以下、本発明に係る誤り率測定装置、及び誤り率測定方法の実施形態について図面を用いて説明する。
まず、本実施形態が対象とするPAM4信号について説明する。PAM4方式は、情報信号の振幅をパルス信号の系列で符号化したパルス振幅変調信号として、論理「0」および「1」から構成されるビット列を、4つの電圧レベルまたは光電力のパルス信号として変調して伝送する方式である。
そして、PAM4方式によるPAM4信号は、振幅がシンボルごとに4種類に分けられ、図2に示すように、4つの異なる振幅レベルL0,L1,L2,L3を有し、全体の振幅電圧範囲がベースライン(L0:0レベル)から低電圧範囲H1、中電圧範囲H2、高電圧範囲H3に分けられ、ベースライン(L0:0レベル)に対する振幅レベルの大きさが異なるUpper信号(高レベル信号)、Middle信号(中レベル信号)、Lower信号(低レベル信号)による3つのアイパターン開口部が連続した振幅範囲の信号からなる。
本実施形態に係る誤り率測定装置1は、図1に示す構成を有し、所定の測定開始操作に基づいてパルスパターン発生器(Pulse Pattern Generator:PPG)2から任意のパルスパターンを有するPAM4方式による試験信号(PAM4信号)を発生させ、該試験信号を受信したDUT10が送出するPAM4方式の信号を被測定信号として誤り率測定器(Error Detector:ED)3に入力して該被測定信号のビット誤り率を測定することでDUT10の性能評価を行う装置である。
本実施形態において、ED3は、被測定信号として入力するデータ(以下、入力データ)と、該入力データの2値判定(1か0かの判定)の処理に用いるクロック信号との位相関係をユーザ操作に応じて操作する位相操作制御機能を有している。また、ED3は、位相操作制御機能によって操作された入力データとクロック信号の位相関係(クロック遅延量)と、測定された誤り率との関係を示す特性(誤り率/遅延量特性)、所謂、バスタブ特性を算出するとともに、算出したバスタブ特性に基づいて入力データのジッタ(Jitter)を求めるジッタ算出処理機能をさらに有している。
(ジッタについて)
ジッタは、ディジタル信号の時間軸方向の揺らぎである。この揺らぎの周期が長周期である時、具体的には変調周波数が10Hz以上の変調周波数で揺らぎが発生する場合にジッタと定義される。ジッタは様々なジッタ成分から構成されている。例えば、広がりが有限な確定的ジッタ(Deterministic Jitter:DJ)と、無限な広がりを持つランダムジッタ(Random Jitter:RJ)が存在し、両者の和をトータルジッタ(Total Jitter:TJ)と称する。
ジッタ量の単位には、ns(ナノ(10-9)秒)、ps(ピコ(10-12)秒)、fs(フェムト(10-15)秒)等の時間単位のほか、ユニットインターバル(Unit Interval:UI)が用いられる。UIとは、1bitあたりのジッタ量の比率で、Jitter量をTj[ps]、1bit の間隔を Tbit [ps]としたとき、下式(a)によって算出される。
Jitter[UI] = Tj / Tbit ・・・ (a)
これにより、例えば、10Gbit/sの信号であれば、1bitの間隔は100psとなる。この信号に10psのジッタが存在すれば、ジッタ量は0.1UIと算出されることとなる。
性能評価の対象(被測定対象)であるDUT10は、背景技術の欄で挙げたインタフェースの高速化が進む通信機器等に用いられる、例えば、フリップフロップ(F/F)回路等の各種デバイスで構成されている。性能評価の種別は有線系に限られるものであり、DUT10は、PPG2及びED3と接続ケーブル等を用いて有線接続され、PPG2からの試験信号を受信し、その応答信号としての所定の規格の被測定信号をED3に送出する。DUT10が対応する規格の例としては、OIF CEI-56G-VSR-PAM4、IEEE802.3bs、PCI Express Gen6、CEI(Common Electrical Interface)、Ethernet(登録商標)などが挙げられる。DUT10は、ビット列からなるデータを表す信号を送信するものであれば、上述したF/F回路等以外のデバイスで構成されていてもよい。
本実施形態に係る誤り率測定装置1において、ED3は、上述した位相操作制御機能、ジッタ算出処理機能に加え、バスタブ測定に際して誤り率の測定範囲を規定する上限値と下限値を指定することによって誤り率測定範囲を設定する機能を有している。この機能を用いて上限値と下限値を設定し、該上限値と下限値間の制限された測定範囲内で誤り率を測定するように制御することによって測定時間を短縮することができる。
一方で、FECを前提とするPAM4信号の誤り率測定においては、例えば、デフォルトで誤り率測定範囲を設定する状況下で、設定された誤り率の測定範囲内でエラーフリーがとれなくなり、設定された誤り率測定範囲内ではバスタブ測定が行えなくなることも発生し得る。
これを回避するため、本実施形態では、バスタブ測定に先行して誤り率の最適値(最小誤り率)を測定するための最小誤り率測定動作を実施し、該最小誤り率測定動作によって測定された最小誤り率と既に設定されている測定範囲(上限値)の関係に応じて、該上限値をより大きな上限値に再設定する誤り率測定範囲再設定機能をさらに有している。
本実施形態に係る誤り率測定装置1の構成について図1~図4を参照して説明する。本実施形態に係る誤り率測定装置1は、図1に示すように、PPG2、ED3、記憶部4、表示部5、操作部6、制御部7を備えて構成される。
PPG2は、DUT10に試験信号としてのPAM4信号を送信するものであり、図1に示すように、集積回路などによって構成される信号送信部2a、RAMなどのメモリによって構成されるデータ記憶部2bを含んで構成される。
データ記憶部2bは、例えば128Mビットサイズからなる基準になるデータを予め記憶している。信号送信部2aは、ユーザにより設定された測定パターンに基づいてデータ記憶部2bからデータを読み込んで該データを表すPAM4信号を生成し、該PAM4信号を試験信号としてDUT10に送信するようになっている。信号送信部2aが送信するPAM4信号を生成するための具体的なパターン信号としては、それぞれパターン長が異なる各種疑似ランダムパターン(PRBS)や、PRBS13Q、PRQS10、SSPR等のPAMを評価するための評価用パターンがある。
ED3は、PPG2からの試験信号が入力されたDUT10が送出するPAM4信号を被測定信号として受信してBER測定を行うパターン受信部としての機能を有するものであり、PAMデコーダとしての機能を有する信号受信部3a、及び誤り率測定部3fを含んで構成される。
