JP7095536B2 - 粘膜保護関連遺伝子発現促進剤およびその用途 - Google Patents

粘膜保護関連遺伝子発現促進剤およびその用途 Download PDF

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Description

本発明は、粘膜保護に関連する遺伝子の発現促進剤およびその用途に関する。より詳細には、(1)粘液糖タンパク質関連遺伝子、(2)抗菌ペプチド関連遺伝子、(3)タイトジャンクション関連遺伝子、(4)水分移動関連遺伝子および(5)粘膜組織関連遺伝子等の粘膜保護に関連する遺伝子発現の促進およびその用途に関する。
皮膚組織と粘膜組織とは、体の内外を区切り、その境をなす構造であるという点では共通するものの、様々な点で異なっている。まず、一般的に皮膚組織は表皮、真皮、皮下組織の三層より構成される一方、粘膜組織は粘膜上皮、粘膜固有層、粘膜下組織の三層から構成されている点で異なる。例えば、皮膚組織の場合、角質層があるのに対し、粘膜組織の場合、角質層は全くあるいは殆ど無いという違いがある。さらに、皮膚組織の場合、毛根や汗腺、脂腺がある一方、粘液腺や漿液腺は無く、粘膜組織の場合、粘液腺や漿液腺はあるが毛根や汗腺や脂腺は無いという違いがある。さらに、皮膚組織の場合、粘液では覆われてないのに対し、粘膜組織の場合、多くの場合、粘液で覆われているという違いがある。その他、遺伝子発現の観点からも、例えばバリア機能の形成や水分保持に重要な役割を果たしていることが報告されているフィラグリン2遺伝子(FLG2遺伝子)は、皮膚組織で高発現しているが、口腔粘膜や胃粘膜、食道粘膜、腸粘膜等の粘膜組織での発現は見られない。このように、皮膚組織と粘膜組織とでは、様々な点で、構造的にも機能的にも大きく異なっている。
粘膜組織は体の内側を覆い、体の内外を隔てる物理的な隔壁を形成するばかりでなく、乾燥や温熱などの様々な物理化学的な刺激から体を保護し、有害細菌由来のエンドトキシンや食事由来抗原など体にとって有害なものを積極的に排除する粘膜バリア機能を果たしている。このバリア機能の発現には、複数のいわゆる「粘膜バリア因子」が関係している。
例えば、粘膜バリア因子の代表格ともいえるムチンは、粘膜に存在する粘液の主成分であり、粘膜を全体的に覆うことでバリア機能を発揮する。ムチンは保水性に優れ、強い粘性が特徴の物質である。唾液だけでなく、胃液や涙などの粘液にも存在しており、粘膜の保護のみならず、胃潰瘍や感染症の予防にも寄与することが知られている。
また、ディフェンシンはヒトに存在する抗菌ペプチドの総称で、細菌、真菌など広範囲にわたり抗菌活性をもっており、中でもβ-ディフェンシンは、呼吸器、口腔、大腸、腎臓、眼、生殖器などの粘膜上皮や皮膚に広く存在し、バリア機能の強化に働いている。
さらに、ムチンやディフェンシンなどのバリアをかいくぐり、異物が粘膜上皮細胞までたどりついたときに堅牢な物理的障壁の役割を果たしているタイトジャンクション(Tight Junction;TJ,密着結合ともいわれる)である。TJは、細胞同士を接着させ、細胞と細胞との間に生まれ得る空隙を通しての外部からの異物侵入を防ぐ細胞接着機構体であり、最も重要なバリア因子の1つである。TJは、膜貫通型タンパク質のオクルディンやクローディン、そしてZOタンパク質(Zonula Occludens Protein)などの細胞内裏打ちタンパク質によって構成されている。
これまでに粘膜保護に関する技術としてとして、例えば、酒粕及び/又は米麹を有効成分として含むムチン産生促進用食品組成物が開示されている(特許文献1)。また、ごぼうをブランチングし、ブランチングした前記ごぼうの皮むきを行ない、皮むきを行った前記ごぼうをカットし、カットした前記ごぼうを30~70℃で乾燥し、乾燥した前記ごぼうを132~240℃で焙煎し、焙煎した前記ごぼうを熱水に浸けて抽出したごぼう由来抽出物を有効成分とするムチン産生促進剤が開示されている(特許文献2)。さらに、α-ラクトアルブミンのペプシン加水分解物を有効成分とするムチン産生分泌促進剤が開示されている(特許文献3)。
しかし、前記のように、既報のムチン産生を促進する食品組成物や薬剤は、ムチンの産生分泌は促進するが、それ以外の粘膜保護成分を同時に増強することは知られていない。
特開2017-212954号公報 特開2012-25691号公報 特開2006-169119号公報
大原ら、日本食品科学工学会誌、56(3)、137(2009) 高瀬ら、医学と薬学、65(4)、563(2011) 桑葉ら、薬理と治療、42(12)、995(2014)
本発明の目的は、コラーゲン分解物を有効成分とする粘膜保護関連遺伝子発現促進剤、および当該粘膜保護関連遺伝子発現促進剤を有効成分として含む粘膜保護用または粘膜修復用飲食品組成物を提供することである。
本発明者は、口腔粘膜保護強化作用を有する物質について鋭意検討した結果、意外にも食品として長年使用されてきたコラーゲンの特定の平均分子量を有する分解物に、粘膜の保護や修復に直接的あるいは間接的に関係している複数の粘膜バリア因子を増強し得る粘膜保護関連遺伝子発現促進作用を有することを突き止めた。そして、コラーゲン分解物が粘膜保護用または粘膜修復用飲食品組成物として利用できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
従来、コラーゲン分解物には種々の生理機能が見出されている(例えば、前記非特許文献1~3参照)が、コラーゲン分解物に(1)粘液糖タンパク質関連遺伝子、(2)抗菌ペプチド関連遺伝子、(3)タイトジャンクション関連遺伝子、(4)水分移動関連遺伝子、および(5)粘膜組織関連遺伝子等の粘膜保護関連遺伝子の発現促進作用があることは知られていなかった。
すなわち、本発明の要旨は、以下のとおりである。
[1]平均分子量が300~5000のコラーゲン分解物を有効成分として含有し、かつ
前記コラーゲン分解物100質量部中に、プロリルヒドロキシプロリンが0.1質量部以上含有されている粘膜保護関連遺伝子発現促進剤。

[2]前記コラーゲン分解物100質量部中には、プロリルヒドロキシプロリンが0.1~1質量部含有されていてもよい。
[3]前記粘膜保護関連遺伝子には(1)粘液糖タンパク質関連遺伝子、(2)抗菌ペプチド関連遺伝子、(3)タイトジャンクション関連遺伝子、(4)水分移動関連遺伝子および(5)粘膜組織関連遺伝子からなる群より選択される少なくとも1種以上が含まれる。
[4]前記(1)粘液糖タンパク質関連遺伝子には、ヒト由来のムチン遺伝子が含まれる。
[5]前記(2)抗菌ペプチド関連遺伝子には、ヒト由来のβ-ディフェンシン遺伝子およびカテリシジン抗菌ペプチド遺伝子からなる群から選択される少なくとも1種が含まれる。
[6]前記(3)タイトジャンクション関連遺伝子には、ヒト由来のクローディン遺伝子、オクルディン遺伝子またはZO遺伝子からなる群から選択される少なくとも1種が含まれる。
[7]前記(4)水分移動関連遺伝子には、ヒト由来のアクアポリン遺伝子が含まれる。
