JP7124466B2 - 義歯用組成物及びデンチャーバイオフィルム形成抑制剤 - Google Patents

義歯用組成物及びデンチャーバイオフィルム形成抑制剤 Download PDF

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Description

本発明は、カンジダ菌殺菌力が高く、かつデンチャーバイオフィルム形成抑制効果が優れるデンチャーバイオフィルム形成抑制剤及びこれを含有する義歯用組成物に関する。
高齢化社会が進む中、多くの高齢者が義歯装着者であり、高齢者の口腔内は、部分義歯と残存歯が混在している。義歯装着者は、義歯未使用者に比べて、真菌であるカンジダ菌の保有率が高いことが報告されており(非特許文献1)、義歯表面に形成されるデンチャーバイオフィルム(デンチャープラーク)には、細菌と共に真菌(カンジダ菌)が混在していることが特徴となっている。このデンチャーバイオフィルムは、義歯性口内炎、う蝕及び歯周病のリスクとの関連が多数報告されており、義歯未使用者よりもこれら疾患の発症率が高い傾向がある(非特許文献2)。従って、デンチャーバイオフィルム形成を抑制して義歯を清潔に保つことは、これらの口腔疾患の予防につながり有効である。
しかしながら、現在主流の義歯洗浄剤は、ステイン汚れ等の除去(特許文献1;特許第4814707号公報)、除菌効果や漂白効果に着目しているものの、デンチャーバイオフィルムの抑制については不十分であった。
ところで、口腔内に存在するカンジダ菌に対する殺菌剤としてアルキルアミンオキシドが有効であり、これを用いた義歯洗浄剤組成物は、特許文献2(国際公開第2017/110674号)に提案されている。特許文献3(特開2017-57345号公報)は、アルキルジメチルアミンオキシドを次亜塩素酸アルカリ金属塩等と共に含有する、軽金属等の洗浄に用いる発泡洗浄剤組成物を提案している。
特許第4814707号公報 国際公開第2017/110674号 特開2017-57345号公報 特表2011-515332号公報 特開2017-66036号公報 特開2013-129619号公報 特許第5684454号公報 特表2010-538007号公報 特開2011-140454号公報 特開2015-174860号公報
水谷、義歯装着とカンジダ種との関連についての研究、口腔衛生学会誌、J.Dent.Health、2004、 Preshaw PM et.al、Association of removable denture use with oral and systemic health、J.Dent.2011、Review
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、カンジダ菌殺菌力が高く、かつデンチャーバイオフィルム形成抑制効果が優れるデンチャーバイオフィルム形成抑制剤及びこれを含有する義歯用組成物を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、グリセロリン酸カルシウムをアルキルアミンオキシド又はカチオン性界面活性剤と併用すると、高いカンジダ菌殺菌力と共に優れたデンチャーバイオフィルム形成抑制効果を奏し、デンチャーバイオフィルム形成抑制剤として有効であること、よって、上記併用系を義歯用組成物、例えば義歯洗浄剤等に配合することによって、カンジダ菌殺菌力が高く、かつ優れたデンチャーバイオフィルム形成抑制効果を付与できることを知見した。
従来の義歯洗浄剤は、口腔内浮遊菌に対する殺菌力には優れるが、カンジダ菌を含み強固に構築されるデンチャーバイオフィルム(義歯表面に形成されるデンチャープラーク)に対する形成抑制力は十分でなく、義歯を清潔にする点では未だ改善の余地があった。そこで、本発明者らは、より義歯を長時間清潔に保つため、殺菌力とデンチャーバイオフィルム形成抑制効果を併せ持つ義歯用組成物を得ることを課題、目的として検討を行った。その結果、カンジダ菌殺菌力を有する(B)アルキルアミンオキシド又は(C)カチオン性界面活性剤、あるいは(B)アルキルアミンオキシド及び(C)カチオン性界面活性剤に、(A)グリセロリン酸カルシウムを組み合わせることで、かかる課題、目的が達成され、上記格別な作用効果が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