信号受信部3aは、PAM4信号を被測定信号として入力し、該被測定信号のレベルをシンボルごとに検出することにより当該被測定信号を2値信号にデコードするものである。信号受信部3aは、例えば、図3に示すように、PAM4信号のUpper信号(高レベル信号)、Middle信号(中レベル信号)、Lower信号(低レベル信号)を0/1判別する0/1判別回路3bと、0/1判別回路3bにて0/1判別した判別信号からPAM4信号を最上位ビット列信号(MSB)と最下位ビット列信号(LSB)にデコードするデコード回路3cと、可変遅延器3dと、を備えて構成されている。
0/1判別回路3bは、PAM4信号が伝送される伝送線路に対し、3つの0/1判別器(第1の0/1判別器3ba、第2の0/1判別器3bb、第3の0/1判別器3bc)が並列接続される。
第1の0/1判別器3baは、PAM4信号のUpper信号の0/1を第1の基準電圧Vth1との比較によって判別する。すなわち、第1の0/1判別器3baは、図3に示すように、Upper信号を第1の基準電圧Vth1で打ち抜いてUpper信号と第1の基準電圧Vth1とを比較し、Upper信号が第1の基準電圧Vth1以上であればDU=「1」を判別信号として出力し、Upper信号が第1の基準電圧Vth1以上でなければDU=「0」を判別信号として出力する。
第2の0/1判別器3bbは、PAM4信号のMiddle信号の0/1を第2の基準電圧Vth2との比較によって判別する。すなわち、第2の0/1判別器3bbは、図3に示すように、Middle信号を第2の基準電圧Vth2で打ち抜いてMiddle信号と第2の基準電圧Vth2とを比較し、Middle信号が第2の基準電圧Vth2以上であればDM=「1」を判別信号として出力し、Middle信号が第2の基準電圧Vth2以上でなければDM=「0」を判別信号として出力する。
第3の0/1判別器3bcは、PAM4信号のLower信号の0/1を第3の基準電圧Vth3との比較によって判別する。すなわち、第3の0/1判別器3bcは、図3に示すように、Lower信号を第3の基準電圧Vth3で打ち抜いてLower信号と第3の基準電圧Vth3とを比較し、Lower信号が第3の基準電圧Vth3以上であればDL=「1」を判別信号として出力し、Lower信号が第3の基準電圧Vth3以上でなければDL=「0」を判別信号として出力する。
デコード回路3cは、論理回路で構成され、例えば、図3に示すように、第1のAND(論理積)回路3ca、第2のAND(論理積)回路3cb、第3のAND(論理積)回路3cc、OR(論理和)回路3cdを備える。
第1のAND回路3caは、第1の0/1判別器3baからの判別信号(DU)と第3の0/1判別器3bcからの判別信号(DL)とを入力として論理積演算を行う。
第2のAND回路3cbは、第1の0/1判別器3baからの判別信号(DU)と第2の0/1判別器3bbからの判別信号(DM)を反転した信号とを入力として論理積演算を行う。
第3のAND回路3ccは、第2の0/1判別器3bbからの判別信号(DM)を反転した信号と第3の0/1判別器3bcからの判別信号(DL)とを入力として論理積演算を行う。
OR回路3cdは、第1のAND回路3ca、第2のAND回路3cb、第3のAND回路3ccからの信号を入力として論理和演算を行う。
上述した構成を有する信号受信部3aでは、第1の基準電圧Vth1を高電圧範囲H3に設定し、第2の基準電圧Vth2を中電圧範囲H2に設定し、第3の基準電圧Vth3を低電圧範囲H1に設定する。そして、PAM4信号をデコードする際には、第1の基準電圧Vth1がUpper信号の打ち抜き、第2の基準電圧Vth2がMiddle信号の打ち抜き、第3の基準電圧Vth3がLower信号の打ち抜きに用いられる。
また、デコード回路3cでは、第2の0/1判別器3bbからの判別信号(DM)をそのまま最上位ビット列信号(MSB)として出力し、OR回路3cdの出力を最下位ビット列信号(LSB)として出力する。これにより、信号受信部3aは、被測定信号としてのPAM4信号を取り込みつつ、該PAM4信号から最上位ビット列信号(MSB)及び最下位ビット列信号(LSB)にデコード処理を行う。
可変遅延器3dは、ED3が、被測定信号として入力するデータ(以下、入力データ)と、該入力データの2値判定の処理に用いるクロック信号との位相関係を位相操作指令に応じて遅延操作するものである。具体的に、可変遅延器3dは0/1判別回路3bとデコード回路3cの間に配置され、操作部6でのユーザ操作に基づき位相操作制御部7b(図4参照)から与えられる上記位相操作指令に応じて、0/1判別回路3bから出力される判別信号のデコード回路3cに対する入力タイミングを遅延させる制御を行う。可変遅延器3dは、位相操作制御部7bとともに、本発明の位相操作手段を構成する。
ED3において、誤り率測定部3fは、ビットエラー測定部としての機能を有し、図1に示すように、同期検出部3f1、比較部3f2を備えて構成される。同期検出部3f1は、データ記憶部2bから読み込んだ基準となるデータ(参照信号)と、受信した入力データとを同期させるための処理を行い、同期が取れた場合にはその旨を比較部3f2へ通知するようになっている。誤り率測定部3fは、本発明の誤り率測定手段を構成する。
比較部3f2は、例えば、排他的論理和回路(EX-OR)により構成され、同期検出部3f1から入力されるデータのパターン、すなわち、信号受信部3aによりデコードされた2値信号(MSB、LSB)と上記参照信号(既定のパターン)とをシンボル(ビット)ごとに比較することにより、被測定信号のレベルと参照信号のレベルとが相違するビットエラーを測定する。2値信号(MSB、LSB)と参照信号とのシンボルごとのビットの比較結果は、比較データとして記憶部4の比較データ記憶領域に順次格納されるようになっている。ここで誤り率測定部3fは、上記比較データに基づき、全シンボル数に対するエラーとなったビットの割合を誤り率として算出し、算出した誤り率のデータを記憶部4にさらに記憶する構成であってもよい。
記憶部4は、上述した比較データ(誤り率のデータ)の他、操作部6にて設定される測定パターンのPAM4信号を発生させるためのパターンファイル、高電圧範囲H3の閾値電圧Vth1、中電圧範囲H2の閾値電圧Vth2、低電圧範囲H1の閾値電圧Vth3、制御部7の各機能部を実現するための処理プログラム等、各種の情報を記憶する。本実施形態においては、後述の誤り率と遅延量の関係を示す誤り率/遅延量特性データ、該誤り率/遅延量特性データから算出されるバスタブ特性、さらにはバスタブ特性に基づくジッタ測定結果などのデータも記憶部4に記憶されるようになっている。
表示部5は、例えば液晶表示器などで構成され、BER測定に関わる設定画面や、BER測定、バスタブ測定、及びジッタ測定の測定結果を表示する測定画面(図13参照)などの画面、及びその他の各種情報を表示する。
