JP7173483B2 - 金属と樹脂材との接合体 - Google Patents

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Description

本発明は、金属と樹脂材との接合体に関し、より詳細には、金属と樹脂材との間の接合力を強化した金属と樹脂材との接合体に関する。
金属と樹脂材との接合体は、電気・電子製品や自動車等の各種産業分野において、構造材料として広く利用されている。金属と樹脂材との接合体の例として、たとえば、金属と炭素繊維強化プラスチック(CFRP)等の新素材との接合体は、金属材料と比較して、軽量であり、かつ比強度、耐熱性等の点で優れるという利点がある。
しかしながら、金属と樹脂材との接合体は、金属と樹脂材との熱膨張係数が大きく異なることから、熱履歴に対する接合強度、接合耐久性の点で問題がある。
金属と樹脂材との接合体の接合強度を向上させる方法として、金属の接合面を粗面化加工(凹凸加工)し、金属と樹脂材とを一体化することにより接合強度を向上させる方法が提案されている。金属の接合面を粗面化する方法としては、微細な凹凸を設けた金型を使用してプレス加工により金属表面に凹凸を形成する方法や、ケミカルエッチング、陽極酸化、サンドブラスト、液体ホーニングを利用する方法(特許文献1)、レーザー処理により粗面を形成する方法(特許文献2)等がある。
また、金属材そのものを加工・処理する方法とは別の方法として、めっきを利用して金属の表面に凹凸を設け、めっきにより設けた凹凸を利用して金属と樹脂材とを一体化して接合させる方法も提案されている(特許文献3、4)。
金属の表面に設けた粗面(凹凸)を利用して金属と樹脂材とを一体化することで接合強度が向上する理由は、金属と樹脂材との接着面積が拡大すること、金属と樹脂材との間に作用するアンカー効果による。
特開2011-224974号公報 特開2015-116684号公報 特開2017-71165号公報 特開2017-89004号公報 特開2007-9333号公報 特開2015-42776号公報 特開2016-56401号公報 特開2017-82286号公報
金属と樹脂材との接合体の接合強度を向上させる方法として、金属の表面を粗面化し、あるいは金属の表面にめっきにより粗面を形成することで、金属と樹脂材との接触面積を拡大し、併せてアンカー作用により接合力を増強させる方法は、金属と樹脂材との初期接合強度については所望の接合強度を得ることが可能である。
しかしながら、接合体の接合強度に関する最も重要な課題は、接合体の温度が変動することで接合体に作用する熱応力が繰り返し接合体に作用し、徐々に接合体の接合強度が劣化して所要の接合強度を保持することができなくなることである。
本発明は、金属と樹脂材との接合体の接合強度を高めるとともに、接合体に繰り返し熱応力が作用しても接合強度が劣化することを抑えることができ、耐久性の高い金属と樹脂材との接合体を提供することを目的とする。
本発明に係る金属と樹脂材との接合体は、金属の表面に、表面の凹凸がランダムな形態の粗面構造のめっき膜が設けられ、前記粗面構造のめっき膜を介して前記金属と樹脂材とが一体成形により一体に接合された構造材料である、金属と樹脂材との接合体であって、前記金属は、前記接合体の基材であり、JIS K6850に準拠して測定した、該接合体の前記粗面構造のめっき膜と前記樹脂材との接合部分の破断強度が、前記樹脂材自体の破断強度を上回ることを特徴とする。
また、前記基材の表面に、前記基材の金属と前記粗面構造のめっき膜の双方と良好な密着性を備える下地めっき膜が設けられ、該下地めっき膜の上に前記粗面構造のめっき膜が設けられていること、前記下地めっき膜が、前記金属と前記粗面構造のめっき膜のそれぞれの熱膨張係数の中間の熱膨張係数を備える金属からなることを特徴とする。
また、前記粗面構造のめっき膜として、カーボンナノチューブの複合めっき膜が設けられ、該複合めっき膜は、カーボンナノチューブの基部がめっき膜に埋設され、カーボンナノチューブの先端がめっき膜から突出する形態に設けられていることを特徴とする。
また、前記粗面構造のめっき膜として、前記基材の表面からめっき金属が薄板面方向を維持して薄板状のまま延出し、多数枚の薄板がランダムに突出して並んだ交錯した形態となるランダム薄板構造のめっき膜が設けられていることを特徴とする。なお、ランダム薄板構造のめっき膜は、めっき浴に添加する添加材(ポリアクリル酸)の濃度等のめっき条件を調節することにより、薄板形状とは異なる粒状の粗面構造としたり、粒状と薄板形状とが混在した形態に形成することができる。めっき膜の粗面構造を制御することにより、めっき膜と樹脂との接合性(アンカー効果)を制御することができ、たとえば粒状の粗面構造とすることにより、大きな破断強度を備える接合体を得ることができる。
また、前記ランダム薄板構造のめっき膜が、カーボンナノチューブがめっき膜に取り込まれたランダム薄板構造のめっき膜であることにより、金属と樹脂材との接合強度を向上させることができる。
また、本発明に係る金属と樹脂材との接合体の製造方法は、基材の金属の表面に、表面の凹凸がランダムな形態の粗面構造のめっき膜を設ける工程と、前記粗面構造のめっき膜が設けられた前記基材の面に、前記基材とともに樹脂材を一体成形し、前記基材と樹脂材とが一体に接合された構造材料である金属と樹脂材との接合体を得る工程とを備え、前記樹脂材を一体成形する工程においては、前記粗面構造のめっき膜の凹凸の隙間を樹脂材で充填するように成形し、JIS K6850に準拠して測定した該接合体の前記粗面構造のめっき膜と前記樹脂材との接合部分の破断強度が、前記樹脂材自体の破断強度を上回る前記接合体を得ることを特徴とする。
本発明に係る金属と樹脂材との接合体は、金属の表面に設けた粗面構造のめっき膜を介して金属と樹脂材とを一体化して構成されるから、基材の金属の性質には左右されずに、金属と樹脂材とが強固に接合された接合体として提供することができる。
