本発明に係るガス拡散層の製造方法および製造装置を適用した第1実施形態および第2実施形態に係るガス拡散層11の製造方法および製造装置20について図面を参照して説明する。まず、第1実施形態および第2実施形態に係るガス拡散層11の構成および第1実施形態に係る製造装置20の構成について説明する。
第1実施形態および第2実施形態に係るガス拡散層11は、図1(a)、図1(b)に示すように、シート状の多孔質基材12と、多孔質基材12の一方の面である表面に塗工されたカーボンペースト13とにより構成されており、燃料電池のガス拡散層(GDL:Gas Diffusion Layer)を構成する。ガス拡散層11は、水素ガス(H2)や酸素ガス(O2)を拡散させて均一にし、触媒層に行き渡らせる機能を有している。
多孔質基材12は、ガス透過性および導電性を有する材料、例えば、カーボンペーパーやカーボン布などの炭素繊維や黒鉛繊維からなる多孔質の繊維基材であり、所定の幅および厚みを有するシートからなる。
カーボンペースト13は、所定の溶媒にポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などの撥水性材料およびカーボン粉末などの導電性材料を混合させて調製した粘性のある液体で構成されている。カーボンペースト13は、塗工後に乾燥および焼成されることで、多孔質基材12の表面に導電性を有する被膜を形成する。
(第1実施形態)
次いで、第1実施形態に係る製造装置20について図面を参照して説明する。製造装置20は、図2に示すように、多孔質基材12を搬送する搬送機構(搬送部)21と、多孔質基材12にカーボンペースト13を塗工する塗工機構(塗工部)22と、多孔質基材12に風として空気などの気体を吹き付ける送風機構(送風部)23と、各構成要素の動作を制御する図示しないコントローラ(制御部)とを備えている。
搬送機構21は、多孔質基材12の表面12aとは反対側の面である裏面12bと接触して多孔質基材12を搬送する複数のロールを備えており、図2に示すように、塗工機構22と対向して配置されたバックロール31と、バックロール31に対して重力方向の上方に配置された搬送ロール32とを備えている。搬送機構21は、コントローラに接続されており、コントローラにより動作が制御されるように構成されている。
搬送機構21は、多孔質基材12の裏面12bに接触するバックロール31と、バックロール31の下流側で多孔質基材12の裏面12bに接触する搬送ロール32とを有している。バックロール31は、塗工機構22によりカーボンペースト13を塗工する前と塗工した後とで多孔質基材12を搬送する方向を異ならせるロールである。バックロール31は、多孔質基材12の表面12aと裏面12bが重力方向下側と重力方向上側に位置するように水平に供給される多孔質基材12を重力方向上方に向かって方向転換させて垂直に搬送させ、搬送ロール32は、バックロール31に対して重力方向上側に離間した位置に配置されており、バックロール31から垂直に搬送される多孔質基材12をバックロール31に多孔質基材12が供給される方向とは反対の方向に向かって方向転換させて水平に搬送させるように構成されている。
搬送機構21における、多孔質基材12の搬送速度(m/sec)および張力(N)は、多孔質基材12の大きさ、構造、および材質、並びに送風機構23から送風される送風温度(℃)および風量(m3/min)などの設定諸元および実験値やデータに基づいて適宜選択される。
塗工機構22は、塗工ヘッド41を備えた公知の塗工機構で構成されている。公知の塗工機構は、例えば、塗工ヘッド41を移動させる図示しない移動機構と、カーボンペースト13が供給される供給管を接続する接続部とを備えている。塗工機構22は、コントローラに接続されており、コントローラにより動作が制御されるように構成されている。
塗工ヘッド41は、例えば、多孔質基材12の搬送方向の上流側に位置する上流側リップと、搬送方向の下流側に位置する下流側リップと、上流側リップ及び下流側リップの間でカーボンペースト13を貯溜する貯溜部と、貯溜部にカーボンペースト13を流通させる流路とを備えている。
貯溜部の上部には、カーボンペースト13の液面が露出しており、カーボンペースト13の液面に多孔質基材12を接触させて通過させることで多孔質基材12の表面12aにカーボンペースト13が塗工されるようになっている。なお、貯溜部は上流側リップと下流側リップとの間から、カーボンペースト13を吐出させて多孔質基材12の表面12aにカーボンペースト13を塗工する吐出口であってもよい。
塗工ヘッド41は、多孔質基材12を挟んでバックロール31と対向する側に配置されており、第1実施形態では図3に示すように、バックロール31に対して重力方向下側に配置されている。バックロール31と塗工ヘッド41との間には、バックロール31の外周面と、貯溜部の液面または吐出口との間の隙間からなる塗工ギャップGが形成されている。
塗工ヘッド41は、移動機構によりバックロール31に対して相対的に接近または離間する方向に移動することで塗工ギャップGを調整し、多孔質基材12の表面12aに塗工するカーボンペースト13の塗工量を調整できるようになっている。この構成により、搬送されている多孔質基材12の表面12aに所定量のカーボンペースト13を塗工することができる。
なお、多孔質基材12の表面12aに塗工されるカーボンペースト13の塗工量は、多孔質基材12の大きさ、構造、材質、および搬送速度、並びにカーボンペースト13の特質などの設定諸元および実験値やデータに基づいて適宜選択される。
