JP7173483B2 - 金属と樹脂材との接合体 - Google Patents
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Description
しかしながら、金属と樹脂材との接合体は、金属と樹脂材との熱膨張係数が大きく異なることから、熱履歴に対する接合強度、接合耐久性の点で問題がある。
また、金属材そのものを加工・処理する方法とは別の方法として、めっきを利用して金属の表面に凹凸を設け、めっきにより設けた凹凸を利用して金属と樹脂材とを一体化して接合させる方法も提案されている(特許文献3、4)。
金属の表面に設けた粗面(凹凸)を利用して金属と樹脂材とを一体化することで接合強度が向上する理由は、金属と樹脂材との接着面積が拡大すること、金属と樹脂材との間に作用するアンカー効果による。
しかしながら、接合体の接合強度に関する最も重要な課題は、接合体の温度が変動することで接合体に作用する熱応力が繰り返し接合体に作用し、徐々に接合体の接合強度が劣化して所要の接合強度を保持することができなくなることである。
本発明は、金属と樹脂材との接合体の接合強度を高めるとともに、接合体に繰り返し熱応力が作用しても接合強度が劣化することを抑えることができ、耐久性の高い金属と樹脂材との接合体を提供することを目的とする。
また、前記基材の表面に、前記基材の金属と前記粗面構造のめっき膜の双方と良好な密着性を備える下地めっき膜が設けられ、該下地めっき膜の上に前記粗面構造のめっき膜が設けられていること、前記下地めっき膜が、前記金属と前記粗面構造のめっき膜のそれぞれの熱膨張係数の中間の熱膨張係数を備える金属からなることを特徴とする。
また、前記粗面構造のめっき膜として、カーボンナノチューブの複合めっき膜が設けられ、該複合めっき膜は、カーボンナノチューブの基部がめっき膜に埋設され、カーボンナノチューブの先端がめっき膜から突出する形態に設けられていることを特徴とする。
また、前記粗面構造のめっき膜として、前記基材の表面からめっき金属が薄板面方向を維持して薄板状のまま延出し、多数枚の薄板がランダムに突出して並んだ交錯した形態となるランダム薄板構造のめっき膜が設けられていることを特徴とする。なお、ランダム薄板構造のめっき膜は、めっき浴に添加する添加材(ポリアクリル酸)の濃度等のめっき条件を調節することにより、薄板形状とは異なる粒状の粗面構造としたり、粒状と薄板形状とが混在した形態に形成することができる。めっき膜の粗面構造を制御することにより、めっき膜と樹脂との接合性(アンカー効果)を制御することができ、たとえば粒状の粗面構造とすることにより、大きな破断強度を備える接合体を得ることができる。
また、前記ランダム薄板構造のめっき膜が、カーボンナノチューブがめっき膜に取り込まれたランダム薄板構造のめっき膜であることにより、金属と樹脂材との接合強度を向上させることができる。
また、本発明に係る金属と樹脂材との接合体の製造方法は、基材の金属の表面に、表面の凹凸がランダムな形態の粗面構造のめっき膜を設ける工程と、前記粗面構造のめっき膜が設けられた前記基材の面に、前記基材とともに樹脂材を一体成形し、前記基材と樹脂材とが一体に接合された構造材料である金属と樹脂材との接合体を得る工程とを備え、前記樹脂材を一体成形する工程においては、前記粗面構造のめっき膜の凹凸の隙間を樹脂材で充填するように成形し、JIS K6850に準拠して測定した該接合体の前記粗面構造のめっき膜と前記樹脂材との接合部分の破断強度が、前記樹脂材自体の破断強度を上回る前記接合体を得ることを特徴とする。
本発明に係る金属と樹脂材との接合体の第1の実施の形態は、金属の表面に粗面構造を備えるめっき膜として、カーボンナノチューブの複合めっき膜を備え、前記金属と樹脂材とが、前記粗面構造のめっき膜を介して一体に接合されてなるものである。
