時間は、分散液に含まれるハイドロキシアパタイト粒子及び短い繊維片の量、ハイドロキシアパタイトの種類、繊維片の素材、攪拌手段等により適宜変わり得る。例えば、ホモジナイザーによる処理時間は、例えば、好ましくは5~180分、より好ましくは10~90分、さらに好ましくは10~60分である。
分散液が前記のようなハイドロキシアパタイトを短い繊維片に接着させるための樹脂を含んでいる場合には、ハイドロキシアパタイト粒子が、前記樹脂の接着力により繊維表面に接着される。また、第一工程における分散液を、前記方法により調製されたハイドロキシアパタイト分散液を用いて調製した場合には、前記のような樹脂を用いることなく、ハイドロキシアパタイト粒子が繊維表面に接着し得る。
前記攪拌後の分散液から溶媒を蒸発させることにより、本開示の微小繊維を得ることができる。また、攪拌後の分散液をそのまま用いて、後述のように、本開示の微小繊維を含む基材を製造して良い。
3.本開示の微小繊維を含む分散液
本開示の微小繊維を溶媒に添加して、必要に応じて攪拌等することにより、本開示の微小繊維を含む分散液が得られる。
本開示の微小繊維を含む分散液の溶媒は、必要以上に繊維及びハイドロキシアパタイトを溶解することがない溶媒であれば、特に制限されない。このような溶媒の例として、例えば、エタノール及びメタノール等のアルコール溶媒並びに水等があげられる。
分散液における微小繊維の量は、特に制限されない。分散液における微小繊維の量は、例えば、溶媒1リットルに対して、好ましくは0.1~50g、より好ましくは0.5~30g、さらにより好ましくは1~20gである。分散液における微小繊維の量を前記範囲とすることにより、後述する塗装又は印刷をより効率よく行うことができる。
4.本開示の微小繊維を含む基材の製造方法
本開示の微小繊維を含む基材は、例えば、本開示の微小繊維を含む分散液等を調製し、この分散液を基材に塗布又は印刷することにより製造できる。
基材を構成する素材としては、例えば、木材、綿、羊毛、麻及びパルプ(木材パルプ、リンターパルプなど)などの天然素材、レーヨン、タンパク繊維及びコラーゲン繊維などの再生繊維素材、アセテートなどの半合成素材、ポリエチレン及びポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリビニルアルコール、ポリエステル、ナイロン、アクリル及びポリウレタンなどの合成樹脂素材、並びにガラス、石膏、炭素、活性炭素、チタン、アルミナ、ジルコニア及びステンレスなどの無機素材等が例示できる。これらの素材を単独で、又は2以上の素材を組み合わせて基材を製造できる。例えば、本開示の微小繊維を含む水分散液を用いて塗布又は印刷を行う際には、前記分散液を基材表面に濡れやすくすることにより、より均一に且つより多くの量の微小繊維を基材表面に付与できるため、親水性の素材を選択することがより好ましい。親水性の素材として、例えば、木材、パルプ及び綿等の天然素材が挙げられる。
基材の形状に特に制限は無く、前記素材から得られた立体的形状の基材又は平面形状の基材のいずれも選択できる。基材の表面は、平滑、凹凸状又は多孔状のいずれのものであっても良い。本開示の微小繊維は可撓性材料からなるため、少なくとも基材の表面が、例えば、繊維状の物質が絡み合った布や不織布のような構造を有することにより、本開示の微小繊維がより絡まりやすくなり、より多くのハイドロキシアパタイトを基材表面に付与できる。
平面形状の基材として、例えば、上記素材により製造された板、シート及びフィルムを挙げることが出来る。板の具体例として、例えば、石膏ボード、木材ボード、板紙及び段ボール紙等が挙げられる。シートの具体例として、例えば、織布及び不織布等が挙げられる。なお、本開示において不織布とは、繊維が絡み合ったウェブ構造を有するフェルト等の不織布だけでなく、ウェブ構造や抄紙構造を有する紙類も意味する。尚、織布又は不織布を基材として用いた場合には、これら基材を構成する繊維と、本開示の微小繊維がより複雑に絡まり合うことができる。従って、織布又は不織布を基材として使用することにより、より多くの微小繊維を基材に対して付与できる。
フィルムの具体例として、例えば、ポリエチレンフィルム及びポリエステルフィルム等の合成樹脂フィルムが挙げられる。
立体的形状の基材として、例えば、ポリウレタン発泡フォーム等の上記素材により製造された樹脂発泡体等を挙げることが出来る。
本開示の方法においては、特別な前処理をすることなく、上記基材をそのまま使用できる。勿論、必要に応じて、洗浄又は表面処理、例えば塗料等のコーティング剤で塗装した後の基材を用いることも可能である。