操作部6は、例えば操作ノブ、各種キー、スイッチ、ボタンや表示部5の表示画面上のソフトキーなどで構成される。操作部6は、測定パターンの選択、誤り率の測定範囲、誤り率の測定の開始・終了の指示など、PAM4信号の誤り率測定、誤り率/遅延量特性に基づくバスタブ測定に関わる各種設定を行う際にユーザにより操作される。操作部6は、後述するパラメータ設定部7aとともに、本発明の設定手段を構成する。
制御部7は、上述した各種デバイスをDUT10としてビット誤り率(BER)を含む各種測定を行う際にPPG2、ED3、記憶部4、表示部5、操作部6を統括制御するものであり、CPU、ROM、RAM、通信インタフェースを含むコンピュータ装置によって構成される。
このコンピュータ装置は、CPUがRAMを作業領域としてROMに格納されたプログラムを実行することにより、パラメータ設定部7a、位相操作制御部7b、測定制御部7c、測定範囲再設定部7d、バスタブ特性算出部7e、ジッタ測定制御部7f、表示制御部7gを実現している。
パラメータ設定部7aは、PAM4信号の誤り率測定を行うための各種のパラメータを設定するものである。この種のパラメータとしては、測定対象の信号の規格、誤り率の測定範囲、位相操作パターン、位相操作の掃引回数などが挙げられる。パラメータ設定部7aは、この他、後述する要否判定用レベルL1、上回りレベルL2(図12(a))といった測定範囲の再設定制御に係るパラメータを設定する機能を有していてもよい。パラメータ設定部7aは、上述した操作部6とともに、本発明の設定手段を構成する。
位相操作制御部7bは、後述する測定制御部7cでのPAM4信号の誤り率測定制御の実行中、ユーザによる操作部6で操作に基づいて信号受信部3aの可変遅延器3dに対して位相操作指令を入力し、入力データとクロック信号との位相関係を操作させる(順次変動させる)制御を実行するようになっている。
測定制御部7cは、設定された測定パラメータに基づいてPPG2から指定された規格のパルスパターンを有する試験信号(PAM4信号)を発生させ、該試験信号を受信したDUT10が送出するPAM4信号を被測定信号としてED3に入力して誤り率測定部3fで該被測定信号のビット誤り率を測定する誤り率測定制御を実行する。
具体的に、上記誤り率測定制御において、測定制御部7cは、可変遅延器3d及び位相操作制御部7b、誤り率測定部3fを制御し、入力データに対し、位相関係を操作させつつ該入力データの被測定信号の誤り率を測定させるとともに、閾値電圧を操作させつつ入力データの誤り率を測定させる測定動作を実行する(図10のステップS5~S8、図11のステップS42参照)。また、測定制御部7cは、入力データの上述した誤り率測定に合わせてバスタブ測定、ジッタ測定を実行させるようにバスタブ特性算出部7e、ジッタ測定制御部7fを制御する。
さらに測定制御部7cは、後述する測定範囲再設定部7dによる測定範囲の再設定制御を実現すべく、可変遅延器3d及び位相操作制御部7bにより誤り率最小となる位置にデータとクロック信号との位相関係を合わせた状態で、誤り率測定部3fによりデータの誤り率を測定させる最小誤り率測定動作を上述したバスタブ特性の測定に先行して実行させる制御を行う先行測定動作制御部7c1を有している。
上記最小誤り率測定動作において、測定制御部7cは、被測定信号(入力データ)を入力し、可変遅延器3d及び位相操作制御部7bにより位相操作された該データの信号受信部3a(デコード回路3c)での2値判定結果を誤り率測定部3fにさらに入力し、該誤り率測定部3fによって当該データのパターンと既定のバターンを比較し、その比較結果に基づき当該データの誤り率を測定させるように、信号受信部3a、可変遅延器3d及び位相操作制御部7b、誤り率測定部3fを統括的に制御する。測定制御部7c、先行測定動作制御部7c1は、それぞれ、本発明の誤り率測定制御手段、先行測定動作制御手段を構成する。
測定範囲再設定部7dは、操作部6での設定操作に基づいてパラメータ設定部7aにより設定された誤り率の測定範囲を再設定する制御を行う機能部である。具体的に、測定範囲再設定部7dは、既に設定されている測定範囲における上限値を、先行測定動作制御部7c1により実施される最小誤り率測定動作により測定される最小誤り率に応じて、該最小誤り率よりも大きな値を有する再設定上限値として再設定するようになっている。
上述した測定範囲の再設定機能を実現するために、測定範囲再設定部7dは、既に設定されている上限値から一定レベル(図12(a)の要否判定閾値レベルL1参照)下回る誤り率を閾値として設定し、測定された最小誤り率が閾値より大きいか閾値以下かに応じて既に設定されている上限値の再設定が必要であるか不要であるかを判定する再設定判定部7d1をさらに有している。これにより、測定範囲再設定部7dは、再設定判定部7d1による上限値の再設定の要否判定結果に応じて上限値の再設定を実行または実行しないように制御することができるようになっている。
また、測定範囲再設定部7dは、再設定上限値として、ユーザによって既に設定されている上限値に対して所定レベル(図12(a)の引き上げレベルL2参照)を上回る誤り率を再設定する機能を有している。ここでパラメータ設定部7aは、操作部6での入力操作に応じて、例えば、-1乗の誤り率範囲を1目盛として、上限値と下限値を目盛り単位に設定可能な構成により実現できる。この場合、測定範囲再設定部7dは、上述した所定レベルとして、少なくとも1目盛に相当するレベルを上回る誤り率を再設定する構成で実現することもできる。測定範囲再設定部7d、再設定判定部7d1は、それぞれ、本発明における測定範囲再設定手段、判定手段を構成する。
バスタブ特性算出部7eは、上述したプレ測定動作の終了後、可変遅延器3d及び位相操作制御部7bによる位相操作を予め設定した掃引回数実施しつつ実施される誤り率測定部3fでの誤り率測定に合わせ、このときの誤り率測定の測定結果と位相操作されるクロック遅延量との対応関係を示すバスタブ特性を算出するための演算機能部である。バスタブ特性算出部7eは、本発明のバスタブ測定手段を構成する。
ジッタ測定制御部7fは、バスタブ特性算出部7eにより算出されたバスタブ特性に基づき、該バスタブ特性におけるバスタブ曲線部分を近似する近似線を規定し、該近似線の傾きによって定義されるジッタを算出するジッタ算出処理機能を有する。
表示制御部7gは、測定制御部7cの制御に基づく測定動作中のビット誤り率の測定結果、バスタブ測定結果などの測定結果や、その他の各種情報を、表示部5に表示させる制御を行うものである。本実施形態において、表示制御部7gは、バスタブ特性算出部7e及びジッタ測定制御部7fの制御によって測定(算出)されるジッタ測定結果を含む測定画面を表示させる表示制御機能を備えている。
