JP7152213B2 - 樹脂組成物及びこれを用いた被覆電線 - Google Patents

樹脂組成物及びこれを用いた被覆電線 Download PDF

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Description

本発明は、樹脂組成物及びこれを用いた被覆電線に関する。
自動車に配索される被覆電線の被覆層は、ポリエチレンなどを含む樹脂組成物により形成されているため、難燃性を付与することが求められている。従来、難燃性を付与するために、金属酸化物を含む複数種の難燃剤を併用することが提案されている。
例えば特許文献1には、ポリエチレン重合体100重量部に対して、難燃剤5~100重量部が配合されている放射線架橋性ポリエチレン組成物が記載されている。そして、特許文献1では、有機ハロゲン化合物と三酸化アンチモンなどの金属酸化物を難燃剤として併用することが記載されている。
特開昭62-192435号公報
三酸化アンチモンなどの金属酸化物は、ハロゲン化合物との共存化で高い難燃性を発揮するものの、樹脂組成物の酸化分解を促進するため、金属酸化物が含まれた樹脂組成物は耐熱性が低下する傾向にある。
また、近年、例えば自動車業界では、難燃性が要求される樹脂部品には、高い耐熱性が求められるようになってきている。そのため、高い難燃性を維持しつつ、耐熱性も良好な樹脂組成物が求められている。
本発明は、このような従来技術が有する課題に鑑みてなされたものである。そして本発明の目的は、高い難燃性を維持しつつ、耐熱性も良好な樹脂組成物及びこれを用いた被覆電線を提供することにある。
本発明の第1の態様に係る樹脂組成物は、熱可塑性樹脂と、ハロゲン系難燃剤と、細孔径が8Å以下であるゼオライトと、を含有する。
本発明の第2の態様に係る樹脂組成物は、第1の態様の樹脂組成物に関し、熱可塑性樹脂とゼオライトとからなる樹脂組成物の中点温度と、ハロゲン系難燃剤の中点温度との差が100℃以内である。中点温度は、流入ガスが空気、加熱速度が20℃/分の条件下において、熱重量測定により得られる。
本発明の第3の態様に係る樹脂組成物では、第1又は第2の態様の樹脂組成物に関し、ハロゲン系難燃剤は臭素系難燃剤であり、ハロゲン系難燃剤の含有量は、100質量部の熱可塑性樹脂に対して5質量部~40質量部である。
本発明の第4の態様に係る被覆電線は、第1乃至第3のいずれかの態様における樹脂組成物により形成された被覆層と、被覆層により被覆される導体と、を備える。
本発明によれば、高い難燃性を維持しつつ、耐熱性も良好な樹脂組成物及びこれを用いた被覆電線を提供することができる。
本実施形態に係る被覆電線の一例を示す断面図である。 比較例7と実施例15の樹脂組成物を示差熱分析(DTA)で測定した結果を比較する図である。 比較例7の樹脂組成物の熱重量示差熱分析(TG-DTA)で測定した結果を示す図である。 実施例15(n=1)の樹脂組成物を熱重量示差熱分析(TG-DTA)で測定した結果を示す図である。 実施例15(n=2)を樹脂組成物の熱重量示差熱分析(TG-DTA)で測定した結果を示す図である。 比較例7と実施例16の樹脂組成物を示差熱分析(DTA)で測定した結果を比較する図である。 比較例7と比較例8の樹脂組成物を示差熱分析(DTA)で測定した結果を比較する図である。 発生ガス分析-質量分析(EGA-MS)で測定したときのトータルイオンクロマトグラムである。 検出対象をm/z=732として発生ガス分析-質量分析(EGA-MS)で測定したときのクロマトグラムである。 参考例3~参考例6における熱処理時間と引張伸びとの関係を示すグラフである。 参考例1,参考例2及び参考例6における熱処理時間と引張伸びとの関係を示すグラフである。 実施例20,実施例21及び比較例13の樹脂組成物を示差熱分析(DTA)で測定した結果を比較する図である。 実施例20,実施例21及び比較例13の樹脂組成物を熱重量測定(TG)で評価した結果を比較する図である。
以下、図面を用いて本発明の実施形態に係る樹脂組成物及びこれを用いた被覆電線について詳細に説明する。なお、図面の寸法比率は説明の都合上誇張されており、実際の比率と異なる場合がある。
[樹脂組成物]
ポリエチレンなどの熱可塑性樹脂が熱分解する際には、活性が非常に高いプロトンが発生することが知られている。このプロトンの発生に起因してハロゲン系難燃剤が分解し、例えば臭化水素(HBR)のような不燃性ガスが発生する。この不燃性ガスは、樹脂組成物の燃焼の抑制に寄与している。
しかしながら、熱可塑性樹脂にハロゲン系難燃剤を添加しただけでは、十分な難燃性が得られない。これは、ハロゲン系難燃剤自体の熱分解温度が、熱可塑性樹脂の熱分解温度よりも高い傾向にあることにも起因していると考えられる。また、難燃性を向上させるために三酸化アンチモンなどの金属酸化物を添加すると耐熱性が低下する傾向にある。
ところが、本実施形態のように、熱可塑性樹脂に、ハロゲン系難燃剤と、特定のゼオライトを添加することで、高い難燃性を維持しつつ、耐熱性も良好な樹脂組成物が得られることが見出された。
