JP7137878B1 - 柑橘類加工素材の製造方法および柑橘類加工素材 - Google Patents

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Abstract

【課題】果皮および果肉が一体として構成される柑橘類加工素材の苦味を抑制することができる、柑橘類加工素材の製造方法の提供。【解決手段】本発明による果皮および果肉が一体として構成される柑橘類加工素材の製造方法は、果皮のアルベドに液体を導入可能とする事前処理が施された柑橘類を準備する工程と、前記アルベドに液体を導入して、前記アルベドの空隙を導入液で充満させる工程とを含むことを特徴とする。【選択図】図1

Description

本発明は、果皮および果肉が一体として構成される柑橘類加工素材の製造方法に関する。より詳細には、柑橘類加工素材の苦味を抑制することができる、柑橘類加工素材の製造方法に関する。また、本発明は、果皮および果肉が一体として構成される、苦味が抑制された柑橘類加工素材に関する。
広島県は柑橘の産地である。ハッサク、じゃぼんといった発祥品種があり、レモン、ネーブルオレンジ、はるか、ダイダイ、安政柑、西之香、じゃぼんといった収穫量全国1位の柑橘が複数種類ある。特にレモンは有名で、国内収穫量の63%を占める。生果や加工材料の需要が急激に高まっており、それに対応するため生産拡大が推進されている。同時に、流通体制の安定化とリスク分散の観点から、レモン以外にも、ハッサク、はるか、ブンタン類等の中晩柑も含めた柑橘ブランド力強化が必要に迫られている。
柑橘の収穫時期は冬季であり、消費ニーズが高まる夏季にはフレッシュな生果が入手困難となる。そこで、一次加工により保存性を付加したいが、構造および成分組成の大きく異なる果皮と果肉では同時加工が困難であった。果皮は加熱しても軟らかくなり難く、果肉は容易に軟化して形状崩壊し易かった。さらに、果皮やじょうのう膜は、加工により不快な苦味が際立つようになった。そのため従来、果皮と果肉が別々に加工されてきた。
柑橘では、果皮付き果肉の方が柑橘らしい外観となり、外観品質が向上する場合が多い。また、特有の香りや機能性成分も果皮に多く含まれる。しかし、生食用柑橘でも果皮と果肉を一緒に食べることは少ない。ハッサクやネーブルオレンジは、特に果皮が剥きにくい。そのため、果皮は何度も茹でこぼして苦味を抜いてから糖漬けする加工が一般的である。しかし、茹でこぼしは、苦味とともに有益な機能性成分や香気成分も失われてしまう。また、ハッサクの果皮は、香料の原材料にならないため、有効な果皮活用法が求められている。このような理由から、果皮と果肉が一体となったまま、柑橘全体が活かせる新しい加工技術が強く望まれるようになった。
既に、レモン、ネーブルオレンジ、ブンタン類等の柑橘を使ったシロップ漬、リキュール漬、およびドライフルーツ等の柑橘類加工品が市場には流通している。しかし、果皮が硬い、果肉が崩壊し易い、苦味が強い、調味料の味が強くて柑橘本来の味が弱い、生果と異なる香りがするなど、食感や呈味に改善の余地が残されている。
特許文献1には、皮ごと食べられる柑橘類加工食品の製造法が記載されている。詳細には、特許文献1は、果皮を果肉まで貫通させる破皮工程と、それを溶液に浸漬させる工程と、それらを110~120℃で5~7分間レトルト加熱する工程とにより、酸味の強い柑橘、特にレモンの酸味を抑えて、皮ごと食べられることが記載されている。
特許文献2には、苦味軽減を目的として、柑橘果皮の油胞を壊さず、超表層部(フラベド外面から1mm以内)のみを剥くことで、香気成分を豊富に含みながら苦味の少ない柑橘果実加工品を提供できることが記載されている。
特許文献3~6には、柑橘類の剥皮を目的として、果皮に傷を入れる処理をした後、分解酵素で果皮やじょうのう膜を処理して果肉を得る方法が記載されている。
特許文献7~11には、青果物を対象として、物理処理により剥皮する方法や装置が記載されている。
特許文献12~14には、柑橘特有の苦味軽減素材について記載されている。
特許文献15には、軟質フィルムに凍結・解凍した食品素材と軟化酵素を真空包装処理することで、軟化酵素を食品素材全体に含有させた後、酵素反応と加熱調理により軟化させる、咀嚼、えん下困難者、乳児用食品の製造方法が記載されている。
特許文献16には、テンダライズした食品素材の中心温度を50℃~100℃にした後、減圧処理において水蒸気の体積収縮と水蒸気の凝縮とによる体積減少を引き起こして含浸駆動力を発生させると、短時間で大量の物質を含浸できることが記載されている。
特開2018-201449号公報 国際公開第2016/148152号公報 特許第5374547号公報 特許第5624181号公報 特許第5683728号公報 特許第2572476号公報 特開2020-218号公報 特許第3617042号公報 特許第4896651号公報 特許第5916116号公報 特開2002-315555号公報 特開2016-054678号公報 特開2018-191629号公報 特開2009-291152号公報 特許第4947630号公報 特許第2572476号公報
これまで、特にレモン等の香酸柑橘では、外観向上や風味付けを目的として皮付き果実が使われているが、喫食には食感や味に課題があった。すなわち、果皮は硬く、特有の苦味があった。そのため、本発明の目的は、柑橘類の果皮(フラベド+アルベド)と果肉(じょうのう膜+セグメント)を分離せずに加工処理し、柑橘類の果皮特有の苦味を軽減した柑橘類加工素材を提供することである。
特許文献1に記載の発明は、果皮と果肉が分離せずに柑橘類加工素材を製造するものであるが、果肉(じょうのう膜+セグメント)に達するまでの切込みまたは穴開け処理したレモンと液体を共存させ、110~120℃のレトルト加熱により、酸味を抑えるとともに果皮を軟らかくして食べ易くなると記載されている。しかし、特許文献1に記載の発明は、果皮特有の苦味を軽減できるものではない。さらに、柑橘類をレトルト加熱すると、確かに果皮は軟らかくなるが、果肉も軟らかくなり過ぎてしまい、じょうのう膜が口に残るという問題も存在する。また、果汁の酸と加熱の相互作用による柑橘特有の苦味成分(リモニン)と薬品臭が生成するという問題も存在する。
特許文献2では、柑橘類の果皮のフラベド外面1mm以内を剥くことで柑橘素材の苦味を軽減する方法が記載されている。しかし、この方法では、アルベドへ液体を導入ができず、苦味の軽減も十分ではなかった。
特許文献3~6では、柑橘類の果皮に傷つけ処理をした後、圧力処理により軟化酵素を導入する方法が記載されている。これらの方法は、綺麗な果肉を取り出すことを目的としており、果皮は喫食しないため、得られる加工品は本発明のように果皮と果肉が一体として構成されるものではない。これらの方法で処理すると、アルベドが過分解して果皮と果肉が分離してしまい、酵素分解し難いフラベドが軟質フィルムのように口に残る食感となり、果皮が強い苦味を呈した。この苦味は、飲み込んでもしばらく継続した。
特許文献7~11に記載の青果物の物理処理と特許文献15~16の減圧処理による酵素含浸法を組み合わせても、アルベドが過分解して果皮と果肉が分離してしまい、果肉は崩壊気味になり、フラベドとじょうのう膜が目立つ食感となり、バランスがとれなかった。また、果皮に強い苦味を感じた。さらに、酵素とともに特許文献12~14に記載の苦味制御物質を併用して導入しても、全体的に素材が軟化しているために最初に強い苦味を感じ、フラベドとじょうのう膜を飲み込める状態にするため、さらに噛み続ける必要があったため苦味が持続した。この苦味は、飲み込んでもしばらく継続した。
本発明者らは、上記課題を解決するため、鋭意検討した結果、柑橘類を果皮と果肉を一体で食べた際に特有の不快な苦味は、果皮と果肉の食感が極端に異なる、すなわち食感の違和感に起因すると考えた。この考えに基づきアルベドへ液体を充満させたところ、果皮と果肉の食感差を大きく縮められ、食感バランスを向上できることを見出した。食感バランスを向上できたことで、果肉由来の酸味と果皮由来の苦味を同時期に感じられるようになり、その結果、苦味軽減の効果が得られた。本発明者らは、かかる知見に基づき、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明の一態様によれば、以下の発明が提供される。
[1] 果皮および果肉が一体として構成される、苦味が抑制された柑橘類加工素材の製造方法であって、
果皮のアルベドに液体を導入可能とする事前処理が施された柑橘類を準備する工程と、
前記アルベドに液体を導入して、前記アルベドの空隙を導入液で充満させる工程と、
を含む、柑橘類加工素材の製造方法。
[2] 前記液体の導入量が、原材料の柑橘類に対して10質量%以上40質量%以下である、[1]に記載の柑橘類加工素材の製造方法。
[3] 前記事前処理が、針刺し、スリット、研削、およびカットからなる群から選択される少なくとも1種を含む、[1]または[2]に記載の柑橘類加工素材の製造方法。
