以下、本発明の実施形態について説明する。
本発明の実施形態に係る、非粘着性表面を有する耐剥離性積層体(以下、単に「耐剥離性積層体」と称する場合がある。)は、金属基材、第1プライマー層、第2プライマー層、表面層がこの順に積層された積層体の圧着物である。第1プライマー層は、金属基材の表面に形成されたポリイミド樹脂を含む膜で構成される。第2プライマー層は、接着性含フッ素重合体を含む溶融成形シートで構成される。表面層は、ポリテトラフルオロエチレン(以下、「PTFE」と称する。)を含む焼成シートで構成される。
このように、フッ素系重合体を含む、第2プライマー層と表面層として特定の成形物を採用することで、分散液を用いた塗膜の焼成物を採用した場合に比べて、各層が緻密な分子構造を有することができる。そのため、第1プライマー層と2プライマー層間及び第2プライマー層と表面層間の接合点を多くすることが可能になる。そして、これら特定の成形物が圧着されることで、優れた接合強度が付与され、高温環境における長期の使用においても優れた耐剥離性が付与される。
表面層を構成するPTFEを含む焼成シート(以下、「PTFEシート」と称する場合がある。)は、樹脂成分としてPTFEを用いて成形されたものである。
PTFEは、優れた耐薬品性を示し、ほぼ全ての薬品に対して溶解や膨潤が見られず、溶融金属ナトリウムや高温高濃度のフッ素ガスに侵されるだけで、優れた安定性を示す。また、優れた耐熱性を有し、融点が約327℃で、連続使用温度は約260℃と有機材料中では極めて高く、250℃で長時間放置しても機械的強度は殆ど低下しない。さらに、その表面特性は、優れた疎水性、疎油性及び非粘着性を示す。
このように、PTFEは、耐薬品性、耐熱性に優れ、疎水性、疎油性、非粘着性が高いため、PTFEシートが、例えば、ホッパー等や食品加工用フライヤー等の用途において、原材料等と接する面に設けられることで、PTFEシートが摺動面となり、原材料等の摺動性が良好になり、摺動面への付着物が大きく成長する前に落下するなどして、摺動面への付着、残存が抑制され得る。或いは付着したとしても容易に除去し得る。
PTFEシートは、予めシート状に成形されたものである。PTFEは、加熱してもゲル化するのみで流動性を示さないため、一般的な射出成形や押出成形が容易ではない。そのため、例えば、焼結法又はペースト押出法により成形される。これらの方法は公知の方法を採用することができる。焼結法では、例えばPTFEの粉末を型に投入して加圧し、PTFEの融点以上の温度で焼成する。必要に応じて、全体が透明なゲル状になった時に直ちに別の型に移して二次成形を行ってもよい。また、成型後、所望の形状になるように機械加工を行ってもよい。ペースト押出法では、PTFEの粉末に有機溶媒等を添加してペースト状にし、カレンダでシート状にした後、溶剤を揮散させてから焼成する。焼結法及びペースト押出法以外の方法としては、例えば、前述の焼成法やペースト押出法により得られた円柱状又は角柱状の成型体を切削してシートとする方法等が挙げられる。このうち、PTFEシートの平滑性の観点からは、前述の成型体を切削してシートとする方法が好ましい。
PTFEシートの厚みは、用途を考慮して設定することができる。前述のPTFEによる耐摩耗性、耐久性等の各種効果を継続して得る観点からは、0.1~5mmが好ましく、0.3~5mmがより好ましい。
PTFEシートは、樹脂成分はPTFEであるが、樹脂成分以外に、他の添加剤を添加してもよい。添加剤としては、例えば、着色剤、補強材、潤滑性付与材、耐摩耗性付与材等が挙げられる。
金属基材を構成する材質としては、用途等に応じて、適宜選択することができる。このような材質としては、鉄、アルミニウム、銅、金、銀等が挙げられる。鉄としては、2.0%以下の含有量の炭素を含む鉄を主成分とする合金であればよく、例えば、炭素鋼、合金鋼等が挙げられる。合金鋼としては、例えば、ステンレス鋼、クロムモリブデン鋼等が挙げられる。このうち、耐腐食性や重量、汎用性の観点からステンレス鋼、アルミ、炭素鋼が好ましく、ステンレス鋼、炭素鋼がより好ましい。また、炭素鋼の場合は、基材の表面がめっき処理を施されたものであってもよい。例えば、アルミニウム・亜鉛合金めっきにより処理された鋼板であるガルバリウム鋼板(登録商標)や、亜鉛めっきにより処理された亜鉛めっき鋼板等が挙げられる。
