以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、本実施形態に係る印刷装置10の斜視図である。印刷装置10は、被印刷媒体に印刷を行う印字部としてサーマルヘッドを備える印刷装置であり、例えば、長尺の帯状の被印刷媒体Mに対して、シングルパス方式で印刷を行うプリンタである。被印刷媒体Mは、例えば、接着層を有する基材と、基材に対して接着層を覆うように貼付された剥離可能な剥離紙と、を有するテープ部材である。被印刷媒体Mとして、剥離紙を備えないタイプのテープ部材を適用してもよい。
なお、本実施形態では、インクリボンを使用する熱転写方式のラベルプリンタを例にして説明するが、本発明を適用する印刷装置や印刷方式はこれに限定されず、スティッキングが発生する可能性があるものであればよい。例えば、感熱紙を使用する感熱方式の印刷であってもよい。
図1に示すように、印刷装置10は装置筐体11を有し、装置筐体11の上面手前側に入力部12を有し、装置筐体11の上面奥側に表示装置13と開閉蓋14を有している。図示していないが、装置筐体11には、給電用の電源コードが接続する電源コード接続端子、外部機器との接続用の外部機器接続端子、メモリカードなどの記憶媒体を挿入する記憶媒体挿入口、などが設けられている。
入力部12は、押しボタンタイプの複数の入力キーや十字キーなどを備えており、入力部12への操作によって、印刷する文字や図形などの印刷内容の入力や、印刷の実行を含む各種動作に関する入力や、その他の機能や設定の選択などが行われる。
表示装置13は、液晶表示パネルなどの表示手段を備えており、入力部12への入力に対応する文字や図形などの表示、各種設定のための選択メニューの表示、各種処理に関するメッセージ類の表示、印刷処理の進捗状況の表示などを行う。なお、表示装置13を入力受付可能なタイプ(タッチパネル入力方式など)にして、入力部12としての機能を表示装置13に持たせてもよい。
開閉蓋14は、装置筐体11に対して開閉可能に取り付けられている。装置筐体11の内部には、閉じた状態の開閉蓋14により覆われるカセット収納部15(図3参照)が設けられている。カセット収納部15の詳細については後述する。開閉蓋14は閉じた状態でロック可能であり、ボタン14aを押し込むことにより、ロックを解除して開閉蓋14の開放動作が行われる。開閉蓋14に設けた窓14bを通して、開閉蓋14が閉じた状態におけるカセット収納部15内の状態(図2に示すテープカセット20の装填状態)を視認することができる。
装置筐体11の側面には、カセット収納部15に通じる排出口11aが形成されている。印刷装置10の内部で印刷が行われた被印刷媒体Mは、排出口11aを通って印刷装置10の外側へ排出される。
図2は、印刷装置10のカセット収納部15に収納されるテープカセット20の斜視図である。テープカセット20は箱状のカセットケース21を有し、カセットケース21の内部に、それぞれが平行な円筒状のテープコア22とインクリボン供給コア23とインクリボン巻取りコア24が設けられている。被印刷媒体Mは、カセットケース21の内部でテープコア22にロール状に巻かれている。熱転写用のインクリボンKは、インクリボン供給コア23にロール状に巻かれており、インクリボン供給コア23から引き出されて、その先端がインクリボン巻取りコア24に巻きつけられている。
カセットケース21には、被印刷媒体MとインクリボンKの通過領域の近傍に、サーマルヘッド被挿入部25が形成されている。カセットケース21の外縁には、板状の複数の係合部26が形成されている。
図3は、カセット収納部15の斜視図である。カセット収納部15の内部には、被印刷媒体Mへの印刷時に発熱制御される複数の発熱素子30a(図5参照)を有するサーマルヘッド30が設けられている。サーマルヘッド30には、温度を測定するヘッド温度測定部として、サーミスタ31が埋め込まれている。また、カセット収納部15の内部には、被印刷媒体MとインクリボンKの搬送に関係する部位として、プラテンローラ32とテープコア係合軸33とインクリボン巻取り駆動軸34が設けられている。
また、カセット収納部15の内部には、テープカセット20を所定の位置に支持するための複数のカセット受け部35が設けられている。カセット収納部15の内部にはさらに、テープカセット20が収容する被印刷媒体M(テープ)の幅を検出するためのテープ幅検出スイッチ36が設けられている。テープ幅検出スイッチ36は、テープカセット20の形状に基づいて被印刷媒体Mの幅を検出する検出部である。
装置筐体11の排出口11aの部分には、被印刷媒体Mを切断するためのハーフカット装置37とフルカット装置38が設けられている。フルカットとは、被印刷媒体Mの基材を剥離紙と共に幅方向に沿って切断する動作のことであり、ハーフカットは、基材のみを幅方向に沿って切断する動作のことである。
テープカセット20がカセット収納部15に収納された状態では、図4に示すように、カセットケース21に設けた複数の係合部26が、カセット収納部15内に設けられた複数のカセット受け部35に支持されて、テープカセット20の位置が定まる。この状態で、テープカセット20のサーマルヘッド被挿入部25にサーマルヘッド30が挿入される。また、テープカセット20のテープコア22がテープコア係合軸33に係合し、インクリボン巻取りコア24がインクリボン巻取り駆動軸34に係合する。そして、テープコア22から引き出された被印刷媒体Mと、インクリボン供給コア23及びインクリボン巻取りコア24に架け渡されたインクリボンKが、互いに重なる状態でサーマルヘッド30とプラテンローラ32の間を通過可能になる。
印刷装置10に印刷実行の指示が入力されると、プラテンローラ32が回転駆動されて、被印刷媒体Mがテープコア22から繰り出される。このとき、インクリボン巻取り駆動軸34がプラテンローラ32に同調して回転されて、被印刷媒体Mと共にインクリボンKがインクリボン供給コア23から繰り出される。これにより、被印刷媒体MとインクリボンKは重なった状態で搬送され、印刷進行方向においてサーマルヘッド30との相対位置が変化する。そして、サーマルヘッド30とプラテンローラ32の間を通過する際にインクリボンKがサーマルヘッド30によって加熱されることで、インクリボンKに付着しているインクが被印刷媒体Mに転写され、印刷が行われる。
サーマルヘッド30とプラテンローラ32の間を通過した使用済みのインクリボンKは、インクリボン巻取りコア24に巻き取られる。サーマルヘッド30とプラテンローラ32の間を通過した印刷済みの被印刷媒体Mは、ハーフカット装置37又はフルカット装置38で切断(ハーフカット又はフルカット)され、排出口11aからカセット収納部15の外部へ排出される。
テープコア22から繰り出されて排出口11aを通って印刷装置10の外側に進む被印刷媒体Mの進行方向を、搬送方向Fとする。搬送方向Fとは反対の被印刷媒体Mの進行方向を、逆搬送方向Rとする。図4における反時計方向にプラテンローラ32を回転させると、被印刷媒体Mが搬送方向Fに進み、時計方向にプラテンローラ32を回転させると、被印刷媒体Mが逆搬送方向Rに進む。
図5は、印刷装置10のハードウェア構造を示したブロック図である。このブロック図は、上述した入力部12、表示装置13、サーマルヘッド30、サーミスタ31、プラテンローラ32、テープ幅検出スイッチ36、ハーフカット装置37、フルカット装置38、を含んでいる。印刷装置10はさらに、制御装置40、ROM(Read Only Memory)41、RAM(Random Access Memory)42、表示装置駆動回路43、ヘッド駆動回路44、搬送用モータ駆動回路45、ステッピングモータ46、カッターモータ駆動回路47、カッターモータ48、温度センサ49を備える。なお、少なくとも制御装置40、ROM41、及びRAM42は、印刷装置10のコンピュータを構成している。
制御装置40は、CPU(Central Processing Unit)などのプロセッサ40aを含む。制御装置40は、ROM41に記憶されているプログラムを読み出してRAM42に展開し実行することで、印刷装置10の各部の動作を制御する。後述するスティッキング発生推定ラインの設定、再印刷データの生成、被印刷媒体Mの搬送及び逆搬送、再印刷の実行、などの一連の制御や処理についても、ROM41に記憶されているプログラムに基づいて行われる。