送風機構23は、バックロール31と搬送ロール32の間に配置されており、垂直に移動する多孔質基材12の裏面に対して所定距離だけ離間した位置に対向して配置される送風機42を有している。送風機42は、多孔質基材12に向けて送風する公知の送風機からなり、図3に示すように送風機構の送風の吹き出し口23aから多孔質基材12の裏面12bまでの間隔L(mm)、送風温度(℃)および風量(m3/min)のうち少なくとも何れか1つを調整することができるようになっている。送風機構23は、図示しない間隔調整部、送風温度調整部、風量調整部を備えており、コントローラに接続されコントローラにより各部の動作が制御される。
なお、送風機構23における間隔L(mm)、送風温度(℃)および風量(m3/min)は、多孔質基材12の大きさ、構造、および材質、並びにカーボンペースト13の特質などの設定諸元および実験値やデータに基づいて適宜選択される。
コントローラは、演算処理を行う中央処理装置および制御プログラムを格納したメモリを備え、搬送機構21、塗工機構22および送風機構23に接続されており、各構成要素の動作を制御するように構成されている。
次いで、第1実施形態に係るガス拡散層11の製造方法について図面を参照して説明する。ガス拡散層11の製造方法は、図4の製造工程に示すように、搬送工程と、塗工工程と、送風工程とを含んで構成されており、各工程は順に行われる。
搬送工程においては、図2に示すように、搬送機構21により、供給工程などの前工程から供給された多孔質基材12が重力方向に直交する水平方向に搬送され、バックロール31によって略直角に方向転換が行われて重力方向上方に向かって垂直に搬送される。さらにバックロール31から搬送された多孔質基材12は、搬送ロール32で略直角に方向転換が行われて、供給工程から供給された多孔質基材12の搬送方向とは逆方向の搬送方向に搬送され、多孔質基材12は乾燥や焼成などの次工程に向けて送り出される(ステップS1)。
搬送工程においては、多孔質基材12の大きさ、構造、および材質、並びに送風機42から送風される送風温度(℃)および風量(m3/min)などの設定諸元および実験値やデータに応じて、多孔質基材12の搬送速度(m/sec)および張力(N)が選択される。搬送機構21における多孔質基材12の搬送速度および張力は、コントローラにより制御される。
塗工工程においては、塗工機構22により、搬送されている多孔質基材12の表面12aにカーボンペースト13が塗工される(ステップS2)。具体的には、流路を介して供給され、上流側リップと下流側リップとの間の貯溜部に貯溜された液状のカーボンペースト13の液面に多孔質基材12を接触させることで多孔質基材12の表面12aにカーボンペースト13を塗工する。
多孔質基材12を挟んでバックロール31と対向する側に配置された塗工ヘッド41は、移動機構によりバックロール31に対して相対的に移動することで、多孔質基材12の表面12aに塗工されるカーボンペースト13の塗工量が調整される。塗工機構22は、コントローラに接続されコントローラにより、塗工ヘッド41の移動機構などの各構成要素の動作が制御される。
送風工程においては、図3に示すように、送風機構23が、多孔質基材12に応じて、送風の吹き出し口23aから多孔質基材12の裏面12bまでの最適な間隔L(mm)にセットされる。さらに、送風機構23における最適な送風温度(℃)および風量(m3/min)にセットされる。最適値がセットされた状態で、吹き出し口23aから多孔質基材12の裏面12bに対して気体である空気が吹き付けられる(ステップS3)。
コントローラの制御に基づいて、最適な間隔Lは、送風機構23の間隔調整部により調整され、最適な送風温度は、送風機構23の送風温度調整部により調整され、最適な風量は、送風機構23の風量調整部により調整される。最適な間隔L、最適な送風温度および風量は、多孔質基材12の大きさ、構造、および材質、並びにカーボンペースト13の特質などの設定諸元および実験値やデータに基づいて適宜選択される。
第1実施形態に係るガス拡散層11の製造方法および製造装置20により、作製したガス拡散層11について、カーボンペースト13が塗工された多孔質基材12の裏面12bへの染み込みの状態を観察し、ガス拡散層11の不良率、即ちNG率を検証した。
NG率は、作製したガス拡散層11の全数に対して、多孔質基材12の表面12aに塗工したカーボンペースト13が、多孔質基材12の内部を突き抜けて多孔質基材12の裏面12bまで染み込み、多孔質基材12の孔を閉塞する、いわゆる裏抜けが発生し、不良品とされたガス拡散層11の数の割合を意味する。即ち、NG率は、NG率=不良品の数/完成品の全数で表される。
なお、不良品とされる基準を示す検査規格は、面内付着面積9mm2以下とした。即ち、多孔質基材12の裏面12bにおいて、裏抜けが発生しカーボンペースト13が裏面12bに付着している面積を意味する面内付着面積が9mm2以下のものは合格、面内付着面積が9mm2を超えるものを不合格とした。また、NG率は、は0.2%以下を目標とした。以下、検証内容について説明する。
検証の対象となるガス拡散層11は、第1実施形態に係るガス拡散層11の製造方法および製造装置20により作製した。ガス拡散層11を構成する多孔質基材12は、厚さを100μm~200μm、密度を300mg/cm3~450mg/cm3とした。多孔質基材12の表面12aに塗工するカーボンペースト13は、粘度が200mPa・s~600mPa・sであって、カーボン粉末などの導電性材料からなる固形分が12%~15%のものを使用した。