具体的には、本実施形態の樹脂組成物は、後述するような特定のゼオライトを含有しているため、熱可塑性樹脂の熱分解温度が高温側にシフトし、樹脂組成物の耐熱性が向上していると考えられる。また、ゼオライトは、熱可塑性樹脂の熱分解温度を高温側にシフトさせ、活性の高いプロトンの発生をハロゲン系難燃の分解温度に近い領域で起こさせることで、ハロゲン系難燃剤の分解による不燃性ガスの発生をコントロールしていると考えられる。すなわち、熱可塑性樹脂の熱分解が、高温側にシフトし、ハロゲン系難燃剤の分解温度に近い領域で生じるため、不燃性ガスが効率よく発生し、樹脂組成物の難燃性の向上に寄与していると考えられる。以下、本実施形態の詳細について説明する。
(熱可塑性樹脂)
熱可塑性樹脂には、例えば、ポリエチレン、エチレン系共重合体、ポリプロピレン、熱可塑性エラストマーなどが含まれる。
ポリエチレンには、高密度ポリエチレン(HDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、超低密度ポリエチレン(VLDPE)などが含まれる。これらのポリエチレンは単独で用いてもよく、複数種を混合して用いてもよい。ポリエチレンは、少量のコモノマーを含む共重合体であってもよい。ポリエチレンは、エチレン単量体の単独重合体、エチレン単量体及び5mol%以下のα-オレフィレン単量体の共重合体、並びにエチレン単量体及び官能基に炭素、酸素又は水素原子だけを持つ1mol%以下の非オレフィン単量体の共重合体であってもよい。
エチレン系共重合体は、2種類以上の単量体を用いて重合させたものを用いることができる。エチレン系共重合体は、エチレン単量体及び5mol%を超えるエチレン単量体以外のオレフィレン単量体の共重合体、並びにエチレン単量体及び1mol%を超える非オレフィン単量体の共重合体である。エチレン系共重合体としては、例えば、エチレン-ビニルエステル共重合体、エチレン-α,β-不飽和カルボン酸及び/又はそのアルキルエステル共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン-メチルメタクリレート共重合体(EMMA)、エチレン-メチルアクリレート共重合体(EMA)、エチレン-エチルアクリレート共重合体(EEA)、エチレン-ブチルアクリレート共重合体(EBA)、エチレン-酢酸ビニル-エチルアクリレート共重合体などを挙げることができる。これらのエチレン系共重合体は単独で用いてもよく、複数種を混合して用いてもよい。なお、本実施形態におけるエチレン系共重合体は、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)及びエチレン-エチルアクリレート共重合体(EEA)、エチレン-酢酸ビニル-エチルアクリレート共重合体の少なくともいずれか一つを用いることが好ましい。このようなエチレン系共重合体を用いることにより、被覆電線の柔軟性や引張強度などの機械特性を向上させることができる。
エチレン系共重合体に含まれるコモノマーの含有量は特に限定されないが、5質量%~45質量%の範囲内にあることが好ましく、15質量%~25質量%の範囲内にあることがより好ましい。コモノマーの含有量をこのような範囲内とすることにより、被覆電線の柔軟性や引張強度などの機械特性を向上させることができる。なお、本実施形態でいうコモノマーは、エチレンモノマー以外のモノマーである。
ポリプロピレンとしては、プロピレンを主成分とするプロピレン以外のα-オレフィンとのブロック共重合体又はランダム共重合体などの公知のプロピレン重合体が挙げられる。ポリプロピレンとしては、例えば、プロピレン単独重合体、プロピレン-エチレンランダム共重合体、プロピレン-α-オレフィンランダム共重合体、プロピレン・エチレン-α-オレフィンランダム共重合体などが挙げられる。なお、ここでいう主成分とは、ポリプロピレンを重合するのに用いられたモノマー全体に対してプロピレン単量体が50%以上であることを意味する。
熱可塑性エラストマーとして、オレフィン系熱可塑性エラストマー及びスチレン系の熱可塑性エラストマーの少なくともいずれか一方を用いることができる。
オレフィン系熱可塑性エラストマーは、オレフィン系樹脂からなるハードセグメントと、オレフィン系ゴムからなるソフトセグメントとを含む。オレフィン系熱可塑性エラストマーとしては、ハードセグメントのマトリックス中にソフトセグメントをドメインとして微分散させたポリマーアロイが代表的であるが、ハードセグメントとソフトセグメントとの共重合させたものも用いることができる。オレフィン系樹脂としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレンなどを用いることができる。オレフィン系ゴムとしては、例えばエチレン-プロピレンゴム(EPM)、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)などが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、複数種を混合して用いてもよい。