ROM41は、被印刷媒体Mに印刷を行う印刷プログラム、印刷プログラムの実行に必要な各種データ(例えば、フォント、通電テーブルなど)を記憶する。RAM42は、印刷内容のパターン(画像)を示す印刷データを記憶する印刷データ記憶部42a(図6参照)を含む。
表示装置駆動回路43は、表示装置13を駆動するディスプレイドライバを備えている。RAM42に記憶された印刷データに基づく印刷内容や、印刷処理の進捗状況などが、表示装置駆動回路43の制御下で表示装置13に表示される。
ヘッド駆動回路44は、制御装置40から供給された制御信号であるストローブ信号と印刷データと再印刷データ(詳細は後述する)とに基づいてサーマルヘッド30を駆動するヘッド駆動部である。印刷データや再印刷データに基づいて、複数の発熱素子30aへの通電又は非通電を行う。
サーマルヘッド30は、主走査方向(図7及び図9参照)に配列された複数の発熱素子30aを有する印刷ヘッドである。ヘッド駆動回路44が、制御装置40から供給されたストローブ信号の通電制御期間中に、印刷データ又は再印刷データに応じて、サーマルヘッド30の複数の発熱素子30aに電圧を選択的に印加することで、印刷データや再印刷データでの印刷内容に応じた箇所の発熱素子30aが発熱してインクリボンKを加熱する。
被印刷媒体Mは、主走査方向に対して垂直な副走査方向(図7及び図9参照)に長手方向を向けて、副走査方向への移動によりサーマルヘッド30の位置まで搬送される。そして、被印刷媒体Mを副走査方向(搬送方向F)に搬送しながらサーマルヘッド30の各発熱素子30aの発熱を制御することで、サーマルヘッド30は、熱転写により被印刷媒体Mに対して、主走査方向に延びる1ラインずつ印刷を行う。つまり、副走査方向へのサーマルヘッド30と被印刷媒体Mの相対位置の変化と、サーマルヘッド30の各発熱素子30aの発熱制御とによって、被印刷媒体Mには複数の印刷ラインに印刷データや再印刷データに基づいた画像が順次印刷される。
搬送用モータ駆動回路45はステッピングモータ46を駆動し、ステッピングモータ46はプラテンローラ32を回転させる。プラテンローラ32は、ステッピングモータ46の動力によって回転し、被印刷媒体Mの長手方向(副走査方向)に被印刷媒体Mを搬送する。少なくともプラテンローラ32とステッピングモータ46は印刷装置10の搬送部を構成する。ステッピングモータ46に入力するパルス数をカウントすることで、被印刷媒体Mの搬送量に関する情報を得ることができる。ステッピングモータ46は通電制御によって回転方向を変更可能であり、これに応じてプラテンローラ32の回転方向を正逆に変えることで、被印刷媒体Mの進行方向を搬送方向Fと逆搬送方向Rに切り替えることができる。
カッターモータ駆動回路47は、カッターモータ48を駆動する。ハーフカット装置37及びフルカット装置38は、カッターモータ48の動力によって動作し、被印刷媒体Mをハーフカット又はフルカットする。
温度センサ49は、印刷装置10の周囲の温度を環境温度として測定する環境温度測定部である。
ところで、印刷装置10で印刷を行う際に、サーマルヘッド30において高温状態から低温状態への急激な温度変化(温度低下)が生じると、サーマルヘッド30にインクリボンKが貼り付く現象であるスティッキングが生じる可能性がある。サーマルヘッド30におけるこのような急激な温度低下は、印字率の高い(発熱させる発熱素子30aの数が多い)印刷ラインから印字率の低い(発熱させる発熱素子30aの数が少ない)印刷ラインに急に切り替わる印刷内容である場合に生じやすい。すなわち、副走査方向で隣接又は近接する関係の印刷ライン間で印字率が急減するような境界部分を印刷するときに、スティッキングが生じやすい。
スティッキングが生じやすい印刷内容の一例を図7に示した。印刷時には、副走査方向において搬送方向Fに被印刷媒体Mを搬送しながら印刷を行う。副走査方向でのサーマルヘッド30の位置は一定であるため、搬送方向Fに被印刷媒体Mを搬送すると、サーマルヘッド30と被印刷媒体Mの相対位置変化に応じて、被印刷媒体M上には、搬送方向Fの上流側(図7の左手方向)から下流側(図7の右手方向)に向けて順に1ラインずつ印字が行われる。つまり、被印刷媒体Mの側を基準にすると、搬送方向Fが印刷進行方向となる。
図7に示す印刷画像IMでは、搬送方向Fの最も上流側に位置する(印刷順序が先頭側の)領域E1で、主走査方向(被印刷媒体Mの幅方向)に隙間なく印字する、いわゆるベタ塗りの印刷内容になっている。この領域E1に続く下流側の領域E2では、印字しない白抜き部分の割合が急激に増えて、主走査方向で印字する範囲が大幅に減っている。従って、主走査方向の印字率が高い領域E1の印刷ではサーマルヘッド30が高温になり、印字率が低い領域E2の印刷ではサーマルヘッド30が急激に低温になり、領域E1と領域E2の境界がスティッキングの生じやすい箇所になる。
スティッキングが発生すると、被印刷媒体Mへの印刷が正常に行われず、図7の印刷画像IM’のように部分的に印刷が欠けてしまう(印刷が行われない領域が生じてしまう)おそれがある。そのため、スティッキングが生じた状況でそのまま印刷を継続すると、印刷品質が低下してしまう。
その対策として、印刷装置10では、スティッキングが発生する(発生しやすい)箇所を設定した上で、当該箇所を含む部分を再度印刷(再印刷)することで、印刷内容の欠落を防いで印刷品質の確保を実現する。図8は、このようなスティッキング発生への対策を概念的に示したものである。
より詳しくは、印刷データに含まれる複数の印刷ラインのデータに基づいて、印刷画像IMのうちスティッキングが発生する可能性が高い箇所を推定し、当該箇所に該当する印刷ラインをスティッキング発生推定ラインSLとして設定する。そして、被印刷媒体Mを印刷進行方向である搬送方向Fに搬送しながら、サーマルヘッド30の位置にスティッキング発生推定ラインSLが達するまで印刷を行う(図8の通常印刷処理A)。続いて、被印刷媒体Mを、印刷進行方向とは反対方向である逆搬送方向Rに所定量搬送する(図8の逆搬送処理B)。この逆搬送処理Bにより、サーマルヘッド30に対して貼り付いた状態のインクリボンKや被印刷媒体Mを剥離させて、スティッキングを解消することができる。そして、再び被印刷媒体Mを搬送方向Fに搬送させると共にサーマルヘッド30を制御して、スティッキング発生推定ラインSLに対して印刷順序の上流側にある上流側ラインTLからスティッキング発生推定ラインSLまでの再印刷を行う(図8の再印刷処理C)。これにより、スティッキングが発生した場合に、当該箇所を確実に印刷して高い印刷品質を得ることができる。
但し、再印刷の際に、元の印刷データをそのまま使用して印刷を行うと、スティッキング発生推定ラインSLでのスティッキングが発生しやすい条件が再現されてしまう。そこで、印刷装置10では、元の印刷データとは異なる再印刷データを生成し、この再印刷データに基づいて再印刷処理を行う。
図6は、以上のようなスティッキング発生時の対策を行う印刷装置10の機能的構造を示したブロック図である。図6では主に、印刷装置10に含まれる制御装置40の機能的構造を示している。制御装置40は、推定部50、データ生成部51、搬送制御部52、ヘッド制御部53を備えている。なお、制御装置40では、図6に示す各機能ブロックに対応する個々の電子部品や回路を必ずしも備えるわけではなく、所定の電子部品や回路が複数の機能ブロックの役割を有する場合や、複数の電子部品や回路の協働によって1つの機能ブロックとして成立する場合もある。
推定部50は、サーマルヘッド30により印刷する複数の印刷ラインのそれぞれに対応する、複数の印刷ラインデータを含む印刷データに基づいて、スティッキングが発生する可能性が比較的高いラインを、スティッキング発生推定ラインSL(第nライン:nは2以上の整数)として推定する。推定部50が使用する印刷データは、RAM42の印刷データ記憶部42aから読み出される。そして、推定部50は、印刷データに基づいて、サーマルヘッド30の温度が急激に低下する可能性があるラインを特定することで、スティッキング発生推定ラインSLを推定する。
推定部50は、より詳細には、比較部54と決定部55を備える。比較部54は、印刷データに含まれる複数の印刷ラインデータのうちの、互いに隣接して印刷される2つのラインのそれぞれに対応する2つの印刷ラインデータを比較する。決定部55は、比較部54による比較結果に基づいて、スティッキングが発生する可能性が比較的高いと推定されるラインをスティッキング発生推定ラインSLとして決定する。このように、互いに隣接して印刷される2つのラインのそれぞれに対応する2つの印刷ラインデータを比較することで、互いに隣接する2つのライン間で生じる急激な温度変化を予想し、スティッキング発生推定ラインSLを決定することができる。