塗工機構22によるカーボンペースト13の多孔質基材12への塗工は下記の条件で実施した。塗工速度、即ち搬送機構21による多孔質基材12の搬送速度は、10m/min、図3に示す塗工ギャップGは、250μm~350μm、多孔質基材12の表面12aに塗工されるカーボンペースト13の単位面積当たりの重量、即ち塗工目付は、3mg/cm2~4mg/cm2、搬送機構21による多孔質基材12の搬送張力は、60Nでそれぞれ実施した。
なお、塗工速度(m/min)と、塗工が可能なカーボンペースト13の粘度との関係、即ち、塗工速度と塗工可能ペースト粘度領域との関係は、図5のグラフで表される。グラフに示されるように、塗工速度が10m/minの場合、塗工可能ペースト粘度領域は、200mPa・s~600mPa・sとなっている。グラフに示されるように、塗工速度が高まるほど、塗工可能ペースト粘度領域の幅が狭くなるとともに、粘度自体も低くなる関係にある。
送風機構23による多孔質基材12の裏面12bへの送風は下記の条件で実施した。即ち、送風無しと、送風有り(送風有りの場合は、送風温度(℃)が50℃、100℃、150℃、200℃、250℃)でそれぞれ送風を実施した。
以下、送風温度に対する多孔質基材12の裏面12bの外観の検査規格に対するNG率を求めた。外観検査は、CCD(Charge-Coupled Device)イメージセンサやCMOS(Complementary metal-oxide-semiconductor)イメージセンサなどの撮像素子で構成された公知の表面観察カメラでなどで多孔質基材12の裏面12bを撮像することで行った。なお、多孔質基材12の裏面12bの外観の検査をすることができる機器であれば、表面観察カメラ以外の外観検査機器であってもよい。
図6に示すように、★で表される送風無しの場合は、NG率が9%であり、目標の0.2%を満たさなかった。送風温度が50℃の場合は、NG率が7%であり、目標の0.2%を満たさなかった。送風温度が100℃の場合は、NG率が3%であり、目標の0.2%を満たさなかった。送風温度が150℃の場合は、NG率が0.2%であり、目標の0.2%を満たした。送風温度が200℃および250℃の場合は、NG率が0.1%程度であり、目標の0.2%を満たした。
したがって、送風温度が150℃、200℃および250℃の場合、即ち送風温度が150℃以上であって250℃以下の場合は、NG率が0.2%以下であり、目標の0.2%を満たすことが分かった。
なお、カーボンペースト13の粘度(mPa・s)が低いほど、流動性があり、多孔質基材12の表面12aに塗工したカーボンペースト13が裏面12bに染み込み易く、裏抜けし易くなる。本検証では、カーボンペースト13における塗工可能ペースト粘度領域を、比較的に低粘度の200mPa・s~600mPa・sとしており、第1実施形態に係るガス拡散層11の製造方法および製造装置20において、カーボンペースト13が比較的に低粘度であっても、目標のNG率0.2%を満たすことが確認された。
本検証に係るガス拡散層11においては、カーボンペースト13を比較的に低粘度の200mPa・s~600mPa・sとすることができ、10m/minという高速塗工で実施しても、目標のNG率0.2%を満たすことが確認され、高速塗工による生産性アップが可能となることが確認された。
以上のように構成された第1実施形態に係るガス拡散層11の製造方法および製造装置20の効果について説明する。
(1)第1実施形態に係るガス拡散層11の製造方法は、多孔質基材12を搬送する搬送工程(ステップS1)と、搬送中の多孔質基材12の表面12aにカーボンペースト13を塗工する塗工工程(ステップS2)と、カーボンペースト13が塗工された裏面12bに空気を吹き付ける送風工程(ステップS3)とを含んで構成されている。
この構成により、搬送工程で多孔質基材12が搬送され、塗工工程で、搬送中の多孔質基材12の表面12aにカーボンペースト13が塗工され、カーボンペースト13の塗工後に、送風工程で、カーボンペースト13が塗工された裏面12bに空気が吹き付けられる。
多孔質基材12の表面12aに塗工されたカーボンペースト13は、毛細管作用によって表面12aから多孔質基材12の内部に染み込む。しかし、送風工程により多孔質基材12の裏面12bに空気が吹き付けられているので、カーボンペースト13は染み込む方向と逆方向の力を受けて染み込む方向に移動しにくくなるとともに、多孔質基材12の裏面12b側からカーボンペーストの乾燥が促進されて、多孔質基材12への染み込みが抑制される。したがって、カーボンペースト13の染み込みを多孔質基材12の内部の適切な位置で止めることができ、カーボンペースト13が多孔質基材12を突き抜けて多孔質基材12の裏面12bまで染み込んでしまうのを抑制し、カーボンペースト13により多孔質基材12の孔が閉塞されるのを防ぐことができるという効果が得られる。
(2)第1実施形態に係るガス拡散層11の製造方法は、多孔質基材12の裏面12bにロール31、32を接触させて多孔質基材12を移動させる搬送工程(S1)を含み、搬送工程(S1)により移動中の多孔質基材12に対して塗工工程(S2)と送風工程(S3)を行う。この構成により、多孔質基材12の表面12aへの塗工及び裏面12bへの空気の吹きつけを、多孔質基材12を移動させながら行うので、ガス拡散層11の製造を簡単かつ短時間で行うことができるという効果が得られる。
