A.第1実施形態:
A-1.燃料電池システムの構成:
図1は、本発明の一実施形態としての燃料電池システム10の概略構成を示す説明図である。燃料電池システム10は、車両の駆動モータ等に駆動用電源を供給するためのシステムとして、図示しない燃料電池車両に搭載されている。燃料電池システム10は、第1燃料電池サブシステム10Aと、第2燃料電池サブシステム10Bと、制御部50とを備える。
第1燃料電池サブシステム10Aおよび第2燃料電池サブシステム10Bは、いずれも燃料電池100A、100Bの発電により駆動用電源の一部を供給するためのシステムであり、互いに同一の構成を備える。このため、以下では、第1燃料電池サブシステム10Aについて詳細に説明し、第2燃料電池サブシステム10Bについての詳細な説明は、省略する。第2燃料電池サブシステム10Bの構成要素には、第1燃料電池サブシステム10Aの構成要素における符号の末尾のAをBに代えた符号を付している。
第1燃料電池サブシステム10Aは、燃料電池100Aと、高圧水素供給系200Aと、中低圧水素給排系300Aと、水素センサ900Aと、空気給排系400Aと、冷却系500Aと、二次電池600Aと、ECU700Aとを備える。
燃料電池100Aは、第1燃料電池サブシステム10Aにおける電力の供給源であり、いわゆる固体高分子型燃料電池により構成されている。燃料電池100Aは、燃料ガスとしての水素と、酸化ガスとしての酸素との電気化学反応によって発電する。燃料電池100Aは、固体高分子型燃料電池に代えて、固体酸化物型燃料電池等の他の任意のタイプの燃料電池により構成されてもよい。燃料電池100Aは、図示しない複数の単セルが積層されたスタック構造を有する。各単セルは、図示しない電解質膜の両面に電極を配置した図示しない膜電極接合体と、膜電極接合体を挟持する図示しない1組のセパレータとを有する。燃料電池100Aを構成する各単セルには、電解質膜を介して、水素が供給されるアノードと、空気が供給されるカソードとが形成されている。
高圧水素供給系200Aは、燃料ガスとしての水素を貯蔵するとともに、中低圧水素給排系300Aを介して燃料電池100Aへと水素を供給する。高圧水素供給系200Aは、5つの水素タンク210Aと、各水素タンク210Aにそれぞれ接続される5つのタンク管路230Aと、マニホールド240Aと、高圧水素配管270Aとを備える。以降の説明では、5つの水素タンク210Aおよびタンク管路230Aのうちの1つを代表して説明し、他の4つについての詳細な説明を省略する。
水素タンク210Aは、水素を高圧で貯蔵する高圧水素タンクとして構成されている。
タンク管路230Aの一端は、水素タンク210Aの図示しない口金と接続され、他端は、マニホールド240Aと接続されている。タンク管路230Aには、主止弁220Aが配置されている。主止弁220Aは、ECU700Aの第1制御部710Aからの指示に応じて開閉する。主止弁220Aの開閉によって、水素タンク210Aからの水素の供給と遮断とが制御される。マニホールド240Aは、各タンク管路230Aと高圧水素配管270Aとを接続している。マニホールド240Aには、高圧圧力センサ242Aが配置されている。高圧圧力センサ242Aは、水素タンク210A内の水素の圧力を検出する。
第1燃料電池サブシステム10Aの高圧水素配管270Aと第2燃料電池サブシステム10Bの高圧水素配管270Bとは、連通管290によって互いに接続されている。このため、第1燃料電池サブシステム10Aの高圧水素供給系200Aと、第2燃料電池サブシステム10Bの高圧水素供給系200Bとは、2つの燃料電池サブシステム10A、10Bに共通に使用される。
中低圧水素給排系300Aは、高圧水素供給系200Aから高圧水素配管270Aを介して供給される水素を燃料電池100Aへ供給するとともに、燃料電池100Aから排出されるアノード排ガスを排出する。中低圧水素給排系300Aは、減圧弁320Aと、中低圧水素配管310Aと、中圧リリーフ弁325Aと、中圧圧力センサ330Aと、インジェクタ340Aと、低圧リリーフ弁345Aと、低圧圧力センサ350Aと、水素排出路360Aと、気液分離器370Aと、循環配管375Aと、水素ポンプ380Aと、排気排水路390Aと排気排水弁395Aとを備える。
減圧弁320Aは、高圧水素配管270Aと接続され、高圧水素供給系200Aから供給される水素の圧力を所定の圧力まで低下させて中低圧水素配管310Aへと送る。中低圧水素配管310Aは、減圧弁320Aから燃料電池100Aまでの間における水素の流路を構成している。中低圧水素配管310Aには、減圧弁320A側から順に、中圧リリーフ弁325A、中圧圧力センサ330A、インジェクタ340A、低圧リリーフ弁345Aおよび低圧圧力センサ350Aが配置されている。中圧リリーフ弁325Aは、減圧弁320Aの下流側における水素の圧力が所定の圧力以上となった場合に自動的に開かれて、大気中に水素を放出する。中圧リリーフ弁325Aは、通常閉じられており、減圧弁320Aの異常等によって開かれる。中圧圧力センサ330Aは、減圧弁320Aからインジェクタ340Aまでの間における水素の圧力を検出する。インジェクタ340Aは、第1制御部710Aによって設定された駆動周期や開弁時間に応じて駆動し、水素を噴射する。低圧リリーフ弁345Aは、インジェクタ340Aの下流側における水素の圧力が所定の圧力以上となった場合に自動的に開かれて、大気中に水素を放出する。低圧リリーフ弁345Aは、通常閉じられており、インジェクタ340Aの異常等によって開かれる。低圧圧力センサ350Aは、燃料電池100Aのアノードに供給される水素の圧力を検出する。
