以下、図面を参照して、本発明に係る乗物用シートを自動車の最後尾の後部座席に適用した3つの実施形態を説明する。以下では、自動車の前方を基準として、前後、左右及び上下方向を記載する。また、乗物用シートは後述するように、着座可能な使用位置と、荷物の収容可能なスペースを拡張するため変形した格納位置との間で形態及び姿勢が変化するが、特に明記しない限り、使用位置を基準として各構成の形状を説明する。
<<第1実施形態>>
図1に示すように、本発明に係る乗物用シート1は、前後に2列座席が設けられた自動車において、2列目の後部座席の左側部分を構成する。乗物用シート1は自動車のフロア2上に設けられ、着座者の臀部を支持するシートクッション4と、シートクッション4の後部に支持され、背凭れとして機能するシートバック5と、各シートバック5の上部に設けられたヘッドレスト6とを有する。乗物用シート1の後方には、テールゲート(リアゲート)に繋がる略水平な荷室床面7(図2参照)が設けられている。
シートクッション4は左右に延び、乗員2人分の着座面9を構成している。シートクッション4の下方には、フロア2の上面に結合し、前後に延びる左右一対のロアレール10が設けられている。ロアレール10にはそれぞれ、アッパレールがロアレール10の延在方向に沿ってスライド移動可能に結合している。シートクッション4はロアレール10及びアッパレールを介して、フロア2に前後にスライド移動可能に支持されている。
シートバック5は上下に延び、前方を向く面を有する略直方体状をなしている。シートバック5の前面には2名の乗員の背中を支持する支持面12が形成されている。シートバック5はその下端において、公知のリクライニング機構を介して、シートクッション4を構成するフレームの後端に回動可能に結合されている。
ヘッドレスト6はシートバック5の上端に左右に並んで2つ設けられている。ヘッドレスト6はそれぞれ下端においてシートバック5に対して左右方向を軸線とする回動可能に結合している。
シートクッション4の車外側下部には車外側に突出するストラップ15が設けられている。ストラップ15が車外側に引っ張られると、乗物用シート1は、図2に示すように、乗員が着座可能な使用位置(図2(A))から、シートクッション4及びシートバック5が移動し、荷物の収容可能なスペースが拡張された格納位置(図2(B))に変位する。乗物用シート1が使用位置にあるときには、シートクッション4の着座面9は着座者の臀部を支持すべく上方を向き、シートバック5の支持面12は着座者の背中を支持すべく略前方を向いている。乗物用シート1が使用位置から格納位置に変位するときには、シートクッション4は後部が持ち上げられて前方に移動し(図2(A)の二点鎖線)、着座面9が前方を向く姿勢となる。同時に、シートバック5は前倒しされて下端を中心として回転し(図2(A)の二点鎖線)、支持面12が略下方を向き、且つその背面が略水平に延びる姿勢となる。乗物用シート1が格納位置にあるとき、シートバック5の背面は荷室床面7と連続し、シートバック5の背面に荷物を載置することができる。図2(A)に示すように、ヘッドレスト6もまた、乗物用シート1が使用位置から格納位置に変位するとき、シートバック5の移動を妨げないように、シートバック5に対して左右方向を軸線として前方に回転するとよい。
本実施形態では、シートバック5の左側上端に所定のレバー17が設けられている。乗物用シート1が使用位置にあるときに、レバー17を操作すると、シートバック5のシートクッション4に対する回動が可能となる。これによって、着座者が自らの体格に合わせて、シートバック5のシートクッション4に対する角度を調節することができる。
次に、シートバック5の構造について、図3~図5を参照して説明する。図5に示すように、シートバック5は、骨格としてのシートバックフレーム18と、シートバックフレーム18に支持されたパッド部材21と、パッド部材21の前面に設けられ、シートバック5の外面を構成する表皮部材22と、シートバックフレーム18に支持されたエアバッグモジュール23を有している。
