エアバッグモジュールは、シートバックフレームの前面にパッド部材を被せた後、シートバックフレームに結合される。シートバックフレームにパッド部材を被せると、シートバックフレームの前面がパッド部材に覆われるため、エアバッグモジュールやエアバッグの展開方向を案内する力布等のシートバックの内部に収容される部材を結合させた後に、適正な位置にあることを確認することが難しい。
本発明は以上の背景を鑑み、エアバッグモジュールを備えた乗物用シートにおいて、シートバックの内部に収容される部材を視認し易い位置に配置することを課題とする。
上記課題を解決するために、本発明に係る乗物用シート(1)は、上下に延びる左右一対のサイドメンバ(26)を含み、シートバック(5)の骨格を形成する枠型のシートバックフレーム枠部(19)と、車外側の前記サイドメンバに結合された取付部材(501、502)と、前記取付部材に結合されたエアバッグモジュールと、前記エアバッグモジュールの前方に設けられたパッド部材(21)と、前記パッド部材の前面を覆うとともに、所定以上の荷重によって開裂する脆弱部(57)を備えた表皮部材(22)と、前記パッド部材に設けられ、前記エアバッグモジュールと前記脆弱部とを接続する通路(522)と、車外側の前記サイドメンバに結合した一端と、前記エアバッグモジュールの前方に設けられた掛止部(521)と、車外側の前記サイドメンバに結合した他端とを有するワイヤ部材(520)と、一端において前記脆弱部に結合し、前記通路を通過して、他端において前記掛止部に結合した力布とを有することを特徴とする。
この態様によれば、力布はエアバッグモジュールの前方に位置する掛止部に結合される。掛止部はエアバッグモジュールの前方に位置するため、シートバックの側方から視認することができるため、力布がワイヤ部材の適正な位置に結合されていることを容易に確認することができる。
また、本発明の一態様によれば、前記取付部材は前記掛止部に掛止されるフック(510)を備えるとよい。
この態様によれば、取付部材をワイヤ部材に掛け止めすることによって、締結時にエアバッグモジュールの移動を規制され、エアバッグモジュールの位置が定められる。これにより、エアバッグモジュールの組付が容易になる。また、力布をサイドメンバに結合させるためのワイヤ部材に、エアバッグモジュールが掛け止めされるため、サイドメンバに別途、掛け止め用の部材を設ける必要がなく、構成が簡素である。
また、本発明の一態様によれば、前記取付部材は、車外側の前記サイドメンバの車外側の側面に結合された第1取付部材(501)と、前記第1取付部材に結合するとともに、前記エアバッグモジュールに結合された第2取付部材(502)とを含み、前記第2取付部材には締結部(504)が設けられ、前記第1取付部材には前記締結部に締結可能な被締結部(506)が設けられ、前記フックを前記ワイヤ部材に掛け止めし、前記エアバッグモジュールを前記ワイヤ部材の軸線を中心とした回転させることによって、前記エアバッグモジュールは前記締結部と前記被締結部とが整合する位置に案内されるとよい。
この態様によれば、フックをワイヤ部材に掛け止めして、エアバッグモジュールを回転させることによって、エアバッグモジュールを締結部と被締結部とが整合する適正な位置に案内することができる。これにより、エアバッグモジュールを適正な位置に容易に配置することができ、エアバッグモジュールをサイドメンバに締結し易くなる。
また、本発明の一態様によれば、前記脆弱部及び前記掛止部は略平行をなして上下に延びているとよい。
この態様によれば、脆弱部に沿って力布を配置することができるため、脆弱部にエアバッグの膨張による荷重を集中させ易くなる。
また、本発明の一態様によれば、前記フックは前記第2支持部材の前縁に設けられ、前記締結部は前記第2支持部材の後縁に設けられているとよい。
この態様によれば、第2支持部材は前縁においてワイヤ部材に掛け止めされ、後縁においてサイドメンバに締結されるため、第2支持部材とサイドメンバとの結合が強固になる。これにより、エアバッグモジュールがサイドメンバに対して移動し難くなり、展開時のエアバッグの姿勢を安定させることができる。