水素排出路360Aは、燃料電池100Aと気液分離器370Aとを接続している。気液分離器370Aは、燃料電池100Aから排出された液水混じりの排ガスから、液水および窒素ガス等の不純物ガスを分離する。循環配管375Aは、気液分離器370Aと中低圧水素配管310Aの低圧リリーフ弁345Aよりも下流側とを接続している。水素ポンプ380Aは、循環配管375Aに配置され、電気化学反応に用いられなかった水素を含む排ガスを循環させる。排気排水路390Aは、気液分離器370Aと、後述する空気排出路420Aとを接続している。排気排水弁395Aは、気液分離器370Aと排気排水路390Aとの間に配置され、第1制御部710Aからの指示に応じて開閉する。気液分離器370Aによって分離された液水および不純物ガスは、排気排水弁395Aが開かれると、排気排水路390Aおよび空気排出路420Aを介して外部へと排出される。
上述のように、第1燃料電池サブシステム10Aの高圧水素配管270Aと第2燃料電池サブシステム10Bの高圧水素配管270Bとは、連通管290によって互いに接続されている。このため、高圧水素供給系200A、200Bの両方から、第1燃料電池サブシステム10Aの中低圧水素給排系300Aおよび燃料電池100Aと、第2燃料電池サブシステム10Bの中低圧水素給排系300Bおよび燃料電池100Bとに、それぞれ水素が共通して供給される。各高圧水素供給系200A、200Bと、各中低圧水素給排系300A、300Bと、連通管290とは、水素供給系200を構成している。すなわち、水素供給系200は、各燃料電池100A、100Bに水素をそれぞれ供給する。
水素センサ900Aは、水素を検出するガスセンサにより構成されている。水素センサ900Aは、水素供給系200の近傍に複数配置され、水素供給系200の外部への水素漏れである外部水素漏れを検出する。水素センサ900Aは、5つの水素タンク210Aを収容する図示しないタンクケースや、中低圧水素配管310Aの外側に配置されている。なお、水素センサ900Aは、水素供給系200の近傍における他の任意の位置に設けられていてもよい。
空気給排系400Aは、酸化ガスとしての酸素を含む空気を燃料電池100Aに供給し、排出する。空気給排系400Aは、空気供給路410Aと、エアコンプレッサ440Aと、空気排出路420Aと、バイパス路430Aと、分流弁450Aと、調圧弁460Aとを備える。
空気供給路410Aは、燃料電池100Aへと供給される空気の流路を構成している。空気供給路410Aには、エアコンプレッサ440Aおよび図示しないセンサ類やインタークーラ等が配置されている。エアコンプレッサ440Aは、空気供給路410Aに配置され、空気を圧縮して燃料電池100Aのカソードへと送出する。図示しないセンサ類には、例えば、外気温を検出する温度センサ、大気圧を検出する大気圧センサ、空気の流量を検出するエアフローメータ、エアコンプレッサ440Aから送出される空気の圧力を検出する圧力センサ、燃料電池100Aのカソードに供給される空気の温度を検出する温度センサ等が該当する。
空気排出路420Aは、燃料電池100Aのカソードと接続され、燃料電池100Aから排出される空気とバイパス路430Aに分流された空気とを、マフラー470Aを介して外部へ排出する。バイパス路430Aは、空気供給路410Aと空気排出路420Aとを連通する。分流弁450Aは、空気供給路410Aに配置されてバイパス路430Aと接続され、第1制御部710Aからの指示に応じて燃料電池100Aおよびバイパス路430Aへの空気の流量を調節する。調圧弁460Aは、空気排出路420Aにおいてバイパス路430Aとの接続部位よりも燃料電池100A側に配置されている。調圧弁460Aは、第1制御部710Aからの指示に応じて開閉し、カソードの圧力を調整する。
冷却系500Aは、発電によって温度が上昇した燃料電池100Aを冷却する。冷却系500Aは、冷媒供給路520Aと、冷媒排出路530Aと、ラジエータ510Aと、バイパス路540Aと、三方弁560Aと、冷媒ポンプ550Aとを備える。冷媒供給路520Aは、冷媒としての冷却水を燃料電池100Aに供給する。なお、冷却水に代えて、エチレングリコール等の不凍液や空気等を用いてもよい。冷媒排出路530Aは、燃料電池100Aから排出された冷媒をラジエータ510Aへと送る。ラジエータ510Aは、冷媒を放熱する。バイパス路540Aは、冷媒供給路520Aと冷媒排出路530Aとを連通する。三方弁560Aは、ラジエータ510Aとバイパス路540Aへの冷媒の流量を調整する。冷媒ポンプ550Aは、冷媒供給路520Aに配置され、冷媒を循環させる。また、冷却系500Aは、図示しないイオン交換器や、冷媒の温度を検出する図示しない温度センサ等を備える。
中低圧水素給排系300A、空気給排系400Aおよび冷却系500Aは、第1燃料電池サブシステム10Aのみに使用され、第2燃料電池サブシステム10Bに対して独立した系統である。同様に、中低圧水素給排系300B、空気給排系400Bおよび冷却系500Bは、第2燃料電池サブシステム10Bのみに使用され、第1燃料電池サブシステム10Aに対して独立した系統である。
二次電池600Aは、リチウムイオン電池によって構成され、燃料電池100Aとともに第1燃料電池サブシステム10Aにおける電力の供給源として機能する。なお、リチウムイオン電池に代えて、ニッケル水素電池等の他の任意の種類の二次電池により構成されてもよい。二次電池600Aは、燃料電池100Aで発電された電力のうち駆動モータ等の負荷で消費されなかった余剰の電力と、回生電力とによって充電される。
ECU700Aは、CPUと記憶装置とを備えるマイクロコンピュータであり、電子制御ユニットとして構成されている。CPUは、記憶装置に予め記憶されている制御プログラムを実行することにより、第1制御部710Aとして機能する。第1制御部710Aは、燃料電池100Aの発電制御および二次電池600Aの充放電制御を含めた、第1燃料電池サブシステム10A全体の動作を制御する。第1制御部710Aは、高圧圧力センサ242A、中圧圧力センサ330A、低圧圧力センサ350Aおよび水素センサ900A等の各種センサからの出力信号を取得する。また、主止弁220A、分流弁450A、調圧弁460Aおよび三方弁560A等の各種弁や、インジェクタ340A、水素ポンプ380A、エアコンプレッサ440Aおよび冷媒ポンプ550A等、燃料電池100Aの発電に関わる各部に駆動信号を出力する。第1制御部710Aは、第2燃料電池サブシステム10Bの第2制御部710Bと、信号線を介して互いに通信可能に構成されている。
