JP7133654B2 - 微細構造体および微細構造体の製造方法 - Google Patents
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Description
例えば、酸化チタンで微細構造体を構成した場合、酸化チタンは、半導体である特性、および陽極酸化によりサブミクロンの微細構造体を形成できる特性を有する。このため、酸化チタンを利用した微細構造体は、メタマテリアル分野において高感度な化学センサ、またはバイオセンサとして用いられることが期待されている。
非特許文献1には、酸化チタンを利用した微細構造体として、複数のTiO2ナノチューブが配列されたものが記載されている。非特許文献1では、陽極酸化により複数のTiO2ナノチューブが配列されたものを製造することが記載されている。さらに、非特許文献1には、複数のTiO2ナノチューブが配列されたものを、メンブレン、光触媒、太陽電池、および電子デバイス等に利用することが記載されている。
陽極酸化膜の厚みが0.1~10μmであることが好ましい。
マイクロポアの平均径が17~200nmであることが好ましい。
除去工程は、カソード電解を用いて陽極酸化皮膜を除去する工程であることが好ましい。また、除去工程は、化成処理を用いて陽極酸化皮膜を除去する工程であることが好ましい。また、除去工程は、超音波処理を用いて陽極酸化皮膜を除去する工程であることが好ましい。
なお、以下に説明する図は、本発明を説明するための例示的なものであり、以下に示す図に本発明が限定されるものではない。
なお、以下において数値範囲を示す「~」とは両側に記載された数値を含む。例えば、εが数値α1~数値β1とは、εの範囲は数値α1と数値β1を含む範囲であり、数学記号で示せばα1≦ε≦β1である。
「具体的な数値」については、特に記載がなければ、該当する技術分野で一般的に許容される誤差範囲を含む。また、「同一」とは、該当する技術分野で一般的に許容される誤差範囲を含む。
図1は本発明の実施形態の微細構造体の一例を示す模式的平面図であり、図2は図1に示す微細構造体の切断線IB-IBによる断面図である。
図1に示す微細構造体10は、チタンまたはチタン合金の陽極酸化膜12により構成されるものである。微細構造体10は、陽極酸化膜12の厚み方向Dtに貫通する、複数のマイクロポア14を有する。陽極酸化膜12には、厚み方向Dtに貫通したマイクロポア14が複数設けられている。
微細構造体10は、陽極酸化膜12の表面12aのマイクロポア14の密度をAとし、陽極酸化膜12の裏面12bのマイクロポア14の密度をBとするとき、陽極酸化膜12の表面のマイクロポアの密度Aと、陽極酸化膜12の裏面のマイクロポアの密度Bとの比率A/Bが80%以上120%以下である。
なお、本発明では、陽極酸化膜の表面を、基材を有さない面とし、陽極酸化膜の裏面を、基材を有していた面とする。
図1に示す微細構造体10では、チタンまたはチタン合金の陽極酸化膜12が、厚み方向Dtに貫通する、複数のマイクロポア14を有しており、かつ上述の比率が80%以上であることにより、マイクロポア14は直管性が優れた貫通孔である。このため、例えば、化学センサまたはバイオセンサとして利用した場合、物質、特に液体を透過させて使用する際、マイクロポア14が直管であるため、マイクロポア14によるつまり等が抑制され、化学センサまたはバイオセンサの利用に適したものとなる。
〔密度の比率〕
図3および図4は本発明の実施形態の微細構造体のマイクロポアの密度を算出する方法を説明するための模式図である。
走査型電子顕微鏡を用いて、陽極酸化膜12の表面12aおよび裏面12bについて、それぞれ3視野分の画像を得る。例えば、図3に示す陽極酸化膜12の表面12aの画像が得られ、図4に示す陽極酸化膜12の裏面12bの画像が得られる。