比較部54が上記2つの印刷ラインデータを比較する際の要素として、主走査方向での印字率を参照することができる。印刷順序の上流側の印刷ラインデータと下流側の印刷ラインデータの間で印字率の急激な低下がある場合には、サーマルヘッド30での急激な温度低下が生じることが推定される。例えば、各印刷ラインデータには、印刷ドットの配列データが含まれている。印刷ドットは、サーマルヘッド30の個々の発熱素子30aを発熱させて被印刷媒体Mに印字させる箇所を示す。そして、各印刷ラインデータに含まれている印刷ドットの数が多ければ印字率が高く、印刷ドットの数が少なければ印字率が低い。隣接する2つの印刷ラインデータの印刷ドットの数を比較することで、サーマルヘッド30の温度の低下を予想することができる。
また、比較部54が上記2つの印刷ラインデータを比較する際の要素として、各印刷ラインデータにおける印字領域(印刷ドット)の分布を参照することができる。主走査方向に長く連続する印字領域があると、主走査方向で印字領域が分散している場合に比べて、サーマルヘッド30の温度へ与える影響が大きくなりやすい。つまり、主走査方向で印刷ドットが複数集まる(連続する)ことで、印刷ドットが分散するよりも、サーマルヘッド30の温度変化が生じやすくなる。各印刷ラインデータの印字領域の分布は、主走査方向で印刷ドットが所定数連続する印刷ドット群の数によって判別できる。そして、隣接する2つの印刷ラインデータにおける印字領域の分布(複数の印刷ドットの集合である印刷ドット群の数)を比較することで、サーマルヘッド30の温度の低下をより高精度に予想することができる。
決定部55は、例えば、印字率(印刷ドットの数)又は連続する印字領域(印刷ドット群の数)の比に対して閾値を設定してもよく、あるいは、印字率(印刷ドットの数)又は連続する印字領域(印刷ドット群の数)の低減率に対して閾値を設定してもよい。決定部55は、比または低減率が閾値以上又は閾値を上回っている場合に、スティッキングが発生する可能性が比較的高いと決定してもよい。
なお、閾値は、予め設定された値であってもよく、温度センサ49で測定された環境温度に基づいて設定されてもよい。一般的に、環境温度が低いほど、発熱素子の発熱時と非発熱時の温度差が大きくなりやすく、スティッキングが発生しやすいことから、環境温度に基づいて設定する場合には、環境温度が低いほど閾値を下げることが望ましい。これにより、スティッキングの発生をさらに高精度に予想することができる。また、閾値の設定には、テープ幅検出スイッチ36で検出された被印刷媒体Mの幅の数値を利用してもよい。
推定部50は、複数の印刷ラインデータのうちにスティッキングの発生が推定されるラインが存在する場合に、スティッキング発生推定ラインSLを特定するデータであるスティッキング発生推定ラインデータを、データ生成部51へ出力する。
データ生成部51は、RAM42の印刷データ記憶部42aから読み出された印刷データと、推定部50で生成されたスティッキング発生推定ラインデータとに基づいて、再印刷データを生成する。データ生成部51は、ライン数設定部56とパターン設定部57を有している。
ライン数設定部56は、再印刷データによる印刷処理の対象となる再印刷ラインの数を設定する。より具体的には、ライン数設定部56は、スティッキング発生推定ラインSLと、スティッキング発生推定ラインSLに対して印刷順序の上流側に位置する所定数(少なくとも1つ)の上流側ラインTLとを、再印刷ラインに設定する。
ライン数設定部56が設定する上流側ラインTLは、スティッキング発生推定ライン(第nライン)から印刷順序の上流側に1つ戻った第n-1ラインを少なくとも含む。そして、第n-1ラインよりもさらに上流側のラインを上流側ラインTLに含んでもよい。つまり、上流側ラインTLの数は、単数又は複数である。上流側ラインTLの数が複数である場合は、全ての上流側ラインTLが副走査方向で連続するように設定し、各上流側ラインの間に、再印刷処理の対象ではない別のラインが存在しないようにすることが望ましい。
ライン数設定部56は、温度センサ49で測定された環境温度に基づいて上流側ラインTLの数を設定してもよい。例えば、環境温度が低いほど上流側ラインTLの数を増やす、などの選択が可能である。また、2つの印刷ラインを比較した場合の印字率の差によって、上流側ラインTLの数を設定してもよい。例えば、印字率の差が大きい場合には上流側ラインTLの数を多くし、印字率の差が小さい場合には上流側ラインTLの数を少なくするという選択が可能である。上流側ラインTLの数を多くすることにより、再印刷処理時のサーマルヘッド30の温度変化を抑制する制御を行いやすくなる。
パターン設定部57は、ライン数設定部56で設定した再印刷ライン(スティッキング発生推定ラインSLと上流側ラインTL)の印刷パターンを設定する。再印刷データのパターン設定の一例を図9に示した。この例では、ライン数設定部56によって、2つの上流側ラインTL1,TL2が設定されている。
図9では、印刷データと再印刷データのそれぞれを、主走査方向及び副走査方向に格子状に配された印刷ドットの集合体として示しており、主走査方向への印刷ドットの並びによって印刷ラインが構成される。サーマルヘッド30の発熱素子30aを発熱させる場合(オン)を黒丸で示し、発熱素子30aを発熱させない場合(オフ)を白丸で示しており、発熱素子30aを発熱させる黒丸の箇所で印刷ドットが形成される。
印刷データは、印刷画像IM(図7)の画像情報に基づいて、印刷装置10で処理可能なデータ形式として生成されて、RAM42の印刷データ記憶部42aに記憶されている。図9の印刷データは、印刷画像IMの一部分に対応するデータを抽出したものである。また、RAM42に記憶された元の印刷データでは、各印刷ラインを印刷順序の先頭側から順に「第nライン」という形でナンバリングしているが、説明の便宜上、制御装置40で設定するスティッキング発生推定ラインSLと上流側ラインTL1,TL2に対応する符号を、図9の印刷データの各ラインにも付している。
上述のように、印刷データなどに基づいて、推定部50によってスティッキング発生推定ラインSLを設定し、データ生成部51のライン数設定部56によって上流側ラインTL1,TL2を設定する。つまり、スティッキング発生推定ラインSLと2本の上流側ラインTL1,TL2の計3本のラインが再印刷ラインに含まれる。パターン設定部57は、これらの再印刷ラインについて、以下のような条件に基づいて印刷パターンを設置する。
スティッキング発生推定ラインSLについては、図8に示す通常印刷処理Aにおいて、スティッキングを起因として、元の印刷データに含まれる印刷ドットの全て又は一部が印刷されていない状態(図7の印刷画像IM’を参照)になると想定される。そのため、パターン設定部57は、想定される印刷の欠落箇所を補うべく、スティッキング発生推定ラインSLでは、元の印刷データと同じ印刷内容(印刷ラインデータVL3)で再印刷データを設定する。再印刷データの当該部分をスティッキング補完データUとする。
なお、実際の印刷結果としては、元の印刷データに基づく通常印刷処理A(図8)によって、スティッキング発生推定ラインSL上に印刷データ通りの印刷ドットが適正に印刷されている(すなわち、スティッキングの影響を受けていない)という可能性もある。この場合は、スティッキング発生推定ラインSLに対する再印刷を行っても、重ねて印刷するだけなので、印刷品質を低下させるような影響は生じない。よって、印刷の確実性を重視して、推定部50によりスティッキング発生推定ラインSLが設定された場合には、通常印刷処理Aでの印刷結果に関わらず、スティッキングによる印刷欠けが発生するものと仮定して再印刷を行うことが望ましい。
上流側ラインTL1,TL2については、パターン設定部57は、元の印刷データのうち上流側ラインTL1,TL2に対応する位置の各ラインを印刷するための印刷ラインデータVL1,VL2を読み出し、この印刷ラインデータVL1,VL2とスティッキング補完データUとに基づいて、再印刷データを設定する。より詳細には、上流側ラインTL1,TL2からスティッキング発生推定ラインSLまでの再印刷において、元の印刷データの印刷ラインデータVL1,VL2,VL3に基づいて印刷した場合(通常印刷処理A)よりも、サーマルヘッド30の温度低下が小さくなるように、再印刷データでの上流側ラインTL1,TL2の印刷パターンを設定する。