また、本発明の一態様によれば、車外側に位置する前記サイドメンバの後縁から車外側に延びるプレート(20)を有し、車外側の前記サイドメンバの車外側側面には第1取付部材(501)が設けられ、前記締結部は前記第1取付部材の後縁に設けられ、前記プレートには、前記締結部と前記被締結部とを締結する締結具の軸線に沿って貫通する貫通孔(74)が設けられているとよい。
この態様によれば、工具を貫通孔に後方から前方に向かって挿入することによって、プレートの後方から締結具にアクセスすることができる。これにより、プレートの後方から第1取付部材と第2取付部材とを締結することができるため、エアバッグモジュールの組付が容易になる。
また、本発明の一態様によれば、前記エアバッグモジュールはエアバッグ(41)が前方に展開可能に構成され、前記エアバッグモジュールは前記締結部よりも前方に配置されているとよい。
この態様によれば、展開時にエアバッグが締結具に接触することを防止することができるため、エアバッグと締結具との接触によるエアバッグの変形を防止することができ、エアバッグをより確実に展開させることができる。
以上の態様によれば、エアバッグモジュールを備えた乗物用シートにおいて、力布がエアバッグモジュールの前方に位置する掛止部に結合されるため、エアバッグモジュールを備えた乗物用シートにおいて、シートバックの内部に収容される部材を視認し易い位置に配置することができる。
また、取付部材は掛止部に掛止されるフックを備える態様によれば、取付部材をワイヤ部材に掛け止めすることによって、締結時にエアバッグモジュールの移動を規制され、エアバッグモジュールの位置が定められる。これにより、エアバッグモジュールの組付が容易になる。また、力布をサイドメンバに結合させるためのワイヤ部材に、エアバッグモジュールが掛け止めされるため、サイドメンバに別途、掛け止め用の部材を設ける必要がなく、構成が簡素である。
また、取付部材は、車外側のサイドメンバの車外側の側面に結合された第1取付部材と、第1取付部材に結合するとともに、エアバッグモジュールに結合された第2取付部材とを含み、第2取付部材には締結部(504)が設けられ、第1取付部材には締結部に締結可能な被締結部(506)が設けられ、フックをワイヤ部材に掛け止めし、エアバッグモジュールをワイヤ部材の軸線を中心とした回転させることによって、エアバッグモジュールは締結部と被締結部とが整合する位置に案内される態様によれば、フックをワイヤ部材に掛け止めして、エアバッグモジュールを回転させることによって、エアバッグモジュールを締結部と被締結部とが整合する適正な位置に案内することができる。これにより、エアバッグモジュールを適正な位置に容易に配置することができ、エアバッグモジュールをサイドメンバに締結し易くなる。
また、脆弱部及び掛止部は略平行をなして上下に延びている態様によれば、脆弱部に沿って力布を配置することができるため、脆弱部にエアバッグの膨張による荷重を集中させ易くなる。
また、フックは第2支持部材の前縁に設けられ、締結部は第2支持部材の後縁に設けられている態様によれば、第2支持部材は前縁においてワイヤ部材に掛け止めされ、後縁においてサイドメンバに締結されるため、第2支持部材とサイドメンバとの結合が強固になる。これにより、エアバッグモジュールがサイドメンバに対して移動し難くなり、展開時のエアバッグの姿勢を安定させることができる。
また、車外側に位置するサイドメンバの後縁から車外側に延びるプレートを有し、車外側のサイドメンバの車外側側面には第1取付部材が設けられ、締結部は第1取付部材の後縁に設けられ、プレートには、締結部と被締結部とを締結する締結具の軸線に沿って貫通する貫通孔が設けられている態様によれば、工具を貫通孔に後方から前方に向かって挿入することによって、プレートの後方から締結具にアクセスすることができる。これにより、プレートの後方から第1取付部材と第2取付部材とを締結することができるため、エアバッグモジュールの組付が容易になる。