金属基材の形状は、用途等に応じて、適宜選択することができる。例えば、平板、湾曲板、屈曲板、しぼり加工板等が挙げられる。このうち、PTFEシートの弾性変形限界及び耐剥離性積層体の設置場所を考慮すると平板が好ましい。金属基材が例えば板状である場合は、その厚みは、各用途、構成材質を考慮して、設定することができる。例えば、耐剥離性積層体を曲げ加工等して使用する場合、金属基材の構成材質の特性及び耐剥離性積層体の設置場所の形態に応じて厚みを決定することができ、例えば、0.1~5mmとすることができる。
金属基材には、耐剥離性積層体を、例えば、ホッパー等を構成する部材の表面に固定するための固定部が形成されていてもよい。固定部が形成されていることにより、コーティング処理等することなく、ホッパー等へ耐剥離性積層体を容易に短時間で固定することができる。そのため、例えば、既存のホッパー等を備えた機械等に、非粘着性の付与された表面を容易に短時間で形成することができる。すなわち、例えば、ホッパー等は比較的大型な部材であることが多いため、持ち運びが困難であるが、上述の構成を採用することで、大掛かりなコーティング設備を用いなくとも、場所を選ばず、容易に短時間に取り付けることが可能である。このような固定部としては、例えば、ホッパー等を構成する部材等にボルトナットやリベット等で固定するための貫通穴、雄ネジと螺合する雌ネジ穴、ホッパー等の所定部位を挟持するクリップ、ホッパー等の所定部位に設けられた突起部と係合して係止する突起受け具、ホッパー等の所定部位に設けられた凹部に嵌め込んで固定する嵌め込み構造等や、金属基材に固定された永久磁石、電磁石又は磁性体(これらは、各種部材及び基材シートが磁性体か否かにより選択され、磁石と磁性体との相互作用により各種部材と耐剥離性積層体が固定される。)等の物理的結合において採用されるもの等が挙げられる。このような固定部は、用途等に応じて、1箇所又は2箇所以上設けることができる。固定部の設置位置も、用途等に応じて決定することができる。また、これらの各種の固定部は組み合わせて採用してもよい。
このように金属基材に固定部を設けてもよいが、溶接により、耐剥離性積層体をホッパー等に固定してもよい。この場合、PTFEシートが過加熱されないように、固定部位を考慮して耐剥離性積層体の形状を選定したり、溶接装置の出力を制御したりするとよい。このように、耐剥離性積層体の溶接部位(溶接面)を接合部としても良い。
第1プライマー層を構成するポリイミド樹脂を含む膜は、従来公知のポリイミド樹脂の膜を採用することができる。
ポリイミド樹脂は、熱硬化性ポリイミド、熱可塑性ポリイミドの何れでもよいが、耐熱性の観点からは、熱硬化性ポリイミドが好ましい。熱硬化性ポリイミドは、縮合型ポリイミド、付加型ポリイミド何れでもよいが、耐熱性の観点からは、縮合型ポリイミドが好ましい。
縮合型ポリイミドは、例えば芳香族多価カルボン酸成分とジアミン成分とを反応させ、ポリイミド前駆体であるポリアミド酸を生成し、加熱又はイミド化剤を用いて、脱水、イミド化(環化)反応させて、硬化させることで得られるものである。
芳香族多価カルボン酸成分としては、例えば、ピロメリット酸、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸、オキシジフタル酸、2,3,6,7-ナフタレンジカルボン酸、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エーテル、ピリジン-2,3,5,6-テトラカルボン酸及びこれらの酸無水物等が挙げられる。これらの芳香族多価カルボン酸成分は単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