[8]前記(5)粘膜組織関連遺伝子には、ヒト由来のコラーゲン遺伝子、ヒアルロン酸合成酵素遺伝子およびエラスチン遺伝子からなる群から選択される少なくとも1種が含まれる。
[9]本発明の第二の態様は、前記[1]~[8]のいずれかの粘膜保護関連遺伝子発現促進剤を有効成分として含む、粘膜保護用または粘膜修復用飲食品組成物である。
本発明の粘膜保護関連遺伝子発現促進剤は、ヒトを含む動物(哺乳動物、爬虫類、鳥類など、以下、対象ともいう)における口腔粘膜・食道粘膜・胃粘膜・腸粘膜などの粘膜において、その粘膜機能の維持を担っている様々な粘膜保護関連遺伝子の発現が促進されるため、粘膜の脆弱化によりもたらされる症状や、それら粘膜の疾患に罹患している対象や、罹患のリスクがある対象の、口腔粘膜・食道粘膜・胃粘膜・腸粘膜などの粘膜の健康維持に有用である。
図1は、Pro-HypCLおよびPOのコラーゲンタイプ1A1遺伝子発現促進作用についての結果を示した図である。 図2は、Pro-HypCLおよびPOのヒアルロン酸合成酵素2遺伝子発現促進作用についての結果を示した図である。 図3は、Pro-HypCLおよびPOのエラスチン遺伝子発現促進作用についての結果を示した図である。 図4は、Pro-HypCLおよびPOのコラーゲンタイプ1産生促進作用についての結果を示した図である。 図5は、Pro-HypCLおよびPOのヒアルロン酸産生促進作用についての結果を示した図である。 図6は、Pro-HypCLおよびPOのエラスチン産生促進作用についての結果を示した図である。 図7は、Pro-HypCLおよびPOのムチン1遺伝子発現促進作用についての結果を示した図である。 図8は、Pro-HypCLおよびPOのβ-ディフェンシン1遺伝子発現促進作用についての結果を示した図である。 図9は、Pro-HypCLおよびPOのβ-ディフェンシン2遺伝子発現促進作用についての結果を示した図である。 図10は、Pro-HypCLおよびPOのクローディン1遺伝子発現促進作用についての結果を示した図である。 図11は、Pro-HypCLおよびPOのオクルディン遺伝子発現促進作用についての結果を示した図である。 図12は、Pro-HypCLおよびPOのZO-1遺伝子発現促進作用についての結果を示した図である。 図13は、Pro-HypCLおよびPOのZO-2遺伝子発現促進作用についての結果を示した図である。 図14は、Pro-HypCLおよびPOのアクアポリン3遺伝子発現促進作用についての結果を示した図である。 図15は、Pro-HypCLの口腔粘膜中のムチン産生促進作用についての結果を示した図である。
以下、本発明について詳細に説明する。
1.粘膜保護関連遺伝子発現促進剤
本発明の粘膜保護関連遺伝子発現促進剤は、平均分子量が300~5000のコラーゲン分解物を有効成分として含有することを特徴とする。
本発明において、「粘膜」とは、口から始まって肛門に至る中空性器官の内側表面にある粘液に覆われている軟らかい組織を意味する。一つの好ましい態様において、「粘膜」として、例えば、口腔粘膜、食道粘膜、胃粘膜、腸粘膜等が挙げられる。
本発明において、「粘膜保護関連遺伝子」とは、粘膜の保護や修復に直接的あるいは間接的に関係しているタンパク質をコードする遺伝子を意味する。詳しくは、後述する。
本発明において、「粘膜保護関連遺伝子発現促進」とは、前記粘膜保護関連遺伝子の発現を促進する作用、前記遺伝子によりコードされているタンパク質の発現を促進する作用、または前記タンパク質により産生される機能性物質の産生を促進する作用を意味する。具体的には、後述の実施例に記載のように、本発明の粘膜保護関連遺伝子発現促進剤を対象に摂取させた場合に、摂取前に比べて、前記粘膜保護関連遺伝子の発現量、粘膜保護関連遺伝子がコードするタンパク質量、または前記タンパク質により産生される機能性物質(例えば、ヒアルロン酸)が増加していることで確認することができる。
本発明において、「平均分子量」とは、重量平均分子量を意味する。コラーゲン分解物のようなタンパク質加水分解物は不均一な物質であり、分子量に分布があるため、コラーゲン分解物の分子量を、物理化学的に取り扱うためには、平均分子量で示す必要がある。重量平均分子量とは、分子量測定用プルラン等の物質を標準として、ゲル浸透クロマトグラフィー(Gel Permeation Chromatography;GPCともいう)分析によって求めた値を意味する。
本発明において、「有効成分」とは、粘膜保護関連遺伝子の発現を促進する必要がある対象のために、粘膜保護関連遺伝子の発現を促進する効果を奏する上で必要とされる成分のことを意味する。
〔コラーゲン分解物〕
本発明において、「コラーゲン分解物」とは、平均分子量が300~5000となるように加水分解処理されたコラーゲン原料の分解物を意味する。本発明では、上記の平均分子量のコラーゲン分解物とすることによって、経口摂取したときの体内への吸収性が高くなるとともに、細胞内での粘膜保護関連遺伝子の発現を促進することができる。
なお、コラーゲン原料のままであったり、コラーゲン分解物の平均分子量が5000を超えていたりすると、経口摂取したときの体内への吸収性が低くなる。また、コラーゲン分解物の平均分子量が300未満であると生理活性ペプチドとしての効果が弱まり、所望の効果が得られにくくなる。
コラーゲン分解物の平均分子量は、上限を5000以下、好ましくは4000以下、より好ましくは3000以下、さらに好ましくは2500以下、また、下限を300以上、好ましくは500以上、より好ましくは700以上、さらに好ましくは1000以上、さらに好ましくは1500以上とするいずれの組み合わせによる範囲としてよい。例えば、コラーゲン分解物の平均分子量は、300~5000であり、好ましくは700~4000であり、より好ましくは1000~3000であり、さらに好ましくは1500~2500である。なお、コラーゲン分解物の平均分子量は、常法によって測定することができ、例えば、ゲルろ過クロマトグラフィーやゲル浸透クロマトグラフィーを用いて行うことができる。平均分子量は、重量平均分子量として算出する。
前記コラーゲン原料としては、哺乳類のコラーゲン組織から抽出したコラーゲンであっても、魚類のコラーゲン組織から抽出したコラーゲンであっても、特に限定されるものではない。商品イメージや安全性等の観点から、魚類由来のコラーゲンであることが好ましい。魚類由来のコラーゲン原料としては、その魚類が海水魚であっても淡水魚であってもよく、例えば、マグロ(キハダ)、サメ、タラ、ヒラメ、カレイ、タイ、テラピア、サケ、ナマズ等由来のものが挙げられる。哺乳類由来のコラーゲン原料としては、牛、豚、馬、鹿、兎等由来のものが挙げられる。
前記コラーゲン原料の由来となる動物の種類、取得する部位などについては、特に限定はない。前記コラーゲン原料としては、単独でもよいし、2種以上を混合してもよい。
また、コラーゲン原料としては、前記魚や哺乳類の皮が挙げられる。このようなコラーゲン原料に含有されるコラーゲンは、部分的に架橋している不溶性のコラーゲンであるために、架橋を切断する可溶化処理が施される。上記可溶化処理の方法としては、公知の酸可溶化法やアルカリ可溶化法や酵素可溶化法等を用いることができる。