鋼板の表面にカーボンナノチューブの複合めっきを施した状態のSEM像である。 金属の表面にめっき膜を形成し、めっき膜を介して金属と樹脂材とを一体化する方法を示す説明図である。 金属の表面を凹凸面とし、金属と樹脂材とを一体化して接合体を形成する従来方法を示す説明図である。 基板の金属上に設けたランダム薄板構造のめっき膜を、表面方向と断面方向から見たSEM像である。 銅基板にランダム薄板構造のめっき膜を設けたものと、銅基板に下地ニッケルめっき膜とランダム薄板構造のめっき膜を設けたものの表面SEM像と断面SEM像である。 基板にカーボンナノチューブをめっき膜に取り込んで形成したランダム薄板構造のめっき膜のSEM像である。 電解銅めっきにより作製したランダム薄板構造のめっき膜の断面SEM像、ランダム薄板構造のめっき膜にさらにスズめっきを施したときのSEM像、めっき膜の銅の分布とスズの分布を示す電子線マイクロアナライザー(EPMA)の測定結果を示す図である。 ランダム薄板構造のめっき膜を介して金属と樹脂材とを一体化する方法を示す説明図である。 接合強度の評価試験に用いたサンプルの構成を示す図である。 カーボンナノチューブを添加していない場合(a)と、カーボンナノチューブを添加した場合(b)のめっき面の表面のSEM像とめっき面の面粗度を示すグラフである。。 カーボンナノチューブの添加量を0.25gL-1、0.5gL-1、1.0gL-1、2.0gL-1としたときのめっき膜の表面SEM像である。 複合めっきを施した基材と複合めっきを施していない基材を用いて作成した試験サンプルについて破断強度を測定した結果を示すグラフである。 表1に示す試験サンプルについての破断強度の測定結果を示すグラフである。 試験サンプルが破断される前後における接合面のSEM像である。 試験サンプルの接合面の形態をより拡大して示すSEM像である。 めっき膜と樹脂の界面の断面SEM像(a)と、断面のEDSマッピング図(b)である。 粗面構造のめっき膜の表面SEM像と、面祖度を示すグラフである。 引っ張りせん断試験により得られた破断強度を示すグラフである。 めっき膜と樹脂との界面の断面SEM像である。 めっき膜と樹脂との界面近傍のEDS解析結果を示すグラフである。 破断前後後の基材側の破断表面のSEM像である。 破断後の樹脂側の破断表面のSEM像である。 金属と樹脂材とを一体成形した接合体を加熱して金属と樹脂材とを分離する試験の様子を示す写真である。 (a)は分離後の基材(金属)の外観写真で、金属と樹脂とが接合した範囲を破線で示す。(b)は接合部分の表面SEM像(b)である。 (a)は分離後の樹脂成形部の外観写真で、破線が基材と接合していた部位を示す。(b)は接合部分の表面SEM像である。 基材の表面に設けたニッケル-カーボンナノチューブの複合めっき膜の表面SEM像である。 金属と樹脂材とを一体成形した接合体を加熱して金属と樹脂材とを分離する試験の様子を示す写真である。 (a)は分離後の基材(金属)の外観写真で、金属と樹脂とが接合した範囲を破線で示す。(b)は接合部分の表面SEM像(b)である。 (a)は分離後の樹脂成形部の外観写真で、破線が基材と接合していた部位を示す。(b)は接合部分の表面SEM像である。
(実施の形態1)
本発明に係る金属と樹脂材との接合体の第1の実施の形態は、金属の表面に粗面構造を備えるめっき膜として、カーボンナノチューブの複合めっき膜を備え、前記金属と樹脂材とが、前記粗面構造のめっき膜を介して一体に接合されてなるものである。
カーボンナノチューブの複合めっき膜は、めっき浴中にカーボンナノチューブを懸濁させ、めっき皮膜中にカーボンナノチューブを取り込んで形成される。カーボンナノチューブの複合めっきに用いられるカーボンナノチューブには、単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、カップスタック型カーボンナノチューブ等が使用できる。多層カーボンナノチューブは、二層以上の複数層構成を備えるカーボンナノチューブである。
単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、カップスタック型カーボンナノチューブ等は、複数のメーカーから製品が提供されている。カーボンナノチューブ製品はメーカーによって個々に性状が異なるが、本発明においては、適宜カーボンナノチューブ製品を選択して使用することができる。本明細書では、これらのカーボンナノチューブ製品を総称してカーボンナノチューブという。
カーボンナノチューブの複合めっきに用いるめっき金属としては、Au、Pt、Ag、Cu、Ni、Co、Zn、Fe、Snと、Ni-P、Ni-B、Ni-W、Ni-W-P、Fe-P、Co-W等の合金を挙げることができる。
これらのめっき金属(合金を含む)とカーボンナノチューブ(単層、多層、カップスタック型)との組み合わせは任意に選択することができる。
複合めっき膜に用いるめっき金属及びカーボンナノチューブは、接合体としたときの接合強度等を考慮して、適宜めっき金属とカーボンナノチューブ製品を選択すればよい。
カーボンナノチューブの複合めっき膜は、電解めっき法を利用して金属表面に形成することができる。複合めっき膜の厚さ、複合めっき膜に含有させるカーボンナノチューブの分量についても、金属と樹脂材との接合強度を考慮して、適宜設定することができる。
めっき法を利用してめっき膜を形成する方法は、下地の金属の材質、種類に左右されることなく、めっき条件を適宜制御することにより、所望の形態及び特性を備えるめっき膜を形成することができるという大きな利点がある。
粗面構造のめっき膜として形成するカーボンナノチューブの複合めっき膜は、金属の表面に直に形成することもできるし、金属の表面にあらかじめ下地めっきを設け、この下地めっきの上に設けることもできる。
めっき法により金属の表面にめっき膜を設ける場合は、金属表面とめっき膜との密着強度が、接合体の接合強度に大きく影響する。接合体の金属(基材となる金属)と複合めっきに使用しようとする金属との密着性(接合強度)が十分でないおそれがある場合には、金属と複合めっき膜のめっき金属の双方と良好な密着性を備える金属を選んで、金属に下地めっき膜を設け、この下地めっき膜の上に、カーボンナノチューブの複合めっき膜を設ければよい。
カーボンナノチューブの複合めっき膜に下地めっき膜を設ける理由としては、金属とカーボンナノチューブの複合めっき膜との密着性、接合強度を向上させる、という目的の他に、基材となる金属とカーボンナノチューブの複合めっき膜の熱膨張係数が大幅に異なる場合に、金属と複合めっき膜の間に生じる熱応力を緩和する作用を目的として設けることもできる。金属と複合めっき膜のそれぞれの熱膨張係数の中間の熱膨張係数である金属を下地めっき膜とすることで、金属とカーボンナノチューブの複合めっき膜との間に生じる熱応力を緩和し、金属と樹脂材との接合体の接合強度の耐久性を向上させることができる。
図1は、基材の金属(鋼板:SPCC)の表面に、カーボンナノチューブの複合めっき膜として、多層カーボンナノチューブを用いたニッケル複合めっきを施して粗面構造のめっき膜を形成した例を示す。図1(a)は、多層カーボンナノチューブのニッケル複合めっき膜を平面方向から見たSEM像、図1(b)は断面方向から見たSEM像である。
図1(a)、(b)から、複合めっき膜の表面が微細な凹凸面に形成されていること、複合めっき膜に多層カーボンナノチューブがランダムに取り込まれていること、複合めっき膜の表面から多層カーボンナノチューブの先端が突出する形態にカーボンナノチューブがめっき膜に支持されている様子が分かる。
