JP7153488B2 - 肉盛用又は溶射用の粉末 - Google Patents

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本発明は、肉盛法又は溶射法に適した粉末に関する。
金型の補修に、肉盛法が採用されている。肉盛法により、金型の表面に肉盛部(被覆層)が形成される。肉盛法による金型の補修の一例が、特開2011-245488公報に記載されてる。
近年は、レーザークラッドによる肉盛法が普及している。この肉盛法では、Cを含む合金粉末が用いられうる。Cは、肉盛部の硬度、強度及び耐摩耗性に寄与しうる。
特開2011-245488公報
肉盛法では、粉末が高温にさらされる。このとき、粉末に含まれるCが大気中の酸素ガスと反応し、COガスが生成する。COガスは、大気へと放出される。COガスの多量の放出が生じた後の肉盛部では、Cの含有率が低い。この肉盛部の硬度は、低い。この肉盛部は、強度及び耐摩耗性に劣る。
COガスの放出に起因する低強度及び低耐摩耗性の問題は、肉盛法のみならず、溶射法でも見られる。
本発明の目的は、肉盛法及び溶射法においてCOガスの放出が抑制され、従って被覆層における高いCの含有率が達成されうる粉末の提供にある。
本発明に係る肉盛用又は溶射用の粉末の材質は、Fe又はCoを主成分とする合金である。この合金は、
C:0.03質量%以上2.6質量%以下
Si:0.05質量%以上1.0質量%以下
Mn:0.10質量%以上1.0質量%以下
及び
Cr:3.0質量%以上30質量%以下
を含む。この合金はさらに、Ca、Dy、Gd、La、Nd、Y、Al及びZrからなる群から選択された1種又は2種以上の元素Xを含む。この合金における、下記数式によって算出される値TEは、0.00083以上0.0083以下である。
Figure 0007153488000001

この数式において、nは元素Xに含まれる元素種類数を表し、Pxiは元素X中のi番目の元素の含有率(質量%)を表し、AWiは元素X中のi番目の元素の原子量を表す。
好ましくは、値TEは、0.0025以上0.0058以下である。
好ましくは、元素Xは、Al及び/又はZrである。
他の観点によれば、本発明に係る被覆層は、その材質がFe又はCoを主成分とする合金である粉末から得られる。この合金は、
C:0.03質量%以上2.6質量%以下
Si:0.05質量%以上1.0質量%以下
Mn:0.10質量%以上1.0質量%以下
及び
Cr:3.0質量%以上30質量%以下
を含む。この合金はさらに、Ca、Dy、Gd、La、Nd、Y、Al及びZrからなる群から選択された1種又は2種以上の元素Xを含む。この合金における、下記数式によって算出される値TEは、0.00083以上0.0083以下である。この被覆層における、元素Xの酸化物の数密度は、5個/μm以上80個/μm以下である。
Figure 0007153488000002

この数式において、nは元素Xに含まれる元素種類数を表し、Pxiは元素X中のi番目の元素の含有率(質量%)を表し、AWiは元素X中のi番目の元素の原子量を表す。
本発明に係る粉末が肉盛法又は溶射法に供されても、COガスが発生しにくい。この粉末が用いられた肉盛法及び溶射法では、Cの含有率が十分に大きい被覆層が得られる。この被覆層の硬度は大きい。この被覆層は、強度及び耐摩耗性に優れる。
本発明に係る粉末の材質は、合金である。この合金は、
Fe又はCo:ベース
C:0.03質量%以上2.6質量%以下
Si:0.05質量%以上1.0質量%以下
Mn:0.10質量%以上1.0質量%以下
Cr:3.0質量%以上30質量%以下
及び
元素X:含有率Px(Pxは、下記数式を満たす)
を含む。元素Xは、Ca、Dy、Gd、La、Nd、Y、Al及びZrからなる群から選択された1種又は2種以上である。以下、この合金における各元素の役割が詳説される。
[鉄(Fe)及びコバルト(Co)]
この合金のベース元素は、Fe又はCoである。換言すれば、この合金は、Fe基合金又はCo基合金である。Fe基合金及びCo基合金は、強度及び耐摩耗性に優れる。この合金からなる粉末は、特に金型の補修に適している。合金のベース元素は、Feのみであってもよく、Coのみであってもよく、FeとCoとの両方であってもよい。
[炭素(C)]
Cは、Fe及びCoに固溶する。Cは、粉末から得られた被覆層の硬度、強度及び耐摩耗性に寄与しうる。この観点から、Cの含有率は0.03質量%以上が好ましく、0.10質量%以上がより好ましく、0.4質量%以上が特に好ましい。Cの含有率は、2.6質量%以下が好ましい。この含有率が2.6質量%以下である粉末から得られた被覆層は、靱性に優れる。この観点から、含有率は2.0質量%以下がより好ましく、1.5質量%以下が特に好ましい。