制御部50は、CPUと記憶装置とを備えるマイクロコンピュータであり、電子制御ユニットとして構成されている。CPUは、記憶装置に予め記憶されている制御プログラムを実行することにより、燃料電池システム10全体の制御を行なう。制御部50は、第1制御部710Aおよび第2制御部710Bと互いに通信可能に構成されるとともに、第1制御部710Aおよび第2制御部710Bに対して制御指令を出力する。したがって、制御部50は、各燃料電池サブシステム10A、10Bが有する燃料電池100A、100Bの発電を制御する。
制御部50は、異常検出部60を備える。異常検出部60は、第1燃料電池サブシステム10Aおよび第2燃料電池サブシステム10Bのそれぞれの異常を検出する。かかる異常の検出は、各燃料電池サブシステム10A、10Bが備える各種センサ類から第1制御部710Aおよび第2制御部710Bに対して出力される検出値に基づいて行なわれる。制御部50は、異常検出部60による異常の検出結果に基づいて異常時制御処理を実行することにより、異常の種類および異常の深刻度等に応じた制御モードを設定して燃料電池システム10を制御し、水素を利用する上での安全性を向上させるとともに、燃料電池100A、100Bの発電停止による出力電力不足や、燃料電池システム10の全停止に伴うユーザーの利便性の低下を抑制する。
A-2.異常時制御処理
図2、図3および図4は、異常時制御処理の手順を示すフローチャートである。異常時制御処理は、燃料電池車両の図示しないスタータースイッチが押されて燃料電池システム10が起動すると実行される。
第1制御部710Aおよび第2制御部710Bは、各燃料電池サブシステム10A、10Bが備える各種センサ類の検出値をそれぞれ取得する(ステップS110)。異常検出部60は、ステップS110の結果に基づいて、各燃料電池サブシステム10A、10Bが正常であるか否かを判定する(ステップS115)。各燃料電池サブシステム10A、10Bが正常であると判定された場合(ステップS115:YES)、制御部50は、燃料電池システム10の制御モードを連通モードに設定し、燃料電池システム10を連通モードで動作させる(ステップS120)。連通モードにおいては、各燃料電池サブシステム10A、10Bの間で、主止弁220A、220Bの開閉操作に関わる制御等を同期させる。この場合、各燃料電池サブシステム10A、10Bは、通常の発電制御により動作する。
制御部50は、燃料電池車両の走行が終了したか否かを判定する(ステップS125)。燃料電池車両の走行が終了していないと判定された場合(ステップS125:NO)、ステップS110に戻る。他方、燃料電池車両の走行が終了したと判定された場合(ステップS125:YES)、異常時制御処理は終了する。
上記ステップS115において、各燃料電池サブシステム10A、10Bが正常でないと判定された場合(ステップS115:NO)、すなわち、少なくとも1つの燃料電池サブシステム10A、10Bの異常が検出された場合、異常検出部60は、検出された異常が水素供給系200の異常であるか否かを判定する(ステップS130)。
水素供給系200の異常には、例えば、水素欠、水素漏れ、水素の圧力異常、水素供給系200におけるセンサ類の故障等が該当する。
検出された異常が水素供給系200の異常であると判定された場合(ステップS130:YES)、制御部50は、燃料電池システム10の制御モードを第1フェールセーフモードに設定する(ステップS200)。他方、水素供給系200の異常でないと判定された場合(ステップS130:NO)、すなわち、水素供給系200以外の異常であると判定された場合、制御部50は、燃料電池システム10の制御モードを第2フェールセーフモードに設定する(ステップS300)。以下では、第1フェールセーフモードの詳細内容を説明した後に、第2フェールセーフモードの詳細内容を説明する。燃料電池システム10は、後述するステップS205~ステップS270が実行されることにより、第1フェールセーフモードで動作する。
第1フェールセーフモードには、水素供給系200の異常の種類および深刻度等に応じて、フェールセーフモードa、b、cおよびdの、4つのモードが予め設定されている。第1フェールセーフモードでは、全ての燃料電池サブシステム10A、10Bに対して異常を同期させて異常情報を共有させることにより、全ての燃料電池サブシステム10A、10Bに対してフェールセーフモードa~dでの制御を実行する。「異常の同期」について、以下に説明する。なお、「フェールセーフモードa~d」については、後述する。また、以降の説明では、2つの燃料電池サブシステム10A、10Bのうちのいずれか一方は、異常が検出されていないものとして説明する。
図5は、異常の同期を説明するための説明図である。図5では、各燃料電池サブシステム10A、10Bにおけるそれぞれの異常判定結果と、各燃料電池サブシステム10A、10Bが統合された燃料電池システム10における異常判定結果とが示されている。異常判定は、異常が検出されていない間はOFFであり、異常が検出されるとONになる。図5の横軸は、時刻を示している。
時刻T10では、2つの燃料電池サブシステム10A、10Bのいずれにおいても異常が検出されていない。このため、各燃料電池サブシステム10A、10Bおよび燃料電池システム10の異常判定は、全てOFFになっている。時刻T11では、第1燃料電池サブシステム10Aで異常が検出され、第1燃料電池サブシステム10Aの異常判定がONになっている。このため、時刻T12において燃料電池システム10の異常判定をONにすることにより、異常が検出されていない第2燃料電池サブシステム10Bにおいても、時刻T13に異常判定をONにする。すなわち、異常の同期とは、全ての燃料電池サブシステム10A、10Bの異常判定をONにさせることにより、異常情報を共有させることを意味する。