本発明において使用するコラーゲン分解物は、例えば、ゼラチンなどのコラーゲン原料を酵素や酸などによって加水分解して製造することができる。コラーゲン分解物を製造する場合、特に限定されないが、例えば、特開昭52-111600号公報や特開昭52-122400号公報で公開されている方法でも製造することができる。コラーゲン分解物の製造方法を例示すると以下のようになる。すなわち、コラーゲンを含む湿潤した生の原料(生の皮など)を用いる場合、まず、コラーゲンの変性温度以上に加熱(例えば、牛皮であれば60℃以上に加熱する)する。ここで、加水分解の時間を短縮したい場合には、あらかじめ原料を細断しておいても良い。乾燥した状態の原料であれば、数時間~数日の間、水に浸して水戻ししてから加熱変性させて使用することが好ましい。骨や魚鱗を原料として用いる場合、塩酸を加えてリン酸カルシウムを溶解、除去した後、水洗いしてから加熱変性させて使用する。固形の原料の場合は、撹拌できる程度に水を加えて分散液とすることで、酵素を効率よく作用させることができる。なお、固形の原料より、ゼラチンの水溶液を基質として使用する方法が最も容易である。
上記のような原料と水とを含む分散液もしくはゼラチン水溶液を基質として、水溶液中のタンパク質含有量(乾燥重量)に対し、市販のプロテアーゼ(たとえばナガセサンバイオ社製「ビオプラーゼSP」、ノボ社製「プロタメックス」など)を0.3~3重量%加え、1~10時間作用させることで加水分解する。pHと温度は使用した酵素の至適条件(通常の酵素製剤では、パンフレットに記載されている至適条件であればよい)を採択して行うことができる。加水分解後、85℃以上に加熱し、30分保持することで酵素を失活させ反応を停止させる。反応停止後、ろ過を行って原料の残渣を分離する。その際、珪藻土などのろ過助剤を使用することで精製度を上げることができる。脱色や脱臭のために活性炭のような吸着剤を使用しても良い。得られたろ過液を殺菌し、乾燥することによってコラーゲン分解物乾燥粉末を得ることができる。乾燥方法としては、噴霧乾燥、加熱減圧乾燥、凍結乾燥などが挙げられる。
前記噴霧乾燥とは、液体を気体中に噴霧して急速に乾燥させ、乾燥粉体を製造する方法をいう。
前記加熱減圧乾燥とは、加熱装置内を減圧させて沸点を下げることで、乾燥の促進を図り、少ないエネルギーで蒸発・乾燥させる方法をいう。
前記凍結乾燥とは、まず凍結を行い、次いで真空中で、凍結した乾燥物の沸点を下げて、乾燥物の水分を昇華させて乾燥させる方法をいう。
これらの乾燥方法は、いずれも、公知の乾燥装置を用いて行えばよい。前記乾燥時における温度条件としては、各乾燥方法に準じて適当な温度範囲に設定すればよいが、例えば、噴霧乾燥では出口温度を50~100℃、加熱減圧乾燥では20~100℃、凍結乾燥では20~60℃に調整することが挙げられるが、特に限定はない。
また、前記コラーゲン分解物としては、市販品を使用することも可能である。例えば、市販品として、「ニッピペプタイドFCP-DP」(株式会社ニッピ)、「ニッピコラーゲン100」(株式会社ニッピ)、「ニッピペプタイドPRA-P」(株式会社ニッピ)などを使用することができる。
本発明において使用するコラーゲン分解物は、ヒドロキシプロリン、プロリン、グリシン等を多く含むタンパク質であるが、粘膜保護関連遺伝子の発現促進の観点から、コラーゲン分解物100質量部に対して、プロリルヒドロキシプロリンを0.1~1.0質量部、好ましくは0.2~0.8質量部、より好ましくは0.3~0.7質量部、さらに好ましくは0.4~0.6質量部含むコラーゲン分解物であることが望ましい。
ここで、後述するようにプロリルヒドロキシプロリン単独で本発明の所望の効果を発現するわけではなく、例えば、コラーゲンタイプI、ヒアロルロン酸、エラスチン、ムチン1などの発現促進の場合、プロリルヒドロキシプロリン以外にコラーゲン分解物中に存在する他のペプチドあるいはアミノ酸成分がヒドロキシンプロリンと共同して粘膜保護関連遺伝子の発現促進効果が得られるものと考えられる。
〔粘膜保護関連遺伝子〕
後記の実施例に示すように、前記コラーゲン分解物は、粘膜保護関連遺伝子の発現を促進し、粘膜組織のバリア機能を高める効果を有する。本発明において、「粘膜保護関連遺伝子」としては、例えば、
(1)粘膜表面の粘液に含まれる糖タンパク質タンパク質をコードする遺伝子(本発明において「粘液糖タンパク質関連遺伝子」という)、
(2)細菌類、真菌類、ウイルス、ウイロイド等に対して増殖抑制活性を持つ抗菌ペプチドをコードする遺伝子(本発明において「抗菌ペプチド関連遺伝子」という)、
(3)細胞同士を接着させ、細胞と細胞との間に生まれ得る空隙を通しての外部からの異物侵入を防ぐ細胞接着機構体であるタイトジャンクションの構成成分として働くタンパク質をコードする遺伝子(本発明において「タイトジャンクション関連遺伝子」という)、
(4)水分移動の調節に関与し粘膜上皮の潤いの維持に働くタンパク質をコードする遺伝子(本発明において「水分移動関連遺伝子」という)、
(5)粘膜上皮組織、粘膜固有層、粘膜筋板、粘膜下組織等からなる粘膜組織そのものの構成や維持に働くタンパク質をコードする遺伝子(本発明において「粘膜組織関連遺伝子」という)などが挙げられる。
前記(1)の「粘液糖タンパク質関連遺伝子」としては、ムチン遺伝子(Mucin Genes)が挙げられる。
ムチン遺伝子としては、膜結合型のムチン遺伝子や分泌型のムチン遺伝子が挙げられる。膜結合型のムチン遺伝子としては、具体的には、ヒト由来の場合、ムチン1遺伝子(MUC1遺伝子)、ムチン3A/B遺伝子(MUC3A/B遺伝子)、ムチン4遺伝子(MUC4遺伝子)、ムチン12遺伝子(MUC12遺伝子)、ムチン13遺伝子(MUC13遺伝子)、ムチン15遺伝子(MUC15遺伝子)、ムチン16遺伝子(MUC16遺伝子)、ムチン17遺伝子(MUC17遺伝子)、ムチン20遺伝子(MUC20遺伝子)、ムチン21遺伝子(MUC21遺伝子)等が挙げられる。分泌型のムチン遺伝子としては、具体的には、ヒト由来の場合、ムチン2遺伝子(MUC2遺伝子)、ムチン5AC遺伝子(MUC5AC遺伝子)、ムチン5B遺伝子(MUC5B遺伝子)、ムチン6遺伝子(MUC6遺伝子)、ムチン7遺伝子(MUC7遺伝子)等が挙げられる。
上記の各ムチン遺伝子の発現によって生じるムチンには直接的機能として、上皮保護や潤滑作用があるが、膜結合型のムチンは、病原体が粘膜に侵入した場合、病原体由来のプロテアーゼで切断され病原体とともに、排出されることで防御機能を発揮すると考えられる。
前記(2)の「抗菌ペプチド関連遺伝子」としては、ディフェンシン遺伝子(Defensin Genes)、カテリシジン遺伝子(Cathelicidin Gene)等が挙げられる。