カーボンナノチューブの複合めっき膜は、めっき浴中にカーボンナノチューブを懸濁させ、めっき皮膜中にカーボンナノチューブを取り込んで形成される。カーボンナノチューブの複合めっきに用いられるカーボンナノチューブには、単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、カップスタック型カーボンナノチューブ等が使用できる。多層カーボンナノチューブは、二層以上の複数層構成を備えるカーボンナノチューブである。
これらのめっき金属(合金を含む)とカーボンナノチューブ(単層、多層、カップスタック型)との組み合わせは任意に選択することができる。
複合めっき膜に用いるめっき金属及びカーボンナノチューブは、接合体としたときの接合強度等を考慮して、適宜めっき金属とカーボンナノチューブ製品を選択すればよい。
めっき法を利用してめっき膜を形成する方法は、下地の金属の材質、種類に左右されることなく、めっき条件を適宜制御することにより、所望の形態及び特性を備えるめっき膜を形成することができるという大きな利点がある。
めっき法により金属の表面にめっき膜を設ける場合は、金属表面とめっき膜との密着強度が、接合体の接合強度に大きく影響する。接合体の金属(基材となる金属)と複合めっきに使用しようとする金属との密着性(接合強度)が十分でないおそれがある場合には、金属と複合めっき膜のめっき金属の双方と良好な密着性を備える金属を選んで、金属に下地めっき膜を設け、この下地めっき膜の上に、カーボンナノチューブの複合めっき膜を設ければよい。
図1(a)、(b)から、複合めっき膜の表面が微細な凹凸面に形成されていること、複合めっき膜に多層カーボンナノチューブがランダムに取り込まれていること、複合めっき膜の表面から多層カーボンナノチューブの先端が突出する形態にカーボンナノチューブがめっき膜に支持されている様子が分かる。
金属と樹脂材との接合体は、金属の表面にカーボンナノチューブの複合めっき膜を設け、複合めっき膜を介して金属と樹脂材とを一体化することで構成される。
図2に、金属と樹脂材とを一体化して接合体を形成する方法を示す。
図2(a)は、基材の金属10に粗面構造のめっき膜としてカーボンナノチューブの複合めっき膜12を設けた状態である。図2(a)では、複合めっき膜の表面に凹凸が形成されること、カーボンナノチューブ14の基部がめっき膜に埋設され、先端がめっき膜から突出する形態となることを説明的に示すため、矩形の凸部と凸部にカーボンナノチューブ14が支持されている形態として示している。実際には、複合めっき膜は、図1に示すように、複雑な凹凸形態で、ランダムな形態にカーボンナノチューブ14が取り込まれる。
金属10と樹脂材20との接合力は、金属10の表面に形成された凹凸10aと樹脂22との大きな接触面積による吸着作用と、凹凸10aのアンカー作用によるものである。
また、図3に示す例では、金属10と樹脂材20とが直接的に連結され、金属10と樹脂材20との間で、熱膨張係数の相違による熱応力が直接的に作用するのに対し、図2(b)に示した例では、カーボンナノチューブの複合めっき膜12が金属10と樹脂材20との中間に介在することで、金属10と樹脂材20との間で作用する熱応力を緩和することができ、接合体に熱サイクルが繰り返し作用した場合の耐久性を向上させることができる。
本発明に係る金属と樹脂材との接合体の第2の実施の形態は、金属の表面に、粗面構造のめっき膜として、薄板状のめっき膜がランダムに交錯して析出した形態となるランダム薄板構造のめっき膜を備え、前記金属と樹脂材とが、前記粗面構造のめっき膜を介して一体に接合されてなるものである。
図4に、基材となる金属の表面に粗面構造のめっき膜として、ランダム薄板構造のめっき膜を設けた例を示す。ランダム薄板構造のめっき膜は電解めっきにより形成することができる。図4では基材の金属として銅板を用いている。
ランダム薄板構造のめっき膜は、めっき金属が析出する際に、薄板状にめっき金属が析出するめっき条件に制御することによって形成することができる。本発明者は、電解銅めっきの際のめっき条件を制御することにより、ランダム薄板構造のめっき膜を形成することができることを報告している(特許文献6、7)。