ジアミン成分としては、例えば、パラフェニレンジアミン、メタフェニレンジアミン、ベンチジン、パラキシリレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,3’-ジアミノジフェニルエーテル、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、2,2-ビス(4-アミノフェノキシフェニル)プロパン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニル等が挙げられる。これらのジアミン成分は単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
ポリイミド樹脂を含む膜は、例えば、ポリイミド前駆体であるポリアミド酸を含む液の塗膜の焼結体、ポリイミド樹脂の焼結シート、熱可塑性ポリイミド樹脂の溶融成形シート等であればよい。このうち、耐熱性の観点から、ポリイミド前駆体であるポリアミド酸を含む液の塗膜の焼結体、ポリイミド樹脂の焼結シートが好ましい。ポリイミド樹脂の膜は、例えば、前述の芳香族多価カルボン酸成分とジアミン成分を有機溶媒中で反応させて得られるポリアミド酸を含む液を支持体上に流延し、イミド化を進めることで得ることができる。
ポリアミド酸を生成する際に用いる溶媒としては、例えば、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、N,N-ジメトキシアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、N-メチルカプロラクタム、1,2-ジメトキシエタン、ビス(2-メトキシエチル)エーテル、1,2-ビス(2-メトキシエトキシ)エタン、ビス2-(2-メトキシエトキシ)エチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,3-ジオキサン、1,4-ジオキサン、ピリジン、ピコリン、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホン、テトラメチル尿素、ヘキサメチルホスホルアミド、フェノール、o-クレゾール、m-クレゾール、p-クレゾール、m-クレゾール酸、p-クロロフェノール、アニソール、ベンゼン、トルエンシレン等が挙げられる。これらの有機溶媒は、単独でも2種以上混合したものでもよい。
ポリアミド酸を含む液は、例えば前述の各成分及び有機溶媒を用いて定法に従って調製してもよいし、市販のものを用いてもよい。市販のものとしては、例えば、宇部興産産株式会社製のU-ワニス等が挙げられる。
ポリイミド前駆体であるポリアミド酸を含む液の塗膜の焼結体は、金属基材表面に塗布されたポリアミド酸を含む液を乾燥させることで塗膜を形成し、これを焼成し、ポリアミド酸をイミド化させることで金属基材表面に直接形成することができる。
ポリイミド樹脂の焼結シートは、ポリアミド酸を含む液を例えばポリエステルフィルム等の樹脂フィルムに塗布、乾燥し、自己支持性の塗膜を作製し、この塗膜を樹脂フィルムから剥離して金属枠に固定し、焼成することで作製することができる。この焼結シートを金属基材の表面に設置することで、金属基材の表面にポリイミド樹脂を含む膜を形成することができる。
ポリイミド樹脂を含む膜の厚みは、例えば、0.005~1mmとすることができる。
第2プライマー層を構成する接着性含フッ素重合体を含む溶融成形シートは、接着性含フッ素重合体を溶融し、シート状に成形したものである。このような溶融成形可能な接着性含フッ素重合体としては、接着性含フッ素共重合体を例示することができる。接着性含フッ素共重合体としては、カルボニル基を含有するものが好ましく、例えば、特許第4424246号公報、特許第5365939号公報、特許第5263269号公報に記載のものが挙げられる。これらの接着性含フッ素共重合体を以下に示す。