ディフェンシン遺伝子としては、β-ディフェンシン遺伝子が挙げられる。β-ディフェンシン遺伝子としては、具体的には、ヒト由来の場合、β-ディフェンシン1遺伝子(DEFB1遺伝子)、β-ディフェンシン2遺伝子(DEFB4A遺伝子)、β-ディフェンシン3遺伝子(DEFB103B遺伝子)、β-ディフェンシン4遺伝子(DEFB104A遺伝子)、β-ディフェンシン5遺伝子(DEFB105A遺伝子)、β-ディフェンシン6遺伝子(DEFB106A遺伝子)、β-ディフェンシン7遺伝子(DEFB107A遺伝子)、β-ディフェンシン8遺伝子(DEFB108A遺伝子)、β-ディフェンシン9遺伝子(DEFB109A遺伝子)、β-ディフェンシン10遺伝子(DEFB110遺伝子)、β-ディフェンシン12遺伝子(DEFB112遺伝子)、β-ディフェンシン13遺伝子(DEFB113遺伝子)、β-ディフェンシン14遺伝子(DEFB114遺伝子)等が挙げられる。
カテリシジン遺伝子としては、具体的には、ヒト由来の場合、カテリシジン抗菌ペプチド遺伝子(CAMP遺伝子、別名LL-37遺伝子ともいう)等が挙げられる。
前記(3)の「タイトジャンクション関連遺伝子」としては、クローディン遺伝子(Claudin Genes)、オクルディン遺伝子(Occludin Genes)、ZO遺伝子(Zonula Occludens Genes)等が挙げられる。
クローディン遺伝子としては、具体的には、ヒト由来の場合、クローディン1遺伝子(CLDN1遺伝子)、クローディン2遺伝子(CLDN2遺伝子)、クローディン3遺伝子(CLDN3遺伝子)、 クローディン4遺伝子(CLDN4遺伝子)、クローディン5遺伝子(CLDN5遺伝子)、クローディン7遺伝子(CLDN7遺伝子)、クローディン8遺伝子(CLDN8遺伝子)、クローディン10遺伝子(CLDN10遺伝子)、クローディン11遺伝子(CLDN11遺伝子)、クローディン12遺伝子(CLDN12遺伝子)、クローディン17遺伝子(CLDN17遺伝子)、クローディン18遺伝子(CLDN18遺伝子)、クローディン23遺伝子(CLDN23遺伝子)等が挙げられる。
オクルディン遺伝子としては、具体的には、ヒト由来の場合、オクルディン遺伝子(OCLN遺伝子)が挙げられる。
ZO遺伝子としては、具体的には、ヒト由来の場合、ZO-1遺伝子(別名TJP1遺伝子ともいう)、ZO-2遺伝子(別名TJP2遺伝子ともいう)、ZO-3遺伝子(別名TJP3遺伝子ともいう)等が挙げられる。
前記(4)の「水分移動関連遺伝子」としては、アクアポリン遺伝子(Aquaporin Genes)が挙げられる。
アクアポリン遺伝子としては、具体的には、ヒト由来の場合、アクアポリン1遺伝子(AQP1遺伝子)、アクアポリン3遺伝子(AQP3遺伝子)、アクアポリン4遺伝子(AQP4遺伝子)、アクアポリン5遺伝子(AQP5遺伝子)、アクアポリン8遺伝子(AQP8遺伝子)、アクアポリン9遺伝子(AQP9遺伝子)等が挙げられる。
前記(5)の「粘膜組織関連遺伝子」としては、コラーゲン遺伝子(Collagen Genes)、ヒアルロン酸合成酵素遺伝子(Hyaluronan Synthase Genes)、エラスチン遺伝子(Elastin Gene)が挙げられる。
コラーゲン遺伝子としては、具体的には、ヒト由来の場合、コラーゲンタイプ1A1遺伝子(COL1A1遺伝子)、コラーゲンタイプ1A2遺伝子(COL1A2遺伝子)、コラーゲンタイプ2A1遺伝子(COL2A1遺伝子)、コラーゲンタイプ4A1遺伝子(COL4A1遺伝子)、コラーゲンタイプ4A2遺伝子(COL4A2遺伝子)、コラーゲンタイプ4A3遺伝子(COL4A3遺伝子)、コラーゲンタイプ5A1遺伝子(COL5A1遺伝子)、コラーゲンタイプ5A3遺伝子(COL5A3遺伝子)、コラーゲンタイプ6A2遺伝子(COL6A2遺伝子)、コラーゲンタイプ8A2遺伝子(COL8A2遺伝子)、コラーゲンタイプ12A1遺伝子(COL12A1遺伝子)、コラーゲンタイプ13A1遺伝子(COL13A1遺伝子)、コラーゲンタイプ14A1遺伝子(COL14A1遺伝子)、コラーゲンタイプ18A1遺伝子(COL18A1遺伝子)、コラーゲンタイプ22A1遺伝子(COL22A1遺伝子)、コラーゲンタイプ25A1遺伝子(COL25A1遺伝子)、コラーゲンタイプ27A1遺伝子(COL27A1遺伝子)、コラーゲンタイプ28A1遺伝子(COL28A1遺伝子)等が挙げられる。
ヒアルロン酸合成酵素遺伝子としては、具体的には、ヒト由来の場合、ヒアルロン酸合成酵素2遺伝子(HAS2遺伝子)、ヒアルロン酸合成酵素3遺伝子(HAS3遺伝子)等が挙げられる。
エラスチン遺伝子としては、具体的には、ヒト由来の場合、エラスチン遺伝子(ELN遺伝子)等が挙げられる。
本発明の粘膜保護関連遺伝子発現促進剤は、前記コラーゲン分解物のみからなっていてもよいし、前記コラーゲン分解物を有効成分としながら、必要に応じて、増量剤、可溶化剤、分散剤、懸濁剤、乳化剤、抗酸化剤、細菌抑制剤、着色剤、矯味剤、矯臭剤などの成分を含有していてもよい。
以上のような構成を有する本発明の粘膜保護関連遺伝子発現促進剤は、これを摂取した対象において粘膜保護関連遺伝子の発現を促進させることができる。
粘膜保護関連遺伝子の発現の測定は、例えば、後述の実施例に記載のように行うことができる。また、所望の粘膜保護関連遺伝子に対応した公知の発現キットを用いて測定してもよい。
また、本発明の粘膜保護関連遺伝子発現促進剤は、製剤化してもよい。この製剤形態としては特に限定されず、例えば、錠剤、被覆錠剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤、液剤、丸剤、懸濁剤、乳剤、トローチ剤、チュアブル錠、シロップ剤等の経口剤等が挙げられる。製剤化の際には、担体、賦形剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤、希釈剤、安定化剤、等張化剤、pH調整剤、緩衝剤等が用いられる。
担体や賦形剤としては、例えば、乳糖、ショ糖、塩化ナトリウム、ブドウ糖、マルトース、マンニトール、エリスリトール、キシリトール、マルチトール、イノシトール、デキストラン、ソルビトール、アルブミン、尿素、デンプン、炭酸カルシウム、カオリン、結晶セルロース、ケイ酸、メチルセルロース、グリセリン、アルギン酸ナトリウム、アラビアゴム及びこれらの混合物等が挙げられる。
滑沢剤としては、例えば、精製タルク、ステアリン酸塩、ホウ砂、ポリエチレングリコール及びこれらの混合物等が挙げられる。
結合剤としては、例えば、単シロップ、ブドウ糖液、デンプン液、ゼラチン溶液、ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロース、セラック、メチルセルロース、エチルセルロース、水、エタノール、リン酸カリウム及びこれらの混合物等が挙げられる。
崩壊剤としては、例えば、乾燥デンプン、アルギン酸ナトリウム、カンテン末、ラミナラン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド、デンプン、乳糖及びこれらの混合物等が挙げられる。
希釈剤としては、例えば、水、エチルアルコール、マクロゴール、プロピレングリコール、エトキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類及びこれらの混合物等が挙げられる。