具体的に、表示制御部7gは、例えば図13に示すように、バスタブ特性の測定結果を示すグラフ52aと、グラフ52aを形成するバスタブ曲線52a1、52a2に関連付けて描画される上記再設定上限値を示す線分52cと、再設定上限値が自動設定されたものであることを報知する報知メッセージ54eと、をジッタ測定画面51上に表示させるようになっている。表示制御部7gは、本発明の表示制御手段を構成している。
図1、図3及び図4に示すように、本実施形態に係る誤り率測定装置1において、ED3は、誤り率測定範囲設定機能(操作部6、パラメータ設定部7a)、位相操作制御機能(可変遅延器3d、操作部6、位相操作制御部7b)、バスタブ特性及びジッタ測定機能(バスタブ特性算出部7e、ジッタ測定制御部7f)を有している。そのうえで、ED3は、バスタブ測定に先行して最小誤り率測定動作を実施し、該最小誤り率測定動作によって測定された最小誤り率に応じて、誤り率測定範囲設定機能により既に設定されている誤り率測定範囲の上限値をより大きな値を有する再設定上限値として再設定する誤り率測定範囲再設定機能(測定範囲再設定部7d、再設定判定部7d1)をさらに有している。
ここでまずバスタブ特性及びジッタ測定について図5~図9を参照して説明する。上記構成(図1、図3、図4参照)を有する誤り率測定装置1において、制御部7では、誤り率測定部3fでの被測定信号の誤り率の測定に合わせて、バスタブ特性算出部7eが被測定信号のバスタブ特性を算出し、ジッタ測定制御部7fがそのバスタブ特性からランダムジッタRJと確定的ジッタDJとを分離して算出できるようになっている。
バスタブ特性算出部7eにより算出される被測定信号のバスタブ特性の一例を図5に示している。図5において、横軸はDelay、すなわち、クロック遅延量(クロック信号と入力データの位相関係)を示し、縦軸は誤り率(BER値)を例えば対数log10(BER)により示している。
なお、誤り率測定装置1は被測定信号としてPAM4信号を扱うものであり、図5に示すバスタブ特性については、図2に示す3つのアイパターンにそれぞれ対応したものを生成するようになっている(図9の(b1)、(b2)、(b3)参照)。図5~図8については便宜上、3つのバスタブ特性についてひとくくりで説明するものとする。
図5に示すバスタブ特性におけるクロック遅延量の変動操作(同図の左端から右端に向けて動かす操作)は、位相操作制御部7bによる信号受信部3aの可変遅延器3dに対する位相操作制御により行われる。位相操作制御は、入力データとクロック信号の位相関係(クロック遅延量)を例えば1周期の間隔で細かく操作する(動かす)ことができるようになっている。これにより、クロック遅延量を例えば初期値から1周期の範囲で決められた値(クロック遅延量)で動かしつつ、誤り率測定部3fでは、個々のクロック位相に対応する誤り率を測定することが可能となる。
上述したクロック遅延量(Delay)の操作に対して、誤り率測定部3fで測定されるBER値を対応付けてグラフとして表すと、図5に示すように、クロック遅延量を初期値から次第に大きくしていく過程で、例えば黒丸で示される各測定ポイントでのBER値が次第に小さくなっていく区間(第1の区間)と、その後、クロック遅延量を最終周期(1周期に相当する)までさらに大きくしていく過程で各測定ポイントでのBER値が次第に大きくなっていく区間(第2の区間)が現れるようになっている。第1の区間における測定ポイントの集まりが描く曲線と、第2の区間における測定ポイントの集まりが描く曲線とは左右対称であり、両者を合わせるとバスタブ形状をなしている。このため、図5に示す一連のクロック遅延量対誤り率の特性は、一般にバスタブ特性と呼ばれている。本実施形態においても同様であり、以下、第1の区間における測定ポイントの集まりが描く曲線、第2の区間における測定ポイントの集まりが描く曲線を、それぞれ、第1のバスタブ曲線、第2のバスタブ曲線と呼称するものとする。
図5に示すバスタブ特性において、第1のバスタブ曲線、第2のバスタブ曲線に対しては、共に、それぞれの曲線を近似する近似線が引かれている。第1のバスタブ曲線の近似線は、例えば、log10(BER)=a1x+b1で表され、第2のバスタブ曲線の近似線は、例えば、log10(BER)=a2x+b2で表される。
また、このバスタブ特性においては、縦軸における任意のBER値が、それぞれ、BER0、BER1、BERU、BERLとして指定されている。ここで、BER0は、確定的ジッタDJの推定に使用する基準誤り率であり、BER1はトータルジッタTJの推定に使用する基準誤り率である。BER0、BER1は、事前に決められている。
BERUは、ジッタの計算に使用する誤り率の測定範囲の上限値であり、BERLは、ジッタの計算に使用する誤り率の測定範囲の下限値である。BERU、BERLは、ジッタ測定に際してユーザが設定するようになっている(図10のステップS1参照)。ジッタ測定に際して誤り率の測定範囲として設定可能な誤り率(BER)とQ(BER)値との関係を図8に示している。
ジッタ測定制御部7fは、ユーザによって設定された上限値BERUと下限値BERLとにより規定される誤り率の測定範囲としてジッタ算出処理を実施するようになっている。これにより、BER0からBER1までの範囲でBER測定を行う場合に比べて処理負荷及び処理時間を低減することができる。
図5に示すバスタブ特性に基づいてランダムジッタRJ、確定的ジッタDJを算出する手法の一例として、以下に示す式(1)から式(4)を用いる方法が挙げられる。
式(1)において、NORM.INV(確率、平均、標準偏差)は、正規分布の累積分布関数の逆関数の値に対応するものである。TDは、Mark Ratioを表し、具体値としては例えば、1/2が設定されている。
図5に示すバスタブ特性において、BER
U、及びBER
Lが設定されているときに、最小2乗法によって求められる上述した各近似線の係数a1、b1、a2、b2は、当該バスタブ特性について規定される図中のT
L、T
Uを用いて以下の式(5)及び式(6)で表すことができる。
上記式(2)で表されるランダムジッタRJ
rmsは、上記式(5)、式(6)を代入することにより、下式(7)で表すことができる。式(7)によってランダムジッタRJ
rmsを算出可能であることは図7の模式図からも理解できる。
さらにFを定義することにより、下式(8)から下式(10)を導くことができる。
上記式(10)において、(1/a1-1/a2)という係数は、近似線の傾きを示している。以上の式変換から、ランダムジッタRJrmsは以下2点の特質を有することが分かる。1つ目の特質は、F(BERL,BERU)は測定条件から決まる固定の係数である点であり、2つ目の特質は、2本の近似線の傾きの逆数からランダムジッタRJrmsを算出することができる点である。したがって、バスタブ測定においては、近似線の傾きを求めることが重要であることを理解することができる。
さらに、確定的ジッタDJ、及びトータルジッタTJは、ランダムジッタRJ
