JP7099451B2 - 鉛蓄電池 - Google Patents

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Description

本発明は、鉛蓄電池に関する。
鉛蓄電池は、車載用、産業用の他、様々な用途で使用されている。鉛蓄電池は、負極電極材料を含む負極板を備える。鉛蓄電池の製造工程は、例えば、未化成の負極板を化成し、その後、水洗し、乾燥して、既化成(充電状態)の負極板(負極活物質)を得る工程を含む。しかし、既化成の負極板を作製してから、当該負極板を用いて鉛蓄電池を組み立て、鉛蓄電池に電解液を注入するまでの間に、負極電極材料に含まれる負極活物質が酸化により劣化する。特に、電池保管時には電槽内で既化成の正負極板が乾燥状態で保存され、電池使用の際に電解液を注入する即用式鉛蓄電池では、負極板が大気中に曝される期間が長いため、負極活物質の酸化劣化が進行しやすい。負極活物質の酸化劣化により、鉛蓄電池の初期放電性能が低下する。そこで、負極活物質の酸化を防ぐため、負極電極材料にオイルを含ませている(特許文献1)。
特開平11-354123号公報
鉛蓄電池は、部分充電状態(PSOC)と呼ばれる充電不足状態で使用されることがある。例えば、鉛蓄電池は、充電制御車やアイドリングストップ(IS)車などの、自動車もしくはバイクの始動用電源、または太陽光や風力のような自然エネルギーの貯蔵用途などの産業用蓄電装置として使用される場合は、PSOC状態で使用されることが多い。そのため、鉛蓄電池には、PSOCサイクルにおける高い寿命性能が求められる。
このような寿命性能の改善には、負極電極材料に添加されるカーボンブラックを増量することが効果的である。しかし、オイルは、カーボンブラックに吸着されるため、カーボンブラックを多量に添加すると、負極電極材料に含まれる負極活物質の酸化劣化が生じやすくなり、初期放電性能が低下する。初期放電性能の低下を抑制するためには、オイルを増量することが考えられる。しかし、オイルを多量に添加すると、充電受入性能が低下する。
このように、初期放電性能および充電受入性能を損なうことなく、PSOCサイクルにおける寿命性能を高めることは困難である。
本発明の一側面は、鉛蓄電池であって、前記鉛蓄電池は、負極板と、正極板とを備え、前記負極板は、炭素材料とオイルとを含有する負極電極材料を含み、前記炭素材料は、32μm以上の粒子径を有する第1炭素材料と、32μm未満の粒子径を有する第2炭素材料と、を含み、前記第1炭素材料の粉体抵抗R1に対する、前記第2炭素材料の粉体抵抗R2の比:R2/R1が、15以上155以下であり、前記負極電極材料中の前記オイルの含有量は、0.05質量%以上1質量%以下である。
本発明によれば、鉛蓄電池において、初期放電性能および充電受入性能を損なうことなく、PSOCサイクルにおける寿命性能を高めることができる。
本発明の実施形態に係る鉛蓄電池の外観と内部構造を示す、一部を切り欠いた分解斜視図である。
本発明の一側面は、鉛蓄電池であって、鉛蓄電池は、負極板と、正極板とを備え、負極板は、炭素材料とオイルとを含有する負極電極材料を含む。負極電極材料は、32μm以上の粒子径を有する第1炭素材料と、32μm未満の粒子径を有する第2炭素材料とを含む。第1炭素材料の粉体抵抗R1に対する、第2炭素材料の粉体抵抗R2の比:R2/R1が、15以上155以下である。負極電極材料中のオイルの含有量は、0.05質量%以上1質量%以下である。
少量のオイルとともに、粉体抵抗比が特定の範囲である、粒子径の異なる2種類の炭素材料を用いることで、PSOCサイクルにおける寿命性能(以下、PSOC寿命性能とも称する。)を高めることができる。粉体抵抗比が特定の範囲である、粒子径の異なる2種類の炭素材料を組み合わせて用いることで、オイルの添加量が0.05質量%以上1質量%以下の少量でも、負極活物質の酸化が十分に抑制され、高い初期放電性能が得られる。オイルの添加量が1質量%以下と少量であるため、オイル添加量の増大による充電受入性能の低下が回避される。
炭素材料には、様々な粉体抵抗を有するものが知られている。粉末材料の粉体抵抗は、粒子の形状、粒子径、粒子の内部構造、および/または粒子の結晶性などにより変化することが知られている。従来の技術常識では、炭素材料の粉体抵抗は、負極板の抵抗には直接的な関係はなく、PSOC寿命性能および初期放電性能に対して影響を及ぼすとは考えられていない。
それに対し、本発明の上記側面によれば、少量のオイルとともに、粉体抵抗比が特定の範囲である、粒子径の異なる第1炭素材料と第2炭素材料とを組み合わせて用いることで、初期放電性能が高められる。これは、第2炭素材料へのオイルの吸着が顕在化することが抑制され、オイルが少量でも、オイルによる効果が十分に発揮されることによるものと考えられる。
本発明の上記側面では、負極板に含まれる第1炭素材料と第2炭素材料との粉体抵抗比R2/R1を15~155の範囲に制御することで、高いPSOC寿命性能を得ることができる。これは、次のような理由によるものと推測される。まず、粉体抵抗比R2/R1を上記の範囲に制御することで、負極電極材料中に導電ネットワークが形成され易くなる。さらに、オイル含有量を0.05質量%以上1質量%以下に制御することで、導電ネットワークの形成に悪影響を及ぼすことなく、負極活物質の酸化が抑制される。負極活物質の酸化が抑制されるため、導電ネットワークの機能が十分に発揮される。また、オイルが少量であるため、導電ネットワークの形成に悪影響を及ぼすことがなく、形成された導電ネットワークが、PSOCサイクルを行なっても維持され易くなる。