(金属と樹脂材との接合体)
金属と樹脂材との接合体は、金属の表面にカーボンナノチューブの複合めっき膜を設け、複合めっき膜を介して金属と樹脂材とを一体化することで構成される。
図2に、金属と樹脂材とを一体化して接合体を形成する方法を示す。
図2(a)は、基材の金属10に粗面構造のめっき膜としてカーボンナノチューブの複合めっき膜12を設けた状態である。図2(a)では、複合めっき膜の表面に凹凸が形成されること、カーボンナノチューブ14の基部がめっき膜に埋設され、先端がめっき膜から突出する形態となることを説明的に示すため、矩形の凸部と凸部にカーボンナノチューブ14が支持されている形態として示している。実際には、複合めっき膜は、図1に示すように、複雑な凹凸形態で、ランダムな形態にカーボンナノチューブ14が取り込まれる。
図2(b)は、基材の金属10にカーボンナノチューブの複合めっき膜12を介して、樹脂材20が一体化された状態を示す。図示した樹脂材20は熱可塑性炭素繊維強化プラスチック(CFRTP)であり、この例ではインサート成形により、金属10の表面に樹脂材20を一体成形している。樹脂材20は炭素繊維21と樹脂22との複合材料であり、インサート成形によりカーボンナノチューブの複合めっき膜12を介して金属10と樹脂材20とが一体化される。図2(b)では、炭素繊維21が基材である金属10の表面に平行に積層された図に描いているが、炭素繊維21はこのように平行に配置されるとは限らない。
図2(b)において特徴的な構成は、インサート成形により一体化する操作では、樹脂材(CFRTP)20を構成する樹脂20がカーボンナノチューブの複合めっき膜12の凹凸の隙間にはいり込み、隙間を充填するようにして金属10と樹脂材20とが一体化される点である。炭素繊維21はカーボンナノチューブの複合めっき膜12の凹凸の大きさと比較するとはるかに長繊維であり、炭素繊維21はカーボンナノチューブの複合めっき膜12とは若干離間して配置されることになり、複合めっき膜の凹凸及び凹凸の近傍部分は樹脂22によって充填される。
カーボンナノチューブの複合めっき膜12に設けられる凹凸はランダムできわめて複雑な形態となるから、樹脂22とカーボンナノチューブの複合めっき膜12との接触面積はきわめて大きく、これによって樹脂22とカーボンナノチューブの複合めっき膜12との接合強度を向上させることに寄与する。また、カーボンナノチューブの複合めっき膜12に形成される凹凸は、金属10から樹脂材20とを引き離す方向に対して逆止するアンカー作用を有するから、これによって金属10と樹脂材20との接合強度を向上させることができる。
また、カーボンナノチューブの複合めっき膜12のカーボンナノチューブ14は先端が樹脂22中に突出した状態で一体成形され、樹脂22とカーボンナノチューブ14との結合作用が、樹脂22とカーボンナノチューブの複合めっき膜12とを連結する作用としてさらに加わる。このようにして、カーボンナノチューブの複合めっき膜12を介して樹脂22を接合することによって、基材の金属10と樹脂材20との接合強度を向上させることができる。
また、基材の金属10と樹脂材20との熱膨張係数についてみると、金属の熱膨張係数は1×10-5/Kであるのに対して、樹脂材20に用いられる熱可塑性樹脂の熱膨張係数は5~10×10-5/K程度である(PP=6~10×10-5/K、PA6=6~10×10-5/K、PPS:=5×10-5/K)。一方、カーボンナノチューブの複合めっき膜12を構成するカーボンナノチューブ14の熱膨張係数は略0×10-5/Kであることから、カーボンナノチューブの複合めっき膜12は樹脂材20の熱膨張係数を金属10の熱膨張係数に近づけるように作用する。このようにカーボンナノチューブの複合めっき膜12は、金属10と樹脂材20との熱膨張係数をマッチングさせるように作用し、接合体が温度変化したときに接合体に生じる熱応力を抑え、接合体の耐久性を向上させるように作用する。
図3は、基材の金属10にエッチングあるいはレーザ処理を施して金属10の表面に凹凸10aを形成し、インサート成形により金属10と樹脂材20とを一体化する従来方法を示す。この例では、金属10の表面に凹凸10aが形成されているのみであるから、樹脂材20は、樹脂材20を構成する樹脂22が凹凸10aの隙間に充填されて金属10と樹脂材20とが接合される。
金属10と樹脂材20との接合力は、金属10の表面に形成された凹凸10aと樹脂22との大きな接触面積による吸着作用と、凹凸10aのアンカー作用によるものである。
図3に示す接合方法の場合は、図2(b)に示した実施形態の接合方法と比較して、カーボンナノチューブ14を介して樹脂22が連結されることにより、金属10と樹脂材20とを接合力を増強させる作用が欠如している。
また、図3に示す例では、金属10と樹脂材20とが直接的に連結され、金属10と樹脂材20との間で、熱膨張係数の相違による熱応力が直接的に作用するのに対し、図2(b)に示した例では、カーボンナノチューブの複合めっき膜12が金属10と樹脂材20との中間に介在することで、金属10と樹脂材20との間で作用する熱応力を緩和することができ、接合体に熱サイクルが繰り返し作用した場合の耐久性を向上させることができる。
(第2の実施の形態)
本発明に係る金属と樹脂材との接合体の第2の実施の形態は、金属の表面に、粗面構造のめっき膜として、薄板状のめっき膜がランダムに交錯して析出した形態となるランダム薄板構造のめっき膜を備え、前記金属と樹脂材とが、前記粗面構造のめっき膜を介して一体に接合されてなるものである。
図4に、基材となる金属の表面に粗面構造のめっき膜として、ランダム薄板構造のめっき膜を設けた例を示す。ランダム薄板構造のめっき膜は電解めっきにより形成することができる。図4では基材の金属として銅板を用いている。
図4では、電解めっきの際に通電する通電量を変えて金属(基材)上にランダム薄板構造のめっき膜を設けた例を示す。
ランダム薄板構造のめっき膜は、めっき金属が析出する際に、薄板状にめっき金属が析出するめっき条件に制御することによって形成することができる。本発明者は、電解銅めっきの際のめっき条件を制御することにより、ランダム薄板構造のめっき膜を形成することができることを報告している(特許文献6、7)。
図4は、基板の金属上にランダム薄板構造のめっき膜を表面方向と、断面方向から見たSEM像を示す。
ランダム薄板構造のめっき膜は、図4に示すように、基材(金属)の表面からめっき金属が薄板面方向を維持して薄板状のまま延出するように生長し、基材の表面に対し傾斜して生長するために、めっきを進めていくと薄板状のめっき金属が相互に複雑に交錯したランダムな形態となる。
ランダム薄板構造のめっき膜は、めっき金属からなる薄板の間は空間であり、多数枚の薄板がランダムに突出して並んだ、交錯した形態に形成されることが特徴である。