図3および図4に示すように、シートバックフレーム18は、シートバック5の骨格を形成し、略四角形な枠型をなすシートバックフレーム枠部19と、シートバックフレーム枠部19の後方に配置されたパンフレーム20(プレート)とを備えている。シートバックフレーム枠部19は上下に延びる左右一対のサイドフレーム26(サイドメンバ)と、左右に延びて左右のサイドフレーム26のそれぞれの上端に結合するアッパフレーム27と、左右に延びて左右のサイドフレーム26のそれぞれの下部に結合するロアフレーム(不図示)とを含む。左右のサイドフレーム26の上部をそれぞれ構成するサイドフレーム上部26Uとアッパフレーム27とは、1本の円形のパイプ材29を逆U字状の門型に屈曲させることによって形成されている。左右のサイドフレーム26の下部をそれぞれ構成するサイドフレーム下部26Dは、左右方向を向く面を有する板金部材30によって形成されている。板金部材30は上部において、パイプ材29の端部にそれぞれシート内方の面において溶接されている。板金部材30の前後縁はそれぞれシート内方に向かって折り曲げられている。左右のサイドフレーム26の下端は、シートクッション4を構成するフレームにリクライニング機構を介して回動可能に結合している。
パンフレーム20は金属製の板状部材であり、2つのサイドフレーム26及びアッパフレーム27の後面側に、面が前後を向くように配置されている。パンフレーム20はサイドフレーム26、アッパフレーム27及びロアフレームの後部を覆うパンフレーム基部31と、パンフレーム基部31から車外側(左側)のサイドフレーム26の左側に延出するパンフレーム延出部32とを備えている。パンフレーム20は、上縁においてアッパフレーム27に溶接され、下縁においてロアフレームに溶接され、左右の側縁において左右のサイドフレーム26の適所に溶接されている。パンフレーム基部31の適所には、補強用のビードや肉抜き孔31Bが複数設けられていてもよい。
左側のサイドフレーム26は上下一対のブラケット36(第1取付部材)が直接結合されている。2つのブラケット36にはエアバッグモジュール23を保持する1つのリテーナ37(第2取付部材)が直接結合されている。エアバッグモジュール23はリテーナ37とブラケット36とを介して、サイドフレーム26に結合している。エアバッグモジュール23は、サイドフレーム26の延在方向に沿って延びる略直方体状をなし、その外面が左右方向を向くように配置されている。
図5に示すように、エアバッグモジュール23は、エアバッグ41と、エアバッグ41の内部にガスを放出し、エアバッグ41を膨張展開させるインフレータ42と、エアバッグ41及びインフレータ42を収容する略直方体状のケース43とを備えている。インフレータ42は略円柱状をなし、その外周面に径外方向に突出する雄ねじ部44を備えている。
ケース43は略直方体状をなし、左側面に開口を備えた金属製のケース本体45と、ケース本体45の開口を覆う樹脂製の蓋体46とによって構成されている。ケース本体45は略四角形状の底壁と、底壁の外周縁に結合された側壁とを備えている。ケース本体45の底壁には所定の位置にその厚さ方向に貫通する貫通孔48が設けられている。エアバッグ41はケース本体45に折り畳まれて収容されている。
雄ねじ部44はケース本体45の内部から貫通孔48を通って外部に突出している。雄ねじ部44がリテーナ37に締結されることで、エアバッグモジュール23はリテーナ37に結合されている。
蓋体46は略長方形状をなし、左右方向を向く樹脂製の板状をなしている。本実施形態では、蓋体46の外周縁にはケース本体45の側に四角筒状に突出し、ケース本体45の開口に嵌め合う筒状部分が結合されている。その筒状部分の外周面には、周方向外方に突出した複数の係止爪が形成されている。ケース本体45の側壁には貫通孔が複数設けられ、係止爪はその貫通孔にそれぞれ係止されている。これにより、蓋体46はケース本体45に結合されている。
蓋体46にはその前縁、及び上下縁に沿って溝状の脆弱部46Wが設けられ、後縁に沿って薄肉となったヒンジ46Hが設けられている。これにより、蓋体46に左方に向く荷重が加わると、蓋体46が脆弱部46Wにおいて開裂し、蓋体46の中央部分がヒンジ46Hを中心に回動して、ケース本体45が開口する。