[ケイ素(Si)]
Siは、Fe及びCoに固溶する。Siは、粉末から得られた被覆層の強度及び耐ヒートチェック性に寄与しうる。この観点から、Siの含有率は0.05質量%以上が好ましく、0.10質量%以上がより好ましく、0.2質量%以上が特に好ましい。Siの含有率は、1.0質量%以下が好ましい。この含有率が1.0質量%以下である粉末から得られた被覆層は、靱性に優れる。この観点から、含有率は0.8質量%以下がより好ましく、0.5質量%以下が特に好ましい。
[マンガン(Mn)]
Mnは、粉末から得られた被覆層の硬度及び強度に寄与しうる。この観点から、Mnの含有率は0.10質量%以上が好ましく、0.15質量%以上がより好ましく、0.20質量%以上が特に好ましい。Mnの含有率は、1.0質量%以下が好ましい。この含有率が1.0質量%以下である粉末から得られた被覆層は、靱性に優れる。この観点から、含有率は0.8質量%以下がより好ましく、0.5質量%以下が特に好ましい。
[クロム(Cr)]
Crは、Fe及びCoへの他の元素の固溶に寄与する。Crは、被覆層の耐食性及び耐ヒートチェック性に寄与しうる。この観点から、Crの含有率は3.0質量%以上が好ましく、3.5質量%以上がより好ましく、4.0質量%以上が特に好ましい。Crの含有率は、30質量%以下が好ましい。この含有率が30質量%以下である粉末から得られた被覆層は、靱性に優れる。この観点から、含有率は20質量%以下がより好ましく、15質量%以下が特に好ましい。
[元素X]
元素Xは、Ca、Dy、Gd、La、Nd、Y、Al及びZrからなる群から選択された1種又は2種以上である。元素Xの酸素ガスとの反応性は、Cの酸素ガスとの反応性に比べると、高い。元素Xを含有する粉末が肉盛法、溶射法等に用いられると、元素Xが優先的に酸素ガスと反応する。従って、酸素ガスとのCの反応が、抑制される。この粉末から得られた被覆層には、十分な量のCが残存する。この被覆層の硬度は、高い。この被覆層は、強度及び耐摩耗性に優れる。
元素Xが酸素ガスと反応することで、酸化物が生成しうる。この酸化物は、被覆層に分散しうる。この分散は、被覆層の硬度を高める。この被覆層は、強度及び耐摩耗性に優れる。
この合金における、下記数式によって算出される値TEは、0.00083以上0.0083以下である。
Figure 0007153488000003

この数式において、nは元素Xに含まれる元素種類数を表し、Pxiは元素X中のi番目の元素の含有率(質量%)を表し、AWiは元素X中のi番目の元素の原子量を表す。
値TEが0.00083以上である粉末から、十分な量のCが残存する被覆層が得られうる。さらに、値TEがこの範囲である粉末から、十分な量の酸化物が分散する被覆層が得られうる。値TEがこの範囲である粉末から得られた被覆層は、強度及び耐摩耗性に優れる。一方、値TEが0.0083以下である粉末から、靱性に優れた被覆層が得られうる。
被覆層の耐摩耗性及び強度の観点から、値TEは0.0025以上が好ましい。被覆層の靱性の観点から、値TEは0.0058以下が好ましい。
上記数式に代入される、各元素の原子量AWは、以下の通りである。
Ca:40.08
Dy:162.50
Gd:157.25
La:138.91
Nd:144.24
Y:88.91
Al:26.98
Zr:91.22
好ましい元素Xは、Al及びZrである。Alが酸素ガスと反応することで、酸化物であるAlが生成する。Zrが酸素ガスと反応することで、酸化物であるZrOが生成する。これらの酸化物の分散は、被覆層の硬度を高める。この被覆層は、強度及び耐摩耗性に優れる。合金が、AlとZrとの両方を含有してもよい。
本発明に係る粉末に特に適した合金の組成は、以下の通りである。
Fe又はCo:ベース
C:0.03質量%以上2.6質量%以下
Si:0.05質量%以上1.0質量%以下
Mn:0.10質量%以上1.0質量%以下
Cr:3.0質量%以上30質量%以下
元素X:上記数式を満たす量
残部:不可避的不純物
[元素M]
合金が、タングステン(W)、モリブデン(Mo)及びバナジウム(V)からなる群から選択された1種又は2種以上の元素Mを含有してもよい。この元素Mは、被覆層の強度に寄与する。元素Mの合計の含有率は0.5質量%以上が好ましく、1.0質量%以上がより好ましく、1.5質量%以上が特に好ましい。この含有率は、25質量%以下が好ましい。
[粉末の製造]