(オイル)
オイルとしては、パラフィン系オイル、ナフテン系オイル、オレフィン系オイル、芳香族系オイル、シリコーン系オイルなどを例示することができる。市販のオイルは、酸化防止剤などの各種添加剤を含む。各種添加剤は、通常用いられている範囲内で適量含まれているものを用いることができる。
負極電極材料中のオイルの含有量は、0.05質量%以上1質量%以下である。この場合、優れたPSOC寿命性能、初期放電性能、および充電受入性能が得られる。負極電極材料中のオイルの含有量が0.05質量%未満である場合、初期放電性能が低下する。負極電極材料中のオイルの含有量が1質量%超である場合、充電受入性能が低下する。負極電極材料中のオイルの含有量は、0.05質量%以上0.5質量%以下であることが好ましい。この場合、PSOC寿命性能および充電受入性能が、さらに向上する。
なお、上記の負極電極材料中のオイルの含有量は、化成、水洗、乾燥の工程を経た後の既化成の負極板(鉛蓄電池に電解液を注入する前)に含まれる負極電極材料に占めるオイルの質量割合である。即用式鉛蓄電池の場合、電池保管時における負極電極材料中のオイル含有量である。
以下、負極電極材料中のオイルの含有量の測定について説明する。
(A)オイルの含有量の測定
化成、水洗、乾燥の工程を経た後の既化成の負極板から負極電極材料を分離する。または、電解液を注入する前の鉛蓄電池を分解して既化成の負極板を取り出し、当該負極板から負極電極材料を分離する。負極電極材料を粉砕して、質量Maの試料粉末を得る。試料粉末にノルマルヘキサンを加えて試料液を得る。試料液を65℃で1時間加熱する。その後、試料液をろ過し、ろ液を得る。ろ液を65℃で1時間加熱し、残渣を得る。残渣を秤量し、これをオイルの質量Mbとする。上記のMa、Mbを用いて、下記式より、負極電極材料中のオイルの含有量を求める。
負極電極材料中のオイルの含有量(%)=(質量Mb/質量Ma)×100
また、電解液が注入された鉛蓄電池(即用式鉛蓄電池以外)であっても、未使用の鉛蓄電池である場合は、以下の手順により負極電極材料中のオイルの含有量を求める。
電解液が注入された鉛蓄電池から負極板を取り出し、水洗により硫酸分を除去し、真空乾燥(大気圧より低い圧力下で乾燥)する。その後、負極板から負極電極材料を分離し、既述の手法で、負極電極材料中のオイル含有量を求める。
上記の未使用の電池では、負極板中のオイルは電解液中にほとんど流出しない。ただし、電池を長期間放置する場合、電池(負極板)の状態が変わる可能性があるため、上記の未使用の電池は、製造直後(製造から1か月以内)の電池とする。
(炭素材料)
炭素材料は、32μm以上の粒子径を有する第1炭素材料と、32μm未満の粒子径を有する第2炭素材料と、を含む。第1炭素材料と第2炭素材料とは、後述する手順で分離され、区別される。
各炭素材料としては、例えば、カーボンブラック、黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボンなどが挙げられる。カーボンブラックとしては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、ランプブラックなどが例示される。黒鉛としては、黒鉛型の結晶構造を含む炭素材料であればよく、人造黒鉛、天然黒鉛のいずれであってもよい。
なお、第1炭素材料のうち、ラマンスペクトルの1300cm-1以上1350cm-1以下の範囲に現れるピーク(Dバンド)と1550cm-1以上1600cm-1以下の範囲に現れるピーク(Gバンド)との強度比I/Iが、0以上0.9以下であるものを、黒鉛とする。
第1炭素材料および第2炭素材料は、第1炭素材料の粉体抵抗R1に対する、第2炭素材料の粉体抵抗R2の比:R2/R1が15~155となるように、各炭素材料の種類を選択したり、各炭素材料の粒子径、比表面積、および/またはアスペクト比などを調節したりすればよい。
第1炭素材料としては、例えば、黒鉛、ハードカーボン、およびソフトカーボンからなる群より選択される少なくとも一種が好ましい。特に、第1炭素材料は、少なくとも黒鉛を含むことが好ましい。第2炭素材料は、少なくともカーボンブラックを含むことが好ましい。これらの炭素材料を用いると、粉体抵抗比R2/R1を調節しやすい。
粉体抵抗比R2/R1が15以上155以下である場合、優れたPSOC寿命性能、初期放電性能、および充電受入性能が得られる。粉体抵抗比R2/R1は、好ましくは55以上155以下であり、より好ましくは55以上130以下である。この場合、優れたPSOC寿命性能、初期性能、および充電受入性能がよりバランス良く得られる。
第1炭素材料の比表面積S1に対する、第2炭素材料の比表面積S2の比:S2/S1は、例えば、10以上であり、550以下である。比表面積比S2/S1は、20以上240以下であることが好ましい。この場合、優れたPSOC寿命性能、初期放電性能、および充電受入性能がバランス良く得られる。S2/S1が20以上である場合、各炭素材料の比表面積が適度な範囲であることで、オイルの吸着がさらに抑制される。その結果、初期放電性能がさらに向上する。S2/S1が240以下である場合、硫酸鉛の還元反応が進行し易いため、高いPSOC寿命性能を確保しつつ、充電受入性能がさらに向上する。