図4では、電解めっきの際の電流密度が低い場合には、析出するめっき金属の薄板の間隔が広くなり、電流密度を高くすると、薄板の間隔が狭くなることを示す。
めっき金属によって形成される薄板の厚さは0.03μm~0.5μm程度であり、薄板間の間隔は0.5μm~2μm程度である。
図4に示すように、めっき条件を選択することにより、ランダム薄板構造のめっき膜のめっき厚や、薄板構造の薄板の配置密度(間隔)、薄板の厚さを調節することができる。
粗面構造のめっき膜として形成するランダム薄板構造のめっき膜は、金属(基材)の表面に直に形成することもできるし、金属の表面にあらかじめ下地めっきを設け、この下地めっき膜上に設けることもできる。
図5は、銅板を基材としてランダム薄板構造のめっき膜を設けた例と、銅板の基材に下地めっきとしてニッケルめっき膜を形成し、その上にランダム薄板構造のめっき膜を形成した例を示す。ランダム薄板構造のめっき膜は、電解銅めっきにより形成した。
接合体を構成する基材の金属の種類によっては、金属の基材に直に粗面構造のめっき膜を設けるよりも、下地めっき膜を設けて下地めっき膜に粗面構造のめっき膜を設ける方が、接合体全体としての接合強度を向上させることができる場合がある。そのような場合には、適宜下地めっき膜を設けることで接合体の接合強度を増強させ、接合体の耐久性を向上させることが可能である。
前述したように、下地めっき膜の作用としては、接合強度を向上させる他に、基材の金属と樹脂材との熱膨張係数をマッチングさせる作用(熱膨張係数が相異することによる熱応力を緩和する作用)を想定することもでき、熱膨張係数の面から下地めっき膜に用いる金属を選択することももちろん可能である。
図5に示すように、電解めっきによりランダム薄板構造のめっき膜を設ける方法は、下地めっき膜を設けた場合であっても問題になることはなく、適宜めっき条件を選択することにより、下地めっき膜にランダム薄板構造のめっき膜を設けることができる。
図5から、めっき金属が薄板状に生長し、相互に交錯した状態に形成されていることがよくわかる。
(ランダム薄板構造のめっき膜の他の形態)
上述した粗面化構造のめっき膜は、ランダム薄板構造のめっき膜とした例であるが、ランダム薄板構造のめっき膜の他の構成例として、カーボンナノチューブの複合めっきと同様に、カーボンナノチューブをめっき膜に取り込んだランダム薄板構造のめっき膜を形成する方法がある。カーボンナノチューブをめっき膜に取り込んだランダム薄板構造のめっき膜は、本発明者が提案した方法によって作製することができる(特許文献8)。
図6は、電解銅めっきにより、銅基板上に、カーボンナノチューブをめっき膜に取り込んで形成したランダム薄板構造のめっき膜の例を示す。カーボンナノチューブをランダム薄板構造のめっき膜に取り込んだ構成は、めっき金属(銅)が薄板状に析出して薄板がランダムに交錯した形態については、単なる電解銅めっきによる場合と変わらない。カーボンナノチューブをめっき膜に取り込んで形成されたランダム薄板構造のめっき膜の構成で特徴となる構成は、めっき膜に取り込まれたカーボンナノチューブが複数の薄板を突き抜け、複数の薄板間を掛け渡すように連結する構成となる点である。
カーボンナノチューブをめっき膜に取り込んで形成したランダム薄板構造のめっき膜は、めっき金属からなる薄板がカーボンナノチューブにより、かんぬきのように連結されることから、めっき金属のみからなる場合と比較して、めっき膜の強度を向上させることができると考えられる。
また、カーボンナノチューブは薄板間を掛け渡すように取り込まれるから、基材の金属と樹脂材とを一体化したときに、物理的作用により、樹脂材がめっき膜から剥離しないように阻止する作用が働くことが考えられる。
これらの作用により、粗面構造のめっき膜として、カーボンナノチューブをめっき膜に取り込んで形成したランダム薄板構造のめっき膜を設けることで、基材の金属と樹脂材との接合強度を増強させることが可能である。
粗面構造のめっき膜のさらに他の構成例として、めっき条件を適宜設定してランダム薄板構造のめっき膜を形成した後、ランダム薄板構造のめっき膜に他の金属をめっきしてランダム薄板に析出させる(担持させる)方法がある。
図7は、電解銅めっきにより作製したランダム薄板構造のめっき膜の断面SEM像と、ランダム薄板構造のめっき膜にさらにスズめっきを施した場合の断面SEM像と、めっき膜の銅の分布とスズの分布を電子線マイクロアナライザー(EPMA)を用いて分析した結果を示す。
図7は、ランダム薄板構造のめっき膜にスズめっきを施した場合も、ランダム薄板構造が維持されていること、銅の分布とスズの分布の測定結果から、ランダム薄板構造のめっき膜の全体に均一にスズが析出していること(担持されていること)を示す。
この実験結果は、ランダム薄板構造のめっき膜にさらにめっきをすることで、もとのランダム薄板構造のめっき膜に他の金属を複合化することができること、他の金属を複合化する際にランダム薄板構造のめっき膜に均一に複合化することができることから、複合化する金属を選択して使用することにより、粗面構造のめっき膜そのものの強度を調節することができ、粗面構造のめっき膜の熱膨張係数を調節することができることを意味する。
粗面構造のめっき膜の強度を調節したり、熱膨張係数を調節したりすることが可能であることは、粗面構造のめっき膜を介して基材の金属と樹脂材とを接合して構成する接合体の接合強度を向上させ、環境の温度変化にともなって接合体に作用す熱応力を緩和して接合体の耐久性を向上させることができる点で有効である。
(金属と樹脂材との接合体)
図8に、基材である金属の表面に粗面構造のめっき膜として、ランダム薄板構造のめっき膜を設け、金属10と樹脂材20とをランダム薄板構造のめっき膜16を介して一体化して接合体を形成した例を示す。
図8(a)は、ランダム薄板構造のめっき膜16を設けた状態、図8(b)はインサート成形により、金属10と樹脂材20とを一体化した状態を示す。
図8(a)は、金属10の表面にランダム薄板構造のめっき膜16を形成した状態を説明的に示したもので、ランダム薄板構造のめっき膜16はきわめて複雑な形態の三次元構造体として形成される。したがって、ランダム薄板構造のめっき膜16を介して金属10と樹脂材20とを一体的に接合すると、樹脂材20を構成する樹脂22がランダム薄板構造のめっき膜16に形成されている隙間部分に充填され、樹脂材22とランダム薄板構造のめっき膜16とはきわめて大きな接触面積を介して接合されること、ランダム薄板構造のめっき膜16によるアンカー作用によって、金属10と樹脂材20とが強固に連結される。
粗面構造のめっき膜として、前述したカーボンナノチューブをめっき膜に取り込んだランダム薄板構造のめっき膜を設けた場合は、めっき膜に取り込んだカーボンナノチューブの作用により、金属と樹脂材との接合強度をさらに向上させることが可能である。