rmsを用いて下式(11)、(12)により算出可能である。
次に、本実施形態に係る誤り率測定装置1におけるジッタ測定の概略手順について図6を参照して説明する。図6に示すように、本実施形態に係る誤り率測定装置1では、規定回数の掃引により得られるバスタブ特性に関する複数のデータセットから正常でないデータセットを排除し、正しいデータセットのみを選別して該選別されたデータセットに基づいてジッタを算出するようになっている。
1つのバスタブ特性を得る手順としては、それぞれ、Delayを初期値から1周期の範囲で動かして誤り率を測定する。ここでDelayを初期値から1周期の範囲で動かして誤り率を測定することを1掃引と定義し、1掃引によって得られたクロック信号とデータの位相関係と誤り率の関係をデータセットと定義する。
バスタブ特性算出部7eは、可変遅延器3d、位相操作制御部7bと協働して、図6に示すように1掃引を複数回行うことで複数のデータセットを得ることができる。図6の例では、6掃引を実施して6つのデータセットを得られる様子を示している。ここでバスタブ特性算出部7eは、バスタブ特性を正しく測定できないNGの要件を定義しておくことで、得られたデータセットがNGの要件を満たす場合には当該データセットを削除し、NGの要件に該当しないデータセットを残す選別機能を有する構成であってもよい。図6においては、6掃引を実施して得られた6つのデータセットのうちの一つが上記選別機能によってNGと判定されて削除され、残された5つのデータセットを用いてジッタを算出する際の処理イメージを示している。
ジッタ測定制御部7fは、残された5つのデータセットを用い、統計処理によってランダムジッタRJ、確定的ジッタDJ、トータルジッタTJ等の各種ジッタを計算する機能構成となっている。
なお、本実施形態に係る誤り率測定装置1は、PAM4信号を扱うものであり、当該PAM4信号の3つのアイパターン(図2参照)のそれぞれについてバスタブ測定を行うことができるものである。誤り率測定装置1におけるPAM4信号の誤り率/遅延量特性(バスタブ測定)の測定(算出処理)イメージを図9に示している。
図9において、図9(a)は、入力データ(PAM4信号)に対する遅延量操作(図10のステップS7参照)の処理イメージを示している。図9(b1)は、PAM4信号のUpper信号(高レベル信号)を対象とする誤り率/遅延量特性(バスタブ特性)d11の測定処理イメージを示している。同様に、図8(b2)、(b3)は、それぞれ、Middle信号、Lower信号の誤り率/遅延量特性d12、d13の測定処理イメージを示している。
次に、本実施形態に係る誤り率測定装置1におけるPAM4信号を対象とするジッタ測定制御動作について図10に示すフローチャートを参照して説明する。図10に示すジッタ測定制御動作においては、誤り率の測定範囲を設定するステップ(ステップS1参照)、及び再設定するステップ(ステップS4参照)が含まれている。
誤り率測定装置1においてジッタ測定処理を行うにはまず、ユーザが操作部6を操作して所望の測定パラメータの値を入力し、パラメータ設定部7aがその入力された値を有する測定パラメータを設定する(ステップS1)。設定する測定パラメータとしては、試験信号の規格、誤り率の測定範囲、測定範囲の再設定に係る再設定用パラメータ、クロック信号の位相操作パターン、位相操作の掃引回数等が挙げられる。
試験信号の規格は、例えば、各種パターン長を有する擬似ランダム(Pseudo Random Binary Sequence:PRBS)パターンの中から所望する一つのパターンを選択的に指定することで設定する。
誤り率の測定範囲は、上限値(BERU)と下限値(BERL)を指定することで設定する。一例として、図12(a)には、上限値を-6乗、下限値を-9乗に指定し、-6乗~-9乗までの誤り率の範囲を設定した例を挙げている。また、測定範囲の再設定に係る再設定用パラメータとしては、前述したように、再設定が必要か不要かを判定するための要否判定閾値レベルL1、再設定時に引き上げるべき所定の引き上げレベルL2を合わせ設定するようにしてもよい。
クロック信号の位相操作パターンとしては、変動させる単位位相量、1掃引の周期等を設定する。位相操作の掃引回数は、例えば、5回等、任意の回数を設定する。
測定パラメータの設定完了後、測定制御部7cは、アイ番号1、2、3のうちからいずれか1つのアイ番号の選択を受け付ける処理を行う(ステップS2)。ここでアイ番号1、2、3は、それぞれ、図2に示すUpper信号、Middle信号、Lower信号にそれぞれ対応するアイパターン開口部を識別するための番号である。
ここでユーザが、操作部6を操作して所望のアイ番号を選択すると、測定制御部7cは、選択されたアイ番号に対応する電圧範囲(低電圧範囲H1、中電圧範囲H2、高電圧範囲H3のうちのいずれか)を測定対象として設定したうえで、誤り率の測定を開始することを指示する測定開始操作が行われたか否かを監視する(ステップS3)。ここで測定開始操作が行われてないと判定された場合(ステップS2でNO)、測定制御部7cは当該監視を続行する(ステップS3)。
これに対し、測定開始操作が行われたと判定された場合(ステップS3でYES)、測定範囲再設定部7dは、測定制御部7cと共働し、ステップS1で設定された誤り率の測定範囲を、上限値のみを対象により大きな値に変更することにより再設定する測定範囲再設定処理を実行する(ステップS4)。
ステップS4における誤り率の測定範囲の再設定処理について図11を参照して説明する。この再設定処理においてはまず、バスタブ測定を行う前段階として、可変遅延器3dによって、クロック信号と入力データの位相関係を誤り率最小の位置に合わせた状態を確立する(ステップS41)。この操作は、例えば、ユーザが可変遅延器3dを手動で動かすことで行うことができる。
次いで、測定制御部7cでは、先行測定動作制御部7c1が、例えば測定範囲再設定部7dからの最小誤り率測定動作の開始指令に応じて可変遅延器3d及び位相操作制御部7b、並びに誤り率測定部3fをそれぞれ制御し、上述した位置に位相関係を合わせた状態で、誤り率測定部3fによりデータの誤り率を測定させる最小誤り率測定動作を実行させる(ステップS42)。
引き続き測定範囲再設定部7dでは、再設定判定部7d1が、測定範囲の再設定が必要であるか不要であるかを判定する(ステップS43)。この判定処理においては、測定範囲再設定部7dは、ステップS42での最小誤り率測定動作での測定結果のうちの最小誤り率が予め設定した判定条件を満たすかどうかによって再設定が必要、若しくは不要と判定する方法が考えられる。