(3)第1実施形態に係るガス拡散層11の製造方法は、搬送工程(S1)では、多孔質基材12の少なくとも一部において表面12aと裏面12bが重力方向下側と重力方向上側に位置するように多孔質基材12を搬送させ、塗工工程(S2)では、重力方向下側に位置する多孔質基材12の表面12aに対して塗工を行う。
この構成により、多孔質基材12の表面12aに塗工されたカーボンペースト13には重力が作用し、多孔質基材12の内部に染み込む方向と逆方向の力を受けて染み込む方向に移動しにくくなり、多孔質基材12への染み込みが抑制される。したがって、カーボンペースト13の染み込みを多孔質基材12の内部の適切な位置で止めることができ、カーボンペースト13が多孔質基材12を突き抜けて多孔質基材12の裏面12bまで染み込んでしまうのを抑制し、カーボンペースト13により多孔質基材12の孔が閉塞されるのを防ぐことができるという効果が得られる。
(4)第1実施形態に係るガス拡散層11の製造方法は、搬送工程(S1)では、多孔質基材12の表面12aと裏面12bとが重力方向下側と重力方向上側に位置するように多孔質基材12を水平に搬送させ、水平状態から重力方向上方に向かって方向転換させて多孔質基材12を垂直に搬送させ、塗工工程(S2)では、水平搬送中の多孔質基材12の表面12aに塗工を行い、送風工程(S3)では、垂直搬送中の多孔質基材12の裏面12bに対して空気を吹き付ける。この構成により、搬送工程(S1)、塗工工程(S2)および送風工程(S3)を垂直方向に重ねて配置することができる。したがって、各工程を水平に並べた場合と比較して、装置全体の大きさを小さくすることができる。即ち、これらの全工程を行うために占有される装置全体の平面が小さくなる。
(5)第1実施形態に係るガス拡散層11の製造装置は、多孔質基材12を搬送させる搬送機構21と、搬送機構21によって搬送中の多孔質基材12に対して多孔質基材12の表面12aにカーボンペースト13を塗工する塗工機構22と、塗工機構22により表面12aにカーボンペースト13が塗工された多孔質基材12に対して、多孔質基材12の裏面12bに空気を吹き付ける送風機構23を有する。
この構成により、塗工ヘッド41から多孔質基材12の表面12aに塗工されたカーボンペースト13は、毛細管作用によって表面12aから多孔質基材12の内部に染み込むが、送風機構23により多孔質基材12の裏面12bに空気が吹き付けられているので、カーボンペースト13は染み込む方向と逆方向の力を受けて染み込む方向に移動しにくくなるとともに、多孔質基材12の裏面12b側からカーボンペースト13の乾燥が促進されて、多孔質基材12への染み込みが抑制される。したがって、カーボンペースト13の染み込みを多孔質基材12の内部の適切な位置で止めることができ、カーボンペースト13が多孔質基材12を突き抜けて多孔質基材12の裏面12bまで染み込んでしまうのを抑制し、カーボンペースト13により多孔質基材12の孔が閉塞されるのを防ぐことができるという効果が得られる。
(6)第1実施形態に係るガス拡散層11の製造装置は、搬送機構21が、多孔質基材12の裏面12bに接触するバックロール31と、バックロール31の下流側で多孔質基材12の裏面12bに接触する搬送ロール32とを有し、塗工機構22は、多孔質基材12を間に介してバックロール31に対向する位置に配置される塗工ヘッド41を有し、送風機構23は、バックロール31と搬送ロール32との間の位置で多孔質基材12の裏面12bに対向して配置される送風機を有する。この構成により、多孔質基材12の裏面12bにバックロール31と搬送ロール32を接触させて多孔質基材12をバックロール31から搬送ロール32に搬送し、多孔質基材12を間に介してバックロール31に対向する塗工ヘッド41によって多孔質基材12の表面にカーボンペースト13を塗工し、バックロール31と搬送ロール32の間の位置で多孔質基材12の裏面12bに空気を吹き付ける。
したがって、塗工ヘッド41により多孔質基材12の表面12aにカーボンペースト13が塗工されて、毛細管作用によって多孔質基材12の表面12aから内部に染み込む際に、多孔質基材12の裏面12bに空気が吹き付けられているので、カーボンペースト13は染み込む方向と逆方向の力を受けて染み込む方向に移動しにくくなるとともに、多孔質基材12の裏面12b側からカーボンペースト13の乾燥が促進されて、多孔質基材12への染み込みが抑制される。したがって、カーボンペースト13の染み込みを多孔質基材12の内部の適切な位置で止めることができ、カーボンペースト13が多孔質基材12を突き抜けて多孔質基材12の裏面まで染み込んでしまうのを抑制し、カーボンペースト13により多孔質基材12の孔が閉塞されるのを防ぐことができる。
(7)第1実施形態に係るガス拡散層の製造装置は、バックロール31が、多孔質基材12の表面12aと裏面12bが重力方向下側と重力方向上側に位置するように水平に供給される多孔質基材12を重力方向上方に向かって方向転換させて垂直に搬送させ、搬送ロール32が、バックロール31に対して重力方向上側に離間した位置に配置されて、バックロール31から垂直に搬送される多孔質基材12をバックロール31に多孔質基材12が供給される方向とは反対の方向に向かって方向転換させて水平に搬送させ、塗工ヘッド41は、バックロール31に対して重力方向下側に配置され、送風機構23は、バックロール31と搬送ロール32との間に配置されていることを特徴とする。
この構成により、塗工ヘッド41、バックロール31、送風機構23および搬送ロール32を重力方向に沿って並べて配置することができる。したがって、これらの各構成を水平に並べた場合と比較して、装置全体の水平方向の大きさを小さくすることができる。即ち、これらの全工程を行うために占有される装置全体の平面が小さくなる。