パンフレーム延出部32は左側のサイドフレーム26から左方に延び、エアバッグモジュール23の左端の左側に達している。パンフレーム延出部32はエアバッグモジュール23の後方に離間した位置にあり、パンフレーム20とエアバッグモジュール23との間には前後方向に隙間Sが設けられている。パンフレーム延出部32の左縁には、パンフレーム20の剛性を高めるべく、前方に折り曲げられた折返部32Aが設けられている。本実施形態では、図3に示すように、パンフレーム20の上縁も左縁とパンフレーム延出部32の左縁と同様に、前方に折り返されている。
パッド部材21は、ポリウレタンフォーム等の可撓性を有するクッション材から形成されている。パッド部材21は、図5に示すように、支持面12の後方に位置する前面部50と、前面部50の左側縁から後方に延びる左側面部51とを含んでいる。前面部50と左側面部51とはそれぞれ別体のクッション材によって構成されている。前面部50はサイドフレーム26、ブラケット36及びリテーナ37の前方を通過して、エアバッグモジュール23の左前方に延びている。左側面部51はエアバッグモジュール23の左前方から後方に延びて、エアバッグモジュール23の左方を通過し、パンフレーム20の後面と前後方向において概ね揃う位置に達している。
表皮部材22は布や皮等の複数のシート状部材を縫合することによって形成されている。表皮部材22は前面部50の表面を覆う前部シート材54と、左側面部51の左側面を覆う左側部シート材55とを有している。前部シート材54の左縁と左側部シート材55の前縁とは互いに縫合されて、縫合部57を形成している。この縫合部57は、表皮部材22において、他の縫合部分に比べて小さい荷重によって破断する脆弱部として機能する。図1に示すように、縫合部57はシートバック5の左前縁に沿って上下に延在している。
パンフレーム20の後面には、表皮部材22と同様に布や皮等のシート状部材によって形成されたバックシート材58が設けられている。バックシート材58の一端は左側部シート材55の後縁に線ファスナ59を介して結合されている。
乗物用シート1には、後席の乗員に加わる荷重を検出するための所定のセンサ60が所定の位置に設けられている。センサ60は例えば、後席の乗員が装着したシートベルトに加わる張力を検出する張力センサや、乗物用シート1に加わる加速度を検出する加速度センサであってもよい。乗物用シート1の下部には、センサ60及びインフレータ42に電気的に接続され、センサ60によって検出された荷重に基づいて、インフレータ42の駆動を制御する制御装置61が設けられている。なお、本実施形態では、制御装置61は乗物用シート1に設けられていたが、車体のいかなる位置に設けられていてもよい。
次に、ブラケット36及びリテーナ37の形状の詳細について説明する。図3に示すように、上下のブラケット36はそれぞれ折曲加工された板金部材であり、略同形をなしているため、その上側のブラケット36について詳細を説明し、下側のブラケット36の説明を省略する。
図5に示すように、ブラケット36は、概ね左右方向を向く略方形な板状のブラケット基部62と、ブラケット基部62の前縁に接続されたブラケット前壁63と、ブラケット基部62の後端に接続されたブラケット傾斜壁64とを有している。
ブラケット前壁63は、ブラケット基部62の前端から右方に延びる板状をなし、左側のサイドフレーム下部26Dを形成する板金部材30の前面に溶接されている。
図5に示すように、ブラケット傾斜壁64は後方に向かって右側(車内側)に傾斜する板状をなしている。ブラケット傾斜壁64の後縁は板金部材30の後面に溶接されている。ブラケット傾斜壁64には厚さ方向に貫通するボルト孔65(締結部)が設けられている。ブラケット傾斜壁64の前面にはボルト孔65に整合する位置にナットが溶接されている。
ブラケット基部62の前部には、ブラケット傾斜壁64の前縁よりも右方において前後及び上下に延びるブラケット係止壁66が設けられている。ブラケット係止壁66の後縁と傾斜壁の前縁とは前方に向かって右方に傾斜する接続壁67によって互いに接続されている。ブラケット係止壁66の前縁はブラケット前壁63に接続されている。
リテーナ37は折曲加工された板金部材であり、前後及び上下に延びる板状のリテーナ基部68と、リテーナ基部68の後縁に接続し後方に向かって右側に傾斜する板状のリテーナ傾斜壁69とを備えている。リテーナ基部68には厚さ方向に貫通するボルト孔68Aが設けられている。エアバッグモジュール23は、インフレータ42の雄ねじ部44がボルト孔68Aに締結されることによって、リテーナ基部68の左側面に保持されている。