[4] 前記液体の導入が、圧力処理により行われる、[1]~[3]のいずれかに記載の柑橘類加工素材の製造方法。
[5] 前記導入液の20℃における粘度が、1mPa・s以上100mPa・s以下である、[1]~[4]のいずれかに記載の柑橘類加工素材の製造方法。
[6] 前記導入液が、水および食用油の少なくとも1種を含む、[1]~[5]のいずれかに記載の柑橘類加工素材の製造方法。
[7] 前記導入液が、酵素、甘味料、酸味料、香料、塩類、乳化剤および食用アルコールからなる群から選択される少なくとも1種をさらに含む、[1]~[6]のいずれかに記載の柑橘類加工素材の製造方法。
[8] 前記導入液に含まれる酵素が、セルラーゼ、ペクチナーゼ、およびヘミセルラーゼからなる群から選択される少なくとも1種を含む、[7]に記載の柑橘類加工素材の製造方法。
[9] 前記液体導入後の柑橘類を溶液に浸漬する工程をさらに含んでなる、[1]~[8]のいずれかに記載の柑橘類加工素材の製造方法。
[10] 前記浸漬工程に用いる溶液が、水溶液および食用油の少なくとも1種を含む、[9]に記載の柑橘類加工素材の製造方法。
[11] 前記浸漬工程に用いる水溶液が、浸透圧8atm以上である、[10]に記載の柑橘類加工素材の製造方法。
[12] 前記液体導入後の柑橘類または前記浸漬工程後の柑橘類を冷凍処理する工程をさらに含む、[1]~[11]のいずれかに記載の柑橘類加工素材の製造方法。
[13] 前記液体導入後の柑橘類または前記浸漬工程後の柑橘類を乾燥処理する工程をさらに含む、[1]~[11]のいずれかに記載の柑橘類加工素材の製造方法。
[14] 前記液体導入後の柑橘類または前記浸漬工程後の柑橘類を60~100℃で加熱殺菌処理する工程をさらに含む、[1]~[11]のいずれかに記載の柑橘類加工素材の製造方法。
[15] [1]~[14]のいずれかに記載の柑橘類加工素材を用いる、加工食品の製造方法。
[16] 果皮および果肉が一体として構成される、苦味が抑制された柑橘類加工素材であって、
前記果皮のアルベドの空隙に液体が充満しており、
前記液体の導入量が、原材料である柑橘類に対して10質量以上40質量%以下である、柑橘類加工素材。
[17] 果皮および果肉が一体として構成される、苦味が抑制された柑橘類加工素材であって、
前記果皮のアルベドの空隙に液体が充満しており、
前記柑橘類加工素材を厚さ5~10mmにカットした状態で、厚さ0.5mmのカッターの背で,圧縮速度1mm/秒,歪率200%の条件で応力-歪曲線を測定した場合、最大応力が2.0×10N/m以下、破断歪率が100%以下、歪率100~200%の応力積算値の歪率0~100%の応力積算値に対する比が1.2以下である、柑橘類加工素材。
[18] 果皮および果肉が一体として構成される柑橘類加工素材の苦味抑制方法であって、
果皮のアルベドに液体を導入可能とする事前処理が施された柑橘類を準備する工程と、
前記アルベドに液体を導入して、前記アルベドの空隙を液体で充満させる工程と、
を含む、柑橘類加工素材の苦味抑制方法。
本発明の製造方法によれば、果皮および果肉が一体として構成される、苦味が抑制された柑橘類加工素材を提供することができる。このような柑橘類加工素材は、果皮と果肉が一体感を持って食べ易くなり、外観、食感、風味・呈味のいずれも好ましく喫食できる。
これまで果皮と果肉に分離して加工せざるを得なかった柑橘類加工品において、分離しなくても加工可能とする手法を提供できる。果皮と果肉の同時加工が可能なので、製造過程での省力化や廃棄ロス削減が期待できる。
本発明の製造方法においては、予め果皮のアルベドに液体を導入することで、過剰な加熱を必要とせずに糖液やアルコール等が染み込み、加熱劣化し易い柑橘類特有の味や香りを保持できる。また、アルベドに液体を導入しておくことで、高濃度溶液に浸漬させたときの急激な脱水・収縮を抑制でき、溶液置換の時間が短縮できて、外観、食感のよい柑橘類加工素材を製造できる。さらに、果皮の軟化は加熱によって行うのではなく、非加熱での液体導入によって行うため、果皮の機能性成分や特有の爽やかな苦味、香気を利用した商品開発が可能になる。
本発明の製造方法により得られた柑橘類加工素材を用いることで、菓子、飲料、調味料、調理食品等の新しい加工食品の開発に寄与できる。原材料としてレモン等の爽やかな風味の香酸柑橘を用いた柑橘類加工素材は、ニーズが高まるが端境期で生果が手に入らない夏場にも安定して提供可能である。
柑橘類(レモン)のフラベド、アルベド、じょうのう膜、セグメントを示す横断面図である。 実施例、比較例および参考例1の測定用サンプルの横断面図(写真)である。 実施例1で測定した応力-歪曲線のグラフである。 参考例1で果肉のみのサンプル(図2右側)を測定した応力-歪曲線のグラフである。 実施例4で測定した応力-歪曲線のグラフである。 実施例10で測定した応力-歪曲線のグラフである。 比較例1で測定した応力-歪曲線のグラフである。 比較例2で測定した応力-歪曲線のグラフである。 比較例3で測定した応力-歪曲線のグラフである。 比較例4で測定した応力-歪曲線のグラフである。
[柑橘類加工素材の製造方法]
本発明による柑橘類加工素材の製造方法は、加工前、加工後、喫食時のいずれにおいても果皮(フラベド+アルベド)と果肉(じょうのう膜+セグメント)が一体として構成される柑橘類加工素材の製造方法であって、少なくとも、柑橘類の準備工程と、柑橘類のアルベドへの液体導入工程とを含むものである。本発明の方法は、液体導入工程後に、加工処理工程をさらに含んでもよい。本発明の方法によれば、苦味が抑制された柑橘類加工素材を得ることができる。さらに、このような柑橘類加工素材は、フラベド、アルベド、じょうのう膜、セグメントの4パーツを一体で喫食したときに噛みきり易く、口腔内での纏まりが良くなって飲み込み易くなる。このことによって、苦味成分を多く含む果皮を過剰に咀嚼する必要がなくなるので、苦味を感じにくくなる。
[柑橘類の準備工程]
柑橘類の準備工程は、果皮のアルベドに液体を導入可能とする事前処理が施された柑橘類を準備する工程である。柑橘類の原材料としては、柑橘属の柑橘青果物が対象となる。柑橘青果物の収穫時期や保存状態は特に限定されない。柑橘青果物の具体的な種類としては、特に限定されないが、レモン、スダチ、カボス、じゃぼん、ライム、シークァーサー、ユズ、ダイダイ等の香酸柑橘類、温州ミカン、オレンジ、ネーブルオレンジ、グレープフルーツ、ブンタン、イヨカン、ハッサク、マンダリン、ポンカン、スウィーティー等の剥皮して生食する柑橘類等が挙げられる。これらの中でも、苦味抑制効果や加工性の観点から、レモン、ハッサク、ネーブルオレンジ、およびライムを用いることが好ましい。
原材料の事前処理は、果皮のアルベドに液体を導入可能とするための液体導入経路を作成するものである。具体的には、果皮のフラベドからアルベドにかけて、針刺し、スリット、研削、およびカット等を行うことが挙げられる。これらの処理は、1種単独で行ってもよいし、2種以上を組み合わせて行ってもよい。これらの処理により、フラベドからアルベドにかけて少なくとも一か所に液体導入経路が確保されれば、アルベドへの液体導入が可能である。例えば、直径1mmの針で1箇所刺す処理でもアルベド全体への液体の充満は可能である。
事前処理でフラベドを研削する場合、単刃、多刃、卸金、ヤスリ等を用いることができる。研削量としては、原材料の質量に対して、好ましく0.5~3.0質量%であり、より好ましく0.8~2.5質量%であり、さらに好ましくは質量%であり1.0~2.2質量%である。研削量が上記範囲内であれば、果皮のアルベドに液体を導入可能とするための液体導入経路を作成しながら、フラベドの食感を改善することができる。
事前処理でカットする場合、原材料の蔕部切除、臍部切除、果肉が切断される櫛切り等の縦方向カット、横方向カット等が挙げられる。カット後の柑橘類の形状は、4パーツ(フラベド、アルベド、じょうのう膜、セグメント)が一体のままであれば特に限定されない。
[アルベドへの液体導入工程]
アルベドへの液体導入工程は、事前処理が施された果皮のアルベドに液体を導入して、アルベドの空隙を導入液で充満させる工程である。液体の導入量は、アルベドの空隙を充満できる量であれば特に限定されないが、原材料の柑橘類に対して、好ましくは10質量%以上40質量%以下であり、より好ましくは12~39質量%、さらに好ましくは13~38質量%である。
アルベドへの液体導入方法は、特に限定されないが、圧力処理を行うことが好ましい。圧力処理の条件は、原材料のサイズや形状に応じて適宜調節することができる。例えば、減圧処理は0.080MPa以下であることが好ましい。より大きな形状の原材料に対して大量の液体を導入したい場合は、減圧処理は0.020MPa以上であることが好ましい。方法は、バッチ式、軟質フィルムを用いた真空パック式のいずれにも適用する。10MPa以上の加圧処理でも適応できる。