第1炭素材料の平均アスペクト比は、例えば、1以上であり、200以下である。第1炭素材料の平均アスペクト比は、好ましくは1以上であり、さらに好ましくは1.5以上である。また、好ましくは100以下であり、より好ましくは35以下、さらに好ましくは30以下である。これらの上限、下限は任意に組み合わせできる。
第1炭素材料の平均アスペクト比が1.5以上30以下である場合、良好な初期放電性能および充電受入性能を維持しつつ、PSOC寿命性能をさらに高めることができる。これは、平均アスペクト比がこのような範囲である場合、負極電極材料中で導電ネットワークが形成され易くなるとともに、形成された導電ネットワークが維持され易いことによるものと考えられる。
また、第1炭素材料の平均アスペクト比が1.5以上の場合には、充放電の繰り返しに伴う炭素材料の電解液への流出が抑制されるため、PSOC寿命性能の向上効果をさらに大きくすることができる。また、第1炭素材料の平均アスペクト比が30以下の場合には、活物質粒子同士の密着性を確保し易くなるため、負極板におけるひびの発生が抑制され、寿命性能の低下を抑制できる。
優れたPSOC寿命性能、初期放電性能、および充電受入性能がバランス良く得られる観点から、第1炭素材料の平均アスペクト比は、より好ましくは5以上30以下、さらに好ましくは10以上30以下である。
負極電極材料中の第1炭素材料の含有量は、例えば、0.05質量%以上3.0質量%以下である。好ましくは0.1質量%以上であり、さらに好ましくは0.4質量%以上である。また、好ましくは2.0質量%以下であり、さらに好ましくは2.0質量%以下である。これらの上限、下限は任意に組み合わせられる。負極電極材料中の第1炭素材料の含有量が0.05質量%以上である場合、PSOC寿命性能の向上効果をさらに高めることができる。負極電極材料中の第1炭素材料の含有量が3.0質量%以下である場合、活物質粒子同士の密着性を確保し易くなるため、負極板におけるひびの発生が抑制され、高いPSOC寿命性能の確保がさらに容易になる。
負極電極材料中の第2炭素材料の含有量は、例えば、0.03質量%以上3.0質量%以下である。好ましくは0.05質量%以上である。また、好ましくは1.0質量%以下であり、さらに好ましくは0.5質量%以下である。これらの上限、下限は任意に組み合わせられる。負極電極材料中の第2炭素材料の含有量が0.03質量%以上である場合、PSOC寿命性能をさらに高めることができる。負極電極材料中の第2炭素材料の含有量が3.0質量%以下である場合、オイルの吸着がさらに抑制されることで、初期放電性能をさらに高めることができる。
負極電極材料中の各炭素材料の含有量は、後述の(B-1)の手順で求められる。
炭素材料の物性の決定方法または分析方法について以下に説明する。
(B)炭素材料の分析
(B-1)炭素材料の分離
既化成の正負極板を備えた、電解液を注入する前の鉛蓄電池である場合、当該電池を解体し、乾燥状態の既化成の負極板を取り出す。また、既化成の正負極板を備えた、電解液を注入した鉛蓄電池であって、製造直後(製造から1か月以内)の未使用の鉛蓄電池である場合、当該電池を解体し、既化成の負極板を取り出し、水洗により硫酸を除去し、真空乾燥(大気圧より低い圧力下で乾燥)する。次に、乾燥した負極板から負極電極材料を採取し、粉砕する。5gの粉砕試料に、60質量%濃度の硝酸水溶液30mLを加えて、70℃で加熱する。さらに、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム10g、28質量%濃度のアンモニア水30mL、および水100mLを加えて、加熱を続け、可溶分を溶解させる。このようにして前処理を行なった試料を、ろ過により回収する。回収した試料を、目開き500μmのふるいにかけて、補強材などのサイズが大きな成分を除去して、ふるいを通過した成分を炭素材料として回収する。
回収した炭素材料を、目開き32μmのふるいを用いて湿式にて篩ったときに、ふるいの目を通過せずに、ふるい上に残るものを第1炭素材料とし、ふるいの目を通過するものを第2炭素材料とする。つまり、各炭素材料の粒子径は、ふるいの目開きのサイズを基準とするものである。湿式のふるい分けについては、JIS Z8815:1994を参照できる。
具体的には、炭素材料を、目開き32μmのふるい上に載せ、イオン交換水を散水しながら、5分間ふるいを軽く揺らして篩い分けする。ふるい上に残った第1炭素材料は、イオン交換水を流しかけてふるいから回収し、ろ過によりイオン交換水から分離する。ふるいを通過した第2炭素材料は、ニトロセルロース製のメンブランフィルター(目開き0.1μm)を用いてろ過により回収する。回収された第1炭素材料および第2炭素材料は、それぞれ、110℃の温度で2時間乾燥させる。目開き32μmのふるいとしては、JIS Z 8801-1:2006に規定される、公称目開きが32μmであるふるい網を備えるものを使用する。
なお、負極電極材料中の各炭素材料の含有量は、上記の手順で分離した各炭素材料の質量を測り、この質量の、5gの粉砕試料中に占める比率(質量%)を算出することにより求める。
(B-2)炭素材料の粉体抵抗
第1炭素材料の粉体抵抗R1および第2炭素材料の粉体抵抗R2は、上記(B-1)の手順で分離された第1炭素材料および第2炭素材料のそれぞれについて、粉体抵抗測定システム((株)三菱化学アナリテック製、MCP-PD51型)に、試料を0.5g投入し、圧力3.18MPa下で、JIS K 7194:1994に準拠した低抵抗抵抗率計((株)三菱化学アナリテック製、ロレスタ-GX MCP-T700)を用いて、四探針法により測定される値である。
(B-3)炭素材料の比表面積