例えば、元の印刷データの印刷ラインデータVL1,VL2に比して、上流側ラインTL1,TL2上の印字率を低くする(黒丸にする印刷ドットの総数を減らす)ことで、サーマルヘッド30の温度低下を抑制させる再印刷データにすることができる。
図9の場合は、印刷ラインデータVL1,VL2の全体が印字領域であるため、サーマルヘッド30の温度低下を抑制させる再印刷データは、必ず上流側ラインTL1,TL2上の印字率を印刷ラインデータVL1,VL2よりも低くしたものになる。但し、仮に印刷ラインデータVL1,VL2が印字領域と非印字領域を含む場合、印刷ラインデータVL1,VL2に比して上流側ラインTL1,TL2上で連続する印字領域(主走査方向に連続する印刷ドット群の数)を減らして、印字領域の分散性を高めることでも、サーマルヘッド30の温度低下を抑制させる効果が得られる。
図9に示す設定例の再印刷データでは、上流側ラインTL1,TL2について、スティッキング補完データUと同じく主走査方向の上端側の3つの印刷ドットのみを印刷し(黒丸)、主走査方向の他の領域は印刷しない(白丸)という内容の上流側ラインデータWL1,WL2を設定している。元の印刷ラインデータVL1,VL2よりも、印字率が低い(且つ、連続する印字領域が少ない)上流側ラインデータWL1,WL2を用いることで、再印刷時にスティッキング発生推定ラインSLに達した際のサーマルヘッド30の温度低下が抑制され、スティッキングを発生させずに、スティッキング補完データUに基づく印刷を確実に実行させることができる。特に、図9に示す上流側ラインデータWL1,WL2は、スティッキング補完データUと同一の主走査方向の領域のみを印刷させるものであるため、上流側ラインTL1,TL2からスティッキング発生推定ラインSLまでを再印刷した場合に、サーマルヘッド30の急激な温度低下によるスティッキングを確実に防止できる。
また、図9の再印刷データのように、上流側ラインTL1,TL2とスティッキング発生推定ラインSLで主走査方向の同じ位置の印刷ドットを印刷することにより、当該印刷ドットに対応する発熱素子30aの加熱が安定して、再印刷時の印刷効率を良くする効果が得られる。
上流側ラインTL1,TL2の再印刷では、印刷ラインデータVL1,VL2と上流側ラインデータWL1,WL2の両方で黒丸になっている印刷ドットを重ねて印刷することになるが、これは印刷の確実性を向上させるものであるから、印刷品質に関して支障はない。
最初の印刷(図8の通常印刷処理A)に続いて、被印刷媒体Mを逆搬送方向Rに戻して(図8の逆搬送処理B)から再び搬送方向Fに搬送して再印刷(図8の再印刷処理C)を行う場合、被印刷媒体Mに対する搬送の精度誤差などによって、サーマルヘッド30とスティッキング発生推定ラインSLの位置関係がずれる場合がある。この場合、通常印刷処理Aでの上流側ラインTL1,TL2に相当する箇所の印刷と、再印刷処理Cでのスティッキング発生推定ラインSLの印刷とで、印刷後のラインの相対的な位置ずれが生じる可能性がある。特に、被印刷媒体Mの搬送ずれが、上流側ラインTL1,TL2相当の箇所とスティッキング発生推定ラインSLとの間隔を大きくさせるように作用する場合、スティッキング発生推定ラインSLだけを対象とした再印刷を行うと、スティッキング発生推定ラインSL(再印刷処理Cで印刷)と、その直前の上流側ラインTL2(通常印刷処理Aで印刷)との間で、印刷の隙間が目立つ結果になるおそれがある。ここで、スティッキング発生推定ラインSLだけでなく、印刷順序が前の上流側ラインTL1,TL2を含む再印刷データを生成することで、通常印刷処理Aと再印刷処理Cでの被印刷媒体Mの搬送ずれがあっても、この搬送ずれを起因とする副走査方向の隙間を埋めるように上流側ラインTL1,TL2及びスティッキング発生推定ラインSLに対する再印刷が行われるので、再印刷による弊害を回避して優れた印刷品質を得ることができる。
特に、元の印刷データで印刷ラインデータVL1,VL2とスティッキング発生推定ラインSLの両方に共通して含まれる主走査方向の印字領域(図9に印刷連続領域Q1として示す)がある場合、図9の設定例のように、印刷連続領域Q1については、再印刷用の上流側ラインデータWL1,WL2でも印字領域に含ませるように再印刷データを設定することが望ましい。これにより、再印刷時に、上流側ラインTL1,TL2からスティッキング発生推定ラインSLにかけて、印刷連続領域Q1の印刷品質を向上させる(副走査方向の印刷の隙間の発生を防ぐ)効果が得られる。
一方、元の印刷データで、上流側ラインTL1,TL2では印刷を行い(印刷ラインデータVL1,VL2に印刷ドットが存在し)、スティッキング発生推定ラインSLでは印刷を行わない(印刷ラインデータVL3に印刷ドットが存在しない)という主走査方向の領域(図9に印刷不連続領域Q2として示す)がある場合、再印刷時に、被印刷媒体Mの搬送位置ずれを起因としたスティッキング発生推定ラインSLでの印刷の位置ずれは、印刷不連続領域Q2では生じない。つまり、印刷不連続領域Q2は、再印刷時に印刷品質確保のために上流側ラインTL1,TL2の印刷箇所に含める必要性が低い。故に、元の印刷データの印刷ラインデータVL1,VL2よりも印字率を減じた上流側ラインデータWL1,WL2を設定する際に、印字領域から除外する(白丸にする)対象として印刷不連続領域Q2を選択することが適している。
図9の再印刷データの設定例では、上流側ラインデータWL1,WL2において、印刷不連続領域Q2の全体で印刷ドットを含まないようにしている。これは、上流側ラインTL1,TL2とスティッキング発生推定ラインSLとの間で印字率を同等にして、再印刷時のサーマルヘッド30の温度変化を最も抑制できる設定である。但し、再印刷時のスティッキングの原因になる急激な温度変化を生じないことを条件として、印刷不連続領域Q2の一部に印刷ドットを含むような上流側ラインデータWL1,WL2にすることも可能である。
図9に示す印刷データ及び再印刷データは一例であり、データ生成部51で生成する再印刷データは、これに限定されない。例えば、図10の変形例1に示す印刷データは、上流側ラインTL1,TL2で印刷されない(印刷ラインデータVL1,VL2に印刷ドットが存在しない)主走査方向の領域を、スティッキング発生推定ラインSLでは印刷する(印刷ラインデータVL3に印刷ドットが存在する)という印刷内容である。そのため、再印刷データの生成に際して、スティッキング補完データUでの主走査方向の印字領域をそのまま上流側ラインTL1,TL2での主走査方向の印字領域に設定すると、上流側ラインTL1,TL2上で本来の印刷データとは違う(元々印字されないはずの)部分を印刷してしまうことになる。すなわち、印刷内容を正しく反映しない不適切な再印刷データになる。
このような不具合を防ぐため、パターン設定部57は、元の印刷データに含まれる印刷ラインデータVL1,VL2を参照して、当該印刷ラインデータVL1,VL2で印刷しない(印刷ドットが存在しない)主走査方向の領域については、スティッキング補完データUでの印刷の有無に関わらず、上流側ラインTL1,TL2では印刷しないように、再印刷用の上流側ラインデータWL1,WL2を設定する。
その結果、変形例1においてデータ生成部51が生成する再印刷データは、上流側ラインTL1,TL2では印刷を行わず、スティッキング発生推定ラインSLでのスティッキング補完データUのみを印刷するものとなる。但し、スティッキング補完データUと印刷ラインデータVL1,VL2の両方の情報を加味して判定した結果として、このような再印刷データになっているのであり、上流側ラインデータの生成を初めから行わずに単にスティッキング発生推定ラインSLでの再印刷だけを行うという処理とは異なる。別言すれば、変形例1の再印刷データは、上流側ラインデータを含まないのではなく、「上流側ラインTL1,TL2には印刷ドットを含まない」という内容の上流側ラインデータWL1,WL2を含んでいる。
なお、変形例1の印刷データでは、上流側ラインTL2からスティッキング発生推定ラインSLにかけて副走査方向に連続する印刷箇所(図9における印刷連続領域Q1に相当)が無いため、仮に再印刷時の被印刷媒体Mの搬送位置に僅かなずれが生じても、上流側ラインTL2とスティッキング発生推定ラインSLの間で、搬送の位置ずれを起因とする印刷内容のずれは目立ちにくい。