本発明に係る粉末は、アトマイズ法、粉砕法等によって製造されうる。アトマイズ法として、ガスアトマイズ法、水アトマイズ法及びディスクアトマイズ法が例示される。合金に不純物が混入しにくいとの観点から、ガスアトマイズ法及びディスクアトマイズ法が好ましい。合金に不純物が混入しにくいとの観点から、不活性ガス雰囲気でのアトマイズが好ましい。量産性の観点から、ガスアトマイズが好ましい。
[金型の補修]
本発明に係る粉末が用いられた肉盛法又は溶射法により、金型が補修される。肉盛法及び溶射法では、粉末の粒子に圧縮ガス等によって速度が与えられる。加速されて進行中の粒子が、加熱手段にて加熱される。加熱手段として、ガスの燃焼炎、プラズマ、レーザー等が挙げられる。加熱により、粒子は溶融状態又は半溶融状態となる。この粒子が金型に衝突させられ、凝固する。凝固により、粒子同士が結合する。粒子は、下地である金型とも結合する。結合により、肉盛部(被覆層)が形成される。粒子が金型に衝突した後に、加熱がなされてもよい。粒子が金型に接触した状態で、加熱がなされてもよい。
[Cの残存率]
肉盛部(又は被覆層)におけるCの残存率Pcは、90%以上が好ましく、93%以上がより好ましく、96%以上が特に好ましい。残存率Pcが高い肉盛部は、高硬度である。残存率Pcは、下記の数式によって算出される。
Pc = (P2 / P1) * 100
この数式において、P1は粉末におけるCの含有率(質量%)を表し、P2は肉盛部(又は被覆層)におけるCの含有率(質量%)を表す。
[酸化物の数密度]
被覆層における、元素Xの酸化物の数密度Doは、5個/μm以上が好ましい。数密度Doが5個/μm以上である被覆層は、高硬度である。この観点から、数密度Doは8個/μm以上がより好ましく、10個/μm以上が特に好ましい。数密度Doは、80個/μm以下が好ましい。酸化物の数密度Doは、顕微鏡にて合金が観察されることで算出される。合金の、1000000/μmのゾーン存在する酸化物の個数がカウントされて、数密度Doが算出される。
以下、実施例によって本発明の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるべきではない。
[SKH57]
[実施例1]
所定の組成を有する原料を、準備した。この原料は、表1に示されるSKH57をベースとし、これに表2に示されるように0.050質量%のCaを添加することで得られた。この原料を、真空中にてアルミナ製坩堝で、高周波誘導加熱法にて加熱した。この加熱によって原料を溶融させ、溶湯を得た。坩堝下にある直径が5mmのノズルから、溶湯を落下させた。この溶湯に、高圧アルゴンガスを噴霧し、実施例1の粉末を得た。
[実施例2-50及び比較例1-10]
添加元素の種類と量とを下記の表2及び3に示される通りとした他は実施例1と同様にして、実施例2-50及び比較例1-10の粉末を得た。
[SKH51]
[実施例51]
所定の組成を有する原料を、準備した。この原料は、表1に示されるSKH51をベースとし、これに表4に示されるように0.288質量%のNdを添加することで得られた。この原料を、真空中にてアルミナ製坩堝で、高周波誘導加熱法にて加熱した。この加熱によって原料を溶融させ、溶湯を得た。坩堝下にある直径が5mmのノズルから、溶湯を落下させた。この溶湯に、高圧アルゴンガスを噴霧し、実施例51の粉末を得た。
[実施例52-100及び比較例11-20]
添加元素の種類と量とを下記の表4及び5に示される通りとした他は実施例51と同様にして、実施例52-100及び比較例11-20の粉末を得た。
[SKD11]
[実施例101]
所定の組成を有する原料を、準備した。この原料は、表1に示されるSKD11をベースとし、これに表6に示されるように0.170質量%のGdを添加することで得られた。この原料を、真空中にてアルミナ製坩堝で、高周波誘導加熱法にて加熱した。この加熱によって原料を溶融させ、溶湯を得た。坩堝下にある直径が5mmのノズルから、溶湯を落下させた。この溶湯に、高圧アルゴンガスを噴霧し、実施例101の粉末を得た。
[実施例102-150及び比較例21-30]
添加元素の種類と量とを下記の表6及び7に示される通りとした他は実施例101と同様にして、実施例102-150及び比較例21-30の粉末を得た。
[試作合金]
[実施例151]
所定の組成を有する原料を、準備した。この原料は、表1に示される試作合金をベースとし、これに表8に示されるように0.174質量%のLaを添加することで得られた。この原料を、真空中にてアルミナ製坩堝で、高周波誘導加熱法にて加熱した。この加熱によって原料を溶融させ、溶湯を得た。坩堝下にある直径が5mmのノズルから、溶湯を落下させた。この溶湯に、高圧アルゴンガスを噴霧し、実施例151の粉末を得た。