第1炭素材料の比表面積S1および第2炭素材料の比表面積S2は、第1炭素材料および第2炭素材料のそれぞれのBET比表面積である。BET比表面積は、上記(B-1)の手順で分離された第1炭素材料および第2炭素材料のそれぞれを用いて、ガス吸着法により、BET式を用いて求められる。各炭素材料は、窒素フロー中、150℃の温度で、1時間加熱することにより前処理される。前処理した炭素材料を用いて、下記の装置にて、下記の条件により、各炭素材料のBET比表面積が求められる。
測定装置:マイクロメリティックス社製 TriStar3000
吸着ガス:純度99.99%以上の窒素ガス
吸着温度:液体窒素沸点温度(77K)
BET比表面積の計算方法:JIS Z 8830:2013の7.2に準拠
(B-4)第1炭素材料の平均アスペクト比
上記(B-1)の手順で分離された第1炭素材料を、光学顕微鏡または電子顕微鏡で観察し、任意の粒子を10個以上選択して、その拡大写真を撮影する。次に、各粒子の写真を画像処理して、粒子の最大径d1、およびこの最大径d1と直交する方向における最大径d2を求め、d1をd2で除することにより、各粒子のアスペクト比を求める。得られたアスペクト比を、平均化することにより平均アスペクト比を算出する。
以下、本発明の実施形態に係る鉛蓄電池について、主要な構成要件ごとに説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
(負極板)
鉛蓄電池の負極板は、負極電極材料を含む。負極板は、通常、負極格子(負極集電体)と、負極電極材料とで構成できる。なお、負極電極材料は、負極板から負極集電体を除いたものである。
なお、負極板には、マット、ペースティングペーパなどの部材が貼り付けられていることがある。負極板がこのような部材(貼付部材)を含む場合には、負極電極材料は、負極集電体および貼付部材を除いたものである。ただし、電極板の厚みはマットを含む厚みとする。セパレータにマットが貼りつけられている場合は、マットの厚みはセパレータの厚みに含まれる。
負極電極材料は、好ましくは酸化還元反応により容量を発現する負極活物質(鉛もしくは硫酸鉛)を含む。充電状態の負極活物質は、海綿状鉛であるが、未化成の負極板は、通常、鉛粉を用いて作製される。負極電極材料は、既述の炭素材料とオイルとを含む。負極電極材料は、さらに、有機防縮剤、硫酸バリウムなどを含んでもよく、必要に応じて、他の添加剤を含んでもよい。有機防縮剤には、リグニン(リグニンスルホン酸またはその塩)などが用いられる。
負極電極材料中に含まれる有機防縮剤の含有量は、例えば0.01質量%以上が好ましく、0.02質量%以上がより好ましく、0.05質量%以上が更に好ましい。一方、1.0質量%以下が好ましく、0.8質量%以下がより好ましく、0.5質量%以下が更に好ましい。これらの下限値と上限値とは任意に組み合わせることができる。ここで、負極電極材料中に含まれる有機防縮剤の含有量とは、既化成の満充電状態の鉛蓄電池から、後述の方法で採取した負極電極材料における含有量である。
負極電極材料中の硫酸バリウムの含有量は、例えば0.1質量%以上が好ましく、0.2質量%以上がより好ましく、0.5質量%以上でもよく、1.0質量%以上でもよく、1.3質量%以上でもよい。一方、3.0質量%以下が好ましく、2.5質量%以下がより好ましく、2質量%以下が更に好ましい。これらの下限値と上限値とは任意に組み合わせることができる。
以下、負極電極材料に含まれる有機防縮剤、および硫酸バリウムの定量方法について記載する。定量分析に先立ち、化成後の鉛蓄電池を満充電してから解体して分析対象の負極板を入手する。入手した負極板に水洗と乾燥とを施して負極板中の電解液を除く。次に、負極板から負極電極材料を分離して未粉砕の初期試料を入手する。
[有機防縮剤]
未粉砕の初期試料を粉砕し、粉砕された初期試料を1mol/LのNaOH水溶液に浸漬し、有機防縮剤を抽出する。抽出された有機防縮剤を含むNaOH水溶液から不溶成分を濾過で除く。得られた濾液(以下、分析対象濾液とも称する。)を脱塩した後、濃縮し、乾燥すれば、有機防縮剤の粉末(以下、分析対象粉末とも称する。)が得られる。脱塩は、濾液を透析チューブに入れて蒸留水中に浸して行えばよい。
分析対象粉末の赤外分光スペクトル、分析対象粉末を蒸留水等に溶解して得られる溶液の紫外可視吸収スペクトル、分析対象粉末を重水等の溶媒に溶解して得られる溶液のNMRスペクトル、物質を構成している個々の化合物の情報を得ることができる熱分解GC-MSなどから情報を得ることで、有機防縮剤を特定する。
上記分析対象濾液の紫外可視吸収スペクトルを測定する。スペクトル強度と予め作成した検量線とを用いて、負極電極材料中の有機防縮剤の含有量を定量する。分析対象の有機防縮剤の構造式の厳密な特定ができず、同一の有機防縮剤の検量線を使用できない場合は、分析対象の有機防縮剤と類似の紫外可視吸収スペクトル、赤外分光スペクトル、NMRスペクトルなどを示す、入手可能な有機防縮剤を使用して検量線を作成する。
[硫酸バリウム]
未粉砕の初期試料を粉砕し、粉砕された初期試料10gに対し、(1+2)硝酸を50ml加え、約20分加熱し、鉛成分を硝酸鉛として溶解させる。次に、硝酸鉛を含む溶液を濾過して、炭素質材料、硫酸バリウム等の固形分を濾別する。