減圧処理をバッチ式で行う場合、液体に原材料を浸漬した状態で、上記圧力に到達させた後、常圧の0.1MPaに戻す。
減圧処理を真空パック式で行う場合、原材料に対して10質量%以上の導入液と原材料を軟質フィルムに入れて達圧後に脱気包装する。目標圧力到達後の保持時間に限定はないが、1分以上の保持時間がある方が好ましく、5分以上ある方がより好ましい。また、開封までの時間にも限定はないが、0.3時間以上置くことがより好ましい。
(導入液)
液体導入工程で用いる液体(導入液)は、少なくとも、水および食用油の少なくとも1種を含む。食用油としては、例えば、キャノーラ油、米油、エゴマ油、オリーブ油、亜麻仁油、ナタネ油、ゴマ油、サラダ油、およびグレープシード油等が挙げられる。これらの食用油は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、これらの乳化油でもよい。
導入液は、水または油に溶質を溶解させた溶液でもよい。溶質としては、酵素、甘味料、酸味料、香料、塩類、乳化剤、食用アルコールおよびその他の成分等が挙げられる。これらの溶質は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
導入液に含まれる酵素としては、例えば、セルラーゼ、ペクチナーゼ、およびヘミセルラーゼからなる群から選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。原材料の状態によっては、タンパク質を分解するプロテアーゼ、多糖類を分解するアミラーゼ、グルカナーゼ、マンナーゼ、キシラーゼ、イヌリナーゼ、脂質を分解するリパーゼ等をさらに併用することができる。
上記酵素の導入量は、酵素の種類に応じて適宜調節することができる。上記酵素の導入量は、例えば、原材料100gに対して、好ましくは0.00001~0.03gであり、より好ましくは0.00005~0.01gであり、さらに好ましくは0.0001~0.005gである。
酵素を導入した場合、基質を作用させる温度と時間は、原材料や酵素の種類によって適宜選択できる。例えば、微生物の繁殖を抑制しながら反応させるためには、反応温度は、好ましくは1~60℃、より好ましくは10℃以下であり、反応時間は、好ましくは0~48時間であり、より好ましくは0~24時間で、静置、浸漬する等の条件を挙げることができる。
導入液に含まれる甘味料は、甘味料の種類によって甘味度および苦味緩和効果の影響が異なるため、希望する呈味に応じて適宜選択することができる。甘味料としては、例えば、パラチノース、ソルビトール、マルチトール、トレハロース、スクラロース、アセスルファムカリウム、ソーマチン、スクロース、ステビア、サッカリン、グルコース、フルクトース、アドバンテーム、およびネオテーム等が挙げられる。これらの甘味料は1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。特にレモン、ライム等の香酸柑橘類やハッサクやネーブルオレンジ等の剥皮し難い柑橘の苦味抑制には、トレハロース、ソルビトール、ステビア、スクロースが適している。
甘味料の導入量は、甘味料の種類や希望する呈味に応じて適宜調節することができる。甘味料の導入量は、例えば、原材料100gに対して、好ましくは0.00001~6gである。
導入液に含まれる酸味料は、酸味料の種類によって酸味度および苦味緩和効果の影響が異なるため、希望する呈味に応じて適宜選択することができる。酸味料としては、例えば、クエン酸、リンゴ酸、コハク酸、酒石酸、乳酸、アルコルビン酸、グルコン酸、グルクロン酸、およびガラクツロン酸、醸造酢等が挙げられる。これらの酸味料は1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
酸味料の導入量は、酸味料の種類や希望する呈味に応じて適宜調節することができる。酸味料の導入量は、例えば、原材料100gに対して、好ましくは0.004~1.5gである。
導入液に含まれる香料には、少なくとも、柑橘類特有の香気成分の1種以上を用いることが好ましい。香料としては、例えば、シトラール、ゲラニアール、ネラール、シトロネラール、シネンサール、デカナール、オクタナール等のアルデヒド類、シトロネロール、ゲラニオール、リナロール、オクタノール、ネロール、テルピネオール、チモール等のアルコール類、シトロネリルアセテート、デシルアセテート、ゲラニルアセテート、リナリルアセテート、ネリルアセテート、オクチルアセテート等のエステル類、シネオール、リナロールオキサイド等のケトン類等が挙げられる。これらの香料は1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
香料の導入量は、香料の種類や希望する呈味に応じて適宜選択することができる。香料の導入量は、例えば、原材料100gに対して、好ましくは0.000003~0.05gである。また、エタノール等の溶媒に溶解された食用香料を用いる場合、導入液に香料が0.1~5質量%含まれることが好ましい。
導入液に含まれる塩類としては、例えば、食塩、カルシウム塩、および醤油等が挙げられる。これらの塩類は1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
塩類の導入量は、塩類の種類や希望する呈味に応じて適宜選択することができる。塩類の導入量は、例えば、原材料100gに対して、好ましくは0.008~1.5gである。
導入液に含まれる乳化剤としては、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、レシチン等が挙げられる。これらの乳化剤は1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、上記の油脂とともに、乳化油脂として用いることもできる。
乳化剤の導入量は、乳化剤の種類に応じて適宜選択することができる。乳化剤の導入量は、例えば、原材料100gに対して、好ましくは0.0009~3.0gである。
導入液に含まれる食用アルコールとしては、市販のアルコール飲料を用いることができる。例えば、ビール、日本酒、ワイン、ウイスキー、およびリキュール等が挙げられる。食用アルコールのアルコール度数は特に限定されず、通常、3~96度である。
食用アルコールの導入量は、食用アルコールの種類に応じて適宜選択することができる。食用アルコールの導入量は、例えば、原材料100gに対して、好ましくは0.3~38gである。
導入液に含まれる他の成分としては、食用の原材料であれば特に限定されない。他の成分としては、例えば、アミノ酸、核酸、寒天やジェランガム等の酵素分解し難い多糖類等を挙げることができる。また、冷凍耐性向上効果を目的に糖類、油脂、タンパク質等を導入させてもよい。これらの他の成分は1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
導入液の粘度は、特に限定されないが、E型粘度計を用いて、品温20℃、回転数10rpmの条件で測定した値が、好ましくは100mPa・s以下であり、より好ましくは80mPa・s以下であり、さらに好ましくは50mPa・s以下であり、また、好ましくは1mPa・s以上である。上記数値範囲内の粘度の導入液を用いることで、アルベドへムラ無い導入することを達成できる。
導入液のpHは、食品に好適な範囲であれば特に限定されないが、好ましくは2~9であり、より好ましくは2.5~7.0である。
液体導入工程後には、アルベドの空隙が導入液で充満している。導入液の導入量は、原材料の果皮の厚さ、サイズ、および形状等に応じて適宜調節することができる。導入液の導入量は、例えば、液体導入前の原材料の質量に対して、好ましくは10~40質量%であり、より好ましくは12~39質量%、さらに好ましくは13~38質量%である。
[加工処理工程]
加工処理工程は、アルベドに液体導入後の柑橘類にさらなる加工処理を施す工程である。加工処理は、特に限定されず、更なる苦味抑制、食感改良、冷凍耐性向上、品質劣化防止、殺菌、酵素失活、流通保存性向上等の目的のための溶液への浸漬処理、加熱処理、乾燥処理、冷凍処理等が挙げられる。これらの加工処理は、1種単独で行ってもよく、2種以上を組み合わせて行ってもよい。
浸漬処理に用いる溶液(浸漬液)としては、水溶液および食用油のいずれも用いることができる。浸漬液には、導入液と同様の溶質を溶解させてもよい。加工処理工程においては、異なる浸漬液を用いて、複数回の浸漬処理を行ってもよい。
浸漬液が水溶液の場合、例えば、浸透圧8atm(ショ糖液10%、食塩水1.1%、アルコール1.7%を想定)以上の溶液を用いることができる。浸漬液としては、例えば、糖蜜、蜂蜜、水あめ、果実酢、穀物酢、三杯酢、その他の有機酸等の酸味系調味料、みりん、調理酒、醤油、食塩水、ホワイトリカー、リキュール、清酒、焼酎、ワイン、泡盛等が挙げられる。これらの浸漬液は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