また、エアバッグモジュールはエアバッグが前方に展開可能に構成され、エアバッグモジュールは締結部よりも前方に配置されている態様によれば、展開時にエアバッグが締結具に接触することを防止することができるため、エアバッグと締結具との接触によるエアバッグの変形を防止することができ、エアバッグをより確実に展開させることができる。
以下、図面を参照して、本発明に係る乗物用シートを自動車の最後尾の後部座席に適用した実施形態を説明する。以下では、車両の前方を基準として、前後、左右及び上下方向を記載する。また、乗物用シートは後述するように、乗員が着座する使用位置と、荷物の収容可能なスペースを拡張するため変形した格納位置との間で形態及び姿勢が変化するが、特に明記しない限り、使用位置を基準として各構成の形状を説明する。
図1に示すように、本発明に係る乗物用シート1は、前後に2列座席が設けられた自動車において、2列目の後部座席の左側部分を構成する。乗物用シート1は自動車のフロア2上に設けられ、着座者の臀部を支持するシートクッション4と、シートクッション4の後部に支持され、背凭れとして機能するシートバック5と、各シートバック5の上部に設けられたヘッドレスト6とを有する。乗物用シート1の後方には、テールゲート(リアゲート)に繋がる略水平な荷室床面7(図2参照)が設けられている。
シートクッション4は左右に延び、乗員2人分の着座面9を構成している。シートクッション4の下方には、フロア2の上面に結合し、前後に延びる左右一対のロアレール10が設けられている。ロアレール10にはそれぞれ、アッパレールがロアレール10の延在方向に沿ってスライド移動可能に結合している。シートクッション4はロアレール10及びアッパレールを介して、フロア2に前後にスライド移動可能に支持されている。
シートバック5は上下に延び、前方を向く面を有する略直方体状をなしている。シートバック5の前面には2名の乗員の背中を支持する支持面12が形成されている。シートバック5はその下端において、公知のリクライニング機構を介して、シートクッション4を構成するフレームの後端に回動可能に結合されている。
ヘッドレスト6はシートバック5の上端に左右に並んで2つ設けられている。ヘッドレスト6はそれぞれ下端においてシートバック5に対して左右方向を軸線とする回動可能に結合している。
シートクッション4の車外側下部には車外側に突出するストラップ15が設けられている。ストラップ15が車外側に引っ張られると、乗物用シート1は、図2に示すように、乗員が着座可能な使用位置(図2(A))から、シートクッション4及びシートバック5が移動し、荷物の収容可能なスペースが拡張された格納位置(図2(B))に変位する。乗物用シート1が使用位置にあるときには、シートクッション4の着座面9は着座者の臀部を支持すべく上方を向き、シートバック5の支持面12は着座者の背中を支持すべく略前方を向いている。乗物用シート1が使用位置から格納位置に変位するときには、シートクッション4は後部が持ち上げられて前方に移動し(図2(A)の二点鎖線)、着座面9が前方を向く姿勢となる。同時に、シートバック5は前倒しされて下端を中心として回転し(図2(A)の二点鎖線)、支持面12が略下方を向き、且つその背面が略水平に延びる姿勢となる。乗物用シート1が格納位置にあるとき、シートバック5の背面は荷室床面7と連続し、シートバック5の背面に荷物を載置することができる。図2(A)に示すように、ヘッドレスト6もまた、乗物用シート1が使用位置から格納位置に変位するとき、シートバック5の移動を妨げないように、シートバック5に対して左右方向を軸線として前方に回転するとよい。
本実施形態では、シートバック5の左側上端に所定のレバー17が設けられている。乗物用シート1が使用位置にあるときに、レバー17を操作すると、シートバック5のシートクッション4に対する回動が可能となる。これによって、着座者が自らの体格に合わせて、シートバック5のシートクッション4に対する角度を調節することができる。