得られた固形分を水中に分散させて分散液とした後、篩いを用いて分散液から炭素質材料および硫酸バリウム以外の成分(例えば補強材)を除去する。次に、分散液に対し、予め質量を測定したメンブレンフィルターを用いて吸引ろ過を施し、濾別された試料とともにメンブレンフィルターを110℃の乾燥器で乾燥する。濾別された試料は、炭素質材料と硫酸バリウムとの混合試料である。乾燥後の混合試料とメンブレンフィルターとの合計質量からメンブレンフィルターの質量を差し引いて、混合試料の質量(A)を測定する。その後、乾燥後の混合試料をメンブレンフィルターとともに坩堝に入れ、700℃以上で灼熱灰化させる。残った残渣は酸化バリウムである。酸化バリウムの質量を硫酸バリウムの質量に変換して硫酸バリウムの質量(B)を求める。
負極集電体は、鉛(Pb)または鉛合金の鋳造により形成してもよく、鉛または鉛合金シートを加工して形成してもよい。加工方法としては、例えば、エキスパンド加工や打ち抜き(パンチング)加工が挙げられる。
負極集電体に用いる鉛合金は、Pb-Sb系合金、Pb-Ca系合金、Pb-Ca-Sn系合金のいずれであってもよい。これらの鉛もしくは鉛合金は、更に、添加元素として、Ba、Ag、Al、Bi、As、Se、Cuなどからなる群より選択された少なくとも1種を含んでもよい。
負極板は、負極集電体に負極ペーストを充填し、熟成および乾燥することにより未化成の負極板を作製し、その後、未化成の負極板を化成することにより形成できる。化成により、海綿状鉛が生成する。負極ペーストは、鉛粉と有機防縮剤および必要に応じて各種添加剤に、水と硫酸を加えて混練することで作製する。熟成する際には、室温より高温かつ高湿度で、未化成の負極板を熟成させることが好ましい。
(正極板)
鉛蓄電池の正極板には、ペースト式とクラッド式がある。
ペースト式正極板は、正極集電体と、正極電極材料とを具備する。正極電極材料は、正極集電体に保持されている。正極集電体は、負極集電体と同様に形成すればよく、鉛または鉛合金の鋳造や、鉛または鉛合金シートの加工により形成することができる。
クラッド式正極板は、複数の多孔質のチューブと、各チューブ内に挿入される芯金と、芯金を連結する集電部と、芯金が挿入されたチューブ内に充填される正極電極材料と、複数のチューブを連結する連座とを具備する。芯金と芯金を連結する集電部とを合わせて正極集電体と呼ぶ。
正極集電体に用いる鉛合金としては、耐食性および機械的強度の点で、Pb-Ca系合金、Pb-Ca-Sn系合金が好ましい。正極集電体は、組成の異なる鉛合金層を有してもよく、合金層は複数でもよい。芯金には、Pb-Ca系合金、Pb-Sb系合金などが用いられる。
正極電極材料は、酸化還元反応により容量を発現する正極活物質(二酸化鉛もしくは硫酸鉛)を含む。正極電極材料は、必要に応じて、他の添加剤を含んでもよい。
未化成のペースト式正極板は、負極板の場合に準じて、正極集電体に、正極ペーストを充填し、熟成、乾燥することにより得られる。その後、未化成の正極板を化成する。正極ペーストは、鉛粉、添加剤、水、硫酸を練合することで調製される。熟成する際には、室温より高温かつ高湿度で、未化成の正極板を熟成させることが好ましい。
クラッド式正極板は、芯金が挿入されたチューブに鉛粉または、スラリー状の鉛粉を充填し、複数のチューブを連座で結合することにより形成される。
(セパレータ)
負極板と正極板との間には、通常、セパレータが配置される。セパレータには、不織布、微多孔膜などが用いられる。負極板と正極板との間に介在させるセパレータの厚さや枚数は、極間距離に応じて選択すればよい。
不織布は、繊維を織らずに絡み合わせたマットであり、繊維を主体とする。例えば、セパレータの60質量%以上が繊維で形成されている。繊維としては、ガラス繊維、ポリマー繊維(ポリオレフィン繊維、アクリル繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維などのポリエステル繊維など)、パルプ繊維などを用いることができる。中でも、ガラス繊維が好ましい。不織布は、繊維以外の成分、例えば耐酸性の無機粉体、結着剤としてのポリマーなどを含んでもよい。
一方、微多孔膜は、繊維成分以外を主体とする多孔性のシートであり、例えば、造孔剤(ポリマー粉末および/またはオイルなど)を含む組成物をシート状に押し出し成形した後、造孔剤を除去して細孔を形成することにより得られる。微多孔膜は、耐酸性を有する材料で構成することが好ましく、ポリマー成分を主体とするものが好ましい。ポリマー成分としては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィンが好ましい。
セパレータは、例えば、不織布のみで構成してもよく、微多孔膜のみで構成してもよい。また、セパレータは、必要に応じて、不織布と微多孔膜との積層物、異種または同種の素材を貼り合わせた物、または異種または同種の素材において凹凸をかみ合わせた物などであってもよい。
(電解液)
電解液は、硫酸を含む水溶液であり、必要に応じてゲル化させてもよい。化成後で満充電状態の鉛蓄電池における電解液の20℃における比重は、例えば1.10~1.35g/cm3であり、1.20~1.35g/cm3であることが好ましい。
一般的には、未化成の正負極板を用いて極板群を構成し、電槽内に収納した後、電槽内に電解液を注入し、未化成の正負極板を化成する。一方、即用式鉛蓄電池の場合、既化成の正負極板を用いて極板群を構成し、電槽内に収納する。電池保管時には電槽内で既化成の正負極板が乾燥状態で保存されているので、電槽内に電解液を注入して電池を使用する。負極電極材料に含まれるオイルにより、電解液を注入するまでの保存期間に生じる負極活物質の酸化劣化が抑制される。