測定範囲再設定部7dは、上記判定条件としては、例えば、既に設定されている上限値から一定レベル下回るレベルを要否判定用レベルL1として設定し、ステップS42での最小誤り率測定動作により測定された最小誤り率の測定値が、設定されている上限値から要否判定用レベルL1までの範囲のレベルにあるかそれよりも小さいレベルかによって再設定が必要、若しくは不要と判定する。図12(a)においては、要否判定用レベルL1として、例えば、1.5目盛り分のレベルが設定されている例を挙げている。
ここで誤り率測定範囲の再設定が必要であると判定された場合(ステップS43で「必要」)、次いで測定範囲再設定部7dは、ステップS44へと移行する。これに対して、誤り率測定範囲の再設定が不要であると判定された場合(ステップS43で「不要」)、ステップS44を飛ばして図10のステップS5へと移行する。
ステップS44に移行すると、測定範囲再設定部7dは、ステップS1(図10参照)で設定済の誤り率測定範囲の上限値を、ステップS42での最小誤り率測定動作による誤り率の測定値(最小誤り率)に応じて、より大きな誤り率に自動で再設定する自動再設定処理を実行する(ステップS44)。
この自動再設定処理において、測定範囲再設定部7dは、設定済の誤り率測定範囲の誤り率上限値を、事前に設定しておいたレベルだけ大きな誤り率に設定する。ここでの再設定にあたり既に設定されている上限値に対して上回せるための所定のレベルを上回りレベルL2として事前に設定しておくようにしてもよい。図12においては、上回りレベルL2として、例えば、2目盛り分のレベルを設定しておき(図12(a)参照)、設定済の上限値を該上回りレベルL2分大きなレベルまで大きくする設定制御例を挙げている。
ステップS44の処理を終了すると、引き続き図10のステップS5へ移行する。
ステップS5以降、測定制御部7cは、PPG2、及びED3の各部(可変遅延器3d及び位相操作制御部7b、誤り率測定部3f等)を統括的に制御し、入力データに対し、位相関係を操作させつつ該入力データ(被測定信号)の誤り率を測定させる測定動作を実行する。合わせてこの測定動作では、ステップS2で選択されたアイ番号に対応する電圧範囲における誤り率と遅延量の関係を示す誤り率/遅延量特性、所謂、バスタブ特性を測定するバスタブ測定と、誤り率/遅延量特性に基づいてジッタを測定するジッタ測定が実行される。こうした測定動作は、ステップS12でユーザによる測定終了の指示があるまで、ステップS2で選択されたアイ番号に対応して繰り返し行われる。
まず、ステップS5において、測定制御部7cは、信号送信部2aからステップS1で設定された規格の試験信号を送信させるように制御する(ステップS5)。信号送信部2aから試験信号が送信された後、DUT10が該試験信号を受信すると、当該DUT10はその応答信号として被測定信号を送信する。
ステップS5で信号送信部2aから試験信号を送信させる制御を行った後、測定制御部7cは、その試験信号の受信によりDUT10が送出するPAM4信号である被測定信号を信号受信部3aの0/1判別回路3bに順次入力させる(ステップS6)。
その際、測定制御部7cは位相操作制御部7bに位相操作制御を指示し、該指示に基づき位相操作制御部7bが、遅延操作ステップを示す番号n1を+1にインクリメントし、次いで、信号受信部3aの可変遅延器3dを、当該番号n1の位相操作ステップについて、入力するデータ(入力データ)に対してクロック信号をステップS1で設定された遅延操作パターンで遅延させる位相操作制御を実施する。具体的に、位相操作制御部7bは、予め設定した1周期の範囲内で初期値から最後の位相値まで、上記番号n1に対応する位相操作ステップごとに所定の位相値ずつ順に動かすようにクロック遅延量(Delay)を操作制御する(ステップS7)。
ステップS7での位相操作制御により、信号受信部3aでは、上記位相操作後のPAM4信号が0/1判別回路3bに入力されて0/1判別され、該0/1判別の判別信号がデコード回路3cでMSB、LSBにデコードされた後、誤り率測定部3fにより当該PAM4信号の誤り率の測定が行われる(ステップS8)。これによりステップS8では、初期値から1周期の範囲内のクロック遅延量の変動に対応する誤り率測定結果が得られる。
引き続き、測定制御部7cは、バスタブ特性算出部7eによりバスタブ特性を演算させるように制御する。この制御により、バスタブ特性算出部7eは、ステップS7でのクロック遅延量の操作制御とステップS8でのBER測定結果に基づき、クロック信号とデータの位相関係と、測定された誤り率との関係を示すバスタブ特性のデータセットを生成する演算処理を実行する(ステップS9)。
ステップS7、S8及びS9の処理は、図6を参照して説明した処理、つまり、クロック遅延量(Delay)を初期値から1周期の範囲で動かして誤り率を測定する測定処理を1回(1掃引)実施してバスタブ特性のデータセット(1掃引に係るデータセット)を取得する処理に相当する。本実施形態において、測定制御部7cは、上記掃引を複数回(ステップS1で設定された掃引回数)実施し、それぞれの回の掃引に対応する既定の数のデータセットを生成するように信号受信部3a、誤り率測定部3f及びバスタブ特性算出部7eを制御するようになっている。
上述した複数回の掃引を行うべく、測定制御部7cは、ステップS9で1掃引によるバスタブ特性のデータセットを生成した後、掃引回数が規定回数に達したか否かを判定する(ステップS10)。ここで掃引回数が規定回数に達していないと判定された場合(ステップS10でNO)、ステップS5からステップS10までの処理を繰り返し実行する。
上記処理を繰り返し実行する間に、掃引回数が規定回数に達したと判定された場合(ステップS10でYES)、測定制御部7cは、ジッタ測定制御部7fにジッタを算出することを指示する。ジッタ測定制御部7fは、上記指示に基づき、それまでに得られた複数のデータセット(それぞれが1掃引に係るデータセット)に基づくジッタの演算処理を行う(ステップS11)。この演算処理により、ジッタ測定制御部7fは、最終的には上記式(10)、式(11)、式(12)に基づいてそれぞれランダムジッタRJ、確定的ジッタDJ、トータルジッタTJのジッタ値を算出する。
上述したステップS1からステップS11までの一連のジッタ測定処理中、表示制御部7gは、各処理ステップでの処理結果に基づいて、例えば、図13に示す構成を有するジッタ測定画面51を表示部5に表示する制御を行う(ステップS12)。ジッタ測定画面51の表示形態については後で詳述する。
ジッタ測定画面51の表示中、測定制御部7cは、測定終了を指示する測定終了操作が行われたか否かを監視する(ステップS13)。ここで測定開始操作が行われてないと判定された場合(ステップS13でNO)、測定制御部7cはステップS2に戻ってアイ番号の選択を受け付け、その後、ステップS4以降の処理を続行する。
これに対し、測定終了操作が行われたと判定された場合(ステップS13でYES)、測定制御部7cは、上述した一連の測定処理を終了するように制御する。