浸漬液が食用油の場合、植物性油および動物性油のいずれでも良い。食用油としては、例えば、キャノーラ油、米油、エゴマ油、オリーブ油、亜麻仁油、ナタネ油、ゴマ油、サラダ油、グレープシード油、ショートニング、マーガリン、ラード、ヘッド、バター、魚油等が挙げられる。これらの食用油は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、これらの乳化油でもよい。
加熱処理としては、例えば、蒸煮、煮沸、飽和蒸気加熱等が挙げられる。これらの加熱処理は、1種単独で行ってもよく、2種以上を組み合わせて行ってもよい。加熱温度は、好ましくは60~100℃であり、より好ましくは65~85℃である。加熱時間は、柑橘類加工素材の種類、サイズ、および形状に応じて、適宜設定することができる。一方、レトルト加熱処理(例えば、110℃以上の加圧加熱殺菌処理)は、果肉が軟らかくなり過ぎてしまい、じょうのう膜が口に残り、食感が悪化する恐れがあるため、行わないことが好ましい。
乾燥処理としては、対流伝熱乾燥、輻射伝熱乾燥、伝導伝熱乾燥、マイクロ波加熱乾燥、凍結乾燥等が挙げられる。これらの乾燥処理は、1種単独で行ってもよく、2種以上を組み合わせて行ってもよい。伝熱乾燥の加熱温度は、好ましくは33~90℃であり、より好ましくは35~80℃であり、さらに好ましくは35~50℃である。
冷凍処理の冷凍方法および凍結速度は特に限定されない。バラ凍結でも、浸漬液に浸漬状態でも、浸漬液が無い状態でも、軟質フィルム内に入れて凍結させてもよく、解凍後の品質劣化の少ない凍結方法および凍結速度を選択することが好ましい。軟らかい柑橘類加工素材を冷凍させる場合、急速冷凍を用いることが好ましい。
(他の処理)
本発明において、上記の各工程の前後の様々なタイミングでカットすることができる。タイミングとしては、事前処理工程時、液体導入処理後、浸漬処理後、酵素反応処理後、加熱殺菌後、酵素失活後、冷凍後等が挙げられる。柑橘類加工素材のカット後の形状は特に限定されず、例えば、スライス、櫛切り、銀杏切り、ダイスカット、半月切り、および半割等を挙げることができる。
[柑橘類加工素材]
本発明の柑橘類加工素材は、加工前、加工後、喫食時のいずれにおいても果皮(フラベド+アルベド)と果肉(じょうのう膜+セグメント)が一体として構成されており、果皮のアルベドの空隙に液体が充満しているものである。このような柑橘類加工素材は、各パーツ(フラベド、アルベド、じょうのう膜、セグメント)の食感バランスが保たれ、噛み切り易く、食塊形成し易いものであり、果皮特有の苦味が抑制されている。
果皮のアルベドの空隙への液体の導入量は、原材料である柑橘類に対して、好ましくは10質量以上40質量%以下であり、より好ましくは12~38質量%、さらに好ましくは13~35質量%である。液体の導入量が上記数値範囲内であれば、導入液によりアルベドの空隙を充満させることができる。
柑橘類加工素材は、下記の特定条件下で歪率に対する応力変化を測定した場合、下記の特定の数値範囲内にあることで、咀嚼し易く、各パーツ(フラベド、アルベド、じょうのう膜、セグメント)の食感バランスが保たれ、噛みきり易く、口腔内で纏まり易くなって、果皮特有の苦味が抑制される。
<測定条件>
柑橘類加工素材を厚さ5~10mmにカットした状態で、厚さ0.5mmのカッターの背で、圧縮速度1mm/秒、歪率200%の条件で応力の経時変化を測定した。得られた応力-歪曲線から、最大応力(N/m)、破断歪率(%)、およびエネルギー比(歪率0~100%の応力積算値(J/m)に対する歪率100~200%の応力積算値(J/m))を解析した。
<測定値(1):最大応力>
最大応力は、咀嚼し易さの指標であり、素材を噛むときの歯への抵抗、咀嚼に必要な力を示している。また,食感バランスの指標にもなる。例として、未処理の柑橘は、果肉は咀嚼し易いが、それに比べると果皮が大幅に咀嚼しづらい。果肉のみサンプル(図2右)の応力値は、0.2~0.4×10N/mと狭い範囲に限定されており,果皮+果肉サンプル(図2左)の応力値がこれより大幅に大きい値となると、果皮が果肉に比べて大幅に硬く、食感バランスが悪いことになる。食感バランスが悪いと、果肉が先に飲み込まれてしまい,残された果皮とじょうのう膜を噛んでいるうちに出てきた苦味を果肉の酸味で抑制できない。よって、本製法による柑橘素材の最大応力値は,好ましくは2.0×10N/m以下であり、より好ましくは1.5×10N/m以下であり、さらに好ましくは1.2×10N/m以下であり、また、好ましくは0.01×10N/m以上であり、より好ましくは0.1×10N/m以上である。
<測定値(2):破断歪率>
破断歪率は、噛みきり易さの指標であり、どの程度噛みしめて変形させれば素材が破断するかを示している。値が小さいほど噛みきり易いことを示す。好ましくは100%以下であり、より好ましくは90%以下であり、さらに好ましくは80%以下であり、また、好ましくは10%以上であり、より好ましくは30%以上である。
<測定値(3):エネルギー比>
エネルギー比は、歪率0~100%の応力積算値(J/m)に対する歪率100~200%の応力積算値(J/m)の比で、噛みしめている間に歯にかかる抵抗の変動を示す。噛みきり易さ、各パーツ(フラベド、アルベド、じょうのう膜、セグメント)の食感バランスおよび口腔内での纏まり易さを表す。値が小さいほど、深く噛みしめなくても噛み切れて、早期に食塊形成の動作に移れて口腔内で纏まり易いことを示す。逆に値が大きいと、深く噛みしめてもフラベドやじょうのう膜が噛みきれず、口腔内で果肉との一体が出にくく纏めにくいことを示す。好ましくは1.2以下であり、より好ましくは1.1以下であり、さらに好ましくは1.0以下であり、さらにより好ましくは0.9以下であり、また、好ましくは0.01以上であり、より好ましくは0.1以上である。
[柑橘類加工素材の苦味抑制方法]
本発明による柑橘類加工素材の苦味抑制方法は、少なくとも、柑橘類の準備工程と、柑橘類のアルベドへの液体導入工程とを含むものである。柑橘類加工素材は、加工前、加工後、喫食時のいずれにおいても果皮(フラベド+アルベド)と果肉(じょうのう膜+セグメント)が一体として構成されるものである。[柑橘類の準備工程]および[柑橘類のアルベドへの液体導入工程]については、[柑橘類加工素材の製造方法]の欄で詳述した通りである。このような方法によれば、柑橘類加工素材は、噛み切り易くて咀嚼し易い、各パーツ(フラベド、アルベド、じょうのう膜、セグメント)の食感バランスが保たれ、口腔内で纏まり易いものであり、苦味を抑制することができる。
[加工食品]
本発明による加工食品は、上記の柑橘類加工素材を用いるものであれば特に限定されない。加工食品としては、例えば、菓子、飲料、調味料、調理食品等が挙げられる。具体的には、生果に近い風味の冷凍品、シロップ漬、リキュール漬、酢漬、オイル漬、具材感のあるドレッシング、機能性表示食品等の加工食品等が挙げられる。これらの加工食品は、冷凍、乾燥、加熱殺菌後の常温流通が可能である。
本発明について実施例により詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は、これらの実施例に限定されるものではない。
[柑橘類加工素材の評価方法]
下記の[柑橘類加工素材の製造例]で得られた柑橘類加工素材は、下記の官能評価を基準とし、それを数値的に補足説明するための機器測定およびTI法を併用して評価を行った。
[官能評価]
外観、食感、苦味、香りについて、それぞれ5段階尺度で評価した。3を許容ラインとし、4を好ましい、5をかなり好ましい、2を好ましくない、1をかなり好ましくないとした。詳細は下記の通りである。
[外観の評価方法]
柑橘類加工素材の外観は、目視により、下記基準で評価した。なお、食べる前に果皮と果肉が分離していれば、3より低い値とした。サンプルは、横方向からカットされた5~8mm厚の皮付き果実(果皮+果肉)であった。
[外観の評価基準]
5:果皮と果肉が一体となっており、生果よりも色や形状が良かった。
4:果皮と果肉が一体となっており、生果とほぼ同等の色や形状であった。
3:果皮と果肉が一体となっており、生果と比較して遜色のない色や形状であった。
2:果皮と果肉が分離しており、生果と比較して色や形状がやや見劣りした。
1:果皮と果肉が分離しており、生果よりも明らかに色や形状が見劣りした。
[食感の評価方法]
下記2種類の食感測定用サンプルを準備した。
1.図2の左側:5~8mm厚に横方向からカット後、芯部のじょうのう膜を除去した皮付き果実(果皮+果肉)のサンプル
2.図2の右側:図2の左側の果皮を除去した果肉(セグメント)のみのサンプル
[食感の評価基準]