スチレン系熱可塑性エラストマーとして、芳香族ビニル系重合体からなるハードセグメントと共役ジエン系重合体からなるソフトセグメントとを含むブロック共重合体又はランダム共重合体が挙げられる。芳香族ビニル系重合体を構成するモノマーとしては、例えばスチレン、α-メチルスチレン、α-エチルスチレン、α-メチル-p-メチルスチレン等のα位置換スチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、エチルスチレン、2,4,6-トリメチルスチレン、o-t-ブチルスチレン、p-t-ブチルスチレン、p-シクロヘキシルスチレン等の芳香族置換スチレンなどが挙げられる。共役ジエン系重合体を構成するモノマーとしては、ブタジエン、イソプレン、及びメチルペンタジエン等が挙げられる。共役ジエン系重合体としては、例えばスチレン-ブタジエンゴム(SBR)、ニトリルゴム(NBR)、及びブチルゴム(IIR)などを用いてもよい。これらは単独で用いてもよく、複数種を混合して用いてもよい。
(ハロゲン系難燃剤)
ハロゲン系難燃剤は、熱可塑性樹脂の燃焼を促進するヒドロキシルラジカルを捕捉し、樹脂組成物の燃焼を抑制することができる。ハロゲン系難燃剤は、例えば、有機化合物に少なくとも1つ以上のハロゲンが置換した化合物であってもよい。ハロゲン系難燃剤としては、例えば、フッ素系難燃剤、塩素系難燃剤、臭素系難燃剤、ヨウ素系難燃剤が挙げられる。ハロゲン系難燃剤は、単独で用いてもよく、複数種を混合して用いてもよい。ハロゲン系難燃剤は、臭素系難燃剤又は塩素系難燃剤であることが好ましく、臭素系難燃剤であることがより好ましい。
塩素系難燃剤には、例えば、塩素化ポリエチレン、塩素化パラフィン、パークロロシクロペンタデカン等が含まれる。
臭素系難燃剤には、例えば、1,2-ビス(ブロモフェニル)エタン、1,2-ビス(ペンタブロモフェニル)エタン、ヘキサブロモベンゼン、エチレンビス-ジブロモノルボルナンジカルボキシイミド、エチレンビス-テトラブロモフタルイミド、テトラブロモビスフェノールS、トリス(2,3-ジブロモプロピル-1)イソシアヌレート、ヘキサブロモシクロドデカン(HBCD)、オクタブロモフェニルエーテル、テトラブロモビスフェノールA(TBA)、TBAエポキシオリゴマー又はポリマー、TBA-ビス(2,3-ジブロモプロピルエーテル)、デカブロモジフェニルオキシド、ポリジブロモフェニレンオキシド、ビス(トリブロモフェノキシ)エタン、エチレンビス-ペンタブロモベンゼン、ジブロモエチル-ジブロモシクロヘキサン、ジブロモネオペンチルグリコール、トリブロモフェノール、トリブロモフェノールアリルエーテル、テトラデカブロモジフェノキシベンゼン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジブロモフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシエトキシ-3,5-ジブロモフェニル)プロパン、ペンタブロモフェノール、ペンタブロモトルエン、ペンタブロモジフェニルオキシド、ヘキサブロモジフェニルエーテル、オクタブロモジフェニルエーテル、デカブロモジフェニルエーテル、オクタブロモジフェニルオキシド、ジブロモネオペンチルグリコールテトラカルボナート、ビス(トリブロモフェニル)フマルアミド、N-メチルヘキサブロモフェニルアミン等が含まれる。
臭素系難燃剤の臭素量は、50%~90%であることが好ましく、70%~90%であることがより好ましい。臭素系難燃剤の臭素量をこのような範囲とすることにより、ヒドロキシルラジカルの捕捉効果が高くなるため、樹脂組成物の難燃性をより向上させることができる。なお、臭素系難燃剤の臭素量とは、臭素系難燃剤の分子量に対する臭素系難燃剤を構成する合計の臭素原子量の百分率を意味する。すなわち、臭素系難燃剤の分子量に対する臭素系難燃剤を構成する合計の臭素原子量の百分率は、50%~90%であることが好ましく、70%~90%であることがより好ましい。
樹脂組成物におけるハロゲン系難燃剤の含有量は、100質量部の熱可塑性樹脂に対して5質量部~40質量部であることが好ましい。ハロゲン系難燃剤の含有量を5質量部以上とすることにより、樹脂組成物の難燃性を向上させることができる。また、ハロゲン系難燃剤の含有量を40質量部以下とすることにより、機械的特性を維持しつつ、必要以上のハロゲン系難燃剤を用いずにすむことから、樹脂組成物のコストを低減させることができる。
(ゼオライト)
本実施形態の樹脂組成物は、ゼオライトを含有する。樹脂組成物にゼオライトが添加されることによって、樹脂組成物が分解する温度を高くすることができる。ゼオライトは、アルミノケイ酸塩の一種であり、一般式Mx/n・[(AlO・(SiO]・zHOで表すことができる。なお、一般式中、Mは価数nのカチオンであり、x+yは単位格子当たりの四面体数であり、zは水のモル数であり、yはxよりも大きい値である。価数1のカチオン種としては、Li、Na、Kなどが挙げられ、価数2のカチオン種としてはCa2+、Mg2+、Ba2+などが挙げられる。
一般的に、ゼオライトは多孔質であり、細孔を有する。ゼオライトは、細孔径よりも小さい分子を吸着することができるが、細孔径よりも大きい分子は細孔の中に入ることができないため、分子篩効果及びイオン交換機能を有することが知られている。本実施形態では、ゼオライトが熱可塑性樹脂の熱分解と、ハロゲン系難燃剤の発生とのタイミングを制御することにより、樹脂組成物の耐熱性及び難燃性を向上させることができていると考えられる。