(8)第1実施形態に係るガス拡散層の製造装置は、送風機構23の吹き出し口から多孔質基材12の裏面12bまでの間隔、送風温度および風量のうちの少なくとも1つを調整する制御部を有する。この構成により、送風機構23の吹き出し口から多孔質基材12の裏面12bまでの間隔、送風温度および風量のうち少なくとも何れか1つが調整されるので、最適な条件で多孔質基材12の裏面12bに空気を吹き付けることができ、カーボンペースト13が多孔質基材12の裏面12bまで染み込むのをより確実に抑制できる。
(9)第1実施形態に係るガス拡散層の製造装置は、搬送機構21は、塗工機構22によりカーボンペースト13を塗工する前と塗工した後とで多孔質基材12を搬送する方向を異ならせるロールであるバックロール31を有する。この構成により、装置全体の水平方向の大きさを小さくすることができ、装置を載置する平面を小さくすることができる。
なお、第1実施形態に係るガス拡散層11の製造装置20は、図2に示すように、搬送機構21の搬送ロール32がバックロール31に対して重力方向で上方に配置された構造で構成した場合について説明した。本発明に係るガス拡散層の製造装置においては、搬送機構の搬送ロールがバックロールに対して重力方向で上方に配置された構造以外の構造で構成するようにしてもよい。
以下、搬送機構の搬送ロールがバックロールに対して重力方向で上方に配置された構造以外の構造で構成した変形例に係るガス拡散層11の製造装置20Aについて図面を参照してそれぞれ説明する。
変形例に係るガス拡散層11の製造装置20Aは、図7に示すように、第1実施形態と同様に、搬送機構21A、塗工機構22および送風機構23を備えており、搬送機構21Aは、バックロール31および搬送ロール32により構成されている。バックロール31は、紙面に向かって左側に配置され、搬送ロール32は、矢印で示す搬送方向に対してバックロール31の水平方向下流側に配置されている。この構成により、供給機構から供給された多孔質基材12は、水平方向に搬送される。
塗工機構22は、多孔質基材12を挟んでバックロール31に対して重力方向で上方に配置されており、送風機構23は多孔質基材12に対して重力方向で下方に配置されている。送風機構23は、多孔質基材12の下方から裏面12bに送風するように構成されている。
変形例に係るガス拡散層11の製造装置20Aにおいても、製造装置20Aの配置スペースが長くなるものの、第1実施形態に係るガス拡散層11の製造装置20と同様の効果が得られる。即ち、多孔質基材12の表面12aに塗工したカーボンペースト13が、多孔質基材12の裏面12bに染み込むことがなく、多孔質基材12の孔を閉塞することがないという効果が得られる。
なお、第1実施形態に係るガス拡散層11の製造装置20の製造方法においては、送風機構23をバックロール31と搬送ロール32の間に配置した構造で構成した場合について説明した。しかしながら、本発明に係るガス拡散層の製造装置においては、送風機構23をバックロール31と搬送ロール32の間に配置した構造以外の構造で構成するようにしてもよい。
例えば、本発明に係るガス拡散層の製造装置の送風機構について、塗工が行われている多孔質基材の表面とは反対側の裏面に向けてバックロールの内部から風として空気を吹き付ける構造で構成してもよい。
以下、本発明に係るガス拡散層の製造装置の送風機構をバックロールの内部から塗工が行われている多孔質基材の表面とは反対側の裏面に向けて空気を吹き付ける構造で構成した第2実施形態に係るガス拡散層11の製造装置20Bについて図面を参照して説明する。
(第2実施形態)
第2実施形態に係るガス拡散層11の製造装置20Bは、図8(a)および図8(b)に示すように、帯状の多孔質基材12を搬送する搬送機構(搬送部)21Bと、多孔質基材12の表面12aにカーボンペースト13を塗工する塗工機構(塗工部)22Bと、多孔質基材12の裏面12bに空気を吹き付ける送風機構(送風部)23Bと、焼成炉24と、各構成要素の動作を制御する図示しないコントローラ(制御部)とを備えている。なお、カーボンペースト13は、マイクロポーラス(MPL:Micro Porous Layer)ペーストであってもよい。
搬送機構21Bは、巻出機構51と、巻取機構52と、搬送ロール53、54、55と、バックロール56とを備えている。搬送機構21Bは、コントローラに接続されており、コントローラにより動作が制御されるようになっている。
巻出機構51は、図示しない駆動機構に連結されており、ロール状に巻かれた多孔質基材12を巻き出して搬送ロール53に向けて送り出す構成を有している。巻取機構52は、図示しない駆動機構に連結されており、塗工機構(塗工部)22Bにより、多孔質基材12の表面12aにカーボンペースト13が塗工され、焼成炉24により焼成処理が行われて形成された帯状のガス拡散層11を巻き取る構成を有している。
搬送ロール53および搬送ロール54は、巻出機構51とバックロール56との間にそれぞれ設置されており、多孔質基材12の搬送方向を約180度転換し、巻出機構51からバックロール56に向けて多孔質基材12を案内する構成を有している。
搬送ロール55は、バックロール31に対して重力方向の上方に離間して配置されている。搬送ロール55は、バックロール56から垂直に送り出された塗工済の多孔質基材12を、バックロール56に多孔質基材12が供給される方向とは反対の方向に向かって方向転換させ、焼成炉24に向けて水平に多孔質基材12を搬送させる構成を有している。