後述の比較例の結果からもわかるように、(A)成分のみであると、カンジダ菌殺菌力もカンジダバイオフィルム形成抑制効果も低かった(比較例3)。一方、(B)、(C)成分は、それぞれカンジダ菌殺菌力を有するが、カンジダバイオフィルム形成抑制率は低いものであった(比較例1,2)。しかし、後述の実施例の結果から明らかなように、(A)成分と(B)又は(C)成分とを併用すると、意外にも、これら成分が相乗的に作用してカンジダバイオフィルム形成抑制率が格段に高まり、(A)成分と(B)及び(C)成分とを併用するとカンジダバイオフィルム形成抑制率が更に向上し、これにより、カンジダ菌殺菌力と共に優れたカンジダバイオフィルム形成抑制効果が得られた。従って、本発明によれば、義歯表面に強固な構築物として形成され、カンジダ菌を含むことを特徴とするデンチャーバイオフィルムの形成を効果的かつ満足に抑制することができる。
なお、グリセロリン酸カルシウムや、塩化セチルピリジニウム等のカチオン性界面活性剤は口腔用組成物用の配合成分として公知であり、これらを用いた応用技術は特許文献4~10(特表2011-515332号公報、特開2017-66036号公報、特開2013-129619号公報、特許第5684454号公報、特表2010-538007号公報、特開2011-140454号公報、特開2015-174860号公報)に提案されているが、義歯のデンチャーバイオフィルム形成抑制に関する言及はない。これに対して、本発明は、(A)成分と(B)又は(C)成分とを組み合わせることによる、デンチャーバイオフィルム形成の抑制である。
従って、本発明は、下記の義歯用組成物及びデンチャーバイオフィルム形成抑制剤を提供する。
〔1〕
(A)グリセロリン酸カルシウムと、
(B)アルキルアミンオキシド及び/又は(C)カチオン性界面活性剤と
を含有することを特徴とする義歯用組成物。
〔2〕
(C)カチオン性界面活性剤が、塩化セチルピリジニウム、塩化ベンゼトニウム及び塩化ベンザルコニウムから選ばれる1種以上である〔1〕に記載の義歯用組成物。
〔3〕
(B)アルキルアミンオキシドが、アルキル基の炭素数が10~18のアルキルジメチルアミンオキシドである〔1〕又は〔2〕に記載の義歯用組成物。
〔4〕
(B)アルキルアミンオキシドが、ラウリルジメチルアミンオキシドである〔3〕に記載の義歯用組成物。
〔5〕
(A)成分を0.005~2質量%含有する〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の義歯用組成物。
〔6〕
(B)成分を含有する場合、その含有量が0.05~10質量%であり、(C)成分を含有する場合、その含有量が0.005~1質量%である〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の義歯用組成物。
〔7〕
過酸化物及び次亜塩素酸の含有量が0~0.03質量%である〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の義歯用組成物。
〔8〕
液体製剤、ゲル製剤、これらの希釈液又は固体製剤であり、義歯処理時の(A)成分の濃度が0.005~2質量%であり、(B)成分を含有する場合はその濃度が0.05~10質量%であり、(C)成分を含有する場合はその濃度が0.005~1質量%である〔1〕~〔7〕のいずれかに記載の義歯用組成物。
〔9〕
噴霧剤、塗布剤又は拭取り剤である〔1〕~〔8〕のいずれかに記載の義歯用組成物。
〔10〕
義歯洗浄剤である〔1〕~〔9〕のいずれかに記載の義歯用組成物。
〔11〕
(A)グリセロリン酸カルシウムと、
(B)アルキルアミンオキシド及び/又は(C)カチオン性界面活性剤と
からなるデンチャーバイオフィルム形成抑制剤。
〔12〕
義歯用組成物用である〔11〕に記載のデンチャーバイオフィルム形成抑制剤。