ランダム薄板構造のめっき膜は、図4に示すように、基材(金属)の表面からめっき金属が薄板面方向を維持して薄板状のまま延出するように生長し、基材の表面に対し傾斜して生長するために、めっきを進めていくと薄板状のめっき金属が相互に複雑に交錯したランダムな形態となる。
ランダム薄板構造のめっき膜は、めっき金属からなる薄板の間は空間であり、多数枚の薄板がランダムに突出して並んだ、交錯した形態に形成されることが特徴である。
めっき金属によって形成される薄板の厚さは0.03μm~0.5μm程度であり、薄板間の間隔は0.5μm~2μm程度である。
図4に示すように、めっき条件を選択することにより、ランダム薄板構造のめっき膜のめっき厚や、薄板構造の薄板の配置密度(間隔)、薄板の厚さを調節することができる。
図5は、銅板を基材としてランダム薄板構造のめっき膜を設けた例と、銅板の基材に下地めっきとしてニッケルめっき膜を形成し、その上にランダム薄板構造のめっき膜を形成した例を示す。ランダム薄板構造のめっき膜は、電解銅めっきにより形成した。
前述したように、下地めっき膜の作用としては、接合強度を向上させる他に、基材の金属と樹脂材との熱膨張係数をマッチングさせる作用(熱膨張係数が相異することによる熱応力を緩和する作用)を想定することもでき、熱膨張係数の面から下地めっき膜に用いる金属を選択することももちろん可能である。
図5から、めっき金属が薄板状に生長し、相互に交錯した状態に形成されていることがよくわかる。
上述した粗面化構造のめっき膜は、ランダム薄板構造のめっき膜とした例であるが、ランダム薄板構造のめっき膜の他の構成例として、カーボンナノチューブの複合めっきと同様に、カーボンナノチューブをめっき膜に取り込んだランダム薄板構造のめっき膜を形成する方法がある。カーボンナノチューブをめっき膜に取り込んだランダム薄板構造のめっき膜は、本発明者が提案した方法によって作製することができる(特許文献8)。
また、カーボンナノチューブは薄板間を掛け渡すように取り込まれるから、基材の金属と樹脂材とを一体化したときに、物理的作用により、樹脂材がめっき膜から剥離しないように阻止する作用が働くことが考えられる。
これらの作用により、粗面構造のめっき膜として、カーボンナノチューブをめっき膜に取り込んで形成したランダム薄板構造のめっき膜を設けることで、基材の金属と樹脂材との接合強度を増強させることが可能である。
図7は、電解銅めっきにより作製したランダム薄板構造のめっき膜の断面SEM像と、ランダム薄板構造のめっき膜にさらにスズめっきを施した場合の断面SEM像と、めっき膜の銅の分布とスズの分布を電子線マイクロアナライザー(EPMA)を用いて分析した結果を示す。
図7は、ランダム薄板構造のめっき膜にスズめっきを施した場合も、ランダム薄板構造が維持されていること、銅の分布とスズの分布の測定結果から、ランダム薄板構造のめっき膜の全体に均一にスズが析出していること(担持されていること)を示す。
粗面構造のめっき膜の強度を調節したり、熱膨張係数を調節したりすることが可能であることは、粗面構造のめっき膜を介して基材の金属と樹脂材とを接合して構成する接合体の接合強度を向上させ、環境の温度変化にともなって接合体に作用す熱応力を緩和して接合体の耐久性を向上させることができる点で有効である。
図8に、基材である金属の表面に粗面構造のめっき膜として、ランダム薄板構造のめっき膜を設け、金属10と樹脂材20とをランダム薄板構造のめっき膜16を介して一体化して接合体を形成した例を示す。
図8(a)は、金属10の表面にランダム薄板構造のめっき膜16を形成した状態を説明的に示したもので、ランダム薄板構造のめっき膜16はきわめて複雑な形態の三次元構造体として形成される。したがって、ランダム薄板構造のめっき膜16を介して金属10と樹脂材20とを一体的に接合すると、樹脂材20を構成する樹脂22がランダム薄板構造のめっき膜16に形成されている隙間部分に充填され、樹脂材22とランダム薄板構造のめっき膜16とはきわめて大きな接触面積を介して接合されること、ランダム薄板構造のめっき膜16によるアンカー作用によって、金属10と樹脂材20とが強固に連結される。