リテーナ傾斜壁69には厚さ方向に貫通するボルト孔70が形成されている。リテーナ傾斜壁69はブラケット傾斜壁64の後面に沿うように配置され、2つのボルト孔65、70を貫通するボルト72(締結具)によって、リテーナ37はブラケット36に締結されている。
パンフレーム20にはボルト72の締め付けるためのツール孔74が設けられている。ツール孔74はパンフレーム20を厚さ方向に貫通する貫通孔であり、ボルト孔65、70を貫通するボルト72の軸線Xの延長線上に設けられている。ツール孔74はボルト72を締め付けるための工具(例えば、ユニバーサルレンチ)が挿通可能な大きさに設定されている。図5に示すように、パンフレーム20には、ツール孔74を封止する樹脂製の封止部材75が設けられている。
図5に示すように、上下のブラケット36のブラケット係止壁66にはそれぞれ所定の位置に厚さ方向に貫通する掛止孔77が設けられている。掛止孔77には所定の形状に曲げ加工された金属丸棒であるワイヤ部材78が結合している。ワイヤ部材78は、図3に示すように、その両端部に設けられ、それぞれ掛止孔77に掛け止めされた上下一対のフック90と、フック90それぞれから前方に延び、エアバッグモジュール23の前方に達する上下一対の接続部92と、2つの接続部92の前端を互いに上下に接続する掛止部94とを備えている。ワイヤ部材78は両端に設けられたフック90が、上下のブラケット36の掛止孔77のそれぞれに掛け止めされることで、ブラケット36に結合している。接続部92はそれぞれ後端においてフック90に結合し、ブラケット係止壁66とリテーナ基部68との間を通過して、エアバッグモジュール23の右前方に達し、前端において左方に屈曲している。本実施形態では、接続部92はブラケット係止壁66とリテーナ基部68との間においてエアバッグモジュール23によってブラケット係止壁66に押し付けられている。これにより、ワイヤ部材78はブラケット36とリテーナ37とによって挟持され、その移動が規制されている。
表皮部材22には、力布96が設けられている。力布96は表皮部材22よりも伸縮性の小さいシート状部材によって形成されている。力布96は一端が縫合部57において、前部シート材54及び左側部シート材55に縫合されている。力布96は一端から前面部50及び左側面部51の間を通過して、ワイヤ部材78の掛止部94に向かって延びている。力布96の他端にはフック97が設けられ、フック97はワイヤ部材78の掛止部94に掛け止めされている。
次に、乗物用シート1の動作について説明する。センサ60(図1)が後席の乗員に加わる荷重が所定値以上となったことを検出すると、制御装置61はエアバッグ41の内部にガスを供給させるべく、インフレータ42を制御する。これにより、インフレータ42からガスが放出され、エアバッグ41は膨張して蓋体46を左方に押圧する。これにより脆弱部46W(図5)が開裂して、ケース43が開口する。
エアバッグ41はインフレータ42から供給されるガスによって左前方に膨張し、前面部50及び左側面部51との間を通過して、縫合部57に達する。このとき、エアバッグ41の膨張によって、力布96に荷重が加わる。力布96に加えられた荷重によって、縫合部57が破断し、シートバック5の前面の左上端に開口が形成される。エアバッグ41はその開口を通って、シートバック5の左前方に膨張し、着座者と車室側壁との間に展開する。
次に、乗物用シート1の効果について説明する。エアバッグ41を備えた乗物用シート1において、エアバッグ41が展開すると、エアバッグモジュール23を支持するフレームにエアバッグ41の展開方向とは逆方向の荷重(反力)が加わる。エアバッグ41の展開方向をより適正なものとし、エアバッグ41の展開を安定させるためには、エアバッグモジュール23を支持するフレームにはエアバッグ41の展開時に加えられる反力に十分対抗できる剛性が求められる。