本発明によれば、カンジダ菌殺菌力が高く、かつデンチャーバイオフィルム形成抑制効果が優れるデンチャーバイオフィルム形成抑制剤及びこれを含有する義歯用組成物を提供できる。本発明によれば、義歯表面におけるデンチャーバイオフィルム形成を効果的に抑制することで、義歯を極めて清潔に保ち、義歯装着に起因する口内炎等の口腔疾患を効果的に予防又は防止することができる。
以下、本発明につき更に詳述する。本発明では、(A)グリセロリン酸カルシウムと(B)アルキルアミンオキシド又は(C)カチオン性界面活性剤とが、デンチャーバイオフィルム形成抑制剤の有効成分であり、上記(A)、(B)及び(C)成分を有効成分とすることもできる。
(A)グリセロリン酸カルシウムは、(B)アルキルアミンオキシド又は(C)カチオン性界面活性剤と組み合わせることで、義歯表面に形成されるデンチャーバイオフィルム形成抑制作用を奏する。
(B)アルキルアミンオキシドは、カンジダ菌殺菌作用を有し、また、(A)成分と併用すると、デンチャーバイオフィルム形成抑制作用を奏する。
(B)成分は、アルキル基の炭素数が好ましくは10~18、より好ましくは12~16のアルキルアミンオキシド、特にアルキルジメチルアミンオキシドを用いることができる。例えば、ラウリルジメチルアミンオキシド等が挙げられる。
アルキルアミンオキシドは、市販品を使用し得る。具体的にラウリルジメチルアミンオキシドは、ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製の商品名;カデナックスDM12D-Wを用いることができる。
(C)カチオン性界面活性剤は、(A)成分と併用すると、デンチャーバイオフィルム形成抑制作用を奏する。また、(B)成分に(C)成分を併用して(A)成分と組み合わせると、デンチャーバイオフィルム形成抑制作用が増強し、前記作用効果がより優れる。
カチオン性界面活性剤は、例えば塩化セチルピリジニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化ベンザルコニウム等の第四級アンモニウム塩が挙げられる。これらは、殺菌作用も有する界面活性剤であり、1種又は2種以上を使用し得るが、特に塩化セチルピリジニウムが、殺菌効果が優れ、使用感の点からも好ましい。
本発明では、上記のように(A)、(B)、(C)成分が、デンチャーバイオフィルム形成抑制剤の有効成分である。この場合、(A)及び(B)成分、(A)及び(C)成分、あるいは(A)、(B)及び(C)成分のみからなるデンチャーバイオフィルム形成抑制剤として使用でき、これは義歯洗浄剤等の義歯用組成物用の有効成分として好適である。また、上記成分以外に、後述のように公知成分を更に配合し、上記成分をデンチャーバイオフィルム形成抑制の有効成分として含有する義歯用組成物として調製することもできる。
本発明の義歯用組成物において、(A)グリセロリン酸カルシウムの配合量は、好ましくは組成物全体の0.005%(質量%、以下同様)以上、特に0.01%以上、とりわけ0.05%以上である。上限は特に制限ないが、好ましくは2%以下、特に1%以下である。0.005%以上であると、十分なデンチャーバイオフィルム形成抑制効果が得られる。2%以下であると、製剤の低温安定性を十分に維持できる。
なお、特に義歯を処理するときの(A)成分の使用濃度(処理濃度)が1%以下であると、適用後に水で濯ぐ操作をしなくても、それ自身による苦味・渋味の発現を十分に防止し、味のよい使用感を与えることができる。
従って、(A)成分の義歯への使用濃度は好ましくは0.005~2%であり、より好ましくは0.01~1%、特に好ましくは0.05~1%である。
また、(B)アルキルアミンオキシドの配合量は、好ましくは組成物全体の0.05%以上、特に0.1%以上である。上限は特に制限ないが、好ましくは10%以下、特に1%以下である。0.05%以上であると、十分なデンチャーバイオフィルム形成抑制効果が得られる。10%以下であると、製剤の低温保存性を十分に維持できる。
なお、特に義歯を処理するときの(B)成分の使用濃度(処理濃度)が1%以下であると、適用後に水で濯ぐ操作をしなくても、それ自身による苦味・渋味の発現を十分に防止し、味のよい使用感を付与できる。