食感に関する評価は、下記の機器測定方法で測定した、最大応力、破断歪率およびエネルギー比を指標とする「咀嚼のし易さ」、「4パーツの食感バランス」、「噛みきり易さ」、「口腔内での纏まり易さ」の総合評価である。3を許容として、値が大きいほうが高評価とする5段階尺度で実施した。
[食感の機器による測定方法]
Rheometer(RE-33005B、山電)を用いて、幅0.5mmのカッターを冶具に用いて、圧縮速度1mm/秒、歪率200%でサンプルを剪断したときの歪率に対する応力値を6~10サンプル測定した。得られた応力-歪曲線の平均波形から、最大応力(N/m)、破断歪率(%)、およびエネルギー比(歪率0~100%の応力積算値(J/m)に対する歪率100~200%の応力積算値(J/m))を算出した。
[苦味の評価方法]
苦味測定用サンプルは、食感測定用サンプルと同様に準備した。
[苦味の評価基準]
苦味は、被験者が一定の咀嚼リズム(90回/分)で咀嚼したときに感じる苦味強度を1分間モニタリングするTI(Time Intensity:知覚される感覚強度の時系列的変化を記録)法により、苦味強度と持続性から成る総合評価とした。ここでの苦味強度は、10段階尺度とし、0.5質量%柚子ポリフェノール溶液を10として評価した。10段階尺度において、4以下を許容範囲とした。1以下であれば、苦味をほとんど感じない。
(柚子ポリフェノール溶液濃度と苦味尺度)
0.5質量%:10
0.1質量%:4
0.05質量%:1
[香りの評価方法]
香り評価用サンプルは、食感測定用サンプルと同様に準備した。
[香りの評価基準]
被験者が苦味と同じ方法で食べたときに感じる、「柑橘らしい好ましい香気(キャラクターフレーバー)」および「オフフレーバー(具体的にはイモ臭・薬品臭)の強度」の総合評価である。
[総合評価]
総合評価の値は外観、食感、苦味、香りの評点の平均値で示した。
[柑橘類加工素材の製造例]
[実施例1]
広島県産レモン(品種:ビアフランカ)を、7枚刃のネギカッターでフラベド全面を原材料の0.5~1.0質量%研削した後、蔕と臍部を果肉が出ないように切除した。続いて、このレモンとこれの1/2質量の0.0001~0.005質量%のヘミセルラーゼ(ヘミセルラーゼ「アマノ」90、天野エンザイム)水溶液を軟質フィルムに入れて、95~98%減圧(2~5kPa到達)後、脱気包装した。その後、レモンの質量を測定したところ、原材料に対して25~38質量%増加していた。電動スライサー(C20(J)、GRAEF)で5~10mm厚に横方向にスライスし、60質量%のスクロース溶液に4℃、20時間浸漬し、-20~-40℃で凍結させて柑橘類加工素材を得た。解凍して得られた柑橘類加工素材の官能評価の結果は、外観4.0、食感4.5、苦味4.6、香り4.0で総合評価4.3であった。機器測定の結果、最大応力は0.8×10N/mであり、破断歪率は55~60%であり、エネルギー比は0.67であった(図3)。この力学特性は噛みきり易いことを示唆した。TI法による苦味評価値は3.4であった。この皮付き柑橘類加工素材は、果皮が瑞々しく剪断し易くなったため、果皮が果肉と類似した食感となり、口腔内で果皮と果肉が容易に混ざって、レモンらしい香気や味を保ったまま、不快な苦味を抑制することができて食べ易かった。
[参考例1]
対比のために、広島県産レモン(品種:ビアフランカ)の果肉(セグメント)のみのサンプル(図2右側)の応力―歪曲線を示す。機器測定の結果、最大応力は0.4×10N/mで、破断歪率は40~50%であり、エネルギー比は0.24であった(図4)。瑞々しい果肉は,最大応力、破断歪率およびエネルギー比のいずれの値も小さく、噛みきり易く、口腔内での纏まりがよいことが示された。実施例の柑橘素材は、いずれも参考例1のように応力の山が前半に出る波形となっており、食感制御によって、酸味、甘味、苦味といった複数種類の味を感じるタイミングを重ねることが可能となり、苦味を抑制できたことを表している。
[実施例2]
広島県産レモン(品種:ビアフランカ)に対して、直径1mmの針で赤道面に90°ずらして4か所、さらに緯度45°でも同様に8か所、合計12か所において、フラベドからアルベドに貫通するように深さ3mm刺して事前処理をした。このレモンとこれの1/2質量の脱イオン水を軟質フィルムに入れて、以降、実施例1と同じ方法で処理して柑橘類加工素材を得た。その後、レモンの質量を測定したところ、原材料に対して20~37質量%増加していた。解凍して得られた柑橘類加工素材の官能評価の結果は、外観4.5、食感4.0、苦味4.1、香り4.6で総合評価4.3であった。機器測定の結果、最大応力は1.1×10N/mであり、破断歪率は50~60%であり、エネルギー比は0.38であった。TI法による苦味評価値は3.5であった。この柑橘類加工素材は、実施例1よりも硬さがあるが、果皮が瑞々しいため噛みきり易くて、口腔内での纏まりがよく、レモンらしい香りが高いため、不快な苦味が抑制されて食べ易かった。
[実施例3]
広島県産レモン(品種:リスボン)を電動スライサー(C20(J)、GRAEF)で3~10mm厚に横方向にスライスし、0.0001~0.005質量%のペクチナーゼ(ぺクチナーゼKM、協和化成)水溶液に浸漬し、その上に減圧中に浮くのを防止するための金網を被せて、85~95%減圧(5~15kPa到達)後、常圧に戻した。溶液を排除した後、レモンの質量を測定したところ、原材料に対して18~30質量%増加していた。4℃、20時間酵素反応させた後、-40℃で凍結させたものを凍結乾燥機(FDU-2000、東京理化機器)で乾燥させた。凍結乾燥後、90~100℃の湯に浸漬処理したところ、ただちに気泡が発生し、浸水性がよく、1~3分間で中心部まで完全に復水できた。復水した皮付き柑橘類加工素材の官能評価の結果は、外観3.8、食感4.0、苦味3.5、香り4.0で総合評価3.8であった。機器測定の結果、最大応力は0.5×10N/mであり、破断歪率は65~80%であり、エネルギー比は0.78であった。TI法による苦味評価値は3.8であった。復水した皮付き柑橘類加工素材であっても、果皮が噛みきり易く、レモンらしい酸味と香気が感じられて不快な苦味が抑制されていた。
[実施例4]
チリ産レモン(品種:ジェノバ)を縦8つ割りの櫛切りカットし、0.0001~0.005質量%のヘミセルラーゼ(ヘミセルラーゼ「アマノ」90、天野エンザイム)水溶液に浸漬し、その上に減圧中に浮くのを防止するための金網を被せて、85~95%減圧(5~15kPa到達)後、常圧に戻した。その後、レモンの質量を測定したところ、原材料に対して24~40質量%増加していた。アルコール度数8~35のホワイトリカーに4℃、1~10日間浸漬し、浸漬液ごと-20℃で1か月間保管して柑橘類加工素材を得た。官能評価の結果は、外観4.1、食感3.8、苦味3.6、香り4.2で総合評価3.9であった。機器測定の結果、最大応力は0.8×10N/mであり、破断歪率は60~70%であり、エネルギー比は0.22であった(図5)。TI法による苦味評価値は4.0であった。ホワイトリカー浸漬によりアルベド組織が引き締まってサックリと噛み易い食感となり、さらにアルコール独特の苦味が柑橘加工による独特の苦味を抑制し、苦味は感じるが後引きが抑制されたビターな呈味が付加されて違和感なく皮ごと食べられた。
[実施例5]
アメリカ産レモン(品種:リスボン)を電動スライサー(C20(J)、GRAEF)で5~10mm厚に横方向にスライスし、アルコール度数8~35のホワイトリカーに浸漬し、その上に減圧中に浮くのを防止するための金網を被せて、60~80%減圧(20~40kPa到達)後に常圧に戻した。レモンの質量を測定したところ、原材料に対して18~23質量%増加していた。その後、軟質フィルムに入れて、30質量%のスクロースを含むアルコール度数18%のホワイトリカーに4℃、20時間浸漬し、70~80℃で30分間湯浴殺菌して柑橘類加工素材を得た。官能評価の結果は、外観4.1、食感3.2、苦味4.2、香り3.8で総合評価3.8であった。機器測定の結果、最大応力は1.0×10N/mであり、破断歪率は60~70%であり、エネルギー比は0.85であった。TI法による苦味評価値は4.0であった。アルコールをアルベドに充満させたことで、浸漬液の甘味と果肉の酸味とアルコールの苦味がまとまり、不快な苦味のない素材となった。
[実施例6]
アメリカ産レモン(品種:ユーレカ)を電動スライサー(C20(J)、GRAEF)で5~10mm厚に横方向にスライスし、粘度60~70mPa・sの60質量%スクロース溶液に浸漬し、その上に減圧中に浮くのを防止するための金網を被せて、85~95%減圧(5~15kPa到達)後に5分間減圧保持して常圧に戻した。その後、レモンの質量を測定したところ、原材料に対して10~15質量%増加していた。軟質フィルムに入れて真空度90~95%で脱気包装し、70~80℃で20分間湯浴殺菌して柑橘類加工素材を得た。官能評価の結果は、外観3.3、食感4.1、苦味3.7、香り3.8で総合評価3.7であった。機器測定の結果、最大応力は0.9×10N/mであり、破断歪率は70~80%であり、エネルギー比は0.75であった。TI法による苦味評価値は4.0であった。溶質の多い溶液をアルベドに充満させたことによって、加熱によるアルベドの過剰な軟化と苦味増強を抑制できた。