また、金属10と樹脂材20を一体化したときの、金属10と樹脂材20の熱膨張係数うが相違することに起因する熱応力の作用についてみると、ランダム薄板構造のめっき膜16は薄板状のめっき金属が相互に交差しながら、内部に空間を備える構造体として構成されるから、基材の金属をエッチング等して金属の表面に凹凸を形成した金属と樹脂材とを一体化したものと比較すると、熱応力を緩和する機能がより有効に作用すると考えられる。
また、カーボンナノチューブをめっき膜に取り込んだランダム薄板構造のめっき膜を設けた場合は、カーボンナノチューブの熱膨張係数が金属と樹脂材の双方よりも小さいことを利用すると、ランダム薄板構造のめっき膜の熱膨張係数を実効的に金属と樹脂材との中間の熱膨張係数とすることができ、これによって金属と樹脂材との間に作用する熱応力の作用を抑制することができる。
また、粗面構造のめっき膜を、ランダム薄板構造のめっき膜に他の金属をめっきする構成とする場合に、ランダム薄板構造のめっき膜全体としての熱膨張係数が金属と樹脂材との中間程度の熱膨張係数となるように、他の金属を選択することで、金属と樹脂材との間に生じる熱応力を緩和することができ、接合体の耐久性を向上させることが可能である。
(接合強度の評価試験:1)
基材の金属として冷間圧延鋼材(SPCC)を使用し、基材の金属に接合する樹脂材としてPPS(ポリフェニレンサルファイド樹脂;ガラス繊維40%)を使用し、剛性被着材の引張せん断接着強さ試験(JIS K6850により金属と樹脂材との接合体の接合強度の評価試験を行った。評価試験に用いたサンプルの形状と寸法を図9に示す。
評価試験に使用したサンプルは下記の3種である。
サンプルA:
金属(SPCC)になんらの処理を施さず、金属と樹脂材(PPS)とを一体成形したもの
サンプルB:
金属(SPCC)の表面に粗面構造のめっき膜としてカーボンナノチューブのニッケル複合めっき膜を設け、樹脂材(PPS)と一体成形したもの
サンプルC:
金属(SPCC)の表面に、下地めっきとしてニッケルめっきを施し、ニッケルめっき膜に粗面構造のめっき膜として、銅めっきによりランダム薄板構造のめっき膜を設け、樹脂材(PPS)と一体成形したもの
(サンプルの作製方法)
サンプルBのめっき膜は、下記のめっき条件により形成した。
a)粗面構造のめっき膜
めっき浴組成
NiSO4・6H2O: 1 M
NiCl2・6H2O: 0.2 M
C6H5Na3O7: 0.08 M
ポリアクリル酸(平均分子量5000): 2×10-5 M
カーボンナノチューブ: 2.0 g L-1、1.0 g L-1、0.5 g L-1
電析条件
電流規制法
基板 : SPCC
温度 : 室温
電流密度 : 0.5 A dm-2
通電量 : 2928.3 C dm-2
カーボンナノチューブには多層カーボンナノチューブVGCF(登録商標)を使用し、カーボンナノチューブの添加量が異なる、3種のサンプルを作製した。
サンプルCのめっき膜については、下記のめっき条件によって形成した。
b)下地ニッケルめっき膜
めっき浴組成
NiSO4・6H2O: 1 M
NiCl2・6H2O: 0.2 M
H3BO4 : 0.5M
電析条件
カソード:SPCC
アノード:ニッケル板
めっき面積:10cm2
電流密度 : 10mA cm-2
通電量 : 1.46 C cm-2
めっき温度:25℃ 液量100mL 攪拌:なし
c)粗面構造のめっき膜
めっき浴組成
CuSO4・6H2O: 0.85 M
H2SO4: 0.55 M
ポリアクリル酸(平均分子量5000): 1×10-5 M、5×10-5 M
電析条件
カソード:SPCC
アノード:純銅板
めっき面積:10 cm2
電流密度 : 5 mA cm-2、10 mA cm-2
通電量 : 2.7 C cm-2
めっき温度:25℃ 液量100 mL 攪拌:なし
上記サンプルA、B、Cについて評価試験を行った結果、サンプルBについては、カーボンナノチューブの添加量が1.0 g L-1のサンプルのせん断強度が最大となり、最大せん断強度9.64MPaが得られた。サンプルCについては、ポリアクリル酸濃度5×10-5 、電流密度 5mA cm-2としたサンプルのせん断強度が最大となり、最大せん断強度3.82MPaが得られた。
なお、サンプルAについては、インサート成形後、装置からサンプルを取り出した時点で、基材の金属から樹脂材とが剥離してしまい、せん断強度を測定することができなかった。
上記評価試験結果は、基材の金属の表面に粗面化構造のめっき膜として、カーボンナノチューブの複合めっき膜を設ける方法と、ランダム薄板構造のめっき膜を設ける方法が有効であることを示すものである。
(接合強度の評価試験:2)
金属と樹脂との接合体の接合強度を評価するため、図9に示した試験片を作製し、引っ張りせん断試験を行った。基材の表面に設ける粗面構造のめっき膜として、ニッケル-カーボンナノチューブ複合めっき膜を形成した。カーボンナノチューブの複合めっき膜は、基材の長手方向の一端部に、縦横:12.5mm×25mmの範囲に施し、複合めっきを施した範囲に位置合わせして、樹脂成形した。平板体状に成形した樹脂体の寸法は、厚さ2.0mm、長さ100mm、幅25mm、射出成形条件は、成形温度300℃、金型温度150~160℃、射出圧力121MPa、射出時間1.08sである。射出成形に使用した樹脂は、PPS(ポリフェニレンサルファイド樹脂;ガラス繊維40%)である。
基材(SPPC)の表面に施したニッケル-カーボンナノチューブ複合めっきのめっき条件を以下に示す。
めっき浴組成
NiSO4・6H2O: 1 M
NiCl2・6H2O: 0.2 M
C6H5Na3O7: 0.08 M
ポリアクリル酸: 2×10-5 M
CNT: 0、0.25、0.50、1.0、2.0 (gL-1)
電析条件
基板: 冷間圧延鋼鈑(SPPC)
陽極: Ni
電流密度: 1.0 A dm-1
通電量:2928 C dm-1
浴温: 室温
攪拌: 空気攪拌
めっきに使用したカーボンナノチューブは、多層カーボンナノチューブ(VGCF:登録商標 昭和電工製 直径150nm、長さ10-20μm)である。
図10は、カーボンナノチューブを添加していない場合(図10(a))と、カーボンナノチューブを添加した(1.0gL-1)場合(図10(b))について、基材表面に施しためっき面の表面のSEM像と、めっき面の面粗度の測定例を示す。
ニッケルめっきのみを施したサンプルは表面が光沢面となり、表面は滑らかで面粗度が0.72μm(RMS)となった。一方、カーボンナノチューブの複合めっきを施したサンプルの表面はSEM像からも凹凸面に形成されていることが分かり、面粗度は6.03μm(RMS)で、ニッケルめっきのみの場合と比べて面粗度が10倍程度となった。