本実施形態において、ゼオライトの細孔径は8Å以下である。ゼオライトの細孔径が8Å以下の場合には、熱可塑性樹脂の熱分解温度が高くなることを確認できており、熱可塑性樹脂の分解が抑制され、可燃性ガスの発生も抑制されると考えられる。その結果、樹脂組成物の耐熱性及び難燃性が向上すると考えられる。ゼオライトの細孔径は、ゼオライトの結晶構造に由来している。なお、ゼオライトの細孔径は1Å以上であることが好ましく、3Å以上であることがより好ましい。また、ゼオライトの細孔径は7Å以下であることが好ましい。ゼオライトの細孔径は、例えばHorvath-Kawazoe法などによって測定することができる。
ゼオライトのカチオン種は、水素イオン(H)、カリウムイオン(K)、カルシウムイオン(Ca2+)及びアンモニウムイオン(NH )などが挙げられる。ゼオライトのカチオン種については、その種類の違いにより、熱可塑性樹脂の熱分解挙動に与える影響が異なる。熱可塑性樹脂の熱分解温度を向上させるという観点からは、ゼオライトの固体酸触媒としての効果を抑制するNH ,K及びCa2+などのカチオン種が好ましい。
ゼオライトの平均粒子径は特に限定されないが、0.1μm~50μmであることが好ましく、1μm~30μmであることがより好ましく、5μm~20μmであることがさらに好ましい。ゼオライトの平均粒子径は、樹脂組成物の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)などで観察することにより測定することができる。
ゼオライトには、天然ゼオライト、合成ゼオライト、人工ゼオライトが含まれる。天然ゼオライトは、自然界で産出され、廉価であるものが多いといった特徴を有する。合成ゼオライトは、純度の高い化学物質を原料とし、純度が高いといった特徴を有する。人工ゼオライトは、石炭灰に代表される未利用資源などを原料とし、天然ゼオライトと比較して純度が高く、人工ゼオライトと比較して廉価であるといった特徴を有する。これらのなかでも、ゼオライトは、合成ゼオライト及び人工ゼオライトの少なくともいずれか一方であることが好ましい。これらのゼオライトは、天然ゼオライトと比較すると、均一な構造を有し、熱可塑性樹脂の熱分解の制御が比較的容易であるためである。
ゼオライトの構造は、細孔径が8Å以下であれば特に限定されない。ゼオライトの構造には、例えば、A型、ベータ型、MCM-22、ZSM-5、フェリエライト、及びモルデナイトなどが含まれる。
ゼオライトにおけるアルミナに対するシリカの比率(SiO/Al比)は特に限定されない。シリカ/アルミナ比は、例えば、2~10000である。
樹脂組成物におけるゼオライトの含有量は、特に限定されないが、100質量部の熱可塑性樹脂に対して0.1質量部~30質量部であることが好ましく、1質量部~25質量部であることがより好ましく、2質量部~20質量部であることがさらに好ましい。
本実施形態の樹脂組成物では、熱可塑性樹脂とゼオライトとからなる樹脂組成物の中点温度と、ハロゲン系難燃剤の中点温度との差が100℃以内であることが好ましい。なお、熱可塑性樹脂とゼオライトからなる樹脂組成物にはハロゲン系難燃剤は含まれない。これらの中点温度の差を100℃以内とすることにより、熱可塑性樹脂の熱分解と、ハロゲン系難燃剤の分解による不燃性ガスの発生とが同時に起こりやすくなるため、樹脂組成物の難燃性を向上させることができる。中点温度は、流入ガスが空気、加熱速度が20℃/分の条件下において、熱重量測定により得ることができる。具体的には、中点温度は、JIS K7120:1987(プラスチックの熱重量測定方法)の規定に準じて熱重量測定(TG)を実施して得ることができる。
本実施形態の樹脂組成物には、本実施形態の効果を妨げない範囲で種々の添加剤を適量配合することができる。添加剤としては、酸化防止剤、金属不活性剤、架橋助剤、難燃助剤、老化防止剤、滑剤、充填剤、補強剤、紫外線吸収剤、安定剤、可塑剤、顔料、染料、着色剤、帯電防止剤、発泡剤等が挙げられる。これらの添加剤の含有量は特に限定されず、目的に応じて適宜定めることができる。
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤及びアミン系酸化防止剤などのラジカル連鎖防止剤、リン系酸化防止剤及びイオウ系酸化防止剤などの過酸化物分解剤、並びに、ヒドラジン系酸化防止剤及びアミン系酸化防止剤などの金属不活性剤など、熱可塑性樹脂などに用いられる公知の酸化防止剤を使用することができる。酸化防止剤は、単独で用いてもよく、複数種を混合して用いてもよい。
酸化防止剤は、酸化防止効果とブリードアウトによる不具合を考慮して、適宜添加量を調製すればよい。本実施形態では、ゼオライトの添加により耐熱性が向上するため、酸化防止剤を単体で用いる場合と比較して、少ない量で効果を発現させることが期待できる。樹脂組成物における酸化防止剤の含有量は、100質量部の熱可塑性樹脂に対し、0.5質量部~10質量部であることが好ましい。酸化防止剤の含有量を0.5質量部以上とすることにより耐熱性を向上させることができる。また、酸化防止剤の含有量を10質量部以下とすることによりブリードアウトを低減させることができる。