接着性含フッ素共重合体は、テトラフルオロエチレン(以下、TFEという。)及び/又はクロロトリフルオロエチレン(以下、CTFEという。)に基づく繰り返し単位(a)、ジカルボン酸無水物基を有しかつ環内に重合性不飽和基を有する環状炭化水素モノマーに基づく繰り返し単位(b)及びその他のモノマー(ただし、繰り返し単位(a)、(b)と重複する場合は、そのモノマーを除く。)に基づく繰り返し単位(c)を含有する。
接着性含フッ素共重合体において、繰り返し単位(a)、繰り返し単位(b)及び繰り返し単位(c)の合計モル量に対して、繰り返し単位(a)が50~99.89モル%であり、繰り返し単位(b)が0.01~5モル%であり、繰り返し単位(c)が0.1~49.99モル%である。好ましくは繰り返し単位(a)が50~99.47モル%、繰り返し単位(b)が0.03~3モル%であり、繰り返し単位(c)が0.5~49.97モル%、より好ましくは繰り返し単位(a)が50~98.95モル%、繰り返し単位(b)が0.05~2モル%であり、繰り返し単位(c)が1~49.95モル%である。繰り返し単位(a)、繰り返し単位(b)及び繰り返し単位(c)のモル%がこの範囲にあると、接着性含フッ素共重合体は、耐熱性、耐薬品性に優れる。さらに、繰り返し単位(b)のモル%がこの範囲にあると、接着性含フッ素共重合体は、該接着性含フッ素共重合体以外の熱可塑性樹脂等の構成材質の基材シート及びPTFEシートとの接着性に優れる。繰り返し単位(c)のモル%がこの範囲にあると、接着性含フッ素共重合体は、成形性に優れ、耐ストレスクラック性等の機械物性に優れる。
前述の「ジカルボン酸無水物基を有しかつ環内に重合性不飽和基を有する環状炭化水素モノマー」(以下、単に環状炭化水素モノマーと略称する)は、1つ以上の5員環又は6員環からなる環状炭化水素であって、しかもジカルボン酸無水物基と環内重合性不飽和基を有する重合性化合物をいう。環状炭化水素としては1つ以上の有橋多環炭化水素を有する環状炭化水素が好ましい。すなわち、有橋多環炭化水素からなる環状炭化水素、有橋多環炭化水素の2以上が縮合した環状炭化水素、又は有橋多環炭化水素と他の環状炭化水素が縮合した環状炭化水素であることが好ましい。また、この環状炭化水素モノマーは環内重合性不飽和基、すなわち炭化水素環を構成する炭素原子間に存在する重合性不飽和基、を1つ以上有する。この環状炭化水素モノマーはさらにジカルボン酸無水物基(-CO-O-CO-)を有し、ジカルボン酸無水物基は炭化水素環を構成する2つの炭素原子に結合していてもよく、環外の2つの炭素原子に結合していてもよい。好ましくは、ジカルボン酸無水物基は上記環状炭化水素の環を構成する炭素原子であってかつ隣接する2つの炭素原子に結合する。さらに、環状炭化水素の環を構成する炭素原子には、水素原子の代わりに、ハロゲン原子、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、その他の置換基が結合していてもよい。
その具体例としては、式(1)~(8)で表されるものである。ここで、式(2)、(5)~(8)におけるRは、炭素原子数1~6の低級アルキル基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子から選択されるハロゲン原子、前記低級アルキル基中の水素原子がハロゲン原子で置換されたハロゲン化アルキル基を示す。
上記環状炭化水素モノマーとしては、好ましくは、式(1)で表される、5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸無水物(以下、NAHという。)、式(3)、(4)で表される酸無水物である環状炭化水素モノマー、式(2)及び式(5)~(8)において、置換基Rがメチル基である環状炭化水素モノマーある。より好ましくはNAHである。