[実施例7]
アメリカ産レモン(品種:ユーレカ)を電動スライサー(C20(J)、GRAEF)で5~10mm厚に横方向にスライスし、0.0001~0.005質量%のペクチナーゼ(ぺクチナーゼKM、協和化成)と0.1~0.5質量%のクエン酸を含む60質量%スクロース溶液に浸漬し、その上に減圧中に浮くのを防止するための金網を被せて、85~95%減圧(5~15kPa到達)後に5分間減圧保持して常圧に戻した。その後、レモンの質量を測定したところ、原材料に対して10~15質量%増加していた。軟質フィルムに入れて真空度90~95%で脱気包装し、45~50℃、0.5~1時間酵素反応後、70~80℃で20分間湯浴殺菌して柑橘類加工素材を得た。官能評価の結果は、外観3.5、食感4.2、苦味3.8、香り3.9で総合評価3.9であった。機器測定の結果、最大応力は0.4×10N/mであり、破断歪率は85~95%であり、エネルギー比は0.83であった。TI法による苦味評価値は3.8であった。アルベドの液体充満と酵素による軟化によって、食塊形成時間が短縮され、咀嚼中の物理的破損時間が少なくなったことによる苦味増強を防止できた。
[実施例8]
チリ産レモン(品種:ジェノバ)を電動スライサー(C20(J)、GRAEF)で3~5mm厚に横方向にスライスし、0.0001~0.005質量%のペクチナーゼ(ぺクチナーゼKM、協和化成)水溶液に浸漬し、その上に減圧中に浮くのを防止するための金網を被せて、30~50%減圧(50~70kPa到達)後に10~30分間減圧保持して常圧に戻した。その後、レモンの質量を測定したところ、原材料に対して13~20質量%増加していた。軟質フィルムに入れてキャノーラ油に浸漬状態になるようシーラー(FRL-450)で封入し、4℃、1~10日間浸漬後、70~80℃、20分間湯浴殺菌して柑橘類加工素材を得た。官能評価の結果は、外観4.0、食感4.4、苦味4.4、香り3.6で総合評価4.1あった。機器測定の結果、最大応力は0.4×10N/mであり、破断歪率は50~60%であり、エネルギー比は0.41であった。TI法による苦味評価値は3.0であった。オイル漬によって、口腔内での纏まり易さが増しており、呈味にまろやかさが付加されて後引く苦味が大きく抑制されて食べ易かった。
[実施例9]
チリ産レモン(品種:ジェノバ)の蔕と臍部を果肉が出ないように切除し、このレモンとこれの1/4~1/1質量の10~30質量%のトレハロースと0.1~0.5質量%のクエン酸を含む水溶液を軟質フィルムに入れて、95~98%減圧(2~5kPa到達)後、脱気包装した。その後、レモンの質量を測定したところ、原材料に対して15~30質量%増加していた。電動スライサー(C20(J)、GRAEF)で5~10mm厚に横方向にスライスして、柑橘類加工素材を得た。官能評価の結果は、外観4.7、食感4.2、苦味4.2、香り4.0で総合評価4.3であった。機器測定の結果、最大応力は1.2×10N/mであり、破断歪率は40~50%であり、エネルギー比は0.35であった。TI法による苦味評価値は3.2であった。甘味はほとんど感じず、噛み易いために苦味が抑制されており、生レモンのような酸味と香りがあった。
続いて、柑橘類加工素材を-20~-40℃で凍結させて6か月間-20℃で保管した。解凍して得られた柑橘類加工素材の官能評価の結果は、外観4.6、食感4.0、苦味4.1、香り4.0で総合評価4.2であった。機器測定の結果、最大応力は1.1×10N/mであり、破断歪率は60~70%であり、エネルギー比は0.55であった。TI法による苦味評価値は3.1であった。甘味はほとんど感じず、噛み易いために苦味が抑制されており、生レモンのような酸味と香りがあった。
上記の結果から、凍結前後で品質に大差はなく、素材本来の風味を維持したまま長期保管が可能で、生果よりも食べ易い食感と呈味を有する素材が製造できることが明らかとなった。
[実施例10]
チリ産レモン(品種:ジェノバ)を電動スライサー(C20(J)、GRAEF)で5~10mm厚に横方向にスライスし、このレモンとこれの1/4~1/1質量の10~30%トレハロースを含む0.0001~0.005質量%のヘミセルラーゼ(ヘミセルラーゼ「アマノ」90、天野エンザイム)水溶液を軟質フィルムに入れて、95~98%減圧(2~5kPa到達)後、脱気包装した。その後、レモンの質量を測定したところ、原材料に対して13~22質量%増加していた。45~50℃、0.5~1時間酵素反応後、-20~-40℃で凍結させて柑橘類加工素材を得た。官能評価の結果は、外観4.1、食感4.3、苦味3.8、香り4.0で総合評価4.1であった。機器測定の結果、最大応力は0.4×10N/mであり、破断歪率は55~65%であり、エネルギー比は0.23であった(図6)。TI法による苦味評価値は3.4であった。苦味は抑制されているが、甘味はあまり感じず、生レモンのような酸味と香りがあった。
[実施例11]
広島県産レモン(品種:リスボン)を一枚刃で縦4か所に90°ずらしてフラベドからアルベドにかけてのスリットを入れて、このレモンとこれの1/4~1/1質量の粘度65~75mPa・sのオリーブオイルを軟質フィルムに入れて、95~98%減圧(2~5kPa到達)後、脱気包装した。その後、そのまま4℃、1~24時間浸漬し、65~75℃、10~20分間飽和蒸気(CK-20、三浦工業)で加熱して、-20~-40℃で冷凍し、レモン丸ごとの形状の柑橘類加工素材を得た。その後、レモンの質量を測定したところ、原材料に対して12~21質量%増加していた。半解凍状態で電動スライサー(C20(J)、GRAEF)で5~10mm厚に横方向にスライスしたものを官能評価した結果、外観3.8、食感4.2、苦味4.1、香り3.9で総合評価4.0であった。機器測定の結果、最大応力は1.5×10N/mであり、破断歪率は90~100%であり、エネルギー比は0.77であった。TI法による苦味評価値は2.8であった。この柑橘類加工素材は、果肉と果皮が口腔内で一体になり易く、油と酸味で口腔内での不快な苦味の広がりがなく食べ易かった。
[実施例12]
広島県産レモン(品種:リスボン)を電動スライサー(C20(J)、GRAEF)で3~8mm厚に横方向にスライスし、このレモンとこれの1/4~1/1質量の1~3質量%のレモンエッセンス(J102、長谷川香料)を含む0.0001~0.005質量%のヘミセルラーゼ(ヘミセルラーゼ「アマノ」90、天野エンザイム)水溶液を軟質フィルムに入れて、95~98%減圧(2~5kPa到達)後、脱気包装した。その後、レモンの質量を測定したところ、原材料に対して18~33質量%増加していた。レモンを新しい軟質フィルムに移し替えて、ぶどう酢(酸度4.5%、キューピー醸造)とともに脱気包装し、4℃、1~10日間静置後、65~75℃、10~30分間湯浴殺菌して柑橘類加工素材を得た。官能評価の結果は、外観3.4、食感4.0、苦味3.8、香り3.3で総合評価3.6あった。機器測定の結果、最大応力は0.5×10N/mであり、破断歪率は80~95%であり、エネルギー比は0.87であった。TI法による苦味評価値は2.9であった。この柑橘類加工素材は、果皮も果肉も軟らかくて口腔内で一体になり易く、酸味で不快な苦味が抑制された。
[実施例13]
広島県産レモン(品種:ビアフランカ)を電動スライサー(C20(J)、GRAEF)で3~10mm厚に横方向にスライスし、このレモンとこれの1/4~1/1質量の0.001~0.01質量%のステビア(ステビロン、守田化学工業)を含む0.0001~0.005質量%のヘミセルラーゼ(ヘミセルラーゼ「アマノ」90、天野エンザイム)水溶液を軟質フィルムに入れて、95~98%減圧(2~5kPa到達)後、脱気包装した。その後、レモンの質量を測定したところ、原材料に対して18~30質量%増加していた。レモンを新しい軟質フィルムに移し替えて、Brix40~60°の糖液とともに脱気包装し、4℃、1~10日間静置後、65~75℃、10~30分間湯浴殺菌して柑橘類加工素材を得た。官能評価の結果は、外観3.7、食感4.2、苦味3.3、香り3.3で総合評価3.6であった。機器測定の結果、最大応力は0.6×10N/mであり、破断歪率は70~80%であり、エネルギー比は0.74あった。TI法による苦味評価値は3.0であった。この柑橘類加工素材は、特に咀嚼後半と飲み込んだ後の苦味が抑制されており、後味として苦味をほとんど感じなかった。
[実施例14]