架橋剤としては、多官能性化合物を用いることができる。このような架橋剤としては、例えば、アクリレート系化合物、メタクリレート系化合物、アリル系化合物又はビニル系化合物などの多官能性化合物が挙げられる。
(メタ)アクリレート系化合物は、末端にアクリル基を有する多官能性化合物である。(メタ)アクリレート系化合物としては、例えば、1,1-メタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,2-エタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,3-プロパンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ビニル(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、グリセリルトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。なお、(メタ)アクリレートには、アクリレート及びメタクリレートが含まれる。
アリル系化合物は、末端にアリル基を有する多官能性化合物である。アリル系化合物としては、例えば、ジアリルマレエート、ジアリルイタコネート、ジアリルマロネート、ジアリルフタレート、ジアリルベンゼンホスフォネート、トリアリルホスフェート、トリアリルシアヌレートなどが挙げられる。
ビニル系化合物は、末端にビニル基を有する多官能性化合物である。ビニル系化合物としては、例えば、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジビニルエーテルなどが挙げられる。
これらの多官能性化合物は単独で用いてもよく、複数種を混合して用いてもよい。なお、これらの多官能性化合物の中でも、熱可塑性樹脂との親和性が優れていることから、トリメチロールプロパントリメタクリレートを用いることが好ましい。
また、樹脂組成物における架橋剤の含有量は、100質量部の熱可塑性樹脂に対して、0.1質量部~5質量部であることが好ましく、0.8質量部~2質量部であることがより好ましい。このような範囲とすることにより、強度が高く、柔軟性にすぐれた被覆電線を得ることができる。
本実施形態では、ゼオライトの添加により難燃性が向上するが、難燃助剤をさらに添加することにより、耐熱性を維持しつつ、さらに難燃性を向上させることができる。難燃助剤には、三酸化アンチモンなどの金属酸化物が含まれる。また、難燃助剤の添加量は目的に応じて適宜変更することができる。
以上のように、本実施形態の樹脂組成物は、熱可塑性樹脂と、ハロゲン系難燃剤と、細孔径が8Å以下であるゼオライトと、を含有する。本実施形態では、ゼオライトが熱可塑性樹脂の熱分解と、ハロゲン系難燃剤の発生とのタイミングを制御することにより、樹脂組成物の耐熱性及び難燃性を向上させることができていると考えられる。
[被覆電線]
本実施形態の被覆電線1は、上記樹脂組成物により形成された被覆層3と、被覆層3により被覆される導体2と、を備える。上述の樹脂組成物は難燃性及び耐熱性に優れているため、このような樹脂組成物により形成された被覆層3を備える被覆電線は、例えば自動車用の被覆電線1として好ましく用いることができる。
本実施形態の被覆電線1の被覆層3を形成する樹脂組成物は、上述の樹脂組成物を溶融混練することにより作製されるが、その方法は公知の手段を用いることができる。例えば、あらかじめヘンシェルミキサー等の高速混合装置を用いてプリブレンドした後、バンバリーミキサー、ニーダー、ロールミル等の公知の混練機を用いて混練することにより、樹脂組成物を得ることができる。
図1は、本実施形態の被覆電線1の一例を示す。被覆電線1は、導体2を被覆層3で被覆することにより形成されている。
導体2は、1本の素線のみで構成されてもよく、複数本の素線を束ねて構成されたものであってもよい。そして導体2は、導体径や導体の材質などについて特に限定されるものではなく、用途に応じて適宜定めることができる。導体2の材料としては、銅、銅合金及びアルミニウム、アルミニウム合金等の公知の導電性金属材料を用いることができる。
本実施形態の被覆電線1における被覆層3は、上述のように、上記材料を溶融混練することにより作製されるが、その方法は公知の手段を用いることができる。さらに、導体2を被覆層3で被覆する方法も公知の手段を用いることができる。例えば、被覆層3は、一般的な押し出し成形法により形成することができる。そして、押し出し成形法で用いる押出機としては、例えば単軸押出機や二軸押出機を使用し、スクリュー、ブレーカープレート、クロスヘッド、ディストリビューター、ニップル及びダイスを有するものを使用することができる。
被覆層3を構成する樹脂組成物を作製する場合には、樹脂が十分に溶融する温度に設定された押出機に、樹脂組成物を投入する。この際、ハロゲン系難燃剤、さらには必要に応じて、金属酸化物及び酸化防止剤などの他の成分も押出機に投入する。そして、樹脂組成物はスクリューにより溶融及び混練され、一定量がブレーカープレートを経由してクロスヘッドに供給される。溶融した樹脂組成物は、ディストリビューターによりニップルの円周上へ流れ込み、ダイスにより導体2の外周上に被覆された状態で押し出されることにより、導体2の外周を被覆する被覆層3を得ることができる。