バックロール56は、図8(b)および図9(a)に示すように、塗工機構22Bと対向して配置されており、塗工機構22Bによりカーボンペースト13を塗工する前と塗工した後とで多孔質基材12を搬送する方向を異ならせるように搬送する構造を有している。具体的には、バックロール56は、多孔質基材12の表面12aと裏面12bが重力方向下側と重力方向上側に位置するように水平に供給される多孔質基材12を重力方向上方に向かって方向転換させて垂直に搬送させるように構成されている。
バックロール56は、所定の厚みの壁56aを有する中空の円筒からなり、軸方向の一端部が閉止され、他端部が送風機構23Bに連結されている。また、バックロール56は、他端部で図示しない駆動機構に連結されており、駆動機構により回転駆動されるようになっている。
バックロール56は、送風機構23Bから供給される空気を内部に取り込み、図10(a)および図10(b)に示すように、壁56aを貫通してバックロール56の外周面に開口する複数の吹き出し口(開口部)56bから空気を吹き出させて、多孔質基材12の裏面12bに対して空気を吹き付けるように構成されている。
複数の吹き出し口56bは、バックロール56の外周面の360度の全範囲に亘って均等な間隔に位置するように形成されている。本実施形態におけるバックロール56は、多孔質基材12が外周面に接触した状態で多孔質基材12と共に回転するので、多孔質基材12との間に摩耗は発生しない。
バックロール56は、前述のように、所定の厚みの壁56aを有する中空の円筒からなり、軸方向の一端部が閉止され、他端部で送風機構23Bに連結され、かつ壁56aを貫通するように設けられた複数の吹き出し口56bから多孔質基材12の裏面12bに対して空気を吹き出すように構成されていれば、回転しないものであってもよく、回転するものであってもよい。
バックロール56は、例えば、回転しないものとして、図9(b)に示すようなエアターンバーであってもよく、回転するものとして、図9(c)に示すようなサクションロールであってもよい。エアターンバーは、横断面が半円形状または半楕円形状で、軸方向の両端にフランジが固定され、片側または両側に圧縮空気供給を供給する継手が連結されている。エアターンバーは、外周面に複数の貫通孔が形成されており、貫通孔からエアーが吐出されるように構成されている。サクションロールは、中空の円筒で形成され、外周面に複数の貫通孔が形成されている。サクションロールは片側または両側に連結されたサクションボックスにより内部を吸引する構造となっているが、逆に、サクションボックスから空気を供給し、外周面に形成された貫通孔から空気を吐出させることもできるので、バッククロールとして使用することができる。
また、バックロール56は、ロール形状以外の構造、例えば平面形状のものであってもよい。平面形状の構造の場合、多孔質基材12の表面12aが、塗工機構22Bに貯溜されているカーボンペースト13の液面に接触する長さ、即ち接触長を長くすることができるので塗工の安定化を図ることができる。
搬送機構21Bにおける、多孔質基材12の搬送速度(m/sec)および張力(N)は、多孔質基材12の大きさ、構造、および材質、並びに送風機構23から送風される送風温度(℃)および風量(m3/min)などの設定諸元および実験値やデータに基づいて適宜選択される。
塗工機構22Bは、塗工ヘッド41Bを備えた塗工機構で構成されている。塗工機構22Bは、例えば、塗工ヘッド41Bを移動させる図示しない移動機構と、カーボンペースト13が供給される供給管を接続する接続部とを備えている。塗工機構22Bは、コントローラに接続されており、コントローラにより動作が制御されるようになっている。
塗工ヘッド41Bは、図10(a)に示すように、多孔質基材12の搬送方向の上流側に位置する上流側リップ61と、搬送方向の下流側に位置する下流側リップ62と、上流側リップ61及び下流側リップ62の間でカーボンペースト13を貯溜する貯溜部63と、貯溜部63にカーボンペースト13を流通させる流路64とを備えている。
貯溜部63の上部には、カーボンペースト13の液面が露出しており、カーボンペースト13の液面に多孔質基材12を接触させて通過させることで多孔質基材12の表面12aにカーボンペースト13が塗工されるようになっている。なお、貯溜部63は上流側リップ61と下流側リップ62との間から、カーボンペースト13を吐出させて多孔質基材12の表面12aにカーボンペースト13を塗工する吐出口であってもよい。
塗工ヘッド41Bは、多孔質基材12を挟んでバックロール31と対向する側に配置されており、第2実施形態では図8に示すように、バックロール56に対して重力方向下側に配置されている。バックロール56と塗工ヘッド41Bとの間には、図10(a)および図10(b)に示すように、バックロール56の外周面と、下流側リップ62との間の隙間からなる塗工ギャップGが形成されている。
塗工ヘッド41Bは、移動機構によりバックロール56に対して相対的に接近または離間する方向に移動することで、バックロール56の外周面と下流側リップ62との間の塗工ギャップGを調整し、多孔質基材12の表面12aに塗工するカーボンペースト13の塗工圧を調整することができる。上流側リップ61は、バックロール56に接近または離間する方向に移動することによってカーボンペースト13の塗工量を増減調整できるようになっている。この構成により、搬送されている多孔質基材12の表面12aに所定量のカーボンペースト13を所定の塗工圧で塗工することができる。