図10に示す変形例2の印刷データは、上述した変形例1の印刷内容に加えて、スティッキング発生推定ラインSL(印刷ラインデータVL3)における主走査方向の下端部分に印刷ドットを含んでいる。主走査方向の下端部分は、印刷ラインデータVL1,VL2にも印刷ドットが含まれている。つまり、主走査方向の下端部分は、上流側ラインTL1,TL2からスティッキング発生推定ラインSLにかけて印刷ドットが連続して存在する、印刷連続領域になっている。従って、上流側ラインTL1,TL2に対して印刷連続領域を再印刷しても、既存の印刷部分に重なる印刷となり、印刷品質に悪影響を及ぼさない。また、再印刷時の被印刷媒体Mの搬送位置ずれを起因としてスティッキング発生推定ラインSLとの間に発生し得る副走査方向の印刷の隙間を、上流側ラインTL1,TL2への印刷連続領域の再印刷によって埋めることができ、印刷品質を向上させる効果も得られる。
このような観点から、変形例2においてデータ生成部51が生成する再印刷データは、上流側ラインTL1,TL2に対応する上流側ラインデータWL1,WL2が、スティッキング発生推定ラインSLとの印刷連続領域に印刷ドットを含むように設定される。変形例1に比べて変形例2では、上流側ラインデータWL1,WL2での印字率が高く(印刷ドットの数が多く)なっているが、スティッキング補完データUとの関係では、再印刷時にスティッキングを発生させるようなサーマルヘッド30の温度低下を生じさせるものではない。
まとめると、データ生成部51は、以下の要件を満たすように再印刷データを生成する。第1に、スティッキングを起因とする印刷の欠落を補完するために、スティッキング発生推定ライン(SL)について、元の印刷データにおける印刷ラインデータ(VL3)と同じ印刷内容のスティッキング補完データ(U)を設定する。
第2に、再印刷時のスティッキング発生を防ぐために、上流側ライン(TL1,TL2)とスティッキング発生推定ライン(SL)の間で、元の印刷データよりもサーマルヘッド30の温度低下が抑制されるように、上流側ライン(TL1,TL2)の印字率や印字分布を変更した上流側ラインデータ(WL1,WL2)を設定する。
第3に、上流側ライン(TL1,TL2)において、元の印刷データで印刷しない領域は、再印刷時においても印字領域に含めないように、上流側ラインデータ(WL1,WL2)を設定する。
第4に、元の印刷データで、上流側ライン(TL1,TL2)からスティッキング発生推定ライン(SL)にかけて連続して印刷される印刷連続領域(Q1)は、再印刷時にもできるだけ連続して印刷するように、上流側ラインデータ(WL1,WL2)を設定する。
図9と図10のそれぞれの例では、2つの上流側ラインTL1,TL2について、印刷ラインデータVL1,VL2の印刷内容が同じであり、再印刷用の上流側ラインデータWL1,WL2についても同じ印刷内容になる場合を例示している。しかし、複数の上流側ラインで印刷内容が異なる場合も有り得る。このような場合にも、データ生成部51は、上述した各要件に基づいて再印刷データを生成する。その結果として、再印刷データでは、複数の上流側ライン(TL1,TL2…)に対応する複数の上流側ラインデータ(WL1,WL2…)で、互いの印字率や印字分布が異なる場合もある。
データ生成部51は、以上のように生成した再印刷データを、搬送制御部52とヘッド制御部53に出力する。搬送制御部52とヘッド制御部53によって印刷装置10の搬送部(ステッピングモータ46、プラテンローラ32)と印字部(サーマルヘッド30)を制御して、図8に示す通常印刷処理A、逆搬送処理B及び再印刷処理Cを実行させる。
データ生成部51から搬送制御部52及びヘッド制御部53に入力される再印刷データには、スティッキング発生推定ラインの存在及び副走査方向での位置を示すスティッキング発生推定ラインデータが含まれている。通常印刷処理A(図8)の際に、搬送制御部52は、搬送用モータ駆動回路45に対して、ステッピングモータ46を正方向に回転駆動させる搬送信号を送信すると共に、ステッピングモータ46の正方向への駆動パルス数をカウントして、プラテンローラ32を介した搬送方向Fへの被印刷媒体Mの搬送量をチェックする。そして、ステッピングモータ46の正方向への駆動パルス数が所定値に達して、サーマルヘッド30により印刷される位置にスティッキング発生推定ラインSLが到達したと判定されると、搬送制御部52は、搬送用モータ駆動回路45にモータ停止信号を送信してステッピングモータ46を停止させて、搬送方向Fへの被印刷媒体Mの搬送を停止する。ヘッド制御部53は、この搬送停止に合わせて、ヘッド駆動回路44に印刷停止信号を送信し、サーマルヘッド30による印刷(発熱素子30aの加熱)を停止させる。
続いて、逆搬送処理B(図8)に進む。搬送制御部52は、ステッピングモータ46を逆方向に回転駆動させる逆搬送信号を搬送用モータ駆動回路45へ送信する。逆搬送信号を受けた搬送用モータ駆動回路45は、ステッピングモータ46を逆方向に回転させ、プラテンローラ32を介して被印刷媒体Mを逆搬送方向Rに移動(逆搬送)させる。搬送制御部52は、ステッピングモータ46の逆方向への駆動パルス数をカウントする。駆動パルス数が、データ生成部51から入力された再印刷データに含まれる上流側ラインTL(TL1,TL2)の数に対応する所定値に達すると、搬送制御部52が搬送用モータ駆動回路45にモータ停止信号を送信してステッピングモータ46を停止させて、逆搬送方向Rへの被印刷媒体Mの搬送を停止する。
このようにして、逆搬送処理Bでは、データ生成部51から入力された再印刷データに含まれる上流側ラインTL(TL1,TL2)の数の分だけ、被印刷媒体Mが逆搬送方向Rに戻される。その結果、上流側ラインTL(図9や図10のように上流側ラインの数が複数の場合は、最も上流側に位置する上流側ラインTL1)がサーマルヘッド30に対向する状態になる。
サーマルヘッド30に対して、推定通りにインクリボンKや被印刷媒体Mの貼り付きが生じている場合に、逆搬送処理Bを実行することで、貼り付き状態を迅速且つ確実に解消することができる。
続いて、再印刷処理C(図8)に進む。ヘッド制御部53は、上述した再印刷データの上流側ラインデータ(WL1,WL2)に基づく印刷信号をヘッド駆動回路44に送信し、ヘッド駆動回路44がサーマルヘッド30の各発熱素子30aを加熱制御して、上流側ラインTL(TL1,TL2)に対する印刷を行う。上流側ラインが複数ある場合には、各上流側ラインの印刷完了後に、搬送制御部52の制御によってステッピングモータ46を正方向に回転させ、被印刷媒体Mを搬送方向Fに1ライン分進行させる。
上流側ラインTLの印刷後に、搬送制御部52が、ステッピングモータ46を正方向に回転駆動させる搬送信号を搬送用モータ駆動回路45へ送信し、ステッピングモータ46が正方向に回転して、プラテンローラ32を介して被印刷媒体Mを搬送方向Fに進行させる。ステッピングモータ46の駆動パルス数のカウントにより、スティッキング発生推定ラインSLがサーマルヘッド30の位置に達したことが検出されたら、ヘッド制御部53は、上述した再印刷データのスティッキング補完データ(U)に基づく印刷信号をヘッド駆動回路44に送信し、ヘッド駆動回路44がサーマルヘッド30の各発熱素子30aを加熱制御して、スティッキング発生推定ラインSLに対する再印刷を行う。
このようにして被印刷媒体Mに対する再印刷を行うことで、最初の印刷(通常印刷処理A)でスティッキングが原因の印刷不良が発生したとしても、スティッキング発生推定ラインSLを確実に印刷することができ、印刷品質が向上する。スティッキング発生推定ラインSLでのスティッキングが再発しないように再印刷データを設定しているので、再印刷時にはスティッキング発生推定ラインSLにおける印刷不良を回避できる。
スティッキング発生推定ラインSLまでの再印刷処理Cが完了した以降は、進行中の印刷ジョブに別のスティッキング発生推定ラインが含まれていなければ、搬送方向Fへの被印刷媒体Mの搬送を継続しながら印刷ジョブを最後まで実行する。進行中の印刷ジョブに別のスティッキング発生推定ラインが含まれている場合は、当該スティッキング発生推定ラインまで印刷を進めたところで、上記と同様の逆搬送処理及び再印刷処理を行う。