図1に、本発明の実施形態に係る鉛蓄電池の一例の外観を示す。
鉛蓄電池1は、極板群11と電解液(図示せず)とを収容する電槽12を具備する。電槽12内は、隔壁13により、複数のセル室14に仕切られている。各セル室14には、極板群11が1つずつ収納されている。電槽12の開口部は、負極端子16および正極端子17を具備する蓋15で密閉されている。蓋15には、セル室毎に液口栓18が設けられている。補水の際には、液口栓18を外して補水液が補給される。液口栓18は、セル室14内で発生したガスを電池外に排出する機能を有してもよい。
極板群11は、それぞれ複数枚の負極板2および正極板3を、セパレータ4を介して積層することにより構成されている。ここでは、負極板2を収容する袋状セパレータ4を示すが、セパレータの形態は特に限定されない。電槽12の一方の端部に位置するセル室14では、複数の負極板2の耳部2aを並列接続する負極棚部6が貫通接続体8に接続され、複数の正極板3の耳部3aを並列接続する正極棚部5が正極柱7に接続されている。正極柱7は蓋15の外部の正極端子17に接続されている。電槽12の他方の端部に位置するセル室14では、負極棚部6に負極柱9が接続され、正極棚部5に貫通接続体8が接続される。負極柱9は蓋15の外部の負極端子16と接続されている。各々の貫通接続体8は、隔壁13に設けられた貫通孔を通過して、隣接するセル室14の極板群11同士を直列に接続している。
本発明の一側面に係る鉛蓄電池用負極板を以下にまとめて記載する。
(1)本発明の一側面は、鉛蓄電池であって、
前記鉛蓄電池は、負極板と、正極板と、を備え、
前記負極板は、炭素材料とオイルとを含有する負極電極材料を含み、
前記炭素材料は、32μm以上の粒子径を有する第1炭素材料と、32μm未満の粒子径を有する第2炭素材料と、を含み、
前記第1炭素材料の粉体抵抗R1に対する、前記第2炭素材料の粉体抵抗R2の比:R2/R1が、15以上155以下であり、
前記負極電極材料中の前記オイルの含有量は、0.05質量%以上1質量%以下である、鉛蓄電池である。
(2)上記(1)において、前記第1炭素材料の比表面積S1に対する、前記第2炭素材料の比表面積S2の比:S2/S1は、20以上であることが好ましい。
(3)上記(1)または(2)において、前記第1炭素材料の比表面積S1に対する、前記第2炭素材料の比表面積S2の比:S2/S1は、240以下であることが好ましい。
(4)上記(1)~(3)のいずれか1つにおいて、前記第1炭素材料の平均アスペクト比は、1.5以上であることが好ましい。
(5)上記(1)~(4)のいずれか1つにおいて、前記第1炭素材料の平均アスペクト比は、30以下であることが好ましい。
(6)上記(1)~(5)のいずれか1つにおいて、前記負極電極材料中の前記第1炭素材料の含有量は、0.05質量%以上であることが好ましい。
(7)上記(1)~(6)のいずれか1つにおいて、前記負極電極材料中の前記第1炭素材料の含有量は、3.0質量%以下であることが好ましい。
(8)上記(1)~(7)のいずれか1つにおいて、前記負極電極材料中の前記第2炭素材料の含有量は、0.03質量%以上であることが好ましい。
(9)上記(1)~(8)のいずれか1つにおいて、前記負極電極材料中の前記第2炭素材料の含有量は、1.0質量%以下であることが好ましい。
(10)上記(1)~(9)のいずれか1つにおいて、前記第1炭素材料は、少なくとも黒鉛を含み、前記第2炭素材料は、少なくともカーボンブラックを含むことが好ましい。
以下に、本発明を実施例および比較例に基づいて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
《鉛蓄電池A1》
(1)負極板の作製
鉛粉、水、希硫酸、硫酸バリウム、有機防縮剤、炭素材料、およびオイルを混合して、負極ペーストを得る。負極ペーストを、Pb-Ca-Sn系合金製のエキスパンド格子の網目部に充填し、熟成、乾燥し、未化成の負極板を得る。炭素材料としては、カーボンブラック(平均粒子径D50:40nm)および黒鉛(平均粒子径D50:110μm)を用いる。未化成の負極板を化成し、その後、水洗および乾燥して、既化成の負極板を得る。
オイルには、パラフィン系オイルを用いる。オイルは、既化成の負極板の負極電極材料100質量%に含まれるオイルの含有量が0.5質量%となるように、添加量を調整して、負極ペーストに配合する。なお、添加量の調整は、化成およびその後の水洗工程で、負極板からオイルが少量流出することを考慮して行う。
(2)正極板の作製
鉛粉と、水と、硫酸とを混練させて、正極ペーストを作製する。正極ペーストを、Pb-Ca-Sn系合金製のエキスパンド格子の網目部に充填し、熟成、乾燥し、未化成の正極板を得る。未化成の正極板を化成し、その後、水洗および乾燥して、既化成の正極板を得る。
(3)鉛蓄電池の作製
既化成の負極板を、ポリエチレン製の微多孔膜で形成された袋状セパレータに収容し、セル当たり既化成の負極板5枚と既化成の正極板4枚とで極板群を形成する。極板群をポリプロピレン製の電槽に挿入し、公称電圧が12Vの鉛蓄電池を作製する。オイルによる負極活物質の酸化劣化の抑制効果(初期放電性能)を評価するため、作製した電池を1ヵ月保管する。その後、電池内に電解液を注入し、0.2CAで2時間補充電する。鉛蓄電池の公称容量は30Ah(5時間率)である。