本開示の微小繊維を基材に付与する際には、例えば、本開示の微小繊維を含む前記分散液を、従来からある通常の塗装方法で基材に塗装できる。塗装方法の具体例としては、例えば、刷毛塗装、スプレー塗装、ロール塗装、カーテンフロー塗装及びディップ塗装等が挙げられる。
前記微小繊維の分散液を基材に印刷する際には、従来からある通常の印刷方法が使用できる。印刷方法の具体例としては、例えば、オフセット印刷、グラビア印刷、フレキソ印刷、スクリーン印刷及びインクジェット印刷等が挙げられる。
良好な生産効率が得られることから、ディップ塗装を選択することがより好ましい。
前記分散液を塗布又は印刷された基材から、前記分散液に含まれる溶媒を蒸発させて、分散液に含まれる本開示の微小繊維を基材表面に付着させる。ここで、本開示における「基材の表面」とは、例えば、基材が繊維からなる布地や紙である場合には、布地や紙を構成する繊維の表面を意味する。また、例えば基材が樹脂発泡体又は多孔質フィルム等の場合には、底を有する孔、貫通孔及び/又は連通孔等の表面も含むことを意味する。溶媒を蒸発させた後、微小繊維が基材表面と絡まり合い及び/又は微小繊維同士が絡まり合って、基材表面により強固に付着する。
また、前述の方法で調製されたハイドロキシアパタイト分散液を用いて微小繊維を製造した場合、以下のような利点を有する。前記のようなハイドロキシアパタイト分散液を用いて微小繊維を製造した場合、当該微小繊維の表面は、非結晶型ハイドロキシアパタイト及び/又は低結晶型ハイドロキシアパタイトを含み得る。塗布又は印刷された基材から溶媒を蒸発させることにより、前記一の微小繊維に含まれる非結晶型アパタイト粒子及び/又は低結晶型ハイドロキシアパタイトが、基材及び別の微小繊維表面における非結晶型ハイドロキシアパタイト及び/又は低結晶型ハイドロキシアパタイトと接着する。これと同時に、前記非結晶型ハイドロキシアパタイト及び/又は低結晶型ハイドロキシアパタイトが、低結晶型ハイドロキシアパタイトを介して結晶型ハイドロキシアパタイトへと徐々に変化する。これにより、本開示の微小繊維を、その吸着性能を著しく損なうことなく、より多くの量で且つ基材に対してより強固に付着させることができる。
前記溶媒を蒸発させる際には特に加熱する必要は無く、環境温度において自然乾燥させることにより溶媒を蒸発させて良い。しかしながら、良好な生産効率を達成し且つ非結晶型アパタイトの低結晶化を促進するために、溶媒を蒸発させる際及び/又は蒸発させた後に、基材を加熱しても良い。基材を加熱する際の加熱温度は、例えば、40~300℃である。
基材における本開示の微小繊維の量は特に制限されない。例えば、基材100cm当たり、ハイドロキシアパタイト換算で、好ましくは1~100mg、より好ましくは5~50mg、さらにより好ましくは10~30mgの微小繊維を含んで良い。なお、前記ハイドロキシアパタイト換算量は、例えば、以下のように測定される。本開示の微小繊維を含む基材を100cmの面積に切り取り、所定の濃度(例えば、2.5M)の塩酸に浸漬して、微小繊維に含まれたハイドロキシアパタイトを溶解させる。ICP発光分析装置(例えば、島津製作所製ICP発光分析装置(型番ICPS-8100))を用いて、前記のようにハイドロキシアパタイトを溶解させた塩酸溶液におけるカルシウム濃度を測定し、測定されたカルシウム濃度を元にハイドロキシアパタイトの量を計算する。
前記のように製造された基材は、その表面及び/又は内部に本開示の微小繊維を含んでいる。本開示の微小繊維は、その表面にハイドロキシアパタイト粒子及び/又は皮膜を含むため、前記基材は有害物質等の吸着性能に優れる。このような有害物質の例として、例えば、カドミウムや水銀等の重金属、ホルムアルデヒド等の有害有機物質、菌やウイルス等の微生物があげられる。
以下、実施例により本開示の内容をさらに詳しく説明する。実施例により、本開示の範囲が限定されないことは言うまでも無い。
1.使用した機器
(a)走査型電子顕微鏡:株式会社日立製作所社製 型番:S-3000N
(b)X線解析装置:株式会社リガク社製 型番:RINT2200V/PC
(c)ホモジナイザー:IK社製 型番:LR1000
(d)ICP発光分析装置:島津製作所製 型番:ICPS-8100
2.酸化カルシウム懸濁液の調製
水5リットルに酸化カルシウム(和光純薬製 CAS1305-78-8)を560g(10モル)添加し、酸化カルシウム懸濁液1(水1リットルに対して2モルの酸化カルシウムを含む)を調製した。
3.リン酸溶液の調製
リン酸(和光純薬製 CAS7664-38-2)1リットル(14.5モル)を水3リットルに溶解させ、3.625Mのリン酸溶液を調製した。