図11は、カーボンナノチューブの添加量を0.25gL-1、0.5gL-1、1.0gL-1、2.0gL-1としたときのめっき膜の表面のSEM像を示す。なお、図中に各サンプルの面粗度の測定結果を示す(RMS)。カーボンナノチューブの添加量が少ないと(0.25gL-1、0.5gL-1)、めっき膜中に基材の表面が部分的に露出し(黒く見える部分)、カーボンナノチューブの添加量が増えていくと(1.0gL-1、2.0gL-1)、基材の略全面がめっき膜によって被覆されるようになっていく。このようにめっき膜が基材表面を被覆する形態が、面粗度に影響する。
図12は、カーボンナノチューブの複合めっきを施した金属板(基材)を用いて図9に示す接合体の試験片を製作し、引っ張りせん断試験を行った結果を示す。引っ張りせん断試験は、試験片の接合部を挟む金属板の他端と樹脂体の他端とをそれぞれ引っ張り試験機のチャックに固定支持し、長手方向に逆向きに引っ張り、破断時の値を破断強度とするものである。
図12は、ニッケルめっきを施したものと、ニッケル-カーボンナノチューブの複合めっきを施したもの(CNT:1.0gL-1)についての試験結果を示す。ニッケルめっきのみを施したものは、射出成型機から取り出しただけで基材の金属と樹脂体とが剥離してしまい、破断強度として検出できなかった。一方、ニッケル-カーボンナノチューブの複合めっきを施したサンプル(サンプル数n=6)については破断強度が7.5MPa程度となった。
表1に、カーボンナノチューブの添加量を0.25gL-1、0.5gL-1、1.0gL-1、2.0gL-1としたニッケル-カーボンナノチューブ複合めっきを施した基材を用いて作製した接合体について引っ張りせん断試験を行った結果を示す。
Figure 0007173483000001
図13は表1に示した試験結果をグラフに示したものである。
図13(a)は、横軸をカーボンナノチューブの添加量として破断強度を示したもので、カーボンナノチューブの添加量を多くすると破断強度が低下していく傾向にある。4種のサンプル中で破断強度が最大であったのはカーボンナノチューブの添加量が0.25gL-1のときであった。このとき、試験に使用した複数個のサンプルのうちのいくつかは、接合部ではなく樹脂体自体が破断する結果となり、接合力がきわめて強大であることが確かめられた。
図13(b)は、横軸を面粗度として破断狭路を示してもので、面粗度が大きくなるとともに破断強度が大きくなるとは限らず、最大の破断強度となる面粗度が在ることが推定される。
図14は接合体のサンプルが破断される前後の接合面のSEM像である。図14(a)は試験前のめっき面、図14(b)は試験後(破断後)の基材側(金属側)の接合部分の表面のSEM像、図14(c)は試験後の樹脂体(樹脂成形体)側の接合部分の表面のSEM像である。
図14(b)は、基材側のめっき面については、めっきの形態は大きく変われないことと、カーボンナノチューブが取り去られていることを示す。図14(c)は、破断時に樹脂体が部分的に破壊されていることと、樹脂体側にカーボンナノチューブが取り込まれていることが分かる。すなわち、基材と樹脂とを射出成形(樹脂成形)によって一体化した際に、めっき面の凹凸内に樹脂が入り込み、めっき膜の凹凸をカーボンナノチューブが樹脂体の内部に入り込む(食い込む)ようにして連結されていることを示唆する。
図15は、試験片の接合部の形態をより拡大して示したSEM像である。図15(a)、(b)、(c)は、図14(a)、(b)、(c)と同様に、接合体の試験前後のめっき面、基材側の接合面、樹脂体側の接合面の様子を示す。
図15から、破断後に基材のめっき面からカーボンナノチューブが取り去られていること、めっき面から取り去られたカーボンナノチューブが樹脂体側に取り込まれている様子が分かる。
図16は、基材と樹脂とを一体成形したときのめっき膜と樹脂との界面の状態を見るために観察した、接合部の界面の断面SEM像(図16(a))と、断面のEDSマッピング像(図16(b))を示す。断面SEM像からは、基材の表面にめっきにより複雑形状の凹凸が形成されていること、凹凸にならって樹脂が充填されていることが分かる。
ただし、図16(b)に示すEDS測定結果を詳細に観察すると、めっき膜の凹凸の深部には樹脂が完全に充填されずに空隙として残っている。この空隙部分は、樹脂が流入するときに、めっき金属から剥離したカーボンナノチューブが樹脂とともに送り込まれることで樹脂の充填を阻害し、空隙が残留する結果となっている。
カーボンナノチューブの複合めっきを利用して金属と樹脂とを一体化する方法は、めっき膜が複雑な凹凸面に形成され、凹凸の内部に樹脂が進入して充填されることにより、基材と樹脂との間にきわめて大きなアンカー効果が作用すること、めっき膜に含有されているカーボンナノチューブがめっき膜(基材)と樹脂との間を連結するかんぬきのように作用することで基材と樹脂との連結性(接合性)がさらに高められることによって、きわめて大きな接合力を得ることが可能になる。
なお、基材と樹脂とを射出成形により一体化する際に、カーボンナノチューブの複合めっきに含まれるカーボンナノチューブが樹脂とともに流動することによりめっき膜の凹凸に樹脂の未充填部が残る問題は、基材にカーボンナノチューブの複合めっきを施した後、基材を超音波処理等により処理して、カーボンナノチューブの複合めっき膜から剥離しやすいカーボンナノチューブをあらかじめ除去した後、基材と樹脂との一体樹脂成形により金属と樹脂との接合体を形成すればよい。
(接合強度の評価試験:3)
引っ張りせん断試験に使用する試験片として、基材の表面に施す粗面構造のめっき膜として、銅めっきによりランダム薄板構造のめっき膜を設けた基材を用意し、上記例と同様に射出成形により基材とPPS樹脂とを一体成形し、図9に示す試験片と同形の試験片を作製し、引っ張りせん断試験を行った。
基材と粗面構造のめっき膜との密着性を向上させるため、基材の表面にまず銅のストライクめっきを施し、ストライクめっきを施した表面に粗面構造のランダム薄板構造の銅めっき膜を形成した。ストライクめっきは基材との密着性がきわめて優れるめっきであり、ストライクめっきをランダム薄板構造の銅めっきの下地めっきとすることで、基材とランダム薄板構造の銅めっき膜との密着性を効果的に向上させることができる。
本試験で作成したサンプルの銅ストライクめっき条件を以下に示す。
めっき浴組成
Cu2P2O7: 14 gL-1
K4P2O7: 120 gL-1
電析条件
基板: 冷間圧延鋼鈑(SPPC)
陽極: 純銅板
電流密度 : 10 mA cm-2
通電量 : 1.36 Ccm-2
浴温: 室温
めっき面積: 4×2.5 cm2
攪拌: 空気攪拌
次に、上記銅ストライクめっきを施した基材にランダム薄板構造の銅めっきを施した。めっき条件を以下に示す。