その他のモノマーとしては、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン(以下、VdFという。)、CTFE(但し、繰り返し単位(a)として使用される場合を除く。)、トリフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン(以下、HFPという。)、CF2=CFORf1(ここで、Rf1は炭素数1~10で炭素原子間に酸素原子を含んでもよいペルフルオロアルキル基。)、CF2=CFORf2SO2X1(Rf2は炭素数1~10で炭素原子間に酸素原子を含んでもよいペルフルオロアルキレン基、X1はハロゲン原子又は水酸基。)、CF2=CFORf2CO2X2(ここで、Rf2は前記と同じ、X2は水素原子又は炭素数1~3のアルキル基。)、CF2=CF(CF2)pOCF=CF2(ここで、pは1又は2。)、CH2=CX3(CF2)qX4(ここで、X3及びX4は、互いに独立に水素原子又はフッ素原子、qは2~10の整数。)、ペルフルオロ(2-メチレン-4-メチル-1,3-ジオキソラン)、エチレン、プロピレン、イソブテン等の炭素数2~4のオレフィン、酢酸ビニル等のビニルエステル、エチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル等のビニルエーテル等が挙げられる。その他のモノマーは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
CF2=CFORf1の具体例としては、例えば、CF2=CFOCF2CF3、CF2=CFOCF2CF2CF3、CF2=CFOCF2CF2CF2CF3、CF2=CFO(CF2)8F等が挙げられる。好ましくは、CF2=CFOCF2CF2CF3である。
CH2=CX3(CF2)qX4の具体例としては、例えば、CH2=CH(CF2)2F、CH2=CH(CF2)3F、CH2=CH(CF2)4F、CH2=CF(CF2)3H、CH2=CF(CF2)4H等が挙げられる。好ましくは、CH2=CH(CF2)4F又はCH2=CH(CF2)2Fである。
その他のモノマーとしては、好ましくは、VdF、HFP、CTFE(但し、繰り返し単位(a)として使用される場合を除く。)、CF2=CFORf1、CH2=CX3(CF2)qX4、エチレン、プロピレン及び酢酸ビニルからなる群から選ばれる1種以上であり、より好ましくは、HFP、CTFE(但し、繰り返し単位(a)として使用される場合を除く。)、CF2=CFORf1、エチレン及びCH2=CX3(CF2)qX4からなる群から選ばれる1種以上である。最も好ましくは、HFP又はCF2=CFORf1である。また、CF2=CFORf1としては、Rf1が炭素数1~6のペルフルオロアルキル基が好ましく、炭素数2~4のペルフルオロアルキル基がより好ましく、ペルフルオロプロピル基が最も好ましい。
接着性含フッ素共重合体の具体例としては、例えば、TFE/CF2=CFOCF2CF2CF3/NAH共重合体、TFE/HFP/NAH共重合体、TFE/CF2=CFOCF2CF2CF3/HFP/NAH共重合体、TFE/VdF/NAH共重合体、TFE/CH2=CH(CF2)4F/NAH/エチレン共重合体、TFE/CH2=CH(CF2)2F/NAH/エチレン共重合体、CTFE/CH2=CH(CF2)4F/NAH/エチレン共重合体、CTFE/CH2=CH(CF2)2F/NAH/エチレン共重合体、CTFE/CH2=CH(CF2)2F/NAH/エチレン共重合体等が挙げられる。
接着性含フッ素共重合体の融点は、150~320℃が好ましく、200~320℃がより好ましく、220~320℃がさらに好ましく、220~310℃が特に好ましい。融点は、繰り返し単位(a)、繰り返し単位(b)及び繰り返し単位(c)の含有割合を前記範囲内で適宜選定して調節することができる。
接着性含フッ素共重合体の高分子末端基として、エステル基、カーボネート基、水酸基、カルボキシル基、カルボニルフルオリド基、酸無水物残基等の接着性官能基を有すると、該接着性含フッ素共重合体以外の熱可塑性樹脂等の構成材質の基材シート及びPTFEシートとの接着性に優れるので好ましい。接着性官能基を有する高分子末端基は、接着性含フッ素共重合体の製造時に、ラジカル重合開始剤、連鎖移動剤等を適宜選定することにより導入することができる。