従って、(B)成分の義歯への使用濃度は好ましくは0.05~10%であり、より好ましくは0.1~1%である。
(C)カチオン性界面活性剤の配合量は、好ましくは組成物全体の0.005%以上、特に0.01%以上、とりわけ0.05%以上である。上限は特に制限ないが、好ましくは1%以下である。0.005%以上であると、十分なデンチャーバイオフィルム形成抑制効果が得られる。1%以下であると、製剤の低温保存性を十分に維持できる。
なお、特に義歯を処理するときの(C)成分の使用濃度(処理濃度)が1%以下であると、適用後に水で濯ぐ操作をしなくても、それ自身による苦味の発現を十分に防止し、味のよい使用感を与えることができる。
従って、(C)成分の義歯への使用濃度は好ましくは0.005~1%であり、より好ましくは0.01~1%であり、特に好ましくは0.05~1%である。
本発明の義歯用組成物は、特に義歯洗浄剤として好適である。製品としては、水溶液製剤、乳化液等の液体製剤、ペースト、クリーム等のゲル製剤、錠剤、粒状剤、粉末剤等の固体製剤といった様々な剤型に調製できるが、特に液体製剤が好ましい。また、各剤型に応じ、上記成分に加えてその他の添加成分を必要に応じて配合することができる。例えば、香料、溶剤、賦形剤、着色剤等が挙げられる。
香料は、アニス油、ユーカリ油、ウィンターグリーン油、カシア油、クローブ油、タイム油、セージ油、レモン油、オレンジ油、ハッカ油、カルダモン油、コリアンダー油、マンダリン油、ライム油、ラベンダー油、ローズマリー油、ローレル油、カモミル油、キャラウェイ油、マジョラム油、ベイ油、レモングラス油、オリガナム油、パインニードル油、シンナモンバーク油等の天然香料、及び、メントン、カルボン、エチルブチレート、バニリン、エチルマルトール、アネトール、サリチル酸メチル、シンナミックアルデヒド、シネオール、オイゲノール、エチルバニリン、マルトール、リモネン、シトロネロール、リナロール、リナリールアセテート、メンチルアセテート、ピネン、オクチルアルデヒド、シトラール、プレゴン、カルビールアセテート、アニスアルデヒド、ジンジャーオレオレジン、クレオソール、dl-カンファー等の単品香料、エチルアセテート、アリルシクロヘキサンプロピオネート、メチルアンスラニレート、エチルメチルフェニルグリシデート、ウンデカラクトン、ヘキサナール、エチルアルコール、プロピルアルコール、ブタノール、イソアミルアルコール等の単品香料や天然香料も含む各種調合香料が挙げられ、これら公知の香料を通常量で使用することができる。
溶剤は、通常、水(イオン交換水)が用いられるが、多価アルコールを5~20%程度、添加することもできる。賦形剤は、結晶セルロース、マルチトール、キシリトール等が挙げられる。
着色剤は、赤色2号、赤色3号、赤色225号、赤色226号、黄色4号、黄色5号、黄色205号、青色1号、青色2号、青色201号、青色204号、緑色3号等の法定色素、カラメル色素、ベニバナ色素、クチナシ色素、コチニール色素、アナトー色素、雲母チタン、酸化チタンが挙げられる。
本発明の義歯用組成物は、義歯洗浄剤用の配合成分として一般的な過炭酸ナトリウム、過ホウ酸ナトリウム等の過酸化物や、次亜塩素酸又はその塩等は、配合しなくてもよく、これらの配合量は0%でもよい。なお、これらを配合する場合は、それぞれの配合量が0.03%以下、特に0.01%以下が好ましい。
また、カンジダ菌以外の口腔内細菌に有効な非イオン性殺菌剤、例えばイソプロピルメチルフェノール等の殺菌剤は、本発明の効果を妨げない範囲で有効量添加してもよい。
義歯用組成物の25℃におけるpHは5~6.5が好ましい。この範囲内であると、十分な殺菌効果及びデンチャーバイオフィルム形成抑制効果が得られる。pH調整剤を添加してpH調整してもよい。pH調整剤としては、水酸化ナトリウム、塩酸、リン酸又はその塩、クエン酸又はその塩、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、ホウ酸又はその塩等が挙げられる。