このように本実施形態の被覆電線1では、一般の電線用樹脂組成物と同様に押し出し成形により被覆層3を形成することができる。なお、被覆層3の強度を向上させるために、導体2の外周に被覆層3を形成した後、放射線や電子線を照射し、樹脂組成物の架橋処理を行ってもよい。その結果、被覆層3の強度を向上させることが可能となる。
放射線は、例えば、γ線又は電子線を放射線源として使用することができる。これらを混合後の被覆層に照射線を照射することにより、分子中にラジカルが発生し、これらラジカル同士がカップリングして分子間の架橋結合を形成する。その結果、被覆層3の強度を向上させることが可能となる。なお、被覆層3に、放射線によって活性化する架橋剤を更に配合して、被覆層3の強度をより向上させることもできる。
なお、樹脂組成物の加工方法に関して、樹脂材料の混練方法、導体2への被覆方法、さらには熱架橋や電子線架橋などの樹脂材料の架橋方法は、目的に沿って最適な工法を選択することができ、特に限定されない。そのため、加工方法は、本発明の要旨の範囲内で種々の変形が可能である。
上記実施形態に係る樹脂組成物は難燃性及び耐熱性に優れている。そのため、このような樹脂組成物により形成された被覆層3を備える被覆電線1は、例えば自動車用のワイヤーハーネスとして好ましく用いることができる。具体的には、ワイヤーハーネスは、被覆電線1を備えていてもよい。
以下、本実施形態を実施例及び比較例によりさらに詳細に説明するが、本実施形態はこれらの実施例に限定されるものではない。
下記の材料を、樹脂ミキサー(株式会社東洋精機製作所製)を用い、表に示す配合量(質量部)で溶融混練し、各例の樹脂組成物を作製した。そして、得られた樹脂組成物の難燃性及び耐熱性を評価した。
[熱可塑性樹脂]
(1)ノバテック(登録商標)HB432E(日本ポリエチレン株式会社製)
高密度ポリエチレン(HDPE)
熱重量測定(TG)による中点温度391℃
(2)スミカセン(登録商標)C215(住友化学株式会社製)
低密度ポリエチレン(LDPE)
熱重量測定(TG)による中点温度400℃
(3)ノバテック(登録商標)LD400(日本ポリエチレン株式会社製)
低密度ポリエチレン(LDPE)
熱重量測定(TG)による中点温度395℃
(4)エルバロイ(登録商標)AC1820(三井デュポンポリケミカル株式会社製)
エチレン-メチルアクリレート共重合体(EMA)
熱重量測定(TG)による中点温度380℃
(5)ノバテック(登録商標)LV430(日本ポリエチレン株式会社製)
エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)
熱重量測定(TG)による中点温度430℃
[ゼオライト]
(1)HSZ(登録商標)720KOA(東ソー株式会社製)
フェリエライト、SiO/Al=18、細孔径4.8Å、カチオン種K
(2)HSZ(登録商標)722HOA(東ソー株式会社製)
フェリエライト、SiO/Al=18、細孔径4.8Å、カチオン種H
(3)HSZ(登録商標)640HOA(東ソー株式会社製)
モルデナイト、SiO/Al=18、細孔径7Å、カチオン種H
(4)HSZ(登録商標)360HUA(東ソー株式会社製)
Y型、SiO/Al=15、細孔径9Å、カチオン種H
(5)HSZ(登録商標)990HOA(東ソー株式会社製)
β型、SiO/Al=1500、細孔径6.5Å、カチオン種H
(6)HSZ(登録商標)941HOA(東ソー株式会社製)
β型、SiO/Al=40、細孔径6.5Å、カチオン種H
(7)HSZ(登録商標)720NHA(東ソー株式会社製)
フェリエライト、SiO/Al=18、細孔径4.8Å、カチオン種NH
[ハロゲン系難燃剤]
(1)SAYTEX(登録商標)8010(Albemarle Corporation製)
臭素系難燃剤
1,2-ビス(ペンタブロモフェニル)エタン
臭素量82%
熱重量測定(TG)による中点温度430℃
(2)SAYTEX(登録商標)BT-93/W
臭素系難燃剤
エチレンビステトラブロモフタルイミド
臭素量67%
熱重量測定(TG)による中点温度435℃
[酸化防止剤]
(1)Irganox(登録商標)1010(BASF製)
(2)アデカスタブ(登録商標)AO-412S(株式会社ADEKA製)
(3)アデカスタブ(登録商標)CDA-10(株式会社ADEKA製)
[金属酸化物]
(1)三酸化アンチモン PATOX(登録商標)M(日本精鉱株式会社)
Figure 0007152213000001
Figure 0007152213000002
Figure 0007152213000003
[評価]
<難燃性>
樹脂組成物を長さ130mm、幅15mm及び厚さ0.5mmの短冊状のシートに成形し、試験サンプルを作製した。次に、試験サンプルの一端をクランプで固定し、試験サンプルの長片軸及び短片軸を水平面に対してそれぞれ45度傾斜させた状態で固定した。そして、試験サンプルを固定した方とは反対側の端部にブンゼンバーナーの炎を近づけて15秒静止させ、その後ブンゼンバーナーを試験サンプルから遠ざけた。そして、各試験サンプルを以下の基準に基づき評価した。