粗面構造のめっき膜として、前述したカーボンナノチューブをめっき膜に取り込んだランダム薄板構造のめっき膜を設けた場合は、めっき膜に取り込んだカーボンナノチューブの作用により、金属と樹脂材との接合強度をさらに向上させることが可能である。
また、粗面構造のめっき膜を、ランダム薄板構造のめっき膜に他の金属をめっきする構成とする場合に、ランダム薄板構造のめっき膜全体としての熱膨張係数が金属と樹脂材との中間程度の熱膨張係数となるように、他の金属を選択することで、金属と樹脂材との間に生じる熱応力を緩和することができ、接合体の耐久性を向上させることが可能である。
基材の金属として冷間圧延鋼材(SPCC)を使用し、基材の金属に接合する樹脂材としてPPS(ポリフェニレンサルファイド樹脂;ガラス繊維40%)を使用し、剛性被着材の引張せん断接着強さ試験(JIS K6850により金属と樹脂材との接合体の接合強度の評価試験を行った。評価試験に用いたサンプルの形状と寸法を図9に示す。
評価試験に使用したサンプルは下記の3種である。
サンプルA:
金属(SPCC)になんらの処理を施さず、金属と樹脂材(PPS)とを一体成形したもの
サンプルB:
金属(SPCC)の表面に粗面構造のめっき膜としてカーボンナノチューブのニッケル複合めっき膜を設け、樹脂材(PPS)と一体成形したもの
サンプルC:
金属(SPCC)の表面に、下地めっきとしてニッケルめっきを施し、ニッケルめっき膜に粗面構造のめっき膜として、銅めっきによりランダム薄板構造のめっき膜を設け、樹脂材(PPS)と一体成形したもの
サンプルBのめっき膜は、下記のめっき条件により形成した。
a)粗面構造のめっき膜
めっき浴組成
NiSO4・6H2O: 1 M
NiCl2・6H2O: 0.2 M
C6H5Na3O7: 0.08 M
ポリアクリル酸(平均分子量5000): 2×10-5 M
カーボンナノチューブ: 2.0 g L-1、1.0 g L-1、0.5 g L-1
電析条件
電流規制法
基板 : SPCC
温度 : 室温
電流密度 : 0.5 A dm-2
通電量 : 2928.3 C dm-2
カーボンナノチューブには多層カーボンナノチューブVGCF(登録商標)を使用し、カーボンナノチューブの添加量が異なる、3種のサンプルを作製した。
b)下地ニッケルめっき膜
めっき浴組成
NiSO4・6H2O: 1 M
NiCl2・6H2O: 0.2 M
H3BO4 : 0.5M
電析条件
カソード:SPCC
アノード:ニッケル板
めっき面積:10cm2
電流密度 : 10mA cm-2
通電量 : 1.46 C cm-2
めっき温度:25℃ 液量100mL 攪拌:なし
c)粗面構造のめっき膜
めっき浴組成
CuSO4・6H2O: 0.85 M
H2SO4: 0.55 M
ポリアクリル酸(平均分子量5000): 1×10-5 M、5×10-5 M
電析条件
カソード:SPCC
アノード:純銅板
めっき面積:10 cm2
電流密度 : 5 mA cm-2、10 mA cm-2
通電量 : 2.7 C cm-2
めっき温度:25℃ 液量100 mL 攪拌:なし
なお、サンプルAについては、インサート成形後、装置からサンプルを取り出した時点で、基材の金属から樹脂材とが剥離してしまい、せん断強度を測定することができなかった。
上記評価試験結果は、基材の金属の表面に粗面化構造のめっき膜として、カーボンナノチューブの複合めっき膜を設ける方法と、ランダム薄板構造のめっき膜を設ける方法が有効であることを示すものである。