本発明の義歯用組成物は、全部床義歯及び部分床義歯のいずれにも使用可能であり、口腔内に非装着状態の義歯用として好適である。また、使用方法は通常の方法を採用できる。具体的には、義歯用組成物をそのまま使用し、義歯に直接塗布、浸漬、噴霧等によって適用するか、又は義歯用組成物を必要に応じて水に分散及び/又は溶解し、更には希釈した水溶液に義歯を浸漬し、その後、義歯を必要に応じて水で濯ぐ操作を行って使用できる。この場合、義歯に適用するために分散及び/又は溶解し、更には希釈した、使用時の(A)、(B)、(C)成分量(濃度)がそれぞれ上記使用濃度の範囲内であることが好ましく、前記使用濃度を満たすための製剤成分量(濃度)と用法・用量に設計された、各種製剤に調製することができる。
例えば、上記各有効成分をそれぞれ上記適切濃度で含有する義歯用液体組成物をそのまま使用する原液タイプの液体製剤として調製できる。また、使用時に上記各有効成分が上記適切濃度になるように希釈して使用する濃縮タイプの液体製剤として調製することができる。なお、濃縮タイプの粉体、錠剤等の固体製剤として調製することも可能である。これら製剤は、それぞれに適した方法で使用し得るが、上記と同様にして液体の溶液で使用することが好ましい。
原液タイプの液体製剤は、例えば、義歯に直接使用するスプレー剤等の噴霧剤、ゲル剤等の塗布剤、含浸シート剤等の拭取り剤といった形態の義歯洗浄剤に調製し、噴霧や拭取りによる塗布によっても義歯表面に適用できる。適用後の義歯は、必要に応じて義歯を水で洗浄するが、適用後の義歯は洗浄しなくてもよい。
濃縮タイプの液体製剤は、例えば水道水、精製水等の水で希釈して得られる希釈液を義歯に適用し、適用後は必要に応じて義歯を水で洗浄してから口腔内に装着できる濃縮型義歯洗浄剤として使用できる。この場合、義歯洗浄剤の水による希釈倍率は、使用性及び溶解性の点から、義歯洗浄剤の10~100倍希釈が好ましい。この時、義歯に適用する希釈液中の各成分の濃度として、上記使用濃度(A)成分の濃度が好ましくは0.005%以上、より好ましくは0.01%以上、更に好ましくは0.05%以上、(B)成分を含有する場合、その濃度が好ましくは0.05%以上、より好ましくは0.1%以上、(C)成分を含有する場合、その濃度が好ましくは0.005%以上、より好ましくは0.01%以上、更に好ましくは0.05%以上となるように、濃縮製剤中の含有量と希釈倍率を設定することが、デンチャーバイオフィルム形成抑制効果の点でより好ましい。
濃縮型液体製剤の場合、義歯への適用、洗浄方法は、例えば、上記希釈液中に義歯を単に浸漬することができるが、超音波洗浄を併用してもよい。液体製剤は、分散性が高いことから、洗浄剤の洗浄機能を著しく高め得る超音波洗浄を併用した義歯洗浄に有効に利用できる。洗浄後は、義歯を取り出し、必要に応じて水で濯いでから装着することができる。また、希釈液を塗布剤、噴霧剤として使用することもできる。
以下、実施例及び比較例、更には処方例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。下記例中の%はいずれも質量百分率を示す。
[実施例、比較例]
表1~3に示す組成の義歯用組成物(原液タイプの液体義歯洗浄剤)を下記方法で調製し、これらをサンプルとして用いて下記方法で評価した。結果を表に併記した。
なお、実施例1の組成は、50℃で1ヶ月間保存後に物性変化がなく、安定性に優れていた。
使用した主原料を下記に示す。
(A)グリセロリン酸カルシウム:岩城製薬(株)製
(B)ラウリルジメチルアミンオキシド:ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製(商品名:カデナックスDM12D-W)
(C)塩化セチルピリジニウム:和光純薬工業(株)製
〈実験例1:カンジダ菌に対する殺菌力の評価〉
1.被検菌液の調製
カンジダ菌(Candida albicans ATCC10231)を、Difco社製のPotato Dextrose Agar培地(PDA培地)に、白金耳にて植菌し、25℃で24時間培養にて起菌した。増殖したコロニーを、白金耳を用いてPDA培地に植菌し、25℃で48時間前培養を行った後、増殖したコロニーを白金耳にて採取し、生理食塩水に懸濁させた。このとき、10倍希釈液の濁度がOD660nm=0.5(±0.1)になるように調整した。