図3に示すように、異常検出部60は、検出された異常の数が1つであるか否かを判定する(ステップS205)。検出された異常の数が1つであると判定された場合(ステップS205:YES)、制御部50は、かかる異常内容を記憶する(ステップS210)。他方、検出された異常の数が1つでないと判定された場合(ステップS205:NO)、すなわち複数の異常が検出されている場合、制御部50は、複数の異常のうち最も強い制限に該当する異常内容を記憶する(ステップS215)。ここで、「最も強い制限に該当する異常」とは、深刻度が最も大きい異常を意味し、燃料電池システム10の運転において大きな制限をかけるべき異常を意味する。異常の深刻度は、予め設定されて制御部50の記憶装置に記憶されている。
制御部50は、ステップS210またはステップS215で記憶された異常内容が、フェールセーフモードaに対応する異常であるか否かを判定する(ステップS220)。フェールセーフモードaに対応する異常とは、フェールセーフモードaで動作制御すべき異常として予め設定されて制御部50の記憶装置に記憶されている異常と、異常内容が一致する異常を意味する。
フェールセーフモードaは、水素供給系200の異常のうち深刻度が最も大きい異常に対するモードであり、燃料電池車両を緊急停止させる制御モードに該当する。異常内容がフェールセーフモードaに対応する異常であると判定された場合(ステップS220:YES)、制御部50は、燃料電池システム10の制御モードをフェールセーフモードaに設定し、各燃料電池サブシステム10A、10Bをフェールセーフモードaで動作させる(ステップS225)。
フェールセーフモードaでは、全ての燃料電池サブシステム10A、10Bを停止させ、異常の拡大を抑制する。ステップS225では、異常が検出された燃料電池サブシステム10A、10B(以下、「異常サブシステム」とも呼ぶ)における燃料電池100A、100Bの発電を停止し、異常サブシステムの停止処理を実行する。また、異常が検出されていない燃料電池サブシステム10A、10B(以下、「正常サブシステム」とも呼ぶ)における燃料電池100A、100Bの発電を停止し、正常サブシステムの停止処理を実行する。これにより、燃料電池車両を停止させる。
ステップS225および後述のステップS245、S255、S260、S270に示す燃料電池サブシステム10A、10Bの停止処理では、制御部50により第1制御部710Aおよび第2制御部710Bに制御指令が出力される。これにより、例えば、主止弁220A、220B、減圧弁320A、320Bおよびインジェクタ340A、340Bの閉弁や、エアコンプレッサ440A、440Bの停止等が実行され、燃料電池100A、100Bへの反応ガスの供給が停止されて燃料電池100A、100Bの発電が停止される。また、各燃料電池サブシステム10A、10Bが備える図示しない燃料電池コンバータ等が停止され、図示しない燃料電池用リレー回路等が遮断される。
フェールセーフモードaに対応する異常としては、外部水素漏れおよび水素欠の2つの異常が該当する。
外部水素漏れは、水素センサ900A、900Bにより検出される他、高圧圧力センサ242A、242B、中圧圧力センサ330A、330Bまたは低圧圧力センサ350A、350Bにより検出される圧力が所定圧力以下となった場合に検出される。加えて、中圧リリーフ弁325A、325Bまたは低圧リリーフ弁345A、345Bの開状態が継続することにより検出されてもよい。中低圧水素配管310A、310Bの圧力が予め定められた圧力以上に上昇した場合であって、リリーフ弁325A、325B、345A、345Bの開状態を継続させる場合には、水素の放出が継続するからである。
水素欠は、高圧圧力センサ242A、242Bにより検出された水素タンク210A、210B内の圧力が、水素欠閾値として予め定められた圧力以下となることにより検出される。いずれか一方の燃料電池サブシステム10A、10Bにおいて水素欠が検出された場合に、全ての燃料電池サブシステム10A、10Bを停止させるのは、以下の理由による。
第1燃料電池サブシステム10Aの高圧水素供給系200Aと、第2燃料電池サブシステム10Bの高圧水素供給系200Bとは、2つの燃料電池サブシステム10A、10Bに共通に使用される。また、高圧圧力センサ242Aは第1燃料電池サブシステム10Aに含まれ、高圧圧力センサ242Bは第2燃料電池サブシステム10Bに含まれている。このため、いずれか一方の燃料電池サブシステム10A、10Bにおいて水素欠が検出されて水素欠判定がONとなった場合に、水素欠が検出されていない燃料電池サブシステム10A、10Bにおいても水素欠判定をONとすることによって、水素欠が検出されていない燃料電池サブシステム10A、10Bの燃料電池100A、100Bの発電が継続されて水素が完全に枯渇することを抑制できる。
図6は、水素欠判定の同期を説明するための説明図である。図6では、各燃料電池サブシステム10A、10Bにおいて、高圧圧力センサ242A、242Bにより検出された水素圧力をそれぞれ太い実線で示し、水素欠閾値をそれぞれ破線で示している。また、図6では、各燃料電池サブシステム10A、10Bにおけるそれぞれの水素欠判定結果と、各燃料電池サブシステム10A、10Bが統合された燃料電池システム10における水素欠判定結果とが示されている。水素欠判定は、水素欠が検出されていない間はOFFであり、水素欠が検出されるとONになる。図6の横軸は、時刻を示している。