なお、図9及び図10の例とは異なり、スティッキング発生推定ラインに印字領域が含まれない(印刷ラインデータVL3に印刷対象となる印刷ドットが無い)印刷データの場合は、スティッキング発生推定ラインでスティッキングが生じても印刷品質に実質的な影響が無く、仮に再印刷を行うにしてもスティッキング発生推定ライン上に何も印刷しないことになる。また、スティッキング発生推定ラインに印字領域が含まれない場合には、被印刷媒体Mをそのまま搬送方向Fに搬送することで、サーマルヘッド30に対するインクリボンKや被印刷媒体Mの貼り付きが解消されるので、逆搬送処理Bを行わなくても、スティッキング発生推定ラインに続く下流側の印刷ラインを支障なく印刷することができる。そのため、この場合には、上述の逆搬送処理B及び再印刷処理Cを実行しないように制御してもよい。
具体的な制御例としては、推定部50がスティッキング発生推定ラインの有無を決定するときに、元の印刷データのうち、スティッキング発生推定ラインに対応する部分の印刷ラインデータVL3を参照する。そして、比較部54による比較結果ではスティッキング発生推定ラインが存在するものの、これに対応する印刷ラインデータVL3に印刷ドットが含まれていない場合には、決定部55はスティッキングが発生しないという扱いにして、推定部50がスティッキング発生推定ラインデータをデータ生成部51へ出力しない、という対応が可能である。
異なる制御例としては、推定部50からデータ生成部51へのスティッキング発生推定ラインデータの出力は行うものの、スティッキング補完データ(U)に印刷ドットを含まない内容の再印刷データがデータ生成部51で生成された場合に、データ生成部51から搬送制御部52及びヘッド制御部53への再印刷データの出力を行わないようにしてもよい。
このように、スティッキング発生推定ラインSLに印字領域が含まれていない場合に、逆搬送処理B及び再印刷処理Cを実行させないことで、逆搬送や再印刷にかかる時間を節約して、印刷の生産性を向上させることができる。また、制御装置40における処理負担の軽減、ステッピングモータ46やサーマルヘッド30の駆動用電力の節約、といった効果も得られる。
また、図10の変形例1のように、データ生成部51が、上流側ラインTL1,TL2には印刷ドットが含まれないという内容の再印刷データを生成した場合には。再印刷時には上流側ラインTL1,TL2上に何も印刷しないことになる。この場合でも、スティッキング発生推定ラインSLには印字領域が含まれるため、上述の逆搬送処理Bを行って、サーマルヘッド30へのインクリボンKや被印刷媒体Mの貼り付きを確実に解消してから、スティッキング発生推定ラインSLへの再印刷処理Cを行うことが好ましい。これにより、スティッキング発生推定ラインSLへの印刷不良を確実に防ぐことができる。
しかし、異なる形態として、図10の変形例1のように上流側ラインTL1,TL2に印字領域が含まれない再印刷データが生成された場合に、上述の逆搬送処理Bと、上流側ラインTL1,TL2に対する再印刷処理とを行わずに、スティッキング発生推定ラインSLに対する再印刷処理のみを行うように制御してもよい。
具体的な制御例としては、データ生成部51が生成する再印刷データが、上流側ラインTL1,TL2(上流側ラインデータWL1,WL2)に印字領域(印刷ドット)を含むか否かを判定基準として追加設定する。再印刷データで上流側ラインデータWL1,WL2に印字領域が含まれる場合は、上述した通りの逆搬送処理B及び再印刷処理Cを実行する。再印刷データで上流側ラインデータWL1,WL2に印字領域が含まれない場合は、通常印刷処理Aにてスティッキング発生推定ラインSLがサーマルヘッド30に達した段階で、搬送制御部52が搬送用モータ駆動回路45にモータ停止信号を送信して、ステッピングモータ46を停止させる。ここで、搬送制御部52は、ステッピングモータ46を逆方向に回転駆動させる逆搬送信号を送信せず、ステッピングモータ46の停止を維持させる。この搬送停止は、スティッキングによる印刷不良の影響が解消されると判断されるまでの所定時間行われる。続いて、ヘッド制御部53は、再印刷データに基づく印刷信号をヘッド駆動回路44に送信し、ヘッド駆動回路44がサーマルヘッド30の各発熱素子30aを加熱制御して、スティッキング補完データUに基づく再印刷をスティッキング発生推定ラインSLに対して行う。
このように、上流側ラインTL1,TL2に印字領域が含まれていない場合に、逆搬送処理Bと上流側ラインTL1,TL2に対する再印刷とを行わず、スティッキング発生推定ラインSLへの再印刷のみを行うことで、逆搬送や一部の再印刷にかかる時間を節約して、印刷の生産性を向上させることができる。また、制御装置40における処理負担の軽減、ステッピングモータ46やサーマルヘッド30の駆動用電力の節約、といった効果も得られる。
つまり、制御装置40では、スティッキングの発生が推定される全ての場合で逆搬送処理B及び再印刷処理Cを行うのではなく、スティッキング発生推定ラインSLにおける印刷内容の有無や、上流側ラインTL(TL1,TL2)における再印刷内容の有無を判定基準に組み込んで、処理内容を変更することも可能である。
推定部50からスティッキング発生推定ラインデータが出力された場合(スティッキングの発生が推定される場合)や、逆搬送処理Bや再印刷処理Cを行った場合に、制御装置40は、表示装置駆動回路43に表示信号を出力して、スティッキングの発生状況やそれに対応するべく実行した処理内容に関する情報表示を、表示装置13に行わせてもよい。このような報知を行うことで、ユーザーに印刷結果の確認を促すことができる。
以上のように構成された印刷装置10によれば、スティッキングの発生が推定される状況で、所定の再印刷データに基づく再印刷を該当箇所に対して行うことで、スティッキングに起因する印刷品質の低下を回避することができる。最初の印刷時におけるサーマルヘッド30の通電制御によってスティッキングの発生を防ぐという予防的対処ではなく、スティッキングが発生した場合のリカバリーとして対応するので、印刷環境や印字パターンによる影響を受けにくく、効果の確実性が高いという利点がある。また、再印刷データの生成や再印刷時のサーマルヘッド30の駆動は、複雑な回路構造を要さずに、比較的シンプルな演算や制御で行うことができる。
再印刷に関する被印刷媒体Mの搬送及び逆搬送については、搬送部の駆動源としてステッピングモータ46を用いることで、制御装置40にかかる処理負担の少ない制御で、高精度に搬送量を管理することができる。また、スティッキング発生推定ラインSLだけでなく、その直前に印刷される上流側ラインTL(TL1,TL2)を再印刷ラインに含めて再印刷データを生成することで、再印刷の際に、被印刷媒体Mの搬送誤差を起因とするスティッキング発生推定ラインSLの印刷位置のずれが、印刷品質に影響を及ぼしにくくできる。
図11及び図12のフローチャートを参照して、印刷装置10での印刷処理の流れを説明する。印刷装置10への印刷実行指示の入力によって、図11の印刷処理が開始される。制御装置40は、RAM42の印刷データ記憶部42aから取得した印刷データに基づいて、複数の印刷ラインのいずれにおいてスティッキングが発生するかを、推定部50で推定する(ステップS100)。スティッキングが発生すると推定される印刷ライン(スティッキング発生推定ライン)が存在する場合、推定部50は、当該スティッキング発生推定ラインを特定したスティッキング発生推定ラインデータを生成して、データ生成部51に出力する。
ステップS100の処理に、スティッキング発生推定ラインに印字領域が含まれているか否かの判定を含めてもよい。この場合、印刷データに含まれる各印刷ラインのラインデータを参照する。そして、スティッキング発生推定ラインに印字領域が含まれていない場合には、スティッキング発生推定ラインへの再印刷対策が不要であるという扱いにして、ステップS100ではスティッキング発生推定ラインデータを生成しないという処理にすることができる。
続いて、制御装置40は、印刷データのうち、未印字の状態にある先頭ラインのラインデータ(本通電用のラインデータ)を読み出して展開し、当該先頭ラインを現在ラインに設定する(ステップS101)。
また、搬送制御部52から搬送用モータ駆動回路45に搬送制御信号を送ってステッピングモータ46を正方向に回転駆動して、現在ラインがサーマルヘッド30に対応した位置になるように被印刷媒体Mを搬送する。この搬送の方向は、図7及び図8に示す搬送方向Fである。