4.ハイドロキシアパタイト分散液の製造(製造例1)
酸化カルシウム懸濁液及びリン酸溶液の温度を、25℃に調整した。200mlの酸化カルシウム懸濁液及びマグネチックスターラーの攪拌子を、1000mlの三角フラスコに入れ、当該フラスコをマグネチックスターラー(アズワン社製 型番CT-3AN)上に設置した。66.2mlのリン酸溶液を滴下ロートに入れ、当該滴下ロートを固定台に固定し、滴下口を前記三角フラスコの口に差し込んだ。マグネチックスターラーの攪拌子を回転させながら、滴下ロートから1.6ml/s(酸化カルシウム懸濁液中の酸化カルシウム1モルに対して、リン酸換算で0.9モル/h)の速度で、リン酸溶液を滴下した。滴下終了後、得られた溶液をX線解析装置で測定し、ハイドロキシアパタイトの存在を確認した。また、得られたハイドロキシアパタイト分散液に含まれるハイドロキシアパタイトの量は、前記分散液1リットル当たり0.15モルであった。ハイドロキシアパタイト分散液に含まれるハイドロキシアパタイトの31.500~32.500°(実測値:32.018°)(2θ)のピークの結晶子サイズは78.1Åであった。
5.微小繊維の製造
(実施例1)前記得られたハイドロキシアパタイト分散液(製造例1)1リットル当たり、短い繊維片としてのセルロース繊維(株式会社スギノマシン社製(商品名「ビンフィス」:平均長さ100nm、平均直径5nm、アスペクト比1:20)を5g添加して、ハイドロキシアパタイトとセルロース繊維を含む分散液を得た。前記分散液をホモジナイザーにより30分処理することにより、微小繊維を含む分散液を得た。ホモジナイザー処理後の分散液を凍結乾燥させ、電子顕微鏡で観察した。短い繊維片としてのセルロース繊維の顕微鏡写真が図4に、得られた微小繊維の顕微鏡写真が、図5に示されている。図4と図5の写真を比較することにより、短い繊維片としてのセルロース繊維表面に、ハイドロキシアパタイトの粒子及び/又は皮膜が形成されていることが分かる。
6.使用した基材
紙(透気度2秒、湿潤引張強度0.7kN/m)
7.基材1の製造
得られた実施例1の微小繊維分散液をステンレスバットに移し、ヒーターを用いて温度を20℃に調整した。20℃の前記分散液に紙を15分浸漬(ディップ塗装)した。浸漬後の紙をバットから取り出し、130℃に設定したインキュベーターに入れて、10分加熱した。加熱後の紙を電子顕微鏡及びX線解析装置で確認したところ、紙の表面に微小繊維が付与されていることを確認した。紙を100cm切り取り、2.5Mの塩酸に浸漬した。ICP装置によりカルシウム濃度を測定しハイドロキシアパタイト量に換算すると、前記紙における微小繊維の量は、ハイドロキシアパタイト換算で15mgであった。


















Claims (7)

  1. 可撓性材料からなる繊維部分と、前記繊維部分の表面においてハイドロキシアパタイトの粒子及び/又は皮膜とを含む微小繊維であって、前記ハイドロキシアパタイトが、X線構造解析において、2θが31.500~32.500°に現れるピークの結晶子サイズが10~200Åのハイドロキシアパタイトを含む、微少繊維。
  2. 前記可撓性材料が、キチン、キトサン、コラーゲン、リグノセルロース、セルロースナノクリスタル(CNC)及びセルロースからなる群より選択される、請求項1に記載の微小繊維。
  3. 可撓性材料からなる短い繊維片と、ハイドロキシアパタイト粒子とを含む分散液を得る工程、及び前記分散液を攪拌する工程、を含む方法により製造される微小繊維であって、前記ハイドロキシアパタイトが、X線構造解析において、2θが31.500~32.500°に現れるピークの結晶子サイズが10~200Åのハイドロキシアパタイトを含む、微少繊維。
  4. 可撓性材料からなる短い繊維片と、ハイドロキシアパタイト粒子とを含む分散液を得る工程、及び前記分散液を攪拌する工程、を含む、請求項1又は2に記載の微小繊維を製造する方法。
  5. 請求項1~3のいずれか1項に記載の微小繊維又は請求項4に記載の方法により製造された微小繊維をその表面及び/又は内部に含む基材。
  6. 請求項1~3のいずれか1項に記載の微小繊維又は請求項4に記載の方法により製造された微小繊維を含む分散液。
  7. 請求項6に記載の分散液を基材に塗布又は印刷することにより、その表面及び/又は内部に請求項1~3のいずれか1項に記載の微小繊維又は請求項4に記載の方法により製造された微小繊維を含む基材。
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