時刻T20では、2つの燃料電池サブシステム10A、10Bのいずれにおいても、水素圧力が水素欠閾値を上回っているため、水素欠が検出されていない。このため、各燃料電池サブシステム10A、10Bおよび燃料電池システム10の水素欠判定は、全てOFFになっている。時刻T21では、第1燃料電池サブシステム10Aで水素圧力が水素欠閾値となって水素欠が検出され、第1燃料電池サブシステム10Aの水素欠判定がONになっている。このため、時刻T22に燃料電池システム10の水素欠判定をONにすることにより、水素欠が検出されていない第2燃料電池サブシステム10Bにおいても、時刻T23に水素欠判定をONにする。水素圧力の低下は、時刻T24に燃料電池サブシステム10A、10Bの停止処理が実行されることにより、抑制される。
本実施形態のフェールセーフモードaでは、水素漏れの検知の開始や終了のタイミング等の各種シーケンスの同期を、燃料電池サブシステム10A、10B間で取らずに非同期で制御し、各燃料電池サブシステム10A、10Bの停止処理を実行する。各種シーケンスの非同期は、燃料電池サブシステム10A、10Bの停止処理が完了して、燃料電池車両が停止するまで継続される。ステップS225の実行後、異常時制御処理は終了する。
上記ステップS220において、異常内容がフェールセーフモードaに対応する異常でないと判定された場合(ステップS220:NO)、制御部50は、異常内容がフェールセーフモードbに対応する異常であるか否かを判定する(ステップS230)。異常内容がフェールセーフモードbに対応する異常であると判定された場合(ステップS230:YES)、制御部50は、燃料電池システム10の制御モードをフェールセーフモードbに設定し、各燃料電池サブシステム10A、10Bをフェールセーフモードbで動作させる(ステップS235)。
フェールセーフモードbでは、異常サブシステムにおける燃料電池100A、100Bを出力制限して発電させる。また、正常サブシステムにおける燃料電池100A、100Bについても、同様に出力制限して発電させる。このように、フェールセーフモードbでは、全ての燃料電池サブシステム10A、10Bにおける燃料電池100A、100Bの発電を制限することによって、水素供給系200の異常の拡大を抑制しつつ、燃料電池100A、100Bの発電停止によるユーザーの利便性低下を抑制できる。
フェールセーフモードbに対応する異常としては、例えば、内部水素漏れによって中低圧水素配管310A、310Bの圧力が予め定められた圧力以上となる水素圧力異常が該当する。
内部水素漏れとは、外部水素漏れ以外の水素漏れを意味し、水素供給系200内での水素漏れが該当する。内部水素漏れには、例えば、減圧弁320A、320Bやインジェクタ340A、340Bの故障等により水素漏れ、すなわち予定されている供給量よりも多い水素供給が発生して中低圧水素配管310A、310Bの圧力が上昇する場合等が該当する。水素圧力異常は、例えば、中圧圧力センサ330A、330Bまたは低圧圧力センサ350A、350Bにより検出される圧力が、予め定められた圧力以上となると検出される。
ここで、燃料電池100A、100Bは、出力制限等による発電状態の違いによって水素の使用量が互いに異なることがあり、複数の水素タンク210A、210Bにおける圧力低下や圧損等の度合いが互いに異なる場合がある。また、水素タンク210A、210B等の温度の違い、流量誤差、部品の製造誤差、部品の劣化度合いの違い等に起因して、水素供給系200が備える圧力センサ242A、242B、330A、330B、350A、350Bの検出結果に差が生じる場合がある。このような場合、いずれか一方の燃料電池サブシステム10A、10Bにおいて、内部水素漏れを検出できない、または、内部水素漏れの検出が遅れることがある。しかしながら、上述の図5に示すように異常を同期させるので、いずれか一方の燃料電池サブシステム10A、10Bにおいて異常が検出されると、他方の燃料電池サブシステム10A、10Bにおいても異常が検出されたことと同じ状態となるので、内部水素漏れの検出が遅れることを抑制できる。
フェールセーフモードbおよび後述するフェールセーフモードc、dに対応する異常には、可逆的な異常と不可逆的な異常との、大きく分けて2種類の異常が該当する。可逆的な異常とは、異常が検出されなくなることが期待できる異常であり、不可逆的な異常とは、異常が検出されなくなることが期待できない異常である。
フェールセーフモードbに対応する異常のうち可逆的な異常には、例えば、低圧圧力センサ350A、350Bが中低圧水素配管310Aの圧力上昇を検出した場合に、低圧リリーフ弁345A、345Bが開弁して水素を放出することにより中低圧水素配管310Aの圧力が正常範囲に戻る場合のような異常が該当する。フェールセーフモードbに対応する異常のうち不可逆的な異常には、例えば、低圧圧力センサ350A、350Bが中低圧水素配管310Aの圧力上昇を検出した場合に、低圧リリーフ弁345A、345Bが開弁して水素を放出しても、中低圧水素配管310Aの圧力が正常範囲に戻らない場合のような異常が該当する。
フェールセーフモードbに対応する異常のうち、可逆的な異常の場合には、ステップS235において燃料電池100A、100Bの出力制限を一時的に実行してもよく、不可逆的な異常の場合には、ステップS235において燃料電池100A、100Bの出力制限を継続的に実行してもよい。
フェールセーフモードbに対応する異常として、内部水素漏れによる水素圧力異常に加えて、燃料電池100A、100Bの発電を一時的または継続的に制限することによって水素供給系200の異常の拡大を抑制できるような、他の異常が含まれていてもよい。図3に示すステップS235の実行後、異常時制御処理は終了する。
ステップS230において、異常内容がフェールセーフモードbに対応する異常でないと判定された場合(ステップS230:NO)、制御部50は、異常内容がフェールセーフモードcに対応する異常であるか否かを判定する(ステップS240)。異常内容がフェールセーフモードcに対応する異常であると判定された場合(ステップS240:YES)、制御部50は、燃料電池システム10の制御モードをフェールセーフモードcに設定し、各燃料電池サブシステム10A、10Bをフェールセーフモードcで動作させる(ステップS245)。