図10に示す一連のジッタ測定処理により、本実施形態に係る誤り率測定装置1では、ユーザによる誤り率測定範囲の上限値が小さかった場合でも、ステップS4における誤り率測定範囲の再設定処理により、当該誤り率測定範囲、特に、誤り率上限値をより大きな誤り率に再設定することにより、測定成功に導くことが可能となる。
ステップS4における誤り率測定範囲の再設定の具体例について図12を参照して説明する。図12においては、ステップS4での誤り率測定範囲の再設定処理を行うために、要否判定用レベルL1、及び上回りレベルL2が事前に設定されているものとする。また、ステップS42の最小誤り率測定動作(先行測定動作)において最小誤り率(BER_opt)が得られたものとする。図12において、最小誤り率(BER_opt)は、最小誤り率測定動作で得られたバスタブ特性における2つのバスタブ曲線の近似線が互いに交わる位置の値に相当する。
図12に示す例の場合、バスタブ測定に先行する最小誤り率測定動作で測定された最小誤り率(BER_opt)が、設定されている上限値から要否判定用レベルL1内のレベルであるため、ステップS43で再設定が必要であると判定される。
この判定結果にしたがい、ステップS44では、既に設定されている測定範囲の上限値(-6乗)が、予め設定された上回りレベルL2だけ上回った(-4乗)の再設定上限値として再設定されることになる。
なお、ステップS43における判定の結果、最小誤り率(BER_opt)が設定されている上限値から要否判定用レベルL1以上小さいレベルのときには、ステップS43で再設定が不要であると判定される。この場合、誤り率の測定範囲の上限値の再設定を行わず、-9乗から-6乗の測定範囲での誤り率測定が実施されることになる。
図12の例からも分かるように、再設定判定部7d1は、設定されている上限値から一定レベル(要否判定用レベルL1)を下回る誤り率を閾値として設定し、測定された最小誤り率(BER_opt)がその閾値より大きいか閾値以下かに応じて上限値の再設定が必要か不要かを判定する機能構成となっている。
なお、図12においては、設定されている上限値を上回る再設定上限値を再設定する処理に係る上回りレベルL2として、誤り率測定範囲設定機能における上限値と下限値を-1乗の目盛り単位に設定可能な機能構成に対して2目盛り分に相当するレベルとして例を挙げているが、本発明はこれに限らず、上記上回りレベルL2として、少なくとも1目盛に相当するレベルを設定して起き、既に設定されている上限値に対して1目盛分上回る再設定誤り率を再設定できる構成であればよい。
次に、ステップS12の表示処理におけるジッタ測定画面51の表示例について図13を参照して説明する。図13は、ユーザが設定した上限値(E-6)から下限値(E-9)の測定範囲(図12(b)参照)の上限値を再設定上限値(E-3)とする再設定が実施されたときのジッタ測定画面51の表示例を示している。
図13に示すように、ジッタ測定画面51は、バスタブ測定表示領域52と、ジッタ測定表示領域53と、測定状況表示領域54と、を有している。バスタブ測定表示領域52は、例えば、縦軸に誤り率、横軸にクロック遅延量が目盛られたグラフ表示領域を有している。ジッタ測定表示領域53は、Opt Phase、Opt BER、TJ(E-7)、DJ、RJ、J2(2.5E-3)、J9(2.5E-10)等の項目ごとにジッタ測定結果をそれぞれ数字で表示する構成を有している。測定状況表示領域54は、ジッタ測定状況を項目ごとに表示するためのツール54a、54b、54c、54dを備えている。ツール54a、54b、54c、54dは、それぞれ、Phase Unit、Phase Resolution[単位:mUI]、Jitter Calculation、Calculation Error Thresholdの各項目のジッタ測定状況を表示するようになっている。
表示制御部7gは、図10のステップS9で生成されるバスタブ特性のデータセットに基づき、図13に示すジッタ測定画面51のバスタブ測定表示領域52に対してバスタブ特性を示すグラフ52aを表示する。グラフ52aは、第1のバスタブ曲線52a1と第2のバスタブ曲線52a1とにより構成されている。また、表示制御部7gは、グラフ52a上にバスタブ曲線52a1、52a2にそれぞれ対応する近似線52b1、52b2を表示する。
また、表示制御部7gは、図10のステップS11におけるジッタ測定結果に基づき、図13に示すジッタ測定画面51のジッタ測定表示領域53に対し、項目ごとのジッタ測定結果を数字で表示する。
また、表示制御部7gは、図13のジッタ測定画面51の測定状況表示領域54に対して、測定状況に関する各項目の設定状況をさらに表示する。図13の例では、上記各項目のうち、特に、Calculation Error Thresholdについては、誤り率の測定範囲を指定するツール54dを用いて、E-3 to E-11の範囲が誤り率の範囲として設定されている様子が表示されている。
ツール54dの表示に合わせて、表示制御部7gは、誤り率の測定範囲の上限値が自動的に再設定されたものであることをユーザに認知させるための表示制御も実施する。図13の例において、表示制御部7gは、バスタブ測定表示領域52内における誤り率の測定範囲の上限を示す線分(横線)52cで示される上限値(この例では、「E-3」に相当する)が再設定されたものであることが分かる態様で表示するようになっている。
表示制御部7gは、誤り率の測定範囲の上限値が自動的に再設定されたものであることを報知する報知メッセージ54eをツール54dに対応付けてさらに表示するようになっている。図13の例では、「Auto Tune !」という表現内容の報知メッセージ54eが表示されている。
なお、再設定された上限値を示すツール54d、及び再設定された上限値であることを報知するための報知メッセージ54eの表示形態については、図13に示す表示形態に限らず、例えば、表示内容、表示色、表示パターン(点灯、または点滅)等を適宜変更する等、様々な形態が考えられる。
図13に示す表示形態を有するジッタ測定画面51によれば、ユーザは、グラフ52a上にバスタブ曲線72a1、に関連付けて表された上限値(「E-3」)を示す線分52cの表示形態と、測定状況表示領域54内にツール54dに対応付けて表示される報知メッセージ54eを見ることにより、自ら設定した誤り率測定範囲の上限値が再設定されたうえでジッタ測定が完了していることを目視によって理解できるようになる。
上述したように、本実施形態に係る誤り率測定装置1は、被測定信号として入力するデータの誤り率の測定範囲を上限値と下限値を用いて設定するパラメータ設定部7aと、入力するデータと該データの2値判定の処理に用いるクロック信号の位相関係を可変遅延器3dで操作する位相操作を行う位相操作制御部7bと、位相操作を伴うデータの2値判定の判定結果を用いてデータの誤り率を測定する誤り率測定部3fと、データの誤り率の測定に合わせて、可変遅延器3dにより操作されたデータとクロック信号の位相関係と、誤り率測定部3fにより測定されたデータの誤り率との関係を示すバスタブ特性を測定するバスタブ特性算出部7eと、を備え、設定された測定範囲を対象にデータの誤り率を測定するものである。