なお、多孔質基材12の表面12aに塗工されるカーボンペースト13の塗工量は、多孔質基材12の大きさ、構造、材質、および搬送速度、並びにカーボンペースト13の特質などの設定諸元および実験値やデータに基づいて適宜選択される。
送風機構23Bは、図9(a)に示すように、空気供給管71と、図示しない空気供給機構とにより構成されている。空気供給管71の一端はバックロール56の他端部と空気供給機構とを接続しており、空気供給機構から供給される空気をバックロール56の内部に供給するように構成されている。
空気供給機構は、空気供給管71を介して、バックロール56内に空気を供給し、バックロール56の複数の吹き出し口56bから空気を吹き出すように構成されている。バックロール56内に供給される空気の温度(℃)および供給量(m3/min)のうち少なくとも何れか1つを調整することができるようになっている。送風機構23Bは、図示しない空気温度調整部、供給量調整部を備えており、コントローラにより各部の動作が制御される。
なお、送風機構23Bにおける空気の温度(℃)および供給量(m3/min)は、多孔質基材12の大きさ、構造、および材質、並びにカーボンペースト13の特質などの設定諸元および実験値やデータに基づいて適宜選択される。
コントローラは、演算処理を行う中央処理装置および制御プログラムを格納したメモリを備え、搬送機構21B、塗工機構22Bおよび送風機構23Bに接続されており、各構成要素の動作を制御する。
焼成炉24は、搬送機構21Bで搬送中に、塗工機構22Bによる塗工済の多孔質基材12を加熱することによって、塗工済の多孔質基材12に対して、乾燥および焼成処理を行うように構成されている。多孔質基材12が焼成炉24により乾燥および焼成処理されてガス拡散層11が作製される。
次いで、第2実施形態に係るガス拡散層11の製造方法について図面を参照して説明する。第2実施形態に係るガス拡散層11の製造方法は、第1実施形態に係るガス拡散層11の製造方法と同様に行われるので、図4に示す工程図を参照して説明する。第2実施形態に係るガス拡散層11の製造方法は、図4の製造工程に示すように、搬送工程と、塗工工程と、送風工程とを含んで構成されており、各工程は順に行われる。
搬送工程においては、図8(a)に示すように、巻出機構51への多孔質基材12のセットや、巻取機構52へのガス拡散層11のセットなどの前工程を経て、巻出機構51から多孔質基材12が巻き出され、重力方向に直交する水平方向への搬送が開始される。多孔質基材12は、搬送ロール53、54を介して、方向転換が行われバックロール56に向けて搬送される。
多孔質基材12は、バックロール56によって略直角に方向転換が行われて重力方向上方に向かって垂直に搬送される。さらにバックロール56から搬送された多孔質基材12は、搬送ロール55で略直角に方向転換が行われて、巻出機構51から巻き出された多孔質基材12の搬送方向と同じ方向に搬送され、多孔質基材12は焼成炉24を通過してガス拡散層11となり、巻取機構52に搬送される(ステップS1)。
搬送工程においては、多孔質基材12の大きさ、構造、および材質、並びに送風機構23Bから供給される空気の温度(℃)および供給量(m3/min)などの設定諸元および実験値やデータに応じて、多孔質基材12の搬送速度(m/sec)および張力(N)が選択される。搬送機構21Bにおける多孔質基材12の搬送速度および張力は、コントローラにより制御される。
塗工工程においては、塗工機構22Bにより、搬送されている多孔質基材12の表面12aにカーボンペースト13が塗工される(ステップS2)。具体的には、流路64を介して供給され、上流側リップ61と下流側リップ62との間の貯溜部63に貯溜された液状のカーボンペースト13の液面に多孔質基材12を接触させることで多孔質基材12の表面12aにカーボンペースト13を塗工する。
多孔質基材12を挟んでバックロール56と対向する側に配置された塗工ヘッド41Bは、移動機構によりバックロール56に対して相対的に接近または離間する方向に移動することで、下流側リップ62とバックロール56との間の塗工ギャップGを調整し、多孔質基材12の表面12aに塗工されるカーボンペースト13の塗工圧を調整する。そして、上流側リップ61をバックロール56に相対的に接近または離間する方向に移動することで多孔質基材12の表面12aに塗工されるカーボンペースト13の塗工量を調整する。塗工機構22Bは、コントローラに接続されコントローラにより、塗工ヘッド41Bの移動機構などの各構成要素の動作が制御される。
送風工程においては、図10(b)に示すように、送風機構23Bにより、バックロール56の複数の吹き出し口56bから多孔質基材12の裏面12bに向けて空気が吹き出される。さらに、送風機構23Bにおける最適な空気の温度(℃)および供給量(m3/min)に調整される。最適値が調整された状態で、吹き出し口56bから多孔質基材12の裏面12bに対する送風が継続される(ステップS3)。
コントローラの制御に基づいて、最適な空気の温度は、送風機構23Bの送風温度調整部により調整され、最適な空気の供給量は、送風機構23Bの供給量調整部により調整される。最適な空気の温度および供給量は、多孔質基材12の大きさ、構造、および材質、並びにカーボンペースト13の特質などの設定諸元および実験値やデータに基づいて適宜選択される。