フェールセーフモードcでは、異常サブシステムの停止処理を実行する。また、正常サブシステムにおける燃料電池100A、100Bは、異常サブシステムの停止処理が完了するまでの間、出力制限して発電させる。このように制御することにより、水素供給系200の異常の拡大を抑制しつつ、燃料電池100A、100Bの発電停止によるユーザーの利便性低下を抑制できる。
フェールセーフモードcに対応する異常としては、例えば、フェールセーフモードbに対応する異常と同様の種類の異常のうち、異常の深刻度が比較的小さく、異常の拡大の可能性が比較的低く、他の部品の故障を引き起こす可能性が低い異常が該当する。
制御部50は、異常サブシステムが停止したか否かを判定する(ステップS250)。異常サブシステムが停止していないと判定された場合(ステップS250:NO)、ステップS245に戻る。他方、異常サブシステムが停止したと判定された場合(ステップS250:YES)、制御部50は、正常サブシステムに対し、燃料電池100A、100Bの出力制限または正常サブシステムの停止処理を実行する(ステップS255)。
ステップS255において、正常サブシステムに対し、出力制限と停止処理とのうちのいずれを実行するかについては、異常の種類および深刻度等に応じて決定されてもよい。例えば、異常の深刻度が比較的小さい場合に出力制限が実行されてもよく、異常の深刻度が比較的大きい場合に停止処理が実行されてもよい。このように、フェールセーフモードcでは、異常サブシステムの停止とともに、正常サブシステムの出力制限または停止処理を実行することにより、再走行・発電を抑制するので、水素供給系200の異常の拡大を抑制できる。また、少なくとも異常サブシステムが停止するまでの間、正常サブシステムの燃料電池100A、100Bを出力制限した状態で発電させるので、出力電力不足を抑制でき、退避走行距離を確保でき、ユーザーの利便性低下を抑制できる。ステップS255の実行後、異常時制御処理は終了する。
ステップS240において、異常内容がフェールセーフモードcに対応する異常でないと判定された場合(ステップS240:NO)、制御部50は、燃料電池システム10の制御モードをフェールセーフモードdに設定し、各燃料電池サブシステム10A、10Bをフェールセーフモードdで動作させる(ステップS260)。
フェールセーフモードdでは、異常サブシステムの停止処理を実行する。また、正常サブシステムにおける燃料電池100A、100Bは、異常サブシステムの停止処理が完了するまでの間、出力制限せずに通常通り発電させる。このように制御することにより、水素供給系200の異常の拡大を抑制しつつ、出力電力不足を抑制でき、退避走行距離を確保でき、ユーザーの利便性低下を抑制できる。
フェールセーフモードdに対応する異常としては、例えば、異常サブシステムにおいて検出された異常が、正常サブシステムに影響を与えないような異常が該当し、フェールセーフモードcに該当する異常と同様の種類の異常のうち、異常の深刻度がさらに小さく、異常の拡大の可能性がさらに低く、他の部品の故障を引き起こす可能性がさらに低い異常が該当する。また、例えば、制御の際に必要となる値が、推定値や他のセンサによる検出値によって代替可能であるような異常が該当する。例えば、2つの高圧圧力センサ242A、242Bのうちのいずれか一方の故障は、他方の高圧圧力センサ242A、242Bの値を参照して制御を実行することが可能であるため、異常の深刻度が小さく、フェールセーフモードdに対応する異常に該当する。
制御部50は、異常サブシステムが停止したか否かを判定する(ステップS265)。異常サブシステムが停止していないと判定された場合(ステップS265:NO)、ステップS260に戻る。他方、異常サブシステムが停止したと判定された場合(ステップS265:YES)、制御部50は、正常サブシステムに対し、燃料電池100A、100Bの発電の継続と、出力制限と、停止処理とのうちのいずれか1つを実行する(ステップS270)。
ステップS270において、正常サブシステムに対し、発電の継続と出力制限と停止処理とのうちのいずれを実行するかについては、異常の種類および深刻度等に応じて決定されてもよい。このように、フェールセーフモードdでは、少なくとも異常サブシステムが停止するまでの間、正常サブシステムの燃料電池100A、100Bを通常通り発電させるので、出力電力不足をより抑制でき、退避走行距離をより確保でき、ユーザーの利便性低下をより抑制できる。ステップS270の実行後、異常時制御処理は終了する。
図2のステップS300に示す第2フェールセーフモードは、水素供給系200以外の異常の場合に実行される。水素供給系200以外の異常には、例えば、燃料電池100A、100B本体の異常、空気給排系400A、400Bにおける空気の圧力異常、エアコンプレッサ440A、440Bの回転異常、冷却系500A、500Bの冷媒温度異常等が該当する。水素供給系200以外の異常は、正常サブシステムに影響を及ぼさないため、第2フェールセーフモードにおいては、正常サブシステムに異常を同期させなくてもよい。
第2フェールセーフモードにおいては、検出された異常の種類および深刻度に応じて、各燃料電池サブシステム10A、10Bの制御が実行される。具体的には、制御部50は、異常サブシステムおよび正常サブシステムのそれぞれに対し、燃料電池100A、100Bの発電の継続と、出力制限と、停止処理とのうちのいずれか1つを実行する。例えば、異常サブシステムにおける異常が、エアフローメータの故障である場合、エアコンプレッサ440A、440Bの回転数に基づいて空気の流量を推定して制御を実行することが可能であるため、燃料電池100A、100Bの発電を通常通り継続させてもよい。また、例えば、異常サブシステムにおける異常が、燃料電池100A、100Bの温度上昇である場合、出力制限することにより発電の継続が可能であるため、出力制限を実行してもよい。また、例えば、異常サブシステムにおける異常が、燃料電池100A、100Bにおける電解質膜の穴開きの場合、発電の継続が不可能な状態であるため、発電停止処理を実行し、異常サブシステムを停止させてもよい。正常サブシステムは、異常サブシステムにおける異常の種類および深刻度に応じて、燃料電池100A、100Bの発電の継続と、出力制限と、停止処理とのうちのいずれか1つが実行されてもよい。