安定化剤としては、例えば、ピロ亜硫酸ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸、チオグリコール酸、チオ乳酸及びこれらの混合物等が挙げられる。
等張化剤としては、例えば、塩化ナトリウム、ホウ酸、ブドウ糖、グリセリン及びこれらの混合物等が挙げられる。
pH調整剤及び緩衝剤としては、例えば、クエン酸ナトリウム、クエン酸、酢酸ナトリウム、リン酸ナトリウム及びこれらの混合物等が挙げられる。
2.粘膜保護用または粘膜修復用飲食品組成物
本発明の一つの態様において、本発明は、前記粘膜保護関連遺伝子発現促進剤を有効成分として含む粘膜保護用または粘膜修復用飲食品組成物である。
本発明において、「有効成分」とは、粘膜保護関連遺伝子の発現を促進する必要がある対象のために、粘膜保護関連遺伝子の発現を促進して、粘膜保護効果または粘膜修復効果を奏する上で必要とされる成分のことを意味する。
本発明において、「粘膜保護関連遺伝子の発現を促進する必要がある対象」とは、粘膜保護効果または粘膜修復効果を期待する対象を意味し、例えば、不規則な生活やストレスや加齢などにより、口腔粘膜・食道粘膜・胃粘膜・腸粘膜などの粘膜が弱っている対象や、口腔粘膜・食道粘膜・胃粘膜・腸粘膜などの粘膜を強化したいと考えている対象などが挙げられる。例えば、口腔粘膜・食道粘膜・胃粘膜・腸粘膜などの粘膜の脆弱化によりもたらされる症状や、それら粘膜の疾患に罹患する対象及び罹患のリスクがある対象に対しての、口腔粘膜・食道粘膜・胃粘膜・腸粘膜などの粘膜の健康維持に有用である。また、直接的及び間接的に粘膜異常に起因するその他の症状や疾患に罹患する対象及び罹患のリスクがある対象に対しての健康維持にも有用である。さらには、本発明の組成物は、口腔機能の衰えや老化を感じる健常な対象にも有用である。
口腔粘膜に不調を生じる疾患としては、(1)斑をきたす口腔粘膜疾患(例えば、アフタ、紅板症、扁平苔癬、薬物性口内炎などにみられる紅斑を生じる口腔粘膜疾患、外傷性の出血、出血性素因による出血(特発性血小板減少性紫斑病、再生不良性貧血、血友病など)などでみられる紫斑を生じる口腔粘膜疾患、メラニン色素沈着症(生理的色素沈着)、色素性母斑、外来性色素沈着(ほとんどが歯科補綴金属、充填物金属からのもの)などでみられる色素斑を生じる口腔粘膜疾患)、(2)プラークをきたす口腔粘膜疾患(例えば、白板症、ニコチン性口内炎、扁平苔癬(白斑型)など)、(3)丘疹をきたす口腔粘膜疾患(例えば、扁平苔癬、炎症性病変など)、(4)結節・腫瘤をきたす口腔粘膜疾患(例えば、腫瘍(良性、悪性)、腫瘍様病変(肉芽腫、嚢胞など)など)、(5)小水疱・水疱をきたす口腔粘膜疾患(例えば、ウイルスが原因の口腔粘膜疾患(口唇ヘルペス)、慢性水疱症(天疱瘡、類天疱瘡、先天性表皮水疱症)など)、(6)膿疱をきたす口腔粘膜疾患(例えば、化膿性口内炎)、(7)びらんをきたす口腔粘膜疾患(例えば、炎症や機械的刺激などが原因のびらんをきたす口腔粘膜疾患)、(8)潰瘍をきたす口腔粘膜疾患(例えば、アフタ性潰瘍、褥瘡性潰瘍(鋭利な歯、義歯などによる)、外傷性潰瘍(咬傷などによる))、(9)萎縮をきたす口腔粘膜疾患(粘膜上皮や粘膜固有層の容積が減少し、菲薄化するもので、例えば、粘膜上皮が菲薄化し、粘膜固有層の血管が反映し紅色を呈する紅板症など)などが挙げられる。
食道粘膜に不調を生じる疾患としては、食道炎(例えば、逆流性食道炎、食道カンジダ症、ヘルペス食道炎、サイトメガロウイルス食道炎、薬剤性食道炎、腐食性食道炎など)などが挙げられる。胃粘膜に不調を生じる疾患としては、慢性胃炎、急性胃炎などが挙げられる。腸粘膜に不調を生じる疾患としては、炎症性腸疾患(例えば、クローン病、潰瘍性大腸炎など)などが挙げられる。
本発明の粘膜保護用または粘膜修復用飲食品組成物は、(1)口腔粘膜に不調を生じる疾患、(2)食道粘膜に不調を生じる疾患、(3)胃粘膜に不調を生じる疾患、あるいは(4)腸粘膜に不調を生じる疾患の予防や症状緩和をコンセプトとした食品、すなわち、機能性表示食品、病者用食品、特定保健用食品も包含される。これら食品は機能表示が許可された食品であり、一般の食品と区別することができる。
また、食品には、健康食品、機能性食品、栄養補助食品、機能性表示食品、特定保健用食品、病者用食品、乳幼児用調整粉乳、妊産婦もしくは授乳婦用粉乳、または血中アミノ酸濃度上昇促進のために用いられる物である旨の表示を付した食品のような分類のものも包含される。また、本発明において、食品とは飲料を含む概念である。
本発明の粘膜保護用または粘膜修復用飲食品組成物は、前記粘膜保護関連遺伝子発現促進剤(さらには、前記コラーゲン分解物)を有効成分として含有した組成物であるが、粘膜保護効果または粘膜修復効果を奏する限りにおいて、その他の食品原料および/または食品添加物原料を添加することができる。例えば、嗜好性の付与を目的に、甘味料(砂糖類、液糖類、果糖、麦芽糖、三温糖など)、糖アルコール(エリスリトールなど)、高甘味度甘味料(ステビア、アスパルテーム、スクラロース、アセスルファムカリウム)、酸味料、増粘多糖類、香料、果汁、野菜汁などを添加することができる。また、更なる機能付与を目的に、ミネラル類(カルシウム、鉄、マンガン、マグネシウム、亜鉛など)、ビタミン類、機能性素材、プロバイオティクス乳酸菌などを添加して、本発明の粘膜保護用または粘膜修復用飲食品組成物とすることができる。さらに、その他の成分としては特に限定されないが、例えば、種々の賦形剤、光沢剤、結合剤、滑沢剤、安定剤、希釈剤、増量剤、乳化剤、着色料、香料、香油などをその他の成分として用いることができる。その他の成分の含有量は、本発明の粘膜保護用または粘膜修復用飲食品組成物の形態などに応じて適宜選択することができる。
本発明の粘膜保護用または粘膜修復用飲食品組成物を、粘膜保護または粘膜修復を必要とする対象に摂取させる(投与する)方法は、経口摂取、経腸投与、胃ろうなどから、その対象および用途により、適宜選択することができるが、好ましくは経口摂取である。
本発明の粘膜保護用または粘膜修復用飲食品組成物は、一食あたりの単位包装形態からなり、当該単位中には、コラーゲン分解物質量を、一食摂取量として100g以上に調整したものが望ましく、具体的には、100~2000mg、好ましくは100~1500mg、より好ましくは100~1000mg、さらに好ましくは100~800mgとなるように調製してなる。
ここで、「一食あたりの単位包装形態」からなるとは、一食あたりの摂取量があらかじめ定められた形態のものであり、例えば、特定量を経口摂取し得る食品として、一般食品のみならず、飲料(ドリンク剤など)、健康補助食品、機能性表示食品、サプリメントなどの形態を意味する。
「一食あたりの単位包装形態」では、例えば、タブレット状・グミ状・飴状・ジェル状・ゲル状・糊状・ペースト状のゼリー、粉末状・顆粒状・カプセル状・ブロック状の固体状の食品、液状の飲料などの場合には、プラスチック容器(ペットボトルなど)、パック、パウチ、フィルム容器、紙箱、金属缶、ガラスビン(ボトルなど)などの包装容器で特定量(用量)を規定できる形態、あるいは、一食あたりの摂取量(用法、用量)を包装容器やホームページなどに表示することで特定量を規定できる形態が挙げられる。