本鉛蓄電池では、負極電極材料中の第1炭素材料の含有量は1.5質量%とし、第2炭素材料の含有量は0.3質量%とする。ただし、これらの値は、作製された鉛蓄電池の負極板を取り出し、既述の手順で、負極電極材料に含まれる炭素材料を第1炭素材料と第2炭素材料とに分離したときに、負極電極材料(100質量%)中に含まれる各炭素材料の含有量として求められる値である。また、R2/R1比は57とする。粉体抵抗R2/R1比も既述の手順で求められる。さらに、既述の手順で求められる比表面積比S2/S1は30である。既述の手順で求められる第1炭素材料の平均アスペクト比は23である。
《鉛蓄電池A2》
炭素材料として、カーボンブラック(平均粒子径D50:40nm)のみを用い、第2炭素材料の含有量は0.3質量%とする。上記以外は、鉛蓄電池A1と同様にして、鉛蓄電池を作製する。
《鉛蓄電池A3》
炭素材料として、カーボンブラック(平均粒子径D50:40nm)のみを用い、第2炭素材料の含有量は1.0質量%とする。上記以外は、鉛蓄電池A1と同様にして、鉛蓄電池を作製する。
《鉛蓄電池A4》
炭素材料として、カーボンブラック(平均粒子径D50:40nm)のみを用い、第2炭素材料の含有量は1.0質量%とする。既化成の負極板の負極電極材料100質量%に含まれるオイルの含有量は1質量%とする。上記以外は、鉛蓄電池A1と同様にして、鉛蓄電池を作製する。
《鉛蓄電池A5》
炭素材料として、カーボンブラック(平均粒子径D50:40nm)のみを用い、第2炭素材料の含有量は0.3質量%とする。負極ペーストにオイルを添加しない。上記以外は、鉛蓄電池A1と同様にして、鉛蓄電池を作製する。
《鉛蓄電池A6》
炭素材料として、カーボンブラック(平均粒子径D50:40nm)のみを用い、第2炭素材料の含有量は1.0質量%とする。負極ペーストにオイルを添加しない。上記以外は、鉛蓄電池A1と同様にして、鉛蓄電池を作製する。
《鉛蓄電池A7》
炭素材料として、黒鉛(平均粒子径D50:110μm)のみを用い、第1炭素材料の含有量は1.5質量%とする。上記以外は、鉛蓄電池A1と同様にして、鉛蓄電池を作製する。
《鉛蓄電池A8》
炭素材料として、黒鉛(平均粒子径D50:110μm)のみを用い、第1炭素材料の含有量は1.5質量%とする。負極ペーストにオイルを添加しない。上記以外は、鉛蓄電池A1と同様にして、鉛蓄電池を作製する。
各鉛蓄電池について、以下の評価を行う。
[評価1:PSOC寿命性能]
25℃で、第1電流で59秒間の第1放電と、第2電流で1秒間の第2放電とを行った後、14Vの電圧で60秒間の充電(最大電流100A)を行う。第1電流は、0.05CAに18.3を乗じた値とする。第2電流は300Aとする。これを1サイクルとして充放電を繰り返し行う。3600サイクル毎に40~48時間休止する。第2放電における放電終期の端子電圧を測定し、端子電圧が7.2V未満となった時を寿命に至ったと判断し、その時のサイクル数を求める。鉛蓄電池A2の結果を100としたときの比率で表す。
[評価2:初期放電性能]
25℃で、端子電圧が単セル当たり1.7Vに到達するまで0.2CAで放電し、このときの放電時間を求める。この放電時間を初期放電性能の指標とする。鉛蓄電池A2の結果を100としたときの比率で表す。
[評価3:回生(充電)受入性能]
満充電状態の鉛蓄電池を、25℃で、0.2CAで、公称容量の10%分だけ放電した後、12時間室温で放置する。次いで、単セル当たり2.42Vで定電圧充電し、このときの最初の10秒間の電気量を求め、回生受入性能の指標とする。鉛蓄電池A2の結果を100としたときの比率で表す。
評価結果を表1に示す。
Figure 0007099451000001
第2炭素材料のみの場合には、第2炭素材料の含有量が0.3質量%の場合と比べて、第2炭素材料の含有量が1.0質量%と多くなると、オイルを用いても、初期放電性能が低下する(A2、A3)。それに対して、第1炭素材料と第2炭素材料とを併用する場合に、粉体抵抗比R2/R1を特定の範囲とすることで、PSOC寿命性能が得られるとともに、0.05質量%以上1.0質量%以下の少量のオイル添加量で優れた初期放電性能が得られる(A1)。オイル添加量が1.0質量%以下と少量でよいため、高い回生受入性能が確保される(A1)。
第1炭素材料のみの場合には、第2炭素材料のみの場合と比べて、PSOC寿命性能が向上するが、初期放電性能および回生受入性能が低下する(A2、A7)。オイルを添加しない場合、初期放電性能が大幅に低下する(A5、A6、A8)。第2炭素材料のみの場合には、オイルの含有量が0.5質量%の場合と比べて、オイルの含有量が1.0質量%と多くなると、初期放電性能が改善するが、回生受入性能が低下する(A3、A4)。
《鉛蓄電池B1~B5》
既化成の負極板の負極電極材料100質量%に含まれるオイルの含有量を表2に示す値とし、粉体抵抗比R2/R1を11とする以外は、鉛蓄電池A1と同様にして、鉛蓄電池を作製し、評価する。
《鉛蓄電池C1~C5》
既化成の負極板の負極電極材料100質量%に含まれるオイルの含有量を表2に示す値とし、粉体抵抗比R2/R1を15とする以外は、鉛蓄電池A1と同様にして、鉛蓄電池を作製し、評価する。
《鉛蓄電池D1》
粉体抵抗比R2/R1を32とする以外は、鉛蓄電池A1と同様にして、鉛蓄電池を作製し、評価する。
《鉛蓄電池E1~E5》
既化成の負極板の負極電極材料100質量%に含まれるオイルの含有量を表2に示す値とし、粉体抵抗比R2/R1を57とする以外は、鉛蓄電池A1と同様にして、鉛蓄電池を作製し、評価する。
《鉛蓄電池F1》
粉体抵抗比R2/R1を83とする以外は、鉛蓄電池A1と同様にして、鉛蓄電池を作製し、評価する。