次いで、焼成炉24により、搬送機構21Bでの搬送中に、塗工機構22Bによる塗工済の多孔質基材12を加熱することによって、塗工済の多孔質基材12を乾燥させ、焼成処理が行われる。焼成処理が行われて完成したガス拡散層11は、巻取機構52によりロール状に巻き取られる。ロール状に巻き取られたガス拡散層11は次工程に向けて送られる。
以上のように構成された第2実施形態に係るガス拡散層11の製造方法および製造装置20Bの効果について説明する。
第2実施形態に係るガス拡散層11の製造方法は、多孔質基材12を搬送する搬送工程(ステップS1)と、搬送中の多孔質基材12の表面12aにカーボンペースト13を塗工する塗工工程(ステップS2)と、カーボンペースト13が塗工された裏面12bに向けてバックロール56の複数の吹き出し口56bから空気を吹き付ける送風工程(ステップS3)とを含んで構成されている。
この構成により、搬送工程で多孔質基材12が搬送され、塗工工程で、搬送中の多孔質基材12の表面12aにカーボンペースト13が塗工され、送風工程で、カーボンペースト13が塗工されている裏面12bに向けてバックロール56の複数の吹き出し口56bから空気が吹き付けられる。その結果、下流側リップ62の上方で塗工されるカーボンペースト13に作用する塗工圧(MPa)に対し、バックロール56の複数の吹き出し口56bから多孔質基材12の裏面12bに空気が吹き付けられるので、多孔質基材12の厚み方向の図10(a)の四角の破線で示す塗工部分で、多孔質基材12の裏面12bから多孔質基材12の厚み方向に空気圧(MPa)が作用する。この空気圧により、塗工するカーボンペースト13が多孔質基材12に染み込み過ぎてしまうのを防ぐことができるという効果が得られる。
即ち、ガス拡散層の製造方法においては、図11に示すように、塗工工程が適正に行われない場合に、多孔質基材12の表面12aに塗工されたカーボンペースト13がまだらになり、裏面12bに裏抜けが生ずるという異常な塗工状態となってしまう。この点、塗工ギャップGを調整することで、塗工圧を調整することも考えられるが、塗工ギャップGを狭めると一気に塗工圧が上昇し、調整が難しくなってしまう。これに対して、第2実施形態に係るガス拡散層11の製造装置20Bは、多孔質基材12の表面12aが適正な塗工状態となり、裏抜けも発生しないという効果が得られる。
第2実施形態に係るガス拡散層11の製造装置20Bでは、搬送機構部21Bは、多孔質基材12の裏面12bに接触する外周面に複数の吹き出し口56bが設けられたバックロール56を有し、送風機構23Bは、バックロール56の内部に空気を送り、その空気を複数の吹き出し口56bから吹き出させる構成を有している。
この構成により、搬送機構21Bにより多孔質基材12が搬送され、塗工機構22Bにより、搬送中の多孔質基材12の表面12aにカーボンペースト13が塗工され、カーボンペースト13の塗工中に、送風機構23Bにより、カーボンペースト13が塗工されている多孔質基材12の裏面12bに向けてバックロール56の複数の吹き出し口56bから空気が吹き付けられる。その結果、下流側リップ62の上方で塗工されるカーボンペースト13に作用する塗工圧(MPa)に対し、バックロール56の複数の吹き出し口56bから多孔質基材12の裏面12bを押し出すようにして空気が吹き付けられる。したがって、多孔質基材12の厚み方向の図10(a)の四角の破線で示す塗工部分で、多孔質基材12の裏面12bから多孔質基材12の厚み方向に空気圧(MPa)が作用する。この空気圧により、塗工するカーボンペースト13が多孔質基材12に染み込み過ぎてしまうのを防ぐことができるという効果が得られる。
即ち、ガス拡散層の製造装置においても、図11に示すように、塗工が適正に行われない場合に、多孔質基材12の表面12aに塗工されたカーボンペースト13がまだらになり、多孔質基材12の裏面12bに裏抜けが生じ、異常な塗工状態となってしまう。この点、塗工ギャップGを調整することで、塗工圧(MPa)を調整することも考えられるが、塗工ギャップGを狭めると一気に塗工圧が上昇し、調整が難しくなってしまうとともに、塗工圧により裏抜けが生じやすくなってしまう。したがって、塗工圧の調整では良品を生産する範囲が狭くなってしまう。なお、量産化を促進するために、多孔質基材12の搬送速度(m/sec)を上げると、カーボンペースト13への空気の巻き込み量が多くなり、カーボンペースト13の液面が盛り上がったり下がったりする、いわゆるメニスカスが変化し正常な塗工状態を確保することができない。また、量産化を促進するためにカーボンペースト13の粘度(Pa・s)を下げて塗工を速めると、多孔質基材12の裏面12bへの裏抜けが起こってしまい、ガス拡散層11の撥水性を担保することができず機能不良となってしまう。
これに対して、第2実施形態に係るガス拡散層11の製造装置20Bは、前述のように、下流側リップ62の上方で塗工されるカーボンペースト13に作用する塗工圧(MPa)に対し、バックロール56の複数の吹き出し口56bから多孔質基材12の裏面12bを押し出すようにして空気が吹き付けられるので、多孔質基材12の厚み方向の図10(a)の四角の破線で示す塗工部分で、多孔質基材12の裏面12bから多孔質基材12の厚み方向に空気圧(MPa)が作用する。この空気圧により、多孔質基材12の表面12aが適正な塗工状態となり、多孔質基材12の裏面12bへの裏抜けも発生しないという効果が得られる。
以上、本発明の第1実施形態および第2実施形態について詳述したが、本発明は、前記の第1実施形態および第2実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、種々の設計変更を行うことができるものである。