2.被検サンプルの調製
常法で義歯用組成物を調製した。
3.殺菌力の評価方法
上記2にて調製したサンプル4mL中に、上記1にて調製した被検菌液0.1mLを添加し、ボルテックスにて混和後、室温にて5分間放置した。その後、上記混合液0.444mLをダイゴ社製のSCDLP液体培地4mLと混合し、反応を不活化させた(この段階で101希釈)。続いて、不活化培地にて10倍希釈系列を作製し、101、103、105希釈液を50μLずつPDA培地に塗抹し、25℃にて培養後生育したコロニー数をカウントし、生菌数(cfu/mL)を算出した。下記式によって対数減少値を求め、下記基準で殺菌力を評価した。対数減少値が高いほど殺菌力が高いと判断した。
対数減少値=
Log10(コントロール(水)の生菌数)-Log10(被検サンプルの生菌数)
カンジダ菌に対する殺菌力の評価基準
A:5分間の作用で対数減少値が3以上
B:5分間の作用で対数減少値が3未満
〈実験例2:カンジダバイオフィルム形成抑制効果の評価〉
1.被検菌液の調製
カンジダ菌(Candida albicans SC5314)を、Difco社製のYPD寒天培地に、白金耳にて植菌し、28℃で24時間培養にて起菌した。増殖したコロニーを、白金耳を用いてDifco社製のYPD液体培地に植菌し、28℃で24時間前培養、続いて28℃で24時間本培養を行った。その後、遠心にて培養液を除去し、1%ウシ胎児血清(FCS)含有RPMI 1640培地(Sigma-Aldrich社製)にて懸濁し、濁度(660nm)より、1.0×107CFU/mLに調製した。
2.被検サンプルの調製
常法で義歯用組成物を調製した。
3.カンジダバイオフィルム形成抑制効果の評価方法
歯科用レジン(アクロン No.5、クリアー、GC社製)を用いて10mm×10mmの正方形の試験片を作製し、24穴マルチプレート(住友ベークライト(株)製)の各ウェルに設置した。各ウェルに被験サンプル1mLを添加して5分間静置することで試験片表面をコーティングした後、リン酸緩衝生理食塩水(PBS、和光純薬工業(株)製)にて2回洗浄した。続いて、フィルター滅菌した安静時唾液に60分間浸漬して試験片表面の唾液コートを行った後、PBSにて1回洗浄した。唾液コート後、各ウェルにカンジダ菌懸濁液(1.0×107CFU/mL、1%FCS含有RPMI 1640培地)を1mL添加し、37℃で好気条件下にて24時間培養し、試験片上にカンジダバイオフィルムを形成させた。
形成させたモデルバイオフィルムをPBS(和光純薬工業(株)製)1mLで3回洗浄した後、4%パラホルムアルデヒド・リン酸緩衝液(和光純薬工業(株)製)にて15分間固定し、1mLのPBSにて3回洗浄した。0.1%クリスタルバイオレット(和光純薬工業(株)製)液を添加して15分間染色し、1mLのPBSにて3回洗浄した後、30%酢酸ナトリウムで15分間インキュベートすることで、バイオフィルムに付着したクリスタルバイオレットを抽出した。抽出液の吸光度を波長600nmで測定することで、バイオフィルム形成量(A600)を測定し、バイオフィルム形成抑制率を下記式にて算出した。被験サンプルの代わりにPBSを添加した以外は同様にして作製したバイオフィルムをコントロールとした。
バイオフィルム形成抑制率(%)=
{(コントロールのA600-サンプル処置後のA600)/コントロールのA600
}×100
カンジダバイオフィルム形成抑制率から、下記基準に従ってカンジダバイオフィルム形成抑制効果を評価した。この評価結果が優れるものを、デンチャーバイオフィルム形成抑制効果に優れると判断した。
カンジダバイオフィルム形成抑制効果の評価基準
S:バイオフィルム形成抑制率90%以上
A:バイオフィルム形成抑制率75%以上90%未満
B:バイオフィルム形成抑制率50%以上75%未満
C:バイオフィルム形成抑制率25%以上50%未満
D:バイオフィルム形成抑制率25%未満
Figure 0007124466000001
Figure 0007124466000002
Figure 0007124466000003