◎:ブンゼンバーナーを試験サンプルから遠ざけた直後に消炎した。
○:試験サンプルの固定部まで炎が到達せずに消炎した。
×:炎が消炎せず、試験サンプルの固定部まで炎が到達した。
<耐熱性>
耐熱性は、JIS K6723:1995(軟質ポリ塩化ビニルコンパウンド)の規定に準じ、加熱後引張試験を実施することにより評価した。試験サンプルは、樹脂組成物を1mm厚の樹脂シートに成形した後、JIS K6251:2010(加硫ゴム及び熱可塑性ゴム-引張特性の求め方)に規定されたダンベル状3号形を打ち抜いて作製した。次に、試験サンプルを100℃のオーブンに入れ、800時間及び1200時間加熱した後、オーブンから取り出し、室温(約23℃)で12時間放置した。そして、加熱した試験サンプルを、引張試験によって測定し、以下の基準に基づき評価した。なお、引張試験は、室温(23℃)において200mm/分の引張速度で実施した。
◎:伸びの残率が1200時間の加熱で100%以上。
○:伸びの残率が800時間の加熱で100%以上かつ1200時間の加熱で100%未満。
×:伸びの残率が800時間の加熱で100%未満。
表1及び表2に示すように、実施例1~実施例14の樹脂組成物は、難燃性及び耐熱性に優れていた。さらに、実施例6~実施例14の樹脂組成物には、酸化防止剤及び金属酸化物が含まれているため、難燃性及び耐熱性がより優れていた。
一方、表3に示すように、比較例1~比較例3の樹脂組成物には金属酸化物が含まれており、難燃性は優れているものの、耐熱性は十分ではなかった。また、比較例4の樹脂組成物には酸化防止剤が含まれており、耐熱性は優れているものの、難燃性は十分ではなかった。さらに、比較例5の樹脂組成物には酸化防止剤及び金属酸化物が含まれており、難燃性は優れているものの、耐熱性は十分ではなかった。また、比較例6の樹脂組成物には細孔径が9Åのゼオライトが含まれているが、難燃性及び耐熱性は十分ではなかった。
表1~表3の結果から、細孔径が8Å以下のゼオライトを樹脂組成物に添加することにより、樹脂組成物の難燃性及び耐熱性が向上することが分かる。
次に、熱重量示差熱分析(TG-DTA)により、異なる細孔径のゼオライトを含む樹脂組成物の挙動を評価した。
上記実施例及び比較例と同様に、上述した材料を、樹脂ミキサー(株式会社東洋精機製作所製)を用い、表4に示す配合量(質量部)で溶融混練し、各例の樹脂組成物を作製した。そして、得られた樹脂組成物を熱重量示差熱分析(TG-DTA)によって評価した。
Figure 0007152213000004
[評価]
<熱重量示差熱分析(TG-DTA)>
熱重量示差熱分析(TG-DTA)装置を用い、以下の条件で樹脂組成物を熱重量示差熱分析した。
サンプル重量 4mg~6mg
流入ガス 空気(100mL/分)
容器 白金製
測定温度 室温から600℃まで
加熱速度 20℃/分
熱重量示差熱分析(TG-DTA)によって得られた結果について、実施例15、実施例16及び比較例8と、比較例7とを比較したグラフをそれぞれ図2~図7に示す。図2~図7に示すように、ポリエチレン系樹脂と臭素系難燃剤を含む樹脂組成物に、それぞれゼオライトを添加すると、樹脂組成物の分解挙動が変化することが分かる。特に、実施例15の樹脂組成物は、ピークが大きく高温側にシフトすることが確認できた。この結果から、特定のゼオライトが熱可塑性樹脂に添加されることにより、熱可塑性樹脂の熱分解が抑制されると考えられる。すなわち、ゼオライトは、熱可塑性樹脂が本来有する熱分解温度を変化させることが可能であると考えられる。
次に、上記実施例及び比較例と同様に、上述した材料を、樹脂ミキサー(株式会社東洋精機製作所製)を用い、表5に示す配合量(質量部)で溶融混練し、各例の樹脂組成物を作製した。そして、得られた樹脂組成物を加熱処理後、発生ガス分析-質量分析(EGA-MS)によって評価した。
Figure 0007152213000005
[評価]
<発生ガス分析-質量分析(EGA-MS)>
発生ガス分析-質量分析(EGA-MS)では、加熱炉(EGA)で昇温しながら熱分解を行い、随時発生したガス成分を質量分析(MS)で測定した。測定条件は、以下の通りである。
(1)発生ガス分析(EGA)条件
流入ガス He
測定温度 50℃から700℃まで
加熱速度 20℃/分
(2)GC条件
カラム EGAチューブ(2.5m×0.15mm)
スプリット比 50:1
注入部温度 335℃
オーブン温度 300℃(32.5分)
(3)MS条件
イオン源温度 250℃
インターフェース温度 280℃
検出電圧 600V
図8は、発生ガス分析-質量分析(EGA-MS)で測定したときのトータルイオンクロマトグラムである。図9は、検出対象をm/z=732として発生ガス分析-質量分析(EGA-MS)で測定したときのクロマトグラムであり、ハロゲン系難燃剤が分解して不燃性ガスである臭化水素が発生する挙動を示している。なお、不燃性ガスの代表として臭化水素(m/z=80.91)に着眼して分析を行ったが、炭化水素の分解物とマススペクトルが重なってしまい、分解が困難であった。そのため、臭化水素の生成に伴い出現すると考えられるm/z=732の成分を確認した。比較例9と比較例10の比較結果から、m/z=732の成分は、臭素系難燃剤(1,2-ビス(ペンタブロモフェニル)エタン:分子量971.22)から臭素原子(原子量79.90)が3つ取れた化学構造体であると考えられる。