本発明の粘膜保護用または粘膜修復用飲食品組成物は、三方シール包装したジェル状食品、一飲みで摂取できるミニ缶飲料など、どのような形態であっても、摂取・嚥下が容易であり、子供や高齢者にとっての利便性を向上させることができる。
本発明の一つの態様において、口腔内の粘膜の保護または修復を必要とする対象に、本発明の粘膜保護用または粘膜修復用飲食品組成物を摂取させる方法としては、口腔内に留まり、口腔内で崩壊し、有効成分が口腔粘膜へと浸透しやすい経口用組成物の形態とすることができる。経口用組成物の形態は特に限定されず、任意の形態とすることができるが、口腔内への留まり易さという点から、例えば、具体的にはタブレット状、グミ状、飴状、ジェル状、ガム状、ゲル状、液状、粉末状、粒状、顆粒状、錠状、棒状、板状、ブロック状、ペースト状などの各形態が挙げられるが、摂取したときに高い効果が得られるタブレット状やグミ状や飴状の形態であることが好ましい。本発明の本発明の粘膜保護用または粘膜修復用飲食品組成物をそのまま、水などとともに、また水などで希釈するなどして、飲食することにより経口摂取することもできる。摂取者の好みなどに応じて、他の固体物や液状物を混ぜて経口摂取してもよい。口腔崩壊剤形とした場合は、水なしで経口摂取することもできる。
本発明の粘膜保護用または粘膜修復用飲食品組成物は、容器に詰めて密封した容器詰組成物とすることができる。容器は特に限定されないが、例えば、アルミなどの金属、紙、PETやPTPなどのプラスチック、1層又は積層(ラミネート)のフィルム袋、レトルトパウチ、真空パック、アルミ容器、プラスチック容器、瓶、缶などの包装容器が挙げられる。
本発明の粘膜保護用または粘膜修復用飲食品組成物は、市場での提供を目的とした一つの態様として、容器入りの粉末の形態とすることもできる。容器は、紙、袋、箱、缶、ビンなど、公知のものを使用することができる。容器の容量は、特に制限はなく、例えば、1~5000g、好ましくは2~4000g、より好ましくは3~3000gである。なかでも、ファミリーサイズの場合には、例えば、300~5000g、好ましくは300~4000g、より好ましくは300~3000gであり、パーソナルサイズの場合、例えば、1~500g、好ましくは2~250g、より好ましくは3~200gである。
さらに、本発明の粘膜保護用または粘膜修復用飲食品組成物は、市場での提供を目的とした一つの態様として、容器入り飲料(粉末を分散溶解した飲料)の形態にすることもできる。容器は、紙容器、ソフトバック、ペットボトル、缶、ビンなどの公知の容器を使用することができる。容器の容量は、特に制限はなく、例えば、1~5000g、好ましくは2~4000g、より好ましくは3~3000gである。なかでも、ファミリーサイズの場合には、例えば、300~5000g、好ましくは300~4000g、より好ましくは300~3000gであり、パーソナルサイズの場合、例えば、10~500g、好ましくは20~500g、より好ましくは30~500gである。
本発明の粘膜保護用または粘膜修復用飲食品組成物の1日の摂取量は特に限定されず、コラーゲン分解物の1日あたりの総量摂取量は、50mg~5000mgが好ましく、100~4000mgがより好ましく、200~3000mgがさらに好ましく、500~2000mgがさらに好ましい。
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
〔実施例1〕 コラーゲン分解物の調製
魚鱗由来コラーゲンの熱変性物であるゼラチン(I型コラーゲン)1kgを75℃の温水4kgに溶解させ、60℃に温度調整した後、1次酵素反応として、黄色コウジカビ由来プロテアーゼ10gを添加し、pH5.0~6.0、温度45~55℃で120分間保持することにより酵素加水分解処理を行った。
次に、2次酵素反応として、これにアミノペプチダーゼPおよびプロリダーゼ活性を有するAspergillus oryzae抽出酵素を終濃度0.5%になるように添加し、これを可溶化した後、50℃で6時間反応させた。
その後、得られた反応液を10分間100℃に加熱処理することで酵素を失活させた後、60℃に冷却し、活性炭と濾過助剤の珪藻土を用いて濾過し、得られた母液に120℃で3秒間高温殺菌処理した。そして、殺菌後の母液を噴霧乾燥することで、固形状のコラーゲン分解物を調製した。
得られたコラーゲン分解物を分析するため、薄層クロマトグラフィーに供した。まず、コラーゲン分解物を水に溶解後、薄膜クロマトグラフィープレートに10μg滴下した。溶媒(n-ブタノール:酢酸:水=4:1:2)で展開した。このプレートを風乾してイサチン・酢酸亜鉛試薬を噴霧したのち、青色のスポットによってN末端がProであるペプチドの存在を確認するとともに、上記で得られたPCの青色スポットのRf値(〔スポット原点から発色スポットまでの距離〕÷〔スポット原点から溶媒フロントまでの距離〕)が、同一プレートにスポットした内部マーカーのPro-Hyp(Bachem社、以下POともいう)の各青色スポットのRf値と一致すること、すなわち、このPCがPOを含むことを確認した。
さらに、LC-MSで分析したところ、コラーゲン分解物1g(100質量部)中にPOが約5mg(0.5質量部)含まれていることを確認した。
なお、分析は以下の条件で行った。標品としてはBachem社のL-プロリル-L-ヒドロキシプロリンを用いた。
〔システム〕
・LC:Waters社製ACQUITY UPLC
・MS:Waters社製Quattro Premier XEタンデムマス検出器
〔HPLC〕
・カラム:Waters社製ACQUITY UPLC HSS T3カラム 1.8μm(2.1×50mm)
・カラム温度:40℃
・移動相A:0.05%ペンタフルオロプロピオン酸
・移動相B:アセトニトリル
・グラジエント:移動相B:0%(0-4分)、移動相B:0→25%(4-9分)、
移動相B:25→80%(9-9.01分)、移動相B:80%(9.01-10分)
・流速:0.3mL/分
・注入量:5μL
・分析時間:13分
また、得られたコラーゲン分解物の平均分子量をゲル浸透クロマトグラフィーを用いて測定したところ、重量平均分子量は2089であった。このコラーゲン分解物をPro-Hyp(PO)高含有コラーゲン分解物(High Pro-Hyp Collagen Lysate;Pro-HypCL)として、以下の実験に使用した。
〔実施例2〕 コラーゲン、ヒアルロン酸、エラスチン遺伝子発現の検討