続いて、制御装置40は、現在ラインがスティッキング発生推定ラインであり、且つスティッキング発生フラグが立っているか否かを判定する(ステップS102)。
現在ラインがスティッキング発生推定ラインであり、且つスティッキング発生フラグが立っている場合(ステップS102:YES)、再印刷準備処理に進む(ステップS200)。再印刷準備処理については後述する。
現在ラインがスティッキング発生推定ラインではない場合、あるいは、現在ラインがスティッキング発生推定ラインではあるがスティッキング発生フラグが立っていない場合(ステップS102:NO)、現在ラインデータに基づく印刷信号がヘッド制御部53からヘッド駆動回路44に送られ、サーマルヘッド30の各発熱素子30aへの通電制御によって、現在ラインの印字を実行する(ステップS103)。
ステップS103で印字を実行した現在ラインが、印刷データの最終ラインであるか否かを判定する(ステップS104)。最終ラインである場合には(ステップS104:YES)、図10のフローチャートから抜けて印刷処理を完了する。最終ラインではない場合には(ステップS104:NO)、印字完了ライン数のカウントを1つ増やしてライン更新処理を行い(ステップS105)、ステップS101に戻る。なお、ステップS103での印字対象がスティッキング発生推定ラインであった場合には、スティッキング発生フラグを立てると共に、ステップS105でのライン更新処理をスキップする。これにより、次回のステップS102での判定がYESになる。
図12は再印刷準備処理(ステップS200)を示している。ステップS102の判定の結果、現在ラインがスティッキング発生推定ラインであり、且つスティッキング発生フラグが立っている場合に、再印刷準備処理に入る。
再印刷処理に入ると、現在ラインに対するスティッキング発生フラグをクリアする(ステップS201)。そして、搬送制御部52から搬送用モータ駆動回路45に停止信号を送って、ステッピングモータ46を停止させる(ステップS202)。これにより、搬送方向F(図7及び図8)への被印刷媒体Mの搬送が停止される。
続いて、搬送制御部52から搬送用モータ駆動回路45に逆搬送信号を送って、ステッピングモータ46を逆方向に回転駆動させ、被印刷媒体Mを逆搬送方向R(図7及び図8)に搬送する(ステップS203)。ここでの逆搬送方向Rへの搬送量は、データ生成部51(ライン数設定部56)で設定した上流側ラインの数に対応したものになる。例えば、上流側ラインの数が2つ(TL1,TL2)である図9及び図10に示す設定例の場合、逆搬送方向Rへの搬送量は2ライン分となる。
続いて、印刷データ更新処理を行う(ステップS300)。印刷データ更新処理では、再印刷対象箇所(逆搬送した箇所)のラインについて、RAM42の印刷データ記憶部42aから取得した元の印刷データを、制御装置40のデータ生成部51で生成した再印刷データに変更する。より詳しくは、現在ライン位置を上流側に1つ遡らせるライン更新処理を行い(ステップS301)、現在ラインに対して、再印刷データのうち対応するラインのデータを読み出して再印刷用のラインデータとして設定する。
再印刷の対象である上流側ラインが複数設定されている場合は、以上の印刷データ更新処理を繰り返して、全ての上流側ラインで再印刷用のラインデータへの更新を行う。例えば、図9及び図10に示す再印刷データの設定例の場合、上流側ラインTL2について上流側ラインデータWL2を設定し、上流側ラインTL1について上流側ラインデータWL1を設定する。
印刷データ更新処理が完了したら、図12のフローチャートから抜けて、図11のステップS101に戻る。そして、上流側ラインからスティッキング発生推定ラインにかけて、再印刷データに基づく再印刷(ステップS101、S103)が順次実行される。なお、再印刷準備処理のステップS201でスティッキング発生フラグをクリアしているので、再印刷の実行時には、ステップS102での判定はNOとなり、再印刷準備処理には進まない。
スティッキング発生推定ラインまでの再印刷が完了したら、スティッキング発生推定ライン以降(下流側)の各ラインに対して、元の印刷データに基づく印刷が引き続いて実行される。
以上に説明した実施形態では、初回の印刷時にスティッキング発生推定ラインSLまでの印刷(通常印刷処理A)を行い、当該状態から必要に応じて、逆搬送方向Rへの被印刷媒体Mの移動(逆搬送処理B)と、スティッキング発生推定ラインSLを含む部分への再印刷(再印刷処理C)とを行っている。これとは別の形態として、スティッキング発生推定ラインSLの直前の印刷ライン(以下、直前ラインとする)まで印刷位置が達すると、被印刷媒体Mを逆搬送方向Rに移動させてから、直前ラインを含む上流側ライン(単数又は複数)への再印刷と、スティッキング発生推定ラインSLへの印刷とを行うようにすることも可能である。つまり、被印刷媒体Mの逆搬送後のスティッキング発生推定ラインSLへの印刷が、再印刷ではなく初回の印刷になる点で、上記実施形態とは異なっている。
この別形態の印刷処理の例を、図13のフローチャートに示した。図13における各ステップS400、S401、S404、S405については、図11における上述の各ステップS100、S101、S104、S105と同様の処理であり、詳細な説明を省略する。ステップS402では、現在ラインがスティッキング発生推定ラインの直前位置の直前ラインであり、且つスティッキング回避フラグが立っているか否かを判定する。上記実施形態における上流側ラインTL2の箇所(図9及び図10参照)が直前ラインとなる。現在ラインが直前ラインであり、且つスティッキング回避フラグが立っている場合(ステップS402:YES)、再印刷準備処理に進む(ステップS500)。
現在ラインが直前ラインではない場合、あるいは、現在ラインが直前ラインではあるがスティッキング回避フラグが立っていない場合(ステップS402:NO)、現在ラインデータに基づく印刷信号がヘッド制御部53からヘッド駆動回路44に送られ、サーマルヘッド30の各発熱素子30aへの通電制御によって、現在ラインの印字を実行する(ステップS403)。ステップS403での印字対象が直前ラインであった場合には、スティッキング回避フラグを立てると共に、ステップS405でのライン更新処理をスキップする。これにより、次回のステップS402での判定がYESになる。
ステップS500の再印刷準備処理は、上述したステップS200の再印刷準備処理とほぼ同様の処理になる。具体的には、スティッキング回避フラグのクリア(図12のステップS201に相当)により、後の再印刷時に直前ラインに達した際に、ステップS402での判定がNOになって、直前ラインの印字(ステップS403)に進むようになる。
逆搬送処理(図12のステップS203に相当)では、再印刷の対象となる上流側ラインの数に応じた分の逆搬送を行う。この上流側ラインには、少なくとも直前ラインが含まれる。環境温度や印字内容などに応じて、直前ラインよりも上流側の別の印刷ラインを含めて、複数の上流側ラインを設定してもよい。
印刷データ更新処理(図12のステップS300に相当)では、再印刷対象箇所(逆搬送した箇所)である上流側ラインについて、RAM42の印刷データ記憶部42aから取得した元の印刷データを、制御装置40のデータ生成部51で生成した再印刷データに変更する。スティッキング発生推定ラインが再印刷対象箇所に含まれない点で、上記実施形態とは異なる。しかし、スティッキング発生推定ラインについては、上記実施形態においても、元の印刷ラインデータVL3と再印刷データ中のスティッキング補完データUは共通の内容であるため、実質的には上記実施形態と同様のデータ処理での対応が可能である。
そして、上流側ライン(直前ラインを含む)からスティッキング発生推定ラインにかけての各ラインに印刷を行う(S403)。逆搬送後の再印刷となる上流側ラインでは、再印刷データに基づいて、サーマルヘッド30の温度低下を抑制する内容で印刷が行われるので、印刷位置がスティッキング発生推定ラインに達した際にスティッキングの発生が防止されて、確実に印刷することができる。なお、直前ラインまでの範囲は初回の印刷時に適切に印刷されているので、再印刷時に元の印刷データとは異なる再印刷データに基づく印刷を行っても、印刷品質を維持できる。