陽極酸化膜12の表面12aおよび裏面12bについて、それぞれ各視野の画像についてマイクロポア数を目視で求める。各視野の面積に基づいて、各視野におけるマイクロポアの密度を求める。さらに、3視野のマイクロポアの密度の平均値を求める。陽極酸化膜12の表面12aの3視野のマイクロポアの密度の平均値を、陽極酸化膜12の表面12aのマイクロポア14の密度Aとする。陽極酸化膜12の裏面12bの3視野のマイクロポアの密度の平均値を、陽極酸化膜12の裏面12bのマイクロポア14の密度Bとする。
上述のように、陽極酸化膜12の表面12aのマイクロポア14の密度Aと、陽極酸化膜12の裏面12bのマイクロポア14の密度Bとの比率A/Bが80%以上120%以下である。すなわち、比率A/Bは、80%≦A/B≦120%である。比率A/Bが上述の80%~120%の範囲にあれば、マイクロポアが分岐したり、マイクロポアが斜めに形成されていることが少ないことを表しており、マイクロポアの直管性が高いことを示す。なお、比率A/Bは100%に近い程、真っ直ぐなマイクロポア14が多く直管性が優れる。比率A/Bは、90%≦A/B≦110%であることが好ましく、より好ましくは95%≦A/B≦105%であり、98%≦A/B≦102%であることが特に好ましい。
微細構造体は、チタンまたはチタン合金の陽極酸化膜12により構成される。このため、チタンおよびチタン合金は、陽極酸化可能なものであれば、特に限定されるものではない。チタンとしては、例えば、JIS(Japanese Industrial Standards) H 4600:2012で規定される純チタンを用いることができる。また、チタン合金としては、例えば、α-βチタン合金(Ti-6Al-4V)、βチタン合金(Ti-15V-3Cr-3Sn-3Al)を用いることができる。
チタンまたはチタン合金により構成される基材は、特に限定されるものではなく、チタン板もしくはチタン合金板、またはチタン膜もしくはチタン合金膜等の各種の部材である。これ以外に、例えば、シリコンウエハ、石英、ガラス等の各種の支持体上に、蒸着、またはスパッタ等の方法により形成されたチタン膜またはチタン合金膜が形成されたものも上述の基材に含まれる。さらには、チタン膜またはチタン合金膜を樹脂基板にラミネートしたものも基材に含まれる。
チタンまたはチタン合金の基材のうち陽極酸化処理工程を施す片側の表面は、予め脱脂処理を施すことが好ましい。
脱脂処理は、酸、アルカリ、有機溶剤等を用いて、チタンまたはチタン合金の基材の表面に付着した、ほこり、脂、樹脂等の有機成分等を溶解させて除去し、有機成分を原因とする後述の各処理における欠陥の発生を防止することを目的として行われる。
脱脂処理には、従来公知の脱脂剤を用いることができる。具体的には、例えば、市販されている各種脱脂剤を所定の方法で用いることにより行うことができる。
アルコール(例えば、メタノール)、ケトン、ベンジン、揮発油等の有機溶剤を常温で基材の表面に接触させる方法(有機溶剤法);石けん、中性洗剤等の界面活性剤を含有する液を常温から80℃までの温度で基材の表面に接触させ、その後、水洗する方法(界面活性剤法);濃度10~200g/L(リットル)の硫酸水溶液を常温から70℃までの温度で基材の表面に30~80秒間接触させ、その後、水洗する方法;濃度5~20g/Lの水酸化ナトリウム水溶液を常温で基材の表面に30秒間程度接触させつつ、基材の表面を陰極にして電流密度1~10A/dm2の直流電流を流して電解し、その後、濃度100~500g/Lの硝酸水溶液を接触させて中和する方法;各種公知の陽極酸化処理用電解液を常温で基材の表面に接触させつつ、基材の表