パンフレーム20は左右のサイドフレーム26の後面を覆う概ね平板状の板金部材によって形成されている。エアバッグモジュール23をパンフレーム20に結合させ、且つ、パンフレーム20にエアバッグ41の展開時に加えられる反力に十分対抗できる剛性を持たせるには、その板厚を大きくする必要がある。しかし、パンフレーム20の板厚を大きくすると、シートバックフレーム18の重量が大きくなる。
乗物用シート1では、エアバッグモジュール23はサイドフレーム26に結合されている。サイドフレーム26はその上部がパイプ材29によって形成されている。また、サイドフレーム26の下部は、前後縁においてシートの内方に向かって折り曲げられた板金部材30によって形成されている。よって、サイドフレーム26は板状のパンフレーム20に比べて剛性が高い。エアバッグモジュール23をサイドフレーム26に結合させることによって、エアバッグモジュール23をパンフレーム20によって支持する場合に比べてパンフレーム20の板厚を小さくすることができる。これにより、エアバッグ41の展開時に加わる反力に対抗してエアバッグモジュール23の姿勢を安定させるとともに、シートバック5を軽量化することができる。
図2に示すように、乗物用シート1を格納位置にすると、シートバック5の背面が荷室床面7と連続し、荷物を載置するための領域を広げることができる。このような領域を広げるためには、パンフレーム20をできる限り大きくすることが好ましい。そこで、パンフレーム20を左側のサイドフレーム26の左方にまで延出させることが考えられる。しかし、パンフレーム20を延出させると、シートバックフレーム18の前面にパッド部材21を配置した後、シートバック5の後方からサイドフレーム26の左側面にアクセスしにくくなる。そのため、エアバッグモジュール23のサイドフレーム26への締結が難しくなる。
図5に示すように、乗物用シート1のパンフレーム20には、ツール孔74が設けられている。これにより、工具をパンフレーム20の後方からツール孔74に差し込み、パンフレーム20の後方からリテーナ37とブラケット36とを締結させるボルト72を締め付けることができる。これにより、シートバック5の後方からエアバッグモジュール23をサイドフレーム26に容易に締結させることができる。
ボルト72が左右方向に延びる壁に締結される場合に比べて、左右方向に対して傾斜した壁面に締結される場合の方が、ボルト72の頭部の後方への突出量は小さくなる。本実施形態では、ボルト72が締結されるブラケット傾斜壁64を左右方向に対して傾斜させることによって、ボルト72の頭部の後方への突出量を低減することができる。また、ブラケット傾斜壁64の後面は斜め後方を向いているため、パンフレーム20の後方からボルト72の頭部を視認することができ、リテーナ37及びブラケット36の締結作業がし易い。
また、ブラケットを2ヶ所で折り曲げて後方に向く壁面を形成し、その壁面に締結部分を設けた場合(例えば、図6)に比べて、本実施形態では、ボルト72が締結される壁面を左右方向に対して傾斜させることで、ブラケット36の折曲部分の数を抑えつつ、後方から視認し易い壁面を形成することができる。これにより、ブラケット36の剛性の低下を防止しつつ、後方から視認しやすい位置にボルト孔65、70を設けることができる。
パンフレーム20にはツール孔74を封止する封止部材75が設けられている。そのため、シートバック5の背面をより平坦にすることができ、乗物用シート1が格納位置にあるときに、シートバック5の背面に載置された荷物の安定性を向上させることができる。また、封止部材75よってツール孔74が封止することによって、乗物用シート1が格納位置にあるときに、シートバック5の背面に荷物から水等の液体がかかった場合であっても、液体が垂れてエアバッグモジュール23に到達することを防止することができる。
パンフレーム20とエアバッグモジュール23との間に隙間Sが設けられている。そのため、シートバック5の背面に載置された荷物からの荷重がエアバッグモジュール23に直接加わらず、エアバッグモジュール23の移動を防止することができる。
エアバッグモジュール23はブラケット傾斜壁64の前方においてリテーナ37に締結されている。展開時のエアバッグ41のリテーナ37とブラケット36とを締結するボルト72への接触を防止することができ、展開時のエアバッグ41の変形を防止することができる。これにより、エアバッグ41をより確実に展開させることができる。