次に、シートバック5の構造について、図3及び図4を参照して説明する。図4に示すように、シートバック5は、骨格としてのシートバックフレーム18と、シートバックフレーム18に支持されたパッド部材21と、パッド部材21の前面に設けられ、シートバック5の外面を構成する表皮部材22と、シートバックフレーム18に支持されたエアバッグモジュール23を有している。
図3に示すように、シートバックフレーム18は、シートバック5の骨格を形成し、略四角形な枠型をなすシートバックフレーム枠部19と、シートバックフレーム枠部19の後方に配置されたパンフレーム20(プレート)とを備えている。シートバックフレーム枠部19は上下に延びる左右一対のサイドフレーム26(サイドメンバ)と、左右に延びて左右のサイドフレーム26のそれぞれの上端に結合するアッパフレーム27と、左右に延びて左右のサイドフレーム26のそれぞれの下部に結合するロアフレーム(不図示)とを含む。左右のサイドフレーム26の上部をそれぞれ構成するサイドフレーム上部26Uとアッパフレーム27とは、1本の円形のパイプ材29を逆U字状の門型に屈曲させることによって形成されている。左右のサイドフレーム26の下部をそれぞれ構成するサイドフレーム下部26Dは、左右方向を向く面を有する板金部材30によって形成されている。板金部材30は上部において、パイプ材29の端部にそれぞれシート内方の面において溶接されている。板金部材30の前後縁はそれぞれシート内方に向かって折り曲げられている。左右のサイドフレーム26の下端は、シートクッション4を構成するフレームにリクライニング機構を介して回動可能に結合している。
パンフレーム20は金属製の板状部材であり、2つのサイドフレーム26及びアッパフレーム27の後面側に、その面が前後を向くように配置されている。パンフレーム20はサイドフレーム26、アッパフレーム27及びロアフレームの後部を覆うパンフレーム基部31と、パンフレーム基部31から車外側(左側)のサイドフレーム26の左側に延出するパンフレーム延出部32とを備えている。パンフレーム20は、上縁においてアッパフレーム27に溶接され、下縁においてロアフレームに溶接され、左右の側縁において左右のサイドフレーム26の適所に溶接されている。パンフレーム基部31の適所には、補強用のビードや肉抜き孔が複数設けられていてもよい。
左側のサイドフレーム26は上下一対のブラケット501(第1取付部材)が直接結合されている。2つのブラケット501にはエアバッグモジュール23を保持する1つのリテーナ502(第2取付部材)が直接結合されている。エアバッグモジュール23はリテーナ502とブラケット501とを介して、サイドフレーム26に結合している。エアバッグモジュール23は、サイドフレーム26の延在方向に沿って延びる略直方体状をなし、その外面が左右方向を向くように配置されている。
図4に示すように、エアバッグモジュール23は、エアバッグ41と、エアバッグ41の内部にガスを放出し、エアバッグ41を膨張展開させるインフレータ42と、エアバッグ41及びインフレータ42を収容する略直方体状のケース43とを備えている。インフレータ42は略円柱状をなし、その外周面に径外方向に突出する雄ねじ部44を備えている。
ケース43は略直方体状をなし、左側面に開口を備えた金属製のケース本体45と、ケース本体45の開口を覆う樹脂製の蓋体46とによって構成されている。ケース本体45は略四角形状の底壁と、底壁の外周縁に結合された側壁とを備えている。ケース本体45の底壁には所定の位置にその厚さ方向に貫通する貫通孔48が設けられている。エアバッグ41はケース本体45に折り畳まれて収容されている。
雄ねじ部44はケース本体45の内部から貫通孔48を通って外部に突出している。雄ねじ部44がリテーナ502に締結されることで、エアバッグモジュール23はリテーナ502に結合されている。
蓋体46は略長方形状をなし、左右方向を向く樹脂製の板状をなしている。本実施形態では、蓋体46の外周縁にはケース本体45の側に四角筒状に突出し、ケース本体45の開口に嵌め合う筒状部分が結合されている。その筒状部分の外周面には、周方向外方に突出した複数の係止爪が形成されている。ケース本体45の側壁には貫通孔が複数設けられ、係止爪はその貫通孔にそれぞれ係止されている。これにより、蓋体46はケース本体45に結合されている。