図4に示すように、制御部50は、各燃料電池サブシステム10A、10Bの間で各種シーケンスの同期可能か否かを判定する(ステップS305)。各燃料電池サブシステム10A、10Bの間で各種シーケンスの同期可能か否かは、検出された異常の種類および深刻度に応じて判定される。例えば、部品故障等の、異常の深刻度が比較的小さい異常である場合、同期可能と判定される。同期可能と判定された場合(ステップS305:YES)、制御部50は、燃料電池システム10の制御モードを連通モードに移行させる(ステップS310)。連通モードにおいては、各燃料電池サブシステム10A、10Bの間で、主止弁220A、220Bの開閉操作に関わる制御等を同期させる。ステップS310が実行されると、各燃料電池サブシステム10A、10Bは、第2フェールセーフモードの制御内容に基づいて、発電の継続と、出力制限と、停止処理とのうちのいずれか1つが実行される。制御部50は、燃料電池車両の走行が終了したか否かを判定する(ステップS315)。燃料電池車両の走行が終了していないと判定された場合(ステップS315:NO)、ステップS315に戻る。他方、燃料電池車両の走行が終了したと判定された場合(ステップS315:YES)、異常時制御処理は終了する。
他方、各燃料電池サブシステム10A、10Bの間で同期可能でないと判定された場合(ステップS305:NO)、制御部50は、燃料電池システム10の制御モードを退避走行モードに移行させる(ステップS320)。退避走行モードとは、走行可能距離が予め定められた距離以下に限定されるモードである。退避走行モードにおいては、各燃料電池サブシステム10A、10Bの間で、主止弁220A、220Bの開閉操作に関わる制御を同期させない。ステップS320が実行されると、各燃料電池サブシステム10A、10Bは、第2フェールセーフモードの制御内容に基づいて、発電の継続と、出力制限と、停止処理とのうちのいずれか1つが実行される。制御部50は、燃料電池車両の走行が終了したか否かを判定する(ステップS325)。燃料電池車両の走行が終了していないと判定された場合(ステップS325:NO)、ステップS325に戻る。他方、燃料電池車両の走行が終了したと判定された場合(ステップS325:YES)、異常時制御処理は終了する。
本実施形態において、水素センサ900A、900B、高圧圧力センサ242A、242B、中圧圧力センサ330A、330Bおよび低圧圧力センサ350A、350Bは、課題を解決するための手段における外部水素漏れを検出可能な外部水素漏れ検出センサの下位概念にそれぞれ相当し、高圧圧力センサ242A、242Bは、課題を解決するための手段における圧力センサの下位概念にそれぞれ相当する。
以上説明した本実施形態の燃料電池システム10によれば、燃料電池サブシステム10A、10Bの異常が外部水素漏れである場合に、燃料電池システム10の制御モードをフェールセーフモードaに移行させて、全ての燃料電池サブシステム10A、10Bを停止させるので、水素を利用する上での安全性を向上できる。
ここで、2つの燃料電池サブシステム10A、10Bを備える燃料電池システム10においては、搭載位置が制限される場合があるため、水素供給系200と電気・電源系とが密接に配置されることがある。このため、2つの燃料電池サブシステム10A、10Bのうちのいずれか一方で外部水素漏れが発生した場合、外部水素漏れが発生していない正常サブシステムを含む全ての燃料電池サブシステム10A、10Bを停止させることにより、電気・電源系への着火を抑制でき、水素を利用する上での安全性を向上できる。
また、燃料電池サブシステム10A、10Bの異常が水素欠である場合に、燃料電池システム10の制御モードをフェールセーフモードaに移行させて、全ての燃料電池サブシステム10A、10Bを停止させるので、水素供給系200の一部が2つの燃料電池サブシステム10A、10Bに共通に使用される構成であっても、正常燃料電池サブシステムにおいて燃料電池100A、100Bの発電が継続されて水素が完全に枯渇することを抑制できる。
また、燃料電池サブシステム10A、10Bの異常が水素圧力異常である場合に、燃料電池システム10の制御モードをフェールセーフモードbに移行させて、全ての燃料電池サブシステム10A、10Bにおける燃料電池100A、100Bの発電を制限するので、異常の拡大を抑制でき、水素を利用する上での安全性を向上できる。また、全ての燃料電池サブシステム10A、10Bにおける燃料電池100A、100Bの発電を制限しつつ継続させるので、出力電力不足を抑制でき、退避走行距離を確保でき、燃料電池システム10の全停止に伴うユーザーの利便性低下を抑制できる。
また、燃料電池サブシステム10A、10Bの異常が、水素供給系200の異常であって外部水素漏れと水素欠とのうちのいずれでもない場合に、燃料電池システム10の制御モードをフェールセーフモードb、cまたはdに移行させて、正常サブシステムにおける燃料電池100A、100Bの発電を継続させるので、出力電力不足を抑制でき、退避走行距離を確保でき、燃料電池システム10の全停止に伴うユーザーの利便性低下を抑制できる。また、異常の種類および深刻度に応じて各フェールセーフモードb、cまたはdに移行させるので、退避走行距離をより確保でき、ユーザーの利便性低下をより抑制できる。また、各フェールセーフモードb、cまたはdにおいて、正常サブシステムにおける燃料電池100A、100Bの出力制限を実行することにより、異常の拡大を抑制できる。また、出力制限を実行することにより、水素タンク210A、210Bの残水素量が比較的少ない状態においても、正常サブシステムと異常サブシステムとの間で水素の圧力差が生じることを抑制できる。