面を陰極にして電流密度1~10A/dm2の直流電流を流して、または、交流電流を流して電解する方法;濃度10~200g/Lのアルカリ水溶液を40~50℃で基材の表面に15~60秒間接触させ、その後、濃度100~500g/Lの硝酸水溶液を接触させて中和する方法;軽油、灯油等に界面活性剤、水等を混合させた乳化液を常温から50℃までの温度で基材の表面に接触させ、その後、水洗する方法(乳化脱脂法);炭酸ナトリウム、リン酸塩類、界面活性剤等の混合液を常温から50℃までの温度で基材の表面に30~180秒間接触させ、その後、水洗する方法(リン酸塩法)。
脱脂処理は、チタンまたはチタン合金の基材の表面の脂分を除去しうる一方で、チタンまたはチタン合金の基材の溶解がほとんど起こらない方法が好ましい。この点で、有機溶剤法、界面活性剤法、乳化脱脂法、リン酸塩法が好ましい。
陽極酸化膜12の厚みh(図2参照)は、0.1μm以上になるとマイクロポアとなるポアの形状形成がまだ安定な状態であり、10μm以下であると反応時間が短く、表面が電解液に溶解し難く、マイクロポア形状を保ちやすいという理由から、0.1~10μmであることが好ましく、0.2~5μmであることがより好ましい。
図2に示す陽極酸化膜12の厚みhは、陽極酸化膜12を切断し、断面について走査型電子顕微鏡を用いて倍率20万倍の撮影画像を得る。陽極酸化膜12の撮影画像において、陽極酸化膜12の輪郭形状を取得し、厚みhに相当する領域について10点測定し、測定値を得る。10点の測定値の平均値を求め、この平均値を陽極酸化膜12の厚みhとする。
マイクロポア14の平均径d(図1および図2参照)は、マイクロポアが安定に形成される条件から鑑みて、17~200nmであることが好ましく、30~100nmであることがより好ましい。
図1および図2に示すマイクロポア14の平均径dは、走査型電子顕微鏡を用いて陽極酸化膜12の表面を真上から倍率100~10000倍で撮影し撮影画像を得る。撮影画像において、周囲が環状に連なっているマイクロポアを少なくとも20個抽出し、その直径を測定し開口径とし、これらの平均値を平均径として算出する。
なお、倍率は、マイクロポアを20個以上抽出できる撮影画像が得られるように上述した範囲の倍率を適宜選択することができる。また、開口径は、マイクロポア部分の端部間の距離の最大値を測定した。すなわち、マイクロポアの開口部の形状は略円形状に限定はされないので、開口部の形状が非円形状の場合には、マイクロポア部分の端部間の距離の最大値を開口径とする。従って、例えば、2以上のマイクロポアが一体化したような形状のマイクロポアの場合にも、これを1つのマイクロポアとみなし、マイクロポア部分の端部間の距離の最大値を開口径とする。
[微細構造体の製造方法]
微細構造体の製造方法は、陽極酸化処理を有すれば、特に限定されないが、例えば、陽極酸化膜の厚み方向に貫通する、複数のマイクロポアを有する微細構造体の製造方法であって、チタン板またはチタン合金板により構成される基材を陽極酸化して陽極酸化皮膜を形成する陽極酸化処理工程と、陽極酸化皮膜を除去する除去工程とをこの順で少なくとも1回実施し、かつ除去工程の後に陽極酸化処理工程を実施して複数のマイクロポアを有する陽極酸化膜を形成する陽極酸化膜形成工程を有する。さらに、陽極酸化膜形成工程の後に、マイクロポアの底部側に存在する基材を除去する基材除去工程を有し、基材除去工程によりマイクロポアを陽極酸化膜の厚み方向に貫通させる。
以下、図を用いて微細構造体の製造方法を説明する。
図5~図9は本発明の実施形態の微細構造体の製造方法を工程順に示す模式的断面図である。
以下、説明する微細構造体の製造方法は、図1および図2に示す微細構造体10の製造方法の一例である。なお、図5~図9において、図1および図2に示す微細構造体10と同一構成物には、同一符号を付して、その詳細な説明は省略する。