接着性含フッ素共重合体は、その容量流速(以下、Q値という。)は、0.1~1000mm3/秒とすることができる。Q値は、接着性含フッ素共重合体の溶融流動性を表す指標であり、分子量の目安となる。Q値が大きいと分子量が低く、小さいと分子量が高いことを示す。Q値は、島津製作所製フローテスタを用いて、接着性含フッ素共重合体の融点より50℃高い温度において、荷重7kg下に直径2.1mm、長さ8mmのオリフィス中に押出すときの接着性含フッ素共重合体の押出し速度である。Q値が小さすぎると押出し成形が困難となり、大きすぎると接着性含フッ素共重合体の機械的強度が低下する。接着性含フッ素共重合体のQ値は5~500mm3/秒が好ましく、10~200mm3/秒がより好ましい。
接着性含フッ素共重合体の製造方法は特に制限はなく、ラジカル重合開始剤を用いるラジカル重合法が用いられる。重合方法としては、塊状重合、フッ化炭化水素、塩化炭化水素、フッ化塩化炭化水素、アルコール、炭化水素等の有機溶媒を使用する溶液重合、水性媒体及び必要に応じて適当な有機溶剤を使用する懸濁重合、水性媒体及び乳化剤を使用する乳化重合が挙げられ、特に溶液重合が好ましい。
ラジカル重合開始剤としては、半減期が10時間である温度が0℃~100℃であるラジカル重合開始剤が好ましい。より好ましくは20~90℃である。その具体例としては、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物、イソブチリルペルオキシド、オクタノイルペルオキシド、ベンゾイルペルオキシド、ラウロイルペルオキシド等の非フッ素系ジアシルペルオキシド、ジイソプロピルペルオキシジカ-ボネート、ジ-n-プロピルペルオキシジカーボネート等のペルオキシジカーボネート、tert-ブチルペルオキシピバレート、tert-ブチルペルオキシイソブチレート、tert-ブチルペルオキシアセテート等のペルオキシエステル、(Z(CF2)rCOO)2(ここで、Zは水素原子、フッ素原子又は塩素原子であり、rは1~10の整数である。)で表される化合物等の含フッ素ジアシルペルオキシド、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の無機過酸化物等が挙げられる。
接着性含フッ素共重合体のQ値を制御する場合、連鎖移動剤を使用することも好ましい。連鎖移動剤としては、メタノール、エタノール等のアルコール、1,3-ジクロロ-1,1,2,2,3-ペンタフルオロプロパン、1,1-ジクロロ-1-フルオロエタン等のクロロフルオロハイドロカーボン、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン等のハイドロカーボンが挙げられる。接着性含フッ素共重合体の高分子末端に接着性官能基を導入するための連鎖移動剤としては、酢酸、無水酢酸、酢酸メチル、エチレングリコール、プロピレングリコール等が挙げられる。
接着性含フッ素共重合体の重合条件は特に限定されず、重合温度は0~100℃が好ましく、20~90℃がより好ましい。重合圧力は0.1~10MPaが好ましく、0.5~3MPaがより好ましい。重合時間は1~30時間が好ましい。
重合中の環状炭化水素モノマーの濃度は、全モノマーに対して0.01~5モル%が好ましく、0.1~3モル%がより好ましく、0.1~1モル%が最も好ましい。環状炭化水素モノマーの濃度が高すぎると、重合速度が低下する傾向となる。前記範囲にあると製造時の重合速度が低下せず、かつ、含フッ素共重合体は接着性に優れる。重合中、環状炭化水素モノマーが重合で消費されるに従って、消費された量を連続的又は断続的に重合槽内に供給し、環状炭化水素モノマーの濃度をこの範囲に維持することが好ましい。
上記のような製造方法で得られた接着性含フッ素共重合体は、定法に従って、ペレット、粉体、その他の形態として得ることができる。この接着性含フッ素共重合体は、成形性に優れるため、射出成形、押出成形が可能であり、所望の形状に成形することが可能である。また、上述の接着性フッ素共重合体は、柔軟性に優れているため、これらを用いたシート状の溶融成形体は、曲げ加工や絞り加工を行ったとしても、積層したシートの剥離を抑制できる。