また、サイドフレーム26にはブラケット36が上下に設けられ、エアバッグモジュール23は上下2ヶ所においてサイドフレーム26に結合している。これにより、エアバッグモジュール23が1ヶ所においてサイドフレーム26に結合している場合に比べて、エアバッグモジュール23とサイドフレーム26との結合が強固になり、展開時のエアバッグ41の姿勢をより安定させることができる。
図1及び図3に示すように、縫合部57及び掛止部94はともに上下に延在し、力布96は端部において縫合部57及び掛止部94に掛け止めされている。これにより、力布96はエアバッグモジュール23の前方において、上下及び左右に延びる面を形成する。そのため、エアバッグ41が前方に膨張したときに、力布96に荷重が加わり易くなり、エアバッグの膨張による荷重を縫合部57により集中させることができる。
<<第2実施形態>>
第2実施形態に係る乗物用シート100は、第1実施形態に比べてブラケット101の形状及びリテーナ102の形状のみが異なり、他の部分については第1実施形態と同様であるため、以下ではブラケット101の形状及びリテーナ102の形状の詳細を記載し、他の説明を省略する。また、第1実施形態と同様に、サイドフレーム26には上下一対のブラケット101が設けられるが、下側のブラケット101は上側のブラケット101とは同型であるため、上側のブラケット101のみ詳細を記載し、下側のブラケット101の説明を省略する。
図6に示すように、第2実施形態に係るブラケット101は、第1実施形態と同様に板金部材を折曲加工することによって形成された部材であり、板状をなし、板金部材30の左方において面が概ね左右方向に向くように配置されたブラケット基部103と、ブラケット基部103の前縁から板状をなして右方に延び、板金部材30の前縁に溶接されたブラケット前壁104と、ブラケット基部103の後縁から板状をなして右方に延び、板金部材30の左側面に溶接されたブラケット後壁105とを有している。本実施形態では、ブラケット後壁105の延出端(右縁)には後方に延びるフランジ106が設けられて、ブラケット後壁105の右縁はフランジ106において板金部材30の左側面に溶接されている。ブラケット後壁105には厚さ方向(前後方向)に貫通するボルト孔107(締結部)が設けられている。ブラケット後壁105の前面には、ボルト孔107に整合する位置にナットが溶接されている。ブラケット基部103の前部には、第1実施形態と同様に、左右方向を向き、前後及び上下に延びるブラケット係止壁109が設けられている。ブラケット係止壁109の後端とブラケット後壁105の左縁とはそれぞれ前方に向かって右方に傾斜する接続壁110によって接続されている。
第1実施形態と同様に、リテーナ102は折曲加工された板金部材であり、板金部材の側面に略平行に延びる略方形な板状のリテーナ基部112と、リテーナ基部112の後縁に接続し右方に延びるリテーナ後壁114(被締結部)とを備えている。リテーナ後壁114にはボルト孔117が設けられている。リテーナ102はリテーナ後壁114がブラケット後壁105に沿う位置に配置されて、2つのボルト孔107、117を貫通するボルト119によって、ブラケット後壁105の後面に締結されている。
パンフレーム延出部32には第1実施形態と同様に、ボルト119の頭部へのアクセス用のツール孔120が設けられている。ツール孔120はパンフレーム延出部32を貫通する孔であって、2つのボルト孔107、117を貫通するボルト119の軸線Xの延長線上に形成されている。本実施形態では、ツール孔120は2つのボルト孔107、117の後方に位置している。また、第1実施形態と同様に、ツール孔120は封止部材75によって封止されている。
エアバッグモジュール23はリテーナ基部112の左側面に締結され、エアバッグモジュール23とパンフレーム延出部32との間には隙間Sが形成されている。
第1実施形態と同様に、ブラケット基部103には掛止孔130が設けられ、ワイヤ部材78の一端が掛止孔130に掛け止めされている。ワイヤ部材78は後部において、ブラケット係止壁109とリテーナ基部112とによって挟持され、前部において、上下に延びる掛止部94を備えている。また、第1実施形態と同様に、一端が縫合部57に縫合され、他端が掛止部94に掛け止めされた力布96が設けられている。