金属と樹脂との接合体の接合強度を評価するため、図9に示した試験片を作製し、引っ張りせん断試験を行った。基材の表面に設ける粗面構造のめっき膜として、ニッケル-カーボンナノチューブ複合めっき膜を形成した。カーボンナノチューブの複合めっき膜は、基材の長手方向の一端部に、縦横:12.5mm×25mmの範囲に施し、複合めっきを施した範囲に位置合わせして、樹脂成形した。平板体状に成形した樹脂体の寸法は、厚さ2.0mm、長さ100mm、幅25mm、射出成形条件は、成形温度300℃、金型温度150~160℃、射出圧力121MPa、射出時間1.08sである。射出成形に使用した樹脂は、PPS(ポリフェニレンサルファイド樹脂;ガラス繊維40%)である。
めっき浴組成
NiSO4・6H2O: 1 M
NiCl2・6H2O: 0.2 M
C6H5Na3O7: 0.08 M
ポリアクリル酸: 2×10-5 M
CNT: 0、0.25、0.50、1.0、2.0 (gL-1)
電析条件
基板: 冷間圧延鋼鈑(SPPC)
陽極: Ni
電流密度: 1.0 A dm-1
通電量:2928 C dm-1
浴温: 室温
攪拌: 空気攪拌
めっきに使用したカーボンナノチューブは、多層カーボンナノチューブ(VGCF:登録商標 昭和電工製 直径150nm、長さ10-20μm)である。
ニッケルめっきのみを施したサンプルは表面が光沢面となり、表面は滑らかで面粗度が0.72μm(RMS)となった。一方、カーボンナノチューブの複合めっきを施したサンプルの表面はSEM像からも凹凸面に形成されていることが分かり、面粗度は6.03μm(RMS)で、ニッケルめっきのみの場合と比べて面粗度が10倍程度となった。
図12は、ニッケルめっきを施したものと、ニッケル-カーボンナノチューブの複合めっきを施したもの(CNT:1.0gL-1)についての試験結果を示す。ニッケルめっきのみを施したものは、射出成型機から取り出しただけで基材の金属と樹脂体とが剥離してしまい、破断強度として検出できなかった。一方、ニッケル-カーボンナノチューブの複合めっきを施したサンプル(サンプル数n=6)については破断強度が7.5MPa程度となった。
図13(a)は、横軸をカーボンナノチューブの添加量として破断強度を示したもので、カーボンナノチューブの添加量を多くすると破断強度が低下していく傾向にある。4種のサンプル中で破断強度が最大であったのはカーボンナノチューブの添加量が0.25gL-1のときであった。このとき、試験に使用した複数個のサンプルのうちのいくつかは、接合部ではなく樹脂体自体が破断する結果となり、接合力がきわめて強大であることが確かめられた。
図13(b)は、横軸を面粗度として破断狭路を示してもので、面粗度が大きくなるとともに破断強度が大きくなるとは限らず、最大の破断強度となる面粗度が在ることが推定される。
図14(b)は、基材側のめっき面については、めっきの形態は大きく変われないことと、カーボンナノチューブが取り去られていることを示す。図14(c)は、破断時に樹脂体が部分的に破壊されていることと、樹脂体側にカーボンナノチューブが取り込まれていることが分かる。すなわち、基材と樹脂とを射出成形(樹脂成形)によって一体化した際に、めっき面の凹凸内に樹脂が入り込み、めっき膜の凹凸をカーボンナノチューブが樹脂体の内部に入り込む(食い込む)ようにして連結されていることを示唆する。
図15から、破断後に基材のめっき面からカーボンナノチューブが取り去られていること、めっき面から取り去られたカーボンナノチューブが樹脂体側に取り込まれている様子が分かる。
ただし、図16(b)に示すEDS測定結果を詳細に観察すると、めっき膜の凹凸の深部には樹脂が完全に充填されずに空隙として残っている。この空隙部分は、樹脂が流入するときに、めっき金属から剥離したカーボンナノチューブが樹脂とともに送り込まれることで樹脂の充填を阻害し、空隙が残留する結果となっている。
引っ張りせん断試験に使用する試験片として、基材の表面に施す粗面構造のめっき膜として、銅めっきによりランダム薄板構造のめっき膜を設けた基材を用意し、上記例と同様に射出成形により基材とPPS樹脂とを一体成形し、図9に示す試験片と同形の試験片を作製し、引っ張りせん断試験を行った。