基材20は、最終的に得られる微細構造体10(図9参照)の陽極酸化膜12の厚み、加工する装置等に応じて大きさおよび厚みが適宜決定されるものである。基材20は、例えば、矩形状の板材である。
次に、図7に示すように、図6に示す陽極酸化皮膜22を基材20から除去する。基材20から陽極酸化皮膜22を除去する工程を除去工程という。
次に、基材20に対して、再度、陽極酸化処理を実施する。これにより、図8に示すように、厚み方向Dtに延在する複数のマイクロポア14を有する陽極酸化膜12が形成される。図8に示す陽極酸化膜12には、マイクロポア14の底部側に基材20が存在している。
上述のように、陽極酸化膜12を形成するための、基材20を陽極酸化して陽極酸化皮膜22を形成する陽極酸化処理工程と、陽極酸化皮膜22を除去する除去工程とをこの順で少なくとも1回実施し、かつ除去工程の後に陽極酸化処理工程を実施することが陽極酸化膜形成工程である。陽極酸化処理工程と、除去工程とは、1回に限定されるものではなく、複数回実施してもよいが、除去工程の後に陽極酸化処理を実施する。
これにより、図9に示すように、複数の貫通したマイクロポア14を有する、チタン板またはチタン合金板の陽極酸化膜12が形成され、微細構造体10が得られる。しかも、マイクロポア14は上述の比率が80%である。
なお、マイクロポア14を貫通孔にするために、マイクロポア14の底部側に存在する基材20を除去する工程を基材除去工程という。基材除去工程は、すなわち、マイクロポア14を貫通孔にするために、マイクロポア14の底部に存在するバリア層25を含め、基材20を除去する工程である。
また、マイクロポア14を陽極酸化膜12の厚み方向Dtに貫通させる工程を貫通工程という。
<陽極酸化処理>
陽極酸化処理に用いられる電解質溶液(電解液)としては、チタンまたはチタン合金をアノード分極した際に、チタンまたはチタン合金を溶解させることができる溶解力が必要であり、電解質溶液には、ハロゲン原子を含有するイオンが含まれることが好ましい。ここでいうハロゲン原子を含有するイオンとは、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素の原子のいずれかを含有するイオンであり、具体的にはフッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、塩素酸イオン、臭素酸イオン、ヨウ素酸イオン、亜塩素酸イオン、亜臭素酸イオン、次亜塩素酸イオン、次亜臭素酸イオン、次亜ヨウ素酸イオン等が挙げられる。これらのイオンは単独でもよいし、二種以上の混合物として用いることも可能である。
これらのイオンを含む電解質溶液としては、具体的には、これらのイオンを形成する酸もしくは塩の水溶液が用いられる。その濃度は、酸もしくは塩として、0.001~50容量%が好ましく、より好ましくは0.005~10容量%、さらに好ましくは0.01~5容量%の範囲である。なお、上述のように、陽極酸化処理に用いられる、ハロゲン原子を含有するイオンが含まれる電解質溶液のことをハロゲン化物水溶液という。
陽極酸化処理に用いられる電解質溶液としてはフッ化アンモニウム水溶液が特に好適である。さらに有機溶剤を使用することができる。有機溶剤としては、アルコールまたはグリコール等を使用することができる。有機溶剤の添加量は電解質溶液量に対して0~99.5%が好ましく,50~99%がより好ましく,80~99%が最も好ましい。なお、有機溶剤としてはエチレングリコールが特に好適である。
また、陽極酸化処理時の電解質溶液の温度は0~50℃が好ましく、より好ましくは0~40℃である。