この誤り率測定装置1は、可変遅延器3dにより誤り率最小となる位置に位相関係を合わせた状態で、誤り率測定部3fによりデータの誤り率を測定させる最小誤り率測定動作をバスタブ特性の測定に先行して実行させる先行測定動作制御部7c1と、パラメータ設定部7aにより設定された上限値を、最小誤り率測定動作で測定されたデータの最小誤り率(BER_opt)に応じて上限値より大きな値を有する再設定上限値として再設定する測定範囲再設定部7dと、再設定上限値とパラメータ設定部7aにより設定された下限値との間の測定範囲を対象にバスタブ特性を測定させるように可変遅延器3d、誤り率測定部3f及びバスタブ特性算出部7eを制御する測定制御部7cと、を有して構成されている。
この構成により、本実施形態に係る誤り率測定装置1は、最初に設定された上限値をより大きな値に自動で再設定することで上限値の設定に起因する測定の失敗を低減することができる。上限値の設定に起因する測定の失敗が低減されることで、測定を確実に完了させることができるようになり、測定失敗した場合でも、該失敗の問題を上限値の設定の問題とは切り分けて問題解決にあたることで被測定信号を送信する被測定物の評価を効率的に実施することができる。
また、本実施形態に係る誤り率測定装置1は、パラメータ設定部7aにより設定された上限値から一定レベル(要否判定用レベルL1)下回る誤り率を閾値として設定し、測定された最小誤り率(BER_opt)が閾値より大きいか閾値以下かに応じて上限値の再設定が必要か不要かを判定する再設定判定部7d1をさらに有し、測定範囲再設定部7dは、再設定判定部7d1による上限値の再設定が必要か不要かの判定結果に応じて上限値の再設定を実行または実行しないようにする構成を有している。
この構成により、本実施形態に係る誤り率測定装置1は、測定された最小誤り率と閾値との関係によっては必ずしも再設定上限値としての再設定を行う必要がなく、バスタブ測定を効率よく実施できる。
また、本実施形態に係る誤り率測定装置1においては、測定範囲再設定部7dは、再設定上限値として、パラメータ設定部7aにより設定された上限値に対して所定レベル(上回りレベルL2)上回る誤り率を再設定する構成を有している。
この構成により、本実施形態に係る誤り率測定装置1は、設定済みの上限値を再設定上限値として再設定する際に、設定済みの上限値を上回りレベルL2分上回る値に容易に再設定することができ、処理を簡略化し、測定時間を短縮することが可能となる。
また、本実施形態に係る誤り率測定装置1においては、パラメータ設定部7aは、-1乗の誤り率範囲を1目盛として、上限値と下限値を目盛り単位に設定可能であり、測定範囲再設定部7dは、上回りレベルL2として、少なくとも1目盛に相当するレベルを上回る誤り率を再設定する構成である。
この構成により、本実施形態に係る誤り率測定装置1は、1目盛り単位の上限値及び下限値の設定機能に合わせて、設定済みの上限値に対して目盛り単位のレベルを上回る再設定上限値を容易に再設定可能であり、処理負荷を軽減することができる。
また、本実施形態に係る誤り率測定装置1は、バスタブ特性の測定結果を示すグラフ52aと、グラフ52aを形成するバスタブ曲線52a1、52a2に関連付けて描画される再設定上限値を示す線分52cと、再設定上限値が自動設定されたものであることを報知する報知メッセージ54eと、を含むジッタ測定画面51を、表示部5に表示させる表示制御部7gをさらに有する構成である。この構成により、本実施形態に係る誤り率測定装置1は、ジッタ測定画面51上の線分52c、及び報知メッセージ54eの表示内容から、上限値の自動再設定により測定が成功している状況であることをユーザが容易に認識可能となる。
また、本実施形態に係る誤り率測定方法は、被測定信号として入力するデータの誤り率の測定範囲を上限値と下限値を用いて設定するパラメータ設定部7aと、入力するデータと該データの2値判定の処理に用いるクロック信号の位相関係を可変遅延器3dで操作する位相操作を行う位相操作制御部7bと、位相操作を伴うデータの2値判定の判定結果を用いてデータの誤り率を測定する誤り率測定部3fと、データの誤り率の測定に合わせて、可変遅延器3dにより操作されたデータとクロック信号の位相関係と、誤り率測定部3fにより測定されたデータの誤り率との関係を示すバスタブ特性を測定するバスタブ特性算出部7eと、を備える誤り率測定装置1を用いて測定範囲を対象にデータの誤り率を測定する誤り率測定方法であって、可変遅延器3dにより誤り率最小となる位置にデータとクロック信号の位相関係を合わせた状態で、誤り率測定部3fによりデータの誤り率を測定させる最小誤り率測定動作をバスタブ特性の測定に先行して実行させる先行測定動作制御ステップ(S42、S43)と、パラメータ設定部7aにより設定された上限値を、最小誤り率測定動作で測定された前記データの最小誤り率(BER_opt)に応じて上限値より大きな値を有する再設定上限値として再設定する再設定ステップ(S44)と、再設定上限値とパラメータ設定部7aにより設定された下限値との間の測定範囲を対象にバスタブ特性を測定させるように可変遅延器3d、誤り率測定部3f及びバスタブ特性算出部7eを制御する測定制御ステップ(S5~S12)と、を含む構成である。
この構成により、本実施形態に係る誤り率測定方法は、本誤り率測定方法を適用し、最初に設定された上限値をより大きな値に自動で再設定することで上限値の設定に起因する測定の失敗を低減でき、測定失敗した場合でも、該失敗の問題を上限値の設定の問題とは切り分けて問題解決にあたることで被測定信号を送信する被測定物の評価を効率的に実施することができる。
(他の実施形態)
上述した実施形態においては、PAM4信号のアイダイヤグラムの生成、描画処理について述べてきたが、本発明は、他の実施形態として、誤り率測定装置1の信号受信部3aに代えて、例えば、図14に示す構成を有する信号受信部30を採用することでNRZ信号のアイダイヤグラムの生成、描画処理にも適用可能である。
図14に示すように、他の実施形態に係る信号受信部30は、被測定信号として入力するNRZ信号の2値(0、または1)判定を行う0/1判定器31と、0/1判定器31に入力する被測定信号とクロック信号の遅延量を操作する可変遅延器32と、を備えて構成されている。かかる構成により、他の実施形態においては、位相操作制御部40から可変遅延器32を制御して遅延操作(位相操作)を実施しながら、誤り率の測定範囲の自動設定を行いつつNRZ信号のバスタブ測定、ジッタ測定を実現することができる。