めっき浴組成
Cu2P2O7: 14 gL-1
K4P2O7: 120 gL-1
電析条件
基板: 冷間圧延鋼鈑(SPPC)
陽極: 純銅板
電流密度 : 10 mA cm-2
通電量 : 1.36 Ccm-2
浴温: 室温
めっき面積: 4×2.5 cm2
攪拌: 空気攪拌
めっき浴組成
CuSO4・6H2O: 0.85 M
H2SO4: 0.55 M
ポリアクリル酸(平均分子量5000): 0、5×10-5M、1×10-4M、2×10-4M
電析条件
基板: 冷間圧延鋼鈑(SPPC)
陽極: 純銅板
電流密度 : 5 mA cm-2
通電量 : 2.7 Ccm-2
めっき温度: 室温
めっき面積: 4×2.5 cm2
攪拌: なし
なお、粗面構造のめっき膜を形成していないサンプルについては、射出成型機からサンプルを取り出したところで基材から樹脂の成形体が剥離し、破断強度を測定することができなかった。
図21を見ると、ポリアクリル酸濃度が5×10-5Mのサンプルについては、破断後のめっき膜は試験前と同様な粒状の形態を維持している。これに対し、ポリアクリル酸濃度が1×10-4Mのサンプルの試験後の破断表面は、めっき膜が部分的に損壊し、薄板状のめっき膜が欠如している。また、ポリアクリル酸濃度が2×10-4Mのサンプルの破断表面は、薄板状に形成されていためっき膜の大部分が破壊され、めっき膜の原形が失われている。
基材の表面に施す粗面構造のめっき膜として、銅めっきによりランダム薄板構造のめっき膜を設けた基材を用意し、上記例と同様に射出成形により基材とPPS樹脂とを一体成形し、前述した試験片と同様の試験片を作製し、引っ張りせん断試験を行った。
ストライクめっき
めっき浴組成
Cu2P2O7: 0.042M
K4P2O7: 0.36M
めっき条件
基板: 冷間圧延鋼鈑(SPPC)
陽極: 純銅板
電流密度 : 10 mA cm-2
通電量 : 1.36 Ccm-2
浴温: 室温
めっき面積: 4×2.5 cm2
攪拌: 空気攪拌
粗面化めっき
めっき浴組成
CuSO4・6H2O: 0.85 M
図24(a)は、分離後の基材の外観写真であり、破線範囲が金属と樹脂とが接合した部位を示す。図24(b)は接合部分の表面SEM像である。表面SEM像から分離後の基材の表面がランダムな凹凸形状になっていること、めっき面に樹脂が付着して残っている様子が見られる。
図25(a)は、分離後の樹脂成形部の外観写真であり、破線が基材と接合していた部位を示す。図25(b)は接合部分の表面SEM像である。樹脂成形部の接合面が凹凸面になっており、樹脂が溶融してめっき膜の粗面に樹脂が入り込んで樹脂成形されたことが分かる。
基材の表面に施す粗面構造のめっき膜として、カーボンナノチューブの複合めっき膜を設け、射出成形により基材とPPS樹脂とを一体成形し、前述した試験片と同様の試験片を作製し、引っ張りせん断試験を行った。
カーボンナノチューブの複合めっきのめっき条件を以下に示す。
めっき浴組成
NiSO4・6H2O : 1M
NiCl2・6H2O : 0.2M
C6H5Na3O7 : 0.08M
ポリアクリル酸 : 2×10-5M
CNT : 2.0gL-4
なお、CNTには多層カーボンナノチューブ(昭和電工製:直径150nm、長さ10-20μm)を使用した。
めっき条件
基板: 冷間圧延鋼鈑(SPPC)
陽極: Ni
電流密度 : 1.0A dm-2
通電量 : 2928C dm-2
浴温: 室温
攪拌: 空気攪拌
上記方法によりニッケル-カーボンナノチューブ複合めっきを施したSPPC基板にPPS樹脂を一体成形した試験片を製作し、前述した実験と同様にISO 19095引張せん断試験を行ったところ、破断強度(せん断強度)32.4MPaの測定結果が得られた。
図28、図29は、サンプルを加熱して基材から樹脂成形部を分離した後の、基材と樹脂成形部の接合部の表面状態を観察した結果を示す。