ヒト正常口腔粘膜繊維芽細胞(CellResearchCorpsha,HOMF100)を10%FBSを含むDMEM培地(富士フイルム和光純薬)を用いて培養した後、トリプシン処理により細胞を回収した。回収した細胞を96ウェルプレート(Corning社)に5.0×10細胞/ウェルとなるように播種し、37℃,5%CO濃度環境下で培養した。この時、Pro-HypCL(1.0mg/mL)もしくは、Pro-HypCL中に含まれるPOと同等量のPO(5.0μg/mL)を添加した。24~48時間培養した後、SingleShot Cell Lysis Kit(BIO-RAD社)により細胞の溶解およびtotalRNAの抽出を行い、さらにiScript Advanced cDNA Synthesis kit for RT-qPCR(BIO-RAD社)により逆転写反応を行い、cDNAを得た。このcDNAを鋳型として、SsoAdvanced Universal SYBR Green SupermixおよびPrimePCR SYBR Green Assay(ともにBIO-RAD社)を用い、定量PCRを実施した。定量PCRには、CFX Connect Real-Time PCR Detection System(BIO-RAD社)を用い、β-グルクロニダーゼ(GUSB)を内部標準としてΔΔCT法により、遺伝子発現比較を行った。
検討の結果を図1(コラーゲンタイプ1A1遺伝子(COL1A1遺伝子),48時間培養)、図2(ヒアルロン酸合成酵素2遺伝子(HAS2遺伝子),24時間培養)、図3(エラスチン遺伝子(ELN遺伝子),24時間培養)に示した。Pro-HypCL1.0mg/mLの添加は、無添加(Control)に対して口腔粘膜繊維芽細胞からの、コラーゲンタイプ1A1、ヒアルロン酸合成酵素2、エラスチンのmRNA発現レベルをそれぞれ、190%、65%、32%増強した。この時、Pro-HypCL添加は相当量のPO添加に比べても各遺伝子発現を増加させた。
以上の結果より、Pro-HypCLには、ヒト正常口腔粘膜繊維芽細胞において、COL1A1遺伝子、HAS2遺伝子、ELN遺伝子などのいわゆる粘膜組織関連遺伝子の発現促進活性を有していることがわかった。
〔実施例3〕 コラーゲン、ヒアルロン酸発現の検討
ヒト正常口腔粘膜繊維芽細胞(CellResearchCorp社,HOMF100)を10%FBSを含むDMEM培地(富士フイルム和光純薬)を用いて培養した後、トリプシン処理により細胞を回収した。回収した細胞を96ウェルプレート(Corning社,NCO3585)に5.0×10細胞/ウェルとなるように播種し、37℃, 5%CO濃度環境下で培養した。この時、Pro-HypCL(1.0mg/mL)もしくは、Pro-HypCL中に含まれる相当量のPO(5.0μg/mL)を添加した。24~72時間培養した後に培養上清を回収し、同時にプレートウェル中の細胞数をカウントした。培養上清中のコラーゲンタンパク質量をヒトコラーゲンタイプI ELISA kit(エーセル社)を用いて、同様に培養上清中のヒアルロン酸量をヒアルロン酸測定キット(PGリサーチ社)で定量し、1000細胞当たりの細胞が産生した濃度として算出し、比較を行った。
検討の結果を、図4(コラーゲンタイプI,72時間培養)、図5(ヒアルロン酸,24時間培養)に示す。Pro-HypCL1.0mg/mLの添加は、無添加(Control)に対して口腔粘膜繊維芽細胞からのコラーゲンタイプI、ヒアルロン酸の産生をそれぞれ、73%、74%増加させ、Pro-HypCL添加は相当量のPO添加に比べてもコラーゲンタイプI、ヒアルロン酸の産生を増加させた。
以上の結果より、Pro-HypCLには、ヒト正常口腔粘膜繊維芽細胞においてコラーゲンタイプI、ヒアルロン酸の産生を促進する活性を有していることがわかった。
〔実施例4〕 エラスチン発現の検討
ヒト正常口腔粘膜繊維芽細胞(CellResearchCorp社,HOMF100)を10%FBSを含むDMEM培地(富士フイルム和光純薬,041-29775)を用いて培養した後、トリプシン処理により細胞を回収した。回収した細胞を1.4×10細胞となるように35mmディッシュ(住友ベークライト社,Celltight C-1)に播種し、37℃,5%CO濃度環境下で培養した。この時、Pro-HypCL(1.0mg/mL)もしくは、Pro-HypCL中に含まれる相当量のPO(5.0μg/mL)を添加した。24時間培養した後にトリプシン処理により細胞を回収し、細胞数をカウントした。回収した細胞中のエラスチン量は、Fastin Elastin Assay Kit(Biocolor社)を用い測定し、10000細胞当たりの細胞中のタンパク量として算出し、比較を行った。
検討の結果を、図6に示した。Pro-HypCL1.0mg/mLの添加は、無添加(Control)に対して口腔粘膜繊維芽細胞中のエラスチンの産生量を50%増加させ、Pro-HypCL添加は相当量のPO添加に比べてもエラスチンの産生を増加させた。
以上の結果より、Pro-HypCLには、ヒト正常口腔粘膜繊維芽細胞においてエラスチンの産生を促進する活性を有していることがわかった。
〔実施例5〕 ムチン遺伝子発現の検討
ヒト正常口腔粘膜角化細胞(CellResearchCorpsha,HOMK100)をEpiLife Defined Growth Supplementを含むEpiLife Medium(Thermo社,MEPI500CA)を用いて培養した後、トリプシン処理により細胞を回収した。回収した細胞を96ウェルプレート(Corning社,NCO3585)に1.0×10細胞/ウェルとなるように播種し、37℃,5%CO濃度環境下で培養した。この時、Pro-HypCL(1.0mg/mL)もしくは、Pro-HypCL中に含まれる相当量のPO(5.0μg/mL)を添加した。24時間培養した後、SingleShot Cell Lysis Kit(BIO-RAD社)により細胞の溶解およびtotal RNAの抽出を行い、さらにiScript Advanced cDNA Synthesis kit for RT-qPCR(BIO-RAD社)により逆転写反応を行い、cDNAを得た。このcDNAを鋳型として、SsoAdvanced Universal SYBR Green SupermixおよびPrimePCR SYBR Green Assay(ともにBIO-RAD社)を用い、定量PCRを実施した。定量PCRには、CFX Connect Real-Time PCR Detection System(BIO-RAD社)を用い、β-グルクロニダーゼ(GUSB)を内部標準としてΔΔCT法により、遺伝子発現比較を行った。
検討の結果を図7に示した。Pro-HypCL1.0mg/mLの添加は、無添加(Control)に対して口腔粘膜角化細胞からのムチン1遺伝子(MUC1遺伝子)のmRNA発現レベルを84%増強した。この時、Pro-HypCL添加は相当量のPO添加に比べてもMUC1遺伝子発現を増加させた。以上の結果より、Pro-HypCLには、ヒト正常口腔粘膜角化細胞においてMUC1遺伝子の発現促進活性を有していることがわかった。
〔実施例6〕 抗菌ペプチド遺伝子発現の検討
ヒト正常口腔粘膜角化細胞(CellResearchCorp社,HOMK100)を実施例5と同様にして、Pro-HypCL(1.0 mg/mL)もしくは、Pro-HypCL中に含まれる相当量のPO(5.0μg/mL)を添加し培養した後、同様にして定量PCRを実施し、遺伝子発現比較を行った。