図8及び図9から、実施例17~実施例19の樹脂組成物における分解挙動は、不燃性ガスの発生挙動と一致していることが確認できた。すなわち、実施例17~実施例19の樹脂組成物においては、熱可塑性樹脂の熱分解に伴い、不燃性ガスが発生することが分かる。なお、不燃性ガスは、ハロゲン系難燃剤の分解温度に近い領域で樹脂が分解する方が好ましい。
次に、上記実施例及び比較例と同様に、上述した材料を、樹脂ミキサー(株式会社東洋精機製作所製)を用い、表6に示す配合量(質量部)で溶融混練し、各例の樹脂組成物を作製した。そして、得られた樹脂組成物を加熱後引張試験によって評価した。
Figure 0007152213000006
[評価]
<加熱後引張試験>
加熱後引張試験は、JIS K6723:1995(軟質ポリ塩化ビニルコンパウンド)の規定に準じて測定した。試験サンプルは、樹脂組成物を1mm厚の樹脂シートに成形した後、JIS K6251:2010(加硫ゴム及び熱可塑性ゴム-引張特性の求め方)に規定されたダンベル状3号形を打ち抜いて作製した。次に、試験サンプルを100℃のオーブンに入れ、0時間、300時間、600時間、800時間、1200時間及び1500時間加熱した後、オーブンから取り出し、室温(約23℃)で12時間放置した。そして、加熱した試験サンプルを、引張試験で測定し、以下の基準に基づき評価した。なお、引張試験は、室温(23℃)において200mm/分の引張速度で実施した。
図10及び図11は、各例における熱処理時間と引張伸びとの関係を示すグラフである。図10及び図11に示すように、参考例1~実施例4の樹脂組成物は、参考例6の樹脂組成物と比較して、熱処理をしたときの引張伸びが向上しており、樹脂組成物の耐熱性が向上していた。一方、参考例5の樹脂組成物は、参考例6の樹脂組成物と、熱処理をしたときの引張伸びが同等であり、樹脂組成物の耐熱性に大きな変化が見られないことが分かった。これらの結果から、ゼオライトの細孔径を小さくすることによって、樹脂組成物の耐熱性が向上することが分かる。
なお、参考例4と参考例6の樹脂組成物を300時間と1000時間それぞれ加熱処理したときの分子量の変化を表7に示す。
Figure 0007152213000007
表7に示すように、参考例4の樹脂組成物の分子量は、加熱処理が300時間と1000時間とでほとんど変化が見られなかった。一方、参考例6の樹脂組成物の分子量は、加熱処理が300時間の場合と比較して大幅な低下が見られた。これらの結果からも、細孔径が小さいゼオライトを樹脂組成物に添加することが、耐熱性の向上に寄与していることが分かる。
次に、上記実施例及び比較例と同様に、上述した材料を、樹脂ミキサー(株式会社東洋精機製作所製)を用い、表8に示す配合量(質量部)で溶融混練し、各例の樹脂組成物を作製した。そして、得られた樹脂組成物を熱重量示差熱分析(TG-DTA)装置によって評価した。
Figure 0007152213000008
[評価]
<熱重量示差熱分析(TG-DTA)>
熱重量示差熱分析(TG-DTA)装置を用い、以下の条件で樹脂組成物を評価した。
サンプル重量 4mg~6mg
流入ガス 空気(100mL/分)
容器 白金製
測定温度 室温から600℃まで
加熱速度 20℃/分
示差熱分析(DTA)によって得られた結果を図12に示す。また、熱重量測定(TG)によって得られた結果を図13に示す。図12及び図13に示すように、細孔径が8Å以下のゼオライトを樹脂組成物に添加することにより、ゼオライトのカチオン種が異なっていても、樹脂組成物の熱分解温度を上昇させることができることが分かる。
以上の結果から、熱可塑性樹脂にハロゲン系難燃剤と特定のゼオライトが添加されることにより、樹脂組成物の耐熱性及び難燃性が向上することが示された。
以上、本発明を実施例によって説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形が可能である。
1 被覆電線
2 導体
3 被覆層

Claims (2)

  1. 熱可塑性樹脂と、
    ハロゲン系難燃剤と、
    細孔径が8Å以下であるゼオライトと、
    を含有し、
    前記熱可塑性樹脂と前記ゼオライトとからなる樹脂組成物の中点温度と、前記ハロゲン系難燃剤の中点温度との差が100℃以内であり、
    前記中点温度は、流入ガスが空気、加熱速度が20℃/分の条件下において、熱重量測定により得られ、
    前記ハロゲン系難燃剤は臭素系難燃剤であり、
    前記ハロゲン系難燃剤の含有量は、100質量部の前記熱可塑性樹脂に対して5質量部~40質量部である樹脂組成物。
  2. 請求項に記載された樹脂組成物により形成された被覆層と、
    前記被覆層により被覆される導体と、
    を備える被覆電線。
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