水溶性のチタン化合物としては、チタンイソプロポキシド等のチタンアルコキシド、三塩化チタン、四塩化チタン、フッ化チタン、テトラフルオロチタン酸アンモニウム、硫酸チタン、硫酸チタニル等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。その濃度は、ハロゲン原子含有イオンに対して、モル比で0.001~1000が好ましく、より好ましくは0.01~50、さらに好ましくは0.04~5の範囲で用いられる。
かかる酸性化合物としては、前述のハロゲン化物もしくはその酸化体イオンの酸の他、硫酸、硝酸、酢酸、過酸化水素、シュウ酸、リン酸、クロム酸、グリセロリン酸等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。その濃度は、ハロゲン原子含有イオンに対して、モル比で0.001~1000が好ましく、より好ましくは0.01~50、さらに好ましくは0.04~5の範囲で用いられる。
酸化チタン微粒子としては、粒径が0.5~100nmのものが好ましく、より好ましくは2~30nmのものが使用される。具体的には、チタン鉱石から液相法により調製したもの、気相法、ゾルゲル法、液相成長法で合成したものを挙げることができる。ここで、気相法とは、チタン鉱石を、硫酸等の強酸で、加熱加水分解して得られる含水酸化チタンを800℃~850℃で焼成して酸化チタンを製造する方法である。液相法とは、塩化チタンに酸素及び水素を接触させて、酸化チタンを製造する方法である。ゾルゲル法とは、チタンアルコキシドをアルコール水溶液中で加水分解させてゾルを生成させ、さらに、ゾルに加水分解触媒を加えて、放置してゲル化させ、ゲル化物を焼成して酸化チタンを製造する方法である。液相成長法とはフッ化チタン、テトラフルオロチタン酸アンモニウム、または硫酸チタニル等の加水分解で酸化チタンを得る方法である。
陽極酸化皮膜除去は、陽極酸化皮膜を除去することができれば、除去方法は、特に限定されるものではない。例えば、陽極酸化皮膜除去には、陽極酸化皮膜を均一に除去可能であることから、化成処理を好適に利用することができる。化成処理を利用して陽極酸化皮膜除去をする場合、使用する液は、上述の電解質溶液で使用したハロゲン化物水溶液を用いることが好ましい。ハロゲン化物水溶液の濃度は1~50質量%であることが好ましい。ハロゲン化物水溶液の温度は、25~60℃であることが好ましい。
また、陽極酸化皮膜除去には、硫酸、リン酸、硝酸、クロム等の無機酸またはこれらの混合物の水溶液(以下、酸水溶液という)を用いることもできる。酸水溶液の濃度は1~50質量%であることが好ましい。酸水溶液の温度は、25~60℃であることが好ましい。
また、アルカリ水溶液を用いることもでき、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムおよび水酸化リチウムからなる群から選ばれる少なくとも1つのアルカリの水溶液を用いることが好ましい。アルカリ水溶液の濃度は0.1~40質量%であることが好ましい。アルカリ水溶液の温度は、20~35℃であることが好ましい。具体的には、例えば、10g/L、30℃のフッ化アンモニウム水溶液、50g/L、40℃の硫酸水溶液、0.5g/L、30℃の水酸化ナトリウム水溶液または35g/L、30℃の水酸化ナトリウム水溶液が好適に用いられる。
ハロゲン化物水溶液、酸水溶液またはアルカリ水溶液への浸漬時間は、3~120分であることが好ましく、10~90分であることがより好ましく、15~60分であることが更に好ましい。