検討の結果を、図8(β-ディフェンシン1遺伝子(DEFB1遺伝子))、図9(β-ディフェンシン2遺伝子(DEFB4A遺伝子))に示した。Pro-HypCL1.0mg/mLの添加は、無添加(Control)に対して口腔粘膜角化細胞からのβ-ディフェンシン1、β-ディフェンシン2のmRNA発現レベルをそれぞれ107%、124%増強した。この時、Pro-HypCL添加は相当量のPO添加に比べても各遺伝子発現を増加させた。
以上の結果より、Pro-HypCLには、ヒト正常口腔粘膜角化細胞においてβ-ディフェンシン1遺伝子およびβ-ディフェンシン2遺伝子の発現促進活性を有していることがわかった。特に、コラーゲン分解物とPOとを併用した場合に、ヒト正常口腔粘膜角化細胞においてβ-ディフェンシン1遺伝子やβ-ディフェンシン2遺伝子が活性化されるという現象は、今までに報告がなく、本発明者らが初めて見出した現象である。
〔実施例7〕 タイトジャンクション構成因子遺伝子発現の検討
ヒト正常口腔粘膜角化細胞(CellResearchCorp社,HOMK100)を実施例5と同様にして、Pro-HypCL(1.0mg/mL)もしくは、Pro-HypCL中に含まれる相当量のPO(5.0μg/mL)を添加し培養した後、同様にして定量PCRを実施し、遺伝子発現比較を行った。
検討の結果を、図10(クローディン1遺伝子(CLDN1遺伝子))、図11(オクルディン遺伝子(OCLN遺伝子))、図12(ZO-1遺伝子(TJP1遺伝子))、図13(ZO-2遺伝子(TJP2遺伝子))に示した。Pro-HypCL1.0mg/mLの添加は、無添加(Control)に対して口腔粘膜角化細胞からのクローディン1、オクルディン、ZO-1、ZO-2のmRNA発現レベルをそれぞれ、39%、17%、27%、41%増強した。
以上の結果より、Pro-HypCLには、ヒト正常口腔粘膜角化細胞においてクローディン1遺伝子、オクルディン遺伝子、ZO-1遺伝子、ZO-2遺伝子などのいわゆるタイトジャンクション構成因子の遺伝子発現促進活性を有していることがわかった。
特に、コラーゲン分解物とPOとを併用した場合に、ヒト正常口腔粘膜角化細胞において、クローディン1遺伝子、オクルディン遺伝子、ZO-1遺伝子、ZO-2遺伝子が活性化されるという現象は、今までに報告がなく、本発明者らが初めて見出した現象である。
〔実施例8〕 アクアポリン遺伝子発現の検討
ヒト正常口腔粘膜角化細胞(CellResearchCorp社,HOMK100)を実施例5と同様にして、Pro-HypCL(1.0mg/mL)もしくは、Pro-HypCL中に含まれる相当量のPO(5.0μg/mL)を添加し培養した後、同様にして定量PCRを実施し、遺伝子発現比較を行った。
検討の結果を図14に示した。Pro-HypCL1.0mg/mLの添加は、無添加(Control)に対して口腔粘膜角化細胞からのアクアポリン3遺伝子(AQP3遺伝子)のmRNA発現レベルを26%増強した。
以上の結果より、Pro-HypCLには、ヒト正常口腔粘膜角化細胞においてアクアポリン3遺伝子の発現促進活性を有していることがわかった。
〔実施例9〕 口腔内のムチン産生量の検討
Pro-HypCLを1錠あたり300mg含有するチュアブル錠を定法に従い作製し、Pro-HypCL製剤を得た。被験者2名の協力下、以下の手順で、口腔内のムチン産生量に及ぼすPro-HypCL製剤の効果を調べた。食後2時間以上経過後、口腔内にティースプーンを入れ、左右の頬の内側を10回ずつ軽く掻き取るようにして口腔粘膜を採取した。これを0.5mLの生理食塩水に懸濁することでPro-HypCL製剤摂取前の口腔粘膜サンプルとした。次に、一方の被検者(試験被検者)には、Pro-HypCL製剤を1錠摂取させ、もう一方の被検者(対照被検者)には、Pro-HypCL製剤を与えなかった。なお、Pro-HypCL製剤を与えた被検者には、摂取の際、錠剤を口腔内で約5~10分間、舌で転がすことで自然崩壊させてもらった。
Pro-HypCL製剤の摂取開始1時間経過後に、前記と同様の手順で、前記2名から同じ場所の口腔粘膜を採取し、これを0.5mLの生理食塩水に懸濁することでPro-HypCL製剤摂取後の口腔粘膜サンプルとした。これを2日間にわたり2回繰り返した。1日目と2日目では試験被検者と対照被検者とは入れ替えた。すなわち、1日目にPro-HypCL製剤した試験被検者は、2日目にはPro-HypCL製剤を摂取しない対照被検者とし、1日目にPro-HypCL製剤しなかった対照被検者は、2日目にはPro-HypCL製剤を摂取する試験被検者とした。
採取した口腔粘膜中のムチン量の定量は、O-結合性糖鎖量としてCrowther and Wetmoreらの方法に従い行い、ムチン量に換算した。同時にBCA法に従い、サンプル中の総タンパク質量も測定した。標準曲線の作成にはN-アセチル-ガラクトサミンを用い、O-結合性糖鎖はN-アセチル-ガラクトサミン当量として算出し、これをムチン量とした。そのようにして得られたムチン量を総タンパク質量で除すことで補正したムチン量(タンパク質量当たりのムチン量)の変化を図15に示した。Pro-HypCL製剤を摂取した被検者は、掻き取った口腔粘膜のムチン量が1時間後に回復していたのに対して、Pro-HypCL製剤を摂取しなかった被検者では、1時間経過後にも口腔粘膜のムチン量が減少したままであった。
以上の結果より、Pro-HypCL製剤には、ヒト口腔内のムチン産生を促進する効果があることがわかった。

Claims (2)

  1. 平均分子量が300~5000のコラーゲン分解物を有効成分として含有し、かつ
    前記コラーゲン分解物100質量部中に、プロリルヒドロキシプロリンが0.1~1質量部含有されている粘膜保護関連遺伝子発現促進剤であって、
    前記粘膜保護関連遺伝子が(1)粘液糖タンパク質関連遺伝子、(2)抗菌ペプチド関連遺伝子、(3)タイトジャンクション関連遺伝子、(4)水分移動関連遺伝子および(5)粘膜組織関連遺伝子からなる群から選択される少なくとも1種であり、
    前記(1)粘液糖タンパク質関連遺伝子がヒト由来のムチン遺伝子であり、
    前記(2)抗菌ペプチド関連遺伝子がヒト由来のβ-ディフェンシン遺伝子であり、
    前記(3)タイトジャンクション関連遺伝子がヒト由来のクローディン遺伝子、オクルディン遺伝子およびZO遺伝子からなる群から選択される少なくとも1種であり、
    前記(4)水分移動関連遺伝子がヒト由来のアクアポリン遺伝子であり、
    前記(5)粘膜組織関連遺伝子がヒト由来のコラーゲン遺伝子、ヒアルロン酸合成酵素遺伝子およびエラスチン遺伝子からなる群から選択される少なくとも1種である、
    粘膜保護関連遺伝子発現促進剤。
  2. 請求項1に記載の粘膜保護関連遺伝子発現促進剤を有効成分として含有する、粘膜保護用または粘膜修復用飲食品組成物。
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