《鉛蓄電池G1~G5》
既化成の負極板の負極電極材料100質量%に含まれるオイルの含有量を表2に示す値とし、粉体抵抗比R2/R1を103とする以外は、鉛蓄電池A1と同様にして、鉛蓄電池を作製し、評価する。
《鉛蓄電池H1》
粉体抵抗比R2/R1を127とする以外は、鉛蓄電池A1と同様にして、鉛蓄電池を作製し、評価する。
《鉛蓄電池I1~I5》
既化成の負極板の負極電極材料100質量%に含まれるオイルの含有量を表2に示す値とし、粉体抵抗比R2/R1を152とする以外は、鉛蓄電池A1と同様にして、鉛蓄電池を作製し、評価する。
《鉛蓄電池J1~J5》
既化成の負極板の負極電極材料100質量%に含まれるオイルの含有量を表2に示す値とし、粉体抵抗比R2/R1を169とする以外は、鉛蓄電池A1と同様にして、鉛蓄電池を作製し、評価する。
評価結果を表2に示す。なお、表2中の鉛蓄電池E3は、鉛蓄電池A1である。
Figure 0007099451000002
オイル含有量が0.05質量%以上1.0質量%以下の範囲内、かつ、粉体抵抗比R2/R1が15以上155以下の範囲内では、優れたPSOC寿命性能、初期放電性能、および回生受入性能が得られる(C2~C4、D1、E2~E4、F1、G2~G4、H1、I2~I4)。オイル含有量は0.05質量%以上0.5質量%以下の範囲内では、PSOC寿命性能および回生受入性能が、さらに向上する(C2、C3、E2、E3、G2、G3、I2、I3)。オイル含有量が0.5質量%である実施例を対比すると、粉体抵抗比R2/R1が55以上130以下の範囲内では、PSOC寿命性能、初期放電性能、および回生受入性能がよりバランス良く得られる(E3、F1、G3、H1)。
《鉛蓄電池K1~K13》
既化成の負極板の負極電極材料100質量%に含まれるオイルの含有量を表3に示す値とし、比表面積比S2/S1を表3に示す値とする以外は、鉛蓄電池A1と同様にして、鉛蓄電池を作製し、評価する。
評価結果を表3に示す。なお、表3中の鉛蓄電池K3は、鉛蓄電池A1である。
Figure 0007099451000003
比表面積比S2/S1が20以上240以下の範囲内では、初期放電性能を維持しつつ、PSOC寿命性能および回生受入性能がさらに向上する(K3~K11)。
《鉛蓄電池L1~L13》
既化成の負極板の負極電極材料100質量%に含まれるオイルの含有量を表4に示す値とし、第1炭素材料の平均アスペクト比を表4に示す値とする以外は、鉛蓄電池A1と同様にして、鉛蓄電池を作製し、評価する。
評価結果を表4に示す。表4中の鉛蓄電池L8は、鉛蓄電池A1である。
Figure 0007099451000004
第1炭素材料の平均アスペクト比が1.5以上30以下の範囲内では、初期放電性能を維持しつつ、PSOC寿命性能および回生受入性能がさらに向上する(L3~L11)。オイル含有量が0.5質量%の鉛蓄電池を対比すると、第1炭素材料の平均アスペクト比が5以上30以下の範囲内では、PSOC寿命性能、初期放電性能、および充電受入性能がよりバランス良く得られる(L5、L6、L8、L10)。
本発明の一側面に係る鉛蓄電池は、制御弁式および液式の鉛蓄電池に適用可能であり、自動車もしくはバイクなどの始動用の電源や、自然エネルギー貯蔵用途などの産業用蓄電装置として好適に利用できる。
1 鉛蓄電池
2 負極板
2a 負極板の耳部
3 正極板
4 セパレータ
5 正極棚部
6 負極棚部
7 正極柱
8 貫通接続体
9 負極柱
11 極板群
12 電槽
13 隔壁
14 セル室
15 蓋
16 負極端子
17 正極端子
18 液口栓

Claims (6)

  1. 鉛蓄電池であって、
    前記鉛蓄電池は、負極板と、正極板とを備え、
    前記負極板は、炭素材料とオイルとを含有する負極電極材料を含み、
    前記炭素材料は、32μm以上の粒子径を有する第1炭素材料と、32μm未満の粒子径を有する第2炭素材料と、を含み、
    前記第2炭素材料は、少なくともカーボンブラックを含み、
    前記第1炭素材料の粉体抵抗R1に対する、前記第2炭素材料の粉体抵抗R2の比:R2/R1が、15以上155以下であり、
    前記負極電極材料中の前記第1炭素材料の含有量は、0.05質量%以上、3.0質量%以下であり、
    前記負極電極材料中の前記第2炭素材料の含有量は、0.03質量%以上、1.0質量%以下であり、
    前記負極電極材料中の前記オイルの含有量は、0.05質量%以上1質量%以下である、鉛蓄電池。
  2. 前記第1炭素材料の比表面積S1に対する、前記第2炭素材料の比表面積S2の比:S2/S1は、20以上である、請求項1に記載の鉛蓄電池。
  3. 前記第1炭素材料の比表面積S1に対する、前記第2炭素材料の比表面積S2の比:S2/S1は、240以下である、請求項1または2に記載の鉛蓄電池。
  4. 前記第1炭素材料の平均アスペクト比は、1.5以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
  5. 前記第1炭素材料の平均アスペクト比は、30以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
  6. 前記第1炭素材料は、少なくとも黒鉛を含む、請求項1~のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
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