広島県産のハッサクを電動スライサー(C20(J)、GRAEF)で3~10mm厚に横方向にスライスし、0.1~1.0質量%のクエン酸を含む10~40質量%のソルビトール水溶液に浸漬し、その上に減圧中に浮くのを防止するための金網を被せて、85~95%減圧(5~15kPa到達)後常圧に戻した。その後、ハッサクの質量を測定したところ、原材料に対して15~20質量%増加していた。Brix30~50°の水飴、トレハロースを含むスクロースを主体とした糖液に1~3日浸漬したところ、糖液がアルベドに早く染み込んで、かつ高濃度溶液浸漬による収縮が少なくて外観が良かった。その効果によって、歯切れがよく、果肉と果皮との口腔内での混合が良く、甘みと酸味で苦味が抑制されていた。続いてBrix60~70°の上記糖液に1~7日間浸漬後、35~50℃、24~72時間熱風乾燥(PV-210、タバイエスペック)してセミドライフルーツを得た。官能評価の結果は、外観4.4、食感4.0、苦味4.0、香り3.5で総合評価4.0であった。果皮も果肉同様の噛みきり易さで、飲み込んだ後の苦味がほとんど感じられなかった。なお、レモンのセミドライフルーツでも同等の効果が確認できた。
[実施例15]
広島県産ネーブルオレンジを電動スライサー(C20(J)、GRAEF)で3~10mm厚に横方向にスライスし、0.1~1.0質量%のクエン酸を含む0.0001~0.005質量%のヘミセルラーゼ(ヘミセルラーゼ「アマノ」90、天野エンザイム)水溶液に浸漬し、その上に減圧中に浮くのを防止するための金網を被せて、85~95%減圧(5~15kPa到達)後常圧に戻した。その後、ネーブルオレンジの質量を測定したところ、原材料に対して10~15質量%増加していた。30~50質量%の上白糖を含むぶどう酢(酸度4.5%、キューピー醸造)に4℃、1~10日間浸漬後、-20~-40℃で凍結させて柑橘類加工素材を得た。解凍した柑橘類加工素材の官能評価の結果は、外観4.6、食感4.5、苦味4.5、香り4.5で総合評価4.5であった。機器測定の結果、最大応力は0.5×10N/mであり、破断歪率は50~60%であり、エネルギー比は0.46であった。TI法による苦味評価値は2.4であった。この柑橘類加工素材は、果皮の瑞々しさによる口腔内での纏まり易さと、酸味と甘味によって苦味をほとんど感じずにスムーズに食塊を形成して飲み込むことができた。
[実施例16]
広島県産ライムを電動スライサー(C20(J)、GRAEF)で3~10mm厚に横方向にスライスし、0.1~1.0質量%のクエン酸と0.001~0.01質量%のアセスルファムカリウムを含む0.0001~0.005質量%のペクチナーゼ(ぺクチナーゼKM、協和化成)水溶液に浸漬し、その上に減圧中に浮くのを防止するための金網を被せて、85~95%減圧(5~15kPa到達)後常圧に戻した。その後、ライムの質量を測定したところ、原材料に対して10~14質量%増加していた。Brix30~50°の水飴、トレハロースを含むスクロースを主体とした糖液に1~3日浸漬し、続いてBrix60~70°の上記糖液に1~7日間浸漬後、-20~-40℃で凍結させて柑橘類加工素材を得た。解凍した柑橘類加工素材の官能評価の結果は、外観4.5、食感3.5、苦味3.2、香り3.9で総合評価3.8であった。機器測定の結果、最大応力は1.0×10N/mであり、破断歪率は30~40%であり、エネルギー比は0.28であった。TI法による苦味評価値は3.7であった。果皮が噛み易くて果肉と違和感なく咀嚼できて、ライム特有の香りと酸味および付加された甘味により後引く苦味をほとんど感じなかった。
[比較例1]
広島県産レモン(品種:ビアフランカ)を電動スライサー(C20(J)、GRAEF)で3~10mm厚に横方向にスライス後、アルベドの空隙への液体導入工程を経ずに、60質量%のスクロース溶液に4℃、24時間浸漬して、-20~-40℃で凍結させて柑橘類加工素材を得た。解凍した柑橘類加工素材の官能評価の結果は、外観4.0、食感1.2、苦味2.2、香り4.0で総合評価2.9であった。機器測定の結果、最大応力は3.2×10N/mであり、破断歪率は75~85%であり、エネルギー比は0.93であった(図7)。TI法による苦味評価値は5.2であった。この柑橘類加工素材は、高濃度糖浸漬によってアルベドが脱水・収縮して果皮が硬かった。そのため、アルベドへの糖置換が不十分となり、咀嚼初期の甘味はあまり感じられず果肉の酸味で酸っぱかった。さらに果肉は先に飲み込んでしまうため、残った果皮を噛み続けることで苦味が増して嚥下後も苦味が続いた。
[比較例2]
広島県産レモン(品種:ビアフランカ)を電動スライサー(C20(J)、GRAEF)で3~10mm厚に横方向にスライスした、生スライスレモンについて評価した。官能評価は、外観4.8、食感2.4、苦味2.8、香り4.8で総合評価は3.7であり、外観と香りがよいため総合評価が高くなった。機器測定の結果、最大応力は2.4×10N/mであり、破断歪率は70~80%であり、エネルギー比は0.28であった(図8)。TI法による苦味評価値は4.3であった。生レモンは、レモンらしい外観と香りを有していた。しかし、果皮と果肉の食感が大きく異なるため、咀嚼初期は果肉の酸味で酸っぱく、残った果皮は食塊を形成するために噛み続けることで苦味が増大した。
[比較例3]
広島県産レモン(品種:ビアフランカ)を蔕部除去し、臍部から約4分の1の位置に直径の4分の3程度の切り込みを横方向に入れて、軟質フィルムにこれと同質量の10質量%の上白糖溶液を入れ、95~98%減圧(2~5kPa到達)後、脱気包装した。続いて、115℃で6分間レトルト加熱処理した。得られた柑橘類加工素材を電動スライサー(C20(J)、GRAEF)で5~8mm厚に横方向にスライスして品質評価に用いた。官能評価は、外観2.3、食感2.7、苦味1.1、香り1.2で総合評価1.8であった。機器測定の結果、最大応力は0.7×10N/mであり、破断歪率は110~120%であり、エネルギー比は1.04であった(図9)。TI法による苦味評価値は8.9であった。レトルト加熱処理により果皮が軟らかくなっていたが、果肉も軟らかくなり崩壊気味となった。苦味がとても強く、レモン特有の加熱による薬品臭がした。
[比較例4]
広島県産レモン(品種:ビアフランカ)に対して、直径1mmの針で赤道面に90°ずらして4か所、さらに緯度45°でも同様に8か所、合計12か所において、フラベドからアルベドに貫通するように深さ3mm刺して事前処理をした。その後、0.1~0.5質量%のヘミセルラーゼ(ヘミセルラーゼ「アマノ」90、天野エンザイム)水溶液に浸漬し、その上に減圧中に浮くのを防止するための金網を被せて、85~95%減圧(5~15kPa到達)後常圧に戻した。その後、レモンの質量を測定したところ、原材料に対して20~35質量%増加していた。溶液から取り出したレモンを電動スライサー(C20(J)、GRAEF)で5~10mm厚に横方向にスライスして、60質量%のスクロース溶液に4℃、20時間浸漬し、-20~-40℃で凍結させて柑橘類加工素材を得た。解凍した柑橘類加工素材の官能評価の結果は、外観1.5、食感2.6、苦味1.5、香り3.0で総合評価2.2であった。機器測定の結果、最大応力は0.4×10N/mであり、破断歪率は100~110%であり、エネルギー比は0.73であった(図10)。TI法による苦味評価値は7.3であった。酵素濃度が適性範囲を超えると、アルベドが過分解して果皮と保形性が悪くなり、果皮と果肉の一体感がなくなった。果皮および果肉が一体として構成されていないため、食感バランスが崩れ、果皮と果肉の食感に差が開き過ぎており、じょうのう膜とフラベドのかみ切り難さが目立った。また、アルベド過分解で苦味が増してしまい、軟らかいため口腔内に広がり易く、浸漬液のスクロース由来の甘味があってもマスキングが不十分で長時間苦さが留まった。
[比較例5]
広島県産レモン(品種:リスボン)の果皮(フラベド+アルベド)を排除して果肉(じょうのう膜+セグメント)のみとし、電動スライサー(C20(J)、GRAEF)で5~10mm厚に横方向にスライス後、Brix60°のスクロース水溶液とともに軟質フィルムに入れて、95~98%減圧(2~5kPa到達)後、脱気包装した。脱気包装前の重量と包装前の重量を比較すると、原材料への導入量は0~4.0質量%であった。粘度の低い水で同じ処理をしても、導入量は1質量%以下であった。脱気包装後、65~75℃、10~30分間湯浴殺菌して柑橘類加工素材を得た。果肉のシロップ煮は、皮ごと食べ易い柑橘類加工素材である本発明とは構成が異なり、別の食品であることを確認した。
[比較例6]