初回の印刷時に、スティッキング発生推定ラインまで印刷を進めてから逆搬送処理を行う上記実施形態に対して、別形態では、スティッキング発生推定ラインの直前まで印刷が達したら逆搬送処理を行う。つまり、上記実施形態では、スティッキングが発生した場合に対応するべく、再印刷対象箇所にスティッキング発生推定ラインを含んでいる。これに対して別形態では、スティッキングの発生を予め防ぎながら、スティッキング発生推定ラインへの初回の印刷を行うという相違がある。
但し、上記実施形態と別形態はいずれも、再印刷データを適用した上流側ラインへの再印刷処理を経ることで、スティッキングを防止しながらスティッキング発生推定ラインの印刷(上記実施形態では再印刷、別形態では初回印刷)を実現するという点において共通している。つまり、印刷環境や印字パターンによっては、サーマルヘッドの通電制御などを工夫しても、一回の印刷のみで高品位な印字とスティッキング防止を両立させるのが困難な場合があるが、上記実施形態及び別形態によれば、このような問題を解決可能であり、スティッキングの発生が推定される箇所及びその周辺への高品位な印字を確実に実現できる。
以上のように、本実施の形態に係る印刷装置、印刷制御方法、及びプログラムによれば、スティッキングの発生が推定される部分への再印刷を行うことにより、スティッキングが発生しても優れた印刷品質を得ることができる。また、スティッキングの発生が推定される直前の部分まで印刷が達すると、印刷進行方向とは反対方向に戻してから(逆搬送してから)印刷を行うことにより、スティッキングの発生を抑制しながら印刷を進めて優れた印刷品質を得ることができる。
なお、上述した実施形態は、発明の理解を容易にするために具体例を示したものであり、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲において、さまざまな変形、変更が可能である。
上述の実施形態の印刷装置10は、一定の位置に支持されたサーマルヘッド30に対して、プラテンローラ32を含む搬送部によって被印刷媒体Mを搬送させることで、副走査方向でのサーマルヘッド30と被印刷媒体Mの相対位置を変化させている。長尺の帯状である被印刷媒体Mへの印刷では、このように被印刷媒体Mの側を搬送して印刷を実行することが適している。これに応じて、スティッキング発生時の再印刷の準備段階で、被印刷媒体Mを逆搬送方向R(印刷進行方向である搬送方向Fとは反対の方向)に搬送させている。但し、サーマルヘッドと被印刷媒体の相対位置を変化させる形態はこれに限定されない。例えば、感熱紙を被印刷媒体とし、この感熱紙に対して印字部であるサーマルヘッドを印刷進行方向に移動させながら印刷を行うタイプの印刷装置にも適用が可能である。この場合は、再印刷の準備段階で、サーマルヘッドを印刷進行方向とは反対方向に移動させて、サーマルヘッドの位置を上流側ラインに合わせることができる。
上述の実施形態では、再印刷データの概念を理解しやすくするために、スティッキング発生推定ラインSL用の再印刷ラインデータとして、スティッキング補完データUを設定している。しかし、スティッキング補完データUに含まれる印刷内容は、元の印刷データにおける印刷ラインデータVL3の印刷内容と同じである。従って、再印刷の準備段階(図12のフローチャート)において、スティッキング発生推定ラインSLの印刷データ更新については、元の印刷データにおける対応ラインの印刷ラインデータVL3をそのまま読み出して使用するという処理で成立する。
以下、本願の出願当初の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
[付記1]
複数の発熱素子を有し、前記発熱素子を発熱制御して被印刷媒体への印刷を行うサーマルヘッドと、
制御装置と、
を備え、前記サーマルヘッドと前記被印刷媒体との相対位置を印刷進行方向に変化させながら複数の印刷ラインを順次印刷する印刷装置であって、
前記制御装置は、
前記複数の印刷ラインのうち、スティッキングが発生する可能性があると推定されるスティッキング発生推定ラインを設定し、
前記印刷進行方向で前記サーマルヘッドによる印刷位置が前記スティッキング発生推定ラインに達すると、前記印刷進行方向とは反対方向に前記被印刷媒体と前記サーマルヘッドとの相対位置を変化させ、少なくとも前記スティッキング発生推定ラインを含む印刷ラインの再印刷を前記サーマルヘッドにより行わせることを特徴とする印刷装置。
[付記2]
前記制御装置は、
前記複数の印刷ラインのうち、前記スティッキング発生推定ラインの印刷内容と、前記スティッキング発生推定ラインに対して印刷順序の上流側に位置する少なくとも1つの上流側ラインの印刷内容と、を含む再印刷データを生成し、前記再印刷データに基づいて前記上流側ラインと前記スティッキング発生推定ラインの再印刷を行わせ、
前記再印刷データは、元の印刷データよりも、前記上流側ラインから前記スティッキング発生推定ラインまでを印刷する際の前記サーマルヘッドの温度低下を小さくする印刷内容であることを特徴とする付記1に記載の印刷装置。
[付記3]
前記制御装置は、前記元の印刷データよりも前記再印刷データで、前記上流側ラインにおける印字率を低くさせる、又は前記上流側ラインにおける連続する印字領域を減らすことを特徴とする付記2に記載の印刷装置。
[付記4]
前記制御装置は、前記元の印刷データで前記上流側ラインと前記スティッキング発生推定ラインの両方に共通して含まれる印字領域を、前記再印刷データでの前記上流側ラインの印字領域に含ませることを特徴とする付記2又は3に記載の印刷装置。
[付記5]
前記制御装置は、前記スティッキング発生推定ラインに印字領域が含まれない場合に、前記再印刷を実行させないことを特徴とする付記1から4のいずれかに記載の印刷装置。
[付記6]
前記制御装置は、前記再印刷データで前記上流側ラインに印字領域が含まれない場合に、前記印刷進行方向とは反対方向への前記被印刷媒体と前記サーマルヘッドとの相対位置の変更と、前記上流側ラインへの前記再印刷と、を実行させないことを特徴とする付記1から4のいずれかに記載の印刷装置。
[付記7]
前記被印刷媒体を搬送する搬送部を備え、
前記搬送部による前記被印刷媒体の搬送によって、前記印刷進行及び前記反対方向への前記サーマルヘッドと前記被印刷媒体との相対位置を変化させることを特徴とする付記1から6のいずれかに記載の印刷装置。
[付記8]
印刷装置のサーマルヘッドにより被印刷媒体に複数の印刷ラインを印刷させるための複数の印刷ラインデータを含む印刷データに基づいて、前記複数の印刷ラインのうち、スティッキングが発生する可能性があると推定されるスティッキング発生推定ラインを設定し、
前記スティッキング発生推定ラインが存在する場合に、前記スティッキング発生推定ラインまでの各印刷ラインの印刷を印刷進行方向に順次行い、前記印刷進行方向と反対方向に前記被印刷媒体と前記サーマルヘッドとの相対位置を変化させてから、少なくとも前記スティッキング発生推定ラインを含む印刷ラインへの再印刷を行うことを特徴とする印刷制御方法。
[付記9]
印刷装置が備えるコンピュータに、
サーマルヘッドにより被印刷媒体に複数の印刷ラインを印刷させるための複数の印刷ラインデータを含む印刷データに基づいて、前記複数の印刷ラインのうち、スティッキングが発生する可能性があると推定されるスティッキング発生推定ラインを設定させ、
前記スティッキング発生推定ラインが存在する場合に、前記スティッキング発生推定ラインまでの各印刷ラインの印刷を印刷進行方向に順次行わせ、前記印刷進行方向と反対方向に前記被印刷媒体と前記サーマルヘッドとの相対位置を変化させてから、少なくとも前記スティッキング発生推定ラインを含む印刷ラインへの再印刷を行わせることを特徴とするプログラム。
[付記10]
複数の発熱素子を有し、前記発熱素子を発熱制御して被印刷媒体への印刷を行うサーマルヘッドと、
制御装置と、
を備え、前記サーマルヘッドと前記被印刷媒体との相対位置を印刷進行方向に変化させながら複数の印刷ラインを順次印刷する印刷装置であって、
前記制御装置は、
前記複数の印刷ラインのうち、スティッキングが発生する可能性があると推定されるスティッキング発生推定ラインを設定し、
前記印刷進行方向で前記サーマルヘッドによる印刷位置が前記スティッキング発生推定ラインの直前に達すると、前記印刷進行方向とは反対方向に前記被印刷媒体と前記サーマルヘッドとの相対位置を変化させ、少なくとも前記スティッキング発生推定ラインを含む印刷ラインの印刷を前記サーマルヘッドにより行わせることを特徴とする印刷装置。