前記接着性含フッ素共重合体は、前述のようにして製造することもできるが、市販のものを用いることができる。例えば、AGC株式会社製のEA-2000等が挙げられる。
溶融成形シートの厚みは、その種類や用途に応じて適宜選択可能であるが、所定以上の剥離強度を確保する観点から、5~100μmが好ましく、25~100μmがより好ましい。
表面層と金属基材の剥離強度は、3N/mm以上であるのが好ましい。剥離強度は、通常高い方がよいため、特に上限はない。このような剥離強度は、例えば、粘着テープ・粘着シート試験方法の剥離強度試験で測定することができる。その際の試験条件は、JIS Z 0237に準じて行うことができる。尚、剥離強度は、測定値を試験片の幅で除した値とする。
前述のように、耐剥離性積層体は、金属基材、第1プライマー層を構成するポリイミド樹脂を含む膜、第2プライマー層を構成する所定の溶融成形シート、及び、表面層を構成する所定の焼成シートの積層体の圧着物である。圧着後の各層の厚みは、圧着前の各膜及びシートの厚みと同等である。したがって、第1プライマー層、第2プライマー層、表面層の各厚みは、それぞれ、前記ポリイミド樹脂を含む膜、前記溶融成形シート、前記焼成シートの厚みと実質的に同一であればよい。このような厚みの調整は圧着条件を適宜選択することで実現できる。
本発明の実施形態に係る耐剥離性積層体の製造方法は、例えば、金属基材の表面に、ポリイミド樹脂を含む膜を形成する第1プライマー層設置工程、ポリイミド樹脂を含む膜の表面に、接着性含フッ素重合体を含む溶融成形シートを設置する第2プライマー層設置工程、接着性含フッ素重合体を含む溶融成形シートの表面に、PTFEの焼成シートを設置する表面層設置工程、金属基材の表面に第1、2プライマー層、表面層が設置された積層体を加熱圧縮する圧着工程、を含む。
以上のような工程を含むことで、金属基材の表面に第1及び第2プライマー層を介してPTFEを含む表面層が形成された非粘着性表面を有する耐剥離性積層体を製造することができる。
第1プライマー層設置工程では、必要に応じて、前述の金属基材の表面に洗浄処理を施したり、金属基材の表面のバリ等を除去する処理(デバリング処理)を施したりしてもよい。洗浄処理としては例えばアセトン等の溶剤で油分を除去する処理等が挙げられる。必要に応じて洗浄等を行った後、金属基材の表面にポリイミド樹脂を含む膜を形成する。
ポリイミド樹脂を含む膜の形成は、例えば、ポリイミド前駆体を含む液を金属基材の表面に塗布し、その後、塗膜を焼結することで焼結膜を形成する方法、予め成形された熱硬化性ポリイミドの焼結シートや熱可塑性ポリイミドの溶融成形シートを金属基材の表面に設置する方法等が挙げられる。ポリイミド前駆体を含む液としては、例えば、前述のように、芳香族多価カルボン酸成分とジアミン成分とを溶媒中で反応させて得られるポリアミド酸を含む液等が挙げられる。
第2プライマー層設置工程では、前述の接着性含フッ素重合体を含む溶融成形シートを、ポリイミド樹脂を含む膜の表面に設置し、表面層設置工程では、その溶融成形シートの表面にPTFEの焼成シートを設置する。このように、第2プライマー層、表面層を構成する部材として成形物を用いることで、緻密な分子構造を有する層が形成される。
圧着工程では、以上のようにして、金属基材、第1プライマー層、第2プライマー層及び表面層をこの順で積層した積層体を加熱しながら積層方向に圧縮する。その結果、緻密な分子構造を有する層が圧着されるため、それらの層に多数存在する接合点において確実に接合され、良好な耐剥離性が付与される。
圧着工程における処理条件は、適宜決定することができる。例えば、加熱温度は、PTFEの融点以上の温度で加圧するのが好ましく、340~380℃がより好ましい。圧力は、実圧で、1~5MPaとするのが好ましい。加圧時間は、5~10分が好ましい。このように、PTFEの融点以上の温度で加熱圧着する場合、ポリイミド樹脂の焼結膜を設けることで、高温での耐剥離性が飛躍的に向上させることができる。