蓋体46にはその前縁、及び上下縁に沿って溝状の脆弱部46Wが設けられ、後縁に沿って薄肉となったヒンジ46Hが設けられている。これにより、蓋体46に左方に向く荷重が加わると、蓋体46が脆弱部46Wにおいて開裂し、蓋体46の中央部分がヒンジ46Hを中心に回動して、ケース本体45が開口する。
パンフレーム延出部32は左側のサイドフレーム26から左方に延び、エアバッグモジュール23の左端の左側に達している。パンフレーム延出部32はエアバッグモジュール23の後方に離間した位置にあり、パンフレーム20とエアバッグモジュール23との間には前後方向に隙間Sが設けられている。パンフレーム延出部32の左縁には、パンフレーム20の剛性を高めるべく、前方に折り曲げられた折返部32Aが設けられている。本実施形態では、パンフレーム20の上縁も左縁とパンフレーム延出部32の左縁と同様に、前方に折り返されている。
パッド部材21は、ポリウレタンフォーム等の可撓性を有するクッション材から形成されている。パッド部材21は、図4に示すように、支持面12の後方に位置する前面部50と、前面部50の左側縁から後方に延びる左側面部51とを含んでいる。前面部50と左側面部51とはそれぞれ別体のクッション材によって構成されている。前面部50はサイドフレーム26、ブラケット501及びリテーナ502の前方を通過して、エアバッグモジュール23の左前方に延びている。左側面部51はエアバッグモジュール23の左前方から後方に延びて、エアバッグモジュール23の左方を通過し、パンフレーム20の後面と前後方向において概ね揃う位置に達している。
表皮部材22は布や皮等の複数のシート状部材を縫合することによって形成されている。表皮部材22は前面部50の表面を覆う前部シート材54と、左側面部51の左側面を覆う左側部シート材55とを有している。前部シート材54の左縁と左側部シート材55の前縁とは互いに縫合されて、縫合部57を形成している。この縫合部57は、表皮部材22において、他の縫合部分に比べて小さい荷重によって破断する脆弱部として機能する。図1に示すように、縫合部57はシートバック5の左前縁に沿って上下に延在している。
パンフレーム20の後面には、表皮部材22と同様に布や皮等のシート状部材によって形成されたバックシート材58が設けられている。バックシート材58の一端は左側部シート材55の後縁に線ファスナ59を介して結合されている。
乗物用シート1には、後席の乗員に加わる荷重を検出するための所定のセンサ60が所定の位置に設けられている。センサ60は例えば、後席の乗員が装着したシートベルトに加わる張力を検出する張力センサや、乗物用シート1に加わる加速度を検出する加速度センサであってもよい。乗物用シート1の下部には、センサ60及びインフレータ42に電気的に接続され、センサ60によって検出された荷重に基づいて、インフレータ42の駆動を制御する制御装置61が設けられている。なお、本実施形態では、制御装置61は乗物用シート1に設けられていたが、車体のいかなる位置に設けられていてもよい。
次に、ブラケット501及びリテーナ502の形状の詳細について説明する。
図3に示すように、上側のブラケット501Uは折曲加工された板金部材であり、後端においてサイドフレーム上部26Uを構成するパイプ材29に溶接され、左斜め前方に延びている。下側のブラケット501Dは上側のブラケット501Uと同様に折曲加工された板金部材であり、後端においてサイドフレーム下部26Dの上部を構成する板金部材の後面に溶接されている。上側のブラケット501Uの前部、及び下側のブラケット501Dの前部にはそれぞれ、左方に向かって前方に傾斜するブラケット傾斜壁503が形成されている。ブラケット傾斜壁503には厚さ方向に貫通するボルト孔504(締結部)が設けられている。ブラケット傾斜壁503の前面にはボルト孔504に整合する位置にナットが溶接されている。