以下、処方例を示す。使用原料は上記と同様である。各処方例は、上記と同様の方法で評価したところ、カンジダ菌に対する殺菌力及びカンジダバイオフィルム形成抑制効果が優れていた。
[処方例1]濃縮型液体義歯洗浄剤(10~40倍希釈用)
(A)グリセロリン酸カルシウム 1%
(C)塩化セチルピリジニウム 0.5
グリセリン 10
ハッカ油 0.5
水 残
合計 100%
[処方例2]濃縮型液体義歯洗浄剤(10~40倍希釈用)
(A)グリセロリン酸カルシウム 1%
(B)ラウリルジメチルアミンオキシド 2
グリセリン 10
ハッカ油 0.5
水 残
合計 100%
[処方例3]濃縮型液体義歯洗浄剤(10~40倍希釈用)
(A)グリセロリン酸カルシウム 1%
(B)ラウリルジメチルアミンオキシド 2
(C)塩化セチルピリジニウム 0.5
グリセリン 10
ハッカ油 0.5
水 残
合計 100%
[処方例4]液体義歯スプレー剤
(A)グリセロリン酸カルシウム 0.05%
(B)ラウリルジメチルアミンオキシド 0.1
ハッカ油 0.025
水 残
合計 100%
[処方例5]濃縮型液体義歯洗浄剤(100倍希釈用、浸漬用)
(A)グリセロリン酸カルシウム 2(0.02)%
(B)ラウリルジメチルアミンオキシド 10(0.1)
グリセリン 10(0.1)
ハッカ油 5(0.05)
水 残
合計 100%
注;上記各成分の( )内の数値は希釈後濃度(使用時濃度)である(以下同様)。
[処方例6]濃縮型液体義歯洗浄剤(100倍希釈用、浸漬用)
(A)グリセロリン酸カルシウム 2(0.02)%
(B)ラウリルジメチルアミンオキシド 5(0.05)
(C)塩化セチルピリジニウム 0.5(0.005)
グリセリン 10(0.1)
ハッカ油 5(0.05)
水 残
合計 100%
[処方例7]粉末状義歯洗浄剤(100倍希釈用、浸漬用)
(A)グリセロリン酸カルシウム 2(0.02)%
(B)ラウリルジメチルアミンオキシド 5(0.05)
(C)塩化セチルピリジニウム 0.5(0.005)
メントール 1(0.01)
結晶セルロース 残
合計 100%

Claims (10)

  1. (A)グリセロリン酸カルシウムと、
    (B)アルキル基の炭素数が10~18のアルキルジメチルアミンオキシド及び/又は(C)塩化セチルピリジニウム、塩化ベンゼトニウム及び塩化ベンザルコニウムから選ばれる1種以上のカチオン性界面活性剤と
    を含有することを特徴とする義歯用組成物。
  2. (B)アルキル基の炭素数が10~18のアルキルジメチルアミンオキシドが、ラウリルジメチルアミンオキシドである請求項記載の義歯用組成物。
  3. (A)成分を0.005~2質量%含有する請求項1又は2記載の義歯用組成物。
  4. (B)成分を含有する場合、その含有量が0.05~10質量%であり、(C)成分を含有する場合、その含有量が0.005~1質量%である請求項1~のいずれか1項記載の義歯用組成物。
  5. 過酸化物及び次亜塩素酸の含有量が0~0.03質量%である請求項1~のいずれか1項記載の義歯用組成物。
  6. 液体製剤、ゲル製剤、これらの希釈液又は固体製剤であり、義歯処理時の(A)成分の濃度が0.005~2質量%であり、(B)成分を含有する場合はその濃度が0.05~10質量%であり、(C)成分を含有する場合はその濃度が0.005~1質量%である請求項1~のいずれか1項記載の義歯用組成物。
  7. 噴霧剤、塗布剤又は拭取り剤である請求項1~6のいずれか1項記載の義歯用組成物。
  8. 義歯洗浄剤である請求項1~7のいずれか1項記載の義歯用組成物。
  9. (A)グリセロリン酸カルシウムと、
    (B)アルキル基の炭素数が10~18のアルキルジメチルアミンオキシド及び/又は(C)塩化セチルピリジニウム、塩化ベンゼトニウム及び塩化ベンザルコニウムから選ばれる1種以上のカチオン性界面活性剤と
    からなるデンチャーバイオフィルム形成抑制剤。
  10. 義歯用組成物用である請求項記載のデンチャーバイオフィルム形成抑制剤。
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