陽極酸化皮膜除去には、陽極酸化皮膜を均一にかつ短時間に除去可能であり、基材の溶解が起こらないことから、カソード電解を好適に用いることもできる。カソード電解は、陽極酸化皮膜除去をする際に陰極に基材をセットし電圧を印加すると基材表面に水素が発生し、皮膜剥離がおこることを利用したものである。陽極酸化皮膜除去時の電圧は、1~60Vが好ましく,2~20Vがより好ましく,3~10Vが最も好ましい。
陽極酸化膜形成後の、マイクロポアの底部側に存在する基材を除去する基材除去は、特に限定されるものではなく、種々の方法が利用可能である。例えば、図8に示す基材20を裏面20b側から、研磨または研削をすることにより、基材20を除去することができる。研磨、または研削等の物理的な作用により基材20を除去する以外に、例えば、基材20を溶解して除去することもできる。溶解には、例えば、希フッ酸水溶液を用いることができる。
本実施例では、実施例1~実施例3および比較例1の微細構造体について、各微細構造体の厚みを測定し、マイクロポアの比率を求めた。
また、本実施例では、マイクロポアの直管性を、後に詳細に説明する試験液体を用いた透過性にて評価した。実施例1~実施例3および比較例1の微細構造体について透過性を評価した。
微細構造体は、チタン基材の平均厚さとした。
<マイクロポアの比率>
微細構造体の表面を、FE-SEM(電界放出型走査電子顕微鏡)を用いて、50000倍の倍率で撮影し、3視野の撮影画像を得た。視野毎にマイクロポアの数を求めた。3視野の平均値を用いて、表面の単位面積当たりのマイクロポアの数を、表面のマイクロポアの密度Aとして求めた。
微細構造体の裏面について、微細構造体の表面と同様にして、3視野の撮影画像を得た。視野毎にマイクロポアの数を求めた。3視野の平均値を用いて、裏面の単位面積当たりのマイクロポアの数を、裏面のマイクロポアの密度Bとして求めた。
表面のマイクロポアの密度Aと、裏面のマイクロポアの密度Bとの比率(A/B×100(%))を求めた。
上述のように、透過性はマイクロポアの直管性を評価するための指標である。透過性の評価には、後に詳細に説明する試験液体を用いた。
透過性については、水に、微粒子として、石原産業株式会社製酸化チタン粒子(TTO-51:粒径10~30nm)を分散させた試験液体を用意した。実施例1~実施例3および比較例1の微細構造体に、それぞれ定められた量の試験液体を滴下した。試験液体に含まれる粒子数に対する、透過した試験液体に含まれる粒子数の割合を計測した。透過した試験液体に含まれる粒子数が多い程、透過性が優れている。
微細構造体を通過した試験液体を乾燥させて残った粒子成分の質量を測定した。残った粒子成分の質量を透過した粒子数とした。試験液体を作製する際に添加した微粒子の質量と、残った粒子成分の質量との比率を求めた。なお、添加した微粒子の質量と残った粒子成分の質量とが同じであれば、透過性は100%である。
(実施例1)
平均厚さ0.2mm、大きさ25mm×100mmのチタン基材(JIS H 4600、チタン純度:99.5%)を用いた。
チタン基材に対して、以下に示す(a)~(d)の各工程を実施し、微細構造体を作製した。
(a)第1陽極酸化皮膜形成工程
温度5℃に保温した電解質溶液(フッ化アンモニウム3.5容量%、水5容量%、エチレングリコール95容量%)を用いて、チタン基材を陽極として、陽極酸化処理を施し、チタン基材に陽極酸化皮膜を形成した。なお、陽極酸化処理は、直流電源で行い、印加電圧を60Vとし、印加時間を30分とした。陽極酸化皮膜形成後、スプレーによる水洗を行った。
(b)陽極酸化皮膜除去行程
第1陽極酸化皮膜形成工程後、次いで、硫酸水溶液(1mol/L)中において、陰極に基板を接続し、4Vの電圧を,4分印加し、陽極酸化皮膜除去を実施した。陽極酸化皮膜除去後、スプレーによる水洗を行い、乾燥させた。
(c)第2陽極酸化皮膜形成工程