リテーナ502は折曲加工された板金部材であり、前後及び上下に延び、左右方向を向く板状のリテーナ基部505と、リテーナ基部505の後縁に接続し後方に向かって右側に傾斜する板状のリテーナ傾斜壁506と、リテーナ基部505の前縁に接続したリテーナ前部507を備えている。リテーナ基部505には厚さ方向に貫通するボルト孔508が設けられている。インフレータ42の雄ねじ部44がボルト孔508に締結されることによって、エアバッグモジュール23はリテーナ基部505の左側面に保持されている。
リテーナ傾斜壁506にはボルト孔509が形成されている。リテーナ傾斜壁506(被締結部)はブラケット傾斜壁503の後面に沿うように配置され、2つのボルト孔504、509を貫通するボルト72(締結具)によって、ブラケット傾斜壁503に締結される。これにより、リテーナ502はブラケット501に結合する。
リテーナ前部507はリテーナ基部505の前縁から右方に向かって前方に傾斜する板状をなしている。図4に示すように、リテーナ前部507の前縁の上下方向略中央部には前方に板状をなして突出し、突端で右方向に円弧状に湾曲したフック510が設けられている。
パンフレーム20にはボルト72の頭部を操作するためのツール孔74が設けられている。ツール孔74はパンフレーム20を貫通する孔であり、ボルト72の軸線Xの延長線上に設けられている。ツール孔74はボルト72を締結するための工具(例えば、ユニバーサルレンチ)が挿通可能な大きさに設定されている。パンフレーム20には、ツール孔74を封止する樹脂製の封止部材75が設けられている。
図3に示すように、左側のサイドフレーム26にはワイヤ部材520が結合されている。ワイヤ部材520は金属丸棒を曲げ加工することによって形成され、一端において板金部材30の左側面に、他端においてパイプ材29の前面にそれぞれ溶接されている。ワイヤ部材520は略中央部において左側のサイドフレーム26の延在方向に沿って上下に延びる掛止部521を備えている。掛止部521はエアバッグモジュール23の前方であって、サイドフレーム26の左方かつリテーナ基部505の右方に位置し、ブラケット傾斜壁503の前方に位置している。フック510はワイヤ部材520に掛け止めされて係止されている。これにより、リテーナ502は前端においてワイヤ部材520に掛け止めされ、後端においてブラケット501に締結されている。
表皮部材22には、力布96が設けられている。力布96は表皮部材22よりも伸縮性の小さいシート状部材によって形成されている。力布96は一端が縫合部57において、前部シート材54及び左側部シート材55に縫合されている。
前面部50と左側面部51とはそれぞれ別体のクッション材によって構成されているため、その間に通路522が形成されている。力布96は一端から前面部50及び左側面部51の間に形成された通路522を通過して、ワイヤ部材520の掛止部521に達している。力布96の他端にはフック97が設けられ、フック97はワイヤ部材520の掛止部521に掛け止めされている。
次に、乗物用シート1の動作について説明する。センサ60が後席の乗員の加速度やシートベルトに加わる荷重が所定値以上となったことを検出すると、制御装置61はエアバッグ41の内部にガスを供給させるべく、インフレータ42を制御する。これにより、インフレータ42からガスが放出され、エアバッグ41は膨張して蓋体46を左方に押圧する。これにより脆弱部46Wが開裂して、ケース43が開口する。
エアバッグ41はインフレータ42から供給されるガスによって左前方に膨張し、前面部50及び左側面部51との間を通過して、縫合部57に達する。このとき、エアバッグ41の膨張によって、力布96に荷重が加わる。力布96によって加えられた荷重によって、縫合部57が破断し、シートバック5の前面の左上端に開口が形成される。エアバッグ41はシートバック5のその開口を通って、シートバック5の左前方に膨張し、着座者と車室側壁との間に展開する。