次に、このように構成した乗物用シート100の効果について説明する。ツール孔120にパンフレーム20の後方から前方に向かって工具を挿入することによって、ボルト119に容易にアクセスすることができる。これにより、ボルト119を締め付けて、ブラケット101及びリテーナ102を締結することができる。特に第2実施形態に係る乗物用シート100では、前後方向を向くブラケット後壁105にボルト孔107が形成されているため、工具の挿入方向が前方向となり、工具の挿入方向が分かり易くなる。
<<第3実施形態>>
第3実施形態に係る乗物用シート200は、第1実施形態、及び第2実施形態に比べてブラケット201の形状及びリテーナ202の形状のみが異なり、他の部分については第1実施形態と同様であるため、以下ではブラケット201の形状及びリテーナ202の形状の詳細を記載し、他の説明を省略する。また、第1実施形態と同様にサイドフレーム26には上下一対のブラケット201が設けられ、下側のブラケット201は上側のブラケット201と同型であるため、以下では上側のブラケット201の詳細を説明し、下側のブラケット201の説明を省略する。
図7に示すように、ブラケット201は折曲加工された板金部材であり、板金部材30の左側面に溶接された結合部203と、結合部203の前縁に接続されたブラケット前部204と、結合部203の後縁に接続されたブラケット後部205とを備える。結合部203は板金部材30の左側面に沿い、左右方向を向く面を有する略方形な板状をなしている。結合部203は右側面において、板金部材30の左側面に溶接されている。
ブラケット前部204は後端において結合部203の前縁に接続し、左方に向かって前方に傾斜した後、屈曲して前方に延びている。ブラケット前部204の前端には左右方向を向き、前後及び上下に延びる板状のブラケット係止壁206が形成されている。
ブラケット後部205は前端において結合部203の後縁に接続されたブラケット傾斜壁207と、ブラケット傾斜壁207の後縁に接続された当接部208とを備えている。ブラケット傾斜壁207は後方に向かって左方に傾斜している。ブラケット傾斜壁207は後端においてパンフレーム延出部32の前面に当接している。これにより、ブラケット傾斜壁207には、斜め後方を向く後面が形成されている。ブラケット傾斜壁207には、厚さ方向に貫通するボルト孔209が設けられている。
当接部208にはパンフレーム延出部32の前面に沿って左方に延びている。当接部208は後面においてパンフレーム延出部32の前面に当接するとともに、後面においてパンフレーム延出部32の前面に溶接されて結合されている。当接部208の左端はパンフレーム延出部32の折返部32Aの右側面に当接し、その端部において折返部32Aの右側面に溶接されている。これにより、パンフレーム延出部32は当接部208よりも左方に延出し、その左縁に当接部208の左端面に沿って前方に折り返された折返部32Aを備えた態様をなしている。
リテーナ202は折曲加工された板金部材であり、前後及び上下に延びる板状のリテーナ基部211と、リテーナ基部211の後縁に接続し、左方に向かって後方に傾斜する板状のリテーナ傾斜壁212(被締結部)とを備えている。エアバッグモジュール23はリテーナ基部211の左側面に締結され、リテーナ202に保持されている。
リテーナ傾斜壁212はブラケット傾斜壁207と略平行をなし、ブラケット傾斜壁207の前面に沿うように配置されている。リテーナ傾斜壁212にはボルト孔214が設けられている。ブラケット傾斜壁207の前面には、ボルト孔214に整合する位置に溶接されたナットが設けられている。ブラケット201及びリテーナ202は、2つのボルト孔209、214を通過するボルト216(締結具)によって締結されている。これにより、エアバッグモジュール23はリテーナ202に保持され、サイドフレーム26に支持されている。また、図7に示すように、エアバッグモジュール23はパンフレーム延出部32の前方に位置し、エアバッグモジュール23とパンフレーム延出部32との間には隙間Sが形成されている。