また、燃料電池サブシステム10A、10Bの異常が、水素供給系200の異常である場合に、第1フェールセーフモードに移行させて異常を同期させて異常情報を共有するので、一方の燃料電池サブシステム10A、10Bにおいて、異常が検出できない、または異常の検出が遅れることがあっても、水素を利用する上での安全性を向上できる。また、水素供給系200の異常が複数検出された場合に、複数の異常のうち最も強い制限に該当する異常内容に基づいてフェールセーフモードa~dを設定するため、水素を利用する上での安全性を向上できる。
また、燃料電池サブシステム10A、10Bの異常が、水素供給系200の異常でない場合に、第2フェールセーフモードに移行させる。第2フェールセーフモードでは、正常サブシステムにおける燃料電池100A、100Bの発電を継続させてもよいので、出力電力不足を抑制でき、退避走行距離を確保でき、燃料電池システム10の全停止に伴うユーザーの利便性低下を抑制できる。ここで、水素供給系200の異常でない場合とは、各燃料電池サブシステム10A、10Bで独立した系統で発生した異常であるため、正常サブシステムにおける燃料電池100A、100Bの発電を継続させた場合であっても、異常の拡大を抑制できる。
B.他の実施形態:
(1)上記実施形態のフェールセーフモードcおよびdでは、異常サブシステムにおいて直ちに停止処理を実行していたが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、異常サブシステムにおいて、燃料電池100A、100Bの発電を、出力制限した状態で継続させた後、停止処理を実行してもよい。かかる構成によっても、上記実施形態と同様な効果を奏する。加えて、異常サブシステムにおいて、燃料電池100A、100Bの発電を、出力制限した状態で継続させるので、出力電力不足をより抑制でき、退避走行距離をより確保できる。
図7は、他の実施形態1の制御内容の一例を説明するための説明図である。図7に示す例では、異常サブシステムにおいて燃料電池100A、100Bの発電を出力制限した状態で継続させた後、停止処理を実行する点において、上記実施形態のフェールセーフモードdと異なる。図7では、各燃料電池サブシステム10A、10Bにおける燃料電池100A、100Bの出力を、それぞれ太い実線で示し、異常サブシステムである第1燃料電池サブシステム10Aにおける燃料電池100Aの出力制限値をそれぞれ破線で示している。また、図7では、各燃料電池サブシステム10A、10Bによるそれぞれの異常判定と、各燃料電池サブシステム10A、10Bが統合された燃料電池システム10による異常判定とが示されている。図7の横軸は、時刻を示している。
時刻T30では、2つの燃料電池サブシステム10A、10Bのいずれにおいても、異常が検出されていない。このため、各燃料電池サブシステム10A、10Bおよび燃料電池システム10の異常判定は、全てOFFになっている。時刻T31では、第1燃料電池サブシステム10Aで異常が検出され、第1燃料電池サブシステム10Aの異常判定がONになっている。このため、異常サブシステムである第1燃料電池サブシステム10Aにおける燃料電池100Aは、出力制限される。また、時刻T32において燃料電池システム10の異常判定をONにすることにより、異常が検出されていない第2燃料電池サブシステム10Bにおいても、時刻T33に異常判定をONにする。正常サブシステムである第2燃料電池サブシステム10Bにおける燃料電池100Bは、時刻T34において異常サブシステムの停止処理が完了するまでの間、出力制限されずに通常通り発電が継続される。
(2)上記実施形態の各高圧水素供給系200A、200Bは、それぞれ5つの水素タンク210A、210Bを有していたが、5つに限らず、1つ以上の水素タンク210A、210Bをそれぞれ有していてもよい。また、各高圧水素供給系200A、200Bのうちのいずれか一方を省略し、他方の高圧水素供給系200A、200Bを共通に使用する構成であってもよい。かかる構成によっても、上記実施形態と同様な効果を奏する。
(3)上記実施形態では、制御部50が異常検出部60を有し、燃料電池システム10全体の制御を行なうとともに異常時制御処理を実行していたが、本発明はこれに限定されるものではない。燃料電池サブシステム10A、10Bの第1制御部710Aと第2制御部710Bとのうちのいずれか一方が燃料電池システム10全体の制御を行なう制御部50として機能する構成であってもよい。かかる構成によっても、上記実施形態と同様な効果を奏する。
(4)上記実施形態の燃料電池システム10は、燃料電池サブシステム10A、10Bを2つ備えていたが、2つに代えて、3つ以上の任意の数の燃料電池サブシステムを備えていてもよい。このような構成においては、正常サブシステムにおける出力制限の度合いが異なっていてもよい。例えば、フェールセーフモードcにおいて、正常サブシステムは、異常サブシステムの停止処理が完了するまでの間、度合いが異なる出力制限を受けてそれぞれ発電され、異常サブシステムの停止後、正常サブシステムの出力制限のうちの度合いが最も厳しい出力制限に統一されてもよい。かかる構成によっても、上記実施形態と同様な効果を奏する。
(5)上記実施形態において、燃料電池システム10は、燃料電池車両に搭載されていたが、燃料電池車両に代えて船舶やロボット等の他の任意の移動体に搭載されてもよく、定置型燃料電池として用いられてもよい。かかる構成によっても、上記実施形態と同様な効果を奏する。
本発明は、上述の実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行なうことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。