次に、乗物用シート1の効果について説明する。力布96はエアバッグモジュール23の前方に位置する掛止部に結合される。掛止部521はエアバッグモジュール23の前方に位置するため、側方から視認することができる。これにより、力布96がワイヤ部材520の適正な位置に結合されていることを容易に確認することができる。
エアバッグ41を備えた乗物用シート1において、エアバッグ41が展開すると、エアバッグモジュール23を支持するフレームにエアバッグ41の展開方向とは逆方向の荷重(反力)が加わる。エアバッグ41の展開方向をより適正なものとし、エアバッグ41の展開を安定させるためには、エアバッグモジュール23を支持するフレームにはエアバッグ41の展開時に加えられる反力に十分対抗できる剛性が求められる。
パンフレーム20は左右のサイドフレーム26の後面を覆う概ね平板状の板金部材によって形成されている。エアバッグモジュール23をパンフレーム20に結合させ、且つ、パンフレーム20にエアバッグ41の展開時に加えられる反力に十分対抗できる剛性を持たせるには、その板厚を大きくする必要がある。しかし、パンフレーム20の板厚を大きくすると、シートバックフレーム18の重量が大きくなる。
乗物用シート1では、エアバッグモジュール23はサイドフレーム26に結合されている。サイドフレーム26はその上部がパイプ材29によって形成されている。また、サイドフレーム26の下部は、前後縁においてシートの内方に向かって折り曲げられた板金部材30によって形成されている。よって、サイドフレーム26は板状のパンフレーム20に比べて剛性が高い。エアバッグモジュール23をサイドフレーム26に結合させることによって、エアバッグモジュール23をパンフレーム20によって支持する場合に比べてパンフレーム20の板厚を小さくすることができる。これにより、エアバッグ41の展開時に加わる反力に対抗してエアバッグモジュール23の姿勢を安定させるとともに、シートバック5を軽量化することができる。
図2に示すように、乗物用シート1を格納位置にすると、シートバック5の背面が荷室床面7と連続し、荷物を載置するための領域を広げることができる。このような領域を広げるためには、パンフレーム20をできる限り大きくすることが好ましい。そこで、パンフレーム20を左側のサイドフレーム26の左方にまで延出させることが考えられる。しかし、パンフレーム20を延出させると、シートバックフレーム18の前面にパッド部材21を配置した後、シートバック5の後方からサイドフレーム26の左側面にアクセスしにくくなる。そのため、エアバッグモジュール23のサイドフレーム26への締結が難しくなる。
図4に示すように、乗物用シート1のパンフレーム20には、ツール孔74が設けられている。これにより、工具をパンフレーム20の後方からツール孔74に差し込み、パンフレーム20の後方からリテーナ502とブラケット501とを締結させるボルト72を締め付けることができる。これにより、シートバック5の後方からエアバッグモジュール23をサイドフレーム26に容易に締結させることができる。
図5に示すように、フック510を掛止部521に掛け止めした後、リテーナ502を上下方向に延びる掛止部521の軸線を中心に紙面左回り(矢印の向き)に回転させると、リテーナ502はブラケット501に対して、2つのボルト孔504、509が整合する適正な位置(図5の二点鎖線)に案内される。これにより、リテーナ502及びエアバッグモジュール23を適正な位置に容易に位置決めすることができる。これにより、ボルト72を締め付けることにより2つのボルト孔504、509を容易に通過させることができ、エアバッグモジュール23をサイドフレーム26に容易に結合させることができる。また、フック510が掛止部521に掛け止めされているため、エアバッグモジュール23の後方への移動が規制され、エアバッグモジュール23を適正な位置に維持し易い。