パンフレーム延出部32にはパンフレーム20の後方から工具を挿入して、ボルト216の締め付けを行うためのツール孔220が設けられている。ツール孔220はパンフレーム延出部32を貫通する孔であり、ボルト216の軸線Xの延長線上に設けられている。ツール孔220はボルト216の締め付けを行うための工具(例えば、ユニバーサルレンチ)が挿通可能な大きさに設定されている。ツール孔220には樹脂製の封止部材75が圧入され、封止部材75によってツール孔220は封止されている。
上下のブラケット201のブラケット係止壁206にはそれぞれ、所定の位置に厚さ方向に貫通する掛止孔225が形成されている。掛止孔225には金属丸棒を曲げ加工することによって形成されたワイヤ部材226が結合されている。ワイヤ部材226はその両端にそれぞれ掛止孔225に掛け止めされたフック227と、各フック227から前方に延びる接続部228と、上下の接続部228の延出端を接続する掛止部229とを備えている。接続部228はそれぞれブラケット前部204とリテーナ基部211との間において前方に延びて、エアバッグモジュール23の右前方に達し、左方に屈曲している。本実施形態では、接続部228はブラケット前部204とリテーナ基部211との間においてエアバッグモジュール23によってブラケット係止壁206に押し付けられている。これにより、ワイヤ部材226はブラケット201とリテーナ202とによって挟持され、その移動が規制されている。
表皮部材22には、力布96が設けられている。力布96は表皮部材22よりも伸縮性の小さいシート状部材によって形成されている。力布96は一端が縫合部57において、前部シート材54及び左側部シート材55に縫合されている。力布96は一端から前面部50及び左側面部51の間を通過して、ワイヤ部材226の掛止部229に達している。力布96の他端には所定のフック97が設けられ、フック97はワイヤ部材226の掛止部229に掛け止めされている。
次に第3実施形態に係る乗物用シート200の効果について説明する。ブラケット201は結合部203において板金部材30に溶接され、当接部208においてパンフレーム20に溶接されている。エアバッグモジュール23はリテーナ202に締結され、リテーナ202はブラケット201に締結されている。これにより、エアバッグモジュールはサイドフレーム26及びパンフレーム20に支持されているため、展開時のエアバッグ41の姿勢をより安定させることができる。
また、パンフレーム延出部32の前面に当接部208を結合させることによって、パンフレーム延出部32を補強することができる。これによって、パンフレーム延出部32にエアバッグ41の展開時に加わる後方への荷重に対抗できる十分な剛性を持たせることができる。また、シートバック5の背面に荷物が載置されて、パンフレーム延出部32に行面側への荷重が加わった場合でも、パンフレーム延出部32に十分な剛性を持たせることができ、パンフレーム延出部32の変形を防止することができる。
また、当接部208はパンフレーム延出部32の前面に沿う板状をなしているため、当接部208とパンフレーム延出部32との間に十分な接触面積を確保することができる。これによって、当接部208によってパンフレーム延出部32をより確実に補強することができる。また、当接部208とパンフレーム延出部32とが溶接されているため、両者の結合が強固になり、パンフレーム延出部32をより確実に当接部208によって補強することができる。
また、パンフレーム20に折返部32Aを設けることによって、パンフレーム20の剛性を高めることができる。また、当接部208が折返部32Aの右側面にまで延びているため、当接部208と折返部32Aとの間に隙間が形成されていない。そのため、パンフレーム延出部32の左縁近傍を当接部によってより確実に補強することができ、パンフレーム20の左縁近傍での変形をより確実に防止することができる。
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されることなく幅広く変形実施することができる。上記実施形態では、本発明が2列目の後部座席に適用されていたが、2列目には限定されず、3列目以降の後部座席に適用されてもよい。また、力布及びワイヤ部材は必須ではなく、また、複数の力布や複数のワイヤ部材等が設けられる態様であってもよい。