[実施例152-200及び比較例31-40]
添加元素の種類と量とを下記の表8及び9に示される通りとした他は実施例151と同様にして、実施例152-200及び比較例31-40の粉末を得た。
[肉盛部の形成]
厚さが20mmである板を用意した。各実施例及び各比較例の粉末を用い、レーザー肉盛法により、この板の上に肉盛部(被覆層)を形成した。この肉盛部では、長さは100mmであり、厚さは10mmであった。なお、板の材質は、適用される粉末の材質と同じとした。
[数密度のカウント]
前述の方法にて、添加元素の酸化物の数密度Doをカウントした。この結果が、下記の表2-9に示されている。
[硬さの測定]
「JIS Z 2244」の規定に準拠して、肉盛部のビッカース硬度を測定した。この結果が、下記の表2-9に示されている。
[抗折強度の測定]
肉盛部から、幅が5mmであり、長さが50mmであり、厚さが3mmである試験片を切り出した。この試験片を用い、「JIS Z 2248」の規定に準拠して、抗折強度を測定した。5回の測定の平均値が、下記の表2-9に示されている。
Figure 0007153488000004
Figure 0007153488000005
Figure 0007153488000006
上記表3における、元素X以外の添加元素の原子量は、以下の通りである。
P:30.97
Mg:24.31
Ti:47.90
Figure 0007153488000007
Figure 0007153488000008
Figure 0007153488000009
Figure 0007153488000010
Figure 0007153488000011
Figure 0007153488000012
表2-9に示されるように、各実施例の粉末は総合評価に優れている。この評価結果から、本発明の優位性は明らかである。
本発明に係る粉末は、種々の肉盛法及び溶射法に用いられうる。

Claims (6)

  1. その材質がFe又はCoを主成分とする合金である粉末であって、
    上記合金が、
    C:0.03質量%以上2.6質量%以下
    Si:0.05質量%以上1.0質量%以下
    Mn:0.10質量%以上1.0質量%以下
    及び
    Cr:3.0質量%以上30質量%以下
    を含んでおり、
    上記合金が、W、Mo及びVからなる群から選択された1種又は2種以上の元素Mを含んでおり、
    上記元素Mの含有率が0.5質量%以上25質量%以下であり、
    上記合金がさらに、Ca、Dy、Gd、La、Nd、Y、Al及びZrからなる群から選択された1種又は2種以上の元素Xを含んでおり、
    残部が不可避的不純物であり、
    上記合金における、下記数式によって算出される値TEが、0.00083以上0.0083以下である肉盛用又は溶射用の粉末。
    Figure 0007153488000013
    (上記数式において、nは元素Xに含まれる元素種類数を表し、Pxiは元素X中のi番目の元素の含有率(質量%)を表し、AWiは元素X中のi番目の元素の原子量を表す。)
  2. 上記値TEが0.0025以上0.0058以下である請求項1に記載の粉末。
  3. 上記元素Xが、Al及び/又はZrである請求項1又は2に記載の粉末。
  4. その材質がFe又はCoを主成分とする合金である粉末から得られた被覆層であって、
    上記合金が、
    C:0.03質量%以上2.6質量%以下
    Si:0.05質量%以上1.0質量%以下
    Mn:0.10質量%以上1.0質量%以下
    及び
    Cr:3.0質量%以上30質量%以下
    を含んでおり、
    上記合金がさらに、Ca、Dy、Gd、La、Nd、Y、Al及びZrからなる群から選択された1種又は2種以上の元素Xを含んでおり、
    上記合金における、下記数式によって算出される値TEが、0.00083以上0.0083以下であり、
    上記被覆層における、上記元素Xの酸化物の数密度が、5個/μm以上80個/μm以下である被覆層。
    Figure 0007153488000014
    (上記数式において、nは元素Xに含まれる元素種類数を表し、Pxiは元素X中のi番目の元素の含有率(質量%)を表し、AWiは元素X中のi番目の元素の原子量を表す。)
  5. 上記値TEが0.0025以上0.0058以下である請求項4に記載の被覆層。
  6. 上記元素Xが、Al及び/又はZrである請求項4又は5に記載の被覆層。
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