ワイヤ部材520はサイドフレーム26に結合させるエアバッグモジュール23を適正な位置に案内する位置決めとしての役割に加え、力布96の端部を支持して、エアバッグ41の膨張による荷重を集中させる役割を果たす。このように、力布96をサイドフレーム26に結合させることにより支持させるためのワイヤ部材520が、エアバッグモジュール23の位置決めに用いられている。これにより、エアバッグモジュール23の位置決めのために別途部材を設ける必要がない。これにより、乗物用シート1の構成を簡素にすることができる。
本実施形態では、エアバッグモジュール23は組付け後も、図3に示すように、リテーナ502は前縁においてワイヤ部材520に掛け止めされている。また、リテーナ502は後縁においてサイドフレーム26にボルト72によって締結されている。リテーナ502は前後においてサイドフレーム26に結合しているため、リテーナ502とサイドフレーム26との結合が十分強くなり、エアバッグモジュール23がサイドフレーム26に対して移動し難くなる。これにより、展開時のエアバッグ41の姿勢を安定させることができる。
ボルト72が左右方向に延びる壁に締結される場合に比べて、左右方向に対して傾斜した壁面に締結される場合の方が、ボルト72の頭部の後方への突出量は小さくなる。本実施形態では、ボルト72が締結されるブラケット傾斜壁503を左右方向に対して傾斜させることによって、ボルト72の頭部の後方への突出量を低減することができる。また、ブラケット傾斜壁503の後面は斜め後方を向いているため、パンフレーム20の後方からボルト72の頭部を視認することができ、リテーナ502及びブラケット501の締結作業がし易い。
パンフレーム20にはツール孔74を封止する封止部材75が設けられている。そのため、シートバック5の背面をより平坦にすることができ、乗物用シート1が格納位置にあるときに、シートバック5の背面に載置された荷物の安定性を向上させることができる。また、封止部材75よってツール孔74が封止することによって、乗物用シート1が格納位置にあるときに、シートバック5の背面に荷物から水等の液体がかかった場合であっても、液体が垂れてエアバッグモジュール23に到達することを防止することができる。
パンフレーム20とエアバッグモジュール23との間に隙間Sが設けられている。そのため、シートバック5の背面に載置された荷物からの荷重がエアバッグモジュール23に直接加わらず、エアバッグモジュール23の位置の変化を防止することができる。
エアバッグモジュール23はブラケット傾斜壁503の前方においてリテーナ502に締結されている。展開時のエアバッグ41のリテーナ502とブラケット501とを締結するボルト72への接触を防止することができ、展開時のエアバッグ41の損傷を防止することができる。これにより、エアバッグ41をより確実に展開させることができる。
また、サイドフレーム26にはブラケット501が上下に設けられ、エアバッグモジュール23は上下2ヶ所においてサイドフレーム26に結合している。これにより、エアバッグモジュール23が1ヶ所においてサイドフレーム26に結合している場合に比べて、エアバッグモジュール23とサイドフレーム26との結合が強固になり、展開時のエアバッグ41の姿勢をより安定させることができる。
図1及び図3に示すように、縫合部57及び掛止部521はともに上下に延在し、力布96は端部において縫合部57及び掛止部521に掛け止めされている。これにより、力布96はエアバッグモジュール23の前方において、上下及び左右に延びる面を形成する。そのため、エアバッグ41が前方に膨張したときに、力布96に荷重が加わり易くなり、エアバッグの膨張による荷重を縫合部57により集中させることができる。
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されることなく幅広く変形実施することができる。上記実施形態では、フック510は板金部材の前端を湾曲させることによって形成されていたが、掛止部521に回動可能に結合する態様であればいかなる態様であってもよく、例えば、フック510は掛止部521の左右側面に沿ってそれぞれ湾曲し、掛止部521を後方から支承する2枚の板部材によって構成されていてもよい。