以上のようにして得られた耐剥離性積層体を、ホッパー等を構成する部材の表面に固定することで、ホッパー等の表面に高温環境において長期間使用可能な耐剥離性に優れた非粘着性表面を付与することができる。
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、実施例により本発明の実施形態をより詳細に説明する。
(剥離試験)
実施例及び比較例で得られた積層体の試験片を熱風循環炉(エスペック株式会社製、FHH-201M)内に、200℃で、1、2、4週間静置した後、引張試験機(株式会社島津製作所製、オートグラフ AG-X plus、負荷容量:20kN)を用いて、剥離強度を測定した。試験条件は、引張速度を30mm/minとし、5回行った平均値を剥離強度(N/mm)とした。結果を表1に示す。
(製造例1)
接着性含フッ素重合体(AGC株式会社製、フルオン(登録商標) EA-2000)の溶融押出成形フィルム(厚さ0.05mm)を用いて、サイズ:500mm×500mm×0.05mmの溶融成形シートを作製した。
(製造例2)
PTFE製の焼結成形体(スターライト工業株式会社製、ALP #31000)からスカイビングにより、サイズ:500mm×500mm×1mmのPTFEシートを作製した。
(実施例1)
金属基材(図1中、符号1)として、ステンレス鋼製の平板(JIS G4304、サイズ:500mm×500mm×1.0mm)を用い、その表面をアセトンにより洗浄した。金属基材の表面粗さRaは、表面粗さ測定機(株式会社東京精密製、surfcom 1500DX3)により測定したところ、0.13μmであった。
アセトン洗浄後の平板の表面に、ポリイミド前駆体であるポリアミック酸溶液(宇部興産株式会社製、Uワニス-S)を、厚みが0.05mmになるようにスプレー塗布し、室温にて30分間静置して乾燥し、塗膜を形成した。乾燥後、熱風炉にて400℃で30分間加熱して、金属基材の表面にポリイミド樹脂を含む膜として、塗膜の焼結体(第1プライマー層、図1中、符号2)を形成した。
ポリイミド樹脂を含む焼結体の表面に、製造例1で得られた溶融成形シート(第2プライマー層、図1中、符号3)を設置した。この溶融成形シートの表面に製造例2で得られたPTFEシート(表面層、図1中、符号4)を設置した。
尚、溶融成形シートを設置する際に、溶融成形シートと焼結体の接合長さ(図1(b)中、符号L)が30mmとなるように、接合防止シート(ポリイミド樹脂製フィルム、厚み:0.025mm、図1(a)中、符号5)を塗膜の焼結体と溶融成形シートの間に設置した。
以上のようにして、ステンレス製平板、焼結体、溶融成形シート及びPTFEシートの各層をこの順に積層し、部分的に接合防止シートが設けられた積層物を、圧縮成形機(北川精機株式会社製、真空プレス)を用いて、プレス温度360℃、圧力2MPaにて300秒間加圧した後、加圧保持のまま冷却し、接合防止シートを除去し、接合長さが30mmの試験用の耐熱性積層体を得た。得られた耐熱性積層体を、幅16mm、長さ100mmで、接合長さが30mmとなるように切断し、試験片(図1(b)中、符号6)を作製した。接合長さが30mmの部分の前述の各層の圧着物は、圧着前後で同等の厚みを有しており、ルーペを用いて4層構造を有していることを目視により確認した。つまり、圧着前後の各層の厚みは圧着前と同等である。尚、接合防止シートを設置した部分は、第1プライマー層と第2プライマー層とが接合されず、剥離試験において引張り試験機の把持部となる。
(比較例1)
ポリイミド樹脂を含む焼結体を形成しなかった以外は、実施例1と同様にして、試験片を作製した。
(比較例2)
製造例2で得られた溶融成形シートを用いなかった以外は、実施例1と同様にして、試験片を作製した。
(比較例3)
圧縮成形に替えて、加圧を行わずに、積層物を電気炉(株式会社カトー製、TR051P-S)を用いて360℃にて600秒間熱処理した以外は、実施例1と同様にして、試験片を作製した。
表1より、実施例1では200℃で4週間の暴露後であっても、剥離強度の低下は見られず、PTFEシートと金属基材は良好な接合が保持されていることがわかる。