第2陽極酸化皮膜形成工程は、上述の(a)第1陽極酸化皮膜形成工程と同様にして実施し、陽極酸化皮膜を再度形成した。その後、スプレーによる水洗を行い、乾燥させた。
(d)基体除去
陽極酸化皮膜が形成されていない側のチタン基材の裏面に、フォトレジスト法を用いて1辺1mmの正方形のパターンを形成し、希フッ酸水溶液を用いてチタン基材、およびチタン基材と接している陽極酸化皮膜を溶解し、陽極酸化皮膜に形成されているマイクロポアを貫通させた。これにより、貫通したマイクロポアを有する微細構造体が作製された。
実施例2は、実施例1に比して、(b)陽極酸化皮膜除去工程が異なり、それ以外は実施例1と同じとした。
実施例2では、(b)陽極酸化皮膜除去工程に化成処理を用いた。実施例2の(b)陽極酸化皮膜除去工程は、温度30℃に保温した陽極酸化皮膜除去液(フッ化アンモニウム100g/L水溶液)に上述のチタン基材を20分浸漬して化成処理を実施した。
(実施例3)
実施例3は、実施例1に比して、(b)陽極酸化皮膜除去工程が異なり、それ以外は実施例1と同じとした。
実施例3では、(b)陽極酸化皮膜除去工程に超音波処理を用いた。実施例3の(b)陽極酸化皮膜除去工程は、ヤマト科学株式会社製 BRANSON 3210 卓上超音波洗浄機を用いた超音波処理を、上述のチタン基材に対して5分間実施した。
(比較例1)
比較例1は、実施例1に比して、(a)第1陽極酸化皮膜形成工程の後に、(d)基板除去工程を実施して微細構造体を作製したものである。比較例1では(b)陽極酸化皮膜除去工程および(c)第2陽極酸化皮膜形成工程の工程を実施していない。
実施例1~3から、陽極酸化皮膜除去はカソード電解、超音波処理、および化成処理の順で好ましい。
12 陽極酸化膜
12a、20a 表面
12b、20b 裏面
14 マイクロポア
20 基材
22 陽極酸化皮膜
25 バリア層
Dt 厚み方向
d 平均径
h 厚み
Claims (7)
- チタンまたはチタン合金の陽極酸化膜により構成される微細構造体であって、
前記陽極酸化膜の厚み方向に貫通する、複数のマイクロポアを有し、
前記陽極酸化膜の表面のマイクロポアの密度をAとし、前記陽極酸化膜の裏面のマイクロポアの密度をBとするとき、前記表面のマイクロポアの密度Aと前記裏面のマイクロポアの密度Bとの比率A/Bが80%以上120%以下である、微細構造体。 - 前記陽極酸化膜の厚みが0.1~10μmである、請求項1に記載の微細構造体。
- 前記マイクロポアの平均径が17~200nmである、請求項1または2に記載の微細構造体。
- 陽極酸化膜の厚み方向に貫通する、複数のマイクロポアを有する微細構造体の製造方法であって、
チタンまたはチタン合金により構成される基材を陽極酸化して陽極酸化皮膜を形成する陽極酸化処理工程と、前記陽極酸化皮膜を除去する除去工程とをこの順で少なくとも1回実施し、かつ前記除去工程の後に前記陽極酸化処理工程を実施して複数のマイクロポアを有する前記陽極酸化膜を形成する陽極酸化膜形成工程を有し、
前記陽極酸化膜形成工程の後に、前記マイクロポアの底部側に存在する基材を除去する基材除去工程を有し、
前記基材除去工程により前記マイクロポアを前記陽極酸化膜の前記厚み方向に貫通させる、微細構造体の製造方法。 - 前記除去工程は、カソード電解を用いて前記陽極酸化皮膜を除去する工程である、請求項4に記載の微細構造体の製造方法。
- 前記除去工程は、化成処理を用いて前記陽極酸化皮膜を除去する工程である、請求項4に記載の微細構造体の製造方法。
- 前記除去工程は、超音波処理を用いて前記陽極酸化皮膜を除去する工程である、請求項4に記載の微細構造体の製造方法。
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