広島県産レモン(品種:リスボン)を電動スライサー(C20(J)、GRAEF)で3~10mm厚に横方向にスライスし、アルベドへの液体導入工程をせずに、Brix30~50°の水飴、トレハロースを含むスクロースを主体とした糖液に1~3日浸漬したところ、果皮の脱水および収縮が認められた。続いてBrix60~70°の上記糖液に1~7日間浸漬した後の質量を測定したところ、同じ処理をした実施例13に比べて、さらに5~9質量%減少率が高く、果皮の脱水量が多かった。その後、35~50℃、24~72時間熱風乾燥(PV-210、タバイエスペック)してセミドライフルーツを得た。官能評価の結果は、外観2.3、食感1.2、苦味3.2、香り3.0で総合評価2.4であった。糖漬け処理において、果皮が脱水および収縮して硬くなったため、最初の咀嚼で噛み切れず、果肉を先に飲み込んでから、果皮を食塊にしていくため、咀嚼後半の苦味が増強した。
[比較例7]
Brix57°の糖漬けレモン商品(スライスレモン厚約3mm)を同様の方法で評価した。官能評価の結果は、外観3.8、食感2.3、苦味3.1、香り2.8で総合評価3.0であった。機器測定の結果、最大応力は2.0×10N/mであり、破断歪率は110~120%であり、エネルギー比は1.03であった。TI法による苦味評価値は4.1であった。薄くスライスしてあったため、甘味によるマスキング効果が認められたが、果肉と果皮の食感差が大きかったため、嚥下後に苦味が残った。
上記の実施例および比較例で得られた柑橘類加工素材の液体導入による質量増加率、官能評価、苦味強度、および力学特性の結果を表1に示す。なお、実施例9の上段は凍結前の結果であり、下段は凍結し、解凍後の結果である。
Figure 0007137878000002

Claims (15)

  1. 果皮および果肉が一体として構成される、苦味が抑制された柑橘類加工素材の製造方法であって、
    果皮のアルベドに液体を導入可能とする事前処理が施された柑橘類を準備する工程であって、前記事前処理が、針刺し、スリット、研削、およびカットからなる群から選択される少なくとも1種を含み、前記事前処理が施された柑橘類が柑橘青果物である、準備工程と、
    前記アルベドに液体を導入して、前記アルベドの空隙を導入液で充満させる工程であって、前記液体の導入が0.080MPa以下の減圧処理により行われ、前記導入液が、水および食用油の少なくとも1種を含み、酵素をさらに含んでもよく、前記液体の導入量が、原材料の柑橘類に対して10質量%以上40質量%以下であり、前記導入液が酵素を含む場合には前記酵素の導入量が、原材料の柑橘類100gに対して0.00001~0.01gである、液体導入工程と、
    を含み、
    110℃以上のレトルト加熱処理を施さず、
    全工程を経た柑橘類加工素材の果皮および果肉が一体として構成されている、柑橘類加工素材の製造方法。
  2. 果皮および果肉が一体として構成される、苦味が抑制された柑橘類加工素材の製造方法であって、
    果皮のアルベドに液体を導入可能とする事前処理が施された柑橘類を準備する工程であって、前記事前処理が、針刺し、スリット、研削、およびカットからなる群から選択される少なくとも1種を含み、前記事前処理が施された柑橘類が柑橘青果物である、準備工程と、
    前記アルベドに液体を導入して、前記アルベドの空隙を導入液で充満させる工程であって、前記液体の導入が0.080MPa以下の減圧処理により行われ、前記導入液が、水および食用油の少なくとも1種を含み、酵素をさらに含んでもよく、前記液体の導入量が、原材料の柑橘類に対して10質量%以上40質量%以下であり、前記導入液の20℃における粘度が、1mPa・s以上100mPa・s以下であり、前記導入液が酵素を含む場合には前記酵素の導入量が、原材料の柑橘類100gに対して0.00001~0.01gである、液体導入工程と、
    を含み、
    110℃以上のレトルト加熱処理を施さず、
    全工程を経た柑橘類加工素材の果皮および果肉が一体として構成されている、柑橘類加工素材の製造方法。
  3. 前記導入液が、甘味料、酸味料、香料、塩類、乳化剤および食用アルコールからなる群から選択される少なくとも1種をさらに含む、請求項1または2に記載の柑橘類加工素材の製造方法。
  4. 前記導入液に含まれる酵素が、セルラーゼ、ペクチナーゼ、およびヘミセルラーゼからなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の柑橘類加工素材の製造方法。
  5. 前記液体導入後の柑橘類を溶液に浸漬する工程をさらに含んでなる、請求項1~4のいずれか一項に記載の柑橘類加工素材の製造方法。
  6. 前記浸漬工程に用いる溶液が、水溶液および食用油の少なくとも1種を含む、請求項5に記載の柑橘類加工素材の製造方法。
  7. 前記浸漬工程に用いる水溶液が、浸透圧8atm以上である、請求項6に記載の柑橘類加工素材の製造方法。
  8. 前記液体導入後の柑橘類または前記浸漬工程後の柑橘類を冷凍処理する工程をさらに含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の柑橘類加工素材の製造方法。
  9. 前記液体導入後の柑橘類または前記浸漬工程後の柑橘類を乾燥処理する工程をさらに含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の柑橘類加工素材の製造方法。
  10. 前記液体導入後の柑橘類または前記浸漬工程後の柑橘類を60~100℃で加熱殺菌処理する工程をさらに含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の柑橘類加工素材の製造方法。
  11. 請求項1~10のいずれか一項に記載の製造方法により得られた柑橘類加工素材を用いる、加工食品の製造方法。
  12. 請求項1~10のいずれか一項に記載の製造方法により得られた、果皮および果肉が一体として構成される、苦味が抑制された柑橘類加工素材であって、
    前記果皮のアルベドの空隙に液体が充満しており、
    前記液体の導入量が、原材料である柑橘類に対して10質量以上40質量%以下である、柑橘類加工素材。
  13. 請求項1~10のいずれか一項に記載の製造方法により得られた、果皮および果肉が一体として構成される、苦味が抑制された柑橘類加工素材であって、
    前記果皮のアルベドの空隙に液体が充満しており、
    前記柑橘類加工素材を厚さ5~10mmにカットした状態で、厚さ0.5mmのカッターの背で、圧縮速度1mm/秒、歪率200%の条件で応力-歪曲線を測定した場合、最大応力が2.0×10N/m以下、破断歪率が100%以下、歪率100~200%の応力積算値の歪率0~100%の応力積算値に対する比が1.2以下である、柑橘類加工素材。
  14. 果皮および果肉が一体として構成される柑橘類加工素材の苦味抑制方法であって、
    果皮のアルベドに液体を導入可能とする事前処理が施された柑橘類を準備する工程であって、前記事前処理が、針刺し、スリット、研削、およびカットからなる群から選択される少なくとも1種を含み、前記事前処理が施された柑橘類が柑橘青果物である、準備工程と、
    前記アルベドに液体を導入して、前記アルベドの空隙を液体で充満させる工程であって、前記液体の導入が0.080MPa以下の減圧処理により行われ、前記導入液が、水および食用油の少なくとも1種を含み、酵素をさらに含んでもよく、前記液体の導入量が、原材料の柑橘類に対して10質量%以上40質量%以下であり、前記導入液が酵素を含む場合には前記酵素の導入量が、原材料の柑橘類100gに対して0.00001~0.01gである、液体導入工程と、
    を含み、
    110℃以上のレトルト加熱処理を施さず、
    全工程を経た柑橘類加工素材の果皮および果肉が一体として構成されている、柑橘類加工素材の苦味抑制方法。
  15. 果皮および果肉が一体として構成される柑橘類加工素材の苦味抑制方法であって、
    果皮のアルベドに液体を導入可能とする事前処理が施された柑橘類を準備する工程であって、前記事前処理が、針刺し、スリット、研削、およびカットからなる群から選択される少なくとも1種を含み、前記事前処理が施された柑橘類が柑橘青果物である、準備工程と、
    前記アルベドに液体を導入して、前記アルベドの空隙を液体で充満させる工程であって、前記液体の導入が0.080MPa以下の減圧処理により行われ、前記導入液が、水および食用油の少なくとも1種を含み、酵素をさらに含んでもよく、前記液体の導入量が、原材料の柑橘類に対して10質量%以上40質量%以下であり、前記導入液の20℃における粘度が、1mPa・s以上100mPa・s以下であり、前記導入液が酵素を含む場合には前記酵素の導入量が、原材料の柑橘類100gに対して0.00001~0.01gである、液体導入工程と、
    を含み、
    110℃以上のレトルト加熱処理を施さず、
    全工程を経た柑橘類加工素材の果皮および果肉が一体として構成されている、柑橘類加工素材の苦味抑制方法。
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