めっき浴組成
CuSO4・6H2O: 0.85 M
H2SO4: 0.55 M
ポリアクリル酸(平均分子量5000): 0、5×10-5M、1×10-4M、2×10-4M
電析条件
基板: 冷間圧延鋼鈑(SPPC)
陽極: 純銅板
電流密度 : 5 mA cm-2
通電量 : 2.7 Ccm-2
めっき温度: 室温
めっき面積: 4×2.5 cm2
攪拌: なし
図17は、上記めっき条件で基材に施した粗面構造のめっき膜の表面のSEM像と、めっき膜の面粗度を示す。ポリアクリル酸の添加量を増やしていくと、めっき膜を構成する銅の薄板の形態が顕著にあらわれるようになり、薄板の厚さがより薄くなって成長していく。これとともにめっき膜の面粗度が高くなっていく。一方、ポリアクリル酸の添加量が少ないときは、めっき膜は表面が粒状の凹凸面になっている。
図18は、試験片を用いて引っ張りせん断試験した結果を示す。横軸がめっき膜の面祖度、縦軸が破断強度である。図18に示す試験結果は、めっき膜の面粗度が大きいサンプルの破断強度が必ずしも高くなく、むしろ面粗度が低いサンプルの破断強度が高くなることを示す。試験したサンプルで、平均破断強度の最大値は4.2MPaであった。
なお、粗面構造のめっき膜を形成していないサンプルについては、射出成型機からサンプルを取り出したところで基材から樹脂の成形体が剥離し、破断強度を測定することができなかった。
図19は、基材と樹脂とを射出成形により一体成形した際の、めっき膜と樹脂との界面の状態を調べるため、基材と樹脂との界面を観察した断面SEM像である。同図で、ポリアクリル酸濃度が5×10-5Mのサンプルは、めっき膜が粒状をなしており、射出成形後も粒状のめっき膜の構造が維持されている。これに対し、ポリアクリル酸濃度が1×10-4Mのサンプルでは、射出成形時の樹脂の圧力によってめっき膜の薄板が変形している様子が見える。さらに、ポリアクリル酸濃度が2×10-4Mのサンプルでは、射出成形時の樹脂圧力によってめっき膜が破断して分離している。
この観察結果から、ポリアクリル酸濃度をめっき膜の薄板状の形態が明確にあらわれる濃度以上にすると、樹脂成形時の樹脂圧力によってめっき膜の薄板が変形あるいはめっき膜が破断され、基材と樹脂体との接合力が低下することが推認される。ポリアクリル酸濃度が2×10-4Mのサンプルで接合強度が極端に低下した理由は、射出成形時にめっき膜が破断され、めっき膜を介して基材と樹脂体とを結合する作用が失われたためである。
図20は、基材と樹脂を射出成形したときに、樹脂がめっき膜の内部に進入している状態を調べるため、めっき膜と樹脂との界面近傍について硫黄のEDS解析を行った結果を示す。図20に示す測定結果は、ポリアクリル酸濃度が低いとき、すなわち粒状の形態にめっき膜が形成されているときは、めっき膜の深部まで樹脂が進入して充填されているのに対して、ポリアクリル酸濃度が高くなると、めっき膜の厚さ方向に完全には樹脂が充填されず、めっき膜の表面近傍のみに樹脂が留まり、深部までに樹脂が進入していないことを示す。
このように樹脂の進入度合いが異なる理由は、めっき膜が粒状に形成されているときは樹脂が進入しやすい空間が形成されるのに対し、めっき膜の薄板形状が顕著になってくると、空隙の形態がランダムで複雑であるために樹脂の進入が阻害されるとともに、樹脂が進入する圧力によって薄板が倒され樹脂が進入する空隙がさらに狭くなるためであると考えられる。めっき膜中への樹脂の進入度合いが異なることにより、めっき膜によるアンカー作用に大小が生じ、前述した破断強度に相異が生じたと考えられる。
図21と図22は、引っ張りせん断試験によって生じた破断面の状態を観察するため、基材側と樹脂体側の接合面を観察したSEM像を示す。図21は引っ張りせん断試験前後の基材のめっき膜の状態を示すものであり、図22は破断後の樹脂体の接合面の表面を示す。
図21を見ると、ポリアクリル酸濃度が5×10-5Mのサンプルについては、破断後のめっき膜は試験前と同様な粒状の形態を維持している。これに対し、ポリアクリル酸濃度が1×10-4Mのサンプルの試験後の破断表面は、めっき膜が部分的に損壊し、薄板状のめっき膜が欠如している。また、ポリアクリル酸濃度が2×10-4Mのサンプルの破断表面は、薄板状に形成されていためっき膜の大部分が破壊され、めっき膜の原形が失われている。
図22に示す樹脂体側の破断表面を見ると、ポリアクリル酸濃度が5×10-5Mのサンプルについては、せん断方向に樹脂が引き延ばされPPS樹脂自体が破断されている。また、ポリアクリル酸濃度が1×10-4Mのサンプルでは樹脂体の破断表面に部分的にめっき膜が転写されている。また、ポリアクリル酸濃度が2×10-4Mのサンプルでは樹脂体側にめっき膜がほとんど転写され樹脂体側にめっき膜の薄板構造が見えている。
図21、22に示す観察結果は、基板にランダム薄板構造のめっき膜として粒状の粗面構造を備えるめっき膜を形成すると、めっき膜と樹脂との界面で破断され、きわめて破断強度の高い破断になるのに対して、ランダム薄板構造のめっき膜として薄板構造が顕著にあらわれるめっき膜として形成すると、めっき膜自体(薄板)の強度が弱いため、めっき膜自体が破断し素材自体(樹脂体の強度)の強度に破断強度が依存するといった大きな破断強度が得られないことを示している。
(接合強度の評価試験:4)
基材の表面に施す粗面構造のめっき膜として、銅めっきによりランダム薄板構造のめっき膜を設けた基材を用意し、上記例と同様に射出成形により基材とPPS樹脂とを一体成形し、前述した試験片と同様の試験片を作製し、引っ張りせん断試験を行った。
基材の表面にまず銅のストライクめっきを施し、次いで粗面化めっきを施した。ストライクめっきと、粗面化めっきのめっき条件を以下に示す。
ストライクめっき
めっき浴組成
Cu2P2O7: 0.042M
K4P2O7: 0.36M
めっき条件
基板: 冷間圧延鋼鈑(SPPC)
陽極: 純銅板
電流密度 : 10 mA cm-2
通電量 : 1.36 Ccm-2
浴温: 室温
めっき面積: 4×2.5 cm2
攪拌: 空気攪拌
粗面化めっき
めっき浴組成
CuSO4・6H2O: 0.85 M
表2に接合強度試験結果を示す。接合強度の評価試験は、ISO 19095引張せん断試験によった。サンプル数は2、金属はSPCC(厚さ1.6mm)、樹脂はPPSである。
Figure 0007173483000002
いずれのサンプルについても平均破断応力として35MPa以上の高い接合強度が得られた。
図23はインサート成形後のサンプルを300℃に加熱したホットプレートにのせ、基材(金属)と樹脂成形部とを分離させる試験を行った様子を示す。図23(a)はホットプレートにサンプルをのせた直後の状態、図23(b)は、ホットプレートでサンプルを加熱開始して12秒後にピンセットで樹脂成形部を持ち上げた状態である。ピンセットで樹脂成形部を持ち上げることにより、基材から樹脂成形部が簡単に分離した。