図28(b)は基材表面のニッケル-カーボンナノチューブ複合めっきを施した部位の表面SEM像であり、カーボンナノチューブが取り込まれためっき膜が基材側に残留し、めっき膜に部分的に樹脂が残っている様子が分かる。
図29(b)は樹脂成形部の接合面の表面SEM像である。樹脂の表面が波打っているのは、樹脂が溶融して流れたことを示している。また、接合面に凹凸面が見られること、樹脂成形部側には複合めっき膜が付着していないことが分かる。
12 カーボンナノチューブの複合めっき膜
14 カーボンナノチューブ
16 ランダム薄板構造のめっき膜
20 樹脂材
21 炭素繊維
22 樹脂
Claims (10)
- 金属の表面に、表面の凹凸がランダムな形態の粗面構造のめっき膜が設けられ、
前記粗面構造のめっき膜を介して前記金属と樹脂材とが一体成形により一体に接合された構造材料である、金属と樹脂材との接合体であって、
前記金属は、前記接合体の基材であり、
JIS K6850に準拠して測定した、該接合体の前記粗面構造のめっき膜と前記樹脂材との接合部分の破断強度が、前記樹脂材自体の破断強度を上回ることを特徴とする金属と樹脂材との接合体。 - 前記基材の表面に、前記基材の金属と前記粗面構造のめっき膜の双方と良好な密着性を備える下地めっき膜が設けられ、該下地めっき膜の上に前記粗面構造のめっき膜が設けられていることを特徴とする請求項1記載の金属と樹脂材との接合体。
- 前記下地めっき膜が、前記金属と前記粗面構造のめっき膜のそれぞれの熱膨張係数の中間の熱膨張係数を備える金属からなることを特徴とする請求項2記載の金属と樹脂材との接合体。
- 前記粗面構造のめっき膜として、カーボンナノチューブの複合めっき膜が設けられ、該複合めっき膜は、カーボンナノチューブの基部がめっき膜に埋設され、カーボンナノチューブの先端がめっき膜から突出する形態に設けられていることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項記載の金属と樹脂材との接合体。
- 前記粗面構造のめっき膜として、前記基材の表面からめっき金属が薄板面方向を維持して薄板状のまま延出し、多数枚の薄板がランダムに突出して並んだ交錯した形態となるランダム薄板構造のめっき膜が設けられていることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項記載の金属と樹脂材との接合体。
- 前記ランダム薄板構造のめっき膜が、カーボンナノチューブがめっき膜に取り込まれたランダム薄板構造のめっき膜であることを特徴とする請求項5記載の金属と樹脂材との接合体。
- 前記ランダム薄板構造のめっき膜が、粒状の粗面構造を備えるめっき膜であることを特徴とする請求項5または6記載の金属と樹脂材との接合体。
- 前記基材が鋼材であることを特徴とする請求項1~7のいずれか一項記載の金属と樹脂材との接合体。
- 基材の金属の表面に、表面の凹凸がランダムな形態の粗面構造のめっき膜を設ける工程と、
前記粗面構造のめっき膜が設けられた前記基材の面に、前記基材とともに樹脂材を一体成形し、前記基材と樹脂材とが一体に接合された構造材料である金属と樹脂材との接合体を得る工程とを備え、
前記樹脂材を一体成形する工程においては、前記粗面構造のめっき膜の凹凸の隙間を樹脂材で充填するように成形し、JIS K6850に準拠して測定した該接合体の前記粗面構造のめっき膜と前記樹脂材との接合部分の破断強度が、前記樹脂材自体の破断強度を上回る前記接合体を得ることを特徴とする金属と樹脂材との接合体の製造方法。 - 前記粗面構造のめっき膜を設ける工程の前工程として、前記基材の表面に、前記基材との密着性が前記粗面構造のめっき膜よりも優れている下地めっき膜を設ける工程を備えることを特徴とする請求項9記載の金属と樹脂材との接合体の製造方法。
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