図24、図25はサンプルを加熱して基材から樹脂成形部を分離した後の基材側(金属側)と樹脂成形部側の接合部分の表面状態を示したものである。
図24(a)は、分離後の基材の外観写真であり、破線範囲が金属と樹脂とが接合した部位を示す。図24(b)は接合部分の表面SEM像である。表面SEM像から分離後の基材の表面がランダムな凹凸形状になっていること、めっき面に樹脂が付着して残っている様子が見られる。
図25(a)は、分離後の樹脂成形部の外観写真であり、破線が基材と接合していた部位を示す。図25(b)は接合部分の表面SEM像である。樹脂成形部の接合面が凹凸面になっており、樹脂が溶融してめっき膜の粗面に樹脂が入り込んで樹脂成形されたことが分かる。
(接合強度の評価試験:5)
基材の表面に施す粗面構造のめっき膜として、カーボンナノチューブの複合めっき膜を設け、射出成形により基材とPPS樹脂とを一体成形し、前述した試験片と同様の試験片を作製し、引っ張りせん断試験を行った。
カーボンナノチューブの複合めっきのめっき条件を以下に示す。
めっき浴組成
NiSO4・6H2O : 1M
NiCl2・6H2O : 0.2M
C6H5Na3O7 : 0.08M
ポリアクリル酸 : 2×10-5M
CNT : 2.0gL-4
なお、CNTには多層カーボンナノチューブ(昭和電工製:直径150nm、長さ10-20μm)を使用した。
めっき条件
基板: 冷間圧延鋼鈑(SPPC)
陽極: Ni
電流密度 : 1.0A dm-2
通電量 : 2928C dm-2
浴温: 室温
攪拌: 空気攪拌
図26は基材の表面に設けたニッケル-カーボンナノチューブの複合めっき膜の表面SEM像である。ニッケルめっき膜中にカーボンナノチューブが取り込まれ、ニッケルの粒がカーボンナノチューブにより連結された構成となっていることが分かる。
上記方法によりニッケル-カーボンナノチューブ複合めっきを施したSPPC基板にPPS樹脂を一体成形した試験片を製作し、前述した実験と同様にISO 19095引張せん断試験を行ったところ、破断強度(せん断強度)32.4MPaの測定結果が得られた。
図27は、一体成形後の試験片を300℃に加熱したホットプレートで加熱し、基材と樹脂成形部とを分離した試験の様子を示す。この実験においても、300℃で12秒加熱し、ピンセットで樹脂成形部を引き上げることで樹脂成形部と基材とが分離した。
図28、図29は、サンプルを加熱して基材から樹脂成形部を分離した後の、基材と樹脂成形部の接合部の表面状態を観察した結果を示す。
図28(b)は基材表面のニッケル-カーボンナノチューブ複合めっきを施した部位の表面SEM像であり、カーボンナノチューブが取り込まれためっき膜が基材側に残留し、めっき膜に部分的に樹脂が残っている様子が分かる。
図29(b)は樹脂成形部の接合面の表面SEM像である。樹脂の表面が波打っているのは、樹脂が溶融して流れたことを示している。また、接合面に凹凸面が見られること、樹脂成形部側には複合めっき膜が付着していないことが分かる。
10 金属
12 カーボンナノチューブの複合めっき膜
14 カーボンナノチューブ
16 ランダム薄板構造のめっき膜
20 樹脂材
21 炭素繊維
22 樹脂

Claims (10)

  1. 金属の表面に、表面の凹凸がランダムな形態の粗面構造のめっき膜が設けられ、
    前記粗面構造のめっき膜を介して前記金属と樹脂材とが一体成形により一体に接合された構造材料である、金属と樹脂材との接合体であって、
    前記金属は、前記接合体の基材であり、
    JIS K6850に準拠して測定した、該接合体の前記粗面構造のめっき膜と前記樹脂材との接合部分の破断強度が、前記樹脂材自体の破断強度を上回ることを特徴とする金属と樹脂材との接合体。
  2. 前記基材の表面に、前記基材の金属と前記粗面構造のめっき膜の双方と良好な密着性を備える下地めっき膜が設けられ、該下地めっき膜の上に前記粗面構造のめっき膜が設けられていることを特徴とする請求項1記載の金属と樹脂材との接合体。
  3. 前記下地めっき膜が、前記金属と前記粗面構造のめっき膜のそれぞれの熱膨張係数の中間の熱膨張係数を備える金属からなることを特徴とする請求項2記載の金属と樹脂材との接合体。
  4. 前記粗面構造のめっき膜として、カーボンナノチューブの複合めっき膜が設けられ、該複合めっき膜は、カーボンナノチューブの基部がめっき膜に埋設され、カーボンナノチューブの先端がめっき膜から突出する形態に設けられていることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項記載の金属と樹脂材との接合体。
  5. 前記粗面構造のめっき膜として、前記基材の表面からめっき金属が薄板面方向を維持して薄板状のまま延出し、多数枚の薄板がランダムに突出して並んだ交錯した形態となるランダム薄板構造のめっき膜が設けられていることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項記載の金属と樹脂材との接合体。
  6. 前記ランダム薄板構造のめっき膜が、カーボンナノチューブがめっき膜に取り込まれたランダム薄板構造のめっき膜であることを特徴とする請求項5記載の金属と樹脂材との接合体。
  7. 前記ランダム薄板構造のめっき膜が、粒状の粗面構造を備えるめっき膜であることを特徴とする請求項5または6記載の金属と樹脂材との接合体。
  8. 前記基材が鋼材であることを特徴とする請求項1~7のいずれか一項記載の金属と樹脂材との接合体。
  9. 基材の金属の表面に、表面の凹凸がランダムな形態の粗面構造のめっき膜を設ける工程と、
    前記粗面構造のめっき膜が設けられた前記基材の面に、前記基材とともに樹脂材を一体成形し、前記基材と樹脂材とが一体に接合された構造材料である金属と樹脂材との接合体を得る工程とを備え、
    前記樹脂材を一体成形する工程においては、前記粗面構造のめっき膜の凹凸の隙間を樹脂材で充填するように成形し、JIS K6850に準拠して測定した該接合体の前記粗面構造のめっき膜と前記樹脂材との接合部分の破断強度が、前記樹脂材自体の破断強度を上回る前記接合体を得ることを特徴とする金属と樹脂材との接合体の製造方法。
  10. 前記粗面構造のめっき膜を設ける工程の前工程として、前記基材の表面に、前記基材との密着性が前記粗面構造のめっき膜よりも優れている下地めっき膜を設ける工程を備えることを特徴とする請求項9記載の金属と樹脂材との接合体の製造方法。
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